本発明者は、電気光学効果を利用して光の波面曲率を高速に変調する技術について研究を行い、その結果、電気光学効果を有して光路を形成する部材に印加される電界の強さを変化させれば、その電界の強さに応じて光の波面曲率を高速で変調することが可能であることに気が付いた。
このような知見に基づき、本発明は、電気光学効果を利用して光の波面曲率を変調する分野において、光の波面曲率を高速で変調する技術を提供することを課題としてなされたものである。
本発明によって下記の各態様が得られる。各態様は、項に区分し、各項には番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、本発明が採用し得る技術的特徴の一部およびそれの組合せの理解を容易にするためであり、本発明が採用し得る技術的特徴およびそれの組合せが以下の態様に限定されると解釈すべきではない。すなわち、下記の態様には記載されていないが本明細書には記載されている技術的特徴を本発明の技術的特徴として適宜抽出して採用することは妨げられないと解釈すべきなのである。
さらに、各項を他の項の番号を引用する形式で記載することが必ずしも、各項に記載の技術的特徴を他の項に記載の技術的特徴から分離させて独立させることを妨げることを意味するわけではなく、各項に記載の技術的特徴をその性質に応じて適宜独立させることが可能であると解釈すべきである。
(1) 光の波面曲率を変調する波面曲率変調器であって、
前記光が進行する光路を形成する光路形成部材であって、電気光学効果を発生させるものと、
その光路形成部材に電界を前記光の進行方向に対して交差する方向に印加する電界印加手段と、
その印加される電界の強さを変化させることにより、その電界の強さに応じて、前記光路形成部材に入射した前記光の波面曲率を変調する変調手段と
を含む波面曲率変調器。
この変調器においては、電気光学効果、すなわち、電界の強さに応じて光の屈折率が変化する効果を発生させる光路形成部材に電界が印加される。その印加電界の強さが変化させられることにより、その電界の強さに応じて、光路形成部材に入射した光の波面曲率が変調される。その結果、電界の強さと光の波面曲率とが相互に依存させられる。
一般に、電気光学効果を発生させる光路形成部材においては、印加電界の強さが変化すればそれに素早く応答して光の屈折率が変化する。その屈折率が変化すれば、それに素早く応答して光の波面曲率が変調される。一方、印加電界の強さは、例えば光路形成部材に印加する電圧を変化させることによって高応答で変化させることが可能であり、また、電圧の変化も高応答で行うことが可能である。
したがって、本項に係る変調器によれば、例えば光学系の変形や移動を伴う機械的変調に比較し、光の波面曲率を高速に変調することが容易となる。よって、この変調器によれば、例えば、表示すべき画像を構成する複数の画素が個別に奥行き情報を有する場合に、各画素ごとに、または互いに隣接した複数個の画素より成るブロックごとに、画像の奥行きに応じて光の波面曲率を素早く変化させることが容易となる。
その結果、この変調器によれば、例えば、当該変調器が、表示対象を虚像として観察者の網膜上に投影する網膜投影型ディスプレイにおいて使用される場合には、観察者に自然な立体感を与える3次元表示の達成が容易になる。ただし、この変調器の用途は、網膜投影型ディスプレイを始めとする画像表示の分野に限定されるわけではなく、それ以外の分野において使用することが可能である。
本項における「光路形成部材」は、例えば、薄膜として基板上に構成される。または、結晶により構成され、この場合には、光学結晶として形成されたものを単体、もしくは、他の部材で保持して用いられる。その「光路形成部材」の材質としては例えば、PZTがある。
(2) 前記光路形成部材は、前記光が入射する入射端部と、その入射した光が出射する出射端部とを含み、前記印加される電界によって前記光路形成部材に形成される屈折率変化領域の形状である屈折率変化領域形状は、前記入射端部と出射端部との少なくとも一方の側において、前記進行方向に直角な平面に対して湾曲する湾曲部を有する(1)項に記載の波面曲率変調器。
この変調器においては、印加される電界によって光路形成部材に形成される屈折率変化領域に、光の進行方向に直角な平面に対して湾曲する湾曲部が与えられる。この湾曲部は、光路形成部材においては、屈折率の違いに着目すれば、例えば凹または凸の境界面(光の入射面または出射面)として機能するため、光の波面曲率を変調するために有効である。
本項における「湾曲部」は、例えば、その形状を一つの部分円または部分楕円によって定義したり、複数の部分円または部分楕円を複合した曲線または折れ線によって定義することが可能である。
(3) 前記屈折率変化領域形状は、前記湾曲部を前記入射端部の側と前記出射端部の側とにそれぞれ有する(2)項に記載の波面曲率変調器。
この変調器によれば、屈折率変化領域形状が湾曲部を、光路形成部材の入射端部の側と出射端部の側とのいずれか一方にしか有しない場合に比較し、印加電界の強さの割に光の波面曲率を大きく変調することが容易となる。
この変調器においては、入射端部の側に位置する湾曲部と、出射端部の側に位置する湾曲部とを、例えば、幾何学的に対称である姿勢(湾曲の向きは互いに逆向きであり、かつ、湾曲の程度(曲がり具合)は互いに共通である姿勢)で配置したり、幾何学的に非対称である姿勢(例えば、湾曲の向きが互いに共通するか、湾曲の程度が互いに異なる姿勢)で配置することが可能である。
(4) 前記変調手段は、前記印加される電界によって前記光路形成部材に形成される屈折率変化領域の形状を変化させることなく、前記印加される電界の強さを変化させるものである(1)ないし(3)項のいずれかに記載の波面曲率変調器。
この変調器によれば、屈折率変化領域の形状を変化させて光の波面曲率を変調する場合に比較し、その波面曲率を変調するためのハードウエア構成および/またはソフトウエア構成を単純化することが容易となる。その理由は、例えば、電界を印加するための電極間に印加される電圧の高さを単に変化させるだけで、印加電界の強さが変化して屈折率が変化するからである。
(5) 前記光路形成部材は、前記光路としての光導波路を形成する光導波路形成部材であって、前記印加された電界によって局部的に屈折率が変化するものである(1)ないし(4)項のいずれかに記載の波面曲率変調器。
本項における「光導波路形成部材」は、例えば、光導波路を2次元平面状に形成するスラブ型である。このスラブ型においては、光導波路が光を縦方向には拡散しないように閉じ込めるが、横方向には拡散し得るように閉じ込めるため、光の横方向における拡散を利用して光の波面曲率を変調することが可能となる。
また、「光導波路形成部材」は、例えば、その光導波路形成部材を電界の印加方向に見た場合に、印加電界によって光導波路形成部材に形成すべき屈折率変化領域より面積が大きく、かつ、その屈折率変化領域の形状に実質的に依存しない外形を有する薄膜として、ゾル−ゲル法によって基板上に形成することが可能である。
(6) 前記光路形成部材は、前記印加された電界によってその光路形成部材に形成すべき屈折率変化領域の形状と実質的に同じ形状を有するものである(1)ないし(4)項のいずれかに記載の波面曲率変調器。
この変調器によれば、屈折率変化領域が形成されない部分を光路形成部材が有せずに済むため、その光路形成部材の小型化および軽量化が容易となる。
本項における「光路形成部材」は、屈折率変化領域の形状と実質的に同じ断面形状を有して延びる電気光学結晶であるバルクをそのまま用いて作製するか、またはそのバルクをスライスして薄膜化して作製することが可能である。
(7) 前記光路形成部材は、厚さを有して延びる板状または膜状を成しており、前記光は、その光路形成部材の延びる方向に沿ってその光路形成部材内を進行し、前記電界印加手段は、その光路形成部材に前記電界をその光路形成部材の厚さ方向に印加するものである(1)ないし(6)項のいずれかに記載の波面曲率変調器。
この変調器においては、板状または膜状の光路形成部材内を光が進行する過程において、その光路形成部材れの厚さ方向に電界が印加され、それにより、その光の波面曲率が、その光路形成部材の横方向すなわち幅方向において変調される。板状または膜状の光路形成部材の横断面の厚さ方向と横方向とのうち寸法が大きい方向において波面曲率変調が行われるのである。
