JP2005155549A - エンジンの始動装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】 アイドル時に自動で停止し、再始動されるエンジン1おいて、燃料カット後に惰性で回転するエンジン1の各気筒から既燃ガスを確実に掃気しつつ、ピストン停止位置を高精度に制御できるようにする。
【解決手段】 アイドル回転速度よりも高い設定回転速度で燃料カットした後(t0)、スロットル弁23を所定期間(t1〜t2)開いて、確実な掃気を図るとともに、少なくともその間、オルタネータ28の発電制御によってエンジン回転速度の低下の度合いを調整する。一方、前記所定期間の経過後はスロットル弁23の開度を調整し、エンジン1のポンプ仕事を積極的に利用して回転速度の低下度合いを調整する。その際、各気筒12A〜12Dが順次TDCを通過するときの回転速度をそれぞれ検出して、このTDC回転速度に基づいてオルタネータ28の発電量やスロットル弁23の開度を制御することにより、遅くとも最後のTDCを通過するまでに(〜t3)TDC回転速度が適正回転速度範囲に入るように、エンジン回転速度の低下する軌跡NEを修正する。
【選択図】 図8

Description

本発明は、アイドル時に自動停止したエンジンを再始動要求に応じて始動するエンジンの始動装置に関し、特に、再始動に好適な状態になるようにしてエンジンを自動停止させるための制御技術の分野に属する。
従来より、燃費の低減やCO2の排出抑制等を目的として、アイドル時にエンジンを自動で停止するようにしたエンジン制御システム(アイドルストップシステム)は知られている。このようなシステムでは、発進操作等のエンジン再始動要求に対して即座にエンジンを始動しなくてはならないが、始動モータによるクランキングを経てエンジンを始動するという一般的な始動方法では始動時間がやや長くなるきらいがあり、また、クランキングに伴う騒音やエンジンの吹き上がりが違和感を与えるという不具合もある。
さらに、そのようにエンジンがアイドル状態になる度に停止及び再始動を行うとすると、イグニッションスイッチが操作されたときのみに始動する通常のシステムに比べて格段に始動回数が多くなってしまうので、始動モータに著しく高い耐久性が要求されることになり、無用のコスト増大を招くという問題もある。
そのため、近年では、例えば特許文献1、2に開示される筒内直噴式ガソリンエンジンのように、停止状態で膨張行程にある気筒内に燃料を噴射供給して、点火、燃焼させることにより、始動モータの力を借りることなく、エンジンをそれ自体の力で始動するようにしたものものが開発されている。
但し、そのように既に膨張行程にある気筒に点火して燃焼させる場合、この気筒の空気充填量があまり多いとはいえず、また、有効なストロークも短くなることから、燃焼により得られる始動トルクは本来的にあまり大きなものにはならない。しかも、その気筒内の空気量はピストンの停止位置によって変化し、これが始動トルクの大きさに影響することから、エンジンの始動性を確保するためには、エンジンを停止させるときに膨張行程になる気筒のピストン停止位置を高精度に制御したいという要請がある。
この点について、前記特許文献1に記載のルノアール・スタート・サイクル式エンジンでは、機械的な制動機構を用いてクランク軸の回転に制動力を付与するようにしており、一方、前記特許文献2に記載のエンジンの惰性回転制御方法では、停止前のエンジンの惰性回転中に気筒の吸排気弁の動作を停止させ、その圧縮反力によって強制的にピストンを停止させるようにしている。
すなわち、前記後者の従来例(特許文献2)のものは、イグニッションオフ後にエンジンが惰性で回転する間に、例えば排気行程にある気筒の排気弁の動作を停止させて、その圧縮圧力によりエンジン回転にブレーキをかけるようにしており、その際に、エンジン回転速度やその低下の度合いを検出し、これに応じて前記排気弁の動作を停止するタイミングや停止期間を調整することで、つまり、エンジンの回転慣性力に応じてブレーキの強さを加減することで、停止位置を調整するようにしたものである。
実開昭60−128975号公報 特表2003−517134号公報
しかしながら、前記前者の従来例(特許文献1)では、機械的な制動機構として自動変速機の油圧クラッチや油圧ブレーキ等を利用するようにしており、油圧の応答遅れによる作動タイミングのずれを考慮すれば、ピストンの停止位置を高精度に制御できるものとは言い難い。
一方、後者の従来例(特許文献2)のように気筒の吸排気弁の動作を停止させるものでは、そのことに起因して気筒の掃気性が低下することから、エンジン停止後の気筒内に既燃ガスが残留して、再始動の妨げとなる虞れがある。
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、アイドル時にエンジンを自動停止し、また、再始動するようにした始動装置において、その自動停止時の主に吸気の制御に工夫を凝らして、各気筒から既燃ガスを確実に掃気しながら、ピストン停止位置を高精度に制御できるようにすることにある。
前記の目的を達成するために、本願発明では、エンジンへの燃料供給を停止した後に、所定期間は各気筒への吸気量を増大させて確実な掃気を図るとともに、外部負荷によってエンジン回転速度の低下の度合いを調整する。そして、その期間の経過後は吸気量を調整し、エンジンのポンプ仕事を積極的に利用して回転速度の低下度合いを調整することにより、ピストン停止位置を精度良く制御できるようにした。
より具体的に、請求項1の発明は、停止している多気筒エンジンの少なくとも膨張行程にある気筒内に燃料を噴射供給し、点火、燃焼させることにより、始動モータを用いずに再始動するようにしたエンジンの始動装置を対象として、エンジンの各気筒への吸気流量を調整する吸気流量調整手段と、エンジンの外部負荷の大きさを調整する外部負荷調整手段と、運転中のエンジンの各気筒への燃料供給を停止することにより、該エンジンを停止させるエンジン停止手段と、このエンジン停止手段による燃料供給の停止後に所定期間、各気筒への吸気流量が燃料供給停止前に比べて増大するように前記吸気流量調整手段を制御する吸気制御手段と、少なくとも前記所定期間が経過するまでの間、エンジン回転速度の低下状態が予め設定した目標低下状態になるように、前記外部負荷調整手段の作動制御によって外部負荷の大きさを調整する外部負荷制御手段と、前記所定期間の経過後にエンジン回転速度の低下状態が前記目標低下状態になるように、前記吸気流量調整手段の作動制御により吸気の流量を調整する吸気補正制御手段と、を備える構成とする。
前記の構成により、エンジンの運転中にエンジン停止手段により各気筒への燃料供給が停止され、これによりエンジン回転速度が低下する過程において、まず所定期間は、吸気制御手段による吸気流量調整手段の制御によって各気筒への吸気流量が増大されることで、十分な掃気が行われる。しかも、その際、外部負荷制御手段による外部負荷調整手段の制御によって外部負荷の大きさが調整されることで、エンジン回転速度の低下状態が予め設定した目標低下状態になるように調整される。
そして、前記所定期間において各気筒の掃気が十分に行われれば、その後は吸気補正制御手段による吸気流量調整手段の制御によって吸気の流量が調整されて、これによりエンジンのポンプ仕事量が所要量、変化することで、エンジン回転速度の低下状態が前記目標低下状態になるように精度良く調整される。なお、この目標低下状態というのは、その状態でエンジン回転速度が低下して行けば、エンジンの停止後に膨張行程にある気筒のピストンが再始動に適した所定範囲に停止するように、実験等により設定したものである。
つまり、この発明では、燃料供給の停止によってエンジン回転速度が低下するときに、まず初めは吸気流量を増やして十分な掃気性を確保するとともに、外部負荷によってエンジン回転速度の低下度合いを調整し、その後は吸気流量の調整によってエンジン回転速度の低下度合いを精度良く調整することで、ピストン停止位置を高精度に制御できるものである。
請求項2の発明では、前記吸気流量調整手段として、エンジンの吸気通路に配設された吸気絞り弁を用い、前記吸気制御手段は、燃料供給の停止後に各気筒の吸気量が増大するように前記吸気絞り弁を開くとともに、エンジン停止後に膨張行程になる気筒の吸気量が圧縮行程になる気筒よりも多くなるように所定のタイミングで前記吸気絞り弁を閉じるものとする。
このことで、吸気量の増大によって各気筒の掃気を十分に行うことができるとともに、停止後に各々圧縮及び膨張行程になる気筒の空気量が十分に多くなるので、その圧縮反力のバランスによってピストンを行程中央部寄りに停止させることができる。しかも、吸気の輸送遅れを考慮した所定のタイミングで吸気絞り弁を閉じることで、前記停止後の膨張行程気筒の空気量が圧縮行程気筒よりも多くなり、これにより、当該膨張行程気筒のピストンが行程中央部よりもやや下死点寄りの再始動に適した範囲に停止することになる。
また、そのように、気筒の圧縮反力のバランスによってピストンを行程中央部寄りに停止させるようにした場合、このピストン停止位置とエンジンが停止するまでのエンジン回転速度の低下状態との間に特有の相関関係が現れる。これは、本願の発明者らがエンジン回転速度の低下状態とピストン停止位置との相関について実験、研究した結果、明らかになったもので、具体的には、エンジンが停止するまでの停止動作期間において各気筒が順次、圧縮上死点(TDC)を通過するときの回転速度(上死点回転速度)がそれぞれ或る特定の回転速度範囲に収まっていれば、エンジン停止後の膨張行程気筒におけるピストンの停止位置は再始動に好適な所定範囲に入るというものである。
