上述のように、出射部と観察者との間に変調部を備えた同じ型式の画像表示装置に属する複数の製品(個体)間において、画像信号によって表される奥行き指令値が互いに共通する場合であるにもかかわらず、変調部によって実現される奥行き実際値が互いに共通しないことになってしまう原因として、変調部に関する個体差が考えられる。
この個体差は、典型的には、変調部の製造誤差すなわち製造ばらつきに起因するが、複数の製品(個体)がそれぞれ使用される環境の温度(以下、「使用温度」という。)が互いに異なることに起因する可能性もある。
それら2種類の要因すなわち製造ばらつきおよび使用温度につき、各要因に起因する波面曲率の誤差の特性を互いに比較して検討するに、製造誤差に起因する波面曲率の誤差は、当該画像表示装置の使用場所や使用温度に依存せず、定常的な誤差であるのに対し、使用温度に起因する波面曲率の誤差は、当該画像表示装置の使用温度に依存し、変動的な誤差である。
そのため、それら2種類の要因に起因する誤差の特性を、画像表示装置による一連の画像表示という期間に着目して、互いに比較して検討するに、製造ばらつきに起因する誤差は、画像表示中、時間と共に変動しないのに対し、使用温度に起因する誤差は、画像表示中、時間と共に変動する可能性がある。なぜなら、例えば、画像表示中、画像表示装置が、環境温度が異なる別の場所に移動されて使用されたり、使用場所が同じであってもその使用場所の環境温度が変化する可能性があるからである。
このことを、特許文献1に記載の網膜走査型ディスプレイを例にとり具体的に説明する。その網膜走査型ディスプレイによる一連の画像表示中、可動ミラーと収束レンズとが一緒に装着されるフレームの温度が変化すると、そのフレームの形状が、熱変形(熱膨張または熱収縮)という現象によって変化する。その変化に伴い、可動ミラーおよび収束レンズ間の距離が変化する。この変化により、変調部から出射する光の波面変調が変化し、その結果、表現される画像の奥行きが安定しない。
そのため、画像表示装置において可動ミラーの原点位置のキャリブレーションを行うにしても、その画像表示装置による一連の画像表示に先立ってのみ行い、その一連の画像表示中には行わない場合には、その一連の画像表示中における波面曲率の変動誤差を縮減することはできない。
一方、画像表示装置による一連の画像表示中に可動ミラーの原点位置のキャリブレーションを行う場合には、その一連の画像表示に先立って行う場合に比較し、短時間で完了することが強く要望される。表示画像に実質的な影響を与えることなくキャリブレーションを行うことが画質の維持に望ましいからである。
これに対し、可動ミラーの原点位置のキャリブレーションを、前述のように、その可動ミラーと本来のアクチュエータとを一緒に移動させることによって行う場合には、そのキャリブレーションのために打ち勝たなければならない慣性(慣性質量または慣性モーメント)が、可動ミラーを単独で移動させれば足りる場合より、増加する。そのため、可動ミラーと本来のアクチュエータとを一緒に移動させてキャリブレーションを行う場合には、キャリブレーションを高速で行うことに適していない。
以上説明した知見に基づき、本発明は、画像の奥行きが表現されるようにその画像を観察者に表示する画像表示装置において、画像の奥行きが表現される精度を向上させることを課題としてなされたものである。
本発明によって下記の各態様が得られる。各態様は、項に区分し、各項には番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、本発明が採用し得る技術的特徴の一部およびそれの組合せの理解を容易にするためであり、本発明が採用し得る技術的特徴およびそれの組合せが以下の態様に限定されると解釈すべきではない。すなわち、下記の態様には記載されていないが本明細書には記載されている技術的特徴を本発明の技術的特徴として適宜抽出して採用することは妨げられないと解釈すべきなのである。
さらに、各項を他の項の番号を引用する形式で記載することが必ずしも、各項に記載の技術的特徴を他の項に記載の技術的特徴から分離させて独立させることを妨げることを意味するわけではなく、各項に記載の技術的特徴をその性質に応じて適宜独立させることが可能であると解釈すべきである。
(1) 画像の奥行きが表現されるようにその画像を観察者に表示する画像表示装置であって、
光を出射する出射部と、
表示すべき画像の奥行きを表す奥行き信号に基づき、前記出射部から出射した光の波面曲率を変調する変調部と、
表示すべき画像を表す画像信号と、前記波面曲率に関連する波面曲率関連量の実際値である実波面曲率関連量とに基づいて前記奥行き信号を生成して前記変調部に出力する出力部と
を含む画像表示装置。
この画像表示装置においては、表示すべき画像を表す画像信号と、出射部から出射した光の波面曲率に関連する波面曲率関連量の実際値である実波面曲率関連量とに基づき、奥行き信号が生成されて変調部に出力される。したがって、この画像表示装置によれば、変調部に出力される奥行き信号に波面曲率の実際値を反映させることが可能となる。その結果、画像信号によって表される奥行きの指令値すなわち波面曲率の指令値が、その波面曲率の実際値に影響を及ぼす外乱の有無にかかわらず、精度よく実現されるように、変調部を制御することが可能となる。
このように、この画像表示装置においては、波面曲率の誤差を低減するための変調部の制御(以下、「誤差低減制御」という。)が特別な機構を用いることなく単に電気的に行われる。すなわち、波面曲率を変調するために変調部がそもそも有する機構を用いて電気的に行われるのである。
よって、この画像表示装置によれば、変調部の誤差低減制御を行うために特別な機構を追加することが不可欠ではないため、当該画像表示装置の部品点数の増加ならびにそれに伴う重量増加およびコストアップを抑制しつつ、変調部の誤差低減制御を行うことが可能となる。
この画像表示装置は、波面曲率に発生する誤差の種類が、一連の画像表示中において時間と共に変動しない定常誤差であるか変動する変動誤差であるかを問わず、その誤差が低減されるように、変調部を単に電気的に制御する第1の態様で実施することが可能である。この第1の態様においては、一連の画像表示中、波面曲率に変動誤差が発生しなくても、定常誤差が存在する限り、その定常誤差を反映するように奥行き信号が生成され、それにより、変調部が電気的に制御されることとなる。
これに対し、本項に係る画像表示装置は、一連の画像表示に先立ち、自己保持機能を有する特別の機構を用いて変調部のキャリブレーションを行うことにより、波面曲率に存在する定常誤差を低減する一方、一連の画像表示中、波面曲率の実際値を反映した奥行き信号によって変調部を単に電気的に制御することにより、波面曲率に発生する変動誤差を低減する第2の態様で実施することも可能である。この第2の態様においては、一連の画像表示中、変動誤差が発生しない限り、変調部の電気的な誤差低減制御を実行せずに済み、消費電力の節減が可能となる。
それら第1および第2の態様のいずれにおいても、一連の画像表示中、変調部の電気的な誤差低減制御が可能であるが、波面曲率に発生する定常誤差の大きさと変動誤差の大きさとを互いに比較すれば、一般的には、変動誤差の方が定常誤差より小さい。また、波面曲率に発生する誤差が変動的であるか定常的であるかを問わず、その誤差が小さいほど、変調部の電気的な誤差低減制御の複雑さ・負荷が軽くて済む。
ところで、画像表示中に誤差低減制御を長い時間かけて行わなければならないほど、その誤差低減制御による悪影響が表示画像に現れてしまう可能性が高い。しかし、以上説明した第1および第2の態様においては、一連の画像表示中、誤差低減制御を、その一連の画像表示に先立って行われる誤差低減制御より短時間で完了することが可能となる。したがって、それら第1および第2の態様によれば、表示画像に実質的な影響を及ぼすことなく誤差低減制御を行うことが容易となり、その結果、画質の低下を招来することなく、表現される画像の奥行きの安定性を向上させることが容易となる。
本項における「実波面曲率関連量」は、変調部が、自身の状態(例えば、位置、形状、温度、機械的性質、電気的性質、光学的性質等)が変化すると波面曲率の実際値を変化させる光学系を含む場合には、例えば、その光学系の状態である。
具体的には、本項における「実波面曲率関連量」は、変調部が、相互の距離が変化すると波面曲率の実際値を変化させる2個の構成要素(例えば、前述の可動ミラーと収束レンズ)を含む場合には、例えば、それら2個の構成要素間の距離である。また、変調部が、自身の位置が変化すると波面曲率の実際値を変化させる構成要素を含む場合には、例えば、その構成要素の位置である。また、変調部が、自身の温度が変化すると波面曲率の実際値を変化させる構成要素(例えば、前述のフレーム)を含む場合には、例えば、その構成要素の温度である。
