JP2005164256A - コンクリート構造物の劣化予測計算方法 - Google Patents

コンクリート構造物の劣化予測計算方法 Download PDF

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Abstract

【課題】コンクリート構造物の硫酸腐食環境下でのエトリンガイトと硫酸カルシウムによる浸食・劣化を予測計算する手法の提供。
【解決手段】本発明は、コンクリート構造物の硫酸腐食環境における劣化の進行を有限要素法により予測計算する方法であって、pH値が低い(硫酸濃度が高い)場合は、コンクリート表面のセメント水和物が硫酸カルシウムに変化する計算と、該硫酸カルシウムが膨張してコンクリートの空隙を埋めたときにコンクリート表面から剥離する計算とを行なうことによって硫酸カルシウムによる浸食量を計算し、pH値が高い(硫酸濃度が低い)場合は、硫酸カルシウムがアルミン酸三石灰と反応してエトリンガイトを生成する計算と、エトリンガイトの結晶成長圧によって膨張を引き起してコンクリートの空隙を埋めたときにコンクリート表面から剥離する計算とを行なうことによってコンクリート構造物の劣化の進行を予測計算する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、コンクリート構造物の硫酸腐食環境における劣化の進行を予測計算する方法に関するものである。
コンクリートの耐久性低下による早期劣化の問題がマスコミを騒がせてから既に20年が過ぎようとしている。この間、塩分およびコンクリートの中性化による内部鉄筋の腐食現象に対しては精力的な研究が行なわれ対策方法および劣化予測手法が確立されてきている。(例えば、特許文献1、2、3参照)
特開2002−340782号公報 特開2003−004727号公報 特開2003−222622号公報
また、コンクリート構造物の耐久設計や維持管理計画には種々の環境作用に対してコンクリートの劣化程度の予測が必要になってきた。そのような中で、土木学会コンクリート標準示方書が平成11年度に仕様規定型から耐久性照査型に改定され塩害、中性化に関して性能照査方法が明記された。しかしながら、コンクリートの化学的腐食に関する記述は少ない。
硫化水素によるコンクリートの腐食は、主に下水道施設に顕著に表れ早急な対策が必要になっている。しかし耐久性照査に結びつく研究事例は塩害・中性化に比較して非常に少ない。
そのような下水道施設のコンクリートの劣化は硫酸腐食環境下での劣化であり、下水中に含まれる蛋白質が微生物により硫化水素を経て硫酸に分解されるために発生する。硫酸腐食環境におけるコンクリート構造物の劣化形態は、塩害・中性化の劣化とは異なり、化学的侵食による断面欠損および硫酸の浸透やコンクリートの中性化による鉄筋腐食が考えられる。侵食による断面欠損はコンクリートの主要な成分である水酸化カルシウムおよび珪酸カルシウムが硫酸との反応により硫酸カルシウムを生成することによるものである。この硫酸カルシウムは容易にコンクリート表面から剥離する。また、硫酸濃度が低い場合には硫酸カルシウムがアルミン酸三石灰と反応しエトリンガイトを生成する。エトリンガイトは針状結晶をなし反応の進行とともに結晶成長圧によって膨張を引き起こし最終的にはコンクリートを膨張破壊させる。
このようにして進行するコンクリート構造物の劣化を精度良く予測計算する手法の開発が望まれていた。
そこで、本発明は、過酷な硫酸環境下では、エトリンガイト生成の前にコンクリート表面のセメント水和物が硫酸カルシウムに変化しコンクリートを侵食するが、コンクリート表面の硫酸濃度が低い場合にはエトリンガイトの膨張圧に着目して、硫酸腐食環境下でのコンクリートの劣化予測手法を提案するものである。
