JP2005036848A - トルク相開始検出装置、トルク相開始検出方法およびその方法をコンピュータに実現するためのプログラム - Google Patents
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Abstract
【課題】自動変速機におけるパワーオンアップシフトにてトルク相の開始時刻を正確に算出する。
【解決手段】ECT_ECU1020は、パワーオンアップシフトが開始されると(S100にてYES)、トルク相が終了するまで(S120にてYES)、自動変速機の出力軸回転数NOUTを時系列に従ってメモリに記憶するステップ(S110)と、トルク相が終了すると(S120にてYES)、記憶した出力軸回転数NOUTをウェーブレット変換を用いて周波数解析するステップ(S130)と、ウェーブレット変換された結果に基づいて、規定周波数帯域でピークを有する時刻をトルク相開始時刻として算出するステップ(S140)と、算出されたトルク相開始時刻をメモリに記憶するステップ(S150)とを含む。
【選択図】 図3
【解決手段】ECT_ECU1020は、パワーオンアップシフトが開始されると(S100にてYES)、トルク相が終了するまで(S120にてYES)、自動変速機の出力軸回転数NOUTを時系列に従ってメモリに記憶するステップ(S110)と、トルク相が終了すると(S120にてYES)、記憶した出力軸回転数NOUTをウェーブレット変換を用いて周波数解析するステップ(S130)と、ウェーブレット変換された結果に基づいて、規定周波数帯域でピークを有する時刻をトルク相開始時刻として算出するステップ(S140)と、算出されたトルク相開始時刻をメモリに記憶するステップ(S150)とを含む。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両に搭載された自動変速機の制御に関し、特に、アップシフト変速時の制御に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両に搭載される自動変速機は、たとえば、エンジンからの出力が入力されるトルクコンバータと、そのトルクコンバータからの出力によって駆動される変速歯車機構(たとえば遊星歯車式変速機構)とが組み合わされて構成される。クラッチやブレーキ等の複数の摩擦係合要素を選択的に係合および解放させることにより、この変速歯車機構の動力伝達経路を切り換えて、運転者の要求や運転状態に応じて所定の変速段へ自動的に変速させる。このような自動変速機においては、変速用の摩擦係合要素に加えて、エンジンブレーキ用の摩擦係合要素が備えられる。このエンジンブレーキ用摩擦係合要素は、通常、駆動時にのみ動力を伝達するものであって、1レンジや2レンジ等の所定の変速段で締結されることにより、それらの変速段での減速走行時にエンジンブレーキを作動させる。
【0003】
このような自動変速機において、異なる摩擦係合要素を締結する制御と解放する制御とを同時に行なう摩擦係合要素の掛け替えによって変速(いわゆるクラッチtoクラッチ変速)を行なう場合がある。このようなクラッチtoクラッチ変速においては、両方のクラッチの係合のタイミングと解放のタイミングとをバランスさせて良好な変速特性(たとえば、運転者が感じる良好な変速フィーリング)を実現させている。
【0004】
クラッチtoクラッチ変速において、解放側のクラッチを解放する程度や、係合側のクラッチを係合する程度や、エンジンのトルクダウンの程度などが十分にチューニングされて、初めて良好な変速フィーリングを実現できる。
【0005】
以下に、自動変速機における、前進第1速度段(1st)から前進第2速度段(2nd)へのパワーオンアップシフト(エンジン出力で車両を駆動している最中におけるアップシフト)が行なわれる場合について説明する。
【0006】
エンジンと自動変速機とを有するパワートレーンにおいて、自動変速機がECU(Electronic Control Unit)により制御される。自動変速機は、エンジンの出力軸にその入力軸が接続されたトルクコンバータと、トルクコンバータの出力軸にその入力軸が接続された遊星歯車式変速機構とから構成される。
【0007】
ECUから自動変速機に変速開始指令が発せられる時点以前の1stの状態では、解放側クラッチの油圧は所定の最高値であってその解放側クラッチの状態は係合状態であり、他方、係合側クラッチの油圧は最低値でありその係合側クラッチの状態は解放状態である。ECUから自動変速機に変速開始指令が出力されると、係合側指令値は、係合側油圧を可及的速やかに上昇させるために、所定の一定時間が経過したときに滑らかに変速できるように設定された初期値とされる。他方、解放側指令値は、変速開始指令の発生から解放待機時間が経過するまでの間は指令が出力される前の状態が維持され、解放待機時間が経過したとき、解放側油圧を可及的速やかに降下させる。
【0008】
このようにして、係合側クラッチのピストン空走が終わり係合側油圧が上昇を始めたとき、係合側クラッチに伝達トルクが発生し、その後、係合側クラッチの伝達トルクは、係合側油圧の上昇に比例して増加する。出力軸トルクの変化率とタービン回転数NTの変化率とは比例関係にある。他方、解放側油圧が減少しているが、解放側クラッチはまだ係合しており、滑りは発生していない。解放側クラッチの伝達トルクは、係合側クラッチの伝達トルクの増加に伴い、係合側クラッチの伝達トルクの増加分だけ減少する。
【0009】
解放側クラッチの伝達トルクがゼロとなり解放側クラッチが滑り始めたとき、タービン回転数NTが出力軸回転数NOUTと1stのギヤ比とにより決まる回転数よりも低くなる。タービン回転数NTが出力軸回転数NOUTと1stのギヤ比とにより決まる回転数よりも低くなったことが検出されたときから、タービン回転数NTが出力軸回転数NOUTと2ndのギヤ比とにより決まる回転数に一致するときまでは、タービン回転数NTの変化率が所定変化率を保ちつつタービン回転数NTが減速するように、係合側指令値がフィードバック制御される。
【0010】
タービン回転数NTが出力軸回転数NOUTと2ndのギヤ比とにより決まる回転数に一致したことが検出されたとき、係合側クラッチの係合油圧が所定の最高値まで上昇され、変速終了となる。
【0011】
係合側クラッチの伝達トルクが発生した時点からタービン回転数NTが出力軸回転数NOUTと1stのギヤ比とにより決まる回転数よりも低くなった時点までの期間をトルク相と称し、タービン回転数NTが出力軸回転数NOUTと1stのギヤ比とにより決まる回転数よりも低くなった時点からタービン回転数NTが出力軸回転数NOUTと2ndのギヤ比とにより決まる回転数に一致した時点までの期間をイナーシャ相と称す。
【0012】
このトルク相からイナーシャ相にかけて出力軸トルクの変化が急激になると大きな変速ショックが発生する。解放側クラッチの解放に対して係合側クラッチの係合が早過ぎるとき(トルク干渉)である。このようなトルク干渉は、以下のような要因による。車両用自動変速機の構成要素を大量に生産する場合、遊星歯車式変速機構を構成するクラッチやブレーキに発生するピストン空走距離のばらつきや、制御指令値が出力される電磁弁の特性(指令値と油圧との相関)のばらつきが不可避となる。また、解放側クラッチの解放状態および係合側クラッチの係合状態の実際にセンシングするのが困難である。これらのために、トルク相やイナーシャ相を的確に把握することが困難であるために、構成部品が個体差を有する自動変速機のクラッチtoクラッチ変速を伴うパワーオンアップシフトにおいて、変速ショックを発生させないようにすることが課題となっている。
【0013】
特開2000−161479号公報(特許文献1)およびアイシンテクニカルレビュー Vol.3 No.1 1999(非特許文献1)は、このような課題を解決するために、トルク相の開始を的確に把握する技術を開示する。
【0014】
これらの文献に開示されたトルク相開始検出方法は、クラッチtoクラッチ変速の際の変速ギヤ部の入力軸(タービン回転数NT)と出力軸(出力軸回転数NOUT)のいずれか一方の回転数を検出するステップと、検出した回転数から係合側摩擦係合要素の伝達トルクの発生に伴う所定周波数以上の変化成分を分離および抽出するステップと、抽出した変化成分の低下量からトルク相開始を判定するステップとを備える。
【0015】
これらの文献に開示されたトルク相開始検出方法は、係合側クラッチの伝達トルクの発生(トルク相開始)とともにタービン回転数NTも変化するが、このタービン回転数NTの変化には、エンジン回転数変化車両の加速度、クラッチの係合状態などの様々な要因を含むことに着目して、このタービン回転数NTの周波数からトルク相の開始を抽出する。「時間−周波数分析」に優れたウェーブレット変換を適用して、変速開始からトルク相開始までのタービン回転数NTをウェーブレット変換して、係合側クラッチによる伝達トルクの発生に伴いタービン回転数NTが変化し、同じタイミングでピーク値がウェーブレット変換結果に現れる。このピークからの低下に基づいて、周波数帯域を設定してバンドパスフィルタを用いてフィルタリングした回転数信号を用いてリアルタイムで、トルク相開始を判定する。これにより、出力回転速度変化率または入力軸回転速度変化率からトルク相開始を検出する場合に比べて、トルク相開始を的確に検出できる。
【0016】
【特許文献1】
特開2000−161479号公報
【0017】
【非特許文献1】
アイシンテクニカルレビュー Vol.3 No.1 1999
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した文献に記載された技術では、変速制御中に自動変速機の出力軸回転数をモニタリングして、その値をバンドバスフィルタを用いて特定の特定の周波数成分(たとえば2〜3Hz)のみを抽出してトルク相の開始を判断する。そのため、トルク相開始を判定するために設けたしきい値を一旦は越えた後に再度下回った時には、誤判定したことになる。車両の走行中に行なわれるパワーオンアップシフトでは、車両の走行時に発生する振動やその他車両以外の要因により発生する振動(たとえばキャッツアイに乗り上げた時の振動)等によりリアルタイムでフィルタリングした信号と、しきい値とに基づいてトルク相の開始を判断していた場合には、誤検出する可能性がある。
【0019】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、パワーオンアップシフトにおけるトルク相の開始を的確に判断することができる、トルク相開始検出装置、トルク相開始検出方法およびその方法をコンピュータに実現するためのプログラムを提供することである。
【0020】
【課題を解決するための手段】
第1の発明に係るトルク相開始検出装置は、自動変速機の入力軸回転数または出力軸回転数を検知するための検知手段と、変速開始からトルク相の終了までの間における回転数の信号値を時系列にしたがって記憶するための記憶手段と、時系列にしたがって記憶された信号値に基づいて、各時刻における信号値に含まれる周波数分布を算出するための算術演算手段と、算術演算手段により求められた周波数分布に基づいて、トルク相の開始時刻を算出するための算出手段とを含む。
【0021】
