JP2005264262A - 環状歯車の熱処理方法及び環状歯車 - Google Patents

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Abstract

【課題】強度と歯面精度の向上とが両立できる熱処理方法を提供すること。
【解決手段】環状歯車1全体に軟窒化処理をする工程と、内郭部を拘束プラグ3にて拘束しつつ歯部1bに高周波焼き入れを行う工程と、を有することを特徴とする。つまり、熱処理による歪み発生が少ない熱処理である軟窒化により高い精度を確保しながら内外郭部全体を強化した後、内郭部を拘束しながら高周波焼き入れすることで部材の変形を最小に抑えることができる。ここで、高周波焼き入れは加熱速度が大きくできることから加熱が及ぶ範囲をある程度制御可能であり、内郭部の加熱を抑えることができる。その結果、歯車の歪みや変形などの焼き入れ欠陥を防止できると共に、歯車の内郭部の収縮量の変動を防止できる。
【選択図】図2

Description

本発明は、外郭部及び内郭部にそれぞれ歯部を備える環状歯車の熱処理方法及び環状歯車に関する。
従来、強度が必要な部材に対しては、浸炭処理など種々の熱処理が行われている。ところで、自動車用プラネタリリングなどの環状歯車部品では強度や耐摩耗性といった機能のほか、熱処理による歪みを少なくし、歯車のかみ合い率の向上や、歯面精度向上による騒音の低減の視点も重要になっている。
環状歯車部品は一般に構造用鋼を用いて浸炭焼き入れや高周波焼き入れを実施しており、精度面で焼き入れ後の楕円・テーパーの発生が顕在化している。そのために浸炭品は全体を再オーステナイト化後、プラグ矯正焼き入れなどを実施するなどの対策を行っているので、経済的な課題が発生すると共に、熱間状態で矯正を行うことによる変形が生じ、精度を保持することが困難になる。
熱処理による歪み発生量が少ない軟窒化処理は内郭部の歯面や全体変形を抑制するには有効であるが、外郭部に転動強度が要求される部品では充分な性能が得られなかった。
精度向上を目的とした従来技術としては、油圧ポンプモータのシリンダブロック全体に、軟窒化処理を行い窒素を拡散浸透させた後、スプライン部のみに高周波焼き入れを行い、次いで急冷する方法が開示されている(特許文献1)。
特開平11−269546号公報 特開平5−65592号公報
しかしながら、軟窒化と高周波焼き入れとを組み合わせた特許文献1の方法においても楕円変形やテーパー変形などが生起し、未だ充分な精度が得られていない。
以下、従来技術の熱処理方法について本発明者らが得た知見を説明する。まず、浸炭焼き入れは、対象物全体を800℃〜900℃のオーステナイト状態から焼き入れるので、熱応力や変態応力が大きく作用することと、環状歯車の薄肉部品形状から、形状的に剛性が低いことによる大きな熱処理歪が発生する。
そして、プラグ焼き入れは、製品を一様にオーステナイト化して全体(内外郭部)を室温時より膨張させ、プラグを挿入後焼き入れを行う際の収縮を利用してプラグの形状に沿わせることで全体を矯正する方法であり、熱間〜冷間過程で矯正を行うためにプラグとの接触面も容易に変形するので歯面精度の悪化は不可避である。
また、高周波焼き入れは、浸炭焼き入れ同様に形状要因を含めて歪の課題を有している。そして、プラグ焼き入れの手法はプロセスの特徴から短時間加熱、加熱後に急速に自己冷却作用による温度低下やプラグ挿入時に冷却(焼き入れ)操作を行う際の厳密な温度・時間の管理下で焼き入れを行う必要があるほか、熱間矯正による歯面精度の悪化の問題もある。
本発明の上記実情に鑑み完成されたものであり、強度と歯面精度の向上とが両立できる熱処理方法及びその熱処理方法により得られる環状歯車を提供することを解決すべき課題とする。
以上の点をふまえて、本発明者らは鋭意検討を行い、以下の発明を完成した。すなわち、本発明の環状歯車の熱処理方法は、内郭部及び外郭部に歯部を有する環状歯車の熱処理方法であって、
該環状歯車全体に軟窒化処理をする工程と、
該内郭部を拘束プラグにて拘束しつつ該外郭部の該歯部に高周波焼き入れを行う工程と、を有することを特徴とする。
