本発明は、マグネシウム合金を材料とする成形品の製造の際に生じるスプルやランナ部分などの不要部分、成形不良品、回収した製品のマグネシム合金部分などの回収材中から、たとえば鉄成分やマンガン成分の含有量が調製された再生材を得る方法に関する。
近年、ノートパソコンやPDAなどのモバイル機器を携帯し、出先で使用する機会が多くなっている。これにともない、機器の小型軽量化および薄型化が要求されており、機器の全体質量の約30%を占める筐体の軽量化および薄型化が必要となっている。
筐体材料としては、ABS樹脂やPC樹脂などの樹脂材料が汎用されているが、樹脂材料を用いて筐体を薄肉化した場合には、十分な強度を保つことが困難である。また、ノートパソコン内部での発熱量、とくにMPUなどの発熱量が増大してきており、今後、さらなる発熱量の増加が見込まれることから、高い冷却(放熱)性能を持つ筐体の開発が急務になってきている。
このような問題を解決するものとして、比強度が高く、低比重で、熱伝導性の高いアルミニウムやマグネシウムなどの軽金属が筐体材料として注目されている。とくに、マグネシウムは、アルミニウムと比べても比重が約7割と軽く、リサイクル性にも優れているため有用である。さらに、近年では軽金属の成形方法としては一般的に採用されているダイキャスト成形の他に、種々のモールディング方法が開発されて多様化しており、マグネシウム合金の適用範囲が増大している。
しかしながら、マグネシウム合金を用いて、たとえばダイキャスト成形でノートパソコン用の筐体を成形した場合には、1ショット当たりの射出量のうち、約30%程度が筐体とされ、残りはスプルやランナ部分などのように成形後に不要となる部分が占めている。このため、更なるコストダウンと地球環境問題を考慮し、製品回収後のリサイクルの他に、成形時の不要部分や不良品をリサイクルする技術を確立する必要がある。
ところが、鋳型を用いてダイキャスト成形を行えば、鋳型との接触により、成形品や不要部分などには、成形前の材料状態よりも鉄の含有量が増加し、そのリサイクル回数が多くなれば、当然に鉄成分の含有量は増加する。また、鋼刃による切断などによっても、鋼刃との接触により鉄成分の含有量が増加する。そのため、再生すべき回収材中には、過剰に鉄成分が含まれていることもあり、この場合には耐食性の面での問題も生じるため、回収材を再生するに当たって、鉄成分の含有量を低減する必要がある。
従来より、鉄成分の含有量の少ないマグネシウム合金を得る方法としては、たとえば下記特許文献1に記載されたものがある。この公報に記載された方法は、マグネシウムの溶湯内に、合金化すべき成分とともにマンガンやこれとアルミニウムとの金属間化合物を添加することにより、鉄成分の含有量の少ないマグネシウム合金を得るものである。確かに、この方法では、鉄成分の含有量の少ないマグネシウム合金が得られる。しかしながら、上記公報の方法は、バージンのマグネシウム合金を製造する際に、その鉄成分の含有量を低減することを目的とするものである。したがって、そのままの手法を回収材の再生に適用したのでは、目的通りに鉄成分の含有量が低減されたマグネシウム合金(再生材)を得るのが困難な場合もある。すなわち、バージンのマグネシウム合金内の鉄成分の含有量は概ね予測が可能であり、添加すべきマンガンやこれの金属間化合物の量の決定も比較的容易である。これに対して、回収材に含まれる鉄成分の含有量は、リサイクル回数やその他の要因により異なるため、マンガンの添加量を一義的に決定することができない。このため、経験的な予測から、マンガンの添加量を決定することも考えられるが、これでは鉄成分の含有量の低減が不十分な場合も生じ得る。
特表平8−502321号公報
また、製品回収材には、表面に防錆処理が施され、更に外見体裁を整えるために塗装が施されている場合が多い。塗料としては、アクリル樹脂やウレタン樹脂の他、Tiなどの金属顔料を含むものもある。このため、塗膜が形成された状態のままで製品回収材を炉内に投入して加熱すれば、樹脂成分に起因して多量のガスが発生して環境上好ましくなく、リン酸塩やTiなどの金属不純物の混入により溶湯が汚染される。これらの金属不純物により溶湯が汚染されたならば、混入すべきフラックスの量は、防錆処理や塗装を施していないものに比べて10倍以上の量を必要とし、溶湯を鎮静化させるために必要な時間も2倍以上となる。
