本発明は、ビニルアセタール系重合体、特に特定のシリル基を有する単量体単位を含有するビニルエステル系重合体をけん化することによって得られるビニルアルコール系重合体をアセタール化して得られるビニルアセタール系重合体およびその製造方法に関する。また、そのようなビニルアセタール系重合体の用途、具体的には、合わせガラス用中間膜、セラミック成形用バインダー、インキまたは塗料用バインダーおよび熱現像性感光材料に関する。
ビニルアセタール系重合体は、アルデヒド化合物を用いて酸性条件下でビニルアルコール系重合体をアセタール化することにより得られることが古くから知られている。ビニルアルコール系重合体は、通常、ビニルアルコール単位およびビニルエステル単位を有することから、当該ビニルアルコール系重合体をアセタール化することにより得られるビニルアセタール系重合体は、これら2種類の単量体単位に加え、ビニルアセタール単位を含む少なくとも3種類の単量体単位から構成される。近年、様々なビニルアルコール系重合体が提案されるようになっていることから、これらと種々のアルデヒドとを組み合わせることにより、多くの種類のビニルアセタール系重合体が知られるようになってきている。
その中でも、ビニルアルコール系重合体とホルムアルデヒドから製造されるビニルホルマール系重合体、ビニルアルコール系重合体とアセトアルデヒドから製造されるビニルアセタール系重合体、およびビニルアルコール系重合体とブチルアルデヒドから製造されるビニルブチラール系重合体は、商業的に重要な位置を占めている。特に、ビニルブチラール系重合体は、自動車や建築物の窓ガラスに用いられる合わせガラス用中間膜として用いられているだけでなく、セラミック成形用バインダー、感光性材料、インキ用分散剤などの種々の工業用分野において広く用いられている。ビニルブチラール系重合体は、親水性のヒドロキシ基と疎水性のブチルアセタール基を有することから、親水性と疎水性を兼ね備えており、上記の種々の用途でその特長を発揮している。ビニルブチラール系重合体は、特に分子中のヒドロキシ基の存在が、例えば、ガラスとの接着性やセラミックなどとのバインダー力などの点で重要な役割を果たしているが、それでもなお無機物との相互作用が不十分な場合があり、その改善が望まれている。
ビニルブチラール系重合体は、自動車や建築物の窓ガラスに用いられる合わせガラスの中間膜として広く使用されている。しかしながら、近年、合わせガラスの性能向上に対する要求は益々高くなってきている。例えば、合わせガラスが高湿度の条件下に長時間曝された場合、合わせガラスの端部から水が浸入したり、可塑剤との相溶性の不具合などにより白化したりするという問題がある。この問題点を解決する目的で、例えば、特殊なシリコーンオイルを併用する方法(特許文献1)や、可塑剤としてトリエチレングリコール−ジ2−エチルヘキサノエートなどを用いる方法(特許文献2)などの種々の提案がなされている。しかしながら、従来のビニルブチラール系重合体では、上記の耐白化性、合わせガラスの耐貫通性及びガラスとの接着性を同時に十分に満足できているとは言い難いのが現状である。
合わせガラス用中間膜として、酢酸ビニルとビニルトリアルコキシシランとの共重合体をけん化およびアセタール化して得られる、シリル基で変性されたビニルアセタール系重合体を用いることが提案されている(特許文献3)。しかしながら、上記問題点を十分に解決することはできていないのが現状である。
ビニルアセタール系重合体は、セラミック成形用バインダーの分野において、セラミック積層コンデンサーやセラミック電子回路基板などを製造する過程における成形用のバインダーとして使用されており、中でも、セラミックグリーンシートを作成する時のバインダーとして広く使用されている。特に近年では、携帯電話やノート型パソコンなどの精密電気機器などについて小型軽量化することが望まれるようになっており、これらに用いられる電気・電子部品についても小型化・高性能化が求められている。
例えば、セラミック積層コンデンサーでは、小型で大容量のコンデンサーが望まれており、電極部分またはセラミック部分の厚みをより薄くして大容量化を図る試みがなされており、セラミックグリーンシートの薄膜化が重要な技術的課題となっている。このような薄膜化を行うには、粒径が小さいセラミック粉体を原料として用いる必要があるが、セラミック粉体の粒径を小粒子化すると、セラミック粉体の表面積が増大して凝集しやすくなるため、セラミックグリーンシートの表面に凹凸が生じて均質なセラミックグリーンシートを得るのが困難になる。また、シートが薄膜化されることによりその強度が低下するという問題も生じる。これらの問題点は、特に近年の電気・電子部品の小型化・軽量化によりクローズアップされており、従来の技術レベルでは、先に指摘した問題点を十分に改善するに至っていないのが現状である。
ビニルアセタール系重合体は、塗料の分野では、自動車用の塗料、焼付けエナメル、ショッププライマー、ウォッシュプライマー、粘着剤ラッカー、タールまたはニコチン上の絶縁コート、プラスチック用の塗料、ニトロセルロースラッカー、ペーパーワニスなどに用いられている。また、包装材にプリントするのに用いられる印刷インキのバインダーとして、低溶液粘度のビニルブチラール系重合体が用いられている。この印刷インキは、有機質基体および無機質基体に対する粘着性が優れていることから、ポリオレフィンフィルム、金属箔、セルロースアセテートフィルム、ポリアミドフィルムおよびポリスチレンフィルムにプリントするのに適している。
特に近年、印刷機は高速で運転されることが多いことから、印刷機の高速運転を実現するために、印刷インキが所望の粘度において大きい顔料含有量を有しており、かつ印刷により成形される塗膜の厚さが薄い場合でも、色の強度が大きいことが必要であるとされている。一般的に、印刷インキにおいて顔料含有量を大きくするためには、その溶液粘度を低くすることが重要である。印刷インキの溶液粘度を低くするためには、低重合度のビニルアセタール系重合体を使用することが考えられるが、完全けん化ビニルアルコール系重合体をアセタール化することにより製造される低重合度ビニルアセタール系重合体を用いる場合には、ビニルアセタール系重合体の水溶液がゲル化しやすいことや、顔料含有量を大きくすることができないことなどの問題点があった。
これらの問題点を解決する目的で、例えば、特定の加水分解度を有するビニルアルコール系重合体から製造されるビニルブチラール系重合体を用いる方法(特許文献4)、1−アルキルビニルアルコール単位および1−アルキルビニルアセテート単位を有するビニルアルコール系重合体を原料としたビニルアセタール系重合体を用いる方法(特許文献5)などが提案されている。しかしながら、これらの方法によって上記の問題点についてある程度の改善効果は見られるものの、必ずしも十分な効果が得られている訳ではない。
また、熱現像性感光材料は、従来のハロゲン化銀を用いた湿式方式の感光材料と比較して、現像のための処理工程が簡潔であること、余分な化学廃液が生じないことなどから特に医療分野でのX線写真などの用途で実用化されている。熱現像性感光材料は、有機銀塩、還元剤および有機銀イオンに対して触媒的に接しているハロゲン化銀を、ビニルアセタール系重合体などの造膜性結合材を用いて、プラスティックフィルムなどの支持体上に塗布することにより得られる。
従来、これらの熱現像性感光材料は、その熱現像性感光材料の製造に用いられる塗工液の保存安定性、熱現像性感光材料を現像した際の感度、現像後の画像の保存安定性などに問題点があった。これまでに、特定のイオン基を含有するビニルアセタール系重合体を用いる方法(特許文献6)、2種類の特定の重合度からなるビニルアセタール系重合体を組み合わせて用いる方法(特許文献7)などが提案されている。しかしながら、これらの方法によっても、上記問題点の解決が十分なされたとは言い難いのが現状である。
特開平7−314609号公報
国際公開第00/018698号パンフレット
特開昭58−125645号公報
特開平11−349889号公報
特表2000−503341号公報
特開2001−222089号公報
特開2002−201215号公報
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、従来のビニルアセタール系重合体が本来有する特長を維持したままで、無機物との接着性が向上したビニルアセタール系重合体を提供することを目的とするものである。また、そのようなビニルアセタール系重合体を使用して、耐白化性、耐貫通性、ガラスとの接着性に優れた合わせガラス用中間膜および当該合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスを提供すること、得られるグリーンシートが均質で強度に優れているセラミック成形用バインダーを提供すること、低粘度・高濃度化が可能なインキまたは塗料用バインダーを提供すること、およびその製造に用いられる塗工液が保存安定性に優れ、熱現像性感光材料を現像した際の感度、現像後の画像の保存安定性などに優れている熱現像性感光材料を提供することをも目的とするものである。
上記課題は、下記の一般式(1)
(R
1は炭素数1〜5のアルキル基であり、R
2はアルコキシル基またはアシロキシル基であって、これらの基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、mは0〜2の整数である。)
で示されるシリル基を有する単量体単位を含有するビニルエステル系重合体をけん化することによって得られるビニルアルコール系重合体をアセタール化して得られるアセタール化度45〜80モル%のビニルアセタール系重合体であって、前記ビニルアルコール系重合体が、下記式(I)を満足し、かつビニルアルコール系重合体の中でその重合度が重量平均重合度の3倍を超える重合体の重量分率が25重量%以下であることを特徴とするビニルアセタール系重合体を提供することによって解決される。
20<Pw×S<460 ・・・(I)
Pw:ビニルアルコール系重合体の重量平均重合度
S:一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体単位の含有量(モル%)
このとき、前記ビニルアルコール系重合体の中で、その重合度が重量平均重合度の1/2倍よりも小さい重合体の重量分率が12重量%以下であることが好適である。前記ビニルアルコール系重合体が、下記式(II)を満足し、かつその4%水溶液のpHが4〜8であることも好適である。
0.1/100≦(A−B)/(B)≦50/100 ・・・(II)
A:ビニルアルコール系重合体中のケイ素原子の含有量(単位:ppm)
B:水酸化ナトリウムを含有するメタノールで洗浄し、次いでメタノールによるソックスレー抽出により洗浄したビニルアルコール系重合体中のケイ素原子の含有量(単位:ppm)
ここで、AおよびBは、それぞれ測定試料を灰化した後、ICP発光分析法により測定される。
また、前記アセタール化に用いられるアルデヒドが、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒドおよびベンズアルデヒドからなる群から選択される少なくとも1種、特にブチルアルデヒドであることも好適である。
前記ビニルアセタール系重合体からなる合わせガラス用中間膜および当該合わせガラス用中間膜を有する合わせガラスは、好適な実施態様である。また、前記ビニルアセタール系重合体からなるセラミック成形用バインダー、インキまたは塗料用バインダーも好適な実施態様である。さらに前記ビニルアセタール系重合体を含有する熱現像性感光材料も好適な実施態様である。
また、上記課題は、下記の一般式(1)
(R
1は炭素数1〜5のアルキル基であり、R
2はアルコキシル基またはアシロキシル基であって、これらの基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、mは0〜2の整数である。)
で示されるシリル基を有する単量体単位を含有するビニルエステル系重合体をけん化することによってビニルアルコール系重合体を得てから、該ビニルアルコール系重合体をアセタール化する、アセタール化度45〜80モル%のビニルアセタール系重合体の製造方法であって、前記ビニルアルコール系重合体が、下記式(I)を満足し、かつビニルアルコール系重合体の中でその重合度が重量平均重合度の3倍を超える重合体の重量分率が25重量%以下であることを特徴とするビニルアセタール系重合体の製造方法を提供することによっても達成される。
20<Pw×S<460 ・・・(I)
Pw:ビニルアルコール系重合体の重量平均重合度
S:一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体単位の含有量(モル%)
