JP2005196987A - 燃料電池 - Google Patents

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Abstract

【課題】 金属水素錯化合物例えば水素化ホウ素ナトリウムのアルカリ水溶液を燃料とする燃料電池において、電気的特性を向上させること。
【解決手段】 電解質膜と燃料極との間にニッケルネット(網状構造体)からなる流路部を設け、この流路部から燃料を燃料極に供給することで、例えばナトリウムイオンが燃料極を通らずに電解質膜を介して酸化剤極側に移動するので、ナトリウムイオンの移動抵抗が小さくなり、このため電流を増加させたときに電圧の落ち込みが少ない。また燃料極の厚さ方向に多数の透孔を形成し、例えば前記ニッケルネットに接する燃料極の一面側に滞留したH2ガスの気泡を、当該透孔を介して排出することで燃料極の活性領域を広くする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、例えばテトラヒドロホウ酸塩などの金属水素錯化合物のアルカリ水溶液からなる燃料液が供給される燃料電池に関する。
燃料電池は、負極及び正極に夫々燃料及び酸化剤を連続的に供給し、そのときに起こる化学反応により得られるエネルギーを電気的エネルギーに変換する装置であり、環境にやさしいクリーンな動力源として注目を集めている。例えばメタノールを改質して水素リッチなガスを取り出し、この水素リッチなガスを燃料として用いる燃料電池は従来から良く知られているが、最近において水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)などの水素化ホウ素錯化合物の液体燃料を用いた燃料電池(ボロハイドライド燃料電池)が検討されている。例えば水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)はアルカリ水溶液中において安定しており、BH4をBO2に変換するときの電気化学的電位がより卑になることから理論電圧が高く、また水素を発生させる改質器が不要であるなどの利点がある。この種の燃料電池は特許文献1及び特許文献2に記載されている。
例えば特許文献1には、図13に示すボロハイドライド燃料電池が知られている。この燃料電池は、樹脂などの絶縁性のケース体11内を高分子電解質膜からなる透過膜12により2つの領域に区画し、一方の領域には酸化剤極13が透過膜12の一面側に接触して設けられ、また他方の領域には燃料極14が透過膜12の他面側に接触して設けられている。酸化剤極13及び燃料極14は、例えばニッケルネットなどの粒状焼結体或いは発泡体などの多孔質体を基材とし、その表面に白金、パラジウムなどの貴金属をメッキしたものなどが用いられる。更に酸化剤極13とケース体11の一方の側面との間には酸化剤例えば空気を通流させる第1の流路部15が形成され、また燃料極14とケース体11の他方の側面との間には燃料を通流させる第2の流路部16が形成されている。
このような燃料電池においては、第1の流路部15に例えば加湿された空気を通流させると共に第2の流路部16に水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)のアルカリ水溶液である燃料を通流させると、燃料極14では8電子反応である(1)式の反応が主として起こる。
NaBH4+8NaOH→NaBO2+6H2O+8Na+8e……(1)
燃料極14で生成したナトリウムイオン(Na)は、透過膜12を透過して酸化剤極13に移動し、電子は外部に接続された図示しない回路を通して酸化剤極13に受け渡される。そして、酸化剤極13では、下記の(2)式に示すように外部に接続された回路を通して電子が受け渡され、外部から酸化剤として供給された酸素(O2)及び水(H2O)と、透過膜12から移動してきたナトリウムイオンとが触媒作用により反応して水酸化ナトリウムを生成する。また透過膜12から移動してきた水素イオンが酸素と反応して水を生成する反応も起こっている。
2O2+4H2O+8Na+8e→8NaOH……(2)
また最近の知見では、燃料極14における透過膜12側において下記に示す(3)式及び(4)式の反応が活発に起こっていることが分かった。