この点に着目して、請求項3の発明では、前記構成のエンジン始動装置において、さらに、燃料供給停止後にエンジン回転速度が低下する過程で各気筒が順次、圧縮上死点を通過するときのエンジン回転速度をそれぞれ検出する回転速度検出手段を備えるとともに、エンジン回転速度の目標低下状態を、前記回転速度検出手段によって検出される上死点回転速度がそれぞれエンジン停止後のピストン位置と相関のある特定の回転速度範囲に収まるようなものとする。そして、外部負荷制御手段及び吸気補正制御手段を、それぞれ、前記特定回転速度検出手段によって検出された上死点回転速度の前記特定回転速度範囲からの偏差に基づいて、外部負荷調整手段及び吸気流量調整手段を制御するものとした。
この構成では、前記回転速度検出手段により検出された上死点回転速度の特定回転速度範囲からの偏差に基づいて、外部負荷制御手段及び吸気補正制御手段によりそれぞれ外部負荷調整手段及び吸気流量調整手段の作動制御が行われ、燃料供給停止後の最初の所定期間は外部負荷の調整により、また、その所定期間の経過後はエンジンのポンプ仕事量の調整により、エンジン回転速度の低下度合いが修正される。このことで、上死点回転速度が遅くとも最後のTDCを通過するまでには前記特定回転速度範囲に入ることになり、その最後のTDCを越えて自然に停止するエンジンの膨張行程にある気筒では、ピストンが再始動に適した所定範囲に停止することになる。
ここで、エンジンの吸気通路の下流側が各気筒毎に分岐して互いに独立の分岐吸気通路とされいる場合には、吸気流量調整手段は、前記分岐吸気通路に個別に弁体が配設された多連型の吸気絞り弁とするのが好ましく、この場合には、吸気補正制御手段は、回転速度検出手段により検出された上死点回転速度が特定回転速度範囲の下限よりも低いときに前記吸気絞り弁の開度を開き側に制御する一方、上死点回転速度が特定回転速度範囲の上限よりも高いときには前記吸気絞り弁を閉じ側に制御するものとする(請求項4の発明)。
こうすれば、吸気通路下流側の分岐吸気通路に配設した多連型の吸気絞り弁の開度を制御することで、各気筒への吸気流量を応答性良く調整することができ、これにより、上死点回転速度の検出値に応じてエンジン回転速度の低下の度合いを的確に調整することができる。
或いは、前記吸気流量調整手段は、各気筒に共通の吸気通路に弁体が配設された吸気絞り弁としてもよいが、この場合には、吸気補正制御手段は、回転速度検出手段により検出された上死点回転速度が特定回転速度範囲の下限よりも低いときに前記吸気絞り弁を開き側に制御する一方、上死点回転速度が特定回転速度範囲の上限よりも高いときには前記吸気絞り弁の開度制御を行わないものとするのが好ましい(請求項5の発明)。
これは、共通の吸気通路に配設された吸気絞り弁は一般的に吸気通路において比較的上流側に位置するため、これを用いる場合には、吸気を絞る側への応答遅れが大きくなり、十分な制御性が得られないからである。但し、燃料供給停止後の所定期間において予め外部負荷を大きめにして、エンジン回転速度の低下度合いが大きく(回転速度が低く)なるようにしておいて、その上で、上死点回転速度が低くなりすぎたときにのみ、吸気補正制御手段により吸気絞り弁の開度を開き側に制御するようにすれば、エンジン回転速度の低下状態を目標低下状態にすることができる。
請求項6の発明では、外部負荷調整手段を、エンジンにより駆動される発電機の発電量を変更して、その駆動力を調整するものとする。このことで、自動変速機の油圧締結要素を利用する場合のような応答遅れがなくなり、外部負荷によってエンジン回転速度の低下の度合いを比較的精度良く調整することができる。
その場合に、前記外部負荷制御手段は、エンジン回転速度が発電機の有効に作動する所定回転速度以下になる前に、外部負荷調整手段の制御を終了するものとするのが好ましい(請求項7の発明)。これは、一般的に発電機は或る程度以上の回転速度でないと有効に発電作動を行わず、従ってその駆動力もあまり変化しないからである。
次に、本願請求項8の発明は、前記請求項1の発明と同様のエンジンの始動装置を対象として、エンジンの各気筒への吸気流量を調整する吸気流量調整手段と、エンジンにより駆動される発電機の発電量を変更して、その駆動力を調整する発電駆動力調整手段と、運転中のエンジンの各気筒への燃料供給を停止することにより、該エンジンを停止させるエンジン停止手段と、このエンジン停止手段による燃料供給の停止後に、エンジン回転速度が発電機の有効に作動する所定回転速度以下になるまでの間、燃料供給停止前に比べて吸気流量が増大するように前記吸気流量調整手段を制御する吸気制御手段と、少なくともエンジン回転速度が前記所定回転速度以下になるまでの間、そのエンジン回転速度の低下状態が予め設定した目標低下状態になるように、前記発電駆動力調整手段のの作動制御によって発電機の駆動力の大きさを調整する発電駆動力制御手段と、前記所定期間の経過後にエンジン回転速度の低下状態が前記目標低下状態になるように、前記吸気流量調整手段の作動制御により吸気の流量を調整する吸気補正制御手段と、を備える構成とする。
この構成により、上述した請求項1〜7の発明と同様に、エンジンの各気筒への燃料供給を停止した後、まず、該各気筒への吸気流量を増やして十分な掃気性を確保するとともに、外部負荷として発電機の駆動力を利用できる間は、これによりエンジン回転速度の低下度合いを調整し、一方、エンジン回転速度が低下して発電機の利用ができなくなれば、今度は吸気流量の調整によってエンジン回転速度の低下度合いを精度良く調整し、これにより、ピストン停止位置を高精度に制御することができる。
つまり、燃料供給の停止後に各気筒のポンプ仕事と発電機の駆動力とを利用して、エンジン回転速度の低下の度合いを調整する場合に、掃気のために吸気流量を大きくすると、その間はポンプ仕事が小さくなってエンジンの回転落ちが鈍ることと、比較的高回転でのみ利用可能であるという発電機の特性とを考慮して、両者を相互補完的に使い分けることにより、十分な掃気性を確保しつつ、ピストン停止位置の高精度の制御を実現することができる。
前記請求項8の発明において、吸気補正制御手段は、燃料供給停止後にエンジン回転速度が所定回転速度以下になるまでの間であっても、車両の発電要求による発電機の発電量が所定値以上であれば、吸気流量調整手段の制御を行うものとするのが好ましい(請求項9の発明)。こうすれば、車両の発電要求が大きくて、発電量を変更するのが難しい状況では、吸気流量の調整によってエンジン回転速度の低下度合いを調整することができる。
以上、説明したように、本願の請求項1〜9の発明に係るエンジンの始動装置によると、アイドル時にエンジンを自動停止し、また、再始動するようにした制御システムにおいて、エンジン停止のために各気筒への燃料供給を停止した後、エンジンが惰性で数回転するまでの停止動作期間において、まず、所定期間は吸気流量を増大させて各気筒の掃気性を十分に確保するとともに、その間は外部負荷によりエンジン回転速度の低下度合いを調整し、一方、その期間の経過後は吸気流量の調整によって、エンジン回転速度の低下度合いを目標低下状態になるように精度良く調整することができる。これにより、エンジンの自動停止時に各気筒の十分な掃気を行いつつ、停止後の膨張行程気筒におけるピストンの停止位置を再始動に好適な範囲に正確に導くことができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
−エンジン制御システムの概略構成−
図1及び図2は、本発明に係るエンジン始動装置を含むエンジン制御システムの実施形態を示し、このエンジンシステムEは、シリンダヘッド10及びシリンダブロック11を備えたエンジン1と、該エンジン1を制御するためのECU2(エンジンコントローラ)とを備えている。前記エンジン1には、図2に示すように4つの気筒12A〜12Dが設けられていて、該各気筒12A〜12Dの内部には、図1に示すように、クランク軸3に連結されるピストン13がそれぞれ嵌挿され、これにより、前記各気筒12A〜12D内部でピストン13の上方には燃焼室14が形成されている。
ここで、一般的に、多気筒4サイクルエンジンにおいては、各気筒が所定の位相差をもって吸気、圧縮、膨張、排気の各行程からなる燃焼サイクルを行うようになっており、この実施形態の4気筒エンジンの場合、気筒列方向一端側から1番気筒12A、2番気筒12B、3番気筒12C、4番気筒12Dと呼ぶと、図5(e)に示すように、1番気筒(#1)、3番気筒(#3)、4番気筒(#4)、2番気筒(#2)の順にクランク角で180度ずつの位相差をもって燃焼が行われるようになっている。
前記各気筒12A〜12Dのそれぞれの燃焼室14の頂部には、該燃焼室14内の混合気に点火して燃焼させるための点火プラグ15が設けられていて、それらの各点火プラグ15先端の電極が前記燃焼室14内に臨むように配置されている。また、前記燃焼室14の側方(図1の右方向)には、該燃焼室14内に燃料を直接、噴射する燃料噴射弁16が設けられていて、該燃料噴射弁16は、前記点火プラグ15の電極付近に向かって燃料を噴射するように噴射方向が調整されている。この燃料噴射弁16は、図示しないニードル弁及びソレノイドを内蔵しており、前記ECU2からのパルス信号の入力によりそのパルス幅に対応する時間だけ開弁駆動されて、その駆動時間に応じた量の燃料を各気筒12A〜12D内に噴射するように構成されている。なお、前記燃料噴射弁16には、図示しない燃料ポンプにより燃料供給通路等を介して燃料が供給されるようになっていて、前記エンジンシステムEには、その燃料供給圧が圧縮行程での燃焼室14内の圧力よりも高くなるように燃料供給系統が構成されている。
