JP2005317288A - 白金フリー硫化物系燃料電池触媒とその製造方法 - Google Patents

白金フリー硫化物系燃料電池触媒とその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 酸性雰囲気でも安定で、電子導電性の高い非酸化物系白金フリー燃料電池触媒を提供しようというものである。
【解決手段】 触媒設計を触媒活性金属元素Y、遷移金属元素M、硫黄を含み、組成式MS2で表される遷移金属二硫化物結晶層に触媒活性金属Yがインターカレートした、一般式YXMS2で表される組成を有する設計とすることによって達成する。ただし、式中、Sは硫黄、Mは周期表のIV(A)、IV(B)、V(A)、VI(B)、VII(A)、VIII族より選ばれる遷移金属元素、YはM以外の触媒活性元素を表す。xはYのモル比で、1以下の任意の数値を示す。
【選択図】 図2

Description

本発明は、白金フリー硫化物系燃料電池触媒とその製造方法に関する。詳しくは、イオン交換膜形燃料電池(PEFC)、直接メタノール形燃料電池(DMFC)に使用する、白金を全く使用しなくても燃料電池触媒として機能する遷移金属二硫化物触媒とその製造方法に関する。
近年、新しい発電システムとして燃料電池に関する研究が盛んに行われている。その理由は、環境問題やエネルギー資源の有効活用を図ることが急務となっていることによる。環境に対して負荷要因となっている化石燃料の有効利用を図ること、さらには化石燃料に代わるクリーンで効率のいいエネルギーシステムの確立を図ることはいまや時代の要請するところであり、その有力な解決手段として燃料電池に対する期待が高まっている。特に、イオン交換膜形燃料電池(PEFC)は、高効率な電源として電気自動車や家庭据置用として注目されている。また、メタノール形燃料電池(DMFC)も、二次電池に変わる充電不要の携帯用電子機器の電源として位置づけられ、開発されている。これらに関し様々な提案や報告が各種論文、技術報文等に多数発表され、この活発な研究動向は特許文献においても反映し、燃料電池の開発に係る活発な提案は、最近に限ってもかなりの数にのぼる(例えば、特許文献1ないし4を参照のこと)。
しかしながら、これまでに提案されている燃料電池システムは、白金ないしは白金系合金を使用する燃料極触媒によるものであった。しかし、白金は資源的に希少であり且つ高価であること、さらに、燃料として純水素以外の炭化水素改質ガス、メタノール改質ガスを使用する場合、ガス中に僅かに含まれる一酸化炭素によっても燃料極の白金触媒が被毒され、その触媒性能は著しい低下をきたす、といった点で資源的に、技術的に問題のあるものであった。すなわち、白金の担持量の少ない設計とすること、好ましくは白金を使用することのない白金フリー触媒を設計すること、COガスに対しても被毒されることのない、耐性のある白金フリー触媒の設計、開発が求められている。このような要求に対して従来提案されている白金フリー触媒設計は、酸化物系をベースとしたものが提案され、報告されている(非特許文献1、2参照)。しかし、酸化物は酸性条件下では劣化、溶解等の現象が生じ、不安定であることから酸化物系触媒設計は、実用的には問題があった。
特開2004−87267号公報 特開2004−79438号公報 特開2004−79244号公報 特開2004−22346号公報 Y. Wang ら, ジャーナル オブ エレクトケミカルソサエティ148巻、 C222頁、2001年 K.Y.Chen ら, ジャーナル オブ エレクトケミカルソサエティ142巻、 L185頁、1995年
そこで本発明の第1の目的は、白金を全く使用しない白金フリー燃料電池触媒を開発し、提供しようというものである。さらに、第2の目的は、酸性雰囲気下で不安定な酸化物を用いることのない、非酸化物系白金フリー燃料電池触媒を開発し、提供しようというものである。さらにまた第3の目的は、燃料電池触媒設計において、電子構造の制御容易な遷移金属による非酸化物系白金フリー燃料電池触媒を開発し、提供しようというものである。
