上述のように、特許文献1に記載の技術では、光処理装置を用いて、半導体層に第1の絶縁膜としての光酸化膜を形成し、その後、平行平板型のプラズマCVD装置を用いて、光酸化膜上に第2の絶縁膜としてのCVD膜を形成するようにしている。しかしながら、平行平板型のプラズマCVD装置を用いて光酸化膜上にCVD膜を形成する工程では、光酸化膜や半導体層に損傷が生じ易いという問題がある。
すなわち、平行平板型のプラズマCVD装置では、第2の反応室内で発生したプラズマが半導体層を配設した領域にまで広がってしまう。プラズマが半導体層を配設した領域にまで広がると、光酸化膜や半導体層がエネルギーの高い電子に接することとなるため、電子のエネルギーにしたがって増加する傾向のあるシース電界が大きくなる。シース電界が大きくなると、これに伴って光酸化膜や半導体層に入射するイオンのエネルギーが増加するため、結果として、プラズマからエネルギーの高いイオンが光酸化膜や半導体層に入射し、光酸化膜や半導体層は、上記高エネルギーイオンによる損傷を受ける。
本発明は、このような事情にもとづいてなされたもので、被処理基板やこの被処理基板に形成される絶縁膜に損傷が与えられるのを抑制しつつ、被処理基板に膜質の良好な絶縁膜を形成することができる絶縁膜の形成方法を提供することを目的とする。
本発明の一形態に係る絶縁膜の形成方法は、被処理基板が有する被処理面を第1のガスにより生成された酸素原子活性種によって酸化することで、前記被処理基板に第1の絶縁膜を形成する工程と、表面波プラズマから生成された活性種により前記被処理基板近傍に供給された第2のガスを化学反応させて、前記第1の絶縁膜上に第2の絶縁膜を形成する工程とを有している。
本発明の一形態に係る絶縁膜の形成方法は、例えば、被処理基板が有する被処理面を酸素原子活性種によって酸化することで、前記被処理基板に第1の絶縁膜を形成する工程と、表面波プラズマを用いた化学的気相堆積(CVD:Chemical Vapor Deposition)法によって、前記第1の絶縁膜上に第2の絶縁膜を形成する工程とを有するようにしてもよい。なお、本発明の一形態に係る絶縁膜の形成方法において、第2の絶縁膜を形成する工程は、化学的気相堆積法に限定されるものではない。
まず、表面波プラズマについて説明する。一般に、処理容器の内部に所定のプロセスガスを導入するとともに、この処理容器の内部に電磁波を入射させると、この電磁波によりプロセスガスが励振されてプラズマが生じ、処理容器の内面のうちの電磁波が入射した電磁波入射面近傍のプラズマ内の電子密度が増加する。前記電磁波入射面近傍のプラズマ内の電子密度が増加していくと、電磁波は、プラズマ内を伝播することが困難になり、このプラズマ内で減衰する。したがって、前記電磁波入射面から離れた領域には電磁波が届かなくなるため、プロセスガスが電磁波によって励振される領域は、電磁波入射面の近傍に限られるようになる。この状態が、表面波プラズマが生じている状態である。
つまり、表面波プラズマが生じている状態においては、以下のようなことが言える。まず、電磁波によるエネルギーが与えられてプラズマガスの電離が生じる領域が前記電磁波入射面の近傍に局在する。また、前記電磁波入射面から離れた位置に被処理基板を配設することで、被処理基板の被処理面近傍の電子温度を低く保つことができる。つまり、被処理基板の被処理面近傍に生じるシースの電界の増大が抑制されるため、被処理基板へのイオンの入射エネルギーもまた低く保たれる。したがって、イオンによる被処理基板の損傷を抑制することができる。
本発明の一形態に係る絶縁膜の形成方法において、第1のステップ(第1の絶縁膜を形成する工程)で行われる被処理基板の酸素原子活性種による酸化では、被処理基板の内部に酸素原子活性種が拡散しながら被処理基板に酸化膜が形成される。したがって、被処理基板と酸化膜の界面を欠陥の少ない界面とすることができる。
第2のステップ(第2の絶縁膜を形成する工程)は、第1のステップで形成された第1の絶縁膜(酸化膜)、並びに、被処理基板と第1の絶縁膜の界面を極力損なわないように、イオンによる損傷が少ない方法で第2の絶縁膜を形成するのが好ましい。そのため、第2のステップでは、表面波プラズマから生成された活性種により被処理基板近傍に供給された第2ガスを化学反応させて、第1の絶縁膜上に第2の絶縁膜を形成するようにしている。
第2のステップとしては、例えば、表面波プラズマを用いたCVDを採用することができる。すなわち、上述のように、表面波プラズマが生じている状態では、被処理基板の被処理面近傍に生じるシースの電界が小さいため、被処理基板、第1の絶縁膜、或いは、被処理基板と第1の絶縁膜との界面に与えるイオン損傷を抑制することができる。つまり、第2のステップで表面波プラズマを用いた化学的気相堆積法を採用することにより、第2のステップに必要とされる低損傷な成膜が可能となる。したがって、被処理基板上に電気特性に優れた絶縁膜(第1の絶縁膜と第2の絶縁膜との積層膜)を形成することができる。
以上のように、本発明の一形態に係る絶縁膜の形成方法では、被処理基板の被処理面を第1のガスにより生成された酸素原子活性種によって酸化することで第1の絶縁膜を形成した後に、表面波プラズマを発生させ、この表面波プラズマから生成された活性種により被処理基板近傍に供給された第2のガスを化学反応させ、第1の絶縁膜上に第2の絶縁膜を形成することで、被処理基板に絶縁膜(第1の絶縁膜と第2の絶縁膜との積層膜)が形成されている。そのため、被処理基板と絶縁膜との界面特性が良好な状態で、被処理基板に絶縁膜を形成することができる。しかも、第2の絶縁膜は、表面波プラズマから生成された活性種により被処理基板近傍に供給された第2のガスを化学反応させることで形成されるため、第1の絶縁膜上に第2の絶縁膜を形成する際に、被処理基板、第1の絶縁膜、或いは、被処理基板と第1の絶縁膜との界面に与えられるイオン損傷を抑制することができる。
したがって、本発明の一形態に係る絶縁膜の形成方法によれば、被処理基板やこの被処理基板に形成される絶縁膜に損傷が与えられるのを抑制しつつ、被処理基板に膜質の良好な絶縁膜を形成することができる。
本発明の一形態に係る絶縁膜の形成方法を実施する場合、前記第1の絶縁膜を形成する工程において、前記酸素原子活性種は、電磁波により前記第1のガスを励起させることで発生する表面波プラズマによって生成させるのが好ましい。上述のように、表面波プラズマが生じている状態では、被処理基板近傍の電子温度が低く、被処理基板に与えるイオン損傷が少ない。したがって、被処理基板の酸化を、表面波プラズマを用いたプラズマ酸化とすることで、被処理基板と酸化膜の界面をさらに欠陥の少ない良好な界面とすることができる。
また、本発明の一形態に係る絶縁膜の形成方法を実施する場合、前記第1の絶縁膜を形成する工程と、前記第2の絶縁膜を形成する工程とを、1つの処理容器内で連続して行うのが好ましい。言い換えると、前記第1の絶縁膜を形成する工程と、前記第2の絶縁膜を形成する工程とを、大気開放しないで連続して行うのが好ましい。このようにすることにより、第1の絶縁膜と第2の絶縁膜との界面が外気に起因する汚染を受けないため、絶縁膜(第1の絶縁膜と第2の絶縁膜との積層膜)の汚染を抑制することができる。しかも、前記第1の絶縁膜を形成する工程から前記第2の絶縁膜を形成する工程に移行させる際に、被処理基板の搬送を行う必要がない。したがって、プロセスに必要な時間を短縮することができるため、プロセスの効率を向上させることができる。