第1の発明によると、自動変速機を搭載した車両において変速指令に基づく変速制御(特にパワーオンアップシフト)が実行されるときには、検知手段により自動変速機の入力軸回転数または出力軸回転数が検知され、時系列にしたがって記憶手段に記憶される。トルク相が終了する(イナーシャ相が始まる)あるいは変速制御自体が終了すると、時系列にしたがって記憶された信号値に基づいて、各時刻における信号値に含まれる周波数分布を算出される。このとき、たとえばウェーブレット変換などの算術演算が用いられる。算出手段は、ウェーブレット変換された周波数分布に基づいて、たとえば特定の周波数帯域のピーク値が現れた時刻(変速開始からの時刻)をトルク相の開始時刻として算出する。このようにすると、少なくとも変速開始からトルク相の終了までの自動変速機の入力軸または出力軸の回転数をデータロギングしておいて、それを周波数分布した結果に基づいて、トルク相の開始時刻を算出できる。トルク相の開始時はセンサ等で検知するのは困難であるが、データロギングした変速時のデータを周波数分析することで、トルク相の開始時刻を正確に算出することができる。その結果、パワーオンアップシフト時などにおけるトルク相の開始を的確に判断することができるトルク相開始検出装置を提供することができる。さらには、トルク相の開始を的確に判断することができると、それに基づいて自動変速機を構成する摩擦係合要素の経時的な劣化を的確に判断したり、上述したクラッチtoクラッチ変速におけるトルク干渉を回避する制御を行なったりすることができるようになる。
【0022】
第2の発明に係るトルク相開始検出装置は、第1の発明の構成に加えて、周波数分布の算出を、トルク相の終了後に実行するように算術演算手段を制御するための制御手段をさらに含む。
【0023】
第2の発明によると、算術演算手段による周波数分布の算出は、自動変速機の入力軸または出力軸の回転数データをロギングした後に行なわれ、リアルタイムで行なわれるものではない。そのため、リアルタイムで回転数をモニタリングしてフィルタ処理した信号をしきい値を比較してトルク相の開始を判断する処理の場合に発生する問題(変速中に発生した車両の振動に基づく誤判定)を回避でき、トルク相の開始時刻を正確に算出することができる。
【0024】
第3の発明に係るトルク相開始検出装置においては、第1または2の発明の構成に加えて、算出手段は、周波数分布におけるピーク値が発生した時刻を、トルク相の開始時刻として算出するための手段を含む。
【0025】
第3の発明によると、周波数分布におけるピーク値(2〜3Hz程度)が発生した時刻をトルク相の開始時刻として処理できる。
【0026】
第4の発明に係るトルク相開始検出装置においては、第3の発明の構成に加えて、算出手段は、周波数分布におけるピーク値が発生した時刻が1つである場合にのみ、トルク相の開始時刻を算出するための手段を含む。
【0027】
第4の発明によると、たとえば、変速中に発生した車両の振動に基づき、ピーク値が2つ以上発生すると、算出手段は、トルク相の開始時刻を算出しない。トルク相の開始は変速時に唯一1回だけ発生するものであるので、2つ以上のピークが発生した場合には、トルク相の開始時刻を的確に判断できないという誤判断のおそれがあるので、この誤判断を回避することができる。
【0028】
第5の発明に係るトルク相開始検出装置は、第1〜4のいずれかの発明の構成に加えて、算出手段により過去に算出されたトルク相の開始時刻を記憶するための手段と、記憶された過去に算出されたトルク相の開始時刻と、現在算出されたトルク相の開始時刻とに基づいて、現在算出されたトルク相の開始時刻の正確性を判断するための判断手段とをさらに含む。
【0029】
第5の発明によると、その自動変速機において同じような条件のもとで行なわれた変速時に算出された過去のトルク相の開始時刻を記憶してデータベース化しておく。変速動作が実行されるごとに、算出されたトルク相の開始時刻がこのデータベースに蓄積された同じような条件の変速時におけるトルク相の開始時刻を大きく乖離するようであれば、現在算出されたトルク相開始時刻は正確ではないと判断することができる。
【0030】
第6の発明に係るトルク相開始検出装置においては、第5の発明の構成に加えて、判断手段は、過去に算出されたトルク相の開始時刻と、現在算出されたトルク相の開始時刻との相違量を、予め定められたしきい値と比較することにより、正確性を判断するための手段を含む。
【0031】
第6の発明によると、判断手段により、現在算出されたトルク相の開始時刻とデータベース化された過去のトルク相の開始時刻との乖離量が、予め定められたしきい値よりも大きいと現在算出されたトルク相開始時刻は正確ではないと判断し、しきい値よりも小さいと現在算出されたトルク相開始時刻は正確であると判断することができる。これにより、トルク相の開始時刻を正確に算出することができる。
【0032】
第7の発明に係るトルク相開始検出装置においては、第6の発明の構成に加えて、しきい値は、変速開始からトルク相開始までの時間に基づいて設定されるものである。
【0033】
第7の発明によると、しきい値は、固定値ではなく、変速開始からトルク相開始までの時間に基づいて設定され、たとえば、時間が長くなる場合と時間が短くなる場合とで異ならせておく。このようにすると、より正確にトルク相の開始時刻を算出することができる。
【0034】
第8の発明に係るトルク相開始検出装置においては、第1〜7のいずれかの発明の構成に加えて、算術演算手段は、ウェーブレット変換を用いて、周波数分布を算出するための手段を含む。
【0035】
第8の発明によると、時間軸に対して変化する波形を解析するウェーブレット変換を用いて算術演算を行ない、周波数分布を求め、周波数分布のピーク値から、トルク相開始時刻を的確に算出することができる。
【0036】
第9の発明に係るトルク相開始検出方法は、自動変速機の入力軸回転数または出力軸回転数を検知する検知ステップと、変速開始からトルク相の終了までの間における回転数の信号値を時系列にしたがって記憶する記憶ステップと、時系列にしたがって記憶された信号値に基づいて、各時刻における信号値に含まれる周波数分布を算出する算術演算ステップと、算術演算ステップにて求められた周波数分布に基づいて、トルク相の開始時刻を算出する算出ステップとを含む。
【0037】
第9の発明によると、自動変速機を搭載した車両において変速指令に基づく変速制御が実行されるときには、検知ステップにて自動変速機の入力軸回転数または出力軸回転数が検知され、時系列にしたがって記憶ステップにて記憶される。トルク相あるいは変速制御自体が終了すると、時系列にしたがって記憶された信号値に基づいて、各時刻における信号値に含まれる周波数分布を算出される。このとき、たとえばウェーブレット変換などの算術演算が用いられる。算出ステップにて、ウェーブレット変換された周波数分布に基づいて、たとえば特定の周波数帯域のピーク値が現れた時刻(変速開始からの時刻)をトルク相の開始時刻として算出する。このようにすると、少なくとも変速開始からトルク相の終了までの自動変速機の入力軸または出力軸の回転数をデータロギングしておいて、それを周波数分布した結果に基づいて、トルク相の開始時刻を算出できる。トルク相の開始時はセンサ等で検知するのは困難であるが、データロギングした変速時のデータを周波数分析することで、トルク相の開始時刻を正確に算出することができる。その結果、パワーオンアップシフト時などにおけるトルク相の開始を的確に判断することができるトルク相開始検出方法を提供することができる。
【0038】
第10の発明に係るトルク相検出方法は、第9の発明の構成に加えて、周波数分布の算出を、トルク相の終了後に実行するように算術演算ステップを制御する制御ステップをさらに含む。
【0039】
第10の発明によると、算術演算ステップにて行なわれる周波数分布の算出は、自動変速機の入力軸または出力軸の回転数データをロギングした後に行なわれ、リアルタイムで行なわれるものではない。そのため、リアルタイムで回転数をモニタリングしてフィルタ処理した信号をしきい値を比較してトルク相の開始を判断する処理の場合に発生する問題(変速中に発生した車両の振動に基づく誤判定)を回避でき、トルク相の開始時刻を正確に算出することができる。
【0040】
第11の発明に係るトルク相検出方法においては、第9または10の発明の構成に加えて、算出ステップは、周波数分布におけるピーク値が発生した時刻を、トルク相の開始時刻として算出するステップを含む。
【0041】
第11の発明によると、周波数分布におけるピーク値(2〜3Hz程度)が発生した時刻をトルク相の開始時刻として処理できる。
【0042】
第12の発明に係るトルク相検出方法においては、第11の発明の構成に加えて、算出ステップは、周波数分布におけるピーク値が発生した時刻が1つである場合にのみ、トルク相の開始時刻を算出するステップを含む。
【0043】
第12の発明によると、たとえば、変速中に発生した車両の振動に基づき、ピーク値が2つ以上発生すると、算出ステップにて、トルク相の開始時刻が算出されない。トルク相の開始は変速時に唯一1回だけ発生するものであるので、2つ以上のピークが発生した場合には、トルク相の開始時刻を的確に判断できないという誤判断のおそれがあるので、この誤判断を回避することができる。
【0044】
第13の発明に係るトルク相検出方法は、第9〜12のいずれかの発明の構成に加えて、算出ステップにて過去に算出されたトルク相の開始時刻を記憶するステップと、記憶された過去に算出されたトルク相の開始時刻と、現在算出されたトルク相の開始時刻とに基づいて、現在算出されたトルク相の開始時刻の正確性を判断する判断ステップとをさらに含む。
【0045】
第13の発明によると、その自動変速機において同じような条件のもとで行なわれた変速時に算出された過去のトルク相の開始時刻を記憶してデータベース化しておく。変速動作が実行されるごとに、算出されたトルク相の開始時刻がこのデータベースに蓄積された同じような条件の変速時におけるトルク相の開始時刻を大きく乖離するようであれば、現在算出されたトルク相開始時刻は正確ではないと判断することができる。
【0046】
第14の発明に係るトルク相検出方法においては、第13の発明の構成に加えて、判断ステップは、過去に算出されたトルク相の開始時刻と、現在算出されたトルク相の開始時刻との相違量を、予め定められたしきい値と比較することにより、正確性を判断するステップを含む。
【0047】
第14の発明によると、判断ステップにて、現在算出されたトルク相の開始時刻とデータベース化された過去のトルク相の開始時刻との乖離量が、予め定められたしきい値よりも大きいと現在算出されたトルク相開始時刻は正確ではないと判断し、しきい値よりも小さいと現在算出されたトルク相開始時刻は正確であると判断することができる。これにより、トルク相の開始時刻を正確に算出することができる。
【0048】
第15の発明に係るトルク相検出方法においては、第14の発明の構成に加えて、しきい値は、変速開始からトルク相開始までの時間に基づいて設定されるものである。
【0049】
第15の発明によると、しきい値は、固定値ではなく、変速開始からトルク相開始までの時間に基づいて設定され、たとえば、時間が長くなる場合と時間が短くなる場合とで異ならせておく。このようにすると、より正確にトルク相の開始時刻を算出することができる。
【0050】
第16の発明に係るトルク相検出方法においては、第9〜15のいずれかの発明の構成に加えて、算術演算ステップは、ウェーブレット変換を用いて、周波数分布を算出するステップを含む。
