JP2005156295A - 肝細胞の検出又は分離方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 試料中の肝細胞を非破壊的に検出又は分離する方法を提供すること。
【解決手段】 細胞表面上のニューリチンを指標として、試料中の肝細胞を検出する方法を提供する。また、本発明は、細胞表面上のニューリチンを指標として、試料中の肝細胞を分離する方法を提供する。
【効果】 本発明の肝細胞の検出又は分離方法によれば、試料中の肝細胞を非破壊的に検出又は分離することができるので、本発明の方法により検出又は分離された肝細胞を、肝細胞移植や人工肝臓に用いることができる。とりわけ、新生仔期の肝細胞を含む試料に本発明の方法を適用することにより、新生仔期の肝細胞を検出又は分離することができる。【選択図】 なし
【解決手段】 細胞表面上のニューリチンを指標として、試料中の肝細胞を検出する方法を提供する。また、本発明は、細胞表面上のニューリチンを指標として、試料中の肝細胞を分離する方法を提供する。
【効果】 本発明の肝細胞の検出又は分離方法によれば、試料中の肝細胞を非破壊的に検出又は分離することができるので、本発明の方法により検出又は分離された肝細胞を、肝細胞移植や人工肝臓に用いることができる。とりわけ、新生仔期の肝細胞を含む試料に本発明の方法を適用することにより、新生仔期の肝細胞を検出又は分離することができる。【選択図】 なし
Description
本発明は、肝細胞の検出又は分離方法並びに培養細胞が肝細胞へ分化したか否かを調査する方法並びにそれらに用いられる試薬に関する。本発明は、人工肝臓の作製及び肝細胞移植に有用である。また、本発明は、増殖能と一部の肝機能の両方を兼ね備えた新生仔期の肝細胞が完全に成熟した肝細胞へと分化する仕組みを解明していくことにも有用であり、ひいては肝再生の機構解明や、肝疾患に対する治療等にも有用である。
生体肝移植は種々の肝不全に対する効果的な治療法であるが、ドナーは慢性的に不足しており、生体肝移植に変わる、もしくは生体肝移植を行うまでのブリッジとなる治療法として「ハイブリッド型人工肝臓」や「肝細胞移植」が提唱されている。
ハイブリッド人工肝臓は人工的な担体にブタなど異種動物から分離した肝細胞やヒト由来の肝細胞株を接着させて、肝臓の機能を発揮させようというものである。しかしブタなどの肝細胞は採取時は高い機能を示すものの時間と経過と共に肝機能が低下し、肝細胞株も正常な肝細胞と比べると高い機能は期待できない。これらの細胞に変わるものとして新生仔の肝細胞があげられる。新生仔期の肝臓は旺盛な増殖能力を保ちながらも成熟肝細胞に準ずる機能を有している。これまでの研究から胎仔期の未熟な肝細胞はサイトカインなどによって分化を誘導すると肝機能(新生仔レベル)を獲得しながら長期間その機能を発揮することが分かっている(Kamiya, A. et al. (1999), Kojima, N. et al. (2000))。したがって、始めからある程度の肝機能を備えた新生仔期の肝細胞は、よりハイブリッド型人工肝臓に適した細胞であると予想される。しかし比重が大きく、肝臓内の非実質細胞(類洞内皮細胞など)との分離が容易である成熟肝細胞や、特異的な抗原dlkによってセルソーターで分離することの出来る胎生期の肝細胞とは異なり、新生仔期の肝細胞は非実質細胞との比重差が少なく、特異的な抗原も同定されていないため、高い純度で細胞を集めることが困難である。しかしながら、このような細胞に対する膜タンパク質を同定し、FACSなどによる細胞の純化が可能となれば、人工肝臓のマテリアルとしての有用性を示せる可能性があるばかりでなく、これまで取り組むことの出来なかった初代培養系を確立することによって、増殖能と一部の肝機能の両方を兼ね備えた新生仔期の肝細胞が完全に成熟した肝細胞へと分化する仕組みを解明していくことも可能となり、肝再生の機構解明や、肝疾患に対する治療など、人工肝臓開発以外の様々な貢献にも期待ができる。
一方、成体の肝臓や骨髄中に存在する未分化な細胞から肝細胞様(アルブミン陽性)の細胞が生じることが分かってきている。自家細胞移植を目的としてこれらの細胞を肝細胞へと分化させる条件の検討が盛んとなってきているが、現在のところ肝細胞へと分化しているかどうかを判定するマーカーとしては、アルブミンやα-フェトプロテインといった分泌性タンパク質や、チロシンアミノトランスフェラーゼ、グルコース-6-ホスファターゼ、カルバモイルリン酸シンターゼIなどの細胞内の酵素が用いられている。これらのマーカーの発現を調べるには免疫染色やノーザンブロットアッセイ、ウェスタンブロットアッセイが行われているが、細胞一つ一つの分化レベルを検討するには適した方法ではない。また、アッセイの操作が煩雑であり、96穴プレートを用いるようなハイスループットな解析に不向きであることに加え、破壊検査であるために、分化した細胞だけを選んで再度培養を行ったり、動物への移植を行ったりするといったことが出来ない。
Kamiya, A. et al. (1999) EMBO J., 18 2127-36
Kojima, N. et al. (2000) Bicchem. Biophys. Res. Commun., 277 152-8
Tanimizu, N. et al. (2003) J. Cell Sci., 116 1775-86
Naeve, G. S. et al. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94 2648-53
