JP2005240102A - 鉄損特性に優れた方向性電磁鋼板 - Google Patents

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Abstract

【課題】現在の被膜技術において比較的容易に得られ、また、被膜剥離の問題の生じない低い引張応力の範囲内、具体的には引張応力が12MPa以下の張力被膜の下で、従来の鋼板に引張応力が15MPaを超える張力被膜を付与した場合と同等の鉄損を得るための方途について提案する。
【解決手段】磁区細分化処理を施した鋼板の表面に、張力付与型の被膜を有する方向性電磁鋼板において、該鋼板は、圧延方向とほぼ平行な〈001〉軸の鋼板表面に対する仰角が1°以下である領域の面積を鋼板表面積の80%以上とし、かつ被膜における引張応力を5MPa以上15MPa以下とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、主としてトランス等の鉄心材料に用いられる方向性電磁鋼板に関するものである。
方向性電磁鋼板において、商用周波数での低鉄損並びに低励磁場での高磁束密度は、変圧器の高効率化と省エネルギー化のために極めて重要な特性である。近年、省エネルギー化を進める上で、さらなるエネルギー損失の改善、すなわち低鉄損化が急務となっている。低鉄損化を達成する方法には、{110}〈001〉方位の圧延方向への集積度を高める『高配向化』、圧延方向への引張応力を高める『被膜の高引張応力化』、局所歪みや鋼板表面への溝加工による『磁区細分化』、電気抵抗を高める『高Si化』や、渦電流を抑制する『薄物化』等の技術があり、これらの技術は、個々に多くの研究がなされており、それぞれはすでに非常に高いレベルに到達しつつある。また、鋼板表面の凹凸を抑制する『表面平滑化』は、それ自身でも低鉄損化に有効であり、非特許文献1によれば、被膜の引張応力効果に変化をもたらすことが示されている。
ここで、高配向化が進んだ方向性電磁鋼板において低鉄損を得るためには、鋼板表面に、レーザー(特許文献1参照)やプラズマ炎(非特許文献2参照)等を照射したり、あるいはエッチング(特許文献2参照)を施す等の手法により、鋼板表面に線状の溝を形成するといった、磁区細分化処理が必須の技術である。このような磁区細分化を施した鋼板では、高磁束密度材(高B8材)ほど、高い引張応力の作用下に低鉄損を得られる事が知られている。従って、現行の高B8材において引張応力効果による低鉄損化を進めるためには、高い引張応力を有する被膜を付加する技術が必要である。
しかしながら、被膜による引張応力は、被膜と鋼板との熱膨張係数の違いにより付与されるため、高引張応力の被膜ほど剥離しやすいという問題があり、引張応力効果による低鉄損化を進める上での障害となっている。
なお、被膜の耐剥離特性を高めるために、鋼板と熱膨張係数の近い被膜を形成し、その代わりに被膜による引張応力が膜厚に比例するという関係を用いて、膜厚を大きくすることで高引張応力を得る方法が考えられる。しかし、この手法では、トランスに使用する際に占積率の低下を招き、その性能を大きく下げてしまうことになる。逆に、占積率を高めるためには、薄くても引張応力効果の大きい被膜を成膜しなければならず、その場合、鋼板と熱膨張係数の大きく異なる被膜を成膜することになり、耐剥離特性は劣化することになり、結局は二律背反の関係に陥ることになる。
日本応用磁気学会誌,17(1993),211. 特公昭57-2252号公報 B.Fukuda,K.Sato,T.Sugiyama,A.Honda and Y.Ito:Proc,of ASM Con. of Hard and Soft Magnetic Materials,8710-008,(USA),(1987) 特公平8-6140号公報
上述のように、さらなる低鉄損を得るためには、高い引張応力を有する被膜の開発が必要であるが、被膜の耐剥離特性や製品での占積率の劣化を生じさせない方策が併せて必要になるため、技術的な問題が極めて多く、高い引張応力を有する被膜を利用した技術は、未だ工業的に実用化されていないのが現状である。
従って、現在使用されている被膜で得られる引張応力範囲、あるいは比較的容易に付加し得る引張応力範囲において、高い引張応力被膜を付加した場合と同等の低鉄損が実現できる鋼板があれば、被膜の耐剥離特性や製品での占積率の劣化を心配することもなく、極めて有用である。さらに、このように低い引張応力で低鉄損が実現できる鋼板では、密着特性が高くかつ高い引張応力を有する被膜が開発された場合には、被膜に必要とされる厚さを薄くできるため、さらなる占積率の向上も期待される。
