JP2005246468A - 潤滑剤付着性と耐焼付き性に優れた温熱間加工用被覆工具 - Google Patents

潤滑剤付着性と耐焼付き性に優れた温熱間加工用被覆工具 Download PDF

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Abstract

【課題】 潤滑剤付着性、耐焼付き性に優れる温熱間加工用被覆工具とその製造方法を提供する。
【解決手段】 熱間金型用合金工具鋼もしくは高速度工具鋼を母材として、Ti,Zr,V,Cr,Al,Si,Bの1種以上を主体とした窒化物層もしくは炭窒化物層であるa層を形成した温熱間加工用工具であって、該a層の上には、Fe,Mo,Wのうちの1種以上を主体とした硫化物層であるb層が存在し、かつ被覆の最表層の表面粗さがRz:15超〜40μmである潤滑剤付着性および耐焼付き性に優れた温熱間加工用被覆工具である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、温間ないしは熱間で金属同士摺動を伴う環境にて使用される鍛造用金型等の温熱間加工用被覆工具に関するものである。
鋼の温熱間加工では、一般的には被加工材を500℃から1000℃程度の高温に加熱して作業を行う。これによって、被加工材の変形抵抗は常温のそれより小さくなるものの、使用される工具においても被加工材からの熱影響を大きく受けて、たとえ熱間金型用合金工具鋼や高速度工具鋼といった高強度合金工具鋼を金型材として使用したとしても、金型の機械的特性は常温に比べて大きく劣化する。更には、例えば温熱間鍛造においては、型打ちの都度、金型に潤滑剤が吹き付けられるため、金型表面には熱サイクルによる熱応力が発生し、ヒートクラックや割れといった損耗が発生する。
このような過酷な使用環境に対応するために、温熱間加工用金型等の工具においては、従来より表面に窒化あるいは浸硫窒化処理が施されてきた。これは、外部より工具表面0.05〜0.30mm程度の深さまでN(窒素)原子を導入して、N(窒素)原子を多量に固溶した窒化層を形成させる手法である。この窒化層は、高温での耐摩耗性を有するため、温熱間域で使用される金型等の工具の寿命改善に大きな役割を果たしてきた。
しかし、製造業においては、より一層の低コスト化を実現するために、生産効率を高める取り組みが進められている。これにより、製品のニアネットシェイプ化や高精度化が強く求められるとともに、金型等の工具の寿命改善要求も一段と厳しいものとなってきている。更に近年では、地球環境への配慮という社会的要請から、金型等の工具に吹き付けられる潤滑剤が、これまでの黒鉛系から白色系へ移行するなど、金型等の工具の使用条件も変化し、それによって金型等の工具にかかる負荷の様相も変わりつつある。このようなことから、従来までの窒化や浸硫窒化処理だけでは、十分な特性を示さなくなってきている。
そこで、温熱間加工用金型等の工具の表面を更に強化する手段として、複合コーティングの適用が検討されている。複合コーティングであれば、様々な機能を有する皮膜を段階的に積層させて、その時点で最も必要とされる機能に特化した表面状態を、意図的に出現させることが可能となる。例えば、窒化した母材上に、耐摩耗性を有するCrやTiなどの窒化物や炭窒化物といった硬質皮膜を蒸着し、更にその上には、耐焼付き性を改善するための自己潤滑層や、潤滑剤付着性を向上させる金属層を形成させた複合皮膜構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2002−292442号公報
従来、温熱間加工用金型等の工具における窒化物もしくは炭窒化物といった硬質皮膜は、冷間加工用金型等の工具に適用した場合ほど十分には機能しないと考えられてきた。しかし、特許文献1のように、各積層に機能を振り分けることによって、温熱間領域においても、硬質皮膜に十分な耐摩耗性を発現させることが可能となることが提案されている。特許文献1の効果は、自己潤滑層の機能もさることながら、潤滑剤付着性を高める金属層の効果によるところが大きい。