Wang, N. D. et al. (1995) Science, 269 1108-12
国際公開公報WO 02/103033
本発明の目的は、試料中の肝細胞を非破壊的に検出又は分離する方法及びそれに用いられる試薬を提供することである。また、本発明の目的は、肝幹細胞のような未分化肝細胞の培養細胞が肝細胞へ分化したか否かを調査する方法並びにそれらに用いられる試薬を提供することである。
本願発明者らは、鋭意研究の結果、マウス胎仔において、胎生12.5日目に比べて17.5日目の肝臓でより発現量が多くなっている遺伝子の中からGPIアンカータンパク質(すなわちグリコシルホスファチジルイノシトールに結合することで細胞外に存在するタンパク質のファミリー)の一つであるニューリチン(Neuritin)を同定した。ニューリチンは成体では脳の次に肝臓で発現が強く、肝実質細胞の類洞に面した領域に強い発現がみられた。ニューリチンは肝発生と共に発現が強くなっており、肝再生時には一時的に発現が減少していた。また機能的な肝成熟が起こらないC/EBPαノックアウトマウス由来の肝臓ではニューリチンの発現が抑制されていた。すなわち、新生仔期及び成熟肝細胞の表面上にはニューリチンが発現しており、一方、未分化肝細胞の表面上にはニューリチンが少ししか発現していないことを見出した。そして、細胞表面上のニューリチンをマーカー抗原として利用することにより肝細胞を非破壊的に検出又は分離可能であることに想到し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、細胞表面上のニューリチンを指標として、試料中の肝細胞を検出する方法を提供する。また、本発明は、細胞表面上のニューリチンを指標として、試料中の肝細胞を分離する方法を提供する。さらに、本発明は、細胞表面上のニューリチンと抗原抗体反応する抗ニューリチン抗体又はその抗原結合性断片から成る、肝細胞の検出用試薬を提供する。さらに、本発明は、細胞表面上のニューリチンと抗原抗体反応する抗ニューリチン抗体又はその抗原結合性断片から成る、肝細胞の分離用試薬を提供する。さらに、本発明は、未分化肝細胞由来の培養細胞の細胞表面上のニューリチンを指標として、該培養細胞が肝細胞へ分化したか否かを調査する方法を提供する。さらに、本発明は、細胞表面上のニューリチンと抗原抗体反応する抗ニューリチン抗体又はその抗原結合性断片から成る、培養細胞が肝細胞へ分化したか否かを調査するための試薬を提供する。
本発明により、試料中の肝細胞を非破壊的に検出又は分離する方法及びそれに用いられる試薬が初めて提供された。本発明の肝細胞の検出又は分離方法によれば、試料中の肝細胞を非破壊的に検出又は分離することができるので、本発明の方法により検出又は分離された肝細胞を、肝細胞移植や人工肝臓に用いることができる。とりわけ、新生仔期の肝細胞を含む試料に本発明の方法を適用することにより、新生仔期の肝細胞を検出又は分離することができる。新生仔期の肝細胞は、高い増殖能を有しており、それでいて肝細胞としての機能を有しているので、肝細胞移植や人工肝臓の作製に最適であるが、本発明の方法により、新生仔期の肝細胞を非破壊的に検出又は分離できるようになった。さらに、本発明による、培養細胞が肝細胞へ分化したか否かを調査する方法によれば、肝幹細胞を培養して得られる培養細胞が、肝細胞としての機能を獲得した段階まで分化したか否かを調査することができる。肝細胞に分化した直後の細胞は、新生仔期の肝細胞に相当するものであり、高い増殖能を有する一方で肝細胞としての機能も有している。従って、このような細胞も肝細胞移植や人工肝臓の作製に適しており、本発明の方法によりこのような培養細胞の検出又は分離も可能になった。さらに、本発明の方法は、増殖能と一部の肝機能の両方を兼ね備えた新生仔期の肝細胞が完全に成熟した肝細胞へと分化する仕組みを解明していくことにも有用であり、ひいては肝再生の機構解明や、肝疾患に対する治療等にも有用である。
上記の通り、本発明は、ニューリチンが肝細胞表面上に発現しているという新知見に基づく。ニューリチン自体は公知であり、そのアミノ酸配列及びそれをコードするcDNAの塩基配列も公知である。例として、ヒトのニューリチンのアミノ酸配列及びそれをコードするcDNAの塩基配列を配列表の配列番号1に示す(アミノ酸配列のみを取り出したものを配列番号2に示す)。これは、GenBank Accession No. BC002683として、GenBankデータベースに収録されている。また、マウスのニューリチンのアミノ酸配列を配列表の配列番号3に示す(アミノ酸配列のみを取り出したものを配列番号4に示す)。これは、GenBank Accession No. BC035531として、GenBankデータベースに収録されている。その他、ラットがGenBank Accession No. U88958、アフリカツメガエルがGenBank Accession No. U88958 AF378092に記載されている。なお、配列番号2及び配列番号4に示されるヒト及びマウスのニューリチンのアミノ酸配列において、細胞表面上に露出する細胞外領域は、28aa〜115aaである。哺乳動物間では、ニューリチンのアミノ酸配列は、極めて良く保存されており、ヒトとマウスの相同性は、アミノ酸配列で97.9%、ヒトとラットで98.6%である。
