JP2005192567A - チロシンキナーゼ遺伝子およびその遺伝子産物 - Google Patents

チロシンキナーゼ遺伝子およびその遺伝子産物 Download PDF

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Abstract

【課題】 新規なチロシンキナーゼをコードする遺伝子および該チロシンキナーゼを見出し、該チロシンキナーゼの機能および/または該遺伝子の発現を調節する化合物の同定方法を提供し、さらに該チロシンキナーゼの機能および発現の異常に基づく疾患に用い得る医薬組成物、並び上記同定方法に使用し得る試薬キットを提供する。
【解決手段】 新規チロシンキナーゼをコードする塩基配列を含むDNA、該DNAがコードする蛋白質、該DNAを含むベクター、該ベクターを含む形質転換体、該蛋白質に対する抗体、該蛋白質の機能および/または該DNAの発現を阻害するまたは促進する化合物、これらのいずれか1つを少なくとも含んでなる医薬組成物および試薬キット、該化合物の同定方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、チロシンキナーゼ遺伝子および該遺伝子にコードされる蛋白質に関するものである。より詳しくは、自己リン酸化を促進する機能を有する蛋白質をコードするDNA、前記DNAを含有する組換えベクター、および該組換えベクターを導入されてなる形質転換体に関する。また、前記蛋白質および該蛋白質に対する抗体に関する。さらに、前記蛋白質の製造方法に関する。また、前記蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合を阻害または促進する方法に関する。さらに、前記蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合を阻害または促進する化合物の同定方法に関する。また、前記蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合促進剤および結合阻害剤に関する。さらに、前記蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合を促進することを特徴とする甲状腺癌の防止剤および/または治療剤、並びに防止方法および/または治療方法に関する。また、前記蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合を阻害することを特徴とする精巣萎縮、精巣腫瘍および精巣癌のうちの少なくともいずれか1つの疾患の防止剤および/または治療剤、並びに防止方法および/または治療方法に関する。さらに、前記DNA、前記蛋白質、前記組換えベクター、前記形質転換体および前記抗体のうちの少なくともいずれか1つを含んでなる試薬キットに関する。
チロシンキナーゼは、蛋白質リン酸化酵素の1つであり、アデノシン3リン酸(以下、ATPと略称する。)をリン酸供与体とし、そのγ−リン酸基(末端の燐酸基)を、蛋白質に存在するある特定のチロシンの水酸基に転移させる反応を触媒する酵素である。
チロシンキナーゼには幾つかの構造モチーフが存在し、その1つとしてグリシンリッチループ(Gly−rich loop)とATP結合部位からなるチロシンキナーゼモチーフが知られている。
チロシンキナーゼは、細胞内の種々の機能蛋白質や酵素等をリン酸化することにより細胞内情報伝達経路を担い、細胞機能、例えば生長、分化、抗アポトーシス性シグナリング、神経突起伸張または細胞接着等の調節に寄与している。チロシンキナーゼの発現や機能が過剰になるあるいは低減すると、細胞機能に異常が生じ、種々の疾患を引き起こすことがある。例えば、チロシンキナーゼの非調節的な活性化は細胞の異常増殖を招き、ひいては細胞の癌化を誘発する。
チロシンキナーゼは、受容体型と非受容体型の2つに分類される。受容体型チロシンキナーゼは、細胞膜に局在しており、細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞内触媒ドメインから構成されている。非受容体型チロシンキナーゼは細胞質若しくは核に局在するか、形質膜の内部小葉に固定されている。チロシンキナーゼには、受容体型キナーゼとしてインシュリン受容体や神経成長因子受容体等、非受容体型キナーゼとしては細胞増殖に関与しているSrc、増殖抑制に関与しているAbl、細胞接着に関与しているFAK等が知られているが、これら以外にも、構成因子や機能が確認されていない情報伝達経路に関与するチロシンキナーゼが存在していると考えられる。
一方、14−3−3遺伝子がコードする蛋白質(以下、14−3−3蛋白質と称することもある。)は、RSXpSXPモチーフを認識してリン酸化経路の調節を担っている分子として見出された蛋白質である(非特許文献1)。14−3−3蛋白質は該モチーフを有するキナーゼの活性を調節していることが報告されている(非特許文献2)。14−3−3蛋白質をコードする遺伝子の発現は脳において高く、その他、心臓、肝臓、胎盤、骨髄および結腸で認められている。また、ラットの精巣においても発現が認められたという報告がある。
以下に本明細書において引用した文献を列記する。
チィヴィオン(Tzivion,G.)ら、「ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)」、2002年、第277巻、p.3061−3064。 チィヴィオン(Tzivion,G.)ら、「ネイチャー(Nature)」、1998年、第394巻、p.88−92。 サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー。 村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社。 ウルマー(Ulmer,K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671。 「ネイチャー(Nature)」、1957年、第179巻、p.160〜161。 エールリッヒ,H.E.編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス。 サイキ(Saiki,R.K.)ら、「サイエンス(Science)」、1985年、第230巻、p.1350−1354。 「実験医学」、1994年、第12巻、第6号、p.35−。 フローマン(Frohman,M.A.)ら、「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」、1988年、第85巻、第23号、p.8998−9002。 サンガー(Sanger,F.)ら、「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」、1977年、第74巻、p.5463−5467。 「メソッズ イン エンザイモロジー(Methods in Enzymology)」、1980年、第65巻、p.499−。 ミスロー(Mislow,J.M.)ら、「ジャーナル オブ セル サイエンス(Journal of Cell Science)」、2002年、第115巻、p.61−70。 「フェブスレター(FEBS Letter)」、2002年、第525巻、p.135−140。 アペル(Apel,E.D.)ら,「ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)」,2000年、第275巻、p.31986−31995。 オハラ(Ohara,O.)ら、「ディーエヌエー リサーチ(DNA Research)」、1997年、第4巻、p.53−59。 バーテル(Bartel)ら、「ネイチャージェネティクス(Nature Genetics)」、1996年、第12巻、p.72−77。
本発明の課題は、新規なチロシンキナーゼをコードする遺伝子および該チロシンキナーゼを見出して提供することである。また別の課題は、前記チロシンキナーゼ由来の蛋白質の製造方法を提供することである。さらに別の課題は、前記遺伝子を含有する組換えベクター、前記組換えベクターをトランスフェクションした形質転換体、前記チロシンキナーゼに対する抗体を提供することである。また別の課題は、前記チロシンキナーゼの機能を調節する手段を提供することである。さらに別の課題は、前記チロシンキナーゼの機能を阻害するまたは促進する化合物の同定手段を提供することである。また別の課題は、前記チロシンキナーゼの機能の異常および/または前記チロシンキナーゼをコードする遺伝子の発現の異常に基づく疾患に用い得る医薬組成物を提供することである。さらに別の課題は、前記同定方法に使用し得る試薬キットを提供することである。
本発明者らは上記課題解決のために鋭意努力し、新規チロシンキナーゼをコードする遺伝子を見出し、該遺伝子を用いて新規チロシンキナーゼを取得することに成功した。そして、該チロシンキナーゼが自己リン酸化を促進することを明らかにし、さらにリン酸化経路の調節を担う蛋白質の1つである14−3−3蛋白質と結合することを見出して本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
1.配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表わされるDNA、
2.前記1.のDNAの塩基配列と少なくとも70%以上の相同性を有するDNAであって、自己リン酸化を促進する蛋白質をコードするDNA、
3.前記1.または2.のDNAの塩基配列において、1ないし数個のDNAの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有するDNAであって、自己リン酸化を促進する蛋白質をコードするDNA、
4.前記1.から3.のいずれかのDNAを含有する組換えベクター、
5.前記4.の組換えベクターを導入されてなる形質転換体、
6.宿主が動物細胞である前記5.の形質転換体、
7.配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表わされる蛋白質、
8.前記2.のDNAがコードする蛋白質、
9.前記3.のDNAがコードする蛋白質、
10.前記5.または6.の形質転換体を培養する工程を含む、前記7.から9.のいずれかの蛋白質の製造方法、
11.前記7.から9.のいずれかの蛋白質を免疫学的に認識する抗体、
12.前記7.から9.のいずれかの蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合を阻害または促進する方法、
13.前記7.から9.のいずれかの蛋白質(蛋白質A)と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質(蛋白質B)との結合を阻害または促進する化合物の同定方法であって、ある化合物と蛋白質Aおよび/または蛋白質Bの相互作用を可能にする条件下で、該化合物と蛋白質Aおよび/または蛋白質Bを接触させ、次いで、蛋白質Aと蛋白質Bの結合により生じるシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、該シグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、該化合物が蛋白質Aと蛋白質Bの結合を阻害または促進するか否かを決定することを特徴とする同定方法、
14.前記7.から9.のいずれかの蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合を阻害または促進する化合物の同定方法であって、前記7.から9.のいずれかの蛋白質、前記1.から3.のいずれかのDNA、前記4.の組換えベクター、前記5.または6.の形質転換体および前記11.の抗体のうち、少なくともいずれか1つを用いることを特徴とする同定方法、
15.前記13.または14.の同定方法により同定された化合物を含有する、前記7.から9.のいずれかの蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合促進剤、
16.前記7.から9.のいずれかの蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合を促進することを特徴とする甲状腺癌の防止剤および/または治療剤、
17.前記15.の結合促進剤を含有する甲状腺癌の防止剤および/または治療剤、
18.前記13.または14.の同定方法により同定された化合物を含有する、前記7.から9.のいずれかの蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合阻害剤、
19.前記7.から9.のいずれかの蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合を阻害することを特徴とする精巣萎縮、精巣腫瘍および精巣癌のうちの少なくともいずれか1つの疾患の防止剤および/または治療剤、
20.前記18.の結合阻害剤を含有する精巣萎縮、精巣腫瘍および精巣癌のうちの少なくともいずれか1つの疾患の防止剤および/または治療剤、