特許文献1においては、加工開始直後の、金型等の工具と被加工材のなじみが少ない段階においては、工具表面に潤滑剤の留まる量が多いほど、工具の損傷を小さく抑えることができるとして、工具の表面粗さを、JIS−B−0601−1994に規定された十点平均粗さRzにおいて4〜15μmに調整することが規定されており、この表面粗さを達成する目的で、工具最表面に金属層が必要とされている。
特許文献1は、温熱間加工初期における潤滑剤付着性を向上させる発明であるが、表面粗さRzが15μmを超えると、皮膜の剥離が生じてしまうと述べられている。表面粗さRzが15μmに至るまでは、表面粗さRzの増加につれて潤滑剤付着量も増加するが、表面粗さRzが15μmを超えると、皮膜が剥離しやすくなるので、潤滑剤付着量が急激に減少してしまうのである。
本発明の目的は、上記のような問題を解決した潤滑剤付着性、耐焼付き性に優れる温熱間加工用被覆工具を提供することである。
本発明者らは、上記問題について検討を重ねた結果、皮膜密着性が改善され、剥離が起こらなければ、表面粗さRzの増加とともに潤滑剤付着量を更に増加させることができ、耐焼付き性が向上することを確認した。そして、その面粗度の適正範囲は、特許文献1で示された範囲よりも広く、表面粗さRzにして15μmを超え40μmまでであること、また、表面粗さRzが適正範囲にあれば、必ずしも金属層は必要ではないこと、更には、適切な複合皮膜を達成するための製造方法を見いだし、本発明に至ったものである。
すなわち、本発明は、熱間金型用合金工具鋼もしくは高速度工具鋼を母材として、Ti,Zr,V,Cr,Al,Si,Bの1種以上を主体とした窒化物層もしくは炭窒化物層であるa層を形成した温熱間加工用工具であって、該a層の上には、Fe,Mo,Wのうちの1種以上を主体とした硫化物層であるb層が存在し、かつ被覆の最表層の表面粗さがRz:15超〜40μmである潤滑剤付着性および耐焼付き性に優れた温熱間加工用被覆工具である。
また、本発明は、前記a層の直上に、前記b層が存在し、該b層の直上にはTi,Zr,V,Cr,Al,Si,Cuの1種以上を主体とした金属層もしくは金属酸化物層であるc層が存在する潤滑剤付着性および耐焼付き性に優れた温熱間加工用被覆工具である。
また、本発明は、前記a層の直上に、Ti,Zr,V,Cr,Al,Si,Cuの1種以上を主体とした金属層もしくは金属酸化物層であるc層が存在し、該c層の直上には前記b層が存在する潤滑剤付着性および耐焼付き性に優れた温熱間加工用被覆工具である。
また、本発明の前記b層については、Nb,Ti,Cr,Nのうちの1種以上が合計で15原子%以下まで含まれていることが望ましい。
また、本発明の各層の厚さは、前記a層は1〜15μm、前記b層は0.5〜10μm、前記c層は1〜5μmであることが望ましい。
また、熱間金型用合金工具鋼もしくは高速度工具鋼でなる母材は、あらかじめ窒化処理が施されていることが望ましい。
本発明によれば、熱間金型用合金工具鋼もしくは高速度工具鋼において、機能の異なる複数の皮膜を複層構造とすることによって、潤滑剤付着性ならびに耐焼付き性に優れた温熱間加工用工具を提供することが可能となる。
本発明の最大の特徴は、温熱間加工用被覆工具において、熱間金型用合金工具鋼もしくは高速度工具鋼を母材として、その直上にTi、Zr、V、Cr、Al、Si、Bの1種以上を主体とした窒化物層もしくは炭窒化物層でなるa層を耐摩耗性を向上するために形成し、かつ該a層の上に、Fe、Mo、Wの1種以上を主体とした硫化物層であるb層を耐焼付き性改善のために形成すると同時に、潤滑剤の付着性を向上させるために被覆工具の最表層の表面粗さをRz(JIS−B−0601−1994に規定された十点平均粗さ):15超〜40μmとする構成とした点にある。なお、本発明における熱間金型用合金工具鋼とは、JIS−G−4404−2000において、熱間金型用として分類されている合金工具鋼(例えばSKT4やSKD61など)を指し、また、高速度工具鋼とは、JIS−G−4403−2000に規定されている高速度工具鋼(例えばSKHなど)を指す。更に、これらをもとにして開発された改良鋼をも含むものである。
