JP2005060447A - ポリアミド樹脂 - Google Patents
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Abstract
【課題】2,3,4,5−テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量が少なく、溶融滞留安定性に優れた、1,5−ジアミノペンタンおよび炭素数2〜5のジカルボン酸から構成されるポリアミド樹脂を得る。
【解決手段】1,5−ジアミノペンタンと炭素数2〜5のジカルボン酸から構成されるポリアミド樹脂であって、該1,5−ジアミノペンタンが、リジン脱炭酸酵素活性の向上した組換え微生物またはその抽出物を用いて、リジンから産出されたものであることを特徴とするポリアミド樹脂。
【選択図】なし
【解決手段】1,5−ジアミノペンタンと炭素数2〜5のジカルボン酸から構成されるポリアミド樹脂であって、該1,5−ジアミノペンタンが、リジン脱炭酸酵素活性の向上した組換え微生物またはその抽出物を用いて、リジンから産出されたものであることを特徴とするポリアミド樹脂。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、非石油資源からバイオ合成法にて産出される1,5−ジアミノペンタンと炭素数2〜5のジカルボン酸から構成され、環状アミン不純物の含有量が少なく、溶融滞留安定性に優れたポリアミド樹脂に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
石油、エネルギー枯渇問題を背景として、近年、非石油資源からバイオテクノロジーにより高分子原料を合成する研究が盛んに行われている。例えば、1,5−ジアミノペンタンは、リジン脱炭酸酵素によりリジンから効率よく生産できることが特許文献1,2に記載されている。またコハク酸などの有機酸は、従来からグルコースなどの糖類から発酵法にて合成できることが知られており、また最近ではセルロースを主成分とする古紙からも微生物を用いて合成できることが分かってきている。これらバイオ合成法では、化学合成法のような高温等の条件を必要としないため、副生成物が少ないという利点もある。またこれらの原料を用いて得られるポリマーは非石油原料ポリマーであり、持続的社会構築に貢献すると考えられる。
【0003】
ポリアミドの一般的な合成方法としては加熱重縮合と界面重縮合が挙げられる。1,5−ジアミノペンタンと低炭素数のジカルボン酸から構成されるポリアミドとして、界面重縮合にて合成したポリアミド55、53が非特許文献1、2にそれぞれ記載されている。この文献で使用している1,5−ジアミノペンタンは高い反応温度で化学合成法にて得たものであり、不純物として1,5−ジアミノペンタンが分子内脱アンモニア反応することにより生成する、2,3,4,5−テトラヒドロピリジン、ピペリジン、アンモニアなどの塩基性化合物が多く含有されている可能性がある。その結果、生成したポリアミドも上記不純物を多く含有していると考えられ、溶融時にポリアミドの分解反応を引き起こす可能性が高く、溶融滞留安定性に劣ると考えられる。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−223770号公報(実施例)
【特許文献2】
特開2002−223771号公報(実施例)
【非特許文献1】
「マクロモルキュルズ(Macromolecules)」、(米国)、第29号、1996年、p.5406−5415
【非特許文献2】
「マクロモルキュルズ(Macromolecules)」、(米国)、第29号、1996年、p.1886−1893
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
すなわち1,5−ジアミノペンタンを原料とした、溶融滞留安定性に優れたポリアミドを得るためには、上記不純物の少ない原料を使用し、ポリアミド中に含まれる塩基性化合物を低減させることが重要である。本発明者らは、1,5−ジアミノペンタンと炭素数2〜5のジカルボン酸から構成されるポリアミド樹脂において、非石油資源からバイオ法で合成された原料を用いることで、溶融滞留安定性に優れたポリアミド樹脂が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、
(1)1,5−ジアミノペンタンと炭素数2〜5のジカルボン酸から構成されるポリアミド樹脂であって、該1,5−ジアミノペンタンが、リジン脱炭酸酵素活性の向上した組換え微生物またはその抽出物を用いて、リジンから産出されたものであることを特徴とするポリアミド樹脂。
【0007】
(2)前記1,5−ジアミノペンタン中の2,3,4,5−テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量が0.5wt%以下であることを特徴とする前記(1)記載のポリアミド樹脂。
により構成される。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明で言う1,5−ジアミノペンタンとは、1,5−ジアミノペンタン中に、2,3,4,5−テトラヒドロピリジン、ピペリジン、その他の不純物を含有したものも含むものとする。
【0010】
本発明では、非石油資源のリジン塩酸塩からリジン脱炭酸酵素によって脱炭酸して産生される1,5−ジアミノペンタン塩酸塩を、アルカリ性下で処理することにより得られる1,5−ジアミノペンタンを用いる。一般の化学合成法により産出される1,5−ジアミノペンタンを用いたポリアミド樹脂では、1,5−ジアミノペンタン中に2,3,4,5−テトラヒドロピリジンやピペリジン等の不純物を多く含むため、溶融滞留安定性に劣る。上記バイオ合成法から産出された1,5−ジアミノペンタンを用いたポリアミド樹脂では、1,5−ジアミノペンタン中の不純物量が少ないため、溶融滞留安定性の特に優れたポリアミド樹脂を得ることができる。
【0011】
本発明において、溶融滞留安定性に優れたポリアミド樹脂を得るためには、1,5−ジアミノペンタン中の2,3,4,5−テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量を0.5wt%以下に制御することが好ましい。2,3,4,5−テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量が0.5wt%以上である1,5,−ジアミノペンタンを原料とすると、ポリアミド樹脂の加熱重縮合時および溶融滞留時に分解反応が著しく進行するため、好ましくない。
【0012】
本発明に用いる炭素数2〜5のジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸のような脂肪族ジカルボン酸、シクロプロパンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸などを挙げることができる。これらのジカルボン酸の製法に制限はないが、酵素または微生物を用いて産出されたものを使用することが好ましい。
【0013】
本発明のポリアミド樹脂の重合度にはとくに制限がなく、0.01g/mlとした98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が1.5〜8.0であることが好ましく、2.0〜5.0であることがさらに好ましい。相対粘度が1.5未満では、実用的強度が不十分なため、8.0以上では、溶融成形が困難となるため好ましくない。
【0014】
本発明を構成する1,5−ジアミノペンタンの製法はリジン脱炭酸酵素を用いてリジンから転換するバイオ合成法である。一般に2,3,4,5−テトラヒドロピリジンやピペリジンは、反応温度が高いほど生成し易いため、反応温度が低い方法によって1,5−ジアミノペンタンを得る方が、2,3,4,5−テトラヒドロピリジンやピペリジン含量を低減できる。1,5−ジアミノペンタンの製法としては他に、2−シクロヘキセン−1−オンなどのビニルケトン類を触媒としてリジンから合成する化学合成法が提案されているが、反応温度が約150℃と高いため前記不純物も多く含有される。また化学合成1,5−ジアミノペンタンを用いて得られるポリアミド樹脂においては、溶融時には不純物として多く含まれる塩基性化合物により分解反応を引き起こす可能性が高く、溶融滞留安定性に劣ると考えられる。本発明の製造に用いる1,5−ジアミノペンタンのバイオ合成法によれば反応温度が低いため2,3,4,5−テトラヒドロピリジンやピペリジン含量を特に低減できる。
【0015】
リジン脱炭酸酵素は、リジンを1,5−ジアミノペンタンに転換させる酵素であり、Escherichia coli K12株をはじめとするエシェリシア属微生物のみならず、多くの生物に存在することが知られている。
【0016】
本発明において使用されるリジン脱炭酸酵素に特に制限はないが、例えば、バシラス・ハロドゥランス(Bacillus halodurans)、バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)、エシェリシア・コリ(Escherichia coli)、セレノモナス・ルミナンチウム(Selenomonas ruminantium)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae)、ビブリオ・パラヘモリティカス(Vibrio parahaemolyticus)、ストレプトマイセス・コエリカーラ(Streptomyces coelicolor)、ストレプトマイセス・ピロサス(Streptomyces pilosus)、エイケネラ・コロデンス(Eikenella corrodens)、イユバクテリウム・アシダミノフィルム(Eubacterium acidaminophilum)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、ハフニア・アルベイ(Hafnia alvei)、ナイセリア・メニンギチデス(Neisseria meningitidis)、テルモプラズマ・アシドフィルム(Thermoplasma acidophilum)、ピロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)またはコリネバクテリウム・グルタミカス(Corynebacterium glutamicum)由来のものが好ましく用いられる。さらに好ましくは安全性の認められているエシェリシア・コリ(Escherichia coli)由来のものである。