(2) 前記出力部は、
(a)前記波面曲率関連量の理想値と実際値との関係に基づき、前記画像信号に本来であれば対応する奥行き信号である元奥行き信号に対する補正値を決定する決定部と、
(b)その決定された補正値と、前記画像信号と前記元奥行き信号との少なくとも一方とに基づき、前記変調部に出力すべき奥行き信号を生成する生成部と
を含む(1)項に記載の画像表示装置。
この画像表示装置においては、波面曲率関連量の理想値と実際値との関係に基づき、画像信号に本来であれば対応する奥行き信号である元奥行き信号に対する補正値が決定され、その決定された補正値と、画像信号と元奥行き信号との少なくとも一方とに基づき、変調部に出力すべき奥行き信号が生成される。したがって、この画像表示装置によれば、波面曲率の実際値を考慮して元奥行き信号を補正するという手法により、変調部に実際に出力される奥行き信号が波面曲率の実際値を反映することが可能となる。
(3) さらに、前記実波面曲率関連量を検出する検出部を含み、前記決定部は、その検出部によって検出された実波面曲率関連量に基づいて前記補正値を決定するものである(2)項に記載の画像表示装置。
(4) 前記検出部は、当該画像表示装置による一連の画像表示に先立ち、前記実波面曲率関連量を検出する表示前検出手段を含む(3)項に記載の画像表示装置。
この画像表示装置においては、当該画像表示装置による一連の画像表示に先立ち、実波面曲率関連量が検出され、その検出値に基づいて元奥行き信号の補正値が決定される。したがって、この画像表示装置によれば、例えば、変調部の製造ばらつきや当該画像表示装置の使用温度の場所的変動に起因する波面曲率の誤差が縮減されるように、元奥行き信号の補正値を決定することが可能となり、その結果、製造ばらつきや使用温度の場所的変動に起因する誤差が波面曲率の実際値に現れてしまう可能性を低減することが可能となる。
(5) 前記検出部は、当該画像表示装置による一連の画像表示の実行中に、前記実波面曲率関連量を検出する表示中検出手段を含む(3)または(4)項に記載の画像表示装置。
この画像表示装置においては、当該画像表示装置による一連の画像表示の実行中に、実波面曲率関連量が検出され、その検出値に基づいて元奥行き信号の補正値が決定される。したがって、この画像表示装置によれば、例えば、当該画像表示装置の使用温度の時間的変動に起因する波面曲率の誤差が縮減されるように、元奥行き信号の補正値を決定することが可能となり、その結果、使用温度の時間的変動に起因する誤差が波面曲率の実際値に現れてしまう可能性を低減することが可能となる。
(6) 前記検出部は、前記変調部から出射した光を検出することにより、前記実波面曲率関連量を検出する光センサを含む(3)ないし(5)項のいずれかに記載の画像表示装置。
この画像表示装置によれば、変調部からの出射光を参照することにより、その出射光の波面曲率の実際値を直接に監視することが可能となる。したがって、画像表示装置によれば、波面曲率に誤差を発生させる原因ではなく、波面曲率に発生した誤差という結果を監視して奥行き信号を補正することが可能となり、よって、波面曲率に誤差を発生させる原因の種類の如何を問わず、波面曲率が精度よく実現されるように奥行き信号を補正することが可能となる。
(7) 前記検出部は、前記出射部が光を設定状態で出射し、かつ、前記変調部に設定奥行き信号が出力される光検出状態において、前記光センサによって前記実波面曲率関連量を検出するものである(6)項に記載の画像表示装置。
実波面曲率関連量は、変調部に対する外乱によって変化するのみならず、出射部から出射して変調部に入射する入射光の状態(例えば、波長)によっても変化する可能性があるし、変調部に出力される奥行き信号の状態(例えば、指令値)によっても変化する可能性もある。したがって、実波面曲率関連量を理想波面曲率関連量との比較において精度よく評価するためには、それら入射光の状態および奥行き信号の状態が既知であることが望ましい。
このような知見に基づき、本項に係る画像表示装置においては、出射部が光を設定状態で出射し、かつ、変調部に設定奥行き信号が出力される光検出状態において、実波面曲率関連量が検出される。
この画像表示装置においては、出射部からの出射光を利用して実波面曲率関連量を精度よく検出するためには、その検出時に出射部が光を出射する状態が事前に判明していることが重要である。両者間に依存性がある可能性があるからである。そのため、この画像表示装置においては、実波面曲率関連量が検出される場合には、出射部が光を設定状態で出射することになる。したがって、ここに、「設定状態」は、出射状態が時間的に変化しないこと(実波面曲率関連量が検出されるごとに出射状態が異なることを排除すること)を意味するように解釈されるべきではなく、出射状態が既知であることを意味するように解釈されるべきである。すなわち、波面曲率関連量を検出するために利用される出射光の出射状態が事前に判明していれば足り、実波面曲率関連量が検出されるごとに出射状態が異なることを排除することを意味しないと解釈されるべきなのである。
(8) 前記検出部は、当該画像表示装置による一連の画像表示の実行中に、表示すべき画像とは無関係に、前記出射部が光を設定状態で出射し、かつ、前記変調部に設定奥行き信号が出力される光検出状態において、前記光センサによって前記実波面曲率関連量を検出するものである(6)項に記載の画像表示装置。
画像表示装置による一連の画像表示の実行中に、変調部からの出射光が観察者への到達前に遮断されると、画像表示が実質的に阻害される場合があるが、実質的に阻害されない場合もある。後者の場合の一例は、画像表示領域の外側に非画像表示領域(例えば、水平走査帰線または垂直走査帰線のうち画像表示領域から外れた部分)が設定され、その非画像表示領域に、変調部からの出射光が照射される場合である、別の例は、画像表示に実質的に影響を与えない期間に(例えば、垂直走査帰線期間中に)、変調部からの出射光を、観察者に到達しないように、一時的に遮断することが可能である場合である。
変調部からの出射光が画像表示を実質的に阻害する場合には、実波面曲率関連量の高精度検出を目的として、出射部の状態を変更したり、変調部に出力される奥行き信号の状態を変更することは困難である。これに対し、変調部からの出射光が画像表示を実質的に阻害しない場合には、実波面曲率関連量の高精度検出を目的として、出射部の状態を変更したり、変調部に出力される奥行き信号の状態を変更することが可能である。
以上説明した知見に基づき、本項に係る画像表示装置においては、一連の画像表示の実行中に、表示すべき画像とは無関係に、出射部が光を設定状態で出射し、かつ、変調部に設定奥行き信号が出力される光検出状態において、光センサによって実波面曲率関連量が検出される。
(9) さらに、
前記変調部から出射した光を2次元的に走査する走査部であって、観察者に対して設定された画像表示領域のみならず、その外側に設定された非画像表示領域においても光を走査することが可能であるものと、
前記変調部と観察者との間に設けられ、その変調部から前記画像表示領域に向かう光は透過することを許容する一方、前記非画像表示領域に向かう光は遮断する遮光部と
を含み、
前記検出部は、当該画像表示装置による一連の画像表示の実行中に、前記出射部が光を設定状態で出射し、かつ、前記変調部に設定奥行き信号が出力され、かつ、その変調部から出射した光が前記走査部によって前記非画像表示領域に向かう向きに走査された状態を前記光検出状態として、その光検出状態において、前記光センサによって前記実波面曲率関連量を検出するものである(8)項に記載の画像表示装置。
この画像表示装置によれば、一連の画像表示中に、変調部からの出射光であって非画像表示領域に向かうものの観察者への到達が遮光部によって阻止される状態において、その出射光を利用することにより、観察者によって観察される表示画像を実質的に阻害することなく、実波面曲率関連量を検出することが可能となる。
(10) 前記検出部は、前記走査部による走査における帰線期間中に、前記光センサによって前記実波面曲率関連量を検出するものである(9)項に記載の画像表示装置。
走査線には、画像表示に直接に寄与する有効線(実際に画像信号が伝送される走査線)と、直接には寄与しない帰線とが存在する。それらのうち、帰線を利用して実波面曲率関連量を検出する場合には、有効線を利用して検出する場合に比較し、実波面曲率関連量の検出を、画像表示に実質的な影響を与えることなく行うことが容易である可能性がある。
このような知見に基づき、本項に係る画像表示装置においては、走査における帰線期間中に、光センサによって実波面曲率関連量が検出される。
