以下、本発明の実施の形態につき図面を参照して説明する。
[両面垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体のパターン概要]
図1は、本発明の一実施形態に係るサーボ情報回復機能を有する磁気ディスクドライブに適用される、両面垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体1のパターン構成の概要を示す平面図である。ディスク媒体1は、2つの面、つまり上面SA及び下面SB(図4参照)を有する、小径(例えば0.85インチ型)のパターンドディスク媒体である。図1に示すように、ディスク媒体1の面SAには、複数のサーボ領域(サーボパターン部)11が当該媒体1の半径方向に円弧状に且つ当該媒体1の円周方向に等間隔で形成されている。この円弧は、ディスク媒体1が磁気ディスクドライブに組み込まれて使用される際に、当該ドライブ内のヘッド110-0がディスク媒体1上を浮上して移動する軌跡(ヘッドアクセス軌跡)に対応する。各サーボ領域11のディスク媒体1の円周方向に沿った長さ(幅)は、当該ディスク媒体1の半径位置に依存して比例して長く(広く)なるように設定されている。また、ディスク媒体1の面SBにも、複数のサーボ領域(図示せず)が、サーボ領域11と同様に形成されている。面SA上の複数のサーボ領域11と面SB上の複数のサーボ領域とは、ミラー対称に配置される。
ディスク媒体1は、後述するように、2つの面10A及び10Bを持つ平坦な基板(ガラス基板)10(図4参照)を含む。基板10の各面10A及び10Bには、それぞれ下地層2A及び2Bが形成されている。この下地層2A及び2Bの表面には、記録層(磁性層)となる磁性体がパターン状に形成されている。サーボ領域11は、この記録層の一部によって形成されている。
以下では、ディスク媒体1の面SAについて述べるが、面SBについても同様である。ディスク媒体1の面SA上の複数のサーボ領域11は、当該面SAをディスク媒体1の円周方向に等分割するように配置されている。ディスク媒体1の面SAは、この複数のサーボ領域11により同数のセクタ(サーボセクタ)に分割される。なお、図1では、作図の都合上、ディスク媒体1の面SAが15サーボセクタに分割されている。しかし面SAは、実際には100サーボセクタ以上に分割される。
ディスク媒体1の面SAにおいて、隣接するサーボ領域11で挟まれた領域はデータ領域12と呼ばれる。データ領域12は、一般にユーザデータを記録再生するのに用いられる領域である。本実施形態において、ディスク媒体1はDTRタイプのバターンドディスク媒体である。
[データ領域12のパターン概要]
図2は、データ領域12の詳細パターン構成を示す断面斜視図である。ディスク媒体1のデータ領域12には、DT(ディスクリート・トラック)と呼ばれる複数の円環(リング)状の磁性トラック31がデータ領域12の半径方向に一定長(トラックピッチTp)周期で予め形成されている。データ領域12内の磁性トラック31の領域には、複数のデータセクタが配置される。ユーザデータは、ライトヘッド112により、磁性トラック31内のデータセクタに磁化パターンとして記録される。磁性トラック31の幅Twは、ライトヘッド112の幅MWWにほぼ等しい。一方、リードヘッド111の幅MRWは、磁性トラック31の幅Twより広く設定されている。
複数の磁性トラック31は、記録層(磁性層)となる強磁性体(例えばCoCrPt)を用いて、基板10(図4参照)の下地層(SUL)2A上に凸状に且つ円環(リング)状に形成される。隣接する磁性トラック31間は、非磁性ガード32と呼ぶ、凹状の記録不可能な非磁性部となっている。このように、複数の磁性トラック31は、ディスク媒体1の半径方向に磁性分断する円環状に形成され、データ領域12は当該複数の磁性トラック31が非磁性ガード32(非磁性部)を介して一定長周期で配設されたパターンにより構成される。このようなDTRタイプのディスク媒体1では、各磁性トラック31が、隣接トラックの干渉の影響を受けるのを抑えることが可能となり、ディスク媒体1の高密度化に寄与する。
上記したように、ディスク媒体1の面SAは、複数のサーボ領域11により同数のサーボセクタに分割される。このことは、面SA上の各磁性トラック31が、複数のサーボ領域11によりディスク媒体1の円周方向に同数のサーボセクタに分割されることを表す。なお、データ領域12が必ずしもパターン化されている必要はない。
[サーボパターン構成]
図3は、図1中のサーボ領域11の詳細パターン構成を示す。この図3に示すサーボ領域11のパターン(サーボパターン)は、ディスク媒体1がディスクドライブに組み込まれた際に、当該ドライブ内のヘッドが紙面の左から右に通過する箇所の、当該媒体1の面(上面)SA側のパターンを表している。サーボ領域11の前後にはデータ領域12が配置されている。
サーボ領域11は、ヘッド位置決めのために必要な情報であるサーボ情報を、磁性部と非磁性部との組み合わせで埋込み形成したプリビット領域である。サーボ領域11は、大別すると、図3(a)に示すように、プリアンブル部11A、アドレス部11B及び偏差検出用のバースト部11Cから構成されている。このサーボ領域11の構成は、周知のサーボ情報記録パターン(サーボパターン)を、磁性/非磁性がそれぞれ1/0に対応するようにプリビット形成したものである。以下、各パターン内容について簡単に説明する。
プリアンブル部11Aは、ディスク媒体1の回転偏芯等により生ずる時間ズレに対し、サーボ情報(サーボ信号)再生用クロックを同期させるPLL(位相ロックループ)処理や、信号再生振幅を適正に保つAGC(自動利得制御)処理を行うために設けられる。プリアンブル部11Aは、図3(b)に示すように、ディスク媒体1の半径方向に円弧状に連続し、且つ当該ディスク媒体1の円周方向に磁性部/非磁性部の繰返しパターンで構成される。図3(b)では、ハッチングが施された部分が非磁性部(凹部)を、ハッチングが施されていない部分が磁性部(凸部)を表している。これとは逆に、ハッチングが施された部分が磁性部(凸部)を、ハッチングが施されていない部分が非磁性部(凹部)を表す構造であっても構わない。プリアンブル部11Aの上記円周方向の磁性部/非磁性部の比率はほぼ1:1である。つまりプリアンブル部11Aは、磁性部の占有率が50%で形成されている。
アドレス部11Bは、マンチェスタコードと呼ばれるパターンで形成され、1/0がそれぞれ磁性部/非磁性部に対応するように構成されている。このアドレス部11Bのパターンは、サーボアドレスマーク(SAM)と呼ばれるサーボ領域識別コード、セクタ情報及びシリンダ情報等を表す。アドレス部11Bの情報のうち、シリンダ情報以外は、各サーボセクタで一定となるので、プリアンブル部11Aの周方向ピッチと同一ピッチで構成される。一方、シリンダ情報は、サーボトラック毎に変化するパターンとなり、ディスク媒体1の半径方向で磁性分断が起こる。このシリンダ情報には、シーク動作時のアドレス判読ミスの影響が小さくなるように、隣接サーボトラックとの間の情報の変化が最小(1ビット)となる、例えばグレイコードに変換された情報を、更にマンチェスタコード化したパターンが用いられる。このため、シリンダ情報は、磁性分断頻度がLSB(最下位ビット)側ほど激しく、ディスク媒体1の半径方向に対称性を持つ模様のようなパターンとなる。アドレス部11Bの磁性部の占有率も50%となる。
バースト部11Cは、シリンダアドレスのオントラック状態からのオフトラック量(位置偏差)を検出するためのオフトラック検出用領域である。バースト部11Cには、ディスク媒体1の半径方向にパターン位相をずらした4種のマークが形成されている。この4種のマークはバーストA,B,C,Dと呼ばれる。バースト部11Cには、図3(c)に示すように、ディスク媒体1の円周方向に複数個のマークがプリアンブル部11Aと同一のピッチ周期で配置されたパターンが用いられる。バースト部11Cのパターンの半径方向周期は、アドレス部11Bのアドレスパターンの変化周期に比例した周期、換言すれば、サーボトラック周期に比例した周期に設定される。図3(c)では、作図の都合上、バースト部11Cの各バーストA,B,C,Dがディスク媒体1の円周方向に3周期分で記載されている。しかし、実際のバースト部11Cには、各バーストA,B,C,Dがディスク媒体1の円周方向に例えば10周期分形成され、ディスク媒体1の半径方向にサーボトラック周期の2倍長周期で繰り返すパターンが用いられる。バースト部11C(中の各バーストA,B,C,D)の磁性部の占有率は75%となる。このバースト部11Cの各バーストA,B,C,Dの再生信号の平均振幅値を演算処理することにより、オフトラック量が算出される。なお、本実施形態では、バースト部11Cに、バーストA,B,C,Dのパターン(バーストパターン)を適用している。しかし、周知の位相差サーボパターン等、オフトラック量検出に利用可能なパターンであれば、バーストパターン以外のパターンを適用することも可能である。但し、例えば位相差サーボパターンの場合は、バースト部の磁性部占有率は約50%となる。
[ディスク媒体1の断面構成と磁化方向]
図4は、ディスク媒体1の断面を示す。図4において、ディスク媒体1は平坦なガラス基板10を含む。基板10は、面10A及び10Bを持つ。この基板10の面10A及び10Bには、それぞれ下地層(SUL)2A及び2Bが形成されている。下地層2A及び2Bは、軟磁性層(高透磁率層)を含む。下地層2A及び2B上の一部には、それぞれ、強磁性体(例えばCoCrPt)からなる垂直磁気異方性を持つ磁性体3A及び3Bが、記録層として凸状にパターン化されて形成されている。ディスク媒体1の面SA及びSB側には、図示しない薄膜のDLC保護膜が形成され、当該保護膜には潤滑剤としてルブが塗布されている。なお、基板10は、必ずしもガラス基板である必要はない。即ち基板10は、非磁性体であれば良く、例えばアルミ基板であってもよい。また、記録層をなす磁性体(強磁性体)3A及び3Bは、必ずしもCoCrPt系である必要はなく、他の垂直磁気異方性を持つ強磁性体、例えばFePt系の強磁性体であっても良い。また、ディスク媒体1は、その面SA及びSBが磁性体の有無を反映した凹凸形状をなす。しかし、凹部にSiO2等の非磁性体を埋め込むことにより、面SA及びSBが平坦化された磁気ディスク媒体であっても良い。また、基板10の一方の面側だけに、磁性体が、記録層として凸状にパターン化されて形成された構成であっても構わない。