また、前記各気筒12A〜12Dの燃焼室14の上部には、該燃焼室14に向かって開口する吸気ポート17及び排気ポート18が設けられていて、これらのポート17,18に吸気弁19及び排気弁20がそれぞれ配設されている。これらの吸気弁19及び排気弁20は、図示省略のカムシャフト等からなる動弁機構により駆動され、上述のとおり、各気筒12A〜12Dが所定の位相差をもって燃焼サイクルを行うように、該各気筒毎の吸・排気弁の開閉タイミングが設定されている。
そして、前記吸気ポート17及び排気ポート18にそれぞれ連通するように吸気通路21及び排気通路22が設けられており、図2に示すように、前記吸気ポート17に近い吸気通路21の下流側は各気筒12A〜12D毎に独立の分岐吸気通路21aとされ、この各分岐吸気通路21aの上流端がそれぞれサージタンク21bに連通している。また、該サージタンク21bよりも上流の吸気通路21は各気筒12A〜12Dに共通の共通吸気通路21cであり、この通路21cには例えばバタフライ弁(弁体)により通路断面積を調節して吸気流を絞るスロットル弁23(吸気絞り弁)と、これを駆動するアクチュエータ24とが配設され、さらに、図2にのみ示すが、スロットル弁23の上流側及び下流側には、それぞれ、吸気量を検出するためのエアフローセンサ25と吸気圧力(負圧)を検出するための吸気圧センサ26とが配設されている。
また、前記エンジン1には、ベルト等によりクランクシャフト3に駆動連結されたオルタネータ28(発電機)が付設されている。このオルタネータ28には、詳細は図示しないが、フィールドコイルの電流を制御することによって出力電圧を変更し、これにより発電量を調整するレギュレータ回路28aが内蔵されており、このレギュレータ回路28aに前記ECU2からの制御指令(例えば電圧)が入力されることで、基本的には車両の電装品の電気負荷と車載バッテリ電圧とに応じて発電量が制御されるようになっている。このようにしてオルタネータ28の発電量が変更されるときには、これに伴いその駆動力が変化するので、前記レギュレータ回路28aはエンジン1の外部負荷の大きさを調整する外部負荷調整手段に相当する。
さらに、前記エンジンシステムEには、前記クランク軸3の回転角を検出する2つのクランク角センサ30,31が設けられており、一方のクランク角センサ30(回転速度検出手段)からの信号によってエンジン回転速度を求めるとともに、詳しくは後述するが、それら2つのクランク角センサ30,31から出力される互いに位相のずれたクランク角信号によって、前記クランク軸3の回転方向及び回転角度を検出するようになっている。加えて、このエンジンシステムEには、カムシャフトの特定の回転位置を検出して気筒識別信号として出力するカム角センサ32、エンジン冷却水の温度(エンジン水温)を検出する水温センサ33、アクセル開度(アクセル操作量)を検出するアクセル開度センサ34等が配設されている。
前記ECU2は、前記各センサ25,26,30〜34からの信号を受け、前記燃料噴射弁16に対して燃料噴射量及びその噴射時期を制御する信号を出力するとともに、点火プラグ15の点火装置27に対して点火時期を制御する信号を出力し、さらに、前記スロットル弁23のアクチュエータ24に対してスロットル開度を制御する信号を出力する。そして、以下に詳述するが、前記ECU2は、アイドル時において所定のエンジン停止条件が成立したときに、各気筒12A〜12Dへの燃料供給を停止して(燃料カット)自動的にエンジンを停止させるとともに、その後、運転者のアクセル操作等により所定のエンジン再始動条件が成立したときには、自動的にエンジン1を再始動させるようになっている。
すなわち、前記エンジン1の再始動時には始動モータの力を借りることなく、エンジン1をそれ自体の力のみで始動させるのであるが、この実施形態では、まず、ピストン13が圧縮行程の途中で停止している気筒12で初回の燃焼を行わせて、そのピストン13を押し下げることによりクランク軸3を少しだけ逆転させ、これにより膨張行程にある気筒12のピストン13を一旦、上昇させて、その気筒12内の混合気を圧縮する。そして、その上で該膨張行程気筒12の混合気に点火して燃焼させることにより、クランク軸3に正転方向のトルクを与えて、エンジン1を始動するようにしている。
そのように、エンジン1をそれ自体の力のみによって始動させるためには、前記した膨張行程気筒12の燃焼によってクランク軸3にできるだけ大きな正転方向のトルクを与え、これにより、続いて圧縮上死点(以下、TDCと略称)を迎える気筒12がその圧縮反力に打ち勝ってTDCを越えるようにしなければならない。従って、エンジン1の確実な始動のためには膨張行程の途中で停止している気筒12内に燃焼のための空気を十分に確保しておく必要がある。
より具体的には、エンジン1の停止時に各々膨張行程及び圧縮行程になる気筒12,12(以下、各々停止時膨張行程気筒、停止時圧縮行程気筒ともいう)では、図3に示すように互いに位相が180°ずれていて、ピストン13が逆相に作動するので、膨張行程気筒12のピストン13が行程中央部よりも下死点(以下、BDCと略称)寄りに停止していれば、その気筒12内の空気量は多くなって燃焼により大きなトルクが得られるものの、該ピストン13をあまりBDC寄りに停止させると、圧縮行程気筒12の空気量が少なくなり、エンジン1の逆転のためのトルクが十分に得られなくなる。
この点、前記膨張行程気筒12のピストン13を行程中央部から多少、BDC寄りの所定範囲R(図例ではATDC100〜120°CA)内に停止させれば、圧縮行程気筒12に適量の空気が存在して、ここでの初回の燃焼による逆転作動が可能であり、しかも、膨張行程気筒12の空気量が多くなるので、ここでの燃焼によるトルクを十分に大きくして、始動性を確保することができるのである。
そこで、アイドル時にエンジン1を自動停止させるときには、まず、各気筒12A〜12Dの掃気が十分に行われるように、アイドル回転速度よりもやや高い所定回転速度で燃料カットを行うとともに、最初の所定期間はスロットル弁23を開いて、予め設定した開度になるように制御する。そして、そのように開いたスロットル弁23を閉じるタイミングを適切に設定することで、停止時圧縮行程気筒12及び停止時膨張行程気筒12へそれぞれ吸入される空気量が十分に多くなり、且つ膨張行程気筒12の空気量が圧縮行程気筒12よりも多くなるようにすることができる。こうすれば、その2つの気筒12の圧縮反力のバランスによって、膨張行程気筒12のピストン13が行程中央部から多少、下死点(BDC)寄りに停止する確率が高くなる。
さらに、詳しくは後述するが、前記燃料カットから惰性で回転するエンジン1が停止するまでの間(以下、停止動作期間ともいう)、次第に低下するエンジン回転速度を検出し、この検出値に基づいてオルタネータ28の発電量やスロットル弁23の開度を制御することで、エンジン1の外部負荷の大きさやポンプ仕事量を調整して、エンジン回転速度の低下する軌跡(低下状態)が予め設定したもの(目標低下状態)になるようにする。このようにエンジン回転速度の低下する軌跡を修正することで、この軌跡に沿って停止するエンジン1の膨張行程気筒12にあるピストン13を前記所定範囲R内に正確に停止させることができる。
−エンジンの停止制御−
次に、前記ECU2によるエンジン停止の制御について図4〜9を参照して説明する。なお、図4は停止制御の手順を示すフローチャート図であり、図5は、エンジン停止動作期間におけるエンジン回転速度、クランク角及び各気筒12A〜12Dの行程の変化を互いに対応づけて示すとともに、その間に行われるスロットル開度の制御と、これによる吸気圧力(吸気管負圧)の変化とを模式的に示す説明図である。
また、図6は、前記停止動作期間において徐々に回転が低下するエンジン1のTDC回転速度(後述)と、停止後の膨張行程気筒12におけるピストン停止位置との相関関係を示す図であり、図7は特に停止前の最後から2番目のTDCについて拡大して示すものである。さらに、図8は、停止動作期間においてアップダウンを繰り返しながら徐々に低下するエンジン回転速度の軌跡を、オルタネータ28やスロットル弁23の制御によって修正する様子を示す説明図であり、図9は、オルタネータ28の発電作動によってエンジン回転速度の低下度合いが変化することを示す図である。
まず、前記図5(a)に示すように、エンジン1の運転中に所定の設定回転速度(図例では800rpm)で燃料カットが行われると(時刻t0)、そのときにクランク軸3やフライホイール等の運動部分が有する運動エネルギーが機械的な摩擦や各気筒12A〜12Dのポンプ仕事によって消費されることで、エンジン回転速度が徐々に低下し、エンジン1は惰性で数回転した後に停止することになる。詳しくは、そのようにエンジン1が惰性で回転する間、エンジン回転速度は、微視的には各気筒12A〜12Dの圧縮上死点(TDC)を迎える毎に一時的に大きく落ち込み、TDCを越えると再び上昇する、というようにアップダウンを繰り返しながら低下して行く。そして、例えば図示の如く約800rpmで燃料カットした場合には、通常はTDCを8、9回越えて、その最後のTDCを越えた後に(時刻t3)、その次のTDCを越えることができなくなって、停止に至る(時刻t4〜t6)。
