以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
−エンジン制御システムの概略構成−
図1及び図2は、本発明に係るエンジン始動装置を含むエンジン制御システムの実施形態を示し、このエンジンシステムEは、シリンダヘッド10及びシリンダブロック11を備えたエンジン1と、該エンジン1を制御するためのECU2(エンジンコントローラ)とを備えている。前記エンジン1には、図2に示すように4つの気筒12A〜12Dが設けられていて、該各気筒12A〜12Dの内部には、図1に示すように、クランク軸3に連結されるピストン13がそれぞれ嵌挿され、これにより、前記各気筒12A〜12D内部でピストン13の上方には燃焼室14が形成されている。
ここで、一般的に、多気筒4サイクルエンジンにおいては、各気筒が所定の位相差をもって吸気、圧縮、膨張、排気の各行程からなる燃焼サイクルを行うようになっており、この実施形態の4気筒エンジンの場合、気筒列方向一端側から1番気筒12A、2番気筒12B、3番気筒12C、4番気筒12Dと呼ぶと、図5(e)に示すように、1番気筒(#1)、3番気筒(#3)、4番気筒(#4)、2番気筒(#2)の順にクランク角で180度ずつの位相差をもって燃焼が行われるようになっている。
前記各気筒12A〜12Dのそれぞれの燃焼室14の頂部には、該燃焼室14内の混合気に点火して燃焼させるための点火プラグ15が設けられていて、それらの各点火プラグ15先端の電極が前記燃焼室14内に臨むように配置されている。また、前記燃焼室14の側方(図1の右方向)には、該燃焼室14内に燃料を直接、噴射する燃料噴射弁16が設けられていて、該燃料噴射弁16は、前記点火プラグ15の電極付近に向かって燃料を噴射するように噴射方向が調整されている。この燃料噴射弁16は、図示しないニードル弁及びソレノイドを内蔵しており、前記ECU2からのパルス信号の入力によりそのパルス幅に対応する時間だけ開弁駆動されて、その駆動時間に応じた量の燃料を各気筒12A〜12D内に噴射するように構成されている。なお、前記燃料噴射弁16には、図示しない燃料ポンプにより燃料供給通路等を介して燃料が供給されるようになっていて、前記エンジンシステムEには、その燃料供給圧が圧縮行程での燃焼室14内の圧力よりも高くなるように燃料供給系統が構成されている。
また、前記各気筒12A〜12Dの燃焼室14の上部には、該燃焼室14に向かって開口する吸気ポート17及び排気ポート18が設けられていて、これらのポート17,18に吸気弁19及び排気弁20がそれぞれ配設されている。これらの吸気弁19及び排気弁20は、図示省略のカムシャフト等からなる動弁機構により駆動され、上述のとおり、各気筒12A〜12Dが所定の位相差をもって燃焼サイクルを行うように、該各気筒毎の吸・排気弁の開閉タイミングが設定されている。
そして、前記吸気ポート17及び排気ポート18にそれぞれ連通するように吸気通路21及び排気通路22が設けられており、図2に示すように、前記吸気ポート17に近い吸気通路21の下流側は各気筒12A〜12D毎に独立の分岐吸気通路21aとされ、この各分岐吸気通路21aの上流端がそれぞれサージタンク21bに連通している。また、該サージタンク21bよりも上流の吸気通路21は各気筒12A〜12Dに共通の共通吸気通路21cであり、この通路21cには例えばバタフライ弁により通路断面積を調節して吸気流を絞るスロットル弁23(吸気流量調整手段)と、これを駆動するアクチュエータ24とが配設され、さらに、図2にのみ示すが、スロットル弁23の上流側及び下流側には、それぞれ、吸気量を検出するためのエアフローセンサ25(吸気流量検出手段)と吸気圧力(負圧)を検出するための吸気圧センサ26とが配設されている。
また、前記エンジン1には、ベルト等によりクランクシャフト3に駆動連結されたオルタネータ28が付設されている。このオルタネータ28には、詳細は図示しないが、フィールドコイルの電流を制御することによって出力電圧を変更し、これにより発電量を調整するレギュレータ回路28aが内蔵されており、このレギュレータ回路28aに前記ECU2からの制御指令(例えば電圧)が入力されることで、基本的には車両の電装品の電気負荷と車載バッテリ電圧とに応じて発電量が制御されるようになっている。このようにしてオルタネータ28の発電量が変更されるときには、これに伴いその駆動力、即ちエンジン1の外部負荷の大きさが変化することになる。
さらに、前記エンジンシステムEには、前記クランク軸3の回転角を検出する2つのクランク角センサ30,31が設けられており、一方のクランク角センサ30(回転速度検出手段)からの信号によってエンジン回転速度を求めるとともに、詳しくは後述するが、それら2つのクランク角センサ30,31から出力される互いに位相のずれたクランク角信号によって、前記クランク軸3の回転方向及び回転角度を検出するようになっている。加えて、このエンジンシステムEには、カムシャフトの特定の回転位置を検出して気筒識別信号として出力するカム角センサ32、エンジン冷却水の温度(エンジン水温)を検出する水温センサ33、アクセル開度(アクセル操作量)を検出するアクセル開度センサ34等が配設されている。
前記ECU2は、前記各センサ25,26,30〜34からの信号を受け、前記燃料噴射弁16に対して燃料噴射量及びその噴射時期を制御する信号を出力するとともに、点火プラグ15の点火装置27に対して点火時期を制御する信号を出力し、さらに、前記スロットル弁23のアクチュエータ24に対してスロットル開度を制御する信号を出力する。そして、以下に詳述するが、前記ECU2は、アイドル時において所定のエンジン停止条件が成立したときに、各気筒12A〜12Dへの燃料供給を停止して(燃料カット)自動的にエンジンを停止させるとともに、その後、運転者のアクセル操作等により所定のエンジン再始動条件が成立したときには、自動的にエンジン1を再始動させるようになっている。
すなわち、前記エンジン1の再始動時には始動モータの力を借りることなく、エンジン1をそれ自体の力のみで始動させるのであるが、この実施形態では、まず、ピストン13が圧縮行程の途中で停止している気筒12で初回の燃焼を行わせて、そのピストン13を押し下げることによりクランク軸3を少しだけ逆転させ、これにより膨張行程にある気筒12のピストン13を一旦、上昇させて、その気筒12内の混合気を圧縮する。そして、その上で該膨張行程気筒12の混合気に点火して燃焼させることにより、クランク軸3に正転方向のトルクを与えて、エンジン1を始動するようにしている。
そのように、エンジン1をそれ自体の力のみによって始動させるためには、前記した膨張行程気筒12の燃焼によってクランク軸3にできるだけ大きな正転方向のトルクを与え、これにより、続いて圧縮上死点(以下、TDCと略称)を迎える気筒12がその圧縮反力(圧縮圧力)に打ち勝ってTDCを越えるようにしなければならない。従って、エンジン1の確実な始動のためには膨張行程の途中で停止している気筒12内に燃焼のための空気を十分に確保しておく必要がある。
より具体的には、エンジン1の停止時に各々膨張行程及び圧縮行程になる気筒12,12(以下、各々停止時膨張行程気筒、停止時圧縮行程気筒ともいう)では、図3に示すように互いに位相が180°ずれていて、ピストン13が逆相に作動するので、膨張行程気筒12のピストン13が行程中央部よりも下死点(以下、BDCと略称)寄りに停止していれば、その気筒12内の空気量は多くなって燃焼により大きなトルクが得られるものの、該ピストン13をあまりBDC寄りに停止させると、圧縮行程気筒12の空気量が少なくなり、エンジン1の逆転のためのトルクが十分に得られなくなる。
この点、前記膨張行程気筒12のピストン13を行程中央部から多少、BDC寄りの所定範囲R(図例ではATDC100〜120°CA)内に停止させれば、圧縮行程気筒12に適量の空気が存在して、ここでの初回の燃焼による逆転作動が可能であり、しかも、膨張行程気筒12の空気量が多くなるので、ここでの燃焼によるトルクを十分に大きくして、始動性を確保することができるのである。