ところで、放電初期のプラズマが表面波プラズマ状態に至るまでの間のような過渡状態では、電磁波は被処理基板の近傍にまで到達する。そのため、このような過度状態では、被処理基板や第1の絶縁膜に損傷が与えられることがある。また、このような過度状態において成膜された絶縁膜は、表面波プラズマが発生している状態で成膜された絶縁膜と比べて膜質が劣ることがある。
したがって、第1の絶縁膜を形成した後にプラズマ放電を停止し、第2の絶縁膜を形成する際に再びプラズマ放電を開始すると、被処理基板や第1の絶縁膜に損傷が与えられたり、膜質があまり良好ではない膜が第1の絶縁膜と第2の絶縁膜との間に残留することがある。
このようなことを抑制するために、本発明の一形態に係る絶縁膜の形成方法を実施する場合、前記第1の絶縁膜を形成する工程は、前記処理容器の内部に、前記被処理基板を搬送したのち第1のガスを供給する。電磁波を照射することにより、前記処理容器の内部に前記第1のガスによる表面波プラズマを生じさせ、酸素原子活性種を生成し、前記被処理基板の被処理面を酸素原子活性種によって酸化することで、前記被処理基板に第1の絶縁膜を形成する工程を有する。前記第2の絶縁膜を形成する工程は、前記処理容器の内部に前記第1のガスを連続して供給し続けるとともに前記表面波プラズマのプラズマ放電を連続して行っている状態で、前記処理容器の内部にさらに第2のガスを供給し、前記表面波プラズマを用いた化学的気相堆積法によって前記第1の絶縁膜上に酸化物を堆積させることで、前記第1の絶縁膜上に第2の絶縁膜を形成する工程を有しているのが好ましい。このような工程により、従来方法のように高エネルギーイオンにより被処理基板や第1の絶縁膜に損傷を与えたり、放電開始時の過渡状態で成膜された膜質のあまり良好ではない膜が第1の絶縁膜と第2の絶縁膜との間に残留するのを抑制できる。したがって、より信頼性の高い絶縁膜を得ることができる。
また、このような場合、前記第1のガスと前記第2のガスとを分離して供給するのが好ましい。このようにすることにより、第2の絶縁膜を形成する工程において、第2のガスの供給開始時にこの第2のガスの供給によって生じる第1のガス流の変動を低減することができる。これにより、第1の絶縁膜を形成する工程から第2の絶縁膜を形成する工程に移行するときに生じるプラズマの変動が抑制されるため、第1の絶縁膜と第2の酸化膜との界面の不連続性を小さくすることができる。したがって、さらに信頼性の高い絶縁膜を得ることができる。
さらに、前記第2のガスを供給するときには、前記第2のガスの流量よりも前記第1のガスの流量が多くなるように設定したり、前記第2のガスの供給量が段階的に増加するように設定するのが好ましい。このようにすることにより、第2の絶縁膜を形成する工程において、第1のガスの供給開始時にこの第2のガスの供給によって生じる第1のガス流の変動をさらに低減することができる。したがって、第1の絶縁膜と第2の酸化膜との界面の不連続性をさらに小さくすることができる。
第1のガスとしては、例えば、酸素ガス、又は、酸素ガスと希ガスとを含む混合ガスを好適に用いることができる。第2のガスとしては、シラン、有機シリコン化合物、又は、有機金属化合物のうちの少なくとも1つを含むガスを好適に用いることができる。
なお、有機シリコン化合物及び有機金属化合物は、その殆どが構成元素中に酸素を含んでいる。そのため、第2のガスとして、有機シリコン化合物又は有機金属化合物のうちの少なくとも一方を含むガスを用いる場合、第1のガスには、必ずしも酸素ガスを含ませなくてもよく、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、又はキセノンのうちの少なくとも1種の希ガスを含ませることで、処理容器内において酸素ラジカルを発生させ、被処理基板に絶縁膜を形成することができる。ただし、第1のガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、又はキセノンのうちの少なくとも1種の希ガスと酸素ガスとを含んでいるガスを用いるのがさらに好ましい。このようにすることにより、処理容器内において酸素ラジカルを多く発生させ、被処理基板に酸素欠損の少ない絶縁膜を形成することができる。
本発明の一形態に係る絶縁膜の形成方法を実施する場合、前記被処理基板としては、外部に露出する部分の少なくとも一部に半導体領域を有しているとともに、前記半導体領域の表面を前記被処理面としているものを用いるのが好ましい。
したがって、被処理基板としては、単結晶シリコン、レーザ結晶化や固相結晶化等により形成した多結晶シリコン、微結晶シリコン、又は、アモルファスシリコン等の半導体基板や、ガラス、石英ガラス、セラミックス、又は、樹脂等からなる基体の少なくとも一部に、単結晶シリコン、レーザ結晶化や固相結晶化等により形成した多結晶シリコン、微結晶シリコン、又は、アモルファスシリコン等の半導体層を形成したもの、上述のような基体に、絶縁膜、金属層、半導体層等が積層されてなる部分を有する回路素子や回路素子の一部を形成したもの等を用いてもよい。
さらに、本発明の一形態に係る絶縁膜の形成方法を実施する場合、前記化学的気相堆積法を行うことによって前記処理容器の内部に付着した絶縁膜を除去する工程をさらに有しているのが好ましい。このようにすれば、複数の被処理基板を連続して処理する場合に、次の被処理基板を清浄度の高い処理容器内で処理することができる。したがって、被処理基板と酸化膜との界面の清浄度も向上するため、信頼性の良い絶縁膜が得られる。
また、本発明の一形態に係る絶縁膜の形成方法を実施する場合、例えば、電磁波が入射される電磁波入射面を有する処理容器の内部に、被処理基板を配設する工程と、希ガス及び酸素ガスのうちの少なくとも一方を含む第1のガスを、前記電磁波入射面からの距離が10mm未満となる位置から前記処理容器の内部に導入させるとともに、有機シリコン化合物を含む第2のガスを、前記電磁波入射面からの距離が10mm以上となる位置から、前記第1のガスと分離して前記処理容器の内部に導入させる工程と、前記処理容器の内部に前記電磁波入射面から電磁波を入射させることにより、前記処理容器の内部で前記第1のガスによる表面波プラズマを生じさせ、前記被処理基板に酸化シリコンを堆積させ、絶縁膜としての酸化シリコン膜を形成する工程とを有するようにしてもよい。
或いは、電磁波が入射される電磁波入射面を有する処理容器の内部に、被処理基板を配設する工程と、希ガス及び酸素ガスのうちの少なくとも一方を含む第1のガスを、前記電磁波入射面からの距離が10mm未満となる位置から前記処理容器の内部に導入させるとともに、有機金属化合物を含む第2のガスを、前記電磁波入射面からの距離が10mm以上となる位置から、前記第1のガスと分離して前記処理容器の内部に導入させる工程と、前記処理容器の内部に前記電磁波入射面から電磁波を入射させることにより、前記処理容器の内部で前記第1のガスによる表面波プラズマを生じさせ、前記被処理基板に金属酸化物を堆積させ、絶縁膜としての金属酸化物膜を形成する工程とを有するようにしてもよい。
このようにすることにより、被処理基板やこの被処理基板に形成される絶縁膜(酸化シリコン膜又は金属酸化物膜)に損傷が与えられるのを抑制しつつ、被処理基板に良好に絶縁膜を形成することができる。
なお、有機シリコン化合物を含む第2のガスとしては、例えば、テトラアルコキシシラン、ビニルアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、フェニルトリアルコキシシラン、ポリメチルジシロキサン、ポリメチルシクロテトラシロキサンのうちの1種以上を含んでいるのが好ましい。このようにすることにより、基板上に膜質の良好な酸化シリコン膜を形成することができる。
