JP2005013215A - 転写制御シスエレメント及びそれに特異的に結合する転写調節因子並びにそれらの用途 - Google Patents

転写制御シスエレメント及びそれに特異的に結合する転写調節因子並びにそれらの用途 Download PDF

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Abstract

【課題】哺乳動物における果糖によるSREBP−1c遺伝子の発現誘導のメカニズムの解明、代謝障害に対する遺伝的感受性を規定する因子の同定および代謝障害の有効な予防・治療薬の提供。
【解決手段】新規な果糖応答性転写制御シスエレメントおよびそれと相互作用する転写調節因子、それらを導入もしくは不活性化した非ヒト動物、それらを用いた代謝障害の遺伝的感受性の診断方法、並びにそれらを用いた代謝障害の予防・治療薬のスクリーニング方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、代謝障害に対する遺伝的感受性に関連する、SREBP−1cプロモーター内の新規転写制御シスエレメント、それに結合し得る新規転写調節因子、それらを用いた代謝障害の予防・治療物質のスクリーニング方法、代謝障害に対して低感受性である変異プロモーター配列、並びにSREBP−1cプロモーターまたは上記転写調節因子の遺伝子が改変された非ヒト組換え動物に関する。
2型糖尿病の罹患率は過去数十年間にわたって上昇している。この現象の重要な背景の1つは、高脂血症、内臓肥満、耐糖能異常、高インスリン血症などのいくつかの代謝異常からなる代謝症候群と呼ばれる状態にある集団が最近増加していることである。代謝症候群は、未同定の遺伝的背景を有する人々において、高カロリー食や運動不足等の環境因子によって誘発され得る。
高果糖食は、ラットにおいて代謝症候群と類似した代謝の撹乱を誘発するので、高果糖食負荷ラットは確立された代謝症候群の動物モデルとして用いられている。永井ら(非特許文献1)には、高果糖食負荷ラットでは、肝臓における脂質合成酵素群の発現のキーとなる転写因子であるステロール調節因子結合蛋白質−1(SREBP−1)の発現が誘導されるが、脂肪酸酸化に関与する酵素群の発現を調節するリガンド応答性の核内受容体であるペルオキシソーム増殖剤応答レセプターα(PPARα)の発現はダウンレギュレートされることが開示されている。転写因子の発現におけるこれらの変化が、高果糖食負荷ラットにおける代謝撹乱の発症に中心的役割を担っているかもしれない。
さらに、長田ら(非特許文献2)には、マウスにおける高果糖食による肥満や脂質代謝異常には系統差がみられること、それには肝臓におけるSREBP−1cの発現の差が関与していることが開示されている。即ち、CBA系マウスは高果糖食により体重及び血清脂質が増加するのに対し、DBA/2系マウスでは変化がみられず、かかる代謝異常は肝SREBP−1c mRNAの発現量と正に相関していた。
しかし、果糖がどのようにSREBP−1遺伝子の発現を誘導するかというメカニズムは未だ解明されておらず、高果糖食によって代謝異常となりやすい遺伝素質の実体も確認されていない。
永井ら,「アメリカン・ジャーナル・オヴ・フィジオロジー・エンドクリノロジー・アンド・メタボリズム(Am J Physiol Endocrinol Metab)」,(米国),2002年,第282巻,第5号,p.E1180−1190 長田ら,「糖尿病」,日本糖尿病学会,2002年4月15日,第45巻,増補第2号,p.S247
本発明の目的は、哺乳動物における果糖によるSREBP−1c遺伝子の発現誘導のメカニズムを解明するとともに、食事による代謝障害に対する遺伝的感受性を規定する因子を同定し、以って代謝障害の有効な予防・治療剤を提供することである。
本発明者等は、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、高果糖食により脂質代謝異常を生ずるCBA系マウスと、ほとんど代謝異常を示さないDBA系マウスとでは、SREBP−1c遺伝子のプロモーター領域内の1塩基に相違があることを見出した。さらに、これら2群のマウスの当該変異部位を含む塩基配列を有する核酸プローブを用いたゲルシフトアッセイの結果、前者のマウス由来の塩基配列のみに特異的に結合し得る2つの転写調節因子の存在を明らかにした。これらの転写調節因子のアミノ酸配列をTOF−MS分析により決定した結果、公知のNonamer Binding Proteion(NBP)及びRNA binding motif protein, X chromosome retrogene(RBMX)類似蛋白質であることが分かった。これらの転写調節因子の発現は、食後、特に高果糖食の摂食後に顕著に上昇する一方、空腹時ではほとんど発現せず、SREBP−1c遺伝子の発現とよく相関していた。
本発明者等はまた、公知のヒトSREBP−1c遺伝子のプロモーターを解析した結果、CBA系マウスにおける上記変異部位を含む塩基配列と相同な配列が存在することを確認し、ヒトにおいてもマウスと同様の多型が存在する可能性があることを見出した。