すなわち、前記の如くTDCを越えることができずに圧縮行程に留まる気筒12(図の#1気筒12A)では、慣性力によるピストン13の上昇に伴い空気圧が高まり、その圧縮反力によってピストン13が一旦、停止(時刻t4)した後に、BDCに向かって押し返される。これによりクランク軸3は逆転し、同図(a)に示すようにエンジン回転速度が負値になるが、そうすると、今度は膨張行程にある気筒12(前記最後のTDCを越えて膨張行程に移行した気筒であり、図例では#2気筒12B)の空気圧が上昇して、ピストン13にBDC側への圧縮反力が作用し、この圧縮反力によって該膨張行程気筒12のピストン13が一旦、停止(時刻t5)した後に、BDCに向かって押し返される。こうしてクランク軸3は再び正転し、エンジン回転速度は正値に戻る。
そのように、圧縮行程気筒12及び膨張行程気筒12のピストン13にそれぞれ逆向きに作用する圧縮反力によって、各気筒12A〜12Dのピストン13はそれぞれ数回、往復作動した後に停止することになるが(時刻t6)、その停止位置は、前記圧縮及び膨張行程気筒12の圧縮反力のバランスによって概略決定されるとともに、エンジン1の摩擦等の影響を受けて、停止前に最後にTDCを越えたときのエンジン1の回転慣性、即ち最後にTDCを越えたときのエンジン回転速度の高低によっても変化することになる。
従って、エンジン停止時に膨張行程気筒12のピストン13を再始動に適した所定範囲R内に停止させるためには、まず、その気筒12及び停止時圧縮行程気筒12の圧縮反力がいずれも十分に大きくなり、且つ膨張行程気筒12の圧縮反力が圧縮行程気筒12よりも所定以上、大きな適切なバランスとなるように、両方の気筒12への吸入空気量を調節する必要がある。このために、この実施形態では、図5(c)に示すように、燃料カット後に直ちに開いたスロットル弁23(時刻t1)を所定期間の経過後に閉じて(時刻t2)、同図(d)に示すように一時的に吸気管負圧を減少(吸気量は増大)させることで、停止時の圧縮及び膨張行程気筒12にそれぞれ所要量の空気が吸入されるようにしている。
但し、実際のエンジン1ではスロットル弁23自体や吸気ポート17、分岐吸気通路21a等の形状に個体ばらつきがあり、それらを流通する空気流の挙動が変化することもあって、エンジン1の停止動作期間に各気筒12A〜12Dに流入する空気の量には或る程度のばらつきを生じるから、上述のようなスロットル弁23の開閉制御を行ったとしても、それだけではエンジン停止時に圧縮行程や膨張行程になる気筒12のピストン停止位置を正確に目標とする範囲R内に収めるることは難しい。
この点につき、本願発明では、図6に一例を示すように、停止動作期間においてエンジン回転速度が徐々に低下する過程で、各気筒12A〜12Dが順次、TDCを通過するときのエンジン回転速度(請求項に記載の上死点回転速度であり、以下、TDC回転速度ともいう)と、エンジン停止後に膨張行程にある気筒12のピストン停止位置と、の間には明確な相関関係があることに着目した。そして、前記図5(a)に示すようにエンジン回転速度が低下する過程で180°CA毎のTDC回転速度をそれぞれ検出し、この検出値に応じてオルタネータ28の発電量やスロットル弁23の開度を制御することにより、エンジン回転速度の落ち具合を少しずつ調整するようにしている。
詳しくは、前記図6は、上述の如くエンジン回転速度が略800rpmのときに燃料カットを行い、その後の所定期間、スロットル弁23を開状態に維持するようにして、惰性で回転するエンジン1の各気筒12A〜12DがTDCを越える度に、そのときのエンジン回転速度(TDC回転速度)を計測するとともに、そうして停止した後の膨張行程気筒12のピストン位置を調べて、このピストン位置を縦軸に、また、前記TDC回転速度を横軸に取って、両者の関係を表したものである。このような作業を所定回数、繰り返すことで、エンジン停止動作期間におけるTDC回転速度と停止後の膨張行程気筒12におけるピストン停止位置との間の相関関係を表す分布図が得られる。
図の例では、エンジン停止前の最後のTDCを越えるときの回転速度は示されておらず、燃料カット直後のTDC回転速度(図例では最後から数えて9番目のもの)から最後の1つ前のTDC回転速度(最後から数えて2番目のもの)までのデータが示されている。この最後から9〜2番目のTDC回転速度は、それぞれ一塊りとなって分布しており、特に図示の6〜2番目のものにおいて明らかなように、TDC回転速度が或る特定の範囲(図に斜線を入れて示す範囲)にあれば、ピストン停止位置が再始動に好適な範囲R(ATDC100〜120°CA)に入ることが分かる。
より詳しくは、最後から2番目のTDC回転速度の分布のみを拡大して図7に示すと、図の例では、TDC回転速度は大体、280〜380rpmの範囲にあり、約320rpmを境にして、それよりも低回転側ではTDC回転速度の低下に伴いピストン停止位置が徐々にTDC寄りに変化している。一方、320rpm以上の高回転側では、ピストン停止位置はTDC回転速度に依らず概ね一様であり、ばらつきはあるものの大体、ATDC100〜120°CAの範囲Rに入っていることが分かる。このような特徴的な分布傾向が現れるのは、エンジン停止時の膨張行程気筒12及び圧縮行程気筒12にそれぞれ十分な量の空気が充填されており、この空気の圧縮反力によってピストン停止位置が行程中央部寄りに集まることによると考えられる。なお、320rpm以下で右上がりの分布となっているのは、気筒12内で往復動するピストン13がTDC側で反転した後、摩擦等により減速されて行程中央部まで戻ることができずに停止したものと考えられる。
一方、仮に燃料カット後にスロットル弁23の開作動を行わず、これを閉じたままにした場合には、同図に破線で示すような一様に右上がりの分布状態になり、TDC回転速度の高低に応じてピストン停止位置が変化することが分かる。これは、スロットル弁23を閉じたままにすると、図5(d)に仮想線で示すように吸気の圧力が低い(吸気管負圧が大きい)ままになり、停止後に各々膨張行程及び圧縮行程になる気筒12,12の圧縮圧力が小さくなることから、ピストン停止位置がエンジン回転速度(回転慣性)と摩擦との影響を相対的に強く受けることになるからである。
前記の如く、膨張行程気筒12のピストン13がエンジン1の再始動に好適な所定範囲Rに停止することになるTDC回転速度の特定の範囲(特定回転速度範囲)を、以下、この明細書では適正回転速度範囲と呼ぶものとする。そして、この実施形態では、図8に模式的に示すように、エンジン回転速度がアップダウンを繰り返しながら徐々に低下するときに、各気筒12A〜12D毎のTDC回転速度をそれぞれ検出し、この検出値と前記適正回転速度範囲とを比較して、両者の速度偏差に応じてオルタネータ28の発電量やスロットル弁23の開度を制御することで、エンジン回転速度の低下の度合い調整するようにしている。
すなわち、まず、燃料カット直後の所定期間は、上述の如く、各気筒12A〜12Dの掃気等のためにスロットル弁23を比較的大きく開いており、このスロットルの開度をさらに調整しても気筒12のポンプ仕事量があまり変化しないから、これによるエンジン回転速度の調整は難しい。そこで、この間は意図的にオルタネータ28を発電作動させるとともに、その発電量を変更制御して、そのための発電駆動力(エンジン1の外部負荷)の大きさを調整することにより、エンジン回転速度の低下の度合い調整する。この際、TDC回転速度が適正回転速度範囲の下限寄りになるように、即ちエンジン回転がやや落ち気味になるように、オルタネータ28の発電量を大きめに制御する。
続いて、前記所定期間の経過後は、スロットル弁23の開度を制御してエンジン1のポンプ仕事量を調整することによって、エンジン回転速度の低下の度合いを調整する。但し、サージタンク21bの上流に配置したスロットル弁23の場合、これを閉じる側に制御しても吸気の変化は鈍いから、前記のように予めオルタネータ28の制御によってエンジン回転速度を低めに誘導しておいて、TDC回転速度が適正回転速度範囲よりも低くなったときにのみ、エンジン回転速度の低下が緩やかになるようにスロットル開度を開き側に制御する。
そのような制御により、例えば、同図に仮想線で示すようにエンジン回転速度の低下の軌跡NEが理想的な軌跡NE*(図に実線で示す)よりも低回転側にずれていて、TDC回転速度が適正な範囲(図に斜線を入れて示す範囲)の下限よりも低いことが検出されれば、これに応じて、まず所定期間(時刻t1〜t2)はオルタネータ28の発電制御が行われて(ORT)エンジン1の外部負荷が調整され、その後はスロットル弁23の制御が行われて(TVO)各気筒12A〜12Dのポンプ仕事量が調整され、これによりエンジン回転速度の軌跡が高回転側に移動して行って、遅くとも最後のTDCを通過するまでに適正回転速度範囲に収まるようになる。
そして、そうなれば、その最後のTDCを通過した時点でクランク軸3やフライホイール、或いはピストン13、コネクティングロッド等の運動部分が有する運動エネルギーや圧縮行程気筒12の高圧空気が有する位置エネルギー等が、その後に作用する摩擦等と見合うものになるので、エンジン1の停止時に膨張行程にある気筒12のピストン13は前記の再始動に適した範囲R内に停止することになるのである。言い換えると、この実施形態においてはエンジン回転速度の目標低下状態というのは、同図に示すようにエンジン回転速度が徐々に低下するときに、TDC回転速度が適正回転速度範囲に収まっている状態のことである。