熱間金型用合金工具鋼や高速度工具鋼は、Ti,Zr,V,Cr,Al,Si,Bのうちの1種以上を主体とした窒化物もしくは炭窒化物をその表面に形成することで、温熱間加工においても分解されにくく、安定して良好な耐摩耗性を示すことができる。これらの皮膜は厚いほど耐摩耗性の持続性が高まるが、圧縮応力が高いため、必要以上に厚く形成させると皮膜が破壊されてしまう。したがって、十分な耐摩耗性を有する健全な皮膜を得るためには、その厚さを1〜15μmに調整することが望ましい。より好ましい膜厚範囲は、2〜8μmである。
Fe,Mo,Wは硫化物を安定に形成する。これらは摩擦係数が低いために、温熱間加工用工具に被覆された場合、耐焼付き性の改善に非常に効果的である。これらは被加工材との摺動によって剥離し、いずれは消滅するものであるから、表面堆積量は多いほど効果の持続時間は長い。十分な耐焼付き性と生産性を考慮して、その皮膜厚さは、0.5〜10μmであることが望ましい。より好ましくは、2〜5μmである。
Nb,Ti,Crも硫化物を形成する元素である。そして、これらの元素がFe,Mo,Wのうち少なくとも1種以上を主体とする硫化物に含まれると、硫化物の硬度を高める作用を示す。この作用は、本発明の複合皮膜においては、皮膜持続性を高める効果をもたらすため、b層にはNb,Ti,Crが含まれることが好ましい。
また、N(窒素)についても同様に、Fe,Mo,Wのうち少なくとも1種類以上を主体とする硫化物に含まれると、硫化物の硬度を高める作用を示す。この作用により、本発明の複合皮膜においては、皮膜持続性を高める効果をもたらすため、b層にはNが含まれることが好ましい。
しかし、上記のNb,Ti,Cr,Nが必要以上にb層に含有されると、硬度が高くなりすぎて、該b層が本来有する低摩擦特性が損なわれて、耐焼付き性が劣化してしまうため、該b層のNb,Ti,Cr,Nの含有量は合計で15原子%以下であることが望ましい。
また、本発明におけるa層構成物質は、いずれもビッカース硬さHV1000以上の高硬度を有するため、非常に優れた耐摩耗性を示すものの、塑性変形能が著しく劣る。したがって、皮膜とした場合に母材が大きく変形すると、その変形に追随できずに破壊してしまう。このため、a層はできるだけ硬さの高い物質の上に蒸着されることが望ましく、この意味で、本発明の複合皮膜は、a層は母材直上に蒸着され、また、b層はa層の上に存在する形態でなければならない。
白色系潤滑剤は、液体状態で温熱間加工用工具の表面に留まり、該工具の熱によって水分が蒸発して、その残留物が該工具表面に付着した状態において潤滑および被加工材の型離れ性を発揮すると考えられている。この効果は、工具全体の温度が不均一な加工初期の段階において大きい。本発明者らの検討の結果、皮膜密着性が高い場合には、最表層の表面粗さがRzにおいて15μmを超える場合に潤滑剤付着性が向上することが明らかとなった。表面粗さRzが15μm未満の場合にも、ある程度の効果は認められるが、温熱間加工において十分な潤滑剤付着量を確保するために、表面粗さRzが15μmを超える場合により効果が大きい。一方、表面粗さRzが40μmを超えると、液体を表面に留める効果が著しく低減するため、潤滑剤は乾燥する前に該工具の付着面から流れ落ちてしまう。したがって、本発明が規定する温熱間加工用工具の最表層の表面粗さは、表面粗さRzが15超〜40μmである。より好ましくは、表面粗さRzが20〜35μmである。