本発明者らにおいては、上記目的を達成する条件に合致する触媒を開発すべく鋭意研究した結果、MX2で表されるカルコゲン化合物の中、Xが硫黄からなる二硫化物が強い共有結合を有し、酸性下でも安定であることから、硫化物をベースにして触媒設計することを想到するに至った。とりわけ、組成式MS2で表される二硫化物は分子間力により幾重にも積層した特異な層構造を有し、高い導電性を示すこと、そして第3金属成分をインターカレートして層間化合物を形成することに着目し、鋭意研究した結果、MS2で示される遷移金属の二硫化物にCoをインターカレートして担持したところ、高い電子電導性を有し、白金を全く含まないにもかかわらず高い酸素還元機能が発現すること、すなわち、燃料電池触媒として使用するに充分な機能を備えてなることを知見した。本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、その講じてなる構成は、以下(1)ないし(13)に記載の通りである。
(1) 少なくとも触媒活性金属元素Y、遷移金属元素M、硫黄を含み、組成式MS2で表される遷移金属二硫化物結晶層に触媒活性金属Yがインターカレートした、一般式YXMS2で表される組成を有することを特徴とした、白金フリー燃料電池触媒。ただし、式中、Sは硫黄、Mは周期表のIV(A)、IV(B)、V(A)、VI(B)、VII(A)、VIII族より選ばれる遷移金属元素、YはM以外の触媒活性元素を表す。xはYのモル比で、1以下の任意の数値を示す。
(2) 該遷移金属元素Mが、好ましくは、Ti、Zr、Hf(IV(A)族)、Sn、Pb(IV(B)族)、V、Nb、Ta(V(A)族)、Mo、W(VI(A)族)、Tc、Re(VII(A)族)、Fe、Co、Ni、Ru(VIII族)から選ばれる金属によって構成されていることを特徴とする、前記(1)項に記載の白金フリー燃料電池触媒。
(3) 該遷移金属元素Mとして、特に好ましい金属元素がNb金属元素からなることを特徴とする、前記(1)または(2)記載の白金フリー燃料電池触媒。
(4) 該触媒活性金属YがCo金属である、前記(1)または(2)項に記載の白金フリー燃料電池触媒。
(5) 該Co金属の値xが、好ましくは0.4に設定したことを特徴とする、前記(4)項に記載の白金フリー燃料電池触媒。
(6) 触媒活性元素Y、遷移金属元素M、硫黄Sを含む反応混合物を真空焼成し、組成式MS2で表される遷移金属の二硫化物結晶層に触媒活性金属Yがインターカレートした、一般式YXMS2で表される組成の層間化合物を生成し、回収することを特徴とした、白金フリー燃料電池触媒の製造方法。ただし、Mは、周期表のIV(A)、IV(B)、V(A)、VI(B)、VII(A)、VIIIより選ばれる遷移金属元素、Yは触媒活性元素を表し、xは1以下の任意の数値を示す。
(7) 該遷移金属元素Mが、好ましくは、Ti、Zr、Hf(IV(A)族)、Sn、Pb(IV(B)族)、V、Nb、Ta(V(A)族)、Mo、W(VI(A)族)、Tc、Re(VII(A)族)、Fe、Co、Ni、Ru(VIII族)から選ばれる金属によって構成されていることを特徴とする、前記(1)項に記載の白金フリー燃料電池触媒の製造方法.
(8) 該遷移金属元素Mが、特に好ましくは、Nb金属元素である、前記(6)または(7)記載の白金フリー燃料電池触媒の製造方法。
(9) 該触媒活性元素YがコバルトCoであることを特徴とする、前記(6)記載の白金フリー燃料電池触の製造方法。
(10) 該Co金属の値xが、好ましくは0.4に設定したことを特徴とする、前記(9)記載の白金フリー燃料電池触の製造方法。
(11) 該反応混合物がペレット化されて石英管内に真空封入され、真空焼成されることを特徴とする、前記(6)記載の白金フリー燃料電池触の製造方法。
(12) 該真空焼成操作が400℃で低温予備焼成し、引き続き1000℃で高温焼成する2段階焼成を少なくても2回繰り返すことを特徴とする、前記(6)記載の白金フリー燃料電池触の製造方法。
(13) 該1回目の2段階焼成終了後、反応生成物を取り出して粉末化し、ペレット化して再度石英管に真空封入し、2回目の2段階焼成を行うことを特徴とした、前記(12)記載の白金フリー燃料電池触媒の製造方法。