さらに、この変調器においては、光路形成部材の横断面の厚さ方向と横方向とのうち寸法が小さい方向に電界が印加される。一方、その電界は一般に、互いに隔たった2個の対向電極に電圧を印加して電位差を発生させることによって発生させられる。また、電位差が大きいほど電界が強いが、電位差が同じでも電極間の距離が小さいほど電界が強くなる。
したがって、この変調器においては、同じ電界の強さを実現するために光路形成部材に印加することが必要である電圧が低くて済む。
(8) 前記電界印加手段は、前記電界を、前記光路形成部材のうち前記光路に沿って直列に並んだ複数の領域であって互いに連続するかまたは分離するものにそれぞれ印加するものである(1)ないし(7)項のいずれかに記載の波面曲率変調器。
この変調器によれば、印加電界によって光路形成部材に形成される屈折率変化領域が1個のみである場合に比較し、当該変調器を設計する自由度が向上する。
(9) 前記変調手段は、前記複数の領域のうち前記電界印加手段が前記電界を印加するものを選択する選択手段を含む(8)項に記載の波面曲率変調器。
光路形成部材のうち電界の印加が予定される予定印加領域が複数、光路に沿って直列に形成される場合には、電界が印加されて各予定印加領域に発生する屈折率変化によって光の波面曲率が変化させられる量がそれら予定印加領域間において互いに同一ではないようにそれら予定印加領域を設計することが可能である。例えば、それら予定印加領域を、光の入射側と出射側との少なくとも一方における形状に関して同一ではないように設計するか、または、電界の印加によって各予定印加領域に発生させられる屈折率に関して同一ではないように設計する場合である。
それら場合においては、複数の予定印加領域のうち実際に電界が印加されるものを選択し、その選択される予定印加領域の種類を変化させれば、その種類に応じて、光の波面曲率が変調される。
以上説明した知見に基づき、本項に係る変調器においては、複数の予定印加領域のうち電界印加手段が電界を印加するものが選択される。
(10) 光の波面曲率を変調する波面曲率変調器であって、
前記光が進行する光路を形成する光路形成部材であって、電気光学効果を発生させるものと、
その光路形成部材に電界を前記光の進行方向に対して交差する方向に印加する電界印加手段であって、前記光路形成部材のうち前記光路に沿って直列に並んだ複数の領域であって互いに連続するかまたは分離するものにそれぞれ前記電界を印加するものと、
前記複数の領域のうち前記電界印加手段が前記電界を印加するものを選択することにより、その選択された領域の種類に応じて、前記光路形成部材に入射した前記光の波面曲率を変調する変調手段と
を含む波面曲率変調器。
前記(9)項において説明したように、光路形成部材のうち電界の印加が予定される予定印加領域が複数、光路に沿って直列に形成される場合には、それら複数の予定印加領域のうち実際に電界が印加されるものを選択し、その選択される予定印加領域の種類(選択された予定印加領域の数、選択された予定印加領域の位置等)を変化させれば、その種類に応じて、光の波面曲率が変調される。
その結果、選択された予定印加領域の種類と光の波面曲率とが相互に依存させられるが、この相互依存は、選択された予定印加領域に印加される電界の強さが変化させられない環境においても成立する。
そこで、本項に係る変調器においては、複数の予定印加領域のうち実際に電界が印加されるものが選択され、その選択される予定印加領域の種類が変化させられることにより、その種類に応じて、光の波面曲率が変調される。
(11) 前記複数の領域は、前記光路に沿って互いに連続しており、前記光路形成部材は、それら複数の領域を一体的に形成する(8)ないし(10)項のいずれかに記載の波面曲率変調器。
この変調器によれば、光路形成部材に形成されることとなる屈折率変化領域の数にもかかわらず光路形成部材の数が1個で足りるため、当該変調器の部品点数を削減することが容易となる。
(12) 前記複数の領域は、前記光路に沿って互いに分離しており、前記光路形成部材は、それら複数の領域をそれぞれ形成する互いに独立した複数の部分により構成される(8)ないし(10)項のいずれかに記載の波面曲率変調器。
この変調器によれば、各領域を個別に形成する光路形成部材がその領域の合計数と同数必要になるが、それら複数個の光路形成部材を配置する自由度が向上する。例えば、それら光路形成部材を詰めて配置すれば、屈折率変化領域が形成されない部分を各光路形成部材が有しないことと相俟って、それら光路形成部材が配置された全体スペースを削減することが容易となる。
(13) 前記電界印加手段は、前記光路を隔てて互いに対向する複数の電極であってそれら電極間に前記電界が発生させられるものとして構成される電極対を少なくとも1個含む(1)ないし(12)項のいずれかに記載の波面曲率変調器。
(14) 前記印加される電界によって前記光路形成部材に形成される屈折率変化領域の形状である屈折率変化領域形状は、同じ電極対を構成する複数の電極のうちの少なくとも1個の形状を反映する(13)項に記載の波面曲率変調器。
この変調器によれば、屈折率変化領域の形状を所望のものとするために、同じ電極対を構成する複数の電極のうちの少なくとも1個の形状を適正化すれば足りる。
(15) 同じ電極対を構成する複数の電極のうちのいずれかは、導電性基板であり、前記光路形成部材は、その導電性基板上に薄膜として形成される(13)または(14)項に記載の波面曲率変調器。
(16) 同じ電極対を構成する複数の電極は、前記光路形成部材の両面にそれぞれ接触状態で配置される(13)ないし(15)項のいずれかに記載の波面曲率変調器。
この変調器によれば、複数の電極が光路形成部材の両面に対して空間を隔てた位置にそれぞれ配置される場合に比較し、それら電極間の電圧の高さの割に電界の強さを増加させることが容易となる。
本項に係る変調器においては、例えば、同じ電極対を構成する2個の対向電極が光路形成部材をそれの厚さ方向にサンドイッチ状に挟む構造が採用される。
(17) 前記電極対は、前記光路に沿って直列に複数個配置される(13)ないし(16)項のいずれかに記載の波面曲率変調器。
この変調器によれば、光の波面曲率を複数段で変調することが可能となるため、電極対を1個のみ用いて光の波面曲率を変調する場合に比較して、その波面曲率を変調し得る幅を拡大することが容易となる。
本項における「複数個の電極対」においては、例えば、各電極対が2個の対向電極によって構成される場合に、光路形成部材に関する両側のうちのいずれか一方における対向電極は、複数個の個別電極として構成したり、1個の共通電極として構成することが可能である。
(18) 光の波面曲率を変調する波面曲率変調器であって、
前記光が進行する光路を形成する光路形成部材であって、電気光学効果を発生させるものと、
その光路形成部材に電界を前記光の進行方向に対して交差する方向に印加する電界印加手段であって、前記光路形成部材のうち前記進行方向と前記電界の印加方向との双方に対して交差する方向に直列に並んだ複数の領域にそれぞれ前記電界を印加するものと、
前記各領域に印加される前記電界の強さが、前記光路形成部材に入射した前記光の光軸から側方に遠ざかるにつれて変化する電界強度変化パターンを変化させることにより、その電界強度変化パターンに応じて、前記光路形成部材に入射した前記光の波面曲率を変調する変調手段と
を含む波面曲率変調器。
本項に係る変調器においては、光路形成部材に、光の進行方向と電界の印加方向との双方に対して交差する方向に直列に並んだ複数の領域が設定される。それら複数の領域にはそれぞれ電界が、光路形成部材に入射した光の光軸から側方に遠ざかるにつれて電界の強さが変化するように印加される。その変化の一例は、一方向変化である。この一方向変化の一例は、単調増加であり、別の例は、単調減少である。
その結果、それら複数の領域には電気光学効果が、一様の強さで発生させられるのではなく、光軸から遠ざかるにつれて強さが変化するように発生させられる。それにより、光路形成部材に電界強度変化パターンが形成される。その電界強度変化パターンにより、光路形成部材における光の屈折率が、光軸から側方に遠ざかるにつれて変化させられ、それにより、屈折率変化パターンが光路形成部材に形成される。