さて、図4には、ディスク媒体1上のパターン化された磁性体3A及び3Bに、それぞれ矢印「↓」及び「↑」が記載されている。この、矢印「↓」及び「↑」の向きは、それぞれ磁性体3A及び3Bの内部磁化方向を表す。ここでは、磁性体3A及び3Bの表面の磁気極性(磁極)は同一であり、例えばSである。
[磁気ディスクドライブ構成]
次に、本実施形態の磁気ディスクドライブの構成について簡単に説明する。図5は、ディスク媒体1を搭載した磁気ディスクドライブの構成を示すブロック図である。このディスクドライブは、大きく分けて、ヘッドディスクアセンブリ部(以下、HDA部と称する)100と、印刷回路基板部(以下、PCB部と称する)200とから構成される。
HDA部100は、磁気ディスクドライブの本体部であり、両面がDTR用に加工されたディスク媒体(垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体)1と、ダウンヘッド110-0及びアップヘッド110-1の対と、スピンドルモータ(SPM)120と、アクチュエータ130と、ヘッドアンプIC(以下、HICと称する)140を有する。
ヘッド110-0及び110-1は、ディスク媒体1のそれぞれ上面SA及びSBに対応して配置される。各ヘッド110-0及び110-1はいずれも、ヘッド本体であるスライダ(ABS)に、図2に示されているリードヘッド(GMR素子)111及びライトヘッド112を有する磁気ヘッド素子が実装されることにより構成される複合ヘッドである。ヘッド110-0及び110-1は、アクチュエータ130に搭載されている。
アクチュエータ130は、ヘッド110-0及び110-1をそれぞれ支持するサスペンションアーム131-0及び131-1と、当該アーム131-0及び131-1を回転自在に支持するピボット軸132と、ボイスコイルモータ(VCM)133とを有する。VCM133はアクチュエータ130の駆動源であり、アーム131-0及び131-1にピボット軸132周りの回転トルクを発生させて、ヘッド110-0及び110-1をディスク媒体1の半径方向に移動させる。
ヘッド110-0及び110-1は、当該ヘッド110-0及び110-1の入出力信号を増幅するためのHIC140と接続されている。HIC140は、例えばアクチュエータ130の所定部位に固定され、フレキシブルケーブル(FPC)で、PCB部200側と電気的に接続されている。但し、図5では、作図の都合で、HIC140は、アクチュエータ130から離れた箇所に配置されている。このように本実施形態では、HIC140は、ヘッド信号のSN低減のために、ヘッド110-0及び110-1の近傍のアクチュエータ130に設けられている。しかし、HIC140がPCB部200に固定された構成であっても良い。
一方、PCB部200は、主として4つのシステムLSI、即ちモータドライバIC210、リード/ライトチャネルIC220、ディスクコントローラ(HDC)230及びCPU240を有している。
モータドライバIC210は、SPM120及びVCM133を駆動する。即ちモータドライバIC210は、SPM120を一定の回転速度で駆動制御する。モータドライバIC210はまた、CPU240から指定されたVCM操作量を、電流値としてVCM133に与えることで、アクチュエータ130を駆動する。
リード/ライトチャネルIC220は、リード/ライトに関連する信号処理を行うデバイスである。リード/ライトチャネルIC220は、HIC140のチャネル切り替え、更にはヘッドの記録再生信号を処理する回路で構成される。リード/ライトチャネルIC220は、リードチャネル220a、サーボチャネル220b及びライトチャネル220cを有する。リードチャネル220aは、HIC140から出力される再生信号(リード信号)に対するA/D(アナログ/デジタル)変換処理、リードデータの復号化処理等を行う。サーボチャネル220bは、サーボ情報(のセクタ・シリンダ情報及びバーストA,B,C,D等)を検出する。ライトチャネル220cは、ライトデータの符号化処理等を行う。
HDC230は、ディスクドライブと当該ディスクドライブを利用するホストシステム(例えばパーソナルコンピュータ)とのインターフェースを構成する。
CPU240は、ディスクドライブのメインコントローラである。CPU240は、ディスク媒体1に形成されたサーボ領域11のパターン(サーボパターン)をサーボ情報として利用するヘッド位置決め制御システムを実現する。CPU240は、ROM(例えばフラッシュROM)、RAM、MPU(マイクロプロセッサユニット)及びDSP(デジタル信号処理プロセッサ)を含む。フラッシュROMは、制御プログラム(ファームウェアプログラム)を保存する。CPU240(内のMPU)は、この制御プログラムに従ってディスクドライブを制御する。RAMの領域は、CPU240(内のMPU)のワーク領域等に用いられる。DSPは、ハードウェア回路で構成された演算処理部で、高速演算処理に用いられる。なお、CPU240がDSPを持たずに、制御プログラムに従って当該DSPに要求される演算処理を行う構成であっても良い。
[ヘッド位置決め制御システム]
次に、主として図5中のCPU240によって実現されるヘッド位置決め制御システムの構成について説明する。図6は、ヘッド位置決め制御システムの構成を示すブロック図である。図6において、C,F,P,Sはそれぞれシステムの伝達関数を表す。制御対象Pは、具体的にはVCM133を含むアクチュエータ130に相当する。信号処理部Sは、具体的にはリード/ライトチャネルIC220とCPU240により実現される要素である。オフトラック量検出処理の一部はCPU240により行われる。
制御処理部CPは、第1のコントローラとしてのフィードバック制御部C及び第2のコントローラとしての同期抑圧補償部Fにより構成される。制御処理部CPは、具体的にはCPU240により実現される。
信号処理部Sは、ヘッド110-i(i=0,1)の位置、つまりヘッド位置(HP)の直下のサーボ領域11から再生されるアドレス情報を含む再生信号(サーボ再生信号)をもとに、ヘッド位置に対応するディスク媒体1上の現在のトラック位置(TP)を示す位置情報を生成する。
第1コントローラ(フィードバック制御部C)は、ディスク媒体1上の目標トラック位置(RP)とヘッド110-iの現在のトラック位置(TP)との位置誤差(E)をもとに、位置誤差が小さくなる方向に、フィードバック(FB)操作値U1を出力する。
第2コントローラ(同期抑圧補償部F)は、ディスク媒体1上のトラック形状またはディスク回転に同期した振動等を補正するためのフィードフォワード(FF)補償部である。第2コントローラは、事前に較正した回転同期補償値を保存したメモリテーブル(同期補償値テーブル)を有している。第2コントローラは、通常は、位置誤差(E)を使用せず、信号処理部Sから与えられる図示しないサーボセクタ情報をもとに、上記メモリテーブルを参照して、FF操作値U2として出力する。
制御処理部CPは、第1及び第2のコントローラの出力U1及びU2を加算し、その加算結果を制御操作値Uとして制御対象P(VCM133)に供給することにより、ヘッド110-iを駆動する。なお、上記メモリテーブル(同期補償値テーブル)は、ディスクドライブの初期動作時に較正処理される。また、位置誤差(E)が設定値以上に大きくなる場合にも、再較正処理が開始される。これにより、メモリテーブルに記憶された同期補償値が更新される。
[ディスクドライブでのオフトラック量検出処理]
次に、サーボ再生信号からオフトラック量(位置偏差)を検出する処理について簡単に説明する。
ディスク媒体1はSPM120により一定回転速度で回転される。ヘッド110-i(i=0,1)は、サスペンションアーム131-iに設けられたジンバルを介して弾性支持され、且つディスク媒体1の回転に伴なう空気圧とのバランスで当該媒体1との間に微小間隙を保持して浮上するように設計されている。これにより、ヘッド110-iのヘッド再生素子は一定の磁気空隙をもって、ディスク媒体1の磁性層からの漏れ磁束を検出することができる。
ディスク媒体1に形成されたサーボ領域11は、当該媒体1の回転により、一定周期でヘッド110-iの直下を通過する。これにより、サーボ領域11に形成されるサーボパターンの情報は、一定周期でヘッド110-iにより再生される。そこで、このヘッド110-iより再生されたサーボパターンの情報、つまりサーボ情報(サーボ再生信号)から、トラック位置情報を検出することで、一定周期のサーボ処理を実行できる。
HDC230は、一旦、サーボアドレスマーク(サーボ領域識別コード)を認識すると、ヘッド110-iの直下に次のサーボ領域11が到達するタイミングを予測可能となる。その理由は、上述のようにサーボ領域11が一定周期でヘッド110-iの直下を通過するためである。そこで、HDC230は、ヘッド110-iの直下にサーボ領域11中のプリアンブル部11Aが到達するタイミングで周知のサーボゲート(サーボゲート信号)SGATEをアサートして、リード/ライトチャネルIC220にサーボ信号処理(サーボ情報処理)の開始を促す。
[リード/ライトチャネルIC220でのサーボ信号処理]
