JP2004149666A - 水性インク - Google Patents
水性インク Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004149666A JP2004149666A JP2002316307A JP2002316307A JP2004149666A JP 2004149666 A JP2004149666 A JP 2004149666A JP 2002316307 A JP2002316307 A JP 2002316307A JP 2002316307 A JP2002316307 A JP 2002316307A JP 2004149666 A JP2004149666 A JP 2004149666A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- ink
- pigment
- copolymer
- recording
- carbon black
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Withdrawn
Links
Images
Landscapes
- Inks, Pencil-Leads, Or Crayons (AREA)
- Ink Jet (AREA)
Abstract
【課題】形成される画像の画像濃度が高く、又インクを吐出させるノズル部の近傍を撥水させることにより、ヨレ等のインクの吐出不良を防止するメカニズムを有するヘッド部である場合におけるノズル部近傍の撥水性の低下等がない水性インク等を提供すること。
【解決手段】顔料粒子の表面に有機基が結合している改質された顔料と、水性媒体と、を含有している水性インクであって、
該有機基は、顔料表面に直接もしくは他の原子団を介して化学的に結合している官能基と、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体と、の反応物を含み、かつ該水性インクは更に、アルカリ金属のイオン、アンモニウムイオン及び有機アンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1つのイオンを含有していることを特徴とする。
【選択図】 なし
【解決手段】顔料粒子の表面に有機基が結合している改質された顔料と、水性媒体と、を含有している水性インクであって、
該有機基は、顔料表面に直接もしくは他の原子団を介して化学的に結合している官能基と、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体と、の反応物を含み、かつ該水性インクは更に、アルカリ金属のイオン、アンモニウムイオン及び有機アンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1つのイオンを含有していることを特徴とする。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水性ボールペン、万年筆、水性サインペン等の筆記具や、サーマルジェット方式やピエゾ方式等のオンデマンドタイプのインクジェットプリンタ用に好適に使用できるインク(記録液)、インクセット、インクカートリッジ、記録ユニット、画像記録装置及びインクジェット記録方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、優れた発色性や安定性を求められるインクの色材として染料が利用されてきている。しかし、染料は上記長所を有しているものの、形成される画像の耐水性、耐光性等の問題を有しており、改善が要求されている。近年、これらの問題点を改良するために、染料の代わりに有機顔料やカーボンブラックを用いたインクが数多く提案されている。
【0003】
しかしながら、染料の代わりに有機顔料やカーボンブラックを用いたところで、形成される画像の耐擦過性(例えば、指で擦る、マーカーペンを使用する等した場合に擦れや滲みを起こさない性質)は不十分なままである。この問題を解決するために、樹脂結合タイプの自己分散性顔料等が提案されている(例えば、特許文献1参照)。これは、インクジェット記録法において用いられる液媒体と着色剤成分とを含有する記録媒体液であって、前記着色剤成分として、顔料表面の官能基と反応し得る反応性基を有するセグメント(A)と、前記反応性基を実質的に有さずかつ前記セグメント(A)よりも液媒体に対し高い親和性を示すセグメント(B)とを有する重合体を、顔料と加熱して得られる顔料複合ポリマーを含有することを特徴とする記録媒体液であるが、この発明においては、顔料表面に反応する重合体として特定の官能基が必要であり、使用できる重合体が限定される。また、顔料表面にも重合体と反応可能な官能基が必須であり、使用できる顔料の種類も限定されてしまう。また、製造上の問題として、顔料表面と反応性基を有さないセグメントにイオン性を持たせることは難しく、イオン性を有する水分散体をえることは難しいという問題がある。
【0004】
また、複数の分子を用いた樹脂結合タイプの自己分散性顔料も知られている(例えば、特許文献2参照)。この樹脂結合タイプの自己分散性顔料は、イオン性を有する水性顔料分散が可能である。これらの樹脂結合タイプの自己分散性顔料を用いることにより、インクの記録ヘッドに対する信頼性は確保できたものの印字後の耐さっか性、耐マーカー性については改善の余地があった。
【0005】
【特許文献1】
特開平9−272831公報
【特許文献2】
国際公開第01/51566号パンフレット
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、樹脂結合タイプの自己分散性顔料について種々の検討を行った。その結果、このようなインクにより形成された画像は、確かに耐光性等の画像堅牢性を維持したまま耐擦過性や耐マーカー性が向上しているものの、樹脂結合タイプの自己分散性顔料の種類等によっては、印字濃度(OD)の低下や、インクを吐出させるノズル部の近傍を撥水させることにより、ヨレ等のインクの吐出不良を防止するメカニズムを有するヘッド部である場合におけるノズル部近傍の撥水性の低下等が起こることが判明した。
【0007】
又、例えば、上記のように樹脂結合タイプの自己分散性顔料を含むインクを用いて、イエロー、マゼンタ、シアン等とのインクセットとしてカラー画像の印字を行なった場合、記録媒体上で異なる色間の境界において色が滲んだり、インクが不均一に混合され、画像の品位が低下する現象(以降、「ブリーディング」と称する)が認められることがあった。
【0008】
このようなブリーディングについては、所謂界面活性剤の添加によってインクの記録媒体中への浸透性を向上させるアイデア(例えば、特開昭55−65269号公報等)や、インクの液媒体として揮発性溶剤を主体として用いるアイデア(例えば、特開昭55−66976号公報)等が提案されている。しかし、これらの先行技術についても画像濃度の低下、インクの吐出安定性の低下をもたらすことがあった。本発明者らはこれらを鑑みて、単独若しくは他のカラーインクと共に用いた場合に、形成される画像の画像濃度及びインクの発色性が向上し、且つブリーディングを有効に抑えることのできるインクを開発することが必要であることを認識した。
【0009】
即ち、本発明の目的は、優れた耐さっか性、耐マーカー性を有すると共に高い画像濃度の画像を形成し、又、インクを吐出させるノズル部の近傍を撥水させることにより、ヨレ等のインクの吐出不良を防止するメカニズムを有するヘッド部である場合におけるノズル部近傍の撥水性の低下等がない水性インクを提供することにある。又、本発明の他の目的は、上記水性インクを使用した、ブリーディングを有効に抑えることのできるインクセットを提供することにある。又、本発明の他の目的は、高画像濃度及び高発色性な画像を安定して形成できる画像形成装置、インクジェット記録方法及びそれらに用いられるインクカートリッジ及び記録ユニットを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。
【0011】
(実施態様1)
即ち、本発明の第1の実施態様にかかる水性インクは、顔料粒子の表面に有機基が結合している改質された顔料と、水性媒体と、を含有している水性インクであって、
該有機基は、顔料表面に直接もしくは他の原子団を介して化学的に結合している官能基と、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体と、の反応物を含み、かつ該水性インクは更に、アルカリ金属のイオン、アンモニウムイオン及び有機アンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1つのイオンを含有していることを特徴とする水性インクを提供する。
【0012】
また本発明にかかる実施態様を以下に列挙する。
【0013】
(実施態様2)
上記水性インクにおいて、顔料表面に化学結合していない前記共重合体を含むセグメントが前記インク中に存在しているときに、上記セグメントの、上記セグメントと前記反応物との総量に対する割合が50質量%未満であるものである実施態様1に記載の水性インク。
【0014】
(実施態様3)
本発明にかかる水性インクにおいて、前記セグメントの、前記セグメントと前記反応物との総量に対する割合が35質量%未満のものである実施態様2に記載の水性インク。
【0015】
(実施態様4)
前記他の原子団が、フェニル(2−スルホエチル)基である実施態様1に記載の水性インク。
【0016】
(実施態様5)
前記共重合体の多分散度Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)が、3以下である実施態様1の水性インク。
【0017】
(実施態様6)
前記顔料が、カーボンブラックである実施態様1に記載の水性インク。
【0018】
(実施態様7)
前記共重合体のMwが1,000〜20,000であり、且つ酸価若しくはアミン価が100〜500である実施態様1記載の水性インク。
【0019】
(実施態様8)
ブリストウ法によって求められる前記インクのKa値が1.5(ml/m2/msec1/2)未満である実施態様1記載の水性インク。
【0020】
(実施態様9)
前記アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン及び有機アンモニウムイオンの総量が、該有機基中のイオン性基の量よりも多い実施態様1〜8のいずれかに記載の水性インク。
【0021】
(実施態様10)
インクジェット記録用である実施態様1〜9のいずれかに記載の水性インク。
【0022】
(実施態様11)
前記実施態様10に記載の水性インクをインクジェット法で吐出する工程を有することを特徴とするインクジェット記録方法。
【0023】
(実施態様12)
前記実施態様1〜11の何れかに記載の水性インクを収容しているインク収容部を有しているインクカートリッジ。
【0024】
(実施態様13)
前記実施態様10に記載の水性インクを収容しているインク収容部と、該インクを該インクを吐出させるためのインクジェットヘッドとを具備していることを特徴とする記録ユニット。
【0025】
(実施態様14)
前記実施態様10に記載の水性インクを収容しているインク収容部と、該インクを吐出させるためのインクジェットヘッドとを具備していることを特徴とするインクジェット記録装置。
【0026】
(実施態様15)
記録媒体上にインクジェット法によって形成されてなる画像内の、互いに隣接している2つの色の異なる第1の領域と第2の領域との境界におけるブリードを緩和する方法であって、
該第1の領域は、第1の水性インクにより形成され、該第2の領域は、第2の水性インクにより形成されるものであり、
該第1のインク及び該第2のインクの少なくとも一方が、上記実施態様10に記載の水性インクであることを特徴とするブリード緩和方法。
【0027】
【発明の実施の形態】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明にかかる水性インクは、顔料粒子の表面に有機基が結合している改質された顔料と、水性媒体と、を含有し、該有機基は、顔料表面に直接もしくは他の原子団を介して化学的に結合している官能基と、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体と、の反応物を含み、かつ該水性インクは更に、アルカリ金属のイオン、アンモニウムイオン及び有機アンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1つのイオンを含有していることを特徴とする。
【0028】
[顔料]
本発明の水性顔料インクにおいて使用することのできる顔料としては、特に限定されず、下記に挙げるようなものが使用可能である。そして、これらの顔料を後述する方法で改質して用いるが、本発明では、改質された顔料の、水性インク全質量に対する割合が、0.1〜15質量%、更には1〜10質量%となるようにすることが好ましい。
【0029】
黒色インクに使用される顔料としては、カーボンブラックが好適である。例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックを何れも使用することができる。具体的には、例えば、レイヴァン(Raven)7000、レイヴァン5750、レイヴァン5250、レイヴァン5000ULTRA、レイヴァン3500、レイヴァン2000、レイヴァン1500、レイヴァン1250、レイヴァン1200、レイヴァン1190ULTRA−II、レイヴァン1170、レイヴァン1255(以上、コロンビア社製)、ブラックパールズ(Black Pearls)L、リーガル(Regal)400R、リーガル330R、リーガル660R、モウグル(Mogul)L、モナク(Monarch)700、モナク800、モナク880、モナク900、モナク1000、モナク1100、モナク1300、モナク1400、モナク2000、ヴァルカン(Valcan)XC−72R(以上、キャボット社製)、カラーブラック(Color Black)FW1、カラーブラックFW2、カラーブラックFW2V、カラーブラックFW18、カラーブラックFW200、カラーブラックS150、カラーブラックS160、カラーブラックS170、プリンテックス(Printex)35、プリンテックスU、プリンテックスV、プリンテックス140U、プリンテックス140V、スペシャルブラック(Special Black)6、スペシャルブラック5、スペシャルブラック4A、スペシャルブラック4(以上、デグッサ社製)、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上、三菱化学社製)等の市販品を使用することができる。又、本発明のために別途新たに調製されたカーボンブラックを使用することもできる。しかし、本発明は、これらに限定されるものではなく、従来公知のカーボンブラックを何れも使用することができる。又、カーボンブラックに限定されず、マグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子や、チタンブラック等を黒色顔料として用いてもよい。
【0030】
有機顔料としては、具体的には、例えば、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料、イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロンエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料、チオインジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、チオインジゴ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、キノフタロンエロー、ニッケルアゾエロー、銅アゾメチンエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等が挙げられる。勿論、これに限定されず、その他の有機顔料であってもよい。
【0031】
又、本発明で使用することのできる有機顔料を、カラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、例えば、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、97、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、150、151、153、154、166、168、180、185、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、71、C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、C.I.ピグメントブラウン23、25、26等が例示できる。
【0032】
[官能基]
本発明にかかる水性インク中の顔料において官能基は、顔料表面に直接、若しくは他の原子団を介して化学的に結合している。該官能基は、後述する共重合体との反応によって有機基を構成するためのものであり、ここで官能基の種類は、該共重合体が担持している官能基との関連において選択される。そして、官能基と共重合体との反応は、当該顔料が水性媒体中に分散されるものであることを考慮すると、加水分解等を生じることのない結合、例えばアミド結合等を生じるような反応とすることが好ましい。該官能基をアミノ基とし、共重合体にカルボキシル基を担持させることによって、共重合体を、顔料粒子表面にアミド結合を介して導入することができる。また、官能基をカルボキシル基とし、共重合体にアミノ基を担持させることによっても同様に共重合体を顔料粒子表面にアミド結合を介して導入することができる。
【0033】
ここで、顔料表面に化学的に結合されている官能基は、直接、顔料表面に結合していてもよく、また他の原子団を介して結合していてもよい。しかし、比較的分子量の大きな共重合体を顔料表面に導入する場合、共重合体同士の立体障害を避けるために、他の原子団を介して官能基を顔料表面に導入することが好ましい。ここで、他の原子団は、多価の元素や有機基であれば特に限定されるものでない。しかし、上記した理由により官能基の顔料表面からの距離を制御するという観点から、例えば2価の有機残基が好ましく用いられる。2価の有機残基の例は、アルキレン基やアリーレン基(フェニレン基)等を包含する。
【0034】
より具体的に述べると、例えば後述する実施例においては、顔料をアミノフェニル(2−スルホエチル)スルホンと反応させて、顔料表面にアミノフェニル(2−スルホエチル)スルホン基を導入し、その後、ペンタエチレンヘキサミンのアミノ基とアミノフェニル(2−スルホエチル)スルホン基とを反応させることにより、官能基としてのアミノ基を導入している。この場合には、アミノ基は、フェニル(2−スルホエチル)基を含む原子団を介して顔料表面に化学的に結合している、ということができる。ところで、本発明に係る水性インクによる効果としては、以下のことが挙げられる。
【0035】
先ず、第1の効果としては、本発明にかかる顔料は、その表面に直接もしくは他の原子団を介して化学的に結合されている官能基と、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体と、の反応物を含むので、表面を改質する場合に用いられる共重合体の形成材料であるイオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合比率を適宜に変化させることができ、これにより、改質された顔料の親水性を適宜に調整することが可能である。又、使用するイオン性モノマー及び疎水性モノマーの種類や、両者の組み合わせを変化させることができるため、顔料表面に様々な特性を付与できる。更に、インク化する際に、このような顔料と組み合わせて使用する溶媒の選択によって、インクとしての特性のコントロールも可能になる。
【0036】
又、第2の効果としては、本発明者らの検討によれば、顔料表面に結合している共重合体中に疎水性モノマーを用いると、インクの印字汚れ耐マーカー性が向上することがわかった。以下、この耐マーカー性の向上の理由について説明する。
【0037】
先ず、顔料の表面改質に親水性の高分子を用いると、記録媒体への定着後、紙面上で、顔料粒子表面の高分子の絡まり合いが生じ、これによって顔料の凝集力が強くなり、この結果、インクの印字汚れ耐擦過性(耐擦れ性)は向上する。しかしながら、水溶性のマーカーペンで印字面を擦った場合には、顔料表面に存在するものが親水性であるために、マーカーペン中の水や、水性有機溶剤によって、顔料粒子表面の親水性高分子が再溶解してしまうため、マーカーペンの擦れと共に顔料粒子が解けるように流れ出し、その結果、印字汚れ耐マーカー性が発現しにくくなると考えられる。
【0038】
これに対して、本発明で使用する顔料は、顔料表面に化学的に結合している、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体を含む有機基を有するため、先ず、記録媒体への印字後、紙面上で顔料粒子表面の共重合体の絡まり合いにより顔料の凝集力が強くなって、インク定着後の印字汚れ耐擦過性が向上する。この点では、上記の親水性の高分子による表面改質顔料を使用したインクの場合と同様である。しかしながら、該有機基は、イオン性モノマーと疎水性モノマーの共重合体を有しているため、インクの定着の過程において、インク中の水及び有機溶剤が乾燥もしくは浸透していく際に、顔料表面の高分子が絡まり合うだけでなく、印字物の最表面に、顔料表面に結合している共重合体の疎水部が外側を向くように配向すると考えられる。このため、印字物の最外表面に、共重合体の疎水部が配向することになり、印字物の表面は疎水性になる。この結果、水溶性のマーカーペンで印字面を擦った際にも、マーカーペンのインク中の水や有機溶剤に顔料粒子が再溶解し難くなり、マーカーペンの擦れによる顔料粒子の流れ出しを抑制することができる。
【0039】
[共重合体]
上記イオン性モノマーと疎水性モノマーからなる共重合体としては、例えばアニオン性を有するアニオン性の共重合体、或いはカチオン性を有するカチオン性の共重合体が好適に用いられる。
【0040】
