JP2005314341A - ガン治療用薬剤及びその利用 - Google Patents
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Abstract
【課題】 本発明の目的は、広範な悪性リンパ腫・白血病細胞を増殖抑制または死滅させることができるガン治療用薬剤、及び当該ガン治療用薬剤を用いてガン細胞を死滅させる方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明にかかるガン治療用薬剤は、CMVプロモーター1と、HAタグ2と、SHP1遺伝子(cDNA)3と、ポリA付加シグナル4と、SV40プロモーター5と、ジェネティシン/G418耐性遺伝子6と、ポリA付加シグナル7と、アンピシリン耐性遺伝子8とを連結して作製した遺伝子構築物pMO14Z−SHP1 10を有効成分としている。上記遺伝子構築物が導入されたヒト骨髄性白血病細胞株K562細胞の腫瘍源性は有意に消失するとともに、該細胞はアポトーシスによる細胞死が起こりやすくなる。
【選択図】 図1
【解決手段】 本発明にかかるガン治療用薬剤は、CMVプロモーター1と、HAタグ2と、SHP1遺伝子(cDNA)3と、ポリA付加シグナル4と、SV40プロモーター5と、ジェネティシン/G418耐性遺伝子6と、ポリA付加シグナル7と、アンピシリン耐性遺伝子8とを連結して作製した遺伝子構築物pMO14Z−SHP1 10を有効成分としている。上記遺伝子構築物が導入されたヒト骨髄性白血病細胞株K562細胞の腫瘍源性は有意に消失するとともに、該細胞はアポトーシスによる細胞死が起こりやすくなる。
【選択図】 図1
Description
本発明は、ガン治療用薬剤及びその利用方法に関するものである。より詳細には、広範な悪性リンパ腫・白血病細胞を増殖抑制または死滅させることができるガン治療用薬剤、及び当該ガン治療用薬剤を用いてガン細胞を死滅させる方法に関するものである。
悪性リンパ腫・白血病細胞の中には、難治性で極めて予後の悪いものから比較的予後の良いものまで様々である。現在、かかる悪性リンパ腫・白血病の治療方法としては、化学療法・放射線療法・免疫療法・骨髄移植療法、等々の治療方法を行なっているが、特に予後の悪い病型については有効な治療方法が無い。
ところで本発明者等は、広い範囲の悪性の造血器腫瘍においてプロテインチロシンホスファターゼSHP1タンパク質の発現抑制が極めて高頻度で見られ、しかも悪性度の高い造血器腫瘍ほど、上記SHP1タンパク質(以下、SHP1タンパク質と称する)の発現抑制の傾向が強くなることを発見した。さらに、かかるSHP1タンパク質の発現抑制のメカニズムについて検討を行った結果、悪性リンパ腫や白血病患者では、プロテインチロシンホスファターゼSHP1遺伝子(以下、SHP1遺伝子と称する)のプロモーター領域に存在するCpG領域(高等真核生物において、ゲノムDNA配列中に存在する5’−CG−3’DNA部分)がメチル化されており、SHP1タンパク質が発現できずに細胞増殖の制御が効かなくなるということを明らかにした。(例えば非特許文献1参照)
さらに本発明者等は、プロモーター領域がメチル化されていない正常SHP1遺伝子を造血器腫瘍細胞株へ導入することによって、当該細胞の増殖を抑制することができることをin vitro の系において発見した(非特許文献2参照)。
Oka Takashi, Ouchida Mamoru, Koyama Maho, Ogama Yoichiro, Takada Shinichi, Nakatani Yoko, Tanaka Takehiro, Yoshino Tadashi, Hayashi Kazuhiko, Ohara Nobuya , Kondo Eisaku, Takahashi Kiyoshi, Tsuchiyama Junjiro, Tanimoto Mitsune, Shimizu Kenji and Akagi Tadaatsu. Gene silencing of the tyrosine phosphatase SHP1 gene by aberrant in leukemias/lymphomas. Cancer Research. 62, 6390-6394 (2002) Maho Koyama, Takashi Oka, Mamoru Ouchida, Yoko Nakatani, Ritsuo Nishiuchi, Tadashi Yoshino, Kazuhiko Hayashi, Tadaatsu Akagi, and Yoshiki Seino: "Activated Proliferation of B-cell Lymphomas/Leukemias with the SHP1 Gene Silencing by Aberrant CpG Methylation ", LABORATORY INVESTIGATION, Vol.83. No.12, 1849-1858, (2003).
さらに本発明者等は、プロモーター領域がメチル化されていない正常SHP1遺伝子を造血器腫瘍細胞株へ導入することによって、当該細胞の増殖を抑制することができることをin vitro の系において発見した(非特許文献2参照)。
Oka Takashi, Ouchida Mamoru, Koyama Maho, Ogama Yoichiro, Takada Shinichi, Nakatani Yoko, Tanaka Takehiro, Yoshino Tadashi, Hayashi Kazuhiko, Ohara Nobuya , Kondo Eisaku, Takahashi Kiyoshi, Tsuchiyama Junjiro, Tanimoto Mitsune, Shimizu Kenji and Akagi Tadaatsu. Gene silencing of the tyrosine phosphatase SHP1 gene by aberrant in leukemias/lymphomas. Cancer Research. 62, 6390-6394 (2002) Maho Koyama, Takashi Oka, Mamoru Ouchida, Yoko Nakatani, Ritsuo Nishiuchi, Tadashi Yoshino, Kazuhiko Hayashi, Tadaatsu Akagi, and Yoshiki Seino: "Activated Proliferation of B-cell Lymphomas/Leukemias with the SHP1 Gene Silencing by Aberrant CpG Methylation ", LABORATORY INVESTIGATION, Vol.83. No.12, 1849-1858, (2003).