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、成形時に生じる不要部分や不良品などのマグネシウム合金材を再生した場合に、その再生材中の組成、とくに鉄成分の含有量を迅速かつ確実にバージンのMg合金に近づけ、再生材を問題なく再使用できるようにすることをその課題とする。
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明により提供されるマグネシウム合金材の再生方法は、再生すべきマグネシウム合金材を溶融させる溶湯調製ステップと、溶湯に鉄成分低減物質を添加する成分調整ステップと、を含むものであって、上記成分調整ステップの前に、溶湯の一部を採取して少なくとも鉄成分の含有量を測定する検査ステップを行い、この検査ステップの結果、鉄成分の含有量が所定値を超えた場合に上記成分調整ステップを行い、上記成分調整ステップにおいては、上記鉄成分低減物質を溶融状態で溶湯内に添加することを特徴とする。
一方、本発明により提供されるマグネシウム合金材のリサイクルシステムは、再生すべきマグネシウム合金材を溶融させる溶湯調製ステップと、溶湯に鉄成分低減物質を添加する成分調整ステップと、成分調整された溶湯からインゴットを作成するステップとを行うように構成されたものであって、上記成分調整ステップの前に、溶湯の一部を採取して少なくとも鉄成分の含有量を測定する検査ステップを行い、この検査ステップの結果、鉄成分の含有量が所定値を超えた場合に上記成分調整ステップを行うように構成されており、上記成分調整ステップにおいては、上記鉄成分低減物質を溶融状態で溶湯内に添加するように構成されていることを特徴とする。
この再生方法およびリサイクルシステムでは、鉄成分の含有量を低減させる成分調整ステップの前に、検査ステップにおいて溶湯内の鉄成分の含有量を把握し、これに応じて鉄成分の含有量の調整を行うため、再生材中の鉄成分の調整を確実かつ所望通りに行うことができる。再生されるマグネシウム合金材中の鉄成分の含有量は、リサイクル回数やその他の要因によって異なるが、本発明は鉄成分の含有量に応じて個別に対応し、鉄成分の含有量を調整することができる。
なお、成分調整ステップは、検査ステップにおいて鉄成分が所定値を超えた場合にのみ遂行されるステップであり、本発明の実施に当たっては、検査ステップの結果次第では、全く成分調整ステップが行われない場合もあり得る。
ここで、鉄成分の含有量の測定は、公知の種々の方法を採用することができるが、たとえばアークを利用した発光分光分析などにより行われる。
また、検査ステップおよび成分調整ステップは、鉄成分の含有量が所定値を下回るとの結果が得られるまで繰り返し行ってもよい。そうすれば、より確実に鉄成分の含有量を所望通りに調整することができる。
ここで、鉄成分の含有量の許容範囲、すなわち設定される所定値は、目的とする特性を得るために必要とされる範囲内に適宜設定されるが、たとえば再生材を鍛造用として用いる場合には、20ppm(0.002wt%)に設定される。
鉄成分低減物質としては、たとえばマンガン、クロム、モリブデン、ケイ素、あるいはこれらの元素を含む化合物などの沈降剤が挙げられる。これらのうち、マンガンまたはこれとアルミニウムとの化合物(たとえば金属間化合物)が好ましく使用され、また沈降剤は溶融状態で溶湯内に添加するのが効果的である。
再生すべきマグネシウム合金材としては、成形時の不要部分(スプルやランナなど)、不良品、あるいは製品回収材が挙げられる。そして、表面に塗膜が形成された製品回収材については、溶湯を調製する前に塗膜を除去する。そうすれば、塗料中に含まれるアクリル樹脂、ウレタン樹脂に起因した溶湯でのガス発生量が低減されて安全性が高められ、またTiなどの金属不純物による溶湯の汚染が抑制されるため、フラックス投入量が少なくて済み、溶湯の鎮静化に要する時間も短くて済む。