以下、リード/ライトチャネルIC220でのサーボ信号処理について、図7及び図8を参照して説明する。図7は、リード/ライトチャネルIC220に含まれているアドレス検出回路のブロック構成を示す。図8は、サーボ領域11の構成と上記サーボゲートSGATEのタイミングとの関係を示す。
ヘッド110-iにより再生され、HIC140により増幅された再生信号は、リード/ライトチャネルIC220に入力される。リード/ライトチャネルIC220に入力された再生信号は、等化器221によってアナログフィルタ処理された後、アナログ/ディジタル変換器(ADC)222によってデジタル値としてサンプリングされる。
ディスク媒体1からの漏れ磁界は垂直磁化で、且つサーボパターンは磁性部と非磁性部との組み合わせのパターンである。しかし、HIC140の持つハイパス特性と、等化器221の処理とにより、プリアンブル部11Aからの再生信号に含まれているDCオフセット成分は完全に除去される。これにより、プリアンブル部11Aからの再生信号を等化器221でアナログフィルタ処理した後の信号、つまり等化器221の出力信号は、ほぼ疑似正弦波となる。従来の垂直磁気記録用のディスク媒体との違いは、信号振幅の大きさが半減している程度である。
リード/ライトチャネルIC220(内のサーボチャネル220b)では、再生信号フェーズに応じて、処理が切り替えられる。これにより、再生信号クロックをメディアパターン周期に同期させる同期引き込み処理、アドレス情報(セクタ・シリンダ情報)を読み取るアドレス判読処理、オフトラック量を検出するのに必要な情報を取得するためのバースト部処理等が行われる。
同期引込み処理では、ADC222でのサンプリングタイミングを正弦波状再生信号と同期させ、且つADC222の出力であるデジタルサンプル値の信号振幅をあるレベルに揃えるAGC処理とが行われる。
次にアドレス判読処理では、FIR(Finite Impulse Response)フィルタ223によりデジタルサンプル値の系列のノイズが低下させられる。次に、このFIRフィルタ223の出力に対して、ビタビ復号器224による最尤推定に基づくビタビ復号処理が行われ、2値化データに復号される。そして、復号された2値化データをグレイ処理器224によりグレイコード逆変換処理することにより、アドレス情報(セクタ・シリンダ情報)に変換される。これにより、ヘッド110-iが位置しているサーボトラックの情報を取得できる。
次にバースト部処理では、リード/ライトチャネルIC220のサーボチャネル220b内の図示せぬバースト部処理回路によりオフトラック量の検出処理が行われる。ここでは、バースト(バースト信号パターン)A,B,C,Dの順に、各信号振幅がサンプルホールド積分処理される。バースト部処理回路は、各信号振幅の平均値相当の電圧値をHDC230に出力し、CPU240へサーボ処理割り込みを発行する。
CPU240は、このリード/ライトチャネルIC220からの割り込みを受けると、制御プログラムのサーボトラッキング制御ルーチンを実行する。これによりCPU240は、内部のADCにてHDC230から各バースト信号(の各信号振幅の平均値相当の電圧値)を時系列に読み込み、DSPでオフトラック量に変換する処理を行う。CPU240は、このオフトラック量と、アドレス判読処理で取得されたサーボトラック情報とにより、ヘッドのサーボトラック位置(ヘッド位置)を精密に検出することができる。このヘッド位置がモータドライバIC210を介してフィードバック制御される。
[ユーザデータ書き込み制御]
次に、ユーザデータ書き込み制御(通常の書き込み制御)について説明する。図9は、データセクタ121の構成とライトゲート(ライトゲート信号)WGATEのタイミングとの関係を示す。データセクタ121は、周知のように、プリアンブル部121A、シンクマーク部121B、ユーザデータ部121C及びパッド部(回転変動ギャップ)121Dから構成される。図9中のデータセクタ121は、ユーザデータを書き込むべき目標データセクタであるものとする。
HDC230は、図9に示すように、目標データセクタ121のプリアンブル部121からライトゲートWGATEをアサートする。プリアンブル部121Aには、単一周波数信号が書き込まれている。このプリアンブル部121Aは、信号を再生する場合に、データに同期したクロックをリカバリし、アンプの信号振幅ゲインを調整するために使用される。シンクマーク部121Bにはシンクマークが書き込まれる。このシンクマークは、コード化されたユーザデータの区切りに同期するためのパターンである。サーボ情報が埋め込み形成された隣接するサーボ領域11(サーボセクタ)間には、複数のデータセクタが存在するしかし、ライトゲートWGATEは、サーボ領域11内で開くことはないので、ユーザデータをサーボ情報に重ね書きしてしまうことは通常起こらない。
[サーボ情報の回復処理]
次に、サーボ情報の回復処理について説明する。
垂直記録方式は、線記録密度を高くしても高S/Nが得られるため、大容量の磁気ディスクドライブに適用され始めている。しかし垂直磁気記録方式は、長手記録方式に比べて、外部磁界の影響による磁気パターンの消去が起きやすい。
本実施形態の磁気ディスクドライブに搭載されるディスク媒体1では、凸部をなす磁性部と凹部をなす非磁性部とによってサーボパターンが形成されている。このサーボパターンの磁性部の表面の磁気極性は、全て同一である。したがって、何らかの原因によりサーボパターンの磁化方向が乱されて正常なサーボ情報(サーボ信号)が得られなくなった場合に、ライトヘッド112から直流磁界を発生させながら、対応するサーボ領域11の部分を通過させると良い。このようにすると、サーボパターンの磁化方向を容易に正常な状態に戻すことができる。
このサーボパターンの磁化方向を正常な状態に戻す、サーボパターン(サーボ情報)の回復処理の詳細について、図10乃至図12を参照して説明する。図10は、サーボ領域11に形成されたサーボパターンの構成と磁性トラック31とライトヘッド112のヘッド幅(ライトヘッド幅)との関係を示す。図11は、サーボ情報の回復処理の手順を示すフローチャート、図12はサーボ情報回復機能を実現する書き込み制御回路とその周辺の回路のブロック構成を示す。
まず、サーボ領域11に形成されたサーボパターンは、図10に示すように、ディスク媒体1の半径方向に磁性トラック(データトラック)31の幅を超える範囲まで連続している。このため、通常のデータライトのようにライトヘッド112が1回通過しただけでは、1サーボセクタ分のサーボパターンの全範囲を磁化することはできない。よって、ライトヘッド幅MWWを超えない範囲(例えば、MWW/2)のピッチで、ライトヘッド112を送りながら複数回書き込みをする必要がある。
図12において、HDC230は、タイミング制御部231、サーボ情報回復制御部232及びトラッキング制御部233を含む。一方、リード/ライトチャネルIC220は、書き込みに関係する回路として、ライトチャネル220cの他に、直流磁界(直流書き込み磁界)を発生させるための書き込み制御回路1100を含む。書き込み制御回路1100は、インバータ1101、アンドゲート1102,1103、インバータ1104、アンドゲート1105、ナンドゲート1106、オアゲート1107,1108及びアンド1109を含む。
通常の書き込み動作では、HDC230内のタイミング制御部231は、ユーザデータを書く込むべきデータセクタの始まりのタイミングでライトゲートWGATEをアサートする。ライトゲートWGATEは、オアゲート1107を通して、HIC140に対して書き込みタイミング信号WGATE OUTとして供給される。通常の書き込みでは、HDC230内のサーボ情報回復制御部232によってサーボライト信号SRV WRがネゲートされている。サーボライト信号SRV WRは、サーボ情報回復処理を指示する制御信号であり、サーボゲートSGATEと共にアンドゲート1103に入力される。アンドゲート1103の出力は、ライトゲートWGATEと共に、オアゲート1107に入力される。このアンドゲート1103の出力である書き込みタイミング信号WGATE OUTは、サーボライト信号SRV WRがネゲートされている場合、ライトゲートWGATEがアサートされない限りアサートされることはない。
書き込みデータは、HDC230からリード/ライトチャネルIC220のライトチャネル220cに出力される。この書き込みデータは、ライトチャネル220c内のエンコーダ1001によって符号(チャネル符号)に変換され、シリアライザ(serializer;パラレル/シリアル変換器)1002によってシリアルデータに変換される。このシリアルデータに変換された符号化された書き込みデータは、チャネル特性をキャンセルするプリコーダ1003を通り、ライトプリコンペ(書き込み補償回路)1004で波形シフト分の補正をされたバイナリ信号としてアンドゲート1109の一方の入力に入力される。アンドゲート1109の他方の入力には、ナンドゲート1106の出力が入力される。
通常の書き込みでは、サーボライト信号SRV WRはネゲートされている。この場合、サーボライト信号SRV WRが入力されるナンドゲート1106の出力はアサートされている。このため、ライトプリコンペ1004から出力される書き込みデータは、アンドゲート1109及びオアゲート1108を介してドライバ(ライトドライバ)1005に供給され、当該ドライバ1005からHIC140に供給される。
HDC230内のタイミング制御部231は、ヘッド110-i(iは0または1)がサーボセクタを通過するタイミングでサーボゲートSGATEをアサートする。通常の読み出し/書き込みでは、サーボライト信号SRV WRはネゲートされている。このため、サーボライト信号SRV WRが入力されるインバータ1101の出力はアサートされている。この場合、インバータ1101の出力とサーボゲートSGATEとが入力されるアンドゲート1102は、当該サーボゲートSGATEを、サーボセクタ情報を読み出すためのリードチャネル制御信号として、リード/ライトチャネルIC220内のサーボチャネル220bに供給する。