その屈折率変化パターンは電界強度変化パターンを反映する。一方、その屈折率変化パターンに応じて光の波面曲率が変調され、その変調量は、その屈折率変化パターンに依存する。したがって、電界強度変化パターンに応じて屈折率変化パターンを変更し、その屈折率変化パターンに応じて波面曲率を変調することが可能である。
(19) 表示すべき画像を光束の走査によって画像表示面上に表示する画像表示装置であって、
互いに波長が異なる複数の光束成分を出射する光源と、
その光源から出射された複数の光束成分を1本の合成光束に合成する合成部と、
(1)ないし(18)項のいずれかに記載の波面曲率変調器であって、前記合成光束の波面曲率を結果的に変調するものと、
前記合成光束を走査する走査部と
を含む画像表示装置。
本項における「波面曲率変調器」は、合成光束の波面曲率を結果的に変調すれば足りるため、例えば、合成部による合成に先立ち、各光束成分の波面曲率を変調することにより、間接的に合成光束の波面曲率を変調する形式とすることが可能であり、また、合成部による合成後に、合成光束を直接的に変調する形式とすることも可能である。
(20) 前記波面曲率変調器は、前記画像の1フレームが分割された各部分領域ごとに前記合成光束の波面曲率を変調するものである(19)項に記載の画像表示装置。
本項における「部分領域」の一例は、1個の画素であり、別の例は、互いに隣接した複数個の画素の集合である。
(21) 前記波面曲率変調器は、前記画像の1フレームごとに前記合成光束の波面曲率を変調するものである(19)項に記載の画像表示装置。
この装置においては、画像の複数のフレームについては個別に、同じフレームを構成する複数の部分領域については共通に、合成光束の波面曲率が変調される。
(22) 前記波面曲率変調器は、前記各光束成分ごとに設けられ、前記合成部による合成に先立ち、前記各光束成分ごとにそれの波面曲率を変調するものである(19)ないし(21)項のいずれかに記載の画像表示装置。
各光束成分は、他の光束成分と波長が異なるため、対応する波面曲率変調器を通過すると、各光束波長ごとに異なる色収差が現れてしまう。しかし、本項に係る装置においては、各光束成分ごとに波面曲率変調器が設けられているため、各波面曲率変調器の光路形成部材に印加する電界の強さを、各光束成分の色収差を見込んで、各光束成分ごとに決定することが可能である。
このようにすれば、各波面曲率変調器からの出射光束成分に対して色収差補正を行うことを省略することも、合成光束に対して色収差補正を行うことを省略することも可能となる。
(23) 前記波面曲率変調器は、前記複数の光束成分に共通に設けられ、前記合成光束が入射し、その入射した合成光束の波面曲率を直接的に変調するものである(19)ないし(21)項のいずれかに記載の画像表示装置。
(24) さらに、前記波面曲率変調器から出射した前記合成光束に対して色収差補正を行う色収差補正手段を含む(23)項に記載の画像表示装置。
本項に係る装置においては、波面曲率変調器から出射するのは光束成分ではなく合成光束である。そのため、各光束成分ごとの色収差を合成前に補正することができない。よって、本項に係る装置においては、色収差補正手段(例えば、色収差補正光学系)により、波面曲率変調器から出射した合成光束に対して色収差補正が行われる。
(25) 前記走査部によって走査された合成光束は、眼の網膜に入射し、それにより、前記画像がその網膜上に投影される(19)ないし(24)項のいずれかに記載の画像表示装置。
本項に係る装置においては、前記(1)ないし(18)項のいずれかに係る波面曲率変調器が、画像を眼の網膜上に投影する用途に使用される。
以下、本発明のさらに具体的な実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明する。
図1には、本発明の第1実施形態に従う波面曲率変調器を備えた網膜走査型ディスプレイ装置が系統的に表されている。
この網膜走査型ディスプレイ装置(以下、「RSD」と略称する。)は、レーザビームを、それの強度および波面を適宜変調しつつ、観察者の眼10の瞳孔12を経て網膜14の結像面上に入射させ、その結像面上においてレーザビームを2次元的に走査することにより、その網膜14上に画像を直接に投影する装置である。
このRSDは、光源ユニット20を備え、その光源ユニット20と観察者の眼10との間において波面曲率変調器22と走査装置24とをそれらの順に並んで備えている。
光源ユニット20は、3原色(RGB)を有する3つのレーザビームを1つのレーザビームに集束して任意色のレーザビームを生成するために、赤色のレーザビームを発するRレーザ30と、緑色のレーザビームを発するGレーザ32と、青色のレーザビームを発するBレーザ34とを備えている。各レーザ30,32,34は、例えば、半導体レーザとして構成することが可能である。
各レーザ30,32,34から出射したレーザビームは、それらを合成するために、各コリメート光学系40,42,44によって平行光化された後に、波長依存性を有する各ダイクロイックミラー50,52,54に入射させられ、それにより、各レーザビームが波長に関して選択的に反射・透過させられる。
具体的には、Rレーザ30から出射した赤色レーザビームは、コリメート光学系40によって平行光化された後に、ダイクロイックミラー50に入射させられる。Gレーザ32から出射した緑色レーザビームは、コリメート光学系42を経てダイクロイックミラー52に入射させられる。Bレーザ34から出射した青色レーザビームは、コリメート光学系44を経てダイクロイックミラー54に入射させられる。
それら3つのダイクロイックミラー50,52,54にそれぞれ入射した3原色のレーザビームは、それら3つのダイクロイックミラー50,52,54を代表する1つのダイクロイックミラー54に最終的に入射して集束され、その後、結合光学系58によって集光される。
以上、光源ユニット20のうち光学的な部分を説明したが、以下、電気的な部分を説明する。
光源ユニット20は、コンピュータを主体とする信号処理回路60を備えている。信号処理回路60は、外部から供給された映像信号に基づき、各レーザ30,32,34を駆動するための信号処理と、後述の、レーザビームの波面を変調するための信号処理と、後述の、レーザビームの走査を行うための信号処理とを行うように設計されている。
各レーザ30,32,34を駆動するため、この信号処理回路60は、外部から供給された映像信号に基づき、網膜14上に投影すべき画像の各画素ごとに、レーザビームにとって必要な色と強度とを実現するために必要な駆動信号を、各レーザドライバ70,72,74を介して各レーザ30,32,34に供給する。
この信号処理回路60は、さらに、外部から供給された映像信号に基づき、奥行き信号と水平同期信号および垂直同期信号とを生成し、それらを波面曲率変調器22と走査装置24とにそれぞれ供給する。
以上説明した光源ユニット20は、結合光学系58においてレーザビームを出射させる。そこから出射したレーザビームは、光伝送媒体としての光ファイバ82と、その光ファイバ82の後端から放射させられるレーザビームを平行光化するコリメート光学系84とをそれらの順に経て波面曲率変調器22に入射する。
この波面曲率変調器22は、光源ユニット20から出射したレーザビームの波面(波面曲率)を変調する光学系である。この波面曲率変調器22は、波面曲率の変調を網膜14上に投影すべき画像の各画素ごとに行う形式とすることが可能であるが、これは本発明を実施するために不可欠なことではなく、画像の1フレームごとに行う形式とすることが可能である。
いずれにしても、この波面曲率変調器22においては、波面曲率変調回路90が、それに供給された奥行き信号(波面変調信号)に基づき、波面曲率変調器22に入射するレーザビームの波面を波面変調素子92によって変調する。この波面曲率変調器22の構成は後に詳述する。
本実施形態においては、3つのレーザ30,32,34からそれぞれ出射した3色のレーザビーム(成分光束)であって波長が互いに異なるものが合成されて成るレーザビーム(合成光束)が同じ波面曲率変調器22に入射する。そのため、波面曲率変調器22によって変調されて出射するレーザビーム(合成光束)を構成する3つの成分光束の間には、波面曲率に関し、各成分光束の波長の違いに起因したわずかなずれ、すなわち、色収差が生じる。