上記アニオン性の共重合体としては、疎水性モノマーと、アニオン性モノマーからなる共重合体、或いは、これらの塩等が挙げられる。この際に使用する代表的な疎水性モノマーとしては、次に挙げるモノマーがあるが、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、スチレン、ビニルナフタレン、メチルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、メタクリロニトリル、2−トリメチルシロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、p−トリルメタクリレート、ソルビルメタクリレート、メチルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、アクリロニトリル、2−トリメチルシロキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、p−トリルアクリレート及びソルビルアクリレート等である。
【0041】
上記において使用するアニオン性モノマーとしては、次に挙げるモノマーがあるが、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等が挙げられる。
【0042】
本発明にかかる共重合体の一態様としての、アニオン性モノマーと疎水性モノマーと、からなるアニオン性の共重合体としては、上記に挙げた疎水性モノマーから選択された何れかと、上記に挙げたアニオン性モノマーから選択された少なくとも1つとの、少なくとも2つ以上のモノマーからなる。該共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、或いは、これらの塩等を包含する。
【0043】
かかるアニオン性の共重合体の酸価としては、100〜500の範囲のものが好ましく、且つ、酸価のばらつきが平均酸価の20%以内であるものを使用することが好ましい。酸価をかかる範囲内とすることによって、顔料表面の親水性が高過ぎて、印字後におけるインク中の水及び溶剤が顔料表面にとどまり、記録媒体への印字後における、インクの耐マーカー性の発現が遅くなることを有効に抑制することができる。又、顔料の表面の親水性が低過ぎてしまい、インク中に顔料が安定に分散しにくくなるといったことも有効に抑制することができる。
【0044】
尚、前記した塩とは、ナトリウム、リチウム、カリウム等のアルカリ金属塩の他、アンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルカノールアミン塩等が挙げられ、これらを、単独或いは数種類を適宜に組み合わせて使用できる。
【0045】
上記したアニオン性の共重合体セグメントの重量平均分子量(Mw)は、重量平均分子量が1,000〜20,000の範囲のものであることが好ましく、更に好ましくは、3,000〜20,000の範囲のものを使用するとよい。更に、共重合体の多分散度Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)が、3以下であることが好ましい。又、アニオン性の共重合体セグメントの含有量は、表面改質された顔料に対するアニオン性の共重合体の含有率が5質量%以上、40質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、10質量%以上、25質量%以下の割合で使用される。共重合体の含有率をこの範囲内とすることで、インクの高粘度化の抑制と分散安定性とを高いレベルで両立させることができる。
【0046】
又、共重合体の多分散度については、共重合体の分子量分布が広くなると、先に述べた共重合体の分子量に基づく性質が発現しにくくなるため、共重合体の分子量分布は、揃っている方が好ましい。
【0047】
次に、本発明にかかる共重合体の他の実施態様としての、カチオン性モノマーと疎水性モノマーとからなるカチオン性の共重合体について説明する。カチオン性の共重合体としては、下記に挙げる疎水性モノマーと、カチオン性モノマーとからなる共重合体、或いは、これらの塩等が挙げられる。代表的な疎水性モノマーとしては、次に挙げるモノマーがあるが、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、スチレン、ビニルナフタレン、メチルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、メタクリロニトリル、2−トリメチルシロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、p−トリルメタクリレート、ソルビルメタクリレート、メチルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、アクリロニトリル、2−トリメチルシロキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、p−トリルアクリレート及びソルビルアクリレート等を使用することができる。
【0048】
カチオン性モノマーとしては、次に挙げるモノマーがあるが、本発明は、これらに限定されるものではない。具体的には、例えば、アリルアミン、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、第3−ブチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N−ビニルカルバゾール、メタクリルアミド、アクリルアミド及びジメチルアクリルアミド等を使用することができる。
【0049】
カチオン性の共重合体は、上記モノマーから選ばれた疎水性モノマーと、カチオン性モノマーとを含む少なくとも2つ以上のモノマーからなるブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、或いはこれらの塩等が挙げられる。特に、カチオン性の共重合体のアミン価が100〜500の範囲のものが好ましく、又、アミン価のばらつきが平均アミン価の20%以内であることが好ましい。アミン価とは、試料1gを中和するのに要する塩酸に当量の、KOHのmg数で表す。
【0050】
尚、前記、塩とは、酢酸、塩酸、硝酸等が挙げられ、これらを単独或いは数種類を適宜に組み合わせて使用できる。
【0051】
上記カチオン性の共重合体は、その重量平均分子量(Mw)が、1,000〜20,000の範囲のものを好ましく使用でき、更に好ましくは、3,000〜20,000の範囲のものが好ましく使用できる。又、カチオン性の共重合体セグメントの多分散度Mw/Mn(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn)が、3以下であるものを使用することが好ましい。このようなカチオン性の共重合体のインク中における含有量は、該共重合体によって表面改質された顔料粒子に対して、その含有率が5質量%以上40質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、カチオン性の共重合体の含有率が、10質量%以上25質量%以下の割合となるようにする。共重合体の含有率をこの範囲内とすることで、インクの高粘度化の抑制と分散安定性とを高いレベルで両立させることができる。
【0052】
又、共重合体の多分散度については、多分散度が大きい場合には、共重合体の分子量分布が広くなり、共重合体の分子量に基づく上記で述べた性質が発現しにくくなるため、共重合体の分子量分布は、揃っている方が好ましい。
【0053】
次に、カーボンブラックを例に挙げて、顔料粒子表面に化学的に有機基を結合させて、顔料を改質する方法について説明する。本発明においては、先ず、顔料粒子表面の官能基、或いは顔料粒子表面に官能基を導入し、これらの官能基に、イオン性モノマーと疎水性モノマーとからなる共重合体を結合させ、該共重合体を顔料粒子表面に化学的に結合させる方法であれば、通常用いられる何れの方法でもよく、特に限定されない。このような方法としては、例えば、以下の方法等を用いることができる。
【0054】
カーボンブラック等の顔料粒子表面に、ポリエチレンイミン等を導入し、その末端官能基に、アミノ基を有する、イオン性モノマーと疎水性モノマーとからなる共重合体をジアゾニウム反応で結合させる方法や、カーボンブラック等の顔料粒子表面に、分子内にアミノ基とカルボキシル基を有する共重合体をジアゾニウム反応で結合させる方法等の方法を用いることができる。この他のものとしては、最も典型的な例が、WO 01/51566 A1に開示されている。
【0055】
上記した方法において、例えば、アニオン性の共重合体を、カーボンブラック粒子表面に化学的に結合させる場合には、下記の3工程を含むこととなる。
第1工程;カーボンブラックにジアゾニウム反応で、アミノフェニル(2−スルホエチル)スルホン基(APSES)を付加させる工程。
第2工程;APSES処理をしたカーボンブラックに、ポリエチレンイミンやペンタエチレンヘキサミン(PEHA)を付加させる工程。
第3工程;疎水性モノマーとカルボキシル基を有するイオン性モノマーとの共重合体をつける工程。
【0056】
上記第2の工程では、第1の工程によってカーボンブラック表面に化学的に結合しているフェニル(2−スルホエチル)スルホン基とポリエチレンイミンやペンタエチレンヘキサミン(PEHA)のアミノ基とを反応させることによって、カーボンブラック表面に化学的に結合してなる官能基としてのアミノ基が導入される。そして第3の工程においては、例えば共重合体のイオン性モノマー部分が有するカルボキシル基の一部をアミノ基と反応させてアミド結合を形成させることによって、共重合体をカーボンブラックの表面に、APSESの残基であるフェニル(2−スルホエチル)基とPEHAの残基とを含む原子団を介して共重合体が導入できる。
【0057】
又、上記した方法において、例えば、カチオン性の共重合体を、カーボンブラック粒子表面に化学的に結合させる場合には、下記の2工程を含むこととなる。第1工程;カーボンブラックにジアゾニウム反応でアミノフェニル(2−スルホエチル)スルホン基(APSES)を付加させる工程。
第2工程;疎水性モノマーとカチオン性モノマーとの共重合体をつける工程。
上記第1の工程によって、カーボンブラック表面に化学的に結合してなる官能基としてスルホン基が導入される。そして第2の工程においては、例えば、共重合体のイオン性モノマー部分が有するアミノ基の一部をスルホン基と反応させて(求核置換)、共重合体をカーボンブラックの表面に、APSESの残基であるフェニル(2−スルホエチル)基を含む原子団を介して共重合体が導入できる。
【0058】
[フリーポリマーの存在]
ところで、本発明は、顔料表面に化学結合していない、前記共重合体を含むセグメント(以降「フリーポリマー」と称し、これには、顔料表面に物理吸着しているセグメントも包含する)がインク中に存在することを排除するものではない。しかし、フリーポリマーは、本発明に係る水性インクのインクジェット特性のより一層の向上という観点から、その量は制御されることが好ましい。具体的には、上記フリーポリマーと、顔料表面に結合している有機基との総質量を基準として、上記フリーポリマーの割合を50質量%未満、特には35質量%未満、更には20質量%未満とすることが好ましい。
【0059】
フリーポリマーを多く含むインクをインクジェット記録に用いた場合には、記録ヘッドの吐出口周りのオリフィス等にフリーな有機基が付着し、吐出口周りに不均一なぬれを生じ、インクの吐出が不規則になって吐出方向曲がりが発生し、インクの着弾点がずれるといった問題が生じることがある。又、更に、連続印字を継続すると、ノズルからインクが溢れながら吐出を繰り返していくうちに、ノズル近傍のオリフィス面にインクが付着するようになり、そのノズル近傍のインクの付着部を核として大きなインク溜りがオリフィス上に形成されることがある。この状態で、更に印字を続けた場合には、吐出すべきインクがオリフィス上のインク溜りに引き込まれ、吐出不可能になるといったヌレ不吐と呼ばれる問題が生じることがある。
【0060】
そして、記録ヘッドに対するインクの信頼性において有効な範囲は、顔料粒子表面に化学的に結合している有機基の、該有機基と該フリーポリマーとの総和に占める割合が、50%以上であることが好ましく、より好ましくは65%以上、更には、80%以上であることが好ましい。尚、この値は、後述するような方法によってインク中から取り出した乾固物試料を用い、該試料に対する熱重量分析方法等によって求めることができる。
【0061】
[水性媒体]
上記で説明したようにして得られる、該共重合体を含む有機基を顔料表面に化学的に結合させてなる顔料の分散媒である水性媒体について、以下に説明する。本発明で使用することのできる水性媒体の例としては、例えば、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、インクの乾燥防止効果を有するものが特に好ましい。
【0062】
具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。上記の如き水溶性有機溶剤は、単独でも或いは混合物としても使用することができる。又、水としては、脱イオン水を使用することが望ましい。
【0063】
本発明にかかるインク中に含有される上記に挙げたような水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されないが、インク全質量に対して、好ましくは3〜50質量%の範囲が好適である。又、インクに含有される水の量は、インク全質量に対して好ましくは50〜95質量%の範囲とすることが好ましい。
【0064】
又、インクの保湿性維持のために、その他、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の保湿性固形分をインク成分として用いてもよい。尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン等の、保湿性固形分のインク中の含有量は、一般には、インクに対して0.1〜20.0質量%の範囲が好ましく、より好ましくは3.0〜10.0質量%の範囲である。
【0065】
更に、本発明にかかるインクには、上記成分以外にも必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤等の、種々の添加剤を含有させてもよい。
【0066】
特に、本発明においては、下記に挙げる構造式(1)〜(4)で表される界面活性剤の何れかを、インク中に含有させることが好ましい。
【0067】
【外1】
(但し、上記構造式(1)中、Rはアルキルを表し、nは整数を表す。)
【0068】
【外2】
(但し、上記構造式(2)中、Rはアルキル基を表し、nは整数を表す。)
【0069】
【外3】
(但し、上記構造式(3)中、Rは水素原子又はアルキル基を表し、m及びnは、夫々整数を表す。)
【0070】
【外4】
(但し、上記構造式(4)中、m及びnは、夫々整数を表す。)
【0071】
上記したような構成を有する本発明にかかるインクは、筆記具用インクや、インクジェット用インクに用いることができる。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させ、液滴を吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡により液滴を吐出するバブルジェット(登録商標)記録方法があるが、本発明のインクは、これらの記録方法に特に好適である。
【0072】
ところで、本発明にかかるインクを、上記したようなインクジェット記録に用いる場合には、該インクが、インクジェット記録ヘッドから良好に吐出できる特性を有することが好ましい。このため、インクジェット記録ヘッドからの吐出性という観点からは、インクの特性が、例えば、その粘度が1〜15mPa・s、表面張力が25mN/m以上、更には、粘度が1〜5mPa・s、表面張力が25〜50mN/mとすることが好ましい。
【0073】
又、インクの、記録媒体への浸透性を表わす尺度として、ブリストウ法によって求められるKa値がある。即ち、インクの浸透性を1m2あたりのインク量Vで表わすと、インク滴を吐出してから所定時間tが経過した後における、インクの記録媒体への浸透量V(mL/m2=μm)は、下記に示すブリストウの式によって示される。
V=Vr+Ka(t−tw)1/2
【0074】
ここで、インク滴が記録媒体表面に付着した直後には、インクは、記録媒体表面の凹凸部分(記録媒体の表面の粗さの部分)において吸収されるのが殆どで、記録媒体内部へは殆ど浸透していない。その間の時間がコンタクトタイム(tw)であり、コンタクトタイムに記録媒体の凹凸部に吸収されたインク量がVrである。そして、インクが付着した後、コンタクトタイムを超えると、該コンタクトタイムを超えた時間、即ち、(t−tw)の1/2乗べきに比例した分だけ記録媒体への浸透量が増加する。Kaは、この増加分の比例係数であり、浸透速度に応じた値を示す。そして、Ka値は、ブリストウ法による液体の動的浸透性試験装置(例えば、商品名:動的浸透性試験装置S;東洋精機製作所製)等を用いて測定可能である。
【0075】
そして、前記した本発明の各実施態様にかかるインクにおいて、このKa値を1.5未満とすることは、記録画像品質をより一層向上させる上で好ましく、更に好ましくは、0.2以上1.5未満とすることである。即ち、Ka値が1.5未満である場合に、インクの記録媒体への浸透過程の早い段階で固液分離が起こり、フェザリングが極めて少ない高品質な画像を形成することができる。
【0076】
尚、本発明におけるブリストウ法によるKa値は、普通紙[例えば、キヤノン(株)製の、電子写真方式を用いた複写機やページプリンタ(レーザビームプリンタ)やインクジェット記録方式を用いたプリンタ用として用いられるPB紙や、電子写真方式を用いた複写機用の紙であるPPC用紙等]を記録媒体として用いて測定した値である。又、測定環境としては、通常のオフィス環境、例えば、温度20〜25℃、湿度40〜60%を想定している。
【0077】
[分析方法]
以下、顔料にカーボンブラックを用いた水性顔料インクを例にとって、本発明にかかるインクの特性を評価する際に用いた、分析方法及び評価方法について説明する。しかし、これによって本発明にかかるインクに使用する顔料が、特に限定されるわけではない。本発明で使用する粒子表面が改質された顔料の、表面改質状態を分析する方法としては特に限定されず、通常考えられ得る方法を用いて分析を行うことができる。好ましくは、ESCAやTOF−SIMS等で、カーボンブラック等の顔料粒子表面に存在する有機基の結合状態を分析する方法が挙げられる。
【0078】
カーボンブラック粒子の表面に結合している有機基の量等を測定する方法も特に限定されないが、例えば、下記の方法によって行なうことができる。先ず、前記表面改質したカーボンブラックを含むインクから、塩析若しくは凝析によってインク中から有機基で改質されたカーボンブラック粒子を含む固形分を分取することができる。そして、この方法によってインク中から取り出した固形分から、表面改質されたカーボンブラック(有機基が粒子表面に結合しているカーボンブラック)のみを高純度で分取するには、更に、カーボンブラック粒子表面に化学的に結合させた共重合体の良溶媒で、インク中から取り出したカーボンブラック等を洗浄、乾燥するといった方法を用いることができる。以下、更に詳細な、インク中から表面改質されたカーボンブラックを分取する方法、分取後、乾燥して得られた乾固物を測定用試料として用いることで行なう、表面改質されたカーボンブラック粒子表面に結合している有機基の量の測定、或いはフリーポリマーとしてインク中に存在していることのある該共重合体部分を含むセグメントの量を測定する分析方法について説明する。
【0079】
先ず、分析に先だって、以下のようにして前処理を実施し、測定用試料を調製する。上記で説明した表面改質されたカーボンブラックを含むインクから、塩析若しくは凝析して沈澱物として得られる固形分を乾固させ、その後に、共重合体の良溶媒を用いて洗浄してから、該有機基が粒子表面に化学的に結合しているカーボンブラックのみの抽出処理を行う。その方法は、(1)塩析若しくは凝析、(2)沈澱物の洗浄、(3)乾固、(4)表面改質カーボンブラックのみの抽出、及び(5)乾燥、という一連の手順によって行うことができる。以下、順を追って説明する。
(1)インク中から、表面改質カーボンブラックを含む固形分を塩析若しくは凝析させる方法としては特に限定されず、例えば、(a)塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩で塩析させる、(b)硝酸や塩酸等の酸を用いて凝析(酸析)させる、等の方法を用いることができる。この際、必要に応じて、塩析等の前工程として、例えば、限外濾過等を行ってもよい。
(2)上記塩析若しくは凝析等によって得られる固形分を純水で十分に洗浄する。特に、(1)に記載した(b)の凝析を行う際には、洗浄後の濾液が中性になるまで十分に洗浄を行うことが好ましい。
(3)上記で得られる洗浄後の固形分は、オーブン等で充分に乾燥し、乾固物として取り出す。この際の乾燥条件等は特に限定されず、例えば、60℃で2時間程度乾燥させればよい。
(4)上記(3)で得られる乾固物には、有機基がカーボンブラック粒子表面に化学的に結合しているカーボンブラック以外に、カーボンブラック粒子表面に化学的に結合していないフリーポリマー(顔料に物理吸着しているものも含む)が混入している可能性がある。そこで、(3)で得られた乾固物を、該共重合体の良溶媒を用いて洗浄することで、表面改質カーボンブラックを更に高純度に抽出する。上記において使用する、フリーポリマーの良溶媒は、共重合体の構造によって異なり、一概に限定できるものではないが、例えば、テトラヒドロフラン(THF)等は、汎用性のある良溶媒である。この場合、このような良溶媒を用いて繰り返して上記乾固物を洗浄し、固形分に混入している可能性のあるフリーポリマーの除去作業を繰り返すことが好ましい。
(5)上記したように共重合体部分を含むセグメントの良溶媒による洗浄によって、フリーポリマーの除去処理がなされた固形分は、最後にオーブン等で十分な乾燥処理を行って、残存水分や残存溶剤を揮発させて乾固物試料とする。乾燥の際に使用するオーブン等は特に限定されず、例えば、市販の真空乾燥機等を用いた乾燥を行えばよい。又、乾燥条件等についても、上記表面改質カーボンブラック乾固物から、十分に残存水や残存溶剤が除去できる条件であれば特に限定されない。例えば、数百Pa以下の真空度で、60℃×3時間程度で乾燥させればよい。
【0080】
上記した(1)〜(5)の一連の方法によってインク中から取り出した表面改質カーボンブラック乾固物を測定用試料とし、該試料の重量変化を熱重量分析を用いて測定することで、カーボンブラック粒子表面に結合した有機基の結合量を定量的に測定することができる。この結果、表面改質カーボンブラック粒子の質量を基準として該カーボンブラックに化学的に結合している有機基の含有率の測定が可能となる。
【0081】