次に、上述したエンジン停止制御の具体的な手順を図4のフローチャートに基づいて説明すると、このフローはエンジン運転中の所定のタイミングでスタートして(START)、ステップSA1ではアイドルストップの条件(IDL Stop条件)が成立したか否かの判定を行う。この判定は、車速、ブレーキの作動状況、エンジン水温等に基づいて行うもので、例えば車速が所定速度よりも小さく、ブレーキが作動していて、エンジン水温が所定範囲内にあり、さらにエンジン1を停止させることに特に不都合のない状況であれば、アイドルストップ条件が成立したものとする。
前記ステップSA1でアイドルストップ条件が成立したとき(YESの場合)には、続くステップSA2で、いずれか1つの気筒12(例えば1番気筒12Aか4番気筒12D)を特定して、エンジンを停止させる所定の条件が成立したかどうかの判定を行う。すなわち、エンジン回転速度が燃料カットの設定回転速度(この実施形態では略800rpm)であるかどうか、前記特定した気筒12が予め設定した行程(例えば吸気行程)にあるかどうか等を判定する。そして、全ての条件が成立してYESと判定されれば、ステップSA3に進んで、各気筒12A〜12Dへの燃料噴射を停止し(燃料cut)、続くステップSA4ではスロットル弁23を設定開度になるように開く(スロットルopen)。これにより、図5(c)(d)に示すように各気筒12A〜12Dへの吸気量が増大し、十分な掃気が行われる。
続いて、ステップSA5において、クランク角センサ30からの信号により求められるTDC回転速度が適正回転速度範囲にあるかどうか判定する(TDC時の回転速度が所定範囲内?)。この判定がYESでTDC回転速度が適正回転速度範囲にあれば、ステップSA6に進み、今度はエンジン回転速度が所定回転速度以下かどうか判定する。この所定回転速度は、吸気の輸送遅れを考慮して、図5(c)(d)に示すように停止時膨張行程気筒12(図例では#2気筒12B)への吸気量が停止時圧縮行程気筒12(図例では#1気筒12A)よりも多くなるようなタイミングでスロットル弁23を閉じるためのものであって、同図の時刻t2に対応し、この実施形態では例えば約500〜600rpmの範囲に設定されている。そして、エンジン回転速度が前記所定回転速度以下になれば(ステップSA6でYES)、後述のステップSA9に進む一方、エンジン回転速度が所定回転速度よりも高ければ(NOの場合)、前記ステップSA5にリターンする。
前記ステップS5においてTDC回転速度が適正回転速度範囲にないと判定された場合(NOの場合)には、ステップSA7に進み、TDC回転速度と適正回転速度範囲との間の回転速度の偏差に基づいてオルタネータ28の発電量を算出する。この発電量は、例えばエンジン回転速度、適正回転速度範囲からの速度偏差及び現在の発電量に応じて予め設定されたマップから読み出され、例えばTDC回転速度が適正回転速度範囲の上限よりも高いときには、エンジン1の負荷が増えるようにオルタネータ28の発電量を増大させる一方、TDC回転速度が適正回転速度範囲の下限よりも低いときには、エンジン1の負荷が減るように発電量を減少させるものである。また、前記マップにおいて発電量の目標値は、TDC回転速度が適正回転速度範囲の下限付近になるよう大きめに設定されている。
なお、図9に一例を示すように、オルタネータ28の発電作動がある場合とない場合とを対比して、エンジン回転速度とTDC回転速度の低下量との関係を調べたところ、エンジン回転速度が或る値(図の例では約360rpm)よりも高ければ、オルタネータ28の発電作動によってエンジン回転速度が低下する一方、それよりも低回転側では発電作動の有無に依らず、TDC回転速度の低下量が同じであることが分かった。これは、前記のエンジン回転速度以下ではオルタネータ28が有効に発電作動をせず、その駆動力があまり変化しないからであるが、この実施形態では、それよりもかなり高い回転速度のときにオルタネータ28の発電量制御を行うようにしており(ステップSA6)、これにより、エンジン回転速度の低下の度合いを効果的に調整することができる。
そして、前記ステップSA7に続くステップSA8では、前記の算出結果に応じてオルタネータ28のレギュレータ回路28aに制御指令を出力する(オルタネータ発電)。このオルタネータ28の発電作動によってエンジン1の負荷が調整されることで、惰性で回転するエンジン1の回転速度の軌跡NEは高回転側又は低回転側のいずれかにシフトされ、例えば図8に仮想線で示すように低回転側から徐々に目標とする軌跡NE*(実線で示す)に近づいて行く。そうして、エンジン回転速度が前記ステップSA6の所定回転速度以下になれば(YES)、ステップSA9に進んで、スロットル弁23を閉じる(スロットルclose)。
続くステップSA10において、前記ステップSA5と同様にTDC回転速度が適正回転速度範囲にあるかどうか判定し、判定がYESでTDC回転速度が適正回転速度範囲にあれば、ステップSA11に進んで、今度はTDC回転速度が所定値A以下かどうか判定する。この所定値Aは、予め実験的にエンジン停止前の最後のTDC回転速度に対応づけて設定したものであり、前記ステップSA10で求めたTDC回転速度が所定値A以下ならば(判定がYESの場合)、エンジン1はその次のTDCを越えることができず、停止することになるから、後述のステップSA14に進む一方、TDC回転速度が所定値Aよりも高ければ(判定がNOの場合)、エンジン1はさらに次のTDCを越えることになるから、前記ステップSA10にリターンする。
前記ステップSA10において、TDC回転速度が適正回転速度範囲にないと判定された場合(NOの場合)には、ステップSA12に進み、TDC回転速度の適正回転速度範囲からの偏差に基づいてスロットル弁23の開度を算出する。このスロットル開度は、例えばエンジン回転速度、適正回転速度範囲からの速度偏差及び現在の開度に応じて予め設定されたマップから読み出され、TDC回転速度が適正回転速度範囲の下限よりも低いときには、エンジン1のポンプ仕事量が減少するようにスロットル開度を増大する一方、TDC回転速度が適正回転速度範囲の上限よりも高いときには、スロットル制御を行わないように設定されている。
すなわち、サージタンク21b上流のスロットル弁23を用いる場合には、吸気を絞る側への応答遅れが大きくなり、十分な制御性が得られないから、上述の如く、予めオルタネータ28の発電作動による負荷を大きめにして、エンジン回転速度の低下度合いを大きく(回転速度を低めに)しておいて、TDC回転速度が適正回転速度範囲の下限よりも低いときにのみ、スロットル弁23を開く側に駆動してエンジン回転速度の低下の度合いを緩やかにするのである。そして、ステップSA13でスロットル弁23のアクチュエータ24を駆動して(スロットル駆動)、前記ステップSA11に進む。
前記のようなオルタネータ28及びスロットル弁23の制御によって、燃料カット後のエンジン回転速度の低下度合いを調整することで、図5(a)や図8に示すようにアップダウンを繰り返しながら徐々に低下するエンジン回転速度の軌跡NEを高回転側又は低回転側のいずれかにシフトさせて、徐々に所望の軌跡(図8に実線で示す)に近づけて行き、遅くとも最後のTDCまでには適正回転速度範囲に収めることができる。
そうして、エンジン1が最後のTDCを越えて、そのときのTDC回転速度が所定値A以下になれば、前記ステップSA11においてYESと判定されてステップSA14に進み、今度はエンジン1が完全に停止したかどうか判定する。すなわち、停止時に各々膨張行程及び圧縮行程にある気筒12,12の相互に逆向きの圧縮反力によって、クランク軸3が正転及び逆転を数回、繰り返した後に静止したことを判定する。そして、この判定がYESになって、エンジン1の停止が確認されれば、ステップSA15に進んで、後述する停止位置検出ルーチンにより膨張行程にある気筒12のピストン停止位置を検出し、これをECU2のメモリに記憶して、エンジン停止制御を完了する(END)。
ここで、前記したように、エンジン1が完全に停止する直前にはクランク軸3が正逆両方に数回、回動するので、クランク角センサ30からの信号をカウントするのみではピストン停止位置を検出することはできない。そこで、この実施形態では、2つのクランク角センサ30,31から出力される互いに位相のずれたクランク角信号に基づいて、以下のようにクランク軸3の回転方向及び回転角度を検出し、これによりピストン停止位置を検出するようにしている。
図10は、ピストンの停止位置を検出する手順を示すフローチャートであり、このフローがスタートすると、ステップSC1で、第1クランク角信号CA1(第1クランク角センサ30からの出力信号)及び第2クランク角信号CA2(第2クランク角センサ31からの出力信号)に基づいて、ECU2が前記第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に前記第2クランク角信号CA2がLow、Highのいずれであるか、或いは、前記第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に前記第2クランク角信号CA2がHigh、Lowのいずれであるか、を判定する。つまり、これらの信号CA1,CA2の位相の関係が図11(a)のようになるか、又は図11(b)のようになるかを判別して、これによりエンジン1の正転、反転を判別する。
