JP2005200553A - 水溶性染料及び水性インク - Google Patents

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Abstract

【課題】 高画像品位で滲みがなく、かつ保存安定性、耐光性、耐酸化ガス性、吐出安定性、耐湿性に優れたインクジェット記録方式の記録液として有用な水性インク、該水性インクに使用する染料を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で表されるアゾ化合物の分子量Mwに対して、分子量が0.7Mw以下の有機不純物の含有量が10%以下であることを特徴とする一般式(1)で表されるアゾ化合物からなる水溶性染料を少なくとも一種を含有するインクジェット記録用水性インク。
Figure 2005200553

[式中、R1,R2はそれぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基または置換されていてもよいアリール基を表し、Aは置換されていてもよいフェニル基または置換されていてもよいナフチル基を表し、Xは二価の連結基を表し、Mは水素原子、アルキル金属または四級アンモニウムを表し、m、nはそれぞれ独立に1〜4の整数を表す。]
【選択図】 なし

Description

本発明は、アゾ化合物からなる水溶性染料および該水溶性染料を含む水性インク、特にインクジェット記録方式のインクに関する。
筆記用具またはインクジェット記録方式の記録用に用いられている水性インクは、基本的に染料、水及び有機溶剤から構成される。臭気、人体および周辺環境への安全性の配慮から、水を主溶剤とする水性インクの需要が強く、水溶性の酸性染料、および、直接性染料等が実用化されている。これに関して染料および水性インクには様々な特性が要求されている。特にインクジェット記録方式の記録液に用いられる水性インクには、以下に示す
様々な要求特性が挙げられるが、全ての特性を満足するに至っていないのが現状である。
(1)インクの粘度、表面張力、比電導度、密度、pH等の物性値が適当であること。
(2)インクの長期保存安定性が良好であること。
(3)溶解成分の溶解安定性が高く、ノズルを目詰まりさせないこと。
(4)被記録材での速乾性が良好であること。
(5)記録画像が鮮明であり、滲みがなく、耐光性、耐水性、耐湿性が良好であること。
(6)3原色のバランス等から、好ましい色調であること。
以上のように、特にインクジェット記録方式に用いられるインクの諸特性においては、染料固有の特性に影響されるところが大きく、これら諸条件を満たす染料および水性インクの創出が極めて重要である。
また、最近では特許第3398367号公報に水性インク等が記載されているが、インクジェット記録方式のプリンターや媒体等の技術の進化により、従来に比べ更なる性能の向上が要求されている。中でも水溶性染料においては、インクの保存安定性の更なる向上が求められているのが現状である。
本発明の目的は、高画像品位で滲みがなく、かつ保存安定性、耐光性、耐湿性、吐出安定性に優れたインクジェット記録方式の記録液として有用な水性インク、該水性インクに使用する染料を提供することである。
本発明者らは、これら課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下に関するものである。
1.下記一般式(1)で表されるアゾ化合物の分子量Mwに対して、分子量が0.7Mw以下の有機不純物の含有量が10%以下であることを特徴とする一般式(1)で表されるアゾ化合物からなる水溶性染料。
Figure 2005200553
[式中、R1,R2はそれぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基または置換されていてもよいアリール基を表し、Aは置換されていてもよいフェニル基または置換されていてもよいナフチル基を表し、Xは二価の連結基を表し、Mは水素原子、アルキル金属または四級アンモニウムを表し、m、nはそれぞれ独立に1〜4の整数を表す。]
2.下記一般式(2)で表される水溶性染料を原料として製造することにより得られる1記載のアゾ化合物からなる水溶性染料。
Figure 2005200553