21.前記7.から9.のいずれかの蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合を促進することを特徴とする甲状腺癌の防止方法および/または治療方法、
22.前記15.の結合促進剤を用いることを特徴とする甲状腺癌の防止方法および/または治療方法、
23.前記7.から9.のいずれかの蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合を阻害することを特徴とする精巣萎縮、精巣腫瘍および精巣癌のうちの少なくともいずれか1つの疾患の防止方法および/または治療方法、
24.前記18.の結合阻害剤を用いることを特徴とする精巣萎縮、精巣腫瘍および精巣癌のうちの少なくともいずれか1つの疾患の防止方法および/または治療方法、
25.前記13.または14.の同定方法に用いる試薬キットであって、前記7.から9.のいずれかの蛋白質、前記1.から3.のいずれかのDNA、前記4.の組換えベクター、前記5.または6.の形質転換体および前記11.の抗体のうち、少なくともいずれか1つを含んでなる試薬キット、
からなる
本発明においては、チロシンリン酸化機能を有する新規蛋白質およびこれをコードするDNAを提供し、本蛋白質がリン酸化経路の調節を担う蛋白質の1つである14−3−3蛋白質と結合することを明らかにした。本発明により、本蛋白質が関与する情報伝達経路の解明と調節、並びに本蛋白質の機能の異常および/またはこれをコードする遺伝子の発現の異常に基づく疾患、例えば甲状腺癌あるいは精巣萎縮、精巣腫瘍および精巣癌等の疾患の防止および/または治療等が可能になる。
以下、本発明について発明の実施の態様をさらに詳しく説明する。
本明細書においては、単離された若しくは合成の完全長蛋白質;単離された若しくは合成の完全長ポリペプチド;または単離された若しくは合成の完全長オリゴペプチドを意味する総称的用語として「蛋白質」という用語を使用し、ここで蛋白質、ポリペプチド若しくはオリゴペプチドは最小サイズが2アミノ酸である。以降、アミノ酸を表記する場合、1文字または3文字にて表記することがある。
(DNA)
本発明の一態様は新規DNAに関する。本DNAは、ヒト脳由来長鎖cDNAライブラリーから、ATPの支持領域であるグリシンリッチループとATP結合部位からなるチロシンキナーゼモチーフをコードする領域を有する遺伝子として同定した。ヒト脳由来長鎖cDNAライブラリーは、市販のpolyARNA(ヒト脳、胎児脳および脳海馬由来)を出発原料として常法により構築したcDNAライブラリーについてdbEST(database of Expressed Sequence Tags)分析によりcDNAを単離して全塩基配列を決定したcDNAクローンからなるcDNAライブラリーである。本DNAの組織発現は、正常組織で全般的に低いが、精巣、骨格筋および脳で比較的高いことが判明した。
本発明に係るDNAは、本発明の別の一態様である自己リン酸化を促進する機能を有する蛋白質をコードすることを1つの特徴とする。本明細書において、「自己リン酸化」とは、チロシンキナーゼが、自身であるチロシンキナーゼに存在するある特定のチロシン残基の水酸基に、ATPをリン酸供与体としてそのγ−リン酸基を転移させる反応を意味する。本DNAがコードする蛋白質は、ランダム蛋白質を基質とするプロテインチロシンキナーゼアッセイにおいて該基質をリン酸化したことから、自己リン酸化を促進する機能の他に、別種の蛋白質または同種の蛋白質をリン酸化する機能を有すると考える。
本発明に係るDNAは、好ましくは配列表の配列番号1に記載の塩基配列またはその相補的配列で表わされるDNAである。配列番号1に記載の塩基配列で表わされるDNAは、606アミノ酸残基(配列番号2)をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含む3574塩基からなるDNAである。
本発明に係るDNAには、上記DNAと配列相同性を有し、かつ自己リン酸化を促進する蛋白質をコードするDNAも含まれる。好ましくは、グリシンリッチループとATP結合部位からなるチロシンキナーゼモチーフをコードする領域を有するDNAである。配列相同性は、通常、塩基配列の全体で約50%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上であることが望ましい。
本発明に係るDNAには、上記DNAの塩基配列において1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1個ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入といった変異が存する塩基配列で表わされるDNAが含まれる。変異の程度およびそれらの位置等は、該変異を有するDNAが、自己リン酸化を促進する蛋白質をコードするDNA、好ましくは、グリシンリッチループとATP結合部位からなるチロシンキナーゼモチーフをコードする領域を有するDNAである限り特に制限されない。かかる変異を有するDNAは、天然に存在するDNAであってよく、また天然由来の遺伝子に基づいて変異を導入して得たDNA、例えば誘発変異を有するDNAであってもよい。変異を導入する手段は自体公知であり、例えば、部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法またはPCR等を単独でまたは適宜組合せて用いることができる。例えば成書に記載の方法(非特許文献3および4)に準じて、あるいはそれらの方法を改変して実施することができ、ウルマーの技術(非特許文献5)を利用することもできる。
本発明に係るDNAとしてはまた、上記DNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションするDNAが挙げられる。ハイブリダイゼーションの条件は、例えば成書に記載の方法(非特許文献3)等に従うことができる。これらDNAは上記DNAにハイブリダイゼーションするDNAであれば相補的配列を有するDNAでなくてもよい。好ましくは、コードする蛋白質が自己リン酸化を促進する機能を有する蛋白質であり、より好ましくはグリシンリッチループとATP結合部位からなるチロシンキナーゼモチーフを有する蛋白質であることが望ましい。
本発明に係るDNAには、本DNAの指定された領域に存在する部分塩基配列からなるDNAが包含される。本DNAの指定された領域に存在する部分塩基配列からなるDNAは、その最小単位として好ましくは該領域において連続する5個以上のDNA、より好ましくは10個以上、より好ましくは20個以上のDNAからなるDNAである。かかる部分塩基配列からなるDNAは、本DNAの配列情報に従って、所望の配列を有するDNAを設計し、自体公知の化学合成法により製造することができる。簡便には、DNA/RNA自動合成装置を用いて取得可能である。
本発明に係るDNAは、本発明により開示されたその具体例、例えば配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表わされるDNAについての配列情報に基づいて、公知の遺伝子工学的手法(非特許文献3および4等を参照。)により取得することができる。
具体的には、本発明に係るDNAの発現が確認されている適当な起源から、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、該ライブラリーから、該DNAに特有の適当なプローブやプライマーを用いて所望のクローンを選択することにより取得可能である。cDNAの起源としては、本DNAの発現が確認されている各種の細胞や組織、またはこれらに由来する培養細胞、例えばヒトの脳由来の細胞等が例示できる。これら起源からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニング等はいずれも常法に従って実施することができる。また、ヒト脳、胎児脳および脳海馬由来の市販されているpolyARNAからcDNAライブラリーを構築して用いることもできる。所望のクローンをcDNAライブラリーから選択する方法も特に制限されず、慣用の方法を用いることができる。例えば、本DNAに選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション法、コロニーハイブリダイゼーション法等やこれらを組合せた方法等を例示できる。ここで用いるプローブとしては、本DNAの配列情報に基づいて化学合成されたDNA等が一般的に使用できるが、既に取得された本DNAやその部分塩基配列からなるDNAも好ましく利用できる。また、本DNAの配列情報に基づき設計したセンスプライマー、アンチセンスプライマーをかかるプローブとして用いることもできる。
cDNAライブラリーからの本発明に係るcDNAクローンの選択は、例えば公知の蛋白質発現系を利用して各クローンについて発現蛋白質の確認を行い、該蛋白質の機能を指標にして実施できる。本DNAがコードする蛋白質の機能としては、例えば自己リン酸化を促進する機能が挙げられる。自己リン酸化の測定は、慣用のチロシンキナーゼアッセイを用いて行なうことができる(例えば、実施例4参照。)。あるいは簡便には、ランダム蛋白質を基質としたアッセイキットを使用して、発現蛋白質による該基質のチロシンリン酸化を測定することにより実施できる。蛋白質発現系としては、自体公知の発現系がいずれも利用可能であるが、無細胞蛋白質発現系の利用が簡便である(非特許文献6)。
本発明に係るDNAの取得にはその他、ポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと略称する、非特許文献5、7および8)によるDNA/RNA増幅法が好適に利用できる。cDNAライブラリーから全長のcDNAが得られ難いような場合には、RACE法(非特許文献9)、特に5´−RACE法(非特許文献10)等の採用が好適である。PCRに使用するプライマーは、本DNAの配列情報に基づいて適宜設計でき、常法に従って合成により得ることができる。増幅させたDNA/RNAの単離精製は、常法により行うことができる。例えばゲル電気泳動法等により実施可能である。
かくして得られるDNAの塩基配列の決定は、常法、例えばジデオキシ法(非特許文献11)やマキサム−ギルバート法(非特許文献12)等により、また簡便には市販のシークエンスキット等を用いて行うことができる。
本発明に係るDNAはヒト由来のDNAであるが、該DNAと配列相同性を有し、自己リン酸化を促進する蛋白質をコードするDNA、好ましくは、グリシンリッチループとATP結合部位からなるチロシンキナーゼモチーフをコードする領域を有するDNAである限り、哺乳動物のDNA、例えばマウス、ウマ、ヒツジ、ウシ、イヌ、サル、ネコ、クマ、ラットまたはウサギ等のDNAも本発明に包含される。
本発明に係るDNAは、その発現、あるいはコードする蛋白質の機能、例えば自己リン酸化を促進する機能が阻害されない限りにおいて、5´末端側や3´末端側に、所望の蛋白質をコードする遺伝子、例えばグルタチオン S−トランスフェラーゼ(GST)、β−ガラクトシダーゼ、ホースラディッシュパーオキシダーゼ(HRP)またはアルカリホスファターゼ(ALP)等の酵素類の遺伝子、あるいはHis−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類の遺伝子等が付加されたDNAであってもよい。これら遺伝子の付加は、慣用の遺伝子工学的手法により行うことができ、遺伝子やmRNAの検出等を容易にするために有用である。
(ベクター)
本発明の一態様は、本発明に係るDNAを組込んだ組換えベクターに関する。組換えベクターは、本DNAを適当なベクターDNAに挿入することにより得ることができる。
ベクターDNAは宿主中で複製可能なDNAであれば特に限定されず、宿主の種類および使用目的により適宜選択される。ベクターDNAは、天然に存在するDNAを抽出して得られたベクターDNAの他、複製に必要な部分以外のDNAの部分が一部欠落しているベクターDNAでもよい。代表的なベクターDNAとして例えば、プラスミド、バクテリオファージおよびウイルス由来のベクターDNAを挙げることができる。プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド等を例示できる。バクテリオファージDNAとしては、λファージ等が挙げられる。ウイルス由来のベクターDNAとしては例えばレトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、パポバウイルス、SV40、鶏痘ウイルス、および仮性狂犬病ウイルス等の動物ウイルス由来のベクター、あるいはバキュロウイルス等の昆虫ウイルス由来のベクターを挙げることができる。その他、トランスポゾン由来、挿入エレメント由来、酵母染色体エレメント由来のベクターDNA等を例示することができる。あるいは、これらを組合せて作成したベクターDNA、例えばプラスミドおよびバクテリオファージの遺伝学的エレメントを組合せて作成したベクターDNA(コスミドやファージミド等)を例示できる。また、目的により発現ベクターやクローニングベクター等、いずれを用いることもできる。
