JP2005349081A - 毛包形成誘導能を有する遺伝子の活性化による毛包再生方法 - Google Patents

毛包形成誘導能を有する遺伝子の活性化による毛包再生方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 本発明は毛包形成または毛包再生を調節する分子の作用をコントロールすることにより、ヒト毛包再生を促す方法の確立を目指して、ヒトDPCを活性化できるような因子を探索するため、毛包誘導能を有することがわかっているマウスDPCにおける毛包誘導を調節している因子の同定を目的とする。
【解決手段】 本発明は、Tgfbi、Gas1、Thbs2、Ifi202A、Bmp7、Efna1、Efna3、Cidea、Serping1、MS1、Irf6、FmodおよびFxyd4から成る群から選ばれる毛包形成誘導能を有する1または複数の遺伝子の発現を亢進させることにより毛包を再生する方法を提供する。
【選択図】 なし

Description

本発明は毛包形成誘導能を有する遺伝子の発現の亢進を図ることで毛包を再生・形成する方法、およびかかる遺伝子の発現を亢進させることを特徴とする毛乳頭細胞の培養方法に関する。
加齢などに伴う頭髪減少を補おうとする需要は高く、一般に育毛剤の使用のみならず、さらには植毛など、医療機関などにおける施術も行われている。一方、近年における幹細胞研究の進展による技術面のブレークスルーと、組織適合性などの問題を原因とする深刻なドナー不足や脳死判定問題などの倫理面からの要請に伴い、従来の臓器移植に代わる先端医療として再生医療技術への過剰ともいえる期待感が高まっており、再生医療のモデル器官として毛包再生研究にもこれまでにない注目が集まっている。
発生段階における毛包形成機序については比較的よく研究されており、上皮系細胞(表皮細胞)とその直下の間葉系細胞(毛乳頭細胞またはDPC)間のシグナル伝達などによる複雑な相互作用の結果、毛包は形成されることがわかっている(R. Pauseら、N. Engl. J. Med. 341, 491-497, 1999(非特許文献1); K.S. Stennら、Physiol. Rev. 81, 449-494, 2001(非特許文献2); S. E. Millerら、J. Invest. Dermatol. 118, 216-225, 2002(非特許文献3))。また、一旦形成された毛包は成長期、退行期、休止期を繰り返す周期的な再生が起こる器官であり、多くの成長因子、サイトカイン、ホルモン、神経ペプチドなどの生理活性物質がその調節に関わっていることが知られるが、それら生理活性物質は発生段階の毛包形成機序に関与するものとは必ずしも一致しない。
ヌードマウスを用いたマウス毛包再構成実験から、上皮系細胞と間葉系細胞の両方が毛包再生に必須で、また一定量以上の細胞数がなくては毛包再生が誘導されないことがわかっている(J. Kishimoto ら、Proc. Natl. Acad. Sci. 96, 7336-7341, 1999(非特許文献4))。さらには、マウスDPCとヒト上皮細胞からなるキメラ毛包の再生が可能であることが示されているが(特願2004−048322;江浜ら、第26回日本分子生物学年会 講演要旨集2PC-024, 2003(非特許文献5))、未だ完全なヒト毛包の再生には至っていない。その理由の一つは、毛包誘導能を有するヒトDPCを移植に利用できるほど充分量に得ることが困難なためである。
特定の条件下、例えばバーシカンを発現しているDPなどの細胞が、特異的に毛包誘導を有することが示されているが(J. Kishimoto ら、Proc. Natl. Acad. Sci. 96, 7336-7341, 1999(非特許文献4))、分子レベルにおける毛包形成誘導の現象は未だ不明な点が多い。
R. Pauseら、N. Engl. J. Med. 341, 491-497, 1999 K.S. Stennら、Physiol. Rev. 81, 449-494, 2001 S. E. Millerら、J. Invest. Dermatol. 118, 216-225, 2002 J. Kishimoto ら、Proc. Natl. Acad. Sci. 96, 7336-7341, 1999 江浜ら、第26回日本分子生物学年会 講演要旨集2PC-024, 2003