そこで、アイドル時にエンジン1を自動停止させるときには、まず、各気筒12A〜12Dの掃気が十分に行われるように、アイドル回転速度よりもやや高い所定回転速度で燃料カットを行うとともに、所定期間はスロットル弁23を開いて、予め設定した開度になるように制御する。そして、そのように開いたスロットル弁23を閉じるタイミングを適切に設定することで、停止時膨張行程気筒12及び停止時圧縮行程気筒12へそれぞれ吸入される空気量が十分に多くなり、且つ該膨張行程気筒12の空気量が圧縮行程気筒12よりも多くなるようにすることができる。こうすれば、その2つの気筒12の圧縮圧力のバランスによって、膨張行程気筒12のピストン13が行程中央部から多少、下死点(BDC)寄りの前記所定範囲R内に停止する確率が高くなる。
一方で、そのようにスロットル弁23を開くことで、各気筒12A〜12Dへの吸気量が多くなれば、当然ながら該各気筒12A〜12Dの圧縮反力も大きくなるので、エンジン1の停止直前の揺れが大きくなって、運転者が不快に感じる虞れがある。すなわち、停止直前のエンジン回転速度が非常に低い状態では、前記気筒12A〜12Dのポンプ仕事に由来する回転速度の変動周期が非常に長くなって低周波の揺れが発生することになるし、その後のエンジン1の逆転動作に伴う揺り返しも低周波のものとなるので、これらの揺れが大きくなると、運転者が不快感を覚えることになるのである。
この点について、この実施形態では、詳しくは後述するが、エンジン1の停止直前に、前記停止時膨張行程気筒12及び停止時圧縮行程気筒12が各々圧縮行程にあるときに、この各気筒12内に燃料を噴射してその気化潜熱により空気を冷却し、これにより圧縮圧力を低下させることで、前記停止時膨張行程気筒12が最後のTDCを通過するときの回転速度の変動を低減して、エンジン1の揺れを抑えるとともに、その後の逆転作動に伴う揺り返しも抑制するようにしている。
−エンジンの停止制御−
次に、前記ECU2によるエンジン停止の制御について図4〜8を参照して説明する。なお、図4及び図5は停止制御の手順を示すフローチャート図であり、図6は、燃料カットから惰性で回転するエンジン1が停止するまでの間(以下、停止動作期間ともいう)におけるエンジン回転速度、クランク角及び各気筒12A〜12Dの行程の変化を互いに対応づけて示すとともに、その間に行われるスロットル開度の制御と、これによる吸気圧力(吸気管負圧)の変化とを模式的に示す説明図である。
また、図7は、前記停止動作期間において徐々に回転が低下するエンジン1のTDC回転速度(後述)と、停止後の膨張行程気筒12におけるピストン停止位置との相関関係を示す図であり、図8は、エンジン停止直前の圧縮行程気筒12への燃料噴射によってエンジン回転速度の変動状態が変化する様子を示す説明図である。
まず、前記図6(a)に示すように、エンジン1の運転中に所定の設定回転速度(図例では800rpm)で燃料カットが行われると(時刻t0)、そのときにクランク軸3やフライホイール等の運動部分が有する運動エネルギーが機械的な摩擦や各気筒12A〜12Dのポンプ仕事によって消費されることで、エンジン回転速度が徐々に低下し、エンジン1は惰性で数回転した後に停止することになる。詳しくは、そのようにエンジン1が惰性で回転する間、エンジン回転速度は、微視的には各気筒12A〜12Dの圧縮上死点(TDC)を迎える毎に一時的に大きく落ち込み、TDCを越えると再び上昇する、というようにアップダウンを繰り返しながら低下して行く。そして、例えば図示の如く約800rpmで燃料カットした場合には、通常はTDCを8、9回越えて、その最後のTDCを越えた後に(時刻t3)、その次のTDCを越えることができなくなって、停止に至る(時刻t4〜t6)。
すなわち、前記の如くTDCを越えることができずに圧縮行程に留まる気筒12(図の#1気筒12A)では、慣性力によるピストン13の上昇に伴い空気圧が高まり、その圧縮反力によってピストン13が一旦、停止(時刻t4)した後に、BDCに向かって押し返される。これによりクランク軸3は逆転し、同図(a)に示すようにエンジン回転速度が負値になるが、そうすると、今度は膨張行程にある気筒12(前記最後のTDCを越えて膨張行程に移行した気筒であり、図例では#2気筒12B)の空気圧が上昇して、ピストン13にBDC側への圧縮反力が作用し、この圧縮反力によって該膨張行程気筒12のピストン13が一旦、停止(時刻t5)した後に、BDCに向かって押し返される。こうしてクランク軸3は再び正転し、エンジン回転速度は正値に戻る。
そのように、圧縮行程気筒12及び膨張行程気筒12のピストン13にそれぞれ逆向きに作用する圧縮反力によって、各気筒12A〜12Dのピストン13はそれぞれ数回、往復作動した後に停止することになるが(時刻t6)、その停止位置は、前記圧縮及び膨張行程気筒12の圧縮反力のバランスによって概略決定されるとともに、エンジン1の摩擦等の影響を受けて、停止前に最後にTDCを越えるときのエンジン1の回転慣性、即ち最後にTDCを越えるときのエンジン回転速度の高低に応じて変化することになる。
従って、エンジン停止時に膨張行程にある気筒12のピストン13を再始動に適した所定範囲R内に停止させるためには、まず、その停止時膨張行程気筒12及び停止時圧縮行程気筒12の圧縮反力がいずれも十分に大きくなり、且つ膨張行程気筒12の圧縮反力が圧縮行程気筒12よりも所定以上、大きな適切なバランスとなるように、両方の気筒12への吸入空気量を調節する必要がある。このために、この実施形態では、図6(c)に示すように、燃料カット後に直ちに開いたスロットル弁23(時刻t1)を所定期間の経過後に閉じて(時刻t2)、同図(d)に示すように一時的に吸気管負圧を減少させる(吸気量は増大)ことで、停止時の圧縮及び膨張行程気筒12にそれぞれ所要量の空気が吸入されるようにしている。
但し、実際のエンジン1ではスロットル弁23自体や吸気ポート17、分岐吸気通路21a等の形状に個体ばらつきがあり、それらを流通する空気流の挙動が変化することもあって、エンジン1の停止動作期間に各気筒12A〜12Dに流入する空気の量には或る程度のばらつきを生じるから、上述のようなスロットル弁23の開閉制御を行ったとしても、それだけではエンジン停止時に圧縮行程や膨張行程になる気筒12のピストン停止位置を正確に目標とする範囲R内に収めるることは難しい。
この点につき、この実施形態では、図7に一例を示すように、停止動作期間においてエンジン回転速度が徐々に低下する過程で、各気筒12A〜12Dが順次、TDCを通過するときのエンジン回転速度(請求項に記載の上死点回転速度であり、以下、TDC回転速度ともいう)と、エンジン停止後に膨張行程にある気筒12のピストン停止位置との間に明確な相関関係があることに着目して、前記図6(a)に示すようにエンジン回転速度が低下する過程で180°CA毎のTDC回転速度をそれぞれ検出し、この検出値に応じてオルタネータ28の発電量やスロットル弁23の開度を制御することにより、エンジン回転速度の落ち具合を調整するようにしている。
詳しくは、前記図7は、上述の如くエンジン回転速度が略800rpmのときに燃料カットを行い、その後の所定期間、スロットル弁23を開状態に維持するようにして、惰性で回転するエンジン1の各気筒12A〜12DがTDCを越える度に、そのときのエンジン回転速度(TDC回転速度)を計測するとともに、そうして停止した後の膨張行程気筒12のピストン位置を調べて、このピストン位置を縦軸に、また、前記TDC回転速度を横軸に取って、両者の関係を表したものである。このような作業を所定回数、繰り返すことで、エンジン停止動作期間におけるTDC回転速度と停止後の膨張行程気筒12におけるピストン停止位置との間の相関関係を表す分布図が得られる。
図の例では、エンジン停止前の最後のTDCを越えるときの回転速度は示されておらず、燃料カット直後のTDC回転速度(図例では最後から数えて9番目のもの)から最後の1つ前のTDC回転速度(最後から数えて2番目のもの)までのデータが示されている。この最後から9〜2番目のTDC回転速度は、それぞれ一塊りとなって分布しており、特に図示の6〜2番目のものにおいて明らかなように、TDC回転速度が或る特定の範囲(図に斜線を入れて示す範囲)にあれば、ピストン停止位置が再始動に好適な範囲R(ATDC100〜120°CA)に入ることが分かる。