本発明の方法では、細胞表面上のニューリチンと抗原抗体反応する抗ニューリチン抗体又はその抗原結合性断片と、細胞表面上のニューリチンとの抗原抗体反応を利用して肝細胞を検出又は分離することが好ましい。抗ニューリチン抗体は、市販されているので、市販品を用いることができる。例えば、抗ヒトニューリチンモノクローナル抗体は、R&D systems社からカタログ番号MAB283として市販されているし、抗ヒトニューリチンポリクローナル抗体は、同社からカタログ番号AF283として市販されている。抗ニューリチン抗体はまた、ニューリチンcDNAをタンパク質発現用細胞に組み込んで発現させ、細胞表面上にニューリチンを発現している細胞を免疫原として用いる常法により得ることができる。タンパク質発現用細胞としては、例えばInvitrogen社から市販されている昆虫細胞Sf21等を利用することができ、cDNAの導入も市販品の添付文書に基づいて容易に行うことができる。さらに、上記の通り、ニューリチンの細胞外領域のアミノ酸配列は公知であるので、該アミノ酸配列から成るペプチドをペプチド合成機等で合成し、これをウシ血清アルブミン(BSA)やキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)等の担体に結合したものを免疫原として用いる常法によっても得ることができる。モノクローナル抗体の作出方法も既に確立されており、免疫原さえあれば、常法により該免疫原と抗原抗体反応するモノクローナル抗体を得ることができる。抗体としては、モノクローナル抗体を用いることが、親和性が均一で特異性が高いことから好ましい。なお、ある動物種の肝細胞を検出又は分離するためには、その動物種のニューリチンを抗原として用いて得られた抗体を用いることが好ましいが、上記の通り、哺乳動物間のニューリチンの相同性は極めて高いので、許容できる程度の交差反応性を有する場合には、他の動物種のニューリチンに対する抗体を用いることも可能である。また、抗体のFab断片や、F(ab')2断片のような、抗原結合性を有する抗体断片を用いることも可能である。
細胞表面上に発現する抗原(本願発明の場合はニューリチン)に対する抗体又はその抗原結合性断片を用いた、該抗原を細胞表面上に発現する細胞の検出又は分離方法自体は周知であるので、抗ニューリチン抗体を用いた周知の手法に基づき、試料中の肝細胞を検出又は分離することができる。検出方法としては、免疫染色、ELISA等のサンドイッチ法、ラテックス凝集法などの凝集法、競合法等を挙げることができ、分離方法としては、アフィニティーカラムや抗体不動化ビーズを用いる方法等を挙げることができる。これらはいずれも周知であり、用いる抗体さえ入手すれば常法により容易に行うことができる。もっとも、本発明の肝細胞の検出又は分離方法において最も効率的に検出及び分離を行うことができる方法は、マグネティックセルソーター(MACS)又はフローサイトメーター、とりわけ蛍光活性化セルソーター(FACS)を用いる方法である。MACSは、細胞表面抗原に対する抗体を不動化した超微粒子磁性ビーズで細胞を標識し、これを強力磁場にセットしたカラムに通して目的の細胞を分離するシステムであり、回収率が高く高純度な細胞を得ることができ、大量の細胞も効率的に分離することができ、さらに、細胞の機能や増殖能を保ったまま分離できるので、本発明の方法にとって特に好ましい。また、FACSは、蛍光標識した抗体で細胞を標識し、ノズルから噴射された細胞流にレーザーを当て、発生する分散光と蛍光を分析して、各1個の細胞を含む水滴を荷電させ、高電界で分離する装置である。FACSもMACSと同様な理由により、本発明の方法にとって特に好ましい。MACS及びFACSはいずれもこの分野において周知であり、そのための装置が市販されているので、用いる抗体さえ入手すればこれらの市販品を用いて容易に行うことができる。
本発明の検出又は分離方法に供される試料としては、肝細胞、好ましくは哺乳動物の肝細胞を含むことが予想される試料であれば何ら限定されるものではなく、例えば、胎児、新生仔、又は成体の肝臓組織をコラゲナーゼやトリプシン等のプロテアーゼ処理して得られる細胞浮遊液や、未分化肝細胞を培養して得られる培養細胞の浮遊液等を挙げることができる。なお、未分化肝細胞の調製方法は公知であり、例えば、未分化肝細胞において特異的に発現する細胞表面抗原であるdlk(delta-like)タンパク質をマーカーとして利用したMACSにより胎児肝臓組織から容易に調製可能である(特許文献1及び非特許文献3)。この方法等により得られる未分化肝細胞を、例えばDMEM培地(10% FCS, 1xITS, 50μg/mlゲンタマイシン、10-7 Mデキサメタゾン [Dex]、 1x非必須アミノ酸を含む)等の培地や、これにサイトカイン等(10ng/ml OSM または10ng/ml HGF等)を添加した培地で培養した培養物を試料として用いることができる。
下記実施例で具体的に示されるように、ニューリチンは、肝機能(すなわち、アルブミンの産生、解毒作用等)を有する段階にまで分化した肝細胞(すなわち肝実質細胞)の細胞表面上で強く発現し、胎児の肝細胞等の未分化肝細胞では弱くしか発現していないので、本発明の方法により検出又は分離される肝細胞(肝実質細胞)は、肝機能を有している。従って、本発明の方法により検出又は分離される肝細胞は、肝細胞移植や人工肝臓の作製に有用である。とりわけ、新生仔期の肝細胞を含む試料に本発明の方法を適用することにより、新生仔期の肝細胞を検出又は分離することができる。新生仔期の肝細胞は、高い増殖能を有しており、それでいて肝細胞としての機能を有しているので、肝細胞移植や人工肝臓の作製に最適であるが、本発明の方法により、新生仔期の肝細胞を非破壊的に検出又は分離できるようになった。なお、ヒトの治療に用いられる人工肝臓には、ヒト以外の動物種由来の肝細胞を用いることもできるので、ヒト以外の動物の新生仔の肝臓から、本発明の方法により肝細胞を分離し、得られた肝細胞をヒト用の人工肝臓に用いることもできる。
