本発明は、中圧および高圧逆相液体クロマトグラフィー(「RPC」)への使用に好適な剛性高性能ポリマー充填剤を提供する選択された細孔率および浸透性特性を有する新規なマクロポーラスポリマー、ならびにこれが使用されるカラムに関する。本明細書に開示されるポリマーは、インスリンおよびインスリン様化合物などの生体分子のクロマトグラフィー分離、または精錬に特に有用である。
本発明のポリマー樹脂は、現行技術の重大な欠点を克服する。インスリンおよびインスリン様分子の最終精錬(すなわち、最終精製段階における少量不純物の除去)は、従来的に、高圧条件下で操作されるRPCシリカゲル充填剤を使用して実施されている。たとえば、Kromasil(商標)シリカ(Eka Chemicals、Separation Products、SE−445 80 Bohus、Swedenにより市販されている)などのシリカ充填剤が、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)法において分析規模から生産規模まで使用されている。用語「RPCシリカゲル」は、ゲル表面と生体分子との間の疎水性相互作用を促進するために疎水性リガンドで表面改質されている多孔質シリカ粒子を意味することを理解されたい。有用な疎水性リガンドの例としては、3〜20個の炭素原子、最も典型的には4〜18個の炭素原子のアルカンが挙げられるが、その他の疎水性リガンドも可能である。充填剤の細孔径は、生体分子が制限なしに拡散して材料を出入りすることができるために適切でなければならない。インスリンなどの生体分子の精製に有用な細孔径は、最も典型的には50〜300オングストロームである。
大規模精錬に有用な充填剤の粒子サイズは、混合物からの高純度生成物の回収が、最も高い可能収率、最も短いサイクル時間で可能となるために十分小さい必要がある。しかし、粒子サイズは、極度の圧力低下がクロマトグラフィーカラム中に発生するほど小さくなってはならない。RPC製造クロマトグラフィーにおけるこれらの要求を満たす粒子サイズは、典型的には5〜50ミクロンの範囲であり、最も典型的には10〜20ミクロンの範囲である。
重要なことは、製造プロセスにおいて遭遇する条件下で有用となるために、RPC充填剤は、典型的には2〜100cmの内径を有するクロマトグラフィーカラムで発生する高い作業圧力に耐えるよう機械的に剛性である必要があることである。カラムは、20bar〜100barの圧力で一般に操作され、高い背圧は、クロマトグラフィー法で使用される小さい粒子サイズ、速い流速、および粘稠有機溶媒の組み合わせによるものである。工業用高圧液体クロマトグラフィーでは、樹脂上に直接動的な力を作用させるピストンを備えたカラムが一般に使用される。クロマトグラフィーカラム中の流体力学的圧力以上の力(圧力)が作用するように、ピストンが能動的に維持されることが好ましい。たとえば、Novasep製造のダイナミック・アキシャル・コンプレッション(Dynamic Axial Compression)(DAC)カラム(Novasep、BP−50 54340 Pompey,Franceにより市販されている)が大規模高性能液体クロマトグラフィー(「HPLC」)法で使用されている。
高性能RPCシリカゲル充填剤は、典型的なプロセス条件下で遭遇する圧力に耐える機械的強度を有する。さらに、これらの材料を所望の粒子サイズおよび細孔サイズ特性を有するように構築して、最終精錬プロセスにおいてクロマトグラフィー性能(分解能、サイクル時間など)を得ることができる。しかし、これらの充填剤は、高pH条件下で操作することができず、そのため広範囲の生体分子分離における使用は厳しく限定される。製造プロセスの通常の部分として、クロマトグラフィーカラムに定位置でアルカリ溶液を使用する定置洗浄または定置消毒(それぞれ「CIP」および「SIP」)が望まれる。シリカゲル充填剤は、これらの条件下では長期間安定性を有さず、インスリン製造プロセスにおいて頻繁に交換する必要があり、結果として全体の経済性が低くなっている。シリカベースの材料のさらなる欠点は、シリカベースのマトリックス、またはこれに結合したリガンドの、ターゲット分子を含有する溶離液中への漏出である。交換の頻度が減少し、現在の生物医薬品プロセスにおいて望まれる洗浄プロトコルに耐えることができるために十分な、化学的耐久性および機械的耐久性の両方を有するクロマトグラフィー精錬用樹脂が必要とされている。
合成ポリマーをベースとするクロマトグラフィー充填剤は、強アルカリ条件による化学的な影響を受けない。これらの材料は典型的には、広範囲のpH条件にわたって操作可能であり、生体分子の分離においてはシリカベースの材料よりも有用性が高い。ポリマー樹脂は、高pH溶液を使用して積極的に洗浄することができ、そのためカラム寿命が改善され、その結果、生物医薬品製造プロセス全体の経済性が改善される。さらに、シリカベースの充填剤を用いては不可能な方法において、ポリマー充填剤を用いて高pHの移動相を使用することができるので、開発科学者は、効率的な生物医薬品製造プロセスを設計するに際して、用いるツールが増えることとなる。ある種の分子は高pH条件下で溶解性が改善され、プロセス中のカラム容量およびクロマトグラフィー選択性も改善される。
しかし、既存のポリマー材料の欠点は、最新式のRPCシリカゲルによって得られる優れたクロマトグラフィー性能および圧力安定性の組み合わせを同時には有さないことである。「優れたクロマトグラフィー性能」とは、高い収率−純度を、高スループットで、最小限のサイクル時間において得ることを意味する。「圧力安定性」とは、プロセス中に遭遇する高圧条件下での顕著な変形に耐える充填材の能力を意味する。ゲル粒子が顕著に変形すると、充填床の空隙体積(したがって媒体の浸透性)が減少して、それによって、背圧が増加し、カラムを通過する溶媒の許容される流速が低下する。これによってプロセス中のサイクル時間および処理能力が低下する。
インスリンなどの化合物の最終精錬のためのクロマトグラフィー性能は、高収率、高純度、速いサイクル時間、および高スループット(スループットは収率、カラム容量、およびサイクル時間の組み合わせである)を表す4つの頂点を有する四面体で視覚化されて説明されることが多い。本発明が対処する問題は、上記4つの基準に適合し、一方100barまでの圧力にさらされた場合に顕著な変形に抵抗することができる能力を同時に示すことによって、最終精錬ステップにおけるクロマトグラフィー性能を実現するポリマー樹脂を提供することである。
高圧下で使用されるRPCポリマーは、Lloyd,L.L.およびWarner,F.P.、J.Chrom.、Vol.512、pp365−376(1990)、およびLloyd,L.L.、J.Chrom.、Vol.544、pp201−217(1991)に記載されている。これらの参考文献には、壁効果がないことによるポリマーの圧密性によってさらなる大きな圧力の蓄積が予想される大規模の高圧DACクロマトグラフィーカラムにおける操作は開示されていない。