ベクターDNAには、本発明に係るDNAの機能が発揮されるように該DNAを組込むことが必要であり、少なくとも本DNAとプロモーターとをその構成要素とする。これら要素に加えて、所望によりさらに、複製そして制御に関する情報を担持した遺伝子配列、例えば、リボソーム結合配列、ターミネーター、シグナル配列、エンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、および選択マーカー等から選択した1つまたは複数の遺伝子配列を自体公知の方法により組合せてベクターDNAに組込むことができる。選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
ベクターDNAに本発明に係るDNAを組込む方法は、自体公知の方法を適用できる。例えば、本DNAを適当な制限酵素により処理して特定部位で切断し、次いで同様に処理したベクターDNAと混合し、リガーゼによって再結合する方法が用いられる。あるいは、本DNAに適当なリンカーをライゲーションし、これを目的に適したベクターのマルチクローニングサイトへ挿入することによっても、所望の組換えベクターが得られる。
(形質転換体)
本発明の一態様は、本発明に係るDNAを組込んだベクターDNAを、宿主に導入して得られる形質転換体に関する。ベクターDNAとして発現ベクターを使用すれば、本DNAがコードする蛋白質を提供可能である。該形質転換体には、本DNA以外の所望の遺伝子を組込んだベクターDNAの1つまたは2つ以上をさらに導入することもできる。宿主に導入するベクターDNAは、1種のベクターDNAであってもよく、2種以上のベクターDNAを導入してもよい。
宿主としては、原核生物および真核生物のいずれをも用いることができる。原核生物としては、例えば大腸菌〔エシェリヒアコリ(Escherichia coli)〕等のエシェリヒア属、枯草菌等のバシラス属、シュードモナスプチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウムメリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌が挙げられる。真核生物としては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセスポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母、Sf9やSf21等の昆虫細胞、あるいはサル腎由来細胞(COS細胞、Vero細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3細胞、ヒトFL細胞や293EBNA細胞等の動物細胞が例示できる。好ましくは動物細胞を用いる。
ベクターDNAの宿主細胞への導入は、自体公知の手段が応用され、例えば成書に記載されている標準的な方法(非特許文献3)により実施できる。より好ましい方法としては、遺伝子の安定性を考慮するならば染色体内へのインテグレート法が挙げられるが、簡便には核外遺伝子を利用した自律複製系を使用できる。具体的には、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、マイクロインジェクション、陽イオン脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープ負荷(scrape loading)、バリスティック導入(ballistic introduction)および感染等が挙げられる。
動物細胞を宿主とする場合、組換えベクターが該細胞中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、RNAスプライス部位、本発明に係るDNA、ポリアデニル化部位、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、所望により複製起点が含まれていてもよい。プロモーターとしてはSRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター等が用いられ、また、サイトメガロウイルスの初期遺伝子プロモーター等を用いてもよい。動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、好ましくは例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等を用いることができる。
原核生物を宿主とする場合、組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明に係るDNA、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
細菌を宿主とする場合、プロモーターとしては大腸菌等の宿主中で発現できるプロモーターであればいずれを用いてもよい。例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター等の、大腸菌やファージに由来するプロモーターが用いられる。tacプロモーター等の人為的に設計改変されたプロモーターを用いてもよい。細菌への組換えベクターの導入方法としては、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。好ましくは例えば、カルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等を用いることができる。
酵母を宿主とする場合、プロモーターとしては酵母中で発現できるプロモーターであれば特に限定されず、例えば、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショック蛋白質プロモーター、MFα1プロモーター、PH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーター等が挙げられる。酵母への組換えベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、好ましくは例えば、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等を用いることができる。
昆虫細胞を宿主とする場合、組換えベクターの導入方法としては、好ましくは例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法等を用いることができる。
(蛋白質)
本発明の一態様は、本発明に係るDNAがコードする蛋白質に関する。本蛋白質は、グリシンリッチループおよびATP結合部位からなるチロシンキナーゼモチーフを有し、自己リン酸化機能を有する蛋白質である。本蛋白質がランダム蛋白質を基質とするプロテインチロシンキナーゼアッセイにおいて該基質をリン酸化したことから、本蛋白質は自己リン酸化機能の他に、別種の蛋白質または同種の蛋白質をリン酸化する機能を有すると考える。これらから、本蛋白質はチロシンキナーゼの1つであると推察した。
本発明に係る蛋白質の具体的態様としては、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表わされる蛋白質を挙げることができる。配列番号2に記載のアミノ酸配列で表わされる蛋白質において、その第77番目ロイシン(Leu)から第85番目バリン(Val)までのアミノ酸配列にグリシンリッチループが、第98番目アラニン(Ala)から第100番目リジン(Lys)までのアミノ酸配列にATP結合部位が存在する。
本発明に係る蛋白質はまた、14−3−3遺伝子がコードする蛋白質あるいはSyne−1遺伝子がコードする蛋白質と結合して相互作用することが、イーストツーハイブリッド法(Yeast two−hybrid method)により判明した。本明細書中における蛋白質間の結合とは、ある蛋白質(蛋白質A)と別のある蛋白質(蛋白質B)が複合体を形成するように、水素結合、疎水結合または静電的相互作用などの非共有結合により、蛋白質Aと蛋白質Bが相互作用することを意味する。ここでの結合とは、蛋白質Aと蛋白質Bがそれら分子の一部分において結合すれば足りる。例えば、蛋白質Aまたは蛋白質Bを構成するアミノ酸中に、蛋白質Aと蛋白質Bの結合に関与しないアミノ酸が含まれていてもよい。
14−3−3蛋白質はRSXpSXPモチーフを認識してリン酸化経路の調節を担っている分子として見出された蛋白質である(非特許文献1)。本発明に係る蛋白質、例えば配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表わされる蛋白質のC末端には該モチーフに類似する配列が存在する:第482番目のアルギニン(Arg)から第487番目のセリン(Ser)までのアミノ酸配列;第491番目のアルギニンから第497番目のアスパラギン酸(Asp)までのアミノ酸配列;および第521番目のアルギニンから第526番目のプロリン(Pro)までのアミノ酸配列。このことから、14−3−3蛋白質の結合により本蛋白質のリン酸化酵素活性が調節されている可能性が考えられる。14−3−3蛋白質の機能に関する報告(非特許文献2)から、14−3−3蛋白質の結合により本蛋白質の機能が抑制されている可能性がある。したがって、14−3−3蛋白質の結合が解除されて本蛋白質が活性化されると、本蛋白質をコードするDNAの発現量がそれほど高くなくても大きな作用を示すことが想定される。本発明に係るDNAの発現は、甲状腺癌においてやや高いことから、本蛋白質が甲状腺癌に関連することが考えられる。また、本DNAの精巣における発現は、正常組織でやや高いのに対して精巣に関する疾患においては低いことから、本蛋白質が精巣疾患に関連していることが考えられる。さらに14−3−3蛋白質による本蛋白質のリン酸化酵素活性の調節がこれら疾患に関連している可能性があると推察できる。
Syne−1は、核膜に存在する蛋白質であり、心筋、動脈平滑筋および骨格筋に多く発現している。Syne−1は細胞骨格に関わる蛋白質と相互作用することが知られており、細胞質内の核の移動に寄与することにより後シナプスにおける器官形成に関与すると考えられている(非特許文献13)。また、Syne−1は、エメリン(emerin)と呼ばれる骨格筋、心筋、平滑筋に存在する蛋白質との相互作用が知られている(非特許文献14)。エメリンとある種の筋繊維萎縮性疾患との関連が報告されていることから、Syne−1と筋繊維萎縮性疾患との関連が注目されている。その他、Syne−1と相互作用する分子としてあるチロシンキナーゼが報告されている(非特許文献15)。
本発明に係る蛋白質には、配列番号1に記載の塩基配列で表わされるDNAと配列相同性を有するDNAがコードする蛋白質であって、かつ自己リン酸化を促進する蛋白質も含まれる。好ましくは、グリシンリッチループとATP結合部位からなるチロシンキナーゼモチーフを有する蛋白質である。配列相同性は、通常、塩基配列の全体で約50%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上であることが望ましい。
本発明に係る蛋白質には、例えば、配列番号1に記載の塩基配列で表わされるDNAまたは該DNAの塩基配列と配列相同性を有するDNAであってかつ自己リン酸化を促進する蛋白質をコードするDNAの塩基配列において1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1個ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入といった変異を有する塩基配列で表わされるDNAがコードする蛋白質であって、かつチロシンリン酸化機能および/または自己リン酸化機能を有する蛋白質を挙げることができる。変異の程度およびそれらの位置等は、該変異を有する蛋白質が、自己リン酸化を促進する蛋白質、好ましくは、グリシンリッチループとATP結合部位からなるチロシンキナーゼモチーフを有する蛋白質である限り特に制限されない。かかる変異を有する蛋白質は、天然において例えば突然変異や翻訳後の修飾等により生じた蛋白質であってよく、また天然由来の遺伝子に基づいて変異を導入して得た蛋白質であってもよい。変異を導入する手段は自体公知であり、例えば、部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法またはPCR等を単独でまたは適宜組合せて用いることができる。例えば成書に記載の方法(非特許文献3および4)に準じて、あるいはそれらの方法を改変して実施することができ、ウルマーの技術(非特許文献5)を利用することもできる。変異の導入において、当該蛋白質の基本的な性質(物性、機能、生理活性または免疫学的活性等)を変化させないという観点からは、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸等)の間での相互置換は容易に想定される。
本発明に係る蛋白質はヒト由来の蛋白質であるが、該蛋白質と配列相同性を有し、かつ自己リン酸化を促進する蛋白質、好ましくは、グリシンリッチループとATP結合部位からなるチロシンキナーゼモチーフを有する蛋白質である限り、哺乳動物由来の蛋白質、例えばマウス、ウマ、ヒツジ、ウシ、イヌ、サル、ネコ、クマ、ラットまたはウサギ等の蛋白質も本発明に包含される。
