JP2005030471A - ブレーキディスクの固有振動数調整方法 - Google Patents

ブレーキディスクの固有振動数調整方法 Download PDF

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学 生川
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Abstract

【課題】ブレーキディスクの材質や形状を設計段階で厳格に定めなくても、ブレーキディスクの固有振動数を把握して、当該ディスクブレーキの固有振動数をブレーキ鳴きを防止又は低減可能な値に調整することのできるブレーキディスクの固有振動数調整方法を提供する。
【解決手段】ディスク本体部12、取付フランジ部13及び前記両部をつなぐ円筒状のハット部14を具備したブレーキディスクの固有振動数を測定する工程と、測定された固有振動数がブレーキ鳴きを防止又は低減可能な許容範囲内に収まるようにブレーキディスクの固有振動数を修正する工程とを備え、修正工程では、測定された固有振動数が許容範囲内に収まっていないときに、取付フランジ部13とハット部14とが連設された角部18を切削バイト17で切削加工することにより、ブレーキディスク11の固有振動数を調整(又は修正)する。
【選択図】 図7

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両用ディスクブレーキ装置のブレーキ構成部品の一つであるブレーキディスクの固有振動数の調整方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
周知のように、車両用ディスクブレーキ装置では、ブレーキ構成部品の固有振動数(又は固有周波数)が制動時のブレーキ摩擦挙動で生じる振動の周波数に一致すると、ブレーキ鳴きを生じることが知られている。特にブレーキディスクは制動用摩擦面(摺動面)を有するため、ブレーキ構成部品の中でもブレーキ鳴きの大きな要因となる。このため、ブレーキディスクの固有振動数がブレーキ摩擦挙動で生じ得る振動周波数から外れるように、ブレーキディスクの材質や形状を決定している。
【0003】
従来、ディスクブレーキの制動時のブレーキ鳴きを防止するために、ディスクブレーキの主要な構成部品であるブレーキディスク(ディスクロータ)の固有振動数を管理する技術が種々提案されている。例えば、特許文献1では、ブレーキディスクを形成する鋳鉄の成分組成等を調製してブレーキディスクの材質面を厳密に管理することにより、その鋳造によって得られるブレーキディスクの制動時のブレーキ鳴きを防止するようにしている。
【0004】
【特許文献1】
特開平5−214480号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した特許文献1の鋳造によって得られるブレーキディスクでは、製造上の理由から鋳鉄の成分組成等が変化し易く、材質面での厳密な品質管理が難しい。また、例えば冷却性能を向上させるための通風孔を備えたベンチレーテッドタイプのブレーキディスクにあっては、各通風孔内を鋳肌のままとすることが多く、その鋳肌部分の寸法精度は鋳造後に機械加工(例えば切削加工)が施される他の部位に比べて低い。つまり、ブレーキディスクの材質や形状を設計段階で厳格に定めておいても、実際に製造されるブレーキディスクが一定の材質や形状になる保証はなく、所期の固有振動数を持つとは限らないため、ブレーキディスクのブレーキ鳴きを必ず防止できるとは言えない。
【0006】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ブレーキディスクの材質や形状を設計段階で厳格に定めなくても、ブレーキディスクの固有振動数を把握して、当該ディスクブレーキの固有振動数をブレーキ鳴きを防止又は低減可能な値に調整することのできるブレーキディスクの固有振動数調整方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
ところで、一口にブレーキディスクの振動といっても、様々な振動態様(振動モード)が存在する。本件発明者の認識するところでは、ブレーキディスクの振動対策上、特に注意を払うべき振動モードとしては、「面直振動モード」と「面内振動モード」の2つがある。
【0008】
図1は、ブレーキディスクにおける面直振動のモデルを斜視的に示す。面直振動モードとは、ブレーキディスクの摩擦面が回転軸と同じ方向に振幅すると共に、ブレーキディスクの横方向から見て摩擦面の外周縁が波状の変形を起こすような振動態様をいう。摩擦面外周縁の波状変形にあっては、回転軸方向に最も大きく振幅する場所と、全く振幅しない場所(「節」と呼ぶ)とがある。節は常に摩擦面の同一直径の両端に位置しており、振動数が高くなるにつれて2つの節を結ぶ直径の数も増え、高次の振動形態となる。ここで、2つの節を結ぶ直径の数がN個となる振動モードのことをN直径節モードという。面直振動モードにおいては、「3直径節モード」の近くに「ハット倒れモード」がある(図6参照)。
【0009】
図2は、ブレーキディスクにおける面内振動のモデルを斜視的に示す。面内振動モードとは、ブレーキディスクの周方向への振幅により、摩擦面の同一円周内において振幅が疎になる場所と密になる場所とが生じるような振動形態をいう。ブレーキディスクの周方向に沿った疎密振動にあっても、当該周方向に最も大きく振幅する場所と、全く振幅しない場所(「節」と呼ぶ)とがある。節は常に摩擦面の同一直径の両端に位置しており、振動数が高くなるにつれて2つの節を結ぶ直径の数も増え、高次の振動形態となる。ここで、2つの節を結ぶ直径の数がN個となる振動モードのことを面内N次モードという。
【0010】