本発明は、現在の被膜技術において比較的容易に得られ、また、被膜剥離の問題の生じない低い引張応力の範囲内、具体的には引張応力が12MPa以下の張力被膜の下で、従来の鋼板に引張応力が15MPaを超える張力被膜を付与した場合と同等の鉄損を得るための方途について提案することを目的とするものである。
上述したように、方向性電磁鋼板の鉄損改善手段として、鋼板への引張応力の印加が知られている。一般に、引張応力の印加による鉄損改善効果は、電気学会マグネティックス研究会資料 Mag,86-170 p.62 Fig.2(1986)において認められるとおり、B8値が高い方向性電磁鋼板で、その効果が大きいことが知られている。このB8値を高めるためには{110}〈001〉方位いわゆるゴス方位が圧延方向に高い集積率を持つことによって実現できる。
ここで、図1に示すように、圧延方向とゴス方位とのなす角度には〈001〉軸の鋼板表面内での首ふり角(以下、α角とする)と、〈001〉軸の鋼板表面に対する鉛直方向への仰角(以下、β角とする)とがあり、このαおよびβ角を低減させることによって高いB8値を実現できるのである。
一方、被膜の引張応力による鉄損の改善効果メカニズムは、引張応力の付加にて生じる磁区細分化により、渦電流損失が低減されるところにある。この磁区幅を決定する主たる要素は上記のβ角であり、必ずしもα角の制御まで行わなくともよい。従って、B8値を高めることよりも、β角を適切な範囲に限定した鋼板を用いることによって、低い引張応力により大きな効果を得られる可能性があると考えられるのである。
そこで、発明者らは、二次再結晶を発現させる際にβ角を制御する焼鈍方法を利用することによって、極めて狭い範囲に限定されたβ角を有する鋼板を得た上で、該鋼板に磁区細分化を施し、さらに種々の引張応力を付加した状態において鉄損の測定を行った。かように測定した種々の引張応力による鉄損低減効果を鋭意検討したところ、特に低い引張応力における鉄損改善が顕著であるβ角領域を見出し、本発明を完成するに到った。さらに、必要な引張応力を得るために必要となる、被膜の厚みについても知見するに到った。
すなわち、本発明の要旨構成は次の通りである。
(1)磁区細分化処理を施した鋼板の表面に、張力付与型の被膜を有する多結晶方向性電磁鋼板であって、該鋼板は、圧延方向とほぼ平行な〈001〉軸の鋼板表面に対する仰角が1°以下である領域の面積が鋼板表面積の80%以上であり、かつ被膜における引張応力が5MPa以上12MPa以下であることを特徴とする鉄損特性に優れた方向性電磁鋼板。
(2)圧延方向とほぼ平行な〈001〉軸の鋼板表面に対する仰角が1°以下である領域の面積が鋼板表面積の95%以上である請求項1に記載の鉄損特性に優れた方向性電磁鋼板。
(3)鋼板表面に、膜厚が0.3〜2.0μmのTiN被膜を有する請求項1または2に記載の鉄損特性に優れた方向性電磁鋼板。
(4)鋼板表面に、膜厚が1.0〜3.5μmのガラスを主体とする被膜を有する請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板。
本発明によれば、容易に得られる低い引張応力により、十分な鉄損低減効果を実現できる。従って、高引張応力被膜が有する剥離特性の劣化という問題を回避することが可能であり、また高引張応力を得るために必要となる膜厚の増加を抑え、占積率の高い鋼板を得ることが出来る。
次に、本発明を導くに到った実験結果について、詳しく説明する。
実験1
まず、Si:3mass%を含有する板厚:0.23mmの鋼板に、脱炭・一次再結晶焼鈍を施した後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍を行った。次いで、得られたフォルステライト被膜付き方向性電磁鋼板に、プラズマジェット法により磁区細分化処理を施した後、X線ラウエ回折による結晶方位解析を5mm間隔で行い、結晶方位を特定した。そして、α角の影響を除くために、α角<1°で、かつβ角の測定値が0.3°、1.0°、1.4°および2.7°のそれぞれから±0.1°以内となる試験片4種を切り出し、引張応力付加治具を用いて、鋼板両端を圧延方向に15MPaまで順に引張り、その状態で交流鉄損特性を測定した。