本発明に係る蛋白質には、本蛋白質の部分配列からなる蛋白質が包含される。例えば配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列の部分配列からなる蛋白質も本発明の範囲に包含される。かかる蛋白質は、その最小単位として好ましくは5個以上、より好ましくは8個以上、さらに好ましくは12個以上、とくに好ましくは15個以上の連続するアミノ酸からなる蛋白質である。
本発明に係る蛋白質は、本蛋白質をコードする遺伝子を遺伝子工学的手法で発現させた細胞、無細胞系合成産物、化学合成産物、または該細胞や生体生物由来の試料から調製した蛋白質であることができ、これらからさらに精製された蛋白質であってもよい。
本発明に係る蛋白質はさらに、その構成アミノ基またはカルボキシル基等を、例えばアミド化修飾する等、機能の著しい変更を伴わない限りにおいて改変が可能である。また、N末端側やC末端側に別の蛋白質等を、直接的にまたはリンカーペプチド等を介して間接的に遺伝子工学的手法等を用いて付加することにより標識化した蛋白質であってもよい。好ましくは、本発明に係る蛋白質の基本的な性質が阻害されないような標識化が望ましい。付加する蛋白質等としては、例えばグルタチオン S−トランスフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ホースラディッシュパーオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ等の酵素類、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類、フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate)またはフィコエリスリン(phycoerythrin)等の蛍光物質類、マルトース結合蛋白質、免疫グロブリンのFc断片あるいはビオチン等が挙げられるが、これらに限定されない。また、放射性同位元素により標識することも可能である。これら標識化に用いた物質自体またはその機能を測定することにより、本蛋白質を容易に検出または精製可能であり、また、例えば、本蛋白質と他の蛋白質との結合や相互作用を検出することが可能である。
(蛋白質の製造方法)
本発明の一態様は、本発明に係る蛋白質の製造方法に関する。本蛋白質の取得は、例えば本蛋白質をコードする遺伝子の配列情報に基づいて一般的遺伝子工学的手法(非特許文献3、4、5および7等を参照。)により得ることが可能である。例えば、本発明に係るDNAの発現が確認されている各種の細胞や組織、またはこれらに由来する培養細胞から常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、本蛋白質をコードする遺伝子に特有の適当なプライマーを用いて該遺伝子を増幅し、得られた遺伝子を公知の遺伝子工学的手法により発現誘導することにより取得することができる。
本発明に係る蛋白質の製造方法は、具体的には例えば、本発明に係る形質転換体を培養し、次いで得られる培養物から本蛋白質を回収することにより実施できる。本形質転換体の培養は、各々の宿主に最適な自体公知の培養条件および培養方法で行うことができる。培養は、形質転換体により発現される本蛋白質自体または本蛋白質の機能、例えば自己リン酸化機能やチロシンリン酸化機能を指標にして実施できる。あるいは、宿主中または宿主外に産生された本蛋白質自体またはその蛋白質量を指標にして培養してもよく、培地中の形質転換体量を指標にして継代培養またはバッチ培養を行ってもよい。
本発明に係る蛋白質が形質転換体の細胞内あるいは細胞膜上に発現する場合には、形質転換体を破砕して目的とする蛋白質を抽出する。また、本蛋白質が形質転換体外に分泌される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離処理等により形質転換体を除去した培養液を用いる。
本発明に係る蛋白質は、所望により、形質転換体を培養した培養液または形質転換体から、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種分離操作方法により分離および/または精製することができる。分離および/または精製は、本蛋白質の機能、例えば自己リン酸化機能やチロシンリン酸化機能を指標にして実施できる。分離操作方法としては、例えば硫酸アンモニウム沈殿、限外ろ過、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、透析法等を単独でまたは適宜組合せて用いることができる。好ましくは、本蛋白質のアミノ酸配列情報に基づき、これらに対する特異的抗体を作成し、該抗体を用いて特異的に吸着する方法、例えば該抗体を結合させたカラムを利用するアフィニティクロマトグラフィーを用いることが推奨される。
本発明に係る蛋白質はまた、一般的な化学合成法により製造することができる。例えば、蛋白質の化学合成方法としては固相合成方法、液相合成方法等が知られているがいずれを用いることもできる。かかる蛋白質合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させて鎖を延長させていくいわゆるステップワイズエロンゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメントコンデンセーション法とを包含し、本蛋白質の合成は、そのいずれによっても行うことができる。上記蛋白質合成法において用いられる縮合法も、常法に従うことができ、例えば、アジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)法、ウッドワード法等を例示できる。化学合成により得られる本蛋白質は、さらに上記のような慣用の各種精製方法に従って、適宜精製を行うことができる。
本蛋白質の部分配列からなる蛋白質は、本蛋白質を適当なペプチダーゼにより切断することによっても得ることができる。
(抗体)
本発明の一態様は、本発明に係る蛋白質に対する抗体に関する。本抗体は、本蛋白質を抗原として用いて作製することができる。抗原は、少なくとも8個、好ましくは少なくとも10個、より好ましくは少なくとも12個、さらに好ましくは15個以上のアミノ酸で構成される。本蛋白質に特異的な抗体を作成するためには、本蛋白質に固有なアミノ酸配列からなる領域を用いることが好ましい。この領域のアミノ酸配列は、必ずしも本蛋白質のアミノ酸配列と相同または同一である必要はなく、その立体構造上の外部への露出部位が好ましく、露出部位のアミノ酸配列が一次構造上で不連続であっても、該露出部位について連続的なアミノ酸配列であればよい。抗体は免疫学的に本蛋白質を特異的に結合または認識する限り特に限定されない。この結合または認識の有無は、公知の抗原抗体結合反応によって決定できる。
抗体の産生には、自体公知の抗体作製法を利用できる。例えば、抗原をアジュバントの存在下または非存在下で、単独でまたは担体に結合して動物に投与し、体液性応答および/または細胞性応答等の免疫誘導を行うことにより抗体が得られる。担体はそれ自体が宿主に対して有害作用を示さずかつ抗原性を増強せしめる担体であれば特に限定されず、例えばセルロース、重合アミノ酸、アルブミンおよびキーホールリンペットヘモシアニン等が例示できる。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、Ribi(MPL)、Ribi(TDM)、Ribi(MPL+TDM)、百日咳ワクチン(Bordetella pertussis vaccine)、ムラミルジペプチド(MDP)、アルミニウムアジュバント(ALUM)、およびこれらの組み合わせを例示できる。免疫される動物は、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマ等が好適に用いられる。
ポリクローナル抗体は、免疫手段を施された動物の血清から自体公知の抗体回収法によって取得できる。好ましい抗体回収手段として免疫アフィニティクロマトグラフィー法が挙げられる。
モノクロ−ナル抗体は、免疫手段が施された動物から抗体産生細胞(例えば、脾臓またはリンパ節由来のリンパ球)を回収し、自体公知の永久増殖性細胞(例えば、P3−X63−Ag8株等のミエローマ株)への形質転換手段を導入することにより生産できる。例えば、抗体産生細胞と永久増殖性細胞とを自体公知の方法で融合させてハイブリドーマを作成してこれをクローン化し、本発明に係る蛋白質を特異的に認識する抗体を産生するハイブリドーマを選別し、該ハイブリドーマの培養液から抗体を回収する。
かくして得られた、本発明に係る蛋白質を認識し結合し得るポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体は、本蛋白質の精製用抗体、試薬または標識マーカー等として利用できる。特に本蛋白質の機能を阻害する抗体は、本蛋白質の機能を調製するために使用でき、本蛋白質の機能的異常や量的異常に起因する各種疾患の解明、防止、改善および/または治療のために有用である。例えば本蛋白質と14−3−3蛋白質との結合を阻害する抗体は、本蛋白質と14−3−3蛋白質の相互作用の解明とこれらの異常に基づく疾患の解明、防止、改善および/または治療に有用である。また、本蛋白質とSyne−1との相互作用を阻害する抗体は、本蛋白質、Syne−1およびエメリンの関連の解明とこれらの異常に基づく疾患の解明、防止、改善および/または治療に有用である。あるいは、本蛋白質のリン酸化機能を阻害する抗体は、本蛋白質のリン酸化酵素活性の異常に基づく疾患の解明、防止、改善および/または治療に有用である。
(結合阻害方法および結合促進方法)
本発明の一態様は、本発明に係る蛋白質と14−3−3蛋白質またはSyne−1との結合を阻害する、または促進する方法に関する。本蛋白質と14−3−3蛋白質またはSyne−1との結合は、ツーハイブリッド法、免疫沈降物による共沈物の確認、ウエスタンブロット法および蛍光共鳴エネルギー転移法等の自体公知の方法またはこれらの方法を組合わせることにより検出され得る。
本発明に係る蛋白質と14−3−3蛋白質またはSyne−1との結合の阻害方法は、例えば、本蛋白質と14−3−3蛋白質またはSyne−1の結合を阻害する化合物を用いることにより実施できる。ここでは、このような阻害効果を有する化合物(後述する例として競合阻害効果を有するポリペプチド類、抗体および低分子化合物等が挙げられる)を阻害剤と称する。
本発明に係る蛋白質と14−3−3蛋白質またはSyne−1の結合を阻害する化合物として、好ましくは当該結合を特異的に阻害する化合物、より好ましくは当該結合を特異的に阻害する低分子量化合物が挙げられる。本蛋白質と14−3−3蛋白質またはSyne−1の結合を特異的に阻害するとは、当該結合を強く阻害するが、他の蛋白質間結合は阻害しないか、弱く阻害することを意味する。
本発明に係る蛋白質と14−3−3蛋白質またはSyne−1の結合を阻害する化合物としてその他に、本蛋白質と14−3−3蛋白質またはSyne−1が結合する部位のアミノ酸配列からなるポリペプチドが例示できる。かかるポリペプチドは、蛋白質間の結合を競合的に阻害することができる。かかるポリペプチドは、本蛋白質、14−3−3蛋白質またはSyne−1のアミノ酸配列から設計し、自体公知のペプチド合成法により合成したものから、本蛋白質と14−3−3蛋白質またはSyne−1の結合を阻害するものを選択することにより得ることができる。このように特定されたポリペプチドに、1個乃至数個のアミノ酸の欠失、置換、付加または挿入等の変異を導入したものも本発明の範囲に包含される。このような変異を導入したポリペプチドは、本蛋白質と14−3−3蛋白質またはSyne−1の結合を阻害するものが好ましい。
本発明に係る蛋白質と14−3−3蛋白質またはSyne−1の結合の阻害方法は、本蛋白質と14−3−3蛋白質またはSyne−1を認識する抗体であって、本蛋白質と14−3−3蛋白質またはSyne−1の結合を阻害する抗体を用いることによっても実施可能である。
本発明に係る蛋白質と14−3−3蛋白質またはSyne−1との結合の促進方法は、例えば、本蛋白質と14−3−3蛋白質またはSyne−1の結合を促進する化合物を用いることにより実施できる。ここでは、このような促進効果を有する化合物を促進剤と称する。
本発明に係る蛋白質と14−3−3蛋白質またはSyne−1の結合を促進する化合物として、好ましくは当該結合を特異的に促進する化合物、より好ましくは当該結合を特異的に促進する低分子量化合物が挙げられる。本蛋白質と14−3−3蛋白質またはSyne−1の結合を特異的に促進するとは、当該結合を強く促進するが、他の蛋白質間結合は促進しないか、弱く促進することを意味する。
(化合物の同定方法)
