JP2005139011A - 火薬原料及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 水溶性固体反応成分が微粒子で存在し、その粒子径がほぼ均一であると共に、良好な機械的強度を有し、火薬としての性能を発揮することができる火薬原料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 火薬原料は、火薬の有効成分となる硝酸アンモニウム等の水溶性固体反応成分、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の油剤成分及びカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩等の増粘安定剤を含む油中水型(W/O型)エマルションを乾燥して得られる乾燥体により構成されている。この乾燥体中において、水溶性固体反応成分の粒子は、油剤成分及び増粘安定剤から選択される少なくとも1種の成分により被覆された凝集体として存在している。
【選択図】 なし

Description

本発明は、硝酸アンモニウム等の水溶性固体反応成分がほぼ均一な微粒子で存在し、良好な機械的強度を有し、火薬としての性能を発揮することができる火薬原料及びその製造方法に関するものである。ここで火薬原料の火薬とは、燃焼により生じたガスや発熱などを利用する分野で使用されるもので、例えば発射薬、推進薬、ガス発生剤、火工組成物等に使用され、爆轟を伴う爆薬は含まれないことを意味する。
従来、火薬原料として使用される固体反応成分の大きさは、微粒子であるほど反応に寄与する表面積が大きくなるので、火薬としての燃焼速度を高めるためには有利である。従来から固体反応成分、例えば酸化剤の微粒子化に関する技術としては、粉砕法と噴霧乾燥法とが知られている。粉砕法としては、例えば硝酸ストロンチウム等の硝酸塩に固結防止剤を添加して粉砕し、50%平均粒子径が5〜80μmとしたものがガス発生剤として提案されている(例えば特許文献1参照)。また、粉砕装置を用いた酸化剤の微粒子化法では、5μm以下にすることが困難であり、微粒子化できたとしてもその微粒子は再結合して凝集体を形成することが知られている(例えば特許文献2参照)。この凝集体は、火薬としたときに、凝集体の大きさが燃焼速度等に影響することから好ましいものではなかった。
一方、噴霧乾燥法としては、冷却された装置中に過塩素酸アンモニウムの溶液を噴霧して小さな液滴とし、それを凍結乾燥する方法が知られている(例えば特許文献3参照)。同様の技術で、硝酸アンモニウムとポリアクリル酸アミドと水とからなる溶液を冷ガス中に液滴として噴霧し凝固させ、凍結乾燥した0.5〜1μmの硝酸アンモニウムの結晶からなる直径50〜200μmの凝集体も知られている(例えば特許文献2参照)。
しかしながら、このような噴霧乾燥法は、冷媒が必要なことと、噴霧して微細な液滴にするためには、溶液の粘度を低くしなければならず、そのために多量の溶媒が必要で、例えば特許文献2の実施例では硝酸アンモニウムに対して重量比で約8倍量の水が使われている。そのため、噴霧後の凍結乾燥で水が取り除かれた凝集体は、約50%の細孔を有するものである。このような細孔を有する酸化剤では、火薬にしたときに嵩密度が低くなることから、装填できる火薬量が少なくなって好ましくないものであった。また、凍結乾燥した凝集体は、凍結した水を昇華させる方法であることから成形時の凝集体に含まれる水分量が少なく、この原料をそのまま使用して火薬に成形する場合、その成形法が制限されることがあった。例えばその成形法がプレス式に限られ、圧伸法は採用できない場合があった。
以上の粉砕法及び噴霧乾燥法のいずれかの微粒子化法で得られた凝集体に、成形のための増粘安定剤水溶液をバインダーとして加えると、水溶性の酸化剤が水に溶解し、乾燥によって再結晶するために、酸化剤の粒子径が大きくなったり、不揃いになるという問題もあった。
他方、火薬とは異なる爆薬の分野においては、油中水型エマルション爆薬中で分散相を構成する酸化剤水溶液の直径が1μm程度の液滴として存在していることが知られている。例えば、酸化剤水溶液と液体燃料とからなる油中水型エマルションを作製し、これに樹脂バルーンとポリアクリル酸ナトリウム架橋物等の吸水性物質とを混和し、鉄製チャンバーに流し込み、液体窒素に浸けて−196℃で凍結することによってエマルションを破壊して酸化剤を結晶化させる技術も知られている(例えば、特許文献4を参照)。
また、固形含水爆薬組成物として超音波を加えながら酸化剤と燃料と乳化剤とからなる油中水型エマルションにポリアクリルアミド等の増粘剤を添加して放冷し、酸化剤の50〜90%を再結晶させた5〜50μmの酸化剤を含み、べとつきを改善した爆薬組成物も提案されている(例えば特許文献5を参照)。
再公表特許WO98/29361号公報(第2〜5頁、15頁) 特開平8−104588号公報(第2頁) 米国特許第3788095号明細書(第1頁、第3〜4頁) 特開2000−143380号公報(第1頁、第5頁) 特開2001−26490号公報(第2〜4頁)