上記の通り、悪性リンパ腫や白血病細胞等の造血器腫瘍へ、正常SHP1タンパク質をコードする遺伝子(SHP1遺伝子)を導入することによる造血器腫瘍の増殖抑制効果については、in vitro の実験において明らかとなったが、正常SHP1タンパク質や正常SHP1遺伝子が導入された悪性リンパ腫や白血病細胞等の造血器腫瘍が、患者体内における(in vivo )作用・効果については全く予測できず、当該SHP1タンパク質及びSHP1遺伝子が、ガン治療用薬剤として利用可能であるかは不明である。
また現行のガン治療法である化学療法・放射線療法・免疫療法・骨髄移植療法、等々の治療方法では予後の悪い病型については効果が低い場合が多い。
本発明は上記課題に鑑みられたものであって、その目的は、ガン細胞、特に広範な悪性リンパ腫・白血病細胞等の造血器腫瘍細胞を増殖抑制または死滅させることができるガン治療用薬剤、及び当該ガン治療用薬剤を用いてガン細胞を死滅させる方法を提供することにある。
本願発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった。より具体的には、正常SHP1遺伝子が導入された造血器腫瘍細胞株を免疫不全マウス(SCIDマウス)に移植し、当該マウスにおいて腫瘍形成が全く認められないという知見を得た。さらには、正常SHP1遺伝子が導入された造血器腫瘍細胞株は、有意にアポトーシスによる細胞死が強く誘導されることを発見した。本発明は上記検討及び新規知見により、完成されたものである。
すなわち、本発明にかかるガン治療用薬剤は、少なくとも発現用プロモーターと、SHP1タンパク質をコードする遺伝子とを連結してなる遺伝子構築物を有効成分としている。
SHP1タンパク質が、標的ガン細胞において発現することによって、標的ガン細胞の増殖抑制または死滅させることができるため、有効なガン治療用薬剤となる。
また本発明にかかるガン治療用薬剤は、少なくとも発現用プロモーターと、改変型SHP1タンパク質をコードする遺伝子とを連結してなる遺伝子構築物を有効成分とすることが好ましい。
SHP1タンパクの改変、例えば、標的タンパク質特異性を維持した形でのホスファターゼドメインの制御、特にホスファターゼ活性の抑制に関与する領域を削除、置換等の改変を行なうことによって、標的ガン細胞内において高効率なガン抑制機能を有するタンパク質(改変型SHP1タンパク質)を発現させることができる。よってさらに有効なガン治療用薬剤を提供することができる。
また本発明にかかるガン治療用薬剤は、上記SHP1タンパク質をコードする遺伝子が、以下の(a)または(b)に記載の遺伝子であることが好ましい。
(a)配列番号1に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子。
(b)配列番号1に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ、ガン抑制機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。
また本発明にかかるガン治療用薬剤は、上記改変型SHP1タンパク質をコードする遺伝子が、以下の(c)または(d)に記載の遺伝子であることが好ましい。
(c)配列番号4または7に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子。
(d)配列番号4または7に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ、ガン抑制機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。
上記構成とすることによって、より効率良く、標的ガン細胞の増殖抑制または死滅させることができる。それゆえ、より有効なガン治療用薬剤を提供することができる。
本発明にかかるガン治療用薬剤は、上記発現用プロモーターが、サイトメガロウイルスプロモーターであることが好ましい。
上記サイトメガロウイルスプロモーターは、ヒトサイトメガロプロモーターウイルス早期プロモーター・エンハンサー領域のことであり、相対的に細胞特異性が低いこと、動物細胞において特に強いプロモーター活性を有していることより、標的ガン細胞においてSHP1タンパク質(改変型SHP1タンパク質を含む)を高発現することが可能となる。それゆえ標的ガン細胞を増殖抑制または死滅させることができ、より有効なガン治療用薬剤を提供することができる。
また本発明にかかるガン治療用薬剤は、上記遺伝子構築物が、配列番号3に示される塩基配列を有することが好ましい。
また本発明にかかるガン治療用薬剤は、上記遺伝子構築物が、配列番号6または9に示される塩基配列を有することが好ましい。
上記構成とすることによって、より効率良く、標的ガン細胞の増殖抑制または死滅させることができる。それゆえ、より有効なガン治療用薬剤を提供することができる。
一方、本発明にかかるガン治療用薬剤は、SHP1タンパク質を有効成分としてもよい。
また、本発明にかかるガン治療用薬剤は、改変型SHP1タンパク質を有効成分とすることが好ましい。
また本発明にかかるガン治療用薬剤は、上記SHP1タンパク質が、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有することが好ましい。
また本発明にかかるガン治療用薬剤は、上記改変型SHP1タンパク質が、配列番号5または8に示されるアミノ酸配列を有することが好ましい。
また本発明にかかるガン治療用薬剤は、上記改変型SHP1タンパク質が、配列番号2または5または8に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、ガン抑制機能を有するタンパク質であることが好ましい。
SHP1タンパク質または改変型SHP1タンパク質を標的ガン細胞に導入することによっても、標的ガン細胞の増殖抑制または死滅させることができる。それゆえ、より有効なガン治療用薬剤を提供することができる。
一方、本発明にかかるガン細胞の死滅方法は、少なくとも発現用プロモーターと、SHP1タンパク質をコードする遺伝子とを連結してなる遺伝子構築物を、標的ガン細胞に導入する工程を含むことを特徴としている。
SHP1タンパク質が、標的ガン細胞において発現することによって、標的ガン細胞の増殖抑制または死滅させることができる。
また本発明にかかるガン細胞の死滅方法は、少なくとも発現用プロモーターと、改変型SHP1タンパク質をコードする遺伝子とを連結してなる遺伝子構築物を、標的ガン細胞に導入する工程を含むことが好ましい。
SHP1タンパクの改変、例えば、標的タンパク質特異性を維持した形でのホスファターゼドメインの制御、特にホスファターゼ活性の抑制に関与する領域を削除、置換等の改変を行なうことによって、標的ガン細胞内において高効率なガン抑制機能を有するタンパク質(改変型SHP1タンパク質)を発現させることができる。
また本発明にかかるガン細胞の治療方法は、上記SHP1タンパク質をコードする遺伝子が、以下の(e)または(f)に記載の遺伝子であることが好ましい。
(e)配列番号1に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子。
(f)配列番号1に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ、ガン抑制機能を有する遺伝子。
また本発明にかかるガン細胞の死滅方法は、上記改変型SHP1タンパク質をコードする遺伝子が、以下の(g)または(h)に記載の遺伝子であることが好ましい。
(g)配列番号4または7に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子。
(h)配列番号4または7に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ、ガン抑制機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。
上記構成とすることによって、より効率良く、標的ガン細胞の増殖抑制または死滅させることができる。
また本発明にかかるガン細胞の死滅方法は、上記発現用プロモーターが、サイトメガロウイルスプロモーターであることが好ましい。
上記サイトメガロウイルスプロモーターは、ヒトサイトメガロプロモーターウイルス早期プロモーター・エンハンサー領域のことであり、相対的に細胞特異性が低いこと、動物細胞において特に強いプロモーター活性を有していることより、標的ガン細胞においてSHP1タンパク質(改変型SHP1タンパク質を含む)を高発現することが可能となる。それゆえ標的ガン細胞を増殖抑制または死滅させることができる。