また、有機金属化合物を含む第2のガスとしては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、テトラプロポキシジルコニウム、ペンタエトキシタンタル、テトラプロポキシハフニウムのうちのいずれか1種を含んでいるのが好ましい。トリメチルアルミニウム又はトリエチルアルミニウムを選択することで、被処理基板に酸化アルミニウム膜を形成することができる。テトラプロポキシジルコニウムを選択することで、被処理基板に酸化ジルコニウム膜を形成することができる。ペンタエトキシタンタルを選択することで、被処理基板に酸化タンタル膜を形成することができる。テトラプロポキシハフニウムを選択することで、被処理基板に酸化ハフニウム膜を形成することができる。また、酸化ハフニウムや酸化ジルコニウムは、酸化シリコンよりも誘電率が高い。したがって、テトラプロポキシハフニウムやテトラプロポキシジルコニウムを選択することで、酸化シリコン膜よりも絶縁性の良好な絶縁膜を形成することができる。
第1のガスが酸素ガスを含んでいる場合、酸素ガスを処理容器の内部に供給する際の流量が、第2のガスを処理容器の内部に供給する際の流量よりも多くなるように設定するのが好ましい。このようにすることにより、第2のガスが導入される位置よりも下方において、酸素ラジカル等の活性種を第2のガスよりも多く存在させることができる。したがって、有機シリコン化合物中のシリコン原子や有機金属酸化物中の金属原子等の酸化が促進されるので、より酸素欠損の少ない高品質な酸化膜を形成することができる。
また、本発明の一形態に係る絶縁膜の形成方法を実施する場合、例えば、電磁波が入射される電磁波入射面を有し、内部に被処理基板を配設可能な処理容器と、希ガス及び酸素ガスのうちの少なくとも一方を含む第1のガスを前記処理容器内に導入させる第1のガス導入部を有し、前記処理容器に設けられた第1のガス導入系と、有機シリコン化合物又は有機金属化合物を含む第2のガスを前記処理容器内に導入させる第2のガス導入部を有し、前記処理容器に設けられた第2のガス導入系とを具備し、前記第1のガス導入部と前記電磁波入射面との間の距離が10mm未満に設定されているとともに、前記第2のガス導入部と前記電磁波入射面との間の距離が10mm以上に設定されており、且つ、前記処理容器の内部に前記第1及び第2のガスによる表面波プラズマが生成可能であるようなプラズマ処理装置(絶縁膜形成装置)を用いるのが好ましい。
このようなプラズマ処理装置を用いることにより、被処理基板やこの被処理基板に形成される絶縁膜(酸化シリコン膜又は金属酸化物膜)に損傷が与えられるのを抑制しつつ、被処理基板に良好に絶縁膜を形成することが可能である。
つまり、上述のように、表面波プラズマが生じている状態においては、電磁波によるエネルギーが与えられてプラズマの電離が生じる領域が電磁波入射面の近傍に局在する。つまり、表面波プラズマは、電磁波入射面からの距離によってその状態が異なる。また、表面波プラズマが生じている状態においては、被処理基板の表面近傍に生じるシースの電界が小さい。そのため、被処理基板へのイオンの入射エネルギーが低く、イオンによる被処理基板の損傷が少ない。
表面波プラズマが発生する領域の境界は、前記電磁波入射面と処理容器の内部空間との界面である。そして、表面波プラズマが発生している状態において、プラズマのエネルギーが高い領域、すなわち、電磁波が到達して第1のガスを直接励振させている領域は、表皮厚さによって知ることができる。表皮厚さは、電磁波入射面から電磁波の電界が1/eに減衰する位置までの距離を示しており、その値は電磁波の入射面近傍の電子密度に依存する。
つまり、表面波プラズマが発生している状態において、電磁波入射面からの距離が表皮厚さよりも小さい領域では、高密度のプラズマが発生している。また、電磁波入射面からの距離が表皮厚さよりも大きい領域(表皮厚さを外れた領域)では、電磁波は高密度のプラズマによって遮蔽されて到達せず、活性種(例えば酸素ラジカル)は拡散流として到達する。
したがって、処理容器の内部で表面波プラズマを生じさせ、処理容器の内部に配設された被処理基板に絶縁膜を形成するような場合、電磁波入射面からの距離が表皮厚さよりも大きくなるような位置から有機シリコン化合物ガス又は有機金属化合物を含むような第2のガスを供給すれば、有機シリコン化合物又は有機金属化合物の過度な分解を抑止でき、しかも、活性種と有機シリコン化合物又は有機金属化合物とを効率良く反応させ、被処理基板に、酸素欠損が少なく、均一で、段差被覆性に優れる良好な膜質の絶縁膜(酸化シリコン膜又は金属酸化物膜)を形成することができると考えられる。
表皮厚さδは、以下の(1)式で求めることができる。
ω:電磁波の角振動数
c:真空中の光速(定数)
n
e:電子密度
n
C:カットオフ密度
カットオフ密度n
Cは、以下の(2)式で求めることができる。
ε
0:真空中の誘電率(定数)
m
e:電子の質量(定数)
ω:電磁波の角振動数
e:素電荷(定数)
表面波プラズマの分散関係は、以下の(3)式で示される。
ω:電磁波の角振動数
c:真空中の光速(定数)
ε
d:誘電体窓の誘電率
ω
p:プラズマの角振動数
プラズマの角振動数ω
pは、以下の(4)式で求めることができる。
e:素電荷(定数)
n
0:電子密度
ε
0:真空中の誘電率(定数)
m
e:電子の質量(定数)
電磁波入射面とプラズマの境界面を表面波が伝播するには、(3)式の分母が正の値をとる必要がある。そのため、(4)式の関係も含めると、以下の(5)式の関係を満たす必要がある。
n
0:電子密度
ε
0:真空中の誘電率(定数)
m
e:電子の質量(定数)
ε
d:誘電体窓の誘電率
e:素電荷(定数)
ω:電磁波の角振動数
(5)式を用いて、国内において工業目的の電磁波使用のため、基本波またはスプリアス発射による電界強度の許容値の特例として、最大許容値を定めずに用いられている周波数(無線設備規則第65条、及び郵政省告示第257号)である、2.45GHz、5.8GHz及び22.125GHzに関して、合成石英(比誘電率 3.8)及びアルミナ(比誘電率 9.9)を用いた場合にプラズマの境界面を表面波が伝播させるのに必要な電子密度n
0を求め、そのときの表皮厚さを計算すると表1のようになる。すなわち、2.45GHz以上の周波数において比誘電率が3.8以上の誘電体窓を用い、完全な表面波プラズマ状態にした場合には、表皮厚さは10mm以下になる。
マイクロ波を用いたプロセスでは、前記の周波数、すなわち2.45GHz、5.8GHz及び22.125GHzの高周波電源が用いられることが多く、誘電体窓の材質としては、石英、あるいはアルミナが一般的である。そのため、石英の誘電体窓を使用し、周波数を2.45GHzとしたときの表皮厚さδ以上、つまり、電磁波入射面から10mm以上離れていれば、電磁波は高密度のプラズマに遮蔽されて到達せず、酸素ラジカルは拡散流として到達すると考えられる。
また、本発明者らは、電子温度が2eV以下となるような位置から絶縁膜成膜用を処理容器の内部に導入すれば、有機シリコン化合物や有機金属化合物が過度に分解されるのを抑制できることを突き止めた。なお、プラズマを発生させるための第1のガスの種類及び分圧を変化させても、電磁波入射面から10mm以上離れた領域では、電子温度が大凡2eV以下であり、上述の推論と矛盾しないことがわかった。
さらに、本発明者らは、電子密度が電磁波入射面の50%以下に減少するような位置から第2のガスを処理容器の内部に導入すれば、有機シリコン化合物や有機金属化合物が過度に分解されるのを抑制できることを突き止めた。なお、プラズマを発生させるための第1のガスの種類及び分圧を変化させても、電磁波入射面から10mm以上離れた領域では、電子密度は電磁波入射面の50%以下に減少しており、上述の推論と矛盾しないことがわかった。