つまり、熱処理による歪み発生が少ない熱処理である軟窒化により高い精度を確保しながら内外郭部全体を強化した後、内郭部を拘束しながら高周波焼き入れすることで部材の変形を最小に抑えながら、目的の部位を更に強化することができる。ここで、高周波焼き入れは加熱速度を大きくできることから加熱の及ぶ範囲をある程度制御可能であり、内郭部の温度上昇を抑えることができる。その結果、歯車の歪みや変形などの焼き入れ欠陥を防止できると共に、歯車の内郭部の収縮量の変動を防止できる。
また、熱処理前の形状が機械加工のバラツキ(工具の消耗による経年変化など)や高周波焼き入れ特性の相違などに起因する高周波焼き入れ深さの変動などにより、環状歯車の内郭部の収縮量が変移しても拘束プラグにより所定精度を保つことが可能になる。つまり、熱処理後の環状歯車の内郭部の精度は拘束プラグにより概略制御できるので、それ以前の工程に起因する精度のバラツキをある程度吸収することができる。
そして、前記拘束プラグとして、当接する前記内郭部を冷却する手段を備えることで、内郭部の温度変化をより容易に抑制・制御することが可能になる。そして、前記拘束プラグは、内周面がテーパ状の円筒プラグと外周面がテーパ状であり該内周面に嵌合するコア部材とからなることが好ましい。円筒プラグとコア部との組み合わせはコア部の圧入の程度によって円筒プラグの外径を制御でき、内郭部の変形抑制効果を充分に制御できる。また、前記拘束プラグは、外周に前記内郭部の該歯部に嵌合する歯部をもつことで、拘束プラグが内郭部に密着して圧力を分散できるので歯部に与える影響を小さくできる。
また、前記軟窒化処理工程と、前記高周波焼き入れ工程との間に、焼き割れの原因になる該軟窒化工程により生じた化合物乃至は化合物層の一部乃至全部を該高周波焼き入れを行う部位から除去する工程を有することで、高周波焼き入れによる焼き割れの発生を効果的に抑制できる。具体的な前記除去工程としてはショットブラスト及び/又は切削加工が採用できる。
更に、上記課題を解決する本発明の環状歯車は、内郭部及び外郭部に歯部を有する環状歯車であって、上述した本発明の熱処理を行うことで得られることを特徴とする。具体的に表れる構成を例示すると、内郭部の歯部はハス歯であり、全体に形成された窒化層と、該外郭部の該歯部近傍に形成された高周波焼き入れ層とを有することを特徴とする環状歯車である。強度及び精度の高い環状歯車を提供することができる。
(環状歯車の熱処理方法)
本実施形態の環状歯車の熱処理方法は、内郭部及び外郭部に歯部を有する環状歯車に適用される方法であり、環状歯車の製造時などに適用される。環状歯車は鉄系材料から構成される。環状歯車の内郭部の歯部はハス歯にすることもできる。本熱処理方法を適用する環状歯車の粗材(環状歯車粗材)は冷間鍛造、熱間鍛造、切削などの一般的な製造方法により製造したものをそのまま採用できる。本熱処理方法は歪みの発生が抑制されているのでこれらの製造方法により達成された精度をよく保存することができる。
本熱処理方法は軟窒化工程と高周波焼き入れ工程とその他必要に応じて選択される工程とを有する。
(軟窒化工程)
軟窒化工程は環状歯車粗材に対して軟窒化処理を行う工程である。軟窒化処理は環状歯車粗材全体に対して行い、その種類は特に限定しない。例えば、ガス軟窒化、イオン軟窒化、タフトライド法などが採用できる。処理温度、処理時間など、その他の条件についても特に限定されず、目的の強度が得られるようにすることが好ましい。
(高周波焼き入れ工程)
高周波焼き入れ工程は軟窒化工程後に環状歯車粗材の外郭部の歯部の深さ方向の一部に対して行う工程である。そして外郭部の歯部において環状歯車の軸方向の一部に制限して高周波焼き入れを行うこともできる。更に高周波焼き入れはそれぞれの歯部の一部に限定して行うこともできる。
高周波焼き入れの条件は特に限定されない。例えば、環状歯車を構成する鉄系材料におけるオーステナイト化領域にまで加熱後、急冷することで行う。急冷の方法は特に限定されず、冷却水などの冷却剤を用いた一般的な方法が採用できる。高周波焼き入れを行う時間についても特に限定しないが、短い方が好ましい。
高周波焼き入れを行う際、内郭部には拘束プラグが挿入されている。拘束プラグは室温状態で挿入できる。拘束プラグは高周波焼き入れに伴う変形を抑制する部材である。拘束プラグの形状は高周波焼き入れに伴う変形及びスプリングバックの量に応じて決定され、高周波焼き入れを行う部分や処理条件に応じて決定できる。例えば、高周波焼き入れを行う部位が環状歯車粗材の軸方向の一部に制限され且つ偏っている場合には、高周波焼き入れに伴う熱変形が軸方向で異なるので、テーパ状の外径をもつ拘束プラグを採用することもできる。