サーボ情報回復制御部232は、サーボ情報(サーボパターン)回復処理中は、サーボライト信号SRV WRをアサートする。この場合、インバータ1101の出力はネゲートされる。この結果、サーボゲートSGATEは、通常のサーボセクタ情報を読み出すためのタイミングでも、アンドゲート1102からサーボチャネル220bにリードチャネル制御信号として供給されるのが抑止される。これにより、サーボ情報回復処理中(直流磁界による書き込み中)にサーボチャネル220bが動作してリード回路が飽和するのを防ぐ。
上記したように、サーボ情報回復処理中は、サーボライト信号SRV WRはアサートされる。したがって、サーボライト信号SRV WR及びサーボゲートSGATEが入力されるアンドゲート1103の出力は、当該サーボゲートSGATEがアサートされるタイミングでアサートされる。これにより、サーボライト信号SRV WRが、オアゲート1107を通してHIC140に書き込みタイミング信号として供給される。
サーボ情報回復制御部232から出力される極性制御信号は、サーボ領域11に形成されたサーボパターンに印加される直流磁界の方向を制御する信号である。本実施形態において、この極性制御信号の状態はディスクドライブの動作中に変わることなく、システムの動作に合せた論理に固定される。
まず、極性制御信号がアサートされている場合、当該極性制御信号及びサーボライト信号SRV WRが入力されるアンドゲート1105の出力は、サーボライト信号SRV WRがアサートされるタイミングでアサートされる。したがって、サーボライト信号SRV WRアサートされている間、アンドゲート1105及び1109の出力が入力されるオアゲート1108の出力もアサートされたままとなる。この場合、ドライバ1005の電流出力が例えばプラス方向に固定される。
次に、極性制御信号がネゲートされている場合、アンドゲート1105の出力はネゲートされる。この場合、アンドゲート1105の出力は、オアゲート1108の出力に影響を与えない。ナンドゲート1106には、サーボライト信号SRV WRと、インバータ1104によって極性制御信号の論理が反転された信号とが入力される。ナンドゲート1106の出力は、極性制御信号がネゲートされている場合には、サーボライト信号SRV WRがアサートされている間、ネゲートされる。ナンドゲート1106の出力がネゲートされている場合、アンドゲート1109の出力もネゲートされる。このとき、上記したようにアンドゲート1105の出力もネゲートされている。このため極性制御信号がネゲートされている場合には、オアゲート108の出力は、サーボライト信号SRV WRがアサートされている間ネゲートされたままとなり、ドライバ1005の電流出力が、極性制御信号がアサートされている場合と逆の方向、例えばマイナス方向に固定される。
したがって、インバータ1104、アンドゲート1105、ナンドゲート1106、アンドゲート1109及びオアゲート1108は、サーボライト信号SRV WRがアサートされている状態において、極性制御信号の状態に応じてドライバ1005の電流出力の極性(ライトヘッド112に流される電流の方向、即ちライトヘッド112によって発生される直流磁界の方向)を切り替える切り替え回路を構成する。また、サーボライト信号SRV WRがアサートされている状態では、オアゲート1108の出力はアンドゲート1105の出力に一致する。よって、狭義には、アンドゲート1105が上記切り替え回路を構成するといえる。
上述のように、サーボ情報回復処理中は、サーボ情報回復制御部232からのサーボライト信号SRV WRに基づき、書き込み制御回路1100によってサーボチャネル220bの動作が抑止される。また、サーボ情報回復処理中は、サーボゲートSGATEがアサートされている期間だけ、サーボライト信号SRV WRが書き込みタイミング信号WGATE OUTとして、書き込み制御回路1100によってHIC140に供給される。また、サーボ情報回復処理中は、ライトチャネル220cのドライバ1005の電流出力が、極性制御信号で決まる方向に書き込み制御回路1100によって固定される。これにより、サーボゲートSGATE及びサーボライト信号SRV WRが共にアサートされている期間、ヘッド110-i(ライトヘッド112)からディスク媒体1の対応するサーボ領域11中の磁性部に、極性制御信号で決まる方向の直流磁界を印加すること(つまり直流磁界による書き込みを行うこと)ができる。
次に、サーボ情報回復処理の手順について、図11のフローチャートを参照して説明する。まず、サーボ情報回復制御部232は、サーボ情報に異常が検出されるサーボセクタの番号(サーボセクタ番号)を取得し、そのサーボセクタ番号(サーボセクタアドレス)を、回復の対象となるサーボ情報に対応するサーボセクタの番号SSとして設定する(ステップS1)。ここで、サーボ情報に異常が検出されるサーボセクタ、つまり回復処理が必要なサーボセクタの番号は、例えばサーボ情報からトラック・フォーマットに従ったタイミングを作成しているタイミング制御部231から取得することができる。また、CPU240は、サーボ情報に異常が検出されるサーボセクタの番号をタイミング制御部231から受け取るように構成されている。そこで、サーボ情報に異常が検出されるサーボセクタの番号を、サーボ情報回復制御部232がCPU240から受け取る構成とすることも可能である。
次にサーボ情報回復制御部232は、ヘッド110-i中のライトヘッド112のオフセットを制御するための変数“woffset”に+1を代入する(ステップS2)。次にサーボ情報回復制御部232は、サーボゲートSGATEがアサートされるのを待つ(ステップS3)。サーボゲートSGATEは、ヘッド110-iの直下をサーボ領域11が通過するタイミング(つまりサーボ領域11のタイミング)を示す。
やがて、サーボゲートSGATEがアサートされると、サーボ情報回復制御部232は、タイミング制御部231からヘッド110-i(ライトヘッド112)が通過中のサーボセクタの番号を入力し、通過中のサーボセクタが、SSで示されるサーボセクタの1つ前のサーボセクタであるか判定する(ステップS4)。ここで、サーボセクタ番号が0のサーボセクタ(つまり先頭サーボセクタ)の1つ前のサーボセクタ(つまり最終サーボセクタ)の番号は、最大のサーボセクタ番号となる。そこで、ステップS4の判定では、(SS−1)をサーボセクタ数(サーボ領域数)で割った余り、つまり“(SS−1)modulo(サーボセクタ数)”の値が、通過中のサーボセクタの番号(サーボセクタアドレス)に等しいかによって、通過中のサーボセクタが、SSで示されるサーボセクタの1つ前のサーボセクタであるかが判定される。ここで、サーボセクタ数をNとすると、SS=0の場合、“(−1)modulo(N)”の値は、N−1となる。
もし、通過中のサーボセクタが、SSで示されるサーボセクタの1つ前のサーボセクタでないならば(ステップS4)、サーボ情報回復制御部232はサーボゲートSGATEがネゲートされるのを待って(ステップS5)、ステップS3に戻る。
これに対し、通過中のサーボセクタが、SSで示されるサーボセクタの1つ前のサーボセクタであるならば(ステップS4)、サーボ情報回復制御部232は、サーボゲートSGATEがネゲートされるのを待って(ステップS6)、サーボライト信号SRV WRをアサートする(ステップS7)。そしてサーボ情報回復制御部232は、ライトヘッド112を“woffset”と当該ライトヘッド112のライトヘッド幅(書き込み幅)MWWとの積(=woffset*MWW)の分だけずらす(オフセットさせる)ように、トラッキング制御部233に指示を出す(ステップS8)。
その後、サーボ情報回復制御部232は、サーボゲートSGATEが再びアサートされるのを待つ(ステップS9)。サーボゲートSGATEが再びアサートされる期間は、SSで示されるサーボセクタがライトヘッド112の直下を通過する期間に対応する。このSSで示されるサーボセクタはサーボ情報に異常が検出されるサーボセクタである。しかし、このSSで示されるサーボセクタの位置は、1つ前のサーボセクタから読み出されたサーボ情報をもとにタイミング制御部231によって予測可能である。そこでタイミング制御部231は、予測されたタイミング(ここではSSで示されるサーボセクタがライトヘッド112の直下を通過するタイミング)でサーボゲートSGATEをアサートする。
サーボゲートSGATEが再びアサートされる期間において、図12の書き込み制御回路1100を含むリード/ライトチャネルIC220の動作に従い、SSで示されるサーボセクタの領域に形成されているサーボパターンの磁性部に、極性制御信号の状態で決まる方向の直流磁界がライトヘッド112によって印加される。つまり、SSで示されるサーボセクタの領域に形成されているサーボパターンの磁性部に、ライトヘッド112の幅MWWで直流磁界による書き込みが行われる。
サーボ情報回復制御部232は、サーボゲートSGATEが再びアサートされると、今度は当該サーボゲートSGATEが再びネゲートされるのを待つ(ステップS10)。サーボ情報回復制御部232は、サーボゲートSGATEが再びネゲートされると、つまりSSで示されるサーボセクタの領域に形成されているサーボパターンの磁性部へのライトヘッド幅MWWでの直流磁界による書き込みが完了すると、変数“woffset”を0.5だけ減じる(ステップS11)。
