JP2005060735A - 金属の疲労強度向上方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】金属内部及び金属の溶接部に存在する残留応力である引張応力を圧縮応力に転換させて金属の疲労強度を向上させる方法を提供する。
【解決手段】金属の少なくとも一部を塑性ひずみ発生温度以上に加熱後、室温に冷却されるまで、前記金属を含む平面内で金属を回転させて金属の残留応力低減することを特徴とする金属の疲労強度向上方法。回転のさせ方としては、回転数をn回/分、回転中心から疲労き裂発生部位までの距離をrmmとするとき、n×rが2000以上30000以下となるように金属を回転させることが好ましい。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は自動車、家電製品、建築構造物、船舶、橋梁、建設機械、各種プラント、ペンストック等で用いられる鉄、アルミニウム、チタン等の金属板からなる構造部材のうち、金属の疲労強度向上方法に関するものである。
【0002】
尚、本発明において、金属とは母材および溶接部の両者を含むものとする。
【0003】
【従来の技術】
自動車、家電製品、建築構造物等の金属部材に繰返し応力が作用すると、疲労破壊を引き起こすが、特に溶接部などにより引張残留応力が存在している場合には、疲労強度がさらに低下する。また、例えばモーター部品やガスタービンのような回転体の場合には、回転による慣性力による応力が繰返し作用し、この繰返し応力に残留応力が重畳して疲労強度の大きな低下を招く。
【0004】
このため、金属およびその溶接部の残留応力を低減させて疲労強度を向上させる方法がいくつか提案されている。
【0005】
まず圧縮残留応力を均一に付与する方法として、コイルばねを対象にして中心軸周りに回転させながらノズルからショット粒を投射させるショットピーニングの方法を規定した技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また熱を利用した方法として、高周波加熱後、急冷による焼入れを施すことにより表面に圧縮残留応力を作用させる方法が、球状黒鉛鋳鉄を対象に行われている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また溶接部を対象とした技術として、溶接トーチの直後に超音波振動子を並設した溶接装置がある(例えば、特許文献3参照)。またさらに電子ビームやレーザーなどの高密度エネルギービームによる溶接方法において、溶接直後に再加熱ビームを照射する方法がある(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
【特許文献1】
特開2002−361558号公報
【特許文献2】
特開2001−212631号公報
【特許文献3】
特開平9−234585号公報
【特許文献4】
特開平10−147817号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
従来技術のうち、まず特許文献1は、対象物を回転させながらショットピーニングを付与する方法において照射角度を規定したものであり、金属を加熱後、もしくは溶接直後に対象物を回転させることは記載されていない。
【0010】
また特許文献2では高周波による加熱後、急冷もしくは超急冷することにより表面に圧縮残留応力を発生させる方法が開示されているが、金属を過熱後もしくは溶接直後に室温に冷却されるまでの間、回転させることは記載されていない。
【0011】
次に特許文献3では溶接直後の高温の溶融部に超音波を作用させ、溶融金属を拡散させることにより、溶接部やその近傍の残留応力を低減させる溶接装置が開示されているが、金属を100℃以上に加熱後、もしくは溶接直後に回転させて慣性力を与えることは記載されていない。
【0012】
またさらに技術文献4では、高密度エネルギービームの溶接において、溶接直後にビームを用いて再加熱することにより残留応力を低減させる方法が開示されているが、溶接後に被溶接体を回転させることは記載されていない。
【0013】
本発明は、金属内部及び金属の溶接部に存在する残留応力である引張応力を圧縮応力に転換させるのに、金属を加熱直後、あるいは溶接直後に回転させて金属およびその溶接部の疲労強度向上方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の要旨とするところは、
(1)金属の少なくとも一部を塑性ひずみ発生温度以上に加熱後、室温に冷却されるまで、前記金属を含む平面内で金属を回転させることを特徴とする金属の疲労強度向上方法、