この分別には、例えば液体クロマトグラフィーを用いることができる。又、上記(1)〜(3)までの一連の手順で得られた乾固物を測定用試料とし、該試料の重量変化を熱重量分析を用いて測定することで、カーボンブラック粒子表面に結合している有機基の他、フリーポリマー等のインク中の顔料を除く固形分の量を知ることができる。この結果、インク中に含まれている有機基とフリーポリマーとの総和に対する、有機基の割合を求めることができる。尚、インク中に、該共重合体以外の第2のポリマーが混在している場合に、インク中の、有機基とフリーポリマーとの総和に対する該有機基の割合を正確に算出するためには、該フリーポリマーのみの量を測定することが好ましい。その場合には、上記(4)の手順におけるカーボンブラックの洗浄液を、液体クロマトグラフィー等を用いて測定すれば、フリーポリマーのみの量を測定することができる。
【0082】
上記で説明した、(1)塩析若しくは凝析、(2)沈澱物の洗浄、(3)乾固、(4)表面改質カーボンブラックのみの抽出、及び(5)乾燥という一連の手順によって得られる、表面改質カーボンブラックのみを含む乾固物試料中の、結合している有機基の含有率を測定する方法は特に限定されない。例えば、上記手順によって最終的に得られる充分に乾燥させたカーボンブラック乾固物を、熱重量分析(Thermogravimetric Analysis)等により測定し、その結果得られる熱重量分析重量減少率から、容易に求めることができる。以下、この際に行う熱重量分析について詳細に説明する。
【0083】
上記方法によって測定される熱重量分析重量減少率は、表面改質カーボンブラック中におけるカーボンブラック粒子表面に導入された有機基の含有率となる。即ち、かかる熱重量分析重量減少率は下記式で与えられるが、熱重量分析前に高分子物質の良溶媒を用いて洗浄し、表面改質カーボンブラックのみを抽出した乾固物試料の重量に対する、100〜700℃まで昇温して行なった熱重量分析において生じる、カーボンブラック粒子表面に結合している有機基の脱着や燃焼等によって生じる重量減少量の割合である。
【0084】
熱重量分析重量減少率=A/B×100(%)
A=熱重量分析において100〜700℃まで昇温した際の重量減少量
B=熱重量分析前における試料の重量
【0085】
上記において行なう熱重量分析における分析条件等は特に限定されず、前処理や昇温速度等、通常の条件によって測定すればよい。測定装置としては、例えば、METTLER TOLEDO社製のTGA熱重量測定装置、TGA851e/SDTA等を使用することができる。
【0086】
更に、上記した熱重量分析重量減少率の測定方法を用いれば、本発明の水性顔料インクに含まれる表面改質カーボンブラック等の顔料における、表面改質に用いた物質と顔料粒子との結合状態を知ることができる。即ち、本発明で使用する顔料である、例えば、カーボンブラック粒子表面には、有機基が化学的に結合されている。このため、カーボンブラック粒子表面の有機基は、上記高分子物質の良溶媒を用いた洗浄後も洗い流されることはなく、カーボンブラック粒子表面に安定に結合しているため、上記した抽出処理の有無にかかわらず、熱重量分析重量減少率は、ほぼ同じ値を示す。これに対して、一般的に用いられる樹脂分散型の顔料では、分散剤に用いられている水溶性樹脂がカーボンブラック(顔料)と化学的に結合しているわけではないので、分散に使用した樹脂の良溶媒によって洗浄すると、樹脂は洗い流されてしまうため、上記した抽出処理を行った場合と、処理を行わなかった場合とでは、熱重量分析重量減少率は大きく違ったものとなる。
【0087】
このことから、本発明に好適に用いられる改質された顔料とは、該共重合体の良溶媒による洗浄の前後において、熱重量分析による重量減少率が変化しないか、或いは実質的に変化しないものとすることができる。ここで、洗浄の前後において熱重量分析による重量減少率が実質的に変化しないとは、重量減少率の洗浄前後における値の差が、例えば5%以内であることを指す。
【0088】
上記した熱重量分析を用いる以外にも、顔料粒子表面における、表面改質に用いた物質との結合状態を調べる方法がある。例えば、本発明で用いる表面改質したカーボンブラックを、先に述べたようにして塩析若しくは凝析した後に乾固させたカーボンブラック乾固物を測定用試料とし、かかる試料を、TG−GC−MS(熱重量分析−ガスクロマトグラフ−マススペクトル)、TOF−MS(飛行時間型質量分析装置)、TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)等とを組み合わせて分析する方法も好適である。これらの方法によって、カーボンブラック乾固物試料における表面改質に用いた物質の結合状態(吸着エネルギーの測定)、更には、カーボンブラック乾固物試料において、結合している有機基の、組成、分子量分布、更には結合ユニットを詳細に知ることができる。このような分析に使用することのできる具体的な装置の一例を以下に示す。
・TG−DTA:サーモプラス(Thermo Plus)TG8120(理化学電気社製)
・GC:HP6890(ヒューレット・パッカード社製)
・MS:JMS−AM II(日本電子製)
・TOF−MS:島津MALDI−TOFMS AXIMA−CFR(島津製作所社製)
・TOF−SIMS:PHI TRFT II(アルバックファイ社製)
【0089】
以上のような構成を有する本発明の水性顔料インクは、インクジェット記録に用いられる際に、特に効果的である。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させてインクを吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡によりインクを吐出するインクジェット記録方法があるが、それらのインクジェット記録方法に、本発明の水性顔料インクは特に好適である。
【0090】
[イオン]
本発明に係るインク中のアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオンについて説明する。これらのイオンは、インク中に、これらのイオンを生じる塩をインク中に加えることにより、含有させることができる。このような塩の例は、例えば、(M1)2SO4、CH3COO(M1)、Ph−COO(M1)、(M1)NO3、(M1)Cl、(M1)Br、(M1)I、(M1)2SO3及び(M1)2CO3等が挙げられ、ここで、M1はアルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表わし、Phはフェニル基を表わす。アルカリ金属としては、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs等が挙げられる。有機アンモニウムとしては、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、モノヒドロキシメチルアミン、ジヒドロキシメチルアミン、トリヒドロキシメチルアミン、エタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム、トリエタノールアンモニウム等が挙げられる。
【0091】
上記の塩の含有量としては、インク中のイオンの量を、該インクが記録媒体に付与されたときに、該インク中の顔料の分散性を不安定化させるのに必要であり、かつ水性インク中では当該顔料の分散安定性を実用上損なうことのないような濃度とすることが好ましい。このようなイオンの量としては、例えば、インク中の該顔料粒子の表面に結合している有機基が有しているイオン性基の量よりも多い量が一つの目安となる。具体的な数値を挙げれば、例えば0.05〜1mol/lの範囲で、顔料に結合してなる有機基中のイオン性基の量よりも多くなるような量とすれば、本発明にかかる効果を奏するインクを得ることができる。ここで、顔料に結合してなる有機基が有しているイオン性基の量は、当該インクから顔料を酸などを用いて析出せしめ、精製し、次いで、当該イオン性基のカウンターイオンを全てNaとする操作を行った後、Naの量をプローブ式ナトリウムイオン電極で測定することで求められる。この方法では、カルボキシル基などの親水性基をカウンターイオンであるNaイオンと同モル数だけ存在すると仮定して換算する。また、インク中のアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン及び有機アンモニウムイオンの量は、高周波プラズマ発光分光分析装置(ICP)及びイオンクロマトグラフィーとを併用することで求めることができる。
【0092】
このように、本発明に係る樹脂結合タイプの自己分散性顔料を含むインク中に、上記したようなイオンを共存させることによって、記録媒体の種類によって画像濃度及び発色性が大きく悪化することがなく、又、画像品質が大きく変化することのない、安定的に高品位の画像を形成できるインクを得ることができる。
【0093】
このようなインクが上記したような特性を発揮する詳細なメカニズムは現時点においては明らかでない。しかし、本発明者らによる特開2001−81375公報に記載した樹脂分散顔料と特定の塩を組み合わせたインクでのメカニズムと同様と考えている。以下その説明を述べる。インクの記録媒体への浸透性を表す尺度として知られている、ブリストウ法によって求められるKa値に関して、本発明のインクは、塩を添加しない以外は同一の組成を有するインクと比較して、大きなKa値を示すとの知見を本発明者らは得ている。Ka値の増大は、インクの記録媒体への浸透性が向上したことを示すものであり、これまでの当業者の常識として、インクの浸透性の向上は、画像濃度の低下を意味するものであった。即ち、インクの浸透とともに色材も記録媒体内部に浸透してしまい、結果として画像濃度が低下してしまうというのがこれまでの当業者の認識である。
【0094】
そして、このようなインクに関する種々の知見から総合的に判断すると、本発明のインク中に含まれる上記特定の塩は、記録媒体(例えば、紙)上に付与された後のインク中の液媒体と固形分との分離(固液分離)を極めて速やかに引き起こすという特異的な作用を生じさせていると考えられる。つまり、インクが記録媒体に付与された際に固液分離が遅ければ、Kaの値の大きいインク、或いはインク浸透性の大きな記録媒体上では、インクは色材とともに等方的に記録媒体中に拡散し、その結果、文字のシャープネス(文字品位)が損なわれると同時に、記録媒体の奥までインクが浸透するために画像濃度も低下することが予測される。
【0095】
しかし、本発明のインクは、そのような現象が観察されないことから、記録媒体に付与された際の固液分離が速やかに起こり、その結果、インクのKa値の増加にも関わらず、高画像濃度、高発色及び高品位な画像を与えるものと推察される。又、浸透性が比較的高い記録媒体であっても、本発明のインクの場合には、文字品位の低下や画像濃度の低下といった現象が起こりづらい理由もこれと同じと考えられる。以下、この点を図10及び図11に基づき更に説明する。
【0096】
図10(A)〜(C)及び図11(A)〜(C)は、各々、上記特定の塩を含むインク及び含まないインクを、各々インクジェット記録方式によってオリフィスから吐出させ、浸透性の高い記録媒体に付与した際に、そこで生じる固液分離の様子を模式的、且つ概念的に示した説明図である。
【0097】
即ち、インクが着弾した直後には、双方のインク共に、図10(A)及び図11(A)に示すように塩の添加の有無に関わらず、インク1001又は1101が記録媒体表面に乗った状態である。時間T1経過後、塩を添加したインク1001は、図10(B)に示すように、固液分離が速やかに起こり、インク中の固体成分の殆どが豊富に含まれる領域1005と、インク中の液媒体とが分離し、分離した液媒体の浸透先端1007が記録媒体1003内部へと進んでいく。一方、塩を添加しないインク1101は、図11(B)に示すように、塩を添加したインク程には固液分離が速やかに起こらないために、固液分離しない状態1105で、記録媒体1103内部へと浸透していく。
【0098】
時間T2経過後、塩を添加したインク1001は図10(C)に示すように、液媒体の浸透先端1007が更に紙内部へと浸透していくが、領域1005は記録媒体の表面とその近傍に留まったままで維持される。一方、塩を添加していないインク1101は、図11(C)に示すように、この時点において漸く、固液分離が始まり、インク中の固形分の浸透先端1107と液媒体の浸透先端1109との間に差が生じてくるものの、インク中の固形分含有領域1111は記録媒体の深部にまで到達している。尚、上記説明における時間T1及びT2は、塩の有無による固液分離の相違を概念的に捉えるための目安の時間である。
【0099】
以上の説明から明らかなように、インクに特定の塩を添加することで、記録媒体表面においてインクの固液分離が速やかに起こるため、インク着弾後、比較的速い段階で固液分離が始まるとともに、顔料等が記録媒体上に残り、液媒体等が記録媒体内部へと浸透するようになるために、上記効果を生じるものであると推察している。即ち、特定の塩を添加することにより、形成される画像の画像濃度及び画像品位が、記録媒体の浸透性の大小等によって影響され難くなっていると考えられる。そして、上記した特定の塩の中でも、前記したように硫酸塩(例えば、硫酸カリウム等)及び安息香酸塩(例えば、安息香酸アンモニウム等)は、有機顔料又はカーボンブラックを有機高分子類で被覆してなるカプセル化顔料との相性が良く、具体的には記録媒体に付与したときの固液分離効果が特に優れるため、種々の記録媒体に特に優れた品質の記録画像を形成することができる。
【0100】
また、これらの樹脂結合タイプの自己分散性顔料インク中に、上記したような特定の塩を共存させることによって、インクを吐出させるノズル部の近傍を撥水させることにより、ヨレ等のインクの吐出不良を防止するメカニズムを有するヘッド部である場合におけるノズル部近傍の撥水性の低下を効果的に防止することができるという極めて特有な効果を示す。
【0101】
このようなインクが上記したような特性を発揮する詳細なメカニズムは現時点においては明らかでない。
【0102】
本発明にかかる水性インクは、インクジェット記録で用いられる際に、特に効果的である。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させてインクを吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡によりインクを吐出するインクジェット記録方法があり、それらのインクジェット記録方法に本発明の水性顔料インクは特に好適である。
【0103】
本発明のインクを用いた、ブラック用、イエロー用、マゼンタ用及びシアン用インク等を有するカラー記録用インクセットを用いて異色が隣接するような記録を行った場合、ブリーディングの発生を極めて有効に抑えることができる。尚、このようなインクセットがブリーディングを有効に抑制できる理由は明らかではないが、前記特定の塩を共存させた本発明のインクの効果として、インクが記録媒体に付着した後の固液分離とそれに引き続く着色剤の固化が速やかに起こる結果、黒色画像乃至カラー画像の境界部において、インクが、隣接する異色インク側に滲み出にくくなっているためと考えられる。
【0104】
本発明のインクに関する説明は以上である。次に、本発明のインクを好適に用いることができるインクジェット記録技術について説明する。インクジェット記録装置として、第一に、インクの吐出手段として熱エネルギーを利用した装置の主要部であるヘッド構成例を図1及び図2に示す。
【0105】
図1は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図2は図1のA−B線での切断面図である。ヘッド13は、インクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン又はプラスチック板等と、発熱素子基板15とを接着して得られる。発熱素子基板15は、酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコン等で形成される保護層16、アルミニウム、金、アルミニウム−銅合金等で形成される電極17−1、17−2、HfB2、TaN、TaAl等の高融点材料から形成される発熱抵抗体層18、熱酸化シリコン、酸化アルミニウム等で形成される蓄熱層19、シリコン、アルミニウム、窒化アルミニウム等の放熱性の良い材料で形成される基板20より成り立っている。
【0106】
上記ヘッド13の電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板15のnで示される領域が急速に発熱し、この表面に接しているインクに気泡が発生し、その発生する圧力でメニスカス23が突出し、インクがヘッド13のノズル14を通して吐出し、吐出オリフィス22よりインク小滴24となり、被記録材25に向かって飛翔する。
【0107】
図3には、図1に示したようなヘッドを多数並べたマルチヘッドの外観図を示す。このマルチヘッドは、マルチノズル26を有するガラス板27と、図1に説明したものと同じような発熱ヘッド28を接着して作られている。
【0108】
図4に、このようなヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。図4において、61は、ワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持固定されており、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は、記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、又、本例の場合、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0109】
62は、記録ヘッド65の突出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配置され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、インク吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。更に、63は、ブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。上記ブレード61、キャップ62及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によって吐出口面に水分、塵埃等の除去が行われる。
【0110】
65は、吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する被記録材にインクを吐出して記録を行う記録ヘッドであり、66は、記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66は、ガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部は、モーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これにより、キャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。51は、被記録材を挿入するための給紙部、52は、不図示のモーターにより駆動される紙送りローラーである。
【0111】
これらの構成により、記録ヘッドの65の吐出口面と対向する位置へ被記録材が給紙され、記録が進行につれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。以上の構成において、記録ヘッド65が記録終了してホームポジションへ戻る際、吐出回復部64のキャップ62は、記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。その結果、記録ヘッド65の吐出口がワイピングされる。
【0112】
尚、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッド65の移動経路中に突出するように移動する。記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は、上記したワイピングの時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。
【0113】
上述の記録ヘッド65のホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッド65が記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0114】
図5は、記録ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブ等を介して供給されるインクを収容したインクカートリッジ45の一例を示す図である。ここで40は、供給用インクを収納したインク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能にする。44は、廃インクを受容するインク吸収体である。インク収容部としては、インクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが好ましい。
【0115】
インクジェット記録装置としては、上述のようにヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図6に示すようなそれらが一体になったものも好適に用いられる。図6において、70は記録ユニットであり、この中にはインクを収容したインク収容部、例えば、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが、複数オリフィスを有するヘッド部71からインク液滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料としては、ポリウレタンを用いることが好ましい。
【0116】
又、インク吸収体を用いず、インク収容部が内部にバネ等を仕込んだインク袋であるような構造でもよい。72は、カートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は、図4に示す記録ヘッド65に換えて用いられるものであって、キャリッジ66に対して着脱自在になっている。
【0117】
次に、第二に、インクの吐出手段として力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置の形態として、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備え、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させるオンデマンドインクジェット記録ヘッドを挙げることができる。その記録装置の主要部である記録ヘッドの構成例を図7に示す。