BH4+8OH→BO2+6H2O+8e……(3)
BH4+4OH→BO2+2H2O+2H2+4e……(4)
特表2000−502832(図1) 特開2002−50375(図2)
ボロハイドライド燃料電池は実務レベルとして技術が確立されているとは言い難く、電気的特性及び使用寿命などにおいて改善すべきところが多い。例えば出力電流を増加させたときに出力電圧は安定していることが理想であるが、この燃料電池において燃料電池から外部に電流を流すためには、第2の流路部16に供給された水素化ホウ素ナトリウムのナトリウムイオンが燃料極14を通って透過膜12に達し、更にこの透過膜12を通って酸化剤極13に到達することが必要であるが、多孔質体である燃料極14がナトリウムイオンの透過に対して抵抗になっているため、燃料電池から取り出される電流を大きくしていくと出力電圧が低下するという問題がある。
またそこで本発明者は、燃料極14と透過膜12との間に燃料が流れる流路部例えばニッケルネットなどの液流拡散体を設けた構成を検討しているが、燃料極14での電極反応が進むにつれて燃料極14の透過膜12側ので生成された上記(4)式に示した4電子反応のH2ガスの生成により気泡が発生し燃料極14の電極表面を覆ってしまうとういう問題がある。即ち、燃料電池を燃料スタックとして構成した場合、各単位セルに燃料を供給する必要があることから、それに見合う流量で燃料を供給する必要があり、このため燃料極14において通流抵抗の大きいニッケルネットとは反対側に燃料を通流させることが得策であるが、そうすると燃料極14と透過膜12との間のニッケルネット中を流れる燃料の流速が小さいことから、燃料極14におけるニッケルネット側の面にて発生したH2ガスの気泡が、当該面に張り付いてしまう。この結果燃料極14の活性領域が小さくなり、前記流路部から供給された燃料との接触が阻害され、そのため出力電圧が低下するという問題がある。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、金属水素錯化合物のアルカリ水溶液を用いる燃料電池において、電気的特性を向上することができる燃料電池を提供することである。
本発明は、透過膜を燃料極と酸化剤極との間に介在させ、燃料として金属水素錯化合物のアルカリ水溶液を用い、酸化剤として酸素含有ガスを用いる燃料電池において、前記燃料極と透過膜との間に燃料を通流させるための流路部と、前記燃料極における透過膜の反対側に設けられ、燃料を通流するための通流部と、前記燃料極の厚さ方向に多数形成された透孔と、を備えたことを特徴とする。なお燃料は、流路部と通流部とに分流されることになる。前記流路部は例えば網状構造体などからなる液流拡散体により構成することが好ましい。また金属水素錯化合物としては水素化ホウ素錯化合物を挙げることができる。
また本発明の燃料電池は、透過膜を燃料極と酸化剤極との間に介在させてなる単位セルをセパレータを介して複数積層させて構成した燃料電池(燃料電池スタック)に適用することができる。その場合には、前記セパレータに設けられた燃料の供給口と、前記セパレータと燃料極との間に形成された通流部と、前記燃料極と透過膜との間に設けられた燃料の流路部と、前記燃料極の厚さ方向に多数形成された透孔と、を備え、燃料の供給口から供給された燃料が前記流路部及び流路に分流するように構成することができ、例えば燃料の流路部は、燃料の供給口に燃料極を介さずに連通している構成とすることができる。なおセパレータと燃料極との間に形成された通流部とは、例えば前記セパレータに形成された溝からなるものである。具体的には、燃料極の一面側及び他面側は夫々セパレータ及び燃料の流路部をなす液流拡散体に接触し、液流拡散体の一縁は燃料極の一縁よりも外側にはみ出し、燃料の供給口から供給された燃料が、燃料極よりも外側にはみ出している液流拡散体の部分とセパレータとの間の隙間を通って液流拡散体内に流れ込むように構成することができる。