【0051】
第16の発明によると、時間軸に対して変化する波形を解析するウェーブレット変換を用いて算術演算を行ない、周波数分布を求め、周波数分布のピーク値から、トルク相開始時刻を的確に算出することができる。
【0052】
第17の発明に係るプログラムは、第9〜16のいずれかに記載のトルク相開始検出方法をコンピュータを用いて実行するものである。
【0053】
第17の発明によると、コンピュータを用いて、時間軸に対して変化する波形を解析するウェーブレット変換を用いて算術演算を行ない、周波数分布を求め、周波数分布のピーク値から、トルク相の開始時刻を的確に算出することができる。
【0054】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0055】
<第1の実施の形態>
本実施の形態に係るトルク相開始検出システムを説明する前に、このシステムが適用される車両、特にパワートレーンについて説明する。
【0056】
図1を参照して、本実施の形態に係るトルク相開始検出システムを含む車両のパワートレーンについて説明する。本発明に係るトルク相開始システムは、図1に示すECT(Electronic Controlled Automatic Transmission)_ECU1020により実現される。本実施の形態では、自動変速機を流体継手としてトルクコンバータを備え、遊星歯車式変速機構を有する自動変速機として説明する。
【0057】
図1に示すように、この車両のパワートレーンは、エンジン100と、トルクコンバータ200と、自動変速機300と、ECU1000とから構成される。
【0058】
エンジン100の出力軸は、トルクコンバータ200の入力軸に接続され、トルクコンバータ200の出力軸は、自動変速機300の入力軸に接続される。
【0059】
エンジン100の出力軸回転数NE(エンジン回転数NE)は、エンジン回転数センサ400により検知される。エンジン100とトルクコンバータ200とは回転軸により連結されている。したがって、エンジン回転数センサ400により検知されるエンジン100の出力軸回転数NE(エンジン回転数NE)とトルクコンバータ200の入力軸回転数(ポンプ回転数)とは同じである。
【0060】
トルクコンバータ200は、入力軸と出力軸とを直結状態にするロックアップクラッチ210と、入力軸側のポンプ羽根車220と、出力軸側のタービン羽根車230と、ワンウェイクラッチ250を有し、トルク増幅機能を発現するステータ240とから構成される。トルクコンバータ200と自動変速機300とは、回転軸により接続される。
【0061】
トルクコンバータ200の出力軸回転数NT(タービン回転数NT)は、タービン回転数センサ410により検知される。トルクコンバータ200と自動変速機300とは回転軸により連結されている。したがって、タービン回転数センサ410により検知されるトルクコンバータ200の出力軸回転数NTと自動変速機300の入力軸回転数(NIN)とは同じである。
【0062】
自動変速機300の出力軸回転数NOUTは、出力軸回転数センサ420により検知される。
【0063】
図2に自動変速機300の作動表を示す。図2に示す作動表によると、摩擦要素であるクラッチ要素(図中のC1〜C4)や、ブレーキ要素(B1〜B4)、ワンウェイクラッチ要素(F0〜F3)が、どのギヤ段の場合に係合および解放されるかを示している。車両の発進時に使用される1速時には、クラッチ要素(C1)、ワンウェイクラッチ要素(F0、F3)が係合する。
【0064】
これらのパワートレーンを制御するECU1000は、エンジン100を制御するエンジンECU1010と、自動変速機300を制御するECT(Electronic Controlled Automatic Transmission)_ECU1020と、VSC(Vehicle Stability Control)_ECU1030とを含む。
【0065】
ECT_ECU1020には、タービン回転数センサ410からタービン回転数NT(自動変速機300の入力軸回転数NIN)を表わす信号が、出力軸回転数センサ420から自動変速機300の出力軸回転数NOUTを表わす信号が入力される。また、ECT_ECU1020には、エンジンECU1010から、エンジン回転数センサ400にて検知されたエンジン回転数NEを表わす信号と、スロットルポジションセンサにて検知されたスロットル開度を表わすスロットル開度信号とが入力される。
【0066】
これら回転数センサは、トルクコンバータ200の入力軸、トルクコンバータ200の出力軸および自動変速機300の出力軸に取り付けられた回転検出用ギヤの歯に対向して設けられている。これらの回転数センサは、トルクコンバータ200の入力軸、トルクコンバータ200の出力軸および自動変速機300の出力軸の僅かな回転の検出も可能なセンサであり、たとえば、一般的に半導体式センサと称される磁気抵抗素子を使用したセンサである。
【0067】
さらに、ECT_ECU1020には、VSC_ECU1030から、Gセンサにて検知された車両が停止した登坂路の勾配を表わす車両加速度信号(Gセンサ信号)と、ブレーキ圧を表わすブレーキ信号とが入力される。
【0068】
ECT_ECU1020から、自動変速機300に、リニアソレノイド(SLT、SLU)信号およびトランスミッションソレノイド信号が出力される。図2に示すクラッチ要素(C1〜C4)や、ブレーキ要素(B1〜B4)、ワンウェイクラッチ要素(F0〜F3)を、係合させたり解放させたりする。たとえば、5速から6速へのアップシフト時においては、クラッチC3が係合から解放されるように締結圧が制御され、ブレーキB2が解放から係合されるように締結圧が制御される。実際には、ECT_ECU1020は、ソレノイド制御信号を油圧回路のリニアソレノイドバルブに出力している。ECT_ECU1020は、後述する目標の油圧(目標の締結圧を実現する油圧)を算出し、その目標油圧等により油圧サーボへの油圧を算出してソレノイドバルブに出力する。
【0069】
油圧回路は、たとえば2個のリニアソレノイドバルブ(SLT、SLU)を有するとともに、自動変速機のプラネタリギヤユニットの伝達経路を切換えて、前進6速、後進1速の変速段を達成する複数の摩擦係合要素(クラッチおよびブレーキ)を係合及び解放する複数の油圧サーボを有する。また、リニアソレノイドバルブの入力ポートにはソレノイドモジュレータ圧が供給されており、これらリニアソレノイドバルブの出力ポートからの制御油圧がそれぞれプレッシャコントロールバルブの制御油室に供給されている。プレッシャコントロールバルブは、ライン圧がそれぞれ入力ポートに供給されており、制御油圧にて調圧された出力ポートからの調圧が、それぞれシフトバルブを介して適宜各油圧サーボに供給される。
【0070】
このような油圧回路は、一例であって、実際には、自動変速機に対応して油圧サーボは多数備えられており、これら油圧サーボへの油圧を切換えるシフトバルブも多数備えている。また、油圧サーボは、シリンダにオイルシールにより油密状に嵌合するピストンを有しており、そのピストンは、油圧室に作用するプレッシャコントロールバルブからの調圧油圧に基づき、戻しスプリングに抗して移動し、外側摩擦プレートおよび内側摩擦材を接触する。その摩擦プレートおよび摩擦材は、クラッチのみならずブレーキも同様である。
【0071】
このようなクラッチやブレーキは、摩擦係合要素とも呼ばれ、経時的な変化により劣化するものである。
【0072】
本実施の形態に係るトルク相開始検出システムは、ECT_ECU1020に入力される、自動変速機300の入力軸回転数(NIN)または出力軸回転数(NOUT)を、変速動作の開始から、少なくともトルク相の終了(イナーシャ相の開始)まで、時系列にしたがってデータロギングしておいて、トルク相の終了後(イナーシャ相の開始後)、トルク相の開始時刻を算出する。このとき、ECU_ECT1020では、ウェーブレット変換を用いて周波数解析を行ない、その解析結果に基づいて、トルク相の開始時刻を算出する。
【0073】
図3を参照して、本実施の形態に係るトルク相開始システムにおいて、ECT_ECU1020において実行されるトルク相開始時刻算出プログラムの制御構造について説明する。
【0074】
ステップ(以下、ステップをSと略す。)100にて、ECT_ECU1020は、変速開始が実行されたか否かを判断する。特にこのとき、パワーオンアップシフトであるか否かが判断される。この判断は、ECT_ECU1020に入力される変速指令信号に基づいて行なわれる。変速開始を検知すると(S100にてYES)、処理はS110へ移される。もしそうでないと(S100にてNO)、処理はS100へ戻され、パワーオンアップシフト変速が開始されるまで待つ。
【0075】
S110にて、ECT_ECU1020は、出力軸回転数NOUTを記憶する。この出力軸回転数NOUTは、自動変速機300の出力軸の回転数を検知する出力軸回転数センサ420からECT_ECU1020に入力される信号に基づいて検知されECT_ECU1020の内部に設けられたメモリに記憶される。また、イナーシャ相が始まっていないので、自動変速機300の出力軸回転数NOUTと自動変速機300の入力軸回転数NINとは同じであるため、自動変速機300の出力軸回転数NOUTではなく、自動変速機300の入力軸回転数NINであってもよい。
【0076】
S120にて、ECT_ECU1020は、トルク相が終了したか否かを判断する。すなわち、イナーシャ相が開始されたか否かを判断することと同じであり、ECT_ECU1020に入力される自動変速機300の入力軸回転数NINおよび出力軸回転数NOUTの変化に基づいてトルク相の終了が判断される。トルク相が終了したと判断されると(S120にてYES)、処理はS130へ移される。もしそうでないと(S120にてNO)、処理はS110へ戻され、出力軸回転数NOUTがメモリに記憶される。すなわち、パワーオンアップシフトの変速開始からトルク相が終了するまでの間、自動変速機の出力軸回転数NOUTが時系列に従ってメモリに記憶される。
【0077】
S130にて、ECT_ECU1020は、メモリに記憶した出力軸回転数NOUTを周波数解析する。このとき、周波数解析としてウェーブレット変換が用いられる。S140にて、ECT_ECU1020は、規定周波数帯域(2〜3Hz)でピークを持つ時刻を、トルク相開始時刻として算出する。S150にて、ECT_ECU1020は、算出されたトルク相開始時刻をメモリに記憶する。
【0078】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係るトルク相検出処理の動作について説明する。
【0079】
パワーオンアップシフトが開始されると(S100にてYES)、出力軸回転数センサ420により検知された自動変速機300の出力軸回転数NOUTがECT_ECU1020のメモリに記憶される。この出力軸回転数NOUTの記憶は、時系列に従って、トルク相が終了したと判断されるまで繰返し行なわれる。このとき、図4(A)に示すように時間軸に対して自動変速機300の出力軸回転数が記憶される。すなわち、図4(A)に示すように自動変速機300の出力軸回転数はなだらかに増加する傾向を有する。
【0080】