【0118】
ヘッドは、インク室(不図示)に連通したインク流路80と、所望の体積のインク液滴を吐出するためのオリフィスプレート81と、インクに直接圧力を作用させる振動板82と、この振動板82に接合され、電気信号により変位する圧電素子83と、オリフィスプレート81、振動板82等を支持固定するための基板84とから構成されている。
【0119】
図7において、インク流路80は、感光性樹脂等で形成され、オリフィスプレート81は、ステンレス、ニッケル等の金属を電鋳やプレス加工による穴あけ等により吐出口85が形成されており、振動板82は、ステンレス、ニッケル、チタン等の金属フィルム及び高弾性樹脂フィルム等で形成され、圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZT等の誘電体材料で形成される。
【0120】
以上のような構成の記録ヘッドは、圧電素子83にパルス状の電圧を与え、ひずみ応力を発生させ、そのエネルギーが圧電素子83に接合された振動板82を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク液滴(不図示)をオリフィスプレート81の吐出口85より吐出して記録を行うように動作する。このような記録ヘッドは、図4に示したものと同様な記録装置に組み込んで使用される。記録装置の細部の動作は先述と同様に行うもので差し支えない。
【0121】
次に、本発明のインクを用いたブラック用、シアン用、マゼンタ用、イエロー用インク等を有するカラー記録用インクセットを用いてカラー画像を記録する場合には、例えば、前記図3に示したマルチ記録ヘッドを4つキャリッジ上に並べた記録ヘッド90を用いることができる。図9はその一例であり、91、92、93及び94は、各々イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックのインクを吐出するための記録ユニットである。該記録ユニット91、92、93及び94は、前記した記録装置のキャリッジ上に配置され、記録信号に応じて各色のインクを吐出する。
【0122】
又、図9では記録ユニットを4つ使用した例を示したが、これに限定されず、例えば図8に示したように1つの記録ヘッドで上記の4色のインクを各々含むインクカートリッジ86、87、88及び89から供給される各色のインクを各々個別に吐出させることができるようにインク流路を分けて構成した記録ヘッド95に取り付けて記録を行う態様も挙げられる。
【0123】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の記載で、「部」、「%」とあるものは特に断らない限り重量基準である。
【0124】
(実施例1)
・顔料分散液1の調製
比表面積220g/m2でDBP吸油量105ml/100gのカーボンブラック500g、アミノフェニル−2−サルフェトエチル−スルフォン(APSES)45g、蒸留水900gを反応器に投入し、55℃に保温し、回転数300RPM、20分間攪拌した。
【0125】
この後、25%濃度の亜硝酸ナトリウム40gを15分間滴下し、さらに蒸留水50gを加えた。この後、60℃に保温し、2時間反応させた。反応物を蒸留水で希釈しながら取り出し、固形分15%の濃度に調整した。この後 遠心分離処理及び不純物を除去する精製処理を行った。この作成した分散液は、カーボンブラックに前述した(APSES)の官能基が結合した分散液となった。この分散液をA1とする。
【0126】
ついで、この分散液中のカーボンブラックに結合した官能基のモル数を求めるために、以下の操作を行った。分散液中のNaイオンをプローブ式ナトリウム電極で測定し、カーボンブラック粉末当りに換算した。
【0127】
ついで、15%濃度の分散液A1をペンタエチレンヘキサミン(PEHA)溶液に強力に攪拌しながら室温に保ち1時間かけて、滴下する。このときのPEHA濃度は、前記測定したNaイオンのモル数の1〜10倍量の濃度で溶液量は分散液A1と同量で行う。さらにこの混合物を18〜48時間攪拌し、この後不純物を除去する精製処理を行い、最終的に固形分10%のペンタエチレンヘイサミン(PEHA)が結合した分散液となった。この分散液をB1とする。
【0128】
次に、共重合体としてのスチレン−アクリル酸樹脂を以下のようにして調製した。先ず、重量平均分子量8000、酸価170、多分散度Mw/Mn(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn)1.8のスチレン−アクリル酸樹脂を190g秤り取り、これに1,800gの蒸留水を加え、樹脂を中和するのに必要なNaOHを加えて、攪拌して溶解して、スチレン−アクリル酸樹脂水溶液を調製した。次に、先に調製した固形分10%の分散液B1500gを、上記スチレン−アクリル酸樹脂水溶液中に攪拌しながら滴下した。次に、B1とスチレン−アクリル酸樹脂水溶液の混合物をパイレックス(登録商標)蒸発皿に移し、150℃で15時間加熱し、蒸発させた後、蒸発乾燥物を室温に冷却した。
【0129】
次いで、この蒸発乾燥物を、pH=9.0に調整したNaOH添加蒸留水中に分散機を用いて分散させ、更に攪拌しながら1.0MのNaOHを添加して、pHを10〜11に調整した。その後、脱塩、不純物を除去する精製及び粗大粒子除去を行って、顔料分散液1を得た。得られた顔料分散液1の物性値は、固形分が10%であり、pH=10.1、平均粒子径130nmであった。下記に、上記における顔料分散液1中に含まれている、カーボンブラック粒子の表面に有機基が化学的に結合してなる改質顔料の合成スキームを示す。
【0130】
【外5】
【0131】
・ブラックインク1の調製
・顔料分散液1 50部
・安息香酸ナトリウム 1部
・グリセリン 7部
・1,5ペンタンジオール 5部
・トリメチロールプロパン 7部
・アセチレングリコールEO付加物
(商品名アセチレノールEH、川研ファインケミカル(株)製) 0.1部
・超純水 29.9部
【0132】
上記ブラックインク1について、ブリストウ法によって求められるKa値は、1.3であった。また、下記に述べる熱重量分析によって得た、顔料表面に化学結合している有機基の割合(%)を有効数字2桁で求めたところ、10%であった。また、ブラックインク1中のアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン及び有機アンモニウムイオンの濃度は、改質顔料が有している有機基中のイオン性基の濃度よりも多かった。
【0133】
表面改質された顔料中における有機基の割合の、具体的な測定方法について説明する。先ず、上記ブラックインクに対してそれぞれ塩析若しくは凝析、具体的には、有機基がアニオン性基を有する場合は、塩酸又は硫酸等の酸を添加し、有機基がカチオン性基を有する場合には水酸化ナトリウム等のアルカリを添加することでインク中の顔料及び有機基を塩析により沈殿させることができる、又、場合によってはアルコールを過剰に加える凝析を行うことによりインク中の顔料を沈殿させることが可能である。
【0134】
又、インク中の顔料を沈殿させる方法として、塩析若しくは凝析を組み合わせる、又、遠心分離を行う等とすることで、有効にインク中の顔料を取り出すことが可能である。上記操作により得られた顔料であるカーボンブラックを含む沈澱物をろ過により分取して、ろ過した固形分を純水で十分に洗浄し、洗浄後のカーボンブラック含有固形物を、60℃のオーブンで一晩程度乾燥させた。そして、得られたカーボンブラック含有乾固物を、該共重合体を含むセグメントの良溶媒であるテトラヒドロフラン(THF)で洗浄した。このカーボンブラック含有乾固物のTHFによる洗浄作業を3回繰り返して行なった後、残存水分や残存溶剤を揮発させるために、真空乾燥機を用いて、数百Pa以下の真空度で60℃×3時間程度乾燥させた。以上のようにして、フリーポリマーとしての該共重合体を含むセグメントが、該共重合体の良溶媒による洗浄の結果、除去された表面改質カーボンブラックのみからなる乾固物を得た。
【0135】
次に、上記で得られた乾固物を測定用試料として、熱重量分析(Thermogravimetric Analysis)により熱重量分析重量減少率を測定した。先に述べたように、その際に得られる重量減少率の値から、顔料であるカーボンブラックに化学的に結合している有機基の結合量を求めた。尚、熱重量分析には、METTLER TOLEDO社製のTGA熱重量測定装置、TGA851e/SDTAを使用した。
【0136】
図12及び13は、上記ブラックインク1について、上記した方法によって調製した乾固物試料に対する熱重量分析によって得られた、熱重量分析重量減少率の測定データである。図12は、凝析後の、THF洗浄を行なわない乾固物試料についての熱分析結果である。この図12に表われる熱重量分析重量減少率は、インク中の表面改質されてなる顔料に化学的に結合している有機基と、フリーポリマーとしての該重合体部分を含むセグメントとの総量の、該表面改質された顔料に対する割合を表している。その重量減少率は、図12に示されているように22.87%であった。又、図13は、上記の乾固物試料を更にTHF洗浄した後に得られる乾固物試料に対する熱重量分析の測定データである。即ち、この図13に表われている熱重量分析重量減少率は、該反応物の良溶媒であるTHFによってフリーポリマーとしてのセグメントを取り除いた後の試料に対するものであるため、表面改質された顔料中の化学結合している有機基の割合を示すものである。その値は、19.89%であった。上記ブラックインク1についての熱重量分析測定データでは、図12及び13に示したように、何れの場合も350℃近傍で著しい重量減が見られた。図13においてもこのような結果が得られたことは、熱重量分析用試料を調製する際に、乾固物を該共重合体に対する良溶媒で洗浄したにもかかわらず、該共重合体が失われなかったことを意味している。即ち、上記ブラックインク1中の顔料には、その表面改質によって、顔料粒子表面に有機物が化学的に結合した状態のものとなっていることを示している。更に、図12及び図13から得られる熱重量分析重量減少率から次式によって、インク中に含まれる有機基とフリーポリマーとの総和に対する、顔料粒子表面に化学的に結合している有機基の質量割合が求められる。
【0137】
【外6】
【0138】
上記式に、図12及び図13から求められる熱重量分析重量減少率を代入して、改質された顔料に化学結合している有機基とフリーポリマーとの総量に占める、顔料粒子表面に化学結合している有機基の割合を求めた。その結果、実施例4の改質された顔料に化学結合している有機基とフリーポリマーとの総量に対する、化学結合している有機基の割合は、(19.9/22.9)×100=86.9%であった。
【0139】
(実施例2)
上記実施例1において、安息香酸ナトリウムを酢酸ナトリウムに代えた以外は同様にしてブラックインク2を調製した。ブラックインク2中のアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン及び有機アンモニウムイオンの濃度は、ブラックインク2中の改質顔料が有する有機基が有しているイオン性基の濃度よりも多かった。
【0140】
(印字濃度の評価)
上記ブラックインク1及びブラックインク2の各々を、記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置(商品名:BJS−600;キヤノン製)を用いて下記評価を行った。又、記録媒体としては、下記のコピー用普通紙A、B、C、D及びEを使用した。
【0141】
A:キヤノン製PPC用紙 NSK
B:キヤノン製PPC用紙 NDK
C:ゼロックス製PPC用紙 4024
D:フォックスリバー製PPC用紙プローバーボンド
E:ノイジドラ製 キヤノン用PPC用紙
【0142】
尚、以下の試験におけるコピー用普通紙A、B、C、D及びEは、全てこのコピー用普通紙A、B、C、D及びEに対応するものとする。
【0143】
その結果、上記ブラックインク1及びブラックインク2によって、上記5種類のコピー用普通紙A、B、C、D及びE上に形成された印字物の濃度は、マクベス製印字濃度測定器を用いて測定した結果、いずれも安息香酸ナトリウムを含まない以外はブラックインク1と同じ組成のブラックインク、及び酢酸ナトリウムを含まない以外はブラックインク2と同じ組成のブラックインクによるインクジェット印字物の濃度と比較して、高い数値を示し、本発明にかかるインクが印字濃度向上に有効であることが裏づけられた。
【0144】
(インク吐出試験)
上記ブラックインク1及びブラックインク2を上記インクジェット記録装置を用い、コピー用普通紙A1枚全面にフルベタ印字を行い、その印字が不具合なく行われるか、及び印字後のヘッドの吐出部の撥水性に変化はないか、という観点で評価した結果、いずれのインクも、不具合なく印字ができ、印字後のヘッドの吐出部の撥水性に変化は見られなかった。また上記ブラックインク1、2についてインクジェット記録装置(商品名:BJS−600;キヤノン(株)社製)の改造機を用いて、記録ヘッドからのインク吐出速度を測定したところ、ブラックインク1が約13m/s、ブラックインク2が約12m/sであった。一方、安息香酸ナトリウムを添加しない以外はブラックインク1と同じ組成のブラックインクについて同様にインク吐出速度を測定したところ、約10m/sであった。以上の結果から、本発明にかかるインクが、より優れた吐出性能を有することが分った。
【0145】
(実施例3)
実施例1で調製したブラックインク1と、以下に示すカラーインクを用いてインクセットとしての評価を行った。
(ブラックインク1)実施例1で用いたブラックインク1
【0146】
(イエローインク1)
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ0.2μmのミクロフィルター(富士写真フィルム製)にて加圧濾過し、イエローインク1を調製した。
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物(商品名:アセチレノールE
H、川研ファインケミカル製) 1部
・ジエチレングリコール 10部
・グリセリン 5部
・C.I.ダイレクトイエロー86 3部
・水 81部
【0147】
(マゼンタインク1)
以下の成分を用いて上記イエローインク1と同様にしてマゼンタインク1を調製した。
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物(商品名:アセチレノールE
H、川研ファインケミカル製) 1部
・チオジグリコール 20部
・C.I.アシッドレッド35 3部
・水 76部
【0148】
(シアンインク1)
以下の成分を用いて上記イエローインク1と同様にしてシアンインク1を調製した。
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物(商品名:アセチレノールE
H、川研ファインケミカル製) 1部
・ジエチレングリコール 35部
・C.I.アシッドブルー9 3部
・水 61部
【0149】
上記で調製したインクを下記のように組合わせてインクセットを作製した。
・実施例1で用いたブラックインク1
・イエローインク1
・マゼンタインク1
・シアンインク1
【0150】
上記のインクセットを用いて、記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置(商品名:BJC−4000、キヤノン製)を用いて5種類のコピー用普通紙A、B、C、D及びEに記録を行なった。この記録結果を下記のように評価した。
【0151】
(ブリーディング)
印字画像は10cm四方の正方形内に、5×5のマス目で仕切り、ブラックインクと各カラーインクで交互にベタ印字したものにより、ブラック印字部とカラー印字部との境界のブリーディングを評価した。その結果、いずれの紙においても2色間の境界が明確に区別されが画像を形成することができた。一方、安息香酸ナトリウムを含まない以外は、上記ブラックインク1と同じ組成のブラックインクと上記イエローインク1、マゼンタインク1及びシアンインク1とを組み合わせたインクセットでは、色間でのブリードが目立つ紙があり、このことから、本発明に係るインクセットが、ブリードの緩和に有効であることが確認された。
【0152】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明のインクを用いることで、高画像濃度であり、且つ画像品位に優れた画像を形成でき、インクを吐出させるノズル部の近傍を撥水させることにより、ヨレ等のインクの吐出不良を防止するメカニズムを有するヘッド部である場合におけるノズル部近傍の撥水性の低下等がない水性インク、ブリーディングが少ないインクセット、インクカートリッジ、記録ユニット、画像記録装置及びインクジェット記録方法を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】インクジェット記録装置のヘッドの一実施態様を示す縦断面図。
【図2】図1のA−B線断面図。
【図3】マルチヘッドの概略説明図。
【図4】インクジェット記録装置の一実施態様を示す概略斜視図。
【図5】インクカートリッジの一実施態様を示す縦断面図。
【図6】記録ユニットの一例を示す斜視図。
【図7】インクジェット記録ヘッドの別の構成例を示す概略斜視図。
【図8】4つのインクカートリッジが取り付けられた記録ヘッドの概略説明図。
【図9】4つの記録ヘッドがキヤリッジ上に並べられている構成を示す概略説明図。
【図10】塩を含む顔料インクを記録媒体に付与した時の固液分離の過程を示す模式図。
【図11】塩を含まない顔料インクを記録媒体に付与した時の固液分離の過程を示す模式図。
【図12】実施例1のブラックインク1の顔料を凝析した後の試料の熱重量分析結果を示すグラフである。
【図13】実施例1のブラックインク1の顔料を凝析した後、更にTHFで洗浄処理した後の熱重量分析結果を示すグラフである。
【符号の説明】
13 ヘッド
14 流路(ノズル)
15 発熱素子基板
16 保護層
17−1、17−2 電極
18 発熱抵抗体層
19 蓄熱層
20 基板
22 吐出オリフィス(微細孔)
23 メニスカス
24 インク小滴
25 被記録材
26 マルチノズル
27 ガラス板
28 発熱ヘッド
40 インク袋
42 栓
44 インク吸収体
45 インクカートリッジ
51 給紙部
52 紙送りローラー
53 排紙ローラー
61 ブレード
62 キャップ
63 インク吸収体
64 吐出回復部
65 記録ヘッド
66 キャリッジ
67 ガイド軸
68 モーター
69 ベルト
70 記録ユニット
71 ヘッド部
72 大気連通口
80 インク流路
81 オリフィスプレート
82 振動板
83 圧電素子
84 基板
85 吐出口
86、87、88、89 インクカートリッジ
90 記録ヘッド
91、92、93、94 記録ユニット
1001 塩を含む顔料インク
1003 記録媒体
1005 インク中の固体成分の殆どが豊富に含まれる領域
1007 溶剤の浸透先端
1101 塩を含まない顔料インク
1103 記録媒体
1105 固液分離しない状態の顔料インク
1107 インク中の固形分の浸透先端
1109 溶剤の浸透先端
1111 インク中の固形分含有領域
【発明の属する技術分野】
本発明は、水性ボールペン、万年筆、水性サインペン等の筆記具や、サーマルジェット方式やピエゾ方式等のオンデマンドタイプのインクジェットプリンタ用に好適に使用できるインク(記録液)、インクセット、インクカートリッジ、記録ユニット、画像記録装置及びインクジェット記録方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、優れた発色性や安定性を求められるインクの色材として染料が利用されてきている。しかし、染料は上記長所を有しているものの、形成される画像の耐水性、耐光性等の問題を有しており、改善が要求されている。近年、これらの問題点を改良するために、染料の代わりに有機顔料やカーボンブラックを用いたインクが数多く提案されている。
【0003】
しかしながら、染料の代わりに有機顔料やカーボンブラックを用いたところで、形成される画像の耐擦過性(例えば、指で擦る、マーカーペンを使用する等した場合に擦れや滲みを起こさない性質)は不十分なままである。この問題を解決するために、樹脂結合タイプの自己分散性顔料等が提案されている(例えば、特許文献1参照)。これは、インクジェット記録法において用いられる液媒体と着色剤成分とを含有する記録媒体液であって、前記着色剤成分として、顔料表面の官能基と反応し得る反応性基を有するセグメント(A)と、前記反応性基を実質的に有さずかつ前記セグメント(A)よりも液媒体に対し高い親和性を示すセグメント(B)とを有する重合体を、顔料と加熱して得られる顔料複合ポリマーを含有することを特徴とする記録媒体液であるが、この発明においては、顔料表面に反応する重合体として特定の官能基が必要であり、使用できる重合体が限定される。また、顔料表面にも重合体と反応可能な官能基が必須であり、使用できる顔料の種類も限定されてしまう。また、製造上の問題として、顔料表面と反応性基を有さないセグメントにイオン性を持たせることは難しく、イオン性を有する水分散体をえることは難しいという問題がある。
【0004】
また、複数の分子を用いた樹脂結合タイプの自己分散性顔料も知られている(例えば、特許文献2参照)。この樹脂結合タイプの自己分散性顔料は、イオン性を有する水性顔料分散が可能である。これらの樹脂結合タイプの自己分散性顔料を用いることにより、インクの記録ヘッドに対する信頼性は確保できたものの印字後の耐さっか性、耐マーカー性については改善の余地があった。
【0005】
【特許文献1】
特開平9−272831公報
【特許文献2】
国際公開第01/51566号パンフレット
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、樹脂結合タイプの自己分散性顔料について種々の検討を行った。その結果、このようなインクにより形成された画像は、確かに耐光性等の画像堅牢性を維持したまま耐擦過性や耐マーカー性が向上しているものの、樹脂結合タイプの自己分散性顔料の種類等によっては、印字濃度(OD)の低下や、インクを吐出させるノズル部の近傍を撥水させることにより、ヨレ等のインクの吐出不良を防止するメカニズムを有するヘッド部である場合におけるノズル部近傍の撥水性の低下等が起こることが判明した。
【0007】
又、例えば、上記のように樹脂結合タイプの自己分散性顔料を含むインクを用いて、イエロー、マゼンタ、シアン等とのインクセットとしてカラー画像の印字を行なった場合、記録媒体上で異なる色間の境界において色が滲んだり、インクが不均一に混合され、画像の品位が低下する現象(以降、「ブリーディング」と称する)が認められることがあった。
