JP2005052975A - インクジェット用インクセット - Google Patents
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Abstract
【課題】記録ヘッドに対する信頼性に優れ、又、ブリーディングがなく、印字濃度の高い、且つ印字品位に優れた高品位の画像を得ることができ、更には定着性や耐擦過性の優れたインクジェット用インクセットを提供すること。
【解決手段】液体組成物と、少なくとも水と水溶性有機溶剤とを含む液媒体中に着色剤を溶解若しくは分散してなる少なくとも1色以上のインクとからなるインクセットであって、上記インクセットのインクのうち少なくとも1色は、顔料粒子の表面に有機基が化学的に結合している改質顔料と該顔料の分散媒としての水性媒体とを含む水性インクであることを特徴とするインクセット。
【選択図】 なし
【解決手段】液体組成物と、少なくとも水と水溶性有機溶剤とを含む液媒体中に着色剤を溶解若しくは分散してなる少なくとも1色以上のインクとからなるインクセットであって、上記インクセットのインクのうち少なくとも1色は、顔料粒子の表面に有機基が化学的に結合している改質顔料と該顔料の分散媒としての水性媒体とを含む水性インクであることを特徴とするインクセット。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、少なくとも水性顔料インクを含むインクジェット用インクセット、かかるインクセットを適用して記録を行うインクジェット記録方法及びかかるインクセットを使用したインクジェット記録機器に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方法は、インクの小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて記録を行うものである。特に、特許文献1〜3において開示された吐出エネルギー供給手段として電気熱変換体を用い熱エネルギーをインクに与えて気泡を発生させることにより液滴を吐出させる方法によれば、記録ヘッドの高密度マルチオリフィス化が容易に実現でき、高解像度且つ高品質の画像を高速で記録できる。
【0003】
しかしながら、従来のインクジェット記録に用いられるインクは一般に水を主成分とし、これに乾燥防止や目詰まり防止等の目的でグリコール等の水溶性高沸点溶剤を含有したものが一般的で、このようなインクを用いて普通紙に記録を行った場合、十分な定着性が得られなかったり、記録紙表面の填料やサイズ剤の不均一な分布によると推定される不均一画像が発生したりした。又、特にカラー画像を得ようとした場合には、複数の色のインクが紙に定着する以前に次々と重ねられることから、異色の画像の境界部分では色が滲んだり、不均一に混ざり合って(以下、この現象をブリーデイングと呼ぶことにする)満足すべき画像が得られなかった。
【0004】
定着性を高める手段として特許文献4には、インク中に界面活性剤等の浸透性を高める化合物を添加することが開示されている。又、特許文献5には揮発性溶剤を主体としたインクを用いることが開示されている。
【0005】
しかし、前者の方法ではインクの記録紙への浸透性が高まる結果、定着性やブリーディングについてはある程度向上するものの、インクとともに色材も記録紙の奥深くまで浸透してしまうために、画像濃度や彩度が低下したりする等の不都合が発生するほか、インクの横方向に対する広がりも発生し、その結果、画像のエッジのシャープさが低下したり、解像度が低下したりする問題も発生した。
【0006】
一方、後者の場合には、前者の不都合に加え、記録ヘッドのノズル部での溶剤の蒸発による目詰まりが発生しやすく、好ましくないものであった。更に、上述した問題点を改善するために、記録インクの噴射に先だって記録媒体上に画像を良好にせしめる液体を付着させる方法が提案されている。
【0007】
例えば、特許文献6には、塩基性ポリマーを有する液体を付着させた後、アニオン染料を含有するインクを記録する方法が開示されており、特許文献7には、反応性化学種を含む第1の液体と該反応性化学種と反応を起こす化合物を含む液体を記録媒体上で混合する記録方法が開示されており、更に、特許文献8には1分子あたり2個以上のカチオン性基を有する有機化合物を含有する液体を付着させた後、アニオン染料を含有したインクを記録する方法が開示されている。又、特許文献9には、コハク酸等を含有した酸性液体を付着させた後、アニオン性染料を含有したインクを記録する方法が開示されている。更に特許文献10には、染料を不溶化させる液体をインクの記録に先だって付与するという方法が開示されている。
【0008】
しかし、上記いずれの方法も染料自体の析出により画像の滲みの抑制や耐水性を向上させようとするものであり、前述したカラーインク間のブリーディング抑制効果も不十分であり、又、析出した染料が記録紙上で不均一に分布しやすいために記録紙のパルプ繊維に対する被覆性が悪く、画像の均一感が低下することになる。
【0009】
一方、従来、印刷インクの着色剤として、耐水性や耐光性等の堅牢性に優れた顔料が広く用いられているが、顔料を水性インクの色材として用いるためには、水性媒体中に顔料が安定して分散することが要求される。一般に、顔料は分散性がよくないため、均一分散系を得るためには、分散剤を添加して顔料を水性媒体中に分散させる樹脂分散顔料が用いられている。この樹脂分散顔料は、水分散性の悪い顔料を分散させるためには、水に分散するための親水性基と、疎水性の顔料に吸着するための疎水性部を有する樹脂が必須となっている。
【0010】
このような樹脂分散顔料を用いたインクをインクジェット記録に用いる場合には、インクがインクジェット記録ヘッドの微細な先端から安定な液滴となって吐出されるようにすることが要求されるため、インクジェット記録ヘッドのオリフィスの乾燥によってインクの固化等が発生しないことが必要となる。
【0011】
しかしながら、上記した分散剤が含有された樹脂分散顔料インクをインクジェット記録に用いた場合には、分散剤を形成している樹脂、或いは顔料に対する吸着力が弱いため顔料からはがれ落ちた分散剤樹脂、いわゆる顔料に吸着していないフリーの樹脂及び樹脂分散顔料粒子がオリフィス等に付着した後、再溶解されずに、目詰まりやインクの不吐出等が生じる場合がある。
【0012】
又、ベタ印字等の連続印字等を行う場合には、ヘッド温度上昇に伴いインクの吐出が不規則になり、吐出方向曲がりが発生し、インクの着弾点がずれる問題が生じる。又、更に連続印字を継続するとノズルからインクが溢れながら吐出を繰り返していくうちに、ノズル近傍のオリフィス面にインクが付着するようになる。そして、そのノズル近傍のインクの付着部を核として大きなインク溜りがオリフィス上に形成される。更に印字を続けた場合には、吐出すべきインクがオリフィス上のインク溜りに引き込まれ、吐出不可能になると言ったヌレ不吐等の問題等、記録ヘッドに対するインクの信頼性が低いという課題があった。
【0013】
そして、上記のような樹脂分散顔料インクを用いた際の記録ヘッドに対するインクの信頼性を改善する方法として、その他に特許文献11及び12で述べられているように、カーボンブラックの表面に水溶性基を導入することによって、分散剤を使用することなく顔料を安定に分散可能で、記録ヘッドに対する信頼性の向上した自己分散顔料が開発されている。
【0014】
しかしながら、樹脂分散顔料や自己分散性顔料を用いた水性インクで被記録媒体、特に普通紙上に印刷を行う場合には、印字品位を向上させるために、インクの紙に対する浸透性を調整することで行っていた。このインクの紙への浸透性を調整する方法では、インクの定着時間の短縮と印字品位の両立が困難であり改良の余地があった。
【0015】
又、樹脂結合タイプの自己分散性顔料として、特許文献13には、インクジェット記録法において用いられる液媒体と着色剤成分とを含有する記録媒体液であって、前記着色剤成分として、顔料表面の官能基と反応し得る反応性基を有するセグメント(A)と、前記反応性基を実質的に有さず且つ前記セグメント(A)よりも液媒体に対し高い親和性を示すセグメント(B)とを有する重合体を、顔料と加熱して得られる顔料複合ポリマーを含有することを特徴とする記録媒体液が開示されている。
【0016】
しかしながら、この発明においては、顔料表面に反応する重合体として特定の官能基が必要であり、使用できる重合体が限定される。又、顔料表面にも重合体と反応可能な官能基が必須であり、使用できる顔料の種類も限定されてしまう。又、製造上の問題として、顔料表面と反応性基を有さないセグメントにイオン性を持たせることは難しく、イオン性を有する水分散体を得ることは難しい。
【0017】
又、特許文献14において、複数の分子を用いた樹脂結合タイプの自己分散性顔料が述べられている。この樹脂結合タイプの自己分散性顔料は、イオン性を有する水性顔料分散が可能である。これらの樹脂結合タイプの自己分散性顔料を用いることにより、インクの記録ヘッドに対する信頼性は確保できたものの、印字後の定着時間と印字品位の両立については改善の余地があった。
【0018】
【特許文献1】
特公昭61−59911号公報
【特許文献2】
特公昭61−59912号公報
【特許文献3】
特公昭61−59914号公報
【特許文献4】
特開昭55−65269号公報
【特許文献5】
特開昭55−66976号公報
【特許文献6】
特開昭63−60783号公報
【特許文献7】
特開昭63−22681号公報
【特許文献8】
特開昭63−299971号公報
【特許文献9】
特開昭64−9279号公報
【特許文献10】
特開昭64−63185号公報
【特許文献11】
特開平8−3498号公報
【特許文献12】
特開平10−195360号公報
【特許文献13】
特開平9−272831号公報
【特許文献14】
国際公開第01/51566号パンフレット
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の目的は、記録ヘッドに対する信頼性に優れ、又、ブリーディングがなく、印字濃度の高い、且つ印字品位に優れた高品位の画像を得ることができ、更には定着性や耐擦過性の優れたインクジェット用インクセット、インクジェット記録方法及びインクジェット記録機器を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
上記目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、GPCを使用して測定した分子量分布のピークを分子量の異なる2つの領域に少なくとも1つずつ有する有機カチオン性物質を少なくとも含む液体組成物と、少なくとも水と水溶性有機溶剤とを含む液媒体中に着色剤を溶解若しくは分散してなる少なくとも1色のインクとからなるインクセットであって、上記インクセットのインクのうち少なくとも1色のインクは、顔料粒子の表面に有機基が化学的に結合している改質顔料と該顔料の分散媒としての水性媒体とを含む水性インクであって、上記有機基は、顔料表面に化学的に結合している官能基と、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体との反応物を含んでいることを特徴とするインクジェット用インクセットを提供する。
【0021】
上記本発明においては、前記有機基が、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体と、顔料に結合しているフェニル(2−スルホエチル)スルホン基との反応物を含んでいること;前記有機基の多分散度(Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量))が2以下であること;顔料がカーボンブラックであること;前記液体組成物中の有機カチオン性物質の異なる分子量分布領域の1つが分子量1,000以下の範囲にあり、且つ他の領域が分子量1,500以上の範囲にあることが好ましい。
【0022】
又、上記本発明においては、前記液体組成物が、有機カチオン性物質を0.05〜20質量%の範囲で含有すること;前記液体組成物中の有機カチオン性物質が少なくとも2種類の化合物からなること;前記液体組成物中の有機カチオン性物質のうち少なくとも1種が界面活性剤であることが好ましい。
【0023】
又、上記本発明においては、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体が、少なくとも1つのイオン性を有する親水性モノマーと少なくとも1つの疎水性モノマーの共重合体からなり、該共重合体の重量平均分子量が1,000以上30,000以下の範囲にあり、かつ上記高分子の酸価が100以上500以下であること;顔料に対する共重合体の含有率が5質量%以上40質量%以下の範囲にあること;顔料に対する共重合体の含有率が10質量%以上25質量%以下の範囲にあること;改質顔料が水性顔料インク全質量に対して0.1〜15質量%の範囲で含まれていること;改質顔料が、水性顔料インク全質量に対して1〜10質量%の範囲で含まれていることが好ましい。
【0024】
又、上記本発明においては、水性顔料インクが、更に下記構造式(1)〜(4)で表わされる少なくとも1種の界面活性剤を含むことが好ましい。
(但し、上記構造式(1)中、Rはアルキル基を表わし、nは整数を表わす。)
(但し、上記構造式(2)中、Rはアルキル基を表わし、nは整数を表わす。)
(但し、上記構造式(3)中、Rは水素原子又はアルキル基を表わし、m及びnは、夫々整数を表わす。)
(但し、上記構造式(4)中、m及びnは、夫々整数を表わす。)
【0025】
又、上記本発明は、前記のインクセットを用い、液体組成物とインクの少なくとも1色のインクとを被記録媒体上で少なくとも一部が重なり合うように付与することを特徴とするインクジェット記録方法を提供する。該インクジェット記録方法は、有機カチオン性物質を含有する液体組成物とインクとに熱エネルギーを作用させてインク吐出を行う方式であること;又は有機カチオン性物質を含有する液体組成物とインクとに力学的エネルギーを作用させてインク吐出を行う方式であることが好ましい。
【0026】
又、上記本発明は、前記の液体組成物及びインクの収容部と、該液体組成物及びインクを吐出させるためのヘッド部を備えていることを特徴とする記録ユニット;前記の液体組成物及びインクを収容したインク収容部を備えていることを特徴とするインクカートリッジ:及び前記の液体組成物及びインクを収容したインク収容部を備えていることを特徴とするインクジェット記録装置を提供する。
【0027】
【発明の実施の形態】
次に好ましい実施の形態を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
本発明のインクジェット用インクセットは、液体組成物と有色のインクとからなり、上記液体組成物が、GPCを使用して測定した分子量分布のピークを分子量の異なる2つの領域に少なくとも1つずつ有する有機カチオン性物質を少なくとも含むことを特徴とし、又、上記有色インクが、少なくとも水と水溶性有機溶剤とを含む液媒体中に着色剤を溶解若しくは分散してなる少なくとも1色のインクからなり、上記インクセットのインクのうち少なくとも1色のインクは、顔料粒子の表面に有機基が化学的に結合している改質顔料と該顔料の分散媒としての水性媒体とを含む水性インクであって、上記有機基が、顔料表面に化学的に結合している官能基と、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体との反応物を含んでいることを特徴としている。
【0028】
本発明のインクセットにおいて、有機カチオン性物質を含有する液体組成物と併用する有色インクとしては、少なくとも1色のインクは、特定の改質顔料を色材とするものであるが、他の有色インクは、一般的な染料や顔料を用いても構わないし、勿論、インクの全色の色材が前記改質顔料を含むものであっても構わない。しかしながら、ブラックインクは後述のような改質カーボンブラックを色材として含有することが好ましい。
【0029】
以下本発明において使用するブラックインク及びカラーインクについて説明する。
<ブラックインク>
本発明で用いるブラックインクにおいては、色材としては特に限定されないが、カーボンブラックが好適に使用され、インクとしては水性顔料インクが使用される。好ましいカーボンブラックの例は下記の通りである。
【0030】
例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料で、例えば、レイヴァン(Raven)7000、レイヴァン5750、レイヴァン5250、レイヴァン5000ULTRA−I、レイヴァン3500、レイヴァン2000、レイヴァン1500、レイヴァン1250、レイヴァン1200、レイヴァン1190ULTRA−II、レイヴァン1170、レイヴァン1255(以上コロンビア社製)、ブラックパールズ(Black Pearls)L、リーガル(Regal)400R、リーガル330R、リーガル660R、モウグル(Mogul)L、モナク(Monarch)700、モナク800、モナク880、モナク900、モナク1000、モナク1100、モナク1300、モナク1400、モナク2000、ヴァルカン(Valcan)XC−72R(以上キャボット社製)、カラーブラック(Color Black)FW1、カラーブラックFW2、カラーブラックFW2V、カラーブラックFW18、カラーブラックFW200、カラーブラックS150、カラーブラックS160、カラーブラックS170、プリンテックス(Printex)35、プリンテックスU、プリンテックスV、プリンテックス140U、プリンテックス140V、スペシャルブラック(Special Black)6、スペシャルブラック5、スペシャルブラック4A、スペシャルブラック4(以上デグッサ社製)、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上三菱化学社製)等の市販品や、別途新たに調製されたものも使用することができるが、これらに限定されるものではなく従来公知のカーボンブラックを使用することが可能である。又、マグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子やチタンブラック等を黒色顔料として用いてもよい。
【0031】
本発明で使用する少なくとも1色の水性顔料インクは、少なくとも1つの親水性モノマーと少なくとも1つの疎水性モノマーとの共重合体からなる高分子が結合した顔料を色材として含んでなる。上記親水性モノマーと疎水性モノマーとからなる共重合体は、アニオン性を有するアニオン性共重合体を含むものが好適に用いられる。上記アニオン性共重合体としては、疎水性モノマーとアニオン性モノマーからなる共重合体、或いはこれらの塩等が挙げられる。
【0032】
上記共重合体を構成する代表的な疎水性モノマーとしては、次のモノマーがあるが、これらに限定されるものではない。例えば、スチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル化合物、メチル(メタ)アタクリレート(本発明において「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」の双方を意味する)、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−トリメチルシロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、p−トリル(メタ)アクリレート及びソルビル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリロニトリル等である。又、上記アニオン性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
上記疎水性モノマー及びアニオン性モノマーからなる共重合体としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、又はこれらの塩等が挙げられ、酸価としては100〜500の範囲のものが好ましく、酸価のばらつきが平均酸価の10%以内であることが好ましい。尚、前記の塩とは、ナトリウム、リチウム、カリウム等のアルカリ金属塩の他、アンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルカノールアミン塩等が挙げられ、これらを単独ないしは数種類を適宜組み合わせて使用できる。