しかも、電磁波入射面からの距離が10mm未満となる領域では、電磁波による電界で電子が直接に加速されるため、電子のエネルギーが大きい。したがって、電磁波入射面からの距離が10mm未満となる位置から第1のガスを処理容器の内部に導入するようにすると、処理容器内において酸素ラジカルを効率良く生成させることができる。
また、絶縁膜成膜ガスとして有機シリコン化合物や有機金属化合物を含むガスを使用すると、シランガス等を使用した場合と比べて被覆性の良好な絶縁膜が得られ易いことが知られている。これは、有機シリコン化合物や有機金属化合物がシラン等と比べて分子容積が大きいためである。つまり、有機シリコン化合物や有機金属化合物がプラズマによって分解されてなる中間生成物もまた比較的分子容積が大きく、その立体効果により被処理基板の表面でマイグレーションしながら、この被処理基板の表面に比較的均一に付着するため、被覆性の良好な絶縁膜となる。しかしながら、有機シリコン化合物や有機金属化合物は、その骨格にアルキル基等を含んでいるため、過度に分解されると、炭素骨格部分に含まれる炭素原子が、形成される絶縁膜内に不純物として混入し易くなってしまう。
これに対し、電磁波入射面からの距離が10mm以上となる領域では、電磁波が高密度のプラズマによって遮蔽されるため、有機シリコン化合物や有機金属化合物が過度に分解されるのを抑制することができる。そのため、電磁波入射面からの距離が10mm以上となる位置から第2のガスを処理容器の内部に導入することで、被処理基板に、酸素欠損が少なく、均一で、段差被覆性に優れる良好な膜質の絶縁膜を、イオン損傷を殆ど与えることなく被処理基板に形成することができる。
以下、本発明の第1の実施形態を説明する。図1は、第1の実施形態に係る絶縁膜の形成方法を実施する上で好適に用いることができるプラズマ処理装置(絶縁膜形成装置)の一例を示している。
絶縁膜形成装置1は、例えば、第1の処理室2、第2の処理室3、ロード室5、アンロード室6、第1,第2,第3の連通機構としての第1,第2,第3のゲートバルブ7,8,9、及び、被処理基板移動機構(図示せず)を備えている。
前記第1の処理室2は、処理容器としての真空容器11a、1つ以上例えば9つの誘電体部材12a、基板支持台13a、電磁波源15a、導波管16a、アンテナ18a、ガス排出系14a、及び、第1のガス導入系19等を備えている。一方、前記第2の処理室3は、処理容器としての真空容器11b、1つ以上例えば9つの誘電体部材12b、基板支持台13b、電磁波源15b、導波管16b、アンテナ18b、ガス排出系14b、第2のガス導入系20、及び、第3のガス導入系21等を備えている。本実施形態においては、第1の処理室2が有する真空容器11a、誘電体部材12a、基板支持台13a、ガス排出系14a、電磁波源15a、導波管16a、及びアンテナ18aと、第2の処理室3が有する真空容器11b、誘電体部材12b、基板支持台13b、ガス排出系14b、電磁波源15b、導波管16b、及びアンテナ18bとは、夫々同じ構造である。
前記真空容器11a,11bは、内部を真空状態或いはその近傍にまで減圧することが可能な強度に形成されている。真空容器11a,11bを形成する材料としては、例えばアルミニウム等の金属材料を用いることができる。真空容器11a,11bの上壁31a,31bには、真空容器11a,11bの壁の一部を構成するように、前記誘電体部材12a,12bが設けられている。これら誘電体部材12a,12bもまた、真空容器11a,11bの内部を真空状態或いはその近傍にまで減圧することが可能な強度に形成されている。これら誘電体部材12a,12bを形成する材料としては、例えば合成石英等の誘電体材料を用いることができる。
詳しくは、真空容器11a,11bの上壁31a,31bは、1つ以上例えば9つの開口部34a,34bを有している。これら開口部34a,34bは、夫々、略同一の横断面略T字状の細長な空間を形成している。これら開口部34a,34bは、所定の間隔を置いて互いに平行に設けられている。
誘電体部材12a,12bは、前記開口部34a,34bと夫々対応するように設けられている。すなわち、これら誘電体部材12a,12bは、前記開口部34a,34bに夫々嵌合するような略同一の横断面略T字状の細長部材とされており、前記開口部34a,34bに夫々嵌合させることで、前記開口部34a,34bを夫々気密に閉塞している。これにより、上壁31a,31bには、9つの誘電体部材12a,12bが真空容器11a,11bの壁の一部を構成するように互いに並べて設けられることとなる。また、このとき、上壁31a,31bは、真空容器11a,11bの壁の一部であるとともに、これら誘電体部材12a,12bを支持する梁としても機能する。以下、誘電体部材12a,12bを誘電体窓と言う。
真空容器11a,11bは、図示しないが、上壁31a,31bと誘電体窓12a,12bとの間を封止する封止機構を有している。封止機構は、例えば、各開口部34a,34bを規定する壁にその周方向に沿って設けられた溝と、各溝に沿って設けられたO−リングとを有している。この封止機構により、開口部34a,34bを規定する壁と誘電体窓12a,12bとの間が夫々シールされている。また、真空容器11a,11bの内部には、被処理基板100を支持する前記基板支持台13a,13bが設けられている。
前記電磁波源15a,15bとしては、例えば、2.45GHzのマイクロ波電源を用いることができる。アンテナ18a,18bは、9つの導波管スロットアンテナ17a,17bを有している。これら導波管スロットアンテナ17a,17bは、管壁の一部にスリット状のスロット35a,35bを有しており、前記スロット35a,35b近傍で起きる電磁界結合を利用して電磁波を放射する。つまり、実質的には、スロット35a,35bがアンテナとして機能する。これら導波管スロットアンテナ17a,17bは、誘電体窓12a,12bに夫々対応するように設けられている。詳しくは、これら導波管スロットアンテナ17a,17bは、対応する誘電体窓12a,12bの外面と対向するように互いに並べて配設されている。
互いに隣り合う導波管スロットアンテナ17aは互いに接続されている。これら導波管スロットアンテナ17aのうち、最も電磁波源15a側の導波管スロットアンテナは、前記導波管16aを介して電磁波源15aと接続されている。同様に、互いに隣り合う導波管スロットアンテナ17bは互いに接続されている。これら導波管スロットアンテナ17bのうち、最も電磁波源15b側の導波管スロットアンテナは、前記導波管16bを介して電磁波源15bと接続されている。
これにより、電磁波源15a,15bで発生した電磁波は、導波管16a,16bによって、各導波管スロットアンテナ17a,17bに導かれる。そして、導波管スロットアンテナ17a,17bに導かれた電磁波は、スロット35a,35bから放射され、誘電体窓12a,12bを介して真空容器11a,11bの内部に入射する。したがって、第1及び第2の処理室2,3の双方において、誘電体窓12a,12bの内面が夫々電磁波入射面F1,F2となる。
一般に、導波管スロットアンテナは、金属で構成されるため、誘電体で形成されたアンテナと比べて誘電損失が少なく、大電力に対する耐性が高いという特長がある。また、導波管スロットアンテナは、構造が単純で放射特性の設計が比較的正確に行えるため、大型基板用の絶縁膜形成装置に好適である。特に、複数の導波管スロットアンテナを互いに並べて配置した本実施形態のような絶縁膜形成装置は、大型の液晶表示装置等に用いる角型で面積の大きい基板に絶縁膜を形成する場合に好適である。なお、アンテナは、電磁波を真空容器に向けて放射することが可能なものであればよく、導波管スロットアンテナ(スロット)を有するものに限定されない。