本発明は、上記構成を講ずることによって、非酸化物系白金フリー燃料電池触媒を提供することに成功したものである。すなわち、触媒活性金属元素Y、遷移金属元素、硫黄を含み、組成式MS2で表される遷移金属の二硫化物結晶層に触媒活性金属Yがインターカレートされてなる、一般式YXMS2で表される組成設計としたことにより、酸性雰囲気でも安定であり、激しい環境の下でも長期使用に耐え、また、白金を使用しなくても酸素還元能力があり、しかも電子電導性に優れた性質を備えてなる燃料電池触媒を設計することに成功したものである。これによって、貴重かつ高価な白金に依存しなくても燃料電池触媒として機能する触媒設計を可能とした意義は、それ自体極めて大きく評価される。今後、ますますエネルギーシステムの高効率化、クリーンエネルギによる効率のいいエネルギーシステムが求められ、これが現実化しようとしている状況に鑑みると、燃料電池の重要性、位置づけ今後ますます高まることはあっても低下することはなく、今後、急速に普及し、拡大することが予想される。本発明の触媒は、そのシステム開発の一翼を担うものであり、その役割は上記したとおり極めて重要であり、燃料電池の発展に大いに寄与するものと期待される。
本発明の燃料電池触媒は、触媒活性金属元素Y、遷移金属元素M、硫黄を含み、組成式MS2で表されるカルコゲン化合物の一種、すなわち、遷移金属の二硫化物MS2の多層結晶とこの結晶の層間にドープされた金属原子Yとからなる、一般式YXMS2で表される組成を有している。Yサイト、Mサイトには、それぞれコバルト等触媒活性金属原子Y、遷移金属原子Mが配位し、図1に示すようにM(図1ではNb原子)は、S原子に対して八面体配位ないしは三角プリズム配位し、NbS2で示されるスラブ層を形成し、このスラブ層が、多層積層した構造を有し、その層間にはコバルト等第3成分金属原子がドープされ、インターカレートされてなる構造を有している。なお、Yサイト、Mサイトには上記Co、Nb以外にも電子電導性を示し、酸素還元特性を発現する限りは他の金属元素がドープ・置換あるいはインターレートされてもよく、本発明はこれらの態様を含むものである。本発明の触媒は、基本的には上記組成で構成され、白金を含まなくても電子電導性及び酸素還元性を有し、燃料電池触媒としての触媒機能を有するものであるが、さらに白金ないしはその合金を含んでいても差し支えない。
このCo等触媒活性を示す金属原子を含んだ遷移金属元素二硫化物からなる燃料電池触媒は、触媒組成と同じ組成を有する反応混合物、すなわち、一般式YxMS2で表される組成比と同じ組成の反応混合物を調製し、反応混合物を真空に保った反応容器に真空封入し、1000℃前後の温度範囲で真空焼成することによって、得ることができる。この真空焼成は、一段階で高温焼成するプロセスによってもいいが、反応混合物を充分に反応せしめるには、始めは400℃の比較的低い温度領域で予備的焼成し、引き続き1000℃高温で焼成する2段階焼成を2サイクル実施するのが好ましい。さらに好ましくは、1サイクル実施後に、反応生成物をいったん取り出して微粉砕し、加圧成形してペレット化し、再度高温真空焼成することが好ましい。
真空焼成に際し、反応混合物は好ましくは石英管に充填して、真空封入し、石英管ごと高温焼成することができる。石英管に真空封入した状態で焼成することによって、反応混合物は大気から遮断され、酸化反応が阻止されると共に、原料成分の蒸発、揮散による配合比の崩れが阻止される。これによって、当初設定した配合比が反応終了まで維持され、多層構造を有する一般式CoxNbS2で表され所定モル比組成の化合物、すなわち、燃料電池触媒として働く層間化合物を安定して合成することができる。
本発明の触媒を担持した化合物を得るには、反応混合物を調製し、高温で真空焼結することが必要であるが、その場合、使用する材料としては各元素粉末、すなわちコバルト金属粉末、ニオブ金属粉末、及び硫黄の各粉末を所定の混合比に混合したものを用いることができるが、これらの元素を含む合金、あるいは硫化物を用いることもできる。何れにしても、不純物の混入は、電子伝導性や、触媒性能に重大な影響を与えることから、反応混合物には不純物の混入は避けることが好ましい。したがって、使用する原料は、不純物のない高純度物質を使用することが好ましい。
触媒の反応面積を増大させるために、使用する触媒は微粉化したものを用いることが好ましい。
以下、本発明を、実施例及び図面に基づいて説明する。ただし、これらは本発明を容易に理解するための一助として開示するものであって、本発明はこれらによって限定されるものではない。
実施例1;