製品回収材からの塗膜の除去は、たとえば流体と無機物とを製品回収材に噴射することにより行われる。流体としては、水や空気が挙げられ、無機物としては、たとえばアルミナなどが挙げられる。
また、特許第2518107号公報に記載された塗膜除去剤のように硬質の無機物に軟質成分を配合してもよいが、先にも触れたようにマグネシウム合金材の表面に防錆層が形成されている場合には、防錆層をも同時に除去すべく、無機物としては、たとえばアルミナなどの硬質のもののみを使用するのが好ましい。使用すべき無機物の粒径は、効率良く、しかも確実に塗膜ないし防錆層を除去すべく、たとえば1〜500μmとされる。
塗膜を除去した製品回収材は、塗膜などが施されていない不要品などを先に加熱して溶湯を調製した後に、さらに塗膜を除去した製品回収材を投入して溶湯を調製する。そうすれば、除去されずに残存する塗膜や防錆層によるガスの発生や金属不純物の影響をさらに低減することができ、これによりフラックスの投入量をさらに低減し、また溶湯の鎮静化時間をさらに短縮することができる。
上記成分調整ステップでは、溶湯の鉄成分のみならず、マンガン成分の含有量も調整するようにしてもよい。その場合には、上記成分調整ステップの前に、溶湯の一部を採取して鉄成分およびマンガン成分の含有量を測定する検査ステップを行い、この検査ステップの結果、鉄成分の含有量が第1の所定値を超えた場合、またはマンガン成分の含有量が第2の所定値を下回った場合に、マンガンまたはこれを含む化合物を添加することにより上記成分調整ステップを行う。
このようにすれば、鉄成分の含有量の調整も、マンガン成分の調整と同様にマンガンまたはこれを含む化合物を添加することにより行われる。このため、鉄成分およびマンガン成分の含有量ともに所定範囲を逸脱している場合には、鉄成分およびマンガン成分の含有量の調整を同時に行うこともできる。
ところで、マンガンは、硫黄の害を低減するなどの目的のために、ある程度は含有しているほうが好ましい場合もある。たとえば、マグネシウム合金材を鋳物の材料(JIS MC1、MC2A、MC2B、MC3、MC5などに相当するもの)に再生する場合には、マンガンは0.1〜0.40wt%含まれている必要がある。したがって、鉄成分含有量ばかりでなくマンガン含有量をも測定し、これに応じてマンガンやこれの化合物を添加してマンガン含有量の適正化することの意義は大きい。
なお、第1の所定値および第2の所定値は、再生材が目的とする組成により適宜決定されるが、第1の所定値は、たとえば20ppm(0.002wt%)とされ、第2の所定値は、たとえば0.1〜0.4wt%とされる。
また、溶湯内に添加すべきマンガンまたはこれを含む化合物の添加量は、鉄成分の含有量およびマンガン成分の含有量の双方の測定結果に基づいて決定するのが好ましい。すなわち、マンガンおよびこれを含む化合物の添加は、鉄成分およびマンガン成分の含有量のうちの少なくともいずれか一方が所定範囲を逸脱していると判断された場合に行われるが、鉄成分およびマンガン成分のうちのいずれか一方の含有量のみしか所望のものとすることもできない場合も想定される。たとえば、鉄成分が過剰であるが、マンガン成分が必要十分な量だけある場合には、鉄成分の含有量を低減させる目的で過剰にマンガンまたはこれを含む化合物を添加すれば、マンガン成分の含有量が却って過剰となってしまう場合もあり得る。したがって、このような場合には、マンガン成分の含有量の調整を重視するか、あるいは鉄成分の含有量の調整を重視するかなどの諸事情により、個々具体的にマンガンなどの添加量が決定される。
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
