JP2005247807A - Nsaidを利用した癌治療用組成物 - Google Patents
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Abstract
【課題】 安全性が高く、かつ細胞内活性酸素誘発作用やアポトーシス誘導作用に優れた癌治療用組成物を提供すること。
【解決手段】 Bortezomib(PS−341)等のプロテアソーム・インヒビター単独投与では、十分な効果の得られない疾患群に、もしくはプロテアソーム・インヒビターのさらなる抗腫瘍効果を期待して、抗炎症剤であるスリンダク及びこの代謝産物であるスリンダックスルフィド、スリンダックスルホン等の活性酸素誘発効果のある薬剤とを併用すると、各種癌細胞に酸化ストレスが増大し、このことが酸化的DNA傷害の増大を惹起し、抗腫瘍効果を相乗的に高めることが可能となる。癌細胞は、一般に酸化ストレスに対し抵抗力が弱く、DNA修復能力も低下していることが知られている。さらに従来の抗癌剤の多くは、DNA合成を阻害するものがほとんどであることから、従来の化学療法が無効、もしくは難治性となった癌種であっても、治療効果を発揮しうることが期待できる。
【解決手段】 Bortezomib(PS−341)等のプロテアソーム・インヒビター単独投与では、十分な効果の得られない疾患群に、もしくはプロテアソーム・インヒビターのさらなる抗腫瘍効果を期待して、抗炎症剤であるスリンダク及びこの代謝産物であるスリンダックスルフィド、スリンダックスルホン等の活性酸素誘発効果のある薬剤とを併用すると、各種癌細胞に酸化ストレスが増大し、このことが酸化的DNA傷害の増大を惹起し、抗腫瘍効果を相乗的に高めることが可能となる。癌細胞は、一般に酸化ストレスに対し抵抗力が弱く、DNA修復能力も低下していることが知られている。さらに従来の抗癌剤の多くは、DNA合成を阻害するものがほとんどであることから、従来の化学療法が無効、もしくは難治性となった癌種であっても、治療効果を発揮しうることが期待できる。
Description
本発明は、スリンダクなどの非ステロイド系抗炎症剤((Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs;NSAIDs))とBortezomibなどのプロテアソーム・インヒビターとを含有する癌治療用組成物、細胞内活性酸素誘発剤、アポトーシス誘導剤等に関する。
NSAIDsは、生体膜のリン脂質から遊離されるアラキドン酸に作用してプロスタグランジンを産生する酵素シクロオキシゲナーゼ(COX−1,COX−2)を抑制し、その結果、抗炎症作用、解熱作用、鎮痛作用を示すことがよく知られている。これらの作用の他、NSAIDsには大腸癌の発生抑制作用があることはよく知られている(例えば、非特許文献1〜5参照)。さらにNSAIDsは細胞分裂を阻害することができ、いくつかの癌細胞ではアポトーシスを誘導することもできることが報告されている(例えば、非特許文献6〜8参照)。これらの結果から、NSAIDsの抗癌剤としての効能が示唆されるものの、抗癌効果が単独の薬剤のように充分に強くはないため、NSAIDsは抗癌剤であるとは考えられていない。今日まで、NSAIDsの抗癌効果の分子機序は明らかになっていないが、COX活性を阻害することによりプロスタグランジンの合成が減少することはよく知られている。しかしNSAIDsは、COX−1又はCOX−2を発現していない大腸癌細胞株、及びCOX−1遺伝子もCOX−2遺伝子も保有していないマウス胚繊維芽細胞に対する抗癌効果を示すことが報告されている(例えば、非特許文献9、10参照)。したがって、NSAIDsの抗癌効果がCOX活性の阻害効果に依存しているというよりは、むしろ他の効果が関与していると考えられている。この点に関して、セラミドの過剰産生や、DNAミスマッチ修復タンパク質発現の増加等の、他の機序についても報告されている(例えば、非特許文献11、12参照)。したがって、化学防御剤又は抗癌剤として、NSAIDsがどのように機能するかについては解明されていないというのが現状であり、NSAIDs単独ではその抗腫瘍効果は弱いことから実用化に至っていない。
核及び細胞質に局在する高分子プロテアーゼであるプロテアゾームは、ATP依存タンパク質分解経路にとって必須の酵素複合体でありであり、様々な短命な機能タンパク質の急速分解に触媒作用を行うことが知られている。ユビキチン・プロテアゾーム経路は細胞分裂の進行、サイトカインによる転写の活性化及びアポトーシスに非常に重要な役割を果たしていると考えられている(例えば、非特許文献13〜16参照)。これは、酸化ストレス、熱損傷及び突然変異した遺伝子の転写から生じる、好ましくないタンパク質の急速除去のためにも必須である(例えば、非特許文献17、18参照)。プロテアソーム・インヒビターによってこの経路を阻害することで、細胞分裂の進行が強く阻害され、様々な悪性細胞のアポトーシスが引き起こされる。ホウ酸ジペプチドであるBortezomib(以下「PS−341」という)は、特異的プロテアソーム・インヒビターであり、ヒト骨髄腫細胞に対しアポトーシス及び細胞分裂の停止を強く誘導する(例えば、非特許文献19参照)。ヒトへの副作用が比較的少ないことから、最近PS−341はこれらの患者に対して臨床的に用いられるようになり、非常に効果的であることが判明した(例えば、非特許文献20〜22参照)。PS−341は骨髄腫などの血液腫瘍細胞において、顕著な抗癌活性を示すが、固形腫瘍細胞に対しては抗癌効果をそれほど示さない。例えば、0.1μMのPS−341を用いると、多発性骨髄腫細胞の細胞分裂の進行はほぼ完全に阻害されるが、同量のPS−341を用いても、非小細胞肺癌細胞に対してはほとんど影響を及ぼさない(非特許文献19、23参照)。PS−341の抗癌作用に対する分子機序は解明されていないが、p53、p21WAF1、MDM2、サイクリンA、及びサイクリンBの蓄積、Bcl−2のリン酸化が生ずることが知られており、その結果、G2/M期における細胞分裂の停止及びアポトーシスを惹起する(非特許文献19、23、24参照)。さらに重要なことには、PS−341は活性酸素(ROS)の産生を引き起こし、このことが、PS−341によるアポトーシス誘導において重要な役割を担うことが示唆されている(例えば、非特許文献25参照)。また、癌細胞は一般的に代謝が亢進された状態にあり、活性酸素のレベルも正常細胞に比して高いことも知られている(例えば、非特許文献26,27参照)。