前記の如く、膨張行程気筒12のピストン13がエンジン1の再始動に好適な所定範囲Rに停止することになるTDC回転速度の特定の範囲を、以下、この明細書では適正回転速度範囲と呼ぶものとする。そして、この実施形態では、以下に詳述するが、前記図6(a)のようにエンジン回転速度がアップダウンを繰り返しながら低下するときに、各気筒12A〜12D毎のTDC回転速度をそれぞれ検出し、この検出値と前記適正回転速度範囲とを比較して、両者の速度偏差に応じてオルタネータ28の発電量やスロットル弁23の開度を制御するようにしている。
すなわち、まず、燃料カット直後の所定期間は、上述の如く、各気筒12A〜12Dの掃気等のためにスロットル弁23を比較的大きく開いており、このスロットルの開度をさらに調整しても気筒12のポンプ仕事量があまり変化しないから、これによるエンジン回転速度の調整は難しい。そこで、この間は意図的にオルタネータ28を発電作動させるとともに、その発電量を変更制御して、そのための発電駆動力の大きさを変化させることにより、エンジン回転速度の低下の度合いを調整する。この際、TDC回転速度が適正回転速度範囲の下限寄りになるように、即ちエンジン回転がやや落ち気味になるように、オルタネータ28の発電量を大きめに制御する。
また、前記所定期間の経過後は、スロットル弁23の開度を制御してエンジン1のポンプ仕事量を調整することによって、エンジン回転速度の低下の度合いを調整する。但し、サージタンク21bの上流に配置したスロットル弁23の場合、これを閉じる側に制御しても各気筒12A〜12Dの吸気量の変化は鈍いから、前記のように予めオルタネータ28の制御によってエンジン回転速度を低めに誘導しておいて、TDC回転速度が適正回転速度範囲よりも低くなったときにのみ、エンジン回転速度の低下が緩やかになるようにスロットル開度を開き側に制御するようにしている。
そのように、オルタネータ28の発電制御とスロットル弁23の開度の制御とによってエンジン回転速度の低下の度合いを調整して、遅くとも最後のTDCを通過するまでにTDC回転速度が前記適正回転速度範囲に収まるようにすれば、この時点でクランク軸3やフライホイール、或いはピストン13、コネクティングロッド等の運動部分が有する運動エネルギーや圧縮行程気筒12の高圧空気が有する位置エネルギー等が、その後に作用する摩擦等と見合うものになって、エンジン1の停止時に膨張行程にある気筒12のピストン13を前記の再始動に適した所定範囲R内に停止させることができる。
ところで、前記図6(a)や図8にも示すように、エンジン1の回転速度変動(アップダウン)はエンジン回転速度の低下とともに徐々に大きくなり、且つその変動周期が長くなるから、前記図8に示すような停止直前の状態において、特に最後のTDCを通過する前後の大きな回転速度変動に起因するエンジン1の揺れが人間にとって不快な低周波のものとなる。また、その後のエンジン1の逆転作動に伴い発生する揺り返しも同様である。
しかも、上述したように、エンジン1の自動停止時には掃気等のためにスロットル弁23を開くようにしており、このことで、特に停止時膨張行程気筒12及び停止時圧縮行程気筒12の吸気量が多くなって圧縮反力が増大するから、前記最後のTDCにおける回転速度の変動幅が大きくなり、エンジン1の揺れが大きくなるとともに、その後の揺り返しも大きくなってしまい、運転者が不快感を感じる虞れが強い。
この揺れの問題に対して、この実施形態では、前記図8において符号Inj1,Inj2として示すように、まず、エンジン停止前の最後のTDCを通過する前に圧縮行程にある気筒12、即ちその最後のTDCを越えて膨張行程に移行する停止時膨張行程気筒12(図の例では#2気筒12B)に対して、所定量の燃料を適切なタイミングで噴射し(Inj1)、その気化潜熱により気筒12内の空気を冷却して、圧縮反力(圧縮圧力)を低下させるようにしている。こうすることで、図に波線で示すように。前記最後のTDCを通過するときのエンジン回転速度の変動が効果的に低減されて、エンジン1の揺れが小さくなる。
また、その次のTDCを越えることができずに圧縮行程に留まる停止時圧縮行程気筒12(図の例では#1気筒12A)に対しても、エンジン1が逆転作動をした後に所定量の燃料を噴射して(Inj2)、その気化潜熱により気筒12内の空気を冷却し、これにより当該気筒12の圧縮圧力を低下させるようにしている。このことで、前記停止時圧縮行程気筒12内の空気の圧縮圧力が十分に高くなり、エンジン1が殆ど動いていない状態で、その空気の圧力を低下させることができ、この圧縮空気からピストン13に付加されるエンジン逆転方向への力が小さくなって、揺り返しを抑えることができる。
次に、上述したエンジン停止制御の具体的な手順を図4及び図5のフローチャートに基づいて説明すると、このフローはエンジン運転中の所定のタイミングでスタートして(START)、ステップSA1ではアイドルストップの条件(IDL Stop条件)が成立したか否かの判定を行う。この判定は、車速、ブレーキの作動状況、エンジン水温等に基づいて行うもので、例えば車速が所定速度よりも小さく、ブレーキが作動していて、エンジン水温が所定範囲内にあり、さらにエンジン1を停止させることに特に不都合のない状況であれば、アイドルストップ条件が成立したものとする。
前記ステップSA1でアイドルストップ条件が成立したとき(YESの場合)には、続くステップSA2で、いずれか1つの気筒12(例えば1番気筒12A)を特定して、エンジンを停止させる所定の条件が成立したかどうかの判定を行う。すなわち、エンジン回転速度が燃料カットの設定回転速度(この実施形態では略800rpm)であるかどうか、前記特定した気筒12が予め設定した行程(例えば吸気行程)にあるかどうか等を判定する。そして、全ての条件が成立してYESと判定されれば、ステップSA3に進んで、各気筒12A〜12Dへの燃料噴射を停止し(燃料cut)、続くステップSA4ではスロットル弁23を設定開度になるように開く(スロットルopen)。これにより、図6(c)(d)に示すように各気筒12A〜12Dへの吸気量が増大し、十分な掃気が行われる。
続いて、ステップSA5において、クランク角センサ30からの信号により求められるTDC回転速度が適正回転速度範囲にあるかどうか判定する(TDC時の回転速度が所定範囲内?)。この判定がYESでTDC回転速度が適正回転速度範囲にあれば、ステップSA6に進み、今度はエンジン回転速度が所定回転速度以下かどうか判定する。この所定回転速度は、吸気の輸送遅れを考慮して、図6(c)(d)に示すように停止時膨張行程気筒12(図例では#2気筒12B)への吸気量が停止時圧縮行程気筒12(図例では#1気筒12A)よりも多くなるようなタイミングでスロットル弁23を閉じるためのものであって、同図の時刻t2に対応し、この実施形態では例えば約500〜600rpmの範囲に設定されている。そして、エンジン回転速度が前記所定回転速度以下になれば(ステップSA6でYES)、後述のステップSA9に進む一方、エンジン回転速度が所定回転速度よりも高ければ(NOの場合)、前記ステップSA5にリターンする。
前記ステップS5においてTDC回転速度が適正回転速度範囲にないと判定された場合(NOの場合)には、ステップSA7に進み、TDC回転速度と適正回転速度範囲との間の回転速度の偏差に基づいてオルタネータ28の発電量を算出する。この発電量は、例えばエンジン回転速度、適正回転速度範囲からの速度偏差及び現在の発電量に応じて予め設定されたマップから読み出され、例えばTDC回転速度が適正回転速度範囲の上限よりも高いときには、エンジン1の負荷が増えるようにオルタネータ28の発電量を増大させる一方、TDC回転速度が適正回転速度範囲の下限よりも低いときには、エンジン1の負荷が減るように発電量を減少させるものである。また、前記マップにおいて発電量の目標値は、TDC回転速度が適正回転速度範囲の下限付近になるよう大きめに設定されている。