【0034】
上記アニオン性共重合体の重量平均分子量が1,000〜30,000の範囲のものが好ましく、更に好ましくは3,000〜20,000の範囲ものが好ましく使用され、更に共重合体の多分散度Mw/Mnが2以下であることが好ましい。アニオン性共重合体の含有量は、顔料に対して5質量%以上40質量%以下であることが好ましい。より好ましくは10質量%以上25質量%以下の割合で使用される。
【0035】
本発明に用いるブラックインクの水性媒体としては、例えば、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、インクの乾燥防止効果を有するものが特に好ましい。水としては脱イオン水を使用することが望ましい。
【0036】
具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオ−ル、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。上記の如き水溶性有機溶剤は、単独でも或いは混合物としても使用することができる。
【0037】
本発明で用いるブラックインク中に含有される水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されないが、インク全質量に対して、好ましくは3〜50質量%の範囲が好適である。又、インクに含有される水の含有量はインク全質量に対して好ましくは50〜95質量%の範囲である。
【0038】
又、インクの保湿性維持のために、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の保湿性固形分もインク成分として用いてもよい。尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン等、保湿性固形分のインク中の含有量は一般にはインクに対して0.1〜20.0質量%の範囲が好ましく、より好ましくは3.0〜10.0質量%の範囲である。
【0039】
更に、本発明で用いるインクには上記成分以外にも必要に応じて界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤等、種々の添加剤を含有させてもよい。
【0040】
上記界面活性剤としては下記構造式(1)〜(4)で表される界面活性剤のいずれかを含有することが好ましい。
(但し、上記構造式(1)中、Rはアルキル基を表わし、nは整数を表わす。)
(但し、上記構造式(2)中、Rはアルキル基を表わし、nは整数を表わす。)
(但し、上記構造式(3)中、Rは水素原子又はアルキル基を表わし、m及びnは、夫々整数を表わす。)
【0041】
(但し、上記構造式(4)中、m及びnは、夫々整数を表わす。)
【0042】
本発明で使用するブラックインクは、筆記具用インクやインクジェット用インクに用いることができる。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させ、液滴を吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡により液滴を吐出する記録方法があり、それらの記録方法に本発明で使用するインクは特に好適である。
【0043】
ところで、本発明で用いるブラックインクをインクジェット用に用いる場合には、該インクはインクジェットヘッドから吐出可能である特性を有することが好ましい。インクジェットヘッドからの吐出性という観点からは、該インクの特性としては、例えば、その粘度を1〜15mPa・s、表面張力が25mN/m以上、特には粘度を1〜5mPa・s、表面張力が25〜50mN/mとすることが好ましい。
【0044】
本発明で用いる顔料インクの分析方法を、色材としてカーボンブラックを用いた場合について説明するが、これにより顔料が特に限定されるわけではない。本発明の表面改質されたカーボンブラックの表面改質状態を分析する方法としては特に限定されず、通常考えられ得る方法を用いて分析を行うことができる。好ましくは、ESCAやTOF−SIMS等で表面改質されたカーボンブラック表面の化学結合状態を分析する方法が挙げられる。
【0045】
表面処理された顔料は、顔料に結合した高分子と顔料に結合していない高分子(フリーの高分子)を含む場合が多いが、顔料に結合している高分子の分子量を測定する方法としては特に限定されないが、前記表面改質した顔料を含むインクを塩析若しくは酸析させてから固形分を濾過した後蒸発乾固させ、上記フリーの高分子の良溶媒を用いてフリーの高分子の抽出を行う方法が好ましい。この良溶媒によって抽出されたフリーの高分子は基本的に顔料に結合していないため、この量が高分子全体の7質量%未満であることが好適である。更に好ましくは5質量%未満である。以下、フリーの高分子の良溶媒を用いてフリーの高分子の抽出を行う方法について詳細に説明する。分析を行うにあたり試料の前処理を以下のように実施する。
【0046】
本発明において、上記表面改質されたカーボンブラックを塩析若しくは酸析した後に乾固させ、上記フリーの高分子の良溶媒を用いてフリーの高分子の抽出を行う方法は[1]塩析若しくは酸析、[2]洗浄、[3]乾固、[4]抽出、[5]乾燥という手順によって行うことができる。以下順を追って説明する。
【0047】
[1]上記表面改質されたカーボンブラックを塩析若しくは酸析させる方法としては特に限定されず、例えば、(a)塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩で塩析させる、(b)硝酸や塩酸等の酸を用いて酸析させる等の方法を用いることができる。この際、必要に応じて塩析等の前工程として限外濾過等を行ってもよい。
[2]上記塩析若しくは酸析等を行った後のカーボンブラック沈殿物を純水で十分に洗浄する。特に、[1](b)の酸析を行う際には、洗浄後の濾液が中性になるまで十分に洗浄を行うのが好ましい。
【0048】
[3]洗浄後の上記カーボンブラック沈殿物は、オーブン等で十分に乾燥させてカーボンブラック乾固物として取り出すことができる。乾燥条件等は特に限定されず、例えば、60℃で2時間程度乾燥させればよい。
[4]上記カーボンブラック乾固物は、必要に応じて上記フリーの高分子の良溶媒を用いてフリーの高分子の抽出を行うことができる。
上記フリーの高分子の良溶媒としては特に限定されず、例えば、テトラヒドロフラン(THF)等の良溶媒を用いることができる。この場合、良溶媒を用いて何度も上記カーボンブラック乾固物を洗浄し、抽出作業を繰り返すのが好ましい。
【0049】
[5]良溶媒で上記フリーの高分子を抽出した後のカーボンブラック乾固物は、最後にオーブン等で十分に乾燥を行い、残存水分や残存溶剤を揮発させる。上記使用するオーブン等としては特に限定されず、例えば、市販の真空乾燥機等を用いて乾燥を行うことができる。又、乾燥条件等については上記カーボンブラック乾固物から十分に残存水や残存溶剤が除去できる条件であれば特に限定されず、例えば、数百Pa以下の真空度で、60℃×3時間程度乾燥させればよい。
【0050】
熱重量分析を用いることにより、顔料に対する高分子の結合量をより定量的に測定することができる。以下熱重量分析について詳細に説明する。上記表面改質されたカーボンブラックを塩析若しくは酸析した後に乾固させ、上記フリーの高分子の良溶媒を用いてフリーの高分子の抽出を行った際の抽出量を測定する方法としては特に限定されず、例えば、十分に乾燥させた上記フリーの高分子の良溶媒による抽出前後のカーボンブラック乾固物を熱重量分析(Thermogravimetric Analysis)等により測定し、重量減少率から求めることができる。
【0051】
上記重量減少率(%)とは、
重量減少量/初期重量×100・・・・・(1)式
で表される数値であり、重量減少率が小さいほど重量減少が少ないことを表す。上記重量減少率は熱重量分析において100℃〜700℃まで昇温した際の値とする。上記熱重量分析における分析条件等は特に限定されず、前処理、昇温速度等通常の条件で測定することができる。
【0052】
本発明の水性顔料インクに含まれる上記抽出前後のカーボンブラック乾固物においては、抽出前の重量減少率と抽出後の重量減少率の差が5%未満であることが好ましい。即ち、本発明の水性顔料インクに含まれる上記表面改質されたカーボンブラックは、上記高分子がカーボンブラックと直接若しくは1つ以上の原子団を介して化学的に結合しているため、溶媒抽出により抽出されるフリーの高分子は非常に少量であり、溶媒抽出前の試料の熱重量分析結果におけるフリーの高分子に起因する減量と、溶媒抽出後の試料の熱重量分析結果におけるフリーの高分子に起因する減量との差が小さく、重量減少率は小さくなる。
【0053】
これに対して、一般的に用いられる樹脂分散顔料では、上記高分子がカーボンブラック(顔料)と化学的に結合していないため、溶媒抽出前の試料では熱重量分析における高分子に起因する減量が大きいのに対し、溶媒抽出後の試料では、溶媒抽出によりフリーの高分子が既に除去されているため熱重量分析におけるフリーの高分子に起因する重量減少は小さくなり、抽出前後での重量減少率の差は大きくなる。
【0054】
図1は、樹脂分散タイプのインクを酸析した後洗浄乾固させた試料について熱重量分析を行った結果である。図2は樹脂分散タイプのインクを酸析した後洗浄乾固させ、更にTHFを用いて溶媒抽出した後の試料について熱重量分析を行った結果である。両者共に十分に蒸発乾固させてあり、水分や溶剤は除去されている。図1では350℃付近に樹脂に起因する重量減少が認められ、重量減少率は約13.7%であるのに対し、図2では350℃付近での重量減少は約2.7%と非常に少なくなっている。両者の結果から、樹脂分散タイプのインクではTHFで溶媒抽出することにより溶媒中に樹脂が大量に抽出されて、除去されたことがわかる。これは、樹脂分散タイプのインクでは樹脂分とカーボンブラックが化学的に結合していないために生じる現象である。
【0055】
次に、図3には本発明で使用するインクを酸析した後洗浄乾固させた試料について熱重量分析を行った結果を示した。図4には、本発明で使用するインクを酸析した後洗浄乾固させ、更にTHFを用いて溶媒抽出した後の試料について熱重量分析を行った結果を示した。図3及び図4の結果から、350℃付近での樹脂に起因する重量減少率が溶媒抽出前後であまり変化しておらず、このことより、溶媒抽出により樹脂が除去されなかった、つまり、カーボンブラックと樹脂とが化学的に結合していることがわかる。
【0056】
上記熱重量分析を用いる以外にも、樹脂とカーボンブラックの結合状態を調査する方法がある。例えば、上記表面改質されたカーボンブラックを塩析若しくは酸析した後に乾固させ、上記フリーの高分子の良溶媒を用いてフリーの高分子の抽出を行う方法と、TG−GC−MS(熱重量分析−ガスクロマトグラフ−マススペクトル)とを組み合わせて分析することにより、熱重量分析で発生したガスを更に分析することができ、カーボンブラック乾固物に結合していた高分子の状態を詳細に知ることができる。このような分析方法も、又、好適な方法である。
【0057】
カーボンブラックに直接若しくは1つ以上の原子団を介してアニオン性高分子を化学的に結合させる方法としては、通常用いられる方法によって行えばよく、特に限定されるものではないが、例えば、カーボンブラックに、分子内にアミノ基とカルボキシル基を有するポリマーをジアゾニウム反応で結合させる方法等を用いることができる。この他に、最も典型的な例がWO 01/51566 A1に開示されている。
【0058】
上記方法は下記の3工程を含むこととなる。
第1工程;カーボンブラックにジアゾニウム反応でアミノフェニル−(2−サルフェイトエチル)−サルフォン(APSES)を付加させる工程。
第2工程;APSES処理をしたカーボンブラックにポリエチレンイミンやペンタエチレンヘキサミン(PEHA)を付加させる工程。
第3工程;疎水性モノマーとカルボキシル基を有する親水性モノマーとの共重合体を結合させる工程。
【0059】
<カラーインク>
本発明において使用するカラーインクの色材としては、公知の染料又は顔料が用いられるが、発色性を考慮して、特にアニオン性染料が好ましく用いられる。アニオン性染料としては、既存のものでも、新規に合成したものでも適度な色調と濃度を有するものであれば、大抵のものを用いることができる。これらの染料又は顔料は、単独でも混合しても使用することができる。
【0060】
(アニオン性染料)
下記に、本発明で使用できるアニオン性染料の具体例について、インクの色調別に例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(イエロー用の色材)
C.I.ダイレクトイエロー:1、2、4、8、11、12、26、27、28、33、34、39、41、44、48、50、58、85、86、87、88、89、98、100、110、132、135、142、144
C.I.アシッドイエロー:1、3、4、7、11、12、13、14、17、19、23、25、29、34、36、38、40、41、42、44、53、55、61、76、79、98、99
C.I.リィアクティブイエロー:1、2、3、4、6、7、11、12、13、14、15、16、17、18、22、23、24、25、26、27、37、42
C.I.フードイエロー:3
【0061】
(マゼンタ用の色材)
C.I.ダイレクトレッド:1、2、4、8、9、11、13、15、20、23、24、28、31、33、37、39、46、51、59、62、63、73、75、79、80、81、83、87、89、90、95、99、101、110、189、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230
C.I.アシッドレッド:1、4、6、8、9、13、14、15、18、21、26、27、32、35、37、42、51、52、80、83、87、89、92、106、114、115、133、134、145、158、198、249、257、265、289
C.I.リィアクティブレッド:1、2、3、4、5、6、7、8、11、12、13、15、17、19、20、21、22、23、24、28、29、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、58、59、63、64、180
C.I.フードレッド:87、92、94
【0062】
(シアン用の色材)
C.I.ダイレクトブルー:1、2、6、8、15、22、25、34、41、70、71、76、77、78、80、86、90、98、106、108、120、142、158、163、168、199、200、201、202、203、207、218、226、236、287
C.I.アシッドブルー:1、7、9、15、22、23、25、27、29、40、43、55、59、62、74、78、80、81、90、100、102、104、111、117、127、138、158、161、185、254
C.I.リィアクティブブルー:1、2、3、4、5、7、8、9、13、14、15、17、18、19、20、21、25、26、27、28、29、32、33、34、37、38、39、40、41、43、44、46、100
【0063】
(カチオン性染料)
カチオン性染料の例としては、
C.I.ベーシックイエロー:1、2、11、13、14、19、21、25、32、33、36、51
C.I.ベーシックレッド:1、2、9、12、13、37、38、39、92C.I.ベーシックブルー:1、3、5、7、9、19、24、25、26、28、29、45、54、65
C.I.ベーシックブラック:2、8
【0064】
カラー顔料インクに用いる顔料の例としては、具体的には、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料、イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロンエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料、インジゴ系顔料、チオインジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、キノフタロンエロー、ニッケルアゾエロー、銅アゾメチンエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等のその他の顔料が例示できる。
【0065】
又、有機顔料を、カラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、20、24、74、83、86、93、97、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、150、151、153、154、166、168、180、185、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、71、C.I.ピグメントレッド5、7、9、12、48、49、52、53、57、97、112、122、123、149、168、175、176、177、180、192、202、207、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー1、2、315、15:1、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、C.I.ピグメントブラウン23、25、26等が例示できる。
【0066】
これらの顔料はインク中に樹脂分散されていても、水溶性基を結合させることにより自己分散されていても、本発明で使用するブラックインクと同様に樹脂結合型自己分散をしていてもかまわない。これらのカラーインク用の色材のなかで、より好ましいのはアニオン性染料である。発色性や安全性等を考慮すると、選択性の幅が広いのがアニオン性染料だからである。
【0067】
上記したカラー色材の含有量としては、インク全質量中の0.2〜15質量%の範囲とするのが好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%の範囲とする。即ち、この範囲とすることで、例えば、発色性やインクの吐出安定性等のインクジェット用インクとしての信頼性を、より一層向上させることができる。
【0068】
カラーインクに用いられる水性媒体の例としては、例えば、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、インクの乾燥防止効果を有するものを用いることが特に好ましい。
【0069】
この際に使用できる水溶性有機溶媒としては、具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオ−ル、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。
【0070】
上記の如き水溶性有機溶剤は、単独でも、或いは、適宜に選択して混合物としても使用することができる。又、上記水溶性有機溶剤のインク中における含有量は、特に限定されないが、インク全質量に対して、3〜50質量%の範囲が好適である。又、インクに含有される水の含有量は、インク全質量に対して50〜95質量%の範囲とすることが好ましい。
【0071】
本発明で使用するカラーインクに好ましい特性を担持させるための好ましい水性媒体の組成としては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、チオグリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、イソプロピルアルコール及びアセチレンアルコールを含むものとすることが好ましい。尚、アセチレンアルコールとしては、例えば、下記式で示されるアセチレンアルコールを挙げることができる。
【0072】
(上記式中、R1、R2、R3及びR4は、アルキル基、具体的には、例えば、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、m及びnは、夫々整数を表し、m=0且つn=0、若しくは1≦m+n≦30であって、m+n=1の場合は、m又はnは0である。)
【0073】