[式中、R1,R2はそれぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基または置換されていてもよいアリール基を表し、Aは置換されていてもよいフェニル基または置換されていてもよいナフチル基を表し、Xは二価の連結基を表し、Mは水素原子、アルキル金属または四級アンモニウムを表し、m、nはそれぞれ独立に1〜4の整数を表す。]
3.一般式(1)で表されるアゾ化合物からなる水溶性染料の製造において、反応時のpHが7.0未満であることを特徴とする2記載のアゾ化合物からなる水溶性染料。
4.前記1〜3の何れかに記載のアゾ化合物からなる水溶性染料のうち少なくとも一種を含有する水性インク。
5.インクジェット記録方式に用いることを特徴とする4記載の水性インク。
本発明の水溶性染料を用いた水性インクは、インクジェット記録方式の記録液として、さまざまな要求特性を満たすものである。本発明の水溶性染料は保存安定性に優れており、製造法を選択、最適化することによって、染料中の低分子量有機不純物の含有量を制御することにより、特に、耐湿性に優れたインクを提供することが出来る。
本発明は、一般式(1)で表されるアゾ化合物からなる水溶性染料およびそれを用いた水性インクに関するものである。
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
まず、本発明において下記一般式(1)で表されるアゾ化合物について説明する。
Figure 2005200553
[式中、R1,R2はそれぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基または置換されていてもよいアリール基を表し、Aは置換されていてもよいフェニル基または置換されていてもよいナフチル基を表し、Xは二価の連結基を表し、Mは水素原子、アルキル金属または四級アンモニウムを表し、m、nはそれぞれ独立に1〜4の整数を表す。]
一般式(1)で表されるアゾ化合物において、R1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基または置換されていてもよいアリール基を表す。
置換されていてもよいアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、n−ヘキシル基、iso−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、ノニル基、デシル基等の鎖状アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、トリフルオロメチル基、クロロエチル基等のハロゲノアルキル基、シアノエチル基等のシアノアルキル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基等のヒドロキシアルキル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基等のアルコキシアルキル基、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基等のアルコキシカルボニルアルキル基、フェノキシカルボニルメチル基等のアリールオキシカルボニルアルキル基、アセチルオキシエチル基等のアルキルカルボニルオキシアルキル基、フェニルオキシエチル基等のアリールカルボニルオキシアルキル基、ベンジル基、フェネチル基のアラルキル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基等が挙げられる。
置換されていてもよいアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、トルイル基、キシリジル基、エチルフェニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、フルオロフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基等が挙げられる。
また置換していてもよい基としては、アルキル基、ハロゲン原子、ハロゲノアルキル基、水酸基、アミノ基等が挙げられる。
R1およびR2において、製造上における原料の入手、製造時の反応性の観点から、好ましくは水素原子、置換されていてもよいアルキル基であり、さらに好ましくは水素原子、鎖状アルキル基であり、特に好ましくは水素原子である。
一般式(1)で表されるアゾ化合物において、Aは置換されていてもよいフェニル基または置換されていてもよいナフチル基を表す。