さらに、本発明は、また、未分化肝細胞由来の培養細胞の細胞表面上のニューリチンを指標として、該培養細胞が肝細胞へ分化したか否かを調査する方法をも提供する。すなわち、下記実施例において具体的に記載するように、ニューリチンの発現量は、肝細胞の成熟と共に増大するので、細胞表面上のニューリチンの発現量を調べることにより、その培養細胞が肝細胞へ分化したか否かを調査することができる。MACSやFACSにおいて、分離すべき磁気強度又は蛍光強度を適宜設定することにより、所定の発現量以上の発現をしている細胞を選択的に検出及び分離することができ、分離した細胞は、そのまま人工肝臓等に利用可能であるので、この方法においてもMACSやFACSを用いることが好ましい。肝細胞に分化した直後の細胞は、新生仔期の肝細胞に相当するものであり、高い増殖能を有する一方で肝細胞としての機能も有している。従って、本発明の方法により、このような、肝細胞移植や人工肝臓の作製に適した細胞を得ることも可能になった。
以上の説明から明らかなように、細胞表面上のニューリチンと抗原抗体反応する抗ニューリチン抗体又はその抗原結合性断片は、肝細胞の検出用又は分離用試薬として用いることができる。従って、本発明はまた、細胞表面上のニューリチンと抗原抗体反応する抗ニューリチン抗体又はその抗原結合性断片から成る、肝細胞の検出用試薬又は分離用試薬を提供する。さらに、上記説明から明らかなように、細胞表面上のニューリチンと抗原抗体反応する抗ニューリチン抗体又はその抗原結合性断片は、培養細胞が肝細胞へ分化したか否かを調査するための試薬として有用である。したがって、本発明は、また、細胞表面上のニューリチンと抗原抗体反応する抗ニューリチン抗体又はその抗原結合性断片から成る、培養細胞が肝細胞へ分化したか否かを調査するための試薬をも提供する。
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
DNAチップ解析
胎生12.5日の胎仔マウス200個体と、胎生17.5日の胎仔マウス50個体から、それぞれ肝臓を摘出し、特許文献1及び非特許文献3記載の方法により、肝幹細胞及び出生前胎仔肝細胞を調製した。すなわち、先ず、コラゲナーゼ処理によって肝臓を消化し、細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液をハムスター抗dlkモノクローナル抗体、ビオチン化抗ハムスターIgG抗体、ストレプトアビジンビーズと順次反応させ、autoMACS(Miltenyi Biotec)を用いて、肝幹細胞、および出生前胎仔肝細胞を調整した。この方法によって調整したdlk陽性細胞の純度は、胎生12.5日の細胞で95 %以上、胎生17.5日の細胞で85 %以上であった。
胎生12.5日の胎仔マウス200個体と、胎生17.5日の胎仔マウス50個体から、それぞれ肝臓を摘出し、特許文献1及び非特許文献3記載の方法により、肝幹細胞及び出生前胎仔肝細胞を調製した。すなわち、先ず、コラゲナーゼ処理によって肝臓を消化し、細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液をハムスター抗dlkモノクローナル抗体、ビオチン化抗ハムスターIgG抗体、ストレプトアビジンビーズと順次反応させ、autoMACS(Miltenyi Biotec)を用いて、肝幹細胞、および出生前胎仔肝細胞を調整した。この方法によって調整したdlk陽性細胞の純度は、胎生12.5日の細胞で95 %以上、胎生17.5日の細胞で85 %以上であった。
次に、得られたdlk陽性細胞 から、trizol試薬(Invitrogen)、Oligotex dT30 (第一化学薬品)を用いて、常法に従い全mRNAを抽出し、Incyte Genomics製のマウスGEM2マイクロアレー(9514クローン担持)を用いてDNAチップ解析を行った。なお、このマイクロアレーは、マウス来のcDNAライブラリーをチップ上に不動化したものである。
マウス
正常マウスはC57/BL6, slcマウス(日本エスエルシー)を用いた。C/EBPαのノックアウトマウスは静岡大学理学部の研究室(塩尻信義教授)より分与された。
正常マウスはC57/BL6, slcマウス(日本エスエルシー)を用いた。C/EBPαのノックアウトマウスは静岡大学理学部の研究室(塩尻信義教授)より分与された。
ノーザンブロットアッセイ
培養細胞及び各種臓器のRNAの抽出にはTrizol試薬を用いた。定量したトータルRNAを各サンプル10μgずつホルムアルデヒド変性ゲルにて分離し、正荷電ナイロン膜に転写した後、DIG system (Roche)を用いて作製したニューリチンに対するDIGプローブでハイブリダイゼーションを行い、シグナルの検出にはCDP-star(New England BioLabs)を基質とした化学発色法を用いた。