以下、本発明の実施の形態を図1および図2に示した工程図などを参照して具体的に説明する。なお、本発明では、鉄成分およびマンガン成分の含有量の双方を調整し、JIS MD1Dに相当する鍛造用マグネシウム合金(JIS MD1Dは、マグネシウムダイカストの略称であり、ASTM規格のAZ91Dに相当し、Al 9%とZn 1%を含むマグネシウム合金を意味する)を得る場合について説明する。
本発明のマグネシウム合金材の再生方法は、坩堝などの溶解炉においてマグネシウム合金材を溶融して溶湯とし、溶湯の一部を採取して成分分析を行って、その結果に応じて鉄成分およびマグネシウム含有量の調整を行うものであり、概ね次の通りである。
まず、予め溶解炉内を680℃程度に加熱しておき(S1)、塗膜が形成されていない第1のマグネシウム合金材とともに第1フラックスを投入し(S2)、これを720℃程度に加熱して第1のマグネシウム合金材を溶融させる(S3)。このとき、溶湯の表面に発火が生じた場合には、その発火状態に応じて、適宜第1フラックスを添加する。また、溶湯内の均質性を確保すべく、機械式の羽車などにより溶湯を攪拌する(S4)。
第1フラックスは、溶湯内の油分などの不純物をスラッジとして沈降させることを主目的として添加されるものであり、たとえばアルカリ金属やアルカリ土類金属とハロゲンとの化合物が使用される。より具体的には、MgCl2 40〜60wt%、KCl15〜35wt%、CaF2 1〜10wt%、およびBaCl2 10〜30wt%を含む混合物などが使用される。
第1のマグネシウム合金材としては、成形時に生じたスプルやランナに溜まった不要材、成形不良品、あるいは回収製品におけるマグネシム合金部分などが想定される。
次いで、塗膜を除去した第2のマグネシウム合金材を第1フラックスとともに溶解炉内に投入して第2のマグネシウム合金材を溶融させた後に(S5,S6)、機械式の羽車などにより溶湯の攪拌を行う(S7)。
このようにして、塗膜が形成されていない第1のマグネシウム合金材に対して塗膜を除去した第2のマグネシウム合金材を投入するようにすれば、たとえ塗膜の除去が不十分であったとしても、溶解炉内における塗膜成分の濃度が小さく維持される。このため、塗料中の樹脂成分によるガスの発生を適切に抑制でき、また金属不純物量の低減により投入すべきフラックスなどの量や溶湯の鎮静化時間を短縮することができる。
ここで、第2のマグネシウム合金材の塗膜の除去は、たとえば図2に示したブラストガンを用いたウエットブラスト法により行われる。ウエットブラスト法では、たとえばポンプ圧により流体としての水と、無機物としてのアルミナを搬送し、これを圧縮エアとともにノズル2から吐出させて第2のマグネシウム合金材3に噴射することにより塗膜の除去が行われる。
第2のマグネシウム合金材として、たとえば3μmに防錆層が形成され、この防錆層上に50μmの塗膜(アクリル樹脂にTiを分散させたもの)が形成されたものを再生する場合には、水とアルミナの比率は、たとえば100:5〜100:15、アルミナの粒径は、たとえば1〜500μm、ポンプ圧は、たとえば0.1〜0.2MPa、圧縮エア圧は、たとえば0.1〜0.3MPa、ノズルの移動速度は20mm/s以下とされる。
S7における溶湯の攪拌により油分などの不純物がスラッジとして生成し始めたら第2フラックスを添加する(S8)。なお、第2フラックスとしては、第1フラックスと同様なものが使用されるが、各構成成分の割合は第1フラックスとは異なり、比重の大きなBaCl2の割合を少なくするのが好ましく、たとえばMgCl260〜75wt%、KCl20〜35wt%、CaF20.1〜5wt%、およびBaCl21〜10wt%を含む混合物などが使用される。また、溶湯を攪拌している段階で、溶湯の表面に発火が生じた場合には、その発火状態に応じて、第2フラックスを適宜投入する。
続いて、攪拌を停止して10〜30分間溶湯を静置し、溶解炉の底部に不純物をスラッジとして沈降させて溶湯の清浄化を行う(S9)。このとき、溶湯表面の酸化を防止することを目的とし、第3フラックスを投入する。この第3フラックスとしては、たとえば硫黄とMgF2 との混合物が使用され、その混合比は、6:4〜9:1とされる。なお、第3フラックスの添加に代えて、SF6、CO2、および空気の混合ガスなどの酸化防止ガスにより溶湯表面をシールドし、溶湯表面の酸化を防止してもよい。