そして、拘束プラグは、高周波焼き入れによる歪みの発生を抑制するために、内郭部に対して矯正するための圧力(矯正圧)を印加することができる。拘束プラグは内周面がテーパ状の円筒プラグと外周面がテーパ状でありその円筒プラグの内周面に嵌合するコア部材とからなる部材を採用することで内郭部に矯正圧を効果的に印加することができる。矯正圧の調節は、円筒プラグ内にコア部材を挿入する程度を変化させることで行うことができる。
更に、拘束プラグは内郭部の温度上昇を抑制するために冷却手段を備えることができる。冷却手段としては拘束プラグの内郭部に当接する部分から空気や冷却液などの冷却流体を噴出する手段や、拘束プラグ内に冷却流体を循環させて拘束プラグを冷却して間接的に内郭部を冷却する手段が例示できる。
そして、拘束プラグの形状としては、内郭部に設けられた歯部に嵌合できる歯部を外周部に設けた形状を採用することができる。このような歯部を設けることで拘束プラグと内郭部の歯部との接触面積を大きくすることができ、両者の部分的な密着による内郭部及び内郭部の歯部の変形を抑制できる。
(その他)
更に、軟窒化処理工程と高周波焼き入れ工程との間に、軟窒化工程により生じた化合物乃至は化合物層の一部乃至全部を高周波焼き入れを行う部位から除去する工程を有することができる。化合物などを予め除去することで、焼き割れ感受性が低下する。化合物などを除去する方法としてはショットブラストや、切削加工などが例示できる。
(環状歯車)
本実施形態の環状歯車は、内郭部及び外郭部に歯部を有する環状歯車である。そして上述した本実施形態の熱処理を行うことで得られることを特徴とする。つまり、上記熱処理方法を適用した後に、そのまま環状歯車として最終製品に適用できる精度をもつものである。
具体的には、全体に形成された窒化層と、外郭部の歯部近傍に形成された高周波焼き入れ層とを有する。内郭部の歯部としてはハス歯にしても充分な精度をもつ。例えば、特許文献1の方法で得られる部材は同様の精度を得ようとすると、切削、研削加工などの後加工により精度を確保する必要がある。
本実施例の環状歯車の熱処理方法を適用した環状歯車は、図1に示すように、本体部と内郭部に設けられたハス歯部1aと外郭部に設けられた歯部1bとを有する。歯部1bの一部には高周波焼き入れを行った高周波焼き入れ部1cがある。
まず、環状歯車粗材はJIS SCR440材を用いて1200℃で熱間鍛造を行い、外郭部の歯部1bをもつ環状歯車粗材を形成した。その後、900℃×30分間やきならしを行った。内郭部のハス歯部1aをブローチ加工により形成した。得られた環状歯車粗材の大きさは、全幅75mm、最大外径142mmφであった。ハス歯部1aは歯幅34mm、モジュール1.58、小径115.5mmφであった。高周波焼き入れ部1cを形成する部分の外径は143mmφであった。
軟窒化工程:環状歯車粗材を変成ガス(Rxガス)とアンモニアガスとを50:50(体積比)で混合した混合ガス中、570℃×3.5時間、軟窒化処理を行った。
高周波焼き入れ工程:拘束プラグ3を内郭部に挿入した。拘束プラグ3は円筒プラグ31とコア部材32とから構成される。円筒プラグ31は内周面がテーパ状であり、テーパーの小径側の端部から大径側に向けて軸方向に平行に切り欠き311が設けられている。コア部材32は外周面がテーパ状であり、円筒プラグ31は内周面に嵌合できる形状になっている。円筒プラグ31とコア部材32とは挿入の程度により円筒プラグ31の外径(つまり圧入代)を制御することができる。コア部材32は円筒プラグ31の切り欠き311が形成された端部と反対側から挿入される。円筒プラグ31へのコア部材32の挿入の程度を制御するために、コア部材32の小径側の端部にはボルト321が突設されている。このボルト321をワッシャ33を介してナット34で締結し、締結量を変化させることで、円筒プラグ31へのコア部材32の挿入の程度、すなわち、円筒プラグ31の外径を制御できる。ワッシャ33は外径が円筒プラグ31の切り欠き311が形成された端部の外径と同程度の大きさである。