本発明の燃料電池によれば、透過膜と燃料極との間に燃料の流路部を設けているので、燃料中のアルカリ金属イオンが燃料極を通らずに流路部から電解質膜に到達し、ここを通って酸化剤極側に移動するようになり、このためアルカリ金属イオンの移動抵抗が小さい。また燃料極の電極反応は、透過膜側の面で活発に起こっていると考えられることから、透過膜と燃料極との間に燃料を通流させることにより、電極反応が促進される。そして燃料極に多数の透孔が形成されているので、透過膜側の燃料極で生成されたH2ガスによって生じる気泡が、この透孔を通って通流部から燃料と共に排出されるので、燃料と接触する燃料極の活性領域の阻害の程度が小さくなる。このようなことから本発明は、電流を増加させても出力電圧の落ち込みの程度が小さく、良好な電気的特性が得られる。
本発明に係る燃料電池の一実施の形態について図1及び図2を参照しながら説明する。図1において、2は角型のケース体であり、このケース体2内には透過膜3により酸化剤極(正極)室4と燃料極(負極)室5とに区画されている。酸化剤極室4には、板状の酸化剤極41がその一面側を透過膜3に接するように設けられると共に、酸化剤極41の他面側とケース体2との間には、酸化剤の通流部42をなす空間が形成されている。この通流部42には、酸化剤供給路43及び排出路44が接続されており、酸化剤供給路43には、上流側から酸化剤供給源45、供給ポンプ46、加湿手段47及び加熱手段48がこの順に設けられている。
燃料極室5には、燃料の流路部をなす液流拡散体、例えば板状に形成された網状構造体であるニッケルネット51が透過膜3と対向するように配置され、ニッケルネット51の一面側と透過膜3との間には、前記ニッケルネット51が透過膜3を傷付けないようにするために多孔質マット例えばカーボンペーパからなる保護層52が介在している。またニッケルネット51の他面側には、その一面側が接触するように板状の燃料極53が設けられている。この燃料極53には、電極反応により生成するH2ガスの気泡を排出するための多数の透孔54が燃料極53におけるニッケルネット51側の面から、その反対側の面に貫通して形成されている。この透孔54において互いに隣接する孔と孔との中心間距離は、例えば5mmである。
更に燃料極53の他面側とケース体2との間には、燃料の通流部55をなす空間が形成されている。ケース体2におけるニッケルネット51の上端側に対応する部位及び通流部55の一端側の部位には、燃料供給口が夫々形成されており、ここに供給ポンプ56が介設された燃料供給路57が接続されている。またケース体2におけるニッケルネット51の下端側に対応する部位及び通流部55の他端側の部位には、燃料排出口が形成されており、ここには排出路58が接続されている。そしてこの例では燃料供給路57の上流側と排出路58の下流側との間には燃料供給源である燃料貯層59が介在しており、燃料供給路57及び排出路58により燃料の循環路が構成されている。
以上の燃料電池において、ケース体2を構成する材料としては、絶縁材が有利であり、例えば絶縁性セラミック、樹脂及び金属酸化物などが用いられる。透過膜3としては例えば陽イオン透過性膜などからなる高分子電解質膜を用いることができ、陽イオン透過性膜としては商品名「ナフィオン」(デュポン株式会社製)を用いることができるが、陰イオン透過性膜或いは陽イオン、陰イオンの両方を透過する双極性透過膜などを用いることができる。この実施の形態では、沸騰している水酸化ナトリウム水溶液に前記「ナフィオン」を浸漬して煮沸処理したものを使用している。「ナフィオン」はフッ素樹脂を骨格としてこのフッ素樹脂中の炭素SO3イオンが結合しており、このイオンに水素イオン(H)が吸着している状態である。そこで水酸化ナトリウムにより煮沸処理すると水素イオン(H)がナトリウムイオン(Na)により置き換わる。即ち市販の上記の透過膜は交換基がスルホン酸型(SO3H)であるが、水酸化ナトリウム水溶液により処理することでナトリウム型(SO3Na)に変わったことになる。
酸化剤極41と燃料極51としては、白金を分散した炭素又は鉄、ニッケル、クロム、銅、白金、パラジウムなどの金属或いはそれら金属の合金が用いられ、発電効率や耐久性がよく、低コストという点でニッケル又はニッケル・クロム合金の多孔体、例えば粒状焼結体や発泡体を基材とし、その表面に白金、パラジウムなどの貴金属からなる触媒をメッキして触媒層を形成したものなどが用いられる。この実施の形態では例えば両面に触媒層が形成された燃料極を用いる。