Co金属元素粉末、Nb金属元素粉末、及び硫黄粉末をそれぞれ用意し、Co/Nb/Sモル比が0〜0.55/1/2になるように秤量し、混合した。反応混合物を、加圧成形してペレットにした後、石英管に真空封印した。その後400℃で24時間予備焼成し、その後、1000℃で4日間焼成を行った。反応生成物を炉から取り出し、氷水で急冷してクエンチを行った。一旦石英管を開封しメノウ乳鉢で粉砕後、再びペレットにして真空封印し、再度24時間400℃予備焼成、1000℃で4日間焼成を行った。生成物は黒色粉末の単相生成物であり、さらなる分離精製は必要ない。生成物を急冷して取り出し、これを全分析した。その結果、生成物は、一般式CoxNbS2で表される原子比を有することが明らかにされた。この試料の結晶構造や燃料電池の触媒設計において重要な電子伝導性、酸素還元能を明らかにするため、各種分析手段、測定手段あるいは第1原理計算に基づいてシミュレーションを行い、これらによって物質の超微細構造を調べ、上記特性を明らかにした。
先ず、試料をX線回折法、電子顕微鏡等を始めX線回折法による分析手段によってその結晶構造を同定した。その結果、合成された生成物は、NbS2で表されるスラブ層からなる多層積層構造体であることが明らかにされた。各層間にはCo金属原子がインターカレートされ、一般式CoxNbS2で表される組成を有する層間化合物を形成していることが明らかにされた。図1は、その結晶構造を模式的に示したものである。
図2は、CoxNbS2で表される一般式中のCoモル比xと比抵抗との関係を示すものである。遷移金属(Nb)とカルコゲン(S)による層NbS2においては、電子は非局在化し、電子伝導性を示している。一方、分子間力により作られた層間には、第3成分金属(Co)を挿入することが可能であり(図1)、その金属原子において電子の局在化が起こり、さらには磁性を示す要因となるものと思料される。この現象は、これまで3d遷移金属を挿入した系に関する電気・磁気特性の研究から得られた現象と符合し、矛盾していない。すなわち、図2は、Coをドープした系での比抵抗のCo組成依存性を示している。これより、NbS2層に電子が注入されるCo1/3の組成付近で比抵抗が下がり、該一般式CoxNbS2中のCoのモル比xが0.4のときに比抵抗が最小になること、比抵抗のCo組成依存性を示すことが明らかにされた。
次に前記合成された試料を、X線吸収端構造測定手段(X−ray Absorption Near Edge Structure;XANES)によって測定し、物質の状態を観察した。具体的にはCoK−edgeXANESスペクトルを調べ、Coによる電子的特性を評価した。図3は、この解析によって得られたCoK−Edge XANESスペクトルを示しているものである。この図から、合成された試料は、Co組成の増加により、吸収端のエネルギーが低エネルギー側にシフトしていることが明らかにされた。この結果を、Coのモル組成比xと吸収端エネルギー位置との関係に修正し、図示したものが図4であり、この図からCo組成の増加に伴い、x=1/3以降において吸収端エネルギーが減少しており、Coによりx=1/3まではNbS2スラブに電子が注入され、それ以降はCoの価数が変化していることを示している。この結果は、図2に示したx値と比抵抗との関係とも符合し、Co組成による比抵抗の傾向をよく説明している。
一方、Nbの状態についてもNbLIII−Edge XANESスペクトルを調べた。図5は、その結果を示したものである。この図からは、スペクトルの形状には大幅な変化は認められず、ピーク強度についても大きな変化認められなかった。すなわち、Nbについては大きな電子構造変化は起こっていないと考えられる。これは、NbとSの共有結合性が強いため電子が非局在化し、Co組成増加による電荷補償がNb−Sスラブ全体で行われているためと考えられる。
以上は、合成された試料を結晶構造、電子構造について明らかにし、Co組成と電子構造との間には相関性があることを明らかにした。すなわち、Co金属を担持する非酸化物系担体を具体的に提供すると共に、Co金属を担持することによって燃料電池設計において重要な電子伝導性を有する触媒設計が可能であることが明らかになった。