本発明にかかるコンクリート構造物の劣化予測計算方法の請求項1は、
コンクリート構造物の硫酸腐食環境における劣化の進行を有限要素法により予測計算する方法であって、
pH値が低い(硫酸濃度が高い)場合は、コンクリート表面のセメント水和物が硫酸カルシウムに変化する計算と、該硫酸カルシウムが膨張してコンクリートの空隙を埋めたときにコンクリート表面から剥離する計算とを行なうことによって硫酸カルシウムによる浸食量を計算し、
pH値が高い(硫酸濃度が低い)場合は、硫酸カルシウムがアルミン酸三石灰と反応してエトリンガイトを生成する計算と、エトリンガイトの結晶成長圧によって膨張を引き起してコンクリートの空隙を埋めたときにコンクリート表面から剥離する計算とを行なうことによってエトリンガイトによる浸食量を計算し、
以上の計算によって計算した硫酸カルシウムによる浸食量とエトリンガイトによる浸食量の合計を時間経過に沿って累計することによってコンクリート構造物の劣化の進行を予測計算することを特徴とするものである。
そして、請求項2の発明は、
請求項1に記載のコンクリート構造物の予測計算方法であって、以下の手順によることを特徴とする予測計算方法である。
手順1;硫酸と水酸化カルシウムによる硫酸カルシウムの生成の計算処理。
手順2;要素ごとのpH値の計算処理。
手順3;要素のpH値と限界値とを比較して、前記限界値を越えている要素を削除する処理を要素数だけ繰り返す処理。
手順4;硫酸カルシウムとアルミン酸三石灰とが反応して、エトリンガイトを生成する計算処理。
手順5;要素ごとのエトリンガイト濃度の計算処理。
手順6;要素のエトリンガイト濃度と限界値とを比較して、前記限界値を越えている要素を削除する処理を要素数だけ繰り返す処理。
手順7;エトリンガイトと二酸化炭素とが反応して硫酸イオンを生成する計算処理。
手順8;以上の手順1〜7を所定の期間相当回繰り返す処理。
手順9;手順3で削除した要素と、手順6で削除した要素からコンクリート構造物の浸食量の計算処理。
本発明の予測計算方法によれば、硫酸カルシウムによる浸食とエトリンガイトによる浸食を、pHの高低に分けて計算することにより、コンクリート構造物の硫酸腐食環境下での劣化を正確に予測計算することが可能となった。
以下に、本発明にかかるコンクリート構造物の予測計算方法を、その実施の形態を示した図面に基づいて詳細に説明する。
まず、本発明のコンクリート構造物の予測計算方法では、硫酸腐食によるコンクリートの劣化のメカニズムを以下のように解析して予測計算を行う。
セメント水和物はアルカリ環境下では比較的安定しているが、酸性環境下におかれると不安定になり分解する。硫酸腐食環境下でのコンクリートの劣化は下記に示すような順序で進むと言われている。
(1)硫化物の生成(硫酸イオンの還元)
下水中に含まれる硫酸イオン(蛋白質)は嫌気性条件下で硫酸塩還元細菌の作用に より硫化水素に還元される。
(2)硫化水素への空気中への放散
下水中の硫化水素は下水より気相中に放出される。
(3)硫化水素の酸化
気相中に放出された硫化水素はコンクリート壁面付着水(結露、飛沫水)の中で再溶解 し好気性条件下で硫黄酸化細菌により硫酸に酸化される。
(4)硫酸によるコンクリートの腐食
硫酸はコンクリート中の水酸化カルシウム、珪酸カルシウム水和物(C-S-H)と反応し て硫酸カルシウムを生成する。
この硫酸カルシウムは、低pH領域ではパテ状になり簡単にコンクリート表面から剥離するので、コンクリート表面が削られることになる。また、高pH領域ではセメント硬化体中のアルミン酸三酸化カルシウムと反応して、式8の右辺のエトリンガイトを生成し硫酸をコンクリート硬化体中に固定する。
(5)エトリンガイトの分解
