JP2005029904A - 伸縮性吸水保水編物及び積層編物 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】表面編地2には疎水性繊維からなる凸部1が形成され、これに対向する裏面編地3は編物全体の質量の30%以上を占める親水性繊維と、編物全体の質量の10%以上を占める伸縮性糸条を用いて構成され、両編地間を連結する連結部4が疎水性繊維からなることを特徴とする伸縮性吸水保水編物、及び当該伸縮性吸水保水編物の裏面に、防水樹脂層5が積層されてなることを特徴とする積層編物。
【選択図】 図4
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、吸水性及び保水性に優れた伸縮性編物及び樹脂積層編物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、幼児向けもしくは成人向けのおむつや失禁用パンツについては、主として綿を素材とした織物や編物を用いたものが数多く提案されてきた。しかし、洗濯・乾燥性に難がある点や、吸水量の低い点などから、近年ではそれらに代わって、高吸水性ポリマーに不織布等を組み合わせてなる使い捨ての製品が主流になっているのが現状である。
ところが、最近になって、ごみ焼却時のダイオキシン発生等の環境問題がクローズアップされるようになり、上記のような使い捨てのおむつや失禁用パンツ等についても例外ではない。ごみ焼却時のダイオキシンの発生を防ぐために、各自治体においては焼却炉の改善等を行っており、その結果として利用者の負担が増すことが予想されている。したがって、おむつや失禁用パンツ等についても、今後消費者や病院施設、介護施設による焼却料金負担の増加が懸念されていることから、洗濯して繰り返し使用することのできる織物や編物を用いた製品の利点が見直されてきている。
【0003】
そこで、織物や編物を用いた製品の欠点である、吸水量の少なさや、肌面が湿った感じでドライ感(サラッとした感じ)に劣るという感じを解決するための技術も提案されている。
そのような技術としては、吸湿性を有する繊維からなる織編物や不織布の吸水性繊維シートに、二重構造布帛が積層され、該二重構造布帛のうち肌面に接する側の面が主として非異形断面繊維で構成され、反対側の面が主として異形断面繊維で構成された積層布帛がある(例えば、特許文献1参照。)。あるいは、主としてポリエステル繊維からなる嵩高い二重織編物において、肌面に接する側の面を太繊度で構成し、反対側の面を細繊度で構成することにより、吸水した水分を肌面と反対側に移動させる機能を持つおしめ用吸水性布帛がある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平7−148876号公報
【特許文献2】特開2002−272778号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記した従来技術のうち、前者の積層布帛では、二重構造布帛の作用によりドライ感は得られるとしても、別に吸水性を担う吸水シートを必要とするものであり、1枚の布帛でドライ感と吸水保水性を満足させるものではない。
一方、後者のおしめ用布帛においては、一枚の布帛でドライ感と吸水保水性をある程度は具現できるものであろうが、それらの特性は必ずしも十分とはいえず、さらに高性能のものが求められるところである。
また、従来のものは伸縮性に欠ける。伸縮性がないと、寝たきりの患者等に対して病院等のベッドに用いる防水シーツに適用した場合、シワが発生しやすく、褥創ができる原因となりかねない。また、失禁用パンツやおむつに適用した場合、伸縮性に欠けると臀部へのフィット性が不十分で、失禁時のヨコ洩れが生じかねない。
本発明は、このような現状に鑑みて行われたものであり、従来にない吸水性、水分保持性、ドライ感を具現することができ、伸縮性にも優れた伸縮性吸水保編物及び樹脂積層編物を提供することを課題とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、その要旨は以下の通りである。
1.編物において、表面には疎水性繊維からなる凸部が形成され、裏面は編物全体の質量の30%以上を占める親水性繊維と、編物全体の質量の10%以上を占める伸縮性糸条を用いて構成されていることを特徴とする伸縮性吸水保水編物。