本発明者は、上述した発明が解決しようとする課題での実情に鑑みると共に、ブレーキディスクの面直振動モードや面内振動モードに着目して鋭意研究を重ねた結果、ブレーキディスクの材質や形状を設計段階で厳格に定めなくても、個々のブレーキディスクの固有振動数を把握して、その固有振動数が所定範囲内に収まっていないときにブレーキディスクの適切な部位に追加加工を施すことで、ブレーキディスクのブレーキ鳴きを効果的に防止又は低減することができるということを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、請求項1に記載の発明は、ディスク本体部、取付フランジ部及び前記両部をつなぐ略円筒状のハット部を具備したブレーキディスクの固有振動数を測定する工程と、測定された固有振動数がブレーキ鳴きを防止又は低減可能な許容範囲内に収まるようにブレーキディスクの固有振動数を修正する工程とを備え、前記修正工程では、測定された固有振動数が前記許容範囲内に収まっていないときに、ブレーキディスクの取付フランジ部とハット部とが連設された角の部分に追加加工を施すことにより、当該ブレーキディスクの固有振動数を修正することをその要旨としている。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、ブレーキディスクの固有振動数を測定する工程により、車両用ディスクブレーキ装置のブレーキ構成部品の一つであるブレーキディスクの固有振動数を測定して把握することができる。そして、把握された固有振動数が所定の許容範囲内に収まっていないときに、ブレーキディスクの取付フランジ部とハット部とが連設された角の部分に対して追加加工を行うことにより、ブレーキディスクの固有振動数をブレーキ鳴きを防止又は低減可能な値に調整(又は修正)することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のブレーキディスクの固有振動数調整方法において、前記追加加工により、ブレーキディスクの面直振動モードにおいて、3直径節モードの固有振動数とハット倒れモードの固有振動数との値を離間させることをその要旨としている。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、追加加工により、ブレーキディスクの面直振動モードにおいて、3直径節モードの固有振動数とハット倒れモードの固有振動数との値を離間させることができるため、3直径節モードとハット倒れモードとの連成振動を抑制することが可能となり、ブレーキディスクの固有振動数をブレーキ鳴きを防止又は低減可能な値により確実に調整(又は修正)することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、ディスク本体部、取付フランジ部及び前記両部をつなぐ略円筒状のハット部を具備したブレーキディスクの固有振動数を測定する工程と、測定された固有振動数がブレーキ鳴きを防止又は低減可能な許容範囲内に収まるようにブレーキディスクの固有振動数を修正する工程とを備え、前記修正工程では、測定された固有振動数が前記許容範囲内に収まっていないときに、ブレーキディスクのディスク本体部とハット部とが連設された角の部分に追加加工を施すことにより、当該ブレーキディスクの固有振動数を修正することをその要旨としている。
【0016】
上記請求項3に記載の発明によれば、ブレーキディスクの固有振動数を測定する工程により、車両用ディスクブレーキ装置のブレーキ構成部品の一つであるブレーキディスクの固有振動数を測定して把握することができる。そして、把握された固有振動数が所定の許容範囲内に収まっていないときに、ブレーキディスクのディスク本体部とハット部とが連設された角の部分に対して追加加工を行うことにより、ブレーキディスクの固有振動数をブレーキ鳴きを防止又は低減可能な値に調整(又は修正)することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のブレーキディスクの固有振動数調整方法において、前記追加加工により、ブレーキディスクの面直振動モードにおける7直径節モードの固有振動数とブレーキディスクの面内振動モードにおける面内1次モードの固有振動数との値を離間させることをその要旨としている。
【0018】
上記請求項4に記載の発明によれば、追加加工により、ブレーキディスクの面直振動モードにおける7直径節モードの固有振動数とブレーキディスクの面内振動モードにおける面内1次モードの固有振動数との値を離間させることができるため、7直径節モードと面内1次モードとの連成振動を抑制することが可能となり、ブレーキディスクの固有振動数をブレーキ鳴きを防止又は低減可能な値により確実に調整(又は修正)することができる。
【0019】
なお、請求項1から請求項4における「追加加工」としては、切削その他の、ブレーキディスクの形状や重量を変化させるような機械加工を例示できる。また、請求項1から請求項4の各項において、測定工程(ブレーキディスクの固有振動数を測定する工程)と修正工程(ブレーキディスクの固有振動数を修正する工程)とが一連の工程で行われることは好ましい。
【0020】
【発明の実施の形態】
(第1の実施の形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施の形態を図3〜図8に基いて説明する。
【0021】
図3及び図4に示すように、本実施の形態の鋳鉄製ブレーキディスク11(ディスクロータ)は、ディスク本体部12、取付フランジ部13及び前記両部をつなぐハット部14を備えており、鋳造等によって所定形状に形成されている。ディスク本体部12は、円盤状のインナーディスク12a(肉厚6mm)及びアウターディスク12b(肉厚6mm)並びに両ディスク間に設けられた複数のリブ12c(肉厚12mm)からなり、直径296mm×高さ24mmの円盤形状をなす。インナーディスク12a及びアウターディスク12bの各表面は、制動用摩擦面を構成する。また、複数のリブ12cは、ディスク本体部12内に半径方向に貫通する複数の通風孔を区画している。アウターディスク12bの内周側には、直径155mm、高さ24.5mm、肉厚5.5mmの円筒形状のハット部14が連設されている。更に、ハット部14の上部には、肉厚7mmの円板状の取付フランジ部13が連設されている。取付フランジ部13の中心位置には、車両の回転軸と同軸性を維持するインロー孔15が存在する。また、取付フランジ部13には、当該ブレーキディスク11を車両の回転軸に固定する際にボルトを通すための複数のボルト孔16(図では5個)が穿設されている。