(11) 前記走査部は、前記出射部から出射した光を水平な方向に走査する水平走査と、垂直な方向に走査する垂直走査とを行うものであり、
前記検出部は、前記垂直走査における帰線期間中に、前記光センサによって前記実波面曲率関連量を検出するものである(10)項に記載の画像表示装置。
1回の帰線期間の長さを垂直走査と水平走査とについて互いに比較すると、通常、垂直走査の方が水平走査より長い。一方、帰線期間が長いほど、実波面曲率関連量の検出を時間的な余裕をもって行うことが容易となる。
このような知見に基づき、本項に係る画像表示装置においては、垂直走査における帰線期間中に、光センサによって実波面曲率関連量が検出される。
(12) さらに、前記変調部と観察者との間に設けられ、前記変調部から出射した光が透過することを許容する透過許容状態と、前記変調部から出射した光を遮断する遮断状態とに切り換わるシャッタを含み、
前記検出部は、
(a)前記変調部から出射した光を検出することにより、前記実波面曲率関連量を検出する光センサと、
(b)前記出射部が光を設定状態で出射し、かつ、前記変調部に設定奥行き信号が出力され、かつ、その変調部から出射した光が前記シャッタによって遮断される光検出状態において、前記光センサによって前記実波面曲率関連量を検出する遮断中検出手段と
を含む(3)項に記載の画像表示装置。
この画像表示装置によれば、変調部からの出射光が遮断されて観察者に到達しない状態において、その出射光を利用して実波面曲率関連量を検出することが可能となる。
(13) 前記遮断中検出手段は、当該画像表示装置による一連の画像表示に先立って前記実波面曲率関連量を検出することと、その一連の画像表示の実行中に前記実波面曲率関連量を検出することとの少なくとも一方を行うものである(12)項に記載の画像表示装置。
(14) 前記変調部は、自身の状態が変化すると前記波面曲率の実際値に変化を生じさせる光学系を含み、
前記検出部は、その光学系の状態を検出する状態センサを含む(3)ないし(13)項のいずれかに記載の画像表示装置。
(15) 前記光学系は、相互の距離が変化すると前記波面曲率の実際値に変化を生じさせる2個の構成要素を含み、
前記検出部は、それら2個の構成要素間の距離を検出する距離センサを含む(3)ないし(14)項のいずれかに記載の画像表示装置。
本項における「2個の構成要素」の一例は、入射する光の進行方向に直角な方向に印加される電界の強さに応じて屈折率が変化するという電気光学効果を有する2個の光学素子(例えば、PZT製の光導波路)であって、共通の光軸上において固定距離隔てて並んだものである。
この例においては、出射部から第1の光学素子に入射してその第1の光学素子から出射した光が第2の光学素子に入射してその第2の光学素子から出射する。その出射光の波面曲率は、本来であれば、それら光学素子のうちの少なくとも一方に印加された電界のみに依存するはずである。しかし、それら光学素子間の距離が温度等の外乱によって変動すると、第2の光学素子からの出射光の波面曲率も変動してしまう。したがって、この例においては、それら光学素子間の実際距離を監視し、その実際距離に応じて、変調部に出力する奥行き信号を補正することが、外乱にもかかわらず波面曲率の実際値を安定化するために望ましい。
本項における「2個の構成要素」の別の例は、入射する光の波長に応じて屈折率が変化する特性が通常のガラスより強いガラスで作製された2個のレンズ(例えば、ボールレンズ)であって、共通の光軸上において固定距離隔てて並んだものである。
この例においては、出射部から第1のレンズに入射してその第1のレンズから出射した光が第2のレンズに入射してその第2のレンズから出射する。その出射光の波面曲率は、本来であれば、第1のレンズに入射した光の波長のみに依存するはずである。しかし、それらレンズ間の距離が温度等の外乱によって変動すると、第2のレンズからの出射光の波面曲率も変動してしまう。したがって、この例においては、それらレンズ間の実際距離を監視し、その実際距離に応じて、変調部に出力する奥行き信号を補正することが、外乱にもかかわらず波面曲率の実際値を安定化するために望ましい。
(16) 前記2個の構成要素は、前記出射部から出射した光が入射するレンズと、そのレンズから出射した光をそのレンズに向けて反射するミラーとを含み、そのミラーからの反射光が前記レンズに入射してそのレンズから出射する光の波面曲率がそれらレンズとミラーとの間の距離に応じて変化するものである(15)項に記載の画像表示装置。
本項における「レンズ」の一例が前述の収束レンズであり、「ミラー」の一例が前述の可動ミラーである。
(17) 前記光学系は、自身の位置が変化すると前記波面曲率の実際値に変化を生じさせる構成要素を含み、
前記検出部は、その構成要素の位置を検出する位置センサを含む(3)ないし(16)項のいずれかに記載の画像表示装置。
(18) 前記光学系は、自身の温度が変化すると前記波面曲率の実際値に変化を生じさせる構成要素を含み、
前記検出部は、その構成要素の温度とその周辺の温度との少なくとも一方を検出する温度センサを含む(3)ないし(17)項のいずれかに記載の画像表示装置。
以下、本発明のさらに具体的な実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明する。
図1には、本発明の第1実施形態に従う網膜走査型ディスプレイ(以下、「RSD」と略称する。)が系統的に示されている。このRSDは、レーザビームを、それの輝度および波面曲率を適宜変調しつつ、観察者の眼10の瞳孔12を経て網膜14の結像面上に入射させ、その結像面上においてレーザビームを2次元的に走査することにより、その網膜14上に画像を直接に投影する装置である。
このRSDは、光源ユニット20を備え、その光源ユニット20と観察者の眼10との間において波面曲率変調器22と走査装置24とをそれらの順に並んで備えている。
光源ユニット20は、3原色(RGB)を有する3つのレーザビームを1つのレーザビームに集束して任意色のレーザビームを生成するために、赤色のレーザビームを発するRレーザ30と、緑色のレーザビームを発するGレーザ32と、青色のレーザビームを発するBレーザ34とを備えている。各レーザ30,32,34は、例えば、半導体レーザとして構成することが可能である。
各レーザ30,32,34は、入力された電圧信号(駆動信号)に応じ、各レーザ30,32,34から出射する各色のレーザビームの輝度(光強度)を変調する輝度変調機能を有している。
図1に示すように、各レーザ30,32,34には、対応する各レーザドライバ36,37,38が電気的に接続されている。Rレーザ30に対応するレーザドライバ36には、赤色のレーザビームの輝度を変調するための輝度信号であるR輝度信号が信号処理回路39から供給され、Gレーザ32に対応するレーザドライバ37には、緑色のレーザビームの輝度を変調するための輝度信号であるG輝度信号が信号処理回路39から供給され、Bレーザ34に対応するレーザドライバ37には、青色のレーザビームの輝度を変調するための輝度信号であるB輝度信号が信号処理回路39から供給される。
各レーザドライバ36,37,38は、入力された各輝度信号に応じた各電圧(電気エネルギー)を各レーザ30,32,34に印加する。各レーザ30,32,34は、印加電圧に応じて、各レーザ30,32,34から出射するレーザビームの輝度を変調する。
各レーザ30,32,34から出射したレーザビームは、各コリメート光学系40,42,44によって平行光化された後に各ダイクロイックミラー50,52,54に入射させられる。それらダイクロイックミラー50,52,54においては、波長に依存したレーザビームの選択的な透過・反射が行われ、それにより、3色のレーザビームが1つのレーザビームに結合される。
具体的には、Rレーザ30から出射した赤色レーザビームは、コリメート光学系40によって平行光化された後に、ダイクロイックミラー50に入射させられる。Gレーザ32から出射した緑色レーザビームは、コリメート光学系42を経てダイクロイックミラー52に入射させられる。Bレーザ34から出射した青色レーザビームは、コリメート光学系44を経てダイクロイックミラー54に入射させられる。
それら3つのダイクロイックミラー50,52,54にそれぞれ入射した3色のレーザビームは、それら3つのダイクロイックミラー50,52,54を代表する1つのダイクロイックミラー54に最終的に入射して集束され、その後、結合光学系58によって集光される。