そして、前記ステップSA7に続くステップSA8では、前記の算出結果に応じてオルタネータ28のレギュレータ回路28aに制御指令を出力する(オルタネータ発電)。このオルタネータ28の発電作動によってエンジン1の負荷が調整されることで、惰性で回転するエンジン1の回転速度の軌跡は高回転側又は低回転側のいずれかにシフトされて、徐々に目標とする軌跡に近づいて行く。そうして、エンジン回転速度が前記ステップSA6の所定回転速度以下になれば(YES)、ステップSA9に進んで、スロットル弁23を閉じる(スロットルclose)。
続いて、ステップSA10において、前記ステップSA5と同様にTDC回転速度が適正回転速度範囲にあるかどうか判定し、判定がYESでTDC回転速度が適正回転速度範囲にあれば、ステップSA11に進む一方、TDC回転速度が適正回転速度範囲にないと判定された場合(NOの場合)には、ステップSA12に進み、TDC回転速度の適正回転速度範囲からの偏差に基づいてスロットル弁23の開度を算出する。このスロットル開度は、例えばエンジン回転速度、適正回転速度範囲からの速度偏差及び現在の開度に応じて予め設定されたマップから読み出され、TDC回転速度が適正回転速度範囲の下限よりも低いときには、エンジン1のポンプ仕事量が減少するようにスロットル開度を増大する一方、TDC回転速度が適正回転速度範囲の上限よりも高いときには、スロットル制御を行わないように設定されている。
すなわち、サージタンク21b上流のスロットル弁23を用いる場合には、吸気を絞る側への応答遅れが大きくなり、十分な制御性が得られないから、上述の如く、予めオルタネータ28の発電作動による負荷を大きめにして、エンジン回転速度の低下度合いを大きく(回転速度を低めに)しておいて、TDC回転速度が適正回転速度範囲の下限よりも低いときにのみ、スロットル弁23を開く側に駆動してエンジン回転速度の低下の度合いを緩やかにするのである。そして、続くステップSA13でスロットル弁23のアクチュエータ24を駆動して(スロットル駆動)、前記ステップSA11に進む。
前記のようなオルタネータ28及びスロットル弁23の制御によって、燃料カット後のエンジン回転速度の低下度合いを調整することで、図6(a)や図8に示すようにアップダウンを繰り返しながら徐々に低下するエンジン回転速度の軌跡を徐々に修正して、遅くとも最後のTDCまでには概ね適正回転速度範囲に収めることが可能になる。
そして、ステップSA11では、検出したTDC回転速度が所定値A以下かどうか判定する。この所定値Aは、予め実験的に求めたエンジン停止前の最後から2番目のTDC回転速度に対応づけて設定したものであり、前記ステップSA10で求めたTDC回転速度が所定値A以下ならば(判定がYESの場合)、エンジン1は最後から2番目のTDCを通過しており、次のTDCを通過する可能性はあるが、その次のTDCを通過することはない、と判定して、図5のステップSA14に進む。一方、TDC回転速度が所定値Aよりも高ければ(判定がNOの場合)、エンジン1は前記最後から2番目のTDCを未だ通過していないので、上述のスロットル弁23の制御を継続すべく、ステップSA10にリターンする。
一方、前記ステップSA11においてYESと判定して進んだ図5のステップSA14では、今度は、前記TDC回転速度(検出値)が所定値B以下かどうか判定する。この所定値Bは、前記所定値Aと同様に予め実験的に求めてエンジン停止前の最後のTDC回転速度に対応づけて設定したものであり、TDC回転速度が所定値B以下であれば(判定がYESの場合)、エンジン1は最後のTDCを既に通過しているので、後述のステップSA17に進む一方、TDC回転速度が所定値Bよりも高ければ(判定がNOの場合)、次に迎えるTDCが最後のTDCであるから、ステップSA15,SA16に進んで、そのときに圧縮行程にある気筒12(図8に示す#2気筒12B)が最後のTDCを越える前に、この気筒12内に燃料を噴射して(圧縮行程気筒に燃料を噴射)、前記ステップSA14にリターンする。
つまり、エンジン停止前の最後のTDCを迎える圧縮行程気筒12(その後、TDCを越えて膨張行程で停止する停止時膨張行程気筒)に対して燃料を噴射供給し、その気化潜熱により気筒12内の空気を冷却して、圧縮圧力を低下させることで、本来ならば回転速度変動が正転中で最も大きくなるはずの最後のTDCにおいて、その回転速度変動を大幅に低減することができ、これによりエンジン1の不快な揺れを抑制することができる。
ここで、前記停止時膨張行程気筒12への燃料噴射量の算出は、前記ステップSA15において、エアフローセンサ25により検出された吸気の流量とTDC回転速度とに基づいて、予めそれらに対応づけて設定したマップから燃料噴射量を読み込むことにより、行われる。このマップにおいて、燃料噴射量の目標値は、後述する再始動時において改めて停止時膨張行程気筒12内に燃料を噴射しても、この気筒12内の空燃比が過度にリッチな状態にならないように、基本的には理論空燃比よりもリーンになるように設定されている。
また、前記マップにおいて燃料噴射量の目標値は、TDC回転速度が前記所定値A〜Bの範囲内で相対的に高いとき(所定値Aに近いとき)には、これに応じて減少補正される一方、TDC回転速度が相対的に低いとき(所定値Bに近いとき)には、これに応じて増大補正されるようになっていて、且つそのように増大補正が行われたときでも、気筒12内の空燃比がリッチ側の可燃限界(例えばA/F=7〜8)よりもリーンになるように設定されている。
前記のように燃料噴射量をTDC回転速度に応じて補正するのは、エンジン停止直前の圧縮行程気筒12への燃料噴射によってピストン停止位置が変化することを考慮したものである。すなわち、前記停止時膨張行程気筒12が最後のTDCを越える前の圧縮行程にあるときに、この気筒12内に燃料を噴射して圧縮反力を低下させると、この結果として、最後のTDCを越えるときのエンジン回転速度が高くなり、その時点での回転慣性力が大きくなるから、停止時膨張行程気筒12におけるピストン13の停止位置は相対的にBDC寄りに変化すると考えられる(但し、圧縮反力が低下すると、TDC通過後の膨張行程におけるエンジン回転速度の上昇も鈍くなるから、ピストン停止位置の変化は、あまり大きくはならない)。
そこで、仮に、前記最後から2番目のTDCにおいて検出したTDC回転速度に基づいて、ピストン停止位置が所定範囲RからややTDC寄りにずれていると推定されるときには、圧縮行程気筒12に噴射する燃料の量を増量して、最後のTDCを越えるときのエンジン回転速度が相対的に高くなるようにし、一方、ピストン停止位置がBDC寄りにずれていると推定されるときには燃料噴射量を減量して、最後のTDCを越えるときのエンジン回転速度が相対的に低くなるようにしている。
つまり、前記のフローでは、エンジン停止前の最後から2番目のTDC回転速度に基づいて、停止後に膨張行程になる気筒12のピストン停止位置を推定し、これに応じて、当該気筒12内に最後の圧縮行程で噴射する燃料の量を補正することで、そのピストン停止位置を修正するようにしたものである。なお、前記燃料噴射の時期は圧縮行程の後半とするのが好ましい。これは、圧縮作動によって気筒12内の空気の温度が十分に高くなった後に燃料を噴射することで、この燃料が高温の空気から効率よく熱を奪って気化するようになるからである。
前記のようにして、エンジン1が最後のTDCを通過すれば、その最後のTDCにおいて検出されるTDC回転速度は前記所定値B以下になるので、リターンした前記ステップSA14においてYESと判定されて、ステップSA17に進む。このステップSA17では、後述のサブルーチン(図9,10参照)により、2つのクランク角センサ30,31から出力される互いに位相のずれたクランク角信号に基づいて、エンジン1が逆転したかどうか判定する。そして、判定がNOであれば逆転するまで待つ一方、エンジン1が逆転して判定がYESになれば、続くステップSA18において、今度は、そのときに圧縮行程にある気筒12(停止時圧縮行程気筒:図8に示す#1気筒12A)がTDC前の所定クランク角範囲にあるかどうか判定する(所定クランク角範囲?)。