また本発明にかかるガン細胞の死滅方法は、上記遺伝子構築物が、配列番号3に示される塩基配列を有することが好ましい。
また本発明にかかるガン細胞の死滅方法は、上記遺伝子構築物が、配列番号6または9に示される塩基配列を有することが好ましい。
上記構成とすることによって、より効率良く、標的ガン細胞の増殖抑制または死滅させることができる。
また本発明にかかるガン細胞の死滅方法は、SHP1タンパク質を標的ガン細胞に導入する工程を含むことを特徴としてもよい。
また本発明にかかるガン細胞の死滅方法は、改変型SHP1タンパク質を標的ガン細胞に導入する工程を含むことが好ましい。
また本発明にかかるガン細胞の死滅方法は、上記SHP1タンパク質が、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有することが好ましい。
また本発明にかかるガン細胞の死滅方法は、上記改変型SHP1タンパク質が、配列番号5または8に示されるアミノ酸配列を有することが好ましい。
また本発明にかかるガン細胞の死滅方法は、上記改変型SHP1タンパク質が、配列番号2または5または8に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、ガン抑制機能を有するタンパク質であることが好ましい。
SHP1タンパク質または改変型SHP1タンパク質を標的ガン細胞に導入することによっても、標的ガン細胞の増殖抑制または死滅させることができる。
また本発明にかかるガン細胞の死滅方法は、上記標的ガン細胞が、造血器腫瘍細胞であることが好ましい。
また本発明にかかるガン細胞の死滅方法は、上記造血器腫瘍細胞が、悪性リンパ腫細胞または白血病細胞であることが好ましい。
SHP1タンパク質は、特に悪性リンパ腫、白血病等の造血器腫瘍患者において発現が抑制されているタンパク質であり、また悪性リンパ腫細胞、白血病細胞等の造血器腫瘍細胞の増殖抑制効果を有している。よって、特に上記悪性リンパ腫細胞、白血病細胞等の造血器腫瘍細胞を、効率良く死滅させることができる。
また本発明にかかるガン細胞の死滅方法は、さらに、アポトーシス誘導工程を含むことが好ましい。SHP1タンパク質(改変型SHP1タンパク質を含む)が発現、または導入されたガン細胞は、アポトーシスの誘導がかかりやすくなっている。それゆえ、紫外線照射・放射線照射・薬剤処理等のアポトーシス誘導を行なうことによって、さらに効率良くガン細胞を死滅させることができる。
本発明にかかるガン治療用薬剤をガン細胞(特に悪性リンパ腫細胞や白血病細胞等の造血器腫瘍細胞)に導入することで、当該ガン細胞の腫瘍源性を有意に消失させることができる。さらには、当該ガン細胞のアポトーシスによる細胞死を有意に誘導することができる。それゆえ、ガン、特に広範な悪性リンパ腫・白血病等の造血器腫瘍に対して有効なガン治療用薬剤を提供することができるという効果を奏する。
また、本発明にかかるガン細胞の死滅方法によれば、ガン細胞(悪性リンパ腫細胞や白血病細胞等の造血器腫瘍細胞)を有意に死滅させることができる。それゆえ、ガン、特に広範な悪性リンパ腫・白血病等の造血器腫瘍に対して有効なガン治療方法を提供することができるという効果を奏する。
(I)本発明にかかるガン治療用薬剤
本発明にかかるガン治療用薬剤は、ガン、特に悪性リンパ腫や白血病細胞等の造血器腫瘍の抑制因子であるSHP1タンパク質、または少なくとも発現用プロモーターと、当該タンパク質をコードする遺伝子(SHP1遺伝子)とを連結してなる遺伝子構築物を有効成分として含むものであり、当該本発明にかかるガン治療用薬剤をガン細胞に導入することによって、ガン細胞の増殖を抑制または、死滅させるというものである。
本発明にかかるガン治療用薬剤は、ガン、特に悪性リンパ腫や白血病細胞等の造血器腫瘍の抑制因子であるSHP1タンパク質、または少なくとも発現用プロモーターと、当該タンパク質をコードする遺伝子(SHP1遺伝子)とを連結してなる遺伝子構築物を有効成分として含むものであり、当該本発明にかかるガン治療用薬剤をガン細胞に導入することによって、ガン細胞の増殖を抑制または、死滅させるというものである。
既述のとおり、悪性リンパ腫や白血病等の造血器腫瘍患者では、プロテインチロシンホスファターゼSHP1遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG領域(高等真核生物において、ゲノムDNA配列中に存在する5’−CG−3’DNA部分)がメチル化されており、SHP1タンパク質が発現できない。それゆえガン細胞(腫瘍細胞)の増殖抑制が効かない。また健康な人の体の中では、抗体産生による体液性免疫や貪食作用のような細胞性免疫システムが絶えず働いているが、造血器腫瘍患者の場合、本来腫瘍増殖を押さえる働きを持つ免疫システムに異常を生じてしまうため、ガン細胞(腫瘍細胞)の増殖を許しやすい傾向にあると言える。
本発明にかかるガン治療用薬剤は、(a)SHP1遺伝子を発現可能な状態で、ガン細胞に導入することによって、造血器腫瘍患者において欠如しているSHP1タンパク質をガン細胞内で発現させて補い、ガン細胞の増殖抑制または死滅させるというもの、または(b)SHP1タンパク質をガン細胞内に導入して補い、ガン細胞の増殖抑制または死滅させるというものである。
(I−a)SHP1遺伝子を用いた本発明にかかるガン治療用薬剤
SHP1遺伝子を本発明にかかるガン治療用薬剤として利用する場合には、導入したSHP1遺伝子がガン細胞内で発現するようにデザインされていればよく、少なくともSHP1遺伝子の発現用プロモーターとSHP1遺伝子とが連結されてなる遺伝子構築物(以下、SHP1遺伝子構築物)である必要がある。
SHP1遺伝子を本発明にかかるガン治療用薬剤として利用する場合には、導入したSHP1遺伝子がガン細胞内で発現するようにデザインされていればよく、少なくともSHP1遺伝子の発現用プロモーターとSHP1遺伝子とが連結されてなる遺伝子構築物(以下、SHP1遺伝子構築物)である必要がある。
前記発現用プロモーターとしては、標的となるガン細胞内でプロモーター活性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えばサイトメガロウイルスプロモーター(CMVプロモーター)、SV40プロモーター、ベータアクチンプロモーター、RSVプロモーター、SRαプロモーター、Elongation Factor 1α プロモーター,CAGプロモーター、レトロウイルスLTR等が利用可能である。またプロモーターは、恒常的にプロモーター活性を有する恒常的プロモーターであっても、メタロチオネインプロモーターやMMTVプロモーターのような誘導可能な転写誘導プロモーターであってもよい。
一方、上記プロモーターに連結されるSHP1遺伝子は、全長のSHP1タンパク質をコードする遺伝子、すなわち配列番号1に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子であってもよいし、また配列番号1に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ、ガン抑制機能を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
なお、ここでストリンジェントな条件でハイブリダイズするとは、60℃において2×SSC洗浄条件下で結合することを意味する。上記ハイブリダイゼーションは、J. Sambrook et al. Molecular Cloning, A Laboratory Manual,2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、従来公知の方法で行なうことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなる(つまり、ハイブリダイズし難くなる)。
また本発明にかかるガン治療用薬剤に用いるSHP1遺伝子は、全長のSHP1タンパク質をコードしている必要はなく、SHP1タンパク質の一部をコードしている遺伝子であってもよい。また全長のSHP1タンパク質のアミノ酸配列または、一部のSHP1タンパク質のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/または付加されたSHP1タンパク質をコードする遺伝子であってもよい。なお本発明においては、全長SHP1タンパク質の一部のタンパク質、及び全長のSHP1タンパク質のアミノ酸配列または、一部のSHP1タンパク質のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/または付加されたSHP1タンパク質を総じて「改変型SHP1タンパク質」と称する。また当該「改変型SHP1タンパク質」をコードする遺伝子を「改変型SHP1遺伝子」と称する。なお、上記の「1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」における「1個又は数個」の範囲は特に限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1個から5個、特に好ましくは1個から3個を意味する。