より詳しくは、エンジンの正転時には、図11(a)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相遅れを生じることになり、前記第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLowに、前記第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighになる。一方、エンジンの逆転時には、図11(b)のように、前記第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相の進みを生じることになり、上述のエンジン正転時とは逆に、前記第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がHighに、前記第1クランク各信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がLowになるからである。
そして、前記フローのステップSC1でエンジン1が正転状態であると判定された場合(YESの場合)には、エンジン1の正転方向のクランク角変化を計測するためのCAカウンタのカウント数を増やし、反対に逆転状態であると判定された場合(NOの場合)には前記CAカウンタのカウント数を減らすようにする。ここで、第1クランク角信号CA1及び第2クランク角信号CA2の立ち上がり及び立ち下がりは、クランク軸3の回転により所定角度毎(この実施形態では、立ち上がり又は立ち下がりのそれぞれの間隔が略10度毎)に生じるように設定されているため、第1クランク角信号CA1の立ち上がり及び立ち下がり時の第2クランク角信号CA2の状態により、前記のようにしてエンジン1の正転・逆転を判定することができるとともに、前記第1クランク角信号CA1及び第2クランク角信号CA2の立ち上がり又は立ち下がりの回数によって、クランク軸3の回転角度を求めることができる。こうして、エンジン停止時に上述の如くクランク軸3が正逆、両方に回動しても、ピストン停止位置を正確に求めることができる。
前記図4に示すエンジン停止制御のフローにおいて、ステップSA3により、運転中のエンジン1の各気筒12A〜12Dへの燃料供給を停止することにより、エンジン1を停止させるエンジン停止手段2aが構成され、また、ステップSA4、SA6,SA9により、前記エンジン停止手段2aによる燃料カットの後に、各気筒12A〜12Dの掃気のために直ちにスロットル弁23を開くとともに、特に停止時膨張行程気筒12の吸気量が停止時圧縮行程気筒12よりも多くなるように所定のタイミングでスロットル弁23を閉じる吸気制御手段2bが構成されている。
また、ステップSA5〜SA8により、少なくとも前記スロットル弁23の閉じられるまでの間、クランク角信号により求めたTDC回転速度に基づいて、その後のTDC回転速度がエンジン停止後のピストン停止位置と相関のある適正回転速度範囲に収まるように、即ちエンジン回転速度の低下状態が予め設定した目標低下状態になるようにオルタネータ28の発電量を制御して、エンジン負荷の大きさを調整する外部負荷制御手段2cが構成されている。この外部負荷制御手段2cは、エンジン回転速度がオルタネータ28の有効に作動する所定回転速度以下になる前には発電量の制御を終了するものである。
さらに、ステップSA10〜SA13により、一旦、前記スロットル弁23を閉じた後、TDC回転速度が前記適正回転速度範囲に収まるように、スロットル弁23の開度を制御して吸気流量を調整する吸気補正制御手段2dが構成されている。この吸気補正制御手段2dは、TDC回転速度が前記適正回転速度範囲の下限よりも低いときにスロットル弁23を開き側に制御する一方、仮にTDC回転速度が適正回転速度範囲の上限よりも高かったとしても、このときにはスロットル弁23の制御を行わないものである。
以上、詳述したエンジン停止制御によると、アイドル時に燃料カットによりエンジン1を自動停止させるときには最初の所定期間、スロットル弁23を開いて、停止後に各々膨張行程及び吸気行程になる気筒12,12にそれぞれ所要量の空気が吸入されるようにするとともに、オルタネータ28及びスロットル弁23の制御によりエンジン回転速度の低下の度合いを調整することで、エンジン1停止後の膨張行程気筒12においてピストン13を再始動に好適な所定範囲Rに停止させることができる。
また、前記所定期間、スロットル弁23が開かれていることで、各気筒12A〜12D内の既燃ガスは殆ど全て筒外へ掃気されることになるが、エンジン1の停止後は吸排気弁19,20の閉じている膨張行程気筒12や圧縮行程気筒12であっても、気筒12内の空気がすぐにリークすることになるから、これら停止時膨張行程気筒12及び停止時圧縮行程気筒12にはいずれも略大気圧の新気(空気)が存在する状態になる。
−エンジンの始動制御−
次に、上述の如くしてアイドル時に自動停止したエンジン1を再始動する場合について、図12〜12に基づいて説明する。なお、図12及び図13は、始動制御の手順を示すフローチャートであり、図14は、始動時の各気筒12A〜12D毎の燃料噴射及び点火タイミングを当該各気筒12A〜12Dの行程の変化と吸排気弁の開作動状態とに対応づけて示した行程図である。また、図15は、前記始動時の各気筒12A〜12D毎の燃料噴射及び点火によって、当該各気筒12A〜12Dの筒内圧、発生トルク及びエンジン回転速度が変化する様子を時系列に示したタイムチャートである。
まず、始動制御の具体的な手順について図12のフローチャートに基づいて説明すると、このフローはエンジン停止状態からスタートして(START)、ステップSB1において所定のエンジン再始動条件が成立したか否かを判定する。この再始動条件とは、停車状態から発進するためにブレーキが解除された場合やアクセル操作等が行われた場合、エアコン等の動作のためにエンジンの運転が必要になった場合等であり、このような条件が成立していなければ、成立するまで待機する一方、再始動条件が成立すれば(ステップSB1でYES)、ステップSB2へ進む。
ステップSB2では、上述したようにクランク角信号のカウントにより求められたピストン13の停止位置に基づいて、エンジン停止時の圧縮行程気筒12(停止時圧縮行程気筒:図14及び図15の#1気筒12A)及び膨張行程気筒12(停止時膨張行程気筒::図14及び図15の#2気筒12B)の空気量を算出する。すなわち、ピストン13の停止位置から各気筒12A〜12Dの燃焼室容積を求めるとともに、前記の如く各気筒12A〜12D内が殆ど大気圧状態の新気で満たされた状態にあると仮定して、前記両気筒12の空気量をそれぞれ算出する。
続いてステップSB3では、前記ステップSB2で算出した停止時圧縮行程気筒12の空気量に対して所定の空燃比(圧縮行程気筒1回目用A/F)となるように、該圧縮行程気筒12に燃料を噴射する。この場合、前記空燃比は、エンジン停止時のピストン停止位置等に対応付けて予め設定されたマップから求められ、これにより、前記圧縮行程気筒12の空燃比は理論空燃比よりもリッチな空燃比(A/Fで略11〜14の範囲)に設定される。
次に、ステップSB4において、停止時圧縮行程気筒12への燃料噴射から燃料の気化時間を考慮して設定される所定時間経過後に、当該気筒12の点火プラグ15に通電して、混合気に点火する。そして、ステップSB5で、前記ステップSB4の点火から一定時間内にクランク角センサ30,31からの信号のエッジ(クランク角信号の立ち上がり又は立ち下がり)が検出されたか否かにより、ピストン13が動いたかどうかを判定し(クランク角信号の検出による判定は上述の図10及び図11参照)、失火等のためにピストン13が動かなかった場合(NOの場合)には、ステップSB6に戻って前記圧縮行程気筒12に対して繰り返し点火する。
一方、前記ステップSB5でクランク角信号のエッジが検出されて(YESの場合)、ピストン13が動いた、すなわちエンジン1が逆回転したと判定された場合には、続くステップSB7で、前記ステップSB2で算出された停止時膨張行程気筒12の空気量に対して所定の空燃比(膨張行程気筒12用A/F)となるように該膨張行程気筒12に燃料を噴射する。この場合も、前記膨張行程気筒12用の空燃比は、前記ステップSB3と同様に、エンジン停止時のピストン停止位置等に対応付けて予め設定されたマップから求められ、これにより、略理論空燃比もしくはそれよりも若干リッチな値に設定される。
そして、続くステップSB8で、エンジン1の逆回転に伴うピストン13の上昇により停止時膨張行程気筒12内の混合気が十分に圧縮され、この圧縮反力によってピストン13が殆ど停止する迄の所定時間(点火ディレイ)の経過後に、該膨張行程気筒12に対して点火を行う。このように膨張行程気筒12内の圧縮された混合気に点火して、燃焼させることで、エンジン1は十分に大きなトルクでもって正転方向に回転し始める。なお、前記点火ディレイの時間は、大体、エンジン1が逆回転して膨張行程気筒12のピストン13がTDC近傍に到達するまでの時間であり、エンジン停止時のピストン停止位置に対応付けて予め設定されたマップから求められる。
