上記特許文献1に示したような放電体を用いた従来のイオン発生方法では、電極に交流電圧又は交番極性の電圧を印加している。電極に正の電圧を印加した場合、電極近傍の電界強度が電極近傍の気体において絶縁破壊を起こすまで強くなると、放電体において沿面放電が発生する。このとき、当該誘電体の表面は正に帯電する。次に、電極に印加される電圧の極性が負に変わってから沿面放電が起きると、事前に正に帯電していた誘電体表面の(正の)電荷が、放電により発生した負の電荷により中和される。つまり、放電による負の電荷が誘電体表面の(正の)電荷を中和するために消費されてしまう。
また、上述のように電極に印加される電圧の極性が負になったことにより、誘電体表面が負に帯電したあと、電極に印加される電圧の極性が再び正に変わったときも、放電による正の電荷が誘電体表面の(負の)電荷を中和するために消費されてしまう。この結果、従来のイオン発生方法では、放電体の周囲に正または負のイオンを効率的に放出することができなかった。
また、大気中で放電が発生すると、同時にオゾンが発生する。オゾンは高濃度になると人体に悪影響があることが知られている。そして、従来のイオン発生方法では、必要量のイオンを確保するために放電回数を増加させても、上述のように効率的にイオンを放出することが困難である一方で、オゾン等の副生成物の発生量が増えることになっていた。
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の目的は、オゾン等の副生成物の発生量が少なく、正イオンおよび負イオンを効率的に発生させることが可能なイオン発生用放電体およびイオン発生方法を提供することである。
この発明に従ったイオン発生用放電体は、誘電体と、一対の電極とを備える。一対の電極は誘電体を介して対向する。一対の電極はそれぞれが段差部分を有する。一対の電極のうちの一方の電極から他方の電極を見たときに、一方の電極の段差部分が他方の電極と重なるように、一対の電極は配置されている。
このようにすれば、一対の電極のうちの一方の電極から他方の電極の段差部分へ電気力線を集中させる(段差部分近傍の電界を強める)とともに、他方の電極から一方の電極の段差部分へ電気力線を集中させる(段差部分近傍の電界を強める)ことにより、一対の電極のそれぞれの段差部分近傍で放電を起こすことができる。この結果、一対の電極間に単極性の高電圧を印加したときに、一方の電極の段差部分近傍から例えば正のイオン、他方の電極の段差部分近傍から負のイオンを同時に放出することができる。なお、段差部分とは、電極において、誘電体に対して傾斜した壁面(たとえば側壁)が形成された部分を意味する。具体的には、電極の端部側面であって、誘電体表面に対する接触角が実質的に5°以上135°以下、より好ましくは実質的に90°となった側面が形成された部分が段差部分に該当する。
上記イオン発生用放電体において、一方の電極から他方の電極を見たときに、一方の電極の一部が他方の電極の一部と重なるように、一対の電極が配置されることが好ましい。また、一方の電極における段差部分は、他方の電極の一部と重なる上記一方の電極の一部の側面部分であってもよく、他方の電極における段差部分は、一方の電極の一部と重なる上記他方の電極の一部の側面部分であってもよい。
この場合、一方の電極と他方の電極とを互いにシフトした状態で配置するという簡単な構成により、段差部分となる側面部分を相手方の電極と重なるように配置することができる。
上記イオン発生用放電体において、一対の電極はそれぞれ面状の部分を備えていてもよい。一対の電極のそれぞれの一部は面状の部分の一部分であることが好ましい。
上記イオン発生用放電体において、一対の電極はそれぞれ凸形状の角部を有していてもよい。一方の電極から他方の電極を見たときに、一方の電極の角部が他方の電極と重なるとともに、他方の電極の角部が一方の電極と重なるように、一対の電極は配置されることが好ましい。一方の電極における段差部分は、他方の電極と重なる角部の側面部分であり、他方の電極における段差部分は、一方の電極と重なる角部の側面部分であることが好ましい。
この場合、角部において電界がより強まりやすいことから、当該角部において放電が起きる確率を向上させることができる。そして、角部において放電を確実に発生させることができるので、放電が開始する電圧(放電開始電圧)などのばらつきを低減できる。この結果、イオン発生条件を安定させることができる。