燃料極53としては、上記の電極材料を用いてもよいが、特に好ましいのは水素吸蔵合金又はその水素化物である。この水素吸蔵合金又はその水素化物は、水素を可逆的に吸収、放出し得るものであれば特に制限はなく、例えばMg2Ni合金、Mg2NiとMgとの共晶合金のようなMg2Ni系合金のA2B型合金、ZrNi2系合金、TiNi2系合金などのラベス相系AB2型合金、TiFe系合金のようなAB型合金、LaNi5系合金のようなAB5型合金、TiV2系合金のようなBCC型合金の中から任意に選ぶことができる。
この中で好ましいのは、LaNi4.7Al0.3合金、MmNi0.35Mn0.4Al0.3Co0.75合金(但しMmはミッシュメタル)、MmNi3.75Co0.75Mn0.20Al0.30合金(但しMmはミッシュメタル)、Ti0.5Zr0.5Mn0.8Cr0.8Ni0.4、Ti0.5Zr0.5Mn0.5Cr0.5Ni、Ti0.5Zr0.5V0.75Ni1.25、Ti0.5Zr0.5V0.5Ni1.5、Ti0.1Zr0.9V0.2Mn0.6Co0.1Ni1.1、MmNi3.87Co0.78Mn0.10Al0.38(但しMmはミッシュメタル)などである。
これらの水素吸蔵合金又はその水素化物は、表面をフッ素化処理することにより、その性能を著しく高めることができる。即ち、このようなフッ化処理を行うことにより、接触する負極液に対する耐腐食性が付与され、且つ長時間に亘って高い発電容量を維持しうる。このフッ化処理は、例えば水素吸蔵合金又はその水素化物をフッ化剤含有水溶液中に浸漬し、その表面をフッ素化することによって行われる。
酸化剤極41に供給される酸化剤としては、酸素ガス又は空気であってもよいが、既述の(2)式の反応が進行するためには図1に示すように、これら酸化剤ガス中に例えば加湿器47により水分を含ませることが好ましい。また酸化剤はガスに限られず、活性酸素発生剤水溶液、例えば過酸化水素などの過酸化物の水溶液であってもよい。
燃料極室5側の流路部はニッケルネット51などの網状構造体に限られないが、燃料が流路部を通流するときに燃料極53に接触する燃料ができるだけ拡散して入れ替わることができるように燃料を攪拌するものが好ましく、このため単なる空間とするよりも燃料が衝突しながら流れる構造のものという点で拡散層ともいうべき網状構造体が好ましい。この流路部としては他に多孔質シート、発泡シートなどを挙げることができる。
燃料としては、金属水素錯化合物のアルカリ水溶液が用いられ、金属水素錯化合物としては例えば水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム(KBH4)、又は水素化ホウ素リチウム(LiBH4)などの水素化ホウ素錯化合物を挙げることができるが、その他に水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)、水素化ホウ素亜鉛(Zn(BH4)2)などを挙げることができる。アルカリ水溶液としては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物を用いることができる。アルカリ水溶液の濃度は、あまり高濃度にすると金属水素錯化合物が溶解しにくくなるので、例えば30重量%の範囲で選択することが好ましく、例えば20重量%に調整される。金属水素錯化合物は、目的とする発電容量及びアルカリ水溶液に対する溶解性を考慮して例えば0.1〜50重量%の濃度で用いるのが好ましい。
次にこの実施の形態の作用について図1及び図2を参照しながら説明する。酸化剤供給源45からの酸化剤例えば空気を供給ポンプ46により酸化剤極室4の通流部42に供給する。ここで酸化剤を通流部42に供給する前に加湿器47により例えば絶対温度で30〜70%程度に加湿し、更に加熱器48で必要な温度、例えば40〜90℃に加熱する。通流部42を通流した空気は排出路44から排出される。