培養細胞及び各種臓器のRNAの抽出にはTrizol試薬を用いた。定量したトータルRNAを各サンプル10μgずつホルムアルデヒド変性ゲルにて分離し、正荷電ナイロン膜に転写した後、DIG system (Roche)を用いて作製したニューリチンに対するDIGプローブでハイブリダイゼーションを行い、シグナルの検出にはCDP-star(New England BioLabs)を基質とした化学発色法を用いた。
免疫染色
成体マウスの肝臓から、クリオスタットを用いて7μmの凍結切片を作製し、4%パラホルムアルデヒドを用いて固定を行った。100倍に薄めた抗ヒトニューリチンポリクローナル抗体(cat# AF283, R&D systems)を一次抗体、ビオチン化抗ヤギIgG抗体を二次抗体とし、ABCキット(VECTOR)を用いてシグナルを増幅後、DAB(3,3'-ジアミノベンチジン)を基質とした反応によって発色を行った。対比染色として、ヘマトキシリンによる核染色を行った。これらの操作は、より具体的には次のようにして行なった。4%パラホルムアルデヒドによる固定を4℃で10分行い、メタノールに終濃度0.3%となるように過酸化水素水を加えた溶液によって、室温で20分間処理することによって内因性のペルオキシダーゼ活性を除いた。PBSで室温5分間の洗いを2回行い、ブロックエース試薬(大日本製薬株式会社)を用いて30分間ブロッキングを行い、組織中の非特異的結合部位をふさぐ操作を行った。次に1/10に希釈したブロックエース試薬によって100倍に薄めた抗ヒトニューリチンポリクローナル抗体を室温で1時間反応させ、PBSで5分の洗いを3回行い、続いて1/10に希釈したブロックエース試薬によって100倍に薄めたビオチン化抗ヤギIgG抗体を室温で1時間反応させた。PBSによる5分間の洗いを3回行った後、ABCキットの試薬を説明書通りに混ぜてABCコンプレックスを作り、これを室温で30分反応させた。PBSで5分間3回の洗いの後、ペルオキシダーゼ基質(0.02%DAB、0.03%過酸化水素水、50mM Tris-HCl pH 7.5)によって発色を行った。発色を確認した後、水で10分間洗い、マイヤーヘマトキシリン溶液(和光)によって核を染色し、その後アルコールで脱水し、キシレンで透徹して、エンテランニュー(メルク・ジャパン株式会社)で封入した。
成体マウスの肝臓から、クリオスタットを用いて7μmの凍結切片を作製し、4%パラホルムアルデヒドを用いて固定を行った。100倍に薄めた抗ヒトニューリチンポリクローナル抗体(cat# AF283, R&D systems)を一次抗体、ビオチン化抗ヤギIgG抗体を二次抗体とし、ABCキット(VECTOR)を用いてシグナルを増幅後、DAB(3,3'-ジアミノベンチジン)を基質とした反応によって発色を行った。対比染色として、ヘマトキシリンによる核染色を行った。これらの操作は、より具体的には次のようにして行なった。4%パラホルムアルデヒドによる固定を4℃で10分行い、メタノールに終濃度0.3%となるように過酸化水素水を加えた溶液によって、室温で20分間処理することによって内因性のペルオキシダーゼ活性を除いた。PBSで室温5分間の洗いを2回行い、ブロックエース試薬(大日本製薬株式会社)を用いて30分間ブロッキングを行い、組織中の非特異的結合部位をふさぐ操作を行った。次に1/10に希釈したブロックエース試薬によって100倍に薄めた抗ヒトニューリチンポリクローナル抗体を室温で1時間反応させ、PBSで5分の洗いを3回行い、続いて1/10に希釈したブロックエース試薬によって100倍に薄めたビオチン化抗ヤギIgG抗体を室温で1時間反応させた。PBSによる5分間の洗いを3回行った後、ABCキットの試薬を説明書通りに混ぜてABCコンプレックスを作り、これを室温で30分反応させた。PBSで5分間3回の洗いの後、ペルオキシダーゼ基質(0.02%DAB、0.03%過酸化水素水、50mM Tris-HCl pH 7.5)によって発色を行った。発色を確認した後、水で10分間洗い、マイヤーヘマトキシリン溶液(和光)によって核を染色し、その後アルコールで脱水し、キシレンで透徹して、エンテランニュー(メルク・ジャパン株式会社)で封入した。
結果
1.cDNAチップ解析
肝細胞で特異的に発現し、尚かつ発生と共に増加する分子のクローニングを目的として、胎生12.5日の胎生肝細胞のdlk発現細胞と胎生17.5日の胎生肝細胞のdlk発現細胞を抗dlkモノクローナル抗体とautoMACSを用いて集め(特許文献1及び非特許文献3)、mRNAを抽出してこれをDNAチップ解析に供した。解析の結果、全9514クローンの内、218 クローンが発現増強されており、133クローンが発現減少していた。発現が増強されるクローンを調べていったところ、GPIアンカータンパク質(GPI、すなわちグリコシルホスファチジルイノシトールに結合することで細胞外に存在するタンパク質のファミリー)の一つであるニューリチンが同定された。ニューリチンは脳の発生に伴って発現が増加し、脳神経の分化に関与していると報告されている(非特許文献4)。まず、肝臓で発現していることを確かめるために、肝臓及び各種臓器のRNAを抽出して、ノーザンブロットアッセイを行った(図1)。このノーザンブロットに用いたプローブの塩基配列は、マウスのニューリチンのcDNAの全長であり、ハイブリダイゼーションの条件は、48℃で一晩であり、その後の洗いの条件は、0.1%SDSを含むバッファー(300mM NaCl、30mM Sodium citrate pH7.0)で10分間室温、次に0.1%SDSを含むバッファー(30mM NaCl、3mM Sodium citrate pH7.0)で30分で行った。