抗炎症剤を用いた大腸癌の予防効果については、多くの論文があり、今後の臨床応用の期待が高まっている。特に遺伝的に大腸癌になるリスクの高い健常人に予防的に経口投与することが期待されており、実際にその有効性は証明されている。しかし、癌治療薬としては、抗炎症薬単独における効果が弱いことなどから臨床応用の可能性は困難とみなされてきた。また、プロテアソーム・インヒビターは既に多発性骨髄腫などの造血器腫瘍において米国で認可され、その高い有効性が認められたが、 必ずしも固形癌に有効な効果が認められているとは言い難い。インビトロの結果からも抗腫瘍効果に要するプロテアソーム・インヒビターの有効濃度は数倍必要であることが判明している。したがって、ヒトへの投与においても抗腫瘍効果を期待するためには投与量が数倍必要と思われるが、造血能への副作用が危惧され臨床実施は困難であるのが現状である。本発明の課題は、安全性が高く、かつ細胞内活性酸素誘発作用やアポトーシス誘導作用に優れた癌治療用組成物を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究し、プロテアソーム・インヒビター単独投与では、十分な効果の得られない疾患群に、もしくはプロテアソーム・インヒビターのさらなる抗腫瘍効果を期待して、抗炎症剤であるスリンダク及びこの代謝産物であるスリンダックスルフィド、スリンダックスルホンとを併用すると、各種癌細胞に酸化ストレスが増大し、このことが酸化的DNA傷害の増大を惹起し、抗腫瘍効果を相乗的に高めることが可能となることを見い出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、非ステロイド系抗炎症剤とプロテアソーム・インヒビターとを有効成分として含有することを特徴とする癌治療用組成物(請求項1)や、非ステロイド系抗炎症剤が、スリンダク又はその代謝産物であるスリンダックスルフィド若しくはスリンダックスルホンであることを特徴とする請求項1記載の癌治療用組成物(請求項2)や、プロテアソーム・インヒビターが、Bortezomibであることを特徴とする請求項1又は2記載の癌治療用組成物(請求項3)や、癌が、非ステロイド系抗炎により活性酸素の増加効果を示す癌であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の癌治療用組成物(請求項4)や、非ステロイド系抗炎により活性酸素の増加効果を示す癌が、大腸癌、胃癌などの消化器腺癌、口腔癌、肺癌、子宮頚癌などの扁平上皮癌、メラノーマ、又は骨髄腫、リンパ性白血病などの血液癌であることを特徴とする請求項4記載の癌治療用組成物(請求項5)や、請求項1〜5のいずれか記載の癌治療用組成物を投与することを特徴とする癌の治療方法(請求項6)に関する。
また本発明は、非ステロイド系抗炎症剤とプロテアソーム・インヒビターとを有効成分として含有することを特徴とする細胞内活性酸素誘発剤(請求項7)や、非ステロイド系抗炎症剤が、スリンダク又はその代謝産物であるスリンダックスルフィド若しくはスリンダックスルホンであることを特徴とする請求項7記載の細胞内活性酸素誘発剤(請求項8)や、プロテアソーム・インヒビターが、Bortezomibであることを特徴とする請求項7又は8記載の細胞内活性酸素誘発剤(請求項9)に関する。
さらに本発明は、非ステロイド系抗炎症剤とプロテアソーム・インヒビターとを有効成分として含有することを特徴とするアポトーシス誘導剤(請求項10)や、非ステロイド系抗炎症剤が、スリンダク又はその代謝産物であるスリンダックスルフィド若しくはスリンダックスルホンであることを特徴とする請求項10記載のアポトーシス誘導剤(請求項11)や、プロテアソーム・インヒビターが、Bortezomibであることを特徴とする請求項10又は11記載のアポトーシス誘導剤(請求項12)に関する。
本発明によると、単独投与では有効な抗癌作用を示しえない二つの薬剤(スリンダクなどのNSAIDsとPS−341などのプロテアソーム・インヒビター)を組み合わせて、相乗作用を惹起し、不可能と思われてきた大腸癌や扁平上皮癌などの固形癌においても、十分な治療効果が生じせしめることが可能となる。また、従来の抗癌剤の多くは、DNA合成を阻害するものがほとんどであることから、本発明の二種類の併用による治療のメカニズムは活性酸素量を増やし酸化ストレスを増大させることによって、癌細胞をアポトーシスに陥らせるという異なったものということができる。このように、特異な作用機序による抗腫瘍効果であることから、従来の化学療法が無効、もしくは難治性となった癌種であっても、治療効果を発揮しうることが期待できるため、固形癌における治療戦略に新たな手段の一つを提供することができる。さらに、癌細胞は一般的に代謝が亢進された状態にあり、活性酸素のレベルも正常細胞に比して高いことが知られている(非特許文献26、27参照)ことから、酸化ストレスによる癌治療は正常細胞への障害を与えずに癌細胞のみを選択的にアポトーシスに陥らせることが期待される。
本発明の癌治療用組成物や、細胞内活性酸素誘発剤や、アポトーシス誘導剤としては、NSAIDsとプロテアソーム・インヒビターとを有効成分として含有するものであれば特に制限されるものではなく、上記NSAIDsとしては、イブプロフェン、フェノプロフェン、ジクロフェナク、ナプロキセン、トルメチン、スリンダク、セレコキシブ、ロフェコキシブ、インドメタシン、メフェナム酸、ケトロラック、オキシフェンブタゾン、フェニルブタゾン、ピロキシカム、ゾメピラック、アスピリン、カルプロフェン、サリチル酸コリン、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、トロメタモール、ジフルニサル、ナブメトン、ニメスリド、タポキサリン、フロスリド等や、これらNSAIDsの塩、誘導体、代謝物を挙げることができるが、中でもスリンダクやその代謝産物であるスリンダックスルフィドやスリンダックスルホンを好適に例示することができる。さらに、本発明に基づいて活性酸素誘発効果をもつように改変されたNSAIDsの誘導体は、より好ましい組成物となる。これらNSAIDsは、市販品として、あるいは文献記載の方法により調製することにより、入手することができる。以下に、スリンダックの構造式を示す。