本発明の一態様は、本発明に係る蛋白質の機能を阻害するまたは促進する化合物、あるいは該蛋白質をコードするDNAの発現を阻害するまたは促進する化合物の同定方法に関する。該化合物の同定方法は、本発明に係る蛋白質、本蛋白質をコードするDNA、該DNAを組み込んだベクター、該ベクターが導入されてなる形質転換体、これらを用いる蛋白質合成系、または該蛋白質を免疫学的に認識する抗体のうち少なくともいずれか1つを用いて、自体公知の医薬品スクリーニングシステムを利用して実施可能である。本同定方法により、本蛋白質の立体構造に基づくドラッグデザインによる拮抗剤の選別、蛋白質合成系を利用した遺伝子レベルでの発現の阻害剤または促進剤の選別、または抗体を利用した抗体認識物質の選別等が可能である。
例えば、本発明に係る蛋白質の機能を測定することのできる実験系において、本蛋白質と調べようとする化合物(被検化合物)の相互作用を可能にする条件下で、本蛋白質と被検化合物とを共存させてその機能を測定する。次いで、被検化合物の非共存下での測定結果との比較における本蛋白質の機能の変化、例えば低減、増加、消失、出現等を検出することにより、本蛋白質の機能を阻害するまたは促進する化合物を同定可能である。機能の測定は、該機能の直接的な検出により行うこともできるし、例えば機能の指標となるシグナルを実験系に導入して該シグナルを検出することにより実施可能である。本蛋白質の機能としては、例えば自己リン酸化機能やチロシンリン酸化機能が挙げられる。あるいは、本蛋白質と14−3−3蛋白質またはSyne−1との結合も、その機能の1つとして例示できる。シグナルとしては、グルタチオン S−トランスフェラーゼ、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類等を用いることができるが、一般的に化合物の同定方法に用いられている標識物質であれば、いずれを用いることもできる。
被検化合物を共存させた場合の本発明に係る蛋白質の機能を、被検化合物を共存させなかった場合の本蛋白質の機能と比較することにより、該被検化合物が本蛋白質の機能に及ぼす効果を判定することができる。被検化合物を共存させた場合の本蛋白質の機能が、被検化合物を共存させなかった場合の本蛋白質の機能と比較して減少した場合、該被検化合物には本蛋白質の機能を阻害する作用があると判定できる。一方、被検化合物を共存させた場合の本蛋白質の機能が、被検化合物を共存させなかった場合の本蛋白質の機能と比較して増加した場合、該被検化合物には本蛋白質の機能を促進するまたは安定化する作用があると判定できる。
一例として、本発明に係る蛋白質の自己リン酸化機能を指標にして、該機能に影響を与え得る化合物を選別することができる。具体的には例えば、本蛋白質を遺伝子工学的手法により発現させ、ATP存在下で自体公知の方法によりリン酸化反応を行うことにより、自己リン酸化機能を測定可能である(実施例4参照。)。
別の例としては、本発明に係る蛋白質と14−3−3蛋白質との結合を指標にして、その結合を阻害するまたは促進する化合物を選別することができる。本蛋白質と14−3−3蛋白質との結合は公知の免疫学的手法等を用いた結合試験系により検出することが可能である。例えば、本蛋白質と14−3−3蛋白質の結合を可能にする条件を選択し、当該条件下で、被検化合物と本蛋白質および/または14−3−3蛋白質とを接触させ、本蛋白質と14−3−3蛋白質の結合を検出することができるシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、本蛋白質と14−3−3蛋白質の結合を阻害するまたは促進する化合物を同定できる。例えば本蛋白質と14−3−3蛋白質の結合により生じるシグナルまたは該結合のマーカーが、被検化合物を本蛋白質および/または14−3−3蛋白質と接触させたときに消失あるいは低減する等の変化を示した場合、当該被検化合物は本蛋白質と14−3−3蛋白質の結合を阻害するものであると判定できる。本蛋白質と14−3−3蛋白質の結合により生じるシグナルまたは該結合のマーカーが、被検化合物を本蛋白質および/または14−3−3蛋白質と接触させたときに増加あるいは出現する等の変化を示した場合、当該被検化合物は本蛋白質と14−3−3蛋白質の結合を促進するものであると判定できる。かかる同定方法において、被検化合物を本蛋白質および/または14−3−3蛋白質と予め接触させ、その後に本蛋白質と14−3−3蛋白質を結合させることも可能であり、または被検化合物をこれらの結合の過程に共存させることも可能である。本蛋白質と14−3−3蛋白質の結合を可能にする条件は、インビトロのものであってよく、インビボのものであってもよい。例えば、本蛋白質と14−3−3蛋白質とを共発現させた細胞を用いることもできる。細胞における共発現は、本蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含む適当なベクターと14−3−3蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含む適当なベクターとを用いて慣用の遺伝子工学的方法でこれらを細胞にトランスフェクションすることにより達成できる。具体的には、例えば14−3−3蛋白質を遺伝子工学的手法によりGST−tag融合蛋白質として発現させ、その後グルタチオンセファロースに結合させ、これに結合する本蛋白質の量を、本蛋白質に対する抗体、例えばHRPやALP等の酵素、放射性同位元素、蛍光物質またはビオチン等で標識した抗体を用いて定量することができる。または、タグペプチドを融合した本蛋白質を用いれば、抗タグ抗体を用いて定量することもできる。勿論、本蛋白質を上記酵素、放射性同位元素、蛍光物質、ビオチン等で直接標識してもよい。あるいは、上記酵素、放射性同位元素、蛍光物質、ビオチン等で標識した二次抗体を用いてもよい。
あるいは公知のツーハイブリッド法を用いることも可能である。例えば、本発明に係る蛋白質とDNA結合蛋白質を融合蛋白質として発現するプラスミド、14−3−3蛋白質と転写活性化蛋白質を融合蛋白として発現するプラスミド、および適切なプロモーター遺伝子に接続したlacZ等レポーター遺伝子を含有するプラスミドを酵母、真核細胞等に導入し、被検化合物を共存させた場合のレポーター遺伝子の発現量を被検化合物非存在下でのレポーター遺伝子の発現量とを比較することにより、本発明に係る蛋白質と14−3−3蛋白質との結合に影響する化合物の同定を達成できる。被検化合物を共存させた場合のレポーター遺伝子の発現量が被検化合物非存在下でのレポーター遺伝子の発現量と比較して減少した場合には、該被検化合物には本発明に係る蛋白質と14−3−3蛋白質との結合を阻害する作用があると判定できる。一方、被検化合物を共存させた場合のレポーター遺伝子の発現量が被検化合物非存在下でのレポーター遺伝子の発現量と比較して増加した場合には、該被検化合物には本発明に係る蛋白質と14−3−3蛋白質との結合を安定化する作用があると判定できる。
あるいは、ビアコアシステム(BIACORE system)等の表面プラズモン共鳴センサーを用いて、本発明に係る蛋白質と14−3−3蛋白質との結合に影響する化合物を同定することも可能である。
あるいは、シンチレーションプロキシミティアッセイ法(Scintillation proximity assay、SPA)や蛍光共鳴エネルギー転移(Fluorescence resonance energy transfer、FRET)を応用した方法を用いて、本発明に係る蛋白質と14−3−3蛋白質との結合に影響する化合物を同定することも可能である。
本発明に係る蛋白質とSyne−1の結合を阻害するまたは促進する化合物の同定方法も、14−3−3蛋白質の代わりにSyne−1を用いて上記方法により同様に実施可能である。
かかる同定方法において用いる14−3−3蛋白質またはSyne−1は、本発明に係る蛋白質との結合に影響がない限りにおいて、一部を欠損、あるいは別の蛋白質が付加された蛋白質であってもよい。
本発明に係るDNAの発現を阻害するまたは促進する化合物の同定は、本DNAの発現を測定することのできる実験系において、本DNAと被検化合物とを共存させてその発現を測定し、次いで、被検化合物の非共存下での測定結果との比較における発現の変化、例えば低減、増加、消失、出現等を検出することにより、実施可能である。発現の測定は、本DNAがコードする蛋白質の直接的な検出により行うこともできるし、例えば発現の指標となるシグナルを実験系に導入して該シグナルを検出することにより実施可能である。シグナルとしては、グルタチオン S−トランスフェラーゼ、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類等を用いることができる。
あるいは、例えば本発明に係るDNAを含む遺伝子のプロモーター領域の下流に、本DNAの代わりにレポーター遺伝子を連結したベクターを作成し、該ベクターを導入した細胞、例えば真核細胞等と被検物質とを接触させ、レポーター遺伝子の発現の有無および変化により、本DNAの発現に影響を与える化合物を同定可能である。レポーター遺伝子としては、レポーターアッセイで一般的に用いられている遺伝子を使用可能であるが、例えばルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼまたはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ等の酵素活性を有する遺伝子を用いることができる。レポーター遺伝子の発現の検出は、その遺伝子産物の活性、例えば、上記に例示したレポーター遺伝子の場合は酵素活性を検出することにより実施可能である。
また、本発明に係る形質転換体を用いて蛋白質を発現させる実験系において、該形質転換体と被検化合物とを接触させた後に、発現された蛋白質を測定することによっても本発明に係るDNAの発現に影響を与える化合物を同定可能である。被検化合物の非共存下での測定結果との比較における発現の変化、例えば低減、増加、消失、出現等を検出することにより、本DNAの発現を阻害するまたは促進する化合物を選択可能である。蛋白質の発現の有無または変化の検出は、簡便には、発現される蛋白質の機能、例えば自己リン酸化機能を指標にして実施できる。かかる同定方法においては、これら蛋白質の生理活性、例えば自己リン酸化機能を阻害する化合物または増強する化合物も同定できる。
(化合物)
かくして同定された化合物は、本発明に係る蛋白質の機能、例えば自己リン酸化機能、チロシンリン酸化機能、あるいは14−3−3蛋白質またはSyne−1との結合の、阻害剤、拮抗剤、促進剤または安定化剤等の候補化合物として利用可能である。また、遺伝子レベルでの本発明に係るDNAに対する発現阻害剤または発現促進剤の候補化合物としても利用可能である。これら候補化合物は、その有用性と毒性のバランスを考慮して選別することによって医薬として調製可能であり、本蛋白質の機能的異常や量的異常に起因する各種病的症状の防止効果および/または治療効果を期待できる。また、上記化合物を用いて、本発明に係る蛋白質の機能、例えば自己リン酸化機能、チロシンリン酸化機能、あるいは14−3−3蛋白質またはSyne−1との結合を阻害する、または促進する方法を実施することができる。
(医薬組成物)
本発明の一態様は、本発明に係る蛋白質、DNA、組換えベクター、形質転換体、抗体、または化合物を有効成分として含み、本蛋白質の機能および/または本蛋白質をコードするDNAの発現を阻害する、拮抗する、または促進することに基づく医薬または医薬組成物に関する。
本発明に係る医薬は、本発明に係る蛋白質、DNA、組換えベクター、形質転換体、抗体、または化合物のうち少なくともいずれか1つを有効成分としてその有効量含む医薬となしてもよいが、通常は、1種または2種以上の医薬用担体を用いて医薬組成物を製造することが好ましい。
本発明に係る医薬製剤中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択されるが、通常約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲とするのが適当である。
医薬用担体としては、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤等の希釈剤や賦形剤等を例示でき、これらは得られる製剤の投与形態に応じて適宜選択使用される。
例えば水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース等が挙げられる。これらは、本発明に係る剤形に応じて適宜1種類または2種類以上を組合せて使用される。
所望により、通常の蛋白質製剤に使用され得る各種の成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤等を適宜使用して調製することもできる。