上記改変型SHP1遺伝子の例としては、SHP1タンパク質のN末端から数アミノ酸を欠失させたタンパク質をコードする遺伝子や、同じくSHP1タンパク質のC末端から数アミノ酸を欠失させたタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。上記のごとく、SHP1タンパク質のN末端から数アミノ酸をコードする遺伝子領域、及びC末端からアミノ酸をコードする領域には、ホスファターゼドメインの制御、特にホスファターゼ活性の抑制調節に関与する領域が含まれている。それゆえ、かかる遺伝子領域を欠失させることによって、標的ガン細胞におけるSHP1タンパク質(改変型SHP1タンパク質)の標的タンパク質特異性は変化させずにホスファターゼ活性が高くなる。よって上記改変を行なうことは、より好ましい態様であるといえる。
なおSHP1タンパク質のN末端から欠失させるアミノ酸の数は、4個以上110個以下が好ましい。またSHP1タンパク質のC末端から欠失させるアミノ酸の数は、60個以下が好ましい。
上記改変型SHP1遺伝子の具体例としては、SHP1タンパク質のN末端から52アミノ酸を欠失させた改変型SHP1タンパク質をコードする改変型SHP1遺伝子(配列番号4参照)や、SHP1タンパク質のN末端から52アミノ酸を欠失させ、さらにSHP1タンパク質のC末端から32アミノ酸を欠失させた改変型SHP1タンパク質をコードする改変型SHP1遺伝子(配列番号7参照)が挙げられる。
また上記SHP1遺伝子構築物には、この他に任意のタンパク質をコードする遺伝子挿入用のクローニングサイト(好ましくはマルチクローニングサイト)・ベクター配列・ターミネーター・薬剤耐性マーカー・蛍光タンパク質遺伝子等のDNAセグメントが含まれていてもよい。かかるSHP1遺伝子構築物の調製方法は、通常の遺伝子工学的手法を用いて行なえばよい。
上記のようにして構築した本発明にかかるガン治療用薬剤の有効成分であるSHP1遺伝子構築物の一例として、CMVプロモーター 1と、HAタグ 2と、全長SHP1遺伝子(cDNA) 3と、ポリA付加シグナル(mRNA polyadenylation signal) 4と、SV40プロモーター 5と、ジェネティシン/G418(Geneticin/G418)耐性遺伝子(neomycin resistant gene) 6と、ポリA付加シグナル(mRNA polyadenylation signal) 7と、アンピシリン耐性遺伝子(ampicillin resistant gene) 8とを連結して作製したpMO14Z−SHP1 full 10を図1に示す。全長SHP1遺伝子(cDNA) 3は、CMVプロモーター 1によって発現される。
ここで、全長SHP1遺伝子(cDNA) 3の上流に存在するHAタグ 2は、9アミノ酸からなるHemagglutininタンパク質の一部であり、免疫染色の際に抗原となったり、免疫沈降する際に用いられる。また全長SHP1遺伝子(cDNA) 3の下流に連結されたポリA付加シグナル(mRNA polyadenylation signal) 4は、mRNAの安定化のために用いられている。またSV40プロモーター 5の下流に、形質転換体の選抜に用いるジェネティシン/G418(Geneticin/G418)耐性遺伝子(neomycin resistant gene) 6が連結され、さらにその下流に、ポリA付加シグナル(mRNA polyadenylation signal) 7が連結されている。なお、アンピシリン耐性遺伝子(ampicillin resistant gene) 8は、pMO14Z−SHP1 full 10を大腸菌等に形質転換する際に用いる薬剤耐性遺伝子である。pMO14Z−SHP1 full 10の塩基配列を配列番号3に示す。
また改変型SHP1遺伝子を用いて構築したSHP1遺伝子構築物の例としては、上述の、SHP1タンパク質のN末端から52アミノ酸を欠失させた改変型SHP1タンパク質をコードする改変型SHP1遺伝子(以下、SHP1 N53遺伝子;配列番号4参照)を用いて構築したpMO14Y−SHP1 N53(配列番号6参照)や、SHP1タンパク質のN末端から52アミノ酸を欠失させ、さらにSHP1タンパク質のC末端から32アミノ酸を欠失させた改変型SHP1タンパク質をコードする改変型SHP1遺伝子(以下、SHP1 N53C32遺伝子;配列番号7参照)を用いて構築したpMO14Y−SHP1 N53C32(配列番号9参照)が挙げられる。
図5に、上記pMO14Z−SHP1 full、pMO14Y−SHP1 N53、及びpMO14Y−SHP1 N53C32の構築方法の概略を示す。発現ベクターpMO14のHAタグ 2の下流であって、ポリA付加シグナル(mRNA polyadenylation signal) 4の上流に、全長SHP1遺伝子(同図中、SHP1 full遺伝子)または、SHP1 N53遺伝子、またはSHP1 N53C32遺伝子を挿入して、pMO14Z−SHP1 full、pMO14Y−SHP1 N53、pMO14Y−SHP1 N53C32を構築する。構築方法は、通常の遺伝子工学的手法を用いて行なえばよい。なお、図5中、部材番号1,2,4,5,6,7,8は、図1に示すものと同様である。また図1中SH2はリン酸化チロシン結合領域(Src homology domain 2)であり、PTPはプロテインチロシンホスファターゼ領域(Protein tyrosine phosphatase domain)を示す。
なお上記SHP1遺伝子を用いて構築したSHP1遺伝子構築物の標的ガン細胞への導入方法は、特に限定されるものではなく、パーティクルガンによる方法、プロトプラスト/スフェロプラスト法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、リン酸カルシウム法、リポソーム、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。また、アデノウイルスベクターやレトロウイルスベクター等のウイルスベクターを用いてSHP1遺伝子構築物を構築し、遺伝子導入を行なってもよい。
さらには、上記の本発明にかかるガン治療用薬剤(SHP1遺伝子構築物を有効成分とする)を用いてガン患者の治療を行なう場合は、本発明にかかるガン治療用薬剤(上記遺伝子構築物)を標的ガン細胞に直接導入する、いわゆる in vivo 法を用いることが可能である。例えば、例えばガン患者の腫瘤に注射器等でインジェクションする方法が挙げられる。
また上記レトロウイルスベクターを導入方法に用いる場合においては、静脈注射による方法が可能である。本発明にかかるガン治療用薬剤の有効成分である上記遺伝子構築物を、標的細胞(造血器腫瘍細胞)で特異的に機能するようにデザインしておくことで、本発明にかかるガン治療用薬剤(遺伝子構築物)が、標的の造血器腫瘍細胞で機能することとなる。なお、上記デザインの具体的手段としては、造血器腫瘍細胞もしくは造血器細胞特異的なレセプターを認識し感染するようにパッケージング細胞を調整することによって、造血器腫瘍特異的に本発明にかかるガン治療用薬剤が機能することができる。
また、上記の本発明にかかるガン治療用薬剤(SHP1遺伝子構築物を有効成分とする)を用いたガン治療法としては、上記 in vivo 法のほかに、本発明にかかるガン治療用薬剤(上記遺伝子構築物)を生体外で標的細胞(造血器腫瘍である場合は悪性リンパ腫細胞、骨髄細胞等の造血器腫瘍細胞)に導入し、その後生体内に戻す、いわゆる ex vivo 法であってもよい。この場合、周りのガン治療用薬剤(上記遺伝子構築物)が導入されていない造血器腫瘍細胞もbystander effectにより増殖を抑制または、死滅することが期待される。
また本発明にかかるガン治療用薬剤(SHP1遺伝子構築物を有効成分とする)の有効な投与量は、SHP1遺伝子の形態(改変されているか否か)や、導入方法、ガン細胞の種類、ガンの進行度等によって異なるため限定されるものではないが、例えば、pMO14Z−SHP1 fullを造血器腫瘍細胞にリポフェクション法を用いて導入する場合は、106細胞あたり100ng以上10μg以下の上記SHP1遺伝子構築物を投与することが好ましい。