ニューリチンは脳で最も発現が強かったが、肝臓でも強い発現が見られた。成熟した肝臓は実質細胞すなわち肝細胞とその他、類同内皮細胞や星細胞などの非実質細胞から成り立っている。今回は肝細胞に特異的に発現しているdlkによってソースとなるRNAが純化されているため、ニューリチンは肝実質細胞に発現していると考えられるが、確認のために実質細胞と非実質細胞のRNAを用いてノーザンブロットによりニューリチンの発現を調べた(図2.1)。このノーザンブロットに用いたプローブの塩基配列と、ハイブリダイゼーションの条件は、上記と同様であった。また、免疫染色法により成体の肝臓でどのような発現パターンを示しているのかをノーザンブロットにより調べたところ、特に類洞側に濃縮されるようにタンパク質が存在することが分かった(図2.2)。このノーザンブロットに用いたプローブの塩基配列と、ハイブリダイゼーションの条件は、上記と同様であった。このパターンは内皮細胞のマーカーであるICAMの発現パターンと似ているが、ニューリチンは実質細胞に発現しているため、類洞内皮細胞に面した部分に発現していると考えられた。
1.cDNAチップ解析
肝細胞で特異的に発現し、尚かつ発生と共に増加する分子のクローニングを目的として、胎生12.5日の胎生肝細胞のdlk発現細胞と胎生17.5日の胎生肝細胞のdlk発現細胞を抗dlkモノクローナル抗体とautoMACSを用いて集め(特許文献1及び非特許文献3)、mRNAを抽出してこれをDNAチップ解析に供した。解析の結果、全9514クローンの内、218 クローンが発現増強されており、133クローンが発現減少していた。発現が増強されるクローンを調べていったところ、GPIアンカータンパク質(GPI、すなわちグリコシルホスファチジルイノシトールに結合することで細胞外に存在するタンパク質のファミリー)の一つであるニューリチンが同定された。ニューリチンは脳の発生に伴って発現が増加し、脳神経の分化に関与していると報告されている(非特許文献4)。まず、肝臓で発現していることを確かめるために、肝臓及び各種臓器のRNAを抽出して、ノーザンブロットアッセイを行った(図1)。このノーザンブロットに用いたプローブの塩基配列は、マウスのニューリチンのcDNAの全長であり、ハイブリダイゼーションの条件は、48℃で一晩であり、その後の洗いの条件は、0.1%SDSを含むバッファー(300mM NaCl、30mM Sodium citrate pH7.0)で10分間室温、次に0.1%SDSを含むバッファー(30mM NaCl、3mM Sodium citrate pH7.0)で30分で行った。ニューリチンは脳で最も発現が強かったが、肝臓でも強い発現が見られた。成熟した肝臓は実質細胞すなわち肝細胞とその他、類同内皮細胞や星細胞などの非実質細胞から成り立っている。今回は肝細胞に特異的に発現しているdlkによってソースとなるRNAが純化されているため、ニューリチンは肝実質細胞に発現していると考えられるが、確認のために実質細胞と非実質細胞のRNAを用いてノーザンブロットによりニューリチンの発現を調べた(図2.1)。このノーザンブロットに用いたプローブの塩基配列と、ハイブリダイゼーションの条件は、上記と同様であった。また、免疫染色法により成体の肝臓でどのような発現パターンを示しているのかをノーザンブロットにより調べたところ、特に類洞側に濃縮されるようにタンパク質が存在することが分かった(図2.2)。このノーザンブロットに用いたプローブの塩基配列と、ハイブリダイゼーションの条件は、上記と同様であった。このパターンは内皮細胞のマーカーであるICAMの発現パターンと似ているが、ニューリチンは実質細胞に発現しているため、類洞内皮細胞に面した部分に発現していると考えられた。
2.肝発生におけるニューリチンの遺伝子発現解析
DNAチップ解析において、ニューリチンは胎生12.5日よりも胎生17.5日で強く発現しているという結果が得られている。実際の肝発生においても、ニューリチンの発現量が発生と共に多くなっているかどうかを調べるため、肝発生の各ステージごとでの発現をノーザンブロットアッセイによって調べた(図3)。このノーザンブロットに用いたプローブの塩基配列とハイブリダイゼーションの条件は、上記と同様であった。その結果、肝発生と共に徐々に発現が増加し、成体肝細胞で発現量が最も高くなっていることが分かり、肝発生とニューリチンの発現は正比例の関係にあることが示された。
DNAチップ解析において、ニューリチンは胎生12.5日よりも胎生17.5日で強く発現しているという結果が得られている。実際の肝発生においても、ニューリチンの発現量が発生と共に多くなっているかどうかを調べるため、肝発生の各ステージごとでの発現をノーザンブロットアッセイによって調べた(図3)。このノーザンブロットに用いたプローブの塩基配列とハイブリダイゼーションの条件は、上記と同様であった。その結果、肝発生と共に徐々に発現が増加し、成体肝細胞で発現量が最も高くなっていることが分かり、肝発生とニューリチンの発現は正比例の関係にあることが示された。
3.四塩化炭素による障害肝におけるニューリチンの発現の変化