次に、この電子伝導性を有する合成試料、すなわち、Coがドープされたカルコゲン化合物CoxNbS2に、第一原理計算を適用して電荷の状態密度を調べ、その構造を電子論的、原子論的に解明した。図6は、第一原理計算によって計算した電荷の状態密度を示すものである。これによるとフェルミ面のすぐ上にCo3d軌道が存在しており、Coによる電荷補償が起こっていることが示唆されている。また、Nb4dとS3p軌道が荷電子帯においてオーバーラップしており、Nb−Sの共有結合性を示している。これは前述実験結果と非常によく一致していることが明らかになった。このことは、本発明の実施例によって得られた上記カルコゲン化合物は、電子伝導性を与えるCo原子が、共有結合によって構成された化学的に安定したカルコゲン化合物NbS2によって担持されていることを示しており、これを酸性条件下では劣化、溶解等の現象が生じ、不安定な酸化物系触媒設計と対比すると、極めて優れた触媒設計であることを意味しているものである。
次に、上記合成された試料の触媒活性を回転電極法によって評価する実験を行った。ここに、回転電極法による実験手法についてその意義を説明する。すなわち、燃料電池で用いられる電極はガス拡散電極と呼ばれる種類の電極である。ガス拡散電極では、ガス相と電極相と電解質相の3つの相が接触する三相界面で反応が進行する。したがって、電極を作製する際には、いかにして三相界面の長さを増やすかが問題となる。実際には、電極として触媒を担持した炭素材料と電解質相としてナフィオンなどのイオン交換樹脂とを混ぜ合わせて作製する。しかしながら、このような作製法によって作製されたガス拡散電極を用いて電極特性を測定すると、ガス相中のガスや電解質中のイオンの拡散の影響が大きく表れ、目的とする触媒活性の情報を得ることは出来ない。そこで、本発明においては、触媒活性を正確に評価する情報を得るために、回転電極法を適用するものである。この回転電極法においては、電解質溶液中で電極を回転させることにより、拡散相の厚さを制御することが可能となり、回転数無限大(すなわち、拡散相の厚みが無限に小さい、言い換えれば拡散の影響がない場合)の点を外挿することによりすることにより拡散の影響のない状態での触媒活性を測ることが可能となる。いわゆる活性化支配電流を測定することになる。この方法自体は広く電気化学の分野では認められており、一般的な方法である。
実験方法は、次のように行った。先ず、上記実施例で真空焼結して合成された硫化物サンプル(触媒)とvulcan(炭素)とを混合した後、5%nafion2−プロパノール溶液を加え、超音波振動を与えてよく撹拌し、15μlをグラッシーカーボン製回転ディスク電極に滴下し、薄く均一に塗布した。その後室温で乾燥し、これを活性化支配電流測定用電極とした。この触媒を担持した炭素を表面に塗布した回転ディスク電極を作用極、対極はPt、参照極にはAg/AgClを用いてセルを組み立て、予め酸素を30分間バブリングして、酸素で飽和させた0.5モル濃度硫酸水溶液中で電位掃引した。掃引速度10mV/secで電位掃引し、回転数を1000rpmから7000rpmと大きくし、1000rpm刻みで電流を測定した。測定結果を整理し、各電位における回転数の平行根の逆数と電流との逆数をプロット(Koutecky−Levichプロット)し(図7)、切片から活性化支配電流Ikを求めた(図8)。図7、図8は、これらの関係を示すものである。これらの図から、白金を全く含有しない場合においても、酸素還元能を有することがわかった。
触媒の活性を評価するためには、物質供給が律速にならない条件下で測定し、触媒上での反応速度のみを抽出する必要がある。図7は、回転電極を用い、酸素の拡散速度を制御して、回転数無限大の条件に外挿して、触媒上での反応速度(活性化支配電流)を求めた例である。図8より、触媒を担持しない炭素材料よりも酸素還元の活性化支配電流値が増加していることから、この電極が酸素還元能を有することが明らかである。
以上の実験から、本発明の実施例で作製された一般式CoxNbS2で表される硫化物は、電子伝導性を有し、酸素還元能を有していることから、燃料電池触媒として機能することが明らかにされた。しかしこの実施例で合成された一般式CoxNbS2で与えられる触媒設計は、この態様に限定されず、式中のCo金属は、電子伝導を与え、酸素還元能を与える金属原子であればNi、Fe等の他の金属元素であってよく、また、式中のNbも、この金属原子に限らず、周期率表のIV(A)、IV(B)、V(A)、VI(B)、VII(A)、VIIIより選ばれる遷移金属原子であり得る。
白金を全く用いないという観点から、コスト的、資源的に有利である。また、従来の酸化物触媒に対しては、酸性での安定性において有利である。前述したように、燃料電池の開発は地球的規模での急を要する一大重要プロジェクトの一つであり、本発明は、上記した特有な構成により、極めて安価であり、また、優れた作用効果が奏せられるものであることから、燃料電池に大いに利用されるものと期待される。