コンクリートが中性化すると二酸化炭素と反応して硫酸イオンを細孔溶液中に溶出する。したがって、硫酸による化学的腐食の場合はエトリンガイトを介して硫酸の濃縮・遊離が行なわれると指摘されている。
本発明の方法では、硫酸腐食環境下での劣化予測のために以下のようにモデル化した。
(1)硫酸によるコンクリートの腐食劣化に関係する化学物質は、二酸化炭素(CCO)、硫酸(CHS)、硫酸カルシウム(二水石膏CCS)、水酸化カルシウム(CCA)、珪酸カルシウム水和物(C-S-H CCH)、エトリンガイト(CET)、アルミン酸三石灰(CAL)の7種類と仮定する。
(2)硫酸による化学的腐食は腐食物質がコンクリート内に拡散しセメント水和物と反応することによって起こり、拡散はFickの第2法則に従い反応は1次反応であると仮定する。
(3)二酸化炭素、硫酸および硫酸カルシウムは拡散する物質として取り扱い、他の化学的物質はコンクリート中に固定され移動しないものとする。
(4)複塩であるエトリンガイトはコンクリートが中性化すると二酸化炭素と反応し炭酸カルシウム、アルミン酸および硫酸カルシウムに分解し硫酸イオンが細孔溶液中に溶出する。各化学的物質の濃度変化を式8〜式13に示す。
(5)式8は二酸化炭素の濃度変化を示したもので、雰囲気中の二酸化炭素の拡散浸透および水酸化カルシウムおよびエトリンガイトとの反応により消費される。また式8の右辺第3項のエトリンガイトによる二酸化炭素との反応はコンクリートが中性化するまで、すなわち水酸化カルシウムが消失するまでは発生しないと仮定する。
硫酸の濃度変化を式9に示す。ここでは、硫酸の拡散浸透項、水酸化カルシウムおよび珪酸カルシウム水和物との反応を考慮した。また右辺第4項はエトリンガイトと炭酸ガスの反応により硫酸カルシウムを生成する項であるが、生成された硫酸カルシウムは硫酸イオンを細孔溶液中に溶出するため、式9の硫酸の濃度変化を表す式に付け加えた。
式10は硫酸カルシウムの濃度変化を表している。式10には拡散項が考慮されているがコンクリート表面からの拡散浸透を考慮しない。式10の右辺第2項および第3項は硫酸と水酸化カルシウム、硫酸と珪酸カルシウム水和物の反応により硫酸カルシウムの生成項である。右辺第4項はアルミン酸三石灰と硫酸カルシウムとの反応によるエトリンガイトの生成による硫酸カルシウムの減少を表す項である。(なお、式10の式の上では硫酸の拡散項を考慮しているが、実際の計算ではDCS=0としている。)
式11〜式13は化学的な反応により濃度が変化するが拡散による移動はないと仮定できる。式11は水酸化カルシウムの濃度変化を示し、二酸化炭素および硫酸との反応による減少量を示している。式12も同様に硫酸との反応により珪酸カルシウム水和物の減少量を表している。
式13のエトリンガイトは硫酸カルシウムとアルミン酸三石灰の反応による増加量と、二酸化炭素との反応による減少量で評価し、式14のアルミン酸三石灰の濃度変化とは逆になる。
ここに
二酸化炭素 :CCO
硫酸 :CHS
硫酸カルシウム :CCS
水酸化カルシウム :CCA
珪酸カルシウム水和物 :CCH
エトリンガイト :CET
アルミン酸三石灰 :CAL
各物質の反応速度定数
硫酸と水酸化カルシウム KA
硫酸と珪酸カルシウム KB
二酸化炭素と水酸化カルシウム KC
硫酸カルシウムとアルミン酸三石灰(エトリンガイトの生成) KD
二酸化炭素とエトリンガイト(エトリンガイトの分解) KE
式8〜式14をガラーキン法により定式化し連立させて解く。解析方法の概要を図1に示す。
硫酸環境下でのコンクリートは表面から硫酸および二酸化炭素がコンクリート内に拡散浸透する。
二酸化炭素はコンクリート中の水酸化カルシウム、硫酸は水酸化カルシウムおよび珪酸カルシウム水和物と反応し炭酸カルシウムおよび硫酸カルシウムを生成する。
