JP2006000916A - 引き抜き管の高能率製造方法 - Google Patents

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一仁 剣持
Takuya Nagahama
拓也 長濱
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Abstract

【要 約】
【課 題】 高寸法精度が要求される引き抜き管を高能率かつ低コストに製造しうる引き抜き管の高能率製造方法を提供する。
【解決手段】 管の外面あるいはさらに内面に潤滑被膜を形成させてダイス2(あるいはさらにプラグ1)で管5の引き抜きを行うにあたり、前記潤滑被膜を、ワックスと固体潤滑剤との混合物、該混合物に他の潤滑剤を添加した混合物のうちのいずれかからなる潤滑材料の乾燥被膜とした。
【選択図】 図1

Description

本発明は、引き抜き管の高能率製造方法に関し、詳しくは、例えば自動車駆動系部品充当管などのような高い寸法精度が要求される管を引き抜きにより製造する際、簡素な処理で十分な潤滑効果を得ることができて高能率に引き抜くことができる、引き抜き管の高能率製造方法に関する。
例えば鋼管等の金属管(以下、単に管ともいう。)は溶接管と継目無管に大別される。溶接管は、例えば電縫鋼管のように、帯板の幅を丸め、該丸めた幅の両端を突き合わせて溶接するという方法で製造し、一方、継目無管は、材料の塊を高温で穿孔後マンドレルミル等で圧延するという方法で製造する。溶接管の場合、溶接後に溶接部分の盛り上がりを研削して管の寸法精度を向上させているが、その肉厚偏差は3.0%を超える。また、継目無管の場合、穿孔工程で偏心しやすくて、該偏心により大きな肉厚偏差が生じやすい。この肉厚偏差は後工程で低減させる努力が払われているが、それでも充分低減することができず、製品の段階で8.0%以上残存する。
自動車部品等に充てられる管には、肉厚、内径、外径の各偏差で3.0%以下、さらに厳しくは1.0%以下の高寸法精度が要求される。この要求に応えるべく、従来一般に、例えば図1に示すように、金属管(溶接管、継目無管とも)を造管後にダイス2とプラグ1(あるいはダイス2のみ)を用いて冷間で管を引き抜く製造方法(いわゆる冷牽法)が採られている。
しかし、上記従来の冷牽法では、設備上の制約や管の肉厚・径が大きくて引き抜き力が充分得られずに縮径率を低くせざるを得ない場合などに、加工バイト(プラグとダイス孔内面との隙間)内で管に引張応力が働くためダイスと管、および引き抜き用プラグと管の接触が不十分となり、管の内面、外面の平滑化が不足して凹凸が残留しやすい。そのため、管の縮径率を大きくして加工バイト内で管の内外面とプラグ、ダイスとの接触を向上させることが行われている。しかし、縮径率を大きくするとダイスまたはプラグと管が焼き付いて、引き抜いた管に疵が多発し、加工後の管の表面品質が低下し、その管は製品にならないだけでなく、加工時の荷重が著しく増加して加工そのものが不可能になる場合があり、その結果、管の生産能率が著しく低下していた。
そこで、引き抜き前の管に予め潤滑処理を施して、充分な潤滑被膜を形成させる対策が採られており、かかる潤滑処理としては、特許文献1に示されるように液体潤滑剤を高圧で噴射したり、管の内外面にボンデ処理さらには金属石鹸塗布を行うものが知られている。
特開平4−313418号公報
しかしながら、上記従来の潤滑処理は、管の表面を酸洗浄して酸化スケールを除去したり、潤滑被膜形成のために潤滑剤の槽に長時間に亘って管を浸漬する必要があって、著しく能率が悪く、コストも多大であった。
この点に鑑み、本発明は、高寸法精度が要求される引き抜き管を高能率かつ低コストに製造しうる引き抜き管の高能率製造方法を提供しようとするものである。
従来、ダイスあるいはダイスとプラグを用いて管を引き抜いた場合、管の寸法精度を向上させるのが困難である理由は、引き抜きであるがゆえに加工バイト内のダイスと管外面、プラグと管内面の接触が不十分となることにある。そのため、管の内面、外面とも加工バイト内に自由変形の部分が存在して凹凸を平滑化できない場合があり、その対策として縮径率を増加させて寸法精度を向上させていた。しかし、縮径率を大きくすると、ダイスまたはプラグに管が焼き付いて引き抜いた管に疵が多発し、加工後の管の表面品質が低下し、その管は製品にならないだけでなく、加工時の荷重が著しく増加して加工そのものが不可能になる場合があり、その結果、引き抜き管の生産能率が著しく低下していた。