また、上記プロテアソーム・インヒビターとしては、PS−341、Z−Iie−Glu(OtBu)−Ala−Leu−CHO(PSI)、Z−Leu−Leu−Phe−CHOといったプロテアゾーム阻害作用を有するペプチド、さらにペプチジルアルデヒド、ビニルスルホン、α',β'−エポキシケトン、ペプチドボロン酸、ラクタスチン等や、これらプロテアソーム・インヒビターのアナログを挙げることができるが、中でもPS−341やPSIを好適に例示することができる。これらプロテアソーム・インヒビターは、市販品として、あるいは文献記載の方法により調製することにより、入手することができる。以下に、PS−341の構造式を示す。
本発明の癌治療用組成物が有効な癌としては、NSAIDsにより活性酸素の増加効果を示す癌、例えば、肺癌、卵巣癌、膵臓癌、胃癌、胆嚢癌、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、食道癌、肝臓癌、口腔癌、結腸癌、大腸癌、直腸癌、子宮癌、胆管癌、膵島細胞癌、副腎皮質癌、膀胱癌、精巣癌、睾丸腫瘍、甲状腺癌、皮膚癌、悪性カルチノイド腫瘍、メラノーマ、グリオーマ、骨肉腫、骨髄腫、軟部組織肉腫、神経芽細胞腫、悪性リンパ腫や白血病等の造血器腫瘍が挙げられるが、なかでも大腸癌、胃癌などの消化器腺癌、口腔癌、肺癌子宮頚癌などの扁平上皮癌、メラノーマ、又は骨髄腫、リンパ性白血病などの血液癌を好適に例示することができる。本発明の癌治療用組成物は、NSAIDsにより活性酸素の増加効果を示さない癌、例えば子宮癌に対しては余り有効といえない。したがって、NSAIDsが癌細胞で活性酸素の増加効果を現すか否かを活性酸素の定量によって調べることにより、治療効果がえられる癌であるか否かを予知することが可能となる。
本発明の癌治療用組成物を医薬品として用いる場合は、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を添加することができる。またこれら予防若しくは治療剤は、経口的又は非経口的に投与することができる。すなわち通常用いられる投与形態、例えば粉末、顆粒、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の剤型で経口的に投与することができ、あるいは、例えば溶液、乳剤、懸濁液等の剤型にしたものを注射の型で非経口投与することができる他、スプレー剤の型で鼻孔内投与することもできる。
経口的に投与する製剤の場合、薬理学的に許容される担体としては、慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、例えば錠剤には乳糖、デンプン等の賦形剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボキシメチルセルロース等の崩壊剤等を配合することができ、懸濁液製剤にはエタノール等にて溶解後生理的食塩水アルコール等の溶剤、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の溶解補助剤、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、レシチン等の懸濁化剤、グリセリン、D−マンニトール等の等張化剤、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩等の緩衝剤などを配合することができる。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加物を配合することもできる。非経口的に投与する製剤の場合、蒸留水、生理的食塩水等の水溶性溶剤、サリチル酸ナトリウム等の溶解補助剤、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール等の等張化剤、ヒト血清アルブミン等の安定化剤、メチルパラベン等の保存剤、ベンジルアルコール等の局麻剤を配合することができる。
本発明の癌の治療方法は、上記本発明の癌治療用組成物を投与する癌の治療・予防方法に関するが、本発明の癌治療用組成物の投与量は、癌の種類、患者の体重や年齢、投与形態、症状等により適宜選定することができるが、有効成分であるNSAIDsとプロテアソーム・インヒビターとを同時に投与することが好ましいが、必ずしも抗腫瘍効果を発揮するのに同時投与する必要はない。例えば、有効成分であるNSAIDとしてのスリンダク及びプロテアソーム・インヒビターとしてのPS−341を成人に投与する場合、通常1回量としてスリンダクは約20〜400mg、好ましくは50〜200mgであり、PS−341は約0.2〜10mg、好ましくは1〜5mgであり、この量を1日1回〜3回投与するのが望ましい。投与間隔は、連日投与後、休薬期間を設けることが望ましいが、PS−341の場合、週2回程度の投与が好ましい。
本発明の細胞内活性酸素誘発剤やアポトーシス誘導剤は、インビボ、インビトロ、エクスビボで使用可能であり、インビボやエクスビボでの使用は、癌の予防・治療に有用であり、インビトロでの使用は、細胞内活性酸素の発生、アポトーシスの発生、癌の発生のメカニズムを解明する上で有用であるとともに、この結果から本発明による治療薬の有効性を予測することが可能となる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
[ヒト大腸癌細胞株DLD−1における併用療法の効果]
(1)細胞内活性酸素量に対する効果
供試細胞であるヒト大腸癌細胞株DLD−1はJCRB(Japanese Cancer Research Resources Bank;東京、日本)から入手した。ヒト大腸癌細胞株DLD−1のNSAIDsスリンダック(SUL)、スリンダックスルフィド(SUD)、スリンダックスルフォン(SUF)、COX−2選択的NSAIDであるNS−398、抗癌剤である5−フルオロウラシル(5−FU)は、Sigmaより購入した。ヒト大腸癌細胞株DLD−1を培養しているRPMI640培養液(10%仔牛血清を含む)中に、SUL、SUD、SUF、NS−398又は5−FUを添加し、20時間後に10μMのcarboxy−H2DCFDA(5-(and-6)−carboxy−2', 7'−dichlorodihydrofluorescein diacetate (carboxy−H2DCFDA)C−400;molecular Probes)を30分間ロード(細胞内に取りこませる)し、洗浄後さらに4時間、これまでと同一の培養液で培養を継続し、FACScanフローサイトメトリー(FL1)を用いて細胞内活性酸素量に与える反応性を調べた(carboxy−H2DCFDAは、細胞内で酸化されると緑の蛍光物質に変化するためこれをFL1で検出した。)。