このクランク角の判定は、エンジン1の逆転作動によってTDCから離れてBDCに向かう前記圧縮行程気筒12のピストン13がある程度以上、TDCから離れて、燃料噴射弁16から噴射された燃料が該ピストン13の冠面にあまり付着しないような状態になったことを判定するためのものである。従って、前記ステップSA18において所定クランク角範囲にあると判定されれば(判定がYESの場合)、直ちにステップSA19,SA20に進んで、逆転作動中の前記停止時圧縮行程気筒12内に燃料を噴射し、しかる後に、ステップSA21に進む。
つまり、前記の如く停止時膨張行程気筒12が最後のTDCを越えて膨張行程に移行した後に、これに伴い圧縮行程に移行した気筒12(そのまま圧縮行程で停止する停止時圧縮行程気筒)の圧縮圧力が増大して、これによりエンジン1が逆転作動を開始した後に、その気筒12内にも燃料を噴射して高温高圧の空気を冷却し、圧力を低下させるようにしている。これにより、前記圧縮行程気筒12においてピストン13に加わるエンジン逆転方向への圧縮圧力を低下させて、エンジン1の揺り返しを小さくすることができる。
換言すれば、惰性で回転するエンジンの運動エネルギーが殆ど全て圧縮行程気筒12内の空気の位置エネルギーに変換された状態で、噴射した燃料の気化潜熱により前記圧縮空気を冷却し、その圧力を低下させることで、前記エンジン1の運動エネルギーを極めて効率よく吸収して、停止直前の揺り返しを抑えるようにしたものである。
その際に、前記ステップSA19においても、前記停止時膨張行程気筒12の場合(ステップSA15)と同様に、吸気流量とTDC回転速度とに基づいてマップから燃料噴射量を読み出すようにしている。このマップにおいても、燃料噴射量の基本的な目標値は吸気流量に応じて空燃比がリーンになるように設定されており、このことで、後述する再始動時において当該気筒12内に改めて燃料を噴射しても、該気筒12内の空燃比が過度にリッチな状態にはならないので、その燃料噴射によって点火プラグ15近傍に燃焼性の高い混合気を形成して、着火性を高めることができる。
また、前記のマップにおいても、エンジン1の停止直前の燃料噴射によってピストン13の停止位置が変化することを考慮して、前記停止時圧縮行程気筒12の場合と同じく、TDC回転速度に応じて燃料噴射量を補正するようにしている。より具体的には、このマップにおける燃料噴射量の目標値は、TDC回転速度が予め設定した所定値(前記所定値Bよりも小さな値)以上であれば、0になり、このときには実際には燃料噴射を行わないことになる一方で、TDC回転速度が前記所定値よりも低ければ、低いほど、燃料噴射量が増大するように設定されている。
すなわち、最後のTDCにおけるエンジン回転速度が前記所定値よりも低いときには、そのままでは膨張行程気筒12のピストン13が再始動に好適な所定範囲RよりもTDC寄りに停止するか、又はその範囲R内の相対的にTDC寄りの位置に停止することになるのだが、この実施形態では、TDC回転速度の前記所定値からの偏差に応じて前記圧縮行程気筒12への燃料噴射量を変更することで、当該気筒12の圧縮圧力を適度に低下させ、これにより、該圧縮行程気筒12におけるピストン13の停止位置を適度にTDC寄りに変化させる。この結果、膨張行程気筒12におけるピストン13の停止位置は適度にBDC寄りに変化することになり、前記所定範囲R内に入るように修正されるのである。
一方、前記最後のTDC回転速度が前記所定値以上であれば、そのままでも膨張行程気筒12のピストン13が再始動に好適な所定範囲Rの相対的にBDC寄りの位置に停止すると推定されるので、このときには、敢えて前記圧縮行程気筒12への燃料噴射は行わないのである。
つまり、前記ステップSA19では、エンジン停止前の最後のTDC回転速度に基づいて、停止後に膨張行程になる気筒12のピストン停止位置を推定し、これに応じて、当該気筒12の次に圧縮行程に移行した気筒12(停止時圧縮行程気筒)に対して噴射する燃料の量を補正することで、前記停止時膨張行程気筒12におけるピストン13の停止位置を修正するようにしたものである。
なお、前記のように、停止時膨張行程気筒12及び停止時圧縮行程気筒12がそれぞれ圧縮行程にあるときに燃料を噴射しても、それらの気筒12,12はその後のエンジン停止までに排気行程を迎えることがないので、燃料が未燃状態で放出される心配はない。また、そうして気筒12内に噴射された燃料は十分に気化して空気と混合された状態で残留し、後述するエンジン再始動時に燃焼されることになる。
そうして、前記ステップSA20に続くステップSA21では、前記したようにエンジン1が正転側及び逆転側に数回、作動した後、完全に停止したことをクランク角センサ30,31からの信号に基づいて判定する。この判定がYESになって、エンジン1の停止が確認されれば、ステップSA22に進んで、後述のサブルーチンにより膨張行程にある気筒12のピストン停止位置を検出し、これをECU2のメモリに記憶して、エンジン停止制御を完了する(END)。
すなわち、前記のようにエンジン1の停止の直前には、クランク軸3が正逆両方に数回、回動するので、クランク角センサ30からの信号をカウントするのみではピストン停止位置を検出することはできない。そこで、この実施形態では、2つのクランク角センサ30,31から出力される互いに位相のずれたクランク角信号に基づいて、以下のようにクランク軸3の回転方向及び回転角度を検出し、これにより各気筒12A〜12DのTDC又はBDCに対するクランク角、即ちピストン停止位置を検出するようにしている。
具体的に図9は、ピストンの停止位置を検出するためのサブルーチンを示すフローチャートであり、このフローがスタートすると、ステップSC1で、第1クランク角信号CA1(第1クランク角センサ30からの出力信号)及び第2クランク角信号CA2(第2クランク角センサ31からの出力信号)に基づいて、ECU2が前記第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に前記第2クランク角信号CA2がLow、Highのいずれであるか、或いは、前記第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に前記第2クランク角信号CA2がHigh、Lowのいずれであるか、を判定する。つまり、これらの信号CA1,CA2の位相の関係が図10(a)のようになるか、又は図10(b)のようになるかを判別して、これによりエンジン1の正転、反転を判別する。
より詳しくは、エンジンの正転時には、図10(a)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相遅れを生じることになり、前記第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLowに、前記第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighになる。一方、エンジンの逆転時には、図10(b)のように、前記第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相の進みを生じることになり、上述のエンジン正転時とは逆に、前記第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がHighに、前記第1クランク各信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がLowになるからである。