安定化剤としては、例えばヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体等を例示でき、これらは単独でまたは界面活性剤等と組合せて使用できる。特にこの組合せによれば、有効成分の安定性をより向上させ得る場合がある。上記L−アミノ酸は、特に限定はなく、例えばグリシン、システィン、グルタミン酸等のいずれでもよい。糖類も特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、果糖等の単糖類、マンニトール、イノシトール、キシリトール等の糖アルコール、ショ糖、マルトース、乳糖等の二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等の多糖類等およびそれらの誘導体等のいずれでもよい。セルロース誘導体も特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のいずれでもよい。界面活性剤も特に限定はなく、イオン性および非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。これには、例えばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエ−テル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系等が包含される。
緩衝剤としては、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸および/またはそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)等を例示できる。
等張化剤としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリン等を例示できる。
キレート剤としては、例えばエデト酸ナトリウム、クエン酸等を例示できる。
本発明に係る医薬および医薬組成物は、溶液製剤として使用できる他に、これを凍結乾燥化し保存し得る状態にした後、用時、水や生埋的食塩水等を含む緩衝液等で溶解して適当な濃度に調製した後に使用することも可能である。
本発明に係る医薬組成物は、本発明に係る蛋白質の機能および/または本蛋白質をコードするDNAの発現の異常に基づく疾患の防止剤および/または治療剤として使用することができる。また、当該疾患の防止方法および/または治療方法に使用することができる。
本発明に係る蛋白質の機能および/または本蛋白質をコードするDNAの発現が過剰な場合、1つの方法として本蛋白質の機能および/または本DNAの発現を阻害する有効量の阻害剤を医薬上許容される担体とともに対象に投与して、本蛋白質の機能を阻害し、そのことにより異常な症状を改善することができる。さらに、発現ブロック法を用いて内在性の本DNAの発現を阻害してもよい。例えば本DNAの部分塩基配列からなるDNAをアンチセンスオリゴヌクレオチドとして遺伝子治療に用い、本DNAの発現を阻害できる。アンチセンスオリゴヌクレオチオドとして用いるDNAは、本DNAの翻訳領域のみでなく、非翻訳領域に対応するDNAであっても有用である。本DNAの発現を特異的に阻害するためには、本DNAに固有な領域の塩基配列を用いることが好ましい。
また、本発明に係る蛋白質の機能および/または本蛋白質をコードするDNAの発現の減少や欠失等に関連する異常な症状の治療には、1つの方法として該蛋白質の機能および/または本DNAの発現を促進するまたは安定化する有効量の促進剤を医薬上許容される担体とともに投与し、そのことにより異常な症状を改善することを特徴とする方法が挙げられる。あるいは、遺伝子治療を用いて、対象中の細胞内で本蛋白質を生成せしめてもよい。本DNAを利用した遺伝子治療は、公知の方法が利用できる。例えば、本DNAまたは本DNAの転写産物であるRNAを組込んだ複製欠損レトロウイルスベクターを作製し、該ベクターを用いたエクスビボ(ex vivo)において対象由来の細胞を処理し、次いで、細胞を対象に導入することもできる。
本発明に係るDNAの発現が甲状腺癌においてやや高いことから、本発明に係る蛋白質が甲状腺癌に関連することが考えられる。上記したように、本蛋白質は14−3−3蛋白質と結合し、その機能が14−3−3蛋白質の結合により抑制されている可能性がある。14−3−3蛋白質との結合が解除されて本蛋白質が活性化されると、本蛋白質をコードするDNAの発現量がそれほど高くなくても大きな作用を示すことが想定される。したがって、本蛋白質と14−3−3蛋白質の結合を促進することにより、本蛋白質の機能を阻害することが可能であり、その結果、甲状腺癌に関する疾患の防止および/または治療が可能になる。本蛋白質と14−3−3蛋白質の結合を促進することを特徴とする甲状腺癌の防止剤および/または治療方法、並びに防止方法および/または治療方法も本発明の範囲に包含される。本蛋白質と14−3−3蛋白質の結合の促進は、本発明に係る同定方法により同定された化合物により達成可能である。
一方、本発明に係るDNAの発現は精巣の正常組織でやや高いのに対して精巣に関する疾患においては低いことから、本発明に係る蛋白質が精巣疾患に関連していることが考えられる。さらに、本蛋白質が14−3−3蛋白質と相互作用することから、14−3−3蛋白質の結合による本蛋白質の機能の調節が、精巣疾患に係わっている可能性がある。本蛋白質と14−3−3蛋白質の結合を阻害することにより、本蛋白質の機能を促進することが可能であり、その結果、精巣疾患の防止および/または治療が可能になる。本蛋白質と14−3−3蛋白質の結合を阻害することを特徴とする精巣疾患の防止剤および/または治療方法、並びに防止方法および/または治療方法も本発明の範囲に包含される。本蛋白質と14−3−3蛋白質の結合の阻害は、本発明に係る同定方法により同定された化合物により達成可能である。本DNAの発現低減が認められる精巣疾患としては、精巣萎縮(atrophy)、並びに精巣腫瘍や精巣癌、例えば胚性癌腫(embryonal carcinoma)、レーディヒ細胞腫瘍(leydig cell tumor)、悪性リンパ腫(malignant lymphoma)、生殖細胞腫(mixed germ cell tumor)、悪性新生物(neoplasm、malignant)、および精上皮腫(seminoma)等が例示できる。
医薬組成物の用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾病の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無等)、および担当医師の判断等応じて適宜選択される。一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり約0.01μg乃至100mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度の範囲であることが好ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を用いてこれらの用量の変更を行うことができる。上記投与量は1日1〜数回に分けて投与することができ、数日または数週間に1回の割合で間欠的に投与してもよい。
本発明の医薬組成物を投与するときには、本医薬組成物を単独で使用してもよく、あるいは治療に必要な他の化合物または医薬と共に使用してもよい。
投与経路は、全身投与または局所投与のいずれも選択することができる。この場合、疾患、症状等に応じた適当な投与経路を選択する。例えば、非経口経路として、通常の静脈内投与や動脈内投与の他に、皮下、皮内、筋肉内等への投与を挙げることができる。あるいは経口による投与も可能である。さらに、経粘膜投与または経皮投与も可能である。癌疾患に用いる場合は、腫瘍に注射等により直接投与することが好ましい。
投与形態としては、各種の形態が治療目的に応じて選択でき、その代表的な例としては、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤等の固体投与形態や、水溶液製剤、エタノール溶液製剤、懸濁剤、脂肪乳剤、リポソーム製剤、シクロデキストリン等の包接体、シロップ、エリキシル等の液剤投与形態が含まれる。これらは更に投与経路に応じて経口剤、非経口剤(点滴剤、注射剤)、経鼻剤、吸入剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、点眼剤、点耳剤、軟膏剤、クリーム剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤等に分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形、調製することができる。
本発明に係る医薬組成物を遺伝子治療剤として用いる場合は、一般的には、注射剤、点滴剤、あるいはリポソーム製剤として調製することが好ましい。遺伝子治療剤が、遺伝子が導入された細胞を含む形態に調製される場合は、該細胞をリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)、リンゲル液、細胞内組成液用注射剤中に配合した形態等に調製することもできる。また、プロタミン等の遺伝子導入効率を高める物質と共に投与されるような形態に調整することもできる。遺伝子治療剤として用いる場合、本医薬組成物は、1日に1回または数回に分けて投与することができ、1日から数週間の間隔で間歇的に投与することもできる。投与の方法は、一般的な遺伝子治療法で用いられている方法に従うことができる。
(試薬キット)
本発明の一態様は、本発明に係る蛋白質、DNA、組換えベクター、形質転換体、および抗体のうちの少なくともいずれか1つを含んでなる試薬キットに関する。これらは、それ自体を単独で試薬等としても使用できる。
これらは試薬であるとき、緩衝液、塩、安定化剤、および/または防腐剤等の物質を含んでいてもよい。なお、製剤化にあたっては、各性質に応じた自体公知の製剤化手段を導入すればよい。また、これらは試薬キットであるとき、本発明に係る蛋白質やDNAを検出するための標識物質、標識の検出剤、反応希釈液、標準抗体、緩衝液、洗浄剤および反応停止液等、測定の実施に必要とされる物質を含むことができる。標識物質としては、上述の蛋白質、および化学修飾物質等が挙げられるが、予め該標識物質が本蛋白質あるいは本DNAに付加されていてもよい。
本発明に係る試薬または試薬キットは、本発明に係る蛋白質またはDNAが関与する細胞情報伝達経路の解明、および本蛋白質または本DNAの異常に基づく疾患等に関する基礎的研究等に有用である。さらに、本試薬または本試薬キットを用いて、本発明に係る化合物の同定方法、あるいは本蛋白質および/または本DNAの定性的または定量的な測定方法を実施することができる。
本発明に係る試薬または試薬キットはまた、前記測定方法を用いる検査方法に、検査剤並びに検査用キットとして使用可能である。該検査方法は、本蛋白質または本DNAの異常に基づく疾患の診断手段として使用できる。例えば、本試薬キットを用いて、本DNAを検出することにより、個体若しくは各種組織における本DNAを含む遺伝子の異常の有無あるいは発現異常の有無を特異的に検出することができる。その結果、該遺伝子の量的異常および/または機能異常等に基づく疾患の易罹患性、発症、および/または予後の診断が可能である。かかる疾患として、例えば、甲状腺癌、精巣疾患等を例示することができる。
遺伝子の検出による疾患の診断は、例えば調べようとする試料(被検試料)について、該遺伝子に相応する核酸の存在を検出すること、その存在量を決定すること、および/またはその変異を同定することによって実施できる。正常な対照試料との比較において、目的遺伝子に対応する核酸の存在の変化、その量的変化を検出することができる。また、正常遺伝子型との比較において、目的遺伝子に対応する核酸を公知の手法により増幅した増幅生成物について、例えばサイズ変化を測定することにより欠失および挿入を検出することができる。また増幅DNAを、例えば標識した本発明に係るDNAとハイブリダイゼーションさせることにより点突然変異を同定できる。かかる変化および変異の検出により、上記診断を実施することが可能である。
被検試料は、目的遺伝子および/またはその変異遺伝子の核酸を含む試料である限り特に制限されず、例えば、細胞、血液、尿、唾液、髄液、組織生検または剖検材料等の生体生物由来の試料を例示できる。あるいは所望により試料から核酸を抽出して核酸試料を調製して用いることもできる。核酸は、ゲノムDNAを検出に直接使用してもよく、あるいは分析前にPCRまたはその他の増幅法を用いることにより酵素的に増幅してもよい。RNAまたはcDNAを同様に用いてもよい。核酸試料は、また、標的配列の検出を容易にする種々の方法、例えば変性、制限消化、電気泳動またはドットブロッティング等により調製してもよい。
検出方法は、公知の遺伝子検出法を用いることができ、例えばプラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション、サザンブロット法、ノザンブロット法、NASBA法、またはRT−PCR等が挙げられる。また、in situ RT−PCRや in situ ハイブリダイゼーション等を利用した細胞レベルでの測定を用いることもできる。目的遺伝子の検出に用いることのできる方法は上記方法に限定されず、自体公知の遺伝子検出法がいずれも使用可能である。
蛋白質の検出による疾患の診断は、例えば被検試料について、該蛋白質の存在を検出すること、その存在量を決定すること、および/またはその変異を検出することによって実施できる。正常な対照試料との比較において、目的蛋白質の存在の変化、その量的変化を検出することができる。正常蛋白質との比較において、例えばアミノ酸配列を決定することによりその変異を検出することができる。