以上説明した光源ユニット20は、結合光学系58においてレーザビームを出射させる。そこから出射したレーザビームは、光伝送媒体としての光ファイバ82と、その光ファイバ82の後端から放射させられるレーザビームを平行光化するコリメート光学系84とをそれらの順に経て波面曲率変調器22に入射する。
この波面曲率変調器22は、光源ユニット20から出射したレーザビームの波面(波面曲率)を変調する光学系である。この波面曲率変調器22は、波面曲率の変調を、網膜14上に投影すべき画像の各画素ごとに行う形式とすることが可能であるが、これは本発明を実施するために不可欠なことではなく、画像の1フレームごとに行う形式とすることが可能である。波面曲率を変調することは、表示画像の遠近感を変化させることや、表示画像のピント位置を変化させることを意味する。
いずれにしても、この波面曲率変調器22においては、信号処理回路39から入力された奥行き信号に基づき、波面曲率変調器22に入射するレーザビームの波面を変調する。この波面曲率変調器22においては、コリメート光学系84から平行光として入射するレーザビームが収束レンズ90によって収束光に変換され、その変換された収束光が可動ミラー92によって反射されて拡散光に変換される。その変換された拡散光は、目標の波面曲率を有するレーザビームとしてこの波面曲率変調器22から出射する。
図2には、この波面曲率変調器22が拡大して示されている。図2に示すように、この波面曲率変調器22は、外部から入射したレーザビーム(入射光)を反射または透過させるビームスプリッタ94と、そのビームスプリッタ94を経て入射したレーザビームを収束する収束レンズ90と、その収束レンズ90により収束されたレーザビームを反射する可動ミラー92とを備えている。
この波面曲率変調器22は、さらに、可動ミラー92を、収束レンズ90に接近するかまたは収束レンズ90から離れる向きに変位させるアクチュエータ96を備えている。このアクチュエータ96の一例は、圧電素子である。アクチュエータ96は、信号処理回路39から入力された奥行き信号に応じて可動ミラー92の位置を移動させることにより、波面曲率変調器22から出射するレーザビームの波面曲率を変調する。
以上のように構成された波面曲率変調器22においては、コリメート光学系84から入射したレーザビームが、ビームスプリッタ94で反射して収束レンズ90を通過した後、可動ミラー92で反射する。そして、再度、収束レンズ90を通過し、その後、ビームスプリッタ94を透過して走査装置24へ向かう。
この波面曲率変調器22は、アクチュエータ96を用いて収束レンズ90と可動ミラー92との距離dcを変更することによって、コリメート光学系84から入射して走査装置24へ向かうレーザビームの波面曲率を変更することができる。
図2に示すように、距離dcが予め定められた初期値dc0(収束レンズ90の焦点距離fと等しい。)に一致する場合には、コリメート光学系84から入射したレーザビームは、可動ミラー92の反射面において収束して反射する。その反射したレーザビームは、収束レンズ90およびビームスプリッタ94を順に経て、コリメート光学系30から入射したときと同じ波面曲率を有する平行光(出射光)L1として、走査装置24へ向かう。
これに対し、図3に示すように、距離dcが初期値dc0より短い距離dc1に変化した場合には、コリメート光学系84から入射したレーザビームは、可動ミラー92が収束レンズ90の焦点より収束レンズ90に近い位置に位置するため、レーザビームの収束前に可動ミラー92の反射面において入射して反射する。その反射したレーザビームは、可動ミラー92から距離(dc0−dc1)だけ進んだ位置で収束し、その後、コリメート光学系84から入射したときより拡散した、波面曲率の大きな拡散光、すなわち、曲率半径の小さな拡散光(出射光)L2となり、収束レンズ90およびビームスプリッタ94を順に経て、走査装置24へ向かう。その拡散光L2は、図3に示すように、みかけ上、可動ミラー92の反射面の背後に位置する発光点から放射された光である。
以上要するに、波面曲率変調器22から走査装置24へ向かうレーザビームは、距離dcが短くなるほど曲率半径が小さくなる。本実施形態においては、距離dcの初期値dc0が4mmに設定されており、距離dcをその初期値dc0から30μm狭めていく間に、レーザビームの曲率半径が最大値(例えば、10m)から最小値(例えば、20cm)まで変化するようにこのRSDが構成されている。
一般に、レーザビームの波面の曲率半径は、波面曲率の逆数で表され、レーザビームに基づく虚像は、この曲率半径が小さいほど観察者に近い位置に観察者によって認識される。したがって、虚像は、アクチュエータ96により距離dcが短くされるほど観察者に近い位置に観察者によって認識されることとなる。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、収束レンズ90と可動ミラー92との距離dcが変化すると、それに応じて、波面曲率変調器22からの出射光の波面曲率および曲率半径が変化する。そのため、波面曲率変調器22において収束レンズ90と可動ミラー92とを支持するフレームの製造誤差や熱変形、その他の事象が原因で距離dcが正規でない場合には、波面曲率に誤差が発生してしまう。
そこで、本実施形態においては、波面曲率の実際値が検出され、それに応じて、アクチュエータ96に出力されるべき奥行き信号が補正されるようになっている。
一方、波面曲率変調器22からの出射光の波面曲率が変化すれば、その出射光のビーム径も変化し、それに伴い、その出射光の横断面の外周位置も変化する。具体的には、出射光の波面曲率が小さいほど、その出射光のビーム径が小さくなり、出射光の横断面の外周位置がビーム光軸に接近する。逆に、出射光の波面曲率が大きいほど、その出射光のビーム径が大きくなり、出射光の横断面の外周位置がビーム光軸から離間する。
したがって、例えば、出射光の光量を、横断面の外周位置において局部的に検出し、その検出値を理想値と比較すれば、波面曲率の誤差の有無を判定することが可能である。
このような知見に基づき、本実施形態においては、図1に示すように、受光量検出装置97が波面曲率変調器22に関連付けて設けられている。この受光量検出装置97は、図2および図3に示すように、光センサとしてのラインCCDセンサ98を備えている。ラインCCDセンサ98は、受光素子としてのCCDが一列に並んで構成されている。このラインCCDセンサ98は、図2および図3に示すように、収束レンズ90から出射し、ビームスプリッタ94に入射してそのビームスプリッタ94において反射したレーザビームを参照光として受光する。
このラインCCDセンサ98は、その参照光の横断面の外周位置近傍であって、その参照光のビーム径が変化すればラインCCDセンサ98全体の受光量も変化する位置に、その参照光の光軸に対して交差する方向(例えば、直角な方向)に延びる姿勢で、固定されている。
参照光の波面曲率が小さく、それのビーム径も小さいほど、ラインCCDセンサ98の受光量が少ない。これに対し、参照光の波面曲率が大きく、それのビーム径も大きいほど、ラインCCDセンサ98の受光量が多い。このように、波面曲率と受光量との間に一定の関係が成立する。
この事実に着目すれば、例えば、理想的には参照光が平行光であるべきである場合に、図2に示すように、ラインCCDセンサ98が実際の参照光を平行光として受光すれば、その受光量に基づき、波面曲率変調器22からの出射光の波面曲率が正常であると判定することが可能である。これに対し、図3に示すように、ラインCCDセンサ98が実際の参照光を拡散光として受光すれば、その受光量に基づき、波面曲率変調器22からの出射光の波面曲率が異常であると判定することが可能である。さらに、その受光量に基づき、波面曲率の実際値が理想値(この例においては0)からどの程度外れているのかを把握することも可能である。
本実施形態においては、ラインCCDセンサ98を構成する複数のCCDがそれぞれ、2値スイッチとして扱われ、各CCDの受光量がしきい値を超えた状態と超えない状態との2状態を判別するためにラインCCDセンサ98が使用される。したがって、そのラインCCDセンサ98を用いて検出される受光量は、各CCDがアナログセンサとして扱われる場合に比較して、各CCDに入射する光の強度すなわち密度の変化に影響されずに済む。よって、そのラインCCDセンサ98を用いて検出される受光量は、受光面積を精度よく反映し、ひいては、参照光のビーム径を精度よく反映することとなる。
以上、受光量検出装置97をラインCCDセンサ98のみに関して詳細に説明したが、他の要素を含む全体については後に詳述する。
図1に示すように、波面曲率変調器22から出射したレーザビームは、走査装置24に入射する。この走査装置24は、水平走査系100と垂直走査系102とを備えている。