トルク相が終了したと判断されると(S120にてYES)、ECT_ECU1020のメモリに記憶された出力軸回転数NOUTを周波数解析する。このとき、図4(B)に示すようにウェーブレット変換された結果が求められる。図4(B)に示すように、横軸を時間軸、縦軸を周波数軸として、特定の周波数帯域において強度が大きい部分(すなわちその帯域における周波数成分を多く含む)がピークが1つだけ現われる場合、その時刻をトルク相開始時刻として算出する(S140)。
【0081】
このとき、図4(B)に示すように、ウェーブレット変換の結果時間軸に対する周波数のピークが2つ以上現われる場合には、トルク相開始時刻を算出することを行なわない。
【0082】
算出されたトルク相開始時刻はECT_ECU1020のメモリに記憶される。このとき図4(B)と図4(C)とに示すように、時間に対する周波数の関係において特定周波数帯域における強度が大きい部分がトルク相が開始された部分であって、自動変速機300の出力トルクが変化するときである。図4(C)に示す自動変速機300の出力トルクは実際にセンサで検知することが困難であるため、従来はトルク相の開始タイミングを正確に検出することが困難であった。しかし、本実施の形態に係るECT_ECU1020においては、図3に示すプログラムを実行することにより、トルク相の開始を的確に算出することができる。
【0083】
以上のようにして、本実施の形態に係るトルク相開始検出システムによると、パワーオンアップシフトが開始されるとトルク相が終了するまで自動変速機の出力軸回転数を時系列に従って記憶する。トルク相が終了すると、記憶した自動変速機の出力軸回転数をウェーブレット変換を用いて周波数解析し、規定の周波数帯域でピークを持つ時刻をトルク相の開始時刻として算出する。そのため、少なくとも変速開始からトルク相の終了までの自動変速機の出力軸の回転数をデータロギングしておいてそれを周波数分析した結果に基づいて、トルク相の開始時刻を算出するため、トルク相の開始時はセンサで直接検知することが困難であることに加えて、リアルタイムでトルク相の開始時刻をフィルタリング処理することにより正確に算出できないことに対して、パワーオンアップシフト時などにおけるトルク相の開始を的確に判断することができる。さらには、トルク相の開始を的確に判断することができるため、前述した自動変速機を構成する摩擦係合要素であるクラッチやブレーキの経時的な劣化を的確に判断したり、クラッチtoクラッチ変速におけるトルク干渉を回避するように制御することができるようになる。
【0084】
<第2の実施の形態>
以下、本発明の第2の実施の形態に係るトルク相検出開始システムについて説明する。本実施の形態に係るトルク相検出開始システムは、前述の第1の実施の形態に係るトルク相開始検出システムのプログラムとは異なるプログラムを実行する点が特徴である。それ以外のパワートレーンの構成については前述の第1の実施の形態と同じであるため、ここでの詳細な説明は繰返さない。
【0085】
図5を参照して、本実施の形態に係るトルク相開始システムにおいて、ECT_ECU1020において実行されるトルク相開始時刻算出プログラムの制御構造について説明する。なお、図5に示すフローチャートの中で、前述の図3に示したフローチャートと同じ処理については同じステップ番号を付してある。それらについての処理も同じである。したがって、それらについての詳細な説明はここでは繰返さない。
【0086】
S200にて、ECT_ECU1020は、S140にて算出したトルク相開始時刻について、前回算出した判定時刻からとの差が小さいか否かを判断する。このとき、S140にて算出したトルク相開始時刻が、前回算出したトルク相開始時刻と比較して大きい場合と小さい場合とがあるが、それぞれについてしきい値を定め、そのしきい値内にある場合には、前回算出した判定時刻からの差が小さいと判断される。すなわち、第1のしきい値としてαを、第2のしきい値としてβを設定しておき、今回算出されたトルク相の開始時刻が、前回算出されたトルク相開始時刻からαより引いたものよりも大きく、かつ今回算出されたトルク相開始時刻が、前回算出されたトルク相開始時刻にβを加算した値よりも小さい場合には、S140にて算出されたトルク相開始時刻は、前回算出したトルク相開始時刻からの差が小さいと判断される。S140にて算出されたトルク相開始時刻が、前回算出されたトルク相開始時刻からの差が小さいと(S200にてYES)、処理はS210へ移される。もしそうでないと(S200にてNO)、この処理は終了する。
【0087】
S210にて、ECT_ECU1020は、算出されたトルク相開始時刻をメモリに記憶する。
【0088】
以上のようにして、本実施の形態に係るトルク相開始検出システムによると、前回算出したトルク相の開始時刻からあまりにも大きく乖離しているトルク相開始時刻が算出された場合には、その算出されたトルク相の開始時刻を採用しないようにしている。そのため、変速中に、キャッツアイなどに乗り上げて車両に振動が生じて、その振動によりトルク相開始時刻であることが判断されたとしても、それをトルク相開始時刻として算出することを回避することができる。その結果、的確にトルク相の開始時刻を算出することができる。
【0089】
<第3の実施の形態>
以下、本発明の第3の実施の形態に係るトルク相開始検出システムについて説明する。なお、本実施の形態に係るトルク相開始検出システムも、前述の第2の実施の形態と同様、ECT_ECU1020で実行されるプログラムに特徴がある。車両のパワートレーンの構成については、前述の第2の実施の形態と同様に、前述の第1の実施の形態と同じである。したがって、それらについての詳細な説明はここでは繰返さない。
【0090】
図6を参照して、本実施の形態に係るトルク相開始システムにおいて、ECT_ECU1020において実行されるトルク相開始時刻算出プログラムの制御構造について説明する。なお、図6に示すフローチャートの中で、前述の図1に示したフローチャートと同じ処理については同じステップ番号を付してある。それらについての処理も同じである。したがって、それらについての詳細な説明はここでは繰返さない。
【0091】
S300にて、ECT_ECU1020は、S140にて算出されたトルク相開始時刻が、トルク相開始時刻の平均値からとの差が小さいか否かを判断する。この判断は、予め定められた許容範囲内にあるか否かにより行なわれる。すなわち、トルク相開始時刻の平均値をメモリに記憶しておいて、その平均値から予め定められた許容範囲内にあると、S140にて算出されたトルク相開始時刻は、トルク相開始時刻の平均値からの差が小さいと判断される。S140にて算出されたトルク相開始時刻がトルク相開始時刻の平均値からの差が小さいと判断されると(S300にてYES)、処理はS310へ移される。もしそうでないと(S300にてNO)、この処理は終了する。
【0092】
S310にて、ECT_ECU1020は、算出されたトルク相開始時刻を含めて、トルク相開始時刻の平均値を算出する。算出されたトルク相開始時刻の平均値は、ECT_ECU1020のメモリに記憶される。
【0093】
以上のようにして、本実施の形態に係るトルク相開始検出システムによると、トルク相開始時刻を平均したトルク相開始時刻の平均値を算出してメモリに記憶しておく。トルク相開始時刻として算出された時刻が、この平均値から大きく乖離している場合にはその算出されたトルク相開始時刻が正しく算出されていないと判断して平均値を算出するデータとして採用しない。その結果、より正確にトルク相開始時刻を算出することができる。
【0094】
なお、第2の実施の形態および第3の実施の形態において、トルク相開始時刻を前回算出されたトルク相開始時刻や、トルク相開始時刻の平均値と最新に算出されたトルク相開始時刻とを比較することについて記述したが、これらの比較においては、同じような条件の下で変速された場合のトルク相開始時刻同士を比較するものである。
【0095】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係るトルク相開始検出システムを搭載した車両の制御ブロック図である。
【図2】図1に示す自動変速機の作動表である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るトルク相開始検出システムで実行されるトルク相開始時刻算出プログラムの制御構造を示す図である。
【図4】トルク相開始時刻算出処理を説明するための図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るトルク相開始検出システムで実行されるトルク相開始時刻算出プログラムの制御構造を示す図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係るトルク相開始検出システムで実行されるトルク相開始時刻算出プログラムの制御構造を示す図である。
【符号の説明】
100 エンジン、200 トルクコンバータ、210 ロックアップクラッチ、220 ポンプ羽根車、230 タービン羽根車、240 ステータ、250 ワンウェイクラッチ、300 自動変速機、310 入力クラッチ、400エンジン回転数センサ、410 タービン回転数センサ、420 出力軸回転数センサ、1000 ECU、1010 エンジンECU、1020 ECT_ECU、1030 VSC_ECU。
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両に搭載された自動変速機の制御に関し、特に、アップシフト変速時の制御に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両に搭載される自動変速機は、たとえば、エンジンからの出力が入力されるトルクコンバータと、そのトルクコンバータからの出力によって駆動される変速歯車機構(たとえば遊星歯車式変速機構)とが組み合わされて構成される。クラッチやブレーキ等の複数の摩擦係合要素を選択的に係合および解放させることにより、この変速歯車機構の動力伝達経路を切り換えて、運転者の要求や運転状態に応じて所定の変速段へ自動的に変速させる。このような自動変速機においては、変速用の摩擦係合要素に加えて、エンジンブレーキ用の摩擦係合要素が備えられる。このエンジンブレーキ用摩擦係合要素は、通常、駆動時にのみ動力を伝達するものであって、1レンジや2レンジ等の所定の変速段で締結されることにより、それらの変速段での減速走行時にエンジンブレーキを作動させる。
【0003】
このような自動変速機において、異なる摩擦係合要素を締結する制御と解放する制御とを同時に行なう摩擦係合要素の掛け替えによって変速(いわゆるクラッチtoクラッチ変速)を行なう場合がある。このようなクラッチtoクラッチ変速においては、両方のクラッチの係合のタイミングと解放のタイミングとをバランスさせて良好な変速特性(たとえば、運転者が感じる良好な変速フィーリング)を実現させている。
【0004】
クラッチtoクラッチ変速において、解放側のクラッチを解放する程度や、係合側のクラッチを係合する程度や、エンジンのトルクダウンの程度などが十分にチューニングされて、初めて良好な変速フィーリングを実現できる。
【0005】
以下に、自動変速機における、前進第1速度段(1st)から前進第2速度段(2nd)へのパワーオンアップシフト(エンジン出力で車両を駆動している最中におけるアップシフト)が行なわれる場合について説明する。
【0006】
