関連出願データ
本願は、米国仮出願第60/365,550号(2002年3月20日出願)の利益を主張するものであり、参照によりその全体を本願に組み入れる。
発明の分野
本発明は、テトロドトキシン耐性ナトリウムチャネルをコードする発現ベクター、組換えナトリウムチャネルタンパク質の発現、およびテトロドトキシン耐性ナトリウムチャネルを一時的かつ安定的に発現する株化細胞に関する。
背景
電位依存性ナトリウムチャネルは、興奮性細胞(ニューロンや筋線維)が電気インパルスを発生し伝達することを可能にする分子バッテリーとして作用する特化された一種のタンパク質分子である。ラット脳に由来する電位依存性ナトリウムチャネルは、3つのサブユニット、すなわち、ポア形成αサブユニット(260kDa)と、αサブユニットの特性を調節しうる2つの補助サブユニットであるβ1(36kDa)およびβ2(33kDa)と、から構成されており、αサブユニットは細胞膜を貫通するNa+電流を発生する機能的チャネルを形成するのに充分である(Catterall(1993)Trends Neurosci.16,500〜506頁;Isomら(1994)Neuron 12,1183〜1194頁)。9つの異なる脊椎動物のαサブユニットが同定されており、これらは広範な遺伝子ファミリーのメンバーによってコードされており(North(1995)Handbook of Receptors and Channels(73〜100頁),CRC Press;Akopianら(1996)Nature 379,257〜262頁;Akopianら(1997)FEBS Letters 400,183〜187頁;Sangameswaranら(1996)J.Biol.Chem.271,5953〜5956頁)、それらのうちの多くについてそれぞれのオーソログがヒトを含む様々な哺乳類の種からクローン化されている。特定のαサブユニットが組織および発生特異的な様式に発現される(Beckhら(1989)EMBO J.8,3611〜3616頁;Mandel(1992)J.Membr.Biol.125,193〜205頁)。電位依存性ナトリウムチャネルのαサブユニットの異常な発現パターンまたは変異が、多くのヒトおよび動物の疾患の根源となっている(Rodenら(1997)Am.J.Physiol.273,H511〜525頁;Ptacek(1997)Neuromuscul.Disord.7,250〜255頁;Cannon(1997)Neuromuscul.Disord.7,241〜249頁;Cannon(1996)Trends Neurosci.19,3〜10頁;Rizzoら(1996)European Neurology 36,3〜12頁)。
電位依存性ナトリウムチャネルのαサブユニットは、類似する予測構造を有するが内部の相同性が異なる4つのドメイン(D1〜4)で構成され、それらは3つの細胞内ループ(L1〜3)によって連結されている。これら4つのドメインは折り畳まれて、ポアを介して細胞質と細胞外空間の両方に開口するチャネルを形成する。このポアは細胞膜の生理的な状態に応じて開閉する。
各ドメインは、タンパク質を細胞内および細胞外リンカーによって膜内を進めるようにさせる、6つの膜貫通セグメント(S1〜6)からなる。4つのドメインのそれぞれのS5〜S6セグメントは、チャネルのポアを裏打ちする配列、およびフィルターとして機能する高度に保存されたアミノ酸のサブセットを含み、その高度に保存されたアミノ酸のサブセットはチャネルポアを介してナトリウムイオンを選択的に細胞質に移動させ、それにより膜電位を発生させる。4つのドメインのそれぞれにある両親媒性S4セグメントは、3つのアミノ酸毎に繰り返される塩基性残基に富んでおり、電位センサーとして機能し、細胞膜の内外の電位差の変化に伴ってコンフォメーションの変化を受ける。これが、今度はタンパク質のコンフォメーション変化を誘発して、細胞外ナトリウムイオン勾配に対してポアを開放させる。
既知の殆どの電位依存性ナトリウムチャネルαサブユニットにおいて、チャネルは、ポアの開放(活性化)から数ミリ秒以内に迅速に閉じて非作動状態(不活性化)に変わる。その一方、SNS型チャネルはゆっくりと不活性化するとともに、活性化するためにより大きな電圧変化を必要とする。L3は、ドメインD3とD4とを連結するループであり、活性化後にポアを閉じてチャネルを不活性化状態に誘導する細胞内の栓として機能するトリペプチドを含む。不活性化後、これらのチャネルは更なるコンフォメーション変化を受けて、自身の休止状態から回復し、活性化可能な状態になる。この期間を不活性化からの回復(リプライミング)と呼ぶ。様々なチャネルが、様々な速度でリプライムするが、SNSにおけるリプライミングは比較的に迅速である。
アミノ酸の類似性により、電位依存性ナトリウムチャネルファミリーは、更に2つのサブファミリーに分類されている(Felipeら(1994)J.Biol.Chem.269,30125〜30131頁)。クローン化された9つのチャネルのうち8つが、サブファミリー1に属する。それらは、とりわけS4膜貫通セグメントにおいて、多くの共通した構造的特徴を有している。それらのうちいくつかは、不活性化とリプライミングの異なる速度論的特性を有することが示されている。サブファミリー2(非典型的チャネルとも呼ばれる)の単一のチャネルが、ヒト、ラットおよびマウスの組織から同定されている。このサブファミリーの主たる特徴は、S4セグメントにおいて塩基性残基の数が少ないことであり、そのため、サブファミリー1とは異なる電位依存性を有すると予想される。サブファミリー2チャネルの生理学的機能は、その電気生理学的特性が未だ解明されていないために、現在のところ分かっていない。
また、神経毒の一種であるテトロドトキシンによる電位依存性ナトリウムチャネルの阻害により、上記チャネルを感受性表現型(TTX−S)と耐性表現型(TTX−R)とに機能的に分類することもできる。これまで、2つの哺乳類TTX−Rチャネルが同定されている。一方は心筋細胞および非常に限定された領域の中枢神経系(CNS)に特異的であり、もう一方であるSNSは、後根神経節(DRG)および三叉神経節の末梢ニューロン(PNS)に限定されている。TTXに対する耐性または感受性を与える特異的アミノ酸残基は、チャネルポアのイオン選択性フィルターに限局されている。
Nav1.9(NaN:New and Nociceptiveとして知られていた)は電位依存性ナトリウムチャネルαサブユニットであり、当該サブユニットはTTX−Rであり、後根神経節(DRG)および三叉神経節の小さな(<30μm)知覚神経細胞内で優先的に発現されるが、CNSニューロンおよびグリアまたは筋肉においては発現されない。大脳または網膜内では低レベルのNav1.9を検出することができるが、小脳、脊髄、またはDRG内の衛星細胞若しくはシュワン細胞においては、Nav1.9を検出することができない。
電位依存性ナトリウムチャネルの関連する目印の配列のすべてが、Nav1.9の予測される位置に存在しており、このことはNav1.9がナトリウムチャネルファミリーに属していることを示唆している。しかしながら、Nav1.9は、これまでに同定されたすべての他のナトリウムチャネルとは異なっており、それぞれに対しての配列同一性が53%未満である。また、Nav1.9は、Nav1.8(以前はSNS;PNSにおいて同定されている唯一の他のTTX−Rナトリウムチャネルサブユニットである)とは異なる。Nav1.9の正常な発現の場合は、Nav1.9の表面発現が細胞接着分子コンタクチン/F3に関連しているようであるが(Liuら(2001)J.Biol.Chem.276,46553〜46561頁)、これは、2つのタンパク質の共発現によってNav1.9の表面発現が増加したためである。この発現は、神経成長因子(NGF)やグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)などのニューロトロフィンによって調節することができる(Dib−Hajj(2002)、レビュー中の原稿)。
これまで、Nav1.9は、SNSに基づいたまたはSNS特異的なプライマー若しくはプローブを用いることなくクローン化されていた(WO97/01577)。更に、すべてのサブファミリー1のメンバーに対してNav1.9の類似性が限られるのに匹敵して、Nav1.9およびNav1.8は、それらの予測されるオープンリーディングフレーム(ORF)において47%の類似性しか有していない。既存のαサブユニットとの低い配列類似性から、Nav1.9は単に既存のチャネルの変異体ではなく新しい遺伝子であることが明らかに確認された。Nav1.9は、Navl.8とは異なる特性を有しているかもしれない、新規で、これまでに同定されていない、3つめのクラスのTTX−Rチャネルのプロトタイプであり得ることが、他の電位依存性チャネルと比較しての配列の差異から示されている。Nav1.9およびNav1.8は侵害受容DRGおよび三叉神経細胞に存在するが、それらは異なる様式で薬理学的介入に応答する可能性がある。知覚DRGおよび三叉神経細胞におけるNav1.9の優先的発現は、これらの神経細胞の挙動を選択的に改変するための標的を提供する一方、脳および脊髄内の他の神経細胞には影響を与えない。DRG侵害受容ニューロンに特徴的であり、痛覚メッセージの伝達に寄与し、神経損傷後または他の疼痛状態における異常な発火パターンに寄与する、「TTX−R」電流の機能を調節するように設計された薬物の効果をより完全に理解するために、Nav1.9チャネルの特性を更に解明することは重要であろう。
発明の概要
本発明は、後根神経節または三叉神経節において優先的に発現される電位依存性ナトリウムチャネル(Nav1.9チャネル)をコードする単離された核酸の配列の機能的発現、およびNav1.9によって一時的または安定的に形質転換され、Nav1.9を発現する組換え細胞に関する。
いくつかの実施形態では、本発明は、哺乳類Nav1.9ナトリウムチャネルタンパク質またはその断片をコードする核酸配列を含む発現ベクターを包含し、上記発現ベクターは、細胞にトランスフェクトされた場合にナトリウム電流を発生させる。好ましい実施形態では、哺乳類Nav1.9は、ヒト、ラットまたはマウスNav1.9からなる群より選択される。ある実施形態では、ラットNav1.9は、配列番号2の1〜1765番目のアミノ酸残基、配列番号2の1〜1765番目のアミノ酸残基の断片を含むアミノ酸配列、および少なくとも1つの保存性置換を含む配列番号2の1〜1765番目のアミノ酸残基からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。
本発明の別の実施形態では、ヒトNav1.9は、配列番号4の1〜1791番目のアミノ酸残基、配列番号4の1〜1791番目のアミノ酸残基の断片を含むアミノ酸配列、および少なくとも1つの保存性置換を含む配列番号4の1〜1791番目のアミノ酸残基からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。
更に別の実施形態では、マウスNav1.9は、配列番号6の1〜1765番目のアミノ酸残基、配列番号6の1〜1765番目のアミノ酸残基の断片を含むアミノ酸配列、および少なくとも1つの保存性置換を含む配列番号6の1〜1765番目のアミノ酸残基からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、発現ベクターは発現プラスミドである。好ましい実施形態では、発現プラスミドは低コピー数発現プラスミドである。より好ましい実施形態では、発現プラスミドはNav1.9配列に機能的に連結されたプロモーター配列を含む。ある実施形態では、プロモーター配列はCMVプロモーターである。更に好ましい実施形態では、発現プラスミドは第2のプロモーター配列の制御下にある選択可能マーカーを更に含む。ある実施形態では、選択可能マーカーはネオマイシン耐性遺伝子である。
本発明は、ラットNav1.9を含む発現プラスミドを包含する。好ましい実施形態では、ラットNav1.9は配列番号20を含む。また、別の好ましい実施形態では、発現プラスミドは、配列番号20をコードするオープンリーディングフレームに隣接する5’末端において、配列番号19のオープンリーディングフレームに対する5’側の非翻訳核酸残基のうち少なくとも約1〜100個を更に含む。いくつかの実施形態では、発現プラスミドは少なくとも約1〜50個の上記5’非翻訳核酸残基を含むが、好ましい実施形態では、発現プラスミドは38個の上記5’非翻訳核酸残基を含む。ある実施形態では、発現プラスミドはprNaNである。
いくつかの実施形態では、本発明の発現プラスミドは、ヒスチジンタグ配列をコードする核酸配列を更に含み、上記タグの発現は上記オープンリーディングフレームの発現を制御するのと同一のプロモーターの制御下にある。更に別の実施形態では、本発明は緑色蛍光タンパク質(GFP)ラベルポリペプチドをコードする核酸配列を更に含む発現プラスミドを包含し、上記GFPの発現は上記オープンリーディングフレームの発現を制御するのと同一のプロモーターの制御下にある。好ましい実施形態では、発現プラスミドはpCMV−rNaN−GFPである。本発明は、本発明のプラスミドを含む組換え細胞も更に包含する。好ましい実施形態では、組換え細胞はpCMV−rNaN−GFPプラスミドを含む。
本発明は、哺乳類Nav1.9ナトリウムチャネルタンパク質またはその断片をコードする核酸配列を含む発現プラスミドを包含し、上記哺乳類Nav1.9ナトリウムチャネルタンパク質またはその断片は、トランスフェクトされた細胞でナトリウム電流を発生しない。いくつかの実施形態では、発現プラスミドは配列番号2をコードするオープンリーディングフレームを含むラットNav1.9である。別の実施形態では、配列番号2は、962番目のアミノ酸におけるセリンからプロリンへの変化、1282番目のアミノ酸におけるロイシンからプロリンへの変化、および1000〜1010番目のアミノ酸残基の欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を含む。好ましい実施形態では、発現プラスミドはpLG338XM−rNaNである。本発明は、pLG338XM−rNaNを含む上記プラスミドのいずれかを含む組換え細胞も包含する。