2.表面編地と、これに対向する裏面編地と、両編地間を連結する連結部とからなる立体構造編物であって、連結部が疎水性繊維からなることを特徴とする上記1に記載の伸縮性吸水保水編物。
3.表面の凸部がパイルにより形成されたドット状の凸部であることを特徴とする上記1又は2に記載の伸縮性吸水保水編物。
4.編物のタテ方向又はヨコ方向について、伸長率が30%以上、伸長回復率が85%以上であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の伸縮性吸水保水編物。
5.上記1〜4のいずれかに記載の伸縮性吸水保水編物の裏面に、防水樹脂層が積層されてなる積層編物。
6.編物のタテ方向又はヨコ方向について、伸長率が30%以上、伸長回復率が85%以上であることを特徴とする上記5に記載の積層編物。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の編物においては、その編物の表面に疎水性繊維からなる凸部を有することが必要である。これにより、本発明用編物の表面は凹凸状の構造を有することになる。編物の表面に凹凸状の構造(以下、表面凹凸構造と略記することがある)を有することにより、ひとつには、編物表面にもたらされた液体状の水分が、速やかに編物の内部に侵入し、裏面側への移動が促進されるという効果を奏することができる。また、それに加えて、この表面側が人体の肌面に触れる側の面として使用されたときに、表面凹凸構造のために編物表面と人体の肌面との実質的な接触面積が少なくなるので、水分によるベトツキ感を軽減し、編物表面における面方向の通気性も大きいので、ドライ感を向上させるという効果も奏することができるのである。
【0008】
本発明用編物の表面の凸部(以下、表面凸部と略記することがある)は、良好なドライ感を得るために、疎水性繊維を用いて形成されるものである。疎水性繊維としては、一般に疎水性繊維として知られている合成繊維を好ましく用いることができる。本発明に用いられる疎水性繊維を例示すれば、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリオキシエトキシベンゾエート、ポリエチレンナフタレート、シクロヘキサンジメチレンテレフタレート等のポリエステル、及びこれらのポリエステルにイソフタル酸、スルホイソフタル酸成分、プロピレングリコール、ブチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコールのような第3グリコール成分を共重合した共重合ポリエステルからなるポリエステル系繊維が挙げられる。また、ナイロン6、ナイロン66、芳香族ナイロン等からなるポリアミド系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなるポリオレフィン系繊維及びアクリル系繊維が挙げられる。さらには、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル化合物等からなる生分解性合成繊維が挙げられ、このような生分解性合成繊維を用いた場合には、土壌中や水中に長時間放置されて、あるいはコンポストで処理されて、微生物等の作用により分解させることができるので、用済み後廃棄時の環境負荷がより低減される。
なお、合成繊維のラスターに関しては、特に限定されるものではなく、ブライト、セミダル、フルダルのいずれでもよい。
【0009】
表面凸部の形態としては、特に限定されるものではなく、例えば図1に示すドット状、図2に示すストライプ状、図3に示す格子状の凸部を採用することができる。また、凸部を形成するための表面の編地組織としても特に限定されるものではなく、例えばパイル、ツイル、ストライプ、カノコ、リップル、ジャガード組織等を採用することができる。
表面凸部の形態として好ましいのはドット状の凸部である。また、表面の編地組織として好ましいのはパイル組織である。したがって、表面凸部はパイルにより形成されていることが好ましく、パイルによりドット状に形成されていることが特に好ましい。
なお、図1〜図3は表面凸部の並び方を例示した、あくまでも模式的な図であり、実際の外観を必ずしも忠実に表したものではない。すなわち、上記したドット状、ストライプ状及び格子状の凸部とは、表面を上方から眺めたときに、凸部がそのような形状を呈しているように見えるということである。したがって、例えばパイルによるドット状の凸部が形成しているという場合、その凸部が幾何学的に厳密な意味で点であることを要するわけではなく、パイルで形成された凸部のひとつひとつがそれぞれ独立していればよい。また、当業者であれば、図1中にドットとして表された凸部のひとつひとつがパイルにより形成されているような外観をイメージできる。