上記イオン発生用放電体において、一方の電極は角部を複数有していてもよい。一方の電極における複数の角部の間の距離は1mm以上であってもよい。また、他方の電極も角部を複数有していてもよい。他方の電極における複数の角部の間の距離は1mm以上であってもよい。
この場合、同じ電極における(たとえば同一面内の)角部の間で、各角部における放電が互いに干渉することを抑制できる。この結果、各角部における放電を安定的に発生させることができるので、イオンの発生状況を安定させることができる。
上記イオン発生用放電体において、一方の電極から他方の電極を見たときに、一方の電極において他方の電極と重なる段差部分の長さは、他方の電極において一方の電極と重なる段差部分の長さと実質的に等しいことが好ましい。
この場合、一方の電極から発生する第1の極性のイオン(たとえば正イオン)と、他方の電極から発生し、上記第1の極性とは異なる第2の極性のイオン(たとえば負イオン)との発生量をほぼ同等とすることができる。
上記イオン発生用放電体において、一方の電極から他方の電極を見たときに、誘電体のサイズは一対の電極のサイズより大きいことが好ましく、誘電体の端部から一対の電極の端部までの距離は3mm以上であることが好ましい。
このようにすれば、一方の電極から他方の電極を見た場合に、電極近傍において発生する放電が誘電体の外側へはみ出す可能性を低減できる。この結果、電極同士の電気的短絡を防ぐことができ、信頼性を向上することができるので、イオンを安定的に発生させることができる。
この発明に従ったイオン発生方法は、上記イオン発生用放電体を構成する一対の電極に電源装置を接続する工程と、電源装置から、一対の電極に単極性電圧を印加する工程とを備える。
このようにすれば、電極に単極性電圧を印加するので、交流電圧を電極へ印加した場合と比べて、それぞれの電極での放電により発生するイオンの極性を電圧の印加中は一定にすることができる。このため、交流電圧を電極に印加する場合と比べて、放電で生成された電荷が誘電体表面の(逆極性の)電荷を中和するために消費される程度を小さくできる。この結果、イオンを効率的に発生させることができる。
また、上述のように交流電圧を電極に印加する場合より、イオンを効率的に発生させることができるので、交流電圧を用いる場合よりも、所定量のイオンを発生させるために必要となる放電の回数を少なくすることができる。このため、放電に伴って発生するオゾンなどの副生成物の発生量を抑制することができる。
上記イオン発生方法において、単極性電圧は単極性パルス電圧であることが好ましい。
この場合、電極に一定の電圧を印加しつづける場合に比べて、電極に電圧が印加されている時間を短くできる。そのため、電極での放電により発生したイオンが電極に印加される電圧の影響を受ける度合いを小さくできる。この結果、より効率的にイオンを放電体から放出することができる。
このように、本発明によれば、誘電体を挟む一対の電極の両方において、その電極近傍で放電が発生するため、電極に単極性の高電圧を印加することにより正イオンと負イオンの両方を発生させることができる。また、本発明によるイオン発生方法によれば、本発明によるイオン発生用放電体に単極性の電圧を印加するので、イオンを効率的に発生させることができるとともに、オゾン等の副生成物の発生量を抑制できる。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
(実施の形態1)
図1は、本発明によるイオン発生用放電体の実施の形態1を示す平面模式図である。図2は、図1に示したイオン発生用放電体を上面側から見た斜視模式図である。図3は、図1に示したイオン発生用放電体を下面側から見た斜視模式図である。図4は、図1の線分IV−IVにおける断面模式図である。図1〜図4を参照して、本発明によるイオン発生用放電体の実施の形態1を説明する。
図1〜図4に示すように、本発明によるイオン発生用放電体は、板状の誘電体1と、この板状の誘電体1の表面側に形成された上部電極体2と、誘電体1の裏面側に形成された下部電極体3とからなる。図1からもわかるように、上部電極体2と下部電極体3とは、互いにほぼ同様の平面形状を有する。そして、上部電極体2と下部電極体3とは、上部電極体2から下部電極体3を見たときに、図1に示すように、互いにその一部が重なるように誘電体1を介して配置されている。上部電極体2は、導電体により構成されるが、図4に示すように、電極導電部12と、この電極導電部12の表面を覆うように配置された保護膜14とからなってもよい。同様に、下部電極体3は、導電体により構成され、また、電極導電部13と、電極導電部13の表面を覆うように配置された保護膜15とからなってもよい。つまり、上部電極体2は導電体としての電極導電部12のみから構成されていれば十分であり、保護膜14は形成されていない状態であってもよい。また、下部電極体3は導電体としての電極導電部13のみから構成されていれば十分であり、保護膜15は形成されていない状態であってもよい。