(1)細胞内活性酸素量に対する効果
供試細胞であるヒト大腸癌細胞株DLD−1はJCRB(Japanese Cancer Research Resources Bank;東京、日本)から入手した。ヒト大腸癌細胞株DLD−1のNSAIDsスリンダック(SUL)、スリンダックスルフィド(SUD)、スリンダックスルフォン(SUF)、COX−2選択的NSAIDであるNS−398、抗癌剤である5−フルオロウラシル(5−FU)は、Sigmaより購入した。ヒト大腸癌細胞株DLD−1を培養しているRPMI640培養液(10%仔牛血清を含む)中に、SUL、SUD、SUF、NS−398又は5−FUを添加し、20時間後に10μMのcarboxy−H2DCFDA(5-(and-6)−carboxy−2', 7'−dichlorodihydrofluorescein diacetate (carboxy−H2DCFDA)C−400;molecular Probes)を30分間ロード(細胞内に取りこませる)し、洗浄後さらに4時間、これまでと同一の培養液で培養を継続し、FACScanフローサイトメトリー(FL1)を用いて細胞内活性酸素量に与える反応性を調べた(carboxy−H2DCFDAは、細胞内で酸化されると緑の蛍光物質に変化するためこれをFL1で検出した。)。
結果を図1に示す。0.5mM SUL,0.1mM SUD又は0.2mM SUF添加後24時間における活性酸素量の測定結果を図1左上に、10μM 5−FU又は0.2mM NS−398添加後の活性酸素量の測定結果を図1右上に、0.5mM SUL添加後の活性酸素量の経時的測定結果を図1左下に、それぞれ示す(薬剤処理が4時間以内のものは、carboxy−H2DCFDAをロードした後に薬剤を添加して測定)。また、0.25〜1mM SUL添加後24時間における活性酸素量の測定結果を図1右下に示す。
その結果、SULは添加後12時間〜24時間にピークとなる一過性の細胞内活性酸素量増加作用を有し、またその増加量はSULの用量依存的であった。一方、抗癌剤5−FUやCOX−2選択的阻害作用を有するNSAIDであるNS−398にはこのような効果が認められなかった。
(2)細胞死誘導におけるプロテアゾーム阻害剤との併用効果
DLD−1細胞を培養しているRPMI640培養液(10%仔牛血清を含む)中に、SUL、SUD、SUF、NS−398又は5−FUを添加し、48時間後にトリパンブルー染色排出能によって細胞死を評価した。すなわち、トリパンブルー染色で青色に染色された細胞を死細胞とし光学顕微鏡を用いて計測した。さらに細胞死の解析としてアネキシンVとヨウ化プロピジウム(PI)によるニ重染色によってアポトーシスか否かの検討を行った。すなわち、アポトーシス細胞を同定するため、Annexin V-EGFP Apoptosis Detection Kit(MBL)を使用し、1×106の細胞をGFP−アネキシンVに30分反応後、洗浄し、さらにPIに15分反応させ、フローサイトメトリーを用い解析した。また、両者の必要量を詳細に検討するためにコロニーアッセイを行った。3000個のDLD−1細胞を60mmシャーレにまき、様々な濃度のSUL及びPS−341を添加しコロニー形成数を約9日後に数えた。
DLD−1細胞を培養しているRPMI640培養液(10%仔牛血清を含む)中に、SUL、SUD、SUF、NS−398又は5−FUを添加し、48時間後にトリパンブルー染色排出能によって細胞死を評価した。すなわち、トリパンブルー染色で青色に染色された細胞を死細胞とし光学顕微鏡を用いて計測した。さらに細胞死の解析としてアネキシンVとヨウ化プロピジウム(PI)によるニ重染色によってアポトーシスか否かの検討を行った。すなわち、アポトーシス細胞を同定するため、Annexin V-EGFP Apoptosis Detection Kit(MBL)を使用し、1×106の細胞をGFP−アネキシンVに30分反応後、洗浄し、さらにPIに15分反応させ、フローサイトメトリーを用い解析した。また、両者の必要量を詳細に検討するためにコロニーアッセイを行った。3000個のDLD−1細胞を60mmシャーレにまき、様々な濃度のSUL及びPS−341を添加しコロニー形成数を約9日後に数えた。
トリパンブルー染色排出能による細胞死の結果を図2に示す。その結果、プロテアゾーム阻害剤PS−341(20nM)添加後48時間において約17%の細胞死が生じるが、0.5mM SULを同時に添加することによって、約80%の細胞死が生じることがわかった。0.5mM SUL単独では約6%の細胞死が生じるのみでコントロールと同等と思われる。同様に0.1mM SUD又は0.2mM SUFの併用によって、約40〜50%の細胞死が生じる。一方、活性酸素増加効果の認めない10μM 5−FU又は0.2mM NS−398ではこのような細胞死の増強効果を認められなかった。
また、アネキシンVとヨウ化プロピジウムによるニ重染色の結果を図3に示す。その結果、アネキシンVとヨウ化プロピジウムとの二重染色によってプロテアゾーム阻害剤PS−341(20nM)と0.5mM SUL併用療法によってアポトーシスが増加していることが明らかになった。さらに、コロニーアッセイの結果を図4に示す。その結果、コロニー形成能試験によってPS−341(8nM)添加においても、0.08mM SULを併用することによって、コロニー形成がほぼ完全に阻害されることが判明した。
(3)併用療法の細胞内活性酸素量の増加効果
DLD−1細胞におけるPS−341及びSULとの併用による活性酸素量を、carboxy−H2DCFDAを用いて測定した。結果を図5に示す。PS−341(20nM)自体も活性酸素量を増加させるが、その量はSULに比較してわずかであり、48時間後にようやく明らかな増加が認められた(図5上)。しかし、0.5mM SUL併用することによって、36時間後においても著明に活性酸素の量が増加することが明らかになった(図5下)。
DLD−1細胞におけるPS−341及びSULとの併用による活性酸素量を、carboxy−H2DCFDAを用いて測定した。結果を図5に示す。PS−341(20nM)自体も活性酸素量を増加させるが、その量はSULに比較してわずかであり、48時間後にようやく明らかな増加が認められた(図5上)。しかし、0.5mM SUL併用することによって、36時間後においても著明に活性酸素の量が増加することが明らかになった(図5下)。
(4)細胞内酸化ストレスにおける併用療法の増強効果