本発明者等は、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
[1] 配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列からなる核酸、
[2] 下記(1)及び(2)の特徴を有する核酸、
(1)配列番号1で表される塩基配列もしくは塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列において、1もしくは2以上の塩基が置換、欠失、挿入もしくは付加された塩基配列を含有する
(2)配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニン及びそれに隣接する塩基からなる塩基配列に結合し得る転写調節因子が結合し得ない
[3] 配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンが他の塩基で置換されている上記[2]記載の核酸、
[4] 他の塩基がアデニンである上記[3]記載の核酸、
[5] SREBP-1cプロモーター中の、配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部またはそれに対応する塩基配列を検出することを特徴とする、被検動物の代謝障害に対する遺伝的感受性の診断方法、
[6] 代謝障害が糖・脂質代謝障害である上記[5]記載の方法、
[7] 下記(a)と、下記(b)及び/又は(c)とを用いることを特徴とする、代謝障害の予防・治療物質のスクリーニング方法、
(a)配列番号1で表される塩基配列もしくは塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列を有するDNA
(b)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
(c)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
[8] 代謝障害が糖・脂質代謝障害である上記[7]記載の方法、
[9] 被検物質の存在下における、前記(a)と前記(b)及び/又は(c)との結合阻害を検出することを特徴とする上記[7]記載の方法、
[10] 前記(a)を含むプロモーターの制御下にある遺伝子を含有する動物細胞に糖を負荷し、被検物質の存在下及び非存在下における該遺伝子の発現を比較することを特徴とする上記[7]記載の方法、
[11] 動物細胞が、前記(b)及び/又は(c)を産生する能力を有することを特徴とする上記[10]記載の方法、
[12] 動物細胞が肝細胞である上記[10]記載の方法、
[13] 糖が果糖である上記[10]記載の方法、
[14] 配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列を有するDNAを含むプロモーターの制御下にある遺伝子を含有する動物に糖を負荷し、被検物質の投与下及び非投与下における肝臓での該遺伝子の発現を比較することを特徴とする上記[10]記載の方法、
[15] 糖が果糖である上記[14]記載の方法、
[16] 下記(a)及び/又は(b)の産生もしくは活性抑制物質を含有してなる代謝障害の予防・治療剤、
(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
(b)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
[17] 代謝障害が糖・脂質代謝障害である上記[16]記載の剤、
[18] 活性抑制物質が、前記(a)に対する抗体及び/又は前記(b)に対する抗体である上記[16]記載の剤、
[19] 活性抑制物質が、配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列を有するDNAである上記[16]記載の剤、
[20] 産生抑制物質が、下記(c)及び/又は(d)である請求項16記載の剤、
(c)前記(a)をコードする塩基配列と相補的な塩基配列又はその一部を含有する核酸
(d)前記(b)をコードする塩基配列と相補的な塩基配列又はその一部を含有する核酸
[21] 下記(a)及び/又は(b)の産生もしくは活性抑制物質の有効量を哺乳動物に投与することを含む代謝障害の予防・治療方法、
(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
(b)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
[22] 代謝障害の予防・治療剤の製造のための、下記(a)及び/又は(b)の産生もしくは活性抑制物質の使用、
(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
(b)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
[23] 下記(1)及び(2)の特徴を有する蛋白質もしくはペプチド又はその塩、