本発明のビニルアセタール系重合体は、従来のビニルアセタール系重合体が本来有する特長を維持したままで無機物との接着性に優れている。本発明の合わせガラス用中間膜は、高湿度下で長期間曝された際の縁部の耐白化性、耐貫通性、ガラスとの接着性が優れている。本発明のセラミック成形用バインダーは、得られるグリーンシートが均質で強度に優れている。本発明のインキまたは塗料用バインダーは、低粘度・高濃度化が可能である。そして、本発明の熱現像性感光材料は、その製造に用いられる塗工液が保存安定性に優れ、熱現像性感光材料を現像した際の感度、現像後の画像の保存安定性などにも優れている。
本発明のビニルアセタール系重合体は、下記の一般式(1)
(R
1は炭素数1〜5のアルキル基であり、R
2はアルコキシル基またはアシロキシル基であって、これらの基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、mは0〜2の整数である。)
で示されるシリル基を有する単量体単位を含有するビニルエステル系重合体をけん化することによって得られるビニルアルコール系重合体をアセタール化して得られるアセタール化度45〜80モル%のビニルアセタール系重合体であって、前記ビニルアルコール系重合体が、下記式(I)を満足し、かつビニルアルコール系重合体の中でその重合度が重量平均重合度の3倍を超える重合体の重量分率が25重量%以下であることを特徴とするビニルアセタール系重合体である。
20<Pw×S<460 ・・・(I)
Pw:ビニルアルコール系重合体の重量平均重合度
S:一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体単位の含有量(モル%)
本発明のシリル基含有ビニルアセタール系重合体は、それを製造する際の原料として、重量平均重合度(Pw)とシリル基を有する単量体単位の含有量(S)の積(Pw×S)が20<Pw×S<460の関係を満足するシリル基含有ビニルアルコール系重合体を使用する必要がある。Pw×Sは、好ましくは50<Pw×S<420、さらに好ましくは100<Pw×S<390の関係を満足するのがよい。Pw×Sが20以下の場合には、各用途において以下のような不都合が生じる。合わせガラス用中間膜として使用する際には、耐白化性、耐貫通性およびガラスとの接着性が不十分となる。セラミックバインダーとして使用する際には、グリーンシートの強度を向上させる効果が不十分となる。インキまたは塗料用バインダーとして使用する際には、高濃度・低粘度化が困難になる。熱現像性感光材料として使用する際には、塗工液の保存安定性、熱現像性感光材料を現像する際の感度あるいは現像後の画像の保存安定性が低下する。また、Pw×Sが460以上の場合には、アルカリ性化合物を添加しなければ原料のシリル基含有ビニルアルコール系重合体を水に溶解させることができない場合があり、そのためシリル基含有ビニルアセタール系重合体の製造が困難になる場合がある。
本発明のシリル基変性ビニルアセタール系重合体を製造する際の原料として使用される前記ビニルアルコール系重合体が、ビニルアルコール系重合体の中でその重合度が重量平均重合度の3倍を超える重合体の重量分率が25重量%以下であることが必要である。本発明のビニルアセタール系重合体を製造する際の原料として使用される前記ビニルアルコール系重合体の中で、その重合度が重量平均重合度Pwの3倍を超える重合体の重量分率が25重量%を超える場合に、各用途における不都合が生じる理由は、以下のように考えられる。
シリル基を有する重合体に含まれる全ての単量体単位の中で、シリル基を有する単量体単位は一様に存在しているため、重合体の重合度が大きいほど、重合体1分子に含まれるシリル基を有する単量体単位の数が多くなる。そして、重合体1分子に含まれるシリル基を有する単量体単位の数が多いほど、その重合体はシリル基の影響を受けやすくなる。すなわち、重合度が大きい重合体の方が、重合度が小さい重合体よりもシリル基の影響を受けやすい。従って、高重合度成分を多く含むシリル基含有ビニルアルコール系重合体からなるシリル基含有ビニルアセタール系重合体は、シリル基の影響を受けやすい重合体を多く含んでいることになる。そのため、各用途において以下のような不都合が生じる。合わせガラス用中間膜に用いる際には、ガラスとの接着性が高くなりすぎるため耐貫通性とのバランスが取れない。セラミックバインダーとして用いる際には、セラミック粉末との相互作用が大きくなりすぎるため均一なスラリーを調製しにくい。インクまたは塗料用バインダーとして用いる際には、シリル基同士の相互作用が大きくなりすぎるため高濃度・低粘度化が困難になる。熱現像性感光材料として用いる際には、シリル基同士の相互作用が大きくなりすぎるため塗工液の保存安定性が低下し、熱現像性感光材料を現像した際の感度が低下する。
これに対して、重合体の重合度が小さいほど、重合体1分子に含まれるシリル基を有する単量体単位の数が少なくなる。そして、重合体1分子に含まれるシリル基を有する単量体単位の数が少ないほど、その重合体はシリル基の影響を受けにくくなる。すなわち、重合度が小さい重合体の方が、重合度が大きい重合体よりもシリル基の効果が現れにくい。従って、低重合度成分を多く含むシリル基含有ビニルアルコール系重合体は、シリル基の効果が小さい重合体を多く含んでいることになる。
本発明のシリル基含有ビニルアセタール系重合体を製造する際の原料として使用される前記ビニルアルコール系重合体は、その重合度が重量平均重合度Pwの1/2倍よりも小さい重合体の重量分率が12重量%以下であることが好ましい。ビニルアルコール系重合体の中で、その重合度が重量平均重合度の1/2倍よりも小さい重合体の重量分率が12重量%を超える場合には、シリル基の効果が小さい低重合度成分が多く含まれているため、各用途において以下のような不都合が生じるおそれがある。合わせガラス用中間膜に用いる際には、耐白化性とガラスとの接着性のバランスが取れないおそれがある。セラミックバインダーとして用いる際には、セラミック粉末との相互作用が小さくなりすぎるためグリーンシートの強度向上効果が低下するおそれがある。インクまたは塗料用バインダーとして用いる際には、シリル基同士の相互作用が小さくなるために高濃度・低粘度化が困難になるおそれがある。熱現像性感光材料として用いる際には、シリル基同士の相互作用が小さくなるため現像後の画像の保存安定性が低下するおそれがある。
本発明のシリル基含有ビニルアセタール系重合体を製造する際の原料として使用される前記ビニルアルコール系重合体の重量平均重合度(Pw)および重合度分布は、例えば、GPC−LALLS測定によって求めることができる。すなわち、シリル基含有PVAをけん化度99.5モル%以上に再けん化し、精製した後、GPC−LALLS測定によって求められた重量平均分子量をビニルアルコール単量体単位の式量44で割ることにより、重量平均重合度が求められる。また、GPC−LALLS測定から得られる積分重合度分布より、重合度が特定の範囲内にある重合体の重量分率を求めることができる。
本発明のシリル基含有ビニルアセタール系重合体を製造する際の原料として使用される前記ビニルアルコール系重合体において、シリル基を有する単量体単位の含有量S(モル%)は、けん化する前の原料であるシリル基含有ビニルエステル系重合体のプロトンNMRから求められる。ここでけん化する前のシリル基含有ビニルエステル系重合体のプロトンNMRを測定するに際しては、当該シリル基含有ビニルエステル系重合体をヘキサン−アセトンにより再沈精製して重合体中から未反応のシリル基を有する単量体を完全に取り除き、次いで90℃減圧乾燥を2日間行った後、CDCl3溶媒に溶解して分析に供する。
また、本発明のシリル基含有ビニルアセタール系重合体を加水分解してシリル基含有ビニルアルコール系重合体とし、さらにアセチル化することによってシリル基含有ビニルエステル系重合体を得て、それを上記要領にしたがってプロトンNMR測定することによっても、シリル基を有する単量体単位の含有量を求めることができ、この値は、上記S(モル%)と実質的に同一の値となる。この場合の測定試料の調製方法の一例は以下の通りである。まず、本発明のシリル基含有ビニルアセタール系重合体をアルコール溶液中で塩酸ヒドロキシアミンと反応させ、得られた反応物を水/アルコール混合溶媒中で再沈し十分に精製して、シリル基含有ビニルアルコール系重合体を得る。引き続き、当該シリル基含有ビニルアルコール系重合体をピリジン/無水酢酸中で加熱することにより、水酸基をアセチル化し、水/アセトン混合溶媒中で再沈し十分に精製する。80℃の温度で減圧下に3日間乾燥を行うことにより、分析用のシリル基含有ビニルエステル系重合体が作成される。
本発明のシリル基含有ビニルアセタール系重合体を製造する際の原料として使用される前記ビニルアルコール系重合体は下記式(II)を満足することが好ましい。
0.1/100≦(A−B)/(B)≦50/100 ・・・(II)
A:ビニルアルコール系重合体中のケイ素原子の含有量(単位:ppm)
B:水酸化ナトリウムを含有するメタノールで洗浄し、次いでメタノールによるソックスレー抽出により洗浄したビニルアルコール系重合体中のケイ素原子の含有量(単位:ppm)
ここで、AおよびBは、それぞれ測定試料を灰化した後、ICP発光分析法により測定される。
ここで、上記ケイ素原子の含有量(B)を求めるにあたり、ビニルアルコール系重合体の標準的な洗浄方法は、まず、水酸化ナトリウムを含有するメタノールによる洗浄操作(ビニルアルコール系重合体1重量部に対して、ビニルアルコール系重合体のビニルアルコール単量体単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01となるように、水酸化ナトリウムを含有するメタノール溶液を10重量部添加し、得られた混合物を1時間煮沸した後、重合体をろ別する操作)を5回繰り返し、次いで、メタノールによるソックスレー抽出を1週間行う方法である。上記洗浄方法において、水酸化ナトリウムを含有するメタノールによる洗浄操作およびメタノールによるソックスレー抽出は、ビニルアルコール系重合体中のケイ素原子の含有量がほぼ変化しなくなるまで行われるものであり、この条件が満たされる範囲において、水酸化ナトリウムを含有するメタノールによる洗浄操作回数およびメタノールによるソックスレー抽出期間は適宜増減してもよい。
上記ビニルアルコール系重合体のケイ素原子の含有量(A)は、ビニルアルコール系重合体中に含まれる全てのケイ素原子の含有量を示すと考えられる。また、水酸化ナトリウムを含有するメタノールで洗浄し、次いでメタノールによるソックスレー抽出により洗浄したビニルアルコール系重合体中のケイ素原子の含有量(B)は、ビニルアルコール系重合体の主鎖に直接組み込まれたシリル基含有単量体に由来するケイ素原子の含有量を示すと考えられる。
ケイ素原子の含有量(B)を求めるに当たり、ビニルアルコール系重合体は水酸化ナトリウムを含有するメタノールで洗浄され、その際にシロキサン結合(−Si−O−Si−)が切断される。このとき、ビニルアルコール系重合体の主鎖に直接組み込まれておらず、シロキサン結合を介してビニルアルコール系重合体の主鎖と結合していたシリル基含有単量体は、ビニルアルコール系重合体から切り離され、重合体中から取り除かれる。そのため、ケイ素原子の含有量(B)は、ビニルアルコール系重合体の主鎖に直接組み込まれていないシリル基含有単量体が取り除かれた状態でのケイ素原子の含有量を示していると考えられる。したがって、上記の関係式0.1/100≦(A−B)/(B)≦50/100における(A−B)は、ビニルアルコール系重合体の主鎖に直接導入されていないシリル基を有する単量体単位に由来するシリル基の含有量を示していると考えられる。
シリル基含有ビニルアルコール系重合体における(A−B)/(B)の値が大きい場合には、シリル基含有ビニルアルコール系重合体に余剰のシリル基を有する単量体単位が多く含まれていることを意味しており、シリル基含有ビニルアルコール系重合体における(A−B)/(B)の値が小さい場合には、ビニルアルコール系重合体の主鎖に直接導入されていない、余剰のシリル基を有する単量体単位の量が少ないことを意味している。
(A−B)/(B)の好ましい範囲は0.1/100〜50/100であり、さらに好ましい範囲は0.3/100〜25/100であり、特に好ましい範囲は0.4/100〜20/100である。
(A−B)/(B)が50/100を超えると、余剰のシリル基を含有する単量体単位と、主鎖に組み込まれたシリル基含有単量体単位との間でシロキサン結合(−Si−O−Si−)が多数形成される。そのため、当該シリル基含有ビニルアルコール系重合体を原料として得られるシリル基含有ビニルアセタール系重合体を各用途に用いる際に、以下のような不都合が生じるおそれがある。合わせガラス用中間膜に用いる際には、ガラスとの接着性が高くなりすぎるため耐貫通性とのバランスが取れないおそれがある。セラミックバインダーとして用いる際には、セラミック粉末との相互作用が大きくなりすぎるため均一なスラリーを調製しにくいおそれがある。インクまたは塗料用バインダーとして用いる際には、シリル基同士の相互作用が大きくなるため高濃度・低粘度化が困難になるおそれがある。熱現像性感光材料として用いる際には、シリル基同士の相互作用が大きくなるため塗工液の保存安定性が低下したり、熱現像性感光材料を現像した際の感度が低下したりするおそれがある。