【0010】
表面凸部がドット状の場合、その密度すなわち単位面積あたりの表面凸部の個数としては、20個/cm2以上が好ましく、さらには30〜100個/cm2程度が好ましく、それによりドライ感の特に良好な表面とすることができる。
なお、ドット状に限らないが、表面において表面凸部が占める見かけの面積比としては、概ね10〜90%が好ましく、30〜70%がより好ましい。この見かけの面積比は、表面の平面拡大写真を撮影して、その写真から編物の一区画に存在する凸部に対応する面積を求め、当該一区画に対応する平面の面積で除することにより算出することができる。
【0011】
表面凸部を形成する際には、上記した疎水性繊維からなる糸条を用いて、凸部を有する編地組織を編成するのであるが、このときの糸条としては、吸水性、ソフト感、ドライ感を向上させる観点から繊維間に空隙を有する糸条が好ましい。そのような糸条を例示すれば、2種類以上の異なる熱収縮性を有するマルチフィラメント糸からなる異収縮混繊糸条や、自己捲縮糸条、仮撚加工糸条、ニットデニット等の捲縮糸条、短繊維からなる紡績糸等が挙げられる。特に好ましく用いられるのは、適度な伸縮性を有し、保温効果もある仮撚捲縮加工糸条である。
【0012】
一方、本発明の編物の裏面においては、表面側から移動してきた水分を吸水し保持するために、親水性繊維を有することが必要である。したがって、裏面の編地は、親水性繊維を用いて構成されている。本発明における親水性繊維としては、一般に親水性繊維として知られている木綿、ウール等の天然繊維や、レーヨン等の再生繊維を用いることができる。裏面の編地を構成する際には、親水性繊維のみからなる糸条を用いてもよいが、親水性繊維と親水性でない繊維との混紡糸、合撚糸、インタレース混繊糸、カバーリング糸等の複合糸条を用いても差し支えない。
【0013】
本発明の編物において、裏面の編地を構成するのに用いられる親水性繊維の質量としては、編物の質量、すなわち編物を構成するのに使用されている全繊維の質量のうち30%以上を占めることが好ましく、用途にもよるが、35%以上、さらには40%以上を占めることがより好ましい。親水性繊維の占める割合が30%未満では、編物の吸水性、保水性が不足して、編物の表面から裏面に移動して吸収された水分を十分に保持することができなくなり、たとえ一旦吸収された水分も、編物に体重等がかかって圧縮されると表面へ逆戻りしてしまうことがある。上限については、親水性繊維があまりに多いと疎水性繊維からなる表面とのバランスを欠くので、通常75%以下が好ましい。
【0014】
本発明の編物の裏面においては、さらに、伸縮性糸条を有し、これにより編物に伸縮性が付与される。伸縮性糸条としては、特に限定されるものではなく、潜在捲縮性を有する合成繊維からなる潜在捲縮性繊維糸条、合成繊維等に仮撚加工やエアー加工を施した捲縮加工糸条、インターレース等によりエアー混繊した複合糸条、インターレース等によりエアー混繊した複合糸条、撚糸加工を施した撚糸糸条、ポリウレタン等の弾性繊維からなる弾性糸条、さらにはそれらにカバーリング機を用いて加工を施したカバーリング糸条や、合撚糸条等が挙げられる。好ましくは潜在捲縮性繊維からなる糸条が用いられ、編物の伸縮性を長期にわたって維持し、厚みを薄く、軽量にできる面で有利である。特に好ましくは潜在捲縮性ポリエステル系繊維からなる糸条が用いられ、繊維リネン等の耐洗濯性にも優れた編物が得られる。
潜在捲縮性ポリエステル系繊維とは、熱収縮性の異なる通常2つのポリエステル系ポリマー成分が組み合わされて構成される繊維であり、当該2つのポリマー成分がサイドバイサイド型や偏芯芯鞘型に配置されてなる複合繊維である。
ポリエステル系ポリマー成分の組合せとしては、特に限定されるものではないが、例えば、同種であるが極限粘度の異なるポリエステル同士の組み合わせや、スルホイソフタル酸等の塩基性染料可染成分を共重合したポリエステルとレギュラータイプのポリエステルとの組み合わせ、ビスフェノールAを共重合した高収縮タイプのポリエステルとレギュラータイプのポリエステルとの組み合わせ等を挙げることができる。