(1)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩において、1もしくは2以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を含有する
(2)配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列に結合するが、該塩基配列を含むプロモーターを活性化しない
[24] 下記(1)及び(2)の特徴を有する蛋白質もしくはペプチド又はその塩、
(1)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩において、1もしくは2以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を含有する
(2)配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列に結合するが、該塩基配列を含むプロモーターを活性化しない
[25] 上記[23]記載の蛋白質もしくはペプチド又はその塩、及び/あるいは上記[24]記載の蛋白質もしくはペプチド又はその塩を含有してなる代謝障害の予防・治療剤、
[26] 下記(a)及び/又は(b)を含有してなる代謝障害の診断剤、
(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩に対する抗体
(b)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩に対する抗体
[27] 下記(a)及び/又は(b)を含有してなる代謝障害の診断剤、
(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質をコードする塩基配列又はその一部を含有する核酸
(b)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質をコードする塩基配列又はその一部を含有する核酸
[28] 配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列を有するDNAを含むプロモーターの制御下にある遺伝子が導入された非ヒトトランスジェニック動物、
[29] 下記(1)の特徴:
(1)下記(a)及び/又は(b)が結合し得ないプロモーターを含む
(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
(b)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
を有する内因性SREBP−1c遺伝子が、下記(2)の特徴:
(2)配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列を有するDNAを含むプロモーターの制御下にある
を有するSREBP−1c遺伝子で置換された上記[28]記載の非ヒトトランスジェニック動物、
[30] 下記(1)及び(2)の特徴を有するプロモーターの制御下にある遺伝子が導入された非ヒトトランスジェニック動物、
(1)配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列において、1もしくは2以上の塩基が置換、欠失、挿入もしくは付加された塩基配列を有するDNAを含有する
(2)下記(a)及び/又は(b)が結合し得ない
(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
(b)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
[31] 配列番号1で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有するプロモーターを含む内因性SREBP−1c遺伝子が、前記(1)及び(2)の特徴を有するプロモーターの制御下にあるSREBP−1c遺伝子で置換された上記[30]記載の非ヒトトランスジェニック動物、
[32] 下記(a)及び/又は(b)が導入された非ヒトトランスジェニック動物、
(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質又はその部分ペプチドをコードするDNA
(b)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質又はその部分ペプチドをコードするDNA
及び
[33] 下記(a)及び/又は(b)が不活性化された非ヒト動物、
(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質をコードするDNA
(b)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質をコードするDNA
を提供する。
本発明において見出されたSREBP−1cプロモーター中の新規転写制御シスエレメントは、それに特異的に結合する転写調節因子と相互作用してSREBP−1cの発現を促進することから、該シスエレメントを含む塩基配列を有する核酸は、該転写調節因子と組み合わせて、SREBP−1c遺伝子の発現を調節する化合物、従って代謝障害の予防・治療薬の候補化合物をスクリーニングすることができる。さらに、該核酸は、SREBP−1cプロモーター中の該シスエレメントにおける変異の有無を検出することができ、従って、哺乳動物の、食事による代謝障害に対する遺伝的感受性を診断することができる。