【0008】
このようなブリーディングについては、所謂界面活性剤の添加によってインクの記録媒体中への浸透性を向上させるアイデア(例えば、特開昭55−65269号公報等)や、インクの液媒体として揮発性溶剤を主体として用いるアイデア(例えば、特開昭55−66976号公報)等が提案されている。しかし、これらの先行技術についても画像濃度の低下、インクの吐出安定性の低下をもたらすことがあった。本発明者らはこれらを鑑みて、単独若しくは他のカラーインクと共に用いた場合に、形成される画像の画像濃度及びインクの発色性が向上し、且つブリーディングを有効に抑えることのできるインクを開発することが必要であることを認識した。
【0009】
即ち、本発明の目的は、優れた耐さっか性、耐マーカー性を有すると共に高い画像濃度の画像を形成し、又、インクを吐出させるノズル部の近傍を撥水させることにより、ヨレ等のインクの吐出不良を防止するメカニズムを有するヘッド部である場合におけるノズル部近傍の撥水性の低下等がない水性インクを提供することにある。又、本発明の他の目的は、上記水性インクを使用した、ブリーディングを有効に抑えることのできるインクセットを提供することにある。又、本発明の他の目的は、高画像濃度及び高発色性な画像を安定して形成できる画像形成装置、インクジェット記録方法及びそれらに用いられるインクカートリッジ及び記録ユニットを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。
【0011】
(実施態様1)
即ち、本発明の第1の実施態様にかかる水性インクは、顔料粒子の表面に有機基が結合している改質された顔料と、水性媒体と、を含有している水性インクであって、
該有機基は、顔料表面に直接もしくは他の原子団を介して化学的に結合している官能基と、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体と、の反応物を含み、かつ該水性インクは更に、アルカリ金属のイオン、アンモニウムイオン及び有機アンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1つのイオンを含有していることを特徴とする水性インクを提供する。
【0012】
また本発明にかかる実施態様を以下に列挙する。
【0013】
(実施態様2)
上記水性インクにおいて、顔料表面に化学結合していない前記共重合体を含むセグメントが前記インク中に存在しているときに、上記セグメントの、上記セグメントと前記反応物との総量に対する割合が50質量%未満であるものである実施態様1に記載の水性インク。
【0014】
(実施態様3)
本発明にかかる水性インクにおいて、前記セグメントの、前記セグメントと前記反応物との総量に対する割合が35質量%未満のものである実施態様2に記載の水性インク。
【0015】
(実施態様4)
前記他の原子団が、フェニル(2−スルホエチル)基である実施態様1に記載の水性インク。
【0016】
(実施態様5)
前記共重合体の多分散度Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)が、3以下である実施態様1の水性インク。
【0017】
(実施態様6)
前記顔料が、カーボンブラックである実施態様1に記載の水性インク。
【0018】
(実施態様7)
前記共重合体のMwが1,000〜20,000であり、且つ酸価若しくはアミン価が100〜500である実施態様1記載の水性インク。
【0019】
(実施態様8)
ブリストウ法によって求められる前記インクのKa値が1.5(ml/m2/msec1/2)未満である実施態様1記載の水性インク。
【0020】
(実施態様9)
前記アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン及び有機アンモニウムイオンの総量が、該有機基中のイオン性基の量よりも多い実施態様1〜8のいずれかに記載の水性インク。
【0021】
(実施態様10)
インクジェット記録用である実施態様1〜9のいずれかに記載の水性インク。
【0022】
(実施態様11)
前記実施態様10に記載の水性インクをインクジェット法で吐出する工程を有することを特徴とするインクジェット記録方法。
【0023】
(実施態様12)
前記実施態様1〜11の何れかに記載の水性インクを収容しているインク収容部を有しているインクカートリッジ。
【0024】
(実施態様13)
前記実施態様10に記載の水性インクを収容しているインク収容部と、該インクを該インクを吐出させるためのインクジェットヘッドとを具備していることを特徴とする記録ユニット。
【0025】
(実施態様14)
前記実施態様10に記載の水性インクを収容しているインク収容部と、該インクを吐出させるためのインクジェットヘッドとを具備していることを特徴とするインクジェット記録装置。
【0026】
(実施態様15)
記録媒体上にインクジェット法によって形成されてなる画像内の、互いに隣接している2つの色の異なる第1の領域と第2の領域との境界におけるブリードを緩和する方法であって、
該第1の領域は、第1の水性インクにより形成され、該第2の領域は、第2の水性インクにより形成されるものであり、
該第1のインク及び該第2のインクの少なくとも一方が、上記実施態様10に記載の水性インクであることを特徴とするブリード緩和方法。
【0027】
【発明の実施の形態】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明にかかる水性インクは、顔料粒子の表面に有機基が結合している改質された顔料と、水性媒体と、を含有し、該有機基は、顔料表面に直接もしくは他の原子団を介して化学的に結合している官能基と、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体と、の反応物を含み、かつ該水性インクは更に、アルカリ金属のイオン、アンモニウムイオン及び有機アンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1つのイオンを含有していることを特徴とする。
【0028】
[顔料]
本発明の水性顔料インクにおいて使用することのできる顔料としては、特に限定されず、下記に挙げるようなものが使用可能である。そして、これらの顔料を後述する方法で改質して用いるが、本発明では、改質された顔料の、水性インク全質量に対する割合が、0.1〜15質量%、更には1〜10質量%となるようにすることが好ましい。
【0029】
黒色インクに使用される顔料としては、カーボンブラックが好適である。例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックを何れも使用することができる。具体的には、例えば、レイヴァン(Raven)7000、レイヴァン5750、レイヴァン5250、レイヴァン5000ULTRA、レイヴァン3500、レイヴァン2000、レイヴァン1500、レイヴァン1250、レイヴァン1200、レイヴァン1190ULTRA−II、レイヴァン1170、レイヴァン1255(以上、コロンビア社製)、ブラックパールズ(Black Pearls)L、リーガル(Regal)400R、リーガル330R、リーガル660R、モウグル(Mogul)L、モナク(Monarch)700、モナク800、モナク880、モナク900、モナク1000、モナク1100、モナク1300、モナク1400、モナク2000、ヴァルカン(Valcan)XC−72R(以上、キャボット社製)、カラーブラック(Color Black)FW1、カラーブラックFW2、カラーブラックFW2V、カラーブラックFW18、カラーブラックFW200、カラーブラックS150、カラーブラックS160、カラーブラックS170、プリンテックス(Printex)35、プリンテックスU、プリンテックスV、プリンテックス140U、プリンテックス140V、スペシャルブラック(Special Black)6、スペシャルブラック5、スペシャルブラック4A、スペシャルブラック4(以上、デグッサ社製)、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上、三菱化学社製)等の市販品を使用することができる。又、本発明のために別途新たに調製されたカーボンブラックを使用することもできる。しかし、本発明は、これらに限定されるものではなく、従来公知のカーボンブラックを何れも使用することができる。又、カーボンブラックに限定されず、マグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子や、チタンブラック等を黒色顔料として用いてもよい。
【0030】
有機顔料としては、具体的には、例えば、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料、イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロンエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料、チオインジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、チオインジゴ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、キノフタロンエロー、ニッケルアゾエロー、銅アゾメチンエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等が挙げられる。勿論、これに限定されず、その他の有機顔料であってもよい。
【0031】
又、本発明で使用することのできる有機顔料を、カラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、例えば、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、97、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、150、151、153、154、166、168、180、185、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、71、C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、C.I.ピグメントブラウン23、25、26等が例示できる。
【0032】
[官能基]
本発明にかかる水性インク中の顔料において官能基は、顔料表面に直接、若しくは他の原子団を介して化学的に結合している。該官能基は、後述する共重合体との反応によって有機基を構成するためのものであり、ここで官能基の種類は、該共重合体が担持している官能基との関連において選択される。そして、官能基と共重合体との反応は、当該顔料が水性媒体中に分散されるものであることを考慮すると、加水分解等を生じることのない結合、例えばアミド結合等を生じるような反応とすることが好ましい。該官能基をアミノ基とし、共重合体にカルボキシル基を担持させることによって、共重合体を、顔料粒子表面にアミド結合を介して導入することができる。また、官能基をカルボキシル基とし、共重合体にアミノ基を担持させることによっても同様に共重合体を顔料粒子表面にアミド結合を介して導入することができる。
【0033】
ここで、顔料表面に化学的に結合されている官能基は、直接、顔料表面に結合していてもよく、また他の原子団を介して結合していてもよい。しかし、比較的分子量の大きな共重合体を顔料表面に導入する場合、共重合体同士の立体障害を避けるために、他の原子団を介して官能基を顔料表面に導入することが好ましい。ここで、他の原子団は、多価の元素や有機基であれば特に限定されるものでない。しかし、上記した理由により官能基の顔料表面からの距離を制御するという観点から、例えば2価の有機残基が好ましく用いられる。2価の有機残基の例は、アルキレン基やアリーレン基(フェニレン基)等を包含する。
【0034】
より具体的に述べると、例えば後述する実施例においては、顔料をアミノフェニル(2−スルホエチル)スルホンと反応させて、顔料表面にアミノフェニル(2−スルホエチル)スルホン基を導入し、その後、ペンタエチレンヘキサミンのアミノ基とアミノフェニル(2−スルホエチル)スルホン基とを反応させることにより、官能基としてのアミノ基を導入している。この場合には、アミノ基は、フェニル(2−スルホエチル)基を含む原子団を介して顔料表面に化学的に結合している、ということができる。ところで、本発明に係る水性インクによる効果としては、以下のことが挙げられる。
【0035】
先ず、第1の効果としては、本発明にかかる顔料は、その表面に直接もしくは他の原子団を介して化学的に結合されている官能基と、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体と、の反応物を含むので、表面を改質する場合に用いられる共重合体の形成材料であるイオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合比率を適宜に変化させることができ、これにより、改質された顔料の親水性を適宜に調整することが可能である。又、使用するイオン性モノマー及び疎水性モノマーの種類や、両者の組み合わせを変化させることができるため、顔料表面に様々な特性を付与できる。更に、インク化する際に、このような顔料と組み合わせて使用する溶媒の選択によって、インクとしての特性のコントロールも可能になる。
【0036】
又、第2の効果としては、本発明者らの検討によれば、顔料表面に結合している共重合体中に疎水性モノマーを用いると、インクの印字汚れ耐マーカー性が向上することがわかった。以下、この耐マーカー性の向上の理由について説明する。
【0037】
先ず、顔料の表面改質に親水性の高分子を用いると、記録媒体への定着後、紙面上で、顔料粒子表面の高分子の絡まり合いが生じ、これによって顔料の凝集力が強くなり、この結果、インクの印字汚れ耐擦過性(耐擦れ性)は向上する。しかしながら、水溶性のマーカーペンで印字面を擦った場合には、顔料表面に存在するものが親水性であるために、マーカーペン中の水や、水性有機溶剤によって、顔料粒子表面の親水性高分子が再溶解してしまうため、マーカーペンの擦れと共に顔料粒子が解けるように流れ出し、その結果、印字汚れ耐マーカー性が発現しにくくなると考えられる。
【0038】
これに対して、本発明で使用する顔料は、顔料表面に化学的に結合している、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体を含む有機基を有するため、先ず、記録媒体への印字後、紙面上で顔料粒子表面の共重合体の絡まり合いにより顔料の凝集力が強くなって、インク定着後の印字汚れ耐擦過性が向上する。この点では、上記の親水性の高分子による表面改質顔料を使用したインクの場合と同様である。しかしながら、該有機基は、イオン性モノマーと疎水性モノマーの共重合体を有しているため、インクの定着の過程において、インク中の水及び有機溶剤が乾燥もしくは浸透していく際に、顔料表面の高分子が絡まり合うだけでなく、印字物の最表面に、顔料表面に結合している共重合体の疎水部が外側を向くように配向すると考えられる。このため、印字物の最外表面に、共重合体の疎水部が配向することになり、印字物の表面は疎水性になる。この結果、水溶性のマーカーペンで印字面を擦った際にも、マーカーペンのインク中の水や有機溶剤に顔料粒子が再溶解し難くなり、マーカーペンの擦れによる顔料粒子の流れ出しを抑制することができる。
【0039】
[共重合体]
上記イオン性モノマーと疎水性モノマーからなる共重合体としては、例えばアニオン性を有するアニオン性の共重合体、或いはカチオン性を有するカチオン性の共重合体が好適に用いられる。
【0040】
上記アニオン性の共重合体としては、疎水性モノマーと、アニオン性モノマーからなる共重合体、或いは、これらの塩等が挙げられる。この際に使用する代表的な疎水性モノマーとしては、次に挙げるモノマーがあるが、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、スチレン、ビニルナフタレン、メチルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、メタクリロニトリル、2−トリメチルシロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、p−トリルメタクリレート、ソルビルメタクリレート、メチルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、アクリロニトリル、2−トリメチルシロキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、p−トリルアクリレート及びソルビルアクリレート等である。
【0041】
上記において使用するアニオン性モノマーとしては、次に挙げるモノマーがあるが、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等が挙げられる。
【0042】
本発明にかかる共重合体の一態様としての、アニオン性モノマーと疎水性モノマーと、からなるアニオン性の共重合体としては、上記に挙げた疎水性モノマーから選択された何れかと、上記に挙げたアニオン性モノマーから選択された少なくとも1つとの、少なくとも2つ以上のモノマーからなる。該共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、或いは、これらの塩等を包含する。
【0043】
かかるアニオン性の共重合体の酸価としては、100〜500の範囲のものが好ましく、且つ、酸価のばらつきが平均酸価の20%以内であるものを使用することが好ましい。酸価をかかる範囲内とすることによって、顔料表面の親水性が高過ぎて、印字後におけるインク中の水及び溶剤が顔料表面にとどまり、記録媒体への印字後における、インクの耐マーカー性の発現が遅くなることを有効に抑制することができる。又、顔料の表面の親水性が低過ぎてしまい、インク中に顔料が安定に分散しにくくなるといったことも有効に抑制することができる。
【0044】
尚、前記した塩とは、ナトリウム、リチウム、カリウム等のアルカリ金属塩の他、アンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルカノールアミン塩等が挙げられ、これらを、単独或いは数種類を適宜に組み合わせて使用できる。
【0045】
上記したアニオン性の共重合体セグメントの重量平均分子量(Mw)は、重量平均分子量が1,000〜20,000の範囲のものであることが好ましく、更に好ましくは、3,000〜20,000の範囲のものを使用するとよい。更に、共重合体の多分散度Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)が、3以下であることが好ましい。又、アニオン性の共重合体セグメントの含有量は、表面改質された顔料に対するアニオン性の共重合体の含有率が5質量%以上、40質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、10質量%以上、25質量%以下の割合で使用される。共重合体の含有率をこの範囲内とすることで、インクの高粘度化の抑制と分散安定性とを高いレベルで両立させることができる。
【0046】
又、共重合体の多分散度については、共重合体の分子量分布が広くなると、先に述べた共重合体の分子量に基づく性質が発現しにくくなるため、共重合体の分子量分布は、揃っている方が好ましい。
【0047】
次に、本発明にかかる共重合体の他の実施態様としての、カチオン性モノマーと疎水性モノマーとからなるカチオン性の共重合体について説明する。カチオン性の共重合体としては、下記に挙げる疎水性モノマーと、カチオン性モノマーとからなる共重合体、或いは、これらの塩等が挙げられる。代表的な疎水性モノマーとしては、次に挙げるモノマーがあるが、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、スチレン、ビニルナフタレン、メチルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、メタクリロニトリル、2−トリメチルシロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、p−トリルメタクリレート、ソルビルメタクリレート、メチルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、アクリロニトリル、2−トリメチルシロキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、p−トリルアクリレート及びソルビルアクリレート等を使用することができる。
【0048】
カチオン性モノマーとしては、次に挙げるモノマーがあるが、本発明は、これらに限定されるものではない。具体的には、例えば、アリルアミン、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、第3−ブチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N−ビニルカルバゾール、メタクリルアミド、アクリルアミド及びジメチルアクリルアミド等を使用することができる。
【0049】
カチオン性の共重合体は、上記モノマーから選ばれた疎水性モノマーと、カチオン性モノマーとを含む少なくとも2つ以上のモノマーからなるブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、或いはこれらの塩等が挙げられる。特に、カチオン性の共重合体のアミン価が100〜500の範囲のものが好ましく、又、アミン価のばらつきが平均アミン価の20%以内であることが好ましい。アミン価とは、試料1gを中和するのに要する塩酸に当量の、KOHのmg数で表す。
【0050】
尚、前記、塩とは、酢酸、塩酸、硝酸等が挙げられ、これらを単独或いは数種類を適宜に組み合わせて使用できる。
【0051】
上記カチオン性の共重合体は、その重量平均分子量(Mw)が、1,000〜20,000の範囲のものを好ましく使用でき、更に好ましくは、3,000〜20,000の範囲のものが好ましく使用できる。又、カチオン性の共重合体セグメントの多分散度Mw/Mn(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn)が、3以下であるものを使用することが好ましい。このようなカチオン性の共重合体のインク中における含有量は、該共重合体によって表面改質された顔料粒子に対して、その含有率が5質量%以上40質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、カチオン性の共重合体の含有率が、10質量%以上25質量%以下の割合となるようにする。共重合体の含有率をこの範囲内とすることで、インクの高粘度化の抑制と分散安定性とを高いレベルで両立させることができる。