サーボ情報回復制御部232は、0.5だけ減じられた後の変数“woffset”が−1未満となったかを判定する(ステップS12)。もし“woffset”が−1未満でないならば、サーボ情報回復制御部232はステップS3に戻る。そしてサーボ情報回復制御部232は、ライトヘッド112をwoffset*MWWだけずらして(ステップS8)、SSで示されるサーボセクタの領域に形成されているサーボパターンの磁性部に対する上記直流磁界による書き込みを、書き込み制御回路1100の制御により行わせる。これに対して、“woffset”が−1未満であるならば(ステップS12)、サーボ情報回復制御部232は処理を終了する。
このように本実施形態では、“woffset”が+1から−1の範囲で0.5刻みで順次設定される。つまり“woffset”が+1,+0.5,0,−0.5,−1の順で設定される。この“woffset”の設定に応じて、ライトヘッド112を、サーボセクタの中心に対して、+MWW,+MWW/2,0,−MWW/2,+MWWだけ順次ずらしながら、直流磁界による書き込みが行われる。これにより、SSで示される、サーボ情報に異常が検出されるサーボセクタを対象に、当該サーボセクタのサーボパターンの全範囲を確実に磁化して、当該サーボパターン(サーボ情報)を正常な磁化状態に回復することができる。
ところで、従来の磁気ディスクドライブに搭載される磁気ディスク媒体には、当該媒体の製造段階において、製品出荷後では実施できない方法によってサーボ情報が書き込まれている。このため、ユーザが使用中に何らかの原因でサーボ情報が損傷を受けても修復することは不可能であり、このサーボ情報の損傷の影響を受けたデータセクタはアクセスできなくなる。このため従来の磁気ディスクドライブでは、アクセスできなくなったセクタは、不良ブロックとして扱わざるを得ない。確かに、使用前のデータセクタであれば、当該データセクタを他のデータセクタで代替することにより、画像情報などの高転送レートが必要な用途以外では、さほど問題とはならずに済む。しかし、データが記録されたデータセクタの場合は読み出しができなくなってユーザデータが失われてしまうため、大きな問題となる。
これに対して本実施形態では、上述のように、サーボセクタが磁気的な損傷を受けたためにアクセスできないデータセクタが現れても、ユーザが通常使用している状態のままサーボセクタの情報(サーボ情報)を容易に回復することができる。
<第1の変形例>
次に、上記実施形態の第1の変形例について説明する。
上記実施形態では、サーボ情報の回復処理が磁気ディスクドライブ内で自律的に行われる場合を想定している。これに対して、上記実施形態の第1の変形例は、磁気ディスクドライブでのサーボ情報の回復処理が、ホストシステムからの指示によって行われることを特徴とする。このような第1の変形例の動作について、図13を参照して説明する。図13において、同図(a)は、ホストシステムから磁気ディスクドライブに対してサーボ情報の回復処理を指示する際の処理手順を示すフローチャート、同図(b)はホストシステムからサーボ情報の回復処理が指示された際の磁気ディスクドライブの処理手順を示すフローチャートである。
ホストシステムは、磁気ディスクドライブ内にアクセスできなくなったファイルまたはブロックが存在する場合、一般に、そのファイルまたはブロックに対してアクセスを試みる(ステップS21)。磁気ディスクドライブ側では、ホストシステムから指定されたファイルまたはブロックに対するアクセスを実行し、そのアクセスで発生したエラーのログを記録する。
次にホストシステムは、磁気ディスクドライブに対して、エラーログの送出を要求する命令を発行する(ステップS22)。これにより磁気ディスクドライブでは、先に記録したエラーのログをホストシステムに送出する。ホストシステムは、このエラーのログを受け取ると、エラーが起きているブロックアドレスを特定する(ステップS23)。そしてホストシステムは、特定されたブロックアドレスをパラメータとして、磁気ディスクドライブに対してサーボ情報を回復させる処理を起動するための特定のコマンド(Vendor Specific Command)を発行する。この特定のコマンドを、サーボセクタ回復(Recover Servo Sector)コマンドと称する。その後、ホストシステムは、ステップS21と同様に、アクセスできなくなったファイルまたはブロックに対して再度アクセスを試みる(ステップS25)。
一方、磁気ディスクドライブ内のCPU240は、ホストシステムからのサーボセクタ回復(Recover Servo Sector)コマンドをHDC230を介して受け取ると(ステップS31)、当該コマンドで指定されたブロックアドレスにより示されるデータセクタに先行するサーボセクタの番号を算出する(ステップS32)。次にCPU240は、HDC230のトラッキング制御部233によりモータドライバIC210を制御させることで、上記ブロックアドレスにより示されるデータセクタの存在するシリンダにヘッド110-iをシークさせる(ステップS33)。するとHDC230は、リード/ライトチャネルIC220内の書き込み制御回路1100を用いて、ステップS32で算出された番号のサーボセクタを対象とするサーボ情報回復処理を行う(ステップS34)。このサーボ情報回復処理は、図11のフローチャートに従って実行される。つまり、第1の変形例では、ホストシステムからの指示に応じて、指定されたデータセクタに先行するサーボセクタが特定されて、そのサーボセクタを対象とするサーボ情報回復処理が、上記実施形態と同様の手順で行われる。
<第2の変形例>
次に、上記実施形態の第2の変形例について説明する。
一般に、磁気ディスク装置におけるフォーマットと呼ばれる初期化処理は、論理フォーマットと物理フォーマットの2種類がある。論理フォーマットでは、ホストシステムのオペレーティングシステム(OS)によるファイル管理のためのテーブルを記録したデータブロックの値が初期化されるだけであり、それ以外のデータブロックの情報は何ら影響を受けない。したがって、論理フォーマット前に書かれたデータブロックの情報に関しては、OSを通した正規のアクセスはできなくなるものの、データの実態は新たなデータが上書きされるまで残る。これに対して、物理フォーマットでは全てのブロックのデータパターンが初期化される。
上記実施形態の第2の変形例の特徴は、図5の磁気ディスクドライブに、物理フォーマットと併用または独立した機能として、サーボパターン(を構成する磁性部の磁化状態)をリフレッシュする機能を持たせたことにある。
次に、第2の変形例で適用される、物理フォーマットとは独立に、ディスク媒体1の全面のサーボパターンをヘッド110-iのライトヘッド112により順次リフレッシュする処理(以下、第1の処理と称する)について、図14のフローチャートを参照して説明する。
HDC230は、シリンダアドレス(シリンダ番号)及びヘッドアドレス(ヘッド番号)を初期値0に設定する(ステップS41,S42)。そしてHDC230は、リード/ライトチャネルIC220内の書き込み制御回路1100を用いて、シリンダアドレス及びヘッドアドレスで特定されるディスク媒体1のトラック上の全サーボパターンをリフレッシュする処理を行う(ステップS45)。HDC230は、この処理(ステップS45)を、ヘッドアドレスを1インクリメントしながら(ステップS46)、またシリンダアドレスを1インクリメントしながら(ステップS47)、全ヘッドの全シリンダについて、つまり全トラックについて繰り返す(ステップS43,S44)。
ここで、上記ステップS45の詳細について説明する。まず、ステップS45では、トラック上の各サーボセクタに、図11のフローチャートに示すサーボ情報の回復処理が適用される。そこで、ステップS45では、トラック上の各サーボセクタが、以下に述べるようにサーボ情報に異常が検出されるサーボセクタとして扱われる。
HDC230内のサーボ情報回復制御部232は、サーボ情報に異常が検出されるサーボセクタの番号として初期値0を設定する(ステップS51)。そして、サーボ情報回復制御部232は、現在設定されている、サーボ情報に異常が検出されるサーボセクタの番号を用いて、図11のフローチャートに示す手順で、サーボ情報の回復処理を行う(ステップS53)。サーボ情報回復制御部232は、この処理(ステップS53)を、サーボセクタ番号を1インクリメントしながら(ステップS54)、1トラック上の全サーボセクタについて繰り返す(ステップS52)。
第2の変形例では、上記第1の処理に代えて、1トラックを物理フォーマットする際に、当該トラックに対応する全サーボセクタのサーボパターンをリフレッシュする処理(以下、第2の処理と称する)を適用することもできる。この第2の処理が第1の処理と相異するのは、上記ステップ45に相当する処理である。そこで、この第2の処理(におけるステップ45に相当する処理)について、図15のフローチャートを参照して説明する。
HDC230内のサーボ情報回復制御部232は、サーボ情報に異常が検出されるサーボセクタの番号として初期値0を設定する(ステップS61)。そして、サーボ情報回復制御部232は、現在設定されている、サーボ情報に異常が検出されるサーボセクタの番号を用いて、図11のフローチャートに示す手順で、サーボ情報の回復処理を行う(ステップS63)。サーボ情報回復制御部232は、この処理(ステップS63)を、サーボセクタ番号を1インクリメントしながら(ステップS64)、1トラック上の全サーボセクタについて繰り返す(ステップS62)。ここまでの処理は、図14のフローチャート中のステップS51乃至54と同様である。HDC230は、サーボ情報の回復処理(ステップS63)が1トラック上の全サーボセクタについて実行されると(ステップS62)、ステップS65に進む。このステップS65において、HDC230は、トラック上の全データセクタに一様なデータを書き込む物理フォーマットを行う。
<第3の変形例>