本発明は、Nav1.9ナトリウムチャネル依存性ナトリウム電流を発生する細胞または株化細胞の作製方法も包含し、当該方法は、Nav1.9ナトリウムチャネルタンパク質をコードする核酸配列を含む発現ベクターによりトランスフェクトされた細胞を提供する工程と、Nav1.9ナトリウムチャネルタンパク質の発現がトランスフェクトされた細胞内でナトリウム電流を発生させる条件下で前記細胞を培養する工程とを含む。いくつかの実施形態では、哺乳類Nav1.9はヒト、ラットおよびマウスNav1.9からなる群より選択される。別の実施形態では、上記方法における発現ベクターは発現プラスミドである。好ましい実施形態では、発現プラスミドはprNaN、配列番号19を含むプラスミド、およびpCMV−rNaN−GFPからなる群より選択される。
本発明は、細胞内のナトリウム電流を調節する薬剤のスクリーニング方法を包含し、当該方法は、上記方法によって作製された細胞または株化細胞を当該薬剤に曝露すること、および薬剤への曝露後のナトリウム電流を測定すること、を含み、ナトリウム電流のレベルの変化が細胞内のナトリウム電流を調節できる薬剤の指標となる。
本発明は、本発明の発現ベクターのいずれかを含む組換え細胞も包含する。いくつかの実施形態では、前記細胞は、トランスフェクトされた細胞内でナトリウム電流を発生させる哺乳類Nav1.9ナトリウムチャネルタンパク質またはその断片を一時的に発現する。他の実施形態では、前記細胞は、トランスフェクトされた細胞内でナトリウム電流を発生させる哺乳類Nav1.9ナトリウムチャネルタンパク質またはその断片を安定的に発現する。ある実施形態では、発現ベクターはアデノウィルス、アデノ随伴ウィルス、およびバキュロウィルスからなる群より選択されるウィルスベクターである。
発明の詳細な説明
本発明は、Nav1.9ナトリウムチャネルαサブユニットをコードする核酸配列を含む発現ベクターと、Nav1.9を一時的または安定的に発現している株化細胞とに関し、上記αサブユニットは体(後根神経節すなわちDRG)および顔面(三叉神経節)を支配する知覚神経において優先的に発現される電位依存性のTTX−Rである。
定義
本明細書における「融合タンパク質」という用語は、あるタンパク質分子から別のタンパク質分子へのC末端とN末端との融合のことをいう。本発明の融合タンパク質は、典型的にはリンカーペプチド配列を利用した構築物を含む。タンパク質分子は、2つまたはそれ以上のタンパク質分子を含む単一の融合タンパク質を生成するように互いに融合される。
本明細書における「調節する」という用語は、特定の受容体、そのリガンドまたは電流の発現および/または活性の上方制御(アップレギュレーション)または下方制御(ダウンレギュレーション)のことをいう。例えば、ある薬剤は、ナトリウム電流を抑制(低下)または増強(上昇)することによって、ナトリウム電流を調節し得る。同様に、ある薬剤は、発現されるNav1.9チャネルの発現レベルまたはNav1.9チャネルの活性を調節し得る。
本明細書における「ナトリウム電流」または「Na+電流」という用語は、細胞膜を通過するナトリウムイオンの流れをいい、通常、特定のイオン(本発明においては、ナトリウムイオン)を特異的に透過させるチャネル(特有のタンパク質分子)を介する流れである。
本明細書における「電位依存性」という用語は、細胞が一定の膜電位に達したときに開くイオンチャネルのことをいう。電位感受性ナトリウムチャネルは、膜が脱分極したときに開く。その後、上記チャネルはナトリウムイオンを細胞内に流れ込ませて、更なる脱分極を生み出す。これにより細胞に活動電位を与える。
本明細書における「TTX−R」および「TTX−S」という用語は、それぞれ、テトロドトキシン(ある特定の種が産生する神経毒)の存在に対して耐性または感受性である細胞膜を通過する電流のことをいう。
本明細書における「ナトリウム電流の調節剤」という用語は、ある薬剤が、当該薬剤に曝露されていない対照細胞と比較して、当該電流に変化させる場合のことを一般的にいう。好ましい調節剤は、他のナトリウムチャネルの電流に影響を与えることなく、当該電流を選択的に調節するか、または他のチャネルよりも目的チャネルにおいてナトリウム電流をはるかに大幅に調節する。
本明細書における「ナトリウム電流の阻害剤」という用語は、ある薬剤が、当該薬剤に曝露されていない対照細胞と比較して、当該電流を低下させる場合のことを一般的にいう。好ましい阻害剤は、他のナトリウムチャネルの電流に影響を与えることなく、当該電流を選択的に阻害するか、または他のチャネルよりも目的チャネルにおいてナトリウム電流をはるかに大幅に阻害する。
本明細書における「ナトリウム電流の増強剤」という用語は、ある薬剤が、当該薬剤に曝露されていない対照細胞と比較して、当該電流を上昇させる場合のことを一般的にいう。好ましい増強剤は、他のナトリウムチャネルの電流に影響を与えることなく、当該電流を選択的に増大させるか、または他のチャネルよりも関心チャネルにおいてナトリウム電流をはるかに大幅に増大させる。
本明細書における「特異的にハイブリダイズする」という用語は、厳密(ストリンジェント)な、好ましくは中程度に厳密な、またはより好ましくは高度に厳密な条件下で、Nav1.9ナトリウムチャネルをコードする核酸、例えば配列番号1、3、5または19のDNA配列、とハイブリダイズする核酸のことをいう。厳密な条件の例は、Sambrookら(1989) Molecular Cloning−A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press.)に記載されている。「中程度に厳密な条件」とは、本発明のNav1.9配列に対して少なくとも約70%の同一性を有する核酸配列の同定を意味し、核酸分子のハイブリダイゼーションは、0.1% SDS,200mM NaCl,6mM Na2HPO4,2mM EDTA(pH6.8)からなるバッファ中で行われる。「高度に厳密な条件」とは、本発明のNav1.9配列に対して少なくとも約90%の同一性を有する核酸配列の同定を意味し、核酸分子のハイブリダイゼーションは、0.1% SDS,10mM NaCl,0.3mM Na2HPO4,0.1mM EDTA(pH6.8)からなるバッファ中で行われる。
本明細書における「優先的に発現した」という用語は、電位依存性ナトリウムチャネルが、所定の組織において、他の組織に比べて検出可能なほど多くの量が発現される場合のことをいう。例えば、後根神経節または三叉神経節において優先的に発現した電位依存性ナトリウムチャネルは、他の組織や細胞型の場合と比較して、後根神経節または三叉神経節において検出可能なほど多量に認められる。電位依存性ナトリウムチャネルの量は、特定のRNAのレベルの検出や特異的抗体によるチャネルタンパク質の検出を含む、任意の利用可能な手段によって検出することができる。
本明細書における「Nav1.9タンパク質」という用語は、後根神経節において優先的に発現し、テトロドトキシン耐性のナトリウム電流を発生させることができる、ナトリウムチャネルタンパク質をいう。例として、ヒト(配列番号4)、マウス(配列番号6)およびラット(配列番号2)のNav1.9タンパク質が挙げられるが、これらには限定されない。本明細書における「Nav1.9」という用語は、本発明の分野において周知の「NaN」という用語と同義である。
本明細書における「ベクター」という用語は、任意の遺伝要素、例えば、プラスミド、染色体、ウィルスであって、細胞内における自発的ポリヌクレオチド複製単位として挙動するものをいう。適当なベクターとしては、プラスミド、バクテリオファージ、コスミド、およびレトロウィルスが挙げられるが、これらに限定されない。ベクターは、所望の宿主細胞内にベクターをライゲーションまたは挿入するのに必要なポリヌクレオチド配列を含む。このような配列は、宿主生物によって異なり、転写を達成するためのプロモーター配列、転写を高めるためのエンハンサー配列、リボゾーム結合部位配列、および転写および翻訳終結配列を含む。
本明細書における「Nav1.9ベクター」という用語は、任意のNav1.9タンパク質をコードする核酸配列を含むベクターをいい、当該核酸配列の例として、ヒト(配列番号4)、マウス(配列番号6)およびラット(配列番号2)を挙げられるが、これらに限定されない。本発明のNav1.9ベクターは、細胞内で発現された場合に、ナトリウム電流を発生できるNav1.9タンパク質の発現を達成するように改変されている。そのような改変としては、例えば、Nav1.9タンパク質をコードする核酸配列における改変であって、ナンセンスまたはサイレント変異、Nav1.9の発現またはNav1.9ベクターのコピー数に影響を及ぼすことのできる非翻訳上流配列の組込み、および/またはNav1.9の発現またはNav1.9ベクターのコピー数に影響を及ぼす任意のヌクレオチド配列のNav1.9ベクター内への組込み、が挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書における「低コピー数組換え発現ベクター」という表現は、1細胞あたりに約10〜20コピー未満、好ましくは1細胞あたりに約5コピー、より好ましくは1細胞あたりに約2〜3コピーもしくはそれ未満の発現ベクターが存在する発現ベクターのことをいう。
本明細書における「宿主細胞」という用語は、原核もしくは真核生物または細胞のことを一般的にいい、タンパク質を発現することができ、かつ発現ベクターまたは他の転移されたDNAのレシピエントとして用いることができる、もしくは用いられてきた任意のトランスフォーメーション可能なもしくはトランスフェクション可能な生物または細胞が含まれる。宿主細胞は、Nav1.9の精製のためのタンパク質生産、または形質転換細胞を用いた膜電位測定のためのNav1.9の膜発現に用いることができる。好ましい真核宿主細胞としては、酵母、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、確立された神経株化細胞、褐色細胞腫細胞、神経芽細胞腫線維芽細胞、HaLa細胞、および横紋筋肉腫が挙げられるが、これらに限定されない。最も好ましい真核宿主細胞としては、HEK293細胞および後根神経節細胞が挙げられる。
本明細書における「トランスフォーム(形質転換)された」という用語は、原核宿主細胞内に外来DNAまたはRNA配列を挿入するための、任意の公知の方法をいう。「トランスフェクト(形質移入)された」という用語は、真核宿主細胞内に外来DNAまたはRNA配列を挿入するための任意の公知の方法のことをいう。このようなトランスフォームまたはトランスフェクトされた細胞には、挿入されたDNAが宿主細胞内で複製できるようにされた、安定的にトランスフォームまたはトランスフェクトされた細胞が含まれる。また、限られた期間だけ挿入されたDNAまたはRNAを発現する一時的発現細胞も含まれる。トランスフォームまたはトランスフェクションの方法は形質転換される宿主細胞に応じて異なる。そうした方法としては、細菌をバクテリオファージベクター、プラスミドベクター、またはコスミドDNAでトランスフォームすること;酵母を酵母ベクターでトランスフェクトすること;昆虫株化細胞をウィルス(例えば、バキュロウィルス)に感染させること;および哺乳類株化細胞をプラスミドまたはウィルス発現ベクターあるいは組換えウィルスでトランスフェクトすることが挙げられるが、これらに限定されない。哺乳類細胞のトランスフェクションに適したウィルスベクターの例としては、アデノウィルス、アデノ随伴ウィルス、ポリオウィルス、SV40、ワクシニア、レトロウィルス、HIVおよびエンベロープタンパク質(例えば、水疱性口内炎ウィルスGタンパク質、VSVG)によりシュードタイプされたBIVまたはバキュロウィルスなどが挙げられるが、これらに限定されない。ウィルスベクターによるトランスフェクションは、複製を欠失した組換えウィルスベクターの全部または一部にトランス相補的なベクターである、ヘルパーウィルスの使用を含んでいてもよい。適切なプラスミドベクターとしては、pBR322,pAC105,pVA51,pACYC177,pKH47,pACYC184,pUB110,pMB9,pBR325,Col El,pSC101,pBR313,pML21,RSF2124,pCRl,RP4,pBR328などが挙げられるが、これらに限定されない。トランスフェクションは、ポリヌクレオチドの直接取り込みによるもの、例えばリポフェクションやマイクロインジェクションなどであってもよい。また、トランスフェクションは、微粒子銃トランスフェクションによるもの、例えば、ベクターを金粒子の表面にコーティングし、遺伝子銃を用いて宿主細胞に送達するようなものであってもよい。
トランスフォーメーションとトランスフェクションによって、挿入DNAが、宿主細胞のゲノム中に取り込まれるか、あるいは、挿入DNAがプラスミドの形で宿主細胞内に維持される。形質転換の方法は技術的に周知であり、ウィルス感染、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム媒介性直接取り込みなどが挙げられるが、これらに限定されない。なお、本発明は同等の機能を果たすこれまでに知られている他の形態の発現ベクター、宿主細胞および形質転換技術も包含するものとする。
本明細書における「組換え体(リコンビナント)」という用語は、組換え体(例えば微生物または哺乳類)発現系から得られるタンパク質のことをいう。「微生物」は、細菌、真菌(例えば、酵母)または昆虫の発現系において生産される組換えタンパク質のことをいう。殆どの細菌培養において発現されるタンパク質は、グリカンを有しない。酵母において発現されるタンパク質は、哺乳類細胞において発現されるそれとは異なるグリコシル化パターンを有している可能性がある。
本明細書における「組換え発現ベクター」は、あるタンパク質をコードするDNAを増幅または発現するために用いられる複製可能なDNA構築物をいう。組換え発現ベクターは、(1)遺伝子発現において調節的役割を有する一つまたは多数の遺伝的要素、例えばプロモーターやエンハンサー、(2)mRNAに転写されてタンパク質に翻訳される構造またはコード配列および、(3)適当な転写および翻訳の開始および終結配列からなる集合体よりなる転写単位を含む。酵母発現系において使用することを意図した構造要素は、好ましくは、宿主細胞によって翻訳されたタンパク質の細胞外への分泌を可能にするリーダー配列を含む。あるいは、組換えタンパク質がリーダー配列または輸送配列を含まずに発現される場合、該タンパク質はN末端メチオニン残基を含むであろう。この残基は、その後、随意で発現された組換えタンパク質から切断されて最終産物を産生する。
組み換え型DNA分子
本発明は、コード配列を含んだ組換えDNA分子(rDNA)も更に提供する。ここで、rDNA分子とは、in situにおいて分子的操作がなされたDNA分子である。rDNA分子の生成方法は、技術上周知であり、例えばSambrookら(1989)Molecular Cloning−A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照のこと。好ましいrDNA分子において、コードDNA配列は、発現制御配列および/またはベクター配列に機能的に連結されている。