本発明は、摂食(糖負荷)、特に高果糖食(果糖負荷)に応答して下流の遺伝子の転写を促進し得る新規転写制御シスエレメント(以下、「果糖応答エレメント(fructose responsive element;FRE)」と称する場合もある)及び該シスエレメントを含有する核酸を提供する。
本発明の果糖応答エレメント(FRE)は、配列番号1で表される、CBA、C3H系等のマウス由来SREBP−1cプロモーターの塩基配列中、塩基番号112で示されるグアニン(以下、「G112」と略記することもある)を含む部分塩基配列、好ましくは約5〜約30塩基からなる部分塩基配列、より詳細にはG112とその5’上流側0〜20塩基及びG112の3’下流側0〜20塩基とからなる全長約5〜約30塩基の部分塩基配列と同一又は実質的に同一の塩基配列である。
「実質的に同一の塩基配列」とは、上記部分塩基配列において、1)G112を除く1もしくは2以上の塩基(好ましくは1〜数塩基)が他の塩基で置換された塩基配列、2)1もしくは2以上の塩基(好ましくは1〜数塩基)が欠失した塩基配列、3)1もしくは2以上の塩基(好ましくは1〜数塩基)が挿入された塩基配列、及びそれらを組み合わせた塩基配列であって、摂食(糖負荷)、特に高果糖食(果糖負荷)に応答して下流の遺伝子の転写を促進し得るものをいう。転写促進活性は、後述の転写調節因子との結合アッセイ、あるいは調べるべき塩基配列を含むプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子(例:ルシフェラーゼ、Green Fluorescent Protein (GFP)等)の糖(例:果糖)負荷による発現増加を検出することにより検定することができる。「実質的に同一の塩基配列」として、例えば、マウス以外の哺乳動物(例:ヒト、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ等)で、食後(特に高果糖食の摂食後)に血清脂質上昇などの代謝異常の傾向を示す系統もしくは個体由来のSREBP−1c遺伝子プロモーター中のG112に対応する塩基を含む部分塩基配列などが好ましく挙げられる。具体的には、例えば、配列番号13で表されるヒト由来SREBP−1cプロモーターの塩基配列中、塩基番号39で示されるグアニンを含む部分塩基配列、好ましくは約5〜約30塩基からなる部分塩基配列、より詳細には当該グアニンとその5’上流側0〜20塩基及び3’下流側0〜20塩基とからなる全長約5〜約30塩基の部分塩基配列が挙げられる。
本発明のFREを含有する核酸は、上記本発明のFREの塩基配列もしくは該FREの5'上流及び/又は3’下流に1もしくは2以上の塩基が付加された塩基配列を有する核酸であればいずれのものであってもよい(但し、配列番号1で表される塩基配列全体を含む核酸を除く)。付加される塩基配列の長さは特に制限されず、例えば、配列番号1で表される塩基配列のG112の5’上流配列よりもさらに上流域のSREBP−1cプロモーター配列(例:配列番号6で表される塩基配列中塩基番号1〜637で示される塩基配列など)を含むものも包含される。
該核酸はDNAであってもRNAであっても、あるいはDNA/RNAキメラであってもよく、その用途(例:発現プロモーター、診断用プローブ、治療用デコイヌクレオチド等)に応じて適宜選択することができるが、好ましくはDNAである。また、該核酸は一本鎖であっても二本鎖であってもよく、二本鎖の場合DNA鎖とRNA鎖とのハイブリッドであってもよい。また、該核酸は酸または塩基との生理学的に許容される塩であってもよく、例えば、生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、中でも、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。
本発明のFREを含有する核酸(好ましくはDNA)は、ヒトまたは他の哺乳動物(例:マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ等)、好ましくは食後(特に高果糖食の摂食後)に血清脂質上昇などの代謝異常の傾向を示す系統もしくは個体、特に好ましくはCBA、C3H系マウス由来の細胞[例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、内皮細胞、繊維芽細胞、繊維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例:マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくはガン細胞など]もしくはそれらの細胞が存在するあらゆる組織[例えば、脳、脳の各部位(例:嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆のう、骨髄、副腎、皮膚、筋肉、肺、消化管(例:大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、唾液腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、軟骨、関節、骨格筋など]から抽出したゲノムDNAより、公知のSREBP−1c遺伝子プロモーター配列(例えば、Amemiya-Kudoら,ジャーナル・オヴ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.),2000年,第275巻,第40号,p.31078−31085に記載;GenBank登録番号:AB046200)をプローブとして該プロモーター領域を含むゲノムDNAをクローニングし、DNA分解酵素、例えば、適当な制限酵素を用いて所望の部分プロモーター配列を含むDNA断片に切断、ゲル電気泳動で分離後、所望のバンドを回収してDNAを精製することにより調製することができる。あるいは、上記細胞の粗抽出液もしくはそこから単離したゲノムDNAを鋳型として、公知のSREBP−1c遺伝子プロモーター配列を基に合成したプライマーを用いたPCRにより、本発明のFREを含むSREBP−1cプロモーター部分配列を増幅、単離することもできる。
また、本発明のFREを含有する核酸は、配列番号1で表される塩基配列を基に、G112を含むその部分塩基配列または該塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する核酸を、市販のDNA/RNA自動合成装置を用いて化学合成することによっても得ることができる。
化学合成による場合、該核酸は、プリンまたはピリミジン塩基のN−グリコシドである、デオキシリボヌクレオチドやリボヌクレオチド以外のタイプのポリヌクレオチド、あるいは非ヌクレオチド骨格を有するその他のポリマー(例えば、市販の蛋白質核酸及び合成配列特異的な核酸ポリマー)または特殊な結合を含有するその他のポリマー(但し、該ポリマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などであってもよい。それらは公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合または硫黄含有結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えば蛋白質(ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ−L−リジンなど)や糖(例えば、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレント化合物(例えば、アクリジン、プソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。ここで「ヌクレオチド」及び「核酸」とは、プリン及びピリミジン塩基を含有するのみでなく、修飾されたその他の複素環型塩基をもつようなものを含んでいてもよい。こうした修飾物は、メチル化されたプリン及びピリミジン、アシル化されたプリン及びピリミジン、あるいはその他の複素環を含むものであってよい。修飾されたヌクレオチドはまた糖部分が修飾されていてよく、例えば、1個以上の水酸基がハロゲン、脂肪族基(例、C1-6アルキル基)などで置換されていたり、あるいはエーテル、アミンなどの官能基に変換されていてもよい。修飾された核酸の具体例としては、核酸の硫黄誘導体やチオホスフェート誘導体、そしてポリヌクレオシドアミドやオリゴヌクレオシドアミドの分解に抵抗性のものが挙げられるが、それに限定されるものではない。
このような修飾された核酸は、例えば、該核酸を治療用デコイヌクレオチドとして使用する場合、生体内安定性を高めたり、細胞透過性を改善したりするのに有用である。
本発明のFREを含有する核酸が遺伝子発現用プロモーターとして使用される場合、FREの下流にTATAボックス等のbasalなプロモーター活性を付与する塩基配列が付加される。さらに他の転写制御シス配列(例:CAATボックス、GCボックス等)を適当な位置に配置することもできる。
本発明はまた、上記本発明の果糖応答エレメントに変異を有し、該エレメントに結合し得る転写調節因子(即ち、後述のNBP及び/又はRBMX類似蛋白質)が結合し得ない変異SREBP−1cプロモーターまたは該変異部位を含むその部分ポリヌクレオチドを提供する。即ち、本発明の変異FREまたは該変異FREを含む変異SREBP−1cプロモーターは、配列番号1で表される塩基配列もしくは塩基番号112で示されるグアニン(G112)を含む該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列において、1もしくは2以上の塩基(好ましくは1〜数塩基)が置換、欠失、挿入もしくは付加された塩基配列を含有し、配列番号1で表される塩基配列中G112及びそれに隣接する塩基からなる塩基配列に結合し得る転写調節因子が結合し得ないことを特徴とする核酸である。ここで「実質的に同一の塩基配列」とは上記と同義である。また「隣接する塩基」は、G112の5’上流側及び3’下流側のいずれであってもよく、その両方であってもよい。G112及びそれに隣接する塩基からなる塩基配列は、好ましくは約5〜約30塩基、より詳細にはG112とその5’上流側0〜20塩基及びG112の3’下流側0〜20塩基とからなる全長約5〜約30塩基からなる塩基配列である。