一方燃料貯槽59から例えば水素化ホウ素ナトリウムを水酸化ナトリウムに溶解させてなる燃料を供給ポンプ54により燃料極室5のニッケルネット51及び通流部55に供給する。この例では、ニッケルネット51及び通流部55から排出された燃料は燃料貯層59に戻され、循環される。ニッケルネット51に供給された燃料はニッケルネット51より拡散されながら通流し、多孔質体である燃料極53内に浸透していき、このとき従来技術の項目でも述べたように(5)式(既述の(1)に相当する)で示される8電子反応が主として起こり、また(6)式で示される4電子反応も起こっていると考えられる。
NaBH4+8NaOH→NaBO2+6H2O+8Na+8e……(5)
NaBH4+4NaOH→NaBO2+2H2O+2H2+4Na+4e……(6)
また通流部55に供給された燃料は、通流部55側に面した燃料極55と接触し、同様に上記(5)式及び(6)式の反応が起こる。
このようにして燃料極53から電子が、外部に接続された回路に取り出されると共に、燃料中のナトリウムイオンが透過膜3を通って酸化剤極室4側に移動し、既述の(2)式に示したようにナトリウムイオンと酸素及び水分とから水酸化ナトリウムが生成される。またニッケルネット51に接する燃料極53の一面側において電極反応が活発に起こることから、既述の(4)に示したようにH2ガスが発生する。発生したH2ガスの気泡は、主として燃料極53の当該一面側に付着する。ここで燃料極53には厚さ方向に貫通する透孔54が多数形成されていることから、この透孔54を流れる液流が形成され、例えば通流部55を流れる燃料の流速がニッケルネット51内を流れる燃料の流速よりも早い場合には、負圧によりニッケルネット51内の燃料は燃料極53に形成された透孔54に吸い込まれて通流部55へと流れ、前記気泡はこの液流により燃料と共に排出される。
このように上述の実施の形態によれば、透過膜3と燃料極53との間に燃料極の流路部であるニッケルネット51を介在させているので次のような効果がある。燃料極室5側に供給された燃料は、ニッケルネット51により拡散されるのでそのときに攪拌作用が働いて燃料極53に接触、浸透しながら下流側に移動する。このときニッケルネット51を流れている燃料であるNaBH4が燃料極53の表面の触媒層に接触して電極反応が起こり、その結果電荷担体であるナトリウムイオンがフリーな状態になり、透過膜3を通って酸化剤極41側に移動しようとする。更に燃料中にはNaOHが含まれているので、多量の解離したナトリウムイオンが含まれており、このナトリウムイオンも電荷担体として酸化剤極41に移動しようとする。
ここで図13に示した従来構造のように透過膜と流路部との間に燃料極が介在する場合には、ナトリウムイオンが燃料極内を通過することになるが、この実施の形態では流路部(ニッケルネット51)と透過膜3との間に燃料極が介在しないので、ナトリウムイオンがスムーズに透過膜3に到達し、これを通って酸化剤極41に移動する。従ってナトリウムイオンが燃料極室5から酸化剤極室4側に移動するときの抵抗が小さいので、電流の増加に伴って起こる出力電圧の低下を抑えることができる。
また下記に示す(7)式及び(8)式の反応は、燃料極53における透過膜3側にて活発に起こっている(先の(3)式及び(4)式と同じである)。
BH4+8OH→BO2+6H2O+8e……(7)
BH4+4OH→BO2+2H2O+2H2+4e……(8)
このため燃料極53と透過膜3の間にニッケルネット51を介して燃料を供給することにより、(7)式及び(8)式の反応が促進される。このような構成にすることで燃料電池の出力(電力)が大きくなる。
また上記(8)式により燃料極53にて、H2ガスが生成され、気泡が発生するが、この気泡は燃料極53に形成された透孔54を通って通流部55から燃料と共に排出されるので、燃料極53におけるニッケルネット51側の面にて、当該面にH2ガスの気泡が張り付かないので、燃料極53に透孔54を形成しない場合よりも、燃料と接触する燃料極の活性領域が広くなる。