本発明に係る蛋白質の測定方法に使用する被検試料は、目的蛋白質および/またはその変異体を含む試料である限り特に制限されず、例えば、血液、血清、尿、生検組織等の生体生物由来の試料を例示できる。
蛋白質の定量的あるいは定性的な測定は、この分野における慣用技術による蛋白質検出法あるいは定量法を用いて行うことができる。例えば、目的蛋白質のアミノ酸配列分析により変異蛋白質の検出ができるが、更に好ましくは、抗体(ポリクローナルまたはモノクローナル抗体)を用いて、目的蛋白質の配列の相違、または目的蛋白質の有無を検出することができる。具体的には、被検試料について、目的蛋白質に対する特異抗体を用いて免疫沈降を行い、ウェスタンブロット法またはイムノブロット法で目的蛋白質の解析を行うことにより、上記検出が可能である。また、目的蛋白質に対する抗体により、免疫組織化学的技術を用いてパラフィンまたは凍結組織切片中の目的蛋白質を検出することができる。目的蛋白質またはその変異体を検出する方法の好ましい具体例としては、モノクローナル抗体および/またはポリクローナル抗体を用いるサンドイッチ法を含む、酵素免疫測定法(ELISA)、放射線免疫検定法(RIA)、免疫放射線検定法(IRMA)、および免疫酵素法(IEMA)等が挙げられる。その他、ラジオイムノアッセイや競争結合アッセイ等を利用することもできる。
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
(ヒト脳由来cDNAライブラリーの構築と遺伝子の分取)
ヒト脳、胎児脳および脳海馬由来のpolyARNA(Clontech社:カタログNo.6516−1、6525−1および6578−1)を出発原料として常法によりcDNAライブラリーを構築し、dbEST分析によりcDNAを単離してcDNAクローンの塩基配列を決定した。具体的には、小原らの方法(非特許文献16)に従って調製した上記ヒト脳由来のcDNAライブラリーから、約50,000個の組換え体をランダムに選択し、このうち約30,000個のクローンのcDNAについて、その5′末端および3′末端の塩基配列を決定した。さらに約1,100個を主にインビトロの転写翻訳実験によって選択し、それらのcDNAの塩基配列を小原らの方法に従って決定した。
全塩基配列の決定を行ったcDNAクローンについて、コンピュータプログラムを用いた汎用解析方法によってORFを予想し、この領域についてチロシンキナーゼモチーフ検索を行い、グリシンリッチループとATP結合部位からなるチロシンキナーゼモチーフをコードする領域を含むcDNAを同定した。
同定したcDNAクローンfk00401は、606アミノ酸(配列番号2)をコードするORFを含む全長3574bpの新規な塩基配列を有するDNA(配列番号1)である。
(DNAの発現と精製)
実施例1で同定したクローンfk00401を用いて、該クローンがコードする蛋白質をN末端GST−tag融合蛋白質として293EBNA細胞で発現させた。すなわち、293EBNA細胞を細胞数2×10播種したフラスコを37℃にて5%CO存在下インキュベーターにて一晩培養した後、ゲートウェイシステム(Gateway System、Invitrogen社)を用いて構築したfk00401発現ベクター水溶液100μL(1μg/μL)とリポフェクトアミン2000(LipofectAMINE2000、Invitrogen社)100μLを9mLの培養培地IMDM中で混合して得られた溶液を添加することにより、リポフェクション法にて293EBNA細胞に該ベクターを導入した。37℃にて5%CO存在下インキュベーターにて7時間培養後、終濃度が20mMになるように1M酪酸ナトリウムを添加し、一晩培養して蛋白質発現を誘導した。培養終了後、トリプシン−EDTAによって細胞を剥離して回収した。
グルタチオンセファロース4B(Glutathione sepharose 4B、Amersham Pharmacia Biotech社)を用いてfk00401がコードする蛋白質をアフィニティー精製した。まず、回収した細胞を氷冷した溶解バッファー〔Lysate Buffer;50mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl、10mM エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム塩(EDTA 2Na)、2mM ジチオスレイトール(DTT)、プロテアーゼ阻害剤カクテル〕15mLに懸濁後、氷上でソニケーターを用いて細胞を超音波破砕した。破砕後の懸濁液を4℃、12000rpmで15分間遠心処理し、上清を回収した〔以下、細胞溶解物(Lysate)上清と称する。〕。
Glutathione sepharose 4Bを15mLチューブ2本に300μLずつ分注し、50mM Tris−HCl(pH7.5)で平衡化した。Glutathione sepharose 4Bを詰めたチューブから50mM Tris−HCl(pH7.5)を除去後、細胞溶解物上清約7.5mLを、チューブ1本につき添加した。4℃で1時間ゆるやかに攪拌しながらfk00401がコードする蛋白質を吸着させた後、カラムに充填し、自然落下で細胞溶解物上清を通過させて該蛋白質の吸着したGlutathione sepharose 4Bを回収した。このとき透過した細胞溶解物上清を、新たに50mM Tris−HCl(pH7.5)で平衡化したGlutathione sepharose 4Bに添加し、同様の操作にて該蛋白質の吸着したGlutathione sepharose 4Bを回収した。得られたGlutathione sepharose 4Bは、50mM Tris−HCl(pH7.5)6mLを注入して洗浄した。20mM グルタチオンと50mM Tris−HCl(pH8.0)からなる溶液1mLを添加して室温で10分間インキュベーションした。自然落下にて溶出液を回収した。再度、20mM グルタチオンと50mM Tris−HCl(pH8.0)らなる溶液1mLを添加して室温で10分間インキュベーションし自然落下にて溶出液を得た。溶出画分、あわせて約4mLをまとめてセントリコンYM−50にて4000gで遠心することによって濃縮し、同時に50mM Tris−HCl(pH7.5)によりバッファー交換を行い270μLの蛋白質溶液を得た。得られた蛋白質溶液をfk00401蛋白質精製溶液と称する。
比較対照として用いたコントロール細胞の精製蛋白質溶液は、上記fk00401発現ベクター水溶液の代わりに滅菌水を加えた溶液を同様の操作にて処理精製して得た。
アフィニティー精製により得たコントロール細胞精製蛋白質溶液およびfk00401蛋白質精製溶液の性状は、10% ポリアクリルアミドゲルを用いて還元条件下でSDS−PAGEを行った後にクマシーブリリアントブルー(CBB)染色し、さらに抗GST抗体を用いたウェスタンブロット法にて分析した。
結果を図1に示す。GST−tag融合蛋白質として発現させたfk00401蛋白質は約95kDaの分子量で、CBB染色の結果からfk00401蛋白質精製溶液でその分子量に相当するバンドが認められた(図1黒矢印)。一方、コントロール細胞精製蛋白質溶液では該当するバンドは認められなかった。それぞれの溶液から分子量が同じマイナーなバンドがいくつか検出された。
抗GST抗体を用いたウェスタンブロットの結果(図2)では、コントロール細胞精製蛋白質溶液からは全くバンドは検出されず、fk00401蛋白質精製溶液からは約95kDaのGSTタグ融合蛋白質の分子量に相当するメジャーなバンド(図2黒矢印)が検出された。
いずれの解析においても、fk00401蛋白質精製溶液で認められずコントロール細胞精製蛋白質溶液で検出されるバンドはないことから、fk00401蛋白質精製溶液において認められる、95kDa以下の分子量に相当するバンドは、fk00401精製蛋白質の分解物に由来するバンドであると推察される。
かくして、fk00401がコードする蛋白質を得ることができた。
(チロシンリン酸化機能の測定)
実施例2で調製したfk00401蛋白質精製溶液のチロシンリン酸化機能を、オンコジーン社のプロテインチロシンキナーゼアッセイキット(Protein Tyrosine Kinase Assay Kit)を用いて測定した。比較対照として、コントロール細胞精製蛋白質溶液を用いて同様に測定を行った。まず、ランダム蛋白質(randam peptide)が固相化された96穴プレートにブランク(Blank)として50mM Tris−HCl(pH7.5)、ポジティブコントロール(positive control)として付属のAblキナーゼ(8U)、コントロール細胞精製蛋白質溶液およびfk00401蛋白質精製溶液をそれぞれ10μL/wellずつ添加した。その後、サンプル/キナーゼリアクションバッファー(Sample/Kinase Reaction Buffer)にオルソバナジン酸ナトリウム(Sodium orthovanadate、NaVO)と2−メルカプトエタノール(mercaptoethanol)とをそれぞれ終濃度0.002Mおよび5mMとなるように添加したアッセイバッファー(assay buffer)にATP溶液を添加した溶液を90μL/well添加して、室温で30分間インキュベーションした。洗浄バッファー(wash buffer)にて6回洗浄した。濃縮ディテクターコンジュゲート(Detector Conjugate concentrate)をassay bufferにて200倍希釈して、プレートに100μL/well添加し、室温で30分間インキュベーションした。洗浄バッファーにて6回洗浄し、付属の基質を100μL/well添加して室温暗所にて6分間インキュベーションした。付属の停止用溶液(Stop Solution)を100μL/well添加して反応を止め、550nmを参照に450nmの吸光度を測定した。
結果を図3に示す。図3においては、吸光度が高いほどチロシンリン酸化機能が高いことを示す。
fk00401蛋白質精製溶液ではポジティブコントロールであるAbl(8U)の活性と比べて低いものの、比較対照であるコントロール細胞精製蛋白質溶液と比べて明らかに高いチロシンキナーゼ活性が認められた。コントロール細胞精製蛋白質溶液では、ほぼBlankと同じ吸光度であった。また、fk00401蛋白質精製溶液を2倍および4倍に希釈した溶液では、吸光度が段階的に低下したことから、該溶液中のチロシンリン酸化機能が、該蛋白質溶液中の蛋白質の活性を反映していることは明らかである。
これらから、fk00401がコードする蛋白質は、チロシンリン酸化機能を有することが明らかになった。
(自己リン酸化機能)
fk00401蛋白質精製溶液またはコントロール細胞精製蛋白質溶液の10μLを、Mn2を含む反応液(25mM Tris−HCl(pH7.5)、5mM MnCl2、0.1mM NaVO)またはMg2を含むキナーゼバッファー(kinase buffer)〔Cell Signaling社:25mM Tris−HCl(pH7.5)、5mM β−グリセロホスフェート(glycerophosphate)、2mM DTT、0.1mM NaVO,10mM MgCl〕中、1mM ATP存在下または非存在下で37℃、30分間インキュベーションした。なお、陽性コントロールとして活性型Src(Src、active、Upstate Biotech社)5Uを用いた。反応終了後、2× SDS−PAGEサンプルバッファーと2:1で混合して、100℃で5分間処理した。
10% ポリアクリルアミドゲルを用いてSDS−PAGEを行った後、抗リン酸化チロシン認識抗体PY20(Santa Cruz Biotechnology社)を用いたウエスタンブロット法にてリン酸化チロシン残基をもつ蛋白質の検出を行った。
Mn2が存在する条件下では、fk00401蛋白質精製溶液においてfk00401のGST−tag融合蛋白質の分子量に相当する位置にリン酸化チロシン残基のバンドが確認された(図4中の黒矢印)。一方、コントロール細胞精製蛋白質溶液ではリン酸化チロシン残基のバンドは検出されなかった。fk00401蛋白質精製溶液において認められたリン酸化チロシン残基を示すバンドはATP非存在下では検出されなかったことから、精製されたfk00401蛋白質は細胞で発現させた段階ではリン酸化されていないことが示唆された。自己リン酸化反応の陽性コントロールであるsrcでもsrc蛋白質の分子量相当の位置にリン酸化チロシン残基のバンドが認められ(図4中の白矢印)、ATP非存在下ではバンドは検出されなかった。
Mg2が存在する条件下でも、Mn2が存在する条件下と同様の結果が得られた。
これらから、fk00401がコードする蛋白質は、自己リン酸化機能を有することが明らかになった。
(本発明にかかる蛋白質の14−3−3蛋白質またはSyne−1との相互作用の検討)
本発明にかかる蛋白質の14−3−3蛋白質またはSyne−1との相互作用を酵母ツーハイブリッドシステムを用いて検討した。