続いてステップSB9では、前記エンジン1の正転に伴い次にTDCを迎える前記停止時圧縮行程気筒12に対し、燃料の気化時間を考慮したタイミングで燃料を噴射する。これにより、噴射された燃料の気化潜熱で前記圧縮行程気筒12内の温度が下がり、筒内圧力が低下するため、エンジン1の正転に伴う当該気筒12の圧縮反力が小さくなり、ピストン13がTDCを容易に越えられるようになる。従って、前記ステップSB8における停止時膨張行程気筒12の燃焼により開始されたエンジン1の正転作動が持続され、停止時圧縮行程気筒12がTDCを越えて、各気筒12A〜12Dがそれぞれ次の行程へと進むことになる。
続いて、図13のステップSB10では、エンジン水温、エンジン停止時間、吸気温度等から推定される筒内温度と大気圧とに基づいて、前記エンジン1の正転動作により停止時の吸気行程気筒12(図14及び図15では#3気筒12C)内に充填される空気の密度(筒内空気密度)を推定し、この推定値に基づいて該吸気行程気筒12の空気量を算出する。そして、ステップSB11では、主に前記吸気行程気筒12の筒内温度の推定値から自着火防止等のための空燃比の補正値を算出し、続くステップSB12において、前記補正値を加味して決定した空燃比と、前記ステップSB10で算出された吸気行程気筒12内の空気量とに基づいて、該吸気行程気筒12への燃料噴射量を算出する。すなわち、停止時の吸気行程気筒12がエンジン始動後に最初に迎える圧縮行程でその圧縮圧力、筒内温度等により自着火するのを防止するとともに、その圧縮反力をできるだけ小さくするために空燃比を補正するようにしており、補正後の空燃比は例えばA/F=13程度のややリッチな状態になる。
そして、ステップSB13では、前記停止時吸気行程気筒12が圧縮行程になったときに、その圧縮行程中期で燃料噴射を行う。すなわち、通常の始動モータによる始動時には燃料を吸気行程で噴射するものだが、本実施形態では、燃料の気化潜熱により効果的に筒内の圧縮圧力が低下するように、エンジン停止時間、吸気温度、冷却水温度等を考慮して、圧縮行程の中期に噴射するようにしている。これにより、前記停止時吸気行程気筒12の圧縮圧力が効果的に低減され、このことによっても自着火の防止が図られる。その後、ステップSB14へと進み、前記停止時吸気行程気筒12がTDCを越えて膨張行程に移行した後に点火プラグ15に通電して、点火する。この点火時期も通常のエンジン始動時であればTDCよりも進角側(圧縮行程)に設定されているものであるが、この実施形態のように始動モータを用いない場合には、TDC前に点火すると、ピストン13に作用する逆トルクが始動の妨げとなる虞れがあるので、TDC通過後の膨張行程において点火するようにしたものである。
続いて、ステップSB15では、スロットル弁23よりも下流の分岐吸気通路21aの吸気圧力(吸気管負圧)がエンジン1の通常のアイドル運転時と比較して高いかどうか判定する。この判定でアイドル時よりも高いと判定された場合(YESの場合)には、ステップSB16に進み、吸気圧力に応じて、アイドル運転時のスロットル開度よりも小さくなるようにスロットル弁23を駆動して、該スロットル弁23よりも上流側から気筒12の燃焼室14内に吸入される空気量を絞り、前記ステップSB15へリターンする。そして、吸気圧力がアイドル運転時と同じになるまで前記スロットル弁23の制御を繰り返す一方、吸気圧力がアイドル運転時以下になってステップSB15でNOと判定されれば、ステップSB17に進み、通常のエンジン制御へ移行する。
以上のステップSB15,SB16では、エンジン停止中に大気圧に近い状態になっているサージタンク21b内の空気が始動時に気筒12内に吸入されてフル充填状態になると、エンジン回転が急激に吹き上がり、大きな振動が発生するという問題があることを考慮して、各気筒12A〜12Dへの空気の吸入をスロットル弁23により制限するようにしたものである。
上述のフローにより、アイドル時に自動停止したエンジン1を再始動要求に応じて始動モータ等を用いることなく再始動させることができる。すなわち、図14及び図15に示すように、アイドル時のエンジン停止状態でエンジン再始動要求があったとき(図15の時刻0.0)には、まず、圧縮行程にある気筒12(#1気筒12A)に対して燃料を噴射(両図に符号a1として示す。以下の燃料噴射及び点火について同様)して、これにより当該気筒12内に形成される混合気に点火することで(a2)、クランク軸3を一旦、少しだけ逆転方向(図14の左方向)に回転させる。これにより停止時膨張行程気筒12(#2気筒12B)の空気を圧縮するとともに、この気筒12に燃料を噴射して(a3)、当該気筒12内に混合気を形成し、この混合気に点火することで(a4)、エンジン1が正転方向(図14の右方向)に回転し始める。
続いて、前記停止時圧縮行程気筒12(#1気筒12A)がTDCを越える前に再び当該気筒に対して燃料噴射することで(a5)、この気筒12の圧縮圧力を低下させて、ピストン13がTDCを越え易くなるようにし、さらに、続いてTDCを迎える停止時吸気行程気筒12(#3気筒12C)に対しては、空燃比がリッチ状態となるように燃料を噴射するとともに、その燃料噴射時期を通常の時期(吸気行程)よりも遅らせて圧縮行程中期とすることで(a6)、自着火の発生を防止し、これに加えて、点火時期をTDC後まで遅角させることで(a7)、逆トルクが全く発生しないようにする。このようにして停止時吸気行程気筒12を燃焼させることで、エンジン1に確実に正転方向のトルクを付加し、エンジン回転速度を十分に高めて、始動性を確保することができる。
その際、スロットル弁23を通常のアイドル運転時よりも閉じた状態に制御することで、前記停止時吸気行程気筒12(#3気筒)に続いて点火、燃焼される停止時排気行程気筒12(#4気筒12D)への吸気の充填を制限し、且つこの気筒においても前記した停止時吸気行程気筒12と同様にして燃料噴射及び点火を行うことで(a8,a9)、その停止時排気行程気筒12の燃焼によりエンジン1に付加されるトルクがあまり大きくならないようにして、始動時にエンジン回転が急激に吹き上がったり、大きな振動が発生することを防止するようにしている。
−作用効果−
したがって、この実施形態のエンジンシステムE(エンジンの始動装置)によると、上述の如く、アイドル時にエンジン1が自動で停止するときには、まず、停止条件の成立に応じて各気筒12A〜12Dの燃料カットが行われるとともに、スロットル弁23が所定期間だけ開かれて当該各気筒12A〜12Dの吸気流量が増大することにより、既燃ガスの掃気が十分に行われ、且つエンジン停止後に各々膨張行程及び圧縮行程になる気筒12,12の空気量が十分に多くなる。また、スロットル弁23が適切なタイミングで閉じられることで、前記停止後の膨張行程気筒12の空気量が圧縮行程気筒12よりも所定量、多くなり、このことで、該膨張行程12のピストン13が行程中央部よりもややBDC寄りに停止するようになる。
さらに、前記のようにスロットル弁23が開かれている所定期間は、各気筒12A〜12Dのポンプ仕事は比較的少なくなるが、この間、オルタネータ28の発電作動によってエンジン1に適度の外部負荷が加えられるとともに、その負荷の大きさがオルタネータ28の発電量の制御によって調整される。すなわち、前記燃料カットの後のエンジン停止動作期間に各気筒12A〜12Dが順次、TDCを通過するときのエンジン回転速度が、それぞれ、ECU2において検出されて、この検出値の適正回転速度範囲からの偏差に応じてオルタネータ28の発電量が制御されることで、続いて検出されるTDC回転速度が前記適正回転速度範囲の下限付近になるように、エンジン回転速度の低下度合いが調整される。
続いて、前記所定期間の経過後も前記TDC回転速度の検出が継続して行われ、この検出値が適正回転速度範囲の下限よりも低ければ、一旦、閉じられたスロットル弁23の開度が前記TDC回転速度の適正回転速度範囲からの偏差に応じて開く側に制御される。これにより、エンジン1の各気筒12A〜12Dのポンプ仕事量が減少することにより、エンジン回転速度の低下の軌跡が高回転側にシフトして行って、遅くとも最後のTDCまでに適正回転速度範囲に収まるようになる。
そして、そうなれば、その最後のTDCを越えた後は、そのまま自然にエンジン1を停止させるだけで、膨張行程気筒12のピストン13を再始動に適した範囲R内に確実に停止させることができる。これにより、その後の再始動時において上述したように良好な始動性を安定的に確保することができる。
なお、この実施形態のエンジンシステムEでは、図4のエンジン停止制御のフローのステップSA4〜SA9に示すように、燃料カット後に一旦、所定開度まで開いたスロットル弁23を閉じるとき(ステップSA6で所定回転速度以下)までは、オルタネータ28の発電制御を行う(ステップSA7,SA8)一方、その後は発電制御を行わないようにしているが、これに限るものではなく、例えば図16に別のフローの一部を示すように、エンジン回転速度の低下か又はスロットル開作動からの時間経過のいずれかによって所定期間の終了を判定して(ステップSA51)、スロットル弁23を閉じた後も(ステップSA52)、エンジン回転速度がオルタネータ28の有効に発電作動可能な所定回転速度以下(この実施形態では約350rpm以下)になるまでは(ステップSA53でNO)、ステップSA5〜SA7に戻って該オルタネータ28の発電制御を続けるようにしてもよい。