またpMO14Y−SHP1 N53を造血器腫瘍細胞にリポフェクション法を用いて導入する場合は、106細胞あたり100ng以上10μg以下の上記SHP1遺伝子構築物を投与することが好ましい。
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さらには、pMO14Y−SHP1 N53C32を造血器腫瘍細胞にリポフェクション法を用いて導入する場合は、106細胞あたり100ng以上10μg以下の上記SHP1遺伝子構築物を投与することが好ましい。
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また上記レトロウイルスベクターを導入方法に用いる場合においては103から105 CFU/mlの濃度で投与することがのぞましい。CFUはColony Forming Unitである。
また上記アデノウイルスベクターを導入方法に用いる場合においては109から1011PFUで投与することが望ましい。PFUはPlaque Forming Unitである。
なお、上記SHP1遺伝子構築物を有効成分とする本発明にかかるガン治療用薬剤には、上記SHP1遺伝子構築物の他の成分として、リン酸緩衝液が含まれていてもよい。
(I−b)SHP1タンパク質を用いた本発明にかかるガン治療用薬剤
本発明にかかるガン治療用薬剤のもう一つの態様は、ガン抑制因子であるSHP1タンパク質をガン細胞内に導入して補い、ガン細胞の増殖抑制または死滅させるというものである。
本発明にかかるガン治療用薬剤のもう一つの態様は、ガン抑制因子であるSHP1タンパク質をガン細胞内に導入して補い、ガン細胞の増殖抑制または死滅させるというものである。
本発明にかかるガン治療用薬剤に用いるSHP1タンパク質としては、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する全長SHP1タンパク質であってもよいし、既述の改変型SHP1タンパク質であってもよい。かかる改変型SHP1タンパク質としては、例えば、SHP1タンパク質のN末端から52アミノ酸を欠失させた改変型SHP1タンパク質(以下、SHP1 N53タンパク質;配列番号5参照)や、SHP1タンパク質のN末端から52アミノ酸を欠失させ、さらにSHP1タンパク質のC末端から32アミノ酸を欠失させた改変型SHP1タンパク質(以下、SHP1 N53C32タンパク質;配列番号8参照)が挙げられる。
SHP1タンパク質を有効成分とする本発明にかかるガン治療用薬剤を用いてガン患者の治療を行なう場合には、当該ガン治療用薬剤(SHP1タンパク質)を標的ガン細胞に導入する。本発明にかかるガン治療用薬剤(SHP1タンパク質)を標的ガン細胞へ導入する方法としては、公知のProtein Transduction Domainを用いたタンパク質導入法、Saint-MIX profection試薬等を用いて行なえばよい。より具体的には、5個から11個の塩基性アミノ酸をSHP1タンパク質(改変型SHP1タンパク質を含む)と融合させた形で作成し、細胞に投与を行なえばよい。
また本発明にかかるガン治療用薬剤(SHP1タンパク質)の有効な投与量は、SHP1タンパク質の形態(改変されているか否か)や、導入方法、ガン細胞の種類、ガンの進行度等によって異なるため限定されるものではないが、例えば、全長SHP1タンパク質を造血器腫瘍細胞にSaint-MIX profection試薬を用いて導入する場合は、104細胞あたり2μgの上記SHP1タンパク質を投与することが好ましい。
また、SHP1 N53タンパク質を造血器腫瘍細胞にSaint-MIX profection試薬を用いて導入する場合は、104細胞あたり2μgの上記SHP1タンパク質を投与することが好ましい。
また、SHP1 N53C32タンパク質を造血器腫瘍細胞にSaint-MIX profection試薬を用いて導入する場合は、104細胞あたり2μgの上記SHP1タンパク質を投与することが好ましい。
なお、上記SHP1タンパク質を有効成分とする本発明にかかるガン治療用薬剤には、上記SHP1タンパク質の他の成分として、リン酸緩衝液が含まれていてもよい。
(II)本発明にかかるガン細胞の死滅方法
本発明にかかるガン細胞の死滅方法は、(a)少なくとも発現用プロモーターと、SHP1タンパク質(または改変型SHP1タンパク質)をコードする遺伝子とを連結してなる遺伝子構築物、(b)またはSHP1タンパク質(または改変型SHP1タンパク質)を、標的ガン細胞に導入する工程を含むことを特徴としている。
本発明にかかるガン細胞の死滅方法は、(a)少なくとも発現用プロモーターと、SHP1タンパク質(または改変型SHP1タンパク質)をコードする遺伝子とを連結してなる遺伝子構築物、(b)またはSHP1タンパク質(または改変型SHP1タンパク質)を、標的ガン細胞に導入する工程を含むことを特徴としている。
すなわち、本発明にかかるガン細胞の死滅方法は、上記(I)の項で説示した本発明にかかるガン治療用薬剤の有効成分である(a)SHP1遺伝子構築物、または(b)SHP1タンパク質(または改変型SHP1タンパク質)を標的ガン細胞に導入する工程(以下、導入工程と称する)を含むものである。よって、SHP1遺伝子(改変型SHP1遺伝子)及びSHP1遺伝子構築物、並びにSHP1タンパク質(改変型SHP1タンパク質)は、上記(I)の項で説示したものを使用すればよい。また本発明にかかるガン細胞の死滅方法には、上記(I)の項で説示した本発明にかかるガン治療用薬剤を標的ガン細胞に導入する工程を含むものであってもよい。
上記導入工程によって、SHP1遺伝子(改変型SHP1遺伝子)、またはSHP1タンパク質(改変型SHP1タンパク質)が導入された標的ガン細胞は、後述する実施例において示すように腫瘍形成能が消失し、さらにアポトーシスの誘導がかかりやすくなっている。それゆえ、上記標的ガン細胞は、増殖が抑制されている上に、さらに自然界に存在する紫外線等の影響によってアポトーシスが起こり、結果としてガン細胞が死滅することとなる。
ただし本発明にかかるガン細胞の死滅方法には、上記導入工程に加えて、さらにアポトーシス誘導工程が含まれていてもよい。ここで「アポトーシス」とは、生理条件下において細胞が自ら積極的に引き起こす細胞死のことをいい、壊死(ネクローシス)とは異なる。また「アポトーシス誘導工程」とは、上記アポトーシスが起こり易くするために、カルシウム・イオノホア等の薬剤を添加したり、紫外線照射・放射線照射等を行なうことである。この他、熱、制癌剤、ある種の特異的レセプターへの刺激、細胞内カルシウム濃度の変動、増殖因子除去の刺激によってもアポトーシスを誘導することができる。上記アポトーシス導入工程を行うことで、標的ガン細胞をより効果的に死滅させることができる。
また本発明にかかるガン細胞の死滅方法には、上記SHP1遺伝子構築物を構築する構築工程(構築工程)が含まれていてもよい。当該構築工程は、少なくともSHP1遺伝子(改変型SHP1遺伝子)と発現用プロモーターとを連結する工程が含まれていればよい。またこの他、薬剤耐性遺伝子、ターミネーター、蛍光タンパク質遺伝子等のDNAセグメントを挿入・連結する工程を含んでいてもよい。また市販の発現用ベクターに目的とするSHP1遺伝子(改変型SHP1遺伝子)を挿入する工程も上記構築工程に含まれる。なお、上記構築工程における遺伝子の切断・連結・挿入等の手法は、公知の遺伝子工学的手法を適宜選択の上、用いればよい。
上記(a)SHP1遺伝子構築物、または(b)SHP1タンパク質(または改変型SHP1タンパク質)を標的ガン細胞に導入することで、ガン抑制遺伝子、またはガン抑制因子をガン細胞内に導入して補い、ガン細胞の増殖抑制または死滅させるというものである。これは既述のとおり、本発明者等の検討により得られた新規知見、すなわち正常SHP1遺伝子が導入された造血器腫瘍細胞株を免疫不全マウス(SCIDマウス)に移植すると、当該マウスにおいて腫瘍形成が全く認められないということ、さらには、正常SHP1遺伝子が導入された造血器腫瘍細胞株は、有意にアポトーシスによる細胞死が強く誘導されるということに基づいている。
本発明にかかるガン細胞の死滅方法における導入工程は、(a)SHP1遺伝子構築物、または(b)SHP1タンパク質(または改変型SHP1タンパク質)が標的ガン細胞に導入することができる方法であれば特に限定されるものではなく、上記(I)の項で説示した導入方法を適宜選択の上用いればよい。
本発明にかかるガン細胞の死滅方法における標的ガン細胞の「ガン細胞」とは、広義に解し、悪性腫瘍細胞のみならず良性腫瘍細胞を含む意味である。また悪性腫瘍についても上皮性悪性腫瘍細胞であっても、非上皮性悪性腫瘍細胞であってもよい。ここで標的ガン細胞としては、上記ガン細胞であれば特に限定されるものではないが、広い範囲の悪性の造血器腫瘍(悪性リンパ腫、白血病細胞)においてSHP1タンパク質の発現抑制が極めて高頻度で見られるという理由から、悪性リンパ腫細胞、白血病細胞等の造血器腫瘍細胞がより有効であり、好ましいといえる。