本発明のタンパク質ファミリーをコードする配列の一つが機能的に連結されるベクターおよび/または発現制御配列の選択は、技術上周知のように、所望の機能的特性、例えば、タンパク質発現および形質転換すべき宿主細胞に直接依存する。本発明によって検討されるベクターは、少なくとも複製または宿主染色体への挿入を指示することができ、好ましくは、rDNA分子内に含まれる構造遺伝子の発現も指示することができる。
機能的に連結されたタンパク質コード配列の発現を調節するために用いられる発現制御要素は、技術上周知であり、誘導プロモーター、構成プロモーター、分泌シグナル、および他の調節要素が挙げられるが、これらには限定されない。好ましくは、誘導プロモーターは、宿主細胞の培地中の栄養素に応答するなど、容易に制御できるものである。
ある実施形態では、コード核酸分子を含むベクターは、原核レプリコンを含む。このレプリコンは、自己複製を、および原核宿主細胞、例えばトランスフォームされた細菌宿主細胞などに組換えDNA分子を染色体外に維持することを指示することのできるDNA配列である。このようなレプリコンは、技術上周知である。更に、原核レプリコンを含むベクターは、発現することによって薬剤耐性などの検出可能なマーカーを与えるような遺伝子を含んでいてもよい。典型的な細菌型薬剤耐性遺伝子は、アンピシリンまたはテトラサイクリンに対する耐性を与える遺伝子である。
原核レプリコンを含むベクターは、大腸菌などの細菌宿主細胞内でコード遺伝子配列の発現(転写および翻訳)を指示することのできる原核またはバクテリオファージプロモーターを更に含んでいてもよい。プロモーターは、RNAポリメラーゼの結合と転写が起こることを許可するDNA配列によって形成された発現制御要素である。細菌宿主と適合するプロモーター配列は、典型的には、本発明のDNA断片の挿入に便利な制限部位を含むプラスミドベクター中で提供される。このようなベクタープラスミドの典型としては、市販のpUC8,pUC9,pBR322およびpBR329(BioRad)、pPLおよびPIK223(Pharmacia)が挙げられる。
真核細胞に適合する発現ベクター、好ましくは脊椎動物細胞に適合する発現ベクターも、コード配列を含むrDNA分子を作製するために用いることができる。ウィルスベクターを含む、真核細胞発現ベクターは技術上周知であり、数社から販売されている。典型的には、そのようなベクターは、所望のDNA断片の挿入に便利な制限部位を含んで提供される。そのようなベクターの典型的なものとして、本明細書に記載されたような、pSVLおよびpKSV−10(Pharmacia)、pBPV−L/pML2D(International Biotechnologies Inc.)、pTDT1(ATCC)、ベクターpCDM8、Rc/CMV(Invitrogen)、プラスミドpLG338などの真核発現ベクターが挙げられる。哺乳類細胞のトランスフェクションに適したウィルスベクターの例としては、アデノウィルス、アデノ随伴ウィルス、ポリオウィルス、SV40、ワクシニア、レトロウィルス、HIVおよびエンベロープタンパク質(例えば、水疱性口内炎ウィルスGタンパク質、VSVG)によりシュードタイプ化されたBIVまたはバキュロウィルスなどが挙げられるが、これらには限定されない。ウィルスベクターによるトランスフェクションは、複製を欠失した組換え型ウィルスベクターの全部または一部にトランス相補的なベクターである、ヘルパーウィルスの使用を含んでいてもよい。場合によっては、トランスフェクションは2つまたはそれ以上のベクターを使用することを含み、この場合、コード配列の重複するNav1.9セグメントが別々のベクター上に含まれる。別々のベクターが、宿主細胞内にトランスフェクトされて、セグメントは宿主細胞内で再結合されて、Nav1.9を発現する宿主細胞内で完全長のコード配列を生成する。
本発明のrDNA分子を構築するために用いられる真核細胞発現ベクターは、真核細胞において有効な選択可能マーカー、好ましくは薬剤耐性選択マーカーを更に含んでいてもよい。好ましい薬剤耐性マーカーは、発現するとネオマイシン耐性を示す遺伝子、すなわちネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)遺伝子(Southernら(1982)J.Mol.Anal.Genet.1,327〜341頁)である。あるいは、選択可能マーカーは別のプラスミド上にあってもよく、宿主細胞の同時トランスフェクションによって2つのベクターを導入し、選択可能マーカーに対する適当な薬剤中で培養することによって選択してもよい。
組換え融合タンパク質
融合タンパク質をコードするDNA配列は、タンパク質をコードする別個のDNA断片を適当な発現ベクター中に結集させるための組換えDNA技術を用いることにより構築する。例えば、タンパク質をコードする一のDNA分子の3’末端を、配列のリーディングフレームがずれず、当該配列のmRNAが単一の生物学的に活性な融合タンパク質に翻訳されるよう、同一または実質的に類似したタンパク質をコードする第2のDNA分子の5’末端に連結する。DNA分子同士は直列に連結され、これはDNA分子同士が前後に連続して連結されていることを意味する。DNAのmRNAへの転写に関与する調節要素は、2つのDNA配列の最初の方の上に保持されるが、第2のDNA配列までの読み通しを防止する結合シグナルまたは終止コドンは除去される。逆に、第2のDNA配列では翻訳を終結するのに必要な終止コドンが保持されるが、調節要素が除かれている。
本明細書に記載するように、タンパク質分子を連結する手段、好ましくはリンカー配列を介する手段が提供される。リンカー配列は、タンパク質分子同士を、それぞれのタンパク質分子の適切な二次および三次構造への折り畳みを確保するのに十分な距離で隔てている。適切なリンカー配列は、(1)生物活性が高められた融合タンパク質を得るのに適したコンフォメーションをとり、(2)タンパク質分子の生物学的機能を低下させるおそれのある規則的な二次構造をもたらす性向を示さず、(3)Nav1.9タンパク質の生物的機能を低下させるおそれのある疎水性または荷電特性を最小限とする。例えば、適切なリンカーは、タンパク質成分の相互作用が生物活性を高めるような融合タンパク質を生じさせる。リンカーのコンフォメーションは、生物活性を高めるために必要とされる融合物のコンフォメーションに応じて、フレキシブル(柔軟)またはリジッド(剛直)のいずれでもよい。リジッドのリンカーの例としては、連結されたタンパク質成分同士で自由な回転を許容しないαヘリックスを有するリンカーである。フレキシブルなタンパク質領域における典型的な表面アミノ酸としては、グリシン、アスパラギンおよびセリンが挙げられる。実際上は、グリシン、アスパラギンおよびセリンを含むアミノ酸配列のあらゆる順列が、リンカー配列に対する上記の基準を満足すると予想される。他のほぼ中性アミノ酸、例えばスレオニンやアラニンなどもリンカー配列中で用いることができる。
リンカー配列の長さは、融合タンパク質の生物活性に著しい影響を与えなければ変更してもよい。一般的に、Nav1.9タンパク質は、約6個のアミノ酸から約20個のアミノ酸長を有するリンカー配列によって分離されるが、より長いリンカー配列を用いてもよく、例えば全長ポリペプチドがリンカーを構成してもよい。好ましくは、リンカー配列の長さは約8アミノ酸である。本発明の最も好ましい態様では、リンカー配列は、Ile−Asp−ポリHis配列(配列番号21)である。このリンカー配列は、技術上周知の任意の方法を用いて融合タンパク質に組み込まれる。
本発明には、本明細書中に記載の天然に存在するタンパク質の生物学的に活性な断片、アナログ、突然変異体、変異体または誘導体を含む融合タンパク質も包含される。天然に存在するタンパク質の生物学的に活性な断片、誘導体、アナログ、変異体および突然変異体は、本明細書中では天然に存在するタンパク質と実質的に類似するタンパク質とも呼ぶ。しかしながら、天然に存在するタンパク質の断片、アナログ、突然変異体、変異体または誘導体の生物活性のレベルは、天然に存在するタンパク質(本明細書中では親タンパク質とも呼ぶ)の活性と同じでなくてもよい。例えば、Nav1.9タンパク質の断片は、天然に存在するNav1.9タンパク質の活性の50〜80%しか示さなくてもよい。生物活性を判定するための試験は当業者にとって周知であり、例えば、ナトリウム電流、膜電位および受容体結合の程度を測定することが挙げられる。
本発明は、関連する天然タンパク質のグリコシル化を有するまたは有しない融合タンパク質も提供する。大腸菌などの細菌中での、融合タンパク質をコードするDNAの発現により、非グリコシル化分子が与えられる。不活性化されたNグリコシル化部位を有する機能的変異アナログは、オリゴヌクレオチド合成およびライゲーションまたは部位特異的変異技術によって提供することができる。上記アナログタンパク質は、酵母発現系を用いて均一な、炭水化物がない形態で高い収率で提供することができる。真核タンパク質におけるN−グリコシル化部位は、アミノ酸トリプレットAsn−A1−Z(式中、A1はプロリン以外の任意のアミノ酸、Zはセリンまたはスレオニン)を特徴とする。この配列において、アスパラギンは炭水化物の共有結合のための側鎖アミノ基を与える。このような部位は、アスパラギン(Asn)または残基Zを別のアミノ酸に置換することによって、あるいはアスパラギン(Asn)またはZを欠失することによって、あるいはA1とZの間に非Zアミノ酸を挿入することによって、あるいは、アスパラギンとA1との間にアスパラギン以外のアミノ酸を挿入することにより、取り除くことができる。
誘導体およびアナログは、融合タンパク質の変異によって得ることができる。本明細書でいう誘導体またはアナログとは、該誘導体またはアナログが欠失、挿入および/または置換の要因となりうる1つまたはそれ以上のアミノ酸配列の相違を有することを除いては、野生型(つまり天然に存在するタンパク質)の全長配列との配列同一性または類似性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドである。
タンパク質の生物学的に同等なアナログは、例えば、様々な残基または配列の置換を行うことによって構築することができる。例えば、システイン残基を欠失させるか他のアミノ酸に置換して、復元時の不正確な分子内ジスルフィド架橋の形成を防ぐことができる。突然変異誘発に対する他の手法としては、隣接する二塩基性アミノ酸残基を改変して、KEX2プロテアーゼ活性が存在する酵母系における発現を高めることが含まれる。一般的に、置換は保存的に行うべきである。すなわち、最も好ましい置換アミノ酸は、置換すべき残基と類似する物理化学的性質を持つものである。同様に、欠失または挿入の戦略を採用する場合にも、生物活性にたいするその当該欠失または挿入の潜在的効果を考慮すべきである。遺伝暗号の縮退により、同じアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列内に重大な変化を起こるかもしれない。
アナログ発現のために構築されたヌクレオチド配列における変異は、勿論、コード配列のリーディングフレームのフェースを保存するとともに、ハイブリダイズして、mRNAの翻訳に悪影響を及ぼすおそれのあるループやヘアピンなどのmRNAの二次構造を生み出すような相補領域を作らないことが好ましい。あるいは、変異は、より高い翻訳効率を与えるような二次構造を導入するものであってもよい。変異部位は予め決めておいてもよいが、変異の性質自体を決定しておく必要はない。例えば、所与の位置における最適な特性を選択するために、標的コドンにおけるランダム突然変異誘発を行って、発現された変異体から所望の活性を有するものをスクリーニングしてもよい。
変異は、天然配列の断片へのライゲーションを可能にする制限部位を両側にもつ変異体配列を含んだオリゴヌクレオチドを合成することにより、特定の遺伝子座に導入することができる。ライゲーションにより得られた再構築された配列は、所望のアミノ酸挿入、置換または欠失を有するアナログをコードしている。あるいは、オリゴヌクレオチド定方向部位特異的突然変異誘発法を用いて、置換、欠失または挿入に従って必要な変異がされた特定のコドンを有する変異遺伝子を提供することもできる。上述の変異を作製するための例示的方法は、Walderら(1986) Gene 42,133〜134頁、およびBauerら(1985)Gene 37,73〜75頁に記載されている。
本発明は、哺乳類、微生物、ウィルス、または昆虫遺伝子由来の適当な転写または翻訳調節要素に機能的に連結された2つまたはそれ以上のタンパク質をコードするDNAを含む融合タンパク質をコードする、合成DNA断片またはcDNA由来DNA断片を含んだ組換え発現ベクターも提供する。上記調節要素としては、後述するような、転写プロモーター、転写を制御するための随意選択可能なオペレータ配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、転写および翻訳の終結を制御する配列が挙げられる。宿主内での複製能は、通常、複製起点によって与えられるが、形質転換体の認識を容易にする選択遺伝子を更に組み込んでもよい。機能的に連結されているとは、融合タンパク質をコードするDNAの発現が当該調節要素によって制御されるように、成分同士が連結されていることをいう。一般的に、機能的に連結されているとは、近接すること(contiguous)を意味する。
トランスフォームされた宿主細胞とは、感染または非感染方法によって融合タンパク質ベクターが導入された細胞のことである。トランスフォームされた宿主細胞は、通常、所望の融合タンパク質を発現するが、クローニングまたはDNA増幅を目的としてトランスフォームされた宿主細胞は、タンパク質を発現する必要はない。融合タンパク質の発現に適した宿主細胞としては、適当なプロモーターの制御下にある原核生物、酵母または高等真核細胞である。原核生物には、グラム陰性またはグラム陽性生物、例えば大腸菌などが含まれる。高等真核細胞には、本明細書に記載するような哺乳類由来の確立された株化細胞が含まれる。融合タンパク質を生産するために、本発明のDNA構築物に由来するRNAを用いた無細胞翻訳系を用いることもできる。