そして、前記フローのステップSC1でエンジン1が正転状態であると判定された場合(YESの場合)には、エンジン1の正転方向のクランク角変化を計測するためのCAカウンタのカウント数を増やし、反対に逆転状態であると判定された場合(NOの場合)には前記CAカウンタのカウント数を減らすようにする。ここで、第1クランク角信号CA1及び第2クランク角信号CA2の立ち上がり及び立ち下がりは、クランク軸3の回転により所定角度毎(この実施形態では、立ち上がり又は立ち下がりのそれぞれの間隔が略10度毎)に生じるように設定されているため、第1クランク角信号CA1の立ち上がり及び立ち下がり時の第2クランク角信号CA2の状態により、前記のようにしてエンジン1の正転・逆転を判定することができるとともに、前記第1クランク角信号CA1及び第2クランク角信号CA2の立ち上がり又は立ち下がりの回数によって、クランク軸3の回転角度を求めることができる。こうして、エンジン停止時に上述の如くクランク軸3が正逆、両方に回動しても、そのことに依らず正確にクランク角を検出して、ピストン停止位置を求めることができる。
前記図4及び図5に示すエンジン停止制御のフローにおいて、図4のステップSA3により、運転中のエンジン1の各気筒12A〜12Dへの燃料供給を停止することにより、エンジン1を停止させるエンジン停止手段2aが構成され、また、ステップSA4、SA6,SA9により、前記エンジン停止手段2aによる燃料カット後の停止動作期間において、所定期間、各気筒12A〜12Dの吸気量が増大するようにスロットル弁23を開く吸気流量制御手段2bが構成されている。
また、同図のステップSA2、SA5、SA10により、燃料カット後のエンジン停止動作期間に、その後のエンジン停止時に膨張行程の途中で停止する気筒12(停止時膨張行程気筒)を推定する停止気筒推定手段2cが構成されている。すなわち、この実施形態では、まず、前記ステップSA2において特定の気筒12(この実施形態では例えば第1気筒12A)が所定行程(例えば吸気行程)にあるときに燃料カットを実行するようにしており、このことで、その一つ前の点火順の気筒12(例えば第2気筒12B)が膨張行程で停止すると推定することができる。そして、さらにエンジン回転速度が低下する課程で、各気筒12A〜12D毎のTDC回転速度が適正回転速度範囲の付近にあれば、前記気筒(第2気筒12B)が最初の推定通り、停止時膨張行程気筒となるのである。
さらに、図5のステップSA14〜SA16,SA19,SA20によって、前記停止気筒推定手段2cにより推定された停止時膨張行程気筒12がエンジン停止前の最後の圧縮行程にあるときに、即ち、エンジン停止前の最後のTDCを越える前に、当該気筒12の圧縮行程後半で燃料噴射弁16により燃料を噴射させるとともに、該停止時膨張行程気筒12が最後のTDCを越えて膨張行程に移行した後、ステップSA17においてエンジン1の逆転作動が検出された後に、圧縮行程にある気筒12(停止時圧縮行程気筒)内にも燃料噴射弁16により燃料を噴射させる燃料噴射制御手段2dが構成されている。
そして、前記燃料噴射制御手段2dは、最後から2番目のTDCにおいて検出したTDC回転速度に応じて、最後のTDC通過前の圧縮行程にある停止時膨張行程気筒12への燃料噴射量を補正するとともに、最後のTDCにおいて検出したTDC回転速度に応じて、これを通過した後の圧縮行程気筒12への燃料噴射量を補正する(燃料噴射量=0の場合も含む)ようになっている(ステップSA15,SA19)。
すなわち、換言すれば、前記ステップSA15,SA19が、前記停止時膨張行程気筒12のピストン停止位置を、TDC回転速度に基づいて推定するピストン停止位置推定手段2eに対応しており、前記燃料噴射制御手段2dは、最後から2番目のTDC回転速度に基づくピストン停止位置の推定結果に応じて、最後のTDCを越える前の圧縮行程気筒12への燃料噴射量を補正するとともに、最後のTDC回転速度に基づいてピストン停止位置が比較的TDC寄りになると推定された場合に、エンジン1の逆転作動後に圧縮行程気筒12へ燃料を噴射するように構成されている。
さらに、前記燃料噴射制御手段2dは、前記のように最後のTDCを越えた後の圧縮行程気筒12への燃料噴射をエンジン1の逆転作動後に行うようにしており、この逆転作動をクランク角センサ30,31からの信号に基づいて検出するステップSA17は、エンジン1の停止前の逆転作動を検出する逆転作動検出手段2fに対応している。
以上、詳述したエンジン停止制御によると、アイドル時に燃料カットによりエンジン1を自動停止させるときには最初の所定期間、スロットル弁23を開いて、停止後に各々膨張行程及び吸気行程になる気筒12,12にそれぞれ所要量の空気が吸入されるようにするとともに、オルタネータ28及びスロットル弁23の制御によりエンジン回転速度の低下の度合いを調整することで、エンジン1停止後の膨張行程気筒12においてピストン13を再始動に好適な所定範囲Rに停止させることができる。
また、エンジン停止直前の最後のTDCの通過前後でそれぞれ圧縮行程にある気筒12,12に燃料を噴射して、当該気筒12の圧縮圧力を低下させることにより、停止直前のエンジン回転速度の変動を大幅に低減し、これによりエンジン1の揺れを効果的に抑制するとともに、クランク軸3の正転・逆転による揺り返しも抑えることができる。しかも、その際の燃料噴射量をTDC回転速度に応じて補正することにより、停止時膨張行程気筒12におけるピストン13の停止位置が前記所定範囲Rに入るよう、最終的に修正することができる。
なお、前記の如くエンジン停止動作期間において所定期間、スロットル弁23が開かれることで、各気筒12A〜12D内の既燃ガスは殆ど全て筒外へ掃気されることになるが、エンジン1の停止後は吸排気弁19,20の閉じている膨張行程気筒12や圧縮行程気筒12であっても、気筒12内の空気がすぐにリークすることから、これら停止時膨張行程気筒12及び停止時圧縮行程気筒12には、いずれも、ピストン停止位置に対応する容積内に略大気圧の新気(空気)が存在する状態になる。
−エンジンの始動制御−
次に、上述の如くしてアイドル時に自動停止したエンジン1を再始動する場合について、図11〜15に基づいて説明する。なお、図11及び図12は、始動制御の手順を示すフローチャートであり、図13は、始動時の各気筒12A〜12D毎の燃料噴射及び点火タイミングを当該各気筒12A〜12Dの行程の変化と吸排気弁の開作動状態とに対応づけて示した行程図である。また、図14は、前記始動時の各気筒12A〜12D毎の燃料噴射及び点火によって、当該各気筒12A〜12Dの筒内圧、発生トルク及びエンジン回転速度が変化する様子を時系列に示したタイムチャートである。
まず、始動制御の具体的な手順について図11のフローチャートに基づいて説明すると、このフローはエンジン停止状態からスタートして(START)、ステップSB1において所定のエンジン再始動条件が成立したか否かを判定する。この再始動条件とは、停車状態から発進するためにブレーキが解除された場合やアクセル操作等が行われた場合、エアコン等の動作のためにエンジンの運転が必要になった場合等であり、このような条件が成立していなければ、成立するまで待機する一方、再始動条件が成立すれば(ステップSB1でYES)、ステップSB2へ進む。
ステップSB2では、上述したようにクランク角信号のカウントにより求められたピストン13の停止位置に基づいて、エンジン停止時の圧縮行程気筒12(停止時圧縮行程気筒:図13及び図14の#1気筒12A)及び膨張行程気筒12(停止時膨張行程気筒::図13及び図14の#2気筒12B)の空気量を算出する。すなわち、ピストン13の停止位置から各気筒12A〜12Dの燃焼室容積を求めるとともに、前記の如く各気筒12A〜12D内が殆ど大気圧状態の新気で満たされた状態にあると仮定して、前記両気筒12の空気量をそれぞれ算出する。
続いてステップSB3では、前記ステップSB2で算出した停止時圧縮行程気筒12の空気量に対して所定の空燃比(圧縮行程気筒1回目用A/F)となるように、該圧縮行程気筒12に燃料を噴射する。この場合、前記空燃比は、エンジン停止時のピストン停止位置等に対応付けて予め設定されたマップから求められ、これにより、前記圧縮行程気筒12の空燃比は理論空燃比よりもリッチな空燃比(A/Fで略11〜14の範囲)に設定される。なお、前記停止時圧縮行程気筒12内には、上述したエンジン停止制御によりエンジン1の停止直前に燃料が噴射されているので、その分、実際の燃料噴射量は減少補正する。