エンジンと自動変速機とを有するパワートレーンにおいて、自動変速機がECU(Electronic Control Unit)により制御される。自動変速機は、エンジンの出力軸にその入力軸が接続されたトルクコンバータと、トルクコンバータの出力軸にその入力軸が接続された遊星歯車式変速機構とから構成される。
【0007】
ECUから自動変速機に変速開始指令が発せられる時点以前の1stの状態では、解放側クラッチの油圧は所定の最高値であってその解放側クラッチの状態は係合状態であり、他方、係合側クラッチの油圧は最低値でありその係合側クラッチの状態は解放状態である。ECUから自動変速機に変速開始指令が出力されると、係合側指令値は、係合側油圧を可及的速やかに上昇させるために、所定の一定時間が経過したときに滑らかに変速できるように設定された初期値とされる。他方、解放側指令値は、変速開始指令の発生から解放待機時間が経過するまでの間は指令が出力される前の状態が維持され、解放待機時間が経過したとき、解放側油圧を可及的速やかに降下させる。
【0008】
このようにして、係合側クラッチのピストン空走が終わり係合側油圧が上昇を始めたとき、係合側クラッチに伝達トルクが発生し、その後、係合側クラッチの伝達トルクは、係合側油圧の上昇に比例して増加する。出力軸トルクの変化率とタービン回転数NTの変化率とは比例関係にある。他方、解放側油圧が減少しているが、解放側クラッチはまだ係合しており、滑りは発生していない。解放側クラッチの伝達トルクは、係合側クラッチの伝達トルクの増加に伴い、係合側クラッチの伝達トルクの増加分だけ減少する。
【0009】
解放側クラッチの伝達トルクがゼロとなり解放側クラッチが滑り始めたとき、タービン回転数NTが出力軸回転数NOUTと1stのギヤ比とにより決まる回転数よりも低くなる。タービン回転数NTが出力軸回転数NOUTと1stのギヤ比とにより決まる回転数よりも低くなったことが検出されたときから、タービン回転数NTが出力軸回転数NOUTと2ndのギヤ比とにより決まる回転数に一致するときまでは、タービン回転数NTの変化率が所定変化率を保ちつつタービン回転数NTが減速するように、係合側指令値がフィードバック制御される。
【0010】
タービン回転数NTが出力軸回転数NOUTと2ndのギヤ比とにより決まる回転数に一致したことが検出されたとき、係合側クラッチの係合油圧が所定の最高値まで上昇され、変速終了となる。
【0011】
係合側クラッチの伝達トルクが発生した時点からタービン回転数NTが出力軸回転数NOUTと1stのギヤ比とにより決まる回転数よりも低くなった時点までの期間をトルク相と称し、タービン回転数NTが出力軸回転数NOUTと1stのギヤ比とにより決まる回転数よりも低くなった時点からタービン回転数NTが出力軸回転数NOUTと2ndのギヤ比とにより決まる回転数に一致した時点までの期間をイナーシャ相と称す。
【0012】
このトルク相からイナーシャ相にかけて出力軸トルクの変化が急激になると大きな変速ショックが発生する。解放側クラッチの解放に対して係合側クラッチの係合が早過ぎるとき(トルク干渉)である。このようなトルク干渉は、以下のような要因による。車両用自動変速機の構成要素を大量に生産する場合、遊星歯車式変速機構を構成するクラッチやブレーキに発生するピストン空走距離のばらつきや、制御指令値が出力される電磁弁の特性(指令値と油圧との相関)のばらつきが不可避となる。また、解放側クラッチの解放状態および係合側クラッチの係合状態の実際にセンシングするのが困難である。これらのために、トルク相やイナーシャ相を的確に把握することが困難であるために、構成部品が個体差を有する自動変速機のクラッチtoクラッチ変速を伴うパワーオンアップシフトにおいて、変速ショックを発生させないようにすることが課題となっている。
【0013】
特開2000−161479号公報(特許文献1)およびアイシンテクニカルレビュー Vol.3 No.1 1999(非特許文献1)は、このような課題を解決するために、トルク相の開始を的確に把握する技術を開示する。
【0014】
これらの文献に開示されたトルク相開始検出方法は、クラッチtoクラッチ変速の際の変速ギヤ部の入力軸(タービン回転数NT)と出力軸(出力軸回転数NOUT)のいずれか一方の回転数を検出するステップと、検出した回転数から係合側摩擦係合要素の伝達トルクの発生に伴う所定周波数以上の変化成分を分離および抽出するステップと、抽出した変化成分の低下量からトルク相開始を判定するステップとを備える。
【0015】
これらの文献に開示されたトルク相開始検出方法は、係合側クラッチの伝達トルクの発生(トルク相開始)とともにタービン回転数NTも変化するが、このタービン回転数NTの変化には、エンジン回転数変化車両の加速度、クラッチの係合状態などの様々な要因を含むことに着目して、このタービン回転数NTの周波数からトルク相の開始を抽出する。「時間−周波数分析」に優れたウェーブレット変換を適用して、変速開始からトルク相開始までのタービン回転数NTをウェーブレット変換して、係合側クラッチによる伝達トルクの発生に伴いタービン回転数NTが変化し、同じタイミングでピーク値がウェーブレット変換結果に現れる。このピークからの低下に基づいて、周波数帯域を設定してバンドパスフィルタを用いてフィルタリングした回転数信号を用いてリアルタイムで、トルク相開始を判定する。これにより、出力回転速度変化率または入力軸回転速度変化率からトルク相開始を検出する場合に比べて、トルク相開始を的確に検出できる。
【0016】
【特許文献1】
特開2000−161479号公報
【0017】
【非特許文献1】
アイシンテクニカルレビュー Vol.3 No.1 1999
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した文献に記載された技術では、変速制御中に自動変速機の出力軸回転数をモニタリングして、その値をバンドバスフィルタを用いて特定の特定の周波数成分(たとえば2〜3Hz)のみを抽出してトルク相の開始を判断する。そのため、トルク相開始を判定するために設けたしきい値を一旦は越えた後に再度下回った時には、誤判定したことになる。車両の走行中に行なわれるパワーオンアップシフトでは、車両の走行時に発生する振動やその他車両以外の要因により発生する振動(たとえばキャッツアイに乗り上げた時の振動)等によりリアルタイムでフィルタリングした信号と、しきい値とに基づいてトルク相の開始を判断していた場合には、誤検出する可能性がある。
【0019】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、パワーオンアップシフトにおけるトルク相の開始を的確に判断することができる、トルク相開始検出装置、トルク相開始検出方法およびその方法をコンピュータに実現するためのプログラムを提供することである。
【0020】
【課題を解決するための手段】
第1の発明に係るトルク相開始検出装置は、自動変速機の入力軸回転数または出力軸回転数を検知するための検知手段と、変速開始からトルク相の終了までの間における回転数の信号値を時系列にしたがって記憶するための記憶手段と、時系列にしたがって記憶された信号値に基づいて、各時刻における信号値に含まれる周波数分布を算出するための算術演算手段と、算術演算手段により求められた周波数分布に基づいて、トルク相の開始時刻を算出するための算出手段とを含む。
【0021】
第1の発明によると、自動変速機を搭載した車両において変速指令に基づく変速制御(特にパワーオンアップシフト)が実行されるときには、検知手段により自動変速機の入力軸回転数または出力軸回転数が検知され、時系列にしたがって記憶手段に記憶される。トルク相が終了する(イナーシャ相が始まる)あるいは変速制御自体が終了すると、時系列にしたがって記憶された信号値に基づいて、各時刻における信号値に含まれる周波数分布を算出される。このとき、たとえばウェーブレット変換などの算術演算が用いられる。算出手段は、ウェーブレット変換された周波数分布に基づいて、たとえば特定の周波数帯域のピーク値が現れた時刻(変速開始からの時刻)をトルク相の開始時刻として算出する。このようにすると、少なくとも変速開始からトルク相の終了までの自動変速機の入力軸または出力軸の回転数をデータロギングしておいて、それを周波数分布した結果に基づいて、トルク相の開始時刻を算出できる。トルク相の開始時はセンサ等で検知するのは困難であるが、データロギングした変速時のデータを周波数分析することで、トルク相の開始時刻を正確に算出することができる。その結果、パワーオンアップシフト時などにおけるトルク相の開始を的確に判断することができるトルク相開始検出装置を提供することができる。さらには、トルク相の開始を的確に判断することができると、それに基づいて自動変速機を構成する摩擦係合要素の経時的な劣化を的確に判断したり、上述したクラッチtoクラッチ変速におけるトルク干渉を回避する制御を行なったりすることができるようになる。
【0022】
第2の発明に係るトルク相開始検出装置は、第1の発明の構成に加えて、周波数分布の算出を、トルク相の終了後に実行するように算術演算手段を制御するための制御手段をさらに含む。
【0023】
第2の発明によると、算術演算手段による周波数分布の算出は、自動変速機の入力軸または出力軸の回転数データをロギングした後に行なわれ、リアルタイムで行なわれるものではない。そのため、リアルタイムで回転数をモニタリングしてフィルタ処理した信号をしきい値を比較してトルク相の開始を判断する処理の場合に発生する問題(変速中に発生した車両の振動に基づく誤判定)を回避でき、トルク相の開始時刻を正確に算出することができる。
【0024】
第3の発明に係るトルク相開始検出装置においては、第1または2の発明の構成に加えて、算出手段は、周波数分布におけるピーク値が発生した時刻を、トルク相の開始時刻として算出するための手段を含む。
【0025】
第3の発明によると、周波数分布におけるピーク値(2〜3Hz程度)が発生した時刻をトルク相の開始時刻として処理できる。
【0026】
第4の発明に係るトルク相開始検出装置においては、第3の発明の構成に加えて、算出手段は、周波数分布におけるピーク値が発生した時刻が1つである場合にのみ、トルク相の開始時刻を算出するための手段を含む。
【0027】
第4の発明によると、たとえば、変速中に発生した車両の振動に基づき、ピーク値が2つ以上発生すると、算出手段は、トルク相の開始時刻を算出しない。トルク相の開始は変速時に唯一1回だけ発生するものであるので、2つ以上のピークが発生した場合には、トルク相の開始時刻を的確に判断できないという誤判断のおそれがあるので、この誤判断を回避することができる。
【0028】
第5の発明に係るトルク相開始検出装置は、第1〜4のいずれかの発明の構成に加えて、算出手段により過去に算出されたトルク相の開始時刻を記憶するための手段と、記憶された過去に算出されたトルク相の開始時刻と、現在算出されたトルク相の開始時刻とに基づいて、現在算出されたトルク相の開始時刻の正確性を判断するための判断手段とをさらに含む。
【0029】
第5の発明によると、その自動変速機において同じような条件のもとで行なわれた変速時に算出された過去のトルク相の開始時刻を記憶してデータベース化しておく。変速動作が実行されるごとに、算出されたトルク相の開始時刻がこのデータベースに蓄積された同じような条件の変速時におけるトルク相の開始時刻を大きく乖離するようであれば、現在算出されたトルク相開始時刻は正確ではないと判断することができる。