【0022】
図4に示すように、ブレーキディスク11の取付フランジ部13とハット部14とが連設された角の部分には、断面形状で直角(90°)を有する角部18が全周に渡って形成されている。また、ブレーキディスク11のディスク本体部12のアウターディスク12bと、ブレーキディスク11のハット部14とが連設された角の部分には、断面形状で直角(90°)を有する角部19が全周に渡って形成されている。
【0023】
図5に示すように、上述したブレーキディスク11のアウターディスクの外周縁から10mm内側位置の摩擦面の上方に加振用ハンマーを配置すると共に、摩擦面に対して直交する方向(即ちブレーキディスクの回転軸方向)の振動を検出可能なディスク本体部の外方にマイクを配置した。なお、図示しないが、ブレーキディスク11の取付フランジ部13は、スポンジ体を介して台座に載置された状態となっている。そして、アウターディスクの外周縁から10mm内側位置の摩擦面をその摩擦面に対し直交方向(即ちブレーキディスクの回転軸方向)に加振用ハンマーで一撃(即ち加振)し、その際に生じた応答波をマイクで検出した。マイクで検出された応答波は、電気信号としてアンプ及びFET(高速フーリエ変換装置)に伝達され、FETにて周波数解析した。図6は、周波数解析の結果をグラフ化したものであり、そのグラフの横軸は周波数(Hz)、縦軸は音圧(dB)である。音圧のピーク位置から、このブレーキディスクの面直振動モードにおいて、3直径節モードの固有振動数が2135Hzであり、ハット倒れモードの固有振動数が2337Hzであり、7直径節モードの固有振動数が7576Hzであることが判明した。
【0024】
測定された面直振動モードでの固有振動数f1が所定の許容範囲Δf1内であれば、そのブレーキディスクは合格品と判定される。なお、許容範囲Δf1は、ブレーキ鳴きを防止又は低減可能な面直振動モードでの固有振動数の範囲として、実験等により予め確認されている範囲である。
【0025】
ブレーキディスクが合格品と判定されたのに対し、前記測定された面直振動モードでの固有振動数f1が所定の許容範囲Δf1内にないときには、追加加工として切削加工を行う。この場合、図7に示すように、ベンチレーテッドタイプのブレーキディスク11の取付フランジ部13とハット部14とが連設された角部18に対し、切削バイト17により面取りを行い、ブレーキディスク11の面直振動モードでの固有振動数の値を調整(又は修正)する。この面取りは、図8に示すようにブレーキディスク11の取付フランジ部13とハット部14とが連設された角部18の全てに施されており、ブレーキディスク11を固定した状態で切削バイト17を回転させるか、切削バイト17を回転せずにブレーキディスク11を回転させるかのどちらかによって行われる。なお、面取りを行う際には、ブレーキディスク11(取付フランジ部13)は、スポンジ体を介して台座に固定された状態となっている。
【0026】
因みに、切削加工前の3直径節モードの固有振動数(2135Hz)とハット倒れモードの固有振動数(2337Hz)との値の差は、202Hzとなっているが、図8に示したtを4.5mmに設定して面取りを行った場合には、3直径節モードの固有振動数とハット倒れモードの固有振動数との値の差は、219Hzとなり、切削加工前よりも17Hz離間する。また、図8に示したtを5.5mmに設定して面取りを行った場合には、3直径節モードの固有振動数とハット倒れモードの固有振動数との値の差は、227Hzとなり、切削加工前よりも25Hz離間する。更に、図8に示したtを6.5mmに設定して面取りを行った場合には、3直径節モードの固有振動数とハット倒れモードの固有振動数との値の差は、236Hzとなり、切削加工前よりも34Hz離間する。
【0027】
切削バイト17による面取りの完了後、ブレーキディスク11と切削バイト17とを離間させ、上記と同様にして再び加振用ハンマーでブレーキディスク11を加振してブレーキディスク11の面直振動モードでの固有振動数を再測定する。この再測定された面直振動モードでの固有振動数f1’が所定の許容範囲Δf1内に収まっていることを確認してから、このブレーキディスクを合格品と判定する。なお、ブレーキディスクの面直振動モードでの固有振動数f1’が依然として許容範囲Δf1内にないときには、再度、切削バイト17による追加加工を施してもよい。また、仮に切削バイト17による面取りを施したとしても、ブレーキディスク11の面直振動モードでの固有振動数f1’が所定の許容範囲Δf1内に収まらないことが明白なときには、追加加工を行わずに、そのまま不良品とする。
【0028】
以上詳述した本実施の形態によれば、以下に記す効果が得られるようになる。
【0029】
・本実施の形態によれば、ブレーキディスク11のアウターディスク12bの外周縁から10mm内側位置の摩擦面をその摩擦面に対し直交方向に加振用ハンマーで一撃すると共に、その際に生じた応答波をマイクで検出し、その検出した応答波を電気信号としてアンプ及びFETに伝達し、FETにて周波数解析することにより、個々のブレーキディスク11の面直振動モードでの固有振動数を把握できる。
【0030】
・本実施の形態によれば、ブレーキディスク11の取付フランジ部13とハット部14とが連設された角部18に対し、切削バイト17により面取りを行い、その面取り量を変化させることで、ブレーキディスク11の面直振動モードでの固有振動数を調整(又は修正)することができ、ひいてはブレーキディスク11の面直振動モードでの固有振動数f1’を許容範囲Δf1内に収まるようにすることができる。つまり、ブレーキディスク11の面直振動モードでの固有振動数をブレーキ鳴きを防止又は低減可能な値に調整することができる。
【0031】