本発明の温熱間加工用被覆工具の表面粗さは、金属層もしくは金属酸化物層を被覆することによって容易に調整することができる。その方法は、例えば物理蒸着法のうち、アーク放電式イオンプレーティング法において、金属ターゲットを使用して、ドロップレットと呼ばれる液滴を故意に発生させ、工具表面に付着、凝固させることによって可能である。本発明者らは、Ti,Zr,V,Cr,Al,Si,Cuといった金属元素を1種以上含むターゲットを使用し、成膜時の雰囲気圧力を調整することによって、本発明に見合った適切なドロップレットを容易に形成できることを確認した。よって、本発明の温熱間加工用被覆工具の表面粗さを容易に形成するために、Ti,Zr,V,Cr,Al,Si,Cuの1種以上を主体とした金属層もしくは金属酸化物層であるc層を本発明の温熱間加工用被覆工具の被覆構成に存在させることが好ましい。
c層は、本発明で規定された最表層の表面粗さRzを得るために形成されるものである。したがって、c層自体が適度な粗さを有する場合には、その上層の表面粗さを制御することが可能であるので、その存在位置が最表層であっても、a層とb層の間であっても、複合皮膜としての表面粗さを調整することは可能である。また、c層が適度な表面粗さをもたらすためには、ある程度以上の膜厚を有する必要があるが、必要以上に厚く成膜してしまうと、複合皮膜の密着性が低下してしまう。本発明で規定した表面粗さを得ながら、十分な皮膜密着性を確保するためにはc層の膜厚は、1〜5μmであることが好ましい。
また、本発明の温熱間加工用被覆工具は、母材の直上に耐摩耗性に優れるa層が存在し、かつその上層に耐焼付き性を向上させるb層が形成されると同時に、最表層の表面粗さRzが15超〜40μmであるので、その皮膜構成は、下層から表面に向かって母材、a層、b層、c層の順序であっても、母材、a層、c層、b層の順序であっても良い。これは、最表層の表面粗さは、潤滑剤の付着性を高めることで、該工具と被加工材のなじみが少ない加工初期の段階での摩耗による焼付きを防止する点に効果を有し、b層の存在は潤滑剤による耐焼付き性の効果が低下する加工中期の摩耗による焼付きを防止する点に効果を有するためである。
a層、b層、c層は、物理蒸着法によって形成させることが可能であるが、この方法によれば、成膜装置の性能上、不純物としてのO(酸素)が皮膜に混入することは避けがたい。その量は、多い場合には50原子%を超えることが確認されている。混入したO(酸素)原子が、各皮膜内でどのような状態となるかについては不明な部分もあるが、本発明で対象とした各窒化物、炭窒化物、硫化物などの機能を阻害しない限りにおいて、本発明の皮膜内にO(酸素)原子が存在しても差し支えない。
窒化物や炭窒化物のような硬質皮膜は、高硬度であるため、塑性変形能に乏しい。このため、母材が変形してしまうと、その変形に追従できずに破壊を起こして剥離してしまい、結果として皮膜密着性が劣ることになる。このような現象をなくすためには、母材の硬度を高めて、硬質皮膜との硬度差を小さくしておけば良く、この意味で、母材にあらかじめ窒化処理を施しておくことが望ましい。しかし、窒化処理によって母材表面にFeの炭窒化物層(白層)が生じてしまうと、硬質皮膜は白層との密着性が非常に悪いため、硬質皮膜がうまく蒸着されない。したがって、白層が生成されない条件で窒化処理を行うか、白層が生じてしまった場合には、硬質皮膜の蒸着前に、あらかじめ白層を除去しておくことが好ましい。
熱間金型用合金工具鋼(JIS鋼種SKD61)の焼鈍材について、角状試験片(高さ8mm×幅25mm×長さ25mm)と円柱状試験片(φ5mm×長さ50mm)、および皮膜断面組織観察用と表面粗さ測定用の試験片を用意した。これらについて、必要に応じてあらかじめ研磨を施して表面粗度を調整した後、1020℃×30分で油中焼入れを行った。次に(610℃〜630℃)×30分で空冷という時効処理を2回以上施して、硬さを44HRCに調整した。
これらの試験片に対して、圧力400Paの(0.3〜9.0体積%N+残部H)雰囲気中で、試験片に約0.10〜0.20W/cmの電力密度を印加して、560℃のもとでプラズマ窒化処理を施した。窒化層は、光学顕微鏡による試験片断面組織観察と、ビッカース硬さ測定によって確認される厚さが、およそ150μmになるように調整した。また、この処理によって最表面に白層は形成されていないことを確認した。