その色収差を補正するため、本実施形態においては、波面曲率変調器22から出射したレーザビームが直ちに走査装置24に入射するのではなく、色収差補正光学系96を通過した後に走査装置24に入射するようになっている。その色収差補正光学系96は、いくつかのレンズを組み合わせたることにより色収差を補正する機能を有している。
その色収差補正光学系96から出射したレーザビームは、走査装置24に入射する。この走査装置24は、水平走査系100と垂直走査系102とを備えている。
水平走査系100は、表示すべき画像の1フレームごとに、レーザビームを水平な複数の走査線に沿って水平にラスタ走査する水平走査を行う光学系である。これに対し、垂直走査系102は、表示すべき画像の1フレームごとに、レーザビームを最初の走査線から最後の走査線に向かって垂直に走査する垂直走査を行う光学系である。
具体的に説明するに、水平走査系100は、本実施形態においては、機械的偏向を行う一方向回転ミラーとしてポリゴンミラー104を備えている。このポリゴンミラー104は、それに入射したレーザビームの光軸と交差する回転軸線まわりに図示しないモータによって高速で回転させられる。このポリゴンミラー104の回転速度は、信号処理回路60から供給される水平同期信号に基づいて制御される。
ポリゴンミラー104は、回転軸線のまわりに並んだ複数の反射面106を備えており、入射レーザビームが1つの反射面106を通過するごとに1回偏向が行われる。その偏向されたレーザビームは、リレー光学系110によって垂直走査系102に伝送される。本実施形態においては、リレー光学系110が光路上において複数のレンズ系112,114を直列に備えている。
このRSDは、ビームディテクタ120を定位置に備えている。ビームディテクタ120は、ポリゴンミラー104によって偏向されたレーザビームを検出することにより、そのレーザビームの水平走査方向における位置を検出するために設けられている。ビームディテクタ120の一例は、ホトダイオードである。
以上、水平走査系100を説明したが、垂直走査系102は、機械的偏向を行う揺動ミラーとしてのガルバノミラー130を備えている。ガルバノミラー130には、水平走査系100から出射したレーザビームがリレー光学系110によって集光されて入射するようになっている。このガルバノミラー130は、それに入射したレーザビームの光軸と交差する回転軸線まわりに揺動させられる。このガルバノミラー130の起動タイミングおよび回転速度は、信号処理回路60から供給される垂直同期信号に基づいて制御される。
以上説明した水平走査系100と垂直走査系102との共同により、レーザビームが2次元的に走査され、その走査されたレーザビームによって表現される画像が、リレー光学系140を経て観察者の眼10に照射される。本実施形態においては、リレー光学系140が光路上において複数のレンズ系142,144を直列に備えている。
以上、このRSDの全体構成を説明したが、次に、波面曲率変調器22を詳細に説明する。
波面曲率変調器22は、電気光学効果、すなわち、電界の強さに応じて光の屈折率が変化する効果を利用することにより、光源ユニット20から出射したレーザビームの波面曲率を変調し、それにより、画像の奥向き(画素ごとの奥行きまたは画像全体の奥行き)を再現するために設けられている。
図2には、波面曲率変調器22の構成が示されている。波面曲率変調器22は、前述のように、波面曲率変調回路90と波面変調素子92とを含むように構成されている。
図2に示すように、波面変調素子92は、薄板状の光導波路形成部材150を備えている。
光導波路形成部材150は、電気光学効果を発生させる部材であり、その光導波路形成部材150に入射した光を閉じ込めて長さ方向に進行させる光導波路を形成している。この光導波路形成部材150は、光導波路を2次元平面上に形成するスラブ型である。したがって、この光導波路形成部材150の一端面から入射した光は、厚さ方向には拡散せず、横方向のみに拡散する。
光導波路形成部材150の上面には、それのほぼ中心の位置において、上部電極160が密着させられている。この上部電極160は、導電性の材料によって形成された薄膜が光導波路形成部材150の上面に蒸着によって密着させられている。この上部電極160は、光導波路形成部材150の表面に隙間なく付着させられているのである。
光導波路形成部材150は、導電性の基板162の上面に積層されて構成されている。その基板162は、上部電極160と共同して、光導波路形成部材150を厚さ方向にサンドイッチ状に挟む一対の電極対を構成している。したがって、基板162は、上部電極160との関係においては、下部電極でもある。
一般的に、電気光学効果を利用するために光導波路形成部材に印加される電圧を低電圧にするには、光導波路形成部材をそれの厚さ方向に一対の電極でサンドイッチ状に挟んだ電極構造を採用し、かつ、電気光学効果の高い高屈折率で単結晶の電気光学材料を用いて光導波路形成部材を形成することが有効である。
そして、本実施形態においては、光導波路形成部材150の材料にPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)が用いられている。PZTは、屈折率が高く、量産に適したゾル−ゲル法によって成膜することが可能な一般的に広く使用されている光学材料である。その成膜法は、基板(NbがドーピングされたSrTiO3)上にPZTの前駆体溶液を塗布し、加熱後、熱処理を行い結晶化させる方法である。この成膜法により、膜厚および組成が均一である薄膜を大面積で得ることができる。
このようして得られた光導波路形成部材150の一例の仕様は、次のとおりである。
膜厚:3μm
電気光学定数:45pm/V
屈折率n:2.44
印加電圧の変化ΔVに対する屈折率nの変化Δn:1V当たり0.0010
したがって、本実施形態においては、光導波路形成部材150の電極構造の最適化と、光導波路形成部材150の材質の最適化との共同により、低い印加電圧で高い電気光学効果が得ることが容易である。
図2に示すように、上部電極160は、レーザビームが入射する側において凹状に切り欠かれた矩形状を成している。その結果、上部電極160は、レーザビームの入射側においては、レーザビームの進行方向に直角な平面に対して凹状に湾曲する湾曲部170を有する一方、レーザビームの出射側においては、レーザビームの進行方向に直角な平面に沿った直線部172を有している。
上部電極160と下部電極162との間に電圧が印加されれば、光導波路形成部材150を上部電極160の厚さ方向に見た場合にその上部電極160を重なり合う部分に電界(電場)が発生させられる。光導波路形成部材150のうち電界が発生させられる部分の屈折率は、光導波路形成部材150を形成する材質の電気光学効果により、同じ光導波路形成部材150のうち電界が発生させられない部分の屈折率より増加する。
その結果、光導波路形成部材150に、電界によって屈折率が変化させられる領域(以下、「屈折率変化領域」という。)が、上部電極160の平面形状を反映する形状、すなわち、その平面形状と同じ断面形状で厚さ方向に延びる3次元形状を有するように形成されることになる。
図3には、光導波路形成部材150に電圧が印加された状態においてレーザビームが光導波路形成部材150内を進行する光路が平面図で示されている。上記屈折率変化領域180の形状は、上部電極160の平面形状を反映しているため、レーザビームが入射する入射側部182は、入射方向に直角な平面に対する凹状の湾曲部として形成される一方、レーザビームが出射する出射側部184は、出射方向に直角な平面部として形成されている。
屈折率変化領域180の断面形状は、平凹レンズの断面形状と同じであるため、その屈折率変化領域180は、それの断面上においては、平凹レンズと光学的に等価である。したがって、この屈折率変化領域180の屈折率が電界印加によって増加させられた状態においてこの屈折率変化領域180にレーザビームが入射すれば、この屈折率変化領域180の断面上においては、同じレーザビームが平凹レンズに入射した場合と同じ屈折が起こり、その結果、平行光として入射したレーザビームは、屈折率変化領域180から拡散光として出射することになる。