伸縮性糸条として潜在捲縮性繊維からなる糸条を用いる場合には、編物を製編した後に、染色加工等の熱水加工を施すことにより、糸条の有する捲縮を発現させて編物に伸縮性を付与することができる。
なお、伸縮性糸条のラスターについては、特に限定されるものではなく、ブライト、セミダル、フルダルのいずれでもよい。繊維断面形状についても、特に限定されるものではなく、丸断面、異型断面、中空断面等を適宜採用することができる。
【0015】
本発明の編物の裏面における伸縮性糸条の質量としては、編物の質量、すなわち編物を構成するのに使用されている全繊維の質量のうち10%以上を占めることが必要であり、10〜40%を占めることが好ましい。10%未満では、編物に十分な伸縮性を付与することができない。
【0016】
本発明の編物は、上記したような表面と裏面を有して構成されていればよく、その他の構成については特に限定されるものではないが、好ましい態様としては、図4に示すように、表面編地2とこれに対向する裏面編地3と、この両者を連結する連結糸4からなる連結部とを有する立体構造編物である。立体構造編物の組織としては、ダブルニット、トリコット、ダブルラッセル等を採用することができる。特にリバーシブルダブルニットが好ましく、例えば、編物編成時に表地の一部に水溶性ビニロン繊維を使用してパイル状編物を編成し、染色工程等を利用して熱水により水溶性ビニロン繊維を溶解除去することにより、リバーシブルダブルニット組織を有する本発明の編物を得ることができる。
【0017】
そのような立体構造編物とすることにより、編物表面にもたらされた液体の水分は、連結部の繊維間空隙を利用して、好ましくは毛細管現象により拡散され、親水性繊維を含む裏面編地への移動・吸収を速やかならしめる効果が大となる。また、表裏編地間に連結部が存在することにより、裏面編地に吸水保持された水分が、編地表面に加えられた圧力等によって表面側に逆戻りすることを抑制する効果が大となる。
ここで、立体構造編地の連結部を構成する繊維としては、表面のドライ感を向上させる点で、表面編地と同様に疎水性繊維を用いるの好ましい。
さらに、上記したような立体構造編物においては、表面から見て、凸部が存在しない部分においては連結部が露出していることが好ましい。これは、連結部が表面編地によって被覆されている場合に比べて、編物内部への水分の拡散が容易になるためである。
【0018】
本発明の編物の表面部や、本発明の編物が立体構造編物である場合の表面編地及び/又は連結部においては、毛細管現象により水分の拡散移動を促進するという観点から、それらの部分はマルチフィラメント糸条により編成されていることが好ましく、異繊度のマルチフィラメント糸条により編成されていることがより好ましい。また、同様の観点から、それらの部分に用いる繊維の断面としては異形断面の繊維が好ましい。特に好ましくは、異形異繊度異断面マルチフィラメント糸条を用いることである。
【0019】
また、毛細管現象により水分の移動拡散を促進するためには、単糸繊度の小さい繊維を用いることも好ましく、具体的には単糸繊度5デシテックス以下の繊維を用いることが好ましい。編物の表面においては、肌触りのソフト感、フィット感の点からも単糸繊度5デシテックス以下を用いることが好ましい。また、連結部に用いる繊維の単糸繊度を、表面部に用いる繊維の単糸繊度以下にして構成すれば、相対的に連結部の方が毛細管現象の効果が大きいという構成を具現でき、これにより表面部から連結部への水分移動をさらに促進できるという利点がある。
したがって、本発明の編物が立体構造編物の場合、表面編地において凸部を形成する疎水性繊維の単糸繊度(FA)と、連結部を構成する疎水性繊維の単糸繊度(FB)とが、下記式(1)を満足して構成されていることが特に好ましい。
【0020】
【数1】
【0021】
本発明の編物の厚さとしては、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜設定すればよいが、表面のドライ感を良好に保つという観点から、表面凸部の高さは0.5mm以上あることが好ましく、吸水性繊維を含む裏面の層の厚さは編物全体の厚さの50%未満にとどめることが好ましい。また、立体構造編物の場合は、表面編地と連結部の厚さの合計が編物全体の厚さの50%以上を占めるように構成することが好ましい。
【0022】