圧入代を0.18mmに制御した状態で高周波焼き入れを行った。なお、圧入代が0.18mmとは軟窒化工程後の内郭部のハス歯部1aの内径と円筒プラグ31の外径との差が0.18mmであるということである。高周波焼き入れ条件は、高周波焼き入れ部1cを形成したい部分の周囲に高周波コイル20を配設し、周波数100kHz、出力126kW、加熱時間6.8秒間で加熱した。加熱後、すぐに水焼き入れを行うことで、高周波焼き入れ深さ1.7mmの高周波焼き入れ部1c(硬化層)を得た。
比較例
環状歯車粗材に対して軟窒化処理及び高周波焼き入れ処理を行った。軟窒化処理は実施例1の軟窒化工程と同様の方法で行った。高周波焼き入れ処理は実施例1の高周波焼き入れ工程において用いた拘束プラグを用いず、内郭部を拘束せずに高周波焼き入れを行った以外は実施例1と同様の方法で行った。
(結果)
機械加工直後、軟窒化工程後、実施例1の環状歯車及び比較例の環状歯車について、それぞれテーパ歪み及び楕円歪みを測定した。テーパ歪みは、環状歯車の内ハス歯の歯幅(34mm)方向に2mm間隔で小径部の半径を3次元測定機で測定し、それら小径部の半径の最大値と最小値との差を採用した。楕円歪みは、環状歯車の内ハス歯の歯幅方向の両端及び中央それぞれについて、内周12箇所における小径部の直径を測定した後、最大値と最小値との差を採用した。結果を表1に示す。
Figure 2005264262
表に示したデータから明らかなように、実施例1の環状歯車に生じるテーパ歪み及び楕円歪みの量は比較例の環状歯車と比較して半分以下にまで低減することが可能であった。
[変形例]
図3に示すように、拘束プラグとして冷却水を噴射する冷却手段としての冷却水流路1を備える拘束プラグ36を採用することで、高周波焼き入れ工程時において外郭部の歯部に加えられる熱の影響により内郭部のハス歯部1aまで軟化することが防止できる。その他の構成要素は実施例1と同様である。
また、図4に示すように、内郭部のハス歯部1aと嵌合できる歯部371を備える拘束プラグ37を採用することで、高周波焼き入れによる外郭部の変形に伴う力を歯面全体に分散して受けることができ、歯面精度への悪影響を防止できる。その他の構成要素は実施例1と同様である。
実施例で用いた環状歯車の断面概略図である。 実施例1における高周波焼き入れ工程時の環状歯車及び拘束プラグの断面概略図である。 変形例における高周波焼き入れ工程時の環状歯車及び拘束プラグの断面概略図図である。 変形例における高周波焼き入れ工程時の環状歯車及び拘束プラグの断面概略図図である。
符号の説明
1…環状歯車(粗材) 1a…ハス歯部 1b…歯部(外郭部) 1c…高周波焼き入れ部
20…高周波コイル
3、36、37…拘束プラグ
31…円筒プラグ 32…コア部材
361…冷却水流路
371…歯部

Claims (8)

  1. 内郭部及び外郭部に歯部を有する環状歯車の熱処理方法であって、
    該環状歯車全体に軟窒化処理をする工程と、
    該内郭部を拘束プラグにて拘束しつつ該外郭部の該歯部に高周波焼き入れを行う工程と、を有することを特徴とする環状歯車の熱処理方法。
  2. 前記拘束プラグは、当接する前記内郭部を冷却する手段を備える請求項1に記載の環状歯車の熱処理方法。
  3. 前記拘束プラグは、内周面がテーパ状の円筒プラグと外周面がテーパ状であり該内周面に嵌合するコア部材とからなる請求項1又は2に記載の環状歯車の熱処理方法。
  4. 前記拘束プラグは、外周に前記内郭部の該歯部に嵌合する歯部をもつ請求項1〜3のいずれかに記載の環状歯車の熱処理方法。
  5. 前記軟窒化処理工程と、前記高周波焼き入れ工程との間に、該軟窒化工程により生じた化合物乃至は化合物層の一部乃至全部を該高周波焼き入れを行う部位から除去する工程を有する請求項1〜4のいずれかに記載の環状歯車の熱処理方法。
  6. 前記除去工程はショットブラスト及び/又は切削加工である請求項5に記載の環状歯車の熱処理方法。
  7. 内郭部及び外郭部に歯部を有する環状歯車であって、
    請求項1〜6のいずれかに記載の熱処理を行うことで得られることを特徴とする環状歯車。
  8. 内郭部にハス歯部を有し、外郭部に歯部を有する環状歯車であって、
    全体に形成された窒化層と、該外郭部の該歯部近傍に形成された高周波焼き入れ層とを有することを特徴とする環状歯車。
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