溶湯の清浄化が終了すれば(S9)、溶湯の一部を採取し(S10)、それの成分分析を行って、鉄成分およびマンガン成分の含有量を測定する(S11)。成分分析は、公知の種々の方法を採用することができるが、たとえばアーク式発光分光分析により行われる。なお、アーク式発光分光分析により成分分析を行う場合には、採取すべき溶湯の量は、たとえば数百グラム程度とし、成形品は、たとえば直径5cm、長さが4cmの円柱状とされる。
次いで、鉄成分およびマンガン成分の含有量の測定結果から、鉄成分およびマンガン成分の含有量が許容範囲内にあるか否かを検討する(S12,S13)。本実施形態では、JIS MD1Dに相当する鍛造用マグネシウム合金を得ることを目的としていることから、鉄成分の許容範囲は20ppm(0.002wt%)以下、マンガン成分の許容範囲は0.17〜0.4wt%とされる。
検討の結果、鉄成分およびマンガン成分の双方ともに許容範囲内にある場合には(S12:YES,S13:YES)、先に沈降剤などの添加をしていなければ(S14:NO)、鉄成分およびマンガン成分の含有量調整を行わず、当該溶湯からインゴットなどを形成して鍛造用のマグネシウム合金材料とすればよい(S15)。一方、鉄成分およびマンガン成分のうちのいずれか一方でも許容範囲を逸脱している場合には(S12:NO,S13:NO)、沈降剤やマンガンの添加により鉄やマンガンの含有量の調整が行われる(S16,S17)。
この再生方法では、たとえば鉄成分のみが許容範囲を逸脱して過剰な場合(所定値である20ppmを超えている)には(S12:NO,S13:YES)、その過剰量に応じた量のマンガンまたはこれとアルミニウムとの金属間化合物などを溶融状態で添加し、鉄成分の含有量の低減を試みる。ただし、マンガンなどの添加により、再生材中のマンガン成分の含有量が許容範囲を超えて過剰となることが予想される場合には、マンガン以外のもの、たとえばクロム、モリブデン、あるいはケイ素などを単独で、あるいはマンガンと併用して添加し、鉄成分の含有量の低減を試みるのが好ましい。
また、鉄成分が過剰であるとともにマンガン成分が不足している場合にも(S12:NO,S13:NO)、マンガンまたはこれとアルミニウムとの金属間化合物などといったマンガン系化合物を一種または数種添加して、鉄成分の含有量の低減を図るとともに、マンガンの不足量を補ってもよい。この場合にも、マンガンなどの添加により、再生材中のマンガン含有量が許容範囲を逸脱すると予想される場合には、マンガンと他の沈降剤を併用するなどして、再生材中のマンガン含有量が過剰とならないように配慮するのが好ましい。なお、マンガン成分のみが不足している場合には(S12:YES,S13:NO)、その不足量に応じてマンガンを添加すればよい。
以上のようにして鉄成分やマンガン成分の含有量の調整を試みるべく、マンガンなどを添加した場合には(S14:YES)、たとえば溶湯を攪拌した後に20〜30分程度溶湯を静置して溶湯を清浄化し(S9)、溶湯の一部を再び採取して成分分析を行い(S10,S11)、鉄成分およびマンガン成分について良好な結果が得られていれば(S12:YES,S13:YES)、当該溶湯からインゴットなどを形成して鍛造用の材料する(S15)。一方、良好な結果が得られていなければ(S12:NO,S13:NO)、良好な結果が得られるまで鉄成分あるいはマンガン成分の含有量の調整を試みる。
ただし、鉄成分およびマンガン成分の双方ともに許容範囲とするのが困難な場合には、たとえば少なくとも鉄成分について良好な結果が得られれば成分分析および含有量の調整を終了するものとする。
マグネシウム合金材中の鉄成分やマンガン成分の含有量は、リサイクル回数やその他の要因によって異なるが、以上のような再生方法によれば、鉄成分やマンガン成分の含有量に応じて個別に対応し、鉄成分やマンガン成分の含有量を調整することができるようになり、目的とする組成(バージンのマグネシウム合金材の組成)により近い再生材を得ることができるようになる。