誘電体1の材料としては、たとえば有機物を用いることができる。誘電体1を構成する有機物としては、耐食性に優れた材料を用いることが好ましい。たとえば、誘電体1の材料として、ポリイミドやガラスエポキシなどの樹脂を用いてもよい。また、誘電体1の材料として無機物を用いる場合、たとえばアルミナ、マグネシア、結晶化ガラス、フォルステライト、ステアライト、ムライト、ジルコニアなどのセラミックを誘電体1の材料として用いることができる。なお、後述するようにイオン生成のための放電を行なう際に発生するプラズマに対する耐性を考えた場合には、誘電体1として無機系の材料を用いることが好ましい。特に、誘電体1として、安価でかつ加工が容易なアルミナを主成分とするセラミックを用いることが好ましい。
電極導電部12、13を構成する材料としては、導電性を有するものであればどのような材料を用いてもよい。また、電極導電部12、13の形成方法としては、スクリーン印刷法、めっき法、蒸着法、スパッタリング法など公知の方法を用いることができる。また、誘電体1としてアルミナが主成分のセラミックを用いた場合、その熱膨張係数がアルミナを主成分とするセラミックに近いタングステンを電極導電部12、13の材料として用いることが好ましい。このとき、電極導電部12、13は、スクリーン印刷法を用いて形成することができる。
保護膜14、15は、上部電極体2および下部電極体3(以下、電極体2、3とも言う)の段差部分16、17が形成されるような厚さで形成されることが好ましい。そして、保護膜14、15を構成する材料としては、耐プラズマ性を有する材料であれば任意の材料(たとえばセラミックなどの無機材料など)を用いることができる。たとえば、保護膜14、15を構成する材料として、耐プラズマ性に優れたアルミナなどの材料を用いることができる。
なお、段差部分16、17とは、電極体2、3の端部側面であって、誘電体1の表面に対して傾斜した側面が形成された部分を言う。また、具体的には、電極体2、3の端部側面であって、誘電体1表面に対する接触角が実質的に5°以上135°以下、より好ましくは実質的に90°となった側面が形成された部分が段差部分16、17に該当する。
次に、図1〜図4に示したイオン発生用放電体を用いたイオン発生方法を、図4および図5を参照して説明する。図5は、本発明によるイオン発生方法におけるイオン発生用放電体の部分拡大断面模式図である。図5は、本発明によるイオン発生用放電体の上部電極体2および下部電極体3の電極導電部12、13それぞれに電圧を印加したときの電気力線が模式的に示された概念図となっている。なお、図5には、後述の説明で用いる電極導電部12、13の側面を出発点または到着点とする電気力線のみを示している。
まず、本発明によるイオン発生方法では、図4に示すようにイオン発生用放電体を構成する上部電極体2および下部電極体3の2つの電極導電部12、13がそれぞれ高電圧電源4に接続される。そして、この高電圧電源4から上部電極体2の電極導電部12および下部電極体3の電極導電部13へとそれぞれ高電圧を印加する。この結果、図5に示すように、上部電極体2および下部電極体3の段差部分16、17近傍の電界が強まり、この段差部分16、17から誘電体1の表面に沿って沿面放電が発生する。この結果、この沿面放電が発生した部分からイオンが発生する。
ここで、本発明によるイオン発生方法においては、2つの電極体2、3の段差部分16、17からそれぞれ正、負のイオンが発生する。以下、図5を用いてより詳しく説明する。
図5では、図4に示した高電圧電源4から電極導電部12、13へと単極性の電圧が印加された場合を示している。この場合、上述のように電極体2、3の段差部分16、17からそれぞれ正、負のイオンが発生する。なお、図5においては、上部電極体2の電極導電部12が下部電極体3の電極導電部13に比べて高電位となっている状態での電気力線が示されている。また、電極導電部12、13へ印加される電圧は、単極性の電圧であればよいが、より好ましくは単極性のパルス電圧である。