次に、各試験片について、物理蒸着法(PVD)によって表1に示すような表面皮膜を形成した。このうち、a層(窒化物層もしくは炭窒化物層)は、PVD法のうちのアーク放電式イオンプレーティング法により形成した。成膜には金属ターゲットを使用して、3.0Pa〜4.0PaのNもしくは(50体積%のN+50体積%のCH)雰囲気中、450℃に加熱した試験片に−50Vのバイアス電圧を印加した。膜厚は成膜時間によって調整した。
c層(金属層もしくは金属酸化物層)についても、アーク放電式イオンプレーティング法により形成した。成膜には金属ターゲットを使用して、4.0PaのAr雰囲気中、バイアス電圧を0V、試験片温度を350℃とした。膜厚は成膜時間によって調整した。
b層(硫化物層)はPVD法のうちのスパッタ法によって形成した。このときのバイアス電圧は−50Vとした。成膜時は0.35PaのArまたは(70体積%のAr+30体積%のN)雰囲気、試験片温度は300℃とした。膜厚は成膜時間によって調整した。
a層とb層の蒸着直前には、イオンエッチング(プラズマクリーニング)を行った。これは被処理物の最表層の汚れを除去し、活性な蒸着面を出現させることによって、その後の皮膜密着性を高めることが目的である。本実施例のイオンエッチングは、PVD装置内に取り付けられた熱フィラメントに50Aの放電電流を流してArイオンを発生させ、バイアス電圧を印加した被処理物にこのArイオンを衝突させる方法で行った。a層蒸着直前のイオンエッチング条件は、バイアス電圧を−200V、Arガス圧力2.0〜2.7Pa、時間7200sとした。
本発明を構成する各層のうち、硫化物であるb層は、膜密着性がa層やc層に比べて劣る。そこで、本実施例においては、b層蒸着直前にもイオンエッチングを施した。イオンエッチング条件は、バイアス電圧−300V、Arガス圧力0.35Pa、時間2400sとした。
各膜厚は、光学顕微鏡観察によって測定した。表面粗さRzは、オリンパス光学株式会社製走査型レーザー顕微鏡OLS1000によって、基準面積0.35mm×0.26mmとして測定および解析を行なった。
必要に応じて、b層の組成をX線光電子分光法により測定した。測定には試料の上面2mm×10mmの領域を使用し、測定の直前に、Arイオンによって30秒間スパッタを行って最表層を除去した。X線源には、Al(Kα1,2)を用いた。
以上の各試料の皮膜構成、各皮膜の膜厚および最表面の表面粗さRzを表1に示す。
Figure 2005246468
また、各試料の潤滑剤付着量は、300℃に加熱した角状試験片に対して、470mm離れた位置から白色系高分子潤滑剤10%溶液(大同化学工業(株)製ホットアクブル300TK)を2ml/秒で2秒間吹き付け、常温まで冷却した後にその重量変化を読み取るものとした。
耐焼付き性を評価するための熱間摺動試験は、円柱状試験片をボール盤に装着して403mm/秒で回転させ、これを600℃に加熱したJIS鋼種SNCM439に最大200MPaまでの所定荷重で押し付け、最長40秒間摩擦摺動させた。試験片が摺動面に焼付いた荷重を焼付き限界面圧として評価した。以上の潤滑剤付着量および焼付き限界面圧の測定評価結果を表2に示す。
Figure 2005246468
No.1とNo.2は、a層、b層、c層を有する。両者はb層とc層の順序が逆であるが、ともに高い耐焼付き性と潤滑剤付着性を示している。
No.3とNo.4は、c層を持たないが、窒化処理前に母材表面を研磨することによって、本発明規定の下限側の表面粗さに調整されたものである。潤滑剤付着量は、表面粗さが大きいほど多くなるため、他の本発明試料に比べて潤滑剤の付着量が少ないものの、温熱間加工用工具として十分な潤滑剤付着性を示している。
また、No.4は、a層の膜厚が、本発明規定の上限側の値を有しているが、熱間摺動試験においても皮膜が剥離することなく、良好な耐焼付き性を示している。