また、図示しないが、車両の発電要求によってオルタネータ28の発電量が所定値以上になっているときには、このオルタネータ28の発電制御は行わず、前記の所定開度まで開いたスロットル弁23の開度をさらに変更することによって、エンジン回転速度の低下の度合いを調整することも可能である。
さらに、前記実施形態のエンジン1では、各気筒12A〜12Dへの吸気流量を調整する吸気流量調整手段として、サージタンク21b上流のスロットル弁23を用いているが、これに限らず、吸気流量調整手段としては、各気筒12A〜12D毎の吸気弁19のリフト量を変更する周知の可変動弁機構を採用してもよいし、或いは、各気筒12A〜12D毎の分岐吸気通路21aに弁体が個別に配置された多連型のスロットル弁を用いることもできる。
そのように吸気通路21の下流側に配置された多連型のスロットル弁を用いる場合には、これを閉じる側に制御することによって吸気を応答性よく絞ることができるから、前期実施形態の上流側スロットル弁23のように開き側のみに制御するのではなく、閉じる側にも制御して、エンジン回転速度の低下の度合いを大きくすることも可能になる。
さらにまた、前記実施形態におけるエンジン1の始動制御では、最初にクランク軸3を少しだけ逆転させて、停止時膨張行程気筒12の混合気を圧縮した後に点火するようにしているが、これに限るものではなく、本発明に係るエンジン停止制御は、最初に停止時膨張行程気筒12に点火して、これによりエンジンを再始動するエンジンシステムにも適用可能である。
本発明の実施形態に係るエンジン制御システムの概略構成図である。 エンジンの吸気系及び排気系の構成を示す模式図である。 エンジン停止時に各々膨張行程及び圧縮行程になる気筒のピストン停止位置と空気量との関係を示す説明図である。 アイドル時におけるエンジン自動停止の制御を示すフローチャートである。 エンジン停止動作期間におけるエンジン回転速度、クランク角、スロットル開度及び吸気管負圧の変化を、各気筒の行程の変化と対比して示す説明図である。 エンジン停止動作期間におけるTDC回転速度とエンジン停止後のピストン停止位置との相関関係を示す分布図である。 図6の最後から2番目のTDCについて拡大して示す図である。 エンジン回転速度の低下する軌跡をスロットル弁の制御によって修正する様子を示す説明図である。 エンジン回転速度とその低下度合いとの対応関係を、オルタネータの発電作動がある場合とない場合とで対比してす図である。 エンジン停止時のピストン位置を検出するための処理を示すフローチャートである。 2つのクランク角センサから出力されるクランク角信号を示す説明図であり、(a)はエンジン正転時、(b)はエンジン逆転時のクランク角信号である。 アイドル時のエンジン再始動の前半の制御を示すフローチャートである。 アイドル時のエンジン再始動の後半の制御を示すフローチャートである。 エンジン再始動時の各気筒毎の燃料噴射及び点火タイミングを、各気筒の行程変化と吸排気弁の開作動状態とに対応づけて示す行程図である。 エンジン再始動時の各気筒毎の筒内圧、発生トルク及びエンジン回転速度の変化を示すタイムチャートである。 エンジン停止動作期間においてスロットル弁を閉じた後もオルタネータの発電制御を行う場合の制御手順の一部を示す図である。
符号の説明
E エンジンシステム(エンジンの始動装置)
1 エンジン
2 ECU(エンジンコントローラ)
2a エンジン停止手段
2b 吸気制御手段
2c 外部負荷制御手段
2d 吸気補正制御手段
12A〜12D 気筒
13 ピストン
23 スロットル弁(吸気絞り弁)
28 オルタネータ(発電機)
28a レギュレータ回路(外部負荷調整手段)
30 クランク角センサ(回転速度検出手段)

Claims (9)

  1. 停止している多気筒エンジンの少なくとも膨張行程にある気筒内に燃料を噴射供給し、点火、燃焼させることにより、始動モータを用いずに再始動するようにしたエンジンの始動装置であって、
    エンジンの各気筒への吸気流量を調整する吸気流量調整手段と、
    エンジンの外部負荷の大きさを調整する外部負荷調整手段と、
    運転中のエンジンの各気筒への燃料供給を停止することにより、該エンジンを停止させるエンジン停止手段と、
    前記エンジン停止手段による燃料供給の停止後に所定期間、各気筒への吸気流量が燃料供給停止前に比べて増大するように前記吸気流量調整手段を制御する吸気制御手段と、
    少なくとも前記所定期間が経過するまでの間、エンジン回転速度の低下状態が予め設定した目標低下状態になるように、前記外部負荷調整手段の作動制御によって外部負荷の大きさを調整する外部負荷制御手段と、
    前記所定期間の経過後にエンジン回転速度の低下状態が前記目標低下状態になるように、前記吸気流量調整手段の作動制御により吸気の流量を調整する吸気補正制御手段と、
    を備えることを特徴とするエンジンの始動装置。
  2. 吸気流量調整手段は、エンジンの吸気通路に配設された吸気絞り弁であり、
    吸気制御手段は、燃料供給の停止後に各気筒の吸気量が増大するように前記吸気絞り弁を開くとともに、エンジン停止後に膨張行程になる気筒の吸気量が圧縮行程になる気筒よりも多くなるように所定のタイミングで前記吸気絞り弁を閉じるものである
    ことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの始動装置。
  3. 燃料供給停止後にエンジン回転速度が低下する過程で各気筒が順次、圧縮上死点を通過するときのエンジン回転速度をそれぞれ検出する回転速度検出手段を備え、
    エンジン回転速度の目標低下状態は、前記回転速度検出手段によって検出される上死点回転速度がそれぞれエンジン停止後のピストン位置と相関のある特定の回転速度範囲に収まるように設定され、
    外部負荷制御手段及び吸気補正制御手段は、それぞれ、前記回転速度検出手段によって検出された上死点回転速度の前記特定回転速度範囲からの偏差に基づいて、外部負荷調整手段及び吸気流量調整手段を制御するように構成されている
    ことを特徴とする請求項2に記載のエンジンの始動装置。
  4. エンジンの吸気通路の下流側が各気筒毎に分岐して互いに独立の分岐吸気通路とされ、 吸気流量調整手段は、前記分岐吸気通路に個別に弁体が配設された多連型の吸気絞り弁であり、
    吸気補正制御手段は、回転速度検出手段により検出された上死点回転速度が特定回転速度範囲の下限よりも低いときに前記吸気絞り弁の開度を開き側に制御する一方、上死点回転速度が特定回転速度範囲の上限よりも高いときには前記吸気絞り弁を閉じ側に制御するように構成されている
    ことを特徴とする請求項3に記載のエンジンの始動装置。
  5. 吸気流量調整手段は、各気筒に共通の吸気通路に弁体が配設された吸気絞り弁であり、
    吸気補正制御手段は、回転速度検出手段により検出された上死点回転速度が特定回転速度範囲の下限よりも低いときに前記吸気絞り弁を開き側に制御する一方、上死点回転速度が特定回転速度範囲の上限よりも高いときには前記吸気絞り弁の開度制御を行わないように構成されている
    ことを特徴とする請求項3に記載のエンジンの始動装置。
  6. 外部負荷調整手段は、エンジンにより駆動される発電機の発電量を変更して、その駆動力を調整するものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のエンジンの始動装置。
  7. 外部負荷制御手段は、エンジン回転速度が発電機の有効に作動する所定回転速度以下になる前に、外部負荷調整手段の制御を終了するように構成されていることを特徴とする請求項6に記載のエンジンの始動装置。
  8. 停止している多気筒エンジンの少なくとも膨張行程にある気筒内に燃料を噴射供給し、点火、燃焼させることにより、始動モータを用いずに再始動するようにしたエンジンの始動装置であって、
    エンジンの各気筒への吸気流量を調整する吸気流量調整手段と、
    エンジンにより駆動される発電機の発電量を変更して、その駆動力を調整する発電駆動力調整手段と、
    運転中のエンジンの各気筒への燃料供給を停止することにより、該エンジンを停止させるエンジン停止手段と、
    前記エンジン停止手段による燃料供給の停止後に、エンジン回転速度が発電機の有効に作動する所定回転速度以下になるまでの間、燃料供給停止前に比べて吸気流量が増大するように前記吸気流量調整手段を制御する吸気制御手段と、
    少なくともエンジン回転速度が前記所定回転速度以下になるまでの間、そのエンジン回転速度の低下状態が予め設定した目標低下状態になるように、前記発電駆動力調整手段のの作動制御によって発電機の駆動力の大きさを調整する発電駆動力制御手段と、
    前記所定期間の経過後にエンジン回転速度の低下状態が前記目標低下状態になるように、前記吸気流量調整手段の作動制御により吸気の流量を調整する吸気補正制御手段と、
    を備えることを特徴とするエンジンの始動装置。
  9. 吸気補正制御手段は、燃料供給停止後にエンジン回転速度が所定回転速度以下になるまでの間であっても、車両の発電要求による発電機の発電量が所定値以上であれば、吸気流量調整手段の制御を行うように構成されている
    ことを特徴とする請求項8に記載のエンジンの始動装置。
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