具体的には、図3に示すように、光導波路形成部材150に平行光として入射したレーザビームは、屈折率変化領域180の入射側部182において、それの凹状の境界面186において拡散する方向に屈折させられ、さらに、出射側部184において、平らな境界面188において再度、拡散する方向に屈折させられ、やがて光導波路形成部材150から拡散光として出射する。その結果、光導波路形成部材150を出射したレーザビームの波面曲率は、入射前のレーザビームの波面曲率が変調されたものとなる。
なお付言すれば、本実施形態においては、屈折率変化領域180が、入射側部182と出射側部184とのうち入射側部182のみにおいて湾曲する形状を有しているが、出射側部184のみにおいて湾曲する形状を有する態様で本発明を実施したり、入射側部182と出射側部184との双方において湾曲する形状を有する態様で本発明を実施することが可能である。いずれの態様においても、各湾曲部は、屈折率変化領域180にとって凹となる形状としたり、凸となる形状とすることが可能である。さらに、各湾曲部においては、それの断面外形を単一の円弧によって形成したり、複数の円弧が複合されたものによって形成することが可能である。
ところで、このRSDにおいては、ある虚像を表現するレーザビームを観察者の網膜14に平行光として、すなわち、波面曲率が無限大である光として入射すれば、観察者はその虚像を光学的に無限遠である位置に位置するように知覚する。これに対し、ある虚像を表現するレーザビームを観察者の網膜14に拡散光として、すなわち、波面曲率が無限大より小さい光として入射すれば、観察者はその虚像を光学的に無限遠である位置より手前に位置するように知覚する。そして、観察者は虚像を、網膜14に入射するレーザビームの波面曲率が大きいほど遠くに位置する物体として知覚し、小さいほど近くに位置する物体として知覚する。
本実施形態においては、波面曲率変調器22から出射したレーザビームの波面曲率と同じ波面曲率を有するレーザビームが網膜14に入射するように光学系が設計されている。一方、光導波路形成部材150に印加する電界が強いほど、波面曲率変調器22から出射するレーザビームの波面曲率が大きくなる。また、光導波路形成部材150を挟む上部電極160と下部電極162との間に印加する電圧が高いほど、光導波路形成部材150に印加される電界が強くなる。
したがって、本実施形態においては、表示すべき画像の奥行きを実現するために、網膜14に入射するレーザビームの波面曲率が、光導波路形成部材150に印加される電圧の高さを変化させることによって変調される。
図2に示すように、波面曲率変調回路90は、コントローラ190とドライバ192とを含むように構成されている。ドライバ192は、上部電極160と下部電極162とに接続されている。ドライバ192は、コントローラ190からの指令により、上部電極160と下部電極162との間に電圧を印加し、さらに、その印加される電圧の高さを変化させる機能を有している。
図4には、その印加される電圧を制御するために、コントローラ190のコンピュータによって実行される電圧制御プログラムの内容が概念的にフローチャートで表されている。
この電圧制御プログラムは、コンピュータによって繰り返し実行される。各回の実行時には、まず、ステップS1(以下、単に「S1」で表す。他のステップについても同じとする。)において、信号処理回路60から奥行き信号が読み込まれる。
次に、S2において、その読み込まれた奥行き信号に基づき、印加電圧値Vが決定される。この印加電圧値Vは、例えば、図5にグラフで表されている奥行きDと電圧Vとの関係に従い、実現すべき奥行きDが短いほど電圧Vが上昇するように決定される。
続いて、S3において、S2において決定された印加電圧値Vを印加するための指令信号がドライバ192に供給され、それにより、上部電極190と下部電極192との間に電圧が印加される。その結果、光導波路形成部材150に電界が、目標の奥行きDを実現するのに適当な強さを有するように印加される。
以上で、この電圧制御プログラムの一回の実行が終了する。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、光導波路形成部材150が前記(1),(2),(5)または(7)項における「光路形成部材」の一例を構成し、上部電極160と下部電極162とが互いに共同して、前記(1)項における「電界印加手段」の一例および前記(13)項における「複数の電極」の一例をそれぞれ構成し、波面曲率変調回路90が前記(1),(4)または(7)項における「変調手段」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、屈折率変化領域180のうち、入射側部182が前記(2)項における「入射端部の側」の一例を構成し、出射側部184が同項における「出射端部の側」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、下部電極162が前記(15)項における「導電性基板」を構成し、光導波路形成部材150が同項における「光路形成部材」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、RSDが前記(19)項に係る「画像表示装置」の一例を構成し、Rレーザ30,Gレーザ32およびBレーザ34が互いに共同して同項における「光源」の一例を構成し、レーザビームが同項における「光束」の一例を構成し、ダイクロイックミラー50,52および54と結合光学系58とが互いに共同して同項における「合成部」の一例を構成し、走査装置24が同項における「走査部」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、波面曲率変調器22が前記(23)項における「波面曲率変調器」の一例を構成し、色収差補正光学系96が前記(24)項における「色収差補正手段」の一例を構成しているのである。
次に、本実施形態の第2実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と共通する要素が多いため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
第1実施形態においては、波面変調素子92が上部電極160を1個のみ有するように設計されている。これに対し、図6に示すように、本実施形態に従う波面曲率変調器208においては、波面変調素子210が複数個の上部電極212,214を有している。
具体的には、図6に示すように、それら上部電極212,214は、それぞれ薄膜として光導波路形成部材150の上面に蒸着によって密着させられている。それら上部電極212,214は、レーザビームの進行方向に沿って互いに分離して直列に並んで配置されている。
それら上部電極212,214は、それらに共通の下部電極162と共同して光導波路形成部材150をそれの厚さ方向にサンドイッチ状に挟んでいる。それら上部電極212,214と下部電極162とはそれぞれ、波面曲率変調回路220のドライバ222と接続されている。その結果、光導波路形成部材150は、事実上、2組の電極対によってサンドイッチ状に挟まれている。
2個の上部電極212,214のうちレーザビームの進行方向の上流側に位置する上部電極212は、第1実施形態における上部電極160と同様に、レーザビームの入射側において凹状に湾曲させられている。これに対し、下流側の上部電極214は、上流側の上部電極212と対称的に配置されている。その結果、下流側の上部電極214は、レーザビームの出射側において凹状に湾曲させられている。
なお付言するに、本実施形態においては、2個の上部電極212,214が、互いに同じ形状のものを対称的に配置しているが、このようにして本発明を実施することは不可欠ではなく、互いに異なる形状を有する態様で本発明を実施することが可能である。例えば、それら2個の上部電極212,214は、互いに対称であるが、各湾曲部の曲率半径が互いに異なる態様で本発明を実施することが可能である。
上流側の上部電極212と下部電極162との間に電圧が印加されれば、その上部電極212に対応する形状を断面形状とする第1の屈折率変化領域230が光導波路形成部材150内に形成される。この第1の屈折率変化領域230は、第1実施形態における屈折率変化領域180と同様にして、平凹レンズと等価な屈折を行い、その結果、この第1の屈折率変化領域230に入射したレーザビームの波面曲率を増加側に変調する。