カラーインク中には、上記で述べた成分の他に、そのインク中の色材の極性と同じか、又はノニオン性の少なくとも1種の界面活性剤を含有させるとよい。これらの界面活性剤を含有させることによって、インクに所望の浸透性や粘度を付与させることができ、インクジェット用インクに要求される性能をより一層満足させることができる。この際に使用される界面活性剤としては、下記に挙げるような、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤、或いは、これらの2種以上の混合物のいずれでもよい。
【0074】
(アニオン性界面活性剤)
脂肪酸塩、高級アルコール酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、高級アルコールリン酸エステル塩、アルキル硫酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルスルホ酢酸塩、スルホコハク酸ジアルキルエステル塩等。
(カチオン性界面活性剤)
脂肪族アミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩等。
【0075】
(非イオン性界面活性剤)
高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪族エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、脂肪族アミドエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、多価アルコールの脂肪酸エステル、アルカノールアミンの脂肪酸アミド類等。
(両性界面活性剤)
アミノ酸型、ベタイン型両性界面活性剤等。
【0076】
本発明においては、これらのものはいずれも好ましく使用されるが、より好ましくは、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド付加物、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物等の非イオン性界面活性剤を用いる。更に、上記エチレンオキサイド付加物の付加モル数が4〜20の範囲のものが特に好ましい。
【0077】
上記のような界面活性剤のカラーインク中における添加量については特に制限はないが、インク全質量の0.01〜10質量%の範囲とするのが好ましい。0.01質量%未満では、界面活性剤の種類にもよるが、一般に所望の浸透性が得られず、10質量%を超える場合には、インクの初期粘度が大きくなり、好ましくない。更に好ましくは、インク全質量の0.1〜5.0質量%の範囲とするのがよい。
【0078】
この他、本発明のインクセットを構成するカラーインク中には上記成分の他、必要に応じて、保湿剤としての尿素、チオ尿素、エチレン尿素、アルキル尿素、アルキルチオ尿素、ジアルキル尿素及びジアルキルチオ尿素等の含窒素化合物や、インクに所望の性能を与えるための、pH調整剤、粘度調整剤、防腐剤、酸化防止剤、蒸発促進剤、防錆剤、防カビ剤及びキレート化剤等の添加剤を配合してもよい。
【0079】
上記したカラーインクは、筆記具用インクやインクジェット用インクに用いることができる。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させ、液滴を吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡により液滴を吐出する記録方法があるが、それらの記録方法に特に好適である。ところで、上記カラーインクをインクジェット用に用いる場合には、該インクはインクジェットヘッドから吐出可能である特性を有することが好ましい。インクジェットヘッドからの吐出性という観点からは、該液体の特性としては、例えば、その粘度を1〜15mPa・s(cps)、表面張力が25mN/m(dyn/cm)以上、特には粘度を1〜5mPa・s(cps)、表面張力が25〜50mN/m(dyn/cm)とすることが好ましい。
【0080】
<液体組成物>
本発明のインクジェット用インクセットを構成する液体組成物は、少なくとも(1)低分子量カチオン性物質と(2)カチオン性高分子を含んでなる。上記の(1)の低分子量カチオン性物質としては、GPCを使用して測定した分子量分布のピークが分子量1,000以下の領域に少なくとも1つ存在するものが好ましい。
【0081】
上記(1)の低分子量カチオン性物質の好ましい具体例を以下に列挙する。尚、本発明においては低分子量カチオン性物質は分子量の分布においては、単分散に近いものが多く使用できる。分子量の分布がない化合物については通常の化学式から求められる分子量を分子量分布のピークの位置とする。
【0082】
1級乃至2級乃至3級アミン塩型の化合物、具体的にはラウリルアミン、ヤシアミン、ステアリルアミン、ロジンアミン等の塩酸塩、酢酸塩等の他、第4級アンモニウム塩型の化合物、具体的にはラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、セチルトリメチルアンモニウムクロライド等があり、更にピリジニウム塩型化合物、具体的にはセチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイド等、更には、イミダゾリン型カチオン性化合物、具体的には2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリン等があり、更に第二級アルキルアミンのエチレンオキシド付加物、具体的にはジヒドロキシエチルステアリルアミン等が好ましい例として挙げられる。
【0083】
更に本発明では、あるpH領域においてカチオン性を示す両性界面活性剤も使用できる。より具体的には、アミノ酸型両性界面活性剤、RNHCH2−CH2COOH型の化合物があり、ベタイン型の化合物、具体的にはステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等がある。勿論、これらの両性界面活性剤を使用する場合にはそれらの等電点以下のpHになるように液体組成物を調整するか、被記録媒体上で前記のインクと混合した場合に該等電点以下のpHになるように調整するかのいずれかの方法をとる必要がある。以上、低分子量カチオン性化合物の例を挙げたが、本発明で使用することのできる化合物は必ずしもこれらに限定されないことはいうまでもない。
【0084】
前記(2)のカチオン性高分子物質としては、GPCを使用して測定した分子量分布のピークが、分子量1,500以上の領域(更に好ましくは分子量1,500〜10,000の領域)に少なくとも1つ存在するものが好ましい。
【0085】
次に前記(2)のカチオン性高分子物質の本発明における作用及び効果については、上述した通り、液体組成物とインクの反応の第2段階として、上述した水性顔料インク中のアニオン性部位と低分子カチオン性物質の凝集体を分子中に吸着せしめ、会合で生じた染料の凝集体のサイズを更に大きくして被記録媒体の繊維間の隙間に入り込みにくくすることにより、固液分離した液体部分のみを被記録媒体中にしみこませることで、印字品位と耐擦過性の両立を達成することにある。
【0086】
前記(2)のカチオン性高分子物質の具体例としては、ポリアリルアミン、ポリアミンスルホン、ポリビニルアミン、キトサン及びこれらの塩酸、酢酸等の酸による中和物又は部分中和物を挙げることができるが、これらに限定されない。これらの高分子物質の分子量分布のピークの位置が1,500以上10,000以下に少なくとも1つ存在すれば、本発明を実施する際にその効果は十分である。
【0087】
尚、本発明におけるカチオン性高分子の分子量とは、特に断わらない限り、GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィ)を使用して求めた平均分子量のことを指し、ポリエチレンオキサイド換算の重量平均分子量のことをいう。
【0088】
又、前記(2)のカチオン性高分子物質の別の具体例として、ノニオン性高分子物質の一部をカチオン化した化合物を用いてもよい。具体的には、ビニルピロリドンとアミノアルキルアルキレート4級塩との共重合体、アクリルアマイドとアミノメチルアクリルアマイド4級塩との共重合体等を挙げることができるが、勿論、これらの化合物に限定されない。更に、上述したカチオン性の高分子物質は水溶性であれば申し分ないが、ラテックスやエマルションのような分散体であってもかまわない。
【0089】
液体組成物中に含有される上記のカチオン性成分の量としては、質量基準で0.05〜20質量%が好適な範囲であり、より好ましくは0.5〜5質量%の範囲であるが、各々使用する物質の組合せにより、最適な範囲を決定する必要がある。又、液体組成物中の前記(1)の低分子量カチオン性物質と前記(2)のカチオン性高分子物質の混合割合は、質量基準で10:1〜1:10、好ましくは5:1〜1:5の範囲である。この割合が10:1を超えると、印字物の耐水性が低下しやすく、逆に1:10以下ではブリーディングの抑制が不十分で、画像のエッジシャープネスが低下しやすい。
【0090】
液体組成物に用いられる水性媒体の例としては、例えば、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、液体組成物の乾燥防止効果を有するものを用いることが特に好ましい。
【0091】
この際に使用できる水溶性有機溶剤としては、具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオ−ル、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。
【0092】
上記の如き水溶性有機溶剤は、単独でも、或いは、適宜に選択して混合物としても使用することができる。又、上記水溶性有機溶剤の液体組成物中における含有量は、特に限定されないが、液体組成物全質量に対して、3〜50質量%の範囲が好適である。又、液体組成物に含有される水の含有量は、液体組成物全質量に対して50〜95質量%の範囲とすることが好ましい。
【0093】
本発明で使用する液体組成物に好ましい特性を担持させるための好ましい水性媒体の組成としては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、チオグリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、イソプロピルアルコール及びアセチレンアルコールを含むものとすることが好ましい。尚、アセチレンアルコールとしては、例えば、下記式で示されるアセチレンアルコールを挙げることができる。
【0094】
(上記式中、R1、R2、R3及びR4は、アルキル基、具体的には、例えば、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、m及びnは、夫々整数を表し、m=0且つn=0、若しくは1≦m+n≦30であって、m+n=1の場合は、m又はnは0である。)
【0095】
液体組成物中には、上記で述べた成分の他に、カチオン性化合物の極性と同じか、又はノニオン性の少なくとも1種の界面活性剤を含有させるとよい。これらの界面活性剤を含有させることによって、液体組成物に所望の浸透性や粘度を付与させることができ、インクジェット用液体組成物に要求される性能をより一層満足させることができる。この際に使用される界面活性剤としては、下記に挙げるような、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤、或いは、これらの2種以上の混合物のいずれでもよい。
【0096】
(アニオン性界面活性剤)
脂肪酸塩、高級アルコール酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、高級アルコールリン酸エステル塩、アルキル硫酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルスルホ酢酸塩、スルホコハク酸ジアルキルエステル塩等。
(カチオン性界面活性剤)
脂肪族アミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩等。
【0097】
(非イオン性界面活性剤)
高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪族エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、脂肪族アミドエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、多価アルコールの脂肪酸エステル、アルカノールアミンの脂肪酸アミド類等。
【0098】
(両性界面活性剤)
アミノ酸型、ベタイン型両性界面活性剤等。
【0099】
上記のような界面活性剤の各液体組成物中における添加量については特に制限はないが、液体組成物全質量の0.01〜10質量%の範囲とするのが好ましい。0.01質量%未満では、界面活性剤の種類にもよるが、一般に所望の浸透性が得られず、10質量%を超える場合には、液体組成物の初期粘度が大きくなり、好ましくない。更に好ましくは、液体組成物全質量の0.1〜5.0質量%の範囲とするのがよい。
【0100】
上記した液体組成物は、インクジェット用に用いることができる。インクジェット記録方法としては、液体組成物に力学的エネルギーを作用させ、液滴を吐出する記録方法、及び液体組成物に熱エネルギーを加えて液体組成物の発泡により液滴を吐出する記録方法があるが、それらの記録方法に特に好適である。ところで、上記液体組成物をインクジェット用に用いる場合には、該液体組成物はインクジェットヘッドから吐出可能である特性を有することが好ましい。インクジェットヘッドからの吐出性という観点からは、該液体組成物の特性としては、例えば、その粘度を1〜15mPa・s(cps)、表面張力が25mN/m(dyn/cm)以上、特には粘度を1〜5mPa・s(cps)、表面張力が25〜50mN/m(dyn/cm)とすることが好ましい。
【0101】
次に本発明の作用について述べる。本発明では、上述した液体組成物と前記の水性顔料インクが被記録媒体上或いは被記録媒体に浸透した位置で混合する結果、反応の第一段階として液体組成物中に含まれている低分子量カチオン性物質とインクに使用しているアニオン性の改質顔料とがイオン的相互作用により、イオン性を失うと共に親水性基が失われることで、顔料の表面が疎水性に変化し、瞬間的に溶液相から顔料の分離を起こす。この結果、インクにおいては分散破壊が起こり、改質顔料の凝集体ができる。
【0102】
次に反応の第二段階として、上述した改質顔料の凝集体が、液体組成物中に含まれる高分子量のカチオン性物質により吸着されることにより、凝集体のサイズが更に大きくなるのと同時に、イオン性を失った改質顔料に結合している共重合体同士の絡み合いによる改質顔料の凝集体のサイズが更に大きくなり、被記録媒体の繊維間の隙間に入り込みにくくなり、その結果として固液分離したインクの液体部分のみが被記録媒体中に染み込むことになり、これらの一連の現象により、印字品位と定着性、更には耐擦過性の向上が可能となる。
【0103】
又、ブラック以外のカラーインクの場合は、液体組成物と前記のインクが被記録媒体上或いは被記録媒体に浸透した位置で混合する結果、反応の第一段階として液体組成物中に含まれている低分子量カチオン性物質とインクに使用しているアニオン性基を有する水溶性染料又は顔料インクに使用しているアニオン性化合物がイオン的相互作用により会合を起こし瞬間的に溶液相から分離を起こす。この結果顔料インクにおいては分散破壊が起こり、顔料の凝集体ができる。
【0104】
次に反応の第二段階として、上述した染料と低分子量カチオン性物質の会合体又は顔料の凝集体が液体組成物中に含まれる高分子量のカチオン性物質により吸着されるために染料インクにおいては、会合で生じた染料の凝集体、又は、顔料インクにおいては、顔料の凝集体のサイズが更に大きくなり、被記録媒体の繊維間の隙間に入り込みにくくなり、その結果として固液分離した液体部分のみが被記録媒体中に染み込むことになり印字品位と定着性の両立が達成される。特に、色材として顔料を用いた場合、被記録媒体表面でインク中の顔料が凝集することで、その隠蔽力が増加して、発色性及び画像濃度の向上が著しい。
【0105】
同時に上述したようなメカニズムにより生成した低分子カチオン性物質とアニオン性染料、又は、顔料インク中のアニオン性化合物と顔料とカチオン性物質の高分子成分とで形成される凝集体は粘性が大きくなり、液媒体の動きと共に移動することがないので、前述したフルカラーの画像形成時のように隣接したドットが異色のインクで形成されていたとしても、互いに混じり合うようなことはなく、ブリーディングも起こらない。
【0106】
又、本発明を実施するにあたっては、従来技術のように分子量の大きいカチオン性高分子物質を使用する必要がない。従って、カチオン性物質を含む液体組成物の粘度が増大することがないので、該液体組成物をインクジェット記録ヘッド、特にオンデマンド型のサーマルインクジェット記録ヘッドを使用して被記録媒体に付着させようとした場合に、周波数応答性、安定した吐出体積、安定した吐出速度等の吐出特性に対して有利である。
【0107】
<インクジェット記録方法及び装置>
上記に説明した液体組成物、ブラックインク及びカラーインクを組み合わせてなる本発明のインクセットは、インク滴を記録信号に応じてオリフィスから吐出させて被記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法に好適に用いられるが、特に、熱エネルギーの作用により、インク滴を吐出させて記録を行うインクジェット記録方式にとりわけ好適に用いられる。
【0108】
上記方法は、前記液体組成物を被記録媒体の画像形成領域に付与する過程(A)と、前記ブラック又はカラーインクを被記録媒体の該画像形成領域に付与する過程(B)とを有し、液体組成物とインクとを以って画像を形成する画像形成方法でもある。本発明のインクジェット記録方法にあっては、上記過程(A)と上記過程(B)の順序については特に限定されず、上記過程(A)が行われた直後に上記過程(B)が行われてもよいし、上記過程(B)が行われた後に上記過程(A)が行われてもよい。又、上記過程(A)と上記過程(B)が同時に行われても構わない。
【0109】
本発明のインクセットを用いて好適に記録を行う記録方法としては、記録ヘッド内に収容された各色のインクに記録信号に対応した熱エネルギーを与え、該エネルギーにより液滴を発生させるインクジェット記録方法が挙げられるが、以下にこのようなインクジェット記録方法を適用した本発明のインクジェット記録装置の一例について説明する。
【0110】
先ず、その装置の主要部であるヘッド構成例を、図7、図8及び図9に示す。図7は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図8は、図7のA−B線での断面図である。ヘッド13は、インクを通す溝14を有する、ガラス、セラミック又はプラスチック板等と、感熱記録に用いられる発熱ヘッド15(図では薄膜ヘッドが示されているが、これに限定されるものではない。)とを接着して得られる。発熱ヘッド15は、酸化シリコン等で形成される保護膜16、アルミニウム電極17−1及び17−2、ニクロム等で形成される発熱抵抗体層18、蓄熱層19、及びアルミナ等の放熱性のよい基板20より成っている。
【0111】
インク21は、吐出オリフィス(微細孔)22まで来ており、圧力によりメニスカス23を形成している。今、アルミニウム電極17−1及び17−2に電気信号情報が加わると、発熱ヘッド15のnで示される領域が急激に発熱し、ここに接しているインク21に気泡が発生し、その圧力でメニスカス23が突出し、インク21が吐出しインク小滴24となり、吐出オリフィス22より被記録媒体25に向って飛翔する。
【0112】
図9には、図7に示すヘッドを多数並べたマルチヘッドの外観図を示す。該マルチヘッドは、マルチ溝26を有するガラス板27と、図7で説明したものと同様の発熱ヘッド28を密着して作製されている。
【0113】