水平走査系100は、表示すべき画像の1フレームごとに、レーザビームを水平な複数の走査線に沿って水平にラスタ走査する水平走査を行う光学系である。これに対し、垂直走査系102は、表示すべき画像の1フレームごとに、レーザビームを最初の走査線から最後の走査線に向かって垂直に走査する垂直走査を行う光学系である。
具体的に説明するに、水平走査系100は、本実施形態においては、機械的偏向を行う一方向回転ミラーとしてポリゴンミラー104を備えている。このポリゴンミラー104は、それに入射したレーザビームの光軸と交差する回転軸線まわりに図示しないモータによって高速で回転させられる。このポリゴンミラー104の回転速度は、信号処理回路39から供給される水平同期信号に基づいて制御される。
ポリゴンミラー104は、回転軸線のまわりに並んだ複数の反射面106を備えており、入射レーザビームが1つの反射面106を通過するごとに1回偏向が行われる。
この水平走査系100により、画像信号を伝送するために画像を画素に分解すべく、水平方向において始点から終点に向かう有効走査線が形成され、さらに、1本の有効走査線の終点から次の有効走査線の始点に戻るための帰線が水平走査帰線として形成される。水平走査帰線期間中は、画質向上のため、レーザ30,32,34より成る光源からレーザビームが一切出力されないか、または観察者の眼10に到達しないように出力される。
ポリゴンミラー104によって偏向されたレーザビームは、リレー光学系110によって垂直走査系102に伝送される。
その垂直走査系102は、機械的偏向を行う揺動ミラーとしてのガルバノミラー130を備えている。ガルバノミラー130には、水平走査系100から出射したレーザビームがリレー光学系110によって集光されて入射するようになっている。このガルバノミラー130は、それに入射したレーザビームの光軸と交差する回転軸線まわりに揺動させられる。このガルバノミラー130の起動タイミングおよび回転速度は、信号処理回路39から供給される垂直同期信号に基づいて制御される。
この垂直走査系102により、画像信号を伝送するために画像を画素に分解すべく、垂直方向において始点から終点に向かう有効走査線が形成され、さらに、1本の有効走査線の終点から次の有効走査線の始点に戻るための帰線が垂直走査帰線として形成される。垂直走査帰線期間中は、画質向上のため、レーザ30,32,34より成る光源からレーザビームが一切出力されないか、または観察者の眼10に到達しないように出力される。
以上説明した水平走査系100と垂直走査系102との共同により、レーザビームが2次元的に走査され、その走査されたレーザビームによって表現される画像が、リレー光学系140を経て観察者の眼10に照射される。
図1に示すように、RSDは、走査装置24と観察者との間に遮光板150を備えている。その遮光板150は、本実施形態においては、垂直走査系102の下流側に配置され、具体的には、リレー光学系140の下流側に配置されている。
図4に示すように、RSDにおいては、観察者に対して画像表示領域が設定されており、RSDは、この画像表示領域において、水平走査と垂直走査との共同により、前記画像信号に従って画像を表示する。したがって、観察者は、この画像表示領域においてのみ、画像を観察することができることになる。ただし、本実施形態においては、走査装置24によって走査され得る走査領域がその画像表示領域より広く設定されており、各有効走査線が、画像表示領域から外れた部分を含んでいる。ただし、その外れた部分は、観察者に認識されないように、消去される。その結果、画像表示領域の外側、具体的には、外周に、画像が表示されない非画像表示領域が存在することになる。
この非画像表示領域においては、各有効走査線が、画像表示領域から外れた部分について消去され、しかも、各帰線が、全体が消去されるようにすれば、この非画像表示領域の存在にもかかわらず、観察者は、画像表示領域においてのみ画像を観察することになる。
しかし、本実施形態においては、走査装置24の走査期間、特に、垂直走査系102の垂直走査帰線期間のうち、垂直走査系102がレーザビームを非画像表示領域に向けて出射する期間が受光量検出期間とされており、その受光量検出期間において、前述の参照光の受光量が検出される。したがって、観察者にとって不要な走査線である垂直走査帰線の消去という用語を、垂直走査帰線を形成する光が観察者に到達しないようにするという意味で用いることとすれば、垂直走査帰線の消去は、本実施形態においては、画像表示領域に対応する部分については、レーザ30,32,34の一時的停止によって行われるのに対し、非画像表示領域に対応する部分については、遮光板150によって行われる。
さらに、本実施形態においては、上述の受光量検出期間においては、3個のレーザ30,32,34のうちの少なくとも一つが設定状態(設定波長と設定輝度とを有する状態)でレーザビームを出射し、かつ、アクチュエータ96に設定奥行き信号、すなわち、本実施形態においては、波面曲率変調器22からの出射光を平行光にするために本来であればアクチュエータ96に出力すべき奥行き信号が出力される。したがって、この受光量検出期間においては、波面曲率変調器22の製造誤差も温度変動もなく、正規な状態である場合には、波面曲率変調器22からの出射光(参照光)が平行光、すなわち、波面曲率は0で、曲率半径は無限大である光となる。
したがって、この受光量検出期間においては、画像表示を行うべきではないにもかかわらず、波面曲率変調器22から光が出射される。その出射光が観察者に到達しないように、前述の遮光板150が設けられている。この遮光板150は、一般的には、画像表示領域に対応する開口を有する不透明体によって構成される。その開口の形状および大きさは、走査装置24から観察者に向かうべき光のうち、非画像表示領域に向かう光が遮断されて観察者に到達しないように、設計されている。
図5には、このRSDの全体構成がブロック図で概念的に表されている。前述のように、光源ユニット20は、発光に関連し、3個のレーザ30,32,34と、3個のレーザドライバ36,37,38とを備えている。信号処理回路39のうち、それらレーザドライバ36,37,38を制御する部分が、画像信号制御部154である。光源ユニット20は、さらに、波面変調に関連し、アクチュエータドライバ156を備えている。そのアクチュエータドライバ156は、前述のアクチュエータ96に電気的に接続されている。信号処理回路39のうち、そのアクチュエータドライバ156を制御する部分が、波面曲率制御部158である。波面曲率制御部158は、画像信号制御部154から奥行き信号を受信する。
図5に示すように、光源ユニット20は、さらに、水平走査系ドライバ160と垂直走査系ドライバ162とを備えている。それら水平走査系ドライバ160と垂直走査系ドライバ162とは、前述の水平走査系100と垂直走査系102とにそれぞれ電気的に接続されている。それら水平走査系ドライバ160と垂直走査系ドライバ162とは、画像信号制御部154から水平同期信号と垂直同期信号とをそれぞれ受信し、さらに、相互間において送受信も行う。
図5に示すように、レーザ30,32,34からの出射光は波面曲率変調器22に入射し、その波面曲率変調器22によって波面曲率が制御される。そのようにして波面曲率が制御された光は波面曲率変調器22から出射し、その出射光は、水平走査系100、垂直走査系102および遮光板150をそれらの順に経て観察者の眼10に入射する。
図5に示すように、前述の受光量検出装置97は、前述のラインCCDセンサ98を含む受光量検出部170と、そのラインCCDセンサ98の出力信号を処理することにより、受光量を演算する受光量演算部172とを含むように構成されている。受光量演算部172は、演算した受光量を表す信号またはデータを上述の波面曲率制御部158に送信する。
その波面曲率制御部158は、後に詳述するが、受光量検出装置97から受信した受光量に基づき、画像信号制御部154から受信した奥行き信号すなわち元奥行き信号に対する補正量すなわちオフセット(これが前記(2)項における「補正値」の一例である。)を決定する。この波面曲率制御部158は、さらに、その決定したオフセットを、画像信号制御部154から受信した奥行き信号すなわち元奥行き信号に加算し、このようにして取得された補正奥行き信号をアクチュエータドライバ156に出力する。
その結果、アクチュエータドライバ156ひいてはアクチュエータ96には、画像信号制御部154から受信した奥行き信号(波面曲率の指令値を表す信号)と、受光量検出装置97から受信した受光量(波面曲率の実際値を反映する物理量であり、これが前記(1)項における「実波面曲率関連量」の一例である。)との双方に見合う奥行き信号が供給される。よって、波面曲率の実際値は、波面曲率変調器22の製造誤差や、温度変動等の外乱、その他の事象に起因した距離dcの変動にもかかわらず、波面曲率の指令値に精度よく一致することとなる。