インスリン精錬に使用される逆相ポリマー材料が、米国特許第6,710,167号に記載されている(以後、特許文献1)。この特許は、80barもの高圧における逆相ポリマー材料の使用に関するが、40barを超える圧力におけるポリマー材料に関する実現可能な開示を提供していない。特許文献1に示される80barにおける圧力安定性データは、シリカベースの材料についてのみであり、ポリマー材料については示されておらず、これが本発明の主題である。さらに、インスリン分離においてシリカ対照標準のクロマトグラフィー性能に見合う、または超える可能性が示されている唯一のポリマー樹脂は、40barの圧力でさえも顕著に変形性であった。後述の実施例の1つでは特許文献1中のポリマー材料が100barの圧力で実質的に変形性であることを示している。
特許文献1に記載される逆相ポリマー材料のさらなる欠点は、開示される最高カラム負荷レベルが、媒体1リットル当たり6gのインスリンであることである。より高い負荷キャパシティのポリマー材料が当技術分野において必要とされている。高い負荷キャパシティは、より高いスループット、および製造コストの削減につながる。
逆相ポリマー材料は、米国特許第6,387,974号(以後、特許文献2)にも開示されている。この特許に、80〜100barもの高圧でのプロセスにおける逆相ポリマー材料が挙げられているが、60barを超える圧力における実現可能な開示を提供していない。本発明の一実施例においては、特許文献2によって得ることができる市販材料が、100barの圧力で実質的に変形性であることを示している。
特許文献2のさらなる欠点は、インスリンの最終精錬/精製に対する実現可能な開示を提供していないことである。本明細書における一実施例では、特許文献2に記載の市販材料が収率−純度性能で所望のレベルが実現されないことを示している。
米国特許第6,710,167号明細書
米国特許第6,387,974号明細書
米国特許第4,336,173号明細書
Lloyd,L.L.およびWarner,F.P.、「J.Chrom.」、Vol.512、pp365−376(1990)
Lloyd,L.L.、「J.Chrom.」、Vol.544、pp201−217(1991)
本発明は、またインスリンおよびインスリン様化合物などの生体分子の最終精錬に好適なマクロポーラスポリマー充填剤を提供する。この充填剤によって100barまでの圧力に曝露した場合の圧力安定性および低い変形性;高分解能のための小さな粒子サイズ、および最小限の圧力低下のための均一な粒子サイズ分布;ターゲット分子の高い負荷能;および最小限のサイクル時間でターゲット分子を高収率−純度で得る能力を同時に提供する。高収率−高純度を実現するために必要な小さな粒子サイズの充填剤は本質的に高い背圧を発生させるので、100barまでの圧力安定性が、小さく均一な粒子サイズの充填剤についても提供される。
一態様において、本発明は、本明細書に記載の逆相ポリマー樹脂上でのインスリンまたはインスリン様分子の精製方法を提供する。この方法は、逆相ポリマー樹脂の単独使用、またはシリカとの併用を含む。本発明の一態様において、ポリマー樹脂は単分散性ポリマー樹脂である。単分散性樹脂は、ふるい分け、ジェッティング、およびシード拡張(expansion)技術などの当技術分野の種々の方法によって作製される。一態様において、樹脂の細孔サイズは200〜800オングストロームであり、細孔容積は0.8〜2.4cc/ccである。充填床の「流動抵抗」によって測定される樹脂の圧力安定性は、100barの圧力で2,000以下である(用語「流動抵抗」は媒体浸透性の逆数であり、後の段落で定義される)。
本発明の他の態様において、本明細書に記載の逆相ポリマー樹脂を使用する、少なくとも90%の純度インスリンまたはインスリン様分子を得る方法が提供される。この樹脂によって、85%以上の収率のインスリンまたはインスリン様分子が提供される。本発明の他の態様において、小さな単分散性ポリマー樹脂を使用して、ある純度のインスリンまたはインスリン様分子を得る方法が提供される。この態様では、単分散性ポリマー樹脂は、75%を超える前記インスリンまたはインスリン様分子の収率、および少なくとも98%の純度を提供する。
本発明のさらに他の態様において、シード拡張法によって製造された小さく均一な粒子サイズの圧力安定性逆相ポリマー樹脂を使用してクロマトグラフィーが行われる。シード拡張法は、0.5ミクロンから200ミクロン超までの均一なポリマービーズを作製するために使用される。最終精錬には、粒子は5〜50ミクロンのサイズのものが特に有用であり、5〜20ミクロンのサイズの粒子が最も有用である。カラムクロマトグラフィー用途では、狭い粒子サイズのビーズによってカラム分解能(すなわち収率−純度)が劇的に改善される。単分散性の粒子サイズに関連する他の利点としては、カラムの効率的な充填、均一な流れ、および低い背圧が挙げられる。粒子形状、細孔サイズ、および表面積は、本明細書に記載の技術を使用して有利に制御される重要な別の一群の物理的性質である。これらの技術によって、最終精錬ステップにおける優れたクロマトグラフィー分離能、高圧条件下での変形に対する抵抗性、ならびに低い背圧および高分解能のための均一な粒子サイズを有するポリマー樹脂の形成が可能となる。
シード添加拡張重合方法では、最初に膨潤性単分散性シードを、安定剤と共に連続水性相中に懸濁させる。モノマー含有開始剤(通常はエマルジョンの形態)を次いで加えて、シードをより大きなサイズに膨潤させる。シードはサイズが均一であり同一組成を有するので、これらのシードは、同じ膨潤能力を有し、それぞれ個々のシードについて同量のモノマーを熱力学的に吸収する。したがって、均一なモノマー液滴が得られる。加熱温度で懸濁重合を行うと、均一なポリマー粒子が形成される。
シードは、テンプレートとして機能し、モノマーを容易に吸収することができるポリマーおよび/またはオリゴマーを含有する均一な粒子である。結果として得られる最終ポリマーの粒子サイズは、初期シードのサイズ、サイズ分布、および膨潤性などの特性によって主に決定される。シード粒子に関しては多数の要求事項が存在する。第1に、シードがテンプレートとして使用されるので、そのサイズ分布が均一であり、それによって、最終的に伸張されたポリマー粒子の粒子サイズ分布が同様に均一とならなければならない。第2に、シードは、溶媒(ポロゲン)をも含有するモノマーを迅速かつ均一に吸収することができるべきである。全体のポリマープロセスにおいて膨潤プロセスが最も時間を消費するステップであることが多いので、迅速な膨潤が特に望まれる。第3に、シードは、吸収するモノマーおよび最終ポリマーの両方に対して化学的に混和性となるべきであり、さもないと、シードが重合中に放出されて、最終生成物中に穴が残る場合がある。最後に、シードは、最終ポリマー樹脂製品の化学的、物理的、または性能の特性に対して悪影響を生じてはならない。本発明の一態様において、シードは、単分散であり、組成がオリゴマーであり、最適なサイズおよび高い膨潤能力も有するシードであって、最小回数の拡張で目標ポリマー樹脂生成物のサイズに適合することができる。本発明の他の態様において、本発明に使用される樹脂の製造方法は、連鎖移動剤としてのチオール類の使用を含む。