ところが、特許文献4に記載の技術で用いられる吸水性物質の作用は、エマルション破壊時に排出される水を吸収して、水の存在下で成長する酸化剤の結晶化を抑制することにより、長期にわたり粒子径を均一にしたものである。具体的な実施例で用いられている吸水性物質の粒子径は200〜300μm又は1.5mmであり、得られる酸化剤の平均粒子径は5〜10μmである。従って、酸化剤の粒子径が小さくても吸水して膨潤し、前記寸法より更に大きくなった吸水性物質も存在しているために、火薬として用いる場合には構成成分粒子の大きさの均一性の観点から好ましくなかった。また、この吸水性物質は点在した状態で存在し、糊化していないためバインダーとしての機能を有さないものであった。更に、この特許文献4では吸水性物質を用いていることから、乾燥により水を除去する工程については考えられていない。
また、特許文献5に記載の爆薬組成物に用いられている増粘剤の作用も前記特許文献4と同様、増粘剤粉末を半膨潤状態で点在させることにより、爆薬から分離する水や外部からの水分を吸収するものである。この組成物では再結晶化していない部分が10%以上もあり、酸化剤粒子の粒子径が5〜50μmの範囲で不均一であることから火薬原料としては好ましくないものであった。
更に、前記特許文献4や5の爆薬組成物は、油中水型エマルション爆薬であることから水を具体的には4〜8質量%程度含んでいる。そのために火薬として使用する場合には燃焼性能が低く、機械的強度も低く、火薬としては使用できないという問題もあった。
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、水溶性固体反応成分が微粒子で存在し、その粒子径がほぼ均一であると共に、良好な機械的強度を有し、火薬としての性能を発揮することができる火薬原料及びその製造方法を提供することにある。
そこで本発明者らは、上記の課題を解決すべく、火薬原料として各種固体反応成分の微粒子化について鋭意研究を進めた結果、一旦油中水型エマルションを形成させた後、増粘安定剤を加えて混和し、それを乾燥することにより、微粒子状でその大きさのそろった固体反応成分が長期にわたりそのまま維持され、かつ用途によってはそのまま成形することも可能であり、適度の機械的強度を有するものであることを確認して本発明を完成した。
すなわち、第1の発明の火薬原料は、火薬の有効成分となる水溶性固体反応成分、油剤成分及び増粘安定剤を含む油中水型エマルションを乾燥した乾燥体により構成され、該乾燥体中に分散されている水溶性固体反応成分の粒子が油剤成分及び増粘安定剤から選択される少なくとも1種の成分により被覆された凝集体として存在していることを特徴とするものである。
第2の発明の火薬原料は、第1の発明において、所定形状に成形された成形体である。
第3の発明の火薬原料は、第1又は第2の発明において、水分量が2質量%未満である。
第4の発明の火薬原料は、第1から第3のいずれかの発明において、水溶性固体反応成分は、酸化反応を行わせる酸化剤及び酸化されて燃焼する燃料から選択される少なくとも1種である。
第5の発明の火薬原料は、第4の発明において、酸化剤がアルカリ金属、アルカリ土類金属及びアンモニウムの硝酸塩、亜硝酸塩及びオキソハロゲン酸塩並びに塩基性硝酸塩から選択される少なくとも1種である。
第6の発明の火薬原料は、第5の発明において、酸化剤が硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム及び過塩素酸アンモニウムから選択される少なくとも1種である。
第7の発明の火薬原料は、第1から第6のいずれかの発明において、増粘安定剤がセルロース誘導体、ポリビニル化合物、ポリアルキレングリコール及び多糖類から選択される少なくとも1種である。
第8の発明の火薬原料は、第1から第7のいずれかの発明において、油中水型エマルションを形成する油剤成分が油類であり、該油類中に水溶性固体反応成分の粒子を分散させるために界面活性剤が配合されているものである。
第9の発明の火薬原料は、第1から第8のいずれかの発明において、水溶性固体反応成分が50〜98質量%であり、増粘安定剤及び油剤成分の合計量が2〜50質量%である。
第10の発明の火薬原料の製造方法は、水溶性固体反応成分の水溶液及び油剤成分を乳化して油中水型エマルションを形成し、該油中水型エマルションに増粘安定剤を添加して混和し、該混和物を乾燥することを特徴とするものである。
第11の発明の火薬原料の製造方法は、第10の発明において、乾燥法が加熱法、減圧法又は加熱法と減圧法とを組合せた乾燥法である。
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
第1の発明の火薬原料によれば、水溶性固体反応成分が微粒子で存在し、その粒子径がほぼ均一であると共に、良好な機械的強度を有し、火薬としての性能を発揮することができる。
第2の発明の火薬原料によれば、第1の発明の効果に加え、火薬原料を容器内へ装填する場合等における取扱性を向上させることができる。
第3の発明の火薬原料によれば、第1又は第2の発明の効果に加え、燃焼性能を向上させることができると共に、強度を高めることができる。
第4から第6の発明の火薬原料によれば、第1から第3のいずれかの発明の効果に加え、ガスを発生させることができ、エアバッグ用のガス発生剤として使用することができる。
第7の発明の火薬原料によれば、第1から第6のいずれかの発明の効果に加え、水溶性固体反応成分の粒子径をより均一に保持することができると共に、成形性を向上させることができる。