本発明の編物は、吸水性、保水性に優れた編物であり、単に多くの水分を吸収するという吸水性だけでなく、一旦編物に浸透して裏面側に吸収された水分が、容易には表面に滲み出してこないという保水性にも優れている編物である。この保水性に劣った編物においては、たとえ吸水性に優れていて多量の水分を吸収しても、編物に身体等による圧力がかかると水分が編物の表面に逆戻りしてしまい、表面が濡れてドライ感が損なわれ、ベトツキを感じてしまうという問題がある。しかし、本発明の編物はそのような問題を克服できる吸水保水性に優れたものである。
この吸水保水性は、次のような方法で評価できる。
【0023】
(吸水保水性の評価方法)
編物からタテ25cm×ヨコ20cmの大きさに裁断したものを試料として準備する。試料の質量(M1)を測定する。別途、濾紙(東洋濾紙株式会社製、ADVANTEC No.2)を試料と同じ大きさに裁断したもの2枚を用意し、その2枚の合計質量(M2)を測定する。試料の中央部に、保水率100%に相当する、試料と同じ質量(M1)の蒸留水をシリンジより滴下する。5分間放置後、上記した2枚の濾紙を試料の上に覆うように重ねて置き、その上から試料全体に20g/cm2(1.96kPa)の圧力がかかるように圧縮荷重を3秒間加えて、加圧により編物表面に逆戻りした水分を濾紙に吸水させ、吸水した濾紙2枚の合計質量(M3)を測定する。以上のようにして測定された値M1、M2、M3から、下記式(2)により逆戻り水分率(GS)を求め、これを吸水保水性の指標とする。
【0024】
【数2】
【0025】
本発明者らの知見によれば、好ましい逆戻り水分率(GS)は30%以下、より好ましくは20%以下であり、これにより実用上十分な吸水保水性能が具現される。
【0026】
本発明の編物は、上記した吸水保水性のみならず、伸縮性にも優れている。この伸縮性としては、伸長率が30%以上、さらには40〜100%であることが好ましく、伸長回復率が85%以上、さらには90%以上が好ましい。
伸長率が30%未満であると、編物が伸びにくく、例えば近年病院や介護施設を初めとして急速に普及している褥創防止用エアーマット、ウレタンマット等のクッション性に優れた用具にシーツとして用いた場合に、マットへ乗る時、体位変換時、寝返り時等のマットの沈み変形にシーツの伸びが追従できなくなり、シーツにシワ等が発生して褥創の原因になりかねない。
また、伸長回復率が85%未満では、編物が伸ばされた後、伸ばす力から開放されたときに元に戻ろうとする回復性に劣り、例えば上記の伸長性について述べたのと同様にエアーマット等のクッション性に優れた用具にシーツとして用いた場合において、その優れたクッション性による変形にシーツが追従できなくなる傾向にある。あるいは、失禁パンツ等へ用いる場合に、歩行や軽度の運動の際に、臀部へのフィット性が劣るため、失禁の際にヨコ洩れが発生したり、または運動の障害になったりする場合がある。伸長回復率は100%に近いほど好ましいが、通常若干の伸長ひずみが残るため、高くても98〜99%程度にとどまる。
なお、上記した本発明の編物の伸縮性は、編物のタテ方向又はヨコ方向について備わっていればよいが、両方向ともに備わっていればより好ましい。
【0027】
本発明の編物についての伸張率及び伸長回復率としては、以下のようにして求めることができる。
すなわち、JIS L−1018に準じて、試料長30cm、試料巾6cm、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分に設定する。伸長率は、29.4N荷重時の伸長率(%)を測定する。伸長回復率は、14.7N荷重時の伸びに対して80%の伸びとなるだけの伸長を行い、1分間放置した後すみやかに除重し、3分間放置後の伸長回復率(%)を測定する。
【0028】
次に、本発明の積層編物について説明する。
本発明の積層編物は、上記した本発明の編物の裏面に防水樹脂層が積層されてなるものであり、本発明の編物の表面が人体の肌面に触れる側の面となるような態様で使用されるものである。したがって、本発明の積層編物は、吸水性、保水性、伸縮性に優れており、さらに防水樹脂層が設けられているので、編物表面から吸水され裏面側に保水された水分が積層編物の外部にしみ出すことが防がれる。すなわち、本発明の積層編物がおむつ、トイレトレーニングパンツ、失禁用パンツや失禁用シーツ等に使用された場合に他の衣料や寝具が濡れることや、バスマットに使用された場合に床が濡れることが防止される。