図10に、上記ヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。図10において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持されて固定端となり、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、又、本例の場合、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。62は記録ヘッド65の吐出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配設され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、インク吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。更に、63はブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0114】
上記ブレード61、キャップ62及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によってインク吐出口面の水分、塵挨等の除去が行われる。65は吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する被記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は記録ヘッド65を搭載してその移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。
【0115】
51は被記録媒体を挿入するための給紙部、52は不図示のモーターにより駆動する紙送りローラーである。これらの構成によって記録ヘッド65の吐出口面と対向する位置へ被記録媒体が給紙され、記録が進行するにつれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。
【0116】
上記構成において記録ヘッド65が記録終了等でホームポジションに戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。この結果、記録ヘッド65の吐出口面がワイピングされる。尚、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。
【0117】
記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は、上述したワイピング時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。上述の記録ヘッド65のホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッド65が記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0118】
図11は、ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブを介して供給されるインクを収容したインクカートリッジ45の一例を示す図である。ここで、40は供給用インクを収容したインク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能ならしめる。44は廃インクを受容するインク吸収体である。インク収容部としては、インクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが本発明にとって好ましい。
【0119】
本発明のインクジェット記録装置は、上記の如きヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図12に示す如きそれらが一体になったものにも好適に用いられる。図12において、70は記録ユニットであって、この中にはインクを収容したインク収容部、例えば、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが複数のオリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。
【0120】
インク吸収体の材料としては、ポリウレタン、セルロース、ポリビニルアセテート又はポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。72は、記録ユニット内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は、図10で示す記録ヘッドに代えて用いられるものであって、キャリッジ66に対し着脱自在になっている。
【0121】
次に、力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置の好ましい一例としては、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備え、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させるオンデマンドインクジェット記録ヘッドを挙げることができる。その記録装置の主要部である記録ヘッドの構成の一例を図13に示す。
【0122】
ヘッドは、インク室(不図示)に連通したインク流路80と、所望の体積のインク滴を吐出するためのオリフィスプレート81と、インクに直接圧力を作用させる振動板82と、この振動板82に接合され、電気信号により変位する圧電素子83と、オリフィスプレート81、振動板82等を指示固定するための基板84とから構成されている。
【0123】
図13において、インク流路80は、感光性樹脂等で形成され、オリフィスプレート81は、ステンレス、ニッケル等の金属を電鋳やプレス加工による穴あけ等により吐出口85が形成され、振動板82はステンレス、ニッケル、チタン等の金属フィルム及び高弾性樹脂フィルム等で形成され、圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZT等の誘電体材料で形成される。以上のような構成の記録ヘッドは、圧電素子83にパルス状の電圧を与え、歪み応力を発生させ、そのエネルギーが圧電素子83に接合された振動板を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク滴(不図示)をオリフィスプレート81の吐出口85より吐出して記録を行うように動作する。このような記録ヘッドは、図10に示したものと同様なインクジェット記録装置に組み込んで使用される。インクジェット記録装置の細部の動作は、先述と同様に行うもので差しつかえない。
【0124】
【実施例】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例より限定されるものではない。尚、文中「部」又は「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
(顔料分散液1)
比表面積220g/m2でDBP吸油量112ml/100gのカーボンブラック500g、アミノフェニル−2−サルフェトエチル−スルフォン(APSES)45g及び蒸留水900gを反応器に投入し、55℃に保温し、回転数300RPM、20分間攪拌した。この後、25%濃度の亜硝酸ナトリウム40gを15分間滴下し、更に蒸留水50gを加えた。この後、60℃に保温し、2時間反応させた。反応物を蒸留水で希釈しながら取り出し、固形分15%の濃度に調整した。この後遠心分離処理及び不純物を除去する精製処理を行った。この作成した分散液は、カーボンブラックに前述した(APSES)の官能基が結合した分散液となった。この分散液をA1とした。
【0125】
次いで、この分散液中のカーボンブラックに結合した官能基のモル数を求めるために、以下の操作を行った。分散液中のNaイオンをプローブ式ナトリウム電極で測定し、カーボンブラック粉末当りに換算した。次いで、15%濃度の分散液A1をペンタエチレンヘキサミン(PEHA)溶液に強力に攪拌しながら室温に保ち1時間かけて、滴下した。このときのPEHA濃度は、前記測定したNaイオンのモル数の1〜10倍量の濃度で溶液量は分散液A1と同量で行った。更に、この混合物を18〜48時間攪拌し、この後不純物を除去する精製処理を行い、最終的に固形分10%のペンタエチレンヘキサミン(PEHA)が結合した分散液となった。この分散液をB1とした。
【0126】
次に前記得られた10%濃度の分散液B1の500gをスチレン−アクリル酸樹脂を溶解した水溶液に攪拌しながら滴下した。このスチレン−アクリル酸樹脂水溶液は、重量平均分子量15,000、酸価140、多分散度Mw/Mn(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn)1.5のスチレン−アクリル酸190gをとり、1,800gの蒸留水を加え、樹脂を中和するのに必要なNaOHを加え、攪拌して溶解調整したものを使用した。上記滴下混合物をパイレックス(登録商標)蒸発皿に移し、150℃で15時間加熱し、蒸発させた。蒸発乾燥物を室温に冷却した。次いで、この蒸発乾燥物をpH=9.0に調整したNaOH添加蒸留水中に分散機を用いて分散した。更に、攪拌しながら、1.0MのNaOHを添加してpHを10〜11に調整した。この後、脱塩、不純物を除去する精製及び粗大粒子除去を行い、顔料分散液1を得た。顔料分散液1の物性値は以下の通りであった。
固形分10% pH=10.1 平均粒子径130nm
【0127】
(顔料分散液2)
顔料分散液1と同様の作成方法で、顔料分散液2を作成した。この例では、重量平均分子量15,000、酸価140、多分散度Mw/Mn(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn)1.5のスチレン−アクリル酸樹脂の代わりに、重量平均分子量10,000、酸価220、多分散度Mw/Mn(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn)1.6のスチレン−アクリル酸樹脂を用いて、後の操作を前記と同様に行い、顔料分散液2を得た。顔料分散液2の物性値は以下の通りであった。
固形分10.5% pH=9.5 平均粒子径155nm
【0128】
下記表1に記載した成分を混合し、十分攪拌して溶解或いは分散した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過し、本発明の実施例で使用するインクA及びインクBを調製した。又、本発明のインクをそれぞれ、塩析若しくは酸析等を行った後のカーボンブラックを沈殿物ろ過により分取し、ろ過により得られた固形分を純水で十分に洗浄し、洗浄後のカーボンブラック固形物を、60℃のオーブンで一晩程度乾燥させた。
【0129】
このカーボンブラック乾固物を、高分子の良溶媒であるテトラヒドロフラン(THF)を用いてカーボンブラック乾固物の洗浄作業を3回繰り返した。このカーボンブラック乾固物の洗浄後のカーボンブラック乾固物を残存水分や残存溶剤を揮発させるために、真空乾燥機を用い数百Pa以下の真空度で、60℃×3時間程度乾燥させ溶媒洗浄後カーボンブラック乾固物を得た。乾固物を熱重量分析(Thermogravimetric Analysis)等により測定し、熱重量分析重量減少率を求めることができる。
【0130】
上記熱重量分析重量減少率とは、表面改質された顔料の、顔料に対する高分子の含有率である。上記熱重量分析重量減少率は、熱重量分析前の重量に対する、熱重量分析において100℃〜700℃まで昇温した際の重量減少量の割合とし、
A/B×100(%)・・・・・・式(1)
A=熱重量分析において100℃〜700℃まで昇温した際の重量減少量
B=熱重量分析前重量
で表される。
【0131】
上記方法による熱重量分析重量減少率を測定した際、顔料分散液1の熱重量分析データを図5に記した。この洗浄後のカーボンブラック乾固物を熱重量分析により熱重量分析重量減少率を求めることで、表面改質された顔料の、顔料に対する高分子の含有率を求めた。実施例で使用するインクA及びBのそれぞれの表面改質された顔料の、顔料に対する高分子の含有率を熱重量分析重量減少率として記載した。
【0132】
【0133】
(*)ポリアリルアミンは、機能材料、Vol.5,29(1986)に記載の方法に基づき合成を行った。
【0134】
(インクC)
比表面積210g/m2で、DBP吸油量74ml/100gのカーボンブラック7部、酸価200、重量平均分子量10,000のスチレン−アクリル酸共重合体2部、モノエタノールアミン1部、ジエチレングリコール15部、グリセリン10部、純水65部とを混合し、サンドグラインダーを用いて1時間分散させた後、遠心分離処理によって粗大粒子を除去し、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過し、インクCを得た。前記分析方法に従って行った熱重量分析重量減少率は下記表2の通りであった。
【0135】
又、インクCの熱重量分析重量減少率を測定した際の、熱重量分析データを図6に記した。
【0136】
実施例1〜2及び比較例1〜3
以上のインクA〜C及び液体組成物1、及び記録信号に応じて熱エネルギーをインクに付与することにより、インクを吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置BJ−F870(改造機、キヤノン製)を用いてインクジェット記録を行った。該インクジェット記録は、BJ−F870のブラックタンク挿入部に、液体組成物1を充填したインクタンクを挿入し、ホトシアン、ホトマゼンタタンク挿入部に上記ブラックインクA〜Cを注入したインクタンクを1つずつ計2タンク挿入し、他のシアンタンク、マゼンタタンク、イエロータンクの挿入部にはBJ−F870の純正のインクタンクをそのまま挿入して行った。印字方法は、BJ−F870を用い、ヘッドのノズル幅分の印字をホームポジションから反ホームポジションへのスキャン時のみ印字を行う、1スキャン片方向印字で行った。
【0137】
液体組成物1の被記録媒体への付与は、上記両ブラックタンク挿入部に、液体組成物1を充填したインクタンクを挿入したヘッドで付与した。又、液体組成物1の被記録媒体への付与量は、1スキャン片方向印字で1/600inch×1/600inchを1ピクセルとし(以後1ピクセルは、1/600inch×1/600inchとする)、1つの記録ヘッドによる液体組成物1の付与量を1ピクセル当たり最大4ドットとし、付与量を1ピクセル当たり3ドット、2ドット、1ドット及び、0ドットとし、液体組成物1の付与量を1ピクセル当たり0から4ドットまで5段階で付与量の調節を可能とした。
【0138】
次に前記のインクA〜Cの被記録媒体への付与は、ホトシアン、ホトマゼンタタンク挿入部に上記のブラックインクA〜Cを注入したインクタンクを搭載した2つのヘッドで付与した。又、ブラックインクA〜Cの被記録媒体の付与量は、2つのヘッドを用いることで1スキャン片方向印字で1ピクセル当たり最大8ドット付与できるように調整し、2つ記録ヘッドを用いることで1ピクセル当たり0ドットから最大8ドットまで9段階で付与量の調節を可能とした。尚、各記録ヘッドにおける各液体組成物1及びインクの1ドット当たりの吐出体積は約5plである。
【0139】
1.印字持続性
前記液体組成物1とインクA〜Cと前記インクジェット記録装置を用い、二つのブラックヘッドのどちらか一方を使用し、1ピクセル当たり100%dutyの印字でノズルチェックパターンが最初に入っているべた印字を連続してA4用紙3枚印字を行い、次にその後2時間印字を行わず、その後再びべた印字を連続して3枚印字するサイクルを10回繰り返した。そのときの印字みだれ、及び不吐出の有無を下記の基準で評価した。
○:印字みだれ及び不吐出がみられない。
△:印字みだれが若干みられるが、不吐出はみられない。
×:印字みだれ、不吐出がみられる。
【0140】
2.文字品位
前記液体組成物1とインクA〜Cを上記インクジェット記録装置を用い、液体組成物1の付与を1ピクセル当たり1ドットに対し液体組成物1の付与部とそれぞれ接するように二つのブラックインクタンク搭載ヘッドの片方のみを用い、付与量1ピクセル当たり4ドット付与するように印字し、下記5種類のコピー用普通紙A、B、C、D及びEに文字印字及び1cm×1cmの大きさのベタ印字を行い、そのときの文字の滲みと印字濃度を測定し、下記の基準で評価した。印字濃度は、マクベス社製マクベス濃度計RD−918を用いてベタ部の印字濃度を測定した。
○:5紙とも滲みが殆どなく、5紙平均の印字濃度が1.5以上
△:多少滲む紙がみられる、5紙中少なくとも1紙の印字濃度が1.5以上
×:5紙全ての印字濃度が1.5未満。
【0141】
尚、コピー用紙は以下に示すものを用いた。
A:キヤノン(株)社製 PPC用紙NSK
B:キヤノン(株)社製 PPC用紙NDK
C:ゼロックス(株)社製 PPC用紙4024
D:フォックスリバー(株)社製 PPC用紙プローバーボンド
E:ノイジドラ(株)社製 キヤノン用PPC用紙
【0142】
3.耐擦過性
前記液体組成物1とインクA〜Cとを文字品位の記録条件と同様の条件で被記録媒体A、B、C、D及びEに文字の印字を行い1日放置した後、被印字部を指で強めに擦り、画像の劣化、白紙部への汚れを目視にて評価した。
○:全ての紙で汚れが目立たない。
△:一部の紙で汚れが目立つ。
×:全ての紙で汚れが目立つ。
【0143】
4.ブリード
液体組成物1とイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色のベタ部を隣接して印字し、各色の境界部でのブリーディングの程度を目視により観察した。尚、印字方法は上記インクジェット記録装置を用い、液体組成物1の付与を1ピクセル当たり1ドットに対し液体組成物1の付与部とそれぞれ接するように2つのブラックインクタンク搭載ヘッドの片方のみを用い、付与量1ピクセル当たり4ドット付与するように印字し、カラーインクも1ピクセルあたり4ドット付与するように印字した。前記5種類のコピー用普通紙においてブリーディングが殆ど発生しないものを◎とし、ややブリーディングが発生するが、実質上問題無いレベルであるものを○とし、それ以外のレベルのものは×とした。上記評価方法にて、液体組成物1とインクA〜Cとの組み合わせを表3に記す。又、実施例1〜2及び比較例1〜3の評価項目1〜4の評価結果を表4に記す。
【0144】
【0145】
【0146】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、記録ヘッドに対する信頼性に優れ、又、ブリーディングがなく、印字濃度の高い、且つ印字品位に優れた高品位の画像を得ることができ、更には定着性や耐擦過性の優れたインクジェット用インクセット、インクジェット記録方法及びインクジェット記録機器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】樹脂分散タイプのインクを酸析した後洗浄乾固させた試料について熱重量分析を行った結果を示す図ある。
【図2】樹脂分散タイプのインクを酸析した後洗浄乾固させ、更にTHFを用いて溶媒抽出した後の試料について熱重量分析を行った結果を示す図である。
【図3】本発明で使用するインクを酸析した後洗浄乾固させた試料について熱重量分析を行った結果を示す図である。
【図4】本発明で使用するインクを酸析した後洗浄乾固させ、更にTHFを用いて溶媒抽出した後の試料について熱重量分析を行った結果を示す図である。
【図5】実施例1における顔料分散液1の熱重量分析データを示す図である。
【図6】インクCの熱重量分析データを示す図である。
【図7】インクジェット記録装置ヘッドの縦断面図である。
【図8】インクジェット記録装置ヘッドの縦横面図である。
【図9】図7に示したヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図である。
【図10】インクジェット記録装置の一例を示す斜視図である。
【図11】インクカートリッジの縦断面図である。
【図12】記録ユニットの一例を示す斜視図である。
【図13】記録ヘッドの構成の一例を示す図である。
【符号の説明】
13:ヘッド
14:インク溝
15:発熱ヘッド
16:保護膜
17−1、17−2:電極
18:発熱抵抗体層
19:蓄熱層
20:基板
21:インク
22:吐出オリフィス(微細孔)
23:メニスカス
24:インク滴
25:被記録媒体
26:マルチ溝
27:ガラス板
28:発熱ヘッド
40:インク袋
42:栓
44:インク吸収体
45:インクカートリッジ
51:紙給部
52:紙送りローラー
53:排紙ローラー
61:ブレード
62:キャップ
63:インク吸収体
64:吐出回復部
65:記録ヘッド
66:キャリッジ