ポリマー粒子を生成するための数種類のシード添加拡張重合方法が存在し、それらのそれぞれを本明細書に開示される本発明と組み合わせて使用することができる。そのような方法の1つは、2段階「活性化」シード添加拡張重合(「ウゲルスタッド(Ugelstad)法」)と呼ばれている。米国特許第4,336,173号。この方法は、組成がポリマーであるシードで出発する。このポリマーシードは、最初に、全体の膨潤能力を増大させるために、高い水不溶性の有機化合物または膨潤剤を使用して「軟化」すなわち予備膨潤させる必要がある。これにより、得られたシード(膨潤剤を含有する)は、次いで純粋なポリマーシード自体よりも大きな体積のモノマーを吸収することができる。
本発明の他の態様において、改良された1段階膨潤/重合方法を使用し、組成がオリゴマーであるシードを使用して、樹脂が製造される。オリゴマーシードが、本発明による教示のように容易に入手可能であれば、膨潤過程がより容易になり、サイクル時間がウゲルスタッドの2段階膨潤方法よりもはるかに短縮される。オリゴマーシードを使用する本発明の1段階膨潤/重合方法は、前述の性能特性を有する最終精錬に好適な逆相ポリマー粒子を合成するための重要な手段である。
これらの技術は、最終精錬精製に好適なマクロポーラス逆相ポリマー樹脂を提供することにより本発明により対処される問題の解決に使用される。このポリマー樹脂によって、最終精錬ステップにおいて、高品質RPCシリカゲルと同等の性能特性を有するクロマトグラフィー性能が実現され、同時に100barまでの圧力に曝露した場合にDACカラム中での顕著な変形に抵抗する能力が示される。
これに関して、本発明は、(a)50〜100重量%の1種類以上のポリビニル芳香族モノマー、および(b)0〜50重量%の1種類以上のモノ不飽和ビニル芳香族モノマーの重合モノマー単位を含むマクロポーラスポリマーであって;前記ポリマーが、(i)0.7〜2cm3/gの全細孔率;(ii)0.7〜1.9cm3/gの使用可能なメソ細孔率;(iii)2〜50ミクロンの平均粒子サイズ直径、(iv)200〜1500m2/gの表面積;(v)100barの圧力において2,000未満の流動抵抗値;(vi)インスリン50〜150g/ポリマー1リットルの全インスリンキャパシティ、およびインスリン50〜150g/ポリマー1リットルの動的インスリンキャパシティ;ならびに(vii)70〜99.9%の範囲のインスリンまたはインスリン様分子の収率、および任意に95〜100%の範囲の前記インスリンまたはインスリン様分子の純度;を得る能力を有する、ポリマーを提供する(異なる供給元からのインスリン混合物は、異なる不純物特性を有し、それ自体で収率−純度の差が生じることがあり、そのため本発明との比較として高品質シリカゲルが対照標準として示されていることを理解されたい)。
本発明は、また0〜50%のモノビニル芳香族モノマー、および50〜100%のポリビニル芳香族モノマーとから、40〜100%のポロゲン、および0.5〜10%のフリーラジカル重合開始剤の存在下、水性懸濁液中で重合するステップを含むマクロポーラスポリマーを調製するためのシード添加拡張重合方法を提供し、ここですべての%量はモノマーの全重量を基準としている。
本発明は、インスリンまたはインスリン様分子などの生体分子混合物の水性溶液の最終精錬方法であって、前記水性溶液を、前述のマクロポーラスポリマーと、2〜100センチメートルの内径を有する液体クロマトグラフィーカラム中で接触させるステップを含み、前記カラムが10〜100barの圧力で操作される方法をさらに提供する。
本明細書全体で使用される場合、他に明記しない限り、以下の用語は以下の意味を有するものとする。
用語「アルキル(メタ)アクリレート」は、対応するアクリレートエステルまたはメタクリレートエステルのいずれかを意味し;同様に、用語「(メタ)アクリル」は、アクリル酸またはメタクリル酸のいずれか、および対応する誘導体、たとえばエステルまたはアミドを意味する。他に明記しない限り、記載のすべての%値は、問題となるポリマーまたは組成物の全重量を基準にした重量パーセント(%)の単位で表される。用語「コポリマー」は、位置異性体を含めた2種類以上の異なるモノマーの単位を含むポリマー組成物を意味する。本明細書では次のような略語が使用される:g=グラム;ppm=重量/体積による百万分率、cm=センチメートル、mm=ミリメートル、ml=ミリリットル、L=リットル。他に明記しない限り、挙げられている範囲は両端の値を含み、組み合わせることが可能であると見るべきであり、温度の単位は摂氏温度(℃)である。
高性能逆相液体クロマトグラフィーによる(たとえば直径2〜100cmのカラム中における)生体分子の最終精錬に有用な本発明のポリマーは、典型的には平均粒子サイズが2〜150、好ましくは5〜100、より好ましくは10〜75、最も好ましくは5〜20μmである。
本発明のマクロポーラスポリマーは、典型的にはシード添加拡張重合によって生成され、200〜1500、好ましくは300〜1200、より好ましくは400〜1000平方メートル/グラム(m2/g)の表面積を有する。このマクロポーラスポリマーは好ましくは、たとえば、米国特許第4,382,124号に開示される種類のものであり、たとえばこれによると、モノマーにとって溶媒であるがポリマーにとっては非溶媒であるポロゲン(「相エキステンダー」または「沈殿剤」とも呼ばれる)の存在によってポリマービーズ中に細孔が導入される。米国特許第4,382,124号により調製されるような従来のマクロポーラスポリマーは、典型的には広範囲のポロゲンの種類、モノマー相に対するポロゲン濃度、モノマーの種類、架橋性モノマーの種類、架橋剤レベル、重合開始剤、および開始剤濃度の使用を伴う。しかし、以下のシード添加拡張重合技術に、ある選択されたポロゲンの種類、およびモノマー相に対する濃度、特定のモノマーおよび選択されたレベルの架橋剤、ならびに選択された重合開始剤濃度を併用することで調製されたマクロポーラスポリマーが、予期せぬ剛性ポリマー構造を有し、高性能逆相液体クロマトグラフィーによる生体分子の分離および精製における改善された性能に帰着するという発見に、本発明は基づいている。
本発明に有用なマクロポーラスポリマーの調製に使用することができる好適なポリビニル芳香族モノマーとしては、たとえば、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルアントラセン、およびジビニルキシレンから選択される1種類以上のモノマーが挙げられ;上記架橋剤のそれぞれの種々の位置異性体がいずれも好適であると理解され;好ましくはポリビニル芳香族モノマーはジビニルベンゼンである。典型的にはマクロポーラスポリマーは、50〜100%、好ましくは65〜100%、より好ましくは75〜100%のポリビニル芳香族モノマー単位を含む。