細胞内酸化ストレスを評価するために、一般的なウエスタンブロット法(HO−1はトランスダクションラボラトリー社の抗体を用いた。また蛋白量の評価のために熱ショック蛋白70の発現量もサンタクルーズ社の抗体を用いて評価した)により検討した。また、HO−1発現誘導に関わるストレスキナ−ゼ蛋白の活性化についてもウエスタンブロット法(p38、JNK、及びそれらのリン酸化抗体はセルシグナリング社、及びサンタクルーズ社の抗体を用いて評価した)により検討した。すなわち、細胞抽出液を電気泳動し、ニトロセルロース膜に転写後ブロッキングし、各1次抗体(抗Heme Oxygenage-1抗体、抗hsc-70抗体、抗p38抗体、抗phospho-p38抗体、抗JNK抗体、抗phospho-JNK抗体)と4℃、一晩反応させ、その後適切な2次抗体(horseradish peroxidase (HRP)標識抗マウス又は家兎IgG抗体)と室温1時間反応させ、ECLウエスタンブロッティング検出システムを用いてシグナルを検出した。
細胞内酸化ストレスを評価するために、一般的なウエスタンブロット法(HO−1はトランスダクションラボラトリー社の抗体を用いた。また蛋白量の評価のために熱ショック蛋白70の発現量もサンタクルーズ社の抗体を用いて評価した)により検討した。また、HO−1発現誘導に関わるストレスキナ−ゼ蛋白の活性化についてもウエスタンブロット法(p38、JNK、及びそれらのリン酸化抗体はセルシグナリング社、及びサンタクルーズ社の抗体を用いて評価した)により検討した。すなわち、細胞抽出液を電気泳動し、ニトロセルロース膜に転写後ブロッキングし、各1次抗体(抗Heme Oxygenage-1抗体、抗hsc-70抗体、抗p38抗体、抗phospho-p38抗体、抗JNK抗体、抗phospho-JNK抗体)と4℃、一晩反応させ、その後適切な2次抗体(horseradish peroxidase (HRP)標識抗マウス又は家兎IgG抗体)と室温1時間反応させ、ECLウエスタンブロッティング検出システムを用いてシグナルを検出した。
結果を図6に示す。SUL単独では明らかなHO−1の発現誘導は生じないが、PS−341単独添加後24時間において発現の増加を認め、さらに両者の併用では明らかに発現誘導の増強効果があった(図6上)。同様にSUD及びSUFにおいても発現誘導の増強効果を認め、一方、NS−398及び5−FUでは、増強効果を認めなかった(図6中)。スリンダック及びPS−341併用において、p38及びJNKのリン酸化が亢進し両者の活性化が著明に生じていた(図6下)。
(5)スカベンジャー N−アセチルシステイン(L−NAC)による併用療法の阻害効果L−NAC(Sigma)は、活性酸素をグルタチオンペロキシダーゼの機能亢進によって低下させることが知られている。そこで、10mM L−NAC添加による併用療法の細胞死誘導に与える影響を調べた。結果を図7に示す。その結果、PS−341とSULとの併用療法による細胞死誘導が、L−NACによってほぼ完全に阻害された。このことは、図8に示すように、アネキシンVとヨウ化プロピジウムとの二重染色によるアポトーシスの検討においても著明に抑制された。また併用療法後48時間における活性酸素量も著明に減少した(図8右上)。
(6)併用療法によって生じるDNA傷害の増強効果
DNA傷害を一般的なウエスタンブロット法(HO−1はトランスダクションラボラトリー社の抗体を用いた。リン酸化ヒストンH2AXに対する抗体はUBI社、また熱ショック蛋白70に対する抗体はサンタクルーズ社の抗体を用いて評価した)により検討した。
DNA傷害を一般的なウエスタンブロット法(HO−1はトランスダクションラボラトリー社の抗体を用いた。リン酸化ヒストンH2AXに対する抗体はUBI社、また熱ショック蛋白70に対する抗体はサンタクルーズ社の抗体を用いて評価した)により検討した。
PS−341とSULとの併用療法による酸化ストレス及びDNA傷害への影響とL−NACによるその阻害効果の結果を図9に示す。図9からわかるように、PS−341(20nM)及びSUL(0.5mM)添加24時間後において細胞内酸化ストレスの増加(HO−1の発現亢進)に伴ってヒストンH2AXのリン酸化が起こっているのに対し、単独添加では顕著な効果を認めなかった。このことは、酸化ストレスによってDNA傷害が生じていることを示唆している。
また、PS−341とSULとの併用療法よって生じる酸化的DNA傷害(8−oxoguanine)とL−NACによるその阻害効果を調べた。酸化的DNA損傷の解析には、Oxidative DNA Damage Assay Kit(Kamiya Biomedical Company)を使用した。 8-oxoguanineの有無をフローサイトメトリーにて解析することにより酸化的DNA損傷の程度を確認した。結果を図10に示す。図10からわかるように、酸化ストレスに特異的に見られる8−oxoguanineを検出すると単独にても増加しているが、併用療法でさらに増加しており、これらの増加はL−NACでほぼ完全に抑制されていた。
さらに、PS−341とSULとの併用療法よって生じる酸化的DNA傷害(8−deoxyguanine)とL−NACによるその阻害効果を調べた。酸化的DNA損傷の解析には、リン酸化H2AX及び8−deoxyguanineに対する特異的な抗体を使用し、共焦点顕微鏡(ZEISS社, Pascal)を用いて観察した。 結果を図11に示す。上段は、リン酸化H2AXを示された処理後に観察したものであり、下段は、リン酸化H2AXとともに8-deoxyguanineの有無を同一細胞において観察したものである。図11からわかるように、併用療法で明らかにリン酸化H2AXが増加し、この細胞では、酸化ストレスに特異的に見られる8−deoxyguanineも強く検出された。さらに、これらの増加はL−NACでほぼ完全に抑制されていた。
また、PS−341以外のプロテアソ−ム・インヒビターにおける効果をみるために、前述したPS−341のかわりにPSIを使用しSULとの併用療法をこれまで示されたと同様に、検討した。結果を図12に示す。図12からわかるように、PSIによってもPS−341と同等な細胞死の増加が認められた。このことは、多くのプロテアソ−ム阻害剤がSULとの併用療法に利用できることを示している。
[ヒト大腸癌細胞BM314における併用療法の効果]