本発明は毛包形成または毛包再生を調節する分子の作用をコントロールすることにより、ヒト毛包再生を促す方法の確立を目指して、ヒトDPCを活性化できるような因子を探索するため、毛包誘導能を有することがわかっているマウスDPCにおける毛包誘導を調節している因子の同定を目的とした。
本発明者らは、毛乳頭細胞は培養されることによりその毛包誘導能が消失するが、一定以上の高い密度で培養された場合、その誘導能が保持される傾向があることを見出し、毛乳頭細胞を高密度(具体的には、3〜7×105個/cm2)および低密度(具体的には、5〜9×104個/cm2)条件で培養し、発現する遺伝子について調べたところ、高密度条件下で培養されることで毛包を形成した毛乳頭細胞において、以下の特定の遺伝子の発現が特異的に亢進されることを見出した。
・形質転換増殖因子β誘導型68kDa遺伝子(Tgfbi)
・増殖停止特異的1遺伝子(Gas1)
・トロンボスポンジン 2遺伝子(Thbs2)
・インターフェロン活性化遺伝子202A(Ifi202A)
・骨形態形成タンパク質7遺伝子(Bmp7)
・エフリンA1遺伝子(Efna1)
・エフリンA3遺伝子(Efna3)
・細胞死誘導DNA分断因子,αスブユニット様エフェクターA遺伝子(Cidea)
・セリン又はシステインプロテイナーゼインヒビター,クレードG(C1インヒビター),メンバー1遺伝子(Serping1)
・システインプロテイナーゼインヒビター1遺伝子(MS1)
・インターフェロン調節因子6遺伝子(Irf6)
・フィブロモジュリン遺伝子(Fmod)
・FXYDドメイン含有イオン輸送レギュレーター4遺伝子(Fxyd4)
従って、このような特定の遺伝子が毛包の形成・再生の誘導に深く関わり、毛包形成誘導能を有するものと結論付け、本発明に至った。
従って、本発明は、Tgfbi、Gas1、Thbs2、Ifi202A、Bmp7、Efna1、Efna3、Cidea、Serping1、MS1、Irf6、FmodおよびFxyd4から成る群から選ばれる毛包形成誘導能を有する1または複数の遺伝子の発現を亢進させることにより毛包を再生する方法を提供する。
別の態様において、本発明は、Tgfbi、Gas1、Thbs2、Ifi202A、Bmp7、Efna1、Efna3、Cidea、Serping1、MS1、Irf6、FmodおよびFxyd4から成る群から選ばれる毛包形成誘導能を有する1または複数の遺伝子の発現を亢進させることを特徴とする、毛乳頭細胞を培養する方法を提供する。このようにして培養した毛乳頭細胞は、頭皮への細胞移植による毛髪再生施術あるいは植毛のために有利に利用され得る。
本発明により、新規且つ従来技術に比べ有利な育毛方法、植毛方法の提供が可能となる。
本発明者は、後述の実施例の結果から明らかなとおり、下記の遺伝子が毛包形成・再生誘導能を有する毛乳頭細胞で特異的に発現することを見出した。
・Tgfbi(transforming growth factor, beta induced, 68lDa)
別名βig-h3(TGF-β-induced gene-human, clone 3)、big-h3とも呼ばれる分泌蛋白質で、インテグリンを介してマイクロフィブリルや細胞表面のコラーゲンなどの細胞外マトリックス(ECM)と結合し、細胞間の接着などを調節するとともに、細胞間シグナル伝達への関与も示唆されている(JW Ferguson ら、Mech Dev. 120, 851-64, 2003)。皮膚・血管などを含む結合組織で広範な発現は報告されているが(RG LeBaronら、J. Invest. Dermatol. 104, 844-849, 1995ほか)、毛包細胞での発現は本発明により初めて示された。
・Gas1(growth arrest specific 1)
飢餓状態または接触阻害した3T3細胞で発現が上昇する一連の遺伝子(gas)の一つであるgas1は、細胞膜上に発現するGPI(グリコシルフォスファチジルイノシトール)アンカー膜糖蛋白質で、細胞周期の移行を阻害する(G. Del Salら、Cell, 70, 595-607, 1992)。また、四肢の形態形成などに関与するFGF10の発現調節機能や(Y. Liuら、Development 129, 5289-5300, 2002)、ECMとの相互作用による軟骨形成との関与(K.K. Leeら、Dev. Biol., 234, 188-203, 2001)も報告されている。
・Thbs2(thrombospondin 2)
フィブリノーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、V型コラーゲンなどに結合する糖蛋白質で細胞間または細胞-マトリックス間の相互作用に関与し、細胞増殖調節機能を有することも知られている(N Lopesら、Mol. Cell. Biol., 23, 5401-5408, 2003)。
・Ifi202A(interferon activated gene 202A, interferon-inducible p202a)
インターフェロンにより誘導される一連のp 200関連蛋白質の一つで、細胞質内で発現し、核内に移行してMyoDなどの転写因子を抑制して分化誘導することが知られる(H. Xinら、Oncogene, 22, 4775-4785, 2003, C. Liuら、Mol. Cell. Biol., 20, 7024-7036, 2000)。
・Bmp7(bone morphogenetic protein 7)
一般に骨形成ほかの形態形成を調節することで知られるTGF-βファミリーに属する分泌蛋白質であり、毛包発生段階での発現が確認されているが毛包誘導能との直接的関係は示されていない。BMPレセプターやその各種内因性アンタゴニストを介して、細胞増殖および細胞分化を調節する(V.A. Botchkarev、J. Invest. Dermatol., 120, 36-47, 2003)。
・Efna1(ephrin A1)
レセプターチロシンキナーゼEphA(特にEphA2)のリガンドで細胞膜上に発現するGPIアンカー蛋白質で、細胞接着や細胞形態を調節する(C. Deroanneら、J. Cell Sci., 116, 1367-1376、N. Carterら、Nat. Cell Biol.4, 565-73, 2002)。
・Efna3(ephrin A3)
エフリン蛋白類に属するGPIアンカー蛋白質で、セプターチロシンキナーゼEphA2、EphA4のリガンド。脊柱形態形成への関与が報告されている(KK Muraiら、Nat. Neurosci., 6, 153-60, 2003)。
・Cidea(cell death-inducing DNA fragmentation factor, alpha subunit-like effector A)
分化した脂肪細胞であるbrown adipose tissue (BAT)のミトコンドリア膜上などで発現して脂質代謝とエネルギーバランスを調節する(Z. Zhouら、Nat. Genet., 35, 49-56, 2003)。Cideaを遺伝子工学的に高発現させたマウスではカスペース非依存性の細胞死を誘導することが示されている(N. Inoharaら、EMBO J., 17, 2526-2533, 1998)。
・Serping1(serine or cysteine proteinase inhibitor, clade G (C1 inhibitor), member 1)
セリンプロテアーゼインヒビタースーパーファミリーのセルピンの一つで、分泌性の糖蛋白質。ClrおよびClsプロテアーゼと複合体を形成してそのプロテアーゼ活性を抑制する。また補体活性化、凝血、フィブリン溶解、キニン誘導にも重要な役割を果たすと考えられている(M. Lenerら、Eur. J. Biochem., 254, 117-122, 1998)。
・MS1(cysteine proteinase inhibitor)
別名StefinA1、シスタチンAのサブタイプのひとつでシステインプロテアーゼ阻害機能を有し(特にカテプシンB,H,L)、表皮やリンパ組織で恒常的に発現している(F. W. Inoharaら、Genomics, 15, 507-514, 1993、T.A. Korolenkoら、Bull. Exp. Biol. Med., 136, 46-48, 2003)。
・Irf6(interferon regulatory factor 6)
DNA結合領域がよく保存された核内転写因子ファミリーの一つであるが、詳細な機能は不明。口蓋で最も発現が高く、皮膚や毛包でも発現している。口蓋奇形や皮膚などの異常を示すVan der Wonde症、Popliteal pterygium 症がIrf6遺伝子のDNA結合部位または蛋白質結合部位のSMIRドメイン(Smad-interferon regulatory factor-binding domain)の変異によることが示され、Smad−TGF−βシグナリングの調節機能が示唆されている(S. Kondoら、Nat. Gent., 32, 285-289, 2002)。
・Fmod(fibromodulin)