第8及び第9の発明の火薬原料によれば、第1から第7のいずれかの発明の効果に加え、分散相である水溶性固体反応成分が細かく、均一な油中水型エマルションを形成することができる。
第10及び第11の発明の火薬原料の製造方法によれば、特に吸湿性の大きな水溶性固体反応成分であっても微粒子状で存在し、ほぼ大きさの揃った水溶性固体反応成分であって、圧伸成形もプレス成形もすることも可能で、成形体としたとき適度の機械的強度を発揮することができる火薬原料を容易に製造することができる。
以下、本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の火薬原料は、火薬の有効成分となる水溶性固体反応成分、油剤成分及び増粘安定剤を含む油中水型(W/O型)エマルションを乾燥した乾燥体により構成され、該乾燥体中に分散されている水溶性固体反応成分の粒子が油剤成分及び増粘安定剤から選択される少なくとも1種の成分により被覆された凝集体として存在しているものである。この火薬原料は、そのまま火薬として使用するための原料のほか、燃焼速度、燃焼圧力、燃焼温度、比推力、保存安定性等の諸性能に応じて必要なら第3成分を配合し、またガス成分、ガス量等を調整するために酸素バランス等を考慮して成分や配合割合を選定し、必要な物性、形状等の調整を行うことにより火薬として使用するための原料を意味する。水溶性固体反応成分の粒子の粒子径は通常0.5〜5μmの範囲であり、粒子はほぼ均一に存在している。この粒子径が0.5μm未満の場合には製造が煩雑になる傾向にあり、5μmを越える場合には粒子の表面積が小さくなって火薬の燃焼性能等が低下する。
火薬原料の一形態である成形体は、例えば燃焼速度、燃焼温度、燃焼圧力等要求される諸性能に応じて必要な形状の調整を行ったものであり、例えば円柱状、ペレット状、板状、球状、単孔状等の形状を有するものである。このような成形体とすることにより、火薬原料の燃焼性能を調節する以外にも粉末状に比べて火薬原料を容器に装填する場合等における取扱い性を良好にすることができる。例えば、装填時における閉塞性がなく、粉塵の問題も解消することができる。
火薬原料中の水分量は、火薬としたときに必要な燃焼性能と強度を得るために、好ましくは2質量%未満、更に好ましくは1質量%未満、特に好ましくは0.5質量%未満である。この水分量が2質量%より多いと成形体にしたときの機械的強度が低下し、使用環境によっては、成形体が破壊されたり、所定の燃焼性能が得られなくなるので火薬としたときに不利である。尚、水分量を極端に低下させるためには、乾燥条件を非常に厳しくする必要があり、そのための乾燥装置が必要で、経済性の点からも、その下限は0.1質量%であることが好ましい。この水分量は水溶性固体反応成分の結晶化度と関係し、例えば水溶性固体反応成分として硝酸アンモニウムを用いた場合、後述する比較例3に示すように硝酸アンモニウムの結晶化度が約90%のとき水分量は4質量%である。同じく水溶性固体反応成分として硝酸アンモニウムを用いた場合、火薬原料中の水分量が2質量%未満のとき硝酸アンモニウムの結晶化度が95%以上であり、火薬原料中の水分量が1質量%未満のとき硝酸アンモニウムの結晶化度が97%以上である。
次に、水溶性固体反応成分の反応成分とは、火薬成分の有効成分として酸化反応を行わせてガスを発生したり、燃焼反応により発熱する成分を意味し、例えば酸化剤及び燃料から選択される少なくとも1種の成分である。水溶性固体反応成分の水溶性とは、水又は加温した水に溶解性を示す固体反応成分を意味する。加温することにより、水溶性固体反応成分を結晶化させることなく、配合量を増大させることができると共に、油中水型エマルションを形成するための油類を低粘度にしてエマルション化を容易にすることができる。
水溶性固体反応成分としての酸化剤は、酸化反応を行わせてガスを発生する物質であり、酸化剤単独でも、複数の酸化剤の混合物でも使用可能であるが、混合物の場合には少なくともそのうちの1種が水溶性である必要がある。水不溶性の酸化剤を併用する場合、その割合は50質量%以下であることが好ましい。
使用可能な酸化剤としては、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属及びアンモニウムの硝酸塩、亜硝酸塩及びオキソハロゲン酸塩並びに塩基性硝酸塩から選択される少なくとも1種が好ましい。更に具体的には、例えば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、硝酸マグネシウム、硝酸アンモニウム等の硝酸塩;亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸アンモニウム等の亜硝酸塩;塩素酸カリウム、過塩素酸バリウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム等のオキソハロゲン酸塩;塩基性硝酸銅、塩基性硝酸亜鉛、塩基性硝酸コバルト等の塩基性硝酸塩等が挙げられる。これらのうち、燃焼性能面から硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム及び過塩素酸アンモニウムから選択される少なくとも1種が好ましい。尚、硝酸アンモニウムは結晶構造が温度により変化するという欠点を有していることから、硝酸アンモニウムを使用する場合には、例えば硝酸カリウム等の相安定化剤を含有した、いわゆる相安定化硝酸アンモニウムを使用してもよい。