【0017】
1,5−ジアミノペンタンはアルカリ性の化合物であるために、酵素反応が進行するにつれ、反応液のpHはアルカリ側に変化していく。しかし、リジン塩水溶液に、リジン脱炭酸酵素を作用させれば、反応液のpHを制御する必要がなく効率よく1,5−ジアミノペンタンを生産できる。用いるリジン塩については特に制限はない。好ましくは塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩である。さらに好ましくはリジン一塩酸塩である。
【0018】
リジン脱炭酸酵素は本来ビタミンB6と結合し存在するが、リジン塩水溶液にビタミンB6を添加することにより、生産速度および反応収率を向上させることができる。ビタミンB6を添加する方法には特に制限はない。反応中に適宜添加しても良い。好ましくはリジン脱炭酸酵素が溶液状態であれば、酵素溶液中に添加することが好ましい。反応液中でのビタミンB6の濃度については特に制限はなく。好ましくは反応液に0.05mMのビタミンB6濃度となるように加えればよい。用いるビタミンB6に特に制限はない。好ましくは、ピリドキシン、ピリドキサミン、ピリドキサルおよびピリドキサルリン酸から選ばれる少なくとも1種である。さらに好ましくはピリドキサルリン酸である。
【0019】
本発明において使用されるリジン脱炭酸酵素を得る方法に特に制限はないが、例えば、リジン脱炭酸酵素が細胞内で高発現した組換え細胞などを適当な培地で培養し、増殖した細胞を回収し、当該細胞を破砕すればよい。
【0020】
リジン脱炭酸酵素遺伝子をクローニングする方法に特に制限はない。既知の遺伝子情報に基づき、PCR (polymerase chain reaction)法を用いて必要な遺伝領域を増幅取得する方法、既知の遺伝子情報に基づきゲノムライブラリーやcDNAライブラリーより相同性や酵素活性を指標としてクローニングする方法などが挙げられる。本発明においては、これらの遺伝子は、遺伝的多形性などによる変異型も含む。なお、遺伝的多形性とは、遺伝子上の自然突然変異により遺伝子の塩基配列が一部変化しているものをいう。例えばE.coli K12株の染色体DNAよりPCR法を用いてリジン脱炭酸酵素をコードする遺伝子であるcadA遺伝子またはldc遺伝子をクローニングする。この際使用する染色体DNAはE.coli由来であればどの菌株由来でもよい。
【0021】
本発明では、リジン脱炭酸酵素は、リジン脱炭酸酵素の細胞内での活性が上昇した組換え細胞から調製されたものが使用される。細胞内でリジン脱炭酸酵素の活性を上昇させる方法に特に制限はない。具体的には、例えば、リジン脱炭酸酵素の酵素量を増加させる方法、もしくは酵素の構造遺伝子自体に変異を導入して、酵素そのものの比活性を上昇させることなどが挙げられる。
【0022】
細胞内の酵素量を増加させる手段としては、遺伝子の転写調節領域の改良、遺伝子のコピー数の増加、蛋白への翻訳の効率化などが挙げられる。
【0023】
転写調節領域の改良とは、遺伝子の転写量を増加させる改変を加えることをいう。例えば、プロモーターに変異を導入することによってプロモーター強化を行い、下流にある遺伝子の転写量を増加させることができる。プロモーターに変異を導入する以外にも、宿主内で強力に発現するプロモーターを導入しても良い。
例えば大腸菌においては、lac、tac、trpなどのプロモーターが挙げられる。また、エンハンサーを新たに導入することによって遺伝子の転写量を増加させることができる。
【0024】
遺伝子のコピー数の上昇は、具体的には、遺伝子を多コピー型のベクターに接続して組換えDNAを作製し、該組換えDNAを宿主細胞に保持させることにより達成することができる。ここでベクターとは、プラスミドやファージ等広く用いられているものを含むが、これら以外にも、トランソポゾン(Berg,D.E and Berg.C.M., Bio/Technol.,vol.1,P.417)やMuファージ(特開平2−109985号公報)も含む。遺伝子を相同組換え用プラスミド等を用いた方法で染色体に組み込んでコピー数を上昇させることも可能である。
【0025】
蛋白の翻訳効率を上昇させる方法としては、例えば原核生物においてはSD配列(Shine, J. and Dalgarno, L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 71, 1342−1346 (1974))、真核生物では Kozak のコンセンサス配列(Kozak, M., Nuc. Acids Res., Vol.15,p.8125−8148(1987))を導入、改変することや、使用コドンの最適化(特開昭59−125895)などが挙げられる。
【0026】
リジン脱炭酸酵素の細胞内もしくは細胞表面での活性を上昇させる手段としては、リジン脱炭酸酵素の構造遺伝子自体に変異を導入して、リジン脱炭酸酵素そのものの活性を上昇させることも挙げられる。
【0027】
遺伝子に変異を生じさせるには、部位特異的変異法(Kramer,W. and frita,H.J., Methods in Enzymology,vol.154,P.350(1987))リコンビナントPCR法(PCRTechnology,Stockton Press(1989)、特定の部分のDNAを化学合成する方法、または当該遺伝子をヒドロキシアミン処理する方法や当該遺伝子を保有する菌株を紫外線照射処理、もしくはニトロソグアニジンや亜硝酸などの化学薬剤で処理する方法がある。
【0028】
組換え細胞としては、微生物、動物、植物、または昆虫由来のものが好ましく使用できる。例えば動物を用いる場合、マウス、ラットやそれらの培養細胞などが用いられる。植物を用いる場合、例えばシロイヌナズナ、タバコやそれらの培養細胞が用いられる。また、昆虫を用いる場合、例えばカイコやその培養細胞などが用いられる。また、微生物を用いる場合、例えば、大腸菌などが用いられる。
【0029】
また、リジン脱炭酸酵素を複数種組み合わせて使用しても良い。
【0030】
リジン脱炭酸酵素を得るために、組換え細胞を培養する方法に特に制限はないが、例えば微生物を培養する場合、使用する培地は、炭素源、窒素源、無機イオンおよび必要に応じその他有機成分を含有する培地が用いられる。例えば、大腸菌の場合しばしばLB培地が用いられる。炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボースや澱粉の加水分解物などの糖類、グリセロール、マンニトールやソルビトールなどのアルコール類、グルコン酸、フマール酸、クエン酸やコハク酸等の有機酸類を用いることができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。有機微量栄養素としては、各種アミノ酸、ビタミンB1等のビタミン類、RNA等の核酸類などの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。それらの他に、必要に応じて、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
【0031】
培養条件にも特に制限はなく、例えば大腸菌の場合、好気条件下で16〜72時間程度実施するのが良く、培養温度は30℃〜45℃に、特に好ましくは37℃に、培養pHは5〜8に、特に好ましくはpH7に制御するのがよい。なおpH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、さらにアンモニアガス等を使用することができる。
【0032】
増殖した細胞内発現組み換え細胞は、遠心分離等により培養液から回収することができる。回収した細胞内発現組み換え細胞から細胞破砕液を調整するには、通常の方法が用いられる。すなわち、細胞内発現組み換え細胞を超音波処理、ダイノミル、フレンチプレス等の方法にて破砕し、遠心分離により細胞残渣を除去することにより細胞破砕液が得られる。
【0033】
細胞破砕液からリジン脱炭酸酵素を精製するには、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、等電点沈殿、熱処理、pH処理など酵素の精製に通常用いられる手法が適宜組み合わされて用いられる。
【0034】
一般的な工業化される酵素反応は休止細胞を用いるが、本発明においては作用させるリジン脱炭酸酵素は、リジン脱炭酸酵素活性を有する休止細胞、その細胞破砕液などが使用できるが、細胞破砕液が好ましい。細胞破砕液を用いるとより高生産速度で1,5−ジアミノペンタンが得られる。
【0035】
さらに、部分的に精製したリジン脱炭酸酵素を作用させることによりリジンの分解および1,5−ジアミノペンタンの分解を抑制することができ、より高収率かつ高純度の1,5−ジアミノペンタンが得られる。部分的な精製とは、工業的に容易な処理のみ行うことであり例えば熱処理、pH処理等が挙げられる。好ましくは熱処理である。さらに好ましくは単離精製したリジン脱炭酸酵素を作用させることである。リジン脱炭酸酵素を部分的に精製、または単離精製することで、リジンの分解や1,5−ジアミノペンタンの分解を引き起こす酵素を取り除くことができる。
【0036】