一方、(A−B)/(B)が0.1/100に満たない場合には、余剰のシリル基を含有する単量体単位と、主鎖に組み込まれたシリル基含有単量体単位との間で形成されるシロキサン結合(−Si−O−Si−)の割合が少ないために、結果として、シリル基含有ビニルアセタール系重合体に含まれるシリル基の量が低下する。そのため、シリル基含有ビニルアセタール系重合体を各用途に用いる際に、以下のような不都合が生じるおそれがある。合わせガラス用中間膜に用いる際には、耐白化性とガラスとの接着性のバランスが取れないおそれがある。セラミックバインダーとして用いる際には、セラミック粉末との相互作用が小さくなりすぎるためグリーンシートの強度向上効果が低下するおそれがある。インクまたは塗料用バインダーとして用いる際には、シリル基同士の相互作用が小さくなるため高濃度・低粘度化が困難になるおそれがある。熱現像性感光材料として用いる際には、シリル基同士の相互作用が小さくなるため現像後の画像の保存安定性が低下するおそれがある。さらに(A−B)/(B)が0.1/100に満たないシリル基含有ビニルアルコール系重合体は、その製造の際の洗浄にコストがかかるため経済的な面からは必ずしも現実的ではない。
本発明のシリル基含有ビニルアセタール系重合体を製造する際の原料として使用される前記ビニルアルコール系重合体は、その4%水溶液のpHが4〜8であることが好ましい。その4%水溶液のpHのさらに好ましい範囲は4.5〜7であり、特に好ましい範囲は5〜6.5である。4%水溶液のpHが4に満たない場合には、当該シリル基含有ビニルアルコール系重合体を原料として得られるシリル基含有ビニルアセタール系重合体を各用途に用いる際に、以下のような不都合が生じるおそれがある。合わせガラス用中間膜に用いる際には、ガラスとの接着性が高くなりすぎるため耐貫通性とのバランスが取れないおそれがある。セラミックバインダーとして用いる際には、セラミック粉末との相互作用が大きくなりすぎるため均一なスラリーを調製しにくいおそれがある。インクまたは塗料用バインダーとして用いる際には、シリル基同士の相互作用が大きくなりすぎるため高濃度・低粘度化が困難になるおそれがある。熱現像性感光材料として用いる際には、シリル基同士の相互作用が大きくなりすぎるため塗工液の保存安定性が低下したり、熱現像性感光材料を現像した際の感度が低下したりするおそれがある。一方、4%水溶液のpHが8を超える場合には、当該シリル基含有ビニルアルコール系重合体を原料として得られるシリル基含有ビニルアセタール系重合体を各用途に用いる際に、以下のような不都合が生じるおそれがある。合わせガラス用中間膜に用いる際には、耐白化性とガラスとの接着性のバランスが取れないおそれがある。セラミックバインダーとして用いる際には、セラミック粉末との相互作用が小さくなりすぎるためグリーンシートの強度向上効果が低下するおそれがある。インクまたは塗料用バインダーとして用いる際には、シリル基同士の相互作用が小さくなるため高濃度・低粘度化が困難になるおそれがある。熱現像性感光材料として用いる際には、シリル基同士の相互作用が小さくなるため現像後の画像の保存安定性が低下するおそれがある。
本発明のシリル基含有ビニルアセタール系重合体を製造する際の原料として使用されるビニルエステル系重合体は、下記の一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体単位を含有する。
(R
1は炭素数1〜5のアルキル基であり、R
2はアルコキシル基またはアシロキシル基であって、これらの基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、mは0〜2の整数である。)
ここで、R1で表される炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、tert−ペンチル基、イソペンチル基などが挙げられる。R2で表されるアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシロキシ基、オクチロキシ基、ラウリロキシ基、オレイロキシ基などが挙げられ、また、アシロキシル基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基などが挙げられる。これらのアルコキシル基またはアシロキシル基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、その置換基の例として、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシル基を挙げることができる。
本発明で用いるシリル基含有ビニルアルコール系重合体は、ビニルエステル単量体と一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体とを共重合させ、得られるビニルエステル系重合体をけん化することにより製造することができる。
また、シリル基含有ビニルアルコール系重合体は、ビニルエステル単量体と一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体とを2−メルカプトエタノール、n−ドデシルメルカプタン、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で共重合させ、得られるビニルエステル系重合体をけん化することによっても製造することができる。この方法により、チオール化合物に由来する官能基が末端に導入されたビニルアルコール系重合体が得られる。
このようなシリル基含有ビニルアルコール系重合体の製造に用いられるビニルエステル単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、とりわけ酢酸ビニルが好ましい。
ビニルエステル単量体とのラジカル共重合に用いられる一般式(1)で示されるシリル基を有する単量体として、下記の一般式(2)または下記の一般式(3)で示される化合物を挙げることができる。
(式中、R
1は炭素数1〜5のアルキル基であり、R
2はアルコキシル基またはアシロキシル基であって、これらの基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、mは0〜2の整数であり、nは0〜4の整数である。)
(式中、R
1は炭素数1〜5のアルキル基であり、R
2はアルコキシル基またはアシロキシル基であって、これらの基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、R
3は水素原子またはメチル基であり、R
4は水素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、R
5は炭素数1〜5のアルキレン基であるかまたは酸素原子もしくは窒素原子を含む2価の炭化水素基であり、mは0〜2の整数である。)
上記一般式(2)および一般式(3)において、R1で表される炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、tert−ペンチル基、イソペンチル基などが挙げられる。R2で表されるアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシロキシ基、オクチロキシ基、ラウリロキシ基、オレイロキシ基などが挙げられ、また、アシロキシル基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基などが挙げられる。これらのアルコキシル基またはアシロキシル基は酸素を含有する置換基を有していてもよく、その置換基の例として、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシル基を挙げることができる。また、R4で表される炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、tert−ペンチル基、イソペンチル基などが挙げられる。R5で表される炭素数1〜5のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、ジメチルエチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基などが挙げられ、また、酸素原子または窒素原子を含む2価の炭化水素基としては、−CH2CH2NHCH2CH2CH2−、−CH2CH2NHCH2CH2−、−CH2CH2NHCH2−、−CH2CH2N(CH3)CH2CH2−、−CH2CH2N(CH3)CH2−、−CH2CH2OCH2CH2CH2−、−CH2CH2OCH2CH2−、−CH2CH2OCH2−などが挙げられる。
上記式(2)で示される単量体としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、アリルジメチルメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン、アリルジメチルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルイソブチルジメトキシシラン、ビニルエチルジメトキシシラン、ビニルメトキシジブトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメトキシジヘキシロキシシラン、ビニルジメトキシヘキシロキシシラン、ビニルトリヘキシロキシシラン、ビニルメトキシジオクチロキシシラン、ビニルジメトキシオクチロキシシラン、ビニルトリオクチロキシシラン、ビニルメトキシジラウリロキシシラン、ビニルジメトキシラウリロキシシラン、ビニルメトキシジオレイロキシシラン、ビニルジメトキシオレイロキシシランなどが挙げられる。
上記式(2)においてnが1以上のシリル基を有する単量体とビニルエステル単量体を共重合させる場合には、得られるビニルエステル系重合体の重合度が低下する傾向がある。その点、ビニルトリメトキシシランは、ビニルエステル単量体と共重合させた場合に、得られるビニルエステル系重合体の重合度の低下を抑えることができるうえ、工業的な製造が容易で安価に入手できることから好ましく用いることができる。
また、上記式(3)で示される単量体としては、例えば、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、2−(メタ)アクリルアミド−エチルトリメトキシシラン、1−(メタ)アクリルアミド−メチルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−イソプロピルトリメトキシシラン、N−(2−(メタ)アクリルアミド−エチル)−アミノプロピルトリメトキシシラン、(3−(メタ)アクリルアミド−プロピル)−オキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリアセトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−エチルトリアセトキシシラン、4−(メタ)アクリルアミド−ブチルトリアセトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリプロピオニルオキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルトリアセトキシシラン、N−(2−(メタ)アクリルアミド−エチル)−アミノプロピルトリアセトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルイソブチルジメトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−エチルジメチルメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルメチルジアセトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルハイドロジェンジメトキシシラン、3−(N−メチル−(メタ)アクリルアミド)−プロピルトリメトキシシラン、2−(N−エチル−(メタ)アクリルアミド)−エチルトリアセトキシシランなどが挙げられる。