この点を改善するために、従来では、ボンデ処理さらには金属石鹸塗布を行って、予め充分な潤滑被膜を形成させる必要があったが、これらの潤滑処理は管の表面を酸洗浄して酸化スケールを除去し、潤滑被膜形成のために潤滑剤の槽に長時間に亘って管を浸漬する必要があって、著しく能率が悪く、コストも多大であった。
そこで、簡易に塗布できて、かつ引き抜き中のダイスと管外面、プラグと管内面の摩擦力を充分低減できる潤滑剤を鋭意検討した結果、以下の要旨構成になる本発明を完成するに至った。
(1)管の外面あるいはさらに内面に潤滑被膜を形成させてダイスで管の引き抜きを行うにあたり、前記潤滑被膜を、ワックスと固体潤滑剤との混合物、該混合物に他の潤滑剤を添加した混合物のうちのいずれかからなる潤滑材料の乾燥被膜としたことを特徴とする引き抜き管の高能率製造方法。
(2)前記潤滑材料を溶剤に溶かした溶液、同潤滑材料を分散媒に分散させたエマルションのうちのいずれかを管に塗布し乾燥させて、前記乾燥被膜とすることを特徴とする(1)記載の引き抜き管の高能率製造方法。
(3)酸化スケールが付着したままの鋼管に前記潤滑被膜を形成させることを特徴とする(1)または(2)記載の引き抜き管の高能率製造方法。
(4)前記潤滑被膜を形成させた管にプラグを装入して前記引き抜きを行うことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の引き抜き管の高能率製造方法。
本発明によれば、簡素な処理で充分な潤滑効果が得られるので、表面品質の良好な引き抜き管を高能率かつ低コストに製造することができる。
潤滑剤を簡易に塗布するには、引き抜きされる素材としての管(素管)にそのまま塗布できて充分な厚みの潤滑被膜を形成できることが望ましい。本発明者らの検討では、液体潤滑剤を塗布すると、たとえ潤滑剤の粘度を大きくしても液だれが生じて膜厚が薄くなるだけでなく、二硫化モリブデン等の極圧添加剤を含む液体潤滑剤であっても摩擦力を充分低減できないことを把握した。また、グリース状潤滑剤では、潤滑被膜の膜厚は厚くできるが、摩擦力を充分低減することができなかった。
そこで、塗布するだけで液だれを発生せずに充分な膜厚を得て、かつ充分な摩擦力低減効果を得る手段として、塗布する潤滑材料に大気中で乾燥するワックスを用いるという手段を採用した。すなわち、ワックスを溶剤に溶かして塗布し、大気中で溶剤を蒸発させて潤滑剤の膜を形成したり、ワックスをエマルションにして塗布し、大気中で水を蒸発させて潤滑剤の膜を形成するとよいわけである。
用いるワックスとしては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリビニルワックス、天然ロウ等がよく、また、これらをベースとして他の潤滑剤(例えば前記従来の液体潤滑剤やグリース状潤滑剤など)を添加したものであってもよい。溶剤としては、ジメチルエーテル、石油ベンジン、ナフサ等が好適である。エマルションの分散媒としては水、アルコール、これらの混合物が好適である。
また、潤滑被膜を簡易に形成する手段として、素管に直接潤滑材料を塗布できるとよい。素管は表面に酸化スケールが生成しており、従来のボンデ処理では、この酸化スケールがあると潤滑被膜と素管表面との密着が不十分で潤滑効果が損なわれるため、予め素管を酸洗する必要があった。しかし、本発明の乾燥被膜では、酸化スケールが存在してもそれとの密着性が良好なため、充分摩擦力を低減できて疵も防止できる。
なお、引き抜き管の寸法精度をさらに向上させるには、内面にも潤滑被膜を形成した素管にプラグを装入して引き抜きを行うことが好ましい。
もっとも、管の引き抜きでは、金型等で管を掴んで半連続的に引き抜くことが多く、このとき、引き抜きでの焼き付き疵防止用にワックスを塗布すると、管とダイスとの間、管とプラグとの間の摩擦係数を低減する効果が著しいため、管を掴む金型と管との間の摩擦係数も低下して、管を引くのに充分な引き力を付与できない場合があった。
そこで、本発明者らは、引き抜き時に高荷重が発生しやすい状態では摩擦係数を低減し、管を掴む金型と管との間のように低荷重が発生しやすい状態では摩擦係数を高くできる潤滑材料を鋭意検討した。その結果、かかる潤滑材料として、ワックスに固体潤滑剤を添加した混合物が相応しいことを見出した。
すなわち、ワックスと固体潤滑剤との混合物を潤滑材料に用いると、高荷重下では管とダイスとの間、管とプラグとの間の面圧が高くなることにより、ワックスの被膜が薄くなり、固体潤滑剤がせん断力を強く受けて微細に破壊分散し、ワックスと混合した強固な薄い膜を形成して摩擦係数を低減する。一方、低荷重下では、固体潤滑剤が大きい粒のまま存在できるので、ワックスの影響が少ないまま固体潤滑剤本来の摩擦係数を高く保持できるわけである。