水溶性固体反応成分としての燃料は、燃焼反応により発熱する物質であり、酸素バランスが0ないし負の物質である。この燃料としては、例えば硝酸ヒドラジン、硝酸グアニジン等が挙げられる。硝酸グアニジン等に加えてモノ、ジ、トリアミノグアニジン硝酸塩;炭酸グアニジン;ニトログアニジン;ニトロアミノグアニジン硝酸塩等のグアニジン誘導体を用いることもできる。
また、前記酸化剤と燃料とを組み合わせて用いてもよく、酸化剤又は燃料にそれらの分解を促進する水溶性の燃焼触媒、水不溶性の燃焼触媒、粉末状微結晶炭素又はその他の燃料を加えたものを用いてもよい。その他の燃料としては、例えば活性炭、カーボンブラック、アセチレンブラック、木炭等が挙げられる。水溶性の燃焼触媒の使用は、エマルション中で分散相の固体反応成分水溶液に溶け込み、火薬原料になったとき水溶性固体反応成分粒子中又はその周りに燃焼触媒が存在するので、火薬原料の燃焼反応の面から好ましい態様である。
水溶性固体反応成分の配合割合は、燃焼性能や発生ガスの観点から、酸素バランスが0付近になるように設定するのが好ましい。但し、発生ガスの種類が問題にならないような場合には、酸素バランスがプラス側又はマイナス側になるように水溶性固体反応成分の配合割合を設定することもできる。水溶性固体反応成分の配合割合は、使用する成分の種類にもよるが、火薬原料中に好ましくは50〜98質量%、更に好ましくは60〜97質量%である。火薬原料をそのまま火薬として使用する場合には、水溶性固体反応成分の配合割合が50質量%より少ないと、酸素バランスが大きく負になり、燃焼性能及び発生ガスの面で不利である。一方、98質量%より多いとエマルションの作製が困難となる。
次に、増粘安定剤について説明する。
水溶性固体反応成分を微粒子化するために油剤成分を用いて油中水型エマルションの形態にするが、油中水型エマルションの形態にすることにより、増粘安定剤や油剤成分が水溶性固体反応成分粒子の周りに存在して水溶性固体反応成分粒子の粒子径を保持すると同時に、水溶性固体反応成分粒子同士の合体や凝集を防ぐことができる。本実施形態では、従来技術とは異なり、水溶性固体反応成分粒子の周りに増粘安定剤や油剤成分が略均一に分布しており、水溶性固体反応成分粒子同士の凝集体が形成されるわけではない。次に示す形態からわかるように、水溶性固体反応成分粒子間に油剤成分や増粘安定剤が介在した凝集体を含んでいる。
ここで、水溶性固体反応成分粒子の周りに存在する形態は、エマルション作製時、増粘安定剤の添加時、エマルションの乾燥時等に分散相の粒子の周り全面が油剤成分や増粘安定剤の膜で被覆された態様、部分的に被覆しているような態様、乾燥により水分が蒸発して膜に多少の微細な孔があいているような態様のいずれであってもよい。火薬としたときの吸湿性等を考慮するならば、増粘安定剤及び油剤成分から選択される少なくとも1種で全面が被覆されている態様が好ましい。
増粘安定剤は、前記の粒子径保持作用の他に水溶性固体反応成分粒子のバインダーとしても作用し、圧伸法による成形体の製造を可能にする機能も有している。一方油剤成分は、流動性向上剤又は潤滑性向上剤としても作用し、成形方法が圧伸法の場合には圧伸性が向上し、ペレタイズ式(プレス式)の場合には滑剤の役割を果たすため、成形時に別途滑剤を添加する必要がない。
増粘安定剤は、常温の水又は加熱や冷却した水に溶解又はゲル化する合成又は天然の高分子物質であり、特に乾燥後に糊化して水溶性固体反応成分粒子の表面を被覆するような水溶性の高分子物質が好ましい。従って、この増粘安定剤は、従来の吸水性物質のように糊化しないものではない。具体的には例えばカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカプロラクタム等のポリビニル化合物;ポリアクリルアミド;ポリアクリル酸ナトリウム等のポリアクリル酸系化合物;ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール;グアガム、アラビアガム、キサンタンガム、デンプン、プルラン、アルギン酸のナトリウム塩等の多糖類又はその塩;カゼインナトリウム;ゼラチン等のタンパク質;カラギーナン;寒天;ペクチン;シクロデキストリン等が挙げられる。更に、これらの架橋物も挙げられる。これらの増粘安定剤は単独で、又は2種以上の混合物として用いられる。前記の増粘安定剤のうち、経済性、取扱性等の観点からセルロース誘導体、ポリビニル化合物、ポリアルキレングリコール及び多糖類から選択される少なくとも1種が好ましい。
これらの増粘安定剤は、前記の水溶性固体反応成分粒子を被覆する場合には、粒子間を架橋するようにしてもよい。このような架橋により粒子径が長期にわたって変化せずに安定化される。使用する増粘安定剤の粒子径は、溶解又は糊化しやすいようにするため、できるだけ小さいものが好ましく、通常は200μm以下、好ましくは150μm以下である。増粘安定剤の粒子径の下限は、製造上の理由から10μm程度が可能である。増粘安定剤の配合割合は、好ましくは1〜50質量%、更に好ましくは3〜30質量%である。この配合割合が1質量%より少ないと固体反応成分の粒子径保持作用が弱くなる傾向にあり、50質量%より多くても前記増粘安定剤としての作用がそれに見合うだけ向上せず、火薬原料として相対的に固体反応成分の割合が少なくなるので好ましくない。