一般的に酵素というものは本来あるべきアミノ酸配列で自然界に存在するため、人工的にアミノ酸配列を付与もしくは欠如させると酵素の活性を失うことが多い。しかし本発明において細胞内にリジン脱炭酸酵素を発現させる場合、リジン脱炭酸酵素のN末端アミノ酸配列に1から30個のアミノ酸配列を付与したリジン脱炭酸酵素が好ましく使用できる。ここで、N末端に付与するものは6から10個のヒスチジン残基が好ましい。このように、N末端アミノ酸配列にアミノ酸を付与することで、リジン脱炭酸酵素の精製を簡便にできるようにすることができる。N末端アミノ酸配列に1から30個のアミノ酸を付与する方法に特に制限はない。例えばリジン脱炭酸酵素遺伝子に付与したいアミノ酸配列に相当する塩基配列を遺伝子工学的手法を用い、組み換えればよい。用いる遺伝子工学的手法に特に制限はないが。好ましくはPCR法やDNA断片同士の連結による方法がある。
【0037】
リジン脱炭酸酵素によるリジン塩水溶液から1,5−ジアミノペンタンへの変換は、上記のようにして得られるリジン脱炭酸酵素を、リジン塩水溶液に接触させることによって行うことができる。
【0038】
用いるリジン脱炭酸酵素の量に特に制限はない。、リジン塩水溶液を1,5−ジアミノペンタンに変換する反応を触媒するのに十分な量であればよい。好ましくは反応液中の酵素濃度が25から70mg/Lである。好ましくは50mg/Lである。一方、休止細胞を使用する際は、反応液中の細胞濃度が5から15g/Lである。好ましくは10g/Lである。
【0039】
反応温度は、通常、28〜55℃、好ましくは45℃前後である。
【0040】
反応液の状態に特に制限はない。好ましくは静置または攪拌状態である。攪拌状態にする方法には特に制限はない。好ましくは攪拌翼により攪拌する方法である。
【0041】
本発明で使用するリジン脱炭酸酵素は、固定化することで繰り返し1,5−ジアミノペンタン合成反応に使用することができ、酵素の調製に必要なコストを低減させることができる。固定化方法としては、アクリルアミドなどの合成高分子に包括する方法、セファロースやスチレン樹脂を骨格とするイオン交換性担体や疎水性担体に吸着させる方法、または、ガラス担体に共有結合で結合させる方法などが挙げられる。
【0042】
反応時間は、使用する酵素活性、リジン塩濃度などの条件によって異なるが、通常、1〜72時間である。また、反応は、リジン塩を供給しながら連続的に行ってもよい。
【0043】
このように生成した1,5−ジアミノペンタンを反応終了後、反応液から採取する方法としては、反応終了液をアルカリでpH12から14にし、極性有機溶媒で抽出すれば良い。
【0044】
用いるアルカリに特に制限はない。好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムを用いることができる。
【0045】
用いる極性有機溶媒に特に制限はない。好ましくはアニリン、シクロヘキサノン、1−オクタノール、イソブチルアルコール、シクロヘキサノール、クロロホルムを用いることができる。
【0046】
本発明のポリアミド樹脂の製造方法としては、公知の方法が適用可能であり、例えば「ポリアミド樹脂ハンドブック」(福本修編)等に開示されている方法が使用できる。1,5−ジアミノペンタンとシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸のような脂肪族ジカルボン酸の塩またはシクロプロパンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸の塩、および水の混合物を高温で加熱し、脱水反応を進行させる加熱重縮合法、また1,5−ジアミノペンタンを水に溶解し、シュウ酸クロリド、マロン酸クロリド、コハク酸クロリド、グルタル酸クロリドのような脂肪族ジカルボン酸クロリドまたはシクロプロパンジカルボン酸クロリドのような脂環式ジカルボン酸クロリドを水と混ざらない有機溶媒に溶解しておき、これら水相と有機相の界面で重縮合させる方法(界面重縮合法)などが挙げられる。ここで、加熱重縮合とは、製造時のポリアミド樹脂の最高到達温度を100℃以上に上昇させる製造プロセスと定義する。界面重縮合は、有機溶媒を用いること、重縮合時の副生成物となる塩酸を中和することが必要であることなどプロセスが複雑であるため、工業的に製造するには加熱重縮合法を用いることが好ましい。また、加熱重縮合後、固相重合することによって、分子量を上昇させることも可能である。固相重合は、100℃〜融点の温度範囲で、真空中、あるいは不活性ガス中で加熱することにより進行し、加熱重縮合では分子量が不十分なポリアミド樹脂を高分子量化することができる。
【0047】
また、本発明のポリアミド樹脂には本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤及び滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、充填剤(グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、硫化亜鉛、亜鉛、鉛、ニッケル、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ベントナイト、モンモリロナイト、合成雲母等の粒子状、繊維状、針状、板状充填材)、他の重合体(他のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリスチレン等)を任意の時点で添加することができる。
【0048】
本発明のポリアミド樹脂は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、溶融紡糸、フィルム成形などの任意の成形方法により、所望の形状に成形でき、機械部品などの樹脂成形品、衣料・産業資材などの繊維、包装・磁気記録などのフィルムとして使用することができる。
【0049】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0050】
[1,5−ジアミノペンタン中の環状アミンの定量(GC−MS)]
下記条件でGC−MS分析して、1,5−ジアミノペンタン中に含まれる2,3,4,5−テトラヒドロピリジンおよびピぺリジン含量を定量した。
装置:ヒューレットパッカード製 HP5890質量検出器
カラム:5%−ジフェニル−95%−ジメチルポリシロキサン
【0051】
[DSC(示差走査熱量測定)]
セイコー電子工業製 ロボットDSC RDC220を用い、窒素雰囲気下、試料を約5mgを採取し、次の条件で測定した。溶融状態から、20℃/分の降温速度で、ガラス転移温度未満の温度まで降温し、3分間保持した後、30℃から20℃/分の昇温速度で昇温したときに観測される吸熱ピークの温度を求めた。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク強度の最も大きい吸熱ピークを融点とした。
【0052】
[相対粘度(ηr)]
98%硫酸中、0.01g/ml濃度、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定を行った。
【0053】
[溶融滞留試験]
溶融滞留安定性を評価するため、溶融滞留試験を行った。不活性ガス雰囲気下、ポリアミド樹脂の融点+20℃の温度で30分間溶融滞留させた場合の相対粘度(ηr)保持率で溶融滞留安定性を評価する。相対粘度保持率は、溶融滞留させる前のポリアミド樹脂の相対粘度を100%とした場合に、溶融滞留させた後の硫酸相対粘度が何%保持されているかを表す。従って100%に近いほど、溶融滞留によるポリアミド樹脂の分解が少ないことを示し、溶融滞留安定性に優れたポリアミド樹脂を得ることができる。
【0054】
溶融滞留試験は試験管に試料約5gを仕込み、窒素雰囲気下、融点+20℃の温度のシリコンバスに浸漬し、試料が完全に溶融してから30分間放置した後、試料を回収して相対粘度測定を行い評価した。
【0055】
[リジン濃度および1,5−ジアミノペンタン濃度のHPLCによる分析方法]
使用カラム:CAPCELL PAK C18(資生堂)
移動相:0.1%(w/w)H3PO4:アセトニトリル=4.5:5.5
検出:UV 360nm
サンプル前処理:分析サンプル25μlに内標として0.03M 1,4−ジアミノブタンを25μl、0.075M 炭酸水素ナトリウムを150μlおよび0.2M 2,4−ジニトロフルオロベンゼンのエタノール溶液を添加混合し37℃で1時間保温する。上記反応溶液50μlを1mlアセトニトリルに溶解後、10,000rpmで5分間遠心した後の10μlをHPLC分析した。
【0056】
参考例1(リジン脱炭酸酵素の調整)
(1)リジン脱炭酸酵素遺伝子のクローニングおよび細胞内発現ベクターの作製
リジン脱炭酸酵素を用いてリジン塩から1,5−ジアミノペンタンに変換させるために、E.coliのリジン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)のクローニングを行った。
【0057】
データベース(GenBank)に登録されているリジン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)(Accession No.M76411)の塩基配列を参考にオリゴヌクレオチドプライマー5−atgaacgttattgcaatattg−3’(配列番号:1)、5’− gctgatgggtgagatagaatg−3’(配列番号:2)を合成した。E.coli K12株(ATCC10798)から常法に従い調整したゲノムDNAの溶液を増幅鋳型として0.2mlのミクロ遠心チューブに0.2μlづつ取り、各プライマーを20pmol、20mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)、2.5mM KCl、100μg/mlゼラチン、50μM各dNTP、2単位 LATaqDNAポリメラーゼ(宝酒造製)となるように各試薬を加え、全量を50μlとした。DNAの変性条件を94℃、30秒、プライマーのアニーリング条件を55℃、30秒、DNAプライマーの伸長反応条件を72℃、3分の各条件でBioRad社のサーマルサイクラーを用い、30サイクル反応させた(ポリメラーゼ連鎖反応:以後、PCR法と記す)。尚、本実施例におけるPCR法は特に断らない限り、本条件にて行った。このPCR法により得られた産物を1%アガロースにて電気泳動し、cadA遺伝子を含む約2.1kbのDNA断片を常法に従い調整した。この断片を、プラスミドベクターpT7blue(Novagen社製)のEcoRV部位の3’−末端にT塩基が付加された間隙に、常法に従ったライゲーション反応により挿入し、得られたプラスミドをpT7−cadAと命名した。