これらの単量体の中でも、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリメトキシシランおよび3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリアセトキシシランは、工業的な製造が比較的容易で安価に入手できることから好ましく用いることができ、また2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルトリメトキシシランおよび2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルトリアセトキシシランはアミド結合が酸またはアルカリに対して著しく安定であることから、好ましく用いることができる。
シリル基を有する単量体とビニルエステル単量体とを共重合させる方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その方法の中でも、無溶媒で行う塊状重合法、またはアルコールなどの溶媒を用いて行う溶液重合法が通常採用される。塊状重合法や溶液重合法で重合するにあたって、その重合度が重量平均重合度Pwの3倍を超える重合体の重量分率が25重量%以下であり、好ましくは、その重合度が重量平均重合度Pwの1/2倍より小さい重合体の重量分率が12重量%以下である本発明のビニルアルコール系重合体を得る重合方法については、重合条件等により一概に限定はできないが、高重合度成分および低重合度成分の比率を抑える観点から、連続重合方式が最も好ましい。連続重合方式としては、例えば1〜2槽連続重合方式が好ましく、1槽連続重合方式がさらに好ましい。また、回分方式の場合、ビニルエステル単量体の重合率などにより、高重合度成分および低重合度成分の比率が変化し、重合率の上昇に伴い、高重合度成分および低重合度成分の比率は増加するため、比較的低重合率で重合する方が好ましい。回分方式での好適な重合率は、重合条件などにより異なるため一概に規定はできないが、ビニルエステル単量体の重合率として、10〜80%が好ましく、15〜50%がさらに好ましい。溶液重合法を採用して共重合反応を行う際に、溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合反応に使用される開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)などのアゾ系開始剤;過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどの過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。共重合反応を行う際の重合温度については特に制限はないが、50℃〜180℃の範囲が適当である。
シリル基を有する単量体とビニルエステル単量体とをラジカル共重合させる際には、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、必要に応じて、共重合可能な単量体を共重合させることができる。このような単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類;フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のカルボン酸またはその誘導体;アクリル酸またはその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸またはその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有ビニルエーテル類;アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類;オキシアルキレン基を有する単量体;酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等のカチオン基を有する単量体などが挙げられる。これらのシリル基を有する単量体およびビニルエステル単量体と共重合可能な単量体の使用量は、その使用される目的および用途等によっても異なるが、通常、共重合に用いられる全ての単量体を基準にした割合で20モル%以下、好ましくは10モル%以下である。
シリル基を有する単量体とビニルエステル単量体とを共重合させることによって得られたビニルエステル系重合体は、次いで、公知の方法にしたがって溶媒中でけん化され、ビニルアルコール系重合体へと導かれる。
ビニルエステル系重合体のけん化反応の触媒としては通常、アルカリ性物質が用いられ、その例として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、およびナトリウムメトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドが挙げられる。アルカリ性物質の使用量は、ビニルエステル系重合体中のビニルエステル単量体単位を基準にしたモル比で0.004〜0.5の範囲内であることが好ましく、0.005〜0.05の範囲内であることが特に好ましい。けん化触媒は、けん化反応の初期に一括して添加しても良いし、あるいはけん化反応の初期に一部を添加し、残りをけん化反応の途中で追加して添加しても良い。
けん化反応に用いることができる溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましく用いられ、その使用にあたり、メタノールの含水率が好ましくは0.001〜1重量%、より好ましくは0.003〜0.9重量%、特に好ましくは0.005〜0.8重量%に調整されているのがよい。
けん化反応は、好ましくは5〜80℃、より好ましくは20〜70℃の温度で行われる。けん化反応に必要とされる時間は、好ましくは5分間〜10時間、より好ましくは10分間〜5時間である。けん化反応は、バッチ法および連続法のいずれの方式にても実施可能である。けん化反応の終了後に、必要に応じて、残存するけん化触媒を中和しても良く、使用可能な中和剤として、酢酸、乳酸などの有機酸、および酢酸メチルなどのエステル化合物などを挙げることができる。
本発明に用いるシリル基含有ビニルアルコール系重合体のけん化度について特に制限はないが、けん化度は好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。そして、シリル基含有ビニルアセタール系重合体の各種用途で良好なものにするという観点から、シリル基含有ビニルアルコール系重合体の最適のけん化度は95モル%以上が好ましい。
けん化反応により得られたビニルアルコール系重合体は、必要に応じて、洗浄することができ、この操作は、前述したビニルアルコール系重合体における(A−B)/(B)の値を調整する手段として有用である。
使用可能な洗浄液としては、メタノールなどの低級アルコール、酢酸メチルなどの低級脂肪酸エステル、およびそれらの混合物などを挙げることができ、これらの洗浄液には、少量の水、またはアルカリもしくは酸が添加されていても良い。
ビニルアルコール系重合体を洗浄するのに採用される方法は、ビニルエステル単量体とシリル基を有する単量体とを共重合させる際の重合率、共重合によって得られるビニルエステル系重合体の重合度、ビニルエステル系重合体をけん化することによって得られるビニルアルコール系重合体のけん化度等により異なり、これを一律に規定するのは困難である。その方法の一つとして、例えば、ビニルエステル単量体とシリル基を有する単量体との共重合体(ビニルエステル系重合体)をアルコール溶液中でけん化することによって得られる、乾燥する前のアルコールなどが含浸された湿潤状態のビニルアルコール系重合体の重量に対して1〜20倍量のメタノールなどの低級アルコール、酢酸メチルなどの低級脂肪酸エステル、またはそれらの混合物を洗浄液として用い、20℃〜洗浄液の沸点の温度条件にて30分〜10時間程度洗浄するという方法を挙げることができる。
上記の方法により製造された洗浄後のPVAは、公知の方法にしたがって、酸性条件下含水溶媒中でアセタール化され、ビニルアセタール系重合体が得られる。本発明において用いられるビニルアセタール系重合体はアセタール化度が45〜80モル%であり、50〜80モル%が好ましく、60〜80モル%が特に好ましい。ここで、アセタール化度とは、アルデヒド化合物がビニルアルコール系重合体の水酸基とアセタール化反応した結果、消費されたビニルアルコール系重合体の水酸基の割合(モル%)である。アセタール化度は、JIS K6728に記載された方法に準拠して分析することができる。
ビニルアセタール系重合体のアセタール化度が45モル%に満たない場合には、PVAをアセタールした際に得られる粉末状の反応生成物の回収が困難になるおそれがあるとともに、各用途において以下のような不都合が生じるおそれがある。合わせガラス用中間膜に用いる際には、合わせガラスの耐白化性が低下するおそれがある。セラミック成形用バインダーに用いる際には、セラミックグリーンシートの表面の状態が悪化したり、セラミックグリーンシートの強度が悪化したりするおそれがある。インキまたは塗料用バインダーに用いる際には、低溶液粘度でかつ高固形分比率(顔料含有量の大きい)のインキまたは塗料を得るのが困難になるおそれがあるとともに、印刷または塗装により形成された塗膜の耐久性に問題が生じるおそれがある。熱現像性感光材料に用いる際には、塗工液の保存安定性、現像時の感度あるいは現像後の画像安定性が悪化するおそれがある。
ビニルアセタール系重合体のアセタール化度が80モル%を超えると、ビニルアセタール系重合体の製造が困難になるおそれやビニルアセタール系重合体と可塑剤との相溶性が低下するおそれがある。また、各用途において以下のような不都合が生じるおそれがある。
合わせガラス用中間膜に用いる際には、高湿度下で合わせガラス端部の耐白化性が低下するおそれがある。セラミック成形用バインダーに用いる際には、セラミックグリーンシートの表面の状態が悪化するおそれがある。
PVAをアセタール化する方法としては、例えば、a)該PVAを水に加熱溶解して5〜30重量%の濃度の水溶液を調製し、これを5〜50℃まで冷却した後、所定量のアルデヒドを加えて−10〜30℃まで冷却し、酸を添加することにより水溶液のpHを1以下にしてアセタール化反応を開始する方法、b)該PVAを水に加熱溶解して5〜30重量%濃度の水溶液を調製し、これを5〜50℃まで冷却し、酸を添加することにより水溶液のpHを1以下にした後−10〜30℃まで冷却し、所定量のアルデヒドを加えてアセタール化反応を開始する方法などが挙げられる。
アセタール化反応に用いられるアルデヒド化合物としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ベンズアルデヒドなどが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。好ましいアルデヒド化合物の例は炭素数4以下のアルキルアルデヒド、およびベンズアルデヒドであり、特にブチルアルデヒドが好ましい。また、必要に応じて、カルボン酸を含有するアルデヒド化合物を併用してもよい。
アセタール化反応の際に使用される酸としては、通常、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸、およびp−トルエンスルホン酸などの有機酸が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。また、アセタール化反応に要する時間は通常1〜10時間程度であり、反応は攪拌下に行うことが好ましい。また、上述した温度条件でアセタール反応を行った場合に、ビニルアセタール系重合体のアセタール化度が上昇しない場合には、50〜80℃程度の高い温度で反応を継続してもよい。
アセタール化反応後に得られる粉末状の反応生成物を濾過してから、アルカリ水溶液で中和する。中和するのに用いられるアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物のほか、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジンなどのアミン系化合物が挙げられる。こうしてアルカリ水溶液で中和した後、水洗、乾燥することにより、目的とするビニルアセタール系重合体が得られる。
こうして製造された本発明のビニルアセタール系重合体は、各種の用途に使用することができる。なかでも、合わせガラス用中間膜、セラミック成形用バインダー、インキまたは塗料用バインダー、熱現像性感光材料などの用途に好適に使用される。以下、これらの用途について順次説明する。