任意に、脂肪族架橋性モノマー、たとえばエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ジエチレングリコールジビニルエーテル、およびトリビニルシクロヘキサンも、ポリビニル芳香族架橋剤に加えて使用することができる。使用される場合、これらの脂肪族の架橋性モノマーは、典型的には、重合単位として、マクロポーラスコポリマーを生成するために使用される全モノマー重量を基準にして、マクロポーラスポリマーの0〜20%、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜5%を構成する。
本発明に有用なマクロポーラスコポリマーの調製に使用することができる好適なモノ不飽和ビニル芳香族モノマーとしては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、(C1〜C4)アルキル−置換スチレン、ハロ置換スチレン(たとえば、ジブロモスチレンおよびトリブロモスチレン)、ビニルナフタレン、およびビニルアントラセンが挙げられ;好ましくはモノ不飽和ビニル芳香族モノマーはスチレンおよび(C1〜C4)アルキル−置換スチレンの1種類以上から選択される。好適な(C1〜C4)アルキル−置換スチレンとしては、たとえば、エチルビニルベンゼン、ビニルトルエン、ジエチルスチレン、エチルメチルスチレン、およびジメチルスチレンが挙げられ;前述のビニル芳香族モノマーのそれぞれの種々の位置異性体がいずれも好適であると理解され;好ましくはモノ不飽和ビニル芳香族モノマーはエチルビニルベンゼンである。典型的には、マクロポーラスポリマーは、0〜50%、好ましくは0〜35%、より好ましくは0〜25%のモノ不飽和ビニル芳香族モノマー単位を含む。
任意に、非芳香族ビニルモノマー、たとえば脂肪族不飽和モノマー、たとえば、塩化ビニル、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、および(メタ)アクリル酸のアルキルエステル(アルキル(メタ)アクリレート)も、ビニル芳香族モノマーに加えて使用することができる。使用される場合、非芳香族ビニルモノマーは、典型的には、重合単位として、マクロポーラスコポリマーを形成するために使用される全モノマー重量を基準にして、マクロポーラスコポリマーの0〜20%、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜5%を構成する。
好ましいマクロポーラスポリマーは、ジビニルベンゼンコポリマー、スチレン−ジビニルベンゼンコポリマー、ジビニルベンゼン−エチルビニルベンゼンコポリマー、およびスチレン−エチルビニルベンゼン−ジビニルベンゼンコポリマーの1種類以上から選択され;より好ましくはジビニルベンゼン−エチルビニルベンゼンおよびスチレン−エチルビニルベンゼン−ジビニルベンゼンポリマーである。
本発明のマクロポーラスポリマーの調製に有用なポロゲンとしては、疎水性ポロゲン、たとえば(C7〜C10)芳香族炭化水素および(C6〜C12)飽和炭化水素;ならびに親水性ポロゲン、たとえば(C4〜C10)アルカノールおよびポリアルキレングリコールが挙げられる。単一のポロゲン系または混合したポロゲン系のいずれをも使用することができる。好適な(C7〜C10)芳香族炭化水素としては、たとえば、トルエン、エチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、およびp−キシレンの1種類以上が挙げられ;上記炭化水素のそれぞれの種々の位置異性体がいずれも好適であると理解される。好ましくは芳香族炭化水素は、トルエンまたはキシレン、あるいはキシレン類の混合物、またはトルエンとキシレンとの混合物である。好適な(C6〜C12)飽和炭化水素としては、たとえば、ヘキサン、ヘプタン、およびイソオクタンの1種類以上が挙げられ;好ましくは、飽和炭化水素はイソオクタンである。好適な(C4〜C10)アルカノールとしては、たとえば、イソブチルアルコール、tert−アミルアルコール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、メチルイソブチルカルビノール(4−メチル−2−ペンタノール)、ヘキサノール、およびオクタノールの1種類以上が挙げられ;好ましくは、アルカノールは1種類以上の(C5〜C8)アルカノールから選択され、たとえばメチルイソブチルカルビノールおよびオクタノールから選択される。好ましくは、ポロゲン混合物は、(C5〜C8)アルカノールの1種類以上から選択される親水性ポロゲンと、(C7〜C10)芳香族炭化水素の1種類以上から選択される疎水性ポロゲンとを含む。
典型的には、本明細書に記載の技術を使用すると、本発明のポリマーの調製に使用されるポロゲンの総量は、モノマー重量を基準にして、最も好ましくは45〜100%である。ポロゲンレベルが100%を超えると、DACカラム中の高圧条件(100barのピストン圧)でポリマーは低い流動抵抗値(高い変形性)を有する。これはポロゲンレベルが45%未満から確認することができ、そのポリマーは、ウシインスリン結合試験(表1参照)によって測定されるクロマトグラフィー特性が低い。
本発明のポリマーの調製に有用な重合開始剤としては、モノマー可溶性開始剤、たとえば過酸化物、ヒドロペルオキシド、および関連する開始剤が挙げられ;たとえば、過酸化ベンゾイル、tert−ブチルヒドロペルオキシド、クメンペルオキシド、テトラリンペルオキシド、アセチルペルオキシド、カプロイルペルオキシド、tert−ブチルペルオクトエート(tert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエートとも呼ばれる)、tert−アミルペルオクトエート、tert−ブチルペルベンゾエート、tert−ブチルジペルフタレート、ジシクロヘキシルペルオキシジカーボネート、ジ(4−tert−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、およびメチルエチルケトンペルオキシドが挙げられる。アゾ開始剤、たとえば、アゾジイソブチロニトリル、アゾジイソブチルアミド、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、アゾ−ビス(α−メチル−ブチロニトリル)、およびジメチル−、ジエチル−、またはジブチルアゾ−ビス(メチルバレレート)も有用である。好ましい過酸化物開始剤は、ジアシルペルオキシド、たとえば過酸化ベンゾイル、ならびにペルオキシエステル、たとえばtert−ブチルペルオクトエートおよびtert−ブチルペルベンゾエートであり;より好ましくは、開始剤は過酸化ベンゾイルである。過酸化物開始剤の好適な使用レベルは、ビニルモノマーの全重量を基準にして、0.5%〜10%、好ましくは1〜9%、より好ましくは2〜7%、最も好ましくは3〜5%である。最も好ましくは、フリーラジカル開始剤が、モノマーの全重量を基準にして2〜7%で存在し、1種類以上のジアシルペルオキシドおよびペルオキシエステルから選択される。