フェニル基またはナフチル基に置換していてもよい基としては、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、アミノカルボニル基、スルホン酸基、アミノスルホニル基、置換されていてもよいアルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、アルキルアミノスルホニル基、アリールアミノスルホニル基等が挙げられる。
Aにおいて、色調の観点から、好ましくは、置換されていてもよいナフチル基である。また溶解性の観点から、Aは水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基で置換されていることが好ましく、カルボキシル基、スルホン酸基で置換されていることがより好ましい。
一般式(1)で表されるアゾ化合物において、Xは二価の連結基を表す。二価の連結基としては、置換されていてもよいアルキレン基、置換されていてもよいアリーレン基、または一般式(3)で表される基等が挙げられる。
Figure 2005200553
(式中、Zは−CO−、−CH−、−NHCONH−、−NHCSNH−、−O−、−S−、−SO−、または式(4)
Figure 2005200553
を表す。)
置換されていてもよいアルキレン基としては、特に限定されるものではないが、メチレン基、エチレン基等、−C2p−(pは1〜10の整数を表す)で表される基が挙げられ、これらは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基等で置換されていてもよい。
置換されていてもよいアリーレン基としては、フェニレン基、キシリレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等が挙げられ、これらはハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基等で置換されていてもよい。
Xにおいて、耐候性の観点から、好ましくは置換されていてもよいアリーレン基、前記式(3)で表される基が好ましく、工業原料の入手のしやすさの観点から、好ましくは置換されていてもよいアリーレン基であり、さらに好ましくはカルボキシル基、スルホン酸基で置換されていてもよいフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基であり、特に好ましくはフェニル基である。
またこれら二価の連結基の結合位置は、特に限定されない。例えば、フェニレン基およびキシリレン基では、o位、m位、p位のいずれであってもよく、ナフチレン基では、1,5−位、2,6−位などのいずれの位置であってもよい。
一般式(1)で表されるアゾ化合物において、Mは水素原子、アルキル金属または四級アンモニウムを表す。つまり−SO3Mは遊離酸または塩の形態であり、使用に際していずれの形態であってもよい。アルキル金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウム等があげられ、四級アンモニウムとしては、アンモニウム、アルキルアンモニウム、ヒドロキシアルキルアンモニウム等が挙げられる。これらは単一の塩、あるいは複数の塩の混合した化合物として、さらには一部遊離酸の形態のままで用いられてもよい。また必要に応じて、塩交換を行っても差し支えない。
一般式(1)で表されるアゾ化合物において、トリアジン環およびナフタレン環に結合する水酸基は、前記−SOMのごとく、−OMという形態をとり、Mが水素原子以外であってもよい。
一般式(1)で表されるアゾ化合物において、mおよびnはそれぞれ独立に1〜4の整数を表す。溶解性と耐水性、耐湿性との観点から、mおよびnは好ましくは1〜3個であり、より好ましくは1〜2個であり、最も好ましくは2個である。
一般式(1)で表されるアゾ化合物の−(SOM)mおよび−(SOM)nの置換基を有するナフタレン環において、好ましい構造式は以下が例示できる。
Figure 2005200553
式(5)〜(8)の置換される前の原料は古くから通称名で呼ばれ、式(5)はS酸、式(6)はSS酸、式(7)はH酸、式(8)はK酸である。式(5)〜(8)において、好ましくは式(6)および(7)であり、特に好ましくは式(7)である。
前記一般式(1)で表されるアゾ化合物の具体例を第1表(表1〜表4)に示すが、本発明に用いられる化合物は第1表の化合物に限定されるものではない。