以下添付した図面に沿って実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
〔実施例1〕
本発明者等は、これまでにほとんどの造血器腫瘍において、SHP1遺伝子は異常メチル化により発現が抑制されていること、及びin vitro の実験からSHP1遺伝子を導入した造血器腫瘍細胞の増殖能が抑制されることを明らかにしてきた。そこでSHP1遺伝子導入により、造血器腫瘍の遺伝子治療が可能か否かを検討する目的で以下の実験を行なった。
本発明者等は、これまでにほとんどの造血器腫瘍において、SHP1遺伝子は異常メチル化により発現が抑制されていること、及びin vitro の実験からSHP1遺伝子を導入した造血器腫瘍細胞の増殖能が抑制されることを明らかにしてきた。そこでSHP1遺伝子導入により、造血器腫瘍の遺伝子治療が可能か否かを検討する目的で以下の実験を行なった。
(全長SHP1遺伝子発現用ベクターpMO14Z−SHP1の構築)
全長SHP1遺伝子を標的ガン細胞内で発現させるために用いる発現用ベクターpMO14Z−SHP1(以下、単にpMO14Z−SHP1と称する)は、以下のようにして構築した。簡単には、正常末梢血由来のmRNAを用いて逆転写酵素によりcDNAを作成し、SHP1遺伝子に相補的なプライマーを用いてPCRを行なった。このSHP1遺伝子cDNAの塩基配列を確認後、pMO14ZベクターのHAタグ(Hemagglutinin-tag)の下流にアミノ酸のフレームが合うようにクローニングすることにより作製した。
全長SHP1遺伝子を標的ガン細胞内で発現させるために用いる発現用ベクターpMO14Z−SHP1(以下、単にpMO14Z−SHP1と称する)は、以下のようにして構築した。簡単には、正常末梢血由来のmRNAを用いて逆転写酵素によりcDNAを作成し、SHP1遺伝子に相補的なプライマーを用いてPCRを行なった。このSHP1遺伝子cDNAの塩基配列を確認後、pMO14ZベクターのHAタグ(Hemagglutinin-tag)の下流にアミノ酸のフレームが合うようにクローニングすることにより作製した。
なお構築したpMO14Z−SHP1の概略図を図1に示し、その全塩基配列を配列番号3に示した。
(標的ガン細胞へのSHP1遺伝子導入)
ヒト骨髄性白血病培養細胞株K562細胞に対して、前記で取得したpMO14Z−SHP1、及びコントロール・ベクター(すなわちSHP1遺伝子を導入していないベクター)をX-tremeGENE Q2 Transfection Reagent(Roche Diagnostics Corporation社製:登録商標)を用いて遺伝子導入した。
ヒト骨髄性白血病培養細胞株K562細胞に対して、前記で取得したpMO14Z−SHP1、及びコントロール・ベクター(すなわちSHP1遺伝子を導入していないベクター)をX-tremeGENE Q2 Transfection Reagent(Roche Diagnostics Corporation社製:登録商標)を用いて遺伝子導入した。
なお、今回標的ガン細胞への遺伝子導入に用いた X-tremeGENE Q2 Transfection Reagent は、Roche Diagnostics Corporation社により開発された培養細胞への遺伝子導入試薬(Transfection Reagent)である。このX-tremeGENE Q2 Transfection Reagentは、HeLa細胞,Jurkat細胞,K562細胞に対して高い遺伝子導入効率を有し、かつタンパク質高発現のために至適化されデザインされた試薬である。一方、他の市販されているリポソーマル、ノンリポソーマルな遺伝子導入試薬は、幅広い細胞タイプに遺伝子を導入することが可能であるが、ヒト由来のHeLa細胞,Jurkat細胞,K562細胞等のある種の細胞に対しては、遺伝子導入効率が低いと言われている。以下に当該X-tremeGENE Q2 Transfection Reagentを用いて、K562細胞にpMO14Z−SHP1を導入する方法を示す。
(1)血清の入っていないRPMI1640培地(SFM;Serum Free Medium)でK562細胞を1×105細胞/mlになるように調整し、24穴プレートに0.5mlづつ分注した。
(2)68μlのX-tremeGENE Q2 Transfection Reagentを782μlのSFMで希釈した。
(3)31μgのpMO14Z−SHP1を850μlのDNA dilution bufferで希釈し、室温で10分間放置した。
(4)上記(2)と(3)を混合後、10分間放置した。
(5)上記(1)の24穴プレートに(4)の混合液を40μl(6穴)、60μl(6穴)、80μl(6穴)、100μl(6穴)を加え、37℃のCO2インキュベーターで4時間放置した。
(6)その後、20%牛胎児血清を含むRPMI1640培地を0.5ml加え、同様に48時間インキュベートを行なった。
(7)抗生物質G418(800μg/ml)を含むRPMI1640培地(10%牛胎児血清を含む)を1mlづつ加え、G418耐性遺伝子プラスミドが導入された細胞が増殖してくるのを待った。
(8)G418耐性のコロニーが増えてきたら、独立したコロニーとして分離した。
ここで、pMO14Z−SHP1が導入されたK562細胞のことを便宜上、「K562SHP1」と称し、コントロール・ベクターが導入されたK562細胞のことを便宜上、「K562EF」と称する。
(マウスへの移植試験)
上記で取得したK562SHP1(1×107個)・K562EF(1×107個)をそれぞれ免疫不全マウス(SCIDマウス、4週齢、メス)の皮下に移植し、腫瘍形成能を観察した。
上記で取得したK562SHP1(1×107個)・K562EF(1×107個)をそれぞれ免疫不全マウス(SCIDマウス、4週齢、メス)の皮下に移植し、腫瘍形成能を観察した。
(結果)
図2に、K562SHP1またはK562EFを移植後、4週間目のマウスの写真を示す。図2(a)は、K562EF(1×107個)をSCIDマウスの皮下に移植し腫瘍形成が観察されマウスの写真を示し、同図(b)は、K562SHP1(1×107個)をSCIDマウスの皮下に移植し腫瘍形成が観察されなかったマウスの写真を示す。同図によれば、腫瘍が形成されたマウスとされていないマウスは、目視によって判定できることがわかる。
図2に、K562SHP1またはK562EFを移植後、4週間目のマウスの写真を示す。図2(a)は、K562EF(1×107個)をSCIDマウスの皮下に移植し腫瘍形成が観察されマウスの写真を示し、同図(b)は、K562SHP1(1×107個)をSCIDマウスの皮下に移植し腫瘍形成が観察されなかったマウスの写真を示す。同図によれば、腫瘍が形成されたマウスとされていないマウスは、目視によって判定できることがわかる。
また図3に、各細胞(K562SHP1またはK562EF)をSCIDマウスの皮下へ移植後に形成された腫瘍の体積(平均値、n=6)の経時変化を示す。同図の横軸は、移植後の期間(週)を示し、縦軸には平均腫瘍体積(mm3)を示す。同図によれば、K562EFを移植したマウスの4週間後の平均腫瘍体積は、約1000mm3であるのに対して、K562SHP1を移植したマウスの平均腫瘍体積は、0mm3であった(すなわち、腫瘍形成は見られなかった)。したがってK562SHP1を移植したマウスは、K562EFを移植したマウスに比して、明らかに腫瘍形成(腫瘤形成)が抑制されているということがわかった。
また表1に各細胞(K562SHP1またはK562EF)が移植されたSCIDマウスについて腫瘍形成率を示した。
表1によれば、K562EFが移植されたSCIDマウスには、66.7%(4/6)の腫瘍形成が認められた。一方K562SHP1を移植したSCIDマウスには、腫瘍形成が全く認められなかった(0%:0/6)。このことは、SHP1遺伝子の導入によりヒト骨髄性白血病細胞株の腫瘍源性が有意に消失したことを意味している。よって白血病等の造血器腫瘍に対してSHP1遺伝子(SHP1遺伝子構築物)が、白血病等の造血器腫瘍に対して有効な新規治療薬となりうることがわかった。特に遺伝子治療においての利用が考えられる。
〔実施例2〕
実施例1に示した方法と同様にして、ヒト骨髄性白血病培養細胞株K562細胞に全長SHP1遺伝子発現ベクターpMO14Z−SHP1、及びコントロール・ベクターをX-tremeGENE Q2 Transfection Reagentを用いて遺伝子導入を行なった。上記で取得した各細胞にカルシウム・イオノフォアであるA23187(和光純薬工業株式会社製)を2μM又は20μMとなるように培養液に添加し、アポトーシスの誘導について経時観察を行った。