(2)金属の溶接後、室温に冷却されるまで、前記金属を含む平面内で金属を回転させることを特徴とする金属の疲労強度向上方法、
(3)回転数をn回/分、回転中心から疲労き裂発生部位までの距離をrmmとするとき、n×rが2000以上30000以下となるように金属を回転させることを特徴とする上記(1)または(2)記載の金属の疲労強度向上方法、にある。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の方法が疲労特性を向上させるのは以下の理由による。
【0017】
本発明者は、金属、および溶接部を有する金属の疲労強度を向上させる方法を鋭意検討した結果、金属内部、および金属の溶接部に存在する引張の残留応力が疲労強度を大きく低下させていることを突き止め、この残留応力を現状の引張応力から圧縮応力に転換させることにより飛躍的に疲労強度を飛躍的に向上できること、さらに残留応力を圧縮応力に転換させる方法として、金属を加熱直後、あるいは溶接直後に、前記金属を含む平面内で金属を回転させることが極めて有効であることを見出した。
【0018】
金属の一部が加熱されるか、あるいは溶接されると当該部分が高温になり、膨張するとともに降伏応力が低下し、塑性ひずみが発生する。この状態から当該部分が冷却されると収縮を開始し、室温まで冷却される間の収縮量に比例して引張の残留応力が発生する。本発明の方法は、冷却過程で金属を回転させ、慣性力によって半径方向に引張の応力を作用させ続け、室温まで冷却された後に回転を停止して慣性力を除く結果、慣性力によって生じていた弾性の引張ひずみに相当する応力が圧縮応力として残留し、これが疲労強度を大幅に向上させることを見出した。
【0019】
金属の加熱温度は、少なくとも加熱により金属が塑性ひずみを発生する温度とし、鉄の場合は100℃、アルミニウムおよびアルミニウム合金の場合は50℃とする。その他の金属については、図7に示すように両端を拘束した棒状の試験材を均一に加熱して試験材に作用する荷重を計測し、温度上昇途中で圧縮荷重の増加が停止する温度として求める。加熱温度の上限は特に定めないが、溶融温度以上に加熱の必要性は無いので、上限の目安を溶融温度とする。
【0020】
また回転速度については、一般に回転速度が大きいほど、また疲労き裂発生箇所と回転中心との距離が大きいほど当該箇所に高い圧縮残留応力を付与でき、疲労強度を大幅に向上させることができる。しかし、疲労強度の効果的な向上を得るための下限、および金属に過大な慣性力を与えないための上限を検討した結果、回転速度n(回/分)、および回転中心から疲労き裂発生部位までの距離r(mm)との関係が、
2000≦n×r≦30000 ・ ・ ・(1)
を満たす場合、特に疲労強度が向上することを見出した。
【0021】
また、さらに回転方法についても前記金属を含む平面内で回転するのであれば特に限定するものではなく、回転中心もしくは回転板に直接固定、もしくは図9に示すように棒または線状の冶具10を介して回転中心8もしくは回転板に接続しても差し支え無い。また図8に示すように金属1の内部に回転中心8を持つ自転の回転であっても、図9に示すように金属1の外側に回転中心8がある公転の回転であっても同様に疲労強度向上効果を得ることができる。
【0022】
本発明では、金属の加熱方法を特に限定するものではなく、加熱炉内での加熱や、高周波による加熱等であっても、また高エネルギービーム等の照射であっても差し支え無い。また溶接する場合の溶接方法についても特に限定するものではなく、アーク溶接、レーザー溶接、スポット溶接等の抵抗溶接、拡散接合、摩擦接合等であっても差し支え無い。
【0023】
また、本発明の方法の適用先は鉄鋼材料に限定するものではなく、アルミニウムおよびアルミニウム合金、チタンおよびチタン合金など非鉄金属にも適用可能であり、板形状以外に管、形材や複雑な形状の構造部材についても適用することが可能である。
【0024】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す強度レベルおよび板厚の鋼板を供試材として、図1に示す試験片を製作し、この試験片を加熱炉内で600℃に加熱後、図2に示すような回転台に載せて同じく表1に示す回転数で回転させ、室温まで冷却した後、回転を停止した。この試験片を用いて疲労試験を行った。比較のため、加熱、回転の無いものおよび加熱のみ行った試験片も製作して疲労試験を行った。
【0025】
疲労試験条件は応力比(=最小荷重/最大荷重)を−1とする両振り荷重制御疲労試験であり、室温・大気中で行った。荷重の制御が困難となる寿命を破断寿命として、破断寿命が200万回となる応力範囲で評価した。
【0026】