この硫酸カルシウムは低pH領域では容易にコンクリートから脱離する。この脱離はコンクリートの空隙と硫酸カルシウムの膨張率で評価し、空隙が硫酸カルシウムの膨張で消失したとき発生するものとする。反応生成物の脱離による硫酸拡散境界の移動は要素を削除することにより行なう。
また、高pH領域では生成された硫酸カルシウムによる空隙が消失しない。硫酸カルシウムとアルミン酸三石灰が反応しエトリンガイトが生成され、エトリンガイトの濃度が高くなればその膨張圧によりコンクリートは破壊される。
また、エトリンガイトが生成された部分においてコンクリートが中性化していればエトリンガイトは二酸化炭素と反応し、再び硫酸カルシウムを遊離し、溶出した硫酸は拡散現象によりコンクリートの深部へ移動し、アルミン酸三石灰と反応しエトリンガイトを生成するものとする。したがって、エトリンガイトを介して硫酸イオンの濃縮・遊離が表現する。
硫酸によるコンクリートの剥離を模式的に図2に示す。コンクリートのセメント水和物はアルミン酸三石灰、水酸化カルシウムおよび珪酸カルシウム水和物であると仮定する。また、図2に示すようにコンクリートの空隙が存在するものとする。そして、セメント水和物は硫酸と反応し硫酸カルシウムおよびエトリンガイトを生成し、それらの物質がコンクリートの空隙を埋めると仮定し、空隙が埋め尽くされるとコンクリートは侵食されたと判断する。
解析では、この判定を要素ごとに行い空隙が埋め尽くされた要素をモデルから削除して侵食量を求める。
要素の削除、すなわちコンクリートの脱離の判定は、膨張量/細孔空隙量が1を越えた段階で行なう。式15を適用し要素の削除に関する判定を行う。
ここに
SH : 珪酸カルシウムと水酸化カルシウムと硫酸の反応における膨張率
S0 : 珪酸カルシウムと水酸化カルシウム濃度の合計の初期値
ST : ある時刻における珪酸カルシウムと水酸化カルシウム濃度の合計
EH : アルミン酸三石灰と硫酸カルシウムとの反応における膨張率
(エトリンガイトの生成による膨張)
A0 : アルミン酸三石灰の初期濃度
AT : ある時刻におけるアルミン酸三石灰の濃度
μCS : コンクリートの空隙率
図3に本発明の解析フローを示して説明する。
図3のステップS1においては、下水・汚泥からの硫酸の生成を計算する。ステップS2においては、硫酸と水酸化カルシウムからの硫酸カルシウムの生成を計算する。ステップS3においては、要素ごとのpH値を計算する。ステップS4においては、要素のpH値を予め設定されたpH値限界値と比較して、前記pH値限界値を越えている場合にはステップS5へ進み、越えていない場合にはステップS6へ進む。
ステップS5においては、当該要素を削除し、硫酸カルシウムによる浸食量としてカウントする。
ステップS6においては、硫酸カルシウムとアルミン酸三石灰よりエトリンガイトを生成する計算をする。ステップS7においては、要素ごとにエトリンガイト濃度を計算する。ステップS8においては、エトリンガイト濃度をエトリンガイト限界値と比較して、前記エトリンガイト限界値を越えている場合にはステップS9へ進み、越えていない場合にはステップS10へ進む。
ステップS9においては、当該要素を削除し、エトリンガイトによる浸食量としてカウントする。
ステップS10においては、エトリンガイトと二酸化炭素が反応して硫酸イオンを生成する計算を行なう。
ステップS11においては、時間経過を進め、ステップS1から繰り返す。
このようにして、所定の時間経過に相当する回数繰り返して、ステップS5における浸食量と、ステップS9における浸食量とを合計して、前記所定の時間経過後の劣化を予測する。
実施例1
次に、実施例1の解析ケースと解析条件を説明する。