【0029】
防水樹脂層としては、公知の樹脂フィルムシートや樹脂皮膜を用いればよく、それらを本発明の編物の裏面側にコーティング又はラミネートすることにより積層することができる。防水樹脂層を形成する樹脂としては、特に限定されるものではなく、公知の樹脂から目的に応じて適宜選択すればよいが、例えばポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。中でも、編物の伸縮性に追従する柔軟性という点で、ポリウレタン系樹脂が好ましい。また、リネン用の失禁用シーツ、防水シーツとして供されることを考慮すれば、約80℃の工業洗濯に耐え得る耐熱性樹脂が好ましい。したがって、耐熱性ポリウレタン系樹脂が特に好ましく、例えばポリカーボネート系ウレタン樹脂が好適に用いられる。
また、本発明の積層編物がおむつ、トイレトレーニングパンツ、失禁用パンツや失禁用シーツ等に使用される場合において、ムレを防止するという観点から、防水樹脂層としては、透湿性防水樹脂層であることが好ましい。
【0030】
防水樹脂層の厚さとしては3〜60μmが好ましく、5〜20μmがより好ましい。防水樹脂層の厚さが3μm未満では、防水効果が得られ難く、また破損し易いので好ましくない。一方、60μmを超えると、樹脂被膜の柔軟性が低下する傾向にあり、編物の伸縮性を阻害したりすることがあるので好ましくない。
また、防水樹脂層の耐水圧としては、積層編物に人体の体重等による負荷がかかったときに圧迫された水が外部に漏れ出さない程度の耐水圧を備えていることが好ましく、具体的には20kPa以上が好ましい。
【0031】
本発明の積層編物の吸水保水性としては、既に述べた本発明の編物の吸水保水性と同様にして評価でき、本発明の編物と同レベルの吸水保水性を有していることが好ましい。
また、本発明の積層編物の伸縮性も、既に述べた本発明の編物と同様に評価でき、同レベルの伸縮性を有することが好ましい。本発明の積層編物は防水樹脂層を有しているが、ポリウレタン系等の適当な樹脂を選択して防水樹脂層を形成することにより、編物の伸縮性を実質的に損なわないようにすることができる。
【0032】
【作用】
本発明の編物は、編物表面の凹凸構造により肌との接触面積が小さくベトツキ感等の濡れ感を軽減せしめることができる。また、裏面に親水性繊維を編物全体の30質量%以上用いることで、表面から裏面側に移行した水分を編物裏面の親水性繊維へ保持させ水分の逆戻りを抑制することができる。また、編物裏面に伸縮性糸条を編物全体の10質量%以上のストレッチ糸条を用いることで、編物に伸縮性が付与される。
さらに、本発明の編物に防水樹脂層を積層して積層編物とすることにより、編物の裏面から外部に水分が移行するのを防ぐことができる。
【0033】
【実施例】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。
なお、実施例に記載の編物(積層編物)の特性は、次にように評価したものである。
(i)逆戻り水分率(GS)
上記した吸水保水性の評価方法により求めたものであるが、1つの積層編物あたり3点の試料について行ない、その平均値を採用した。なお、積層編物を試料とした場合において、質量M1には防水樹脂層の質量を含むものである。また、圧縮荷重を加える際には、空気圧駆動式のプレス試験機(大阪アサヒ社製、盤面サイズ30×30cm、ストローク長13.5cm)を使用して常温(約25℃)にて行なった。
【0034】
(ii)ドライ感
編物(積層編物)からタテ25cm×ヨコ20cmの大きさに裁断したものを試料として準備した。編物表面を上にして机上に置いた試料の中央部に、試料中の編物の質量に相当する量の蒸留水をシリンジより滴下した。5分間放置後、滴下した箇所を中心に手のひらでやや強めに押さえてみて、濡れを感じるかどうかという官能試験により評価した。試験は10人のパネラーにより行ない、下記の基準で評価して、最も人数の多かった評価結果を採用した。
評価基準
◎:濡れを感じず、水分が手に全くつかない。
○:濡れは感じないが、水分が僅かに手につくのが目視できる。 △:濡れを感じ、かなりの水分が手につくのが目視できる。
×:軽く触れるだけで手に水分がつき、押さえるとベトベトする。
【0035】
(iii)伸縮性
上記したJIS L−1018に準じた方法により、伸長率と伸長回復率を測定して求めた。
【0036】
実施例1