[第1表]
Figure 2005200553
Figure 2005200553
Figure 2005200553
Figure 2005200553
本発明の一般式(1)で表されるアゾ化合物は、一般式(1)で表される構造以外にも、
例えば一般式(1−A)のような互変異性構造をとり得る。
Figure 2005200553
〔上式中、R1,R2,A、X,M、m及びnは一般式(1)の場合と同じ意味を表す。〕
本発明における一般式(1)で表されるアゾ化合物は、互変可能な構造を有しており、互変異性体を有することが可能である。具体的には、上記一般式(1)や一般式(1−A)等に示される構造であり、本発明では、便宜上一般式(1)の構造を示しているが、一般式(1)や一般式(1−A)等の構造を有する化合物であってもよく、一般式(1)および一般式(1−A)等の各構造の混合物であっても一向に構わず、自由に用いることができる。
一般に、アゾ系染料には、不純物として、原料や中間体、副生物などの有機化合物と、KCl、NaCl、NaSO等の無機塩類とが大量に含まれていることが知られている。これらの不純物は、インクの特性に悪影響を与えることが多い。
従って、一般式(1)で表されるアゾ化合物からなる水溶性染料には、一般式(1)で表されるアゾ化合物のほか、前記したような有機不純物、無機不純物等を含むものであるが、本発明の一般式(1)で表されるアゾ化合物からなる水溶性染料とは、一般式(1)で表されるアゾ化合物の分子量Mwに対して、分子量が0.7Mw以下の有機不純物の含有量が10%以下であることを特徴とするものである。
本発明の一般式(1)で表されるアゾ化合物からなる水溶性染料は、水性インク特にインクジェット記録方式のインクに非常に適した染料である。該染料はインクジェット記録方式の記録液として必要とされる様々な特性を満足させるものである。
本発明においては、保存安定性の更なる向上に加えて、その他の要求特性を持たすものとして、一般式(1)で表されるアゾ化合物からなる水溶性染料において、低分子量の有機不純物の含有量を一定量よりも少なくすることがより重要である。
一般式(1)で表されるアゾ化合物からなる水溶性染料は、製造ルートは各種選択できるが、一般式(2)で表される水溶性染料を原料として加水分解反応することによって製造することが簡便である。
Figure 2005200553
[式中、R1,R2はそれぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基または置換されていてもよいアリール基を表し、Aは置換されていてもよいフェニル基または置換されていてもよいナフチル基を表し、Xは二価の連結基を表し、Mは水素原子、アルキル金属または四級アンモニウムを表し、m、nはそれぞれ独立に1〜4の整数を表す。]
製造の際に反応が完結せずに、一般式(1)で表されるアゾ化合物からなる水溶性染料中に、原料である一般式(2)で表される水溶性染料や、中間体である下記一般式(10)で表される化合物が含まれていると、インクの保存安定性が損なわれてしまい、pHの低下を引き起こす。
Figure 2005200553
〔上式中、R1,R2,A、X,M、m及びnは一般式(2)の場合と同じ意味を表す。〕
そのため、反応を完結させることが重要となるが、反応を完結させるために、反応条件を厳しくすると、アゾ化合物の分解が起こりやすく、低分子量の有機不純物が生成しやすくなる。反応を完結させ、かつ、低分子量の有機不純物の生成を一定量以下に抑えるためには、反応条件の選択、最適化が重要である。
目的の構造が分解した、低分子量の有機不純物を多く含む水溶性染料を用いてインクを調整し、インクジェット記録方式の記録液とした場合には、高純度の水溶性染料を用いた場合と比較すると、記録特性、保存安定性、被記録材への定着性、記録画像の鮮明性、耐光性、耐湿性等が損なわれ、特に、耐湿性が低下する。
例えば、以下の式(9)の化合物(分子量1774.19)から第1表中のNo.13の化合物(分子量1737.30)を製造する場合には、下記第2表(表5)のように分解した、低分子量の有機不純物の生成が見られる。なお低分子量の有機不純物の生成する量は反応条件によって異なる。(表中、Mol.Wt.は分子量を表す。これらは一例であって、有機不純物の全ての構造を示すものではない)
Figure 2005200553