実施例1に示した方法と同様にして、ヒト骨髄性白血病培養細胞株K562細胞に全長SHP1遺伝子発現ベクターpMO14Z−SHP1、及びコントロール・ベクターをX-tremeGENE Q2 Transfection Reagentを用いて遺伝子導入を行なった。上記で取得した各細胞にカルシウム・イオノフォアであるA23187(和光純薬工業株式会社製)を2μM又は20μMとなるように培養液に添加し、アポトーシスの誘導について経時観察を行った。
(結果)
図4にその結果を示す。同図横軸は、アポトーシス誘導後の時間(0,7,24hr)を示し、縦軸にアポトーシス誘導率(%)を示す。また、斜線を付した棒グラフは、A23187を添加していない、つまりアポトーシスの誘導を行なっていない場合の結果であり、黒塗りの棒グラフはA23187を2μM添加してアポトーシスの誘導を行なった場合の結果であり、白抜きの棒グラフはA23187を20μmM添加してアポトーシスの誘導を行なった場合の結果である。
図4にその結果を示す。同図横軸は、アポトーシス誘導後の時間(0,7,24hr)を示し、縦軸にアポトーシス誘導率(%)を示す。また、斜線を付した棒グラフは、A23187を添加していない、つまりアポトーシスの誘導を行なっていない場合の結果であり、黒塗りの棒グラフはA23187を2μM添加してアポトーシスの誘導を行なった場合の結果であり、白抜きの棒グラフはA23187を20μmM添加してアポトーシスの誘導を行なった場合の結果である。
図4の結果より、K562SHP1(SHP1遺伝子の発現ベクターを導入したK562細胞)は、有意にアポトーシスによる細胞死が強く誘導されることが明らかとなった。
したがって、SHP1遺伝子が導入された腫瘍細胞は、A23187処理によりアポトーシスによる細胞死が非常に起こりやすくなっていると考えられる。254nmの紫外線を用いてアポトーシスを誘導しても、同様にアポトーシスによる細胞死が非常に起こりやすくなっていることが発明者らによって確認されている。この事実は、上記実施例1において、K562SHP1(SHP1遺伝子の発現ベクターを導入したK562細胞)をSCIDマウスに移植したin vivo の系において、腫瘍形成能が消失していた事実と良く対応している。よってSHP1遺伝子を標的ガン細胞に導入する治療法(SHP1遺伝子治療法)と、他の化学療法、放射線療法などを併用することにより低濃度の抗癌剤あるいは低線量の放射線療法によって有効に腫瘍細胞を除去(死滅)することができることが期待される。
〔実施例3〕
24穴プレートのwellあたりに、K562細胞(1×107)を0.5mlづつまいた。プラスミドpMO14ベクター、pMO14Z−SHP1、pMO14Y−SHP1 N53、pMO14Y−SHP1 N53C32およびpEGFP(蛍光蛋白遺伝子プラスミド)それぞれ1μgを、血清無添加培地50μlの入ったサンプルチューブに別々に加えた(A)。
24穴プレートのwellあたりに、K562細胞(1×107)を0.5mlづつまいた。プラスミドpMO14ベクター、pMO14Z−SHP1、pMO14Y−SHP1 N53、pMO14Y−SHP1 N53C32およびpEGFP(蛍光蛋白遺伝子プラスミド)それぞれ1μgを、血清無添加培地50μlの入ったサンプルチューブに別々に加えた(A)。
DNA細胞導入試薬TransFectin Lipid Reagent (BioRad社製)2μlを血清無添加培地50μlの入った別のサンプルチューブに加えた(B)。
(A)と(B)を混合後、20分間放置し、それぞれを細胞に添加した。
6時間後にPBSで細胞を洗浄し再び培地を加えて培養した。
Transfection 24時間後に、GFP(蛍光タンパク質)がどのくらいの割合で細胞に発現しているかを観察することによりDNAの導入効率を調べた。K562細胞の蛍光顕微鏡写真(一例)を図6に示す。
図6によれば、約30〜40%にDNAが導入されていた。
次にそれぞれの細胞1×106を用いて各種SHP1遺伝子(SHP1遺伝子、SHP1 N53遺伝子、SHP1 N53C32遺伝子)導入、換言すれば、各種SHP1タンパク質(SHP1タンパク質、SHP1 N53タンパク質、SHP1 N53C32タンパク質)によるアポトーシス促進効果を測定した。
アポトーシス誘導刺激としては、(1)血清除去、(2)紫外線照射(254nm、5,000mJ/cm2)+血清除去、を試みた。
培養10時間後に、Caspase-Glo 3/7 assay試薬(Promega社製)を用いてアポトーシス測定を行った。培養液に同量のCaspase-Glo 3/7 assay試薬を添加し1時間後に、Luminoskan プレートリーダー(Labsystems社製)を用いてアポトーシス酵素Caspaseの活性を測定した。得られた値からバックグラウンドの値を差し引き、各種SHP1タンパク質(SHP1タンパク質、SHP1 N53タンパク質、SHP1 N53C32タンパク質)のアポトーシス誘導率を計算した。図7に、(1)血清除去によるアポトーシス誘導刺激を行なった時のアポトーシス誘導率を示し、図8に(2)紫外線照射(254nm、5,000mJ/cm2)+血清除去によるアポトーシス誘導刺激を行なった時のアポトーシス誘導率を示す。
なお、TransFectin Lipid Reagent はバイオラッド社の新しい遺伝子導入試薬であり、幅広い細胞に対して高い導入効率と発現活性を示し、他社の製品と比較して細胞毒性を低く押さえてある試薬である。Caspase-GloTM3/7 Assayは、Promega社のカスパーゼ-3/7活性を測定するためのホモジニアスフォーマットを採用した発光検出によるアッセイシステムである。Caspase-GloTMReagentを培養液に直接加えれば、細胞溶解、カスパーゼによる基質の切断、ルシフェラーゼ存在下でのグロータイプ発光シグナルの生成が連続的に起こり、”添加-混和-測定”のシンプルな測定が行える。
(結果)
SHP1 N53C32遺伝子を導入、換言すれば、SHP1 N53C32タンパク質が発現したK562細胞(図7,8中pMO14Y−SHP1 N53C32で表記)は、血清除去刺激で全長SHP1タンパク質導入(図7,8中pMO14Y−SHP1で表記)の場合に比して約3倍、紫外線照射+血清除去刺激で約4.7倍アポトーシスを誘導しやすいことが判明した。よって、かかるアミノ酸欠質型SHP1遺伝子;SHP1 N53C32遺伝子(タンパク質;SHP1 N53C32タンパク質)を用いると、より高い効率で腫瘍を抑制することができると言える。
(結果)
SHP1 N53C32遺伝子を導入、換言すれば、SHP1 N53C32タンパク質が発現したK562細胞(図7,8中pMO14Y−SHP1 N53C32で表記)は、血清除去刺激で全長SHP1タンパク質導入(図7,8中pMO14Y−SHP1で表記)の場合に比して約3倍、紫外線照射+血清除去刺激で約4.7倍アポトーシスを誘導しやすいことが判明した。よって、かかるアミノ酸欠質型SHP1遺伝子;SHP1 N53C32遺伝子(タンパク質;SHP1 N53C32タンパク質)を用いると、より高い効率で腫瘍を抑制することができると言える。
以上の実験事実は、SHP1遺伝子の導入により、ヒト骨髄性白血病細胞株K562細胞の腫瘍源性が有意に消失したことを意味しており、造血器腫瘍においてSHP1遺伝子が新しい重要な遺伝子治療の標的となりうることを示している。健康な人の体の中では、抗体産生による体液性免疫や貪食作用のような細胞性免疫システムが絶えず働いているが、造血器腫瘍患者の場合、本来腫瘍増殖を押さえる働きを持つ免疫システムに異常を生じてしまうため、腫瘍の増殖を許しやすい傾向にあると言える。このマウスの実験結果は、人工的な環境下で培養するin vitro の結果のみからでは必ずしも容易に類推できるものではなく、in vivoでの実験を行ってみて初めて減弱化された免疫系の監視システムの中においてSHP1遺伝子導入細胞がどの様な挙動をとるのか、また生体内の微小環境の中で遺伝子導入細胞が増殖しうるかどうかなどが明らかとなるものである。
なお上記実施例では、免疫不全マウスSCIDマウスを用いて移植実験を行なった結果、SHP1遺伝子が導入されたK562細胞は宿主に生着することができないということが示された。このことは、正常な免疫系を維持している患者のみならず、免疫力が低下している患者においてもSHP1遺伝子の導入により標的ガン細胞が、in vivoで増殖できなくなることを示す結果である。よって本発明にかかるガン治療用薬剤、及びガン細胞の死滅方法を用いることによって、実際に白血病・悪性リンパ腫等の造血器腫瘍の患者に適用可能な遺伝子治療技術を確立することが可能である。