疲労試験結果を同じく表1に示す。本発明の方法を適用した実施例No.1〜3は比較例No.4および5に比べて全て疲労強度が10%以上向上している。即ち、n×rが2000未満の場合のNo.1、No.2は、比較例に比し疲労強度が向上しているが、特にn×rが3000のNo.3の疲労強度向上が著しい。
【0027】
【表1】
Figure 2005060735
【0028】
(実施例2)
表2に示す強度レベルおよび板厚の鋼板を供試材として、図3に示す試験片を製作し、両側にある溶接部のうち後に溶接する部分の溶接が終了直後、図2に示す方法と同様に回転板により、同じく表2に示す回転数で室温に冷却されるまで回転させた。この試験片を用いて疲労試験を行った。荷重作用方向は試験片の長手方向とした。疲労試験条件は応力比を0.1とする片振り荷重制御疲労試験であり、室温・大気中で行った。き裂発生部となる溶接止端でのき裂深さが1mmとなる繰返し数を寿命として、この寿命が200万回となる荷重範囲で評価した。比較のため、回転させない試験片も製作して同様に疲労試験を行った。
【0029】
疲労試験結果を同じく表2に示す。本発明の方法を適用した実施例No.1〜12におけるそれぞれの供試材と同じ強度レベル・板厚の試験片とNo.13〜16の比較例とを比較すると、いずれも10%以上疲労強度が向上している。特にn×rが2000〜30000の間にあるNo.2、3、5、6、8、9、11、12の疲労強度向上が顕著である。
【0030】
【表2】
Figure 2005060735
【0031】
(実施例3)
表3に示す強度レベルおよび板厚の鋼板を用いて、図4に示すように直径300mm、内径200mmのドーナツ形鋼板の内側に、直径190mmの円板をはめ込んで溶接し、溶接直後から室温に冷却されるまでの間、同じく表3に示す回転数で図5に示すように回転させた。この試験片を図6に示すように曲げモーメント負荷冶具を中央の穴に差し込んでボルトで固定し、負荷冶具に死荷重を与えながら回転運動を与える方法で12N・mの曲げモーメントを繰返し付与して疲労試験とした。また比較のため、回転させない試験片も製作して同様に疲労試験を行った。曲げモーメント負荷冶具の撓みが、試験開始時の10倍以上になった時の回転数を疲労寿命として評価した。
【0032】
結果を同じく表3に示す。本発明例のNo.1〜6はいずれも200万回回転させても疲労き裂が発生せず変化が見られなかったが、比較例はいずれも約40万回で破断に至った。
【0033】
【表3】
Figure 2005060735
【0034】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は金属を加熱後あるいは溶接後に、回転させることにより、生じる慣性力によって引張の変形を与えておき、室温に冷却された時点で回転を終了させることによって金属またはその溶接部に圧縮残留応力を付与させて疲労強度を向上させているため、材料、対象部材の種類によらず疲労強度を安定して向上させることが可能であり、その工業的意味は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例における試験片形状を示す図である。
【図2】本発明の実施例における回転を与える情況の説明図である。
【図3】本発明の実施例における別の試験片形状を示す図である。
【図4】本発明の実施例における別の試験片形状を示す図である。
【図5】本発明の実施例における疲労試験状況を示す図である。
【図6】本発明の実施例における疲労試験状況を示す図である。
【図7】本発明の塑性ひずみ発生温度を決める方法を示す図である。
【図8】本発明の回転方法の例を示す図である。
【図9】本発明の回転方法の別の例を示す図である。
【符号の説明】
1 実施例における試験片
2 回転板
3 飛散防止冶具
4 溶接部
5 疲労試験における曲げモーメント負荷冶具
6 疲労試験における死荷重
7 疲労試験における回転運動
8 回転中心
9 金属と冶具との接続点
10 回転中心と金属をつなぐ冶具
11 回転運動

Claims (3)

  1. 金属の少なくとも一部を塑性ひずみ発生温度以上に加熱後、室温に冷却されるまで、前記金属を含む平面内で金属を回転させることを特徴とする金属の疲労強度向上方法。
  2. 金属の溶接後、室温に冷却されるまで、前記金属を含む平面内で金属を回転させることを特徴とする金属の疲労強度向上方法。
  3. 回転数をn回/分、回転中心から疲労き裂発生部位までの距離をrmmとするとき、n×rが2000以上30000以下となるように金属を回転させることを特徴とする請求項1または2記載の金属の疲労強度向上方法。
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