【0058】
このpT7−cadAを増幅鋳型として、オリゴヌクレオチド5’− cgccatgggccatcatcatcatcatcatcatcatatgaacgttattgcaatattg −3’(配列番号:3)、5’− cgcggatccgctgatgggtgagatagaatg −3’(配列番号:4)をプライマーセットとしたPCR法を行った。ここで得られる産物は、オリゴヌクレオチド(配列番号:3)由来の塩基配列と、(配列番号:4)由来の塩基配列が、それぞれcadA遺伝子を含むDNA断片の5’末端、および3’末端に付加されている。この産物を1%アガロースにて電気泳動し、約2.1kbのDNA断片を常法に従い調整した。この断片を、プラスミドベクターpT7blue(Novagen社製)のEcoRV部位の3’−末端にT塩基が付加された間隙に、常法に従ったライゲーション反応により挿入し、得られたプラスミドをpT7−cadA1と命名した。
【0059】
このpT7−cadA1をNcoI、及びBamHIで消化し、得られた2.1kbのNcoI−BamHI断片を、予めNcoI、及びBamHIで消化しておいたpTV118N(宝酒造製)のNcoI/BamHI間隙に常法に従ったライゲーション反応により挿入し、得られたプラスミドをpLDC1と命名した(図1)。このプラスミドを導入した大腸菌を培養することで、リジン脱炭酸酵素のN末端アミノ酸配列に6個のヒスジチン残基が付加された分子量約80kDaの組み換えリジン脱炭酸酵素を生産することができる。
【0060】
(2)組み換えリジン脱炭酸酵素の産生
pLDC1でE.coli JM109株をアンピシリン耐性に形質転換し、得られた形質転換体をJM109/pLDC1株と命名した。
【0061】
次にJM109/pLDC1株で組み換えリジン脱炭酸酵素を産生させた。まず、JM109/pLDC1株をそれぞれ50μg/mlのアンピシリンナトリウムを含んだ滅菌LB培地(Sambrook、J. et. al、2001、 Molecular Cloning 3rd. edition、 Cold Spring Harbor Lab. Press)(LB−amp培地)5mlに1白金耳植菌し、37℃で24時間振とうして前培養を行った。
【0062】
この前培養液をLB−amp培地50mlに全量植菌し、37℃、振幅30cmで、180rpmの条件下で3時間培養した後に1mM IPTG(isopropyl−1−thio−β−D−galactoside)添加し、更に4時間培養した。対照実験として、JM109株をpTV118Nで形質転換した形質転換体(以後、JM109/pTV118N株とする)を用い同様の培養を行った。こうして得られた菌体を集め、5mlのTBS緩衝液(宝酒造製)に再懸濁後、超音波破砕および遠心分離により細胞破砕液を調製した。これらのリジン脱炭酸酵素活性の測定を単位時間当たりに生成する1,5−ジアミノペンタンの濃度を測定することにより行った。その結果、対照実験であるJM109/pTV118N株由来の細胞破砕液に対して、JM109/pLDC1株においてはリジン脱炭酸酵素活性は約100倍に上昇していた。また、この細胞破砕液をSDS−PAGEで分画し、Penta−His Antibody抗体(QIAGEN社製)でウエスタンブロッティングを行った結果、JM109/pLDC1株由来の細胞破砕液のみから、分子量約80kDaの組み換えリジン脱炭酸酵素を検出した。
【0063】
(3)組み換えリジン脱炭酸酵素の精製
この組み換えリジン脱炭酸酵素は、N末端アミノ酸配列に6個のヒスチジン残基があることこから、ニッケルイオンとの相互作用を利用した精製を行った。
まず、10mlのキレーティング セファロース ファースト フロー(Chilating Sepharose Fast Flow)担体(アマシャム バイオサイエンス社製)を充填したカラムシステムを構築した。このカラムに50mlの50mM 硫酸ニッケル水溶液、50mlのTBS緩衝液の順で流した後、(2)と同様の方法で得られたJM109/pLDC1株の500mL培養液由来の50ml細胞破砕液を流した。その後、100mlの5mM イミダゾールを含むTBS緩衝液、100mlの50mM イミダゾールを含むTBS緩衝液をこの順序で流した。更に50mlの600mM イミダゾールを含むTBS緩衝液を流した。カラムに流した各々の緩衝液のリジン脱炭酸酵素活性を(2)と同様の方法で測定したところ、600mM イミダゾールを含むTBS緩衝液のみに活性があった。また、カラムに流した各々の緩衝液をSDS−PAGEし、クマシーブリリアントブルーで染色したところ、600mM イミダゾールを含むTBS緩衝液から、約80kDaの単一バンドを検出した。また、カラムに流した各々の緩衝液を(2)と同様の方法でウエスタンブロッティングを行ったところ、600mM イミダゾールを含むTBS緩衝液のみに約80kDaタンパク質を検出し、この精製タンパク質はリジン脱炭酸酵素活性を有する組み換えリジン脱炭酸酵素であることを確認した。
【0064】
参考例2(1,5−ジアミノペンタンの製造)
1.35M リジン塩酸塩(和光純薬工業製)、0.1mM ピリドキサルリン酸(和光純薬工業製)、50mg/L−精製リジン脱炭酸酵素(参考例1で調製)となるように調製した水溶液1000mlを、45℃で48時間反応させ、1,5−ジアミノペンタン塩酸塩を得た。この水溶液に水酸化ナトリウムを添加することによって1,5−ジアミノペンタン塩酸塩を1,5−ジアミノペンタンに変換し、クロロホルムで抽出して、減圧蒸留(10mmHg、60℃)することにより、1,5−ジアミノペンタンを得た。GC−MS分析により2,3,4,5−テトラヒドロピリジン、ピペリジンの含量を定量した結果、それぞれ0.20、0.012wt%であった。
【0065】
参考例3(1,5−ジアミノペンタンの製造)
リジン塩酸塩20g(和光純薬工業製)シクロヘキサノール100ml(シグマアルドリッチジャパン製)に懸濁し、次いで28%ナトリウムメトキシド/メタノール溶液(シグマアルドリッチジャパン製)21.2ml、2−シクロヘキセン−1−オン1ml(シグマアルドリッチジャパン製)を加え、155℃で3時間加熱撹拌した。反応終了後、反応混合物に塩化水素4g(シグマアルドリッチジャパン製)を含むイソプロパノール溶液20ml(シグマアルドリッチジャパン製)を加え、析出した生成物を回収し、乾燥することにより1,5−ジアミノペンタン塩酸塩を得た(特公平4−10452の実施例4記載の方法)。この水溶液に、水酸化ナトリウム水溶液を添加することによって1,5−ジアミノペンタン塩酸塩を1,5−ジアミノペンタンに変換し、クロロホルムで抽出して、減圧蒸留(10mmHg、60℃)することにより、1,5−ジアミノペンタンを得た。GC−MS分析により2,3,4,5−テトラヒドロピリジン、ピペリジンの含量を定量した結果、それぞれ1.5、0.026wt%であった。
【0066】
参考例4(1,5−ジアミノペンタンと炭素数2〜5のジカルボン酸の塩の調製)
参考例2の1,5−ジアミノペンタンの水溶液を、40℃のウォーターバスに浸して撹拌しているところに、炭素数2〜5のジカルボン酸(東京化成工業製)を約1gずつ、中和点付近では約0.2gずつ添加していき、ジカルボン酸添加量に対する水溶液のpH変化から中和点を求めた。中和点のpHになるように、1,5−ジアミノペンタンと炭素数2〜5のジカルボン酸の等モル塩の50wt%水溶液を調製した。
【0067】
参考例5(1,5−ジアミノペンタンと炭素数2〜5のジカルボン酸の塩の調製)
参考例3の1,5−ジアミノペンタンの水溶液を、40℃のウォーターバスに浸して撹拌しているところに、炭素数2〜5のジカルボン酸(東京化成工業製)を約1gずつ、中和点付近では約0.2gずつ添加していき、ジカルボン酸添加量に対する水溶液のpH変化から中和点を求めた。中和点のpHになるように、1,5−ジアミノペンタンと炭素数2〜5のジカルボン酸の等モル塩の50wt%水溶液を調製した。
【0068】
[実施例1]
参考例4で調製した1,5−ジアミノペンタンとグルタル酸の等モル塩の50wt%水溶液50.0gを試験管に仕込み、オートクレーブに入れて、密閉し、窒素置換した。ジャケット温度を230℃に設定し、加熱を開始した。缶内圧力が17.5kg/cm2に到達した後、缶内圧力を17.5kg/cm2で2時間保持した。その後、ジャケット温度を250℃に設定し、2時間かけて缶内圧力を常圧に放圧した。その後、缶内温度が250に到達した時点で、加熱を停止した。室温に放冷後、試験管をオートクレーブから取り出し、ポリアミド樹脂を得た。
【0069】
[実施例2]
参考例4で調製した1,5−ジアミノペンタンとコハク酸の等モル塩の50wt%水溶液50.0gを試験管に仕込み、オートクレーブに入れて、密閉し、窒素置換した。ジャケット温度を220℃に設定し、加熱を開始した。缶内圧力が17.5kg/cm2に到達した後、缶内圧力を17.5kg/cm2で2時間保持した。その後、2時間かけて缶内圧力を常圧に放圧し、缶内温度が220に到達した時点で、加熱を停止した。室温に放冷後、試験管をオートクレーブから取り出して低次縮合物を得、更に180℃、0.3Torrで12時間固相重合することでポリアミド樹脂を得た。
【0070】
[比較例1]
参考例5で調製した1,5−ジアミノペンタンとグルタル酸の等モル塩の50wt%水溶液を用いる以外は、実施例1と全く同様の方法でポリアミド樹脂を得た。
【0071】
[比較例2]
参考例5で調製した1,5−ジアミノペンタンとコハク酸の等モル塩の50wt%水溶液用いる以外は、実施例2と全く同様の方法でポリアミド樹脂を得た。
【0072】
【表1】
【0073】
実施例1、2と比較例1、2の比較により、実施例では溶融滞留時の相対粘度保持率が大きく、溶融滞留安定性に優れるポリアミド樹脂が得られることを確認した。