前記ガス排出系14a,14bは、例えば、真空容器11a,11bの内部と連通するようにこの真空容器11a,11bに設けられたガス排出部36a,36bと、真空排気システム37a,37bとを有している。真空排気システム37a,37bは、例えば、ターボ分子ポンプを用いることができる。この真空排気システム37a,37bを稼動させることにより、真空容器11a,11bの内部を所定の真空度に達するまで排気することができる。
第1の処理室2が有する第1のガス導入系19は、第1のガスとしての処理ガスを真空容器11aの内部に導入するためのものである。一方、第2の処理室3が有する第2のガス導入系20は、処理ガスを真空容器11bの内部に導入するためのものである。第1のガス導入系19と第2のガス導入系20とは、同じ構造のものを用いることができる。
第1のガス導入系19は、例えば、第1のガス導入管40aを有している。同様に、第2のガス導入系20は、例えば、第2のガス導入管40bを有している。第1及び第2のガス導入管40a,40bは、アルミニウム、ステンレス鋼、チタン等の金属、或いは酸化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム等の誘電体によって形成されている。なお、第1及び第2のガス導入管40a,40bが電磁界やプラズマに影響を与える影響を考慮すると、第1及び第2のガス導入管は、誘電体材料で形成するのが好ましい。しかしながら、管の形成する際の加工を考慮すると、第1及び第2のガス導入管40a,40bは、金属材料で形成する方が容易で安価である。そのため、第1及び第2のガス導入管40a,40bを金属材料で形成するような場合には、第1及び第2のガス導入管40a,40bの外面に絶縁膜を形成しておくとよい。
第1及び第2のガス導入管40a,40bは、誘電体窓12a,12bが形成されている領域を避けて、真空容器11a,11bの上壁(梁)31a,31bの内面に沿って設けられている。詳しくは、第1及び第2のガス導入管40a,40bは、夫々、複数の配管部41a,41bと1つの延出部42a,42bとを有している。複数の配管部41a,41bは、真空容器11a,11bの上壁(梁)31a,31bの内面に沿うように互いに平行に配管されている。これら配管部41a,41bには、夫々、その下側(被処理基板側)に複数のガス噴出口43a,43bが長手方向に略等間隔で設けられている。延出部42aは、これら配管部41aと直交するように配管されているとともに、これら配管部41aを互いに連通させている。同様に、延出部42bは、これら配管部41bと直交するように配管されているとともに、これら配管部41bを互いに連通させている。延出部42a,42bの一端は、真空容器11a,11bの上壁31a,31bを介して、真空容器11a,11bの外方に延出している。延出部42aの一端には、上記処理ガスを収容する処理ガスシリンダ(図示せず)を着脱自在に取り付けることができるようになっている。同様に、延出部42bの一端には、上記処理ガスを収容する処理ガスシリンダ(図示せず)を着脱自在に取り付けることができるようになっている。
なお、第2のガス導入管40bが備える配管部21bのガス噴出口43bは、電磁波入射面F2からの距離が表面波プラズマの表皮厚さδよりも小さくなる位置に設けられている。本実施形態では、これらガス噴出口43bが形成されている仮想平面と電磁波入射面F2との距離が10mm未満、例えば、3mmとなるように、第2のガス導入管40bが形成されており、第2のガス導入管40bを配管することで、複数のガス噴出口43bが電磁波入射面Fの下方3mmの位置に設けられるようになっている。
前記第2の処理室3が有する第3のガス導入系21は、第2のガスとしての絶縁膜成膜用ガスを真空容器11bの内部に導入するためのものである、第3のガス導入系21は、第2のガス導入系20よりも基板支持台13b側に設けられている。第3のガス導入系21は、例えば、第3のガス導入管50を有している。
第3のガス導入管50は、アルミニウム、ステンレス鋼、チタン等の金属、或いは酸化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム等の誘電体によって形成されている。ところで、放電初期のプラズマが表面波プラズマ状態に至るまでの間のような過渡状態では、電磁波が第3のガス導入系21まで到達することがある。そのため、第3のガス導入管50を金属材料によって形成すると、上記過渡状態において、第3のガス導入管50が電磁界やプラズマに影響を与えてしまう場合がある。したがって、第3のガス導入管50が電磁界やプラズマに影響を与える影響を考慮すると、第3のガス導入管50は、誘電体材料で形成するのが好ましい。第3のガス導入管を金属材料で形成するような場合には、第3のガス導入管22に絶縁膜を形成しておくのが好ましい。
第3のガス導入管50は、例えば、環状部51と延出部52とを有している。環状部51は、被処理基板100の外周よりも一回り大きく形成されている。環状部51には、その下側(被処理基板側)に周方向に沿って複数のガス噴出口53が略等間隔で設けられている。延出部52は、その一端が環状部51と連通されているとともに、その他端が真空容器11bの上壁31bを介して、真空容器11bの外方に延出している。延出部52の他端には、絶縁膜成膜用ガスを収容する絶縁膜成膜用ガスシリンダ(図示せず)を着脱自在に取り付けることができるようになっている。
環状部51に設けられているガス噴出口53は、電磁波入射面F2からの距離が表面波プラズマの表皮厚さδよりも大きくなる位置に設けられている。本実施形態では、これらガス噴出口53が形成されている仮想平面と電磁波入射面F2との距離L2が10mm以上、例えば、30mmとなるように、第3のガス導入管50が形成されており、第3のガス導入管50を配設することで、複数のガス噴出口53が電磁波入射面F2の下方30mmの位置に設けられている。
ところで、絶縁膜成膜用ガスとしては、後述するように、有機シリコン化合物又は有機金属化合物を含むガスを用いることがある。有機シリコン化合物ガスや有機金属化合物ガスは、シランと比べて沸点が高いため液化し易い。そのため、絶縁膜成膜用ガスとして有機シリコン化合物や有機金属化合物を含むガスを用いる場合、このガスを安定して真空容器の内部に導入するためには、第3のガス導入系を適切な温度、すなわち80℃から200℃程度に保つようにするのが望ましい。したがって、第3のガス導入系には、加熱手段を設けもよい。
ロード室5の内部は、第1のゲートバルブ7を介して、第1の処理室2の真空容器11aの内部と開閉自在に連通されている。第1の処理室2の真空容器11aの内部は、第2のゲートバルブ8を介して、第2の処理室3の真空容器11bの内部と開閉自在に連通されている。アンロード室6は、第3のゲートバルブ9を介して、第2の処理室3の真空容器11bの内部と開閉自在に連通されている。
前記被処理基板移動機構は、被処理基板100の移動(搬入・搬出)を行うためのものである。すなわち、この被処理基板移動機構により、ロード室5から第1の処理室2への被処理基板100の搬入、第1の処理室2から第2の処理室3への被処理基板100の搬送、第2の処理室3からアンロード室6への被処理基板100の搬出等が行われる。