以下、本発明の実施例を説明する。
本実施例では、バージン材を材料としたノート型パソコンの成形時に発生したスプルやランナ部分の不要品および成形不良品(第1のマグネシウム合金材)を用いて、先に説明した再生方法に準じて、再生材の作成を試みた。
まず、約680℃に予熱した内容積が60リットルの坩堝内に、第1のマグネシウム合金材30kgとともに、MgCl250wt%、KCl25wt%、BaCl220wt%、およびCaF25wt%からなる第1フラックス0.5kgを投入し、約720℃まで加熱して溶湯とした。また、溶湯の均質性を確保すべく、機械式の羽車を100ppmで回転させて溶湯を攪拌した。
油分などの不純物がスラッジとして生成し始めたら、MgCl267wt%、KCl27.5wt%、BaCl24.5wt%、およびCaF21wt%からなる第2フラックスを0.2kg投入した。そして、溶湯表面の発火状態に応じて、適宜第2フラックスを0.1kgずつ投入した。
次いで、溶湯を清浄化するために、攪拌を停止して溶湯を静置した。なお、溶湯の清浄化は、S80wt%およびMgF220wt%からなる第3フラックスを投入して溶湯表面を酸化防止用ガス層により覆った状態で行った。
溶湯を20分間静置した後、坩堝から溶湯を0.15kg採取し、これから直径5cm、長さ4cmの円柱状の成形品を鋳造した。この成形品について、アーク式発光分光分析装置(「PDA−5500II」;(株)島津製作所製)を用いて組成分析を行い、鉄成分およびマンガン成分の含有量を測定した。その結果、鉄成分の含有量は0.0046wt%であり、マンガン成分の含有量は0.124wt%であった。
この結果に応じて、坩堝内に、マンガン成分の含有量を増やすことを主目的としてマンガン粉末を団鉱して固めたマンガンを1kg添加し、鉄成分の含有量を減らすことを主目的として溶融マンガン3kgを投入して攪拌した。攪拌を停止して20分間溶湯の清浄化を行った後、再び溶湯の一部を採取して組成分析を行った結果、鉄成分の含有量は0.0029wt%に低減し、マンガン成分は0.20wt%に上昇していた。
このようにして鉄成分およびマンガン成分の含有量が調整された溶湯から、5kgインゴットを5個鋳造した。そして、このインゴットおよびバージン材のインゴット(JIS MD1D)から、JIS Z2204 1号試験片をダイキャスト成形によりそれぞれ5個づつ作成し、JIS K 7055に準拠し、万能材料試験機(「INSTORON5581」;(株)インストロン)により3点曲げ試験を行った。なお、試験条件は、負荷荷重速度を2mm/min、スパン長を40mmとした。その結果、再生材の曲げ強度は、バージン材と略同程度であり、曲げ強度が最大のものと最小のものとの差は10%程度であった。
一方、成分調整(再生)および製品の再成形を繰り返し、その都度、先に説明したのと同様にして曲げ強度を評価した場合についての結果を図3に示した。同図から明らかなように、成分調整を行えば、再生回数が多くなっても曲げ強度が略一定に維持されることが確認された。
また、先と同様にして作成された試験片について、JIS Z 2371に準拠して、塩水噴霧試験により耐食性を評価した。比較用として、鉄成分およびマンガン成分の調整を行っていない不要品および成形不良品から得られる試験片についても同様にして耐食性を評価した。その結果、再生材とバージン材とでは同程度の腐食量であり、成分調整を行っていない再生材の腐食量はバージン材の20倍以上となった。
さらに、成分調整(再生)および製品の再成形を繰り返し、その都度、先に説明したのと同様にして耐食性を評価した場合と、回収材の成分調整せずに製品の再成形を繰り返し、その都度、先に説明したのと同様にして耐食性を評価した場合とのそれぞれについての評価結果を図4に示した。同図から明らかなように、成分調整を行わずにマグネシウム合金材の再成形を繰り返した場合には、繰り返し回数の増加に伴って腐食量が大きくなるが、成形前に成分調整を行えば、再生の繰り返し回数が多くなっても腐食量の増加が僅かであった。