実施例1に示されるPS−341とSULとの併用療法の効果を他の大腸癌細胞BM314についても検討した。JCRBから入手したBM314を用いて、実施例1と同様に、20nM PS−341、0.5mM SUL及び10mM L−NACの添加後48時間における細胞死、添加後24時間における活性酸素量及び酸化ストレス関連蛋白の発現を調べた。結果を図13に示す。その結果、添加48時間後において明らかな細胞死の増加(図13左)を、また添加24時間後において明らかな活性酸素の増加(図13中)及び酸化ストレスの増加(図13右)が認められた。さらにL−NACによって併用療法がもたらす細胞内酸化ストレス(HO−1発現亢進、p38及びJNKのリン酸化)が著明に抑制されていた。したがって、PS−341とSULとの併用療法の効果は、BM314においてもDLD−1と同等に奏されることがわかった。
実施例1に示されるPS−341とSULとの併用療法の効果を他の大腸癌細胞BM314についても検討した。JCRBから入手したBM314を用いて、実施例1と同様に、20nM PS−341、0.5mM SUL及び10mM L−NACの添加後48時間における細胞死、添加後24時間における活性酸素量及び酸化ストレス関連蛋白の発現を調べた。結果を図13に示す。その結果、添加48時間後において明らかな細胞死の増加(図13左)を、また添加24時間後において明らかな活性酸素の増加(図13中)及び酸化ストレスの増加(図13右)が認められた。さらにL−NACによって併用療法がもたらす細胞内酸化ストレス(HO−1発現亢進、p38及びJNKのリン酸化)が著明に抑制されていた。したがって、PS−341とSULとの併用療法の効果は、BM314においてもDLD−1と同等に奏されることがわかった。
[ヒト大腸癌細胞COLO201における併用療法の効果]
実施例1に示されるPS−341とSULとの併用療法の効果を他の大腸癌細胞COLO201についても検討した。JCRBから入手したCOLO201を用いて、実施例1と同様に、20nM PS−341、0.5mM SUL及び10mM L−NACの添加後72時間における細胞死、添加後48時間における活性酸素量及び酸化ストレス関連蛋白の発現を調べた。結果を図14に示す。その結果、添加72時間後において明らかな細胞死の増加(図14左)を、また添加48時間後において明らかな活性酸素の増加(図14中)及び酸化ストレスの増加(図14右)が認められた。さらにL−NACによって併用療法がもたらす細胞内酸化ストレス(HO−1発現亢進、p38及びJNKのリン酸化)が著明に抑制されていた。したがって、PS−341とSULとの併用療法の効果は、DLD−1と同様に、COLO201においても奏されることがわかった。
実施例1に示されるPS−341とSULとの併用療法の効果を他の大腸癌細胞COLO201についても検討した。JCRBから入手したCOLO201を用いて、実施例1と同様に、20nM PS−341、0.5mM SUL及び10mM L−NACの添加後72時間における細胞死、添加後48時間における活性酸素量及び酸化ストレス関連蛋白の発現を調べた。結果を図14に示す。その結果、添加72時間後において明らかな細胞死の増加(図14左)を、また添加48時間後において明らかな活性酸素の増加(図14中)及び酸化ストレスの増加(図14右)が認められた。さらにL−NACによって併用療法がもたらす細胞内酸化ストレス(HO−1発現亢進、p38及びJNKのリン酸化)が著明に抑制されていた。したがって、PS−341とSULとの併用療法の効果は、DLD−1と同様に、COLO201においても奏されることがわかった。
[ヒト口腔内扁平上皮癌細胞SAS,OSC20及びHSC−2における併用療法の効果]
大腸癌は腺癌であるが他の癌種として扁平上皮癌も高頻度にみられる。PS−341とSULとの併用療法がこの扁平上皮癌に対しても同様の効果を示すか否かを3種類の細胞株を用いて検討した。3種類の細胞株(ヒト口腔内扁平上皮癌細胞SAS,OSC20及びHSC−2)は、JCRBから入手した。
大腸癌は腺癌であるが他の癌種として扁平上皮癌も高頻度にみられる。PS−341とSULとの併用療法がこの扁平上皮癌に対しても同様の効果を示すか否かを3種類の細胞株を用いて検討した。3種類の細胞株(ヒト口腔内扁平上皮癌細胞SAS,OSC20及びHSC−2)は、JCRBから入手した。
(1)細胞内活性酸素量に対する効果
0.25mM SULをSAS又はHSC−2細胞に添加、また0.5mM SULをOSC20細胞に添加後、24時間における活性酸素量をcarboxy−H2DCFDAを用いて測定した。結果を図15に示す。その結果、いずれの細胞株に対しても、SUL添加24時間後において明らかな細胞内活性酸素量の増加を認めた(図15;太い実線)。
0.25mM SULをSAS又はHSC−2細胞に添加、また0.5mM SULをOSC20細胞に添加後、24時間における活性酸素量をcarboxy−H2DCFDAを用いて測定した。結果を図15に示す。その結果、いずれの細胞株に対しても、SUL添加24時間後において明らかな細胞内活性酸素量の増加を認めた(図15;太い実線)。
(2)併用療法の細胞死誘導能
PS−341(10nM)及びSUL(0.25mM)をSAS細胞及びHSC−2細胞に、PS−341(20nM)及びSUL(0.5mM)をOSC20細胞にそれぞれ添加し、添加48時間後における細胞死をトリパンブルー染色排出能によって評価した。結果を図16に示す。その結果、PS−341とSULとの併用により、添加48時間後において明らかな細胞死の増加効果を認めた(図16;黒棒)。したがって、PS−341とSULとの併用療法は、扁平上皮癌においても大腸癌と同様の効果を奏することがわかった。
PS−341(10nM)及びSUL(0.25mM)をSAS細胞及びHSC−2細胞に、PS−341(20nM)及びSUL(0.5mM)をOSC20細胞にそれぞれ添加し、添加48時間後における細胞死をトリパンブルー染色排出能によって評価した。結果を図16に示す。その結果、PS−341とSULとの併用により、添加48時間後において明らかな細胞死の増加効果を認めた(図16;黒棒)。したがって、PS−341とSULとの併用療法は、扁平上皮癌においても大腸癌と同様の効果を奏することがわかった。
[マウスB16メラノーマ癌細胞における併用療法の効果]