これに対し、下流側の上部電極214と下部電極162との間に電圧が印加されれば、その上部電極214に対応する形状を断面形状とする第2の屈折率変化領域232が光導波路形成部材150内に形成される。この第2の屈折率変化領域232は、第1実施形態における屈折率変化領域180と同様にして、平凹レンズと等価な屈折を行い、その結果、この第2の屈折率変化領域232に入射したレーザビームの波面曲率を増加側に変調する。
したがって、変調後の波面曲率に関し、2個の上部電極212,214のうちのいずれかのみと下部電極162との間に電圧を印加する場合と、それら上部電極212,214の双方と下部電極162との間に同じ高さの電圧をそれぞれ印加する場合とを互いに比較すれば、後者の場合には、みかけ上、直列の2個の平凹レンズによって屈折が2回、光が拡散する向きに行われるため、1個の平凹レンズによって屈折が1回しか行われない前者の場合より、変調後の波面曲率が大きい。
よって、本実施形態においては、大きい波面曲率を実現することが必要である場合には、2個の上部電極212,214のうちのいずれかのみと下部電極162との間に電圧が印加され、小さい波面曲率を実現することが必要である場合には、それら上部電極212,214の双方と下部電極162との間に電圧がそれぞれ印加される。
そして、本実施形態においては、実現すべき奥行きDが基準値D0以上である場合、すなわち、変調後の波面曲率が小さい場合には、上流側の上部電極212と下部電極162との間に電圧を印加することによって弱い波面変調が行われ、これに対し、実現すべき奥行きDが基準値D0より短い場合、すなわち、変調後の波面曲率が大きい場合には、上流側の上部電極212と下流側の上部電極214との双方と下部電極162との間にそれぞれ電圧を印加することによって強い波面変調が行われる。
以上説明した電圧制御を行うために、波面曲率変調回路220は、図6に示すように、コントローラ224を備えており、このコントローラ224のコンピュータによって電圧制御プログラムが実行される。
図7には、この電圧制御プログラムの内容が概念的にフローチャートで表されている。
この電圧制御プログラムもコンピュータによって繰り返し実行される。各回の実行時には、まず、S11において、S1と同様にして、信号処理回路60から奥行き信号が読み込まれる。
次に、S12において、その読み込まれた奥行き信号により表される奥行きDが基準値D0以上であるか否かが判定される。奥行きDが基準値D0以上である場合には、S12の判定がYESとなり、その後、S13において、上流側の上部電極212と下部電極162との間に印加される電圧値V1が決定される。
この電圧値V1は、例えば、図8(a)にグラフで表される奥行きDと電圧値V1との関係に従って決定される。この関係の一例によれば、電圧値V1は、奥行きDが最大値Dmaxから減少するにつれて0から最高値V1maxまで増加するように決定される。
続いて、S14において、S13において決定された電圧値V1を上部電極212と下部電極162との間に印加するための指令がドライバ222に供給され、それにより、上流側の上部電極212と下部電極162との間に電圧値V1が印加される。その結果、光導波路形成部材150内に第1の屈折率変化領域230が、その印加された電圧値V1に応じた強さを有するように形成され、波面変調素子210に入射したレーザビームの波面曲率が変調される。
以上で、この電圧制御プログラムの一回の実行が終了する。
これに対し、前記読み込まれた奥行き信号によって表される奥行きDが基準値D0以上ではない場合には、S12の判定がNOとなり、S15に移行する。
このS15においては、上流側の上部電極212と下部電極162との間に印加される電圧値V1が最高値V1maxに決定される。続いて、S16において、下流側の上部電極214と下部電極162との間に印加される電圧値V2が決定される。
この電圧値V2は、例えば、図8(b)にグラフで表される奥行きDと電圧値V2との関係に従って決定される。この関係の一例によれば、電圧値V2は、奥行きDが基準値D0から減少するにつれて0から最高値V2maxまで増加するように決定される。
その後、S17において、S15において決定された電圧値V1を上部電極212と下部電極162との間に印加するための指令がドライバ222に供給され、さらに、S16において決定された電圧値V2を上部電極214と下部電極162との間に印加するための指令もドライバ222に供給される。それにより、上流側の上部電極212と下部電極162との間には電圧値V1、下流側の上部電極214と下部電極162との間には電圧値V2がそれぞれ印加される。
その結果、光導波路形成部材150内に第1の屈折率変化領域230が、その印加された電圧値V1に応じた強さを有するように形成され、さらに、それと並行的に、光導波路形成部材150内に第2の屈折率変化領域232が、その印加された電圧値V2に応じた強さを有するように形成される。それにより、波面変調素子210に入射したレーザビームの波面曲率が、第1の屈折率変化領域230と第2の屈折率変化領域232とによって累積的に変調される。
以上で、この電圧制御プログラムの一回の実行が終了する。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、第1の屈折率変化領域230および第2の屈折率変化領域232が互いに共同して、前記(8)または(10)項における「複数の領域」の一例を構成し、波面曲率変調回路220が前記(9)項における「選択手段」の一例および前記(10)項における「変調手段」の一例をそれぞれ構成しているのである。
次に、本発明の第3実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第2実施形態と共通する要素が多いため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
第2実施形態においては、目標の奥行きDすなわち波面曲率に応じて2個の上部電極212,214のいずれかまたは双方が選択され、かつ、選択された各上部電極212,214につき、それに印加される電圧が目標の奥行きDに応じて連続的に変化させられる。
これに対し、本実施形態においては、目標の奥行きDすなわち波面曲率に応じて2個の上部電極212,214のいずれかまたは双方が選択され、かつ、選択された各上部電極212,214につき、それに印加される電圧が目標の奥行きDとは無関係に変化させられない。
本実施形態においては、実現され得る奥行きDが2つの領域、すなわち、基準値D0以上であって、観察者が虚像を遠い位置において知覚する遠距離領域と、基準値D0より小さく、観察者が虚像を近い位置において知覚する近距離領域とに仕切られている。
これを前提にして、本実施形態においては、図9にグラフで表されているように、目標の奥行きDが基準値D0以上である場合には、上流側の上部電極212のみが選択され、その上部電極212と下部電極162との間に一定の電圧V1が印加される。これに対し、目標の奥行きDが基準値D0より小さい場合には、いずれの上部電極212,214も選択され、上部電極212と下部電極162との間には一定の電圧V1、上部電極214と下部電極162との間には一定の電圧V2がそれぞれ印加される。
以上説明した電圧制御を行うために、波面曲率変調回路220は、コントローラ224のコンピュータによって電圧制御プログラムを実行する。
図10には、この電圧制御プログラムの内容が概念的にフローチャートで表されている。
この電圧制御プログラムもコンピュータによって繰り返し実行される。各回の実行時には、まず、S31において、S21と同様にして、信号処理回路60から奥行き信号が読み込まれる。
次に、S32において、その読み込まれた奥行き信号により表される奥行きDが基準値D0以上であるか否かが判定される。奥行きDが基準値D0以上である場合には、S32の判定がYESとなり、その後、S33において、上流側の上部電極212が電圧印加対象電極として選択される。続いて、S34において、その選択された上部電極212と下部電極162との間に印加するための指令がドライバ222に供給され、それにより、上流側の上部電極212と下部電極162との間に電圧値V1が印加される。その結果、光導波路形成部材150内に第1の屈折率変化領域230が、その印加された電圧値V1に応じた強さを有するように形成される。