【0074】
【発明の効果】
バイオ合成法により産出される1,5−ジアミノペンタンを用いることで、溶融滞留安定性に優れたポリアミド樹脂を得ることができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、非石油資源からバイオ合成法にて産出される1,5−ジアミノペンタンと炭素数2〜5のジカルボン酸から構成され、環状アミン不純物の含有量が少なく、溶融滞留安定性に優れたポリアミド樹脂に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
石油、エネルギー枯渇問題を背景として、近年、非石油資源からバイオテクノロジーにより高分子原料を合成する研究が盛んに行われている。例えば、1,5−ジアミノペンタンは、リジン脱炭酸酵素によりリジンから効率よく生産できることが特許文献1,2に記載されている。またコハク酸などの有機酸は、従来からグルコースなどの糖類から発酵法にて合成できることが知られており、また最近ではセルロースを主成分とする古紙からも微生物を用いて合成できることが分かってきている。これらバイオ合成法では、化学合成法のような高温等の条件を必要としないため、副生成物が少ないという利点もある。またこれらの原料を用いて得られるポリマーは非石油原料ポリマーであり、持続的社会構築に貢献すると考えられる。
【0003】
ポリアミドの一般的な合成方法としては加熱重縮合と界面重縮合が挙げられる。1,5−ジアミノペンタンと低炭素数のジカルボン酸から構成されるポリアミドとして、界面重縮合にて合成したポリアミド55、53が非特許文献1、2にそれぞれ記載されている。この文献で使用している1,5−ジアミノペンタンは高い反応温度で化学合成法にて得たものであり、不純物として1,5−ジアミノペンタンが分子内脱アンモニア反応することにより生成する、2,3,4,5−テトラヒドロピリジン、ピペリジン、アンモニアなどの塩基性化合物が多く含有されている可能性がある。その結果、生成したポリアミドも上記不純物を多く含有していると考えられ、溶融時にポリアミドの分解反応を引き起こす可能性が高く、溶融滞留安定性に劣ると考えられる。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−223770号公報(実施例)
【特許文献2】
特開2002−223771号公報(実施例)
【非特許文献1】
「マクロモルキュルズ(Macromolecules)」、(米国)、第29号、1996年、p.5406−5415
【非特許文献2】
「マクロモルキュルズ(Macromolecules)」、(米国)、第29号、1996年、p.1886−1893
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
すなわち1,5−ジアミノペンタンを原料とした、溶融滞留安定性に優れたポリアミドを得るためには、上記不純物の少ない原料を使用し、ポリアミド中に含まれる塩基性化合物を低減させることが重要である。本発明者らは、1,5−ジアミノペンタンと炭素数2〜5のジカルボン酸から構成されるポリアミド樹脂において、非石油資源からバイオ法で合成された原料を用いることで、溶融滞留安定性に優れたポリアミド樹脂が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、
(1)1,5−ジアミノペンタンと炭素数2〜5のジカルボン酸から構成されるポリアミド樹脂であって、該1,5−ジアミノペンタンが、リジン脱炭酸酵素活性の向上した組換え微生物またはその抽出物を用いて、リジンから産出されたものであることを特徴とするポリアミド樹脂。
【0007】
(2)前記1,5−ジアミノペンタン中の2,3,4,5−テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量が0.5wt%以下であることを特徴とする前記(1)記載のポリアミド樹脂。
により構成される。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明で言う1,5−ジアミノペンタンとは、1,5−ジアミノペンタン中に、2,3,4,5−テトラヒドロピリジン、ピペリジン、その他の不純物を含有したものも含むものとする。
【0010】
本発明では、非石油資源のリジン塩酸塩からリジン脱炭酸酵素によって脱炭酸して産生される1,5−ジアミノペンタン塩酸塩を、アルカリ性下で処理することにより得られる1,5−ジアミノペンタンを用いる。一般の化学合成法により産出される1,5−ジアミノペンタンを用いたポリアミド樹脂では、1,5−ジアミノペンタン中に2,3,4,5−テトラヒドロピリジンやピペリジン等の不純物を多く含むため、溶融滞留安定性に劣る。上記バイオ合成法から産出された1,5−ジアミノペンタンを用いたポリアミド樹脂では、1,5−ジアミノペンタン中の不純物量が少ないため、溶融滞留安定性の特に優れたポリアミド樹脂を得ることができる。
【0011】
本発明において、溶融滞留安定性に優れたポリアミド樹脂を得るためには、1,5−ジアミノペンタン中の2,3,4,5−テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量を0.5wt%以下に制御することが好ましい。2,3,4,5−テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量が0.5wt%以上である1,5,−ジアミノペンタンを原料とすると、ポリアミド樹脂の加熱重縮合時および溶融滞留時に分解反応が著しく進行するため、好ましくない。
【0012】
本発明に用いる炭素数2〜5のジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸のような脂肪族ジカルボン酸、シクロプロパンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸などを挙げることができる。これらのジカルボン酸の製法に制限はないが、酵素または微生物を用いて産出されたものを使用することが好ましい。
【0013】
本発明のポリアミド樹脂の重合度にはとくに制限がなく、0.01g/mlとした98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が1.5〜8.0であることが好ましく、2.0〜5.0であることがさらに好ましい。相対粘度が1.5未満では、実用的強度が不十分なため、8.0以上では、溶融成形が困難となるため好ましくない。
【0014】
本発明を構成する1,5−ジアミノペンタンの製法はリジン脱炭酸酵素を用いてリジンから転換するバイオ合成法である。一般に2,3,4,5−テトラヒドロピリジンやピペリジンは、反応温度が高いほど生成し易いため、反応温度が低い方法によって1,5−ジアミノペンタンを得る方が、2,3,4,5−テトラヒドロピリジンやピペリジン含量を低減できる。1,5−ジアミノペンタンの製法としては他に、2−シクロヘキセン−1−オンなどのビニルケトン類を触媒としてリジンから合成する化学合成法が提案されているが、反応温度が約150℃と高いため前記不純物も多く含有される。また化学合成1,5−ジアミノペンタンを用いて得られるポリアミド樹脂においては、溶融時には不純物として多く含まれる塩基性化合物により分解反応を引き起こす可能性が高く、溶融滞留安定性に劣ると考えられる。本発明の製造に用いる1,5−ジアミノペンタンのバイオ合成法によれば反応温度が低いため2,3,4,5−テトラヒドロピリジンやピペリジン含量を特に低減できる。
【0015】
リジン脱炭酸酵素は、リジンを1,5−ジアミノペンタンに転換させる酵素であり、Escherichia coli K12株をはじめとするエシェリシア属微生物のみならず、多くの生物に存在することが知られている。
【0016】
本発明において使用されるリジン脱炭酸酵素に特に制限はないが、例えば、バシラス・ハロドゥランス(Bacillus halodurans)、バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)、エシェリシア・コリ(Escherichia coli)、セレノモナス・ルミナンチウム(Selenomonas ruminantium)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae)、ビブリオ・パラヘモリティカス(Vibrio parahaemolyticus)、ストレプトマイセス・コエリカーラ(Streptomyces coelicolor)、ストレプトマイセス・ピロサス(Streptomyces pilosus)、エイケネラ・コロデンス(Eikenella corrodens)、イユバクテリウム・アシダミノフィルム(Eubacterium acidaminophilum)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、ハフニア・アルベイ(Hafnia alvei)、ナイセリア・メニンギチデス(Neisseria meningitidis)、テルモプラズマ・アシドフィルム(Thermoplasma acidophilum)、ピロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)またはコリネバクテリウム・グルタミカス(Corynebacterium glutamicum)由来のものが好ましく用いられる。さらに好ましくは安全性の認められているエシェリシア・コリ(Escherichia coli)由来のものである。
【0017】
1,5−ジアミノペンタンはアルカリ性の化合物であるために、酵素反応が進行するにつれ、反応液のpHはアルカリ側に変化していく。しかし、リジン塩水溶液に、リジン脱炭酸酵素を作用させれば、反応液のpHを制御する必要がなく効率よく1,5−ジアミノペンタンを生産できる。用いるリジン塩については特に制限はない。好ましくは塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩である。さらに好ましくはリジン一塩酸塩である。