次に上述の実施の形態をより具現化した例について図3〜図9を参照しながら説明する。この例は図1に示す単位セルを積層して燃料電池スタックとして構成したものである。但し、この明細書では燃料電池スタックを燃料電池と呼ぶことにする。以下の説明において、図1に相当する部分について便宜上同じ符号を付しておく。図3中の6A、6Bは、例えば導電性材料からなるセパレータ(バイポーラプレート)であり、これらセパレータ6A、6Bの間には透過膜3が配置される。透過膜3と一方のセパレータ6Aとの間には既述の保護層52(図示せず)、ニッケルネット51及び燃料極53が配置されると共に透過膜3と他方のセパレータ6Bとの間には酸化剤極41が配置され、図4に示すように燃料極53、ニッケルネット51、保護層52、透過膜3、酸化剤極41及び後述のガスケット7A、7Bを含む単位セル60がセパレータ6A及び6Bに介して複数個積層され、この積層体がエンドプレート100及び101の間に固定される。前記燃料極53には、電極反応により生成するH2ガスの気泡を排出するための多数の透孔54が燃料極53におけるニッケルネット51側の面から、その反対側の面に貫通して形成されている。燃料極53、ニッケルネット51、保護層52及び酸化剤極41は例えば接着剤などで互いに固定され、膜・電極接合体(MEA:Membrance Electrode Assembly)を構成している。
各セパレータ6A、6Bの表面(図3中の手前側の面)及び裏面(奥側の面)には、各々屈曲路をなす溝が形成されている。各セパレータ6A、6Bの表面側の溝は酸化剤の流路61であり、裏面側の溝は燃料の流路62である。前記流路61は先の実施の形態の通流部42に相当し、前記流路62は先の実施の形態の通流部55に相当する。なお図3において左端には、セパレータ6Aの裏面側を見せている。7A、7Bはガスケットであり、これらガスケット7A、7Bには各々窓71が形成されている。一方のガスケット7Aの窓71には、酸化剤極41が密に嵌合される。
セパレータ6Aにおける酸化剤の流路61の左上端には排出口63が形成されており、透過膜3及びガスケット7A、7Bには、この排出口63に対応する部位に夫々孔31、72、72が穿設されている。従って前記流路61の右下端の供給端61aに供給された酸化剤は当該流路61を流れて排出口63から排出され、孔72、31、72を通ってセパレータ6Bの流路61の供給端61aに到達する。
図5は、セパレータ6Aにおける燃料極53及びニッケルネット51の取り付け状態を示す図であり、図6はセパレータ6Aの裏面側を示す図である。セパレータ6Aの流路62は、この例では図6における流路62の左上端部には、燃料の供給口64が穿設されており、ここから供給された燃料が流路62及びニッケルネット51を通って流路62の右下端部の排出端65に向かうことになる。流路62が形成される領域はほぼ四角形であるが、入口側及び出口側はその四角形領域から符号62b、62cで示すように左右に少しはみ出しており、ニッケルネットの一面は、このはみ出した部分を除く四角形と同じ大きさに作られている。
セパレータ6Aとニッケルネット51との間には、その両面が夫々セパレータ6A及びニッケルネット51に接触した状態で燃料極53が介在している。この燃料極53の幅(図5中左右方向の長さ)はニッケルネット51と同じ寸法であるが、上下方向の長さはニッケルネット51よりも短く、燃料極53の上端及び下端は、ニッケルネット51の上端及び下端よりも夫々流路62の幅のおよそ半分の長さ(2個の溝62aの幅分)だけ内側に寄っている。従って図8からも分かるように、燃料極53の上下からはみ出したニッケルネット51の部分及びガスケット7Aで囲まれる空間(連通路)66、67が形成され、上側の燃料の供給口64は空間66を通じてニッケルネット51に連通し、またニッケルネット51の下部側(排出側)は空間67を通じて燃料の排出端65に連通している。
透過膜3及びガスケット7A、7Bには、前記排出端65に対応する位置に夫々孔(図5ではガスケット7Aの孔73が示されている)が穿設されており、この排出端65から排出された燃料は、各孔を通ってセパレータ6Bの流路62における図3では隠れて見えない燃料供給口に到達する。従ってこの例では、ガスケット7Aの孔73が燃料の排出口に相当する。