本発明のマクロポーラスポリマーの調製に有用な分散剤および懸濁剤は、ヒドロキシアルキルセルロース主鎖と、1〜24個の炭素原子を含有する疎水性アルキル側鎖と、ヒドロキシアルキルセルロース主鎖の各繰り返し単位を置換する平均で1〜8個、好ましくは1〜5個のエチレンオキシド基とを有し、アルキル側鎖が、ヒドロキシアルキルセルロース主鎖中の100個の繰り返し単位当たり0.1〜10個のアルキル基のレベルで存在する、非イオン界面活性剤である。ヒドロキシアルキルセルロース中のアルキル基は、1〜24個の炭素を含有することができ、線状、分岐、または環状であってよい。より好ましくは、無水グルコース単位100個当たり0.1〜10個の(C16)アルキル側鎖と、各無水グルコース単位を置換する約2.5〜4個のエチレンオキシド基とを含むヒドロキシエチルセルロースである。分散剤の典型的な使用レベルは、水相の全重量を基準にして約0.01〜約4%である。
本発明のマクロポーラスポリマーの製造に有用な他の分散剤および懸濁剤は、親水性主鎖を含有するポリマーであって、2つの相の界面でそれらの親油性部分をモノマー相に向け、それらの親水性部分を水相に向けることができるポリマーである。このようなポリマー分散剤としては、セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デンプンなどが挙げられる。分散剤の混合物を使用することもできる。これらの他の分散剤は、ある程度多量の凝集物質またはその他の望ましくない物質を生成する傾向にあるため、あまり好ましくない。
任意に、マクロポーラスポリマーは、コーティングすることができ、あるいは公知の方法、たとえば従来のスルホン化、クロロメチル化、およびアミノ化によって種々の従来のイオン化可能官能基(弱酸官能基、たとばカルボン酸基;弱塩基官能基、たとえば第1級、第2級、または第3級アミン官能基;強酸官能基、たとえばスルホン酸基;強塩基官能基、たとえば第4級アンモニウムクロリド基またはヒドロキシド基)で後官能化することができる。
本発明のマクロポーラスポリマーは、向上した剛性ポリマー構造、および重合中にポリマー中に導入される選択された細孔率の結果である改善された浸透性(低流動抵抗)を特徴とする。浸透性(K)は、ダルシー(Darcy)の法則(式1)によりカラム中に発生する背圧と関連する:
ΔP/L=μV/[K(dp)2] 式1
式中:
μ=粘度(ミリパスカル・秒またはセンチポアズ)
V=線速度(cm/時)
ΔP=圧力低下(bar)
L=床高さ(cm)
dp=ポリマーの平均粒子サイズ(μm)
上記変量の単位は、一般的な形態で表され、式1を無次元にするためには単位変換が必要であることが理解できるであろう。ポリマーの剛性が高いほど(すなわち圧密性が低いほど)、ポリマーの浸透性が高くなり、このため溶媒粘度、線速度、および粒子サイズのあらゆる所与の組み合わせで背圧が低くなる。クロマトグラフィー分離および精製の用途では典型的な層流条件下では、カラム中の背圧はカルマン(Carman)−コゼニーの式(式2)によって表現することもできる:
ΔP/L=150・[(1−ε)2/ε3]・μV/(dp)2 式2
式中:ε=粒子間空隙体積(cm3/cm3)
たとえば、「Fundamentals of Preparative and Nonlinear Chromatography」、G.Guiochon、S.Goshan Shirazi、およびA.Katti、アカデミック・プレス(1994);および「Unit Operations in Chemical Engineering」、W.L.McCabe、J.C.SmithおよびP.Harriott、マグローヒル(1985)の参考文献は、ダルシーの法則およびカルマン−コゼニーの式(式1および2)に関するさらなる一般的および具体的詳細を知ることができる。
式1および式2を組み合わせると、クロマトグラフィーカラム中の浸透性(または流動抵抗)をポリマー樹脂床の粒子間空隙体積(すなわちポリマー粒子間の体積)と関係づけるできることが理解され;εはポリマー床の単位体積当たりの空隙体積として表される。この関係は式3で表される:
1/K=150・[(1−ε)2/ε3] 式3
本発明の目的のため、ポリマーの特性「流動抵抗」値が浸透性の逆数になると定義する。この特性「流動抵抗」値は、中圧から高圧の条件下でポリマーがいかによく機能するかを示す指標であり:低い流動抵抗値は低い圧密性を示しており、高い流動抵抗値は圧密性が劣ることを示している。
さらに、ダルシーの法則によると、浸透性または流動抵抗のいずれかの式は一般に、粒子サイズの影響(式1におけるdp)を含んでいる。本発明の目的の1つは、粒子サイズの影響とは無関係に、ポリマー剛性の増加によって改善された流動抵抗を提供することである。式1および2から求められるように、粒子サイズのみが減少すると、所与のポリマーにおいて、より高い背圧が発生すると理解される。
典型的には、本発明のマクロポーラスポリマーは、流動抵抗値(すなわち1/K)が、作業圧力10bar(中圧)において、700から1,800未満まで、好ましくは700から1,500未満まで、より好ましくは1,300未満である。より高い圧力操作(たとえば60bar)では、マクロポーラスポリマーは、流動抵抗値が1,500から7,000未満まで、好ましくは1,500から5,000未満まで、より好ましくは4,500未満となる。最高圧力操作(たとえば100bar)では、マクロポーラスポリマーは、流動抵抗値が1,500から7,000未満まで、好ましくは1,500から5,000未満まで、より好ましくは4,500未満となる。RPCに使用するのに好適なマクロポーラスポリマーは、流動抵抗値が(i)10bar圧の圧力で1,800未満であり、(ii)60barの圧力で7,000未満である。上記限度よりも大きな流動抵抗値を有するポリマーは、市販のRPCカラムで見られるような中圧から高圧で十分な圧縮抵抗性が得られず、そのためスループットが低下し、操作中にカラムの圧力が上昇する。
本発明のマクロポーラスポリマーは、ポリマーの調製に使用されたポロゲンの種類および比率によって得られる選択された細孔率および孔径分布を特徴とする。細孔率は、マイクロメレティクス(Micromeretics)(商標)ASAP−2400窒素ポロシメーター(Porosimeter)を使用して測定される。IUPACによる細孔の用語は以下の通りである:
ミクロ細孔=20オングストローム単位未満の細孔
メソ細孔=20〜500オングストローム単位の細孔
マクロ細孔=500オングストローム単位を超える細孔
本発明の目的については、「使用可能な」ミクロ細孔は、50オングストローム単位未満の直径の細孔として定義され、「使用可能な」メソ細孔は、50〜500オングストローム単位の直径を有する細孔として定義される。本明細書で使用される「使用可能な」細孔と、IUPAC用語による細孔の定義との間のわずかな差は、本発明のマクロポーラスポリマーにおける対象となる生体分子の収着に対応するためには、50オングストローム単位が(20オングストローム単位と比較して)より好適で適切な区切れ目となるからである。