[第2表]
Figure 2005200553
本発明においては、目的化合物よりも低分子量の有機不純物のうち、インク特性、特に印字評価における耐湿性に影響を大きく与えるのは、目的化合物の分子量をMwとした際に、0.7Mw以下の分子量を有する分子である。一般式(1)で表されるアゾ化合物からなる水溶性染料中に含まれる0.7Mw以下の分子量を有する分子の含有量は、10%以下であり、好ましくは8%以下であり、より好ましくは6%以下である。
本発明の一般式(1)で表される化合物からなる水溶性染料の合成方法は、特に限定されるものではないが、−(SOM)mおよび−(SOM)nの置換基を有するナフタレン環がH酸である染料の合成ルートの例を示す。
Figure 2005200553
(式中、R1〜R2、A、X,Mは前記と同じ意味を表す)
上記一般式(g)で表される化合物は、細田豊著『理論製造 染料化学 第五版』〔昭和43年7月15日(株)技報堂発行〕に記載の方法に準じて製造することが出来る。具体的には、H酸(b)のナトリウム塩を水に溶解させた溶液(pH6〜6.5)を、水に分散させたシアヌルクロライド(a)へ0〜2℃で1時間かけて滴下する。生成物は塩化ナトリウムで析出させる。析出した生成物、酢酸ナトリウムを水に加え、化合物(d)のジアゾ化物の溶液を加え、アゾカップリングを行う。反応後、炭酸ナトリウムの希薄溶液で中和しナトリウム塩を形成させ、塩化ナトリウムを加えてモノアゾ染料(e)を析出させる。ろ別後、モノアゾ染料(e)を水に溶解させ、この溶液へモノアゾ染料(e)に対して0.5等量のジアミン化合物(f)の中性水溶液を40〜45℃で加えて反応させ、モノアゾ染料(e)がジアミン化合物(f)残基で連結されたビス体染料(g)を製造することができる。
本発明の一般式(1)で表されるアゾ化合物からなる水溶性染料は、一般式(2)で表される水溶性染料を加水分解反応することによって得ることが出来る。
一般的な加水分解の方法としては、例として、日本化学会編『実験化学講座 第一版』丸善株式会社発行 第19巻137〜140ページ、163〜165ページ記載の方法、あるいは、前述の『理論製造 染料化学 第五版』記載の方法、等が挙げられる。シアヌルクロライド(a)由来の塩素原子を加水分解する方法としては、The Chemistry of Heterocyclic Compounds 『s-Triazines and Derivatives』(1959年 Interscience Publishers Inc.発行)に記載されている。
具体的な例を挙げると、一般式(g)で表されるビス体染料を苛性ソーダ水溶液中で加熱し、50〜100℃で加水分解反応を行い、反応後、塩化ナトリウムを加えて析出させると、一般式(h)で表される水溶性染料がナトリウム塩の形で得られる。
本発明の一般式(1)で表される化合物からなる水溶性染料の製造方法としては、前記の方法及び条件、合成ルートに限定されるものではないが、原料の入手や、反応性を考慮すると、前記の合成ルートで製造することが好ましい。なお、−(SOM)mおよび−(SOM)nの置換基を有するナフタレン環がH酸以外でも同様に製造することが出来る。
一般式(1)で表される化合物からなる水溶性染料を式(2)で表される水溶性染料の加水分解反応を行うことによって製造する際に、溶媒としては、水のほか、親水性の極性有機溶媒を用いることもできる。好ましくは水およびアルコールであり、さらに好ましくは水、メタノール、エタノール、イソプロパノールであり、最も好ましくは水である。
水溶媒において加水分解反応を進行させるためには、アルカリ触媒あるいは酸触媒を使用しても良い。アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられる。酸触媒としては、硫酸、硝酸、塩酸、酢酸等が挙げられる。
反応に際しては、前述のように、目的構造の染料が分解して、低分子量の不純物の生成が起こりやすいため、使用する触媒、pHおよび温度条件の選択、最適化が重要である。
本発明においては、反応時のpHは7.0未満であることが好ましい。アルカリ触媒を用いた場合には低分子量の有機不純物が多く生成する可能性があるため、酸触媒を用いることが好ましい。酸触媒を用いる場合の水溶液のpHは0.001〜6.9であり、好ましくは0.01〜5.0であり、さらに好ましくは0.01〜4.0であり、最も好ましくは0.1〜3.0である。