成熟した肝臓は、通常ほとんど増殖することなく様々な代謝を行っているが、毒物の投与などにより一部が損傷すると、旺盛に増殖して比較的短期間でもとの重量にまで再生する。このとき、肝臓は成熟した肝臓が担っている機能を部分的に休止して増殖するようになり、成熟した肝臓では発現しない、胎仔期のタンパク質を発現するようになることが知られている。ニューリチンは図3にも示したように成熟した肝臓で発現が最も強いが、再生中に発現量が変化するかどうかを調べるために、四塩化炭素を腹腔投与することによって、肝再生を誘導し、ノーザンブロットにより発現量を測定した(図4)。すなわち、四塩化炭素投与後、0.5、8、24、48、72時間において肝臓からRNAを抽出し、ノーザンブロットを行なった。このノーザンブロットに用いたプローブの塩基配列とハイブリダイゼーションの条件は、上記と同様であった。再生中の肝臓においてニューリチンは24時間付近でその発現量を半減させており、その後、元のレベルに戻っていた。CyclinD1の発現が48時間後から見られるため、肝再生が誘導されていることが確認できる。これらから、肝臓の成熟レベルとニューリチンの発現量には相関があると考えられた。
成熟した肝臓は、通常ほとんど増殖することなく様々な代謝を行っているが、毒物の投与などにより一部が損傷すると、旺盛に増殖して比較的短期間でもとの重量にまで再生する。このとき、肝臓は成熟した肝臓が担っている機能を部分的に休止して増殖するようになり、成熟した肝臓では発現しない、胎仔期のタンパク質を発現するようになることが知られている。ニューリチンは図3にも示したように成熟した肝臓で発現が最も強いが、再生中に発現量が変化するかどうかを調べるために、四塩化炭素を腹腔投与することによって、肝再生を誘導し、ノーザンブロットにより発現量を測定した(図4)。すなわち、四塩化炭素投与後、0.5、8、24、48、72時間において肝臓からRNAを抽出し、ノーザンブロットを行なった。このノーザンブロットに用いたプローブの塩基配列とハイブリダイゼーションの条件は、上記と同様であった。再生中の肝臓においてニューリチンは24時間付近でその発現量を半減させており、その後、元のレベルに戻っていた。CyclinD1の発現が48時間後から見られるため、肝再生が誘導されていることが確認できる。これらから、肝臓の成熟レベルとニューリチンの発現量には相関があると考えられた。
4.C/EBPαノックアウトマウスにおけるニューリチンの発現
C/EBPαは肝臓の成熟、特に肝機能の獲得に重要な転写因子であり、ノックアウトマウスは肝機能不全による高アンモニア症と低血糖によって出生後すぐに死ぬことが知られている(非特許文献5)。ニューリチンが分化のレベルを示すマーカーとなりうるならば、C/EBPαのノックアウトマウスでは発現が減少していると仮定して、ノックアウトマウスとそうでないマウスの胎仔肝臓をそれぞれとりだし、RNAを抽出してノーザンブロットアッセイを行った。すなわち、胎生18.5日目の野生型マウス(+/+)、ヘテロマウス(+/-)、C/EBPαノックアウトマウス(-/-)からRNAを抽出し、ノーザンブロットを行なった(図5A)。このノーザンブロットに用いたプローブの塩基配列とハイブリダイゼーションの条件は、上記と同様であった。得られたバンドを定量化し、GAPDHの発現量によってnormalizeした。コントロールの胎仔マウスの肝臓に比べてノックアウトマウスの胎仔肝臓におけるニューリチンの発現は顕著に減少していた。
C/EBPαは肝臓の成熟、特に肝機能の獲得に重要な転写因子であり、ノックアウトマウスは肝機能不全による高アンモニア症と低血糖によって出生後すぐに死ぬことが知られている(非特許文献5)。ニューリチンが分化のレベルを示すマーカーとなりうるならば、C/EBPαのノックアウトマウスでは発現が減少していると仮定して、ノックアウトマウスとそうでないマウスの胎仔肝臓をそれぞれとりだし、RNAを抽出してノーザンブロットアッセイを行った。すなわち、胎生18.5日目の野生型マウス(+/+)、ヘテロマウス(+/-)、C/EBPαノックアウトマウス(-/-)からRNAを抽出し、ノーザンブロットを行なった(図5A)。このノーザンブロットに用いたプローブの塩基配列とハイブリダイゼーションの条件は、上記と同様であった。得られたバンドを定量化し、GAPDHの発現量によってnormalizeした。コントロールの胎仔マウスの肝臓に比べてノックアウトマウスの胎仔肝臓におけるニューリチンの発現は顕著に減少していた。
考察
今回、新生仔期の肝実質細胞に発現し、分化のレベルと比例して発現量が変化するような膜タンパク質の同定を試みてDNAチップによる解析を行ったところ、該当する候補としてニューリチンを同定することが出来た。ニューリチンはGPIにアンカーされることによって細胞膜表面につなぎ止められているタンパク質の一つであり、これまでの報告では脳で最も発現が強く、脳の分化に関与しているとされていたが、肝臓に関しての報告は皆無であった。我々はこの分子が成熟した肝実質細胞に発現していること、発生と共に発現量が増加すること、再生肝では一時的に発現量が減少すること、さらに、機能的な肝成熟が起こらないC/EBPαノックアウトマウスで発現量が減少していることを見いだした。
今回、新生仔期の肝実質細胞に発現し、分化のレベルと比例して発現量が変化するような膜タンパク質の同定を試みてDNAチップによる解析を行ったところ、該当する候補としてニューリチンを同定することが出来た。ニューリチンはGPIにアンカーされることによって細胞膜表面につなぎ止められているタンパク質の一つであり、これまでの報告では脳で最も発現が強く、脳の分化に関与しているとされていたが、肝臓に関しての報告は皆無であった。我々はこの分子が成熟した肝実質細胞に発現していること、発生と共に発現量が増加すること、再生肝では一時的に発現量が減少すること、さらに、機能的な肝成熟が起こらないC/EBPαノックアウトマウスで発現量が減少していることを見いだした。