・本実施の形態によれば、ブレーキディスク11の面直振動モードでの固有振動数をブレーキ鳴きを防止又は低減可能な値に調整することができるため、従来技術のようにブレーキディスクの材質や形状を設計段階で厳格に定めなくてもよい。
【0032】
・本実施の形態によれば、面取り加工の面取り量を調整することにより、3直径節モードの固有振動数とハット倒れモードの固有振動数との離間間隔を微調整することができる。
【0033】
・本実施の形態によれば、面取り加工により、ブレーキディスク11の面直振動モードにおいて、3直径節モードの固有振動数とハット倒れモードの固有振動数との値を加工前よりも更に離間させることができるため、3直径節モードとハット倒れモードとの連成振動を抑制して、ブレーキディスク11の面直振動モードでの固有振動数をブレーキ鳴きを防止又は低減可能な値により確実に調整することができるようになる。
【0034】
・本実施の形態によれば、台座にスポンジ体を介して載置された状態のブレーキディスク11の面直振動モードを測定する工程を行った後に、ブレーキディスク11をそのままの状態で台座及びスポンジ体に固定するだけで、ブレーキディスク11の面取りを切削バイト17によって容易に行うことができる。つまり、本実施の形態によれば、ブレーキディスク11の面直振動モードでの固有振動数を測定する工程と、ブレーキディスク11の面直振動モードでの固有振動数を修正する工程とを一連の工程で行うことができる。その結果、本実施の形態におけるブレーキディスク11の固有振動数調整方法を比較的短時間で行うことができるようになる。
【0035】
・本実施の形態によれば、従来技術の場合と異なり、個々のブレーキディスク単位での材質や形状等の品質管理を緩和できるため、良質なブレーキディスク11を比較的安価に提供することができる。
(第2の実施の形態)
次に、本発明を具体化した第2の実施の形態を図9〜図12に基づいて説明すると共に、図3〜図6を併せ参照して説明する。
【0036】
本実施の形態の鋳鉄製ブレーキディスクとしては、図3及び図4に示した前記第1の実施の形態におけるブレーキディスク11と同等のものを用いた。そして、本実施の形態のブレーキディスク11においても、前記第1の実施の形態におけるブレーキディスク11の場合と同様にして、ブレーキディスク11の面直振動モードでの固有振動数を測定した(図5及び第1の実施の形態:参照)。本実施の形態におけるブレーキディスク11の面直振動モードでの周波数解析の結果は、前記第1の実施の形態におけるブレーキディスク11の場合と同じ結果が得られた(図6参照)。図6から理解できるように、音圧のピーク位置から、本実施の形態におけるブレーキディスク11の面直振動モードにおいても、3直径節モードの固有振動数が2135Hzであり、ハット倒れモードの固有振動数が2337Hzであり、7直径節モードの固有振動数が7576Hzであることが判明した。
【0037】
その後、図9に示すように、上述したブレーキディスク11のディスク本体部外周側面に、5mm角立方体の鋳鉄製金属片を強力な接着剤(例えば瞬間接着剤)で固着した。また、その立方体状金属片の一側面に、加速度センサーを強力な接着剤で固着し、ブレーキディスクの円周接線方向への振動を当該加速度センサーで検出可能とした。なお、図示しないが、ブレーキディスク11の取付フランジ部13は、スポンジ体を介して台座に載置された状態となっている。そして、加速度センサーの丁度反対側にあたる立方体状金属片の他側面を、その側面に対し直交する方向(即ちブレーキディスクの円周接線方向)に加振用ハンマーで一撃(加振)し、その際に生じた応答波を加速度センサーで検出した。加速度センサーで検出された応答波は、電気信号としてアンプ及びFET(高速フーリエ変換装置)に伝達され、FETにて周波数解析した。図10は、周波数解析の結果を示すグラフ(横軸が周波数、縦軸がイナータンス)である。イナータンスのピーク位置から、このブレーキディスクの面内振動モードにおいて、面内1次モードの固有振動数が7219Hzであることが判明した。
【0038】
測定された面直振動モードでの固有振動数f1が所定の許容範囲Δf1内にあると共に、測定された面内振動モードでの固有振動数f2が所定の許容範囲Δf2内にあれば、そのブレーキディスクは合格品と判定される。なお、許容範囲Δf1及び許容範囲Δf2は、ブレーキ鳴きを防止又は低減可能な面直振動モード及び面内振動モードでの固有振動数の範囲として、実験等により予め確認されている範囲である。
【0039】
ブレーキディスクが合格品と判定されたのに対し、前記測定された面直振動モードでの固有振動数f1が所定の許容範囲Δf1内にないときや、前記測定された面内振動モードでの固有振動数f2が所定の許容範囲Δf2内にないときには、追加加工として切削加工を行う。この場合、図11に示すように、ベンチレーテッドタイプのブレーキディスク11におけるディスク本体部12のアウターディスク12bとハット部14とが連設された角部19に対し、切削バイト17により面取りを行い、ブレーキディスク11の面直振動モード及び面内振動モードでの固有振動数の値を調整(又は修正)する。この面取りは、図12に示すようにブレーキディスク11のアウターディスク12bとハット部14とが連設された角部19の全てに施されており、ブレーキディスク11を固定した状態で切削バイト17を回転させるか、切削バイト17を回転させずにブレーキディスク11を回転させるかのどちらかによって行われる。なお、面取りを行う際には、ブレーキディスク11(取付フランジ部13)は、スポンジ体を介して台座に固定された状態となっている。
【0040】
因みに、切削加工前の面直振動モードにおける7直径節モードの固有振動数(7576Hz)と面内振動モードにおける面内1次モードの固有振動数(7219Hz)との値の差は、357Hzとなっているが、図12に示したtを3.5mmに設定して面取りを行った場合には、7直径節モードの固有振動数と面内1次モードの固有振動数との値の差は、373Hzとなり、切削加工前よりも16Hz離間する。また、図12に示したtを4.5mmに設定して面取りを行った場合には、7直径節モードの固有振動数と面内1次モードの固有振動数との値の差は、383Hzとなり、切削加工前よりも26Hz離間する。更に、図12に示したtを5.5mmに設定して面取りを行った場合には、7直径節モードの固有振動数と面内1次モードの固有振動数との値の差は、390Hzとなり、切削加工前よりも33Hz離間する。