【0018】
リジン脱炭酸酵素は本来ビタミンB6と結合し存在するが、リジン塩水溶液にビタミンB6を添加することにより、生産速度および反応収率を向上させることができる。ビタミンB6を添加する方法には特に制限はない。反応中に適宜添加しても良い。好ましくはリジン脱炭酸酵素が溶液状態であれば、酵素溶液中に添加することが好ましい。反応液中でのビタミンB6の濃度については特に制限はなく。好ましくは反応液に0.05mMのビタミンB6濃度となるように加えればよい。用いるビタミンB6に特に制限はない。好ましくは、ピリドキシン、ピリドキサミン、ピリドキサルおよびピリドキサルリン酸から選ばれる少なくとも1種である。さらに好ましくはピリドキサルリン酸である。
【0019】
本発明において使用されるリジン脱炭酸酵素を得る方法に特に制限はないが、例えば、リジン脱炭酸酵素が細胞内で高発現した組換え細胞などを適当な培地で培養し、増殖した細胞を回収し、当該細胞を破砕すればよい。
【0020】
リジン脱炭酸酵素遺伝子をクローニングする方法に特に制限はない。既知の遺伝子情報に基づき、PCR (polymerase chain reaction)法を用いて必要な遺伝領域を増幅取得する方法、既知の遺伝子情報に基づきゲノムライブラリーやcDNAライブラリーより相同性や酵素活性を指標としてクローニングする方法などが挙げられる。本発明においては、これらの遺伝子は、遺伝的多形性などによる変異型も含む。なお、遺伝的多形性とは、遺伝子上の自然突然変異により遺伝子の塩基配列が一部変化しているものをいう。例えばE.coli K12株の染色体DNAよりPCR法を用いてリジン脱炭酸酵素をコードする遺伝子であるcadA遺伝子またはldc遺伝子をクローニングする。この際使用する染色体DNAはE.coli由来であればどの菌株由来でもよい。
【0021】
本発明では、リジン脱炭酸酵素は、リジン脱炭酸酵素の細胞内での活性が上昇した組換え細胞から調製されたものが使用される。細胞内でリジン脱炭酸酵素の活性を上昇させる方法に特に制限はない。具体的には、例えば、リジン脱炭酸酵素の酵素量を増加させる方法、もしくは酵素の構造遺伝子自体に変異を導入して、酵素そのものの比活性を上昇させることなどが挙げられる。
【0022】
細胞内の酵素量を増加させる手段としては、遺伝子の転写調節領域の改良、遺伝子のコピー数の増加、蛋白への翻訳の効率化などが挙げられる。
【0023】
転写調節領域の改良とは、遺伝子の転写量を増加させる改変を加えることをいう。例えば、プロモーターに変異を導入することによってプロモーター強化を行い、下流にある遺伝子の転写量を増加させることができる。プロモーターに変異を導入する以外にも、宿主内で強力に発現するプロモーターを導入しても良い。
例えば大腸菌においては、lac、tac、trpなどのプロモーターが挙げられる。また、エンハンサーを新たに導入することによって遺伝子の転写量を増加させることができる。
【0024】
遺伝子のコピー数の上昇は、具体的には、遺伝子を多コピー型のベクターに接続して組換えDNAを作製し、該組換えDNAを宿主細胞に保持させることにより達成することができる。ここでベクターとは、プラスミドやファージ等広く用いられているものを含むが、これら以外にも、トランソポゾン(Berg,D.E and Berg.C.M., Bio/Technol.,vol.1,P.417)やMuファージ(特開平2−109985号公報)も含む。遺伝子を相同組換え用プラスミド等を用いた方法で染色体に組み込んでコピー数を上昇させることも可能である。
【0025】
蛋白の翻訳効率を上昇させる方法としては、例えば原核生物においてはSD配列(Shine, J. and Dalgarno, L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 71, 1342−1346 (1974))、真核生物では Kozak のコンセンサス配列(Kozak, M., Nuc. Acids Res., Vol.15,p.8125−8148(1987))を導入、改変することや、使用コドンの最適化(特開昭59−125895)などが挙げられる。
【0026】
リジン脱炭酸酵素の細胞内もしくは細胞表面での活性を上昇させる手段としては、リジン脱炭酸酵素の構造遺伝子自体に変異を導入して、リジン脱炭酸酵素そのものの活性を上昇させることも挙げられる。
【0027】
遺伝子に変異を生じさせるには、部位特異的変異法(Kramer,W. and frita,H.J., Methods in Enzymology,vol.154,P.350(1987))リコンビナントPCR法(PCRTechnology,Stockton Press(1989)、特定の部分のDNAを化学合成する方法、または当該遺伝子をヒドロキシアミン処理する方法や当該遺伝子を保有する菌株を紫外線照射処理、もしくはニトロソグアニジンや亜硝酸などの化学薬剤で処理する方法がある。
【0028】
組換え細胞としては、微生物、動物、植物、または昆虫由来のものが好ましく使用できる。例えば動物を用いる場合、マウス、ラットやそれらの培養細胞などが用いられる。植物を用いる場合、例えばシロイヌナズナ、タバコやそれらの培養細胞が用いられる。また、昆虫を用いる場合、例えばカイコやその培養細胞などが用いられる。また、微生物を用いる場合、例えば、大腸菌などが用いられる。
【0029】
また、リジン脱炭酸酵素を複数種組み合わせて使用しても良い。
【0030】
リジン脱炭酸酵素を得るために、組換え細胞を培養する方法に特に制限はないが、例えば微生物を培養する場合、使用する培地は、炭素源、窒素源、無機イオンおよび必要に応じその他有機成分を含有する培地が用いられる。例えば、大腸菌の場合しばしばLB培地が用いられる。炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボースや澱粉の加水分解物などの糖類、グリセロール、マンニトールやソルビトールなどのアルコール類、グルコン酸、フマール酸、クエン酸やコハク酸等の有機酸類を用いることができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。有機微量栄養素としては、各種アミノ酸、ビタミンB1等のビタミン類、RNA等の核酸類などの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。それらの他に、必要に応じて、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
【0031】
培養条件にも特に制限はなく、例えば大腸菌の場合、好気条件下で16〜72時間程度実施するのが良く、培養温度は30℃〜45℃に、特に好ましくは37℃に、培養pHは5〜8に、特に好ましくはpH7に制御するのがよい。なおpH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、さらにアンモニアガス等を使用することができる。
【0032】
増殖した細胞内発現組み換え細胞は、遠心分離等により培養液から回収することができる。回収した細胞内発現組み換え細胞から細胞破砕液を調整するには、通常の方法が用いられる。すなわち、細胞内発現組み換え細胞を超音波処理、ダイノミル、フレンチプレス等の方法にて破砕し、遠心分離により細胞残渣を除去することにより細胞破砕液が得られる。
【0033】
細胞破砕液からリジン脱炭酸酵素を精製するには、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、等電点沈殿、熱処理、pH処理など酵素の精製に通常用いられる手法が適宜組み合わされて用いられる。
【0034】
一般的な工業化される酵素反応は休止細胞を用いるが、本発明においては作用させるリジン脱炭酸酵素は、リジン脱炭酸酵素活性を有する休止細胞、その細胞破砕液などが使用できるが、細胞破砕液が好ましい。細胞破砕液を用いるとより高生産速度で1,5−ジアミノペンタンが得られる。
【0035】
さらに、部分的に精製したリジン脱炭酸酵素を作用させることによりリジンの分解および1,5−ジアミノペンタンの分解を抑制することができ、より高収率かつ高純度の1,5−ジアミノペンタンが得られる。部分的な精製とは、工業的に容易な処理のみ行うことであり例えば熱処理、pH処理等が挙げられる。好ましくは熱処理である。さらに好ましくは単離精製したリジン脱炭酸酵素を作用させることである。リジン脱炭酸酵素を部分的に精製、または単離精製することで、リジンの分解や1,5−ジアミノペンタンの分解を引き起こす酵素を取り除くことができる。
【0036】
一般的に酵素というものは本来あるべきアミノ酸配列で自然界に存在するため、人工的にアミノ酸配列を付与もしくは欠如させると酵素の活性を失うことが多い。しかし本発明において細胞内にリジン脱炭酸酵素を発現させる場合、リジン脱炭酸酵素のN末端アミノ酸配列に1から30個のアミノ酸配列を付与したリジン脱炭酸酵素が好ましく使用できる。ここで、N末端に付与するものは6から10個のヒスチジン残基が好ましい。このように、N末端アミノ酸配列にアミノ酸を付与することで、リジン脱炭酸酵素の精製を簡便にできるようにすることができる。N末端アミノ酸配列に1から30個のアミノ酸を付与する方法に特に制限はない。例えばリジン脱炭酸酵素遺伝子に付与したいアミノ酸配列に相当する塩基配列を遺伝子工学的手法を用い、組み換えればよい。用いる遺伝子工学的手法に特に制限はないが。好ましくはPCR法やDNA断片同士の連結による方法がある。
【0037】
リジン脱炭酸酵素によるリジン塩水溶液から1,5−ジアミノペンタンへの変換は、上記のようにして得られるリジン脱炭酸酵素を、リジン塩水溶液に接触させることによって行うことができる。
【0038】
用いるリジン脱炭酸酵素の量に特に制限はない。、リジン塩水溶液を1,5−ジアミノペンタンに変換する反応を触媒するのに十分な量であればよい。好ましくは反応液中の酵素濃度が25から70mg/Lである。好ましくは50mg/Lである。一方、休止細胞を使用する際は、反応液中の細胞濃度が5から15g/Lである。好ましくは10g/Lである。