なお、第1の処理室2の真空容器11aの内部と第2の処理室3の真空容器11bの内部とは、トランスファー室を介して、連通させてもよい。また、この絶縁膜形成装置1では、ロード室5、第1の処理室2、第2の処理室3、及び、アンロード室6を一直線状に連結させているが、ロード室5、第1の処理室2、第2の処理室3、及び、アンロード室6の連結構造は、これに限定されるものではない。
次に、絶縁膜の形成方法について説明する。絶縁膜の形成は、第1の処理室2(酸化室)への被処理基板100の搬入、酸化プロセス、第1の処理室2から第2の処理室3(成膜室)への被処理基板100の搬送、成膜プロセス、第2の処理室3からの被処理基板100の搬出の順に行う。なお、本実施形態では、被処理基板100としては、例えば、シリコンウエハを用いている。
ロード室5の内部に、被処理面100aを上方に向けた姿勢で被処理基板100を配設する。ロード室5から第1の処理室2に被処理基板100を搬入する。被処理基板100の搬入は、ゲートバルブ7の開閉や被処理基板100の移動等によって20秒程度かかる。
第1の処理室2のガス排出系14aを稼動させ、真空容器11aの内部の空気を排出する。その後、処理ガスを、第1のガス導入系19を介して、真空容器11aの内部に供給する。処理ガスとしては、例えば、酸素ガス、又は、酸素と、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、及びキセノンのうちの少なくとも1種を含む希ガスとの混合ガスを用いる。酸素ガスに対するヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、又はキセノンガスの添加は、10%から99%までの広い添加比率で可能であり、その添加比率によって、被処理基板100の酸化速度を増加させることができる。本実施形態では、クリプトンガスが388SCCM、酸素ガスが12SCCM、全圧が80Paとなるように、クリプトンガスと酸素ガスとの混合ガスである処理ガスを、真空容器11aの内部に供給している。なお、ガス圧が安定するまでには60秒程度必要である。
真空容器11a内のガス圧が所定のガス圧に達した後、電磁波の照射を開始する。電磁波は、電磁波源15aで生成し、導波管16aを介して、各導波管スロットアンテナ17aに送られる。各導波管スロットアンテナ17aに送られた電磁波は、導波管スロットアンテナ17aのスロット(スリット状の開口部)35aから真空容器11aの内部に向けて放射される。真空容器11aに向けて放射された電磁波は、誘電体窓12aを通って真空容器11a内に入射する。
真空容器11a内に入射した電磁波は、処理ガスを励振させる。誘電体窓12aの電磁波入射面(下面)F1近傍のプラズマ内の電子密度がある程度まで増加すると、誘電体窓12aを介して反応室11a内に導入されている電磁波は、プラズマ内を伝播することができなくなってプラズマ内で減衰する。したがって、誘電体窓12aの電磁波入射面F1から離れた領域には電磁波が届かなくなり、真空容器11a内の電磁波入射面F1の近傍に表面波プラズマが生じる。
表面波プラズマが生じている状態では、誘電体窓12aの近傍で高い電子密度が達成されるため、それに伴って高密度の酸素原子活性種が発生する。この高密度の酸素原子活性種が被処理基板100まで拡散し、効率よく被処理基板100を酸化する。これにより、被処理基板100の上面である被処理面100aに第1の絶縁膜101が形成される。なお、表面波プラズマが生じている状態では、被処理基板100の表面近傍での電子温度は低い(電子エネルギーが低い)ため、被処理基板100の表面近傍のシースの電界もまた弱い。したがって、被処理基板100へのイオンの入射エネルギーが低減されるため、被処理基板100の酸化処理中における被処理基板100のイオン損傷は抑制される。本実施形態では、パワー密度3W/cm2、処理時間163秒の条件で、約3nmの膜厚を有する酸化膜(第1の絶縁膜101)が得られた。
ゲートバルブ8を開き、第1の処理室2で酸化処理された被処理基板100を第2の処理室3に移動させる。なお、この時の被処理基板100の搬送には、ゲートバルブ8の開閉、被処理基板100の移動等で約40秒かかる。また、第1の処理室2から第2の処理室3への被処理基板100の移動は、真空中、すなわち、真空容器11a及び真空容器11bの内部を夫々真空とした状態で行うのが好ましい。このように、第1の処理室2から第2の処理室3への被処理基板100の移動を真空中で行うことで、酸化によって形成した第1の絶縁膜(酸化膜)100と、この後に、CVDによって形成する第2の絶縁膜(酸化膜)102との界面の汚染を抑制し、第1の絶縁膜101と第2の絶縁膜102との界面の信頼性を高めることができる。
第2の処理室3の真空容器11bの内部に、第2のガス導入系20を介して処理ガスを導入するとともに、第3のガス導入系21を介して第2のガスを導入する。処理ガスとしては、例えば、酸素ガス、又は、酸素と、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、及びキセノンのうちの少なくとも1種を含む希ガスとの混合ガスを用いる。絶縁膜成膜用ガスとしては、例えば、シラン、有機シリコン化合物(テトラアルコキシシラン、ビニルアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、フェニルトリアルコキシシラン、ポリメチルジシロキサン、ポリメチルシクロテトラシロキサン等)、又は、有機金属化合物(トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、テトラプロポキシジルコニウム、ペンタエトキシタンタル、テトラプロポキシハフニウム等)を含むガスを用いる。本実施形態では、処理ガスとして酸素ガスを用いるとともに、絶縁膜成膜用ガスとしてテトラアルコキシシランの一種であるテトラエトキシシランを用いている。そして、処理ガスとして酸素ガスが400SCCM、絶縁膜成膜用ガスとしてテトラエトキシシランが10SCCM、全圧が80Paとなるように、これらのガスを真空容器11bの内部に供給している。
真空容器11b内のガス圧が所定のガス圧に達した後、電磁波の照射を開始する。電磁波は、電磁波源15bで生成し、導波管16bを介して、各導波管スロットアンテナ17bに送られる。各導波管スロットアンテナ17bに送られた電磁波は、導波管スロットアンテナ17bのスロット(スリット状の開口部)35bから真空容器11bの内部に向けて放射される。真空容器11bに向けて放射された電磁波は、誘電体窓12bを通って真空容器11b内に入射する。
真空容器11b内に入射した電磁波は、処理ガスを励振させる。誘電体窓12bの電磁波入射面(下面)F2近傍のプラズマ内の電子密度がある程度まで増加すると、誘電体窓12bを介して反応室11b内に導入されている電磁波は、プラズマ内を伝播することができなくなってプラズマ内で減衰する。したがって、誘電体窓12bの電磁波入射面F2から離れた領域には電磁波が届かなくなり、真空容器11b内の電磁波入射面F2の近傍に表面波プラズマが生じる。表面波プラズマが生じている状態では、この表面波プラズマによって、効率良く活性種としての酸素ラジカルが生成される。
生成された酸素ラジカルは、拡散流として絶縁膜成膜用ガスが導入されている領域にまで到達し、テトラエトキシシランと反応する。したがって、テトラエトキシシランの分解が促進され、被処理基板100の表面に酸化シリコンが堆積する。これにより、第1の絶縁膜101上に第2の絶縁膜(CVD法により形成された酸化シリコン膜)102が形成される。