硫酸環境下でのコンクリートの腐食劣化に関係する化学物質の分子量を表1に示す。解析ケースと解析条件を表2に示す。
硫酸のモル濃度(mol/l)とpHの関係を表2、図4および図5に示す。硫酸の解離度を0.317として算定した。
そして、硫酸の拡散係数とコンクリートの水セメント比との関係を図6に示す。また、硫酸腐食環境下でのコンクリートの劣化予測にはコンクリートの空隙量が重要なパラメータとなる。セメント水比とコンクリート強度の関係が比例関係にあることから、空隙量もセメント水比と比例関係にあると仮定して、水セメント比と細孔空隙量の関係を図7に示す。
図7の結果は式16から求めた結果である。
コンクリート硬化時のセメント水和物の割合を、表3に示すように仮定した。
解析に適用するセメント水和物は、表3に示した量に対して水和反応率を乗じた量とする。今回の検討では水和反応率を0.8とした。
解析ケースを表4に示す。パラメータはコンクリート表面の硫酸濃度と水セメント比で硫酸濃度はpH1〜5、水セメント比(W/C)を40、55、70%とした。また、配合の単位水量は185kgと仮定したため単位セメント量は460kg、336kgおよび264kgである。
次に、解析結果を説明する。
(1) コンクリート表面の侵食量
表4に示した解析ケースおよび表5に示した解析条件における硫酸腐食によるコンクリート表面の侵食深さと中性化深さを表6に示す。計算刻みは5日とし解析時間は30年で、30年後の結果である。また、コンクリート表面の侵食深さを算定するときの要素削除条件にエトリンガイトの膨張圧を考慮する場合としない場合について比較した。
コンクリート表面の硫酸濃度がpH1〜3までは水セメント比が大きくなるにしたがって侵食速度は小さくなっている。また、pH1、水セメント比40%の場合、エトリンガイトの膨張圧を考慮した場合、侵食速度はしない場合に比較して1.5倍(13.21/8.31)の速度になっている。
また、pH1は強酸のレベルで実際の下水道施設の条件とは若干異なるが8.31年で19.80cmコンクリート表面が侵食される結果となった。また、硫酸濃度pH3、水セメント比40%の場合エトリンガイトの膨張圧を考慮しない場合は侵食は発生しないが、膨張圧を考慮すると表面から4.8cm侵食される結果となった。
また、pH4,5,6ではコンクリート表面の硫酸による腐食は表れていない。
コンクリート表面の硫酸濃度がpH1、pH2で、エトリンガイトの膨張圧を考慮した場合のコンクリート表面からの侵食深さの経年変化を図8に示す。
pHが小さい程(酸性が強い)また、また水セメント比が小さい程コンクリート表面の侵食深さは大きくなる傾向が表れている。水セメント比が小さいコンクリートはコンクリート中の空隙量が小さく、さらに環境からコンクリート内部に浸透した硫酸と反応するセメント水和物が豊富に存在するため、反応生成物の膨張圧等によりコンクリートの侵食深さが大きくなっている。
図9は、図8の結果と比較するためにエトリンガイトの膨張圧を考慮しない場合のコンクリート表面の侵食深さを示したものである。侵食速度はエトリンガイトの膨張圧を考慮しない場合の約1/2となっている。また、pH2では水セメント比が40%の場合のみコンクリート表面が侵食される結果となっており、下水道構造物の劣化状況から考えると、図9の侵食深さは若干現実と異なっている。
図10はコンクリート表面の硫酸濃度がpH1で水セメント比が40,55,70%におけるコンクリートの侵食深さで、エトリンガイトの膨張圧の有無により侵食深さが相当異なっている。
次に水酸化カルシウムの減少量から求められる中性化深さの比較を図11に示す。
水酸化カルシウムの減少量は二酸化炭素および硫酸との反応による減少量を加算したものである。水セメント比が70%、コンクリート表面のpHが2の場合30年で中性化深さが5.1cmに達している。コンクリート標準示方書から計算される中性化深さ1.5cmと比較すると約3.5倍となっている。