67:ガイド軸
68:モーター
69:ベルト
70:記録ユニット
71:ヘッド部
72:大気連通口
80:インク流路
81:オリフィスプレート
82:振動板
83:圧電素子
84:基板
85:吐出口
【発明の属する技術分野】
本発明は、少なくとも水性顔料インクを含むインクジェット用インクセット、かかるインクセットを適用して記録を行うインクジェット記録方法及びかかるインクセットを使用したインクジェット記録機器に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方法は、インクの小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて記録を行うものである。特に、特許文献1〜3において開示された吐出エネルギー供給手段として電気熱変換体を用い熱エネルギーをインクに与えて気泡を発生させることにより液滴を吐出させる方法によれば、記録ヘッドの高密度マルチオリフィス化が容易に実現でき、高解像度且つ高品質の画像を高速で記録できる。
【0003】
しかしながら、従来のインクジェット記録に用いられるインクは一般に水を主成分とし、これに乾燥防止や目詰まり防止等の目的でグリコール等の水溶性高沸点溶剤を含有したものが一般的で、このようなインクを用いて普通紙に記録を行った場合、十分な定着性が得られなかったり、記録紙表面の填料やサイズ剤の不均一な分布によると推定される不均一画像が発生したりした。又、特にカラー画像を得ようとした場合には、複数の色のインクが紙に定着する以前に次々と重ねられることから、異色の画像の境界部分では色が滲んだり、不均一に混ざり合って(以下、この現象をブリーデイングと呼ぶことにする)満足すべき画像が得られなかった。
【0004】
定着性を高める手段として特許文献4には、インク中に界面活性剤等の浸透性を高める化合物を添加することが開示されている。又、特許文献5には揮発性溶剤を主体としたインクを用いることが開示されている。
【0005】
しかし、前者の方法ではインクの記録紙への浸透性が高まる結果、定着性やブリーディングについてはある程度向上するものの、インクとともに色材も記録紙の奥深くまで浸透してしまうために、画像濃度や彩度が低下したりする等の不都合が発生するほか、インクの横方向に対する広がりも発生し、その結果、画像のエッジのシャープさが低下したり、解像度が低下したりする問題も発生した。
【0006】
一方、後者の場合には、前者の不都合に加え、記録ヘッドのノズル部での溶剤の蒸発による目詰まりが発生しやすく、好ましくないものであった。更に、上述した問題点を改善するために、記録インクの噴射に先だって記録媒体上に画像を良好にせしめる液体を付着させる方法が提案されている。
【0007】
例えば、特許文献6には、塩基性ポリマーを有する液体を付着させた後、アニオン染料を含有するインクを記録する方法が開示されており、特許文献7には、反応性化学種を含む第1の液体と該反応性化学種と反応を起こす化合物を含む液体を記録媒体上で混合する記録方法が開示されており、更に、特許文献8には1分子あたり2個以上のカチオン性基を有する有機化合物を含有する液体を付着させた後、アニオン染料を含有したインクを記録する方法が開示されている。又、特許文献9には、コハク酸等を含有した酸性液体を付着させた後、アニオン性染料を含有したインクを記録する方法が開示されている。更に特許文献10には、染料を不溶化させる液体をインクの記録に先だって付与するという方法が開示されている。
【0008】
しかし、上記いずれの方法も染料自体の析出により画像の滲みの抑制や耐水性を向上させようとするものであり、前述したカラーインク間のブリーディング抑制効果も不十分であり、又、析出した染料が記録紙上で不均一に分布しやすいために記録紙のパルプ繊維に対する被覆性が悪く、画像の均一感が低下することになる。
【0009】
一方、従来、印刷インクの着色剤として、耐水性や耐光性等の堅牢性に優れた顔料が広く用いられているが、顔料を水性インクの色材として用いるためには、水性媒体中に顔料が安定して分散することが要求される。一般に、顔料は分散性がよくないため、均一分散系を得るためには、分散剤を添加して顔料を水性媒体中に分散させる樹脂分散顔料が用いられている。この樹脂分散顔料は、水分散性の悪い顔料を分散させるためには、水に分散するための親水性基と、疎水性の顔料に吸着するための疎水性部を有する樹脂が必須となっている。
【0010】
このような樹脂分散顔料を用いたインクをインクジェット記録に用いる場合には、インクがインクジェット記録ヘッドの微細な先端から安定な液滴となって吐出されるようにすることが要求されるため、インクジェット記録ヘッドのオリフィスの乾燥によってインクの固化等が発生しないことが必要となる。
【0011】
しかしながら、上記した分散剤が含有された樹脂分散顔料インクをインクジェット記録に用いた場合には、分散剤を形成している樹脂、或いは顔料に対する吸着力が弱いため顔料からはがれ落ちた分散剤樹脂、いわゆる顔料に吸着していないフリーの樹脂及び樹脂分散顔料粒子がオリフィス等に付着した後、再溶解されずに、目詰まりやインクの不吐出等が生じる場合がある。
【0012】
又、ベタ印字等の連続印字等を行う場合には、ヘッド温度上昇に伴いインクの吐出が不規則になり、吐出方向曲がりが発生し、インクの着弾点がずれる問題が生じる。又、更に連続印字を継続するとノズルからインクが溢れながら吐出を繰り返していくうちに、ノズル近傍のオリフィス面にインクが付着するようになる。そして、そのノズル近傍のインクの付着部を核として大きなインク溜りがオリフィス上に形成される。更に印字を続けた場合には、吐出すべきインクがオリフィス上のインク溜りに引き込まれ、吐出不可能になると言ったヌレ不吐等の問題等、記録ヘッドに対するインクの信頼性が低いという課題があった。
【0013】
そして、上記のような樹脂分散顔料インクを用いた際の記録ヘッドに対するインクの信頼性を改善する方法として、その他に特許文献11及び12で述べられているように、カーボンブラックの表面に水溶性基を導入することによって、分散剤を使用することなく顔料を安定に分散可能で、記録ヘッドに対する信頼性の向上した自己分散顔料が開発されている。
【0014】
しかしながら、樹脂分散顔料や自己分散性顔料を用いた水性インクで被記録媒体、特に普通紙上に印刷を行う場合には、印字品位を向上させるために、インクの紙に対する浸透性を調整することで行っていた。このインクの紙への浸透性を調整する方法では、インクの定着時間の短縮と印字品位の両立が困難であり改良の余地があった。
【0015】
又、樹脂結合タイプの自己分散性顔料として、特許文献13には、インクジェット記録法において用いられる液媒体と着色剤成分とを含有する記録媒体液であって、前記着色剤成分として、顔料表面の官能基と反応し得る反応性基を有するセグメント(A)と、前記反応性基を実質的に有さず且つ前記セグメント(A)よりも液媒体に対し高い親和性を示すセグメント(B)とを有する重合体を、顔料と加熱して得られる顔料複合ポリマーを含有することを特徴とする記録媒体液が開示されている。
【0016】
しかしながら、この発明においては、顔料表面に反応する重合体として特定の官能基が必要であり、使用できる重合体が限定される。又、顔料表面にも重合体と反応可能な官能基が必須であり、使用できる顔料の種類も限定されてしまう。又、製造上の問題として、顔料表面と反応性基を有さないセグメントにイオン性を持たせることは難しく、イオン性を有する水分散体を得ることは難しい。
【0017】
又、特許文献14において、複数の分子を用いた樹脂結合タイプの自己分散性顔料が述べられている。この樹脂結合タイプの自己分散性顔料は、イオン性を有する水性顔料分散が可能である。これらの樹脂結合タイプの自己分散性顔料を用いることにより、インクの記録ヘッドに対する信頼性は確保できたものの、印字後の定着時間と印字品位の両立については改善の余地があった。
【0018】
【特許文献1】
特公昭61−59911号公報
【特許文献2】
特公昭61−59912号公報
【特許文献3】
特公昭61−59914号公報
【特許文献4】
特開昭55−65269号公報
【特許文献5】
特開昭55−66976号公報
【特許文献6】
特開昭63−60783号公報
【特許文献7】
特開昭63−22681号公報
【特許文献8】
特開昭63−299971号公報
【特許文献9】
特開昭64−9279号公報
【特許文献10】
特開昭64−63185号公報
【特許文献11】
特開平8−3498号公報
【特許文献12】
特開平10−195360号公報
【特許文献13】
特開平9−272831号公報
【特許文献14】
国際公開第01/51566号パンフレット
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の目的は、記録ヘッドに対する信頼性に優れ、又、ブリーディングがなく、印字濃度の高い、且つ印字品位に優れた高品位の画像を得ることができ、更には定着性や耐擦過性の優れたインクジェット用インクセット、インクジェット記録方法及びインクジェット記録機器を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
上記目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、GPCを使用して測定した分子量分布のピークを分子量の異なる2つの領域に少なくとも1つずつ有する有機カチオン性物質を少なくとも含む液体組成物と、少なくとも水と水溶性有機溶剤とを含む液媒体中に着色剤を溶解若しくは分散してなる少なくとも1色のインクとからなるインクセットであって、上記インクセットのインクのうち少なくとも1色のインクは、顔料粒子の表面に有機基が化学的に結合している改質顔料と該顔料の分散媒としての水性媒体とを含む水性インクであって、上記有機基は、顔料表面に化学的に結合している官能基と、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体との反応物を含んでいることを特徴とするインクジェット用インクセットを提供する。
【0021】
上記本発明においては、前記有機基が、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体と、顔料に結合しているフェニル(2−スルホエチル)スルホン基との反応物を含んでいること;前記有機基の多分散度(Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量))が2以下であること;顔料がカーボンブラックであること;前記液体組成物中の有機カチオン性物質の異なる分子量分布領域の1つが分子量1,000以下の範囲にあり、且つ他の領域が分子量1,500以上の範囲にあることが好ましい。
【0022】
又、上記本発明においては、前記液体組成物が、有機カチオン性物質を0.05〜20質量%の範囲で含有すること;前記液体組成物中の有機カチオン性物質が少なくとも2種類の化合物からなること;前記液体組成物中の有機カチオン性物質のうち少なくとも1種が界面活性剤であることが好ましい。
【0023】
又、上記本発明においては、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体が、少なくとも1つのイオン性を有する親水性モノマーと少なくとも1つの疎水性モノマーの共重合体からなり、該共重合体の重量平均分子量が1,000以上30,000以下の範囲にあり、かつ上記高分子の酸価が100以上500以下であること;顔料に対する共重合体の含有率が5質量%以上40質量%以下の範囲にあること;顔料に対する共重合体の含有率が10質量%以上25質量%以下の範囲にあること;改質顔料が水性顔料インク全質量に対して0.1〜15質量%の範囲で含まれていること;改質顔料が、水性顔料インク全質量に対して1〜10質量%の範囲で含まれていることが好ましい。
【0024】
又、上記本発明においては、水性顔料インクが、更に下記構造式(1)〜(4)で表わされる少なくとも1種の界面活性剤を含むことが好ましい。
(但し、上記構造式(1)中、Rはアルキル基を表わし、nは整数を表わす。)
(但し、上記構造式(2)中、Rはアルキル基を表わし、nは整数を表わす。)
(但し、上記構造式(3)中、Rは水素原子又はアルキル基を表わし、m及びnは、夫々整数を表わす。)
(但し、上記構造式(4)中、m及びnは、夫々整数を表わす。)
【0025】
又、上記本発明は、前記のインクセットを用い、液体組成物とインクの少なくとも1色のインクとを被記録媒体上で少なくとも一部が重なり合うように付与することを特徴とするインクジェット記録方法を提供する。該インクジェット記録方法は、有機カチオン性物質を含有する液体組成物とインクとに熱エネルギーを作用させてインク吐出を行う方式であること;又は有機カチオン性物質を含有する液体組成物とインクとに力学的エネルギーを作用させてインク吐出を行う方式であることが好ましい。
【0026】
又、上記本発明は、前記の液体組成物及びインクの収容部と、該液体組成物及びインクを吐出させるためのヘッド部を備えていることを特徴とする記録ユニット;前記の液体組成物及びインクを収容したインク収容部を備えていることを特徴とするインクカートリッジ:及び前記の液体組成物及びインクを収容したインク収容部を備えていることを特徴とするインクジェット記録装置を提供する。
【0027】
【発明の実施の形態】
次に好ましい実施の形態を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
本発明のインクジェット用インクセットは、液体組成物と有色のインクとからなり、上記液体組成物が、GPCを使用して測定した分子量分布のピークを分子量の異なる2つの領域に少なくとも1つずつ有する有機カチオン性物質を少なくとも含むことを特徴とし、又、上記有色インクが、少なくとも水と水溶性有機溶剤とを含む液媒体中に着色剤を溶解若しくは分散してなる少なくとも1色のインクからなり、上記インクセットのインクのうち少なくとも1色のインクは、顔料粒子の表面に有機基が化学的に結合している改質顔料と該顔料の分散媒としての水性媒体とを含む水性インクであって、上記有機基が、顔料表面に化学的に結合している官能基と、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体との反応物を含んでいることを特徴としている。
【0028】
本発明のインクセットにおいて、有機カチオン性物質を含有する液体組成物と併用する有色インクとしては、少なくとも1色のインクは、特定の改質顔料を色材とするものであるが、他の有色インクは、一般的な染料や顔料を用いても構わないし、勿論、インクの全色の色材が前記改質顔料を含むものであっても構わない。しかしながら、ブラックインクは後述のような改質カーボンブラックを色材として含有することが好ましい。
【0029】
以下本発明において使用するブラックインク及びカラーインクについて説明する。
<ブラックインク>
本発明で用いるブラックインクにおいては、色材としては特に限定されないが、カーボンブラックが好適に使用され、インクとしては水性顔料インクが使用される。好ましいカーボンブラックの例は下記の通りである。
【0030】
例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料で、例えば、レイヴァン(Raven)7000、レイヴァン5750、レイヴァン5250、レイヴァン5000ULTRA−I、レイヴァン3500、レイヴァン2000、レイヴァン1500、レイヴァン1250、レイヴァン1200、レイヴァン1190ULTRA−II、レイヴァン1170、レイヴァン1255(以上コロンビア社製)、ブラックパールズ(Black Pearls)L、リーガル(Regal)400R、リーガル330R、リーガル660R、モウグル(Mogul)L、モナク(Monarch)700、モナク800、モナク880、モナク900、モナク1000、モナク1100、モナク1300、モナク1400、モナク2000、ヴァルカン(Valcan)XC−72R(以上キャボット社製)、カラーブラック(Color Black)FW1、カラーブラックFW2、カラーブラックFW2V、カラーブラックFW18、カラーブラックFW200、カラーブラックS150、カラーブラックS160、カラーブラックS170、プリンテックス(Printex)35、プリンテックスU、プリンテックスV、プリンテックス140U、プリンテックス140V、スペシャルブラック(Special Black)6、スペシャルブラック5、スペシャルブラック4A、スペシャルブラック4(以上デグッサ社製)、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上三菱化学社製)等の市販品や、別途新たに調製されたものも使用することができるが、これらに限定されるものではなく従来公知のカーボンブラックを使用することが可能である。又、マグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子やチタンブラック等を黒色顔料として用いてもよい。
【0031】
本発明で使用する少なくとも1色の水性顔料インクは、少なくとも1つの親水性モノマーと少なくとも1つの疎水性モノマーとの共重合体からなる高分子が結合した顔料を色材として含んでなる。上記親水性モノマーと疎水性モノマーとからなる共重合体は、アニオン性を有するアニオン性共重合体を含むものが好適に用いられる。上記アニオン性共重合体としては、疎水性モノマーとアニオン性モノマーからなる共重合体、或いはこれらの塩等が挙げられる。
【0032】
上記共重合体を構成する代表的な疎水性モノマーとしては、次のモノマーがあるが、これらに限定されるものではない。例えば、スチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル化合物、メチル(メタ)アタクリレート(本発明において「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」の双方を意味する)、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−トリメチルシロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、p−トリル(メタ)アクリレート及びソルビル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリロニトリル等である。又、上記アニオン性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
上記疎水性モノマー及びアニオン性モノマーからなる共重合体としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、又はこれらの塩等が挙げられ、酸価としては100〜500の範囲のものが好ましく、酸価のばらつきが平均酸価の10%以内であることが好ましい。尚、前記の塩とは、ナトリウム、リチウム、カリウム等のアルカリ金属塩の他、アンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルカノールアミン塩等が挙げられ、これらを単独ないしは数種類を適宜組み合わせて使用できる。
【0034】
上記アニオン性共重合体の重量平均分子量が1,000〜30,000の範囲のものが好ましく、更に好ましくは3,000〜20,000の範囲ものが好ましく使用され、更に共重合体の多分散度Mw/Mnが2以下であることが好ましい。アニオン性共重合体の含有量は、顔料に対して5質量%以上40質量%以下であることが好ましい。より好ましくは10質量%以上25質量%以下の割合で使用される。
【0035】
本発明に用いるブラックインクの水性媒体としては、例えば、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、インクの乾燥防止効果を有するものが特に好ましい。水としては脱イオン水を使用することが望ましい。
【0036】
具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオ−ル、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。上記の如き水溶性有機溶剤は、単独でも或いは混合物としても使用することができる。
【0037】