このように、本実施形態によれば、距離dcの変動に起因した波面曲率の変動が、奥行き信号の補正というソフト処理により、吸収され、その結果、波面曲率の安定性が向上する。
図6に示すように、信号処理回路39は、CPU180とROM182とRAM184とそれらを互いに接続するバス186とを有するコンピュータ190を主体として構成されている。ただし、そのように構成することは本発明を実施するために不可欠ではなく、信号処理回路39は例えば、DSPとして構成することが可能である。
図6に示すように、ROM182には、表示前オフセット設定プログラムおよび画像表示プログラムを始めとし、各種プログラムが予め記憶されている。
概略的に説明すれば、表示前オフセット設定プログラムは、このRSDによる一連の画像表示に先立ち、波面曲率の実際値を検出し、その実際値を理想値に接近させるために元奥行き信号に加算すべきオフセットを設定するためにコンピュータ190によって実行される。これに対し、画像表示プログラムは、このRSDによる一連の画像表示を実現するためにコンピュータ190によって実行されるプログラムであり、このRSDによる一連の画像表示の実行中であって、垂直走査帰線期間中に、波面曲率の実際値を検出し、その実際値を理想値に接近させるために元奥行き信号に加算すべきオフセットを設定するためにコンピュータ190によって実行されるステップを含んでいる。
図6に示すように、RAM184には、表示前オフセット設定プログラムの実行によって設定されたオフセットの値を表すデータが記憶される。そのオフセットの値は、画像表示プログラムの実行後には、その実行によって設定されたオフセットの値に置換されるように更新される。
図7には、表示前オフセット設定プログラムの内容がフローチャートで概念的に表されている。この表示前オフセット設定プログラムは、RSDの電源投入後、一連の画像表示に先立って、自動的にまたはユーザの要求に応じて少なくとも一回実行される。
この表示前オフセット設定が実行されれば、まず、ステップS1(以下、単に「S1」で表す。他のステップについても同じとする。)において、可動ミラー92を原点位置に移動させるための奥行き信号がアクチュエータドライバ156に出力される。この奥行き信号がアクチュエータドライバ156に出力されると、前述の距離dcが初期値dc0(=焦点距離f)と等しいことを条件に、波面曲率変調器22からの出射光が平行光となる。
次に、S2において、テスト画像を表示するための輝度信号がレーザドライバ36,37,38に出力される。その輝度信号は、それらレーザドライバ36,37,38のうちのいずれか一つにのみに出力され、その結果、受光量検出のために発光されるレーザビームの波長が単一化される。
このような輝度信号の出力により、テスト画像が出力されるが、この目的は、波面曲率の実際値を反映する受光量の実際値(以下、「実受光量」という。)R1の検出にある。したがって、この段階においては、このRSDからユーザの眼に光が入射しないように、このRSDの出射口を不透明なキャップなどで一時的に閉塞することが望ましい。
テスト画像を表示するための輝度信号がレーザドライバ36,37,38に出力されると、対応する駆動信号がレーザ30,32,34に出力され、その結果、レーザ30,32,34からレーザビームが出射する。その出射したレーザビームにより、テスト画像が表示される。
すなわち、本実施形態においては、可動ミラー92を原点位置に移動させるための奥行き信号が、前記(7)項における「設定奥行き信号」の一例であり、テスト画像を表示するためにレーザドライバ36,37,38に出力される輝度信号によって実現される発光状態が、同項における「設定状態」の一例であり、さらに、テスト画像が表示される状態が、同項における「光検出状態」の一例なのである。
続いて、S3において、ラインCCDセンサ98を用いて受光量検出装置97が作動させられることにより、実受光量R1が検出される。この実受光量R1は、波面曲率変調器22からの出射光の波面曲率COW(Curvature of Wavefront)の実際値に依存しており、具体的には、図8にグラフで表すように、その出射光が平行光である場合には理想受光量R10に一致し、その出射光が拡散光である場合には、理想受光量R10より大きい値を取り、その出射光が収束光である場合には、理想受光量R10より小さい値を取る。さらに、実受光量R1の、理想受光量R10からの差ΔR1は、波面曲率COWの実際値が理想値(今回は、0)から外れるにつれて単調に増加する。実受光量R1の検出が終了すると、テスト画像の出力が終了させられる。
その後、図7のS4において、上述の差ΔR1が演算される。この差ΔR1は、例えば、
ΔR1=R1−R10
なる式を用いて演算される。
続いて、S5において、その演算された差ΔR1に応じて前述のオフセットが決定される。差ΔR1とオフセットとの関係がROM182に予め記憶されており、その関係に従い、今回の差ΔR1に対応するオフセットが決定される。その後、S6において、その決定されたオフセットがRAM184に保存される。
以上で、この表示前オフセット設定プログラムの一回の実行が終了する。
図9には、前述の画像表示プログラムの内容がフローチャートで概念的に表されている。この画像表示プログラムは、RSDの画像表示スタートスイッチ(図示しない)がユーザによって操作された後、繰返し実行される。
この画像表示プログラムの各回の実行時には、まず、S101において、画像出力モードが開始される。その結果、映像信号を画素に逐次変換するために、水平走査および垂直走査が行われる状態となる。次に、S102において、映像信号すなわち画像信号が入力される。映像信号は、R/G/B輝度信号と元奥行き信号とを含んでいる。
続いて、S103において、その入力された輝度信号がレーザドライバ36,37,38に出力される。その後、S104において、RAM184から前述のオフセットが読み込まれる。続いて、S105において、その読み込まれたオフセットが、上記入力された元奥行き信号に加算されることにより、その元奥行き信号が補正される。その後、S106において、その補正奥行き信号がアクチュエータドライバ156に出力される。それらS102ないしS106の実行に伴い、観察者に画像が表示される。
続いて、S107において、垂直走査帰線期間が到来するのが待たれる。到来したならば、S108において、図7のS1と同様にして、可動ミラー92を原点位置に復帰させるための奥行き信号がアクチュエータドライバ156に出力される。
図4に示すように、垂直走査帰線期間は、画像表示領域に対応する期間と、非画像表示領域に対応する期間とを含んでおり、後者の期間は、初回の非画像表示領域に対応する期間(図4において下側の部分)と、2回目の非画像表示領域に対応する期間(図4において上側の部分)とを含んでいる。本実施形態においては、初回の非画像表示領域に対応する期間が、波面曲率変調器22からの出射光に関する受光量を検出する期間に割り当てられており、この期間に、上述の奥行き信号がアクチュエータドライバ156に出力されることになる。
その後、図9のS109において、図7のS2と同様にして、テスト画像を出力するための輝度信号がレーザドライバ36,37,38に出力され、それにより、テスト画像が出力される。
すなわち、本実施形態においては、上述の奥行き信号が、前記(7)または(8)項における「設定奥行き信号」の一例であり、テスト画像を表示するためにレーザドライバ36,37,38に出力される輝度信号によって実現される発光状態が、前記(7)または(8)項における「設定状態」の一例であり、さらに、テスト画像が表示される状態が、前記(7)または(8)項における「光検出状態」の一例なのである。
続いて、S110において、図7のS3と同様にして、受光量検出装置97によって実受光量R2が検出される。その後、S111において、テスト画像の出力が終了させられ、さらに、今回の垂直走査帰線のうち、上述の初回の非画像表示領域に対応する部分に後続する部分が消去されるように、輝度信号が制御される。
その後、S112において、図7のS4と同様にして、上記検出された実受光量R2と理想受光量R20との差ΔR2が演算される。続いて、S113において、図7のS5と同様にして、その演算された差ΔR2に応じてオフセットが決定される。その後、S114において、その決定されたオフセットの値と等しくなるように、RAM184に記憶されているオフセットの値が更新される。