次に、ステップSB4において、停止時圧縮行程気筒12への燃料噴射から燃料の気化時間を考慮して設定される所定時間経過後に、当該気筒12の点火プラグ15に通電して、混合気に点火する。そして、ステップSB5で、前記ステップSB4の点火から一定時間内にクランク角センサ30,31からの信号のエッジ(クランク角信号の立ち上がり又は立ち下がり)が検出されたか否かにより、ピストン13が動いたかどうかを判定し(クランク角信号の検出による判定は上述の図9及び図10参照)、失火等のためにピストン13が動かなかった場合(NOの場合)には、ステップSB6に戻って前記圧縮行程気筒12に対して繰り返し点火する。
一方、前記ステップSB5でクランク角信号のエッジが検出されて(YESの場合)、ピストン13が動いた、すなわちエンジン1が逆回転したと判定された場合には、続くステップSB7で、前記ステップSB2で算出された停止時膨張行程気筒12の空気量に対して所定の空燃比(膨張行程気筒12用A/F)となるように該膨張行程気筒12に燃料を噴射する。この場合も、前記膨張行程気筒12用の空燃比は、前記ステップSB3と同様に、エンジン停止時のピストン停止位置等に対応付けて予め設定されたマップから求められ、これにより、略理論空燃比もしくはそれよりも若干リッチな値に設定される。なお、前記停止時膨張行程気筒12にも停止圧縮行程気筒12と同様に、エンジン停止直前に燃料が噴射されているので、その分、実際の燃料噴射量は減少補正する。
そして、続くステップSB8で、エンジン1の逆回転に伴うピストン13の上昇により停止時膨張行程気筒12内の混合気が十分に圧縮され、この圧縮反力によってピストン13が殆ど停止する迄の所定時間(点火ディレイ)の経過後に、該膨張行程気筒12に対して点火を行う。このように膨張行程気筒12内の圧縮された混合気に点火して、燃焼させることで、エンジン1は十分に大きなトルクでもって正転方向に回転し始める。なお、前記点火ディレイの時間は、大体、エンジン1が逆回転して膨張行程気筒12のピストン13がTDC近傍に到達するまでの時間であり、エンジン停止時のピストン停止位置に対応付けて予め設定されたマップから求められる。
続いてステップSB9では、前記エンジン1の正転に伴い次にTDCを迎える前記停止時圧縮行程気筒12に対し、燃料の気化時間を考慮したタイミングで燃料を噴射する。これにより、噴射された燃料の気化潜熱で前記圧縮行程気筒12内の温度が下がり、筒内圧力が低下するため、エンジン1の正転に伴う当該気筒12の圧縮反力が小さくなり、ピストン13がTDCを容易に越えられるようになる。従って、前記ステップSB8における停止時膨張行程気筒12の燃焼により開始されたエンジン1の正転作動が持続され、停止時圧縮行程気筒12がTDCを越えて、各気筒12A〜12Dがそれぞれ次の行程へと進むことになる。
続いて、図12のステップSB10では、エンジン水温、エンジン停止時間、吸気温度等から推定される筒内温度と大気圧とに基づいて、前記エンジン1の正転動作により停止時の吸気行程気筒12(図13及び図14では#3気筒12C)内に充填される空気の密度(筒内空気密度)を推定し、この推定値に基づいて該吸気行程気筒12の空気量を算出する。そして、ステップSB11では、主に前記吸気行程気筒12の筒内温度の推定値から自着火防止等のための空燃比の補正値を算出し、続くステップSB12において、前記補正値を加味して決定した空燃比と、前記ステップSB10で算出された吸気行程気筒12内の空気量とに基づいて、該吸気行程気筒12への燃料噴射量を算出する。すなわち、停止時の吸気行程気筒12がエンジン始動後に最初に迎える圧縮行程でその圧縮圧力、筒内温度等により自着火するのを防止するとともに、その圧縮反力をできるだけ小さくするために空燃比を補正するようにしており、補正後の空燃比は例えばA/F=13程度のややリッチな状態になる。
そして、ステップSB13では、前記停止時吸気行程気筒12が圧縮行程になったときに、その圧縮行程中期で燃料噴射を行う。すなわち、通常の始動モータによる始動時には燃料を吸気行程で噴射するものだが、本実施形態では、燃料の気化潜熱により効果的に筒内の圧縮圧力が低下するように、エンジン停止時間、吸気温度、冷却水温度等を考慮して、圧縮行程の中期に噴射するようにしている。これにより、前記停止時吸気行程気筒12の圧縮圧力が効果的に低減され、このことによっても自着火の防止が図られる。その後、ステップSB14へと進み、前記停止時吸気行程気筒12がTDCを越えて膨張行程に移行した後に点火プラグ15に通電して、点火する。この点火時期も通常のエンジン始動時であればTDCよりも進角側(圧縮行程)に設定されているものであるが、この実施形態のように始動モータを用いない場合には、TDC前に点火すると、ピストン13に作用する逆トルクが始動の妨げとなる虞れがあるので、TDC通過後の膨張行程において点火するようにしたものである。
続いて、ステップSB15では、スロットル弁23よりも下流の分岐吸気通路21aの吸気圧力(吸気管負圧)がエンジン1の通常のアイドル運転時と比較して高いかどうか判定する。この判定でアイドル時よりも高いと判定された場合(YESの場合)には、ステップSB16に進み、吸気圧力に応じて、アイドル運転時のスロットル開度よりも小さくなるようにスロットル弁23を駆動して、該スロットル弁23よりも上流側から気筒12の燃焼室14内に吸入される空気量を絞り、前記ステップSB15へリターンする。そして、吸気圧力がアイドル運転時と同じになるまで前記スロットル弁23の制御を繰り返す一方、吸気圧力がアイドル運転時以下になってステップSB15でNOと判定されれば、ステップSB17に進み、通常のエンジン制御へ移行する。
以上のステップSB15,SB16では、エンジン停止中に大気圧に近い状態になっているサージタンク21b内の空気が始動時に気筒12内に吸入されてフル充填状態になると、エンジン回転が急激に吹き上がり、大きな振動が発生するという問題があることを考慮して、各気筒12A〜12Dへの空気の吸入をスロットル弁23により制限するようにしたものである。
上述のフローにより、アイドル時に自動停止したエンジン1を再始動要求に応じて始動モータ等を用いることなく再始動させることができる。すなわち、図13及び図14に示すように、アイドル時のエンジン停止状態でエンジン再始動要求があったとき(図14の時刻0.0)には、まず、圧縮行程にある気筒12(#1気筒12A)に対して燃料を噴射(両図に符号a1として示す。以下の燃料噴射及び点火について同様)して、これにより当該気筒12内に形成される混合気に点火することで(a2)、クランク軸3を一旦、少しだけ逆転方向(図13の左方向)に回転させる。これにより停止時膨張行程気筒12(#2気筒12B)の空気を圧縮するとともに、この気筒12に燃料を噴射して(a3)、当該気筒12内に混合気を形成し、この混合気に点火することで(a4)、エンジン1が正転方向(図13の右方向)に回転し始める。
続いて、前記停止時圧縮行程気筒12(#1気筒12A)がTDCを越える前に再び当該気筒に対して燃料噴射することで(a5)、この気筒12の圧縮圧力を低下させて、ピストン13がTDCを越え易くなるようにし、さらに、続いてTDCを迎える停止時吸気行程気筒12(#3気筒12C)に対しては、空燃比がリッチ状態となるように燃料を噴射するとともに、その燃料噴射時期を通常の時期(吸気行程)よりも遅らせて圧縮行程中期とすることで(a6)、自着火の発生を防止し、これに加えて、点火時期をTDC後まで遅角させることで(a7)、逆トルクが全く発生しないようにする。このようにして停止時吸気行程気筒12を燃焼させることで、エンジン1に確実に正転方向のトルクを付加し、エンジン回転速度を十分に高めて、始動性を確保することができる。