次に、油中水型エマルションを作製するために用いられる油剤成分について説明する。
この油剤成分としては、油中水型エマルションを形成するために、通常水に不溶性の油類が用いられる。油類としてはエマルション爆薬で使用されている油類のすべてを使用することができる。その中でも常温で固体状のもの、すなわちその融点又は軟化点が20℃以上の油類が火薬にしたときの取扱性の観点から好ましい。そのような油類として例えば各種ワックス類が用いられる。この油類はエマルションの製造条件に応じて単独で、又は2種以上混合して用いられる。
また前記の油類の他に、油剤成分として水と相溶性のない反応性物質、例えばモノマーや反応性官能基を有する有機物質含有液を使用し、重合反応、付加反応、縮合反応等を行わせることもできる。この場合、油剤成分の分子量を高め、その融点又は軟化点を20℃以上とすることが可能である。更に、20℃以上の融点又は軟化点を有するポリマーを水と相溶性のない有機溶剤に溶解した液を油剤成分として使用し、乾燥により有機溶剤を除去し、残留油剤成分の融点又は軟化点を20℃以上とすることも可能である。
油剤成分の配合量は、油中水型エマルション中、通常0.5〜10質量%である。この配合量が0.5質量%より少ないとエマルションの作製が困難になる傾向にあることから、得られる水溶性固体反応成分の粒子が不揃いになる傾向にある。一方、10質量%より多くなると酸素バランスが大きく負になり、火薬原料をそのまま火薬として使用する場合には、燃焼性能、発生ガス等の性能が低下して好ましくない。
油中水型エマルションにおいて、上記油剤成分に水溶性固体反応成分の粒子を分散(乳化)させるために界面活性剤が用いられる。この界面活性剤としては、油中水型エマルション作製時に通常使用される界面活性剤が用いられ、そのような界面活性剤として例えば乳化安定性に優れたソルビタン系の界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤は、単独で又は2種以上の混合物として用いられる。また、その配合量は通常0.5〜5質量%である。0.5質量%より少ないとエマルションの安定性が悪くなる結果、液滴が不揃いになって、乾燥後に得られる水溶性固体反応成分粒子の粒度が不揃いになる傾向がある。一方、5質量%より多くても乳化作用がそれに見合うだけ増加せず、また火薬としての燃焼性能面で不利となる。
また、前記の界面活性剤の他に、前記油類として反応性物質を使用した場合には反応性官能基を有する界面活性剤、すなわち反応性界面活性剤を使用することができる。反応性界面活性剤を使用する場合には、エマルションの形成の他に反応性物質との重合反応、付加反応、縮合反応等を目的とするため、反応性界面活性剤の配合量は反応性物質1モル当たりの反応性官能基数とエマルション作製に使用する反応性物質の添加モル数により決定される。
増粘安定剤と油剤成分の合計量は、好ましくは2〜50質量%である。合計量が2質量%より少ないと水溶性固体反応成分粒子の粒度が不揃いになりやすく、50質量%より多くなると水溶性固体反応成分の割合が少なくなるので火薬として不利になる。火薬原料はそのまま火薬として用いることができるほか、必要であれば他の成分を混合することもできる。他の成分としては、火薬としての要求性能等から、例えばバインダーとして作用するグリジジルアジドポリマー(GAP)、ニトロセルロース等の高エネルギーバインダー、ポリブタジエン系ポリマー、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、熱可塑性エラストマーや、酸素バランスを調整するための酸化剤や、成形物の帯電を抑制するための帯電防止剤や、酸化鉄等の金属酸化物、ホウ素、アルミニウム等の燃焼触媒や、前記以外の水不溶性の酸化剤として硝酸トリアミノグアニジン、シクロメチレントリニトラミン(RDX)、シクロメチレンテトラニトラミン(HMX)等や、酸化アルミニウム等のスラグ形成剤や、ステアリン酸マグネシウム等の滑剤や、水酸化マグネシウム等の減熱剤や、安定剤や着色剤等が用いられる。他の成分の配合割合は、火薬の用途に応じた常法に従って適宜決定される。
次に、本実施形態における火薬原料の製造方法及び作用について説明する。
まず、乳化工程として水溶性固体反応成分の水溶液及び油剤成分を攪拌して油中水型エマルションを作製する。このとき、加熱状態で行うことにより、水溶性固体反応成分の油剤成分中における分散性を向上させることができると共に、エマルションの作製を速やかに行うことができる。次いで、この油中水型エマルションに増粘安定剤を加えて混和し、この混和物を乾燥するか、又は成形工程として所定の形状に成形した後、乾燥工程で乾燥することにより乾燥体が得られ、この乾燥体が火薬原料となる。また、乾燥前に造粒し、造粒後に乾燥して成形した乾燥体によっても火薬原料が得られる。
この場合、増粘安定剤はエマルション中に分散されている液滴の水分を吸い取って糊化し、液滴の周囲を覆う。従って、液滴同士の合体は起らず、液滴の大きさのまま液滴中に含まれる水溶性固体反応成分が再結晶する。このように水溶性固体反応成分の粒子は糊化した増粘安定剤中に固定されるため、結晶の成長は起らない。その結果、水溶性固体反応成分の粒子間は油剤成分と増粘安定剤とが介在された状態の凝集体として存在し、その粒子径は0.5〜5μmの範囲でほぼ均一なものとなる。