非コラーゲン性分泌蛋白質でECM構成物質。IおよびII型コラーゲンに作用して適正な線維化配向を調節、またTGF−βによる線維化作用を抑制することも知られる(S. Chakravarti, Glycoconj. J., 19, 287-293,2003、C. Sooら、Am. J. Pathol., 157, 423-433, 2000)。
・Fxyd4(FXYD domain-containing ion transporting regulator 4)
腎臓上皮細胞の細胞膜上に特異的に発現してNa+、K+イオン輸送を調節して電解質恒常性に寄与する(R. Aizmanら、Am. J. Pathol., 283, F569-77, 2002)。
従って、上記遺伝子の発現を亢進させることで、毛包形成・再生を誘導し、頭部などの育毛を図ることが可能となる。かかる遺伝子の発現の亢進は、そのような作用を有する薬剤を頭部などに適用することにより達成し得る。従って、このような薬剤を活性成分として含有する組成物、特に皮膚外用剤は、ヒトを始めとする哺乳動物において、優れた育毛・発毛促進作用が期待され、ヘアーケアー用の医薬品、医薬部外品又は化粧品として有用である。
また、毛乳頭細胞における上記遺伝子の発現の亢進は、遺伝子工学的に達成することもできる。例えば、毛乳頭細胞において上記遺伝子が欠失・欠損しているときは、上記遺伝子自体を毛乳頭細胞に導入することで、その発現の亢進を図ることができる場合がある。また、毛乳頭細胞において上記遺伝子は存在しているものの、不活性状態又は沈黙状態にあるために上記遺伝子が欠損状態にあるときは、上記遺伝子の発現を亢進させる調節配列、例えばプロモーターやエンハンサーをそれらの遺伝子に対し作用可能な位置に配置することにより、その発現の亢進を図ることもできる。
上記遺伝子やプロモーター、エンハンサーを細胞内に導入する方法としては、ウイルスベクターを利用した遺伝子導入方法、あるいは非ウイルス性の遺伝子導入方法(日経サイエンス、1994年4月号、20-45頁、実験医学増刊、12(15)(1994)、実験医学別冊「遺伝子治療 の基礎技術」、羊土社(1996))のいずれの方法も適用することができる。ウイルスベクターによる遺伝子導入方法としては、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス等のDNAウイルス、又はRNAウイルスに、上記遺伝子を組み込んで導入する方法が挙げられる。このうち、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ワクシニアウイルスを用いた方法が、特に好ましい。非ウイルス性の遺伝子導入方法としては、発現プラスミドを直接投与する方法(DNAワクチン法)、リポソーム法、リポフェクチン法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等が挙げられ、特にDNAワクチン法、リポソーム法が好ましい。また、上記遺伝子を実際に医薬として作用させるには、DNAを直接毛乳頭細胞に導入する in vivo法、およびヒトから毛乳頭細胞を取り出し、体外でDNAを該細胞に導入し、その細胞を体内に戻すex vivo法がある(日経サイエンス、1994年4月号、20-45頁、月刊薬事、36(1), 23-48(1994)、実験医学増刊、12(15)(1994))。in vivo法がより好ましい。in vivo法により投与される場合は、施用箇所、例えば発毛促進を所望する箇所に直接投与してよい。投与は、例えば皮下、皮内投与などであってよい。in vivo法により投与する場合は、一般的には注射剤等とされ、必要に応じて慣用の担体を加えてもよい。また、リポソームまたは膜融合リポソーム(センダイウイルス(HVJ)−リポソーム等)の形態にした場合は、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤等のリポソーム製剤とすることができる。
細胞中の上記遺伝子の発現は、例えば該細胞からmRNAを抽出し、その量を測定することにより決定することができる。mRNAの抽出、測定は当業界において周知であり、例えばRNAの定量は定量ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)により行われる。また、上記遺伝子の発現は、毛乳頭細胞中の上記遺伝子の発現産物の量を直接測定することにより決定することができる。例えば、この測定は上記遺伝子発現産物に特異的な抗体を利用し、当業界において周知の方法、例えば蛍光物質、色素、酵素などを利用する免疫染色法、ウェスタンブロット法、免疫測定方法、例えばELISA法、RIA法など、様々な方法により実施できる。また、以上の他、上記遺伝子発現産物の既知の生物活性を測定することにより上記遺伝子の発現量を測定することもできる。他に、上記遺伝子の発現はin situハイブリダイゼーション法やその生物活性の測定を通じて決定することができる。