ここで、固体潤滑剤としては、単体での摩擦係数が比較的大きくて、高荷重下、高せん断力下で微細化しやすいもの、例えば硼酸ナトリウム等のガラス系潤滑剤や窒化硼素等のセラミックス微細粉などが好ましく用いうる。
また、ワックスと固体潤滑剤との混合物の中に、極圧添加剤、油性向上剤などを添加するとさらによい。極圧添加剤としては二硫化モリブデン、グラファイト、テフロン(四フッ化エチレン(ポリテトラフルオロエチレン:PTFE)Cの重合体)などが好ましい。油性向上剤としては、長鎖脂肪酸、長鎖アルコール、合成エステルなどが好ましい。
また、本発明に用いる潤滑材料をエマルションにして塗布した膜の乾燥を容易化するには、分散媒にエチルアルコール等のアルコールを予め混入させるとよい。
φ40mm×6.0mmt×5.5mLの鋼管を素管とし、鏡面のプラグと一体型固定ダイスを用いて、プラグをフローティング状態に装入した素管を縮径率20%仕様の一体型固定ダイスに通して引き抜きし、φ32mm×5.1mmtの引き抜き管を得た。引き抜き前に、素管の内面および外面に、以下のような種々の潤滑処理を施した。
(本発明例1)素管表面の酸化スケールはそのままとし、ポリエチレンワックスに硼酸ナトリウムを混合させた潤滑材料を溶剤(:ジメチルエーテル)で希釈した溶液を塗布し、常温で乾燥させて、潤滑被膜を形成させた。
(本発明例2)素管表面の酸化スケールはそのままとし、ポリエチレンワックスと硼酸ナトリウムとの混合物にリン酸系極圧添加剤(:トリアルキルリン酸エステム)および高級脂肪酸(:ステアリン酸)を添加した潤滑材料を、エチルアルコールを添加した分散媒(:水)に分散させたエマルションを塗布し、常温で乾燥させて、潤滑被膜を形成させた。
(比較例1)素管表面の酸化スケールはそのままとし、鉱物油系液体潤滑剤を噴射して、潤滑被膜を形成させた。
(比較例2)素管表面の酸化スケールはそのままとし、グリース状潤滑剤を噴射して、潤滑被膜を形成させた。
(比較例3)素管を酸洗浄し、さらにボンデ処理ののち金属石鹸を塗布して、潤滑被膜を形成させた。
本発明例および比較例における、引き抜き管の表面疵発生状況、寸法精度、および潤滑処理時間(最短のものを1とした相対比)を表1に示す。寸法精度は管断面の画像解析データから求めた円周方向の肉厚偏差(=(最大肉厚−最小肉厚)/平均肉厚×100%)で示した。
表1より、ワックスと固体潤滑剤との混合物を含む潤滑材料を用いた本発明例では、潤滑材料の溶剤希釈液を塗布し乾燥被膜としたもの、および潤滑材料のエマルションを塗布し乾燥被膜としたもののいずれにおいても疵は全く発生せず良好な表面であり、寸法精度も著しく良好であり、また潤滑処理時間は短時間であった。
これに対し、鉱物油系液体潤滑剤を用いた比較例1、およびグリース状潤滑剤を用いた比較例2では、潤滑処理時間は本発明例と同程度に短かったが、疵が発生し、寸法精度も低下した。また、酸洗浄→ボンデ処理→金属石鹸塗布を行った比較例3では、疵は発生しなかったが、酸洗を含む潤滑処理に著しく時間がかかって能率が低下した。
Figure 2006000916
本発明は、高寸法精度管の製造に利用することができる。
冷牽法の概要を示す模式図である。
符号の説明
1 プラグ
2 ダイス
3 管引き機
4 引き抜き方向
5 管(金属管、鋼管)

Claims (4)

  1. 管の外面あるいはさらに内面に潤滑被膜を形成させてダイスで管の引き抜きを行うにあたり、前記潤滑被膜を、ワックスと固体潤滑剤との混合物、該混合物に他の潤滑剤を添加した混合物のうちのいずれかからなる潤滑材料の乾燥被膜としたことを特徴とする引き抜き管の高能率製造方法。
  2. 前記潤滑材料を溶剤に溶かした溶液、同潤滑材料を分散媒に分散させたエマルションのうちのいずれかを管に塗布し乾燥させて、前記乾燥被膜とすることを特徴とする請求項1記載の引き抜き管の高能率製造方法。
  3. 酸化スケールが付着したままの鋼管に前記潤滑被膜を形成させることを特徴とする請求項1または2に記載の引き抜き管の高能率製造方法。
  4. 前記潤滑被膜を形成させた管にプラグを装入して前記引き抜きを行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の引き抜き管の高能率製造方法。
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