次に、上記実施形態の第3の変形例について説明する。この第3の変形例の特徴は、図5の磁気ディスクドライブに、次の2つの機能を持たせた点にある。第1は、ディスク媒体1の一部のサーボセクタのサーボセクタパターンを高周波磁界(交流磁界)により故意に破壊して、当該サーボセクタに対応するデータセクタ上の機密情報へのアクセスをできなくする機能である。第2は、アクセスキー(解除用キーコード)を含むサーボセクタ回復(Recover Servo Sector)コマンドにより、故意に破壊されたサーボセクタを直流磁界で回復させて、当該サーボセクタに対応するデータセクタ上の機密情報を取り出せるようにする機能である。
図16は、第3の変形例で適用される、サーボ情報消去/回復機能を実現する書き込み制御回路とその周辺の回路のブロック構成を示す。図16において、図12と等価な部分には同一符号を付してある。図16に示すように、リード/ライトチャネルIC220は、図12中の書き込み制御回路1100に相当する書き込み制御回路1200を含む。書き込み制御回路1200は、書き込み制御回路1100と同様の回路要素に加えて、インバータ1110、アンドゲート1111、オアゲート1112及び消去パターン発生器1113を有する。消去パターン発生器1113は、消去パターン信号を発生する。消去パターン信号は、0,1を交互に繰り返す高周波の2値信号(クロック信号)であり、サーボ情報(サーボパターンの正常な磁化状態)を消去(破壊)するための高周波磁界をライトヘッド112によって発生するのに用いられる。一方、HDC230内のサーボ情報回復制御部232は、上記実施形態と異なって、サーボライト信号SRV WRだけでなく、サーボ情報の消去処理を指示するサーボ消去信号SRV ERASEをも出力する機能を有する。ここで、サーボ消去信号SRV ERASEがアサートされるとき、つまりサーボ情報の消去処理では、サーボ情報の回復処理の場合と同様に、サーボライト信号SRV WRがアサートされるものとする。
図16において、サーボ消去信号SRV ERASEは、インバータ1110に入力される。また、サーボ消去信号SRV ERASEは、インバータ1104の出力と共に、オアゲート1112に入力される。このオアゲート1112の出力が、サーボライト信号SRV WRと共に、ナンドゲート1106に入力される。この点で、インバータ1104の出力がサーボライト信号SRV WRと共にナンドゲート1106に入力される、図16中の書き込み制御回路1100と異なる。また、サーボ消去信号SRV ERASE及び消去パターン発生器1113からの消去パターン信号は、サーボライト信号SRV WRと共に、アンドゲート1111に入力される。このアンドゲート1111の出力は、アンドゲート1105及び1109の各出力と共に、オアゲート1108に入力される。この点でも、アンドゲート1105及び1109の各出力だけがオアゲート1108に入力される、図16中の書き込み制御回路1100と異なる。
このような構成の書き込み制御回路1200において、サーボ消去信号SRV ERASEがネゲートされた状態では、アンドゲート1111の出力はネゲートされたままとなる。この場合、オアゲート1109の動作は、図12中の書き込み制御回路1100におけるのと同様となる。また、サーボ消去信号SRV ERASEがネゲートされた状態では、インバータ1110の出力はアサートされたままとなる。この場合、アンドゲート1105の動作も、図12中の書き込み制御回路1100におけるのと同様となる。また、サーボ消去信号SRV ERASEがネゲートされた状態では、オアゲート1112からはインバータ1104の出力がそのまま出力される。したがって、ナンドゲート1106の動作は、図12中の書き込み制御回路1100におけるのと同様となる。
一方、サーボ情報回復制御部232によってサーボ消去信号SRV ERASEがアサートされた状態、即ちサーボ情報を故意に消去する処理では、インバータ1110の出力がネゲートされて、アンドゲート1105の出力もネゲートされる。この場合、アンドゲート1105の出力はオアゲート1108の出力に影響を与えなくなる。
また、サーボ消去信号SRV ERASEがアサートされた状態では、オアゲート1112の出力もアサートされる。このときサーボライト信号SRV WRもアサートされていることから、ナンドゲート1106の出力がネゲートされて、アンドゲート1109の出力もネゲートされる。この場合、アンドゲート1109の出力もオアゲート1108の出力に影響を与えなくなる。
したがって、オアゲート1108の出力は、アンドゲート1111の出力によって決定される。つまり、サーボ消去信号SRV ERASE及びサーボライト信号SRV WRがアサートされている期間は、消去パターン発生器1113によって発生される消去パターン信号が、そのままアンドゲート1111を通過してオアゲート1108に出力される。このとき、上記したようにアンドゲート1105及び1109の出力はネゲートされている。このため、アンドゲート1111からオアゲート1108に出力された消去パターン信号は、当該オアゲート1108を介してドライバ1005に供給され、当該ドライバ1005からHIC140に供給される。
これにより、前述のサーボ情報の回復処理の場合と同様に、サーボゲートSGATE及びサーボライト信号SRV WRが共にアサートされている期間、ヘッド110-i(ライトヘッド112)からディスク媒体1の対応するサーボ領域11中の磁性部(ここでは、サーボセクタのサーバパターンの磁性部)に、消去パターン発生器1113によって発生される消去パターン信号に対応した高周波磁界を印加すること(つまり高周波磁界による書き込みを行うこと)ができる。この結果、サーボセクタのサーバパターンを破壊すること、つまり当該サーボセクタのサーボ情報を消去することができる。
次に、上記サーボ情報の消去機能を利用した機密情報の保護のための処理(情報保護処理)と、前述のサーボ情報の回復機能を利用した機密情報保護状態の解除のための処理(情報保護解除処理)について、図17乃至図21を参照して説明する。図17において、同図(a)はホスシステム側での情報保護処理の手順を示すフローチャート、同図(b)はホスシステム側での情報保護解除処理の手順を示すフローチャートである。図18は磁気ディスクドライブ側での情報保護処理の手順を示すフローチャート、図19は図18中のサーボ情報(サーボパターン)の消去処理の詳細な手順を示すフローチャートである。図20は磁気ディスクドライブ側での情報保護解除処理の手順を示すフローチャート、図21は保護情報管理テーブル20のデータ構造例を示す図である。
[情報保護処理]
ホストシステムは、機密処理する情報の保護が必要な場合、情報保護処理に先立ち、図5の磁気ディスクドライブに対して情報保護の開始を指示する。そしてホストシステムは、図17(a)のフローチャートに従って以下の情報保護処理を行う。
まず磁気ディスクドライブに対して、機密処理する情報をブロックアドレスを指定して書き込む(ステップS71)。次にホストシステムは、ブロックアドレスをパラメータとして、磁気ディスクドライブに対して、対応するサーボセクタのサーボ情報を消去させる処理を起動するための特定のコマンドであるサーボセクタ消去(Erase Servo Sector)コマンドを発行する(ステップS72)。その後、ホストシステムは、後述するように、磁気ディスクドライブから情報保護解除用キーコードを受け取る(ステップS73)。
一方、磁気ディスクドライブ側では、ホストシステムからのサーボセクタ消去コマンドに応じ、図18のフローチャートに従って以下の情報保護処理が行われる。まず、CPU240は、ホストシステムからのサーボセクタ消去コマンドをHDC230を介して受け取る(ステップS91)。次にCPU240は、サーボセクタ消去コマンドで指定されたブロックアドレスにより示されるデータセクタに先行するn個(nは1より大きい整数)のサーボセクタのサーボセクタ番号を算出する(ステップS92)。
次にCPU240は、HDC230のトラッキング制御部233によりモータドライバIC210を制御させることで、上記ブロックアドレスにより示されるデータセクタの存在するシリンダにヘッド110-iをシークさせる(ステップS93)。すると、HDC230内のサーボ情報回復制御部232は、変数kを初期値nに設定する(ステップS94)。変数kから1を減じた値(k−1)は、上記n個のサーボセクタの先頭サーボセクタから消去の対象となるサーボ情報に対応するサーボセクタまでのサーボセクタ数を表す。但し、消去の対象となるサーボ情報に対応するサーボセクタを含む。
そしてサーボ情報回復制御部232は、先頭サーボセクタのサーボセクタ番号に(k−1)を加算し、その加算結果の示すサーボセクタ番号を、消去の対象となるサーボ情報に対応するサーボセクタの番号SSとして設定する(ステップS96)。次にサーボ情報回復制御部232は、リード/ライトチャネルIC220内の書き込み制御回路1200を用いて、ステップS96で設定されたSSで示されるサーボセクタのサーボ情報を高周波磁界により消去するためのサーボ情報(サーボパターン)消去処理を行う(ステップS97)。このサーボ情報消去処理の詳細については後述する。
サーボ情報回復制御部232は、上記ステップS96,S97を、kを1デクリメントしながら(ステップS98)、kが1に等しくなるまで繰り返す(ステップS95)。即ちサーボ情報回復制御部232は、ステップS92でサーボセクタ番号が算出されたn個のサーボセクタについて、最終のサーボセクタから順にサーボ情報消去処理を行う。
このように本実施形態では、サーボセクタ消去コマンドで指定されたブロックアドレスにより示されるデータセクタに先行するn個(複数個)のサーボセクタについて、サーボ情報消去処理が行われる。この場合、同一トラック上の他のサーボセクタの情報をもとに、保護すべきデータが保存されているデータセクタに対応するサーボセクタの位置を予測することは極めて困難であり、当該データセクタがアクセスされる虞はない。これに対し、ブロックアドレスにより示されるデータセクタに先行する1つのサーボセクタについてのみサーボ情報消去処理を行うならば、その1つ前のサーボセクタの情報をもとに、消去されたサーボセクタの位置が予測され、保護すべきデータが保存されているデータセクタがアクセスされる可能性がある。