本発明のビニルアセタール系重合体を合わせガラス用中間膜に用いる場合、ビニルアセタール系重合体に可塑剤が添加される。使用しうる可塑剤としては、トリエチレングリコール−ジ2−エチルヘキサノエート、オリゴエチレングリコール−ジ2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコール−ジn−ヘプタノエートなどが挙げられ、その添加量は好ましくは、ビニルアセタール系重合体100重量部に対し30〜50重量部である。可塑剤の添加量が30重量部に満たない場合には、中間膜が硬くなり過ぎるため、中間膜を製造する際にその裁断性が低下することがあり、50重量部を超える場合には、可塑剤がブリードアウトしやすくなる。
合わせガラス用中間膜とガラスとの接着力を調整する目的で、ビニルアセタール系重合体に対して、炭素数2〜10のカルボン酸の金属塩を添加してもよい。金属塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウムなどのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が挙げられる。ビニルアセタール系重合体に対する炭素数2〜10のカルボン酸の金属塩の添加量は、1〜200ppmが好ましく、10〜150ppmがさらに好ましい。また、ビニルアセタール系重合体に対して、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、界面活性剤、着色剤などの添加剤を添加してもよい。
ビニルアセタール系重合体から合わせガラス用中間膜を製造する方法としては、ビニルアセタール系重合体に、可塑剤およびその他の添加剤を所定量配合して均一に混練し、押出法、カレンダー法、プレス法、キャスティング法、インフレーション法などの成形方法を用いて、シート状に製膜する方法が挙げられる。
合わせガラス用中間膜の厚みは、通常0.3〜1.6mmであり、合わせガラス用中間膜は単層で用いても、あるいは2層以上を積層して用いてもよい。
ビニルアセタール系重合体から製造された合わせガラス用中間膜を用いて、合わせガラスを製造する方法は、特に限定されない。その方法として、例えば、2枚の透明なガラス板の間に合わせガラス用中間膜を挟んでゴムバックに入れ、減圧吸引しながら約70〜110℃の温度で予備的に接着し、次いで、オートクレーブを用いて約120〜150℃の温度で、約1〜1.5MPaの圧力下で本接着を行うことにより、合わせガラスを得ることができる。
合わせガラスに用いることができるガラス板は特に制限されず、例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、線入り板ガラス、熱線吸収板ガラス、着色板ガラスなどが例示される。ポリカーボネート板、ポリメチルメタクリレート板などの透明樹脂板を、これらのガラス板と組み合わせて使用することも可能である。
本発明のビニルアセタール系重合体をセラミック成形用バインダーとして用い、セラミック粉体を成形する際には、通常、有機溶剤が用いられる。また、その際に可塑剤を併用してもよい。有機溶剤の例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、ブタノール等のアルコール類;メチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等のセルソルブ類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系炭化水素類などが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、可塑剤の例として、トリエチレングリコール−ジ2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコール−ジ2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコール−ジn−ヘプタノエート、テトラエチレングリコール−ジn−ヘプタノエート等のトリまたはテトラエチレングリコールのカルボン酸ジエステル類;ジオクチルアジペート、ジブチルアジペート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート等のジカルボン酸のジエステル類などが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
セラミック粉末としては、セラミックの製造に使用される金属または非金属の酸化物もしくは非酸化物の粉末が挙げられる。その具体例として、Li、K、Mg、B、Al、Si、Cu、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Ga、In、Y、ランタノイド、アクチノイド、Ti、Zr、Hf、Bi、V、Nb、Ta、W、Mn、Fe、Co、Ni等の酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、硫化物等が挙げられる。また、通常複酸化物と称される複数の金属元素を含む酸化物粉末の具体例を結晶構造から分類すると、ペロブスカイト型構造をとるものとしてNaNbO3、SrZrO3、PbZrO3、SrTiO3、BaZrO3、PbTiO3、BaTiO3等が、スピネル型構造をとるものとしてMgAl2O4、ZnAl2O4、CoAl2O4、NiAl2O4、MgFe2O4等が、イルメナイト型構造をとるものとしてはMgTiO3、MnTiO3、FeTiO3等が、ガーネット型構造をとるものとしてはGdGa5O12、Y6Fe5O12等が挙げられる。これらのセラミック粉末は、単独で用いても、あるいは2種類以上の混合物として用いてもよい。
本発明のビニルアセタール系重合体をセラミック成形用バインダーとして用いて、セラミック粉体を成形するのに好適な成形方法は、有機溶剤、セラミック粉体、およびビニルアセタール系重合体を主成分とするスラリーをブレードコーターなどを用いてキャリアーフィルム上に塗布し、乾燥した後、キャリアーフィルムから離型することでセラミックグリーンシートを得る、いわゆるシート成形法である。この成形方法において、キャリアーフィルム上に塗布されるスラリーには、有機溶剤、セラミック粉体、およびビニルアセタール系重合体のほかに、必要に応じて、解膠剤、可塑剤、滑剤などが添加されていてもよい。
ビニルアセタール系重合体の使用量は、セラミックグリーンシートの使用目的によって適宜調整されるが、セラミック粉体100重量部に対して通常3〜20重量部、好ましくは5〜15重量部である。
上記した成形方法を採用してセラミック粉体を成形する場合には、セラミック粉末がスラリー中でよく分散している必要がある。スラリー中でセラミック粉末を分散させる方法について特に制限はなく、ビーズミル、ボールミル、アトライタ、ペイントシェーカー、サンドミルなどの媒体型分散機を用いる方法、固練り法、三本ロールを用いる方法など、種々の方法を用いることができる。 なお、その際に分散剤として、カルボン酸基、マレイン酸基、スルホン酸基、リン酸基等を分子内に有するアニオン系分散剤を併用してもよく、とくに金属イオンを含有しないアニオン系分散剤の使用が好ましい。
セラミックグリーンシートの厚みは、その使用目的によって異なるが、通常1〜300μmの範囲である。また、キャリアーフィルム上に形成された塗膜を乾燥する際の乾燥温度は、セラミックグリーンシートの厚みなどによって適宜調整されるが、概ね60〜200℃の範囲である。
本発明のビニルアセタール系重合体をセラミック成形用バインダーとして用い、セラミック粉体を成形することにより得られるセラミックグリーンシートは、各種電子部品、とりわけセラミックグリーンシート上に電極を形成し、積み重ねて圧着した後、電極とセラミックとを同時に焼成するという工程で作製されるチップタイプの積層型コンデンサー、およびICチップの回路基板などに好適に使用することができる。
本発明のビニルアセタール系重合体をインキまたは塗料用バインダーとして用いる場合、インキまたは塗料におけるビニルアセタール系重合体の含有量は、好ましくは1〜35重量%、さらに好ましくは5〜25重量%である。インキおよび塗料は、例えば、5〜25重量%の顔料、および5〜25重量%のビニルアセタール系重合体のほか、溶媒を含んでいてもよい。
インキまたは塗料に含まれる顔料は特に限定されず、用途に応じて様々な有機および無機顔料を使用することができる。また、用いられる溶媒としては、エチルアルコールなどのアルコール類や酢酸エチルなどのエステル類が挙げられる。
本発明のビニルアセタール系重合体からなるインキまたは塗料用バインダーは、エクステンダー樹脂、助剤などと組み合わせて使用することができる。また、本発明のビニルアセタール系重合体は、単にインキの添加剤として使用することもできる。
本発明のインキまたは塗料用バインダーを用いた場合には、当該インキまたは塗料用バインダーを含む溶液に1種または2種以上の顔料を添加し、得られた顔料ペーストを混練した後の粘度が、使用したビニルアセタール系重合体の溶液の粘度から予測される粘度よりも低く、従来公知のビニルアセタール系重合体をインキまたは塗料用バインダーとして用いた場合と比較して、顔料ペーストの粘度が著しく低下するという効果がもたらされる。このことは、インキまたは塗料の粘度を調整する際に使用されるワニスまたは溶媒の量を低減できるということと、顔料の含有量を増加させることができるということを意味している。その結果、本発明のインキまたは塗料用バインダーを用いることにより、最適の粘度のままで着色の程度を高くしたり、あるいは着色の程度を変えずに粘度をより低くするという、インキまたは塗料に必要とされていた要求性能を満たすことができる。
本発明のビニルアセタール系重合体を含有する熱現像性感光材料は、ビニルアセタール系重合体、有機銀塩および/または感光性ハロゲン化銀、還元剤および溶媒からなる塗工液を支持体上に塗布し、場合によりイソシアネート基を含有する化合物を用いて架橋することにより製造される。
有機銀塩の使用量は、ビニルアセタール系重合体10重量部に対して1〜500重量部が好ましく、2〜50重量部がさらに好ましい。また、有機銀塩は、粒子径が0.01〜10μmのものが好ましく、0.1〜5μmのものがより好ましい。有機銀塩としては、光に対して比較的安定な無色または白色の銀塩であり、感光したハロゲン化銀の存在下80℃以上の温度範囲において、還元剤により還元され、金属銀になるものであれば特に制限されない。このような有機銀塩の例としては、3−メルカプト−4−フェニル−1,2,4−トリアゾール、2−メルカプト−5−アミノチアゾール、1−フェニル−5−メルカプトテトラチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、メルカプトオキサジアゾール、メルカプトトリアジンなどのメルカプタン類の銀塩;チオアミド、チオピリジン、S−2−アミノフェニルチオ硫酸などのチオン化合物の銀塩;脂肪族カルボン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、フロイン酸、リノール酸、オレイン酸、ヒドロキシステアリン酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、酢酸、酪酸、樟脳酸、ジチオ酢酸などのジチオカルボン酸、チオグリコール酸、芳香族カルボン酸、チオンカルボン酸、チオエーテル基を有する脂肪族カルボン酸などの有機カルボン酸などの銀塩;2−メルカプトベンツイミダゾールなどのイミダゾール類の銀塩、テトラザインデンの銀塩;含銀金属アミノアルコール、有機酸銀キレート化合物などが挙げられ、これらの中でも脂肪族カルボン酸類の銀塩が好ましく、特にベヘン酸銀が好適に用いられる。
感光性ハロゲン化銀の使用量は、有機銀塩100重量部に対して0.0005〜0.2重量部が好ましく、0.01〜0.2重量部がより好ましい。感光性ハロゲン化銀としては、有機銀塩と作用してハロゲン化銀を形成するものであれば特に限定されないが、その反応性の点からヨウ素イオンを含有するものが好ましい。ハロゲン化銀の例としては、臭化銀、ヨウ化銀、塩化銀、塩臭化銀、ヨウ臭化銀、塩ヨウ化銀などが挙げられる。
有機銀塩と感光性ハロゲン化銀とは併用することができ、この場合、有機銀塩に対して感光性ハロゲン化銀が触媒的に作用してもよい。感光性ハロゲン化銀を有機銀塩に接触させる方法は特に限定されないが、予め調製された有機銀塩の溶液もしくは分散液、または有機銀塩を含むフィルムに、感光性ハロゲン化銀形成成分を作用させて有機銀塩の一部をハロゲン化銀にする方法が挙げられる。