本発明で用いるブラックインク中に含有される水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されないが、インク全質量に対して、好ましくは3〜50質量%の範囲が好適である。又、インクに含有される水の含有量はインク全質量に対して好ましくは50〜95質量%の範囲である。
【0038】
又、インクの保湿性維持のために、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の保湿性固形分もインク成分として用いてもよい。尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン等、保湿性固形分のインク中の含有量は一般にはインクに対して0.1〜20.0質量%の範囲が好ましく、より好ましくは3.0〜10.0質量%の範囲である。
【0039】
更に、本発明で用いるインクには上記成分以外にも必要に応じて界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤等、種々の添加剤を含有させてもよい。
【0040】
上記界面活性剤としては下記構造式(1)〜(4)で表される界面活性剤のいずれかを含有することが好ましい。
(但し、上記構造式(1)中、Rはアルキル基を表わし、nは整数を表わす。)
(但し、上記構造式(2)中、Rはアルキル基を表わし、nは整数を表わす。)
(但し、上記構造式(3)中、Rは水素原子又はアルキル基を表わし、m及びnは、夫々整数を表わす。)
【0041】
(但し、上記構造式(4)中、m及びnは、夫々整数を表わす。)
【0042】
本発明で使用するブラックインクは、筆記具用インクやインクジェット用インクに用いることができる。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させ、液滴を吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡により液滴を吐出する記録方法があり、それらの記録方法に本発明で使用するインクは特に好適である。
【0043】
ところで、本発明で用いるブラックインクをインクジェット用に用いる場合には、該インクはインクジェットヘッドから吐出可能である特性を有することが好ましい。インクジェットヘッドからの吐出性という観点からは、該インクの特性としては、例えば、その粘度を1〜15mPa・s、表面張力が25mN/m以上、特には粘度を1〜5mPa・s、表面張力が25〜50mN/mとすることが好ましい。
【0044】
本発明で用いる顔料インクの分析方法を、色材としてカーボンブラックを用いた場合について説明するが、これにより顔料が特に限定されるわけではない。本発明の表面改質されたカーボンブラックの表面改質状態を分析する方法としては特に限定されず、通常考えられ得る方法を用いて分析を行うことができる。好ましくは、ESCAやTOF−SIMS等で表面改質されたカーボンブラック表面の化学結合状態を分析する方法が挙げられる。
【0045】
表面処理された顔料は、顔料に結合した高分子と顔料に結合していない高分子(フリーの高分子)を含む場合が多いが、顔料に結合している高分子の分子量を測定する方法としては特に限定されないが、前記表面改質した顔料を含むインクを塩析若しくは酸析させてから固形分を濾過した後蒸発乾固させ、上記フリーの高分子の良溶媒を用いてフリーの高分子の抽出を行う方法が好ましい。この良溶媒によって抽出されたフリーの高分子は基本的に顔料に結合していないため、この量が高分子全体の7質量%未満であることが好適である。更に好ましくは5質量%未満である。以下、フリーの高分子の良溶媒を用いてフリーの高分子の抽出を行う方法について詳細に説明する。分析を行うにあたり試料の前処理を以下のように実施する。
【0046】
本発明において、上記表面改質されたカーボンブラックを塩析若しくは酸析した後に乾固させ、上記フリーの高分子の良溶媒を用いてフリーの高分子の抽出を行う方法は[1]塩析若しくは酸析、[2]洗浄、[3]乾固、[4]抽出、[5]乾燥という手順によって行うことができる。以下順を追って説明する。
【0047】
[1]上記表面改質されたカーボンブラックを塩析若しくは酸析させる方法としては特に限定されず、例えば、(a)塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩で塩析させる、(b)硝酸や塩酸等の酸を用いて酸析させる等の方法を用いることができる。この際、必要に応じて塩析等の前工程として限外濾過等を行ってもよい。
[2]上記塩析若しくは酸析等を行った後のカーボンブラック沈殿物を純水で十分に洗浄する。特に、[1](b)の酸析を行う際には、洗浄後の濾液が中性になるまで十分に洗浄を行うのが好ましい。
【0048】
[3]洗浄後の上記カーボンブラック沈殿物は、オーブン等で十分に乾燥させてカーボンブラック乾固物として取り出すことができる。乾燥条件等は特に限定されず、例えば、60℃で2時間程度乾燥させればよい。
[4]上記カーボンブラック乾固物は、必要に応じて上記フリーの高分子の良溶媒を用いてフリーの高分子の抽出を行うことができる。
上記フリーの高分子の良溶媒としては特に限定されず、例えば、テトラヒドロフラン(THF)等の良溶媒を用いることができる。この場合、良溶媒を用いて何度も上記カーボンブラック乾固物を洗浄し、抽出作業を繰り返すのが好ましい。
【0049】
[5]良溶媒で上記フリーの高分子を抽出した後のカーボンブラック乾固物は、最後にオーブン等で十分に乾燥を行い、残存水分や残存溶剤を揮発させる。上記使用するオーブン等としては特に限定されず、例えば、市販の真空乾燥機等を用いて乾燥を行うことができる。又、乾燥条件等については上記カーボンブラック乾固物から十分に残存水や残存溶剤が除去できる条件であれば特に限定されず、例えば、数百Pa以下の真空度で、60℃×3時間程度乾燥させればよい。
【0050】
熱重量分析を用いることにより、顔料に対する高分子の結合量をより定量的に測定することができる。以下熱重量分析について詳細に説明する。上記表面改質されたカーボンブラックを塩析若しくは酸析した後に乾固させ、上記フリーの高分子の良溶媒を用いてフリーの高分子の抽出を行った際の抽出量を測定する方法としては特に限定されず、例えば、十分に乾燥させた上記フリーの高分子の良溶媒による抽出前後のカーボンブラック乾固物を熱重量分析(Thermogravimetric Analysis)等により測定し、重量減少率から求めることができる。
【0051】
上記重量減少率(%)とは、
重量減少量/初期重量×100・・・・・(1)式
で表される数値であり、重量減少率が小さいほど重量減少が少ないことを表す。上記重量減少率は熱重量分析において100℃〜700℃まで昇温した際の値とする。上記熱重量分析における分析条件等は特に限定されず、前処理、昇温速度等通常の条件で測定することができる。
【0052】
本発明の水性顔料インクに含まれる上記抽出前後のカーボンブラック乾固物においては、抽出前の重量減少率と抽出後の重量減少率の差が5%未満であることが好ましい。即ち、本発明の水性顔料インクに含まれる上記表面改質されたカーボンブラックは、上記高分子がカーボンブラックと直接若しくは1つ以上の原子団を介して化学的に結合しているため、溶媒抽出により抽出されるフリーの高分子は非常に少量であり、溶媒抽出前の試料の熱重量分析結果におけるフリーの高分子に起因する減量と、溶媒抽出後の試料の熱重量分析結果におけるフリーの高分子に起因する減量との差が小さく、重量減少率は小さくなる。
【0053】
これに対して、一般的に用いられる樹脂分散顔料では、上記高分子がカーボンブラック(顔料)と化学的に結合していないため、溶媒抽出前の試料では熱重量分析における高分子に起因する減量が大きいのに対し、溶媒抽出後の試料では、溶媒抽出によりフリーの高分子が既に除去されているため熱重量分析におけるフリーの高分子に起因する重量減少は小さくなり、抽出前後での重量減少率の差は大きくなる。
【0054】
図1は、樹脂分散タイプのインクを酸析した後洗浄乾固させた試料について熱重量分析を行った結果である。図2は樹脂分散タイプのインクを酸析した後洗浄乾固させ、更にTHFを用いて溶媒抽出した後の試料について熱重量分析を行った結果である。両者共に十分に蒸発乾固させてあり、水分や溶剤は除去されている。図1では350℃付近に樹脂に起因する重量減少が認められ、重量減少率は約13.7%であるのに対し、図2では350℃付近での重量減少は約2.7%と非常に少なくなっている。両者の結果から、樹脂分散タイプのインクではTHFで溶媒抽出することにより溶媒中に樹脂が大量に抽出されて、除去されたことがわかる。これは、樹脂分散タイプのインクでは樹脂分とカーボンブラックが化学的に結合していないために生じる現象である。
【0055】
次に、図3には本発明で使用するインクを酸析した後洗浄乾固させた試料について熱重量分析を行った結果を示した。図4には、本発明で使用するインクを酸析した後洗浄乾固させ、更にTHFを用いて溶媒抽出した後の試料について熱重量分析を行った結果を示した。図3及び図4の結果から、350℃付近での樹脂に起因する重量減少率が溶媒抽出前後であまり変化しておらず、このことより、溶媒抽出により樹脂が除去されなかった、つまり、カーボンブラックと樹脂とが化学的に結合していることがわかる。
【0056】
上記熱重量分析を用いる以外にも、樹脂とカーボンブラックの結合状態を調査する方法がある。例えば、上記表面改質されたカーボンブラックを塩析若しくは酸析した後に乾固させ、上記フリーの高分子の良溶媒を用いてフリーの高分子の抽出を行う方法と、TG−GC−MS(熱重量分析−ガスクロマトグラフ−マススペクトル)とを組み合わせて分析することにより、熱重量分析で発生したガスを更に分析することができ、カーボンブラック乾固物に結合していた高分子の状態を詳細に知ることができる。このような分析方法も、又、好適な方法である。
【0057】
カーボンブラックに直接若しくは1つ以上の原子団を介してアニオン性高分子を化学的に結合させる方法としては、通常用いられる方法によって行えばよく、特に限定されるものではないが、例えば、カーボンブラックに、分子内にアミノ基とカルボキシル基を有するポリマーをジアゾニウム反応で結合させる方法等を用いることができる。この他に、最も典型的な例がWO 01/51566 A1に開示されている。
【0058】
上記方法は下記の3工程を含むこととなる。
第1工程;カーボンブラックにジアゾニウム反応でアミノフェニル−(2−サルフェイトエチル)−サルフォン(APSES)を付加させる工程。
第2工程;APSES処理をしたカーボンブラックにポリエチレンイミンやペンタエチレンヘキサミン(PEHA)を付加させる工程。
第3工程;疎水性モノマーとカルボキシル基を有する親水性モノマーとの共重合体を結合させる工程。
【0059】
<カラーインク>
本発明において使用するカラーインクの色材としては、公知の染料又は顔料が用いられるが、発色性を考慮して、特にアニオン性染料が好ましく用いられる。アニオン性染料としては、既存のものでも、新規に合成したものでも適度な色調と濃度を有するものであれば、大抵のものを用いることができる。これらの染料又は顔料は、単独でも混合しても使用することができる。
【0060】
(アニオン性染料)
下記に、本発明で使用できるアニオン性染料の具体例について、インクの色調別に例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(イエロー用の色材)
C.I.ダイレクトイエロー:1、2、4、8、11、12、26、27、28、33、34、39、41、44、48、50、58、85、86、87、88、89、98、100、110、132、135、142、144
C.I.アシッドイエロー:1、3、4、7、11、12、13、14、17、19、23、25、29、34、36、38、40、41、42、44、53、55、61、76、79、98、99
C.I.リィアクティブイエロー:1、2、3、4、6、7、11、12、13、14、15、16、17、18、22、23、24、25、26、27、37、42
C.I.フードイエロー:3
【0061】
(マゼンタ用の色材)
C.I.ダイレクトレッド:1、2、4、8、9、11、13、15、20、23、24、28、31、33、37、39、46、51、59、62、63、73、75、79、80、81、83、87、89、90、95、99、101、110、189、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230
C.I.アシッドレッド:1、4、6、8、9、13、14、15、18、21、26、27、32、35、37、42、51、52、80、83、87、89、92、106、114、115、133、134、145、158、198、249、257、265、289
C.I.リィアクティブレッド:1、2、3、4、5、6、7、8、11、12、13、15、17、19、20、21、22、23、24、28、29、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、58、59、63、64、180
C.I.フードレッド:87、92、94
【0062】
(シアン用の色材)
C.I.ダイレクトブルー:1、2、6、8、15、22、25、34、41、70、71、76、77、78、80、86、90、98、106、108、120、142、158、163、168、199、200、201、202、203、207、218、226、236、287
C.I.アシッドブルー:1、7、9、15、22、23、25、27、29、40、43、55、59、62、74、78、80、81、90、100、102、104、111、117、127、138、158、161、185、254
C.I.リィアクティブブルー:1、2、3、4、5、7、8、9、13、14、15、17、18、19、20、21、25、26、27、28、29、32、33、34、37、38、39、40、41、43、44、46、100
【0063】
(カチオン性染料)
カチオン性染料の例としては、
C.I.ベーシックイエロー:1、2、11、13、14、19、21、25、32、33、36、51
C.I.ベーシックレッド:1、2、9、12、13、37、38、39、92C.I.ベーシックブルー:1、3、5、7、9、19、24、25、26、28、29、45、54、65
C.I.ベーシックブラック:2、8
【0064】
カラー顔料インクに用いる顔料の例としては、具体的には、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料、イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロンエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料、インジゴ系顔料、チオインジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、キノフタロンエロー、ニッケルアゾエロー、銅アゾメチンエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等のその他の顔料が例示できる。
【0065】
又、有機顔料を、カラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、20、24、74、83、86、93、97、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、150、151、153、154、166、168、180、185、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、71、C.I.ピグメントレッド5、7、9、12、48、49、52、53、57、97、112、122、123、149、168、175、176、177、180、192、202、207、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー1、2、315、15:1、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、C.I.ピグメントブラウン23、25、26等が例示できる。
【0066】
これらの顔料はインク中に樹脂分散されていても、水溶性基を結合させることにより自己分散されていても、本発明で使用するブラックインクと同様に樹脂結合型自己分散をしていてもかまわない。これらのカラーインク用の色材のなかで、より好ましいのはアニオン性染料である。発色性や安全性等を考慮すると、選択性の幅が広いのがアニオン性染料だからである。
【0067】
上記したカラー色材の含有量としては、インク全質量中の0.2〜15質量%の範囲とするのが好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%の範囲とする。即ち、この範囲とすることで、例えば、発色性やインクの吐出安定性等のインクジェット用インクとしての信頼性を、より一層向上させることができる。
【0068】
カラーインクに用いられる水性媒体の例としては、例えば、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、インクの乾燥防止効果を有するものを用いることが特に好ましい。
【0069】
この際に使用できる水溶性有機溶媒としては、具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオ−ル、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。
【0070】
上記の如き水溶性有機溶剤は、単独でも、或いは、適宜に選択して混合物としても使用することができる。又、上記水溶性有機溶剤のインク中における含有量は、特に限定されないが、インク全質量に対して、3〜50質量%の範囲が好適である。又、インクに含有される水の含有量は、インク全質量に対して50〜95質量%の範囲とすることが好ましい。
【0071】
本発明で使用するカラーインクに好ましい特性を担持させるための好ましい水性媒体の組成としては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、チオグリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、イソプロピルアルコール及びアセチレンアルコールを含むものとすることが好ましい。尚、アセチレンアルコールとしては、例えば、下記式で示されるアセチレンアルコールを挙げることができる。
【0072】
(上記式中、R1、R2、R3及びR4は、アルキル基、具体的には、例えば、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、m及びnは、夫々整数を表し、m=0且つn=0、若しくは1≦m+n≦30であって、m+n=1の場合は、m又はnは0である。)
【0073】
カラーインク中には、上記で述べた成分の他に、そのインク中の色材の極性と同じか、又はノニオン性の少なくとも1種の界面活性剤を含有させるとよい。これらの界面活性剤を含有させることによって、インクに所望の浸透性や粘度を付与させることができ、インクジェット用インクに要求される性能をより一層満足させることができる。この際に使用される界面活性剤としては、下記に挙げるような、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤、或いは、これらの2種以上の混合物のいずれでもよい。
【0074】
(アニオン性界面活性剤)
脂肪酸塩、高級アルコール酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、高級アルコールリン酸エステル塩、アルキル硫酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルスルホ酢酸塩、スルホコハク酸ジアルキルエステル塩等。
(カチオン性界面活性剤)
脂肪族アミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩等。
【0075】
(非イオン性界面活性剤)