続いて、S115において、ユーザの指示等に基づき、今回の画像表示モードを終了させるべきか否かが判定される。今回は、終了させるべきではない場合であると仮定すれば、判定がNOとなり、S102に戻るが、今回は、終了させるべきある場合であると仮定すれば、判定がYESとなり、以上で、この画像表示プログラムの一回の実行が終了する。
なお付言するに、画像表示に先行して波面曲率を検出するために走査装置24を作動させることは不可欠ではない。ただし、画像表示に先行して走査装置24が作動させられる場合には、画像表示中に波面曲率を検出する手法と同様な手法により、垂直走査帰線期間のうち非画像表示領域に対応する部分に、波面曲率検出のための発光を観察者への光照射なしで行うことが可能である。このようにすれば、画像表示に先立ち、波面曲率を検出するために発光された光が観察者の眼10に照射されてしまうことを防止するためにわざわざRSDの出射口をキャップで閉塞せずに済む。
以上説明した表示前オフセット設定プログラムおよび画像表示プログラムと、図5における画像信号制御部154および波面曲率制御部158との関係を説明するに、画像信号制御部154は、信号処理回路39のうち、図9におけるS101ないしS103およびS115を実行する部分によって構成され、また、波面曲率制御部158は、信号処理回路39のうち、図7の表示前オフセット設定プログラムを実行する部分と、図9におけるS104ないしS106およびS107ないしS114を実行する部分とによって構成されている。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、レーザ30,32,34が互いに共同して前記(1)項における「出射部」の一例を構成し、波面曲率変調器22が同項における「変調部」の一例を構成し、信号処理回路39が同項における「出力部」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、信号処理回路39のうち、図7におけるS4ないしS6および図9におけるS112ないしS114を実行する部分が、前記(2)項における「決定部」の一例を構成し、図9のS102およびS104ないしS106を実行する部分が、同項における「生成部」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、受光量検出装置97と、信号処理回路39のうち、図7におけるS1ないしS3および図9におけるS107ないしS110を実行する部分とが互いに共同して前記(3)項における「検出部」の一例を構成しているのである。さらに、信号処理回路39のうち、図7におけるS1ないしS3を実行する部分が前記(4)項における「表示前検出手段」の一例を構成し、図9におけるS107ないしS110を実行する部分が前記(5)項における「表示中検出手段」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、ラインCCDセンサ98が前記(6)項における「光センサ」の一例を構成し、走査装置24が前記(9)項における「走査部」の一例を構成し、遮光板150が同項における「遮光部」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、収束レンズ90および可動ミラ−92が互いに共同して、前記(14)項における「光学系」の一例を構成し、ラインCCDセンサ98が同項における「状態センサ」の一例を構成しているのである。
次に、本発明の第2実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と共通する要素が多いため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
第1実施形態においては、波面曲率を検出するために発光された光が観察者の眼10に照射されてしまうことを防止するために、画像表示前には、RSDの出射口をキャップで閉塞することが行われる。さらに、そのような予定外の照射が画像表示中に行われてしまうことを防止するために、波面曲率の検出期間を、垂直走査帰線期間のうち非画像表示領域に対応する部分に設定することと、その非画像表示領域を覆う遮光板150を設置することとの双方が行われる。
これに対し、本実施形態においては、そのような予定外の照射が画像表示前および画像表示中に行われてしまうことを防止するために、図10に示すように、波面曲率変調器22とRSDの出射口との間にシャッタ210が設置される。本実施形態においては、このシャッタ210は、波面曲率変調器22と走査装置24との間に設置される。このシャッタ210は、レーザビームの光軸上において、図4に示す走査領域全体を覆う状態を選択的に実現するために、瞬間的に開閉することが可能な装置である。
このシャッタ210は、例えば、位相差を有する入射側および出射側の偏光子と、それらの間に配置された位相制御器とを含むように構成することが可能である、その位相制御器は、例えば、電気光学効果や磁気光学効果を利用することにより、その位相制御器に入射した光の偏光方向(位相)を、入射側の偏光子に入射した光が、出射側の偏光子を通過する状態、すなわち、シャッタ210が開いている状態(透過許容状態)と、通過しない状態、すなわち、シャッタ210が閉じている状態(遮断状態)とに切り換えるように設計することが可能である。
図10に示すように、このシャッタ210は、それに電気的に接続されている波面曲率制御部158により、閉じている位置と開いている位置とに切り換えられる。
図11には、本実施形態における画像表示プログラムの内容がフローチャートで概念的に表されている。以下、この画像表示プログラムを説明するが、図9に示す画像表示プログラムと共通するステップが多いため、共通するステップについては簡単に説明する。
図11に示す画像表示プログラムの各回の実行時には、S201ないしS207が、図9におけるS101ないしS107と同様にして実行される。その後、S208において、シャッタ210を閉じるための信号がシャッタ210に出力される。
続いて、S209において、図9のS108と同様にして、可動ミラー92を原点位置に復帰させるための奥行き信号がアクチュエータドライバ156に出力されるが、このS209においては、S108とは異なり、垂直走査帰線期間のうち非画像表示領域に対応する部分および/または画像表示領域に対応する部分を利用して発光、波面変調および受光量検出を行うことが可能である。その受光量検出の期間中は、シャッタ210により、走査領域全体が覆われるからである。
その後、S210において、図9のS109と同様にして、テスト画像が出力される。続いて、S211において、図9のS110と同様にして、実受光量R2が検出される。
その後、S212において、テスト画像の出力が終了させられ、それにより、レーザ30,32,34より成る光源からレーザビームが一切出力されないようにされるか、または観察者の眼10に到達しないように出力されるようにされる。その結果、垂直走査帰線が消去される。続いて、S213において、シャッタ210を開くための信号がシャッタ210に出力される。
その後、S214ないしS217が、図9におけるS112ないしS115と同様にして実行される。以上で、この画像表示プログラムの一回の実行が終了する。
なお付言するに、本実施形態においては、画像表示に先行して波面曲率が検出される場合にも、シャッタ210が閉じられるようになっている。したがって、第1実施形態とは異なり、画像表示に先立ち、RSDの出射口をキャップで閉塞しなくても、予定外の光が観察者の眼10に照射されずに済む。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、シャッタ210が前記(12)項における「シャッタ」の一例を構成し、ラインCCDセンサ98が同項における「光センサ」の一例を構成し、信号処理回路39のうち、図11におけるS207ないしS211およびS213を実行する部分が同項および前記(13)項における「遮断中検出手段」のそれぞれの一例を構成しているのである。
次に、本発明の第3実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第2実施形態と共通する要素が多いため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