本発明のマクロポーラスポリマーは、典型的には全細孔率が0.7〜2、好ましくは0.9〜1.8、およびより好ましくは1.0〜1.7cm3/gである。典型的には、マクロポーラスポリマーは、使用可能なメソ細孔率が0.7〜1.9、好ましくは0.8〜1.7、およびより好ましくは0.9〜1.4cm3/gである。典型的には、マクロポーラスポリマーは、使用可能なミクロ細孔率が0〜0.5、好ましくは0〜0.3、より好ましくは0〜0.2、最も好ましくは0〜0.1cm3/g未満である。典型的には、マクロポーラスポリマーは、マクロ細孔率が0〜0.6、好ましくは0〜0.5、より好ましくは0〜0.3cm3/gである。マクロ細孔率の値が0.6cm3/gを超えると、全キャパシティという点において、ターゲットとされた分子のサイズおよび形状を有する生体分子についてのポリマーの作用キャパシティが減少する。
インスリン精製能力は、類似のサイズおよび分子構造の生体分子についての大規模分離および精製に好適な媒体としてのポリマーマトリックスの能力の指標となる。
本明細書に実施例を提供する。すべての比率、部、およびパーセント値は、他に明記しない限り重量を基準にして表され、使用されるすべての試薬は、他に明記しない限り良好な工業品質のものである。実施例および表において使用される略語を、対応する説明と共に以下に示す:
MIBC=メチルイソブチルカルビノール(4−メチル−2−ペンタノール)
DVB=ジビニルベンゼン(メタ/パラ異性体の混合物)
EVB=エチルビニルベンゼン(メタ/パラ異性体の混合物)
BPO=過酸化ベンゾイル
rpm=回転/分
v/v=体積/体積
w/v=重量/体積
μm=ミクロン
nm=ナノメートル
g/L=グラム/リットル
cm3/g=立方センチメートル/グラム
μl=マイクロリットル
NA=分析せず
以下の代表的手順を使用して、本発明で使用する、単一サイズでサブミクロンのポリスチレン粒子、および単一サイズの3.0ミクロンのオリゴマーシードを生成する。Frazzaら(米国特許第5,147,937号)が開発した乳化重合方法を使用して0.25ミクロンのポリスチレン粒子を合成した。この方法は、界面活性剤のAEROSOL MA−80(ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)を、ミセルおよび水溶性開始剤(過硫酸アンモニウム)の安定化のために使用することを含む。この反応は、不活性雰囲気下で行われ、モノマーおよび開始剤の全装填物が反応開始時にケトルに入れられる。ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウムは水への溶解性が限られているが、水性相によく分散し、その結果、1%に満たない濃度でわずかに不透明な水性混合物が得られる。重合後に、0.25ミクロンの粒子サイズの、安定で青みがかったラテックスがほぼ100%の収率で得られる。粒子サイズは、BI−90またはBI−90プラスまたはCHDF−2000(キャピラリー流体力学的分別(Capillary Hydrodynamic Fractionation))によって測定した。
(0.6ミクロンのオリゴマーシードの合成)
0.5ミクロンのオリゴマーシードを、0.25ミクロンのポリマーシードから、シード乳化重合(米国特許第5,846,657号)に基づいて合成した。
混合物Aをリアクターに加え、撹拌しながら88℃に加熱した。撹拌しながら混合物B、C、およびDをリアクターに3時間かけて加え、その後温度を88℃で維持し、90分間撹拌した。リアクターの内容物を65℃まで冷却し、1時間撹拌し、その後リアクターの内容物を室温まで冷却した。得られたエマルジョンポリマー粒子は、Brookhaven Instruments BI−90によって測定した直径が0.5ミクロンであった。
以下の例のようにして3ミクロンのオリゴマーシードの合成を行うことができる:
混合物Aを撹拌しながらリアクターに装填した。混合物Bを均一化して、上記リアクターに装填した。ヘキサンチオールがオリゴマーシードに完全に吸収されてから、エマルジョンCをリアクターに装填した。次いでリアクターを室温で20時間撹拌し、次いで85℃に1時間加熱し、次いで95℃にもう1時間加熱した。室温に冷却すると、3ミクロンの粒子サイズの均一なオリゴマー粒子が得られた。
以下の実施例は、本発明の逆相ポリマー樹脂の調製を示しており、この樹脂は生体分子の分離および最終精錬における充填剤として使用される。
シード装填物を、500mlビーカー中で、以下の成分を混合することによって調製した:21.3gの実施例1の固形分30.1%の3.0ミクロンオリゴマーシード、8.5gの1%ソルゾル(solusol)溶液、および105.5gの脱イオン水。
シード溶液を、メカニカルスターラーおよび熱電対を取り付けた1.8リットルのBuchiステンレス鋼反応フラスコ(「リアクター」)に装填した。これに続いて、46.4gの脱イオン水でトランスファーラインを洗浄した。スターラーは150rpmに設定した。
モノマー/ポロゲンエマルジョンを、500ビーカー中で以下の成分を加えることによって調製した:116.1gのジビニルベンゼン(80%DVB/20%EVE)、69.7gのMIBC、142.0gの脱イオン水、および1.49gの75重量%ソルゾル(Solusol)水溶液。
これらの成分をビーカー中で混合して、エマルジョンを得た。このエマルジョンを次いで、Silverson ILE乳化機(50%出力に設定)によって40分間かけて、ビーカーからリアクターに圧送した。
リアクターを1時間かけて60℃に加熱し、この温度で2時間維持して、オリゴマーシードを、モノマーおよびポロゲンエマルジョンで膨潤させた。
60℃で2時間維持した後に、乳化させた開始剤溶液を加えた。このエマルジョンは、50mlのビーカー中で、1.29gのtert−ブチルペルオクトエートを18.7gの1%ソルゾル溶液に加えることによって調製した。これらの成分を均一化してエマルジョンを形成し、ビーカーからリアクターに1回で移した。この後、24.1gの脱イオン水を使用してトランスファーラインを洗浄した。リアクターを60℃でさらに2時間維持した。
2.4gのK4MP(メチルヒドロキシエチルセルロース、Dow Chemical Companyより入手可能)を334.9gの脱イオン水と混合することによって水性溶液を調製した。2時間維持した後、この水性溶液をリアクターに移し、続いて15.8gの脱イオン水でトランスファーラインを洗浄した。
この反応混合物(有機相および水性相の混合)を120rpmで60℃の温度で30分間撹拌した後、80℃まで60分かけて加熱した。この反応混合物を80℃で12時間維持して反応物を重合させた。
重合反応の終了後、混合しながら反応混合物の温度を50℃に調整した。最終pHに到達するまで10%硫酸を水性相にゆっくり加えることによって、水性/ポリマー混合物の水性相のpHを5.0に調整した。