エマルションを形成するための乳化工程は、水溶性固体反応成分を微粒子状の液滴にするための工程である。乳化工程では、通常用いられる高速攪拌機を使用することができ、攪拌条件は水溶性固体反応成分の種類やエマルションの粘度等に応じて適宜設定することができる。成形方法は特に限定されないが、前者は圧伸法、後者はペレタイズ法(プレス法)に適している。上記のように乾燥工程前に成形工程等の他の工程が入っても差し支えない。
乾燥工程は、脱水とそれに伴う水溶性固体反応成分の結晶の析出と油剤成分や増粘安定剤による水溶性固体反応成分粒子の被覆化ないしは粒子周囲への移行等を行うための工程であると共に、成形体の硬化を行うための工程でもある。乾燥方法は、加熱、減圧又は加熱と減圧とを組合せた方法が好ましく、凍結乾燥法は適当ではない。乾燥工程を経て得られる火薬原料の水分量は2質量%未満になる。得られた火薬原料は、前記凝集体の状態で乾燥されることから、ほぼ均一なものとなり、水溶性固体反応成分の粒子同士の凝集が回避され、水溶性固体反応成分粒子の合体による粒子径の変化が抑制される。
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 実施形態の火薬原料は、火薬の有効成分となる硝酸アンモニウム等の水溶性固体反応成分及びカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩等の増粘安定剤を含む油中水型エマルションを乾燥して得られる乾燥体により構成される。この場合、エマルション中における水溶性固体反応成分の粒子は油剤成分又は増粘安定剤によって被覆された状態で存在し、そのまま乾燥されて乾燥体となる。乾燥体中に分散されている水溶性固体反応成分の粒子は油剤成分及び増粘安定剤から選択される少なくとも1種の成分により被覆された凝集体として存在している。このように、主として増粘安定剤の作用により水溶性固体反応成分粒子の合体等による粒子径の変化を抑制することができ、粒子同士の凝集がなく、水溶性固体反応成分粒子はエマルション中で安定に存在することができる。
従って、その乾燥体で構成される火薬原料中の水溶性固体反応成分が微粒子で存在し、その粒子径がほぼ均一であると共に、良好な機械的強度を有し、火薬としての性能を発揮することができる。特に吸湿性の大きな水溶性固体反応成分であってもほぼ均一な微粒子で存在し、火薬原料を圧伸成形したり、プレス成形したりすることも可能である。よって、火薬原料はそのままの状態で又は他の成分と混合して、発射薬、推進薬、車両等乗員保護のために用いられるガス発生剤、火工組成物等に好適に用いられる。
・ 火薬原料が円柱状、球状等の形状に成形された成形体であれば、所定の燃焼性能を発揮できるうえに、火薬原料を容器内へ装填する場合等における取扱い性を向上させることができる。
・ 火薬原料の水分量が2質量%未満であれば、火薬原料から得られる火薬の燃焼性能を向上させることができると共に、その強度を高めることができる。
・ 水溶性固体反応成分は、ガスを発生させるための酸化剤及び燃料から選択される少なくとも1種である。酸化剤がアルカリ金属、アルカリ土類金属及びアンモニウムの硝酸塩、亜硝酸塩及びオキソハロゲン酸塩並びに塩基性硝酸塩から選択される少なくとも1種、具体的には硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム及び過塩素酸アンモニウムから選択される少なくとも1種である。この場合、火薬原料から得られる火薬を燃焼させることにより、ガスを発生させることができ、エアバッグ用のガス発生剤として使用することができる。
・ 増粘安定剤がセルロース誘導体、ポリビニル化合物、ポリアルキレングリコール及び多糖類から選択される少なくとも1種であれば、水溶性固体反応成分粒子の粒子径をより均一に保持することができると共に、成形性を向上させることができる。
・ 油中水型エマルションを形成する油剤成分が油類及び界面活性剤からなり、水溶性固体反応成分が50〜98質量%、増粘安定剤及び油剤成分の合計量が2〜50質量%である。その場合、水溶性固体反応成分がエマルション中で粒子を形成し、該粒子表面が油剤成分又は油剤成分と増粘安定剤とにより被覆され、その粒子径が油剤成分又は油剤成分と増粘安定剤とを介して維持されている。従って、分散相である水溶性固体反応成分が細かく、均一な油中水型エマルションを形成することができる。
・ 火薬原料は、水溶性固体反応成分の水溶液及び油剤成分を乳化して油中水型エマルションを形成し、該油中水型エマルションに増粘安定剤を添加して混和し、該混和物を乾燥することによって製造される。この場合、乾燥法は加熱法、減圧法又は加熱法と減圧法とを組合せた乾燥法が好ましい。従って、水溶性固体反応成分が微粒子で存在し、その粒子径がほぼ均一であると共に、良好な機械的強度を有し、火薬としての性能を発揮することができる火薬原料を容易に製造することができる。
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に具体的に説明する。各例中の部数、%表示は質量基準である。
(実施例1)