また反応温度は、低すぎると目的の反応が進行し難く、反応が完結しない可能性がある。また温度が高すぎると、目的構造の染料が分解して、低分子量の有機不純物が多く生成し、さらに高温となると、トリアジン環も分解してしまう可能性がある。具体的には、反応温度は20〜150℃であり、好ましくは30〜120℃であり、より好ましくは40〜100℃であり、さらに好ましくは50〜90℃である。
本発明の水溶性染料を含有する水性インクは、各種インク、特にインクジェット記録方式の記録液として有用である。
本発明の水溶性染料は、アゾ系染料であることから、前述したように無機塩類が一般的に含まれている。無機塩類の含有量が少ない場合、そのままでも使用可能であるが、特にインクジェット記録方式の記録液として用いる場合、染料中に含まれる無機塩等による記録装置の吐出ノズルの目詰まりを防止するために、これらを除去、削減すること、すなわち脱塩処理を行うことが好ましい。脱塩処理の方法としては、例えばイオン交換樹脂や限外濾過、あるいは水溶性染料をイオン交換水に溶解させ、極性溶媒を添加することで結晶化させて行う方法、さらには、水溶性染料の水溶液を極性溶媒中へ排出することで結晶化させる方法がある。
本発明の水性インクの主な成分は、本発明の水溶性染料、水及び必要に応じて有機溶剤を含有するものである。本発明の水溶性染料は、単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。その使用量は、用途、目的、染料の種類、インク組成、インクの印字濃度、目詰まり性にもよるが、水性インク全体に対して、水溶性染料は0.5〜20%であることが好ましく、特に好ましくは1〜10%であり、有機溶剤は0〜80%が好ましい範囲である。
また、インクの色調を調製するため、またその他の特性を改良するために、その他の水溶性染料や、インク特性を損なわない程度に、公知の染料や顔料をエマルジョンあるいは微分散状態に処理したものを添加しても差し支えない。
本発明の水性インクは、主溶媒成分として水を使用するが、インクの乾燥防止、染料の溶解性を向上させる等の目的で、水溶性有機溶媒と混合して使用することもできる。水溶性有機溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、グリセリン、チオグリコール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の含窒素化合物、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール類等が挙げられる。これらの水溶性有機溶媒は単独または2種類以上を混合して用いてもよく、含有量は、0〜80%、好ましくは5〜50%の範囲で使用する。
また、インクの保存安定性を向上させるためにインクのpHを7〜10に調整することが好ましい。pH調整剤としては、NaHCO、Na、エタノールアミン、ジエタノールアミンおよびトリエタノールアミン等のアルカノールアミン、水酸化カリウム及び水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物等が挙げられる。pH調整剤の含有量は、インクに対して0.001〜10%程度が好ましい。またこれらのアミン類は水溶性染料と対イオンを形成して用いてもよい。
また本発明の水溶性染料を含有するインクに、尿素、チオ尿素、ビウレット、セミカルバジド及びこれら誘導体を併用してもよい。含有量は水系インクに対して0.1〜15%程度が好ましい。
前記組成から構成される本発明の水性インクは、筆記用具等のインクあるいはインクジェット記録方式のインクとして、記録特性、保存安定性、被記録材への定着性、記録画像の鮮明性、耐光性、耐湿性等に優れたものである。
また、本発明の水性インクには、従来使用されている種々の添加剤を必要に応じて加えることができる。例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、キレート化剤、水溶性ポリマー、マスキング剤、防かび剤、防腐剤、粘度調節剤、界面活性剤、表面張力調整剤、pH調整剤、比抵抗値調整剤、近赤外線吸収剤、浸透剤等の添加剤が挙げられる。
本発明の水性インクは、本発明の水溶性染料を、水、有機溶剤、必要に応じて前記で挙げた添加物等とともに溶解させ、不溶物を除去するためメンブランフィルター等の微小孔径のフィルターで濾過することで製造される。このように製造された水系インクは、特にインクジェット記録方式の記録液として有用であるが、その他、ボールペン、フェルトペン、万年筆等の筆記用具のインクとしても使用される。