【0030】
第6の発明に係るトルク相開始検出装置においては、第5の発明の構成に加えて、判断手段は、過去に算出されたトルク相の開始時刻と、現在算出されたトルク相の開始時刻との相違量を、予め定められたしきい値と比較することにより、正確性を判断するための手段を含む。
【0031】
第6の発明によると、判断手段により、現在算出されたトルク相の開始時刻とデータベース化された過去のトルク相の開始時刻との乖離量が、予め定められたしきい値よりも大きいと現在算出されたトルク相開始時刻は正確ではないと判断し、しきい値よりも小さいと現在算出されたトルク相開始時刻は正確であると判断することができる。これにより、トルク相の開始時刻を正確に算出することができる。
【0032】
第7の発明に係るトルク相開始検出装置においては、第6の発明の構成に加えて、しきい値は、変速開始からトルク相開始までの時間に基づいて設定されるものである。
【0033】
第7の発明によると、しきい値は、固定値ではなく、変速開始からトルク相開始までの時間に基づいて設定され、たとえば、時間が長くなる場合と時間が短くなる場合とで異ならせておく。このようにすると、より正確にトルク相の開始時刻を算出することができる。
【0034】
第8の発明に係るトルク相開始検出装置においては、第1〜7のいずれかの発明の構成に加えて、算術演算手段は、ウェーブレット変換を用いて、周波数分布を算出するための手段を含む。
【0035】
第8の発明によると、時間軸に対して変化する波形を解析するウェーブレット変換を用いて算術演算を行ない、周波数分布を求め、周波数分布のピーク値から、トルク相開始時刻を的確に算出することができる。
【0036】
第9の発明に係るトルク相開始検出方法は、自動変速機の入力軸回転数または出力軸回転数を検知する検知ステップと、変速開始からトルク相の終了までの間における回転数の信号値を時系列にしたがって記憶する記憶ステップと、時系列にしたがって記憶された信号値に基づいて、各時刻における信号値に含まれる周波数分布を算出する算術演算ステップと、算術演算ステップにて求められた周波数分布に基づいて、トルク相の開始時刻を算出する算出ステップとを含む。
【0037】
第9の発明によると、自動変速機を搭載した車両において変速指令に基づく変速制御が実行されるときには、検知ステップにて自動変速機の入力軸回転数または出力軸回転数が検知され、時系列にしたがって記憶ステップにて記憶される。トルク相あるいは変速制御自体が終了すると、時系列にしたがって記憶された信号値に基づいて、各時刻における信号値に含まれる周波数分布を算出される。このとき、たとえばウェーブレット変換などの算術演算が用いられる。算出ステップにて、ウェーブレット変換された周波数分布に基づいて、たとえば特定の周波数帯域のピーク値が現れた時刻(変速開始からの時刻)をトルク相の開始時刻として算出する。このようにすると、少なくとも変速開始からトルク相の終了までの自動変速機の入力軸または出力軸の回転数をデータロギングしておいて、それを周波数分布した結果に基づいて、トルク相の開始時刻を算出できる。トルク相の開始時はセンサ等で検知するのは困難であるが、データロギングした変速時のデータを周波数分析することで、トルク相の開始時刻を正確に算出することができる。その結果、パワーオンアップシフト時などにおけるトルク相の開始を的確に判断することができるトルク相開始検出方法を提供することができる。
【0038】
第10の発明に係るトルク相検出方法は、第9の発明の構成に加えて、周波数分布の算出を、トルク相の終了後に実行するように算術演算ステップを制御する制御ステップをさらに含む。
【0039】
第10の発明によると、算術演算ステップにて行なわれる周波数分布の算出は、自動変速機の入力軸または出力軸の回転数データをロギングした後に行なわれ、リアルタイムで行なわれるものではない。そのため、リアルタイムで回転数をモニタリングしてフィルタ処理した信号をしきい値を比較してトルク相の開始を判断する処理の場合に発生する問題(変速中に発生した車両の振動に基づく誤判定)を回避でき、トルク相の開始時刻を正確に算出することができる。
【0040】
第11の発明に係るトルク相検出方法においては、第9または10の発明の構成に加えて、算出ステップは、周波数分布におけるピーク値が発生した時刻を、トルク相の開始時刻として算出するステップを含む。
【0041】
第11の発明によると、周波数分布におけるピーク値(2〜3Hz程度)が発生した時刻をトルク相の開始時刻として処理できる。
【0042】
第12の発明に係るトルク相検出方法においては、第11の発明の構成に加えて、算出ステップは、周波数分布におけるピーク値が発生した時刻が1つである場合にのみ、トルク相の開始時刻を算出するステップを含む。
【0043】
第12の発明によると、たとえば、変速中に発生した車両の振動に基づき、ピーク値が2つ以上発生すると、算出ステップにて、トルク相の開始時刻が算出されない。トルク相の開始は変速時に唯一1回だけ発生するものであるので、2つ以上のピークが発生した場合には、トルク相の開始時刻を的確に判断できないという誤判断のおそれがあるので、この誤判断を回避することができる。
【0044】
第13の発明に係るトルク相検出方法は、第9〜12のいずれかの発明の構成に加えて、算出ステップにて過去に算出されたトルク相の開始時刻を記憶するステップと、記憶された過去に算出されたトルク相の開始時刻と、現在算出されたトルク相の開始時刻とに基づいて、現在算出されたトルク相の開始時刻の正確性を判断する判断ステップとをさらに含む。
【0045】
第13の発明によると、その自動変速機において同じような条件のもとで行なわれた変速時に算出された過去のトルク相の開始時刻を記憶してデータベース化しておく。変速動作が実行されるごとに、算出されたトルク相の開始時刻がこのデータベースに蓄積された同じような条件の変速時におけるトルク相の開始時刻を大きく乖離するようであれば、現在算出されたトルク相開始時刻は正確ではないと判断することができる。
【0046】
第14の発明に係るトルク相検出方法においては、第13の発明の構成に加えて、判断ステップは、過去に算出されたトルク相の開始時刻と、現在算出されたトルク相の開始時刻との相違量を、予め定められたしきい値と比較することにより、正確性を判断するステップを含む。
【0047】
第14の発明によると、判断ステップにて、現在算出されたトルク相の開始時刻とデータベース化された過去のトルク相の開始時刻との乖離量が、予め定められたしきい値よりも大きいと現在算出されたトルク相開始時刻は正確ではないと判断し、しきい値よりも小さいと現在算出されたトルク相開始時刻は正確であると判断することができる。これにより、トルク相の開始時刻を正確に算出することができる。
【0048】
第15の発明に係るトルク相検出方法においては、第14の発明の構成に加えて、しきい値は、変速開始からトルク相開始までの時間に基づいて設定されるものである。
【0049】
第15の発明によると、しきい値は、固定値ではなく、変速開始からトルク相開始までの時間に基づいて設定され、たとえば、時間が長くなる場合と時間が短くなる場合とで異ならせておく。このようにすると、より正確にトルク相の開始時刻を算出することができる。
【0050】
第16の発明に係るトルク相検出方法においては、第9〜15のいずれかの発明の構成に加えて、算術演算ステップは、ウェーブレット変換を用いて、周波数分布を算出するステップを含む。
【0051】
第16の発明によると、時間軸に対して変化する波形を解析するウェーブレット変換を用いて算術演算を行ない、周波数分布を求め、周波数分布のピーク値から、トルク相開始時刻を的確に算出することができる。
【0052】
第17の発明に係るプログラムは、第9〜16のいずれかに記載のトルク相開始検出方法をコンピュータを用いて実行するものである。
【0053】
第17の発明によると、コンピュータを用いて、時間軸に対して変化する波形を解析するウェーブレット変換を用いて算術演算を行ない、周波数分布を求め、周波数分布のピーク値から、トルク相の開始時刻を的確に算出することができる。
【0054】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0055】
<第1の実施の形態>
本実施の形態に係るトルク相開始検出システムを説明する前に、このシステムが適用される車両、特にパワートレーンについて説明する。
【0056】
図1を参照して、本実施の形態に係るトルク相開始検出システムを含む車両のパワートレーンについて説明する。本発明に係るトルク相開始システムは、図1に示すECT(Electronic Controlled Automatic Transmission)_ECU1020により実現される。本実施の形態では、自動変速機を流体継手としてトルクコンバータを備え、遊星歯車式変速機構を有する自動変速機として説明する。
【0057】
図1に示すように、この車両のパワートレーンは、エンジン100と、トルクコンバータ200と、自動変速機300と、ECU1000とから構成される。
【0058】
エンジン100の出力軸は、トルクコンバータ200の入力軸に接続され、トルクコンバータ200の出力軸は、自動変速機300の入力軸に接続される。
【0059】
エンジン100の出力軸回転数NE(エンジン回転数NE)は、エンジン回転数センサ400により検知される。エンジン100とトルクコンバータ200とは回転軸により連結されている。したがって、エンジン回転数センサ400により検知されるエンジン100の出力軸回転数NE(エンジン回転数NE)とトルクコンバータ200の入力軸回転数(ポンプ回転数)とは同じである。
【0060】
トルクコンバータ200は、入力軸と出力軸とを直結状態にするロックアップクラッチ210と、入力軸側のポンプ羽根車220と、出力軸側のタービン羽根車230と、ワンウェイクラッチ250を有し、トルク増幅機能を発現するステータ240とから構成される。トルクコンバータ200と自動変速機300とは、回転軸により接続される。
【0061】
トルクコンバータ200の出力軸回転数NT(タービン回転数NT)は、タービン回転数センサ410により検知される。トルクコンバータ200と自動変速機300とは回転軸により連結されている。したがって、タービン回転数センサ410により検知されるトルクコンバータ200の出力軸回転数NTと自動変速機300の入力軸回転数(NIN)とは同じである。
【0062】
自動変速機300の出力軸回転数NOUTは、出力軸回転数センサ420により検知される。
【0063】
図2に自動変速機300の作動表を示す。図2に示す作動表によると、摩擦要素であるクラッチ要素(図中のC1〜C4)や、ブレーキ要素(B1〜B4)、ワンウェイクラッチ要素(F0〜F3)が、どのギヤ段の場合に係合および解放されるかを示している。車両の発進時に使用される1速時には、クラッチ要素(C1)、ワンウェイクラッチ要素(F0、F3)が係合する。
【0064】
これらのパワートレーンを制御するECU1000は、エンジン100を制御するエンジンECU1010と、自動変速機300を制御するECT(Electronic Controlled Automatic Transmission)_ECU1020と、VSC(Vehicle Stability Control)_ECU1030とを含む。