本発明はさらに、毛乳頭細胞を培養する方法も提供する。この方法は、毛乳頭細胞を、毛包形成誘導能を有する上記遺伝子の発現を亢進させる条件下で培養することを特徴とし、このようにして培養した毛乳頭細胞は毛包再生・形成能が亢進されているため、細胞移植による毛包・毛髪再生や植毛において有利に利用できる。冒頭において述べたとおり、毛包誘導能を有するヒト毛乳頭細胞を移植に利用できるほどに充分量で獲得することは従来技術においては困難であったが、本発明に従って毛乳頭細胞を培養すれば、少量の毛乳頭細胞からでも、移植に充分な量の毛包誘導能を有する毛乳頭細胞の調製が可能となる。毛包形成誘導能を有する上記遺伝子の発現の亢進は、上述のとおり、例えば上記遺伝子の発現を亢進させる薬剤の存在下で培養を実施することにより、または上述のとおり遺伝子工学的に形質転換させることで上記遺伝子の発現の亢進された毛乳頭細胞を培養することで行われる。培養は、適当な培地、例えばDMEMの中で、好ましくはCO2の雰囲気下で、常温〜約37℃、好ましくは約37℃で1〜7日間行う。
「毛乳頭細胞」とは、間葉系細胞として毛包内の毛球部の内部に位置する毛乳頭を構成する主な細胞で、毛包の自己再生のために毛包上皮細胞などに活性化シグナルを送る、いわば司令塔の役割を担っている細胞をいう(特願2003−346937)。活性化毛乳頭細胞のみを含有する毛乳頭細胞調製品は、例えばKishimoto et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1999), Vol.96, pp. 7336-7341に記載のとおり、トランスジェニックマウスを使用し、調製できる。しかしながら、収量などの点で好ましくは、例えば皮膚組織から表皮組織を取り除くことで得た真皮組織画分をコラーゲン処理して細胞懸濁物を調製し、次いで当該細胞懸濁物を凍結保存することで毛胞上皮細胞を死滅させることで調製することができる。
上記凍結保存による方法は、具体的には、例えば以下の通りにして実施できる。
1.哺乳動物の表皮を用意する。
2.この表皮を、必要ならタンパク質分解酵素溶液、例えばトリプシン溶液の中に適当な時間、例えば一晩静置し、その後表皮部分をピンセットなどで取り除き、残った真皮をコラゲナーゼで処理し、細胞懸濁液を調製する。
3.必要ならセルストレーナーにより懸濁液をろ過し、静置により沈殿物を除去する。
4.細胞数を計測し、適当な細胞密度、好ましくは1x105〜1x108/ml程度の細胞密度にて凍結保護液で再懸濁し、必要なら小分け分注し、通常の細胞保存方法に従い、凍結保存する。
5.適当な期間保存後、融解し、使用する。
凍結方法は特に限定されることはないが、−20℃以下、好ましくは−50℃以下、より好ましくは−80℃以下の超低温冷凍庫中で、又は液体窒素中で保存する。凍結保存期間も特に限定されることがないが、上皮細胞が死滅するよう、例えば1日以上、好ましくは3日以上、より好ましくは1週間以上の期間とする。尚、液体窒素中で4ヶ月保存しても、毛乳頭細胞は生存し続けていることが確認された。凍結保護液としては細胞の保存において使用されている通常の保存液、例えばセルバンカー2細胞凍結保存液(カタログNo.BLC−2)(日本全薬工業製)が使用できる。
本発明の毛乳頭細胞はあらゆる哺乳動物、例えばヒト、チンパンジー、その他の霊長類、家畜動物、例えばイヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、他に実験用動物、例えばラット、マウス、モルモット、より好ましくはヌードマウス、スキッドマウス、ヌードラットの表皮に由来し得る。
このようにして獲得した毛乳頭細胞を、本発明に従い、毛包形成誘導能を有する上記遺伝子の発現を亢進させる条件下で培養し、しかるのち適当な上皮細胞と混合し、その培養毛乳頭細胞−上皮細胞混合物を植毛に用いることができる。