以上で、この電圧制御プログラムの一回の実行が終了する。
これに対し、前記読み込まれた奥行き信号によって表される奥行きDが基準値D0以上ではない場合には、S32の判定がNOとなり、S35に移行する。このS35においては、上流側の上部電極212と下流側の上部電極214とがいずれも、電圧印加対象電極として選択される。その後、S36において、上部電極212と下部電極162との間に印加するための指令がドライバ222に供給され、さらに、上部電極214と下部電極162との間に印加するための指令もドライバ222に供給される。それにより、上流側の上部電極212と下部電極162との間には電圧値V1、下流側の上部電極214と下部電極162との間には電圧値V2がそれぞれ印加される。
その結果、光導波路形成部材150内に第1の屈折率変化領域230が、その印加された電圧値V1に応じた強さを有するように形成され、さらに、それと並行的に、光導波路形成部材150内に第2の屈折率変化領域232が、その印加された電圧値V2に応じた強さを有するように形成される。尚、電圧値V1とV2は予め決められた異なる値であってもよいし、同一の値であってもよい。
以上で、この電圧制御プログラムの一回の実行が終了する。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、光導波路形成部材150が前記(10)項における「光路形成部材」の一例を構成し、上部電極160と下部電極162とが互いに共同して同項における「電界印加手段」の一例を構成し、波面曲率変調回路220が同項における「変調手段」の一例を構成しているのである。
次に、本発明の第4実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第2実施形態と共通する要素が多いため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
第2実施形態においては、下部電極162の上面に1個の光導波路形成部材150が薄膜として形成され、その形成された光導波路形成部材150の上面に2個の上部電極212,214が付着させられている。
これに対し、図11に示すように、本実施形態に従う波面曲率変調器250においては、2個の上部電極212,214とそれぞれ同じ断面形状で厚さ方向に延びる2個の光路形成部材252,254が用いられる。それら2個の光路形成部材252,254のうちレーザビームの進行方向の上流側に位置する光路形成部材252は、レーザビームの入射側において凹状に湾曲させられた薄板状を成している。これに対し、下流側の光路形成部材254は、レーザビームの出射側において凹状に湾曲させられた薄板状を成している。
したがって、本実施形態においては、各光路形成部材252,254に、対応する上部電極212,214への電圧印加にもかかわらず電界が発生せずに屈折率が変化しない領域が存在しない。すなわち、各光路形成部材252,254は、全体的に屈折率変化領域として機能するのである。
それら光路形成部材252,254は、例えば、対応する上部電極212,214と同じ断面形状で延びるバルク型結晶を必要な厚さにスライスすることによって形成することが可能である。さらに、それら光路形成部材252,254が下部電極162の上面に接着される。さらに、それら2個の光路形成部材252,254は、レーザビームの進行方向に沿って直列にかつ互いに分離して配置されている。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、各光路形成部材252,254が前記(6)項における「光路形成部材」の一例を構成しているのである。
次に、本発明の第5実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と共通する要素が多いため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
第1実施形態においては、スラブ型の光導波路形成部材150として光路形成部材が構成されているが、図12に示すように、本実施形態に従う波面曲率変調器270においては、第4実施形態と同様に、バルク型結晶として光路形成部材272が形成されている。
本実施形態においては、第4実施形態と同様に、2個の光路形成部材272,274が直列に配置されている。
具体的には、上流側の光路形成部材272は、第4実施形態における光路形成部材252と同様に、電圧印加によって電界が印加される対象であり、かつ、レーザビームの入射側において凹状に湾曲させられている。光路形成部材272は、光路形成部材252と同様に、それの断面上においては、平凹レンズと等価である形状を有している。
したがって、この光路形成部材272は、入射したレーザビームの波面曲率を拡散方向に変調する機能と、その変調後の波面曲率を変化させる機能とを有する。この光路形成部材272の上面に上部電極212が装着され、この上部電極212は、ドライバ192を経てコントローラ190に接続されており、第1実施形態と同様にして、光路形成部材272に印加される電圧が制御される。
これに対し、下流側の光路形成部材274は、第4実施形態における下流側の光路形成部材254とは異なる。第4実施形態においては、下流側の光路形成部材254が、上流側の光路形成部材252による波面変調が不十分である場合に、波面変調を追加的に行うために設けられている。一方、本実施形態においては、下流側の光路形成部材274が、上流側の光路形成部材270に電圧が印加されない状態においても、それをレーザビームが通過するとそれの波面曲率が変調されてしまう場合に、その変調を打ち消す変調を行うために設けらている。
この目的を達するために、下流側の光路形成部材274は、上流側の光路形成部材272とは異なり、凸状の境界面を有する形状を有している。本実施形態においては、光路形成部材274は、レーザビームの出射側において凸状に湾曲させられている。その結果、この光路形成部材274は、それの断面上においては、平凸レンズと等価である。
この光路形成部材274には上部電極が装着されておらず、光路形成部材274に電圧が印加されることも電界が印加されることもその電界の強さが制御されることもない。ただし、印加される電界の強さを制御可能である態様で本発明を実施することが可能である。光路形成部材274は適当な屈折率のガラスから選択できる。
次に、本発明の第6実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と共通する要素が多いため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
第1実施形態においては、3つのレーザ30,32,34からそれぞれ出射した3色(RGB)のレーザビームが、結合光学系58において1つのレービームに合成された後に、波面曲率変調器22に入射する。3色のレーザビームに共通に1個の波面曲率変調器22が用いられ、それら3色のレーザビームが結合された合成レーザビームに対して波面曲率の変調が行われるようになっているのである。そのため、波面曲率変調器22から出射したレーザビームの色収差補正のために色収差補正光学系96が設けられる。
これに対し、図13に示すように、本実施形態に従う波面曲率変調器290を備えたRSDにおいては、3色のレーザビームが結合される前に、各色のレーザビームの波面曲率が個別に変調される。
この色別変調を行うため、本実施形態においては、各レーザ30,32,34から出射したレーザビームが、各コリメート光学系292,294,296、各光ファイバ300,302,304および各コリメート光学系310,312,314を経て各波面変調素子320,322,324に入射する。それら波面変調素子320,322,324はそれぞれ、赤色、緑色および青色のレーザビームの波面曲率を変調するために設けられている。各波面変調素子320,322,324の構成は、第1実施形態における波面変調素子92と共通する。
3個の波面変調素子320,322,324からそれぞれ出射した3色のレーザビームが、結合光学系としての3つのダイクロイックミラー330,332,334によって1つのレーザビームに合成される。