立体構造編物を得るため、表面編地にはポリエステル仮撚加工糸(ユニチカファイバー株式会社製、167デシテックス/72フィラメント)と水溶性ビニロン繊維(株式会社ニチビ製「ソルブロン(商品名)」、30デシテックス/9フィラメント)を、連結部には異繊度異形断面ポリエステル加工糸(ユニチカファイバー株式会社製「ルミエース(商品名)」、73デシテックス/44フィラメント)の2本合糸を、編地裏面には綿コーマ糸15番手と伸縮性糸条である潜在捲縮ポリエステル繊維糸条(ユニチカファイバー株式会社製「Z10(商品名)」、110デシテックス/24フィラメント)とを使用した。これらの糸を用いて、33”*22Gの丸編機(福原精機製、LPJ−H型)により、図5に示す編成組織にて、表面編地、裏面編地及び連結部からなる立体構造編物を製編した。この編物に対し、サーキュラー染色試験機(日阪製作所製、CUT−T−S型)にて、界面活性剤(日華化学株式会社製、サンモールFL)を1g/リットルの濃度で使用して、浴比1:25で80℃、30分間のリラックス精練を行った。この段階で編物表面の水溶性ビニロン繊維は溶解除去され、パイルにより形成されたドット状の凸部が顕在化していた。次いで、上記と同じサーキュラー染色試験機にて、苛性ソーダと過酸化水素水(35%)とをそれぞれ1g/リットル及び5g/リットルの割合で使用して、浴比1:25で80℃、30分間のサラシ処理を行った。さらに、ポリエステル繊維を収縮させるべく、上記と同じサーキュラー染色試験機にて130℃の熱水中30分間のリラックス処理を行った後、仕上げセットを施して、本発明の編物である立体構造編物を得た。
【0037】
別途、離型紙(リンテック株式会社製、EV130TPO)の離型面に、コンマコータを用いて、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(セイコー化成株式会社製、「ラックスキン(商品名)U−390」、固形分20%)を、塗布量50g/m2で塗布した後、100℃で2分間乾燥させることにより、透湿防水性樹脂被膜を離型紙上に形成した。さらに、上記の樹脂皮膜上に、25メッシュ、深度250μmのドット状(ドットの幅0.7mm、ドット間隔0.35mm)の塗布パターンを有するグラビアロールを用いて、下記表1に示す組成のポリウレタン系接着剤組成物(固形分36%)をドット状に塗布した後、130℃で2分間乾燥させた。
【0038】
【表1】
【0039】
このようにして接着剤を付与した樹脂皮膜上に上記で得られた本発明の編物を重ねて30kPaの圧力を印加した後に巻取った。そして、40℃で3日間エージングした後に、離型紙を剥離させることにより、編物と樹脂皮膜とを積層させた本発明の積層編物を得た。
この積層編物は、編物の表面にドット状の凸部としてのパイル(高さ2.3mm)を40個/cm2の密度で有しており、編物に占める裏面の親水性繊維(綿)の割合は42.8質量%、伸縮性糸条の割合は12.5%であった。
【0040】
実施例2
編物表面組織にはポリエステル仮撚加工糸(ユニチカファイバー株式会社製、167デシテックス/48フィラメント)を、編物裏面組織には綿コーマ糸40番手と伸縮性糸条である潜在捲縮ポリエステル繊維糸条(ユニチカファイバー株式会社製「Z10(商品名)」、110デシテックス/24フィラメント)とを使用し、30”*20Gの丸編機(福原精機製、XL−PL2型)を用いて、図6に示すパイル編成組織にて編物を製編した。それ以降の工程は実施例1と同様にして、本発明の編物及び積層編物を得た。
実施例2で得られた積層編物は、編物の表面にドット状の凸部としてのパイル(高さ1.7mm)を28個/cm2の密度で有しており、編物に占める裏面の親水性繊維(綿)の割合は36.7質量%、伸縮性糸条の割合は13.4%であった。
【0041】
比較例1
編地裏面において潜在捲縮ポリエステル繊維糸条を用いずに綿コーマ糸のみを使用した以外は、実施例1と同様にして、比較用の編物及び積層編物を得た。
比較例1で得られた積層編物は、編物の表面にドット状の凸部としてのパイル(高さ2.3mm)を38個/cm2の密度で有しており、編物に占める裏面の親水性繊維(綿)の割合は65.5質量%、伸縮性糸条の割合は0%であった。
【0042】
比較例2
編物裏面において、潜在捲縮ポリエステル繊維糸条(Z10)に代えてポリエステル仮撚捲縮加工糸(165デシテックス/48フィラメント)を用いる以外は、実施例2と同様にして、比較用の編物及び積層編物を得た。