以上のように、本発明にかかるガン治療用薬剤をガン細胞(悪性リンパ腫細胞や白血病細胞等の造血器腫瘍)に導入することで、当該ガン細胞の腫瘍源性を有意に消失させることができる。さらには、当該ガン細胞のアポトーシスによる細胞死を有意に誘導することができる。それゆえ、広範な悪性リンパ腫・白血病に対して有効なガン治療用薬剤を提供することができるという効果を奏する。
また、本発明にかかるガン細胞の死滅方法によれば、ガン細胞(悪性リンパ腫細胞や白血病細胞等の造血器腫瘍細胞)を有意に死滅させることができる。それゆえ、ガン、特に広範な悪性リンパ腫・白血病等の造血器腫瘍に対して有効なガン治療方法を提供することができるという効果を奏する。
したがって本発明は、製薬業をはじめとする医療産業において幅広く利用が可能である。また本発明は、ガン細胞の発生・消滅に関する基礎的研究にも大いに寄与するものである。
1 CMVプロモーター
2 HAタグ
3 SHP1遺伝子(cDNA)
4 ポリA付加シグナル(mRNA polyadenylation signal)
5 SV40プロモーター
6 ジェネティシン/G418(Geneticin/G418)耐性遺伝子(neomycin resistant gene)
7 ポリA付加シグナル(mRNA polyadenylation signal)
8 アンピシリン耐性遺伝子(ampicillin resistant gene)
10 pMO14Z−SHP1
2 HAタグ
3 SHP1遺伝子(cDNA)
4 ポリA付加シグナル(mRNA polyadenylation signal)
5 SV40プロモーター
6 ジェネティシン/G418(Geneticin/G418)耐性遺伝子(neomycin resistant gene)
7 ポリA付加シグナル(mRNA polyadenylation signal)
8 アンピシリン耐性遺伝子(ampicillin resistant gene)
10 pMO14Z−SHP1
Claims (27)
- 少なくとも発現用プロモーターと、SHP1タンパク質をコードする遺伝子とを連結してなる遺伝子構築物を有効成分とするガン治療用薬剤。
- 少なくとも発現用プロモーターと、改変型SHP1タンパク質をコードする遺伝子とを連結してなる遺伝子構築物を有効成分とするガン治療用薬剤。
- 上記SHP1タンパク質をコードする遺伝子が、以下の(a)または(b)に記載の遺伝子であることを特徴とする請求項1に記載のガン治療用薬剤。
(a)配列番号1に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子。
(b)配列番号1に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ、ガン抑制機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。 - 上記改変型SHP1タンパク質をコードする遺伝子が、以下の(c)または(d)に記載の遺伝子であることを特徴とする請求項2に記載のガン治療用薬剤。
(c)配列番号4または7に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子。
(d)配列番号4または7に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ、ガン抑制機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。 - 上記発現用プロモーターが、サイトメガロウイルスプロモーターであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のガン治療用薬剤。
- 上記遺伝子構築物が、配列番号3に示される塩基配列を有することを特徴とする請求項5に記載のガン治療用薬剤。
- 上記遺伝子構築物が、配列番号6または9に示される塩基配列を有することを特徴とする請求項5に記載のガン治療用薬剤。
- SHP1タンパク質を有効成分とするガン治療用薬剤。
- 改変型SHP1タンパク質を有効成分とするガン治療用薬剤。
- 上記SHP1タンパク質が、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項8に記載のガン治療用薬剤。
- 上記改変型SHP1タンパク質が、配列番号5または8に示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項9に記載のガン治療用薬剤。
- 上記改変型SHP1タンパク質が、配列番号2または5または8に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、ガン抑制機能を有するタンパク質であることを特徴とする請求項9に記載のガン治療用薬剤。
- 少なくとも発現用プロモーターと、SHP1タンパク質をコードする遺伝子とを連結してなる遺伝子構築物を、標的ガン細胞に導入する工程を含むことを特徴とするガン細胞の死滅方法。
- 少なくとも発現用プロモーターと、改変型SHP1タンパク質をコードする遺伝子とを連結してなる遺伝子構築物を、標的ガン細胞に導入する工程を含むことを特徴とするガン細胞の死滅方法。
- 上記SHP1タンパク質をコードする遺伝子が、以下の(e)または(f)に記載の遺伝子であることを特徴とする請求項13に記載のガン細胞の死滅方法。
(e)配列番号1に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子。
(f)配列番号1に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ、ガン抑制機能を有する遺伝子。 - 上記改変型SHP1タンパク質をコードする遺伝子が、以下の(g)または(h)に記載の遺伝子であることを特徴とする請求項14に記載のガン細胞の死滅方法。
(g)配列番号4または7に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子。
(h)配列番号4または7に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ、ガン抑制機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。 - 上記発現用プロモーターが、サイトメガロウイルスプロモーターであることを特徴とする請求項13ないし16のいずれか1項に記載のガン細胞の死滅方法。
- 上記遺伝子構築物が、配列番号3に示される塩基配列を有することを特徴とする請求項17に記載のガン細胞の死滅方法。
- 上記遺伝子構築物が、配列番号6または9に示される塩基配列を有することを特徴とする請求項17に記載のガン細胞の死滅方法。
- SHP1タンパク質を標的ガン細胞に導入する工程を含むことを特徴とするガン細胞の死滅方法。
- 改変型SHP1タンパク質を標的ガン細胞に導入する工程を含むことを特徴とするガン細胞の死滅方法。
- 上記SHP1タンパク質が、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項20に記載のガン細胞の死滅方法。
- 上記改変型SHP1タンパク質が、配列番号5または8に示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項21に記載のガン細胞の死滅方法。
- 上記改変型SHP1タンパク質が、配列番号2または5または8に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、ガン抑制機能を有するタンパク質であることを特徴とする請求項21に記載のガン細胞の死滅方法。
- 上記標的ガン細胞が、造血器腫瘍細胞であることを特徴とする請求項13ないし24のいずれか1項に記載のガン細胞の死滅方法。
- 上記造血器腫瘍細胞が、悪性リンパ腫細胞または白血病細胞であることを特徴とする請求項25に記載のガン細胞の死滅方法。
- さらに、アポトーシス誘導工程を含むことを特徴とする請求項13ないし26のいずれか1項に記載のガン細胞の死滅方法。
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---|---|---|---|
JP2004136690A JP2005314341A (ja) | 2004-04-30 | 2004-04-30 | ガン治療用薬剤及びその利用 |
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