「上皮系細胞」は、皮膚の表皮または上皮の大部分を構成する細胞であり、真皮に接する1層の基底細胞から生じる。マウスを例にすると、上皮系細胞としては新生仔(もしくは胎児)に由来する上皮系細胞が好ましく使用できるが、成熟した皮膚、例えば休止期毛の表皮又は成長期毛の表皮に由来する細胞でも、ケラチノサイトの形態にある細胞の培養物であってもよい。かような細胞は、当業者周知の方法により所望のドナー動物の皮膚から調製することができる。
好適な態様において、上皮系細胞は以下のとおりにして調製できる。
1.哺乳動物の表皮を用意する。
2.この表皮を、必要なら0.25%トリプシン/PBS中で4℃下で一晩静置することでトリプシン処理する。
3.ピンセットなどにより表皮部分のみ剥離し、細切後、適当な培養液(例えばケラチノサイト用培養液)中で4℃で約1時間懸濁処理する。
4.この懸濁物を適当なポアサイズを持つセルストレーナーに通し、次いで遠心分離器にかけて上皮系細胞を回収する。
5.この細胞調製品をKGMあるいはSFM培地に所望の細胞密度で懸濁し、使用直前まで氷上に静置しておく。
本発明の上皮系細胞は毛乳頭細胞と同様、あらゆる哺乳動物、例えばヒト、チンパンジー、その他の霊長類、家畜動物、例えばイヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、他に実験用動物、例えばラット、マウス、モルモット、より好ましくはヌードマウス、スキッドマウス、ヌードラットの表皮に由来し得る。また、その表皮部位は有毛部位、例えば頭皮でも、無毛部位、例えば包皮であってもよい。
培養毛乳頭細胞、対、上皮系細胞の細胞数の比は、毛包形成のため、1:3〜10:1、更に好ましくは1:1〜10:1、更により好ましくは1:1〜3:1、最も好ましくは1:1としてよい。
毛乳頭細胞と上皮系細胞との組み合わせは同種系でも、異種系でもよい。例えば、毛乳頭細胞調製品がマウスに由来する場合、上皮系細胞はマウスに由来するか(同種系)、又はその他の種、例えばラット、ヒトに由来してもよい(異種系)。従って、植毛用の組成物は、例えば、培養毛乳頭細胞及び上皮系細胞が共にマウスに由来する組み合わせ、共にラットに由来する組み合わせ、もしくは共にヒトに由来する組み合わせでも(以上、同種)、又は培養毛乳頭細胞がマウスに由来し、上皮系細胞がラットに由来する組み合わせ、培養毛乳頭細胞がラットに由来し、上皮系細胞がマウスに由来する組み合わせ、培養毛乳頭細胞がマウスに由来し、上皮系細胞がヒトに由来する組み合わせ、培養毛乳頭細胞がラットに由来し、上皮系細胞がヒトに由来する組み合わせ、培養毛乳頭細胞がヒトに由来し、上皮系細胞がマウスに由来する組み合わせ、培養毛乳頭細胞がヒトに由来し、上皮系細胞がラットに由来する組み合わせ(以上、異種)、等であってよい。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
毛乳頭細胞の調製
新生仔ICR系統マウスをエタノール、リン酸緩衝生理食塩水(以下、PBS)で洗浄後、背部皮膚を切除し全層皮膚を摘出した。トリプシン溶液上に浮かべて4℃で一晩静置後、表皮をピンセットで除去して得られる真皮をコラゲナーゼで処理、細胞懸濁液を得た。セルストレーナーによりこの懸濁液をろ過、静置により沈殿物を除去してDP画分を得た。1×105〜/1×108mlの細胞密度になるように凍結保護液に再懸濁し、凍結チューブに分注し、通常の細胞凍結法に従い液体窒素内で1週間以上保存した。これを、DMEM(10%FBS)中で融解、高密度(3〜7×105個/cm2)または低密度(5〜9×104個/cm2)で1〜4日間37℃、CO2中、DMEM(10%FBS)の中で培養した。
上皮細胞画分の調製
新生仔ICR系統マウスをエタノール、PBSで洗浄後、背部皮膚を切除し全層皮膚を摘出した。トリプシン溶液上に浮かべて4℃で一晩静置後、ピンセットで表皮部分を剥離し、細切してケラチノサイト用培養液(以下、SFM)中、4℃で約1時間攪拌懸濁した。セルストレーナーで固形物を除去後、遠心分離機(×900g、10分)にかけて得られたペレットをSFM培地で再懸濁し、上皮細胞画分を得た。使用直前まで氷上に静置した。
ヌードマウス背部皮膚への細胞移植による毛包再生評価系
上記のようにして4日間培養することにより調製したDP画分(高密度培養または低密度培養5〜10×106個)および上皮画分(2匹分、およそ1×107個)を静かに混合し、遠心して上清を除去したペレットを、あらかじめヌードマウスに外科的に埋め込んだシリコンチャンバー内の筋膜上に播種した。1週間後シリコンチャンバーの上部を切除し、2週間後にシリコンチャンバーを除去した。細胞移植後、3〜4週間後の外観観察および組織観察により毛包形成を判定した。その結果を図1に示す。