なお、本発明の水溶性染料は、特にインクジェット用インクに好適であるが、他の用途に使用しても構わない。具体的には、他の各種インク用途のみならず、該化合物は3原色のうちの一つであるマゼンタ色として良好な色相を示すので、カラー電子写真用マゼンタトナーや、カラーフィルターにも用いることができる。また、樹脂の着色剤、染料、塗料などにも用いても良い。
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は重量部を示す。
<化合物No.13からなる水溶性染料の合成>
下記式(9)で表される水溶性染料50部を蒸留水300部中に溶解させた。35%塩酸7部を加えてpH1.5とし、80℃で2時間攪拌した。反応終了後、30%水酸化ナトリウム溶液でpH=7に調整し、この反応溶液をイソプロピルアルコール600部中へ排出し、染料を結晶化させた。得られた結晶を濾過、乾燥を行い、第1表記載の化合物No.13からなる水溶性染料43部を得た。該染料の水中でのλmaxは545nmであった。
Figure 2005200553
化合物No.13からなる水溶性染料の組成を分析した結果、分子量が0.7Mw以下の有機不純物の含有量は4.8%であった。(Mw:化合物No.13の分子量)
[インクの調整(処方1)]
下記の組成にて混合、溶解させ、孔径0.45μmのメンブランフィルターを通してインクを調整した。
<インクの組成>
化合物No.13からなる水溶性染料 3部
グリセリン 5部
ジエチレングリコール 5部
N−メチル−2−ピロリドン 5部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 10部
イオン交換水 72部
<特性の評価>
上記で調製したインクを用い、ピエゾ方式インクジェットプリンター用インクカートリッジに充填し、インクジェット専用紙(セイコーエプソン(株)製 PM写真用紙)に、同方式プリンターにより印字及び画像記録を行い、下記の項目について試験を行った。
その結果、(A)耐湿性評価;◎、(B)耐光性評価;◎、(C)耐酸化ガス性評価;◎、(D)インクの保存安定性評価(析出物);○、(E)インクの保存安定性評価(pH変化);◎と良好であった。
尚、各試験項目の評価基準は以下の通りである。
(A)耐湿性評価:試験用に画像記録されたインクジェット専用紙を、50℃、湿度85%の条件下、1週間放置したのちの記録画像の状態を目視により耐湿性評価を行った。
評価基準:画像の変化なし; ◎
画像のエッジ部にわずかに滲みが見られるが問題ないレベル; ○
画像のエッジ部に滲みが見られる; △
画像のエッジ部から滲みが広っている; ×
(B)耐光性評価:試験用に画像記録されたインクジェット専用紙を、キセノンフェードメーター(スガ試験機社製)を用い、24時間照
射した後、照射前と照射後の印字濃度(OD値)を反射濃度計(マクベス社製)を用いて測定し、下記式にてOD1値を算出し耐光性評価を行った。
OD1値(%)=(照射後のOD値)/(照射前のOD値)×100
評価基準:OD1値が100〜80%以上;◎
OD1値が80%未満〜70%; ○
OD1値が70%未満〜50%; △
OD1値が50%未満; ×
(C)耐酸化ガス性評価:オゾン濃度を50ppmに調整した窒素気流下、試験用に画像記録されたインクジェット専用紙を1時間放置し、試験前後の印字濃度(OD値)を反射濃度計(マクベス社製)を用いて測定し、下記式にてOD2値を算出し耐酸化ガス性評価を行った。
OD2値(%)=(試験後のOD値)/(試験前のOD値)×100
評価基準:OD2値が100〜80%以上; ◎
OD2値が80%未満〜70%; ○
OD2値が70%未満〜50%; △
OD2値が50%未満; ×
(D)インクの保存安定性評価(析出物):インクを40℃で1ヶ月間保存後、不溶物の有無を目視にて観察した。
評価基準:不溶物なし; ○
わずかに浮遊物が見られる:△
不溶物あり; ×
(E)インクの保存安定性評価(pH変化):インクを70℃で一週間保存し、試験前後のpHを測定した。
ΔpH = {(試験後のpH)−(試験前のpH)}の絶対値
評価基準:ΔpHが 0.5未満; ◎
ΔpHが 0.5以上〜1.0未満; ○
ΔpHが 1.0以上〜1.5未満; △
ΔpHが 1.5以上 ; ×