コンクリート表面のpHが2の場合、水セメント比が小さい場合はコンクリート表面の侵食が早くなり、水セメント比が大きい場合は中性化が非常に早くなっている。したがって、pHが小さい硫酸環境下ではコンクリートの劣化は表面の侵食が表れなくても中性化が進行している可能性があり鉄筋の発錆によるコンクリートの劣化が予測できる。
また、pH3程度の硫酸環境下では中性化は通常の中性化より若干早くなる傾向が表れている。
なお、Case22,23の場合の計算結果を図12〜15に示した。
以上のように、本発明によれば、コンクリート構造物の劣化を予測計算することができるのである。
実施例2
次に、コンクリート構造物の表面を補修した場合の劣化予測方法を説明する。
硫酸劣化に対する断面修復の補修方法を図16に示す。表面被覆は前述した方法と同様である。断面修復による補修は侵食されたコンクリート表面からある深さまで既設のコンクリートを撤去しその上に補修材を設ける。また、補修は補修効果を持続させるため補修材により部材断面厚さの変化を考慮できるように設定した。
実施例2の解析条件と解析結果を以下に説明する。
(1)解析条件
補修した場合の解析条件を表7に示す。既設コンクリートは水セメント比が40%で硫酸はpH1の場合である。また、硫酸腐食に対して、拡散係数は中性化、塩害に比較して重要なパラメータとはならないが、今回の検討では補修材としては既設のコンクリートと同様な材料を適用し拡散係数を既設コンクリートの1/100として設定した。
また、補修は新設時から2年および5年後に行い、1年後の補修は1cm、5年後の補修は3cm全体の部材厚を大きくした。
(2)解析結果
断面修復により補修した場合のコンクリート表面の侵食深さを図17に示す。計算において新設時のコンクリート表面を原点としコンクリート表面から深さ方向を正としているため、負の部分は補修により新設時の部材厚が大きくなったことを意味している。
図17より、補修しない場合は約8年で20cmまでコンクリートが侵食されているが補修を2年および5年で施工すると20年後で約11cmとなっている。
なお、図18には、実施例2において補修をしなかった場合の各成分の濃度分布の計算値の経時変化を示し、図19には、実施例2において補修をした場合の各成分の濃度分布の計算値の経時変化を示した。
(3)結論
硫酸腐食環境下でのコンクリートの劣化予測を目的として硫酸および二酸化炭素の拡散モデルにエトリンガイト、二水石膏、アルミン酸、水酸化カルシウムおよび珪酸カルシウムとの反応モデルを組み込んだ形で化学的腐食に関する劣化予測モデルを構築した。また、化学的腐食の最も特徴であるコンクリート表面の剥離・剥落は二水石膏およびエトリンガイトの膨張とコンクリート空隙からモデル化した。硫酸環境下での劣化予測モデルから次のことが結論付けられる。
(1)コンクリート表面の硫酸腐食による侵食(剥離・剥落)はコンクリート表面のpHが小さい程、水セメント比が小さい程大きくなる。
(2)(1)の結果は水セメント比とコンクリートの空隙量から水セメント比が小さい程コンクリートの空隙が少なくなること、反応生成物の量が多くなることから類推できる。
(3)pH4以上の硫酸環境化ではコンクリート表面の侵食現象は現れない。
(4)しかしながら、硫酸環境下では水酸化カルシウムの減少から求められる中性化現象は促進され、コンクリート表面には劣化現象は表れないが中性化による鉄筋の発錆による劣化が促進される。
このようにして、本発明によれば、コンクリート構造物の表面を補修した場合の予測計算もできるのである。