なお、プラズマジェット法による磁区細分化処理とは、非特許文献2に記載されるような高温のプラズマ炎を鋼板圧延方向と直角方向に5mm間隔で照射し、線状の熱歪領域を与えたものである。
また、ラウエ回折による結晶方位解析は、鋼板表面にX線を照射し、その反射の回折スポットから結晶方位を測定する手法であり、今回は鋼板表面を5mm間隔のメッシュに区切り、メッシュ各交点部分の測定を行って、これを平均して各試験片の結晶方位とした。
かくして得られたβ角の特定された方向性電磁鋼板における、引張応力付加時の交流鉄損特性について調べた結果を図2に示す。ここで、W17/50は50Hzおよび1.7Tで励磁した際の鉄損値である。
図2に見られるように、βが1°以下の試料において、それより大きいβ角の試料とは鉄損の改善挙動が変化している。すなわち、β>1°の試料では、引張応力の付加に伴って鉄損が徐々に改善する、従来の知見通りの挙動を示すが、β≦1°の試料では低引張応力域にて急激な鉄損の改善を示し、その後、張力が10MPa付近において鉄損が極小値をとる。
このような張力による鉄損改善の挙動は、高β角の領域で起こるような、引張でランセット磁区が消失して磁区細分化が生じて鉄損が改善されるといった、メカニズムではないと考えられる。すなわち、低β角であるβ≦1°の領域では、磁区細分化処理を施した際に不可避的に生じる補助磁区が非常に大きくなり、そこに適正な張力を付与することによって補助磁区が急減に小さくなって、磁区細分化効果が十分に発揮されたことによるものと考えられる。
実験2
フォルステライト被膜は小さいながらも被膜に引張応力を有しており、鋼板に付加する引張応力の値を限定するには適当ではない。また、表面に凹凸が生じてしまい、その影響も含まれている。そこで、実験1同様の手法により得たフォルステライト被膜付き方向性電磁鋼板に、酸洗そして化学研磨を施し、フォルステライト被膜を有していない表面形状が極めて平滑な、板厚が0.20mmの鋼板を準備し、この鋼板につき、実験1と同様にプラズマジェット法により磁区細分化処理を施し、再度実験を行った。
かくして得られたβ角の特定された方向性電磁鋼板における、引張応力付加時の交流鉄損特性について調べた結果を、図3に示す。
図3に見られるように、図2の結果と同様、βが1°以下の試料において、それより大きいβ角の試料とは鉄損の改善挙動が変化しており、β≦1°の試料では低引張応力により急激に鉄損の改善を示し、その後、張力が5〜10MPa付近において鉄損が極小をとった。
またβ≦1°の試料での12MPa以下の低引張応力付加時の鉄損値は、フォルステライト被膜材同様、引張応力付加時最高の鉄損を示すとされているβ=2°近傍の試料に15MPaもの高引張応力を付加したものと同等の値を示していた。
以上の実験結果により、本発明は導かれたものである。
以下に、本発明の電磁鋼板について、その要件の限定理由を説明する。
[圧延方向とほぼ平行な〈001〉軸の鋼板表面に対する仰角βが1°以下]
上述の実験結果では、β>1°の試料では、いずれも引張応力により鉄損は改善するものの、高い引張応力が付与されるに連れて徐々に鉄損が改善する挙動を示した。すなわち鉄損改善には高張力が必要となり、耐剥離特性が劣化する。
一方、β≦1°の試料に関しては、10MPa程度を極小とした、12MPa以下の低引張応力で大きな鉄損改善効果があり、耐剥離特性と鉄損特性を両立できる。
以上から、β角は1°以下とする。
[β≦1°の領域が鋼板表面積の80%以上(好ましくは95%以上)]
β≦1°の領域が鋼板に占める比率、具体的には、X線ラウエ回折実験により5mm間隔の測定点で得られたβ角が1°以下となる測定点が全測定点中80%未満であると、その鉄損改善挙動は引張応力により徐々に鉄損改善が進むという、図2あるいは図3に示すβ>1°の試料と同様の挙動となり、低引張応力域で鉄損が極小値をとることがないので、低引張応力で低鉄損を得ることが出来なくなる。これより5MPa以上の低引張応力により、現状得られるβ角が2°程度の試料に15MPaの高引張応力を付加した鉄損と同等の鉄損値を得ることが出来た。よって、β≦1°の領域が鋼板表面積の80%以上となる必要がある。
さらに、集積率が高まり、その面積率が95%以上となると、引張応力による鉄損改善挙動は完全に図2あるいは図3の鋼板全域がβ≦1°となる試料と同一の挙動を示すようになる。