次に、宿主がマウスの場合、またメラノーマに対してもPS−341とSULとの併用療法が同様の効果を示すか否かについて検討した。JCRBから入手したマウスメラノーマB16細胞に0.1又は0.5mMのSUL添加後24時間における活性酸素量をcarboxy−H2DCFDAを用いて測定した。結果を図17(左)に示す。その結果、SUL(0.5mM)添加24時間後において明らかな細胞内活性酸素量の増加を認めた(太い実線)。また、B16細胞にPS−341(20nM)及びSUL(0.5mM)添加36時間後における細胞死をトリパンブルー染色排出能によって評価した。結果を図17(右)に示す。その結果、PS−341とSULとの併用は明らかに細胞死誘導の増強効果を示した(灰色棒と黒棒)。したがって、マウスのメラノーマに対しても併用療法が有効であることがわかった。
次に、宿主がマウスの場合、またメラノーマに対してもPS−341とSULとの併用療法が同様の効果を示すか否かについて検討した。JCRBから入手したマウスメラノーマB16細胞に0.1又は0.5mMのSUL添加後24時間における活性酸素量をcarboxy−H2DCFDAを用いて測定した。結果を図17(左)に示す。その結果、SUL(0.5mM)添加24時間後において明らかな細胞内活性酸素量の増加を認めた(太い実線)。また、B16細胞にPS−341(20nM)及びSUL(0.5mM)添加36時間後における細胞死をトリパンブルー染色排出能によって評価した。結果を図17(右)に示す。その結果、PS−341とSULとの併用は明らかに細胞死誘導の増強効果を示した(灰色棒と黒棒)。したがって、マウスのメラノーマに対しても併用療法が有効であることがわかった。
[ヒトリンパ性白血病細胞Jurkatにおける併用療法の効果]
リンパ性白血病細胞Jurkatに対しての併用療法の効果を検討した。JCRBから入手したJurkat細胞に0.1又は0.5mMのSUL添加後24時間における活性酸素量をcarboxy−H2DCFDAを用いて測定した。結果を図18(左)に示す。その結果、SUL(0.5mM)添加24時間後において明らかな細胞内活性酸素量の増加を認めた(太い実線 0.5mM;細い実線 0.1mM)。また、Jurkat細胞にPS−341(10nM)及びSUL(0.25mM)添加36時間後における細胞死をトリパンブルー染色排出能によって評価した。結果を図18(右)に示す。その結果、PS−341とSULとの併用は明らかに細胞死誘導の増強効果を示した(黒棒)。したがって、リンパ性白血病細胞に対しても併用療法が有効であることがわかった。
リンパ性白血病細胞Jurkatに対しての併用療法の効果を検討した。JCRBから入手したJurkat細胞に0.1又は0.5mMのSUL添加後24時間における活性酸素量をcarboxy−H2DCFDAを用いて測定した。結果を図18(左)に示す。その結果、SUL(0.5mM)添加24時間後において明らかな細胞内活性酸素量の増加を認めた(太い実線 0.5mM;細い実線 0.1mM)。また、Jurkat細胞にPS−341(10nM)及びSUL(0.25mM)添加36時間後における細胞死をトリパンブルー染色排出能によって評価した。結果を図18(右)に示す。その結果、PS−341とSULとの併用は明らかに細胞死誘導の増強効果を示した(黒棒)。したがって、リンパ性白血病細胞に対しても併用療法が有効であることがわかった。
[ヒト胃癌細胞MKN45における併用療法の効果]
ヒト胃癌細胞MKN45に対しての併用療法の効果を検討した。JCRBから入手したMKN45細胞に0.1又は0.5mMのSUL添加後24時間における活性酸素量をcarboxy−H2DCFDAを用いて測定した。結果を図19(左)に示す。その結果、SUL(0.5mM)添加24時間後において明らかな細胞内活性酸素量の増加を認めた(太い実線 0.5mM;細い実線 0.1mM)。また、MKN45細胞にPS−341(20nM)及びSUL(0.5mM)添加48時間後における細胞死をトリパンブルー染色排出能によって評価した。結果を図19(右)に示す。その結果、PS−341とSULとの併用は明らかに細胞死誘導の増強効果を示した(黒棒)。したがって、ヒト胃癌細胞に対しても併用療法が有効であることがわかった。
ヒト胃癌細胞MKN45に対しての併用療法の効果を検討した。JCRBから入手したMKN45細胞に0.1又は0.5mMのSUL添加後24時間における活性酸素量をcarboxy−H2DCFDAを用いて測定した。結果を図19(左)に示す。その結果、SUL(0.5mM)添加24時間後において明らかな細胞内活性酸素量の増加を認めた(太い実線 0.5mM;細い実線 0.1mM)。また、MKN45細胞にPS−341(20nM)及びSUL(0.5mM)添加48時間後における細胞死をトリパンブルー染色排出能によって評価した。結果を図19(右)に示す。その結果、PS−341とSULとの併用は明らかに細胞死誘導の増強効果を示した(黒棒)。したがって、ヒト胃癌細胞に対しても併用療法が有効であることがわかった。
[ヒト子宮癌細胞HeLaにおける併用療法の効果]
ヒト子宮癌細胞HeLaに対しての併用療法の効果を検討した。JCRBから入手したHeLa細胞に0.25mMのSUL添加後24時間における活性酸素量を、carboxy−H2DCFDAを用いて測定した結果を図20(左)に示す。その結果、SUL(0.25mM)添加24時間後において明らかな細胞内活性酸素量の増加を認めなかった。また、MKN45細胞にPS−341(10nM)及びSUL(0.25mM)添加48時間後における細胞死をトリパンブルー染色排出能によって評価した。結果を図20(右)に示す。その結果、PS−341とSULとの併用は明らかな細胞死誘導の増強効果を示さなかった(黒棒)。したがって、SULによる活性酸素増量作用のみられないヒト子宮癌細胞に対しては、十分な併用療法の効果が得られないことがわかった。
ヒト子宮癌細胞HeLaに対しての併用療法の効果を検討した。JCRBから入手したHeLa細胞に0.25mMのSUL添加後24時間における活性酸素量を、carboxy−H2DCFDAを用いて測定した結果を図20(左)に示す。その結果、SUL(0.25mM)添加24時間後において明らかな細胞内活性酸素量の増加を認めなかった。また、MKN45細胞にPS−341(10nM)及びSUL(0.25mM)添加48時間後における細胞死をトリパンブルー染色排出能によって評価した。結果を図20(右)に示す。その結果、PS−341とSULとの併用は明らかな細胞死誘導の増強効果を示さなかった(黒棒)。したがって、SULによる活性酸素増量作用のみられないヒト子宮癌細胞に対しては、十分な併用療法の効果が得られないことがわかった。
[考察]