【0041】
切削バイト17による面取りの完了後、ブレーキディスク11と切削バイト17とを離間させ、上記と同様にして再び加振用ハンマーでブレーキディスク11を加振してブレーキディスクの面直振動モード及び面内振動モードでの固有振動数を再測定する。この再測定された面直振動モードでの固有振動数f1’が所定の許容範囲Δf1内に収まっていると共に、再測定された面内振動モードでの固有振動数f2’が所定の許容範囲Δf2内に収まっていることを確認してから、このブレーキディスクを合格品と判定する。なお、ブレーキディスクの面直振動モードでの固有振動数f1’が依然として許容範囲Δf1内にないときや、ブレーキディスクの面内振動モードでの固有振動数f2’が依然として許容範囲Δf2内にないときには、再度、切削バイト17による追加加工を施してもよい。また、仮に切削バイト17による面取りを施したとしても、ブレーキディスク11の面直振動モードでの固有振動数f1’が所定の許容範囲Δf1内に収まらないと共に、ブレーキディスク11の面内振動モードでの固有振動数f2’が所定の許容範囲Δf2内に収まらないことが明白なときには、追加加工を行わずに、そのまま不良品とする。
【0042】
以上詳述した本実施の形態によれば、以下に記す効果が得られるようになる。
【0043】
・本実施の形態によれば、ブレーキディスク11のディスク本体部12の外周側面に固着した立方体状金属片の一側面をその側面に対し直交する方向に加振用ハンマーで一撃すると共に、その際に生じた応答波を加速度センサーで検出し、その検出した応答波を電気信号としてアンプ及びFETに伝達し、FETにて周波数解析することにより、個々のブレーキディスク11の面内振動モードでの固有振動数を把握できる。なお、前記第1の実施の形態の場合と同様にして、個々のブレーキディスク11の面直振動モードでの固有振動数を把握できる。
【0044】
・本実施の形態によれば、ブレーキディスク11のディスク本体部12におけるアウターディスク12bとハット部14とが連設された角部19に対し、切削バイト17により面取りを行い、その面取り量を変化させることで、ブレーキディスク11の面直振動モード及び面内振動モードでの固有振動数を調整(又は修正)することができ、ひいてはブレーキディスク11の面直振動モードでの固有振動数f1’を許容範囲Δf1内に収まるようにすると共に、ブレーキディスク11の面内振動モードでの固有振動数f2’を許容範囲Δf2内に収まるようにすることができる。つまり、ブレーキディスク11の面直振動モード及び面内振動モードでの固有振動数をブレーキ鳴きを防止又は低減可能な値に調整することができる。
【0045】
・本実施の形態によれば、ブレーキディスク11の面直振動モード及び面内振動モードでの固有振動数をブレーキ鳴きを防止又は低減可能な値に調整することができるため、従来技術のようにブレーキディスクの材質や形状を設計段階で厳格に定めなくてもよい。
【0046】
・本実施の形態によれば、面取り加工の面取り量を調整することにより、7直径節モードの固有振動数と面内1次モードの固有振動数との値の離間間隔を微調整することができる。
【0047】
・本実施の形態によれば、面取り加工により、ブレーキディスク11の面直振動モードにおける7直径節モードの固有振動数とブレーキディスク11の面内振動モードにおける面内1次モードの固有振動数との値を加工前よりも更に離間させることができるため、7直径節モードと面内1次モードとの連成振動を抑制して、ブレーキディスク11の面直振動モード及び面内振動モードでの固有振動数をブレーキ鳴きを防止又は低減可能な値により確実に調整することができるようになる。
【0048】
・本実施の形態によれば、従来技術の場合と異なり、個々のブレーキディスク単位での材質や形状等の品質管理を緩和できるため、良質なブレーキディスク11を比較的安価に提供することができる。
【0049】
なお、前記各実施の形態を、次のように変更して実施することもできる。
【0050】
・前記第1の実施の形態と前記第2の実施の形態とを組み合わせてもよい。即ち、ブレーキディスク11の取付フランジ部13とハット部14とが連設された角部18を面取りすると共に、ブレーキディスク11のアウターディスク12bとハット部14とが連設された角部19を面取りして、ブレーキディスク11の固有振動数を調整するようにしてもよい。
【0051】
・前記各実施の形態では、図5,図7,図9,図11に示すように、ブレーキディスク11の取付フランジ部13及びハット部14が上になるような状態で固有振動数測定や切削加工を行ったが、ブレーキディスク11の天地を逆にした状態で行うようにしてもよい。また、前記各実施の形態において、スポンジ体を省略した状態でブレーキディスク11の固有振動数測定や切削加工を行うようにしてもよい。
【0052】
・前記第2の実施の形態では、図9に示すように、ブレーキディスク11の外周側面に金属片を固着し、その金属片の一方の側面をブレーキディスク11の円周接線方向に加振することにより、ブレーキディスク11の面内振動モードでの固有振動数を加速度センサーを用いて測定したが、図13に示すように、加速度センサーに代えてマイクを用いると共に、三通りの方法〔後述する(イ)、(ロ)及び(ハ)の加振方法〕でブレーキディスクを加振することにより、ブレーキディスクの面内振動モードでの固有振動数を測定してもよい。なお、図13に示した三通りの加振方法は、ブレーキディスクの面内振動に準じた振動を生じさせる手法であり、これらの加振方法により得られた面内振動モードでの固有振動のそれぞれの測定結果が、図9に示した加振方法により得られた面内振動モードでの固有振動の測定結果(図10参照)とほとんど一致することを実験により確認している。以下に、(イ)、(ロ)及び(ハ)の三通りの加振方法について詳述する。