【0052】
又、共重合体の多分散度については、多分散度が大きい場合には、共重合体の分子量分布が広くなり、共重合体の分子量に基づく上記で述べた性質が発現しにくくなるため、共重合体の分子量分布は、揃っている方が好ましい。
【0053】
次に、カーボンブラックを例に挙げて、顔料粒子表面に化学的に有機基を結合させて、顔料を改質する方法について説明する。本発明においては、先ず、顔料粒子表面の官能基、或いは顔料粒子表面に官能基を導入し、これらの官能基に、イオン性モノマーと疎水性モノマーとからなる共重合体を結合させ、該共重合体を顔料粒子表面に化学的に結合させる方法であれば、通常用いられる何れの方法でもよく、特に限定されない。このような方法としては、例えば、以下の方法等を用いることができる。
【0054】
カーボンブラック等の顔料粒子表面に、ポリエチレンイミン等を導入し、その末端官能基に、アミノ基を有する、イオン性モノマーと疎水性モノマーとからなる共重合体をジアゾニウム反応で結合させる方法や、カーボンブラック等の顔料粒子表面に、分子内にアミノ基とカルボキシル基を有する共重合体をジアゾニウム反応で結合させる方法等の方法を用いることができる。この他のものとしては、最も典型的な例が、WO 01/51566 A1に開示されている。
【0055】
上記した方法において、例えば、アニオン性の共重合体を、カーボンブラック粒子表面に化学的に結合させる場合には、下記の3工程を含むこととなる。
第1工程;カーボンブラックにジアゾニウム反応で、アミノフェニル(2−スルホエチル)スルホン基(APSES)を付加させる工程。
第2工程;APSES処理をしたカーボンブラックに、ポリエチレンイミンやペンタエチレンヘキサミン(PEHA)を付加させる工程。
第3工程;疎水性モノマーとカルボキシル基を有するイオン性モノマーとの共重合体をつける工程。
【0056】
上記第2の工程では、第1の工程によってカーボンブラック表面に化学的に結合しているフェニル(2−スルホエチル)スルホン基とポリエチレンイミンやペンタエチレンヘキサミン(PEHA)のアミノ基とを反応させることによって、カーボンブラック表面に化学的に結合してなる官能基としてのアミノ基が導入される。そして第3の工程においては、例えば共重合体のイオン性モノマー部分が有するカルボキシル基の一部をアミノ基と反応させてアミド結合を形成させることによって、共重合体をカーボンブラックの表面に、APSESの残基であるフェニル(2−スルホエチル)基とPEHAの残基とを含む原子団を介して共重合体が導入できる。
【0057】
又、上記した方法において、例えば、カチオン性の共重合体を、カーボンブラック粒子表面に化学的に結合させる場合には、下記の2工程を含むこととなる。第1工程;カーボンブラックにジアゾニウム反応でアミノフェニル(2−スルホエチル)スルホン基(APSES)を付加させる工程。
第2工程;疎水性モノマーとカチオン性モノマーとの共重合体をつける工程。
上記第1の工程によって、カーボンブラック表面に化学的に結合してなる官能基としてスルホン基が導入される。そして第2の工程においては、例えば、共重合体のイオン性モノマー部分が有するアミノ基の一部をスルホン基と反応させて(求核置換)、共重合体をカーボンブラックの表面に、APSESの残基であるフェニル(2−スルホエチル)基を含む原子団を介して共重合体が導入できる。
【0058】
[フリーポリマーの存在]
ところで、本発明は、顔料表面に化学結合していない、前記共重合体を含むセグメント(以降「フリーポリマー」と称し、これには、顔料表面に物理吸着しているセグメントも包含する)がインク中に存在することを排除するものではない。しかし、フリーポリマーは、本発明に係る水性インクのインクジェット特性のより一層の向上という観点から、その量は制御されることが好ましい。具体的には、上記フリーポリマーと、顔料表面に結合している有機基との総質量を基準として、上記フリーポリマーの割合を50質量%未満、特には35質量%未満、更には20質量%未満とすることが好ましい。
【0059】
フリーポリマーを多く含むインクをインクジェット記録に用いた場合には、記録ヘッドの吐出口周りのオリフィス等にフリーな有機基が付着し、吐出口周りに不均一なぬれを生じ、インクの吐出が不規則になって吐出方向曲がりが発生し、インクの着弾点がずれるといった問題が生じることがある。又、更に、連続印字を継続すると、ノズルからインクが溢れながら吐出を繰り返していくうちに、ノズル近傍のオリフィス面にインクが付着するようになり、そのノズル近傍のインクの付着部を核として大きなインク溜りがオリフィス上に形成されることがある。この状態で、更に印字を続けた場合には、吐出すべきインクがオリフィス上のインク溜りに引き込まれ、吐出不可能になるといったヌレ不吐と呼ばれる問題が生じることがある。
【0060】
そして、記録ヘッドに対するインクの信頼性において有効な範囲は、顔料粒子表面に化学的に結合している有機基の、該有機基と該フリーポリマーとの総和に占める割合が、50%以上であることが好ましく、より好ましくは65%以上、更には、80%以上であることが好ましい。尚、この値は、後述するような方法によってインク中から取り出した乾固物試料を用い、該試料に対する熱重量分析方法等によって求めることができる。
【0061】
[水性媒体]
上記で説明したようにして得られる、該共重合体を含む有機基を顔料表面に化学的に結合させてなる顔料の分散媒である水性媒体について、以下に説明する。本発明で使用することのできる水性媒体の例としては、例えば、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、インクの乾燥防止効果を有するものが特に好ましい。
【0062】
具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。上記の如き水溶性有機溶剤は、単独でも或いは混合物としても使用することができる。又、水としては、脱イオン水を使用することが望ましい。
【0063】
本発明にかかるインク中に含有される上記に挙げたような水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されないが、インク全質量に対して、好ましくは3〜50質量%の範囲が好適である。又、インクに含有される水の量は、インク全質量に対して好ましくは50〜95質量%の範囲とすることが好ましい。
【0064】
又、インクの保湿性維持のために、その他、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の保湿性固形分をインク成分として用いてもよい。尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン等の、保湿性固形分のインク中の含有量は、一般には、インクに対して0.1〜20.0質量%の範囲が好ましく、より好ましくは3.0〜10.0質量%の範囲である。
【0065】
更に、本発明にかかるインクには、上記成分以外にも必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤等の、種々の添加剤を含有させてもよい。
【0066】
特に、本発明においては、下記に挙げる構造式(1)〜(4)で表される界面活性剤の何れかを、インク中に含有させることが好ましい。
【0067】
【外1】
(但し、上記構造式(1)中、Rはアルキルを表し、nは整数を表す。)
【0068】
【外2】
(但し、上記構造式(2)中、Rはアルキル基を表し、nは整数を表す。)
【0069】
【外3】
(但し、上記構造式(3)中、Rは水素原子又はアルキル基を表し、m及びnは、夫々整数を表す。)
【0070】
【外4】
(但し、上記構造式(4)中、m及びnは、夫々整数を表す。)
【0071】
上記したような構成を有する本発明にかかるインクは、筆記具用インクや、インクジェット用インクに用いることができる。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させ、液滴を吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡により液滴を吐出するバブルジェット(登録商標)記録方法があるが、本発明のインクは、これらの記録方法に特に好適である。
【0072】
ところで、本発明にかかるインクを、上記したようなインクジェット記録に用いる場合には、該インクが、インクジェット記録ヘッドから良好に吐出できる特性を有することが好ましい。このため、インクジェット記録ヘッドからの吐出性という観点からは、インクの特性が、例えば、その粘度が1〜15mPa・s、表面張力が25mN/m以上、更には、粘度が1〜5mPa・s、表面張力が25〜50mN/mとすることが好ましい。
【0073】
又、インクの、記録媒体への浸透性を表わす尺度として、ブリストウ法によって求められるKa値がある。即ち、インクの浸透性を1m2あたりのインク量Vで表わすと、インク滴を吐出してから所定時間tが経過した後における、インクの記録媒体への浸透量V(mL/m2=μm)は、下記に示すブリストウの式によって示される。
V=Vr+Ka(t−tw)1/2
【0074】
ここで、インク滴が記録媒体表面に付着した直後には、インクは、記録媒体表面の凹凸部分(記録媒体の表面の粗さの部分)において吸収されるのが殆どで、記録媒体内部へは殆ど浸透していない。その間の時間がコンタクトタイム(tw)であり、コンタクトタイムに記録媒体の凹凸部に吸収されたインク量がVrである。そして、インクが付着した後、コンタクトタイムを超えると、該コンタクトタイムを超えた時間、即ち、(t−tw)の1/2乗べきに比例した分だけ記録媒体への浸透量が増加する。Kaは、この増加分の比例係数であり、浸透速度に応じた値を示す。そして、Ka値は、ブリストウ法による液体の動的浸透性試験装置(例えば、商品名:動的浸透性試験装置S;東洋精機製作所製)等を用いて測定可能である。
【0075】
そして、前記した本発明の各実施態様にかかるインクにおいて、このKa値を1.5未満とすることは、記録画像品質をより一層向上させる上で好ましく、更に好ましくは、0.2以上1.5未満とすることである。即ち、Ka値が1.5未満である場合に、インクの記録媒体への浸透過程の早い段階で固液分離が起こり、フェザリングが極めて少ない高品質な画像を形成することができる。
【0076】
尚、本発明におけるブリストウ法によるKa値は、普通紙[例えば、キヤノン(株)製の、電子写真方式を用いた複写機やページプリンタ(レーザビームプリンタ)やインクジェット記録方式を用いたプリンタ用として用いられるPB紙や、電子写真方式を用いた複写機用の紙であるPPC用紙等]を記録媒体として用いて測定した値である。又、測定環境としては、通常のオフィス環境、例えば、温度20〜25℃、湿度40〜60%を想定している。
【0077】
[分析方法]
以下、顔料にカーボンブラックを用いた水性顔料インクを例にとって、本発明にかかるインクの特性を評価する際に用いた、分析方法及び評価方法について説明する。しかし、これによって本発明にかかるインクに使用する顔料が、特に限定されるわけではない。本発明で使用する粒子表面が改質された顔料の、表面改質状態を分析する方法としては特に限定されず、通常考えられ得る方法を用いて分析を行うことができる。好ましくは、ESCAやTOF−SIMS等で、カーボンブラック等の顔料粒子表面に存在する有機基の結合状態を分析する方法が挙げられる。
【0078】
カーボンブラック粒子の表面に結合している有機基の量等を測定する方法も特に限定されないが、例えば、下記の方法によって行なうことができる。先ず、前記表面改質したカーボンブラックを含むインクから、塩析若しくは凝析によってインク中から有機基で改質されたカーボンブラック粒子を含む固形分を分取することができる。そして、この方法によってインク中から取り出した固形分から、表面改質されたカーボンブラック(有機基が粒子表面に結合しているカーボンブラック)のみを高純度で分取するには、更に、カーボンブラック粒子表面に化学的に結合させた共重合体の良溶媒で、インク中から取り出したカーボンブラック等を洗浄、乾燥するといった方法を用いることができる。以下、更に詳細な、インク中から表面改質されたカーボンブラックを分取する方法、分取後、乾燥して得られた乾固物を測定用試料として用いることで行なう、表面改質されたカーボンブラック粒子表面に結合している有機基の量の測定、或いはフリーポリマーとしてインク中に存在していることのある該共重合体部分を含むセグメントの量を測定する分析方法について説明する。
【0079】
先ず、分析に先だって、以下のようにして前処理を実施し、測定用試料を調製する。上記で説明した表面改質されたカーボンブラックを含むインクから、塩析若しくは凝析して沈澱物として得られる固形分を乾固させ、その後に、共重合体の良溶媒を用いて洗浄してから、該有機基が粒子表面に化学的に結合しているカーボンブラックのみの抽出処理を行う。その方法は、(1)塩析若しくは凝析、(2)沈澱物の洗浄、(3)乾固、(4)表面改質カーボンブラックのみの抽出、及び(5)乾燥、という一連の手順によって行うことができる。以下、順を追って説明する。
(1)インク中から、表面改質カーボンブラックを含む固形分を塩析若しくは凝析させる方法としては特に限定されず、例えば、(a)塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩で塩析させる、(b)硝酸や塩酸等の酸を用いて凝析(酸析)させる、等の方法を用いることができる。この際、必要に応じて、塩析等の前工程として、例えば、限外濾過等を行ってもよい。
(2)上記塩析若しくは凝析等によって得られる固形分を純水で十分に洗浄する。特に、(1)に記載した(b)の凝析を行う際には、洗浄後の濾液が中性になるまで十分に洗浄を行うことが好ましい。
(3)上記で得られる洗浄後の固形分は、オーブン等で充分に乾燥し、乾固物として取り出す。この際の乾燥条件等は特に限定されず、例えば、60℃で2時間程度乾燥させればよい。
(4)上記(3)で得られる乾固物には、有機基がカーボンブラック粒子表面に化学的に結合しているカーボンブラック以外に、カーボンブラック粒子表面に化学的に結合していないフリーポリマー(顔料に物理吸着しているものも含む)が混入している可能性がある。そこで、(3)で得られた乾固物を、該共重合体の良溶媒を用いて洗浄することで、表面改質カーボンブラックを更に高純度に抽出する。上記において使用する、フリーポリマーの良溶媒は、共重合体の構造によって異なり、一概に限定できるものではないが、例えば、テトラヒドロフラン(THF)等は、汎用性のある良溶媒である。この場合、このような良溶媒を用いて繰り返して上記乾固物を洗浄し、固形分に混入している可能性のあるフリーポリマーの除去作業を繰り返すことが好ましい。
(5)上記したように共重合体部分を含むセグメントの良溶媒による洗浄によって、フリーポリマーの除去処理がなされた固形分は、最後にオーブン等で十分な乾燥処理を行って、残存水分や残存溶剤を揮発させて乾固物試料とする。乾燥の際に使用するオーブン等は特に限定されず、例えば、市販の真空乾燥機等を用いた乾燥を行えばよい。又、乾燥条件等についても、上記表面改質カーボンブラック乾固物から、十分に残存水や残存溶剤が除去できる条件であれば特に限定されない。例えば、数百Pa以下の真空度で、60℃×3時間程度で乾燥させればよい。
【0080】
上記した(1)〜(5)の一連の方法によってインク中から取り出した表面改質カーボンブラック乾固物を測定用試料とし、該試料の重量変化を熱重量分析を用いて測定することで、カーボンブラック粒子表面に結合した有機基の結合量を定量的に測定することができる。この結果、表面改質カーボンブラック粒子の質量を基準として該カーボンブラックに化学的に結合している有機基の含有率の測定が可能となる。
【0081】
この分別には、例えば液体クロマトグラフィーを用いることができる。又、上記(1)〜(3)までの一連の手順で得られた乾固物を測定用試料とし、該試料の重量変化を熱重量分析を用いて測定することで、カーボンブラック粒子表面に結合している有機基の他、フリーポリマー等のインク中の顔料を除く固形分の量を知ることができる。この結果、インク中に含まれている有機基とフリーポリマーとの総和に対する、有機基の割合を求めることができる。尚、インク中に、該共重合体以外の第2のポリマーが混在している場合に、インク中の、有機基とフリーポリマーとの総和に対する該有機基の割合を正確に算出するためには、該フリーポリマーのみの量を測定することが好ましい。その場合には、上記(4)の手順におけるカーボンブラックの洗浄液を、液体クロマトグラフィー等を用いて測定すれば、フリーポリマーのみの量を測定することができる。
【0082】
上記で説明した、(1)塩析若しくは凝析、(2)沈澱物の洗浄、(3)乾固、(4)表面改質カーボンブラックのみの抽出、及び(5)乾燥という一連の手順によって得られる、表面改質カーボンブラックのみを含む乾固物試料中の、結合している有機基の含有率を測定する方法は特に限定されない。例えば、上記手順によって最終的に得られる充分に乾燥させたカーボンブラック乾固物を、熱重量分析(Thermogravimetric Analysis)等により測定し、その結果得られる熱重量分析重量減少率から、容易に求めることができる。以下、この際に行う熱重量分析について詳細に説明する。
【0083】
上記方法によって測定される熱重量分析重量減少率は、表面改質カーボンブラック中におけるカーボンブラック粒子表面に導入された有機基の含有率となる。即ち、かかる熱重量分析重量減少率は下記式で与えられるが、熱重量分析前に高分子物質の良溶媒を用いて洗浄し、表面改質カーボンブラックのみを抽出した乾固物試料の重量に対する、100〜700℃まで昇温して行なった熱重量分析において生じる、カーボンブラック粒子表面に結合している有機基の脱着や燃焼等によって生じる重量減少量の割合である。
【0084】
熱重量分析重量減少率=A/B×100(%)
A=熱重量分析において100〜700℃まで昇温した際の重量減少量
B=熱重量分析前における試料の重量
【0085】
上記において行なう熱重量分析における分析条件等は特に限定されず、前処理や昇温速度等、通常の条件によって測定すればよい。測定装置としては、例えば、METTLER TOLEDO社製のTGA熱重量測定装置、TGA851e/SDTA等を使用することができる。
【0086】
更に、上記した熱重量分析重量減少率の測定方法を用いれば、本発明の水性顔料インクに含まれる表面改質カーボンブラック等の顔料における、表面改質に用いた物質と顔料粒子との結合状態を知ることができる。即ち、本発明で使用する顔料である、例えば、カーボンブラック粒子表面には、有機基が化学的に結合されている。このため、カーボンブラック粒子表面の有機基は、上記高分子物質の良溶媒を用いた洗浄後も洗い流されることはなく、カーボンブラック粒子表面に安定に結合しているため、上記した抽出処理の有無にかかわらず、熱重量分析重量減少率は、ほぼ同じ値を示す。これに対して、一般的に用いられる樹脂分散型の顔料では、分散剤に用いられている水溶性樹脂がカーボンブラック(顔料)と化学的に結合しているわけではないので、分散に使用した樹脂の良溶媒によって洗浄すると、樹脂は洗い流されてしまうため、上記した抽出処理を行った場合と、処理を行わなかった場合とでは、熱重量分析重量減少率は大きく違ったものとなる。
【0087】
このことから、本発明に好適に用いられる改質された顔料とは、該共重合体の良溶媒による洗浄の前後において、熱重量分析による重量減少率が変化しないか、或いは実質的に変化しないものとすることができる。ここで、洗浄の前後において熱重量分析による重量減少率が実質的に変化しないとは、重量減少率の洗浄前後における値の差が、例えば5%以内であることを指す。
【0088】
上記した熱重量分析を用いる以外にも、顔料粒子表面における、表面改質に用いた物質との結合状態を調べる方法がある。例えば、本発明で用いる表面改質したカーボンブラックを、先に述べたようにして塩析若しくは凝析した後に乾固させたカーボンブラック乾固物を測定用試料とし、かかる試料を、TG−GC−MS(熱重量分析−ガスクロマトグラフ−マススペクトル)、TOF−MS(飛行時間型質量分析装置)、TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)等とを組み合わせて分析する方法も好適である。これらの方法によって、カーボンブラック乾固物試料における表面改質に用いた物質の結合状態(吸着エネルギーの測定)、更には、カーボンブラック乾固物試料において、結合している有機基の、組成、分子量分布、更には結合ユニットを詳細に知ることができる。このような分析に使用することのできる具体的な装置の一例を以下に示す。
・TG−DTA:サーモプラス(Thermo Plus)TG8120(理化学電気社製)
・GC:HP6890(ヒューレット・パッカード社製)
・MS:JMS−AM II(日本電子製)
・TOF−MS:島津MALDI−TOFMS AXIMA−CFR(島津製作所社製)
・TOF−SIMS:PHI TRFT II(アルバックファイ社製)
【0089】
以上のような構成を有する本発明の水性顔料インクは、インクジェット記録に用いられる際に、特に効果的である。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させてインクを吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡によりインクを吐出するインクジェット記録方法があるが、それらのインクジェット記録方法に、本発明の水性顔料インクは特に好適である。
【0090】
[イオン]
本発明に係るインク中のアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオンについて説明する。これらのイオンは、インク中に、これらのイオンを生じる塩をインク中に加えることにより、含有させることができる。このような塩の例は、例えば、(M1)2SO4、CH3COO(M1)、Ph−COO(M1)、(M1)NO3、(M1)Cl、(M1)Br、(M1)I、(M1)2SO3及び(M1)2CO3等が挙げられ、ここで、M1はアルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表わし、Phはフェニル基を表わす。アルカリ金属としては、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs等が挙げられる。有機アンモニウムとしては、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、モノヒドロキシメチルアミン、ジヒドロキシメチルアミン、トリヒドロキシメチルアミン、エタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム、トリエタノールアンモニウム等が挙げられる。