本発明の実施例で合成されたCo金属原子をインターカレート(ドープ)してなる遷移金属二硫化物の結晶構造を模式的に示す図 CoxNbS2のxと比抵抗との関係を示す図 CoXNbS2Co K−edge XANESスペクトルを示す図 CoxNbS2のCo K−edge吸収端位置 CoxNbS2NbLIII−edge XANESスペクトルを示す 図 第一原理計算によって計算した電荷状態密度を示す図 遷移金属二硫化物の特性を、回転電極によって求めたKoutecky−Levichプロット図 本発明の実施例で合成されたCo金属原子をインターカレート(ドープ)してなる遷移金属二硫化物の活性化支配電流を示す図

Claims (13)

  1. 少なくとも触媒活性金属元素Y、遷移金属元素M、硫黄を含み、組成式MS2で表される遷移金属二硫化物結晶層に触媒活性金属Yがインターカレートした、一般式YXMS2で表される組成を有することを特徴とした、白金フリー燃料電池触媒。ただし、式中、Sは硫黄、Mは周期表のIV(A)、IV(B)、V(A)、VI(B)、VII(A)、VIIIより選ばれる遷移金属元素、YはM以外の触媒活性元素を表す。xはYのモル比で、1以下の数値範囲を示す。
  2. 該遷移金属元素Mが、好ましくは、Ti、Zr、Hf(IV(A)族)、Sn、Pb(IV(B)族)、V、Nb、Ta(V(A)族)、Mo、W(VI(A)族)、Tc、Re(VII(A)族)、Fe、Co、Ni、Ru、Pt(VIII族)から選ばれる金属によって構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の白金フリー燃料電池触媒。
  3. 該遷移金属元素Mとして、特に好ましい金属元素がNb金属元素からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の白金フリー燃料電池触媒。
  4. 該触媒活性金属YがCo金属である、請求項1または2に記載の白金フリー燃料電池触媒。
  5. 該Co金属の値xが、好ましくは0.4に設定したことを特徴とする、請求項4に記載の白金フリー燃料電池触媒。
  6. 触媒活性元素Y、遷移金属元素M、硫黄Sを含む反応混合物を真空焼成し、組成式MS2で表される遷移金属の二硫化物結晶層に触媒活性金属Yがインターカレートした、一般式YXMS2で表される組成の層間化合物を生成し、回収することを特徴とした、白金フリー燃料電池触媒の製造方法。ただし、Mは、周期表のIV(A)、IV(B)、V(A)、VI(B)、VII(A)、VIIIより選ばれる遷移金属元素、Yは触媒活性元素を表し、1以下の数値範囲を示す。
  7. 該遷移金属元素Mが、好ましくは、Ti、Zr、Hf(IV(A)族)、Sn、Pb(IV(B)族)、V、Nb、Ta(V(A)族)、Mo、W(VI(A)族)、Tc、Re(VII(A)族)、Fe、Co、Ni、Ru、Pt(VIII族)から選ばれる金属によって構成されていることを特徴とする、請求項6に記載の白金フリー燃料電池触媒の製造方法.
  8. 該遷移金属元素Mが、特に好ましくは、Nb金属元素である、請求項6または7に記載の白金フリー燃料電池触媒の製造方法。
  9. 該触媒活性元素YがコバルトCoであることを特徴とする、請求項6に記載の白金フリー燃料電池触の製造方法。
  10. 該Co金属の値xが、好ましくは0.4に設定したことを特徴とする、請求項9に記載の白金フリー燃料電池触の製造方法。
  11. 該反応混合物がペレット化されて石英管内に真空封入され、真空焼成されることを特徴とする、請求項6に記載の白金フリー燃料電池触の製造方法。
  12. 該真空焼成操作が400℃で低温予備焼成し、引き続き1000℃で高温焼成する2段階焼成を少なくても2回繰り返すことを特徴とする、請求項6に記載の白金フリー燃料電池触の製造方法。
  13. 該1回目の2段階焼成終了後、反応生成物を取り出して粉末化し、ペレット化して再度石英管に真空封入し、2回目の2段階焼成を行うことを特徴とした、請求項12に記載の白金フリー燃料電池触媒の製造方法。
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