高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪族エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、脂肪族アミドエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、多価アルコールの脂肪酸エステル、アルカノールアミンの脂肪酸アミド類等。
(両性界面活性剤)
アミノ酸型、ベタイン型両性界面活性剤等。
【0076】
本発明においては、これらのものはいずれも好ましく使用されるが、より好ましくは、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド付加物、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物等の非イオン性界面活性剤を用いる。更に、上記エチレンオキサイド付加物の付加モル数が4〜20の範囲のものが特に好ましい。
【0077】
上記のような界面活性剤のカラーインク中における添加量については特に制限はないが、インク全質量の0.01〜10質量%の範囲とするのが好ましい。0.01質量%未満では、界面活性剤の種類にもよるが、一般に所望の浸透性が得られず、10質量%を超える場合には、インクの初期粘度が大きくなり、好ましくない。更に好ましくは、インク全質量の0.1〜5.0質量%の範囲とするのがよい。
【0078】
この他、本発明のインクセットを構成するカラーインク中には上記成分の他、必要に応じて、保湿剤としての尿素、チオ尿素、エチレン尿素、アルキル尿素、アルキルチオ尿素、ジアルキル尿素及びジアルキルチオ尿素等の含窒素化合物や、インクに所望の性能を与えるための、pH調整剤、粘度調整剤、防腐剤、酸化防止剤、蒸発促進剤、防錆剤、防カビ剤及びキレート化剤等の添加剤を配合してもよい。
【0079】
上記したカラーインクは、筆記具用インクやインクジェット用インクに用いることができる。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させ、液滴を吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡により液滴を吐出する記録方法があるが、それらの記録方法に特に好適である。ところで、上記カラーインクをインクジェット用に用いる場合には、該インクはインクジェットヘッドから吐出可能である特性を有することが好ましい。インクジェットヘッドからの吐出性という観点からは、該液体の特性としては、例えば、その粘度を1〜15mPa・s(cps)、表面張力が25mN/m(dyn/cm)以上、特には粘度を1〜5mPa・s(cps)、表面張力が25〜50mN/m(dyn/cm)とすることが好ましい。
【0080】
<液体組成物>
本発明のインクジェット用インクセットを構成する液体組成物は、少なくとも(1)低分子量カチオン性物質と(2)カチオン性高分子を含んでなる。上記の(1)の低分子量カチオン性物質としては、GPCを使用して測定した分子量分布のピークが分子量1,000以下の領域に少なくとも1つ存在するものが好ましい。
【0081】
上記(1)の低分子量カチオン性物質の好ましい具体例を以下に列挙する。尚、本発明においては低分子量カチオン性物質は分子量の分布においては、単分散に近いものが多く使用できる。分子量の分布がない化合物については通常の化学式から求められる分子量を分子量分布のピークの位置とする。
【0082】
1級乃至2級乃至3級アミン塩型の化合物、具体的にはラウリルアミン、ヤシアミン、ステアリルアミン、ロジンアミン等の塩酸塩、酢酸塩等の他、第4級アンモニウム塩型の化合物、具体的にはラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、セチルトリメチルアンモニウムクロライド等があり、更にピリジニウム塩型化合物、具体的にはセチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイド等、更には、イミダゾリン型カチオン性化合物、具体的には2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリン等があり、更に第二級アルキルアミンのエチレンオキシド付加物、具体的にはジヒドロキシエチルステアリルアミン等が好ましい例として挙げられる。
【0083】
更に本発明では、あるpH領域においてカチオン性を示す両性界面活性剤も使用できる。より具体的には、アミノ酸型両性界面活性剤、RNHCH2−CH2COOH型の化合物があり、ベタイン型の化合物、具体的にはステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等がある。勿論、これらの両性界面活性剤を使用する場合にはそれらの等電点以下のpHになるように液体組成物を調整するか、被記録媒体上で前記のインクと混合した場合に該等電点以下のpHになるように調整するかのいずれかの方法をとる必要がある。以上、低分子量カチオン性化合物の例を挙げたが、本発明で使用することのできる化合物は必ずしもこれらに限定されないことはいうまでもない。
【0084】
前記(2)のカチオン性高分子物質としては、GPCを使用して測定した分子量分布のピークが、分子量1,500以上の領域(更に好ましくは分子量1,500〜10,000の領域)に少なくとも1つ存在するものが好ましい。
【0085】
次に前記(2)のカチオン性高分子物質の本発明における作用及び効果については、上述した通り、液体組成物とインクの反応の第2段階として、上述した水性顔料インク中のアニオン性部位と低分子カチオン性物質の凝集体を分子中に吸着せしめ、会合で生じた染料の凝集体のサイズを更に大きくして被記録媒体の繊維間の隙間に入り込みにくくすることにより、固液分離した液体部分のみを被記録媒体中にしみこませることで、印字品位と耐擦過性の両立を達成することにある。
【0086】
前記(2)のカチオン性高分子物質の具体例としては、ポリアリルアミン、ポリアミンスルホン、ポリビニルアミン、キトサン及びこれらの塩酸、酢酸等の酸による中和物又は部分中和物を挙げることができるが、これらに限定されない。これらの高分子物質の分子量分布のピークの位置が1,500以上10,000以下に少なくとも1つ存在すれば、本発明を実施する際にその効果は十分である。
【0087】
尚、本発明におけるカチオン性高分子の分子量とは、特に断わらない限り、GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィ)を使用して求めた平均分子量のことを指し、ポリエチレンオキサイド換算の重量平均分子量のことをいう。
【0088】
又、前記(2)のカチオン性高分子物質の別の具体例として、ノニオン性高分子物質の一部をカチオン化した化合物を用いてもよい。具体的には、ビニルピロリドンとアミノアルキルアルキレート4級塩との共重合体、アクリルアマイドとアミノメチルアクリルアマイド4級塩との共重合体等を挙げることができるが、勿論、これらの化合物に限定されない。更に、上述したカチオン性の高分子物質は水溶性であれば申し分ないが、ラテックスやエマルションのような分散体であってもかまわない。
【0089】
液体組成物中に含有される上記のカチオン性成分の量としては、質量基準で0.05〜20質量%が好適な範囲であり、より好ましくは0.5〜5質量%の範囲であるが、各々使用する物質の組合せにより、最適な範囲を決定する必要がある。又、液体組成物中の前記(1)の低分子量カチオン性物質と前記(2)のカチオン性高分子物質の混合割合は、質量基準で10:1〜1:10、好ましくは5:1〜1:5の範囲である。この割合が10:1を超えると、印字物の耐水性が低下しやすく、逆に1:10以下ではブリーディングの抑制が不十分で、画像のエッジシャープネスが低下しやすい。
【0090】
液体組成物に用いられる水性媒体の例としては、例えば、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、液体組成物の乾燥防止効果を有するものを用いることが特に好ましい。
【0091】
この際に使用できる水溶性有機溶剤としては、具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオ−ル、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。
【0092】
上記の如き水溶性有機溶剤は、単独でも、或いは、適宜に選択して混合物としても使用することができる。又、上記水溶性有機溶剤の液体組成物中における含有量は、特に限定されないが、液体組成物全質量に対して、3〜50質量%の範囲が好適である。又、液体組成物に含有される水の含有量は、液体組成物全質量に対して50〜95質量%の範囲とすることが好ましい。
【0093】
本発明で使用する液体組成物に好ましい特性を担持させるための好ましい水性媒体の組成としては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、チオグリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、イソプロピルアルコール及びアセチレンアルコールを含むものとすることが好ましい。尚、アセチレンアルコールとしては、例えば、下記式で示されるアセチレンアルコールを挙げることができる。
【0094】
(上記式中、R1、R2、R3及びR4は、アルキル基、具体的には、例えば、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、m及びnは、夫々整数を表し、m=0且つn=0、若しくは1≦m+n≦30であって、m+n=1の場合は、m又はnは0である。)
【0095】
液体組成物中には、上記で述べた成分の他に、カチオン性化合物の極性と同じか、又はノニオン性の少なくとも1種の界面活性剤を含有させるとよい。これらの界面活性剤を含有させることによって、液体組成物に所望の浸透性や粘度を付与させることができ、インクジェット用液体組成物に要求される性能をより一層満足させることができる。この際に使用される界面活性剤としては、下記に挙げるような、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤、或いは、これらの2種以上の混合物のいずれでもよい。
【0096】
(アニオン性界面活性剤)
脂肪酸塩、高級アルコール酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、高級アルコールリン酸エステル塩、アルキル硫酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルスルホ酢酸塩、スルホコハク酸ジアルキルエステル塩等。
(カチオン性界面活性剤)
脂肪族アミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩等。
【0097】
(非イオン性界面活性剤)
高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪族エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、脂肪族アミドエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、多価アルコールの脂肪酸エステル、アルカノールアミンの脂肪酸アミド類等。
【0098】
(両性界面活性剤)
アミノ酸型、ベタイン型両性界面活性剤等。
【0099】
上記のような界面活性剤の各液体組成物中における添加量については特に制限はないが、液体組成物全質量の0.01〜10質量%の範囲とするのが好ましい。0.01質量%未満では、界面活性剤の種類にもよるが、一般に所望の浸透性が得られず、10質量%を超える場合には、液体組成物の初期粘度が大きくなり、好ましくない。更に好ましくは、液体組成物全質量の0.1〜5.0質量%の範囲とするのがよい。
【0100】
上記した液体組成物は、インクジェット用に用いることができる。インクジェット記録方法としては、液体組成物に力学的エネルギーを作用させ、液滴を吐出する記録方法、及び液体組成物に熱エネルギーを加えて液体組成物の発泡により液滴を吐出する記録方法があるが、それらの記録方法に特に好適である。ところで、上記液体組成物をインクジェット用に用いる場合には、該液体組成物はインクジェットヘッドから吐出可能である特性を有することが好ましい。インクジェットヘッドからの吐出性という観点からは、該液体組成物の特性としては、例えば、その粘度を1〜15mPa・s(cps)、表面張力が25mN/m(dyn/cm)以上、特には粘度を1〜5mPa・s(cps)、表面張力が25〜50mN/m(dyn/cm)とすることが好ましい。
【0101】
次に本発明の作用について述べる。本発明では、上述した液体組成物と前記の水性顔料インクが被記録媒体上或いは被記録媒体に浸透した位置で混合する結果、反応の第一段階として液体組成物中に含まれている低分子量カチオン性物質とインクに使用しているアニオン性の改質顔料とがイオン的相互作用により、イオン性を失うと共に親水性基が失われることで、顔料の表面が疎水性に変化し、瞬間的に溶液相から顔料の分離を起こす。この結果、インクにおいては分散破壊が起こり、改質顔料の凝集体ができる。
【0102】
次に反応の第二段階として、上述した改質顔料の凝集体が、液体組成物中に含まれる高分子量のカチオン性物質により吸着されることにより、凝集体のサイズが更に大きくなるのと同時に、イオン性を失った改質顔料に結合している共重合体同士の絡み合いによる改質顔料の凝集体のサイズが更に大きくなり、被記録媒体の繊維間の隙間に入り込みにくくなり、その結果として固液分離したインクの液体部分のみが被記録媒体中に染み込むことになり、これらの一連の現象により、印字品位と定着性、更には耐擦過性の向上が可能となる。
【0103】
又、ブラック以外のカラーインクの場合は、液体組成物と前記のインクが被記録媒体上或いは被記録媒体に浸透した位置で混合する結果、反応の第一段階として液体組成物中に含まれている低分子量カチオン性物質とインクに使用しているアニオン性基を有する水溶性染料又は顔料インクに使用しているアニオン性化合物がイオン的相互作用により会合を起こし瞬間的に溶液相から分離を起こす。この結果顔料インクにおいては分散破壊が起こり、顔料の凝集体ができる。
【0104】
次に反応の第二段階として、上述した染料と低分子量カチオン性物質の会合体又は顔料の凝集体が液体組成物中に含まれる高分子量のカチオン性物質により吸着されるために染料インクにおいては、会合で生じた染料の凝集体、又は、顔料インクにおいては、顔料の凝集体のサイズが更に大きくなり、被記録媒体の繊維間の隙間に入り込みにくくなり、その結果として固液分離した液体部分のみが被記録媒体中に染み込むことになり印字品位と定着性の両立が達成される。特に、色材として顔料を用いた場合、被記録媒体表面でインク中の顔料が凝集することで、その隠蔽力が増加して、発色性及び画像濃度の向上が著しい。
【0105】
同時に上述したようなメカニズムにより生成した低分子カチオン性物質とアニオン性染料、又は、顔料インク中のアニオン性化合物と顔料とカチオン性物質の高分子成分とで形成される凝集体は粘性が大きくなり、液媒体の動きと共に移動することがないので、前述したフルカラーの画像形成時のように隣接したドットが異色のインクで形成されていたとしても、互いに混じり合うようなことはなく、ブリーディングも起こらない。
【0106】
又、本発明を実施するにあたっては、従来技術のように分子量の大きいカチオン性高分子物質を使用する必要がない。従って、カチオン性物質を含む液体組成物の粘度が増大することがないので、該液体組成物をインクジェット記録ヘッド、特にオンデマンド型のサーマルインクジェット記録ヘッドを使用して被記録媒体に付着させようとした場合に、周波数応答性、安定した吐出体積、安定した吐出速度等の吐出特性に対して有利である。
【0107】
<インクジェット記録方法及び装置>
上記に説明した液体組成物、ブラックインク及びカラーインクを組み合わせてなる本発明のインクセットは、インク滴を記録信号に応じてオリフィスから吐出させて被記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法に好適に用いられるが、特に、熱エネルギーの作用により、インク滴を吐出させて記録を行うインクジェット記録方式にとりわけ好適に用いられる。
【0108】
上記方法は、前記液体組成物を被記録媒体の画像形成領域に付与する過程(A)と、前記ブラック又はカラーインクを被記録媒体の該画像形成領域に付与する過程(B)とを有し、液体組成物とインクとを以って画像を形成する画像形成方法でもある。本発明のインクジェット記録方法にあっては、上記過程(A)と上記過程(B)の順序については特に限定されず、上記過程(A)が行われた直後に上記過程(B)が行われてもよいし、上記過程(B)が行われた後に上記過程(A)が行われてもよい。又、上記過程(A)と上記過程(B)が同時に行われても構わない。
【0109】
本発明のインクセットを用いて好適に記録を行う記録方法としては、記録ヘッド内に収容された各色のインクに記録信号に対応した熱エネルギーを与え、該エネルギーにより液滴を発生させるインクジェット記録方法が挙げられるが、以下にこのようなインクジェット記録方法を適用した本発明のインクジェット記録装置の一例について説明する。
【0110】
先ず、その装置の主要部であるヘッド構成例を、図7、図8及び図9に示す。図7は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図8は、図7のA−B線での断面図である。ヘッド13は、インクを通す溝14を有する、ガラス、セラミック又はプラスチック板等と、感熱記録に用いられる発熱ヘッド15(図では薄膜ヘッドが示されているが、これに限定されるものではない。)とを接着して得られる。発熱ヘッド15は、酸化シリコン等で形成される保護膜16、アルミニウム電極17−1及び17−2、ニクロム等で形成される発熱抵抗体層18、蓄熱層19、及びアルミナ等の放熱性のよい基板20より成っている。
【0111】
インク21は、吐出オリフィス(微細孔)22まで来ており、圧力によりメニスカス23を形成している。今、アルミニウム電極17−1及び17−2に電気信号情報が加わると、発熱ヘッド15のnで示される領域が急激に発熱し、ここに接しているインク21に気泡が発生し、その圧力でメニスカス23が突出し、インク21が吐出しインク小滴24となり、吐出オリフィス22より被記録媒体25に向って飛翔する。
【0112】
図9には、図7に示すヘッドを多数並べたマルチヘッドの外観図を示す。該マルチヘッドは、マルチ溝26を有するガラス板27と、図7で説明したものと同様の発熱ヘッド28を密着して作製されている。
【0113】
図10に、上記ヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。図10において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持されて固定端となり、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、又、本例の場合、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。62は記録ヘッド65の吐出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配設され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、インク吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。更に、63はブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0114】
上記ブレード61、キャップ62及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によってインク吐出口面の水分、塵挨等の除去が行われる。65は吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する被記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は記録ヘッド65を搭載してその移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。