【0053】
(イ)ディスク本体部の外周側面に対する略半径方向への加振
この加振方法は、図13に示すように、振動付与のための介在物(例えば図9の金属片)を使用せずに、ブレーキディスクのディスク本体部の外周側面に対し略半径方向への加振(摩擦面外周半径方向加振)を行い、面内振動モードでの固有振動数を測定するものである。つまり、ディスク本体部の外方にマイクを配置すると共に、そのマイクを配置した位置の反対側にあたるディスク本体部の外周側面をその略半径方向に加振手段で一撃(即ち加振)し、その際に生じた応答波をマイクで検出等することにより、ブレーキディスクの面内振動モードでの固有振動数を測定する。
【0054】
なお、ディスク本体部の外周側面に対する略半径方向への加振とは、より具体的には、ディスク本体部の外周側面の一箇所を略半径方向に加振することをいう。略半径方向とは、加振方向がディスク本体部の半径方向に完全一致する場合のみならず、その半径方向に対して傾斜した方向をも含む意味であって、加振時の力のベクトルを分解したときに半径方向への分力が認められるような加振方向をいう。かかる略半径方向への加振により、当該加振箇所には、ディスク本体部の半径方向に振幅する振動が生じ、その振動はたちまちブレーキディスク全体に伝播する。その際、ほぼ円盤状をなすディスク本体部にあっては、その周方向に振動が伝播し、ディスク本体部の周方向に沿った疎密振動が誘発されて、面内振動に準じた振動が生まれる。それ故、その応答波から面内振動モードでの固有振動数測定が可能となる。
【0055】
(ロ)ハット部に対する略半径方向への加振
この加振方法は、図13に示すように、振動付与のための介在物(例えば図9の金属片)を使用せずに、ブレーキディスクのハット部の外周側面に対し略半径方向への加振(ハット外周半径方向加振)を行い、面内振動モードでの固有振動数を測定するものである。つまり、ディスク本体部の外方にマイクを配置すると共に、そのマイクから最も離間した側のハット部の外周側面をその略半径方向に加振手段で一撃(即ち加振)して、ブレーキディスクの面内振動モードでの固有振動数を測定する。
【0056】
なお、ハット部に対する略半径方向への加振とは、例えば、略円筒状のハット部の外周側面の一箇所を略半径方向に加振することをいう。略半径方向とは、加振方向がハット部の半径方向に完全一致する場合のみならず、その半径方向に対して傾斜した方向をも含む意味であって、加振時の力のベクトルを分解したときに半径方向への分力が認められるような加振方向をいう。ハット部は、ディスク本体部の摩擦面に対して起立した略円筒状の部位であるため、ハット部に対する略半径方向への加振は、ディスク本体部における周方向疎密振動を誘発し、面内振動に準じた振動を生み出す。それ故、その応答波から面内振動モードでの固有振動数測定が可能となる。
【0057】
(ハ)取付フランジ部に対する略回転軸方向への加振
この加振方法は、図13に示すように、振動付与のための介在物(例えば図9の金属片)を使用せずに、ブレーキディスクの取付フランジ部の上面に対し略回転軸方向への加振(フランジ回転軸方向加振)を行い、面内振動モードでの固有振動数を測定するものである。つまり、ディスク本体部の外方にマイクを配置すると共に、取付フランジ部の上面をその略回転軸方向(当該上面に対して略直交する方向)に加振手段で一撃(すなわち加振)して、ブレーキディスクの面内振動モードでの固有振動数を測定する。
【0058】
なお、取付フランジ部に対する略回転軸方向への加振とは、例えば、円板状の取付フランジ部の一箇所をその面に対し略直交する方向に加振することをいう。略回転軸方向とは、加振方向がブレーキディスクの回転方向に完全一致する場合のみならず、その回転軸方向に対して傾斜した方向をも含み意味であって、加振時の力のベクトルを分解したときに回転軸方向への分力が認められるような加振方向をいう。取付フランジ部とディスク本体部とは略平行な関係にあり、取付フランジ部は略円筒状のハット部を介してディスク本体部とつながっている。取付フランジ部の中心位置には取付孔(インロー孔とも言う)が確保されることから、取付フランジ部は、ハット部の一端部において径方向に延びる鍔のような存在である。このため、取付フランジ部を略回転軸方向に加振することには、ハット部を略半径方向に加振した場合と同じ振動付与効果があり、取付フランジ部に対する略回転軸方向への加振によってディスク本体部における周方向疎密振動が誘発され、面内振動に準じた振動が生み出される。それ故、その応答波から面内振動モードでの固有振動数測定が可能となる。
【0059】
上記(イ)、(ロ)及び(ハ)のいずれの加振手法も、適切な加振手段(例えば、加振用ハンマーや電磁加振器)を用いてブレーキディスクを直接的に加振可能な手法であり、ブレーキディスクの表面に振動付与のための介在物(例えば、図9の金属片)を固着する必要がなく、製品の表面に当該介在物の固着痕を残す心配がない。また、ブレーキディスクの表面に振動付与のための介在物を固着しなくても、ブレーキディスクの面内振動モードでの固有振動数の測定が可能となるため、固着痕による品質低下の問題を未然に回避できると共に、その測定に係る加振作業を簡素化することができる。つまり、ブレーキディスクの面内振動モードでの固有振動数を測定する場合に、前記第2の実施の形態のように振動付与のための介在物(図9の金属片)を用いることなく、上記(イ)、(ロ)及び(ハ)のうちのいずれか1つの加振方法を用いることにより、ブレーキディスクの面内振動モードでの固有振動数を測定する工程と、その工程の後工程であるブレーキディスクの面直振動モード及び面内振動モードでの固有振動数を修正する工程とを一連の工程で行うことが可能となる。その結果、ブレーキディスクの固有振動数調整方法を比較的短時間で行うことができるようになる。
【0060】
・前記各実施の形態では、角部18,19が断面形状で直角(90°)を有するように形成されているが、特に前記各実施の形態のような直角に限定されるものではない。例えば、角部の先が丸くなっていたり、傾斜していたり等していてもよい。