14.4グラムのβ−1,4−グルカン−4−グルカンヒドロラーゼ酵素混合物(Cellulase(登録商標)4000、Valley Research,Inc.より入手可能)を134.5gの脱イオン水と混合し、続いてリアクターに装填した。その温度を50℃で12時間維持した。水性/ポリマー混合物の水性相のpHを、50%水性水酸化ナトリウム溶液で12.0に調整し、リアクター中の温度を90℃まで上昇させた。リアクターをこの温度で5時間維持した。
この水性/ポリマー混合物を室温まで冷却し、リアクターから取り出して、1リットルのクロマトグラフィーカラムに入れた。この水性相をポリマーから濾過し、次いでポリマーの充填床を、2リットルの脱イオン水、次いで3.5リットルのアセトン、最後に3.5リットルのメタノールで洗浄した。この濡れたポリマーを、温度100℃において、2.5mm(0.1インチ)Hgの減圧下で16時間乾燥させた。
この実施例では、本発明のマクロポーラスポリマーのインスリン結合キャパシティを評価する。体積約5mlの試料を小規模試験カラム(内径1.0cm×長さ6.3cm)に入れ、水性溶液からのウシインスリンの前端吸着を評価した;典型的な使用条件下で、ポリマーマトリックスが迅速で効率的な物質移動と、ターゲットプローブ分子(ウシインスリン)に対する高いキャパシティとが得られるかどうかを調べるためにこの試験が設計された。
5gの乾燥ポリマー樹脂(他に明記しない限り実施例2により調製した)を35mlの20%エタノール/水(v/v)と混合し、周囲温度で少なくとも2時間静置した。次いで、20%v/vエタノール/水溶液中の充填剤を、線速度160cm/時で流すことによって、ポリマースラリーをステンレス鋼カラム(サイズ:内径10mm×長さ100mm、Alltech Corp.より入手可能)に充填した。50μLのパルスの1%塩化ナトリウム脱イオン水溶液をカラムに注入し、同時に20%v/vのエタノール/水溶離液を線速度40cm/時で流すことによって、カラム充填剤の品質を確認した。Hewlett Packard Chemstation(登録商標)ソフトウエアを使用して、カラムの効率(段/メートル)および非対称性を計算した。許容されるカラム充填剤のパラメーターの目標値は、最小5,000段/メートルの効率で非対称性が0.8〜1.8であった。
5グラム/水1リットルの濃度のウシインスリン(Sigma−Aldrich Chemical Coより入手可能)の溶液を調製した。この溶液の合計200mlを、カラム中に線速度150cm/時で圧送し、波長291nmに設定したUV分光光度検出器Spectraflow(登録商標)783、ABI Analytical、Kratos Divisionより入手可能)を使用して、溶出物中のウシインスリンを監視した。
UV応答曲線における1%(ポリマー樹脂上に収着したインスリン総量に対して)インスリン破過点における、ポリマー樹脂上に収着したインスリン量を記録することによって、ポリマー樹脂の動的キャパシティ(g/L)を求めた。樹脂のトータルキャパシティ(g/L)は、流入物および溶出物溶液のインスリン濃度をUV分光分析によって測定し、次いで物質収支を求めることで決定した。
ウシインスリン結合キャパシティは、使用時の性能を測定するスクリーニングテストとして使用される。このキャパシティ試験の結果を表1に示す。実施例2の樹脂はこの表の試料番号1−3で表され、試料番号1−1、1−2、1−4、および1−5は配合物中のポロゲンレベルが異なるものを表している。製品性能を最大限にするため、最小限のポロゲンレベルで高い結合キャパシティとなることが望ましい。
試料番号1−6、1−7、および1−8は、米国特許第6,387,974号に開示される技術で調製した樹脂を表している。米国特許第6,387,974号で調製した樹脂と比較すると、本明細書に記載の技術で調製した試料は、はるかに低いポロゲンレベルで高いインスリン結合キャパシティを有するという予想外の結果を示している。以下の実施例で示されるように、このことは、所望の最終精錬性能を有しながら100barにおいて圧力安定性となる逆相ポリマー樹脂を製造するために重要な成功因子である。
次の実施例は、実施例2のポリマー樹脂を使用したウシインスリンの最終精錬を示す。実施例2の樹脂を、内径4.6mm×長さ250mmの寸法のステンレス鋼クロマトグラフィーカラムに充填した。この実施例では以下の移動相を使用した:「緩衝液A」=脱イオン水中の100mMグリシン(pH4.0);「緩衝液B」=100%HPLCグレードのアセトニトリル。
この実施例で使用したインスリンは、92%の粗製純度のウシインスリンであった(Sigma−Aldrich Companyより購入した)。脱イオン水中の10%v/vアセトニトリル中0.1%グリシンを含有し、30mLのTFAでpH2に調整された「ロード用緩衝液」12.5mLに全量75mgのこのインスリンを溶解することによって、ウシインスリン溶液を調製した。18mgインスリン/mLカラムのカラム濃度を得るために十分なインスリン溶液を0.27ml/分(100cm/時)の速度でカラム上にロードした。
ロード後、1カラム体積(4.15mL)のロード用緩衝液を使用して、同じく0.27ml/分の流速で、カラムを洗浄した。17.5%から30%の緩衝液Bの直線グラジエントを、32.5カラム体積(135mL)の溶媒に対して使用してインスリンをカラムから溶出させた。溶出中の溶媒の流速は0.27mL/分であった。溶出物を280nmのUVで監視し、2分ごとに1つの割合でフラクションを回収した。
Zorbax 300SB−C8,300A,5ミクロン樹脂を充填したAgilent Technologiesの逆相HPLCカラム(内径4.6mm×長さ250mm)を使用してフラクションを分析した。フラクション分析において次の溶媒条件を使用した:緩衝液A:HPLCグレードの水中の0.1v/v%TFA;緩衝液B:HPLCグレードのアセトニトリル中の0.1v/v%TFA。Agilent 1100HPLCを分析に使用し、これをカラム温度25℃および流速0.8ml/分で使用した。溶出条件は、25%緩衝液Bを3分間維持した後、25%から35%の緩衝液Bのグラジエントを30分間であった。
ウシインスリンの調製精製の結果を表2に示す。実施例2の樹脂は、この表に試料番号1−3で表されている。他の市販のポリマー樹脂は比較のため示されており、試料1−10(Amberchrom(商標)CG300S)、および試料1−9(Amberchrom(商標)XT20、米国特許第6,387,974号によって実現された市販材料)を含んでいる。試料1−11は、高品質逆相シリカ充填剤(Kromasil(商標)100A、13ミクロンシリカ、Eka Chemicalsより市販される)を表しており、これは性能の対照標準として示している。表2の結果は、本発明の逆相ポリマー樹脂のみが高品質逆相シリカに匹敵する最終精錬精製性能を提供することを示している。