やがて、kが1未満になると(ステップS95)、つまり上記n個のサーボセクタについてサーボ情報消去処理を実行し終えると、CPU240に制御が戻される。するとCPU240は、情報保護の解除用のキーコード(解除キー)を、例えば制御プログラムに従って乱数を用いて生成し、当該解除用のキーコードをHDC230を介してホストシステムに通知する(ステップS99)。この他に、ディスク媒体1上のユーザからアクセスできない管理領域、または制御プログラムを保存するフラッシュROMに解除用のキーコードを記録しておき、当該キーコード自体をホストシステムを介してユーザにより指定されたキー情報をもとに暗号化するようにしても構わない。
CPU240は、サーボ情報が消去されたサーボセクタのリストと解除用のキーコードとを図21に示す保護情報管理テーブル20に格納する(ステップS100)。この保護情報管理テーブル20は、ディスク媒体1の複数の領域または制御プログラムを保存するフラッシュROMに保存される。保護情報管理テーブル20では、ホストシステムから磁気ディスクドライブに対して情報保護の開始が指示されてから、情報保護の終了が指示されるまでの間に、当該ホストシステムから発行されるサーボセクタ消去コマンドで指定される全てのブロックアドレスが、共通の保護情報グループに属する保護情報として管理される。
次に、上記ステップS97のサーボ情報消去処理の詳細について、図19のフローチャートを参照して説明する。まずサーボ情報回復制御部232は、先のサーボ情報回復処理の場合と同様に、“woffset”に+1を代入する(ステップS101)。次にサーボ情報回復制御部232は、サーボ領域11のタイミングを示すサーボゲートSGATEがアサートされるのを待つ(ステップS102)。
やがて、サーボゲートSGATEがアサートされると、サーボ情報回復制御部232は、タイミング制御部231からヘッド110-i(ライトヘッド112)が通過中のサーボセクタの番号を入力し、通過中のサーボセクタが、SSで示されるサーボセクタの1つ前のサーボセクタであるか判定する(ステップS113)。もし、通過中のサーボセクタが、SSで示されるサーボセクタの1つ前のサーボセクタでないならば、サーボ情報回復制御部232はサーボゲートSGATEがネゲートされるのを待って(ステップS104)、ステップS102に戻る。
これに対し、通過中のサーボセクタが、SSで示されるサーボセクタの1つ前のサーボセクタであるならば(ステップS103)、サーボ情報回復制御部232は、サーボゲートSGATEがネゲートされるのを待って(ステップS105)、サーボライト信号SRV WR及びサーボ消去信号SRV ERASEを共にアサートする(ステップS106)。そしてサーボ情報回復制御部232は、ライトヘッド112を“woffset*MWW”の分だけオフセットさせるように、トラッキング制御部233に指示を出す(ステップS107)。
その後、サーボ情報回復制御部232は、サーボゲートSGATEが再びアサートされるのを待つ(ステップS108)。サーボゲートSGATEが再びアサートされる期間は、SSで示されるサーボセクタがライトヘッド112の直下を通過する期間に対応する。
サーボゲートSGATEが再びアサートされる期間において、図16の書き込み制御回路1200を含むリード/ライトチャネルIC220の動作に従い、SSで示されるサーボセクタの領域に形成されているサーボパターンの磁性部に、消去パターン発生器1113によって発生される消去パターン信号に対応する消去用の高周波磁界(交流磁界)が、ライトヘッド112によって印加される。つまり、SSで示されるサーボセクタの領域に形成されているサーボパターンの磁性部に、ライトヘッド112の幅MWWで高周波磁界による書き込みが行われる。
サーボ情報回復制御部232は、サーボゲートSGATEが再びアサートされると、今度は当該サーボゲートSGATEが再びネゲートされるのを待つ(ステップS109)。、サーボ情報回復制御部232は、サーボゲートSGATEが再びネゲートされると、つまりSSで示されるサーボセクタの領域に形成されているサーボパターンの磁性部へのライトヘッド幅MWWでの高周波磁界による書き込みが完了すると、変数“woffset”を0.5だけ減じる(ステップS110)。
サーボ情報回復制御部232は、0.5だけ減じられた後の変数“woffset”が−1未満となったかを判定する(ステップS111)。もし“woffset”が−1未満でないならば、サーボ情報回復制御部232はステップS102に戻る。そしてサーボ情報回復制御部232は、ライトヘッド112をwoffset*MWWだけずらして(ステップS107)、SSで示されるサーボセクタの領域に形成されているサーボパターンの磁性部に対する上記高周波磁界による書き込みを、書き込み制御回路1100の制御により行わせる。これに対して、“woffset”が−1未満であるならば(ステップS111)、サーボ情報回復制御部232はサーボ情報消去処理を終了する。この段階で、SSで示されるサーボセクタのサーボパターンの全範囲は確実に高周波磁界で磁化され、対応するサーボ情報を消去することができる。
上記したように、第3の変形例では、1ブロックアドレス単位に、対応するデータセクタのデータの保護のための情報保護処理が行われる。しかし、保護すべき情報が保存されている領域に含まれる全ブロックアドレスについて、例えばサーボセクタ単位、或いはトラック単位で、対応するデータセクタのデータの保護のための情報保護処理が行われる構成とすることも可能である。
[情報保護解除処理]
次に、情報保護解除処理について、ホストシステム側と磁気ディスクドライブ側とに分けて順に説明する。
ホストシステムは、図17(b)のフローチャートに従って以下の情報保護解除処理を行う。まずホストシステムは、情報保護の解除対象となるブロックアドレスと解除用のキーコードとをパラメータとするサーボ回復コマンドを図5の磁気ディスクドライブに発行する(ステップS81)。すると、磁気ディスクドライブでは、後述する情報保護解除処理によって、対応するサーボセクタのサーボ情報が回復される。そこでホストシステムは、機密処理した情報を、上記ブロックアドレスを指定して読み込む(ステップ82)。
さて、ホストシステムから図5の磁気ディスクドライブに対して、ブロックアドレスと解除用のキーコードとをパラメータとするサーボ回復コマンドが発行されると、当該磁気ディスクドライブ側では、図20のフローチャートに従って以下の情報保護解除処理が行われる。まず、CPU240は、ホストシステムからのサーボセクタ回復コマンドをHDC230を介して受け取る(ステップS121)。次にCPU240は、サーボセクタ回復コマンドで指定されたブロックアドレスにより示されるデータセクタに関連するサーボセクタのサーボセクタ番号を算出する(ステップS122)。
次にCPU240は、保護情報管理テーブル20から、上記算出されたサーボセクタ番号のサーボセクタを含む保護情報グループを検索する(ステップS123)。そしてCPU240は、ホストシステムからのサーボセクタ回復コマンドで指定された解除用キーコードが検索された保護情報グループの記録に含まれている解除用キーコードに一致するかを判定する(ステップS124)。
もし、解除用キーコードが一致するならば、つまり正しい解除用キーコードであるならば、CPU240は、HDC230のトラッキング制御部233によりモータドライバIC210を制御させることで、検索された保護情報グループの記録に含まれているサーボセクタ番号(サーボセクタアドレス)で示されるサーボセクタが存在するシリンダにヘッド110-iをシークさせる(ステップS125)。するとHDC230内のサーボ情報回復制御部232は、変数kを初期値0に設定すると共に、変数nを、検索された保護情報グループの記録に含まれているサーボセクタ番号の数、即ちサーボ情報が消去されたサーボセクタの数に設定する(ステップS126)。
そしてサーボ情報回復制御部232は、検索された保護情報グループの記録に含まれているサーボセクタ番号のうちの先頭のサーボセクタ番号に変数kを加算し、その加算結果の示すサーボセクタ番号を、回復の対象となるサーボ情報に対応するサーボセクタの番号SSとして設定する(ステップS128)。次にサーボ情報回復制御部232は、リード/ライトチャネルIC220内の書き込み制御回路1200を用いて、ステップS128で設定されたSSで示されるサーボセクタを対象とするサーボ情報回復処理を行う(ステップS129)。このサーボ情報回復処理は、前記ステップS34と同様に、図11のフローチャートに従って実行される。
サーボ情報回復制御部232は、上記ステップS128,S129を、kを1インクリメントしながら(ステップS130)、kがnに等しくなるまで繰り返す(ステップS127)。即ちサーボ情報回復制御部232は、ステップS123で検索された保護情報グループの記録に含まれているn個のサーボセクタについて、サーボ情報回復処理を行う。
やがて、kがnより小さくなくなると(ステップS127)、つまり上記n個のサーボセクタについてサーボ情報回復処理を実行し終えると、CPU240に制御が戻される。するとCPU240は、サーボ情報回復処理が行われた情報保護グループの記録、つまりサーボ情報回復処理が行われたサーボセクタのサーボセクタ番号のリストと、解除用キーコードを、保護情報管理テーブル20から削除する(ステップS131)。