本発明にかかるコンクリート構造物の劣化予測計算方法の実施の形態の概要を説明する説明図である。 コンクリート構造物の表面の浸食・劣化のモデルを説明する説明図である。 本発明の方法による解析手順を示したフローチャートである。 硫酸のモル濃度とpH値の関係を示す図である。 pH値と硫酸のモル濃度の関係を示す図である。 水セメント比と硫酸の拡散係数の関係を示す図である。 水セメント比と空隙(細孔量)の関係を示す図である。 実施例1におけるエトリンガイトの膨張圧を考慮した場合の浸食深さの変化を示す図である。 実施例1におけるエトリンガイトの膨張圧を無視した場合の浸食深さの変化を示す図である。 実施例1におけるエトリンガイトの膨張圧を考慮した場合と無視した場合の浸食深さの変化を示す図である。 実施例1における中性化深さ変化を示す図である。 実施例1においてエトリンガイトを考慮した場合の各成分の計算結果を示す図である。 実施例1においてエトリンガイトを考慮した場合の各成分の計算結果を示す図である。 実施例1においてエトリンガイトを無視した場合の各成分の計算結果を示す図である。 実施例1においてエトリンガイトを無視した場合の各成分の計算結果を示す図である。 実施例2における予測計算の概要を説明する説明図である。 実施例2におけるコンクリート表面の浸食深さの変化を示す図である。 実施例2において補修をしなかった場合の各成分の濃度分布の計算値の経時変化を示す図である。 実施例2において補修をした場合の各成分の濃度分布の計算値の経時変化を示す図である。

Claims (2)

  1. コンクリート構造物の硫酸腐食環境における劣化の進行を有限要素法により予測計算するコンクリート構造物の劣化予測計算方法であって、
    pH値が低い場合は、コンクリート表面のセメント水和物が硫酸カルシウムに変化する計算と、該硫酸カルシウムが膨張してコンクリートの空隙を埋めたときにコンクリート表面から剥離する計算とを行なうことによって硫酸カルシウムによる浸食量を計算し、
    pH値が高い場合は、硫酸カルシウムがアルミン酸三石灰と反応してエトリンガイトを生成する計算と、エトリンガイトの結晶成長圧によって膨張を引き起してコンクリートの空隙を埋めたときにコンクリート表面から剥離する計算とを行なうことによってエトリンガイトによる浸食量を計算し、
    以上の計算によって計算した硫酸カルシウムによる浸食量とエトリンガイトによる浸食量の合計を時間経過に沿って累計することによってコンクリート構造物の劣化の進行を予測計算することを特徴とするコンクリート構造物の劣化予測計算方法。
  2. 請求項1に記載のコンクリート構造物の劣化予測計算方法であって、以下の手順によることを特徴とするコンクリート構造物の劣化予測計算方法。
    手順1;硫酸と水酸化カルシウムによる硫酸カルシウムの生成の計算処理。
    手順2;要素ごとのpH値の計算処理。
    手順3;要素のpH値と限界値とを比較して、前記限界値を越えている要素を削除する処理を要素数だけ繰り返す処理。
    手順4;硫酸カルシウムとアルミン酸三石灰とが反応して、エトリンガイトを生成する計算処理。
    手順5;要素ごとのエトリンガイト濃度の計算処理。
    手順6;要素のエトリンガイト濃度と限界値とを比較して、前記限界値を越えている要素を削除する処理を要素数だけ繰り返す処理。
    手順7;エトリンガイトと二酸化炭素とが反応して硫酸イオンを生成する計算処理。
    手順8;以上の手順1〜7を所定の期間相当回繰り返す処理。
    手順9;手順3で削除した要素と、手順6で削除した要素からコンクリート構造物の浸食量の計算処理。

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