還元剤の使用量は、有機銀塩100重量部に対して0.0001〜3重量部が好ましく、0.01〜1重量部がより好ましい。還元剤としては特に限定されないが、使用する有機銀塩の種類に応じて適宜選択される。還元剤の例としては、置換フェノール類、ビスフェノール類、ナフトール類、ビスナフトール類、ポリヒドロキシベンゼン類、ジまたはポリヒドロキシナフトール類、ジまたはポリヒドロキシナフタレン類、ハイドロキノン類、ハイドロキノンモノエーテル類、アスコルビン酸またはその誘導体、還元性糖類、芳香族アミノ化合物、ヒドロキシアミン類、ヒドラジン類、フェニドン類、ヒンダードフェノール類などが挙げられる。これらの中でも、光分解性または熱分解性の還元剤が好ましく、ヒンダードフェノール類が好適である。また、光分解性の還元剤と光分解促進剤とを併用したり、あるいは有機銀塩と還元剤との反応を阻害するために被覆剤を併用してもよい。
熱現像性感光材料を製造する際の塗工液を調製するのに用いられる溶媒は、本発明のビニルアセタール系重合体を溶解するものであれば、特に制限されない。溶媒の例としては、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなどのエステル類が挙げられる。溶媒に含まれる水分量は、できるだけ少ない方がよい。
ビニルアセタール系重合体、有機銀塩および/または感光性ハロゲン化銀、還元剤および溶媒を用いて塗工液を調製するには、例えば、これらの成分をボールミルなどを用いて12時間以上分散させた後、これに還元剤を加えて、さらに数時間程度分散させる方法が挙げられる。
得られた塗工液を支持体上に塗布する方法としては、従来公知の塗工方法が採用される。例えば、ワイヤーバーを用いる方法、ブレードコーターを用いる方法などが挙げられる。塗工液の塗布量は、塗膜中の銀の分散量として0.1〜5g/m2が好ましく、0.3〜3g/m2がより好ましい。塗工液の塗布量が0.1g/m2未満の場合、現像後の画像の濃度が低下することがあり、5g/m2を超えても現像後の画像の濃度は向上しない。
塗工液を塗布する支持体について特に制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類;ポリカーボネートなどのカーボネート類;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン類;セルローストリアセテート、セルロースジアセテートなどのセルロース類;ポリビニルアセタールなどのアセタール類;ポリ塩化ビニル、塩素化ポリプロピレンなどのハロゲン含有ポリマーなどの樹脂製フィルム、アルミニウムなどの金属板、ガラス、紙などが挙げられる。
熱現像性感光材料には、他の添加剤として、色調剤が添加されていてもよい。黒色画像を形成させるためには、黒色色調剤が添加され、カラー画像を形成させるためには、カラーカプラー、ロイコ染料などが添加される。熱現像性感光材料には、さらに必要に応じて、光増感剤が添加されていてもよい。
本発明のビニルアセタール系重合体は、その特長を生かして、合わせガラス用中間膜、セラミック成形用バインダー、インキまたは塗料用バインダー、熱現像性感光材料などの用途のほかに、ラッカーに含まれる成分として用いることができ、あるいは尿素系樹脂、メラミン系樹脂およびエポキシ系樹脂などとの架橋反応にも好適に用いることができる。
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例および比較例において「部」および「%」は、特に断らない限り重量基準を意味する。
I.シリル基含有ビニルアルコール系重合体
下記の方法によりPVAを製造し、そのけん化度、シリル基を有する単量体単位の含有量、重量平均重合度、およびケイ素原子の含有量を求めた。
[PVAのけん化度]
PVAのけん化度は、JIS−K6726に記載の方法により求めた。
[PVAに含まれるシリル基を有する単量体単位の含有量]
けん化する前のビニルエステル系重合体をヘキサン−アセトンにより再沈精製して、重合体中から未反応のシリル基を有する単量体を完全に取り除き、次いで90℃減圧乾燥を2日間行った後、CDCl3溶媒に溶解したものを測定試料とし、500MHzのプロトンNMR測定装置(JEOL GX−500)によりPVAに含まれるシリル基を有する単量体単位の含有量を求めた。
[PVAの重量平均重合度]
PVAをけん化度99.5モル%以上までけん化したものを試料として用い、LALLS(低角度レーザー光散乱光度計)法により重量平均分子量を求めた。カラムとしてTSK−gel−GMPWxL(東ソー製)3本を接続したGPC224型ゲル浸透クロマトグラフ(Waters)を用いて、23℃にて測定を行った。なお、測定にあたり、溶媒として0.08Mのトリス緩衝液(pH7.9)を用い、検出器にはR−401型示差屈折率計、8X(Waters)を用いた。試料の絶対分子量を求めるため、KMX−6型低角度レーザー光散乱光度計(Chromatix)を接続して測定を行い、測定の結果得られた重量平均分子量をビニルアルコール単量体単位の式量44で割った値を重量平均重合度とした。また、重合度が重量平均重合度の3倍を超える重合体の重量分率、および重合度が重量平均重合度の1/2倍よりも小さい重合体の重量分率は、上記の測定により得られた積分重合度分布から求めた。
[PVAに含まれるケイ素原子の含有量]
PVAに含まれるケイ素原子の含有量は、前述した方法にしたがって、ジャーレルアッシュ社製ICP発光分析装置IRIS APを用いて求めた。
PVA1a
攪拌機、温度センサー、薬液添加ライン、重合液取り出しラインおよび還流冷却管を備え付けた重合槽に酢酸ビニル2500部、メタノール1656部、ビニルトリメトキシシラン(VMS)を2重量%含有するメタノール溶液752部を仕込み、攪拌下に系内を窒素置換した後、内温を60℃まで上げた。この系に2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメトキシバレロニトリル)(AMV)を0.1部含有するメタノール20部を添加し、重合反応を開始した。重合開始時点より、VMSを2重量%含有するメタノール溶液100部を添加しながら重合を実施した。また同時に、AMVを0.13重量%含有するメタノール溶液を23部/時間の割合で系内に添加し、系内の固形分濃度が25%になるまで4時間重合反応を行った。系内における固形分の濃度が25%に到達した時点から、酢酸ビニル625部/時間、メタノール414部/時間、VMSを2%含有するメタノール溶液188部/時間、およびAMVを0.13%含有するメタノール溶液を23部/時間の割合でそれぞれ系内に添加する一方で、重合槽内の液面が一定になるように系内から重合液を連続的に取り出しながら重合反応を行い、溶液の添加開始から4時間を経過した時点で重合液を回収した。回収した液にメタノール蒸気を導入することで未反応の酢酸ビニル単量体を追い出し、ビニルエステル系重合体を40%含むメタノール溶液を得た。なお、重合液の回収を始めた時点の系内の固形分濃度は25%であった。
このビニルエステル系重合体を40%含有するメタノール溶液に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.02、ビニルエステル系重合体の固形分濃度が35重量%となるように、メタノール、および水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液をこの順序で撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。
けん化反応の進行に伴ってゲル化物が生成した直後にこれを反応系から取り出して粉砕し、次いで、この粉砕物に対して、けん化反応の開始から1時間が経過した時点で酢酸メチルを添加することで中和し、メタノールで膨潤したPVAを得た。このメタノールで膨潤したPVAに対して重量基準で6倍量(浴比6倍)のメタノールを加え、還流下に1時間洗浄し、次いで65℃で16時間乾燥してPVAを得た。
得られたPVAにおけるビニルトリメチルシラン単位の含有量は0.50モル%、けん化度は98.5モル%、重量平均重合度は580であった。重合度が重量平均重合度の3倍を超える重合体の重量分率は19.9重量%、重合度が重量平均重合度の1/2倍よりも小さい重合体の重量分率は9.1重量%であった。また、上記したPVAに含まれるケイ素原子含有量の分析方法に従って求められた(A−B)/(B)の値は10.9/100であり、4%PVA水溶液のpHは6.0であった。
PVA2a
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、シリル基を有する単量体の仕込み量、重合開始剤の使用量、重合反応の条件、けん化反応の条件等を表1に示すように変化させた以外はPVA1aと同様の方法によりPVA2を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA3a
攪拌機、温度センサー、薬液添加ライン、重合液取り出しラインおよび還流冷却管を備え付けた重合槽1、ならびに同様の装備をした重合槽2に、それぞれ酢酸ビニル2000部、メタノール2352部、ビニルトリメトキシシラン(VMS)を2重量%含有するメタノール溶液600部を仕込み、攪拌下に系内を窒素置換した後、内温を60℃まで上げた。重合槽1および重合槽2に、それぞれ2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメトキシバレロニトリル)(AMV)0.05部を含有するメタノール溶液20部を添加し、重合反応を開始した。それぞれの重合槽に、重合開始時点よりVMS2重量%を含有するメタノール溶液80部を150部/時間の割合で添加しながら重合を実施した。また同時に、AMV0.13重量%を含有するメタノール溶液を4部/時間の割合で重合槽1および重合槽2に添加し、系内における固形分の濃度が10%になるまで4時間重合反応を行った。その後、重合槽1に酢酸ビニル500部/時間、メタノール588部/時間、VMSを2%含有するメタノール溶液150部/時間、およびAMVを0.13%含有するメタノール溶液を4部/時間の割合でそれぞれ系内に添加する一方で、重合槽内の液面が一定になるように重合槽1から重合液を連続的に取り出してこれを重合槽2へフィードし、重合槽2についても重合槽内の液面が一定になるように重合液を連続的に取り出しながら重合反応を行った。なお、重合槽1から取り出した重合液を重合槽2へフィードする際に、AMVを0.13%含有するメタノールを8部/時間の割合で添加した。
フィード開始から4時間が経過して重合槽1での固形分の濃度が10%、重合槽2での固形分の濃度が24%となった時点で重合槽2より重合液を回収し、回収した液にメタノール蒸気を導入することで未反応の酢酸ビニル単量体を追い出し、ビニルエステル系重合体を40%含むメタノール溶液を得た。
このビニルエステル系重合体を40%含有するメタノール溶液に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.02、ビニルエステル系重合体の固形分濃度が35重量%となるように、メタノール、および水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液をこの順序で撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。
けん化反応の進行に伴ってゲル化物が生成した直後にこれを反応系から取り出して粉砕し、次いで、この粉砕物に対して、けん化反応の開始から1時間が経過した時点で酢酸メチルを添加することで中和し、メタノールで膨潤したPVAを得た。このメタノールで膨潤したPVAに対して重量基準で6倍量(浴比6倍)のメタノールを加え、還流下に1時間洗浄し、次いで65℃で16時間乾燥してPVAを得た。
得られたPVAにおけるビニルトリメチルシランの含有量は0.50モル%、けん化度は98.2モル%、重量平均重合度は590であった。重合度が重量平均重合度の3倍を超える重合体の重量分率は22.2重量%、重合度が重量平均重合度の1/2倍よりも小さい重合体の重量分率は10.2重量%であった。また、上記したPVAに含まれるケイ素原子含有量の分析方法に従って求められた(A−B)/(B)の値は9.6/100であり、4%PVA水溶液のpHは6.0であった。
PVA4a
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、シリル基を有する単量体の仕込み量、重合開始剤の使用量、重合反応の条件、けん化反応の条件等を表2に示すように変化させた以外はPVA3aと同様の方法によりPVA4を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA5a