図5からもわかるように、上部電極体2の段差部分16において電気力線の集中が起きている。また、電気力線5aの向きは、上部電極体2の電極導電部12から下部電極体3の電極導電部13の表面6へと向かっている。また、もう一方の電極である下部電極体3における段差部分17では、上部電極体2の電極導電部12の表面7から延びる電気力線5bが集中している(段差部分17近傍の電界が強くなっている)。つまり、上部電極体2における段差部分16では、電極導電部12から出射する電気力線5aの出射部分(電極導電部12近傍)において電界が強められているのに対して、下部電極体3における段差部分17では、上部電極体2の電極導電部12の表面7から出射した電気力線5bが下部電極体3の電極導電部13に到達する直前において電界が強められていることになる。このため、放電が起こった場合、高電位になっている上部電極体2の近傍(段差部分16近傍)では、負に帯電した粒子が上部電極体2に引きつけられる。この結果、段差部分16近傍では正イオンが周囲に放出されることになる。一方、下部電極体3の近傍(段差部分17近傍)では、正に帯電した粒子が下部電極体3に引きつけられる。この結果、下部電極体3の段差部分17近傍では、負イオンが周囲に放出されることになる。
このように、本発明によるイオン発生用放電体では、単極性電圧を印加した場合であっても、上部電極体2近傍では正イオンを安定して効率的に発生させることができる一方、下部電極体3近傍では負イオンを安定して効率的に発生させることができる。以下、本発明によるイオン発生用放電体およびイオン発生方法の効果を、従来の技術との対比において説明する。
まず、上記特許文献1に記載の従来のイオン発生用放電体においては、本発明のイオン発生用放電体のように効率的にイオンの放出を行なうことは困難である。以下具体的に説明する。図9は、上述した特許文献1に記載された従来のイオン発生用放電体を示す斜視模式図である。図10は、図9の線分X−Xにおける断面模式図である。図9および図10を参照して、従来のイオン発生用放電体を説明する。
図9および図10に示すように、従来のイオン発生用放電体は、誘電体101と、線状放電電極105〜107とを備える。誘電体101は、上部誘電体102と、下部誘電体103とから構成されている。上部誘電体102と下部誘電体103との間には面状誘電電極104が配置されている。つまり、上部誘電体102と下部誘電体103とは、面状誘電電極104を挟んだ状態で積層して配置されている。そして、線状放電電極105〜107は、上部誘電体102の表面上に形成されている。線状放電電極105〜107の表面には保護膜115〜117が形成されている。
上述したような構造の従来のイオン発生用放電体に、高周波高電圧電源108を接続する。具体的には、高周波高電圧電源108を、線状放電電極105〜107と面状誘電電極104とに接続する。そして、線状放電電極105〜107と面状誘電電極104との間に、上部誘電体102を介して高周波高電圧を印加する。この結果、面状放電電極105〜107の各端縁から上部誘電体102の表面に沿って沿面放電が発生する。この結果、この沿面放電に起因してイオンが発生する。
しかし、上述した従来のイオン発生方法では、正イオンおよび負イオンの両方を発生させるために、電極に交流電圧または交番極性の電圧を印加する必要がある。つまり、従来のイオン発生方法において、線状放電電極105〜107にたとえば正の電圧を印加したとき、線状放電電極105〜107近傍の電界強度が周囲の気体の絶縁破壊を起こす程度にまで強くなると、上述のように線状放電電極105〜107近傍において沿面放電が発生することにより、正イオンが発生する。また、このとき上部誘電体102の表面上を正極性ストリーマが伸展するため、上部誘電体102の表面は正に帯電する。
次に、線状放電電極105〜107に印加される電圧の極性が負に切換わって、同様に上部誘電体102表面において沿面放電が起こると、負イオンが発生する。また、誘電体表面上を負極性ストリーマが伸展する。このとき、正に帯電した上部誘電体102表面の電荷を負の電荷が中和する。つまり、正に帯電した上部誘電体102表面の電荷を中和するために負の電荷が消費されてしまうため、イオン(負イオン)を効率的に空間に放出することができない。そして、同様の理由で、交流電圧または交番極性の電圧を線状放電電極105〜107に印加している限り、線状放電電極105〜107に印加される電圧が正のときに発生する正イオンも、事前に負に帯電した上部誘電体102の表面電荷を中和するために消費されてしまう。この結果、線状放電電極105〜107の周囲の空間に当該正イオンを効率的に放出することができない。