続いてこの実施の形態の作用について述べると、セパレータの供給口64に送られた燃料は、セパレータ6Aに形成された溝からなる屈曲した流路62に流れると共に、連通路66を介して、ニッケルネット51の図中上端部における燃料極53からはみ出した部位から流入して、図7の矢印102に示すように当該ニッケルネット51を流れ、下端側の連通路67を介して排出端65に到達する。この燃料は共に排出端65から図3に示すように透過膜3の孔32及びガスケット7Bの排出口73を介してセパレータ6Bの一面側に形成された燃料の流路62の供給端に到達する。また既述のようにセパレータ6Bの流路61の入口側に供給された酸化剤、例えば加湿された空気はセパレータ6Bの流路61を流れる。またセパレータ6A側の流路62を流れる燃料の流速の方がニッケルネット51を流れる流速よりも大きいことからニッケルネット51側の燃料が負圧により燃料極53の透孔54に吸い込まれ、当該流路62へと流れ、このためニッケルネット51に接する燃料極53の一面側に生成されたH2ガスの気泡は、流路62に供給された燃料と共に前記排出端65に排出される。
このような実施の形態によれば、先の実施の形態の効果の記載にて詳述したように、安定した出力電圧を得ることができる。
また図1及び図8では、便宜上透孔54を大きく記載してあるが、実際には透孔54は、例えば図9に示すように、燃料極53の表面に縦横に並べて設けられており、後述の実施例に示すように燃料極53に形成される透孔54の数を増やすことによって当該燃料電池の出力(電力)が大きくなる。
またこの例ではセパレータ6Aに形成された流路62とニッケルネット51とに燃料が流れることになるが、ニッケルネット51及び流路62に流れる燃料の割合の設定は、通流抵抗と出力特性とを考慮して設定することになる。
なお当該燃料電池において、透過膜3側の燃料極53で生成される生成物は、燃料極53に供給する燃料の種類によって決まるものであり、燃料に含まれる金属の水酸化物である。
次に本発明の効果を確認するために行った実験について述べる。
(実験例1)
A.実施例1
フッ化処理したZr0.9Ti0.1Mn0.6V0.2Co0.1Ni1.1の合金粉末(平均粒径2〜5μm)13.6gをフッ素樹脂であるPTFE粉末(0.1mm)1.36gとすり混ぜ、基材であるNi発泡体68cm(80×85mm)の両面に塗布して触媒層を形成し、100メッシュのNi網で包んだ後、ロールプレスの圧着により厚さ0.5mmの板状の燃料極を作成した。この燃料極と、パラジウムメッキした発泡ニッケル板からなる酸化剤極と、陽イオン交換膜(デュポン社製、商品名「ナフィオン」)からなる透過膜と、厚さ0.2mmの板状のニッケルネットからなる燃料通流用の流路部と、を用いて図1に示す構造の燃料電池を作成した。この燃料電池の燃料極にパンチングなどの物理的な方法により透孔を97個開設させて、この燃料電池の出力電力を調べた。測定条件は次の通りである。燃料極に供給する燃料は、20重量%の水酸化ナトリウム水溶液に10重量%の水素化ホウ素ナトリウムを溶解させて、温度を60に調節し、0.5リットル/分の流量で燃料極に供給した。酸化剤極に供給する酸化剤は、空気を加湿器で60℃にまで加湿し、5リットル/分の流量で酸化剤極に供給した。このとき当該単位セル内の温度は60℃に保たれている。
B.実施例2
本発明の燃料電池において燃料極に透孔を25個開設させた他は、実施例1と同様の条件でこの燃料電池の出力電力を調べた。
C.比較例1
本発明の燃料電池において燃料極に透孔を開設させない他は、実施例1と同様の条件でこの燃料電池の出力電力を調べた。
(実験例2)
燃料極に透孔を開設せず、また燃料極と透過膜との間にニッケルネットを介設させない従来の燃料電池を比較例2とし、実施例1及び比較例2の燃料電池において、夫々の燃料電池の出力電圧の経時変化を調べた。電圧の測定方法は、図10に示すように燃料電池200に定電流回路201を介して負荷抵抗202を接続し、負荷抵抗202に流れる電流を一定にして燃料電池200の出力電圧を測定し、燃料電池200の出力電圧の経時変化を求めた。測定条件は次の通りである。負荷抵抗202に流れる電流は6Aであり、放電時間は4時間である。燃料極に供給する燃料は、20重量%の水酸化ナトリウム水溶液に10重量%の水素化ホウ素ナトリウムを溶解させて、温度を60℃に調節し、0.5リットル/分の流量で200g、燃料極に供給した。酸化剤極に供給する酸化剤は、空気を加湿器で60℃にまで加湿し、5リットル/分の流量で酸化剤極に供給した。このとき燃料電池の単位セル内の温度は60℃に保たれている。