図1から明らかなとおり、高密度条件下で培養した毛乳頭細胞を用いて移植を行った場合には発毛が認められ、毛包形成したが、低密度条件下で培養した毛乳頭細胞を用いて移植を行った場合、発毛は認められず、毛包形成されないことが実証された。従って、培養毛乳頭細胞を移植して毛包を形成させるためには、毛乳頭細胞を所定以上の高い細胞密度条件下で培養する必要があることが明らかである。
マイクロアレイ実験
上記のようにして1又は4日間培養することにより調製したDP画分(高密度培養または低密度培養5〜10×106個)にISOGEN(ニッポンジーン)1mlを加え、マニュアルに従い50〜100μgのトータルRNAを抽出した。さらにRNeasyMini(キアゲン)のRNA cleanupの方法に従い、得られたトータルRNAを精製し、バイオアナライザー2100システム(アジレント)により分解物の混入が認められないことを確認した。得られたトータルRNA 500ngをLow RNA Imput Fluorescent Linear Amplification(アジレント)によりマニュアルに従い、Cy5−CTPまたはCy3−CTP(ともにパーキン・エルマー)を用いてそれぞれの蛍光色素のラベル化cRNAを調製した(例えば高密度培養DP由来RNAはCy5ラベル、低密度培養DP由来RNAはCy3ラベル)。それぞれの蛍光色素ラベルcRNA各1μgをハイブリダイゼーションキットPlus(アジレント)を用いて、マニュアルに従い、マウス発生オリゴ(アジレントG4120A)またはマウスオリゴ(アジレントG4121A)マイクロアレイスライド上で60℃で17時間競合的ハイブリダイゼーションに供した。洗浄・乾燥後、直ちにマイクロアレイスキャナー(アジレントG2565AA)によりマイクロアレイの画像化を行った。得られた画像はFeature Extractionソフトウェア(アジレントG2566AA)により各スポットの蛍光強度の数値化を行い、解析に用いた。各遺伝子の発現量を以下の表に示す。
以上の結果から、毛乳頭細胞を毛包形成可能な高密度条件下で培養したときと、毛包形成されない低密度条件下で培養したときとでは、特定の遺伝子の発現量が変わることが明らかとなった。即ち、Tgfbi、Gas1、Thbs2、Ifi202A、Bmp7、Efna1、Efna3、Cidea、Serping1、MS1、Irf6、FmodおよびFxyd4遺伝子については、低密度条件下に比べ、毛包形成可能な高密度条件下で毛乳頭細胞培養した場合の方が、それぞれの発現量が高まることが明らかとなり、これらの遺伝子が毛包の形成・再生に深く関与し、毛包形成誘導を有するものと考えられる。
定量PCR実験
上記マイクロアレイ実験用に調製した精製トータルRNAは、DNase処理(DNA−free RNA KitTM,Zymo Reseach)によりゲノミックDNAを除去した後、ランダムプライマー(ファルマシア)を用いてSuperScriptII(Invitrogen)によりcDNAを合成した。このcDNAを鋳型にLightCyclerでLightCycler−FastStart DNAマスターSYBR Green Iキット(ともにRoche)を用いてマニュアルに従いCyberGreenを用いたリアルタイムPCRによる定量を行った(Mg2+終濃度は3mM、その他反応条件は下記の通り)。
GAPDH(PCR産物の大きさ:201pb)終濃度 0.25μM
Forward:5’−GAGTCAACGGATTTGGTCGT−3’(NM002046:95−104)(配列番号1)
Reverse:5’−TGGGATTTCCATTGATGACA−3’(NM002046:295−276)(配列番号2)
変性:95℃ 15秒、アニーリング:55℃ 10秒、伸長10秒を40サイクル
Serping1(PCR産物の大きさ:439bp,Lener M et al., 1998)終濃度 0.5μM
Forward:5’−GAATTCTTTGACTTCACTTA−3’(NM 009776:1327−1346)(配列番号3)
Reverse:5’−ATTTGTAGAGTTTGATAGGT−3’(NM 009776:1765−1746)(配列番号4)
変性:95℃ 15秒、アニーリング:55℃ 10秒、伸長:72℃ 20秒を40サイクル
Efna1(PCR産物の大きさ:133bp,Pickles JO et al., 2003)終濃度 0.5μM