【0091】
上記の塩の含有量としては、インク中のイオンの量を、該インクが記録媒体に付与されたときに、該インク中の顔料の分散性を不安定化させるのに必要であり、かつ水性インク中では当該顔料の分散安定性を実用上損なうことのないような濃度とすることが好ましい。このようなイオンの量としては、例えば、インク中の該顔料粒子の表面に結合している有機基が有しているイオン性基の量よりも多い量が一つの目安となる。具体的な数値を挙げれば、例えば0.05〜1mol/lの範囲で、顔料に結合してなる有機基中のイオン性基の量よりも多くなるような量とすれば、本発明にかかる効果を奏するインクを得ることができる。ここで、顔料に結合してなる有機基が有しているイオン性基の量は、当該インクから顔料を酸などを用いて析出せしめ、精製し、次いで、当該イオン性基のカウンターイオンを全てNaとする操作を行った後、Naの量をプローブ式ナトリウムイオン電極で測定することで求められる。この方法では、カルボキシル基などの親水性基をカウンターイオンであるNaイオンと同モル数だけ存在すると仮定して換算する。また、インク中のアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン及び有機アンモニウムイオンの量は、高周波プラズマ発光分光分析装置(ICP)及びイオンクロマトグラフィーとを併用することで求めることができる。
【0092】
このように、本発明に係る樹脂結合タイプの自己分散性顔料を含むインク中に、上記したようなイオンを共存させることによって、記録媒体の種類によって画像濃度及び発色性が大きく悪化することがなく、又、画像品質が大きく変化することのない、安定的に高品位の画像を形成できるインクを得ることができる。
【0093】
このようなインクが上記したような特性を発揮する詳細なメカニズムは現時点においては明らかでない。しかし、本発明者らによる特開2001−81375公報に記載した樹脂分散顔料と特定の塩を組み合わせたインクでのメカニズムと同様と考えている。以下その説明を述べる。インクの記録媒体への浸透性を表す尺度として知られている、ブリストウ法によって求められるKa値に関して、本発明のインクは、塩を添加しない以外は同一の組成を有するインクと比較して、大きなKa値を示すとの知見を本発明者らは得ている。Ka値の増大は、インクの記録媒体への浸透性が向上したことを示すものであり、これまでの当業者の常識として、インクの浸透性の向上は、画像濃度の低下を意味するものであった。即ち、インクの浸透とともに色材も記録媒体内部に浸透してしまい、結果として画像濃度が低下してしまうというのがこれまでの当業者の認識である。
【0094】
そして、このようなインクに関する種々の知見から総合的に判断すると、本発明のインク中に含まれる上記特定の塩は、記録媒体(例えば、紙)上に付与された後のインク中の液媒体と固形分との分離(固液分離)を極めて速やかに引き起こすという特異的な作用を生じさせていると考えられる。つまり、インクが記録媒体に付与された際に固液分離が遅ければ、Kaの値の大きいインク、或いはインク浸透性の大きな記録媒体上では、インクは色材とともに等方的に記録媒体中に拡散し、その結果、文字のシャープネス(文字品位)が損なわれると同時に、記録媒体の奥までインクが浸透するために画像濃度も低下することが予測される。
【0095】
しかし、本発明のインクは、そのような現象が観察されないことから、記録媒体に付与された際の固液分離が速やかに起こり、その結果、インクのKa値の増加にも関わらず、高画像濃度、高発色及び高品位な画像を与えるものと推察される。又、浸透性が比較的高い記録媒体であっても、本発明のインクの場合には、文字品位の低下や画像濃度の低下といった現象が起こりづらい理由もこれと同じと考えられる。以下、この点を図10及び図11に基づき更に説明する。
【0096】
図10(A)〜(C)及び図11(A)〜(C)は、各々、上記特定の塩を含むインク及び含まないインクを、各々インクジェット記録方式によってオリフィスから吐出させ、浸透性の高い記録媒体に付与した際に、そこで生じる固液分離の様子を模式的、且つ概念的に示した説明図である。
【0097】
即ち、インクが着弾した直後には、双方のインク共に、図10(A)及び図11(A)に示すように塩の添加の有無に関わらず、インク1001又は1101が記録媒体表面に乗った状態である。時間T1経過後、塩を添加したインク1001は、図10(B)に示すように、固液分離が速やかに起こり、インク中の固体成分の殆どが豊富に含まれる領域1005と、インク中の液媒体とが分離し、分離した液媒体の浸透先端1007が記録媒体1003内部へと進んでいく。一方、塩を添加しないインク1101は、図11(B)に示すように、塩を添加したインク程には固液分離が速やかに起こらないために、固液分離しない状態1105で、記録媒体1103内部へと浸透していく。
【0098】
時間T2経過後、塩を添加したインク1001は図10(C)に示すように、液媒体の浸透先端1007が更に紙内部へと浸透していくが、領域1005は記録媒体の表面とその近傍に留まったままで維持される。一方、塩を添加していないインク1101は、図11(C)に示すように、この時点において漸く、固液分離が始まり、インク中の固形分の浸透先端1107と液媒体の浸透先端1109との間に差が生じてくるものの、インク中の固形分含有領域1111は記録媒体の深部にまで到達している。尚、上記説明における時間T1及びT2は、塩の有無による固液分離の相違を概念的に捉えるための目安の時間である。
【0099】
以上の説明から明らかなように、インクに特定の塩を添加することで、記録媒体表面においてインクの固液分離が速やかに起こるため、インク着弾後、比較的速い段階で固液分離が始まるとともに、顔料等が記録媒体上に残り、液媒体等が記録媒体内部へと浸透するようになるために、上記効果を生じるものであると推察している。即ち、特定の塩を添加することにより、形成される画像の画像濃度及び画像品位が、記録媒体の浸透性の大小等によって影響され難くなっていると考えられる。そして、上記した特定の塩の中でも、前記したように硫酸塩(例えば、硫酸カリウム等)及び安息香酸塩(例えば、安息香酸アンモニウム等)は、有機顔料又はカーボンブラックを有機高分子類で被覆してなるカプセル化顔料との相性が良く、具体的には記録媒体に付与したときの固液分離効果が特に優れるため、種々の記録媒体に特に優れた品質の記録画像を形成することができる。
【0100】
また、これらの樹脂結合タイプの自己分散性顔料インク中に、上記したような特定の塩を共存させることによって、インクを吐出させるノズル部の近傍を撥水させることにより、ヨレ等のインクの吐出不良を防止するメカニズムを有するヘッド部である場合におけるノズル部近傍の撥水性の低下を効果的に防止することができるという極めて特有な効果を示す。
【0101】
このようなインクが上記したような特性を発揮する詳細なメカニズムは現時点においては明らかでない。
【0102】
本発明にかかる水性インクは、インクジェット記録で用いられる際に、特に効果的である。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させてインクを吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡によりインクを吐出するインクジェット記録方法があり、それらのインクジェット記録方法に本発明の水性顔料インクは特に好適である。
【0103】
本発明のインクを用いた、ブラック用、イエロー用、マゼンタ用及びシアン用インク等を有するカラー記録用インクセットを用いて異色が隣接するような記録を行った場合、ブリーディングの発生を極めて有効に抑えることができる。尚、このようなインクセットがブリーディングを有効に抑制できる理由は明らかではないが、前記特定の塩を共存させた本発明のインクの効果として、インクが記録媒体に付着した後の固液分離とそれに引き続く着色剤の固化が速やかに起こる結果、黒色画像乃至カラー画像の境界部において、インクが、隣接する異色インク側に滲み出にくくなっているためと考えられる。
【0104】
本発明のインクに関する説明は以上である。次に、本発明のインクを好適に用いることができるインクジェット記録技術について説明する。インクジェット記録装置として、第一に、インクの吐出手段として熱エネルギーを利用した装置の主要部であるヘッド構成例を図1及び図2に示す。
【0105】
図1は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図2は図1のA−B線での切断面図である。ヘッド13は、インクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン又はプラスチック板等と、発熱素子基板15とを接着して得られる。発熱素子基板15は、酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコン等で形成される保護層16、アルミニウム、金、アルミニウム−銅合金等で形成される電極17−1、17−2、HfB2、TaN、TaAl等の高融点材料から形成される発熱抵抗体層18、熱酸化シリコン、酸化アルミニウム等で形成される蓄熱層19、シリコン、アルミニウム、窒化アルミニウム等の放熱性の良い材料で形成される基板20より成り立っている。
【0106】
上記ヘッド13の電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板15のnで示される領域が急速に発熱し、この表面に接しているインクに気泡が発生し、その発生する圧力でメニスカス23が突出し、インクがヘッド13のノズル14を通して吐出し、吐出オリフィス22よりインク小滴24となり、被記録材25に向かって飛翔する。
【0107】
図3には、図1に示したようなヘッドを多数並べたマルチヘッドの外観図を示す。このマルチヘッドは、マルチノズル26を有するガラス板27と、図1に説明したものと同じような発熱ヘッド28を接着して作られている。
【0108】
図4に、このようなヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。図4において、61は、ワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持固定されており、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は、記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、又、本例の場合、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0109】
62は、記録ヘッド65の突出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配置され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、インク吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。更に、63は、ブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。上記ブレード61、キャップ62及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によって吐出口面に水分、塵埃等の除去が行われる。
【0110】
65は、吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する被記録材にインクを吐出して記録を行う記録ヘッドであり、66は、記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66は、ガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部は、モーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これにより、キャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。51は、被記録材を挿入するための給紙部、52は、不図示のモーターにより駆動される紙送りローラーである。
【0111】
これらの構成により、記録ヘッドの65の吐出口面と対向する位置へ被記録材が給紙され、記録が進行につれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。以上の構成において、記録ヘッド65が記録終了してホームポジションへ戻る際、吐出回復部64のキャップ62は、記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。その結果、記録ヘッド65の吐出口がワイピングされる。
【0112】
尚、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッド65の移動経路中に突出するように移動する。記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は、上記したワイピングの時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。
【0113】
上述の記録ヘッド65のホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッド65が記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0114】
図5は、記録ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブ等を介して供給されるインクを収容したインクカートリッジ45の一例を示す図である。ここで40は、供給用インクを収納したインク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能にする。44は、廃インクを受容するインク吸収体である。インク収容部としては、インクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが好ましい。
【0115】
インクジェット記録装置としては、上述のようにヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図6に示すようなそれらが一体になったものも好適に用いられる。図6において、70は記録ユニットであり、この中にはインクを収容したインク収容部、例えば、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが、複数オリフィスを有するヘッド部71からインク液滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料としては、ポリウレタンを用いることが好ましい。
【0116】
又、インク吸収体を用いず、インク収容部が内部にバネ等を仕込んだインク袋であるような構造でもよい。72は、カートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は、図4に示す記録ヘッド65に換えて用いられるものであって、キャリッジ66に対して着脱自在になっている。
【0117】
次に、第二に、インクの吐出手段として力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置の形態として、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備え、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させるオンデマンドインクジェット記録ヘッドを挙げることができる。その記録装置の主要部である記録ヘッドの構成例を図7に示す。
【0118】
ヘッドは、インク室(不図示)に連通したインク流路80と、所望の体積のインク液滴を吐出するためのオリフィスプレート81と、インクに直接圧力を作用させる振動板82と、この振動板82に接合され、電気信号により変位する圧電素子83と、オリフィスプレート81、振動板82等を支持固定するための基板84とから構成されている。
【0119】
図7において、インク流路80は、感光性樹脂等で形成され、オリフィスプレート81は、ステンレス、ニッケル等の金属を電鋳やプレス加工による穴あけ等により吐出口85が形成されており、振動板82は、ステンレス、ニッケル、チタン等の金属フィルム及び高弾性樹脂フィルム等で形成され、圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZT等の誘電体材料で形成される。
【0120】
以上のような構成の記録ヘッドは、圧電素子83にパルス状の電圧を与え、ひずみ応力を発生させ、そのエネルギーが圧電素子83に接合された振動板82を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク液滴(不図示)をオリフィスプレート81の吐出口85より吐出して記録を行うように動作する。このような記録ヘッドは、図4に示したものと同様な記録装置に組み込んで使用される。記録装置の細部の動作は先述と同様に行うもので差し支えない。
【0121】
次に、本発明のインクを用いたブラック用、シアン用、マゼンタ用、イエロー用インク等を有するカラー記録用インクセットを用いてカラー画像を記録する場合には、例えば、前記図3に示したマルチ記録ヘッドを4つキャリッジ上に並べた記録ヘッド90を用いることができる。図9はその一例であり、91、92、93及び94は、各々イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックのインクを吐出するための記録ユニットである。該記録ユニット91、92、93及び94は、前記した記録装置のキャリッジ上に配置され、記録信号に応じて各色のインクを吐出する。
【0122】
又、図9では記録ユニットを4つ使用した例を示したが、これに限定されず、例えば図8に示したように1つの記録ヘッドで上記の4色のインクを各々含むインクカートリッジ86、87、88及び89から供給される各色のインクを各々個別に吐出させることができるようにインク流路を分けて構成した記録ヘッド95に取り付けて記録を行う態様も挙げられる。
【0123】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の記載で、「部」、「%」とあるものは特に断らない限り重量基準である。
【0124】
(実施例1)
・顔料分散液1の調製
比表面積220g/m2でDBP吸油量105ml/100gのカーボンブラック500g、アミノフェニル−2−サルフェトエチル−スルフォン(APSES)45g、蒸留水900gを反応器に投入し、55℃に保温し、回転数300RPM、20分間攪拌した。
【0125】
この後、25%濃度の亜硝酸ナトリウム40gを15分間滴下し、さらに蒸留水50gを加えた。この後、60℃に保温し、2時間反応させた。反応物を蒸留水で希釈しながら取り出し、固形分15%の濃度に調整した。この後 遠心分離処理及び不純物を除去する精製処理を行った。この作成した分散液は、カーボンブラックに前述した(APSES)の官能基が結合した分散液となった。この分散液をA1とする。
【0126】
ついで、この分散液中のカーボンブラックに結合した官能基のモル数を求めるために、以下の操作を行った。分散液中のNaイオンをプローブ式ナトリウム電極で測定し、カーボンブラック粉末当りに換算した。
【0127】
ついで、15%濃度の分散液A1をペンタエチレンヘキサミン(PEHA)溶液に強力に攪拌しながら室温に保ち1時間かけて、滴下する。このときのPEHA濃度は、前記測定したNaイオンのモル数の1〜10倍量の濃度で溶液量は分散液A1と同量で行う。さらにこの混合物を18〜48時間攪拌し、この後不純物を除去する精製処理を行い、最終的に固形分10%のペンタエチレンヘイサミン(PEHA)が結合した分散液となった。この分散液をB1とする。
【0128】
次に、共重合体としてのスチレン−アクリル酸樹脂を以下のようにして調製した。先ず、重量平均分子量8000、酸価170、多分散度Mw/Mn(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn)1.8のスチレン−アクリル酸樹脂を190g秤り取り、これに1,800gの蒸留水を加え、樹脂を中和するのに必要なNaOHを加えて、攪拌して溶解して、スチレン−アクリル酸樹脂水溶液を調製した。次に、先に調製した固形分10%の分散液B1500gを、上記スチレン−アクリル酸樹脂水溶液中に攪拌しながら滴下した。次に、B1とスチレン−アクリル酸樹脂水溶液の混合物をパイレックス(登録商標)蒸発皿に移し、150℃で15時間加熱し、蒸発させた後、蒸発乾燥物を室温に冷却した。
【0129】
次いで、この蒸発乾燥物を、pH=9.0に調整したNaOH添加蒸留水中に分散機を用いて分散させ、更に攪拌しながら1.0MのNaOHを添加して、pHを10〜11に調整した。その後、脱塩、不純物を除去する精製及び粗大粒子除去を行って、顔料分散液1を得た。得られた顔料分散液1の物性値は、固形分が10%であり、pH=10.1、平均粒子径130nmであった。下記に、上記における顔料分散液1中に含まれている、カーボンブラック粒子の表面に有機基が化学的に結合してなる改質顔料の合成スキームを示す。
【0130】
【外5】
【0131】
・ブラックインク1の調製
・顔料分散液1 50部
・安息香酸ナトリウム 1部
・グリセリン 7部
・1,5ペンタンジオール 5部
・トリメチロールプロパン 7部
・アセチレングリコールEO付加物
(商品名アセチレノールEH、川研ファインケミカル(株)製) 0.1部
・超純水 29.9部
【0132】
上記ブラックインク1について、ブリストウ法によって求められるKa値は、1.3であった。また、下記に述べる熱重量分析によって得た、顔料表面に化学結合している有機基の割合(%)を有効数字2桁で求めたところ、10%であった。また、ブラックインク1中のアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン及び有機アンモニウムイオンの濃度は、改質顔料が有している有機基中のイオン性基の濃度よりも多かった。