硝酸アンモニウム83部を水12部に加えて加温することにより溶解させ、約90℃の酸化剤水溶液を得た。一方、パラフィンワックス1.7部、マイクロクリスタリンワックス0.8部及びソルビタン脂肪酸エステル系の界面活性剤2.5部の混合物を加温して溶融させ92℃の油剤を得た。次に、保温可能な容器内にこの油剤を入れた後、前記酸化剤水溶液を徐々に添加しながら、プロペラ羽根式攪拌機を用いて、600rpmで1分間、次いで1600rpmで1分間混合攪拌して、約90℃の油中水型エマルションを得た。次いでこれを常温まで冷却した後、この油中水型エマルション100部に対して増粘安定剤であるカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(ナカライテスク株式会社製、平均粒子径65μm)25部を加えて混和機で混和して混和物を得た。
この混和物の一部をとり50℃で4日間真空乾燥を行い、乾燥体としての火薬原料を得た。得られた火薬原料の微細構造を観察するために顕微鏡写真を撮影した。この顕微鏡写真を図1に示した。そのときの倍率は2000倍である。その結果、粒子径が1〜3μmである硝酸アンモニウムが油剤成分や増粘安定剤を介して結合された凝集体であることが確認された。
次に、前記混和物を用いてハンドプレス機にて圧伸を行い、直径4mm、長さ130mmの円柱状ストランド試料を作製した。このときの圧伸性は良好であった。この試料を50℃で4日間真空乾燥を行い、乾燥物として火薬原料を得た。この火薬原料の水分量をカールフィッシャー法(JIS K0068)により測定した結果、0.25%であった。尚、この火薬原料の密度は1.41g/cm3であった。
この火薬原料を、チムニ型ストランド燃焼器を用いて燃焼速度を測定した。すなわち、所定の圧力の窒素雰囲気下に試料をセットし、その一端をニクロム線により加熱着火し、ヒューズ切断法により線燃焼速度を算出した。尚、ストランド試料の側面は燃焼が表面に垂直に進行するように燃焼抑制剤で被覆した。その結果、圧力が9.8MPaのとき燃焼速度は3.5mm/secであり、19.6MPaのとき13.3mm/secであった。
更に、前記混和物を用いてハンドプレス機で圧伸を行って、直径3mm、長さ4mmの円柱状薬を作製した。この試料を前記と同様にして加温、真空乾燥を行って火薬原料を得、その火薬原料の水分量を測定した結果、0.30%であった。この火薬原料を株式会社藤原製作所製の木屋式デジタル硬度計を用いて火薬原料の長さ方向に直径5mmの杵で1mm/secの速度で荷重を加え、圧縮強度試験を行った結果、圧縮強度は14.8MPaであった。
(実施例2)
硝酸アンモニウム73部及び硝酸グアニジン10部を水12部に加えて加温することによって溶解させ、約90℃の酸化剤と燃料との混合物の水溶液を得た。一方、マイクロクリスタリンワックス2.5部及びソルビタン脂肪酸エステル系の界面活性剤2.5部の混合物を加温して溶融させ92℃の油剤を得た。次いで、実施例1と同様な条件で乳化し、油中水型エマルションを得た。この油中水型エマルションを常温まで冷却した。その後、油中水型エマルション100部に対してカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩10部を加えて混和機で混和し、次いで還元剤である活性炭を1.7部加えて混和し混和物を得た。
この混和物を目開き500μmの標準篩(JIS 8801-1)で造粒した後、105℃で4時間乾燥させて火薬原料を得た。得られた火薬原料の水分量は0.69%であった。この火薬原料(造粒薬)は顕微鏡観察の結果、5μm以下の粒子が油剤成分や増粘安定剤を介して結合された凝集体であることが確認された。
次に、この火薬原料3gを圧力370MPaでプレスし、ストランド試料を作製した。プレスでは滑剤が不要であった。尚、このストランド試料の密度は1.57g/cm3であった。また、ストランド試料の燃焼速度は圧力12.3MPaのとき4.2mm/secであり、19.6MPaのとき7.8mm/secであった。
(実施例3)
実施例1において、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩の代わりにポリビニルピロリドン(BASF社製、商品名Luvitec K90)10部を用い、更に活性炭1.7部を加えた以外は実施例1に準じて混和物を得た。この混和物を実施例2と同じ標準篩で造粒した後、室温で4日間真空乾燥を行い火薬原料を得た。火薬原料の水分は0.30%であった。この火薬原料は顕微鏡観察の結果、5μm以下の粒子が油剤成分や増粘安定剤を介して結合された凝集体であることが確認された。
(比較例1)
実施例1で用いた硝酸アンモニウムを次の方法で粉砕した。
容量3.6リットルのボールミルに硝酸アンモニウム0.5kg、固結防止剤であるステアリン酸マグネシウム1g及び直径21mmのアルミナボール3.5kgを入れ、アセトン湿式で回転数87rpmで150分かけて粉砕を行った。粉砕した硝酸アンモニウムを実施例1の乾燥方法と同様な方法で乾燥し、得られた火薬原料につき実施例1と同様の条件にて顕微鏡写真を撮影した。この顕微鏡写真を図2に示した。その結果、10〜30μm程度の硝酸アンモニウム粒子同士が凝集した凝集物であることが確認された。
(比較例2)