【0065】
ECT_ECU1020には、タービン回転数センサ410からタービン回転数NT(自動変速機300の入力軸回転数NIN)を表わす信号が、出力軸回転数センサ420から自動変速機300の出力軸回転数NOUTを表わす信号が入力される。また、ECT_ECU1020には、エンジンECU1010から、エンジン回転数センサ400にて検知されたエンジン回転数NEを表わす信号と、スロットルポジションセンサにて検知されたスロットル開度を表わすスロットル開度信号とが入力される。
【0066】
これら回転数センサは、トルクコンバータ200の入力軸、トルクコンバータ200の出力軸および自動変速機300の出力軸に取り付けられた回転検出用ギヤの歯に対向して設けられている。これらの回転数センサは、トルクコンバータ200の入力軸、トルクコンバータ200の出力軸および自動変速機300の出力軸の僅かな回転の検出も可能なセンサであり、たとえば、一般的に半導体式センサと称される磁気抵抗素子を使用したセンサである。
【0067】
さらに、ECT_ECU1020には、VSC_ECU1030から、Gセンサにて検知された車両が停止した登坂路の勾配を表わす車両加速度信号(Gセンサ信号)と、ブレーキ圧を表わすブレーキ信号とが入力される。
【0068】
ECT_ECU1020から、自動変速機300に、リニアソレノイド(SLT、SLU)信号およびトランスミッションソレノイド信号が出力される。図2に示すクラッチ要素(C1〜C4)や、ブレーキ要素(B1〜B4)、ワンウェイクラッチ要素(F0〜F3)を、係合させたり解放させたりする。たとえば、5速から6速へのアップシフト時においては、クラッチC3が係合から解放されるように締結圧が制御され、ブレーキB2が解放から係合されるように締結圧が制御される。実際には、ECT_ECU1020は、ソレノイド制御信号を油圧回路のリニアソレノイドバルブに出力している。ECT_ECU1020は、後述する目標の油圧(目標の締結圧を実現する油圧)を算出し、その目標油圧等により油圧サーボへの油圧を算出してソレノイドバルブに出力する。
【0069】
油圧回路は、たとえば2個のリニアソレノイドバルブ(SLT、SLU)を有するとともに、自動変速機のプラネタリギヤユニットの伝達経路を切換えて、前進6速、後進1速の変速段を達成する複数の摩擦係合要素(クラッチおよびブレーキ)を係合及び解放する複数の油圧サーボを有する。また、リニアソレノイドバルブの入力ポートにはソレノイドモジュレータ圧が供給されており、これらリニアソレノイドバルブの出力ポートからの制御油圧がそれぞれプレッシャコントロールバルブの制御油室に供給されている。プレッシャコントロールバルブは、ライン圧がそれぞれ入力ポートに供給されており、制御油圧にて調圧された出力ポートからの調圧が、それぞれシフトバルブを介して適宜各油圧サーボに供給される。
【0070】
このような油圧回路は、一例であって、実際には、自動変速機に対応して油圧サーボは多数備えられており、これら油圧サーボへの油圧を切換えるシフトバルブも多数備えている。また、油圧サーボは、シリンダにオイルシールにより油密状に嵌合するピストンを有しており、そのピストンは、油圧室に作用するプレッシャコントロールバルブからの調圧油圧に基づき、戻しスプリングに抗して移動し、外側摩擦プレートおよび内側摩擦材を接触する。その摩擦プレートおよび摩擦材は、クラッチのみならずブレーキも同様である。
【0071】
このようなクラッチやブレーキは、摩擦係合要素とも呼ばれ、経時的な変化により劣化するものである。
【0072】
本実施の形態に係るトルク相開始検出システムは、ECT_ECU1020に入力される、自動変速機300の入力軸回転数(NIN)または出力軸回転数(NOUT)を、変速動作の開始から、少なくともトルク相の終了(イナーシャ相の開始)まで、時系列にしたがってデータロギングしておいて、トルク相の終了後(イナーシャ相の開始後)、トルク相の開始時刻を算出する。このとき、ECU_ECT1020では、ウェーブレット変換を用いて周波数解析を行ない、その解析結果に基づいて、トルク相の開始時刻を算出する。
【0073】
図3を参照して、本実施の形態に係るトルク相開始システムにおいて、ECT_ECU1020において実行されるトルク相開始時刻算出プログラムの制御構造について説明する。
【0074】
ステップ(以下、ステップをSと略す。)100にて、ECT_ECU1020は、変速開始が実行されたか否かを判断する。特にこのとき、パワーオンアップシフトであるか否かが判断される。この判断は、ECT_ECU1020に入力される変速指令信号に基づいて行なわれる。変速開始を検知すると(S100にてYES)、処理はS110へ移される。もしそうでないと(S100にてNO)、処理はS100へ戻され、パワーオンアップシフト変速が開始されるまで待つ。
【0075】
S110にて、ECT_ECU1020は、出力軸回転数NOUTを記憶する。この出力軸回転数NOUTは、自動変速機300の出力軸の回転数を検知する出力軸回転数センサ420からECT_ECU1020に入力される信号に基づいて検知されECT_ECU1020の内部に設けられたメモリに記憶される。また、イナーシャ相が始まっていないので、自動変速機300の出力軸回転数NOUTと自動変速機300の入力軸回転数NINとは同じであるため、自動変速機300の出力軸回転数NOUTではなく、自動変速機300の入力軸回転数NINであってもよい。
【0076】
S120にて、ECT_ECU1020は、トルク相が終了したか否かを判断する。すなわち、イナーシャ相が開始されたか否かを判断することと同じであり、ECT_ECU1020に入力される自動変速機300の入力軸回転数NINおよび出力軸回転数NOUTの変化に基づいてトルク相の終了が判断される。トルク相が終了したと判断されると(S120にてYES)、処理はS130へ移される。もしそうでないと(S120にてNO)、処理はS110へ戻され、出力軸回転数NOUTがメモリに記憶される。すなわち、パワーオンアップシフトの変速開始からトルク相が終了するまでの間、自動変速機の出力軸回転数NOUTが時系列に従ってメモリに記憶される。
【0077】
S130にて、ECT_ECU1020は、メモリに記憶した出力軸回転数NOUTを周波数解析する。このとき、周波数解析としてウェーブレット変換が用いられる。S140にて、ECT_ECU1020は、規定周波数帯域(2〜3Hz)でピークを持つ時刻を、トルク相開始時刻として算出する。S150にて、ECT_ECU1020は、算出されたトルク相開始時刻をメモリに記憶する。
【0078】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係るトルク相検出処理の動作について説明する。
【0079】
パワーオンアップシフトが開始されると(S100にてYES)、出力軸回転数センサ420により検知された自動変速機300の出力軸回転数NOUTがECT_ECU1020のメモリに記憶される。この出力軸回転数NOUTの記憶は、時系列に従って、トルク相が終了したと判断されるまで繰返し行なわれる。このとき、図4(A)に示すように時間軸に対して自動変速機300の出力軸回転数が記憶される。すなわち、図4(A)に示すように自動変速機300の出力軸回転数はなだらかに増加する傾向を有する。
【0080】
トルク相が終了したと判断されると(S120にてYES)、ECT_ECU1020のメモリに記憶された出力軸回転数NOUTを周波数解析する。このとき、図4(B)に示すようにウェーブレット変換された結果が求められる。図4(B)に示すように、横軸を時間軸、縦軸を周波数軸として、特定の周波数帯域において強度が大きい部分(すなわちその帯域における周波数成分を多く含む)がピークが1つだけ現われる場合、その時刻をトルク相開始時刻として算出する(S140)。
【0081】
このとき、図4(B)に示すように、ウェーブレット変換の結果時間軸に対する周波数のピークが2つ以上現われる場合には、トルク相開始時刻を算出することを行なわない。
【0082】
算出されたトルク相開始時刻はECT_ECU1020のメモリに記憶される。このとき図4(B)と図4(C)とに示すように、時間に対する周波数の関係において特定周波数帯域における強度が大きい部分がトルク相が開始された部分であって、自動変速機300の出力トルクが変化するときである。図4(C)に示す自動変速機300の出力トルクは実際にセンサで検知することが困難であるため、従来はトルク相の開始タイミングを正確に検出することが困難であった。しかし、本実施の形態に係るECT_ECU1020においては、図3に示すプログラムを実行することにより、トルク相の開始を的確に算出することができる。
【0083】
以上のようにして、本実施の形態に係るトルク相開始検出システムによると、パワーオンアップシフトが開始されるとトルク相が終了するまで自動変速機の出力軸回転数を時系列に従って記憶する。トルク相が終了すると、記憶した自動変速機の出力軸回転数をウェーブレット変換を用いて周波数解析し、規定の周波数帯域でピークを持つ時刻をトルク相の開始時刻として算出する。そのため、少なくとも変速開始からトルク相の終了までの自動変速機の出力軸の回転数をデータロギングしておいてそれを周波数分析した結果に基づいて、トルク相の開始時刻を算出するため、トルク相の開始時はセンサで直接検知することが困難であることに加えて、リアルタイムでトルク相の開始時刻をフィルタリング処理することにより正確に算出できないことに対して、パワーオンアップシフト時などにおけるトルク相の開始を的確に判断することができる。さらには、トルク相の開始を的確に判断することができるため、前述した自動変速機を構成する摩擦係合要素であるクラッチやブレーキの経時的な劣化を的確に判断したり、クラッチtoクラッチ変速におけるトルク干渉を回避するように制御することができるようになる。
【0084】
<第2の実施の形態>
以下、本発明の第2の実施の形態に係るトルク相検出開始システムについて説明する。本実施の形態に係るトルク相検出開始システムは、前述の第1の実施の形態に係るトルク相開始検出システムのプログラムとは異なるプログラムを実行する点が特徴である。それ以外のパワートレーンの構成については前述の第1の実施の形態と同じであるため、ここでの詳細な説明は繰返さない。
【0085】
図5を参照して、本実施の形態に係るトルク相開始システムにおいて、ECT_ECU1020において実行されるトルク相開始時刻算出プログラムの制御構造について説明する。なお、図5に示すフローチャートの中で、前述の図3に示したフローチャートと同じ処理については同じステップ番号を付してある。それらについての処理も同じである。したがって、それらについての詳細な説明はここでは繰返さない。
【0086】