【0133】
表面改質された顔料中における有機基の割合の、具体的な測定方法について説明する。先ず、上記ブラックインクに対してそれぞれ塩析若しくは凝析、具体的には、有機基がアニオン性基を有する場合は、塩酸又は硫酸等の酸を添加し、有機基がカチオン性基を有する場合には水酸化ナトリウム等のアルカリを添加することでインク中の顔料及び有機基を塩析により沈殿させることができる、又、場合によってはアルコールを過剰に加える凝析を行うことによりインク中の顔料を沈殿させることが可能である。
【0134】
又、インク中の顔料を沈殿させる方法として、塩析若しくは凝析を組み合わせる、又、遠心分離を行う等とすることで、有効にインク中の顔料を取り出すことが可能である。上記操作により得られた顔料であるカーボンブラックを含む沈澱物をろ過により分取して、ろ過した固形分を純水で十分に洗浄し、洗浄後のカーボンブラック含有固形物を、60℃のオーブンで一晩程度乾燥させた。そして、得られたカーボンブラック含有乾固物を、該共重合体を含むセグメントの良溶媒であるテトラヒドロフラン(THF)で洗浄した。このカーボンブラック含有乾固物のTHFによる洗浄作業を3回繰り返して行なった後、残存水分や残存溶剤を揮発させるために、真空乾燥機を用いて、数百Pa以下の真空度で60℃×3時間程度乾燥させた。以上のようにして、フリーポリマーとしての該共重合体を含むセグメントが、該共重合体の良溶媒による洗浄の結果、除去された表面改質カーボンブラックのみからなる乾固物を得た。
【0135】
次に、上記で得られた乾固物を測定用試料として、熱重量分析(Thermogravimetric Analysis)により熱重量分析重量減少率を測定した。先に述べたように、その際に得られる重量減少率の値から、顔料であるカーボンブラックに化学的に結合している有機基の結合量を求めた。尚、熱重量分析には、METTLER TOLEDO社製のTGA熱重量測定装置、TGA851e/SDTAを使用した。
【0136】
図12及び13は、上記ブラックインク1について、上記した方法によって調製した乾固物試料に対する熱重量分析によって得られた、熱重量分析重量減少率の測定データである。図12は、凝析後の、THF洗浄を行なわない乾固物試料についての熱分析結果である。この図12に表われる熱重量分析重量減少率は、インク中の表面改質されてなる顔料に化学的に結合している有機基と、フリーポリマーとしての該重合体部分を含むセグメントとの総量の、該表面改質された顔料に対する割合を表している。その重量減少率は、図12に示されているように22.87%であった。又、図13は、上記の乾固物試料を更にTHF洗浄した後に得られる乾固物試料に対する熱重量分析の測定データである。即ち、この図13に表われている熱重量分析重量減少率は、該反応物の良溶媒であるTHFによってフリーポリマーとしてのセグメントを取り除いた後の試料に対するものであるため、表面改質された顔料中の化学結合している有機基の割合を示すものである。その値は、19.89%であった。上記ブラックインク1についての熱重量分析測定データでは、図12及び13に示したように、何れの場合も350℃近傍で著しい重量減が見られた。図13においてもこのような結果が得られたことは、熱重量分析用試料を調製する際に、乾固物を該共重合体に対する良溶媒で洗浄したにもかかわらず、該共重合体が失われなかったことを意味している。即ち、上記ブラックインク1中の顔料には、その表面改質によって、顔料粒子表面に有機物が化学的に結合した状態のものとなっていることを示している。更に、図12及び図13から得られる熱重量分析重量減少率から次式によって、インク中に含まれる有機基とフリーポリマーとの総和に対する、顔料粒子表面に化学的に結合している有機基の質量割合が求められる。
【0137】
【外6】
【0138】
上記式に、図12及び図13から求められる熱重量分析重量減少率を代入して、改質された顔料に化学結合している有機基とフリーポリマーとの総量に占める、顔料粒子表面に化学結合している有機基の割合を求めた。その結果、実施例4の改質された顔料に化学結合している有機基とフリーポリマーとの総量に対する、化学結合している有機基の割合は、(19.9/22.9)×100=86.9%であった。
【0139】
(実施例2)
上記実施例1において、安息香酸ナトリウムを酢酸ナトリウムに代えた以外は同様にしてブラックインク2を調製した。ブラックインク2中のアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン及び有機アンモニウムイオンの濃度は、ブラックインク2中の改質顔料が有する有機基が有しているイオン性基の濃度よりも多かった。
【0140】
(印字濃度の評価)
上記ブラックインク1及びブラックインク2の各々を、記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置(商品名:BJS−600;キヤノン製)を用いて下記評価を行った。又、記録媒体としては、下記のコピー用普通紙A、B、C、D及びEを使用した。
【0141】
A:キヤノン製PPC用紙 NSK
B:キヤノン製PPC用紙 NDK
C:ゼロックス製PPC用紙 4024
D:フォックスリバー製PPC用紙プローバーボンド
E:ノイジドラ製 キヤノン用PPC用紙
【0142】
尚、以下の試験におけるコピー用普通紙A、B、C、D及びEは、全てこのコピー用普通紙A、B、C、D及びEに対応するものとする。
【0143】
その結果、上記ブラックインク1及びブラックインク2によって、上記5種類のコピー用普通紙A、B、C、D及びE上に形成された印字物の濃度は、マクベス製印字濃度測定器を用いて測定した結果、いずれも安息香酸ナトリウムを含まない以外はブラックインク1と同じ組成のブラックインク、及び酢酸ナトリウムを含まない以外はブラックインク2と同じ組成のブラックインクによるインクジェット印字物の濃度と比較して、高い数値を示し、本発明にかかるインクが印字濃度向上に有効であることが裏づけられた。
【0144】
(インク吐出試験)
上記ブラックインク1及びブラックインク2を上記インクジェット記録装置を用い、コピー用普通紙A1枚全面にフルベタ印字を行い、その印字が不具合なく行われるか、及び印字後のヘッドの吐出部の撥水性に変化はないか、という観点で評価した結果、いずれのインクも、不具合なく印字ができ、印字後のヘッドの吐出部の撥水性に変化は見られなかった。また上記ブラックインク1、2についてインクジェット記録装置(商品名:BJS−600;キヤノン(株)社製)の改造機を用いて、記録ヘッドからのインク吐出速度を測定したところ、ブラックインク1が約13m/s、ブラックインク2が約12m/sであった。一方、安息香酸ナトリウムを添加しない以外はブラックインク1と同じ組成のブラックインクについて同様にインク吐出速度を測定したところ、約10m/sであった。以上の結果から、本発明にかかるインクが、より優れた吐出性能を有することが分った。
【0145】
(実施例3)
実施例1で調製したブラックインク1と、以下に示すカラーインクを用いてインクセットとしての評価を行った。
(ブラックインク1)実施例1で用いたブラックインク1
【0146】
(イエローインク1)
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ0.2μmのミクロフィルター(富士写真フィルム製)にて加圧濾過し、イエローインク1を調製した。
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物(商品名:アセチレノールE
H、川研ファインケミカル製) 1部
・ジエチレングリコール 10部
・グリセリン 5部
・C.I.ダイレクトイエロー86 3部
・水 81部
【0147】
(マゼンタインク1)
以下の成分を用いて上記イエローインク1と同様にしてマゼンタインク1を調製した。
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物(商品名:アセチレノールE
H、川研ファインケミカル製) 1部
・チオジグリコール 20部
・C.I.アシッドレッド35 3部
・水 76部
【0148】
(シアンインク1)
以下の成分を用いて上記イエローインク1と同様にしてシアンインク1を調製した。
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物(商品名:アセチレノールE
H、川研ファインケミカル製) 1部
・ジエチレングリコール 35部
・C.I.アシッドブルー9 3部
・水 61部
【0149】
上記で調製したインクを下記のように組合わせてインクセットを作製した。
・実施例1で用いたブラックインク1
・イエローインク1
・マゼンタインク1
・シアンインク1
【0150】
上記のインクセットを用いて、記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置(商品名:BJC−4000、キヤノン製)を用いて5種類のコピー用普通紙A、B、C、D及びEに記録を行なった。この記録結果を下記のように評価した。
【0151】
(ブリーディング)
印字画像は10cm四方の正方形内に、5×5のマス目で仕切り、ブラックインクと各カラーインクで交互にベタ印字したものにより、ブラック印字部とカラー印字部との境界のブリーディングを評価した。その結果、いずれの紙においても2色間の境界が明確に区別されが画像を形成することができた。一方、安息香酸ナトリウムを含まない以外は、上記ブラックインク1と同じ組成のブラックインクと上記イエローインク1、マゼンタインク1及びシアンインク1とを組み合わせたインクセットでは、色間でのブリードが目立つ紙があり、このことから、本発明に係るインクセットが、ブリードの緩和に有効であることが確認された。
【0152】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明のインクを用いることで、高画像濃度であり、且つ画像品位に優れた画像を形成でき、インクを吐出させるノズル部の近傍を撥水させることにより、ヨレ等のインクの吐出不良を防止するメカニズムを有するヘッド部である場合におけるノズル部近傍の撥水性の低下等がない水性インク、ブリーディングが少ないインクセット、インクカートリッジ、記録ユニット、画像記録装置及びインクジェット記録方法を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】インクジェット記録装置のヘッドの一実施態様を示す縦断面図。
【図2】図1のA−B線断面図。
【図3】マルチヘッドの概略説明図。
【図4】インクジェット記録装置の一実施態様を示す概略斜視図。
【図5】インクカートリッジの一実施態様を示す縦断面図。
【図6】記録ユニットの一例を示す斜視図。
【図7】インクジェット記録ヘッドの別の構成例を示す概略斜視図。
【図8】4つのインクカートリッジが取り付けられた記録ヘッドの概略説明図。
【図9】4つの記録ヘッドがキヤリッジ上に並べられている構成を示す概略説明図。
【図10】塩を含む顔料インクを記録媒体に付与した時の固液分離の過程を示す模式図。
【図11】塩を含まない顔料インクを記録媒体に付与した時の固液分離の過程を示す模式図。
【図12】実施例1のブラックインク1の顔料を凝析した後の試料の熱重量分析結果を示すグラフである。
【図13】実施例1のブラックインク1の顔料を凝析した後、更にTHFで洗浄処理した後の熱重量分析結果を示すグラフである。
【符号の説明】
13 ヘッド
14 流路(ノズル)
15 発熱素子基板
16 保護層
17−1、17−2 電極
18 発熱抵抗体層
19 蓄熱層
20 基板
22 吐出オリフィス(微細孔)
23 メニスカス
24 インク小滴
25 被記録材
26 マルチノズル
27 ガラス板
28 発熱ヘッド
40 インク袋
42 栓
44 インク吸収体
45 インクカートリッジ
51 給紙部
52 紙送りローラー
53 排紙ローラー
61 ブレード
62 キャップ
63 インク吸収体
64 吐出回復部
65 記録ヘッド
66 キャリッジ
67 ガイド軸
68 モーター
69 ベルト
70 記録ユニット
71 ヘッド部
72 大気連通口
80 インク流路
81 オリフィスプレート
82 振動板
83 圧電素子
84 基板
85 吐出口
86、87、88、89 インクカートリッジ
90 記録ヘッド
91、92、93、94 記録ユニット
1001 塩を含む顔料インク
1003 記録媒体
1005 インク中の固体成分の殆どが豊富に含まれる領域
1007 溶剤の浸透先端
1101 塩を含まない顔料インク
1103 記録媒体
1105 固液分離しない状態の顔料インク
1107 インク中の固形分の浸透先端
1109 溶剤の浸透先端
1111 インク中の固形分含有領域
Claims (1)
- 顔料粒子の表面に有機基が結合している改質された顔料と、水性媒体と、を含有している水性インクであって、
該有機基は、顔料表面に直接もしくは他の原子団を介して化学的に結合している官能基と、イオン性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体と、の反応物を含み、かつ該水性インクは更に、アルカリ金属のイオン、アンモニウムイオン及び有機アンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1つのイオンを含有していることを特徴とする水性インク。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002316307A JP2004149666A (ja) | 2002-10-30 | 2002-10-30 | 水性インク |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002316307A JP2004149666A (ja) | 2002-10-30 | 2002-10-30 | 水性インク |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004149666A true JP2004149666A (ja) | 2004-05-27 |
Family
ID=32460052
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2002316307A Withdrawn JP2004149666A (ja) | 2002-10-30 | 2002-10-30 | 水性インク |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004149666A (ja) |
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2006117938A (ja) * | 2004-10-20 | 2006-05-11 | Hewlett-Packard Development Co Lp | インクジェット用途のための自己分散型顔料混合物 |
JP2006124705A (ja) * | 2004-10-28 | 2006-05-18 | Hewlett-Packard Development Co Lp | 両性顔料分散物を含有するインク調合物、インク調合物を使用する方法、及びインク調合物を使用するシステム |
CN112456467A (zh) * | 2020-11-19 | 2021-03-09 | 沈阳化工研究院有限公司 | 一种应用于纺丝树脂着色的改性炭黑及其制备方法 |
-
2002
- 2002-10-30 JP JP2002316307A patent/JP2004149666A/ja not_active Withdrawn
Cited By (5)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2006117938A (ja) * | 2004-10-20 | 2006-05-11 | Hewlett-Packard Development Co Lp | インクジェット用途のための自己分散型顔料混合物 |
JP2006124705A (ja) * | 2004-10-28 | 2006-05-18 | Hewlett-Packard Development Co Lp | 両性顔料分散物を含有するインク調合物、インク調合物を使用する方法、及びインク調合物を使用するシステム |
US7666256B2 (en) | 2004-10-28 | 2010-02-23 | Hewlett-Packard Development Company, L.P. | Amphoteric pigment dispersion containing ink formulations, methods of using ink formulations, and systems using ink formulations |
US8052786B2 (en) | 2004-10-28 | 2011-11-08 | Hewlett-Packard Development Company, L.P. | Amphoteric pigment dispersion containing ink formulations, methods of using ink formulations, and systems using ink formulations |
CN112456467A (zh) * | 2020-11-19 | 2021-03-09 | 沈阳化工研究院有限公司 | 一种应用于纺丝树脂着色的改性炭黑及其制备方法 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP4551622B2 (ja) | 水性インク | |
EP1473339B1 (en) | Aqueous ink, and ink-jet recording method, ink-jet recording apparatus, and image forming method using the same | |
US9090789B2 (en) | Aqueous ink, ink jet recording method, ink cartridge and ink jet recording apparatus | |
JP4273104B2 (ja) | 水性インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、インクジェット記録方法及び画像形成方法 | |
EP1085060B1 (en) | Aqueous ink for ink-jet recording, ink set, ink cartridge, recording unit, use of the ink in an image-recording apparatus, color-image-recording apparatus, ink-jet recording process and bleeding reducing method | |
JP5561887B2 (ja) | 水性インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、インクジェット記録装置及び画像形成方法 | |
JP5441830B2 (ja) | 水性インク | |
JP2006159426A (ja) | 反応液、インクセット、インクジェット記録方法及び記録物 | |
JP2004149666A (ja) | 水性インク | |
JP2006008898A (ja) | 水性インク、インクセット及びインクジェット記録装置 | |
JP2004115549A (ja) | インクセット、画像形成方法、記録ユニット及びインクジェット記録装置 | |
JP2004115550A (ja) | 水性インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット及びインクジェット記録装置 | |
JP2004300370A (ja) | 水性インク | |
JP2004315596A (ja) | 水性インク | |
JP6289088B2 (ja) | インクジェット記録用インク、インクカートリッジ、インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、インク記録物 | |
JP2004115546A (ja) | インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット及びインクジェット記録装置 | |
JP5678496B2 (ja) | インクジェット記録用インク、並びにインクカートリッジ、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及びインク記録物 | |
JP2006160815A (ja) | インクセット、インクジェット記録方法及び記録物 | |
JP4976644B2 (ja) | インクジェット用水性インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、インクジェット記録装置及び画像形成方法 | |
JP2005052974A (ja) | 水性インクセット | |
JP2004115548A (ja) | 水性インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、インクジェット記録ユニット及びインクジェット記録装置 | |
JP2006348304A (ja) | インク、インクセット、インクカートリッジ、記録ユニット、画像記録装置および画像記録方法 | |
JP2004115547A (ja) | 水性インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、インクジェット記録ユニット及びインクジェット記録装置 | |
JP2004352996A (ja) | カラー画像のブリード緩和方法 | |
JP2005350612A (ja) | 顔料インク、これを用いたインクセット、インクカートリッジ、記録ユニット、画像記録装置及びインクジェット記録方法 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A300 | Withdrawal of application because of no request for examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A300 Effective date: 20060110 |