原核発現ベクターは一般的に、1つまたはそれ以上の表現型選択マーカー、例えば、抗生物質耐性を与えるか、独立栄養要求を与えるタンパク質をコードする遺伝子と、宿主によって認識されて宿主内での増幅を保証する複製起点とを含む。トランスフォームに適した原核宿主としては、限定はされないが、大腸菌、枯草菌、ネズミチフス菌、および、シュードモナス属(Pseudomonas)、ストレプトミセス属(Streptomyces)およびブドウ球菌の様々な種が挙げられるが、選択肢として他のものも使用できる。
細菌に使用するための有用な発現ベクターは、周知のクローニングベクターpBR322(ATCC)の遺伝的要素を含む市販のプラスミド由来の、選択可能マーカーおよび細菌の複製起点を含んでいてもよい。上記のような市販のベクターとしては、限定はされないが、pKK223−3(Pharmacia)およびpGEM1(Promega)が挙げられる。これらのpBR322の一部を適当なプロモーターおよび発現すべき構造配列と組み合わせる。pBR322は、アンピシリンおよびテトラサイクリン耐性の遺伝子を含むため、トランスフォームされた細胞を同定するのに簡単な手段を与える。
組換え微生物発現ベクターにおいて、一般的に用いられるプロモーターとしては、βラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)およびラクトースプロモーター系(Changら(1978)Nature 275,615〜616頁およびGoeddelら(1979)NATURE 281,544〜545頁)、トリプトファン(trp)プロモーター系(Goeddelら(1980)Nuc.Acids Res.8,4057〜4058頁)およびtacプロモーター(Sambrookら(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press)が挙げられるが、これらには限定されない。
組み換え融合タンパク質は酵母宿主、好ましくは出芽酵母(S.cerevisiae)などのサッカロミセス属の種(Saccharomyces)において発現させてもよい。他の属の酵母、PichiaまたはKluyveromycesなどを用いてもよいが、これらに限定されない。酵母ベクターは、一般的に酵母プラスミドに由来する複製起点または自己複製配列(ARS)、プロモーター、融合タンパク質をコードするDNA、ポリアデニル化および転写終結のための配列、ならびに選択遺伝子を含む。好ましくは、酵母ベクターは、複製起点と、酵母および大腸菌の両方のトランスフォーメーションを許容する選択可能マーカー、例えば、大腸菌のアンピシリン耐性遺伝子およびS.cerevisiaeのtrp1遺伝子(トリプトファン中での成長能力を欠失した酵母の変異株に対する選択マーカーを提供する)とを含み、更に、上記酵母ベクターは、下流の構造配列の転写を誘導するための、高度に発現される酵母遺伝子に由来するプロモーターを含む。酵母宿主ゲノム中におけるtrpl部位の損傷により、トリプトファン非存在下での成長によってトランスフォームを検出するための効果的な環境が与えられる。
酵母ベクター中の適当なプロモーター配列としては、メタロチオネイン、3−ホスホグリセリン酸キナーゼ(Hitzemanら(1980)J.Biol.Chem.255,2073〜2075頁)または他の糖分解酵素(Hessら(1968)J.Adv.Enzyme Reg.7,149〜150頁、およびHollandら(1978)Biochem.17,4900〜4901頁)、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド−3リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、3−ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、およびグルコキナーゼ、に対するプロモーターを含む。好ましい酵母ベクターは、大腸菌での選択および複製のためのpBR322からのDNA配列(Amp遺伝子および複製起点)、およびグルコース抑制ADH2プロモーターとα因子リーダーとを含む酵母DNA配列を用いて組み立てられる。上記α因子リーダーは、異種タンパク質の分泌を指示し、プロモーターと発現すべき構造遺伝子との間に挿入することができる(Kurjanら(1982)Cell 30,933〜934頁、およびBitterら(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81,5330〜5331頁)。リーダー配列を、その3’末端付近に、リーダー配列を外来遺伝子に融合することを容易にするのにより有用な1つまたはそれ以上の制限部位を含むように改変してもよい。
適切な酵母トランスフォームプロトコールは、当業者にとって周知であり、例示的な技術がHinnenら(1978)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 75,1929〜1930頁に記載されており、この技術では、0.67%yeast nitrogen base、0.5%カザミノ酸、2%グルコース、10μg/mLアデニン、および20μg/mLウラシルからなる選択培地中で、Trp+トランスフォーマントが選択される。ADH2プロモーターを含むベクターによってトランスフォームされた宿主株は、80μg/mLアデニンおよび80μg/mLウラシルを添加した1%酵母エキス、2%ペプトンおよび1%グルコースからなる富栄養培地において発現のために培養することができる。ADH2プロモーターの抑制解除は、培地のグルコースの枯渇によって起こる。粗酵母上清をろ過によって回収し、4℃に保存してから更に精製する。様々な哺乳類または昆虫細胞の培養系を用いて組み換えタンパク質を発現させることができる。昆虫細胞中で異種タンパク質を生産するためのバキュロウィルス系は、LuckowおよびSummers(1988)Biotechnology 6,47〜48頁によって論説されている。
適切な哺乳類宿主株化細胞の例としては、Gluzman(1981)Cell 23,175〜177頁に記載されるような、サル腎臓細胞のCOS−7系統、および、例えばHEK株化細胞、L細胞、C127、3T3、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、HeLaおよびBHK株化細胞など適当なベクターを発現することのできる他の株化細胞が挙げられるが、これらには限定されない。哺乳類発現ベクターは、非転写要素(複製の起点、発現すべき遺伝子に連結された適当なプロモーターとエンハンサー、および他の5’または3’フランキング非転写配列など)および5’から3’への非翻訳配列(必要なリボゾーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライス供与部位およびスプライス受容部位、および転写終結配列)を含んでいてもよい。
脊椎動物細胞をトランスフォームするために用いられる発現ベクター内の転写および翻訳制御配列は、ウィルス起源により提供されてもよい。例えば、一般的に用いられるプロモーターおよびエンハンサーは、ポリオーマ、アデノウィルス2、シミアンウィルス40(SV40)、ヒトサイトメガロウィルス由来である。SV40ウイルスゲノム由来のDNA配列、例えばSV40起点、初期および後期プロモーター、エンハンサー、スプライス、およびポリアデニル化部位は、異種DNA配列の発現に必要とされる他の遺伝的要素を提供するために用いてもよい。初期および後期プロモーターは、いずれもSV40のウィルスの複製起点を含む断片としてウィルスから容易に得られることから、特に有用である(Fiersら(1978)Nature 273,113〜114頁)。また、ウィルスの複製起点内に位置するHindII部位からBglI部位へ伸びる約250ヌクレオチド配列が含まれているという条件で、より小さいまたは大きいSV40断片を用いることもできる。典型的なベクターは、OkayamaおよびBerg(1983)Mol.Cell.Biol.3,280〜281頁)によって開示されたように構築することができる。
哺乳類DNAの発現のための、好ましい真核ベクターはとしては、pIXY321およびpIXY344が挙げられ、いずれもpBC102.K22(ATCC)由来の酵母発現ベクターであり、大腸菌および酵母における選択と複製のためのpBR322に由来するDNA配列(Apr遺伝子および複製起点)を含む。精製された哺乳類融合タンパク質またはアナログは、適当な宿主/ベクター系において培養してNav1.9タンパク質をコードするDNAの組換え翻訳産物を発現させ、これを培地または細胞抽出物から精製することによって調製される。例えば、培地中に組換えタンパク質を分泌する系から得た上清は、まず市販のタンパク質濃縮フィルター、例えば、AmiconまたはMillipore Pollicon限外ろ過装置を用いて濃縮することができる。濃縮工程に続いて、濃縮物を適当な精製マトリックスに流し込む。最終的に1つまたはそれ以上の逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)媒体、例えば側鎖にメチルまたは他の脂肪族基を有するシリカゲルを用いて、融合タンパク質組成物を更に精製することができる。上述の精製工程のいくつかあるいは全部は、様々な組み合わせで均一な組換えタンパク質を提供するために使用することができる。
細菌培養において生産された組み換えタンパク質は、通常、細胞ペレットから最初の抽出で単離され、その後、1回またはそれ以上の濃縮、塩析、水性イオン交換またはサイズ排除クロマトグラフィー工程を行う。最後に、最終精製工程のために高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を採用することができる。組換え融合タンパク質の発現に用いられる微生物細胞は、凍結/融解サイクル、超音波処理、機械的粉砕または細胞溶解剤を含む任意の都合のよい方法によって破砕することができる。
融合タンパク質を分泌タンパク質として発現する酵母の発酵は、精製を大幅に簡略化する。大量発酵によって分泌された組換えタンパク質は、Urdalら(1984)J.Chromatog.296,171〜172頁に記載されているのと同様の方法によって精製することができる。組換え培養において合成される融合タンパク質は、タンパク質を含む非ヒト細胞成分が、培養物から融合タンパク質を回収するために行われた精製工程に応じた量および性質で存在するという特徴を有する。通常、これらの成分は、酵母、原核またはヒト以外の高等真核起源のものであり、好ましくはデンシトメトリーまたはクロマトグラフィーによる走査により、約5%未満のオーダーの無害の混入物量で存在する。更に、組換え細胞培養物により、自然界においてはそれぞれの起源とする種、例えば細胞、細胞滲出物または体液中で認められるような、通常EPOに付随するであろうタンパク質を含まない融合タンパク質を生産することができる。
組換えタンパク質の製造
本発明は、本明細書中に記載する核酸分子を用いた本発明のタンパク質の製造方法も提供する。一般的な用語として、組換え型のタンパク質の製造は典型的には以下の工程を含む。
まず本発明のタンパク質をコードする核酸分子、例えば、配列番号1または配列番号1の52〜5346(または5349)番目のヌクレオチドによって定義されるオープンリーディングフレームを含むか、実質的にこれで構成されるか、もしくはこれで構成される核酸分子、あるいは配列番号2をコードする核酸分子;配列番号3または配列番号3の31〜5403(または5406)番目のヌクレオチドによって定義されるオープンリーディングフレームを含むか、実質的にこれで構成されるか、もしくはこれで構成される核酸分子、あるいは配列番号4をコードする核酸分子;配列番号5または配列番号5の19〜5313(または5316)番目のヌクレオチドによって定義されるオープンリーディングフレームを含むか、実質的にこれで構成されるか、もしくはこれで構成される核酸分子、あるいは配列番号6をコードする核酸分子;あるいは、配列番号19または配列番号19の1〜5295(または5298)番目のヌクレオチドによって定義されるオープンリーディングフレームを含むか、実質的にこれで構成されるか、もしくはこれで構成される核酸分子、あるいは配列番号20をコードする核酸分子などが得られる。
次に核酸分子を、好ましくは、上述のように、適切な制御配列と機能的に連結して、タンパク質のオープンリーディングフレームを含む発現単位を形成する。この発現単位を用いて適切な宿主をトランスフォームし、トランスフォームされた宿主を組換えタンパク質が生産されるような条件下で培養する。組換えタンパク質を培地または細胞から単離してもよく、タンパク質の回収と精製はある程度の不純が許容される場合には必要ではないかもしれない。
上記工程のそれぞれは、様々な用法で行うことができる。例えば、所望のコード配列をゲノム断片から取り出し、適当な宿主内で直接用いるようにしてもよい。普通に得られない場合には、適当な制限部位をコード配列の端部に追加して、上記ベクターに挿入するための切除可能な遺伝子を提供するようにしてもよい。当業者であれば、組換えタンパク質を製造するために本発明の核酸分子とともに用いる任意の周知の宿主/発現系を容易に適用することができるであろう。
結合パートナーの同定方法
本発明の別の実施形態は、組換えにより発現されたNav1.9を用いて結合パートナーを単離および同定するために用いる方法を提供する。一般的に、Nav1.9タンパク質を、本発明のタンパク質が潜在的結合パートナーと会合できるような条件下において、潜在的結合パートナーまたは細胞の抽出物または画分と混合する。混合後、Nav1.9タンパク質と会合したペプチド、ポリペプチド、タンパク質または他の分子を混合物から分離する。本発明のタンパク質に結合した結合パートナーを取り出して更に分析することができる。結合パートナーを同定および単離するために、全Nav1.9タンパク質、例えば、配列番号2、4、6または20の全アミノ酸配列を含むタンパク質を用いることができる。あるいは、タンパク質の断片、好ましくは配列番号2、4、6または20のアミノ酸配列の全部または一部を含む断片を用いることもできる。
本明細書において、細胞抽出物とは、溶解または破砕された細胞から作製される調製物または画分のことをいう。細胞抽出物の好ましい供給源は、ヒト皮膚組織から得られる細胞またはアレルギー性過敏症を患った患者からのヒト肺組織のバイオプシー試料から得られるヒト気道または細胞である。あるいは、細胞抽出物は正常な組織または市販の株化細胞、特に顆粒球株化細胞から調製してもよい。