【0039】
反応温度は、通常、28〜55℃、好ましくは45℃前後である。
【0040】
反応液の状態に特に制限はない。好ましくは静置または攪拌状態である。攪拌状態にする方法には特に制限はない。好ましくは攪拌翼により攪拌する方法である。
【0041】
本発明で使用するリジン脱炭酸酵素は、固定化することで繰り返し1,5−ジアミノペンタン合成反応に使用することができ、酵素の調製に必要なコストを低減させることができる。固定化方法としては、アクリルアミドなどの合成高分子に包括する方法、セファロースやスチレン樹脂を骨格とするイオン交換性担体や疎水性担体に吸着させる方法、または、ガラス担体に共有結合で結合させる方法などが挙げられる。
【0042】
反応時間は、使用する酵素活性、リジン塩濃度などの条件によって異なるが、通常、1〜72時間である。また、反応は、リジン塩を供給しながら連続的に行ってもよい。
【0043】
このように生成した1,5−ジアミノペンタンを反応終了後、反応液から採取する方法としては、反応終了液をアルカリでpH12から14にし、極性有機溶媒で抽出すれば良い。
【0044】
用いるアルカリに特に制限はない。好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムを用いることができる。
【0045】
用いる極性有機溶媒に特に制限はない。好ましくはアニリン、シクロヘキサノン、1−オクタノール、イソブチルアルコール、シクロヘキサノール、クロロホルムを用いることができる。
【0046】
本発明のポリアミド樹脂の製造方法としては、公知の方法が適用可能であり、例えば「ポリアミド樹脂ハンドブック」(福本修編)等に開示されている方法が使用できる。1,5−ジアミノペンタンとシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸のような脂肪族ジカルボン酸の塩またはシクロプロパンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸の塩、および水の混合物を高温で加熱し、脱水反応を進行させる加熱重縮合法、また1,5−ジアミノペンタンを水に溶解し、シュウ酸クロリド、マロン酸クロリド、コハク酸クロリド、グルタル酸クロリドのような脂肪族ジカルボン酸クロリドまたはシクロプロパンジカルボン酸クロリドのような脂環式ジカルボン酸クロリドを水と混ざらない有機溶媒に溶解しておき、これら水相と有機相の界面で重縮合させる方法(界面重縮合法)などが挙げられる。ここで、加熱重縮合とは、製造時のポリアミド樹脂の最高到達温度を100℃以上に上昇させる製造プロセスと定義する。界面重縮合は、有機溶媒を用いること、重縮合時の副生成物となる塩酸を中和することが必要であることなどプロセスが複雑であるため、工業的に製造するには加熱重縮合法を用いることが好ましい。また、加熱重縮合後、固相重合することによって、分子量を上昇させることも可能である。固相重合は、100℃〜融点の温度範囲で、真空中、あるいは不活性ガス中で加熱することにより進行し、加熱重縮合では分子量が不十分なポリアミド樹脂を高分子量化することができる。
【0047】
また、本発明のポリアミド樹脂には本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤及び滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、充填剤(グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、硫化亜鉛、亜鉛、鉛、ニッケル、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ベントナイト、モンモリロナイト、合成雲母等の粒子状、繊維状、針状、板状充填材)、他の重合体(他のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリスチレン等)を任意の時点で添加することができる。
【0048】
本発明のポリアミド樹脂は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、溶融紡糸、フィルム成形などの任意の成形方法により、所望の形状に成形でき、機械部品などの樹脂成形品、衣料・産業資材などの繊維、包装・磁気記録などのフィルムとして使用することができる。
【0049】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0050】
[1,5−ジアミノペンタン中の環状アミンの定量(GC−MS)]
下記条件でGC−MS分析して、1,5−ジアミノペンタン中に含まれる2,3,4,5−テトラヒドロピリジンおよびピぺリジン含量を定量した。
装置:ヒューレットパッカード製 HP5890質量検出器
カラム:5%−ジフェニル−95%−ジメチルポリシロキサン
【0051】
[DSC(示差走査熱量測定)]
セイコー電子工業製 ロボットDSC RDC220を用い、窒素雰囲気下、試料を約5mgを採取し、次の条件で測定した。溶融状態から、20℃/分の降温速度で、ガラス転移温度未満の温度まで降温し、3分間保持した後、30℃から20℃/分の昇温速度で昇温したときに観測される吸熱ピークの温度を求めた。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク強度の最も大きい吸熱ピークを融点とした。
【0052】
[相対粘度(ηr)]
98%硫酸中、0.01g/ml濃度、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定を行った。
【0053】
[溶融滞留試験]
溶融滞留安定性を評価するため、溶融滞留試験を行った。不活性ガス雰囲気下、ポリアミド樹脂の融点+20℃の温度で30分間溶融滞留させた場合の相対粘度(ηr)保持率で溶融滞留安定性を評価する。相対粘度保持率は、溶融滞留させる前のポリアミド樹脂の相対粘度を100%とした場合に、溶融滞留させた後の硫酸相対粘度が何%保持されているかを表す。従って100%に近いほど、溶融滞留によるポリアミド樹脂の分解が少ないことを示し、溶融滞留安定性に優れたポリアミド樹脂を得ることができる。
【0054】
溶融滞留試験は試験管に試料約5gを仕込み、窒素雰囲気下、融点+20℃の温度のシリコンバスに浸漬し、試料が完全に溶融してから30分間放置した後、試料を回収して相対粘度測定を行い評価した。
【0055】
[リジン濃度および1,5−ジアミノペンタン濃度のHPLCによる分析方法]
使用カラム:CAPCELL PAK C18(資生堂)
移動相:0.1%(w/w)H3PO4:アセトニトリル=4.5:5.5
検出:UV 360nm
サンプル前処理:分析サンプル25μlに内標として0.03M 1,4−ジアミノブタンを25μl、0.075M 炭酸水素ナトリウムを150μlおよび0.2M 2,4−ジニトロフルオロベンゼンのエタノール溶液を添加混合し37℃で1時間保温する。上記反応溶液50μlを1mlアセトニトリルに溶解後、10,000rpmで5分間遠心した後の10μlをHPLC分析した。
【0056】
参考例1(リジン脱炭酸酵素の調整)
(1)リジン脱炭酸酵素遺伝子のクローニングおよび細胞内発現ベクターの作製
リジン脱炭酸酵素を用いてリジン塩から1,5−ジアミノペンタンに変換させるために、E.coliのリジン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)のクローニングを行った。
【0057】
データベース(GenBank)に登録されているリジン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)(Accession No.M76411)の塩基配列を参考にオリゴヌクレオチドプライマー5−atgaacgttattgcaatattg−3’(配列番号:1)、5’− gctgatgggtgagatagaatg−3’(配列番号:2)を合成した。E.coli K12株(ATCC10798)から常法に従い調整したゲノムDNAの溶液を増幅鋳型として0.2mlのミクロ遠心チューブに0.2μlづつ取り、各プライマーを20pmol、20mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)、2.5mM KCl、100μg/mlゼラチン、50μM各dNTP、2単位 LATaqDNAポリメラーゼ(宝酒造製)となるように各試薬を加え、全量を50μlとした。DNAの変性条件を94℃、30秒、プライマーのアニーリング条件を55℃、30秒、DNAプライマーの伸長反応条件を72℃、3分の各条件でBioRad社のサーマルサイクラーを用い、30サイクル反応させた(ポリメラーゼ連鎖反応:以後、PCR法と記す)。尚、本実施例におけるPCR法は特に断らない限り、本条件にて行った。このPCR法により得られた産物を1%アガロースにて電気泳動し、cadA遺伝子を含む約2.1kbのDNA断片を常法に従い調整した。この断片を、プラスミドベクターpT7blue(Novagen社製)のEcoRV部位の3’−末端にT塩基が付加された間隙に、常法に従ったライゲーション反応により挿入し、得られたプラスミドをpT7−cadAと命名した。
【0058】
このpT7−cadAを増幅鋳型として、オリゴヌクレオチド5’− cgccatgggccatcatcatcatcatcatcatcatatgaacgttattgcaatattg −3’(配列番号:3)、5’− cgcggatccgctgatgggtgagatagaatg −3’(配列番号:4)をプライマーセットとしたPCR法を行った。ここで得られる産物は、オリゴヌクレオチド(配列番号:3)由来の塩基配列と、(配列番号:4)由来の塩基配列が、それぞれcadA遺伝子を含むDNA断片の5’末端、および3’末端に付加されている。この産物を1%アガロースにて電気泳動し、約2.1kbのDNA断片を常法に従い調整した。この断片を、プラスミドベクターpT7blue(Novagen社製)のEcoRV部位の3’−末端にT塩基が付加された間隙に、常法に従ったライゲーション反応により挿入し、得られたプラスミドをpT7−cadA1と命名した。