Forward:5’−TCTGGGCAGTATTGCTCCTAC−3’(NM 010107:672−692)(配列番号5)
Reverse:5’−CTTGTGGGTGTAGTGGGAGAG−3’(NM 010107:804−784)(配列番号6)
変性:95℃ 15秒、アニーリング:55℃ 10秒、伸長:72℃ 10秒を40サイクル
Efna3(PCR産物の大きさ:171bp,Pickles JO et al., 2003)終濃度 0.5μM
Forward:5’−TATTTGTCCGCACTACAACAG−3’(MMU90666:8−28)(配列番号7)
Reverse:5’−AATTTTTCGGAGAACTTGATG−3’(MMU90666:178−158)(配列番号8)
変性:95℃ 15秒、アニーリング:58℃ 5秒、伸長:72℃ 10秒を40サイクル
Gas1(PCR産物の大きさ:205bp)終濃度0.5μM
Foward:5’−GGGGTCTTTCAAGTTCCAAT−3’ (NM 008086:1868−1887)(配列番号9)
Reverse:5’−TCGGTAAGGGGAACTTTTCT−3’ (NM 008086:2072−2053)(配列番号10)
変性:95℃ 15秒、アニーリング:55℃ 10秒、伸長:72℃ 10秒を40サイクル
GAPDHで補正したターゲット遺伝子量の換算:
PCRサイクルの伸長反応時に測定したサイバーグリーンの蛍光光度値をサイクル数に対して片対数プロットし、閾値レベルを設定して各サンプルの対数直線増幅領域との交点をシグナルの立ち上がったサイクル数(クロッシングポイント)と定義するFitPoint法による定量法を用いた。
PCR産物量(すなわち蛍光光度)をY、初期鋳型量をA、PCRの効率に関わる因子をB(但し、0.5<B≦1)、サイクル数をXとすると
Y=A×(B×2)X
右項の対数をとって
Y=log10[A(B×2)X]=log10A+log10(B×2)X
=X×log10(B×2)+log10
と表される。
PCRが理論的に進む領域、すなわち対数プロットが直線になる領域ではB=1となり異なるサンプルを鋳型としたPCRでも傾きは一定で、蛍光値の閾値(ノイズバンド)を設定して(Y=Cとする)この直線との交点(クロッシングポイント)を求めると、立ち上がりのサイクル数)が得られる。
クロッシングポイント(X)=(C−log10A)/log10
これは初期鋳型量を反映している。従って、PCR効率が同じであれば異なるサンプルの鋳型量はどれか一つのサンプルの鋳型量A0を基準として相対値A/A0はそれぞれの立ち上がりのサイクル数(X,Xo)から求められる。
または以下の通り
このようにして求めた標的遺伝子(Fabp4、Fmod、Serg1、Efna1、Efna3)の初期鋳型量(A/A0)をそれぞれのサンプルのGAPDHの初期鋳型量(AG/AG0)で標準化した値
を各反応条件(高密度又は低密度条件下で1又は4日間の培養)ごとに比較した。その結果を以下の表に示す。
高密度および低密度培養毛乳頭細胞移植したマウスの毛包形成の比較。

Claims (2)

  1. 形質転換増殖因子β誘導型68kDa遺伝子(Tgfbi)、増殖停止特異的1遺伝子(Gas1)、トロンボスポンジン 2遺伝子(Thbs2)、インターフェロン活性化遺伝子202A(Ifi202A)、骨形態形成タンパク質7遺伝子(Bmp7)、エフリンA1遺伝子(Efna1)、エフリンA3遺伝子(Efna3)、細胞死誘導DNA分断因子,αスブユニット様エフェクターA遺伝子(Cidea)、セリン又はシステインプロテイナーゼインヒビター,クレードG(C1インヒビター),メンバー1遺伝子(Serping1)、システインプロテイナーゼインヒビター1遺伝子(MS1)、インターフェロン調節因子6遺伝子(Irf6)、フィブロモジュリン遺伝子(Fmod)およびFXYDドメイン含有イオン輸送レギュレーター4遺伝子(Fxyd4)から成る群から選ばれる毛包形成誘導能を有する1または複数の遺伝子の発現を亢進させることにより毛包を再生する方法。
  2. Tgfbi、Gas1、Thbs2、Ifi202A、Bmp7、Efna1、Efna3、Cidea、Serping1、MS1、Irf6、FmodおよびFxyd4から成る群から選ばれる毛包形成誘導能を有する1または複数の遺伝子の発現を亢進させることを特徴とする、毛乳頭細胞を培養する方法。
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