様々な方法を用いて、細胞の抽出物を得ることができる。細胞は、物理的または化学的破砕方法によって破砕することができる。物理的破砕方法の例としては、限定はされないが、超音波処理または機械的剪断が挙げられる。化学的溶解方法の例としては、限定はされないが、界面活性剤溶解および酵素溶解が挙げられる。当業者は、本発明の方法において用いるための抽出物を得るために、細胞抽出の調製方法を容易に適応させることができるであろう。
細胞の抽出物が調製された後で、タンパク質と結合パートナーとの会合が起こりうる条件下において、この抽出物を本発明のタンパク質と混合する。様々な条件を用いることができるが、最も好ましい条件は、ヒト細胞の細胞質に見られるものと非常によく似た条件である。浸透圧、pH、温度および使用する細胞抽出物の濃度などの特徴は、タンパク質の結合パートナーとの会合を最適化するために変更することができる。
適切な条件下で混合した後、結合した複合体を混合物から分離する。混合物を分離するために様々な技術を用いることができる。例えば、本発明のタンパク質に特異的な抗体を用いて、結合したパートナー複合体を免疫沈降させてもよい。あるいは、クロマトグラフィーや密度/沈殿物遠心分離などの標準的な化学分離技術を用いてもよい。
抽出物中の会合しなかった細胞構成要素を除去した後、結合パートナーを従来の方法を用いて複合体から解離させることができる。例えば、解離は、混合物の塩濃度またはpHを変えることにより行える。会合した結合パートナー対を混合抽出物から分離するのを助けるために、本発明のタンパク質を固体支持体上に固定化することもできる。例えば、タンパク質をニトロセルロースマトリックスまたはアクリルビーズに固定することができる。固体支持体にタンパク質を固定することにより、ペプチド/結合パートナー対を抽出物中に見られる他の構成要素から分離することが助けられる。同定された結合パートナーは、単一のタンパク質であっても、2つまたはそれ以上のタンパク質で構成される複合体であってもよい。
あるいは、結合パートナーは、Takayamaら(1997)Methods Mol.Biol.69,171〜184頁またはSauderら(1996)J.Gen.Virol.77,991〜996頁の手順に従って、ファーウェスタンアッセイを用いて同定してもよいし、あるいは、エピトープタグを付けたタンパク質またはGST融合タンパク質を用いて同定してもよい。あるいは、本発明の核酸分子は、酵母ツーハイブリッド系で用いることもできる。酵母ツーハイブリッド系は、他のタンパク質パートナー対を同定するために用いられてきたが、本明細書中に記載する核酸分子に対して応用することもできる。
発現を調節する薬剤の同定方法
本発明の別の実施形態は、配列番号2、4、6または20のアミノ酸配列を有するタンパク質などの、組換えNav1.9タンパク質をコードする核酸の発現を調節する薬剤を同定するための方法を提供する。そのようなアッセイでは、本発明の、核酸の発現レベルの変化をモニターする利用可能なあらゆる手段を用いることができる。本明細書において、ある薬剤は、それが細胞内における核酸の発現をアップまたはダウンレギュレートすることができる場合に、本発明の核酸の発現を調節する薬剤という。
1つのアッセイ形式において、配列番号1の52〜5346番目のヌクレオチド、配列番号3の31〜5403番目のヌクレオチド、配列番号5の19〜5313番目のヌクレオチドまたは配列番号19の1〜5295番目のヌクレオチドによって定義されるオープンリーディングフレームと、任意の必要な5’および3’調節要素との間のレポータ遺伝子融合体と、任意のアッセイ可能な融合パートナーとを含む株化細胞を調製することができる。ホタルルシフェラーゼ遺伝子やクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子(Alamら(1990)Anal.Biochem.188,245〜254頁)など、これらには限定されないが、多数のアッセイ可能な融合パートナーが知られおり、入手可能である。次に、レポータ遺伝子融合体を含む株化細胞を、適当な条件下および時間、被験薬剤に曝露する。薬剤に曝露された試料と、対照試料の間のレポータ遺伝子の発現の差異から、本発明の核酸の発現を調節する薬剤が同定される。
別のアッセイ形式を用いて、ある薬剤が、配列番号00を有するNav1.9タンパク質などの、Nav1.9タンパク質をコードする核酸の発現を調節することができるかどうかをモニターしてもよい。例えば、mRNA発現は、本発明の核酸へのハイブリダイゼーションによって直接モニターしてもよい。株化細胞を適当な条件および時間において、被験薬剤に曝露し、全RNAまたはmRNAを、Sambrookら(1989)Molecular Cloning−A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載されるような、標準的な手順によって単離する。
薬剤に曝露した細胞と対照細胞との間のRNA発現レベルの差を検出するためのプローブは、本発明の核酸から調製することができる。高度に厳密な条件下で標的核酸とのみハイブリダイズするプローブを設計することが好ましいが、必須ではない。高度に厳密な条件下では高度に相補的な核酸ハイブリッドのみが形成される。したがって、アッセイ条件の厳密度が、ハイブリッドを形成するための2本の核酸鎖間に存在すべき相補性の量を決定する。厳密度は、プローブ:標的ハイブリッドとプローブ:非標的ハイブリッドの間の、安定性の違いが最大になるように選ぶべきである。
プローブは、技術上周知の方法によって本発明の核酸から設計してもよい。例えば、プローブのG+C含量およびプローブの長さは、標的配列に対するプローブの結合に影響を及ぼしうる。プローブの特異性を最適化するための方法は、Sambrookら(1989) Molecular Cloning−A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press またはAusubelら(1995)Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Co.の中で一般的に知ることができる。
ハイブリダイゼーション条件は、SambrookらやAusubelらによって記載されているような公知の方法を、各プローブに応じて変更する。全細胞RNAまたはポリA RNAに富むRNAのハイブリダイゼーションは、任意の利用可能な形式で達成することができる。例えば、全細胞RNAまたはポリA RNAに富むRNAは固体支持体上に固定することができ、この固体支持体は、プローブが特異的にハイブリダイズするような条件下で、本発明の配列の少なくとも1つまたは1つのうちの一部を含む少なくとも1つのプローブに曝される。あるいは、Nav1.9タンパク質をコードする配列のうちの少なくとも1つ、または1つのうちの一部を含む核酸断片を、シリコンチップや多孔性ガラスウェハーなどの固体支持体に固定することもできる。その後、このガラスウェハーを、固定された配列が特異的にハイブリダイズするような条件下で、試料から得た全細胞RNAまたはポリA RNAに曝す。このような固体支持体およびハイブリダイゼーション方法は、例えばWO95/11755に開示されているように、広く知られている。所与のプローブが、非処理細胞集団からのRNA試料および薬剤に曝された細胞集団からの試料に特異的にハイブリダイズできるかどうかを調べることにより、配列番号2、4、6または20の配列を有するNav1.9タンパク質をコードする核酸の発現をアップまたはダウンレギュレートする薬剤が同定される。
mRNAの定量的および定性的分析のためのハイブリダイゼーションを、RNase保護アッセイ(すなわちRPA,Maら(1996)Methods 10,273〜238頁を参照のこと)を用いて行ってもよい。簡潔に言えば、遺伝子産物をコードするcDNAを含む発現ビークルおよびファージ特異的DNA依存RNAポリメラーゼプロモーター(例えば、T7、T3またはSP6RNAポリメラーゼ)を、ファージプロモーターから下流の、cDNA分子の3’末端において線状化し、続いてそのような線状化分子をインビトロ転写によるcDNAの標識されたアンチセンス転写物の合成のための鋳型として用いる。次に、標識された転写物を、80%ホルムアミド、40mM Pipes(pH6.4)、0.4M NaClおよび1mM EDTAを含むバッファ中、45℃で一晩インキュベーションすることにより、単離されたRNA(すなわち、全または分画されたmRNA)の混合物にハイブリダイズさせる。得られたハイブリッドを、40μg/mLリボヌクレアーゼAおよび2μg/mLリボヌクレアーゼを含むバッファ中で消化する。外来性のタンパク質を不活性化し抽出した後、試料を尿素/ポリアクリルアミドゲル上に負荷して分析を行う。
別のアッセイ方式においては、Nav1.9タンパク質を生理学的に発現する細胞または株化細胞をまず同定する。このように同定された細胞および/または株化細胞は、適当な表面伝達機構および/または細胞質内カスケードによって、転写装置の調節の厳密度が、薬剤の外来的な接触に関して維持されるように、必要な細胞装置を含むと予想されるであろう。更に、このような細胞または株化細胞は、当該遺伝子産物に固有の1つまたはそれ以上の抗原性断片に融合された、Nav1.9タンパク質をコードする構造遺伝子の末端を含む機能性非翻訳5’プロモーターを含む発現ビークル(例えばプラスミドまたはウィルスベクター)構築物を用いてトランスデュースまたはトランスフェトされるが、上記断片は、上記プロモーターの転写制御下にあり、天然に存在するポリペプチドとは分子量が区別できるか、免疫学的に異なるタグまたは他の検出可能なマーカーを更に含んでいてもよいポリペプチドとして発現される。このようなプロセスは技術上周知である(Sambrookら(1989)Molecular Cloning−A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照のこと)。
次に、上に概説したようにトランスデュースまたはトランスフェクトされた細胞または株化細胞を、適当な条件下において薬剤と接触させる。例えば、薬学的に許容される賦形剤中の薬剤を、水性の生理学的バッファ、例えば、生理学的pHにあるリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、生理学的pHにあるイーグル平衡塩溶液(BSS)、血清を含むPBSまたはBSS、PBSまたはBSSおよび/または血清を含む37℃でインキュベートされた調整培地中で、細胞に接触させる。上記条件は、当業者によって必要と認めれば変更してもよい。細胞を薬剤に接触させた後、上記細胞は破砕され、溶解物のポリペプチドは、ポリペプチド画分がプールされて更に処理されるように、例えば抗体と接触させ免疫学的アッセイ(例えば、ELISA、免疫沈降またはウェスタンブロット)ができるように、分画される。「薬剤に接触させた」試料から単離されたタンパク質のプールは、賦形剤のみが細胞と接触させる対照試料と比べ、薬剤と接触させた試料から発生される免疫学的シグナルの増加または減少が、薬剤の効力を識別するために用いられることになる。
活性を調節する薬剤の同定方法
本発明は、配列番号2、4、6または20の配列を含む組み換えNav1.9タンパク質の少なくとも1つの活性を調節する薬剤を同定するための方法を提供する。そのような方法またはアッセイは、所望の活性をモニターまたは検出する任意の手段を用いることができる。
ある実施形態では、本発明は、NaN媒介電流を調節する薬剤を同定するための方法を包含する。NaNナトリウムチャネルを介してNa+電流を調節する(すなわち阻害または増大させる)ことのできる薬剤を同定するためにいくつかの手法を用いることができる。一般的に、そのような薬剤を同定するために、NaNナトリウムチャネルを発現するモデル培養株化細胞が用いられ、Na+電流を測定するために1つまたはそれ以上の従来のアッセイが用いられる。そのような従来のアッセイとしては、例えば、パッチクランプ法、[Na+]iのレシオメトリック撮影、および上述のような22Naおよび86Rbの使用が挙げられる。
本発明のある実施形態では、候補化合物のNa+電流調節活性を評価するために、薬剤をNaNを発現する適当な形質転換宿主細胞と接触させる。混合または適当な時間インキュベーションした後、Na+電流を測定して、当該薬剤がNa+電流を阻害または増強したかどうかを判定する。
このようにして、Na+電流を阻害または増強する薬剤が同定される。当業者であれば、ある薬剤がNa+電流を調節するかどうかを判定するために様々な当該分野において周知の技術を容易に用いることができる。
Na+は疼痛信号発生細胞において優先的に発現されるので、上記薬剤で処理された実験動物の急性または慢性の疼痛に対する反応を測定することにより、Na+チャネル機能を阻止、阻害または強化する薬剤を設計することもできる。本発明の本態様のある実施形態において、ラットなどの実験動物を、例えばNav1.9を阻止または阻害する(あるいは阻止または阻害すると考えられる)薬剤などの薬剤で処理する。次に、様々な疼痛刺激に対する反応を、テイルフリック試験や四肢逃避反射などの試験を用いて測定し、未処理の対照と比較する。これらの方法は、Wallら(1994)Textbook of Pain,Churchill Livingstone Publishers(15章を参照のこと)に記載されている。本発明の本態様の別の実施形態において、ラットなどの実験動物に対して、ホルマリン(Dubuissonら(1977)Pain 4,161〜74頁)、フロインドアジュバンド(Iadarolaら(1988)Pain 35,313〜26頁)またはカラギーナンなどの疼痛を生み出す炎症剤を局所注射するか、あるいは、持続性の疼痛を生み出す、神経緊縛(Bennettら(1988) Pain 33,87〜107頁;Kimら(1992)Pain 50,355〜363頁)または神経切断(Seltzerら(1990)Pain 43,205〜218頁)を行う。その後、様々な普通の刺激および疼痛刺激に対する反応を、例えば温刺激または高温刺激からの逃避までにかかる時間を測定することにより測定して(Wallら(1994)Textbook of Pain,CHURCHILL Livingstone Publishers)、Nav1.9を改変すると考えられる薬剤で処理された動物と対照動物とを比較する。