しかし、図1〜図5に示した本発明によるイオン発生用放電体では、上述のように単極性の電圧を電極に印加した状態でイオンを発生させることができるため、上述のように発生した正イオンまたは負イオンが誘電体1表面の電荷を中和するために消費されてしまうといった問題の発生を抑制できる。つまり、効率的にイオンを周囲の空間へと放出することができる。
また、大気中で放電が発生すると、上述したようにイオンと同時にオゾンが発生する。そして、オゾンは、誘電体の表面電荷の影響を特に受けないため、一般に放電の回数が増えるにつれてオゾンの発生量が増加する。すなわち、交流電圧または交番極性の電圧をイオン発生用放電体の電極に印加するという条件の下で、放電回数を増やした場合には、従来のイオン発生用放電体では正イオンまたは負イオンが誘電体の表面電荷の中和に消費されてしまうのでイオン密度は増えずに、オゾンの発生量だけが増えてしまうといった問題がある。しかし、図1〜図5に示した本発明によるイオン発生用放電体では、上述のように誘電体の表面電荷の中和にイオンが浪費されるといった問題の影響を少なくすることができるので、必要以上に放電回数を増やす必要がない。この結果、オゾンの発生量を少なくすることができる(オゾンなどの副生成物の生成量を少なくすることができる)。
上述の説明からもわかるように、本発明によるイオン発生用放電体によれば、単極性の高電圧を電極に印加するだけで正極性と負極性のイオンをともに発生させることができる。つまり、正極性と負極性の高電圧を交番に電極へと印加した場合に比べ、上述したようにイオンの損失を抑えることができる。そのため、従来例と同じ量のイオンを発生させる場合、必要以上に放電回数を増やす必要がないため、オゾンなどの副生成物の発生量を低減することができる。
また、高電圧が印加されていない電極側で発生したイオンは、高電圧が印加されている電極に引きつけられる。そのため、高電圧が印加されている時間は短い方がよい。さらに、印加電圧の波形としては、上述したようにパルス幅の短いパルス電圧とすることが好ましい。
なお、図1に示したように、誘電体1の端部から上部電極体2および下部電極体3の段差部分まで所定の距離L1〜L3をとる。この所定の距離L1〜L3は、それぞれ3mm以上とすることが好ましい。このようにすれば、電極の端部(段差部)において発生する放電が誘電体1の端部からはみ出すことにより電極同士が電気的に短絡するといった問題の発生を防止できる。
(実施の形態2)
図6は、本発明によるイオン発生用放電体の実施の形態2を示す平面模式図である。図7は、図6に示したイオン発生用放電体を上面側から見た斜視模式図である。図8は、図6に示したイオン発生用放電体を下面側から見た斜視模式図である。図6〜図8を参照して、本発明によるイオン発生用放電体の実施の形態2を説明する。
図6〜図8に示したイオン発生用放電体は、基本的には図1〜図5に示したイオン発生用放電体と同様の構造を備えるが、上部電極体22および下部電極体23の平面形状が異なる。すなわち、誘電体21の表面側に形成された上部電極体22は、下部電極体23と平面的に重なる位置に突出した角部を備える(具体的には、図7に示すように、上部電極体22を構成する電極導電部12は下部電極体23と重なる位置に突出した角部30b〜30eを備える)。また、同様に下部電極体23は、上部電極体22と平面的に重なる位置に突出するように形成された角部を備える(具体的には、図8に示すように、下部電極体23を構成する電極導電部13は上部電極体22と平面的に重なる位置に突出するように形成された角部31b〜31eを備える)。なお、上部電極体22および下部電極体23は、それぞれ図1〜図5に示した上部電極体2、下部電極体3と同様に、導電体により構成されており(つまり、導電体から構成される電極部を備えていれば十分であり)、また、電極導電部12、13と、その表面に形成された保護膜14、15とから構成されてもよい。
このように、上部電極体22を構成および下部電極体23を構成する電極導電部12、13のそれぞれに角部30b〜30e、31b〜31eを形成することにより、このような角部30b〜30e、31b〜31eにおいて容易に電界を強めることができる。このため、角部30b〜30e、31b〜31e近傍において確実に放電を発生させることができる。この結果、確実かつ安定的にイオンを発生させることができる。