また、再成形を繰り返した場合において、各回の成形前での鉄とマンガンの重量比率(Fe/Mn重量比)を測定したところ、図5に示したように成分調整を行わずにマグネシウム合金材の再成形を繰り返した場合には、繰り返し回数の増加に伴ってFe/Mn重量比が増加するが、成形前に成分調整を行えば、再生の繰り返し回数が多くなってもFe/Mn重量比が略一定であった。このように、成分調整を行わずにマグネシウム合金材の再成形を繰り返した場合には、鉄成分の含有量が増加し、これにともない耐食性が低下するのに対して、成形前に成分調整を行えば、再生の繰り返し回数が多くなっても鉄成分の含有量が適切化され、耐食性も一定に維持されることが確認された。
本実施例では、バージン材を材料としたノート型パソコンの成形時に発生したスプルやランナ部分の不要品および成形不良品(第1のマグネシウム合金材)を用いて、先に説明した再生方法に準じて、再生材の作成を試みた。
まず、約680℃に予熱した内容積が60リットルの坩堝内に、第1のマグネシウム合金材30kgとともに、MgCl250wt%、KCl25wt%、BaCl220wt%、およびCaF25wt%からなる第1フラックス1kgを投入し、約720℃まで加熱して溶湯とした。また、溶湯の均質性を確保すべく、機械式の羽車を100ppmで回転させて溶湯を攪拌した。
油分などの不純物がスラッジとして生成し始めたら、MgCl267wt%、KCl27.5wt%、BaCl24.5wt%、およびCaF2 1wt%からなる第2フラックスを0.2kg投入した。そして、溶湯表面の発火状態に応じて、適宜第2フラックスを0.1kgずつ投入した。
次いで、溶湯を清浄化するために、攪拌を停止して溶湯を静置した。なお、溶湯の清浄化は、S80wt%およびMgF2 20wt%からなる第3フラックスを投入して溶湯表面を酸化防止用ガス層により覆った状態で行った。
溶湯を20分間静置した後、溶湯から0.2kgを採取し、これから直径5cm、長さ4cmの円柱状の成形品を鋳造した。この成形品について、アーク式発光分光分析装置(「PDA−5500II」;(株)島津製作所製)を用いて組成分析を行い、鉄成分およびマンガン成分の含有量を測定した。その結果、鉄成分の含有量は0.0046wt%であり、マンガン成分は0.124wt%であった。
この結果に応じて、坩堝内に、マンガン成分の含有量を増やすことを主目的としてマンガン粉末を団鉱して固めたマンガンを1kg添加し、鉄成分の含有量を減らすことを主目的として溶融したAl−Mn金属間化合物(マンガン75%)4kgを投入して攪拌した。攪拌を停止して10分間溶湯を清浄化した後、再び溶湯の一部を採取して組成分析を行った結果、鉄成分の含有量は0.0029wt%に低減し、マンガン成分は0.18wt%に上昇していた。
この結果は、実施例1の場合と略同様であるが、本実施例では、2度目の溶湯の清浄化時間を10分としているのに対し、実施例1では2度目の溶湯の清浄化時間が20分とされている。つまり、鉄成分の含有量を減らすために溶融したAl−Mn金属間化合物を投入すれば、溶融マグネシムを単独で投入する場合に比べて短時間で同様な効果が得られることが分かる。
このようにして鉄成分およびマンガン成分の含有量が調整された溶湯から、5kgのインゴットを5個鋳造した。そして、このインゴットおよびバージンのマグネシウム合金のインゴット(JIS MD1D)から、ノート型パソコン筐体(320×240×1.2mm)をダイキャスト成形によりそれぞれ50個づつ作成した。その結果、成形時の定性的な評価として、再生材とバージン材とは大きな差がなく、また製品の不良品率は再生材を使用した場合であってもバージン材を使用した場合と略同様に約80%であった。
本実施例では、バージン材を材料としたノート型パソコンの成形時に発生したスプルやランナ部分の不要品と成形不良品(第1のマグネシウム合金材)、および塗膜が形成された製品回収材(第2のマグネシウム合金材)を用いて、マグネシウム材の再生を試みた。