攪拌機、温度センサー、滴下漏斗および還流冷却管を備え付けた6Lセパラブルフラスコに酢酸ビニル1050部、メタノール2056部、ビニルトリメトキシシランを2重量%含有するメタノール溶液394部を仕込み、攪拌下に系内を窒素置換した後、内温を60℃まで上げた。この系に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1.3部を含有するメタノール20部を添加し、重合反応を開始させた。重合開始時点よりビニルトリメトキシシランを2重量%含有するメタノール溶液30部を系内に添加しながら4時間重合反応を行い、その時点で重合反応を停止した。重合反応を停止した時点における系内の固形分濃度は15.2%であった。次いで、系内にメタノール蒸気を導入することで未反応の酢酸ビニル単量体を追い出し、ビニルエステル系重合体を40%含むメタノール溶液を得た。
このビニルエステル系重合体を40%含有するメタノール溶液に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.02、ビニルエステル系重合体の固形分濃度が35重量%となるように、メタノール、および水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液をこの順序で撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。
けん化反応の進行に伴ってゲル化物が生成した直後にこれを反応系から取り出して粉砕し、次いで、この粉砕物に対して、けん化反応の開始から1時間が経過した時点で酢酸メチルを添加することで中和し、メタノールで膨潤したPVAを得た。このメタノールで膨潤したPVAに対して重量基準で6倍量(浴比6倍)のメタノールを加え、還流下に1時間洗浄し、次いで65℃で16時間乾燥してPVAを得た。
得られたPVAにおけるビニルトリメチルシランの含有量は0.50モル%、けん化度は98.5モル%、重量平均重合度は560であった。重合度が重量平均重合度の3倍を超える重合体の重量分率は19.9重量%、重合度が重量平均重合度の1/2倍よりも小さい重合体の重量分率は9.9重量%であった。また、上記したPVAに含まれるケイ素原子含有量の分析方法に従って求められた(A−B)/(B)の値は10.9/100であり、4%PVA水溶液のpHは6.0であった。
PVA6a〜9a
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、シリル基を有する単量体の種類および仕込み量、重合開始剤の使用量、重合反応の条件、けん化反応の条件等を表3に示すように変化させた以外はPVA5aと同様の方法により各種のPVA(PVA6a〜9a)を合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA10a
ビニルエステル系重合体に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01となるように、水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液を添加してけん化反応を行った以外は、PVA1aと同様にしてPVA10aを合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA11a
ビニルエステル系重合体に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01となるように、水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液を添加してけん化反応を行った以外は、PVA2aと同様にしてPVA11aを合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA12a
メタノールによる洗浄の操作を省略した以外はPVA2aと同様の方法によりPVA12aを合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA13a
けん化反応で得られたPVAを酢酸メチルで中和する前に、メタノールを用いたソックスレー抽出による洗浄の操作を加えた以外は、PVA2aと同様にしてPVA13aを合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA14a
酢酸メチルの代わりに、けん化反応に用いた水酸化ナトリウムの5倍のモル数の酢酸を用いて中和を行い、さらにメタノールによる洗浄(浴比6倍)を室温で1時間行った以外はPVA2aと同様の方法によりPVA14aを合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA15a
酢酸メチルによる中和を行わず、さらにメタノールによる洗浄(浴比6倍)を室温で1時間行った以外はPVA2aと同様の方法によりPVA15aを合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA16a
メタノールによる洗浄の操作を省略した以外はPVA1aと同様の方法によりPVA16aを合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA17a
けん化反応で得られたPVAを酢酸メチルで中和する前に、メタノールを用いたソックスレー抽出による洗浄の操作を加えた以外は、PVA1aと同様にしてPVA17aを合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA18a
酢酸メチルの代わりに、けん化反応に用いた水酸化ナトリウムの5倍のモル数の酢酸を用いて中和を行い、さらにメタノールによる洗浄(浴比6倍)を室温で1時間行った以外はPVA1aと同様の方法によりPVA18aを合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA19a
酢酸メチルによる中和を行わず、さらにメタノールによる洗浄(浴比6倍)を室温で1時間行った以外はPVA1aと同様の方法によりPVA19aを合成した。得られたPVAについて分析した結果を表4に示す。
PVA1bおよび2b
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、シリル基を有する単量体の仕込み量、重合開始剤の使用量、重合反応の条件、けん化反応の条件等を表1に示すように変化させた以外はPVA1aと同様の方法によりPVA1bおよび2bを合成した。得られたPVAについて分析した結果を表5に示す。
PVA3bおよび4b
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、シリル基を有する単量体の仕込み量、重合開始剤の使用量、重合反応の条件、けん化反応の条件等を表2に示すように変化させた以外はPVA3aと同様の方法によりPVA3bおよび4bを合成した。得られたPVAについて分析した結果を表5に示す。
PVA5bおよび6b
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、シリル基を有する単量体の種類および仕込み量、重合開始剤の使用量、重合反応の条件、けん化反応の条件等を表3に示すように変化させた以外はPVA5aと同様の方法によりPVA5bおよび6bを合成した。得られたPVAについて分析した結果を表5に示す。
PVA7b
ビニルエステル系重合体に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01となるように、水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液を添加してけん化反応を行った以外は、PVA1bと同様にしてPVA7bを合成した。得られたPVAについて分析した結果を表5に示す。
PVA8b
ビニルエステル系重合体に対して、ビニルエステル系重合体の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01となるように、水酸化ナトリウムを10重量%含有するメタノール溶液を添加してけん化反応を行った以外は、PVA2bと同様にしてPVA8bを合成した。得られたPVAについて分析した結果を表5に示す。
II.ビニルアセタール系重合体の合成
480gのPVA(PVA−1a)を5520mlの水中に投入し、撹拌しながら溶液の温度を90℃まで昇温して溶解させた後、30℃まで冷却し、20%濃度の塩酸水溶液400gを添加した。その後14℃まで冷却し、ブチルアルデヒド267gを10分間かけて滴下して反応を開始させた。14℃で40分間反応を行った後、約0.6℃/分の昇温速度で65℃まで温度を上げ、65℃で300分間維持した。その後、反応溶液を室温まで冷却し、析出した粒状物を濾別してこれを水で十分に洗浄した。得られた生成物を0.3%水酸化ナトリウム溶液に投入し、70℃に加温して中和した。引き続き、水で洗浄することによってアルカリ性化合物を除去した後、生成物を乾燥した。このようにしてビニルアセタール系重合体(VAP−1a)を得た。得られたビニルアセタール系重合体のアセタール化度をJIS K6728に記載された方法に準拠して分析したところ、70.2モル%であった。
反応条件を表6〜表7に示す内容に変更した以外はVAP−1aと同様にして、各種のビニルアセタール系重合体(VAP−2a〜VAP−23a及びVAP−1b〜VAP−12b)を合成した。各ビニルアセタール系重合体についてその分析値を表6〜表7に示す。
実施例1(合わせガラスの製造)
ビニルアセタール系重合体(VAP−2a)100部に対して、酢酸マグネシウム50ppmおよびトリエチレングリコール−ジ2−エチルヘキサノエート40部を添加し、70℃にて5分間ロール練りを行った。引き続き、170℃、5MPaの条件でプレス成形することにより、厚み0.7mmの可塑化フィルムを得た。得られた可塑化フィルムを2枚のガラス板(厚さ2.5mm、幅300mm、長さ300mm)の間に挟んでゴムバッグに入れ、15mmHgに減圧し15分間脱気してから、100℃で20分間真空プレスして仮接着を行った後、ゴムバックから取り出した。引き続き、オートクレーブを用いて130℃、1.5MPaの条件で15分間本接着を実施した。このようにして得られた合わせガラスについて、合わせガラス周縁部の白化の状態を以下の方法により評価し、耐貫通性を鋼球の落下試験にて評価し、さらに可塑化フィルムのガラス板に対する接着性をパンメル値で評価した。評価結果を表8に示す。
[合わせガラス周縁部の白化の状態]
合わせガラスを80℃、95%RHの雰囲気に1ヶ月間放置した後、端部からの白化距離を測定した。なお、白化距離は、合わせガラスの端部から連続して白化している部分の距離を白化距離として測定し、以下の基準にしたがって白化の状態を評価した。
A:端部からの白化距離が1mm未満
B:端部からの白化距離が1mm以上5mm未満
C:端部からの白化距離が5mm以上
[耐貫通性]
合わせガラスの縁を支持枠に固定して水平に保持し、その上から2.26kgの鋼球を試験片の中央部に自由落下させた。落下させる高さを0.5m単位で変化させ、一定高さでの繰り返し試験でその試験数の50%において鋼球の貫通が防げられる最高の落下高さを測定した。この試験は合わせガラスの温度を−20℃、20℃及び40℃の3種類の温度に保って行った。落下高さの値が大きいほど耐貫通性に優れることを意味する。
[パンメル値]
合わせガラスを−18℃の温度で1時間以上放置した後、頭部の重さが1ポンドのハンマーで打って、ガラスの粒子径が6mm以下になるまで粉砕した。割れたガラス片を振り落とし、可塑化フィルムの露出度(%)を、以下の基準にしたがってパンメル値で評価した。パンメル値が大きいほど可塑化フィルムのガラス板に対する接着性が良好であることを示す。
可塑化フィルムの露出度(%) パンメル値
100 0
90 1
85 2
60 3
40 4
20 5
10 6
5 7
2以下 8
実施例2〜12
表6に示すビニルアセタール系重合体(VAP−4a、VAP−6a、VAP−7a、VAP−9a、VAP−11a〜VAP−15a、VAP−22a、VAP−23a)を用いた場合の合わせガラス用中間膜について、実施例1と同様にして、合わせガラス周縁部の白化の状態、耐貫通性およびパンメル値を評価した。評価結果を表8に示す。
比較例1〜6
表7に示すビニルアセタール系重合体(VAP−2b、VAP−4b、VAP−5b、VAP−8b、VAP−10b、VAP−12b)を用いた場合の合わせガラス用中間膜について、実施例1と同様にして、合わせガラス周縁部の白化の状態、耐貫通性およびパンメル値を評価した。評価結果を表8に示す。
表8に示す結果より、本発明のビニルアセタール系重合体を用いた合わせガラス用中間膜は、合わせガラス端部の耐白化性、耐貫通性およびガラス板との接着性に優れていることが分かる。特に、原料に用いるビニルアルコール系重合体が、式(I)を満足し、ビニルアルコール系重合体の中で、その重合度が重量平均重合度の3倍を超える重合体の重量分率が25重量%以下であり、かつその重合度が重量平均重合度の1/2倍よりも小さい重合体の重量分率が12重量%以下のもので、さらに式(II)を満足し、かつその4%水溶液のpHが4〜8であるビニルアルコール系重合体をアセタール化して得られる、アセタール化度が60モル%〜80モル%のビニルアセタール系重合体を用いた場合(VAP−2a、VAP−4a、VAP−6a、VAP−7a)には、合わせガラス端部の耐白化性、耐貫通性およびガラス板との接着性においてバランスよく優れている。