【0059】
このpT7−cadA1をNcoI、及びBamHIで消化し、得られた2.1kbのNcoI−BamHI断片を、予めNcoI、及びBamHIで消化しておいたpTV118N(宝酒造製)のNcoI/BamHI間隙に常法に従ったライゲーション反応により挿入し、得られたプラスミドをpLDC1と命名した(図1)。このプラスミドを導入した大腸菌を培養することで、リジン脱炭酸酵素のN末端アミノ酸配列に6個のヒスジチン残基が付加された分子量約80kDaの組み換えリジン脱炭酸酵素を生産することができる。
【0060】
(2)組み換えリジン脱炭酸酵素の産生
pLDC1でE.coli JM109株をアンピシリン耐性に形質転換し、得られた形質転換体をJM109/pLDC1株と命名した。
【0061】
次にJM109/pLDC1株で組み換えリジン脱炭酸酵素を産生させた。まず、JM109/pLDC1株をそれぞれ50μg/mlのアンピシリンナトリウムを含んだ滅菌LB培地(Sambrook、J. et. al、2001、 Molecular Cloning 3rd. edition、 Cold Spring Harbor Lab. Press)(LB−amp培地)5mlに1白金耳植菌し、37℃で24時間振とうして前培養を行った。
【0062】
この前培養液をLB−amp培地50mlに全量植菌し、37℃、振幅30cmで、180rpmの条件下で3時間培養した後に1mM IPTG(isopropyl−1−thio−β−D−galactoside)添加し、更に4時間培養した。対照実験として、JM109株をpTV118Nで形質転換した形質転換体(以後、JM109/pTV118N株とする)を用い同様の培養を行った。こうして得られた菌体を集め、5mlのTBS緩衝液(宝酒造製)に再懸濁後、超音波破砕および遠心分離により細胞破砕液を調製した。これらのリジン脱炭酸酵素活性の測定を単位時間当たりに生成する1,5−ジアミノペンタンの濃度を測定することにより行った。その結果、対照実験であるJM109/pTV118N株由来の細胞破砕液に対して、JM109/pLDC1株においてはリジン脱炭酸酵素活性は約100倍に上昇していた。また、この細胞破砕液をSDS−PAGEで分画し、Penta−His Antibody抗体(QIAGEN社製)でウエスタンブロッティングを行った結果、JM109/pLDC1株由来の細胞破砕液のみから、分子量約80kDaの組み換えリジン脱炭酸酵素を検出した。
【0063】
(3)組み換えリジン脱炭酸酵素の精製
この組み換えリジン脱炭酸酵素は、N末端アミノ酸配列に6個のヒスチジン残基があることこから、ニッケルイオンとの相互作用を利用した精製を行った。
まず、10mlのキレーティング セファロース ファースト フロー(Chilating Sepharose Fast Flow)担体(アマシャム バイオサイエンス社製)を充填したカラムシステムを構築した。このカラムに50mlの50mM 硫酸ニッケル水溶液、50mlのTBS緩衝液の順で流した後、(2)と同様の方法で得られたJM109/pLDC1株の500mL培養液由来の50ml細胞破砕液を流した。その後、100mlの5mM イミダゾールを含むTBS緩衝液、100mlの50mM イミダゾールを含むTBS緩衝液をこの順序で流した。更に50mlの600mM イミダゾールを含むTBS緩衝液を流した。カラムに流した各々の緩衝液のリジン脱炭酸酵素活性を(2)と同様の方法で測定したところ、600mM イミダゾールを含むTBS緩衝液のみに活性があった。また、カラムに流した各々の緩衝液をSDS−PAGEし、クマシーブリリアントブルーで染色したところ、600mM イミダゾールを含むTBS緩衝液から、約80kDaの単一バンドを検出した。また、カラムに流した各々の緩衝液を(2)と同様の方法でウエスタンブロッティングを行ったところ、600mM イミダゾールを含むTBS緩衝液のみに約80kDaタンパク質を検出し、この精製タンパク質はリジン脱炭酸酵素活性を有する組み換えリジン脱炭酸酵素であることを確認した。
【0064】
参考例2(1,5−ジアミノペンタンの製造)
1.35M リジン塩酸塩(和光純薬工業製)、0.1mM ピリドキサルリン酸(和光純薬工業製)、50mg/L−精製リジン脱炭酸酵素(参考例1で調製)となるように調製した水溶液1000mlを、45℃で48時間反応させ、1,5−ジアミノペンタン塩酸塩を得た。この水溶液に水酸化ナトリウムを添加することによって1,5−ジアミノペンタン塩酸塩を1,5−ジアミノペンタンに変換し、クロロホルムで抽出して、減圧蒸留(10mmHg、60℃)することにより、1,5−ジアミノペンタンを得た。GC−MS分析により2,3,4,5−テトラヒドロピリジン、ピペリジンの含量を定量した結果、それぞれ0.20、0.012wt%であった。
【0065】
参考例3(1,5−ジアミノペンタンの製造)
リジン塩酸塩20g(和光純薬工業製)シクロヘキサノール100ml(シグマアルドリッチジャパン製)に懸濁し、次いで28%ナトリウムメトキシド/メタノール溶液(シグマアルドリッチジャパン製)21.2ml、2−シクロヘキセン−1−オン1ml(シグマアルドリッチジャパン製)を加え、155℃で3時間加熱撹拌した。反応終了後、反応混合物に塩化水素4g(シグマアルドリッチジャパン製)を含むイソプロパノール溶液20ml(シグマアルドリッチジャパン製)を加え、析出した生成物を回収し、乾燥することにより1,5−ジアミノペンタン塩酸塩を得た(特公平4−10452の実施例4記載の方法)。この水溶液に、水酸化ナトリウム水溶液を添加することによって1,5−ジアミノペンタン塩酸塩を1,5−ジアミノペンタンに変換し、クロロホルムで抽出して、減圧蒸留(10mmHg、60℃)することにより、1,5−ジアミノペンタンを得た。GC−MS分析により2,3,4,5−テトラヒドロピリジン、ピペリジンの含量を定量した結果、それぞれ1.5、0.026wt%であった。
【0066】
参考例4(1,5−ジアミノペンタンと炭素数2〜5のジカルボン酸の塩の調製)
参考例2の1,5−ジアミノペンタンの水溶液を、40℃のウォーターバスに浸して撹拌しているところに、炭素数2〜5のジカルボン酸(東京化成工業製)を約1gずつ、中和点付近では約0.2gずつ添加していき、ジカルボン酸添加量に対する水溶液のpH変化から中和点を求めた。中和点のpHになるように、1,5−ジアミノペンタンと炭素数2〜5のジカルボン酸の等モル塩の50wt%水溶液を調製した。
【0067】
参考例5(1,5−ジアミノペンタンと炭素数2〜5のジカルボン酸の塩の調製)
参考例3の1,5−ジアミノペンタンの水溶液を、40℃のウォーターバスに浸して撹拌しているところに、炭素数2〜5のジカルボン酸(東京化成工業製)を約1gずつ、中和点付近では約0.2gずつ添加していき、ジカルボン酸添加量に対する水溶液のpH変化から中和点を求めた。中和点のpHになるように、1,5−ジアミノペンタンと炭素数2〜5のジカルボン酸の等モル塩の50wt%水溶液を調製した。
【0068】
[実施例1]
参考例4で調製した1,5−ジアミノペンタンとグルタル酸の等モル塩の50wt%水溶液50.0gを試験管に仕込み、オートクレーブに入れて、密閉し、窒素置換した。ジャケット温度を230℃に設定し、加熱を開始した。缶内圧力が17.5kg/cm2に到達した後、缶内圧力を17.5kg/cm2で2時間保持した。その後、ジャケット温度を250℃に設定し、2時間かけて缶内圧力を常圧に放圧した。その後、缶内温度が250に到達した時点で、加熱を停止した。室温に放冷後、試験管をオートクレーブから取り出し、ポリアミド樹脂を得た。
【0069】
[実施例2]
参考例4で調製した1,5−ジアミノペンタンとコハク酸の等モル塩の50wt%水溶液50.0gを試験管に仕込み、オートクレーブに入れて、密閉し、窒素置換した。ジャケット温度を220℃に設定し、加熱を開始した。缶内圧力が17.5kg/cm2に到達した後、缶内圧力を17.5kg/cm2で2時間保持した。その後、2時間かけて缶内圧力を常圧に放圧し、缶内温度が220に到達した時点で、加熱を停止した。室温に放冷後、試験管をオートクレーブから取り出して低次縮合物を得、更に180℃、0.3Torrで12時間固相重合することでポリアミド樹脂を得た。
【0070】
[比較例1]
参考例5で調製した1,5−ジアミノペンタンとグルタル酸の等モル塩の50wt%水溶液を用いる以外は、実施例1と全く同様の方法でポリアミド樹脂を得た。
【0071】
[比較例2]
参考例5で調製した1,5−ジアミノペンタンとコハク酸の等モル塩の50wt%水溶液用いる以外は、実施例2と全く同様の方法でポリアミド樹脂を得た。
【0072】
【表1】
【0073】
実施例1、2と比較例1、2の比較により、実施例では溶融滞留時の相対粘度保持率が大きく、溶融滞留安定性に優れるポリアミド樹脂が得られることを確認した。
【0074】
【発明の効果】
バイオ合成法により産出される1,5−ジアミノペンタンを用いることで、溶融滞留安定性に優れたポリアミド樹脂を得ることができる。
Claims (2)
- 1,5−ジアミノペンタンと炭素数2〜5のジカルボン酸から構成されるポリアミド樹脂であって、該1,5−ジアミノペンタンが、リジン脱炭酸酵素活性の向上した組換え微生物またはその抽出物を用いて、リジンから産出されたものであることを特徴とするポリアミド樹脂。
- 前記1,5−ジアミノペンタン中の2,3,4,5−テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量が0.5wt%以下であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂。
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