実施例1において、エマルションを作製する代わりに、前記比較例1で粉砕した硝酸アンモニウムを用いた以外は、実施例1と同じ組成、同じ割合で各成分を混和し、混和物を得た。混和物の一部を実施例1と同様な方法で乾燥させ、得られた火薬原料につき実施例1と同様の条件にて顕微鏡写真を撮影した。この顕微鏡写真を図3に示した。その結果、粉砕後とは異なった形であり、1〜50μm程度の再結晶した硝酸アンモニウムが含まれていることが確認された。
(比較例3)
硝酸アンモニウムの25℃における水100gに対する溶解度が212gであることから計算して結晶化度が約90%となるように水分を4%に調整した油中水型エマルションを実施例1に準じて作製した。このエマルションに実施例1と同じ増粘安定剤を加えて混和物を得た。この混和物を乾燥することなく、ハンドプレス機で圧伸して、直径3mmの火薬原料(紐状薬)を作製した。
この火薬原料を長さ4mmに裁断して円柱薬とし、実施例1と同様な圧縮強度試験を行った結果、0.14MPa以下の圧力で変形した。また、火薬原料を長さ130mmに裁断して実施例1と同様、9.8MPaでストランド燃焼試験を実施した。しかしながら、これを燃焼させることはできなかった。試験後試料を確認したところヒーター線の接触部分のみ焦げていた。
尚、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 増粘安定剤を水溶性固体反応成分に配合して油中水型エマルションを作製するように構成することもできる。
・ 水溶性固体反応成分の粒子表面を油剤成分と増粘安定剤とで層状に被覆することも可能である。
・ 界面活性剤を用いることなく、攪拌速度を上げたりすることによって油中水型エマルションを形成することも可能である。
・ 油剤成分として水と相溶性のないモノマー、反応性官能基を有する有機物質含有液又はポリマーを使用した場合、乾燥工程でこれらの成分を揮散させて、得られる火薬原料における水溶性固体反応成分の粒子表面を増粘安定剤のみで被覆することも可能である。
更に、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 油中水型エマルション中の水分量が10〜20質量%である請求項1から請求項10に記載の火薬原料。このように構成した場合、エマルション中における水溶性固体反応成分の微粒子をより均一にすることができる。
・ 油中水型エマルションの形成を加熱状態で行う請求項10又は請求項11に記載の火薬原料の製造方法。この方法によれば、水溶性固体反応成分の油剤成分中における分散性を向上させることができると共に、エマルションの作製を速やかに行うことができる。
実施例1における火薬原料の微細構造を示す顕微鏡写真。 比較例1における火薬原料の微細構造を示す顕微鏡写真。 比較例2における火薬原料の微細構造を示す顕微鏡写真。

Claims (11)

  1. 火薬の有効成分となる水溶性固体反応成分、油剤成分及び増粘安定剤を含む油中水型エマルションを乾燥した乾燥体により構成され、該乾燥体中に分散されている水溶性固体反応成分の粒子が油剤成分及び増粘安定剤から選択される少なくとも1種の成分により被覆された凝集体として存在していることを特徴とする火薬原料。
  2. 所定形状に成形された成形体である請求項1に記載の火薬原料。
  3. 水分量が2質量%未満である請求項1又は請求項2に記載の火薬原料。
  4. 水溶性固体反応成分は、酸化反応を行わせる酸化剤及び酸化されて燃焼する燃料から選択される少なくとも1種である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の火薬原料。
  5. 酸化剤がアルカリ金属、アルカリ土類金属及びアンモニウムの硝酸塩、亜硝酸塩及びオキソハロゲン酸塩並びに塩基性硝酸塩から選択される少なくとも1種である請求項4に記載の火薬原料。
  6. 酸化剤が硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム及び過塩素酸アンモニウムから選択される少なくとも1種である請求項5に記載の火薬原料。
  7. 増粘安定剤がセルロース誘導体、ポリビニル化合物、ポリアルキレングリコール及び多糖類から選択される少なくとも1種である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の火薬原料。
  8. 油中水型エマルションを形成する油剤成分が油類であり、該油類中に水溶性固体反応成分の粒子を分散させるために界面活性剤が配合されている請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の火薬原料。
  9. 水溶性固体反応成分が50〜98質量%であり、増粘安定剤及び油剤成分の合計量が2〜50質量%である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の火薬原料。
  10. 水溶性固体反応成分の水溶液及び油剤成分を乳化して油中水型エマルションを形成し、該油中水型エマルションに増粘安定剤を添加して混和し、該混和物を乾燥することを特徴とする火薬原料の製造方法。
  11. 乾燥法が加熱法、減圧法又は加熱法と減圧法とを組合せた乾燥法である請求項10に記載の火薬原料の製造方法。
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