No.5,No.6,No.7は、いずれも、b層に本発明規定範囲内のNb,Ti,Cr,Nを含有しているが、いずれも優れた耐焼付き性を示している。
No.8は、b層の膜厚が本発明規定の下限側の値を有しているが、十分な耐焼付き性を示している。
No.9とNo.10は、それぞれb層、a層を有していない。このため、それぞれ低摩擦特性と耐摩耗性がもたらされず、熱間摺動試験において十分な耐焼付き性が得られていない。
No.11は、a層、b層の存在によって、熱間での摺動特性には優れる。しかし、表面粗さが本発明規定範囲未満であり、十分な潤滑剤付着量が得られていない。
No.12は、表面粗さが大きすぎるため、表面に留まる潤滑剤の量が少なくなっている。
No.13は、該c層の膜厚が小さすぎて、良好な表面粗さが得られていない。
次に、表1の本発明のうちNo.1、No.2、No.3と、比較例のうちNo.11、No.12、No.13と同様の皮膜を、ギヤ成形用熱間鍛造金型に適用し、実金型による寿命評価を行った。
上記の金型母材には、表3に示す化学成分を有し、硬さを55HRCに調整した高速度鋼を用い、あらかじめ実施例1と同様の窒化処理ならびに物理蒸着法による成膜を施した。
金型形状は、直径200mm、高さ100mmである。これを2500t鍛造プレス機にセットして、900℃に加熱されたS45Cを成形した。表4に各表面処理を施した金型の寿命を示す。
Figure 2005246468
Figure 2005246468
本発明の皮膜を有する金型は、いずれも20,000個以上を成形することができた。寿命に至った原因は、金型を長期間使用したことによる摩耗であった。
一方、比較例であるNo.12、No.13は、実施例1では良好な熱間摺動特性を示したものの、実施例2の実金型での評価ではいずれも低寿命となっている。これは、表面粗さが本発明の規定を大きく外れているために、潤滑剤付着量が少なく、加工初期段階で割れたためである。

Claims (6)

  1. 熱間金型用合金工具鋼もしくは高速度工具鋼を母材として、Ti,Zr,V,Cr,Al,Si,Bの1種以上を主体とした窒化物層もしくは炭窒化物層であるa層を形成した温熱間加工用工具であって、該a層の上には、Fe,Mo,Wのうちの1種以上を主体とした硫化物層であるb層が存在し、かつ被覆の最表層の表面粗さがRz:15超〜40μmであることを特徴とする潤滑剤付着性および耐焼付き性に優れた温熱間加工用被覆工具。
  2. 前記a層の直上に、前記b層が存在し、該b層の直上にはTi,Zr,V,Cr,Al,Si,Cuの1種以上を主体とした金属層もしくは金属酸化物層であるc層が存在することを特徴とする請求項1に記載の潤滑剤付着性および耐焼付き性に優れた温熱間加工用被覆工具。
  3. 前記a層の直上に、Ti,Zr,V,Cr,Al,Si,Cuの1種以上を主体とした金属層もしくは金属酸化物層であるc層が存在し、該c層の直上には前記b層が存在することを特徴とする請求項1に記載の潤滑剤付着性および耐焼付き性に優れた温熱間加工用被覆工具。
  4. 前記b層に、Nb,Ti,Cr,Nの1種以上が合計で15原子%以下含まれていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の潤滑剤付着性および耐焼付き性に優れた温熱間加工用被覆工具。
  5. 各層の厚さが、前記a層は1〜15μm、前記b層は0.5〜10μm、前記c層は1〜5μmであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の潤滑剤付着性および耐焼付き性に優れた温熱間加工用被覆工具。
  6. 前記母材にはあらかじめ窒化処理が施されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の潤滑剤付着性および耐焼付き性に優れた温熱間加工用被覆工具。
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