[被膜における引張応力が5MPa以上12MPa以下]
上述の実験結果から、低β角を有する鋼板に付加する引張応力は5MPa未満の弱い引張応力であっても高β角の鋼板に比べて大きい鉄損改善効果が得られることがわかる。さらに、その引張応力が5MPa以上になると、高β角の鋼板に高引張応力を付加した鉄損に匹敵する鉄損値を得ることができる。
ここで、高い引張応力を生じる被膜は剥離特性が悪いことは前述のとおりである。そこで、引張付与被膜を成膜後、室温(25°)条件下で70mmφ〜10mmφの円筒に沿わせる形で鋼板を曲げ、その際に剥離が生じる円筒の径により、被膜の耐剥離特性を検証した。その結果を、図4に示す。
図4から明らかなように、耐剥離特性は13MPa程度で劣化し始めている。そのため、剥離特性をよくするためには少なくとも13MPa以下とすることが必要である。そして、前述のとおり、12MPa以下の引張応力とすることで、鉄損特性と耐剥離特性の両立が可能となる。
[膜厚0.3〜2.0μmのTiN被膜または膜厚1.0〜3.5μmのガラスを主体とする被膜]
被膜としては、TiN被膜およびガラスを主体とする被膜を用いることができ、それぞれの被膜は、化学蒸着や真空蒸着による方法、または主成分を鋼板に塗布した後焼付けにより成膜する方法等を用いて成膜することができる。これらの被膜により得られる引張応力は、熱膨張係数に依存しているため、同一成分の被膜であっても成膜時の温度によって、被膜引張応力の大きさが異なるものとなる。そこで、TiN被膜およびガラスを主体とする被膜について、それぞれ5〜12MPaの引張応力を得るために必要となる膜厚を求めた。
さて、上記β角を制御して引張応力効果を有する鋼板の片側だけに成膜すると、成膜した側のみに引張応力がかかる結果、鋼板に反りが生じる。この室温(25°)の条件下での鋼板の反りと鋼板ヤング率との関係から、鋼板に付与されている引張応力を算出し、この結果から5〜12MPaの引張応力を得るために必要となる膜厚を求めたところ、TiN被膜の膜厚は0.3〜2.0μmおよびガラスを主体とする被膜の膜厚は1.0〜3.5μmとなった。
なお、引張応力の算出は、図5に示すように、鋼板(地鉄)の片面に成膜した際の反り具合として、LおよびXを測定し、次の2式
L=2Rsin(θ/2)
X=R{1−cos(θ/2)}
より、曲率半径Rは
R=(L2+4X2)/8X
となるところから、この式に、LおよびXを代入して曲率半径Rを算出する。次いで、算出した曲率半径Rを、次式に代入すれば、地鉄表面の引張応力σを求めることができる。
σ=E・ε=E・(d/2R)
ただし、ε:地鉄界面歪(板厚中央でε=0)
d:板厚
E:ヤング率(E100=1.4 MPa)
次に、本発明の電磁鋼板は、以下に示す製造方法が考えられる。
通常、コイル状で行われる最終仕上焼鈍によれば、およそβ=0°の二次再結晶粒が発生しても、成長がコイルに沿って行われるため、コイルの外側で±1.5°、内側では±2.0°のばらつきが生じる。従って、鋼板表面積の80%以上においてβ角を1°以内とする鋼板を得ることは極めて難しい。しかし、二次再結晶粒が微細になるように粒成長を制御すれば、コイルに沿った結晶方位の変動も抑制されるため、β≦1°に制御することが可能になる。
このためには、二次再結晶粒を細粒にする元素であるSnやSb等の元素の添加などが、有効である。もしくは、コイル焼鈍によるばらつきをなくすために、コイル形状で行わずシート状での連続焼鈍したり、直径の極めて大きなコイルによる焼鈍に変更したりして焼鈍を行っても良い。さらには、磁場中での焼鈍等により、積極的に結晶方位を制御する等が考えられる。
なお、その他の製造条件は、方向性電磁鋼板の一般に従えばよい。
かくして得られた鋼板に、さらに磁区細分化処理を施す。この磁区細分化処理としては、レーザーやプラズマ炎等を照射したり、エッチングを施す等の手法により鋼板表面に、線状の溝を形成する。あるいは、機械的に線状や点状の歪を与える等の処理が好適である。
ついで、磁区細分化処理後の鋼板表面に、鉄損を改善するために、引張応力を有する被膜を生成させるが、その目的のためには2種類以上の被膜からなる多層膜構造としても良い。また、用途に応じて、樹脂等を混合させたコーティングを施しても良い。また、本発明の方向性電磁鋼板では、低引張応力により低鉄損が得られるため、特公昭59-17521号公報や特開昭53-28043号公報等にある、コロイダルシリカ、リン酸塩および無水クロム酸等からなるガラス状コーティングの利用や、特開平6-65755号公報等にあるホウ酸アルミニウムを主成分とする引張応力被膜や、TiNを用いCVD法やPVD法で成膜するセラミック被膜(例えば特公昭63-54767号公報参照)を用いることができる。