まず、約680℃に予熱した内容積が60リットルの坩堝内に、塗装が施されていない第1のマグネシウム合金材15kgとともに、MgCl250wt%、KCl25wt%、BaCl220wt%、およびCaF25wt%からなる第1フラックス0.5kgを投入し、約720℃まで加熱して溶湯とした。また、溶湯の均質性を確保すべく、機械式の羽車を100ppmで回転させて溶湯を攪拌した。
次いで、坩堝内に塗膜を除去した第2のマグネシウム合金材15kgおよび第1フラックス0.5kgを投入し、羽根車を回転させつつ720℃で加熱して第2のマグネシウム合金材を溶融させた。
塗膜の除去は、図2に示したようなブラストガン1を用いて、次の条件下で行った。流体としての水と無機物としてのアルミナ(アルミナの粒径は120μm、水とアルミナの比率は100:12)をポンプ圧0.12MPaとして供給するとともにエア圧0.2MPaとし、第2のマグネシウム合金材3とノズル2の先端との距離を30mmとしてブラストガン1を20mm/sで移動させた。
油分などの不純物がスラッジとして生成し始めたら、MgCl267wt%、KCl27.5wt%、BaCl24.5wt%、およびCaF21wt%からなる第2フラックスを0.2kg投入した。そして、溶湯表面の発火状態に応じて、適宜第2フラックスを0.1kgずつ投入した。次いで、溶湯を清浄化するために、攪拌を停止して溶湯を静置した。なお、溶湯の清浄化は、S80wt%およびMgF220wt%からなる第3フラックスを投入して溶湯表面を酸化防止用ガス層により覆った状態で行った。
溶湯を20分間静置した後、溶湯から0.2kgを採取し、これから直径5cm、長さ10cmの円柱状の成形品を鋳造した。この成形品について、アーク式発光分光分析装置(「PDA−5500II」;(株)島津製作所製)を用いて組成分析を行い、鉄成分およびマンガン成分の含有量を測定した。その結果、鉄成分の含有量は0.0046wt%であり、マンガン成分の含有量は0.124wt%であった。
この結果に応じて、坩堝内に、溶融したAl−Mn金属間化合物(マンガン75%)4kgを投入して攪拌した。攪拌を停止して10分間溶湯を清浄化した後、再び溶湯の一部を採取して組成分析を行った結果、鉄成分の含有量は0.0029wt%に低減し、マンガン成分は0.18wt%に上昇していた。
このようにして鉄成分およびマンガン成分の含有量が調整された溶湯から、5kgのインゴットを5個鋳造した。そして、このインゴットおよびバージンのマグネシウム合金のインゴット(JIS MD1D)から、JIS Z2204 1号試験片を作製して実施例1と同様にして3点曲げ試験および塩水噴霧試験(耐食性)を行い、またノート型パソコン筐体(320×240×1.2mm)をダイキャスト成形によりそれぞれ50個づつ作成した。
その結果、本実施例の再生材の強度および腐食量は、バージン材と略同様であった。また、成形時の定性的な評価として、再生材とバージン材とは大きな差がなく、また製品の不良品率は再生材を使用した場合であってもバージン材を使用した場合と略同様に約80%であった。
以上に説明したように、本発明によれば、バージン材との比較において、強度および耐食性などについて遜色のない再生材が提供できる。また、塗膜を除去したマグネシウム合金材を再生させる場合、塗膜が形成されていないマグネシウム合金材の場合と同じ程度のフラックス使用量および鎮静化時間により再生することができる。
本発明に係るマグネシム合金材の再生方法を説明するための工程図である。
塗装が施された第2のマグネシウム合金材から塗膜を除去するためのブラストガンの模式的断面図である。
実施例1における曲げ試験の結果を示すグラフである。
実施例1における耐食性の試験結果を示すグラフである。
実施例1におけるFe/Mn重量比の測定結果を示すグラフである。
符号の説明
1 ブラストガン
2 ノズル
3 第2のマグネシウム合金材