一方、表8に示す結果より、本発明の範囲外であるビニルアセタール系重合体を用いた合わせガラス用中間膜は、特に合わせガラス端部の耐白化性、耐貫通性およびガラス板との接着性において、これらのバランスが著しく劣っていることが分かる。
実施例13(セラミックグリーンシートの製造)
セラミック粉体として平均粒径0.2μmのチタン酸バリウム粉体100部、ビニルアセタール系重合体(VAP−1a)10部、可塑剤としてジオクチルフタレート3部、および溶媒としてトルエン60部、イソプロパノール60部をジルコニア製ボール(直径2mm)500部と共に、16時間ボールミルにより混合・解砕した後、減圧下で脱泡処理してセラミックスラリーを調製した。このセラミックスラリーをドクターブレード法により、離型用のポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)上に塗布し、105℃で5分間乾燥後、PETフィルムから離型することで厚み5μmのセラミックグリーンシートを得た。
得られたセラミックグリーンシートについて、表面の状態を以下の方法により評価し、さらに強度を以下の方法により測定した。評価結果および測定結果を表9に示す。
[セラミックグリーンシート表面の状態]
光学顕微鏡を用いて、セラミックグリーンシートの表面の状態を観察し、以下の基準にしたがって評価した。
A:ボイドや凝集粒子による凹凸がなく均質である。
B:ボイドはないものの、極く少量の凝集粒子による凹凸が認められる。
C:ボイドと、凝集粒子による凹凸が共に認められる。
[セラミックグリーンシートの強度]
セラミックグリーンシートを40mm×100mmに打ち抜き、島津製オートグラフDCS−100にてグリーンシートのタフネスを測定した(チャック間隔:30mm、引張速度:10mm/min.、測定温度20℃)。なお、1つのサンプルについて5回測定を行った平均値をタフネス値(kgf・mm)とし、比較例7において得られたタフネス値(kgf・mm)を1.0としたときの比率(倍)を求めた。
実施例14〜23
表6に示すビニルアセタール系重合体(VAP−3a、VAP−5a、VAP−8a、VAP−10a、VAP−16a〜VAP−21a)をセラミック成形用バインダーとして用いた場合のセラミックグリーンシートについて、実施例13と同様にして、セラミックグリーンシートの表面の状態を評価し、さらにセラミックグリーンシートの強度を測定した。評価結果および測定結果を表9に示す。
比較例7〜12
表7に示すビニルアセタール系重合体(VAP−1b、VAP−3b、VAP−6b、VAP−7b、VAP−9b、VAP−11b)をセラミック成形用バインダーとして用いた場合のセラミックグリーンシートについて、実施例13と同様にして、セラミックグリーンシートの表面の状態を評価し、さらにセラミックグリーンシートの強度を測定した。評価結果および測定結果を表9に示す。
表9に示す結果より、本発明のビニルアセタール系重合体をセラミック成形用バインダーとして用いた場合に得られるセラミックグリーンシートは、シートの表面の状態が良好であり、またシートの強度の点で優れていることが分かる。
特に、原料に用いるビニルアルコール系重合体が、式(I)を満足し、ビニルアルコール系重合体の中で、その重合度が重量平均重合度の3倍を超える重合体の重量分率が25重量%以下であり、かつその重合度が重量平均重合度の1/2倍よりも小さい重合体の重量分率が12重量%以下のもので、さらに式(II)を満足し、かつその4%水溶液のpHが4〜8であるビニルアルコール系重合体をアセタール化して得られる、アセタール化度が60モル%〜80モル%のビニルアセタール系重合体を用いた場合(VAP−1a、VAP−3a、VAP−5a)には、セラミックグリーンシートの表面の状態およびセラミックグリーンシートの強度が顕著に優れている。
一方、表9に示す結果より、本発明の範囲外であるビニルアセタール系重合体を用いた合わせガラス用中間膜は本発明の範囲外であるビニルアセタール系重合体をセラミック成形用バインダーとして用いた場合に得られるセラミックグリーンシートは、特にセラミックグリーンシートの表面の状態とその強度のバランスが劣っていることが分かる。
実施例24(顔料分散液の調製)
数種類の固形分濃度が異なるビニルアセタール系重合体(VAP−1a)のエタノール溶液を調製し、これらの溶液の流出時間をDIN4mmカップ(DIN53211/23℃)で測定した後、流出時間が20秒になるように濃度を調節したビニルアセタール系重合体(VAP−1a)のエタノール溶液400gを調製した。このエタノール溶液に顔料(Hostaperm Blue B 2G)100gを添加し、これらの混合物を均質化し、ガラスビーズを用いて30分間、冷却しながら練磨し、顔料分散液を調製した。得られた顔料分散液について、顔料分散液の粘度および顔料分散液に含有させうる顔料の量を以下の方法により測定した。測定結果を表10に示す。
[顔料分散液の粘度:カップ流出時間]
篩を用いて、顔料分散液のミルベースをビーズから分離し、流出時間をDIN6mmカップ(DIN53211/23℃)で測定した。
[顔料分散液中の顔料含有量]
カップ流出時間の測定に用いた顔料分散液についてその23℃におけるヘプラー粘度が10mPa・sとなるようにエタノールで希釈し、その溶液中に含まれる顔料含有量を算出した。なお、顔料含有量は、比較例13において測定された顔料含有量を1.0としたときの比率(倍)で示した。
実施例25〜34
表6に示すビニルアセタール系重合体(VAP−3a、VAP−5a、VAP−8a、VAP−10a、VAP−16a〜VAP−21a)を用いて得られる顔料分散液について、実施例24と同様にして、顔料分散液の粘度および顔料分散液に含有させうる顔料の量を測定した。測定結果を表10に示す。なお、顔料含有量は、比較例13において測定された顔料含有量を1.0としたときの比率(倍)で示した。
比較例13〜18
表7に示すビニルアセタール系重合体(VAP−1b、VAP−3b、VAP−6b、VAP−7b、VAP−9b、VAP−11b)を用いて得られる顔料分散液について、実施例24と同様にして、顔料分散液の粘度および顔料分散液に含有させうる顔料の量を測定した。測定結果を表10に示す。なお、顔料含有量は、比較例13において測定された顔料含有量を1.0としたときの比率(倍)で示した。
表10に示す結果より、本発明のビニルアセタール系重合体をインク及び塗料用バインダーとして用いた場合、流出時間及び顔料含有量の結果から、高濃度・低粘度化が可能になる点で優れていることが分かる。特に、原料に用いるビニルアルコール系重合体が、式(I)を満足し、ビニルアルコール系重合体の中で、その重合度が重量平均重合度の3倍を超える重合体の重量分率が25重量%以下であり、かつその重合度が重量平均重合度の1/2倍よりも小さい重合体の重量分率が12重量%以下のもので、さらに式(II)を満足し、かつその4%水溶液のpHが4〜8であるビニルアルコール系重合体をアセタール化して得られる、アセタール化度が60モル%〜80モル%のビニルアセタール系重合体を用いた場合(VAP−1a、VAP−3a、VAP−5a、VAP−10a)には、これらの点で顕著に優れている。
一方、表9に示す結果より、本発明の範囲外であるビニルアルコール系重合体を原料としたビニルアセタール系重合体を用いた場合には、これらの点で劣っていることが分かる。
実施例35(熱現像性感光材料用塗工液の調製)
ビニルアセタール系重合体(VAP−1a)10重量部、ベヘン酸銀11重量部、メチルイソブチルケトン85重量部をボールミルを用いて室温で12時間混合した後、N−ラウリル−1−ヒドロキシ−2−ナフトアミド0.5重量部を加え、再度ボールミルを用いて室温で12時間混合し、塗工液を得た。
得られた塗工液について、その保存安定性を以下の方法により評価した。また、該塗工液を用いて得られる熱現像性感光材料について、熱現像性および現像後の画像安定性を以下の方法により評価した。評価結果を表11に示す。
[塗工液の保存安定性]
塗工液を25℃で1週間、室内において蛍光灯照射下に放置し、その着色の度合いを以下の基準にしたがって目視により評価した。
A:全く変化なし
B:極く僅かに変化したが、殆ど問題ないレベルである
C:着色が認められる
[熱現像性]
塗工液をブレードコーターを用いて、乾燥後の塗膜厚みが8μmとなるようにポリエチレンテレフタレート上に塗布して乾燥し、N,N−ジメチル−p−フェニレンアミン・硫酸鉛0.4重量部、ポリビニルピロリドン2重量部およびメタノール30重量部からなる溶液を乾燥後の塗膜厚みが1.5μmとなるように同様に塗布して乾燥することで、熱現像性感光材料を得た。
得られた熱現像性感光材料を用いて、階調パターンフィルムを通して250ワットの高圧水銀灯を25cmの距離から、0.5mm秒間露光した後、125℃に加熱した金属板に4秒間接触させて現像した。熱現像性の状態を以下の基準にしたがって目視により評価した。
A:かぶりがなく鮮明度が高い
B:ややかぶりが認められるが、鮮明度が比較的良好である
C:かぶりが認められ鮮明度が劣る
[現像後の画像安定性]
得られた現像後の画像を白色灯に1週間曝したときの、画像の安定性を以下の基準にしたがって目視により評価した。
A:画像パターンコントラストの乱れが認められない
B:画像パターンコントラストに僅かに乱れが認められるが、比較的良好である
C:画像パターンコントラストに乱れが生じる
実施例36〜45
表6に示すビニルアセタール系重合体(VAP−3a、VAP−5a、VAP−8a、VAP−10a、VAP−16a〜VAP−21a)を用い、実施例35と同様にして、塗工液の保存安定性、並びに熱現像性感光材料の熱現像性および現像後の画像安定性を以下の方法により評価した。評価結果を表11に示す。
比較例19〜24
表7および表18に示すビニルアセタール系重合体(VAP−1b、VAP−3b、VAP−6b、VAP−7b、VAP−9b、VAP−11b)を用い、実施例35と同様にして、塗工液の保存安定性、並びに熱現像性感光材料の熱現像性および現像後の画像安定性を以下の方法により評価した。評価結果を表11に示す。
表11に示す結果より、本発明のビニルアセタール系重合体を熱現像性感光材料として用いた場合、塗工液の保存安定性、並びに熱現像性感光材料の熱現像性および現像後の画像安定性の点で優れていることが分かる。特に、原料に用いるビニルアルコール系重合体が、式(I)を満足し、ビニルアルコール系重合体の中で、その重合度が重量平均重合度の3倍を超える重合体の重量分率が25重量%以下であり、かつその重合度が重量平均重合度の1/2倍よりも小さい重合体の重量分率が12重量%以下のもので、さらに式(II)を満足し、かつその4%水溶液のpHが4〜8であるビニルアルコール系重合体をアセタール化して得られる、アセタール化度が60モル%〜80モル%のビニルアセタール系重合体を用いた場合(VAP−1a、VAP−3a、VAP−5a、VAP−10a)には、これらの点で顕著に優れている。
一方、表9に示す結果より、本発明の範囲外であるビニルアルコール系重合体を原料としたビニルアセタール系重合体を用いた場合には、これらの点で劣っていることが分かる。
以上説明したように、本発明のビニルアセタール系重合体は、従来のビニルアセタール系重合体と比較して、各用途における性能で顕著に優れている。
本発明のビニルアセタール系重合体を用いて得られる合わせガラス用中間膜を用いて得られる合わせガラスは、端部の耐白化性、耐貫通性、及び合わせガラスとの接着性に優れている。
本発明のビニルアセタール系重合体をセラミック成形用バインダーとして用いた場合には、表面の状態が良好で、かつ強度の点で優れたセラミックグリーンシートを製造することができる。
本発明のビニルアセタール系重合体をインキまたは塗料用バインダーとして用いた場合には、溶液粘度が低いうえに固形分比率が高く(顔料含有量が大きく)、十分なインキ分散性を有するインキまたは塗料を製造することができる。このようにして得られるインキまたは塗料は、印刷に用いられるインキが所望の粘度において大きい顔料含有量を有しており、印刷により形成された塗膜の厚さが薄い場合でも、色の強度が大きいなどの優れた特長を備えているので、高速で運転される印刷機に好適に用いることができる。
本発明のビニルアセタール系重合体を用いて得られる熱現像性感光材料は、熱現像性および現像後の画像安定性に優れ、また熱現像性感光材料の製造の際に調製される塗工液は保存安定性に優れている。