NSAIDであるSULとその代謝物が大腸癌細胞株において活性酸素(ROS)を生成し、プロテアソーム・インヒビターであるPS−341の抗腫瘍効果を高めることがわかった。この効果はHela細胞では見られなかったことから大腸癌により選択的にみられ、この併用療法が癌のターゲティング療法として有用であることを示している。さらにこれら薬剤はコロニー形成試験で示されたように臨床で使用できる濃度(PS−341の常用量投与後の最高血中濃度は、0.1―1mMであり、またSULのそれは、10〜20μMとされている)で効果があることも非常に有利である。
NSAIDであるSULとその代謝物が大腸癌細胞株において活性酸素(ROS)を生成し、プロテアソーム・インヒビターであるPS−341の抗腫瘍効果を高めることがわかった。この効果はHela細胞では見られなかったことから大腸癌により選択的にみられ、この併用療法が癌のターゲティング療法として有用であることを示している。さらにこれら薬剤はコロニー形成試験で示されたように臨床で使用できる濃度(PS−341の常用量投与後の最高血中濃度は、0.1―1mMであり、またSULのそれは、10〜20μMとされている)で効果があることも非常に有利である。
上記実施例からもわかるように、SULとその代謝物は薬剤添加4時間後よりROSを生成することがわかった。ROS生成の時間経過はPS−341によるものと全く異なるため、ROS生成機序は明らかではないが、いくつかの機序が考えられる.一つはSULがミトコンドリアの電子伝達系に作用する可能性である.これを確認するために、電子伝達系を阻害するサイクロスポリンによる影響をみたがSULによるROS生成には明らかな効果は認められなかった。
SULがNADPHオキシダーゼ、SOD、グルタチオン ペロキシダーゼ(GPX)、カタラーゼなどの酵素活性に作用する可能性も考えられる。以前の報告では、NSAIDsがNADPHオキシダーゼ活性を阻害する、あるいは影響を与えないなど様々であり、細胞によって異なる結果が報告されていることから、今後SULが与えるこの活性への影響を検討すべきと思われる。また、SUL単独によるROS生成は一過性なものであって、細胞死を引き起こすまではいかないことから細胞毒性の少ない・O2 - とH2O2が主に産生されている可能性がある。このことは、ONOO- やHO・ などへの変換をSULが抑制している可能性を示唆している。さらにSULがROSのスカベンジャーであるSOD、GPX、カタラーゼに影響している可能性も否定できない。
本発明者らは、NSAIDsとPS−341が大腸癌で細胞死を増強することを明らかにした。ここで重要なのはそれぞれの薬剤のROSを生成する時間の違いである。SULにおけるROS生成のピークは12時間でありその後徐々に低下し、72時間後には全くみられなくなる。しかしPS−341によるROS生成は24時間後より検出できその後徐々に増加する。これらを併用することによりROSを高濃度に維持することができ、酸化ストレスを強めることにより細胞死を増強すると考えられる。
さらにPS−341単独にても酸化的DNA障害がおこるがSULでみられたようなROSの生成はみられないことから、PS−341によるDNA障害はROSの産生亢進によるものと異なる機序が関与している可能性もある。実際PS−341がDNA修復酵素活性を抑制するとの報告もあり、PS−341単独で8-oxoguanineもしくは8-deoxyguanineの量が増えていることから、PS−341がDNA修復機能を阻害し、このことが酸化ストレスによるDNA障害の蓄積に関与した可能性もある。また、プロテアゾーム阻害作用に基づく分解・除去機能の抑制によって傷害をうけた蛋白質が蓄積する可能性もある。
SULとその代謝物がPS−341との併用に優れており,さらにこの効果はSUF(Sulindac sulfone)でも同様の効果があることからCOX非依存性であることがわかった。SULによる粘膜障害などの副作用を考えると、SUFもしくはこの誘導体が最も良い併用薬になりうると考えられる。
SULとその代謝物及びPS−341の併用による細胞死の分子機序は未だ明確になっていないが、ROS産生に依存することが明らかとなった。このことは現在使用されているDNA合成をターゲットとする抗癌剤とは全くことなるものであり、今後大腸癌等の各種癌に対する抗癌剤治療の新たなストラテジーとなるものと考えられる。
Claims (12)
- 非ステロイド系抗炎症剤とプロテアソーム・インヒビターとを有効成分として含有することを特徴とする癌治療用組成物。
- 非ステロイド系抗炎症剤が、スリンダク又はその代謝産物であるスリンダックスルフィド若しくはスリンダックスルホンであることを特徴とする請求項1記載の癌治療用組成物。
- プロテアソーム・インヒビターが、Bortezomibであることを特徴とする請求項1又は2記載の癌治療用組成物。
- 癌が、非ステロイド系抗炎により活性酸素の増加効果を示す癌であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の癌治療用組成物。
- 非ステロイド系抗炎により活性酸素の増加効果を示す癌が、大腸癌、胃癌などの消化器腺癌、口腔癌、肺癌、子宮頚癌などの扁平上皮癌、メラノーマ、又は骨髄腫、リンパ性白血病などの血液癌であることを特徴とする請求項4記載の癌治療用組成物。
- 請求項1〜5のいずれか記載の癌治療用組成物を投与することを特徴とする癌の治療方法。
- 非ステロイド系抗炎症剤とプロテアソーム・インヒビターとを有効成分として含有することを特徴とする細胞内活性酸素誘発剤。
- 非ステロイド系抗炎症剤が、スリンダク又はその代謝産物であるスリンダックスルフィド若しくはスリンダックスルホンであることを特徴とする請求項7記載の細胞内活性酸素誘発剤。
- プロテアソーム・インヒビターが、Bortezomibであることを特徴とする請求項7又は8記載の細胞内活性酸素誘発剤。
- 非ステロイド系抗炎症剤とプロテアソーム・インヒビターとを有効成分として含有することを特徴とするアポトーシス誘導剤。
- 非ステロイド系抗炎症剤が、スリンダク又はその代謝産物であるスリンダックスルフィド若しくはスリンダックスルホンであることを特徴とする請求項10記載のアポトーシス誘導剤。
- プロテアソーム・インヒビターが、Bortezomibであることを特徴とする請求項10又は11記載のアポトーシス誘導剤。
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