なお、絶縁膜成膜用ガスは処理ガスよりも被処理基板100側から導入されているため、絶縁膜成膜用ガスが導入されている領域には、電磁波は高密度のプラズマに遮蔽されて到達し難くなっている。そのため、テトラエトキシシランが電磁波によって過度に分解されるといったことは起こり難い。また、表面波プラズマが生じている状態では、被処理基板100の表面近傍での電子温度は低い(電子エネルギーが低い)ため、被処理基板100の表面近傍のシースの電界もまた弱い。したがって、被処理基板100へのイオンの入射エネルギーが低減されるため、第2の絶縁膜102の成膜中における被処理基板100及び第1の絶縁膜101のイオン損傷は抑制される。本実施形態では、パワー密度3W/cm2の条件下で、約45nm/minの成膜速度で酸化シリコンを堆積させることができた。
また、処理ガスとしてクリプトンガスと酸素ガスとの混合ガスを採用し、クリプトンガスを388SCCM、酸素ガスを12SCCMで混合して、真空容器11b内に供給するとともに、絶縁膜成膜用ガスとしてテトラアルコキシシランの一種であるテトラエトキシシランを10SCCMで真空容器11b内に供給する場合、全圧80Pa、パワー密度3W/cm2の条件において、約45nm/minの成膜速度で酸化シリコンを堆積させることができた。
被処理基板100を第2の処理室3から搬出する。搬出には、ゲートバルブ9の開閉、被処理基板100の移動等で、通常20秒程度かかる。以上により、被処理基板100への絶縁膜の形成が完了する。
以上のように、本実施形態の絶縁膜の形成方法によれば、被処理基板100の被処理面100aを酸素原子活性種によって酸化することで第1の絶縁膜101を形成した後に、表面波プラズマを用いた化学的気相堆積法によって第1の絶縁膜101上に第2の絶縁膜102を形成することで、被処理基板100に絶縁膜を形成している。したがって、被処理基板100やこの被処理基板100に形成される絶縁膜(第1の絶縁膜101と第2の絶縁膜102との積層膜)に損傷が与えられるのを抑制しつつ、被処理基板100上に高品質な絶縁膜を形成することができる。
以下、本発明の第2の実施形態を説明する。図2は、第2の実施形態に係る絶縁膜の形成方法を実施する上で好適に用いることができる絶縁膜形成装置の一例を示している。
絶縁膜形成装置60は、例えば、処理室4、ロード室5、アンロード室6、第1及び第2の連通機構としての第1及び第2のゲートバルブ10,11、及び、被処理基板移動機構(図示せず)を備えている。
処理室4は、処理容器としての真空容器61、1つ以上例えば9つの誘電体部材62、基板支持台63、高周波電源65、導波管66、アンテナ68、ガス排出系64、第1のガス導入系69、及び、第2のガス導入系70等を備えている。本実施形態において、処理室4が有する真空容器61、誘電体部材62、基板支持台63、ガス排出系64、高周波電源65、導波管66、及びアンテナ68は、第1の実施形態の絶縁膜形成装置1が備える真空容器11a,11b、誘電体部材11a,12b、基板支持台13a,13b、ガス排出系14a,14b、電磁波源15a,15b、導波管16a,16b、及びアンテナ18a,18bと夫々同じ構造としているため、重複する説明は省略する。また、第1のガス導入系69は、第1の実施形態の絶縁膜形成装置1が備える第1及び第2のガス導入系19,20と同じ構造とすることができるため、重複する説明は省略する。
すわなち、図中符号91はガス導入管40bに対応するガス導入管、符号92は配管部41bに対応する配管部、符号93は延出部42bに対応する延出部、符号94はガス噴出部43bに対応するガス噴出口、符号96は開口部34bに対応する開口部、符号97はスロット35bに対応するスロット(アンテナ)、符号98はガス排気部36bに対応するガス排気部、符号99は真空排気システム37bに対応する真空排気システム、符号Fは電磁波入射面を夫々示している。
第2のガス導入系70は、アルミニウム、ステンレス鋼、チタン等の金属、或いは、酸化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム等の誘電体により形成されている。なお、第2のガス導入系70は誘電体により形成するのが望ましい。これは、第1の実施形態の絶縁膜形成装置1が備える第3のガス導入系21を誘電体により形成するのが好ましい理由と同様である。
第2のガス導入系70は、ガス導入部としてのシャワープレート80を有している。シャワープレート80は、中空に形成されており、内部空間Sに処理ガスが流通されるようになっている。シャワープレート80の一端部80aは、真空容器61の上壁95を介して、真空容器61の外方に延出している。シャワープレート80の一端部80aには、絶縁膜成膜用ガスを収容する絶縁膜成膜用ガスシリンダ(図示せず)を着脱自在に取り付けることができるようになっている。また、このシャワープレート80は、処理ガスや酸素ラジカルを流通させるための多数の流通孔81を有している。さらに、シャワープレート30には、壁に多数のガス噴出口82が設けられており、シャワープレート80の内部空間Sに導入された絶縁膜成膜用ガスは、前記ガス噴出口82から真空容器61内に噴出される。
次に、絶縁膜の形成方法について説明する。絶縁膜の形成は、真空容器61内への被処理基板100の搬入、酸化プロセス、成膜プロセス、真空容器61からの被処理基板100の搬出、真空容器61内クリーニングプロセスの順に行う。なお、本実施形態では、被処理基板100としては、例えば、シリコンウエハを用いている。
ロード室5の内部に、被処理面100aを上方に向けた姿勢で被処理基板100を配設する。ロード室5から処理室4の真空容器61に被処理基板100を搬入する。被処理基板100の搬入は、ゲートバルブ10の開閉や被処理基板100の移動等によって20秒程度かかる。
ガス排出系64を稼動させ、真空容器61の内部の空気を排出する。その後、処理ガスを、第1のガス導入系69を介して、真空容器61の内部に供給する。処理ガスとしては、例えば、酸素ガス、又は、酸素と、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、及びキセノンのうちの少なくとも1種を含む希ガスとの混合ガスを用いる。酸素ガスに対するヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、又はキセノンガスの添加は、10%から99%までの広い添加比率で可能であり、その添加比率によって、被処理基板100の酸化速度を増加させることができる。本実施形態では、処理ガスとして酸素ガスを採用するとともに、酸素ガスが400SCCM、全圧が80Paとなるように、このガスを真空容器11aの内部に供給している。なお、ガス圧が安定するまでには60秒程度必要である。
真空容器61内のガス圧が所定のガス圧に達した後、電磁波の照射を開始する。電磁波は、高周波電源65で生成し、導波管66を介して、各導波管スロットアンテナ67に送られる。各導波管スロットアンテナ67に送られた電磁波は、導波管スロットアンテナ67のスロット(スリット状の開口部)97から真空容器61の内部に向けて放射される。真空容器61に向けて放射された電磁波は、誘電体窓62を通って真空容器61内に入射する。
真空容器61内に入射した電磁波は、処理ガスとしての酸素ガスを励振させる。誘電体窓62の電磁波入射面(下面)F近傍のプラズマ内の電子密度がある程度まで増加すると、誘電体窓62を介して真空容器61内に導入されている電磁波は、プラズマ内を伝播することができなくなってプラズマ内で減衰する。したがって、誘電体窓62の電磁波入射面Fから離れた領域には電磁波が届かなくなり、真空容器61内の電磁波入射面Fの近傍に表面波プラズマが生じる。