ベイト蛋白質をコードするcDNAとして、実施例1で調製したcDNAクローンfk00401を用いた。cDNAは、組換えによって、酵母の発現ベクターpGBT.Qに導入した。pGBT.Qは、pGBT.Cに近縁の誘導体(非特許文献17)であって、ポリリンカー部位を修飾してシークエンス用M13プライマーを含ませた発現ベクターである。作製したコンストラクトを、トリプトファン合成能力の有無により、酵母のPNY200株中で直接選択した(PNY200株の遺伝型:MATα trp 1−901 leu2−3, 112 ura3−52 his3−200 ade2 gal4Δ gal80Δ)。これらの酵母細胞中で、ベイトは、転写因子Gal4のDNA結合ドメイン(アミノ酸配列第1番目から147番目)のC末端側に結合した融合蛋白質として産生された。
プレイライブラリとしては、ヒューマンブレインを用いた。プレイライブラリを、酵母のBK100株(BK100株の遺伝型:MATa trp1−901 leu2−3、112 ura3−52 his3−200 gal4Δ gal80Δ LYS2::GAL−HIS3 GAL2−ADE2 met2::GAL7−lacZ)に形質転換し、ロイシンを合成させる能力の有無によって選択した。これらの酵母細胞中では、各cDNAは転写因子Gal4の転写促進ドメイン(アミノ酸配列第768番目から881番目)とのC末端側に結合した融合蛋白質として発現させた。
次いで、ベイト蛋白質を発現するPNY200細胞(接合型MATα)を、プレイライブラリ中のプレイ蛋白質を発現するBK100細胞(接合型MATa)と接合させた。その結果得られる、ベイト蛋白質と相互作用するプレイ蛋白質を発現する二倍体の酵母細胞を、トリプトファン、ロイシン、ヒスチジンおよびアデニンの合成能力によって選択した。それぞれのクローンからDNAを調製し、エレクトロポレーション法によって大腸菌(E. coli)のKC8株に形質転換し、次いで細胞を、トリプトファンを含まない(ベイトプラスミド選択用)か、ロイシンを含まない(ライブラリのプラスミド選択用)アンピシリン含有培地上で選択した。両プラスミドのDNAを調製し、ジデオキシヌクレオチド・チェーンターミネーション法で配列を決定した。ベイトcDNAインサートの同一性を確認し、プレイライブラリのプラスミドから得られるcDNAインサートを、公知のヌクレオチドおよび蛋白質データベースと照合調査するBLASTプログラムを使用して同定した。
さらに、同定したクローンから、本発明に係る蛋白質以外の蛋白質とも相互作用する蛋白質を発現するクローンを除外するために、ベイト蛋白質として、fk00401がコードする蛋白質以外の6種類の蛋白質を個々に合成させるプラスミドを6種類作成し、これを用いて以下の検討を行なった。これら蛋白質はいずれも、Gal4のDNA結合ドメインに融合させた蛋白質として産生されるように調製した。上記6種類のプラスミドと共に、プレイライブラリから得られたプラスミドを個々に、酵母細胞J692株(J692株の遺伝型:MATa trp1−901 leu2−3,112 ura3−52 his3−200 gal4Δ gal80Δ LYS2::GAL−HIS3 GAL2−ADE2)に形質転換した。その一方、Gal4のDNA結合ドメインに融合させたfk00401ベイトプラスミドを、プレイライブラリから得られたプラスミドと共に酵母細胞J692株に形質転換した。そして、β−ガラクトシダーゼアッセイで上記6種類のプラスミドの1つまたは2つ以上と陽性反応を示すクローンは偽陽性と判断して廃棄し、fk00401ベイトプラスミドに対してのみβ−ガラクトシダーゼアッセイで陽性を示すクローンを真性の陽性と判定した。
その結果、本発明に係る蛋白質と、14−3−3遺伝子がコードする蛋白質あるいはSyne−1遺伝子がコードする蛋白質が相互作用することが明らかになった。
本発明に係る蛋白質はチロシンリン酸化機能を有し、リン酸化経路の制御を担う蛋白質の1つである14−3−3蛋白質と相互作用する。したがって、本蛋白質が関与する情報伝達経路の解明、並びに本蛋白質または本蛋白質をコードするDNAの異常に基づく疾患、例えば甲状腺癌あるいは精巣疾患の診断、防止および/または治療等が、本蛋白質および該蛋白質をコードするDNAの利用により可能になる。したがって、本発明は基礎科学分野から医薬開発分野まで広く寄与する有用なものである。
cDNAクローンfk00401を用いて構築したベクターを293EBNA細胞に導入し、fk00401がコードする蛋白質をN末端GSTタグ融合蛋白質として発現させて精製した蛋白質溶液において、SDS−PAGEにより該蛋白質を示すバンドが検出されたこと(レーン2)を説明する図である。ベクターを導入しなかったコントロール細胞から同様の処理により得た蛋白質溶液では、かかるバンドは検出されなかった(レーン1)。レーンMは分子量マーカーを示す。(実施例2) cDNAクローンfk00401を用いて構築したベクターを293EBNA細胞に導入し、fk00401がコードする蛋白質をN末端GSTタグ融合蛋白質として発現させて精製した蛋白質溶液において、抗GST抗体を用いたウエスタンブロット法により、該蛋白質を示すバンドが検出されたこと(レーン2)を説明する図である。ベクターを導入しなかったコントロール細胞から同様の処理により得た蛋白質溶液では、かかるバンドは検出されなかった(レーン1)。レーンMは分子量マーカーを示す。(実施例2) fk00401がコードする蛋白質をN末端GSTタグ融合蛋白質として発現させて精製した蛋白質溶液が、プロテインチロシンキナーゼアッセイキットにおいて基質であるランダム蛋白質のチロシン残基を、蛋白質溶液の濃度依存的にリン酸化したことを説明する図である。陽性コントロールであるチロシンキナーゼAblによりチロシンリン酸化が認められたが、ベクターを導入しなかったコントロール細胞から同様の処理により得た蛋白質溶液ではチロシンリン酸化は認められなかった。(実施例3) fk00401がコードする蛋白質をN末端GSTタグ融合蛋白質として発現させて精製した蛋白質溶液が、自己リン酸化機能を示したことを説明する図である(レーン5および6)。ATP非存在下では、自己リン酸化は認められなかった(レーン7および8)。ベクターを導入しなかったコントロール細胞から同様の処理により得た蛋白質溶液では、かかる自己リン酸化は認められなかった(レーン1−4)。陽性コントロールであるチロシンキナーゼSrcはATP存在下で自己リン酸化活性を示したが(レーン9および10)、ATP非存在下では示さなかった(レーン11および12)。レーンMおよびレーンMWは分子量マーカーを示す。(実施例4)
配列番号1:(673):(699)グリシンリッチループをコードする領域。
配列番号1:(736):(744)ATP結合部位をコードする領域。
配列番号1:(1888):(1905)14−3−3蛋白質結合モチーフと類似するアミノ酸配列をコードする領域。
配列番号1:(1915):(1935)14−3−3蛋白質結合モチーフと類似するアミノ酸配列をコードする領域。
配列番号1:(2005):(2022)14−3−3蛋白質結合モチーフと類似するアミノ酸配列をコードする領域。

Claims (25)

  1. 配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表わされるDNA。
  2. 請求項1に記載のDNAの塩基配列と少なくとも70%以上の相同性を有するDNAであって、自己リン酸化を促進する蛋白質をコードするDNA。
  3. 請求項1または2に記載のDNAの塩基配列において、1ないし数個のDNAの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有するDNAであって、自己リン酸化を促進する蛋白質をコードするDNA。
  4. 請求項1から3のいずれか1項に記載のDNAを含有する組換えベクター。
  5. 請求項4に記載の組換えベクターを導入されてなる形質転換体。
  6. 宿主が動物細胞である請求項5に記載の形質転換体。
  7. 配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表わされる蛋白質。
  8. 請求項2に記載のDNAがコードする蛋白質。
  9. 請求項3に記載のDNAがコードする蛋白質。
  10. 請求項5または6に記載の形質転換体を培養する工程を含む、請求項7から9のいずれか1項に記載の蛋白質の製造方法。
  11. 請求項7から9のいずれか1項に記載の蛋白質を免疫学的に認識する抗体。
  12. 請求項7から9のいずれか1項に記載の蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合を阻害または促進する方法。
  13. 請求項7から9のいずれか1項に記載の蛋白質(蛋白質A)と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質(蛋白質B)との結合を阻害または促進する化合物の同定方法であって、ある化合物と蛋白質Aおよび/または蛋白質Bの相互作用を可能にする条件下で、該化合物と蛋白質Aおよび/または蛋白質Bを接触させ、次いで、蛋白質Aと蛋白質Bの結合により生じるシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、該シグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、該化合物が蛋白質Aと蛋白質Bの結合を阻害または促進するか否かを決定することを特徴とする同定方法。
  14. 請求項7から9のいずれか1項に記載の蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合を阻害または促進する化合物の同定方法であって、請求項7から9のいずれか1項に記載の蛋白質、請求項1から3のいずれか1項に記載のDNA、請求項4に記載の組換えベクター、請求項5または6に記載の形質転換体および請求項11に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを用いることを特徴とする同定方法。
  15. 請求項13または14に記載の同定方法により同定された化合物を含有する、請求項7から9のいずれか1項に記載の蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合促進剤。
  16. 請求項7から9のいずれか1項に記載の蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合を促進することを特徴とする甲状腺癌の防止剤および/または治療剤。
  17. 請求項15に記載の結合促進剤を含有する甲状腺癌の防止剤および/または治療剤。
  18. 請求項13または14に記載の同定方法により同定された化合物を含有する、請求項7から9のいずれか1項に記載の蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合阻害剤。
  19. 請求項7から9のいずれか1項に記載の蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合を阻害することを特徴とする精巣萎縮、精巣腫瘍および精巣癌のうちの少なくともいずれか1つの疾患の防止剤および/または治療剤。
  20. 請求項18に記載の結合阻害剤を含有する精巣萎縮、精巣腫瘍および精巣癌のうちの少なくともいずれか1つの疾患の防止剤および/または治療剤。
  21. 請求項7から9のいずれか1項に記載の蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合を促進することを特徴とする甲状腺癌の防止方法および/または治療方法。
  22. 請求項15に記載の結合促進剤を用いることを特徴とする甲状腺癌の防止方法および/または治療方法。
  23. 請求項7から9のいずれか1項に記載の蛋白質と14−3−3遺伝子がコードする蛋白質との結合を阻害することを特徴とする精巣萎縮、精巣腫瘍および精巣癌のうちの少なくともいずれか1つの疾患の防止方法および/または治療方法。
  24. 請求項18に記載の結合阻害剤を用いることを特徴とする精巣萎縮、精巣腫瘍および精巣癌のうちの少なくともいずれか1つの疾患の防止方法および/または治療方法。
  25. 請求項13または14に記載の同定方法に用いる試薬キットであって、請求項7から9のいずれか1項に記載の蛋白質、請求項1から3のいずれか1項に記載のDNA、請求項4に記載の組換えベクター、請求項5または6に記載の形質転換体および請求項11に記載の抗体のうち、少なくともいずれか1つを含んでなる試薬キット。
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EP2757152A4 (en) * 2011-09-14 2015-09-02 Nippon Kayaku Kk METHOD FOR INHIBITING CELL GROWTH, NUCLEIC ACID MOLECULE HAVING THE EFFECT OF AN INTERFERENCE RNA ON A VARIANT OF THE NEK10 GENE, AND ANTICANCER AGENT

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