【0115】
51は被記録媒体を挿入するための給紙部、52は不図示のモーターにより駆動する紙送りローラーである。これらの構成によって記録ヘッド65の吐出口面と対向する位置へ被記録媒体が給紙され、記録が進行するにつれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。
【0116】
上記構成において記録ヘッド65が記録終了等でホームポジションに戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。この結果、記録ヘッド65の吐出口面がワイピングされる。尚、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。
【0117】
記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は、上述したワイピング時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。上述の記録ヘッド65のホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッド65が記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0118】
図11は、ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブを介して供給されるインクを収容したインクカートリッジ45の一例を示す図である。ここで、40は供給用インクを収容したインク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能ならしめる。44は廃インクを受容するインク吸収体である。インク収容部としては、インクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが本発明にとって好ましい。
【0119】
本発明のインクジェット記録装置は、上記の如きヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図12に示す如きそれらが一体になったものにも好適に用いられる。図12において、70は記録ユニットであって、この中にはインクを収容したインク収容部、例えば、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが複数のオリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。
【0120】
インク吸収体の材料としては、ポリウレタン、セルロース、ポリビニルアセテート又はポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。72は、記録ユニット内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は、図10で示す記録ヘッドに代えて用いられるものであって、キャリッジ66に対し着脱自在になっている。
【0121】
次に、力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置の好ましい一例としては、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備え、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させるオンデマンドインクジェット記録ヘッドを挙げることができる。その記録装置の主要部である記録ヘッドの構成の一例を図13に示す。
【0122】
ヘッドは、インク室(不図示)に連通したインク流路80と、所望の体積のインク滴を吐出するためのオリフィスプレート81と、インクに直接圧力を作用させる振動板82と、この振動板82に接合され、電気信号により変位する圧電素子83と、オリフィスプレート81、振動板82等を指示固定するための基板84とから構成されている。
【0123】
図13において、インク流路80は、感光性樹脂等で形成され、オリフィスプレート81は、ステンレス、ニッケル等の金属を電鋳やプレス加工による穴あけ等により吐出口85が形成され、振動板82はステンレス、ニッケル、チタン等の金属フィルム及び高弾性樹脂フィルム等で形成され、圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZT等の誘電体材料で形成される。以上のような構成の記録ヘッドは、圧電素子83にパルス状の電圧を与え、歪み応力を発生させ、そのエネルギーが圧電素子83に接合された振動板を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク滴(不図示)をオリフィスプレート81の吐出口85より吐出して記録を行うように動作する。このような記録ヘッドは、図10に示したものと同様なインクジェット記録装置に組み込んで使用される。インクジェット記録装置の細部の動作は、先述と同様に行うもので差しつかえない。
【0124】
【実施例】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例より限定されるものではない。尚、文中「部」又は「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
(顔料分散液1)
比表面積220g/m2でDBP吸油量112ml/100gのカーボンブラック500g、アミノフェニル−2−サルフェトエチル−スルフォン(APSES)45g及び蒸留水900gを反応器に投入し、55℃に保温し、回転数300RPM、20分間攪拌した。この後、25%濃度の亜硝酸ナトリウム40gを15分間滴下し、更に蒸留水50gを加えた。この後、60℃に保温し、2時間反応させた。反応物を蒸留水で希釈しながら取り出し、固形分15%の濃度に調整した。この後遠心分離処理及び不純物を除去する精製処理を行った。この作成した分散液は、カーボンブラックに前述した(APSES)の官能基が結合した分散液となった。この分散液をA1とした。
【0125】
次いで、この分散液中のカーボンブラックに結合した官能基のモル数を求めるために、以下の操作を行った。分散液中のNaイオンをプローブ式ナトリウム電極で測定し、カーボンブラック粉末当りに換算した。次いで、15%濃度の分散液A1をペンタエチレンヘキサミン(PEHA)溶液に強力に攪拌しながら室温に保ち1時間かけて、滴下した。このときのPEHA濃度は、前記測定したNaイオンのモル数の1〜10倍量の濃度で溶液量は分散液A1と同量で行った。更に、この混合物を18〜48時間攪拌し、この後不純物を除去する精製処理を行い、最終的に固形分10%のペンタエチレンヘキサミン(PEHA)が結合した分散液となった。この分散液をB1とした。
【0126】
次に前記得られた10%濃度の分散液B1の500gをスチレン−アクリル酸樹脂を溶解した水溶液に攪拌しながら滴下した。このスチレン−アクリル酸樹脂水溶液は、重量平均分子量15,000、酸価140、多分散度Mw/Mn(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn)1.5のスチレン−アクリル酸190gをとり、1,800gの蒸留水を加え、樹脂を中和するのに必要なNaOHを加え、攪拌して溶解調整したものを使用した。上記滴下混合物をパイレックス(登録商標)蒸発皿に移し、150℃で15時間加熱し、蒸発させた。蒸発乾燥物を室温に冷却した。次いで、この蒸発乾燥物をpH=9.0に調整したNaOH添加蒸留水中に分散機を用いて分散した。更に、攪拌しながら、1.0MのNaOHを添加してpHを10〜11に調整した。この後、脱塩、不純物を除去する精製及び粗大粒子除去を行い、顔料分散液1を得た。顔料分散液1の物性値は以下の通りであった。
固形分10% pH=10.1 平均粒子径130nm
【0127】
(顔料分散液2)
顔料分散液1と同様の作成方法で、顔料分散液2を作成した。この例では、重量平均分子量15,000、酸価140、多分散度Mw/Mn(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn)1.5のスチレン−アクリル酸樹脂の代わりに、重量平均分子量10,000、酸価220、多分散度Mw/Mn(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn)1.6のスチレン−アクリル酸樹脂を用いて、後の操作を前記と同様に行い、顔料分散液2を得た。顔料分散液2の物性値は以下の通りであった。
固形分10.5% pH=9.5 平均粒子径155nm
【0128】
下記表1に記載した成分を混合し、十分攪拌して溶解或いは分散した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過し、本発明の実施例で使用するインクA及びインクBを調製した。又、本発明のインクをそれぞれ、塩析若しくは酸析等を行った後のカーボンブラックを沈殿物ろ過により分取し、ろ過により得られた固形分を純水で十分に洗浄し、洗浄後のカーボンブラック固形物を、60℃のオーブンで一晩程度乾燥させた。
【0129】
このカーボンブラック乾固物を、高分子の良溶媒であるテトラヒドロフラン(THF)を用いてカーボンブラック乾固物の洗浄作業を3回繰り返した。このカーボンブラック乾固物の洗浄後のカーボンブラック乾固物を残存水分や残存溶剤を揮発させるために、真空乾燥機を用い数百Pa以下の真空度で、60℃×3時間程度乾燥させ溶媒洗浄後カーボンブラック乾固物を得た。乾固物を熱重量分析(Thermogravimetric Analysis)等により測定し、熱重量分析重量減少率を求めることができる。
【0130】
上記熱重量分析重量減少率とは、表面改質された顔料の、顔料に対する高分子の含有率である。上記熱重量分析重量減少率は、熱重量分析前の重量に対する、熱重量分析において100℃〜700℃まで昇温した際の重量減少量の割合とし、
A/B×100(%)・・・・・・式(1)
A=熱重量分析において100℃〜700℃まで昇温した際の重量減少量
B=熱重量分析前重量
で表される。
【0131】
上記方法による熱重量分析重量減少率を測定した際、顔料分散液1の熱重量分析データを図5に記した。この洗浄後のカーボンブラック乾固物を熱重量分析により熱重量分析重量減少率を求めることで、表面改質された顔料の、顔料に対する高分子の含有率を求めた。実施例で使用するインクA及びBのそれぞれの表面改質された顔料の、顔料に対する高分子の含有率を熱重量分析重量減少率として記載した。
【0132】
【0133】
(*)ポリアリルアミンは、機能材料、Vol.5,29(1986)に記載の方法に基づき合成を行った。
【0134】
(インクC)
比表面積210g/m2で、DBP吸油量74ml/100gのカーボンブラック7部、酸価200、重量平均分子量10,000のスチレン−アクリル酸共重合体2部、モノエタノールアミン1部、ジエチレングリコール15部、グリセリン10部、純水65部とを混合し、サンドグラインダーを用いて1時間分散させた後、遠心分離処理によって粗大粒子を除去し、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過し、インクCを得た。前記分析方法に従って行った熱重量分析重量減少率は下記表2の通りであった。
【0135】
又、インクCの熱重量分析重量減少率を測定した際の、熱重量分析データを図6に記した。
【0136】
実施例1〜2及び比較例1〜3
以上のインクA〜C及び液体組成物1、及び記録信号に応じて熱エネルギーをインクに付与することにより、インクを吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置BJ−F870(改造機、キヤノン製)を用いてインクジェット記録を行った。該インクジェット記録は、BJ−F870のブラックタンク挿入部に、液体組成物1を充填したインクタンクを挿入し、ホトシアン、ホトマゼンタタンク挿入部に上記ブラックインクA〜Cを注入したインクタンクを1つずつ計2タンク挿入し、他のシアンタンク、マゼンタタンク、イエロータンクの挿入部にはBJ−F870の純正のインクタンクをそのまま挿入して行った。印字方法は、BJ−F870を用い、ヘッドのノズル幅分の印字をホームポジションから反ホームポジションへのスキャン時のみ印字を行う、1スキャン片方向印字で行った。
【0137】
液体組成物1の被記録媒体への付与は、上記両ブラックタンク挿入部に、液体組成物1を充填したインクタンクを挿入したヘッドで付与した。又、液体組成物1の被記録媒体への付与量は、1スキャン片方向印字で1/600inch×1/600inchを1ピクセルとし(以後1ピクセルは、1/600inch×1/600inchとする)、1つの記録ヘッドによる液体組成物1の付与量を1ピクセル当たり最大4ドットとし、付与量を1ピクセル当たり3ドット、2ドット、1ドット及び、0ドットとし、液体組成物1の付与量を1ピクセル当たり0から4ドットまで5段階で付与量の調節を可能とした。
【0138】
次に前記のインクA〜Cの被記録媒体への付与は、ホトシアン、ホトマゼンタタンク挿入部に上記のブラックインクA〜Cを注入したインクタンクを搭載した2つのヘッドで付与した。又、ブラックインクA〜Cの被記録媒体の付与量は、2つのヘッドを用いることで1スキャン片方向印字で1ピクセル当たり最大8ドット付与できるように調整し、2つ記録ヘッドを用いることで1ピクセル当たり0ドットから最大8ドットまで9段階で付与量の調節を可能とした。尚、各記録ヘッドにおける各液体組成物1及びインクの1ドット当たりの吐出体積は約5plである。
【0139】
1.印字持続性
前記液体組成物1とインクA〜Cと前記インクジェット記録装置を用い、二つのブラックヘッドのどちらか一方を使用し、1ピクセル当たり100%dutyの印字でノズルチェックパターンが最初に入っているべた印字を連続してA4用紙3枚印字を行い、次にその後2時間印字を行わず、その後再びべた印字を連続して3枚印字するサイクルを10回繰り返した。そのときの印字みだれ、及び不吐出の有無を下記の基準で評価した。
○:印字みだれ及び不吐出がみられない。
△:印字みだれが若干みられるが、不吐出はみられない。
×:印字みだれ、不吐出がみられる。
【0140】
2.文字品位
前記液体組成物1とインクA〜Cを上記インクジェット記録装置を用い、液体組成物1の付与を1ピクセル当たり1ドットに対し液体組成物1の付与部とそれぞれ接するように二つのブラックインクタンク搭載ヘッドの片方のみを用い、付与量1ピクセル当たり4ドット付与するように印字し、下記5種類のコピー用普通紙A、B、C、D及びEに文字印字及び1cm×1cmの大きさのベタ印字を行い、そのときの文字の滲みと印字濃度を測定し、下記の基準で評価した。印字濃度は、マクベス社製マクベス濃度計RD−918を用いてベタ部の印字濃度を測定した。
○:5紙とも滲みが殆どなく、5紙平均の印字濃度が1.5以上
△:多少滲む紙がみられる、5紙中少なくとも1紙の印字濃度が1.5以上
×:5紙全ての印字濃度が1.5未満。
【0141】
尚、コピー用紙は以下に示すものを用いた。
A:キヤノン(株)社製 PPC用紙NSK
B:キヤノン(株)社製 PPC用紙NDK
C:ゼロックス(株)社製 PPC用紙4024
D:フォックスリバー(株)社製 PPC用紙プローバーボンド
E:ノイジドラ(株)社製 キヤノン用PPC用紙
【0142】
3.耐擦過性
前記液体組成物1とインクA〜Cとを文字品位の記録条件と同様の条件で被記録媒体A、B、C、D及びEに文字の印字を行い1日放置した後、被印字部を指で強めに擦り、画像の劣化、白紙部への汚れを目視にて評価した。
○:全ての紙で汚れが目立たない。
△:一部の紙で汚れが目立つ。
×:全ての紙で汚れが目立つ。
【0143】
4.ブリード
液体組成物1とイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色のベタ部を隣接して印字し、各色の境界部でのブリーディングの程度を目視により観察した。尚、印字方法は上記インクジェット記録装置を用い、液体組成物1の付与を1ピクセル当たり1ドットに対し液体組成物1の付与部とそれぞれ接するように2つのブラックインクタンク搭載ヘッドの片方のみを用い、付与量1ピクセル当たり4ドット付与するように印字し、カラーインクも1ピクセルあたり4ドット付与するように印字した。前記5種類のコピー用普通紙においてブリーディングが殆ど発生しないものを◎とし、ややブリーディングが発生するが、実質上問題無いレベルであるものを○とし、それ以外のレベルのものは×とした。上記評価方法にて、液体組成物1とインクA〜Cとの組み合わせを表3に記す。又、実施例1〜2及び比較例1〜3の評価項目1〜4の評価結果を表4に記す。
【0144】
【0145】
【0146】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、記録ヘッドに対する信頼性に優れ、又、ブリーディングがなく、印字濃度の高い、且つ印字品位に優れた高品位の画像を得ることができ、更には定着性や耐擦過性の優れたインクジェット用インクセット、インクジェット記録方法及びインクジェット記録機器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】樹脂分散タイプのインクを酸析した後洗浄乾固させた試料について熱重量分析を行った結果を示す図ある。
【図2】樹脂分散タイプのインクを酸析した後洗浄乾固させ、更にTHFを用いて溶媒抽出した後の試料について熱重量分析を行った結果を示す図である。
【図3】本発明で使用するインクを酸析した後洗浄乾固させた試料について熱重量分析を行った結果を示す図である。
【図4】本発明で使用するインクを酸析した後洗浄乾固させ、更にTHFを用いて溶媒抽出した後の試料について熱重量分析を行った結果を示す図である。
【図5】実施例1における顔料分散液1の熱重量分析データを示す図である。
【図6】インクCの熱重量分析データを示す図である。
【図7】インクジェット記録装置ヘッドの縦断面図である。
【図8】インクジェット記録装置ヘッドの縦横面図である。
【図9】図7に示したヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図である。
【図10】インクジェット記録装置の一例を示す斜視図である。
【図11】インクカートリッジの縦断面図である。
【図12】記録ユニットの一例を示す斜視図である。
【図13】記録ヘッドの構成の一例を示す図である。
【符号の説明】
13:ヘッド
14:インク溝
15:発熱ヘッド
16:保護膜
17−1、17−2:電極
18:発熱抵抗体層
19:蓄熱層
20:基板
21:インク
22:吐出オリフィス(微細孔)
23:メニスカス
24:インク滴
25:被記録媒体
26:マルチ溝
27:ガラス板
28:発熱ヘッド
40:インク袋
42:栓
44:インク吸収体
45:インクカートリッジ
51:紙給部
52:紙送りローラー
53:排紙ローラー
61:ブレード
62:キャップ
63:インク吸収体
64:吐出回復部
65:記録ヘッド
66:キャリッジ
67:ガイド軸
68:モーター
69:ベルト
70:記録ユニット
71:ヘッド部
72:大気連通口
80:インク流路
81:オリフィスプレート
82:振動板
83:圧電素子
84:基板
85:吐出口
Claims (1)
- GPCを使用して測定した分子量分布のピークを分子量の異なる2つの領域に少なくとも1つずつ有する有機カチオン性物質を少なくとも含む液体組成物と、少なくとも水と水溶性有機溶剤とを含む液媒体中に着色剤を溶解若しくは分散してなる少なくとも1色のインクとからなるインクセットであって、
上記インクセットのインクのうち少なくとも1色のインクは、顔料粒子の表面に有機基が化学的に結合している改質顔料と、該顔料の分散媒としての水性媒体とを含む水性インクであって、
上記有機基は、顔料表面に化学的に結合している官能基と、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体との反応物を含んでいることを特徴とするインクジェット用インクセット。
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