本実施形態においては、各波面変調素子320,322,324に入射するレーザビームの波長を見込んだ特性に従って目標の奥行きDと印加電圧値Vとの関係が、各波面変調素子320,322,324ごとに予めチューニングされている。したがって、ダイクロイックミラー330,332,334によって合成されたレーザビームは、色収差補正光学系を通過することなく、走査装置24に入射する。
図13に示すように、それら波面変調素子320,322,324に共通に1個の波面曲率変調回路330が設けられている。この波面曲率変調回路330は、第1実施形態における波面曲率変調回路90に準じて、各色ごとに、レーザビームの波面曲率を目標の奥行きDに適合するように変調する。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、波面曲率変調器290が前記(22)項における「波面曲率変調器」の一例を構成しているのである。
次に、本発明の第7実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と共通する要素が多いため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
第1実施形態においては、図2に示すように、光導波路形成部材150の上面に1個の上部電極160が、レーザビームの入射側において凹状に湾曲させられた状態で配置されている。その光導波路形成部材150には、それの厚さ方向に電圧が印加されて電界も印加される。その印加される電圧および電界は、屈折率変化領域180の全体に一様に分布させられている。
これに対し、図14に示すように、本実施形態に従う波面曲率変調器350においては、上部電極352a,352b,352c,352dが複数個(例えば、4個)、光導波路形成部材150の幅方向(厚さ方向とレーザビームの進行方向との双方に直角な方向)に直列に配置されている。それら上部電極352a,352b,352c,352dは、レーザビームの入射側および出射側の双方において直線状を成す状態で配置されている。本実施形態においては、それら4個の上部電極352a,352b,352c,352dおよび光導波路形成部材150と下部電極162とによって波面変調素子354が構成されている。
図14に示すように、その波面変調素子354に波面曲率変調回路356が電気的に接続されている。この波面曲率変調回路356は、第1実施形態における波面曲率変調回路90と同様に、ドライバ357とコントローラ358とを含むように構成されており、各上部電極352a,352b,352c,352dに印加される電圧は、ドライバ357を介してコントローラ358によって制御される。
印加電圧の制御は次のようにして行われる。
本実施形態においては、図15(a)にグラフで表すように、それら上部電極352a,352b,352c,352dに印加される電圧が、レーザビームの光軸から遠ざかるにつれて上昇するパターンで分布させられる。それら上部電極352a,352b,352c,352dのうち中央の2個の上部電極352b,352cは、電圧印加時には、電圧V1が印加される。これに対し、両側の2個の上部電極352a,352dは、電圧印加時には、電圧V1より高い電圧V2,V3およびV4のうちのいずれかが選択されて印加される。
その結果、各上部電極352a,352b,352c,352dに印加される電圧が光軸から遠ざかるにつれて変化する電圧変化パターンが3種類存在する。電圧変化パターンの種類を問わず、中央の2個の上部電極352b,352cには電圧V1が印加される。これに対し、両側の2個の上部電極352a,352dには、パターンAの選択時には電圧V2、パターンBの選択時には、電圧V2より高い電圧V3、パターンCの選択時には、電圧V3より高い電圧V4がそれぞれ印加される。
各上部電極352a,352b,352c,352dへの印加電圧が高いほど、その印加電圧によって光導波路形成部材150内の各電界発生領域に発生する電界が強くなる。したがって、本実施形態においては、上述の3種類の電圧変化パターンに対応して3種類の電界強度変化パターンが存在しており、図15(a)のグラフは、3種類の電圧変化パターンを表すと同時に、3種類の電界強度変化パターンをも表している。
4個の上部電極352a,352b,352c,352dへの電圧印加に伴い、光導波路形成部材150内に4個の屈折率変化領域360a,360b,360c,360d(図15(b)参照)がそれぞれ形成される。各屈折率変化領域360a,360b,360c,360dは、上部電極352a,352b,352c,352dのうち対応するものの平面形状(各電極を真上から見たときの形状)を反映する。
本実施形態においては、各上部電極352a,352b,352c,352dに印加される電界が光軸から遠ざかるにつれて上昇するように分布させられ、その結果、各屈折率変化領域360a,360b,360c,360dの屈折率も、光軸から遠ざかるにつれて上昇するように分布させられる。したがって、4個の屈折率変化領域360a,360b,360c,360dの集合体は、屈折率分布のある光導波路の集合体(例えば、セルフォックレンズの如き光学系)としてレーザビームを屈折させるように作用する。
ところで、1本のレーザビームを構成する複数本の光線のうち該当するものが各屈折率変化領域360a,360b,360c,360dを通過すると、該当する光線は、それが属するレーザビームが拡散する方向に屈折させられる。同じ光線につき、各屈折率変化領域360a,360b,360c,360dへの入射前の光線と、出射後の光線との成す角度を偏角θと定義すれば、本実施形態においては、各屈折率変化領域360a,360b,360c,360dの屈折率が光軸から遠ざかるにつれて上昇するため、偏角θは、屈折率が一様に分布する場合に比較し、光軸から遠ざかるにつれて大きく増大する。図15(b)には、偏角θが光軸から遠ざかるにつれて増大する様子がグラフで表されている。
図15(b)には、偏角θが光軸から遠ざかるにつれて変化する偏角変化パターンが3種類示されている。波面曲率変調回路356により、目標の奥行きDが大きい領域においては、それら偏角変化パターンのうち最も変化が小さいパターンAが選択され、目標の奥行きDが中程度である領域においては、変化が中程度であるパターンBが選択され、目標の奥行きDが小さい領域においては、変化が最も大きいパターンCが選択される。
一般に、光軸から遠ざかるにつれて偏角θが増大する比率が高いほど、レーザビームの波面曲率が大きく変調される。
したがって、本実施形態においては、波面変調素子354に入射したレーザビームの波面曲率を、4個の屈折率変化領域360a,360b,360c,360dが互いに共同して形成する入射面の曲率(本実施形態においては、0)の割に大きく変調することが容易となる。
さらに、その入射面の曲率が小さいほど(すなわち、平面に近いほど)、各屈折率変化領域360a,360b,360c,360dの長さ寸法を短縮することが容易となり、ひいては、波面変調素子354をそれの長さ寸法に関して小型化することが容易となる。
なお付言するに、本実施形態においては、説明の便宜上、上部電極の数が4個とされているが、実際には、波面変調の前後でレーザビームの波面の連続性を維持するために、上部電極の数は4個より多い数とする事が望ましい。
さらに付言するに、本実施形態においては、上部電極352a,352b,352c,352dがレーザビームの入射側および出射側の双方において直線状を成しているが、入射側および出射側のいずれか、または、双方共に、入射光に対して湾曲する状態で本発明を実施することが可能である。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、光導波路形成部材150が前記(18)項における「光路形成部材」の一例を構成し、4個の上部電極352a,352b,352c,352dと下部電極162とが互いに共同して同項における「電界印加手段」の一例を構成し、波面曲率変調回路356が同項における「変調手段」の一例を構成しているのである。
以上、本発明の実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、前記[発明の開示]の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。