その際、スロットル弁23を通常のアイドル運転時よりも閉じた状態に制御することで、前記停止時吸気行程気筒12(#3気筒)に続いて点火、燃焼される停止時排気行程気筒12(#4気筒12D)への吸気の充填を制限し、且つこの気筒においても前記した停止時吸気行程気筒12と同様にして燃料噴射及び点火を行うことで(a8,a9)、その停止時排気行程気筒12の燃焼によりエンジン1に付加されるトルクがあまり大きくならないようにして、始動時にエンジン回転が急激に吹き上がったり、大きな振動が発生することを防止するようにしている。
−作用効果−
したがって、この実施形態のエンジンシステムE(エンジンの始動装置)によると、上述の如く、アイドル時にエンジン1が自動で停止するときに、まず、停止条件の成立に応じて各気筒12A〜12Dの燃料カットが行われるとともに、スロットル弁23が所定期間だけ開かれて当該各気筒12A〜12Dの吸気流量が増大することにより、既燃ガスの掃気が十分に行われ、且つエンジン停止後に各々膨張行程及び圧縮行程になる気筒12,12の空気量が十分に多くなる。また、スロットル弁23が適切なタイミングで閉じられることで、前記停止後の膨張行程気筒12の空気量が圧縮行程気筒12よりも所定量、多くなり、このことで、該膨張行程12のピストン13が行程中央部よりもややBDC寄りに停止するようになる。
また、そうして惰性で回転するエンジン1の回転速度が徐々に低下する間、各気筒12A〜12Dが順次、TDCを通過するときのエンジン回転速度がそれぞれ検出されて、このTDC回転速度に応じて所定期間はオルタネータ28の発電量制御によってエンジン1の外部負荷の大きさが調整されるとともに、その所定期間の経過後はスロットル弁23の開度制御によってエンジン1の各気筒12A〜12Dのポンプ仕事量が調整されることで、エンジン回転速度の低下の度合いが調整される。これにより、エンジン回転速度の低下度合いは、TDC回転速度が概ね適正回転速度範囲に収まるように修正されて、前記膨張行程気筒12のピストン13は再始動に好適な所定範囲Rに停止するようになる。
さらに、図8に示すように、エンジン1のいずれかの気筒12(同図では#4気筒)が最後から2番目のTDCを通過すると、これに伴い圧縮行程に移行した気筒12(同図では#2気筒)にその圧縮行程後半で燃料噴射が行われて(Inj1)、気化潜熱による冷却効果によって圧縮圧力が低減される。これにより、本来ならば回転速度変動がかなり大きくなるはずの最後のTDC近傍において、図に波線で示すようにエンジン回転速度の低下量、即ち回転速度変動が大幅に低減されて、エンジン1の揺れが抑制される。
続いて、前記圧縮行程気筒12(#2気筒)が最後のTDCを越えて膨張行程に移行し、これに伴い次の点火順の気筒12(同図では#1気筒)が圧縮行程に移行した後に、この圧縮行程気筒12の圧縮反力によってエンジン1が逆転作動すれば、この気筒12内にも燃料噴射が行われる(Inj2)。そして、この燃料の気化潜熱により気筒12内の圧縮空気が冷却されて、その圧力が低下することで、この圧縮空気からピストン13に加えられるエンジン逆転方向への力が減少し、エンジン1の揺り返しが効果的に抑制される。
そのように停止直前のエンジン1の低周波の揺れや揺り返しが効果的に抑えられることにより、自らのイグニッション操作に依らないエンジン自動停止時であっても、運転者が不快感を感じることはなくなる。
加えて、この実施形態では、前記のように最後のTDCの通過前後でそれぞれ圧縮行程にある気筒12,12内に噴射される燃料の量を、直近のTDC回転速度、即ち最後から2番目のTDC及び最後のTDCにおいてそれぞれ検出したTDC回転速度に応じて補正するようにしており、このため、仮にエンジン停止直前のTDC通過時点でTDC回転速度が適正回転速度範囲からずれていて、そのままでは停止時膨張行程気筒12のピストン停止位置が前記所定範囲Rから外れてしまうと推定されるときであっても、前記の燃料噴射量の補正によってピストン停止位置の最終的な修正を行うことができる。
これにより、停止時膨張行程気筒12のピストン13をより確実に前記所定範囲Rに停止させることができ、その後のエンジン再始動時において上述したような良好な始動性が安定的に確保されるものである。
−他の実施形態−
なお、この実施形態のエンジンシステムEでは、前記の如く、エンジン1の停止直前で圧縮行程にある気筒12内に噴射する燃料の量を、直近に検出したTDC回転速度に応じて補正することにより、ピストン停止位置の最終的な修正を行うようにしているが、必ずしもこれに限るものではない。
すなわち、例えば、前記最後のTDC通過前に停止時膨張行程気筒12に対して行う燃料噴射については、前記のような燃料噴射量の補正に代えて、或いはそれに加えて、燃料噴射のタイミングを補正するようにしてもよい。すなわち、前記停止時膨張行程気筒12が圧縮行程にあるときに、その気筒12内への燃料噴射のタイミングを進角側に補正すれば、エンジン回転の抵抗となる気筒12の圧縮圧力を早めに低下させることができるので、その分、TDCを通過するときのエンジン回転速度が相対的に高くなって、ピストン停止位置がBDC寄りに変更することができるし、反対に、燃料噴射タイミングを遅角側に変更すれば、TDCを通過するときのエンジン回転速度は相対的に低くなるので、ピストン停止位置はTDC寄りに変更することができる。
一方、前記最後のTDC通過後に停止時圧縮行程気筒12に行う燃料噴射については、前記実施形態では最後のTDC回転速度に基づくピストン停止位置の推定結果に応じて、実際にはピストン13が相対的にTDC寄りに停止するときにのみ、燃料噴射を行うようにしているが、これに限らず、ピストン13が相対的にBDC寄りに停止するときでも、燃料噴射を行うようにしてもよい。
また、前記実施形態のようにピストン停止位置が相対的にTDC寄りになると推定されるときにのみ、燃料噴射を行うようにする場合には、図15に一例を示すように、この燃料噴射のタイミングをエンジン1の逆転作動の前に、即ちエンジン回転速度が負値になる前に設定することもできる(Inj2′)。
さらに、前記実施形態では、エンジン1の停止直前に、最後のTDCの通過前後でそれぞれ圧縮行程にある気筒12,12に燃料噴射を行うようにしているが、これに限らず、最後のTDCの通過前に圧縮行程にある停止時膨張行程気筒12のみに停止直前の燃料噴射を行うようにしてもよい。
さらにまた、前記実施形態では、図4のエンジン停止制御のフローのステップSA4〜SA9に示すように、燃料カット後に一旦、所定開度まで開いたスロットル弁23を閉じるとき(ステップSA6で所定回転速度以下)までは、オルタネータ28の発電制御を行う(ステップSA7,SA8)一方、その後は発電制御を行わないようにしているが、これに限るものではなく、エンジン回転速度の低下か又はスロットル開作動からの時間経過のいずれかによって所定期間の終了を判定し、この判定に応じてスロットル弁23を閉じた後も、エンジン回転速度がオルタネータ28の有効に発電作動可能な所定回転速度以下(例えば約350rpm以下)になるまでは、ステップSA5〜SA7により該オルタネータ28の発電制御を続けるようにしてもよい。
加えて、前記実施形態のエンジン1においては、各気筒12A〜12Dへの吸気流量を調整する吸気流量調整手段として、サージタンク21b上流のスロットル弁23を用いているが、これに限らず、吸気流量調整手段としては、各気筒12A〜12D毎の吸気弁19のリフト量を変更する周知の可変動弁機構を採用してもよいし、或いは、各気筒12A〜12D毎の分岐吸気通路21aに弁体が個別に配置された多連型のスロットル弁を用いることもできる。
そのように吸気通路21の下流側に配置された多連型のスロットル弁を用いる場合には、これを閉じる側に制御することによって吸気を応答性よく絞ることができるから、前記実施形態の上流側スロットル弁23のように開き側のみに制御するのではなく、閉じる側にも制御して、エンジン回転速度の低下の度合いを大きくすることも可能になる。
また、前記実施形態におけるエンジン1の始動制御では、最初にクランク軸3を少しだけ逆転させて、停止時膨張行程気筒12の混合気を圧縮した後に点火するようにしているが、これに限るものではなく、本発明に係るエンジン停止制御は、最初に停止時膨張行程気筒12に点火して、これによりエンジンを再始動するエンジンシステムにも適用可能である。