C:0.01mass%およびSi:3.4mass%を基本成分とし二次粒微細化元素であるSnを0.15%まで種々の量で含有した鋼スラブを、連続鋳造にて製造したのち、該スラブを加熱後、熱間圧延によって2.2mm厚の熱延板とした。ついで、900℃,3分の条件で熱延板焼鈍を施したのち、圧延によって0.80mmの板厚に仕上げた。その後、910℃,3分の再結晶焼鈍を施し、最終板厚となる0.27mmまで圧延を行った。得られた鋼板に820℃,3分の脱炭焼純を施して、鋼中Cを0.0020mass%まで低減したのち、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、最終仕上焼鈍を施した。最終仕上焼鈍は、コイル形状とシート形状の両方で行い、窒素雰囲気中850℃まで加熱し、その後、水素および窒素混合雰囲気で1100℃まで加熱し、その後水素雰囲気に切り替えて1180°以上の高温で焼鈍を行った。
次に、得られた鋼板を100mm×300mmに剪断し、その表面の5mm間隔でX線ラウエ回折を行い、鋼板のβ角を測定した。さらに、その測定結果から、β≦1°となる面積を決定した各種の試験板を得た。これら試験板には、プラズマジェット法により磁区細分化処理を施した。なお、試験板は、フォルステライト被膜を有した鋼板と化学研磨により表面を平滑にした鋼板との両方を用意した。そして、無引張応力時の鉄損がほぼ同等で、β≦1°となる面積率のみが違う試料について比較を行った。さらに、引張応力の付加は、鋼板表面にCVD法によりTiNの被膜を形成して行った。そして、その膜厚を変化させることにより引張応力を変化させた。
かくして得られた鋼板について、鉄損W17/50と被膜の耐剥離性とを調査した。その結果を表1に示すように、発明材(フォルステライト被膜なし)では、5MPaの引張応力付加で約0.1W/kgの改善が実現しており、約0.6W/kgという極めて低い鉄損を示している。
さらに、発明材(フォルステライト被膜あり)では、5MPaの引張応力付加で約0.08W/kgの改善が起こっており、0.7W/kg未満の低い鉄損を示している。
Figure 2005240102
従来の方向性電磁鋼板は、加工などにより引張応力被膜の有する引張応力を打ち消す圧縮カが加わると鉄損が劣化してしまい、素材特性から予想された特性より、製品加工後の特性が悪くなってしまう問題があった。しかし、本発明では、5MPa〜12MPaでほぼ一定の鉄損値を示すことから、仮に10MPaの引張応力を持つ被膜を付与した場合、5MPa程度の圧縮力によっても鉄損特性が変化しない、すなわち歪感受性が極めて小さく、最終的な製品特性を予想しやすいという点でも極めて有用である。
ゴス方位({110}〈001〉)と圧延方向のずれ角を説明した模式図である。 フォルステライト被膜材における引張応力付加時の鉄損改善挙動を示す図である。 化学研磨材における引張応力付加時の鉄損改善挙動を示す図である。 引張応力被膜の剥離特性を示す図である。 被膜引張応力評価方法を示す図である。

Claims (4)

  1. 磁区細分化処理を施した鋼板の表面に、張力付与型の被膜を有する多結晶方向性電磁鋼板であって、該鋼板は、圧延方向とほぼ平行な〈001〉軸の鋼板表面に対する仰角が1°以下である領域の面積が鋼板表面積の80%以上であり、かつ被膜における引張応力が5MPa以上12MPa以下であることを特徴とする鉄損特性に優れた方向性電磁鋼板。
  2. 圧延方向とほぼ平行な〈001〉軸の鋼板表面に対する仰角が1°以下である領域の面積が鋼板表面積の95%以上である請求項1に記載の鉄損特性に優れた方向性電磁鋼板。
  3. 鋼板表面に、膜厚が0.3〜2.0μmのTiN被膜を有する請求項1または2に記載の鉄損特性に優れた方向性電磁鋼板。
  4. 鋼板表面に、膜厚が1.0〜3.5μmのガラスを主体とする被膜を有する請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板。
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