実施例1で合成した化合物No.13からなる水溶性染料を実施例2記載の方法でインクの調整を行い、サーマル方式インクジェットプリンター用インクカートリッジに充填し、インクジェット専用紙(キャノン(株)製 プロフェッショナルフォトペーパー PR−101)に、同方式プリンターにより印字及び画像記録を行い、前記の項目について試験を行った。
その結果、(A)耐湿性評価;◎、(B)耐光性評価;◎、(C)耐酸化ガス性評価;◎、(D)インクの保存安定性評価(析出物);○、(E)インクの保存安定性評価(pH変化);◎と良好であった。
[実施例4〜20]
実施例1と同様な方法にて合成した水溶性染料を実施例2記載の方法と同様にインクの調整を行い、評価した結果を第3表に示す。
[第3表]
*1低分子有機不純物: 一般式(1)にあたる分子の分子量Mwに対し、0.7Mw以下の有機不純物
Figure 2005200553
[比較例1]
下記式(11)で表される染料を用い、実施例2記載の方法と同様にインクの調整を行い、特性評価を行った。
Figure 2005200553
その結果、(A)耐湿性評価:×、(B)耐光性評価:△、(C)耐酸化ガス性評価:△、(D)インクの保存安定性評価(析出物):○、(E)インクの保存安定性評価(pH変化):×となった。
[比較例2]
<化合物No.13からなる水溶性染料の合成>
実施例1で35%塩酸7部を用いるかわりに炭酸ナトリウム3.6部を用いて、pH10.3として、90℃で攪拌した。反応の進行が遅く、16時間過熱攪拌してやっと原料が消失したが、中間体が存在していた。20時間加熱攪拌しても、中間体が残存していたが、反応を止め、実施例1と同様に染料を取り出した。
組成を分析したところ、分子量が0.7Mw以下の有機不純物が21.4%であった。(Mw:化合物No.13の分子量)
また実施例2と同様にインク特性の評価を行った結果、
(A)耐湿性評価:×、(B)耐光性評価:○、(C)耐酸化ガス性評価:○、(D)インクの保存安定性評価(析出物):○、E)インクの保存安定性評価(pH変化):△となった。
本発明の水溶性染料を用いた水性インクは、インクジェット記録方式の記録液として、さまざまな要求特性を満たすものである。本発明の水溶性染料は保存安定性に優れており、製造法を選択、最適化することによって、染料中の低分子量有機不純物の含有量を制御することにより、特に、普通紙のみならず、インクジェット専用紙においても、耐湿性に優れたインクを提供することが出来る。

Claims (5)

  1. 下記一般式(1)で表されるアゾ化合物の分子量Mwに対して、分子量が0.7Mw以下の有機不純物の含有量が10%以下であることを特徴とする一般式(1)で表されるアゾ化合物からなる水溶性染料。
    Figure 2005200553
    [式中、R1,R2はそれぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基または置換されていてもよいアリール基を表し、Aは置換されていてもよいフェニル基または置換されていてもよいナフチル基を表し、Xは二価の連結基を表し、Mは水素原子、アルキル金属または四級アンモニウムを表し、m、nはそれぞれ独立に1〜4の整数を表す。]
  2. 下記一般式(2)で表される水溶性染料を原料として製造することにより得られる請求項1記載のアゾ化合物からなる水溶性染料。
    Figure 2005200553
    [式中、R1,R2はそれぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基または置換されていてもよいアリール基を表し、Aは置換されていてもよいフェニル基または置換されていてもよいナフチル基を表し、Xは二価の連結基を表し、Mは水素原子、アルキル金属または四級アンモニウムを表し、m、nはそれぞれ独立に1〜4の整数を表す。]
  3. 一般式(1)で表されるアゾ化合物からなる水溶性染料の製造において、反応時のpHが7.0未満であることを特徴とする請求項2記載のアゾ化合物からなる水溶性染料。
  4. 請求項1〜3の何れかに記載のアゾ化合物からなる水溶性染料のうち少なくとも一種を含有する水性インク。
  5. インクジェット記録方式に用いることを特徴とする請求項4記載の水性インク。
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