なお、誘電体21の表面側ないしは裏面側の同一平面内において放電が干渉し合わないように、同一面内の角部30b〜30e、31b〜31eの間は所定の距離L4をとる(図6参照)。この所定の距離L4は、少なくとも1mm以上の間隔を設けることが好ましい。また、この距離L4はより好ましく2mm以上である。この場合、電極導電部12における角部30b〜30eまたは電極導電部13における角部31b〜31eにおいて、各角部30b〜30e、31b〜31eの近傍における放電が互いに干渉することを抑制できる。この結果、各角部30b〜30e、31b〜31eにおける放電を安定的に発生させることができるので、イオンの発生状況を安定させることができる。また、角部30b〜30e、31b〜31eの先端部から誘電体21の端部までは、所定の距離L5をとる。この所定の距離L5は、少なくとも3mm以上とすることが好ましい。このようにすれば、電極の角部の先端において発生した放電が誘電体21の端部からはみ出すことにより電極同士が電気的に短絡するといった問題の発生を防止できる。
また、正イオンと負イオンとをほぼ同じ量だけ発生させるという観点から、上部電極体22を構成する電極導電部12および下部電極体23を構成する電極導電部13が互いに重なっている部分の端部の沿面距離は互いにほぼ等しくなることが好ましい。具体的には、上部電極体22を構成する電極導電部12の角部30a〜30fが位置する端部(端面)の沿面距離と、下部電極体23を構成する電極導電部13の角部31a〜31fが位置する端部(端面)の沿面距離とが実質的に等しいことが好ましい。なお、図1〜図5に示したイオン発生用放電体においても、同様の理由から上部電極体2を構成する電極導電部12と下部電極体3を構成する電極導電部13とが互いに重なっている部分の、電極導電部12、13の端部の沿面距離は互いにほぼ等しいことが好ましい。
上述した本発明に従ったイオン発生用放電体の特徴的な構成を要約すれば、図1〜図8に示したイオン発生用放電体は、誘電体1、21(図1〜図8参照)と、一対の電極としての上部電極体2、22および下部電極体3、23(図1〜図8参照)を構成する電極導電部12、13を備える。一対の電極導電部12、13は誘電体1、21を介して対向する。一対の電極導電部12、13(または一対の上部電極体2、22および下部電極体3、23(以下、一対の電極2、22、3、23とも言う))はそれぞれが段差部分を有する。一対の電極2、22、3、23のうちの一方の電極(上部電極体2、22)から他方の電極(下部電極体3、23)を見たときに、一方の電極(上部電極体2、22)の段差部分16が他方の電極(下部電極体3、23)と重なるように、一対の電極2、22、3、23は配置されている。
このようにすれば、一対の電極2、22、3、23のうちの一方の電極(上部電極体2、22)から他方の電極(下部電極体3、23)の段差部分17へ電気力線5b(図5参照)を集中させる(段差部分近傍17の電界を強める)とともに、他方の電極(下部電極体3、23)から一方の電極(上部電極体2、22)の段差部分16へ電気力線5a(図5参照)を集中させる(段差部分16近傍の電界を強める)ことにより、一対の電極2、22、3、23のそれぞれの段差部分16、17近傍で放電を起こすことができる。この結果、一対の電極2、22、3、23間(一対の電極導電部12、13間)に単極性の高電圧を印加したときに、一方の電極(上部電極体2、22)の段差部分16近傍から例えば正のイオン、他方の電極(下部電極体3、23)の段差部分17近傍から負のイオンを同時に放出することができる。
上記イオン発生用放電体において、一方の電極(上部電極体2、22)から他方の電極(下部電極体3、23)を見たときに(一方の電極導電部12から他方の電極導電部13を見たときに)、一方の電極の一部が他方の電極の一部と重なるように(一方の電極導電部12の一部が他方の電極導電部13の一部と重なるように)、一対の電極2、22、3、23(または一対の電極導電部12、13)が配置されることが好ましい。また、一方の電極(上部電極体2、22)における段差部分16は、他方の電極(または他方の電極導電部13)の一部と重なる上部電極体2、22の一部における端部の側面部分である。また、他方の電極(下部電極体3、23)における段差部分17は、一方の電極(または一方の電極導電部12)の一部と重なる下部電極体3、23の一部における側面部分である。
この場合、一方の電極導電部12と他方の電極導電部13とを互いにシフトした状態で配置するという簡単な構成により、段差部分16、17となる側面部分を相手方の電極導電部12、13と重なるように配置することができる。