比較例1で得られた積層編物は、編物の表面にドット状の凸部としてのパイル(高さ2.3mm)を28個/cm2の密度で有しており、編物に占める裏面の親水性繊維(綿)の割合は25.7質量%、伸縮性糸条の割合は31.2%であった。
【0043】
上記の実施例及び比較例で得られた積層編物の特性を評価した結果について下記表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
表2の結果から分かるように、本発明の構成要件を備えた実施例1及び2の積層編物については、吸水保水性に優れ、表面の快適なドライ感を実現するものであった。また、裏面側には防水樹脂層を有しているため、裏面側から外部へ水分がしみ出すこともなかった。
これに対して、比較例1については、伸縮性糸条を用いなかったために伸縮性に劣るものとなった。
また、比較例2については、親水性繊維の質量割合が小さいため、吸水保水性に劣り、ドライ感にも劣るものであった。
【0046】
【発明の効果】
本発明の編物は、以上のように本発明特有の構成により、優れた吸水保水性と伸縮性を兼ね備えた伸縮性吸水保水編物である。したがって、吸水保水性と伸縮性の要求される育児用品、介護用品、その他の産業資材用途に好適に使用でき、使い捨てでなく洗濯して反復使用できるおむつやトイレトレーニングパンツ、失禁用パンツ、失禁用シーツ等の素材として最適であり、快適な使用感を得ることができる。すなわち、吸水保水性により使用時の表面ドライ感に優れ、また、伸縮性により、シーツ等に使用した場合にはシワが生じにくく、失禁用パンツ等に使用した場合には人体に良くフィットしてヨコ洩れが防止できる。
また、本発明の積層編物は、本発明の編物の裏面に防水樹脂層が積層されたものであり、上記した本発明の編物と同様の用途に使用でき、本発明の編物と同様の優れた吸水保水性と伸縮性を兼ね備え、さらに編物裏面側から外部への移水を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の編物について、表面部の構造の一例を模式的に表わした平面図である。
【図2】本発明の編物について、表面部の構造の一例を模式的に表わした平面図である。
【図3】本発明の編物について、表面部の構造の一例を模式的に表わした平面図である。
【図4】本発明の積層編物の好ましい断面構造の例を模式的に表わした断面図である。
【図5】編物の編成組織を例示する組織図である。
【図6】編物の編成組織を例示する組織図である。
【符号の説明】
1 表面凸部
2 表面編地
3 裏面編地
4 連結糸
5 防水樹脂層
CY シリンダー針
DY ダイヤル針
F1〜F8 給糸口
a 表面組織に用いる糸条
b 連結部に用いる糸条
c 裏面組織に用いる糸条
d 表面編地を編成する際に用いる水溶性ビニロン糸条
e 裏面組織に用いる糸条
f 表面組織に用いる糸条
g 裏面組織に用いる糸条
h 裏面組織に用いる糸条
Claims (6)
- 編物において、表面には疎水性繊維からなる凸部が形成され、裏面は編物全体の質量の30%以上を占める親水性繊維と、編物全体の質量の10%以上を占める伸縮性糸条を用いて構成されていることを特徴とする伸縮性吸水保水編物。
- 表面編地と、これに対向する裏面編地と、両編地間を連結する連結部とからなる立体構造編物であって、連結部が疎水性繊維からなることを特徴とする請求項1に記載の伸縮性吸水保水編物。
- 表面の凸部がパイルにより形成されたドット状の凸部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の伸縮性吸水保水編物。
- 編物のタテ方向又はヨコ方向について、伸長率が30%以上、伸長回復率が85%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の伸縮性吸水保水編物。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の伸縮性吸水保水編物の裏面に、防水樹脂層が積層されてなることを特徴とする積層編物。
- 編物のタテ方向又はヨコ方向について、伸長率が30%以上、伸長回復率が85%以上であることを特徴とする請求項5に記載の積層編物。
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