第2実施形態においては、第1実施形態と同様に、波面曲率を検出するためにラインCCDセンサ98が利用される。これに対し、本実施形態においては、図12に示すように、ビームスプリッタ94の出射側に別のビームスプリッタ230が配置され、それにより、参照光が、レーザ30,32,34からビームスプリッタ94への入射光から独立した光路において取り出される。その参照光は、受光量検出部234に入射する。
この受光量検出部234は、図13に示すように、参照光が入射する収束レンズ240と、その収束レンズ240からの出射光が入射するピンホール242が形成されたピンホール部材244と、ピンホール242からの出射光の受光量を検出する光センサ246とを含むように構成されている。
図13に示すように、ビームスプリッタ94に平行光が入射し、かつ、波面曲率を0にする(曲率半径を無限大にする)ための駆動電圧がアクチュエータ96に印加された状態において、前述の距離dcが正規値、すなわち、前述の初期値dc0と一致すれば、ビームスプリッタ230から出射する参照光が平行光となる。
その平行光が収束レンズ240に入射すれば、ピンホール242において焦点を結ぶようにそれら収束レンズ240とピンホール242との距離が設定されているため、収束レンズ240からの出射光がすべて、光センサ246によって受光される。
これに対し、図14に示すように、波面曲率変調器22の製造ばらつきや温度等の外乱によって距離dcが初期値dc0に一致しない場合には、ビームスプリッタ230からの出射光が非平行光(図14の例においては、拡散光)となる。非平行光が収束レンズ240に入射すると、その収束レンズ240からの出射光は、ピンホール242において焦点を結ぶことができない。そのため、収束レンズ240からの出射光のうちの一部しか、ピンホール242を通過して光センサ246に到達しない。この場合、その光センサ246によって受光される光量は、参照光が平行光である場合より少なく、このことは、参照光が拡散光である場合でも収束光である場合でも同様である。
図15には、検出すべき波面曲率COWと、光センサ246の実受光量Rとの関係がグラフで表されている。実受光量Rは、参照光が平行光である場合には理想受光量R0に一致し、その参照光が拡散光である場合には、理想受光量R10より小さい値を取り、その出射光が収束光である場合にも、理想受光量R0より小さい値を取る。ただし、その参照光が拡散光である場合には、波面曲率COWの増加につれて実受光量Rが減少するのに対し、その参照光が収束光である場合には、波面曲率COWの増加につれて実受光量Rが増加する。
したがって、本実施形態においては、実受光量Rと理想受光量R0との差ΔRと、波面曲率COWに対する実受光量Rの変化勾配の向き(右下がりまたは右上がり)とに基づき、前述の元奥行き信号に対して加算されるべきオフセットの値(絶対値および符号を含む)が決定される。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、受光量検出部234が前記(3)項における「検出部」の一例のうちの一部を構成し、光センサ246が前記(6)項における「光センサ」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、収束レンズ90および可動ミラ−92が互いに共同して、前記(14)項における「光学系」の一例を構成し、光センサ246が同項における「状態センサ」の一例を構成しているのである。
次に、本発明の第4実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と共通する要素が多いため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
第1実施形態においては、波面曲率変調器22からの出射光の波面曲率がその出射光を用いて検出される。これに対し、本実施形態においては、波面曲率と、収束レンズ90と可動レンズ92との距離dcとの間に一定の関係が存在する事実に着目し、距離dcが検出され、その検出値に基づいて前述のオフセットの値が決定される。
そのため、本実施形態においては、図16に示すように、第1実施形態における受光量検出装置97に代えて距離検出装置270が用いられる。この距離検出装置270は、距離センサ272と、距離演算部274とを含むように構成され、その距離演算部274において演算された距離を表す信号またはデータが信号処理回路39に供給される。
距離センサ272は、収束レンズ90またはそれと一体的に運動する部材と、可動ミラー92またはそれと一体的に運動する部材とが、収束レンズ90および可動ミラー92に共通の光軸に平行な方向に互いに隔たった距離を種々な手法によって検出する。
図17には、距離センサ272の一例が示されている。この例においては、収束レンズ90を固定的に保持するホルダ280に、距離センサ272の第1要素282が設置され、一方、可動ミラー92には、距離センサ272の第2要素284が設置されている。それら第1要素282および第2要素284のうちの一方は、レーザビームを発光する発光素子と受光素子とを有し、他方は、発光素子から発光されたレーザビームを受光素子に向かって反射する反射ミラーを有している。この例においては、レーザビームがそれら第1要素282と第2要素284との間を1往復する時間に基づき、距離dcが検出される。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、収束レンズ90および可動ミラ−92が互いに共同して、前記(14)項における「光学系」の一例と、前記(15)項における「2個の構成要素」の一例とをそれぞれ構成し、それら収束レンズ90および可動ミラー92がそれぞれ、前記(17)項における「構成要素」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、距離センサ272が前記(14)項における「状態センサ」の一例と、前記(15)項における「距離センサ」の一例とをそれぞれ構成しているのである。一方、収束レンズ90と可動ミラー92との間の距離dcを検出することは、それら収束レンズ90および可動ミラー92のうちの一方の位置を、他方の位置に対して相対的に検出することと等価である。したがって、距離センサ272は、前記(16)項における「位置センサ」の一例を構成していると考えることが可能である。
次に、本発明の第5実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と共通する要素が多いため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
第1実施形態においては、波面曲率変調器22からの出射光の波面曲率がその出射光を用いて検出される。これに対し、本実施形態においては、波面曲率と、波面曲率変調器22の温度との間に一定の関係が存在する事実に着目し、温度が検出され、その検出値に基づいて前述のオフセットの値が決定される。
そのため、本実施形態においては、図18に示すように、第1実施形態における受光量検出装置97に代えて温度検出装置300が用いられる。この温度検出装置300は、温度センサ302と、温度演算部304とを含むように構成され、その温度演算部304において演算された温度を表す信号またはデータが信号処理回路39に供給される。
温度センサ302は、波面曲率変調器22の複数の構成要素のうち自身の熱変形が距離dcに影響を及ぼすものの温度を検出する。温度センサ302は、熱電対、サーミスタ等、温度を種々な手法によって検出する。
図19には、温度センサ302の一例が示されている。この例においては、波面曲率変調器22が、収束レンズ90を固定的に保持するホルダ310と、アクチュエータ96とを一緒に支持するフレーム312を備えている。そのフレーム312が熱変形すると、距離dcが変化する。そのため、温度センサ302は、そのフレーム312に設置されている。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、収束レンズ90および可動ミラ−92が互いに共同して、前記(14)項における「光学系」の一例を構成し、さらに、それら収束レンズ90および可動ミラー92がそれぞれ、前記(18)項における「構成要素」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、温度センサ302が前記(14)項における「状態センサ」の一例と、前記(18)項における「温度センサ」の一例とをそれぞれ構成しているのである。
以上、本発明の実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、前記[発明の開示]の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。