また、ホストシステムからのサーボセクタ回復コマンドで指定された解除用キーコードが、ステップS123で検索された保護情報グループの記録に含まれている解除用キーコードに一致しないならば、CPU240はHDC230を介してエラーステータスをホストシステムに返す(ステップS132)。
このように上記実施形態の第3の変形例においては、サーボセクタの情報を高周波磁界により消去することにより、当該サーボセクタに対応するデータセクタへのアクセスを不能として、当該データセクタのデータ(機密データ)を保護することができる。また第3の変形例においては、消去されたサーボセクタの情報を、直流磁界により回復することにより、当該サーボセクタに対応するデータセクタへのアクセス不能状態を解除して、当該データセクタのデータ(機密データ)の取り出しを可能とする。
従来のように、ディスク媒体に記録される情報自体を暗号化した場合、ホストシステムは暗号化と復号処理のために大きなCPUパワーが必要になる。また、暗号化されたデータ自体を読み出すことは可能なので、暗号化のレベルによっては解読される危険性も否定できない。しかし、第3の変形例においては、ディスク媒体1上のデータへのアクセス自体が不能になるため解読される危険性が無く、情報の保護及び解除にCPUパワーを必要としない。
<第4の変形例>
上記実施形態及び当該実施形態の第1乃至第3の変形例では、ディスク媒体1の上面SA側の磁性部3Aの磁化方向と下面SB側の磁性部3Bの磁化方向とは、逆方向であり、したがって磁性部3A及び3Bの表面の磁気極性は同一であることを前提としている。この点は、基板の両面の全域に磁性層が形成されている従来の磁気ディスク媒体における、上面側磁性層の凸部と下面側磁性層の凸部のそれと同一である。しかし、ディスク媒体1の上面SA側の磁性部3Aの磁化方向と下面SB側の磁性部3Bの磁化方向とを同一方向とすることも可能である。
そこで、ディスク媒体1の磁性部3A及び3Bの磁化方向を同一とした上記実施形態の第4の変形例について説明する。
図22は、第4の変形例で適用されるディスク媒体1の断面を示す。図22に示すディスク媒体1の構造自体は、上記実施形態で適用された図4に示したディスク媒体1の構造と同一である。第4の変形例で適用されるディスク媒体1が、上記実施形態で適用されたディスク媒体1と相異するのは、ディスク媒体1の上面SA側の磁性部3Aの磁化方向と下面SB側の磁性部3Bの磁化方向とが同一方向である点である。つまり、磁性部3A及び3Bの表面の磁気極性が異なっている。図22の例では、磁性部3Aの表面の磁気極性はNであり、磁性部3Bの表面の磁気極性はSである。
次に、図22に示す構造のディスク媒体1の磁性部3A及び3Bを着磁(初期化)するメディア着磁方法について説明する。図23は、ディスク媒体1の着磁に用いられる専用の着磁装置40の概略構成を示す断面図である。着磁装置40は、ディスク媒体1上の凸状にパターン化された磁性体3A及び3Bを着磁するのに用いられる。この着磁装置40は、強力な磁場を発生するための巨大な電磁コイル41を有する。電磁コイル41の先端には空隙部42が形成されている。着磁装置40はまた、ディスク媒体1を回転させるスピンドルモータ(SPM)43を有する。ディスク媒体1は、その一部が着磁時に空隙部42に位置するようにSPM43にチャッキングされる。
今、ディスク媒体1の一部が空隙部42に位置しているものとする。この状態で、電磁コイル41に直流電流を通電すると、当該電磁コイル41により強力な直流(DC)磁場が発生される。これにより、空隙部42において、ディスク媒体1を表裏透過する方向にDC磁場(表裏透過型外部磁界)が印加される。ここで、ディスク媒体1をSPM43により回転させるならば、ディスク媒体1の同一半径位置の円環状領域に含まれる磁性体3A及び3Bが、ディスク媒体1の面SA及びSBに垂直な一方向(ここでは、図22に示す矢印「↑」の方向)に磁化される。
本実施形態において、電磁コイル41は、図示しないリニアモータのような移動機構(アクチュエータ)により、紙面に垂直な方向(ディスク媒体1の面SA及びSBに平行な方向)に直動移動可能なように支持されている。そこで、SPM43によって回転されているディスク媒体1を表裏透過する方向に、電磁コイル41によりDC磁場を印加する。そして、この電磁コイル41によりディスク媒体1にDC磁場を印加しながら、当該電磁コイル41を、例えばディスク媒体1上で、磁性体3A及び3Bによってパターン化されている最内周位置より更に内側の位置と磁性体3A及び3Bによってパターン化されている最外周位置より更に外側の位置との間で往復移動させる。このときディスク媒体1は、SPM43により回転させられている。したがって、この状態で、上述のように電磁コイル41を往復移動すると、ディスク媒体1の全域が、当該電磁コイル41の先端の空隙部42によって走査される。これにより、ディスク媒体1の面SA及びSBに形成されている全ての磁性体3A及び3Bは、図22に示すように、矢印「↑」の方向に一様に磁化される。よって、ディスク媒体1の面SAに配置された各サーボ領域11に属する磁性体3Aと、ディスク媒体1の面SBに配置された各サーボ領域に属する磁性体3Bも、図22に示すように、矢印「↑」の方向に磁化(着磁)される。このことは、各サーボ領域11を構成する、磁性体3Aの有無によって形成されるサーボパターン(サーボ情報)が、初期化されたことを示す。これは、ディスク媒体1の面SBに配置された各サーボ領域についても同様である。
さて、上記した磁化の方向、つまり漏れ磁束の方向は、ディスク媒体1の面SA側の磁性体3A及び面SB側の磁性体3Bの、それぞれ表面から見た場合、ディスク媒体1の面SA及びSBで逆方向となる。つまり、ディスク媒体1の面SA側の磁性体3A及び面SB側の磁性体3Bの表面の磁気極性(磁極)は、磁性体3A及び磁性体3Bで相異なる。上述の着磁方法の利点は、特許文献1に記載されているような2段階の着磁が必要なく、表裏透過型外部磁界により、ディスク媒体1の面SA側の磁性体3A及び面SB側の磁性体3Bを簡単に且つ確実に磁化できることにある。
但し、図22のディスク媒体1を図5の磁気ディスクドライブに搭載した場合、ディスク媒体1の面SA側の磁性体3A及び面SB側の磁性体3Bの表面の磁気極性(磁極)は、磁性体3A及び磁性体3Bで相異なることから、面SA側に配置されるヘッド(ダウンヘッド)110-0と面SB側に配置されるヘッド(アップヘッド)110-1が発生すべき磁界の方向は、少なくともサーボ情報の回復処理では切り替える必要がある。具体的には、図12または図16において、サーボ情報回復制御部232がダウンヘッド/アップヘッドを認識して、極性制御信号の状態を切り替えれば良い。通常、磁気ディスクドライブに搭載されるディスク媒体の各面に対応してそれぞれ配置される各ヘッドには、ヘッド番号が表裏通しで順番に割り当てられている。この場合、ダウンヘッドのヘッド番号は例えば偶数となり、当該ヘッド番号の最下位ビット(ビット0)は“0”となる。一方、アップヘッドのヘッド番号は例えば奇数となり、当該ヘッド番号の最下位ビットは“1”となる。したがって、サーボ情報回復処理に用いられるヘッドのヘッド番号の最下位ビットが“0”であるか“1”であるかによって、極性制御信号をアサート状態またはネゲート状態に切り替えれば良い。
<第5の変形例>
次に、上記実施形態の第5の変形例について説明する。
図24は、第5の変形例で適用されるサーボ情報回復機能を実現する書き込み制御回路とその周辺の回路のブロック構成を示す。図24において、図12と等価な部分には同一符号を付してある。
図24に示すように、リード/ライトチャネルIC220は、図12中の書き込み制御回路1100に相当する書き込み制御回路1300を含む。書き込み制御回路1300のハードウェア構成自体は、図12中の書き込み制御回路1100と同様である。書き込み制御回路1300が書き込み制御回路1100と相異するのは、極性制御信号に代えて、ヘッド番号の最下位ビット(ビット0)としてのヘッド選択信号(Head Select bit0)が用いられる点である。ここでは、ヘッド選択信号(Head Select bit0)の0/1に応じて、ドライバ1005の電流出力が切り替えられ、これによりサーボパターンの磁性部に印加される直流磁界の方向が切り替えられる。
[第6の変形例]
次に、上記実施形態の第6の変形例について説明する。
図25は、第6の変形例で適用されるサーボ情報消去/回復機能を実現する書き込み制御回路とその周辺の回路のブロック構成を示す。図25において、図16と等価な部分には同一符号を付してある。
図25に示すように、リード/ライトチャネルIC220は、図16中の書き込み制御回路1200に相当する書き込み制御回路1400を含む。書き込み制御回路1400のハードウェア構成自体は、図16中の書き込み制御回路1200と同様である。書き込み制御回路1400が書き込み制御回路1200と相異するのは、極性制御信号に代えて、ヘッド番号の最下位ビット(ビット0)としてのヘッド選択信号(Head Select bit0)が用いられる点である。ここでは、ヘッド選択信号(Head Select bit0)の0/1に応じて、ドライバ1005の電流出力が切り替えられ、これによりサーボパターンの磁性部に印加される直流磁界の方向が切り替えられる。
1…パターンドディスク媒体(両面垂直磁気記録用のパターンドディスク媒体)、2A,2B…下地層、3A,3B…磁性体、11…サーボ領域(サーボパターン部)、12…データ領域、10…基板、20…保護情報管理テーブル、31…磁性トラック、40…着磁装置、110-0,110-1…ヘッド、112…ライトヘッド、130…アクチュエータ、140…HIC(ヘッドIC)、220…リード/ライトチャネルIC、230…HDC(ディスクコントローラ)、231…タイミング制御部、232…サーボ情報回復制御部、233…トラッキング制御部、240…CPU、1100,1200,1300,1400…書き込み制御回路。