Nav1.9の好ましい阻害剤または増強剤は、好ましくはNav1.9ナトリウムチャネルに選択的である。これらは完全特異的であるか(ナトリウムチャネルを阻害するが、他のどのチャネルまたは受容体にも結合または直接作用しない、テトロドトキシン、TTXのように)、比較的特異的である(いくつかのタイプのイオンチャネルに結合してそれらを阻止するが、ナトリウムチャネルに対して偏向を有するリドカインなど)。阻害剤または増強剤が効力を発するために完全特異性は要求されない。ナトリウムチャネル対他のチャネルおよび受容体の効果の比率は、標的とするチャネルに加えていくつかのチャネルに対する効果を決定することがあり、有効なStysら(1992)J.Neurophysiol.67,236〜40頁であるかもしれない。
本発明の調節剤は、一例として、ペプチド、小分子、天然に存在する毒素および他の毒素ならびにビタミン誘導体、そして炭水化物であってもよい。当業者であれは、本発明の調節剤の構造的性質については一切の限定がないことを容易に認識するであろう。分子のライブラリのスクリーニングにより、Nav1.9またはこれを介する電流を調節する薬剤が明らかになるかもしれない。同様に、天然に存在する毒素(ある種の魚類、両生類、無脊椎動物によって生産されるような)をスクリーニングすることもできる。そのような薬剤は、ナトリウムチャネルを発現する形質転換宿主細胞または他の細胞を、当該薬剤に曝露して、ナトリウムイオン電流において起こるあらゆる変化を測定することによって、ルーチンに同定することができる。
更に説明しなくとも、当業者であれば、上記説明と下記の説明的な例を用いて、本発明の化合物を作製して利用し、クレームされた方法を実施することができる違いない。したがって、以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を具体的に指し示すものであって、開示の残りの部分を何ら限定することはないものとする。
実施例1
低コピー数非発現プラスミドへのrNav1.9のクローニング
全ラットNav1.9(rNav1.9またはrNaNとも呼ぶ)をまず低コピー数の非発現プラスミドpLG338にクローニングした。これはまず、ベクターをAflIIで処理し、末端をクレノウ断片で平滑化し、再度ライゲーションすることにより唯一のAflII部位を除去するようにpLG338を改変して、pLG338ΔAflIIを作製した。部分的rNaNcDNAクローン、L9(pTargeT内)(Promega)は、唯一の5’AflII部位と、38の5’非翻訳配列と、ラットNaN/SNS2オープンリーディングフレーム(ORF)のヌクレオチド1〜2964とを含む。NaN L9をXhoI(ポリリンカー内、インサートに対して5’)消化し、クレノウで平滑化し、NotI(ポリリンカー内、インサートに対して3’)で消化した。約3kbの5’NaN断片をゲル精製し、SmaIおよびNotIで消化しておいたpLG338ΔAflIIにクローン化した(pLG338−5’rNaN)。残りの3’rNaN配列は、マラソンrNaN cDNAを鋳型として用いてPCR増幅によって得た。フォワードプライマー(5’−gcaagaaatgcaggaggaaaaac−3’;配列番号7)はヌクレオチド2565においてアニールする。リバースプライマー(5’−ataagaat[gcggccgc]caacctg tcacctcgttcagcc−3’;配列番号8)は、末端スペーサ(下線部)と、唯一のNotI部位(括弧内)とを含み、133bpの3’非翻訳ヌクレオチドを含むと推測される。PCR産物をBglIIおよびNotIで消化し、約2.6kbのBglII/NotI断片をゲル精製し、同様に消化してゲル精製したpLG338−5’rNaNにクローン化して、ラットNav1.9オープンリーディングフレーム(pLG338−rNaN,図1)を完成させた。
実施例2
発現プラスミドへのrNav1.9のクローニング
発現ベクターへのニューロンのナトリウムチャネルのクローニングは、技術的に困難であることが知られているが、これはクローン化されたインサートがクローニング手順の終了時に欠失または変異によって不完全になるためである。哺乳類株化細胞でrNaNを発現する低コピー数ベクターを提供するために、ベクターpRc/CMVから得た配列を付加することにより、pLG338ΔAflIIを改変した。CMVプロモーターと、マルチクローニングサイトと、BGHポリAと、SV40プロモーターと、ネオマイシン耐性遺伝子と、SV40ポリA配列とを含む断片を、pLG338ΔAflIIに挿入した。これらの構築物中にネオマイシン耐性遺伝子が存在することにより、トランスフェクトされたクローンを選択的に増幅する手段が与えられるとともに、rNav1.9を安定して発現する株化細胞の生成と維持が可能になる。すなわち、pRc/CMVをMluIおよびSalI酵素で消化した。上述のすべての成分を含む3.1kBの断片をゲル単離し、同様にMulIおよびSalI酵素で消化し、ゲル精製しておいたpLG338ΔAflIIにクローニングした。マルチクローニングサイトは、NotI部位の5’にAflII部位を含むリンカーを付加することによって改変した(pLG338XM,図2)。
ベクターpLG338XMおよびpLG338−rNaNの両方を、AflIIおよびNotI酵素で消化し、pLG338−rNaNからのrNaNオープンリーディングフレームをpLG338XMにクローニングして、哺乳類発現構築物pLG338XM−rNaNを作製した(図3)。
pLG338XM−rNaNの配列解析から、公表されているrNav1.9配列からの逸脱が明らかになった。具体的には、ドメイン2とドメイン3とをつなぐ細胞質ループであるL2には962番目のアミノ酸においてSer→Proの変化があり、DIII−S6内の1282番目のアミノ酸においてLeu→Proの変化が見られた。更に、L2には11のアミノ酸欠失(1000〜1010番目)も検出されたが、これは、おそらく、イントロン15Bの選択的3’スプライシング部位の利用によるものであろう。非発現バージョンのpLG338−rNaNの対応領域の配列を決定したところ、同じ変化を含んでいたことから、これらはmRNA鋳型の最初のプール中に存在していたものと考えられる。
rNaNの発現および非発現バージョンの両方に存在する全部で3つの逸脱は、唯一のBglII部位およびBsu36I部位に隣接する領域内に存在している。この領域全体にわたって、更なる非発現クローンの配列決定を行ったところ、(アミノ酸レベルで)いずれの変化も含まないクローンが同定された。この非変異断片を用いてpLG338XM−rNaN内に変異を含む領域を置換したところ、構築物は不安定になった。この非発現バージョンでは(pLG338−rNaN)、配列解析の結果、細菌内での増幅後に修復がうまく行われていて安定であることが確認された(pLG338−rNaN2)。
実施例3
HEK293細胞でのクローン化rNav1.9の発現
HEK293細胞での、pLG338XM−rNaN(3つの配列の逸脱を有する)からのrNav1.9の発現をRNAレベルおよびタンパク質レベルで確認した(図4)。HEK293細胞を、標準的なリン酸カルシウム沈殿法を用いてpLG338XM−rNaNプラスミドでトランスフェクトした。18時間後、対照細胞およびトランスフェクト細胞を回収した。全RNAはRNeasy(Qiagen)ミニカラムを用いて製造者の推奨に従って単離した。RNAはRNaseを含まないDNaseI(Roche)で処理し、そのRNAをRneasyカラムで再度精製した。第一鎖cDNAを、上述のようにランダムヘキサマープライマーを用いて調製した。フォワードプライマー5’−gaacaaatgtcaagcctttgtgtt−3’(配列番号9)とリバースプライマー5’−cagccatcatgataatcatatttaagac−3’(配列番号10)は、318ヌクレオチドのアンプリコンを増幅する。RT−PCRからは、予想される大きさの産物が、ラットDRG鋳型とrNaN構築物でトランスフェクトされたHEK293とによって得られることがわかる(図4A)。この産物はトランスフェクトされていないHEK293鋳型、(−)RTトランスフェクトHEK293鋳型またはH2Oを用いた反応中では検出されなかった(図4A)。
トランスフェクトされたHEK293細胞における、クローン化されたrNav1.9のタンパク質レベルでの発現を、ウェスタンブロット分析によって実証した。対照およびトランスフェクトHEK293細胞を、トランスフェクションの18時間後に回収した。標準的な方法を用いて、細胞を溶解し、膜画分を調製した。ラットDRGからの膜画分を同様に処理し、陽性対照とした。各試料の10μgの膜タンパク質を、5%SDS−ポリアクリルアミドゲルのウェルに負荷し、電気泳動を行った。タンパク質は、ニトロセルロース膜上に電気ブロットした。rNav1.9特異的抗体を用いたイムノブロッティングおよびECL化学発光検出から、DRG組織およびトランスフェクトHEK293細胞のいずれにおいても約210kDaのタンパク質シグナルが存在するが、非トランスフェクトHEK293細胞には存在しないことがわかる(図4B)。
実施例4
培養DRGニューロンでのクローン化rNav1.9の発現
培養マウスDRGニューロンにおけるpLG338XM−rNaNの発現についても、微粒子銃によるこれらの細胞のトランスフォーメーションを用いて構築物を導入した後に、調べた。DRGニューロンをSNSヌルマウスから単離し、微粒子銃によるトランスフェクション(ビオリスティックトランスフェクション)前の3〜4日間培養しておいた。SNSヌルDRGニューロンは、持続的にTTX−Rナトリウム電流を発現するが、培養の数日後にはNaN/SNS2/Nav1.9の転写物およびタンパク質を欠失することが分かっている。ビオリスティックトランスフェクションの直前に、ペトリ皿から培地を取り除いた。遺伝子銃を細胞の上部1センチメートルに保持し、120PSIの圧力を用いて細胞内に金粒子を送達した。金粒子をより均一に分布させるために、ヘリオス遺伝子銃バレルライナーのすぐ前方に70マイクロメートルのナイロンメッシュ(Small Parts,Inc)を配置した。24時間以内に、通常、細胞は、ビオリスティックトランスフェクションの成功を指し示す、緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現を見せる。
ヘリオス遺伝子銃システム(Bio−Rad)は、金粒子にコートしたDNAでニューロンをビオリスティックトランスフェクションするために用いた。10μgのpLG338XM−rNaNと5μgのEGFP(Clontech)DNAの混合物を含むポリアニオン スペルミジンの50mM溶液を、製造者の推奨にしたがって、塩化カルシウムを用いて1マイクロメートルの金粒子上に沈殿させる。DNA金懸濁液を100%エタノール中で2回洗浄し、0.05% PVPのエタノール溶液に再懸濁し、10インチに切ったテフゼルチューブの内壁をコーティングするために用いた(Bio−Rad Laboratories)。このチューブを超高純度窒素を用いて乾燥させ、ヘリオス遺伝子銃のために0.5インチのカートリッジに裁断した。この製法により、1発あたり金粒子1mgの密度と、1カートリッジあたり全DNA0.75μgとなった。
遺伝子銃処理によりrNaN構築物でトランスフェクトされたニューロンを有するカバーガラスに対して、以下のようにして免疫細胞化学処理を行った。(1)完全生理食塩水m、2回、各1分間;(2)0.14Mソレンセン リン酸バッファーに溶解した4%パラホルムアルデヒド、10分間;(3)PBS、3回、各3分間;(4)5%健常ヤギ血清、2%ウシ血清アルブミンおよび0.1%TritonX−100を含むPBS(遮断溶液)、15分間;(5)一次抗体(遮断溶液中にNaN/SNS2/Nav1.9,1:500)、4℃、一晩;(6)PBS、6回、各5分間;(7)二次抗体(ヤギ抗ウサギIgG−Cy3,1:3000;Amersham);および(8)PBS、6回、各5分間。明視野と、ノマルスキー微分干渉顕微鏡と、落射蛍光光学系とを備えたライツ・アリストプラン(Leitz Artistoplan)光学顕微鏡を用いて試料を観察した。IPLabスペクトルプログラム(Scanalytics)を用いて画像の取り込みおよび解析を行った。蛍光ラベルされたニューロンの画像は、ライカ(Leica)フィルタブロックN2.1(Cy3)およびL3(緑色蛍光タンパク質)を用いて取り込んだ。
ラットNaN/SNS2/Nav1.9特異的抗体を用いて、この構築物が、pLG338XM−rNaNによって形質転換されたDRGニューロン中でラットNav1.9タンパク質を生産するが、同じ視野内の金粒子を受け取っていない他の細胞はこのタンパク質を生産しないことが実証される(図5)。
実施例5
トランスフェクトされたHEK293細胞内におけるrNaN電流の特徴づけ
HEK293細胞を、リン酸カルシウム沈殿法を用いて、pLG338XM−rNaNおよびEGFP(Clontech)で同時トランスフェクションし、48時間後、緑色蛍光を発している細胞を電気泳動解析のために選択した。
ホールセルパッチクランプ記録を、EPC−9増幅器を用いて室温(約21℃にて行い、データをPulseプログラム(v7.89,HEKA Electronic,Germany)を用いて、マッキントッシュQuadra950コンピュータに取り込んだ。ファイアポリッシュ電極(0.8〜1.5MΩ)は、SutterP−97プラー(Novato,カリフォルニア州)を用いてコーニング7052キャピラリーガラス1.65mmから作製した。空間クランプの問題を最小限に抑えるために、25μm未満の体細胞径を有する単離細胞のみを記録のために選択した。初期のシール耐性が5GΩ未満であるか、または高い漏れ電流(−80mVにおける保持電流>0.1nA)、膜胞、または4MΩを超えるアクセス耐性を持っている場合には、それらの細胞は分析の考慮に入れなかった。以前の研究において、平均アクセス耐性は、hNEチャネルを発現している細胞に対しては、2.3±0.6MΩ(平均±標準偏差、n=116)であり、hSkM1チャネルを発現している細胞に対しては、2.3±0.6MΩ(n=52)であると観測されている。電圧誤差は、80%系列耐性補償によって最小化し、容量アーチファクトはパッチクランプ増幅器のコンピュータ制御回路を用いて相殺した。全ての電圧クランプ記録に対して、脱分極試験電位の前に与えられる4〜5の過分極化パルスからの耐性評価に基づいて線形漏れの減算を行った。膜電流を2.5kHzでフィルターし、10kHzでサンプリングした。ピペット溶液は、140mM CsF、1mM EGTA、10mM NaClおよび10mM HEPES(pH7.3)を含んでいた。標準浴溶液は、140mM塩化ナトリウム、3mM塩化カリウム、1mM塩化マグネシウム、1mM塩化カルシウムおよび10mM HEPES(pH7.3)を含んでいた。これらの溶液に対する液絡電位は、<8mVであり、このオフセットを説明するためのデータ補正は行わなかった。すべての溶液の浸透圧は、310mOsm(Wescor5500浸透圧計)に調節した。オフセット電位は、細胞をパッチする前にゼロにし、各記録の後にドリフトをチェックし、もし、ドリフトが1時間あたり10mVをこえた場合、その記録は放棄した。