上記イオン発生用放電体において、一対の電極導電部12、13はそれぞれ面状の部分(誘電体1、21と対向する平坦な表面6、7を含む部分)を備えている。具体的には、電極導電部12、13は誘電体1、21の表面に沿って延びる板状の部材である。このため、一対の電極導電部12、13のそれぞれにおいて、互いに重なるように配置される上記一部は面状の部分(板状の部材)の一部分となっている。
上記イオン発生用放電体において、図6〜図8に示したように一対の電極導電部12、13はそれぞれ凸形状の角部30b〜30e、31b〜31eを有している。一方の電極導電部12から他方の電極導電部13を見たときに、一方の電極導電部12の角部30b〜30eが他方の電極導電部13と重なるとともに、他方の電極導電部13の角部31b〜31eが一方の電極導電部12と重なるように、一対の電極導電部12、13は配置される。一方の電極(上部電極体22)における段差部分は、他方の電極導電部13と重なる角部30b〜30eの側面部分である。他方の電極(下部電極体23)における段差部分は、一方の電極導電部12と重なる角部31b〜31eの側面部分である。
この場合、角部30b〜30e、31b〜31eにおいて電気力線がより集中しやすい(電界が強まりやすい)ことから、当該角部において放電が起きる確率を向上させることができる。そして、角部30b〜30e、31b〜31eにおいて放電を確実に発生させることができるので、放電が開始する電圧(放電開始電圧)などのばらつきを低減できる。この結果、放電開始電圧の値などのイオン発生条件を安定させることができる。
上記イオン発生用放電体において、一方の電極導電部12から他方の電極導電部13を見たときに、一方の電極(上部電極体22)において他方の電極導電部13と重なる段差部分16の長さ(図1、図4に示した段差部分16となる上部電極体22の端部側面の沿面距離)は、他方の電極(下部電極体23)において一方の電極導電部12と重なる段差部分17の長さ(図1、図4に示した段差部分17となる下部電極体23の端部側面の沿面距離)と実質的に等しい(あるいは、図6〜図8に示したような上部電極体22を構成する電極導電部12の角部30a〜30fが位置する端部(端面)の沿面距離は、下部電極体23を構成する電極導電部13の角部31a〜31fが位置する端部(端面)の沿面距離と実質的に等しい)。この場合、一方の電極導電部12から発生するイオン(たとえば正イオン)と、他方の電極導電部13から発生するイオン(たとえば負イオン)との発生量をほぼ同等にできる。
上記イオン発生用放電体において、一方の電極導電部12から他方の電極導電部13を見たときに、誘電体1、21のサイズは一対の電極導電部12、13のサイズより大きくなっている。誘電体1、21の端部から一対の電極導電部12、13の端部までの距離は好ましくは、3mm以上である。
このようにすれば、一方の電極導電部12から他方の電極導電部13を見た場合に、電極導電部12、13近傍において発生する放電が誘電体1、21の外側へはみ出す可能性を低減できる。この結果、安定して放電を起こすことができる。
この発明に従ったイオン発生方法では、まず上記イオン発生用放電体を構成する一対の電極導電部12、13に電源装置としての高電圧電源4(図4参照)を接続する。次に、高電圧電源4から、一対の電極導電部12、13に単極性電圧を印加する。
このようにすれば、電極導電部12、13に単極性電圧を印加するので、交流電圧を電極導電部12、13へ印加した場合と比べて、それぞれの電極導電部12、13での放電により発生するイオンの極性を一定にすることができる。このため、交流電圧を電極導電部12、13に印加する場合と比べて、放電で生成された電荷が誘電体1、21表面の(逆極性の)電荷を中和するために消費される程度を小さくできるので、結果的にイオンを効率的に発生させることができる。
上記イオン発生方法において、単極性電圧は単極性パルス電圧であってもよい。この場合、電極導電部12、13に一定の電圧を印加しつづける場合に比べて、電極導電部12、13に電圧が印加されている時間を短くできる。そのため、電極導電部12、13での放電により発生したイオンが電極導電部12、13に印加される電圧の影響を受ける度合いを小さくできる。この結果、より効率的にイオンを放出することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1,21 誘電体、2,22 上部電極体、3,23 下部電極体、4 高電圧電源、5a,5b 電気力線、6,7 表面、12,13 電極導電部、14,15 保護膜、16,17 段差部分、30a〜30f,31a〜31f 角部。