これらの結果から比較的ニューリチンの発現量が多い新生仔期の肝実質細胞を抗ニューリチン抗体を用いて、効率よく分離することが可能となった。序論でも述べたが、細胞の純化が可能となったことによってハイブリッド型人工肝臓の新たなマテリアルとなりうるだけでなく、初代培養系を確立できる点も重要である。新生仔期の肝細胞は機能的にかなり成熟しているものの、なお増殖過程にあり、胎生期の肝細胞とも成体の肝細胞とも異なる性質を有している。また、再生中の肝臓は一時的に脱分化した状態になることで増殖すると考えられているが、この状態に最も近いのが新生仔期の肝細胞であると考えられる。したがって新生仔期の肝実質細胞を用いた分化と増殖に関する研究は非常に興味深く、ハイブリッド型人工肝臓の開発や自家細胞移植を見据えた幹細胞の分化の制御にもフィードバックされる内容となる。また、新生仔期の肝臓では非実質細胞がある程度存在するが、成体の肝臓で見られるような小葉構造などをまだ構築しておらず、出生後に実質細胞と非実質細胞が相互に影響を及ぼしながら機能的な肝臓組織へと構造化するものと考えられる。分離した新生仔期の肝実質細胞と非実質細胞の共培養などによって、この高次構造化をin vitroで模倣することにより、その仕組みが分かってくるのではないかと考えられる。現在の人工肝臓は、人工の担体を利用して肝細胞を固定し血液の流路を確保するなどしているが、次世代型の人工肝臓としては非実質細胞を組み込み、生体に近い構造を持ったものが想定されており、その際にはニューリチンを用いて分離した実質細胞と非実質細胞の共培養による実験結果が非常に役に立つと予想される。
さらに、肝細胞への分化を試みたさまざまな細胞集団(肝幹細胞や造血幹細胞)について、ニューリチンの発現強度、すなわち肝分化レベルをFACSによって解析することや、分化レベルの高い(もしくは分化レベルの低い)細胞の分離・培養が可能になった。ニューリチンは肝臓特異的ではなく神経細胞等にも発現が見られるため、いくつかの抗体(たとえば、分化によって発現の変化はないが、肝実質細胞のマーカーとなるような膜タンパク質に対する抗体)を組み合わせるなどの工夫は必要となるが、肝分化の解析の強力なツールとなると考えられる。
Claims (16)
- 細胞表面上のニューリチンを指標として、試料中の肝細胞を検出する方法。
- 細胞表面上のニューリチンと抗原抗体反応する抗ニューリチン抗体又はその抗原結合性断片と、細胞表面上のニューリチンとの抗原抗体反応を利用して肝細胞を検出する請求項1記載の方法。
- 前記抗ニューリチン抗体がモノクローナル抗体である請求項2記載の方法。
- 細胞表面上のニューリチンを指標として、試料中の肝細胞を分離する方法。
- 細胞表面上のニューリチンと抗原抗体反応する抗ニューリチン抗体又はその抗原結合性断片と、細胞表面上のニューリチンとの抗原抗体反応を利用して肝細胞を分離する請求項1記載の方法。
- 前記抗ニューリチン抗体がモノクローナル抗体である請求項5記載の方法。
- マグネティックセルソーター又は蛍光活性化セルソーターにより分離を行なう請求項5又は6記載の方法。
- 前記肝細胞が、哺乳動物由来の肝細胞である請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。
- 前記肝細胞が、新生仔期の肝細胞である請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法。
- 細胞表面上のニューリチンと抗原抗体反応する抗ニューリチン抗体又はその抗原結合性断片から成る、肝細胞の検出用試薬。
- 細胞表面上のニューリチンと抗原抗体反応する抗ニューリチン抗体又はその抗原結合性断片から成る、肝細胞の分離用試薬。
- 未分化肝細胞由来の培養細胞の細胞表面上のニューリチンを指標として、該培養細胞が肝細胞へ分化したか否かを調査する方法。
- 細胞表面上のニューリチンと抗原抗体反応する抗ニューリチン抗体又はその抗原結合性断片と、細胞表面上のニューリチンとの抗原抗体反応を利用して行なう請求項12記載の方法。
- 前記抗ニューリチン抗体がモノクローナル抗体である請求13記載の方法。
- マグネティックセルソーター又は蛍光活性化セルソーターにより調査及び分離を行なう請求項13又は14記載の方法。
- 細胞表面上のニューリチンと抗原抗体反応する抗ニューリチン抗体又はその抗原結合性断片から成る、培養細胞が肝細胞へ分化したか否かを調査するための試薬。
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JP2009536327A (ja) * | 2006-05-08 | 2009-10-08 | ベー・エル・アー・ハー・エム・エス・アクティエンゲゼルシャフト | 薬剤誘導肝臓損傷及び中毒性物質誘導肝臓損傷の同定及び早期同定並びに治療の同時観察のためのinvitro方法 |
-
2003
- 2003-11-25 JP JP2003393848A patent/JP2005156295A/ja active Pending
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