16のトランスフェクト細胞において、rNaNチャネルに起因するであろう検出可能なTTX−R電流は全く見られなかった。したがって、pLG338XM−rNaN構築物はトランスフェクトHEK293細胞内でタンパク質に翻訳されているものの、検出可能なラットNaN/SNS2/Nav1.9電流は発生しない。
実施例6
非変異ラットNav1.9発現ビークルの開発
(アミノ酸レベルで)非変異の非発現rNaNクローンpLG338−rNaN2を、rNaNに対する非変異発現ベクターの構築のための基礎とした。ポリアデニル化(ポリA)配列と、それに続くネオマイシン耐性配列とをpLG338−rNaN2のrNaNオープンリーディングフレームの3’側に挿入した。
簡潔に言えば、pLG338−rNaN2を、NotIおよびXbaIで消化し、NotI/XbaI突出部を有する以下のSalIリンカー(JDG08(配列番号11)およびJDG09(配列番号12))をプラスミド内に挿入した。NotI部位とXbaI部位のいずれも保持しておいた。
プラスミドRc/CMVを、NotI,SalIおよびPvuIで消化し、約2.4kbのBGHポリA、SV40プロモーター、ネオマイシン耐性遺伝子、およびSV40ポリAを含む断片をゲル精製し、予めNotIおよびSalIで消化し、ゲル精製しておいたpLG338−rNaN2中にクローン化した。このクローン(pLG338−rNaN−BGHneo、図6)は制限分析によって安定であった。
rNaNオープンリーディングフレームのカルボキシ末端に融合されたGFPは、トランスフェクトされた哺乳類細胞を同定する手段として望ましいと考えられる。したがって、rNaN−GFP融合構築物を2段階で作製した。まずpLG338−rNaN−BGHneo内の3’rNaN配列を、ベクター内のrNaN終止コドンとUTR配列を除いてNotI部位のすぐ5’側にClaI部位を導入したPCR産物で置換した。次に、6つのタンデムヒスチジン残基[His(6)]、その次にGFPを、rNaNの3’末端に挿入した。この6つのヒスチジン残基は、rNaNとGFPとのオープンリーディングフレームの間のスペーサを提供し、ニッケルカラム上で融合タンパク質を精製するための手段を提供するために組み込まれたものである。
簡潔に言えば、pLG338−rNaN2−BGHneoをPCR反応における鋳型として利用し、rNaN内の唯一のBsu36I部位の上流にアニールする5’プライマー(3AP2F2;配列番号13)、およびrNaNの最後の19個のヌクレオチドにアニールする(ただし、TGA終止コドンにはアニールしない)3’プライマー(JDG13;配列番号14)、ならびにrNaNのORFの3’末端における操作したNotIおよびClaI制限酵素部位を用いてPCR反応を行った。
このPCR増幅の産物を、Bsu36IおよびNotIで消化し、ゲル精製して、pLG338−rNaN2−BGHneo内の対応するBsu36I/NotI配列を置換するために用いた。GFPは、JDG14(配列番号15)およびJDG15(配列番号16)プライマーを用いてプラスミドpEGFP−C2(Clontech)からPCR増幅した。
いずれの増幅のためのPCR反応も、95℃1分間、55℃1分間、72℃3分間のサイクルを35サイクル、Platinum PCR Supermix、1ng鋳型、0.2μM各オリゴプライマー、および1μL(2.5ユニット)Pfuポリメラーゼを用いて行った。
GFPのPCR産物をClaIおよびNotIで消化し、ゲル精製し、予めClaI/NotIで消化してゲル精製しておいたrNaN構築物中にクローン化した。その結果、rNaN−Ile−Asp−His(6)−GFP融合体に続いて、BGHポリAおよびネオマイシン耐性遺伝子を有した、プロモーターを含まないプラスミドが得られた。このプラスミド(pLG/rNaN−GFP)は、ラットNav1.9−His(6)−GFP融合体に隣接するAflIIおよびNotI部位を有している(図7)。
低コピー数pLG338に基づいたプラスミド(pLG338XM、図2)の発現バージョンがすでに構築されているので、pLG/rNaN−GFPからのAflII/NotI断片をこの発現ベクターにサブクローニングすることにした。したがって、いずれのクローンもAflII/NotIで消化し、適当な断片をゲル精製して、それらを互いにライゲーションした。
制限分析によりコロニーをスクリーニングし、安定に見えるもののうちの1つに対して配列決定を行い、公表されているrNaN配列からアミノ酸レベルでの変化がないことを確認した(pCMV−rNaN−GFP,図8)。
このクローンの安定性は、プラスミドとこの構築物において使用した遺伝子配列の組み合わせ、構築物に安定化作用を発揮するHis(6)−GFP配列の存在、および3’非翻訳配列の除去に起因すると考えられる。
実施例7
pCMV−rNaN−GFPからのTTX−R電流の電気生理学的記録
実施例5に記載した方法を用いて、pCMV−rNaN−GFPでトランスフェクトした細胞の電気生理学的測定を行い、正常なラットDRGニューロンと比較した。図9に示したように、トランスフェクトHEK293細胞およびマウスSNSヌルDRGニューロンは、正常なラットDRGニューロンと同じ電流サインを有していた。
実施例8
His(6)−GFPを含まないrNav1.9発現ベクター
rNaNのatg開始コドンの5’側の38ヌクレオチドの非翻訳配列と、これに続く、オープンリーディングフレームの末端に翻訳終止シグナル(終止コドン)を有した全rNaNオープンリーディングフレームとで構成される発現ベクターの構築。rNaNのカルボキシ末端に終止コドンを含んだ非融合型のrNaNを発現用に構築した。この目的を達成するために以下の戦略を用いた。
簡潔に言えば、3’rNaN配列をプライマー5XD4F6とJDG23とを用いてPCR増幅した。5XD4F6(配列番号17)は、NaN内の唯一のBglII部位の上流(5’)にアニールするシーケンシングプライマーである。JDG23(配列番号18)はリバースプライマーであり、rNaNの最後の6つのアミノ酸(18ヌクレオチド)にアニールし、その5’末端には2つの終止コドン(TGATAA)とこれに続くBspDI(ClaIのアイソシゾマー)およびNotI部位が形成されている。PCR反応は上述のようにして実施した。
このPCRの産物を用いて、pCMV−rNaN−GFP内のBglII/NotI断片を置換したところ、His(6)−GFP配列が削除され、rNaNオープンリーディングフレームのカルボキシ末端に、2つの終止コドンとそれに続くBspDIとNotI制限酵素部位が配置された。
この一連のクローニング実験によって得られたプラスミド(prNaN、図10)は、制限分析によって正しくかつ安定であると思われたので、配列決定を行った。配列決定の結果、rNaN配列は、アミノ酸レベルでは公表されている配列のものと同一であることが分かった。
実施例9
ナトリウム電流の測定方法
ナトリウム電流は、Rizzoら(1994)J.Neurophysiology 72,2796〜2815頁およびDib−Hajjら(1997)FEBS Letters 416,11〜14頁)に記載されているように、トランスフェクトHEK293細胞において、パッチクランプ法(Hamillら(1981)Pflueges Arch.391,85〜100頁)を用いて測定する。これらの記録のために、Pulse(v7.52)(HEKA)などのプログラムを用いて、データをマッキントッシュQuadra950または類似のコンピュータ上に取得する。ファイアポリッシュ電極(0.8〜1.5MW)は典型的には、SutterP−87プラーなどの機器を用いてガラス毛細管から作製される。最も厳密な分析においては、通常、細胞は、初期シール耐性が5GΩ未満であり、高い漏れ電流(−80mVにおける保持電流が0.1nA未満)、膜胞、および5MΩ未満のアクセス耐性を有する場合にのみ、分析の対象となる。通常、アクセス耐性は、実験の間を通してモニターされ、耐性に変化が生じるとデータは用いられない。電圧誤差は、系列耐性補償を用いて最小化し、容量アーチファクトはパッチクランプ増幅器のコンピュータ制御回路または他の類似の方法を用いて相殺する。活性化および不活性化の電圧依存性を比較するために、補償後に最大の電圧誤差である±10mVを有する細胞を用いる。通常、電圧クランプ記録に対しては、線形漏れ減算を用いる。膜電流は、典型的には5kHzにおいてフィルターし、20kHzにおいてサンプリングする。ピペット溶液は、140mM CsF、2mM 塩化マグネシウム、1mM EGTA、および10mM Na−HEPES(pH7.3)などの標準溶液を含む。標準浴溶液は、通常、140nM塩化ナトリウム、3mM塩化カリウム、2mM塩化マグネシウム、1mM塩化カルシウム、10mM HEPESおよび10mMグルコースを含む(pH7.3)。
細胞内パッチクランプ記録などの方法を用いた、トランスフェクト細胞またはDRGニューロンに対する電圧クランプ実験によって、ナトリウム電流密度の定量的測定値(および細胞内のナトリウムチャネルの数)と、チャネルの生理的特性とを得ることができる。ナトリウムチャネルなどのイオンチャネルを通過する電流を測定するこれらの技術は、Rizzoら(1995)Neurobiol.Dis.2,87〜89頁に記載されている。あるいは、ナトリウムチャネル機能の阻止または増強は、ナトリウム感受性色素または同位体標識Naによる光学的画像化を用いて測定することができる。Roseら(1997)J Neurophysiol.78,3249〜3258頁によって記載されたこれらの方法では、ナトリウムチャネルが開いているときに起こるナトリウムイオンの細胞内濃度の増加を測定する。
実施例10
細胞内ナトリウム([Na+]i)の測定
Na+を発現する細胞に対する様々な薬剤の効果は、[Na+]iのレシオメトリックイメージングを用いて、SBFIまたは他の同様のイオン感受性色素を用いて判定することができる。この方法において、Sontheimerら(1994)J.Neurosci.14,2464〜2475頁に記載されるように、細胞質遊離Na+を、Na+に対する指示薬、例えばSBFI(ナトリウム結合性ベンゾフランイソフタレート(Harootunianら(1989)J.Biol.Chem.264,19458〜19467頁))または同様の色素を用いて測定する。まず、細胞に、膜透過性アセトキシメチルエステル型の色素(10mMのストック濃度でジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解されている)を取り込ませる。レシオメトリックイメージング装置(例えば、Georgia Instruments製)を用いて、顕微鏡の台上で記録を得る。適当な波長(例えば、340/385nm)の励起光を与える。二色性リフレクター(400nm)を介して励起光を細胞に受け渡し、450nmを超える放射光を回収する。蛍光シグナルは例えばイメージ増強管(GenIISyS)によって増強し、フレーム取り込み器につながれたCCDカメラまたは同様の装置によって回収する。蛍光の衰退を考慮するために、細胞質遊離Na+のアッセイには、蛍光比340:385を用いる。
SBFIの蛍光を較正するために、それぞれの実験の後で、細胞に、既知濃度のNa+(典型的には0および30mMまたは0、30および50mM[Na+])を含む較正溶液と、グラミシジンやモネンシン(上記参照)などのイオノフォアをしみ込ませる。RoseおよびRansom(1996)J.Physiol.491,291〜305頁)によって報告されているように、細胞内SBFIの蛍光比345/390nmは、[Na+]iの変化とともに単調に変化する。典型的には、対照細胞およびナトリウム電流を阻止、阻害または増強する可能性のある様々な濃度の薬剤に曝した細胞において、統計的に有意な細胞内ナトリウムの測定値を与える、複数(典型的には少なくとも4つ)の異なるカバースリップ上で実験を繰り返す。
実施例11
22Naまたは86Rbの測定によってNa+流入を測定するための方法
22Naは、ガンマ線発生源であり、Na+フラックスを測定するために用いることができ(KimelbergとWaltz(1988),Boulton,Baker,およびWalz,Eds.)、86Rb+は、Na+/K+−ATPアーゼ活性(Sontheimerら(1994)J.Neurosci.14,2464〜2475頁)を測定するために用いることができる。86Rb+イオンは、NA+/K+−ATPアーゼ様K+イオンによって取り込まれるが、42K+よりもはるかに長い半減期を有するという利点を有している(KimelbergとMayhew(1975)J.Biol.Chem.250,100〜104頁)。したがって、一方向のウワバイン感受性86Rb+の取り込みの測定は、神経細胞の電気的発火の別の指標となるNA+/K+ATPアーゼ活性をアッセイするための定量的方法を与える。Nav1.9を発現している細胞を、放射性同位体22Na+とともにインキュベートした後、同位体の細胞含量を液体シンチレーション計測法または類似の方法によって測定し、例えば、ビシンコニン酸タンパク質アッセイ法(Smithら(1985)Anal.Biochem.150,76〜85頁)にGoldschmidtとKimelberg(1989)Analytical Biochemistry 177,41〜45頁に記載される培養細胞に対する改変を施した方法、などの方法を用いて細胞タンパク質を決定する。22Naまたは86Rb+フラックスは、Nav1.9を阻止、阻害または増強する薬剤の存在下および非存在下において判定する。これにより、当該薬剤のNav1.9に対する作用を判定することができる。
実施例12
Nav1.9に対する安定な株化細胞の確立
標準的なリン酸カルシウムプロトコール(Watanabeら(1999)Neurosci.Res.33,71〜78頁)を用いて、HEK293細胞(10cmのプレートに、50%の細胞密集度)を、10μgのpCMV rNaN−2×Stopでトランスフェクションした。この構築物は、GFPタンパク質に融合されていない、チャネルの全オープンリーディングフレームをコードしている。2日後、細胞を選択培地(10%のFCSと0.6mg/mLのG418とを含んだDMEM/Ham’sF12の完全培地)を入れた2枚の皿に分割した。培地は4〜5日おきに交換した。孤立コロニーができたところで、これらを24ウェルプレートにまき、選択培地中で培養した。