S200にて、ECT_ECU1020は、S140にて算出したトルク相開始時刻について、前回算出した判定時刻からとの差が小さいか否かを判断する。このとき、S140にて算出したトルク相開始時刻が、前回算出したトルク相開始時刻と比較して大きい場合と小さい場合とがあるが、それぞれについてしきい値を定め、そのしきい値内にある場合には、前回算出した判定時刻からの差が小さいと判断される。すなわち、第1のしきい値としてαを、第2のしきい値としてβを設定しておき、今回算出されたトルク相の開始時刻が、前回算出されたトルク相開始時刻からαより引いたものよりも大きく、かつ今回算出されたトルク相開始時刻が、前回算出されたトルク相開始時刻にβを加算した値よりも小さい場合には、S140にて算出されたトルク相開始時刻は、前回算出したトルク相開始時刻からの差が小さいと判断される。S140にて算出されたトルク相開始時刻が、前回算出されたトルク相開始時刻からの差が小さいと(S200にてYES)、処理はS210へ移される。もしそうでないと(S200にてNO)、この処理は終了する。
【0087】
S210にて、ECT_ECU1020は、算出されたトルク相開始時刻をメモリに記憶する。
【0088】
以上のようにして、本実施の形態に係るトルク相開始検出システムによると、前回算出したトルク相の開始時刻からあまりにも大きく乖離しているトルク相開始時刻が算出された場合には、その算出されたトルク相の開始時刻を採用しないようにしている。そのため、変速中に、キャッツアイなどに乗り上げて車両に振動が生じて、その振動によりトルク相開始時刻であることが判断されたとしても、それをトルク相開始時刻として算出することを回避することができる。その結果、的確にトルク相の開始時刻を算出することができる。
【0089】
<第3の実施の形態>
以下、本発明の第3の実施の形態に係るトルク相開始検出システムについて説明する。なお、本実施の形態に係るトルク相開始検出システムも、前述の第2の実施の形態と同様、ECT_ECU1020で実行されるプログラムに特徴がある。車両のパワートレーンの構成については、前述の第2の実施の形態と同様に、前述の第1の実施の形態と同じである。したがって、それらについての詳細な説明はここでは繰返さない。
【0090】
図6を参照して、本実施の形態に係るトルク相開始システムにおいて、ECT_ECU1020において実行されるトルク相開始時刻算出プログラムの制御構造について説明する。なお、図6に示すフローチャートの中で、前述の図1に示したフローチャートと同じ処理については同じステップ番号を付してある。それらについての処理も同じである。したがって、それらについての詳細な説明はここでは繰返さない。
【0091】
S300にて、ECT_ECU1020は、S140にて算出されたトルク相開始時刻が、トルク相開始時刻の平均値からとの差が小さいか否かを判断する。この判断は、予め定められた許容範囲内にあるか否かにより行なわれる。すなわち、トルク相開始時刻の平均値をメモリに記憶しておいて、その平均値から予め定められた許容範囲内にあると、S140にて算出されたトルク相開始時刻は、トルク相開始時刻の平均値からの差が小さいと判断される。S140にて算出されたトルク相開始時刻がトルク相開始時刻の平均値からの差が小さいと判断されると(S300にてYES)、処理はS310へ移される。もしそうでないと(S300にてNO)、この処理は終了する。
【0092】
S310にて、ECT_ECU1020は、算出されたトルク相開始時刻を含めて、トルク相開始時刻の平均値を算出する。算出されたトルク相開始時刻の平均値は、ECT_ECU1020のメモリに記憶される。
【0093】
以上のようにして、本実施の形態に係るトルク相開始検出システムによると、トルク相開始時刻を平均したトルク相開始時刻の平均値を算出してメモリに記憶しておく。トルク相開始時刻として算出された時刻が、この平均値から大きく乖離している場合にはその算出されたトルク相開始時刻が正しく算出されていないと判断して平均値を算出するデータとして採用しない。その結果、より正確にトルク相開始時刻を算出することができる。
【0094】
なお、第2の実施の形態および第3の実施の形態において、トルク相開始時刻を前回算出されたトルク相開始時刻や、トルク相開始時刻の平均値と最新に算出されたトルク相開始時刻とを比較することについて記述したが、これらの比較においては、同じような条件の下で変速された場合のトルク相開始時刻同士を比較するものである。
【0095】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係るトルク相開始検出システムを搭載した車両の制御ブロック図である。
【図2】図1に示す自動変速機の作動表である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るトルク相開始検出システムで実行されるトルク相開始時刻算出プログラムの制御構造を示す図である。
【図4】トルク相開始時刻算出処理を説明するための図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るトルク相開始検出システムで実行されるトルク相開始時刻算出プログラムの制御構造を示す図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係るトルク相開始検出システムで実行されるトルク相開始時刻算出プログラムの制御構造を示す図である。
【符号の説明】
100 エンジン、200 トルクコンバータ、210 ロックアップクラッチ、220 ポンプ羽根車、230 タービン羽根車、240 ステータ、250 ワンウェイクラッチ、300 自動変速機、310 入力クラッチ、400エンジン回転数センサ、410 タービン回転数センサ、420 出力軸回転数センサ、1000 ECU、1010 エンジンECU、1020 ECT_ECU、1030 VSC_ECU。
Claims (17)
- 自動変速機の入力軸回転数または出力軸回転数を検知するための検知手段と、
変速開始からトルク相の終了までの間における前記回転数の信号値を時系列にしたがって記憶するための記憶手段と、
前記時系列にしたがって記憶された信号値に基づいて、各時刻における信号値に含まれる周波数分布を算出するための算術演算手段と、
前記算術演算手段により求められた周波数分布に基づいて、トルク相の開始時刻を算出するための算出手段とを含む、トルク相開始検出装置。 - 前記トルク相開始検出装置は、前記周波数分布の算出を、トルク相の終了後に実行するように前記算術演算手段を制御するための制御手段をさらに含む、請求項1に記載のトルク相開始検出装置。
- 前記算出手段は、周波数分布におけるピーク値が発生した時刻を、トルク相の開始時刻として算出するための手段を含む、請求項1または2に記載のトルク相開始検出装置。
- 前記算出手段は、周波数分布におけるピーク値が発生した時刻が1つである場合にのみ、トルク相の開始時刻を算出するための手段を含む、請求項3に記載のトルク相開始検出装置。
- 前記トルク相開始検出装置は、
前記算出手段により過去に算出されたトルク相の開始時刻を記憶するための手段と、
前記記憶された過去に算出されたトルク相の開始時刻と、現在算出されたトルク相の開始時刻とに基づいて、現在算出されたトルク相の開始時刻の正確性を判断するための判断手段とをさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載のトルク相開始検出装置。 - 前記判断手段は、過去に算出されたトルク相の開始時刻と、現在算出されたトルク相の開始時刻との相違量を、予め定められたしきい値と比較することにより、前記正確性を判断するための手段を含む、請求項5に記載のトルク相開始検出装置。
- 前記しきい値は、変速開始からトルク相開始までの時間に基づいて設定される、請求項6に記載のトルク相開始検出装置。
- 前記算術演算手段は、ウェーブレット変換を用いて、周波数分布を算出するための手段を含む、請求項1〜7のいずれかに記載のトルク相開始検出装置。
- 自動変速機の入力軸回転数または出力軸回転数を検知する検知ステップと、
変速開始からトルク相の終了までの間における前記回転数の信号値を時系列にしたがって記憶する記憶ステップと、
前記時系列にしたがって記憶された信号値に基づいて、各時刻における信号値に含まれる周波数分布を算出する算術演算ステップと、
前記算術演算ステップにて求められた周波数分布に基づいて、トルク相の開始時刻を算出する算出ステップとを含む、トルク相開始検出方法。 - 前記トルク相開始検出方法は、前記周波数分布の算出を、トルク相の終了後に実行するように前記算術演算ステップを制御する制御ステップをさらに含む、請求項9に記載のトルク相開始検出方法。
- 前記算出ステップは、周波数分布におけるピーク値が発生した時刻を、トルク相の開始時刻として算出するステップを含む、請求項9または10に記載のトルク相開始検出方法。
- 前記算出ステップは、周波数分布におけるピーク値が発生した時刻が1つである場合にのみ、トルク相の開始時刻を算出するステップを含む、請求項11に記載のトルク相開始検出方法。
- 前記トルク相開始検出方法は、
前記算出ステップにて過去に算出されたトルク相の開始時刻を記憶するステップと、
前記記憶された過去に算出されたトルク相の開始時刻と、現在算出されたトルク相の開始時刻とに基づいて、現在算出されたトルク相の開始時刻の正確性を判断する判断ステップとをさらに含む、請求項9〜12のいずれかに記載のトルク相開始検出方法。 - 前記判断ステップは、過去に算出されたトルク相の開始時刻と、現在算出されたトルク相の開始時刻との相違量を、予め定められたしきい値と比較することにより、前記正確性を判断するステップを含む、請求項13に記載のトルク相開始検出方法。
- 前記しきい値は、変速開始からトルク相開始までの時間に基づいて設定される、請求項14に記載のトルク相開始検出方法。
- 前記算術演算ステップは、ウェーブレット変換を用いて、周波数分布を算出するステップを含む、請求項9〜15のいずれかに記載のトルク相開始検出方法。
- 請求項9〜16のいずれかに記載のトルク相開始検出方法をコンピュータを用いて実行するためのプログラム。
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JP2003198495A JP2005036848A (ja) | 2003-07-17 | 2003-07-17 | トルク相開始検出装置、トルク相開始検出方法およびその方法をコンピュータに実現するためのプログラム |
Applications Claiming Priority (1)
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JP2003198495A JP2005036848A (ja) | 2003-07-17 | 2003-07-17 | トルク相開始検出装置、トルク相開始検出方法およびその方法をコンピュータに実現するためのプログラム |
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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CN110067853A (zh) * | 2019-04-18 | 2019-07-30 | 浙江吉利控股集团有限公司 | 一种车辆换挡方法、装置及设备 |
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2003
- 2003-07-17 JP JP2003198495A patent/JP2005036848A/ja active Pending
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