【0061】
・前記第1の実施の形態では、角部18の全てを面取りし、前記第2の実施の形態では、角部19の全てを面取りしたが、角部18,19の一部分を面取りするようにしてもよい。また、図8,図12に示すように、ブレーキディスク11の面取り量を両側とも同じt(mm)に設定したが、片側の面取り量を異ならせるように設定してもよい。要は、測定されたブレーキディスク11の固有振動数がブレーキ鳴きを防止又は低減可能な許容範囲内に収まるように面取りできるのであれば、角部18、19をどのように面取りしてもよい。
【0062】
・前記各実施の形態では、ブレーキディスク11を加振用ハンマーを用いて加振したが、特に加振用ハンマーに限定されるものではなく、加振用ハンマーに代えて電磁加振器などの加振手段を用いて加振してもよい。
【0063】
・前記各実施の形態では、ベンチレーテッドタイプのブレーキディスク11に適用したが、ソリッドタイプのブレーキディスクに適用してもよい。
【0064】
他に、特許請求の範囲の各請求項に記載されないものであって、前記各実施の形態等から把握される技術的思想について、以下にその効果と共に記載する。
【0065】
(a)ディスク本体部、取付フランジ部及び前記両部をつなぐ略円筒状のハット部を具備したブレーキディスクの固有振動数を測定する工程と、
測定された固有振動数がブレーキ鳴きを防止又は低減可能な許容範囲内に収まるようにブレーキディスクの固有振動数を修正する工程とを備え、
前記修正工程では、測定された固有振動数が前記許容範囲内に収まっていないときに、ブレーキディスクの取付フランジ部とハット部とが連設された角の部分に追加加工を施すと共に、ブレーキディスクのディスク本体部とハット部とが連設された角の部分に追加加工を施すことにより、当該ブレーキディスクの固有振動数を修正することを特徴とするブレーキディスクの固有振動数調整方法。
【0066】
このようにしても、ブレーキディスクの材質や形状を設計段階で厳格に定めなくても、個々のブレーキディスクの固有振動数を把握して、当該ディスクブレーキの固有振動数をブレーキ鳴きを防止又は低減可能な値に調整(又は修正)することができる。また、個々のブレーキディスクに品質ぶれ(即ち固有振動数のバラツキ)がある場合でも、個々のブレーキディスクの固有振動数を管理できるため、ブレーキ鳴きの防止又は低減といった最終目標を確実に達成できる。更に、個々のブレーキディスク単位での材質や形状等の品質管理を緩和できるため、良質なブレーキディスクを比較的安価に提供することができる。
【0067】
(b)ディスク本体部、取付フランジ部及び前記両部をつなぐ略円筒状のハット部を具備したブレーキディスクに対し、
前記ディスク本体部に対する略回転軸方向への加振を行い、その加振時の応答波を解析することにより当該ディスクブレーキの面直振動モードでの固有振動数を測定する工程と、
測定された面直振動モードでの固有振動数がブレーキ鳴きを防止又は低減可能な許容範囲内に収まるようにブレーキディスクの面直振動モードでの固有振動数を修正する工程とを備え、
前記修正工程では、測定された面直振動モードでの固有振動数が前記許容範囲内に収まっていないときに、ブレーキディスクの取付フランジ部とハット部とが連設された角の部分に追加加工を施すことにより、当該ブレーキディスクの面直振動モードでの固有振動数を修正することを特徴とするブレーキディスクの固有振動数調整方法。
【0068】
このようにした場合、ブレーキディスクの材質や形状を設計段階で厳格に定めなくても、個々のブレーキディスクの面直振動モードでの固有振動数を把握して、当該ディスクブレーキの面直振動モードでの固有振動数をブレーキ鳴きを防止又は低減可能な値に調整(又は修正)することができる。また、個々のブレーキディスクに品質ぶれ(即ち面直振動モードでの固有振動数のバラツキ)がある場合でも、個々のブレーキディスクの面直振動モードでの固有振動数を管理できるため、ブレーキ鳴きの防止又は低減といった最終目標を確実に達成できる。更に、個々のブレーキディスク単位での材質や形状等の品質管理を緩和できるため、良質なブレーキディスクを比較的安価に提供することができる。
【0069】
(c)ディスク本体部、取付フランジ部及び前記両部をつなぐ略円筒状のハット部を具備したブレーキディスクに対し、
前記ディスク本体部に対する略回転軸方向への加振を行い、その加振時の応答波を解析することにより当該ディスクブレーキの面直振動モードでの固有振動数を測定する工程と、
前記ディスク本体部の外周側面に対する略半径方向への加振、
前記ハット部に対する略半径方向への加振、又は、
前記取付フランジ部に対する略回転軸方向への加振
のうちのいずれかを行い、その加振時の応答波を解析することにより当該ディスクブレーキの面内振動モードでの固有振動数を測定する工程と、
測定された面直振動モード及び面内振動モードでの固有振動数がブレーキ鳴きを防止又は低減可能な許容範囲内に収まるようにブレーキディスクの面直振動モード及び面内振動モードでの固有振動数を修正する工程とを備え、
前記修正工程では、測定された面直振動モード及び面内振動モードでの固有振動数が前記許容範囲内に収まっていないときに、ブレーキディスクの取付フランジ部とハット部とが連設された角の部分に追加加工を施すことにより、当該ブレーキディスクの面直振動モード及び面内振動モードでの固有振動数を修正することを特徴とするブレーキディスクの固有振動数調整方法。
【0070】
このようにすれば、ブレーキディスクの材質や形状を設計段階で厳格に定めなくても、個々のブレーキディスクの面直振動モード及び面内振動モードでの固有振動数を把握して、当該ディスクブレーキの面直振動モード及び面内振動モードでの固有振動数をブレーキ鳴きを防止又は低減可能な値に調整(又は修正)することができる。また、個々のブレーキディスクに品質ぶれ(即ち面直振動モード及び面内振動モードでの固有振動数のバラツキ)がある場合でも、個々のブレーキディスクの面直振動モード及び面内振動モードでの固有振動数を管理できるため、ブレーキ鳴きの防止又は低減といった最終目標を確実に達成できる。更に、個々のブレーキディスク単位での材質や形状等の品質管理を緩和できるため、良質なブレーキディスクを比較的安価に提供することができる。