(結果及び考察)
図11は、実施例1及び比較例2の結果を示し、縦軸に電圧(V)をとり、横軸に測定時間(分)をとった特性図である。図11から分かるように燃料極に透孔を開設し、且つ燃料極と透過膜との間にニッケルネットを介設させた燃料電池の方が燃料極に透孔を開設せず、また燃料極と透過膜との間にニッケルネットを介設させない従来の燃料電池よりも安定した出力電圧を得ることができるということが理解できる。
図12は、実施例1(×)、実施例2(○)及び比較例1(▲)の結果を示し、縦軸に電力(W)をとり、横軸に電流(A)をとった特性図である。図12から分かるように、燃料極と透過膜との間に燃料が流れる流路を設ける燃料電池を作成する場合、燃料極に透孔を多数開設することによって、出力電力がより一層大きくなることが理解できる。
本発明に係る燃料電池の一実施の形態の概略を示す断面図である。 上記の実施の形態の作用を示す説明図である。 本発明に係る燃料電池の他の実施の形態を示す分解斜視図である。 本発明に係る燃料電池の他の実施の形態を示す斜視図である。 図3に示す燃料電池の一部を示す斜視図である。 図3に示すセパレータを示す平面図である。 図3に示す燃料電池の一部を切り欠いて示すA−A斜視図である。 本発明に係る燃料電池の他の実施の形態を示す概略断面図である。 図3に示す当該燃料電池の燃料極の表面を説明した概観図である。 燃料電池の出力電圧及び出力電力を測定するための回路図である。 本発明の燃料電池及び従来の燃料電池の電圧測定を示した特性図である。 本発明の燃料電池及び従来の燃料電池の電力測定を示した特性図である。 従来の燃料電池の概略を示す断面図である。
符号の説明
2 ケース体
3 透過膜
4 酸化剤極室
41 酸化剤極
42 通流部
5 燃料極室
51 ニッケルネット
53 燃料極
54 透孔
55 通流部
61 流路
62 流路
6A、6B セパレータ
7A,7B ガスケット

Claims (7)

  1. 透過膜を燃料極と酸化剤極との間に介在させ、燃料として金属水素錯化合物のアルカリ水溶液を用いる燃料電池において、
    前記燃料極と透過膜との間に燃料を通流させるための流路部と、
    前記燃料極における透過膜側の反対側に設けられ、燃料を通流するための通流部と、
    前記燃料極の厚さ方向に多数形成された透孔と、を備えたことを特徴とする燃料電池。
  2. 透過膜を燃料極と酸化剤極との間に介在させてなる単位セルをセパレータを介して複数積層させて構成し、燃料として金属水素錯化合物のアルカリ水溶液を用い、酸化剤として酸素含有ガスを用いる燃料電池において、
    前記セパレータに設けられた燃料の供給口と
    前記セパレータと燃料極との間に形成された通流部と、
    前記燃料極と透過膜との間に設けられた燃料の流路部と、
    前記燃料極の厚さ方向に多数形成された透孔と、を備え、
    燃料の供給口から供給された燃料が前記流路部及び通流部に分流されるように構成されたことを特徴とする燃料電池。
  3. 燃料の供給口と前記燃料の流路部とを連通する連通路が形成されていることを特徴とする請求項2記載の燃料電池。
  4. 流路部は、液流拡散体により構成されたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の燃料電池。
  5. 燃料極の一面側及び他面側は夫々セパレータ及び燃料の流路部をなす液流拡散体に接触し、液流拡散体の一縁は燃料極の一縁よりも外側にはみ出し、燃料の供給口から供給された燃料が、燃料極よりも外側にはみ出している液流拡散体の部分とセパレータとの間の隙間を通って液流拡散体内に流れ込むように構成したことを特徴とする請求項4記載の燃料電池。
  6. 液流拡散体は網状構造体であることを特徴とする請求項4又は5記載の燃料電池。
  7. 金属水素錯化合物が水素化ホウ素錯化合物であることを特徴とする請求項1ないしは6のいずれかに記載の燃料電池。
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