次の実施例では、実施例2のポリマー樹脂を使用してインスリンまたはインスリン様分子の最終精錬を示す。実施例2の樹脂を、内径4.6mm×長さ250mmの寸法のステンレス鋼クロマトグラフィーカラムに充填した。この実施例では以下の移動相を使用した:「緩衝液A」=脱イオン水中の100mMグリシン(pH4.0);「緩衝液B」=100%HPLCグレードのアセトニトリル。
この実施例で使用したインスリンは、Sigmaから購入した純度92%の組み換えヒトインスリンであった。脱イオン水中の10%v/vアセトニトリル中0.1%グリシンを含有し30mLのTFAでpH2に調整された「ロード用緩衝液」12.5mLに全量75mgのこのインスリンを溶解することによって、溶液を調製した。18mgインスリン/mLカラムのカラム濃度を得るために十分なインスリン溶液を0.27ml/分(100cm/時)の速度でカラム上にロードした。ロード後、1カラム体積(4.15mL)のロード用緩衝液を使用して、同じく0.27ml/分の流速で、カラムを洗浄した。
17.5%から30%の緩衝液Bの直線グラジエントを、32.5カラム体積(135mL)の溶媒にわたって使用してインスリンをカラムから溶出させた。溶出中の溶媒の流速は0.27mL/分であった。溶出物を280nmのUVで監視し、2分ごとに1つの割合でフラクションを回収した。
Zorbax 300SB−C8,300A,5ミクロン樹脂を充填したAgilent Technologiesの逆相HPLCカラム(内径4.6mm×長さ250mm)を使用してフラクションを分析した。フラクション分析において次の溶媒条件を使用した:緩衝液A:HPLCグレードの水中の0.1v/v%TFA;緩衝液B:HPLCグレードのアセトニトリル中の0.1v/v%TFA。Agilent 1100HPLCを分析に使用し、これをカラム温度25℃および流速0.8ml/分で使用した。溶出条件は、25%緩衝液Bを3分間維持した後、25%から35%の緩衝液Bのグラジエントを30分間であった。
ヒトインスリンの調製精製の結果を表3に示す。実施例2の樹脂は、この表に試料番号1−3で表されている。他の市販のポリマー樹脂は比較のため示されており、試料1−10(Amberchrom(商標)CG300S)、および試料1−9(Amberchrom(商標)XT20、米国特許第6,387,974号によって実現された市販材料)を含んでいる。試料1−11は、高品質逆相シリカ充填剤(Kromasil(商標)100A、13ミクロンシリカ、Eka Chemicalsより市販される)を表しており、これは性能の対照標準として示している。表3の結果は、本発明の逆相ポリマー樹脂のみが高品質逆相シリカに匹敵する最終精錬精製性能を提供することを示している。
この技術を使用すると、ヒトインスリンを不純物から非常に良好に分離することができる。インスリン70%の収率が、99.5%の純度で得られた。ロードしたインスリンの全体の回収率は>90であった。
この実施例では、本発明のマクロポーラスポリマーの浸透性特性、すなわち圧縮に対する抵抗性をどのように評価したかを説明する。ポリマーは、それらの「流動抵抗」または1/K値(式3参照)によって特徴づけられる。
工業用高圧液体クロマトグラフィーでは、力(圧力)を直接樹脂上に作用させるピストンが備えられたカラムを使用するのが一般的である。クロマトグラフィーサイクル全体で予想される最大流動圧力以上の圧力で床を能動的に圧縮するようピストンが維持されることが好ましい。本発明のポリマーの浸透性特性を試験するために、ポリマー樹脂をProChrom(商標)ダイナミック・アキシャル・コンプレッションカラム(モデルLC.50、Novasepより市販される)に充填し、最初に100barの圧縮圧力に設定したピストンで圧縮した。この試験の目的は、各試料の浸透性特性(圧縮に対する抵抗性)の特性決定を行うことであった。以下に詳細に説明する。
一般に、ポリビニル芳香族ポリマー床の粒子間空隙体積(または浸透性)を測定するために、ポリビニル芳香族ポリマーの疎水性表面とプローブ分子との相互作用が移動相によって解消されるまたは軽減されるように、プローブ分子と相溶性である移動相が選択される。従来のプローブ分子、たとえば線状ポリスチレン、ブルーデキストラン、およびポリエチレングリコールを使用することができるが、非極性移動相(たとえばテトラヒドロフランおよびトルエン)の使用が必要である。しかし、後述の方法で使用されるプローブ分子は非極性溶媒の使用が不要であり、任意の水性−有機溶媒系、たとえば20%エタノールで使用することができる。
カラム中の全空隙体積(粒子内と粒子間の両方)を求めるために、2mlの1%塩化ナトリウム(w/v、20%エタノール水溶液中)を系に注入した。この塩を導電率検出器によって検出した。粒子間空隙体積のみを求めるため、1%(w/v)の0.1〜0.9μmのイオン帯電エマルジョンポリマーまたは微粉砕イオン帯電ポリマー(たとえばイオン化可能官能基、たとえば弱酸官能基(カルボキシレート基)、強酸官能基(スルホネート)、または第4級アンモニウムクロリド基を有する架橋ポリスチレン)を含有する20%エタノール(水溶液)を、床を通過して流れる20%エタノール(水溶液)の流れに注入した。粒子は、280nmに設定したUV検出器で検出した。イオン帯電ポリマープローブ粒子の大きさのため、粒子は本発明のポリマー樹脂の細孔を通過しなかった。イオン帯電ポリマープローブ粒子の表面の性質のため(これらの粒子は芳香族構造を有し、表面全体に分布した高濃度のイオノゲン基を有した)、本発明のポリマー樹脂への疎水性吸引/保持が妨害された。
ポリマー床の全空隙体積(塩プローブ溶出体積)を求め、ポリマー粒子外部の空隙体積(イオン帯電エマルジョンまたは粉砕ポリマーの溶出体積)と組合わせた。これらの値と、測定した床体積とを使用して、式2および3のεを計算した。
ウシインスリンの調製精製の結果を表4に示す。実施例2の樹脂は、この表に試料番号1−3で表されている。他の市販のポリマー樹脂は比較のため示されており、試料1−10(Amberchrom(商標)CG300S)、および試料1−9(Amberchrom(商標)XT20、米国特許第6,387,974号によって実現された市販材料)、試料1−12(Source(商標)30 RPC、General Electricより市販される)、および試料1−13(PLRP(商標)10−15ミクロン、Polymer Labsより市販される)を含んでいる。試料1−11は、高品質逆相シリカ充填剤(Kromasil(商標)100A、13ミクロンシリカ、Eka Chemicalsより市販される)を表しており、これは性能の対照標準として示している。表4の結果から、100barのピストン圧力で、本発明の逆相ポリマー樹脂のみが実質的に変形しておらず、他のすべての逆相ポリマー充填剤は実質的に変形し、流動抵抗が増加していることが分かる。
試料1−1から1−6は、実施例2に記載の本発明により調製された材料を表しており、試料1−7から1−9は米国特許第6,387,974号により調製した材料を表している。