【0071】
加えて、ブレーキディスクの面内振動モードでの固有振動数を測定する工程を行う際に、ブレーキディスクの表面に振動付与のための介在物(例えば、金属片)を固着する必要がなく、製品(ブレーキディスク)の表面に当該介在物の固着痕を残す心配がない。また、ブレーキディスクの表面に振動付与のための介在物を固着しなくても、ブレーキディスクの面内振動モードでの固有振動数の測定が可能となるため、固着痕による品質低下の問題を未然に回避できると共に、その測定に係る加振作業を簡素化することができる。つまり、ブレーキディスクの面内振動モードでの固有振動数を測定する場合に、振動付与のための介在物を用いることなく、上述した3つの加振方法のうちのいずれか1つの加振方法を用いることにより、ブレーキディスクの面内振動モードでの固有振動数を測定する工程と、その工程の後工程であるブレーキディスクの面直振動モード及び面内振動モードでの固有振動数を修正する工程とを一連の工程で行うことが可能となる。その結果、ブレーキディスクの固有振動数調整方法を比較的短時間で行うことができるようになる。
【0072】
(定義)この明細書において、「角の部分」とは、断面形状が単に角張った部分のみならず、その角張った部分の先が丸みを帯びていたり(曲部を有していたり)、傾斜していたり(傾斜部を有していたり)、凹んでいたり等する部分をも含む概念である。また、この明細書において、「略円筒状」とは、純粋な円筒形状のみならず、円錐台形状等の筒形状をも含む概念である。更に、この明細書において、「ハット倒れモード」とは、面直振動モードにおいて、ブレーキディスクの回転軸方向に対してブレーキディスクのハット部が傾斜するような振動態様をいい、「ハット倒れモード」は、3直径節モードと4直径節モードとの間に存在しており、3直径節モードに対して比較的近い位置にある。
【0073】
【発明の効果】
請求項1〜請求項4に記載の発明によれば、ブレーキディスクの材質や形状を設計段階で厳格に定めなくても、個々のブレーキディスクの固有振動数を把握して、当該ディスクブレーキの固有振動数をブレーキ鳴きを防止又は低減可能な値に調整(又は修正)することができる。また、請求項1〜請求項4に記載の発明によれば、個々のブレーキディスクに品質ぶれ(即ち固有振動数のバラツキ)がある場合でも、個々のブレーキディスクの固有振動数を管理できるため、ブレーキ鳴きの防止又は低減といった最終目標を確実に達成できる。更に、個々のブレーキディスク単位での材質や形状等の品質管理を緩和できるため、良質なブレーキディスクを比較的安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ブレーキディスクの面直振動モードのモデルを概略的に示した斜視図である。
【図2】ブレーキディスクの面内振動モードのモデルを概略的に示した斜視図である。
【図3】ブレーキディスクを示す正面図である。
【図4】ブレーキディスクを示す断面図である。
【図5】各実施の形態の固有振動数測定方法の概要を示す斜視図である。
【図6】面直振動モードでの周波数解析の結果を示すグラフである。
【図7】ブレーキディスクを切削する直前の状態を示す断面図である。
【図8】ブレーキディスクを切削した後の状態を示す断面図である。
【図9】第2の実施の形態における固有振動数測定方法の概要を示す斜視図である。
【図10】面内振動モードでの周波数解析の結果を示すグラフである。
【図11】ブレーキディスクを切削する直前の状態を示す断面図である。
【図12】ブレーキディスクを切削した後の状態を示す断面図である。
【図13】別の実施の形態における固有振動数測定方法の概要を示す斜視図である。
【符号の説明】
11 ブレーキディスク
12 ディスク本体部
12a インナーディスク
12b アウターディスク
12c リブ
13 取付フランジ部
14 ハット部
15 インロー孔
16 ボルト孔
17 切削バイト
18 角部
19 角部

Claims (4)

  1. ディスク本体部、取付フランジ部及び前記両部をつなぐ略円筒状のハット部を具備したブレーキディスクの固有振動数を測定する工程と、
    測定された固有振動数がブレーキ鳴きを防止又は低減可能な許容範囲内に収まるようにブレーキディスクの固有振動数を修正する工程とを備え、
    前記修正工程では、測定された固有振動数が前記許容範囲内に収まっていないときに、ブレーキディスクの取付フランジ部とハット部とが連設された角の部分に追加加工を施すことにより、当該ブレーキディスクの固有振動数を修正することを特徴とするブレーキディスクの固有振動数調整方法。
  2. 前記追加加工により、ブレーキディスクの面直振動モードにおいて、3直径節モードの固有振動数とハット倒れモードの固有振動数との値を離間させることを特徴とする請求項1に記載のブレーキディスクの固有振動数調整方法。
  3. ディスク本体部、取付フランジ部及び前記両部をつなぐ略円筒状のハット部を具備したブレーキディスクの固有振動数を測定する工程と、
    測定された固有振動数がブレーキ鳴きを防止又は低減可能な許容範囲内に収まるようにブレーキディスクの固有振動数を修正する工程とを備え、
    前記修正工程では、測定された固有振動数が前記許容範囲内に収まっていないときに、ブレーキディスクのディスク本体部とハット部とが連設された角の部分に追加加工を施すことにより、当該ブレーキディスクの固有振動数を修正することを特徴とするブレーキディスクの固有振動数調整方法。
  4. 前記追加加工により、ブレーキディスクの面直振動モードにおける7直径節モードの固有振動数とブレーキディスクの面内振動モードにおける面内1次モードの固有振動数との値を離間させることを特徴とする請求項3に記載のブレーキディスクの固有振動数調整方法。
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