Nav1.9を発現している安定な細胞系からの全細胞RNAを、RNeasyミニカラム(Qiagen)を用いて単離した。1mMランダムヘキサマー(Roche)と、500ユニットのSuperScriptII逆転写酵素(Life Technologies)と、100ユニットのRNase阻害剤(Roche)を用いて、最終体積50μL中で第一鎖cDNAを逆転写した。バッファの組成は、50mM Tris−HCl(pH8.3)、75mM KCl,3mM塩化マグネシウム、10mM DTTおよび5mM dNTPとした。この反応は、37℃で90分間、42℃で30分間進行させ、その後95℃で5分間加熱することにより終結させた。逆転写酵素を省く以外は同様にして、対照の鋳型を調製した(−RT)。
PCR増幅は、公表されているrNav1.9配列の塩基20〜42および5335〜5314の範囲のプライマーを用いて、58℃でのアニーリングと8分間の伸長を35サイクルにより実施した。5.3kbの予想サイズを有する単一の増幅産物が、選択したクローンから得られた(図11A)。−RT鋳型を用いた対照PCR反応からは、増幅産物は得られなかった。増幅は、プログラム可能なサーマルサイクラー(PTC−100,MJ Research)により行った。
rNav1.9cDNAによって安定的にトランスフェクトされた4つのHEK293株化細胞(S1、S2、S5およびS6)について、全長rNav1.9チャネルタンパク質を生産するかどうかを調べた。細胞を掻き取りにより100mmの皿から回収し、ガラスダウンス中、30μL/mg組織となるように氷冷溶菌バッファ中でホモジナイズした。溶菌バッファ(0.3Mスクロース、10mM Tris(pH8.1),2mM EDTA)に、プロテーゼ阻害剤(1mM PMSF,10μg/mL アプロチニン,10μg/mL ロイペプチン、1mM DTT,1mM ベンズアミジン,1mM ペプスタチン,8μg/mL カルパインI、8μg/mL カルパインII)を添加した。ホモジネートは、1時間氷上に保持してから、1000×g(低速スピン)にて4℃で7分間遠心分離して、核および無傷細胞を除去した。ペレットを再びホモジナイズし、同一の条件で再度スピンした。2回の低速スピンによって得られた上清を合わせて、120,000×gにて4℃で1時間遠心分離した。全膜画分を含んだペレットを0.2M KCl,10 mM HEPES(pH7.4)中に懸濁した。
膜画分を可溶化するために、等体積の5% Triton x−100,10mM HEPES(pH7.4)を試料に加え、懸濁液を氷上で1時間保持した。可溶化しなかった物質は、10,000×gにて4℃で10分間遠心分離することによりペレット化し、上清中の可溶物質は更なる操作のために回収した。タンパク含量は、高界面活性剤試料用のBioRad DCアッセイを用いて決定した。
抗Nav1.9ポリクローナル抗体は、C末端アミノ酸ペプチドCNGDLSSLDVAKVKVHND(配列番号20のアミノ酸1748〜1765)に対してウサギにおいて産生させ、特異的ペプチドカラム(Fjellら(2000)Neuro report 11,199〜202頁)によりアフィニティ精製した。抗Nav1.9抗体は、最終濃度0.2μg/mLで使用した。
イムノブロットアッセイは以前に記載されているように行った(Tyrrellら(2001)J.Neurosci.21,9629〜9637頁)。簡潔に言えば、試料(10〜20μg)をLaemmliサンプルバッファ中、37℃で20分間変性させた。タンパク質は、5%または4〜15%グラジエントのTris−HCl Ready Gels(BioRad)を用いたSDS/PAGEにより分画し、続いてImmobilon−Pメンブレン(Millipore)に22mV、4℃で一晩、電気的に転移させた。ブロットを室温で1時間、TBSに溶解した10%ドライミルクによりブロックしてから、TBS中5%BSAに希釈した一次抗体とともに、室温で2時間インキュベートした。ブロットをTBST(0.2% Tween−20を添加したTBS)中でよく洗浄した。西洋わさびペルオキシダーゼ共役ヤギ抗ウサギIgG二次抗体(Dako A/S)を、1.25%BSAに1:10,000で希釈したものと一緒に、室温で1時間インキュベートすることにより、免疫反応性タンパク質を検出した。シグナルは、製造者の推奨(NEN)に従って、ルネッサンス化学発光によって検出した。約210kDaの予測サイズを有する堅牢な免疫反応性タンパク質が、4つの株化細胞のそれぞれにおいて検出される(図11B)。
安定にトランスフェクトされた細胞を用いたホールセルパッチクランプ記録を、EPC−9増幅装置を用いて室温(21℃)で実施した。データは、Pulseプログラム(v8.31)(HEKA Electronic)を用いて、Pentium−IIIコンピュータ上で取得した。ファイアポリッシュ電極(0.8〜1.5MΩ)は、Sutter P−97プラーを用いて、1.7mmキャピラリーガラス(VWR)より作製した。初期のシール耐性が2GΩ未満であるか、または4MΩを超えるアクセス耐性を持つ場合、それらの細胞は分析の考慮に入れなかった。全ての電圧クランプ記録に対して、脱分極試験電位の前に与えられる4〜5の過分極化パルスからの耐性評価に基づいた線形漏れの減算を行った。膜電流を2.5kHzでフィルターし、10kHzでサンプリングした。ピペット溶液は、140mM CsF、1mM EGTA、10mM NaClおよび10mM HEPES(pH7.3)を含んでいた。標準浴溶液は、140mM NaCl、3mM KCl、1mM塩化マグネシウム、1mM塩化カルシウムおよび10mMHEPES(pH7.3)を含んでいた。カルシウム電流を阻止するために浴溶液にはカドミウム(100μM)を添加し、内在性テトロドトキシン感受性ナトリウム電流を阻止するために500nMテトロドトキシンを添加した。すべての溶液の浸透圧は、310mosM(Wescor5500浸透圧計)前後に調整した。持続的TTX耐性ナトリウム電流は、S2株化細胞において安定に発現されたNav1.9ナトリウムチャネル(図11C)によって示されたが、非処置のHEK293細胞中では観察されなかった(データ示さず)。
実施例13
rNav1.9を含むウィルス発現ベクター
アデノウィルスAd5は、Nav1.9に対するウィルス発現ベクターを作製するために用いることができる。Ad5のアーリーリージョン1(El)とアーリーリージョン3(E3)の配列をCMVプロモーター並びにそれに続くクローン化Nav1.9遺伝子に交換する。E1トランス相補的なHEK293細胞を、Ad5−Nav1.9ウィルス発現ベクターでトランスフェクトする。安定した発現する細胞を、抗Nav1.9抗体を用いて選択する。
実施例14
ヒトおよびマウスNav1.9発現構築物
標準的なリン酸カルシウムプロトコールを用いて(Watanabeら(1999)Neurosci.Res.33,71〜78頁)、HEK293細胞(10cmのプレートに70%の細胞密集度)を、10μgのヒトおよびマウスpCMV−NaNで別々にトランスフェクトした。これらの構築物は、チャネルの完全なオープンリーディングフレームをコードしている。細胞は、10%ウシ胎仔血清を添加したDMEM−Ham'sF12の完全培地中で培養した。
NaN/Nav1.9を発現している安定な株化細胞から、全細胞RNAを、RNeasyミニカラム(Qiagen)を用いて単離した。1mMランダムヘキサマー(Roche)と、500ユニットのSuperScriptII逆転写酵素(Life Technologies)と、100ユニットのRNase阻害剤(Roche)を用いて、最終濃度50μL中で第一鎖cDNAを逆転写した。バッファの組成は、50mM Tris−HCl(pH8.3),75mM KCl、10mM DTT、3mM MgCl2、および5mM dNTPとした。この反応は、37℃で90分間、42℃で30分間進行させ、その後95℃で5分間加熱することにより終結させた。逆転写酵素を省く以外は同様にして、対照の鋳型を調製した(−RT)。
PCR増幅は、1μMプライマー(表1)を用いて、58℃でのアニーリングと1キロベースあたり1分間の伸長からなるサイクルを35サイクル行って実施した。−RT鋳型を用いた対照PCR反応では、増幅産物は産生されなかった。増幅は、PTC−100プログラム可能なサーマルサイクラ(MJ Research)内で行った。
抗Nav1.9ポリクローナル抗体は、ウサギにおいて、ヒト(CNGDLSSFGVAKGKVH,配列番号22)およびマウス(CNGDLSSLDVAKVKVHND,配列番号23)のNav1.9チャネルのC末端ペプチドに対して産生させ、特異的ペプチドカラムでアフィニティ精製した。抗Nav1.9抗体は最終濃度2μg/mLで用い、ヒトまたはマウスNav1.9構築物でトランスフェクトされたHEK293細胞を染色した。
本発明について上記の実施例を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明の精神から逸脱しない限りにおいて様々な変更を行うことができる。したがって、本発明は特許請求の範囲によってのみ限定される。本明細書中で参照したすべての引用特許、特許出願および出版物は、その全体をあらゆる目的で参照によって本願に取り込まれる。
改変pLG338ベクターに挿入されたrNaNを含む非発現プラスミドpLG338−rNaNを示す図である。
低コピー数発現プラスミドpLG338XMを示す図である。
哺乳類発現構築物を作製するためにpLG338−rNaNからrNaNのORFをpLG338XMにクローニングすることにより構築された発現プラスミドpLG338XM−rNaNを示す図である。
RT−PCRおよびウェスタンブロット分析を用いた、HEK293細胞でのrNaN発現の分析を示す図である。(A)RT−PCR分析。ラットDRGおよびトランスフェクトHEK293細胞から、rNaN増幅の予想される産物(318bp)が(+)RT鋳型が検出される(それぞれ、レーン1および4)。(+)RT非トランスフェクトHEK293細胞(レーン2)、(−)RTトランスフェクトHEK293細胞(レーン3)または対照鋳型(レーン5)においては増幅シグナルが検出されない。「M」レーンは、1キロベースのラダーである。(B)ウェスタンブロット分析。非トランスフェクトHEK293細胞(レーン1)、トランスフェクトHEK293細胞(レーン2)およびラットDRG組織(レーン3)からの膜画分について、Nav1.9シグナルの存在を分析した。約210kDaのタンパク質種が、天然のDRG組織およびトランスフェクトHEK293細胞において観察されるが、対照HEK293細胞には見られない。タンパク質のサイズは、予測される分子量である201kDaと一致している。
インビトロのDRGニューロンで発現させたGFP−NaN構築物を示す図である。GFP(A)およびNav1.9(B)は、スモールDRGユーロンで同時発現している。GFPでトランスフェクトされていないDRGニューロンは、NaN/SNS2/Nav1.9免疫反応性を示さない(矢印)。(C)は(A)および(B)に示した視野のノマルスキー画像。スケールバー:25μm。
プロモーターのないrNaN2とBGHneoとのクローンpLG338−rNaN−BGHneoを示す図である。
プロモーターのないrNaN−6xHis−GFP融合クローンを示す図である。
rNaN−6xHis−GFP融合構築物に対する発現ベクターを示す図である。
(A)はHEK293細胞の電流サインを示す図であり、(B)はpCMV−rNaN−GFP構築物でトランスフェクトされ、電流発生の特性を示すマウスSNSヌルDRGニューロンの電流サインを示す図である。DRG細胞の自然電流の電流サイン特性(C)を検出および測定した。
アミノ酸レベルでrNaNの完全に正しい配列(配列番号20)を発現する発現ベクターprNaNを示す図である。
rNav1.9でトランスフェクトされた、安定なHEK293に由来する株化細胞におけるRNA、タンパク質およびナトリウム電流の発現を示す図である。(A)S2およびS6株化細胞の鋳型からRT−PCRによって増幅した完全長rNav1.9cDNA。(B)安定な株化細胞S1、S2、S5およびS6の膜画分中のNav1.9タンパク質を検出するイムノブロットアッセイ。(C)ホールセルパッチクランプにおいて記録される、Nav1.9ナトリウムチャネルを安定に発現しているトランスフェクトHEK293株化細胞の代表的な単一細胞電流サイン。
ヒトNaN/Nav1.9でトランスフェクトされたHEK293細胞におけるNav1.9チャネルの発現を示す図である。(A)ヒトNaN/Nav1.9cDNAの完全長(レーン1)または重複セグメント(レーン2〜4)を、表2に記載のプライマー対(a−d)を用いてRT−PCRにより増幅した。レーン1は、プライマー対(a)の反応の単一の増幅産物を示し、5400塩基の増幅産物と矛盾しない。レーンMは、1kbpの分子量マーカーを含む。レーン2〜4は、それぞれプライマー対(b〜d)の増幅産物を示し、これらはそれぞれ予測されるアンプリコンの長さ1936、1970および1539塩基と矛盾しない。
マウスNav1.9でトランスフェクトされたHEK293細胞におけるNav1.9チャネルの発現を示す図である。マウスNaN/Nav1.9cDNAの全長にわたる重複セグメントを、表2に記載のプライマー対(e〜f)を用いてRT−PCRにより増幅した。レーンMは、1kbp分子量マーカーを含む。レーン1〜3は、それぞれプライマー対(e〜f)の増幅産物を示し、これらはそれぞれ予測されるアンプリコンの長さ1813bp、2034bp、および1584bpと矛盾しない。
HEK細胞におけるナトリウムチャネルのヒトおよびマウスNav1.9免疫染色を示す図である。(A)HEK細胞をヒトNav1.9構築物でトランスフェクトし、抗ヒトNav1.9抗体と反応させた。トランスフェクト細胞は、強いNav1.9免疫蛍光を示しているが、隣接する非トランスフェクト細胞は、Nav1.9免疫標識を示していない。(B)HEK細胞をマウスNav1.9構築物でトランスフェクトし、抗マウスNav1.9抗体と反応させた。トランスフェクト細胞は、強いNav1.9免疫蛍光を示しているが、隣接する非トランスフェクト細胞は、Nav1.9免疫標識を示していない。(A)’および(B)’は、それぞれ(A)および(B)内の視野のノマルスキー明視野画像であり、多くの非トランスフェクトHEK293細胞の存在を示している。