表面波プラズマが生じている状態では、誘電体窓62の近傍で高い電子密度が達成されるため、それに伴って高密度の酸素原子活性種が発生する。この高密度の酸素原子活性種が被処理基板100まで拡散し、効率よく被処理基板100を酸化する。これにより、被処理基板100の上面である被処理面100aに第1の絶縁膜101が形成される。なお、表面波プラズマが生じている状態では、被処理基板100の表面近傍での電子温度は低い(電子エネルギーが低い)ため、被処理基板100の表面近傍のシースの電界もまた弱い。したがって、被処理基板100へのイオンの入射エネルギーが低減されるため、被処理基板100の酸化処理中における被処理基板100のイオン損傷は抑制される。本実施形態では、パワー密度3W/cm2、処理時間30秒の条件で、約2nmの膜厚を有する酸化膜(第1の絶縁膜101)が得られた。
処理ガスの供給を続け、酸化プロセスで用いたプラズマを連続して放電させたまま、第2のガス導入系70から絶縁膜成膜用ガスを真空容器61内に供給する。絶縁膜成膜用ガスとしては、例えば、シラン、有機シリコン化合物(テトラアルコキシシラン、ビニルアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、フェニルトリアルコキシシラン、ポリメチルジシロキサン、ポリメチルシクロテトラシロキサン等)、又は、有機金属化合物(トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、テトラプロポキシジルコニウム、ペンタエトキシタンタル、テトラプロポキシハフニウム等)を含むガスを用いる。本実施形態では、処理ガスとして引き続き酸素ガスを用いるとともに、絶縁膜成膜用ガスとしてテトラアルコキシシランの一種であるテトラエトキシシランガスを用いている。そして、処理ガスとしての酸素ガスが400SCCM、絶縁膜成膜用ガスとしてのテトラエトキシシランガスが10SCCM、全圧が80Paとなるように、これらのガスを真空容器11bの内部に供給する。
処理ガスの供給を続け、酸化プロセスで用いたプラズマを連続して放電させたままであるため、成膜プロセスの初期から効率良く酸素ラジカルが生成される。生成された酸素ラジカルは、拡散流として絶縁膜成膜用ガスが導入されている領域にまで到達し、テトラエトキシシランと反応する。したがって、テトラエトキシシランの分解は促進され、被処理基板100の表面に酸化シリコンが堆積する。これにより、第1の絶縁膜101上に第2の絶縁膜(CVDにより形成された酸化シリコン膜)102が形成される。
なお、絶縁膜成膜用ガスは処理ガスよりも被処理基板100側から導入されているため、絶縁膜成膜用ガスが導入されている領域には、電磁波は高密度のプラズマに遮蔽されて到達し難くなっている。そのため、テトラエトキシシランが電磁波によって過度に分解されるといったことは起こり難い。また、表面波プラズマが生じている状態では、被処理基板100の表面近傍での電子温度は低く(電子エネルギーが低く)、被処理基板100の表面近傍のシース電界もまた弱い。したがって、被処理基板100へのイオンの入射エネルギーが低減されるため、第2の絶縁膜102の成膜中における被処理基板100及び第1の絶縁膜101のイオン損傷は抑制される。本実施形態では、パワー密度1.5W/cm2の条件下で、約27nm/minの成膜速度で酸化シリコンを堆積させることができた。
酸化プロセス終了後、プラズマ放電を一旦停止し、成膜プロセス開始後(絶縁膜成膜用ガスの供給開始後)にプラズマ放電を再開すると、放電開始直後の過渡期に絶縁膜成膜用ガスの分解が不十分となり、第1の絶縁膜上に膜質の劣る絶縁膜が堆積してしまう場合がある。
これに対し、本実施形態のように、酸化プロセスの後、プラズマを放電させたまま成膜プロセスを開始すると、成膜プロセスの初期から形成される第2の絶縁膜102の膜質を安定させることができる。
また、プラズマ状態の変動は膜質の変動となるため、プラズマ状態はできる限り安定させることが望ましい。つまり、酸化プロセス終了後、処理ガスの供給を一旦停止し、成膜プロセス開始後(絶縁膜成膜用ガスの供給開始後)に処理ガスの供給を再開すると、成膜プロセスの初期において、プラズマ状態を変動させてしまう。
これに対し、本実施形態のように、酸化プロセスの後、処理ガスを供給しつづけたまま成膜プロセスを開始すると、成膜プロセスの初期から、プラズマ状態を安定させることができるため、形成される第2の絶縁膜102の膜質を安定させることができる。
さらに、成膜プロセスの初期からプラズマ状態を安定させるためには、成膜プロセスで供給を開始する絶縁膜成膜用ガスの流量を処理ガスよりも少なくするとよく、好ましくは、絶縁膜成膜用ガスの流量を総流量の10%以内にするとよい。このようにすることにより、プラズマの変動を小さくすることができる。また、第2のプロセスガスの流量を多くする場合には、プラズマ状態の急激な変動を防ぐため、段階的に第2のプロセスガスの流量を増やすことが望ましい。
成膜プロセス終了後、真空容器61から被処理基板100を搬出する。搬出には、ゲートバルブ11の開閉、被処理基板100の移動等で、通常20秒程度かかる。
真空容器61から被処理基板100を搬出した後、真空容器61内のクリーニングプロセスを開始する。すなわち、成膜プロセスで真空容器61内に付着した絶縁膜を除去する。これにより、連続して被処理基板100に絶縁膜を形成する場合であっても、次の被処理基板100の酸化プロセスを安定して行うことができる。クリーニングプロセスは、例えば、第1又は第2のガス導入系69,70から三フッ化窒素等のエッチングガスを導入し、電磁波で励起することによって行うことができる。以上により、被処理基板100への絶縁膜の形成が完了する。
本実施形態では、酸化プロセスと成膜プロセスを同じ真空容器61内で連続的に処理するため、酸化プロセスから成膜プロセスへ移る過程において、被処理基板100の搬送が不必要となる。したがって、プロセス時間を被処理基板1枚の処理毎に約40秒間短縮することができる。
以上のように、本実施形態の絶縁膜の形成方法によれば、第1の実施形態と同様に、被処理基板100やこの被処理基板100に形成される絶縁膜(第1の絶縁膜101と第2の絶縁膜102との積層膜)に損傷が与えられるのを抑制しつつ、被処理基板100上に高品質な絶縁膜を形成することができる。
しかも、本実施形態の絶縁膜の形成方法によれば、第1の絶縁膜101を形成する工程が、真空容器61の内部に、被処理基板100を配設するとともに処理ガスを供給し、真空容器61の内部で処理ガスによる表面波プラズマを生じさせることで酸素原子活性種を生成させ、被処理基板100の被処理面100aを酸素原子活性種によって酸化することで、被処理基板100に第1の絶縁膜101を形成する工程を有するようにしている。さらに、第2の絶縁膜102を形成する工程が、真空容器61の内部に処理ガスを連続して供給し続けるとともに表面波プラズマのプラズマ放電を連続して行っている状態で、真空容器61の内部にさらに絶縁膜成膜用ガスを供給し、表面波プラズマを用いたCVD法によって第1の絶縁膜101上に酸化物を堆積させることで、第1の絶縁膜101上に第2の絶縁膜102を形成する工程を有するようにしている。
したがって、プロセス中における被処理基板100への損傷および汚染を抑止し、高品質な絶縁膜を形成することができるとともに、プロセス時間を短縮することができる。
なお、本発明の絶縁膜の形成方法は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その主旨を逸脱しない範囲において種々に実施することができる。