当該変異FRE及びそれを含む変異SREBP−1cプロモーターは、動物個体のSREBP−1cプロモーター中における当該変異を検出するためのプローブとして使用することができ、また該変異SREBP−1cプロモーターは、高果糖食抵抗性のトランスジェニック動物モデル作製のためのトランスジーン等として有用である。
好ましくは、本発明の変異FREまたはそれを含む変異SREBP−1cプロモーターは、配列番号1で表される塩基配列中G112が他の塩基で置換されている上記の核酸であり、特に好ましくは、G112がアデニンで置換されている上記の核酸である。
本発明の変異FREまたはそれを含む変異SREBP−1cプロモーターは、当該変異プロモーターを有するヒトまたは他の哺乳動物(例:マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ等)、例えば、食後(特に高果糖食の摂食後)に血清脂質上昇などの代謝異常を示さない系統もしくは個体、特に好ましくはDBA、C57BL系マウス由来の細胞[例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、内皮細胞、繊維芽細胞、繊維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例:マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくはガン細胞など]もしくはそれらの細胞が存在するあらゆる組織[例えば、脳、脳の各部位(例:嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆のう、骨髄、副腎、皮膚、筋肉、肺、消化管(例:大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、唾液腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、軟骨、関節、骨格筋など]から抽出したゲノムDNAより、公知のSREBP−1c遺伝子プロモーター配列(例えば、Amemiya-Kudoら,ジャーナル・オヴ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.),2000年,第275巻,第40号,p.31078−31085に記載;GenBank登録番号:AB046200)をプローブとして該プロモーター領域を含むゲノムDNAをクローニングし、DNA分解酵素、例えば、適当な制限酵素を用いて所望の(部分)プロモーター配列を含むDNA断片に切断、ゲル電気泳動で分離後、所望のバンドを回収してDNAを精製することにより調製することができる。あるいは、上記細胞の粗抽出液もしくはそこから単離したゲノムDNAを鋳型として、公知のSREBP−1c遺伝子プロモーター配列を基に合成したプライマーを用いたPCRによっても単離することができる。
また、本発明の変異FREまたはそれを含む変異SREBP−1cプロモーターは、公知のSREBP−1c遺伝子プロモーターを鋳型とし、本発明のFRE塩基配列において、1もしくは2以上の塩基(好ましくは1〜数塩基)が置換、欠失、挿入もしくは付加された塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを一方のプライマーとしたPCRによる部位特異的変異誘発によっても取得することができる。得られた変異FREまたはそれを含む変異SREBP−1cプロモーターが摂食(糖負荷)、特に高果糖食(果糖負荷)に応答して下流の遺伝子の転写を促進しないことは、後述の転写調節因子との結合アッセイ、あるいは該変異プロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子(例:ルシフェラーゼ、Green Fluorescent Protein (GFP)等)の糖(例:果糖)負荷による発現の変化を調べることにより検定することができる。
あるいはまた、本発明の変異FREまたはそれを含む変異SREBP−1cプロモーターは、公知のSREBP−1cプロモーター中のFRE塩基配列において、1もしくは2以上の塩基(好ましくは1〜数塩基)が置換、欠失、挿入もしくは付加された塩基配列を、上記と同様に市販のDNA/RNA自動合成装置を用いて化学合成することによっても取得することができる。
本発明はまた、SREBP-1cプロモーター中の果糖応答エレメントにおける変異を検出することによる、被検動物(例えば、ヒトまたは他の哺乳動物)の代謝障害に対する遺伝的感受性の診断方法を提供する。即ち、当該方法は、配列番号1で表される塩基配列中G112を含む該塩基配列の一部(即ち、CBAマウス等由来のFRE)またはそれに対応する塩基配列(即ち、他の本発明のFREまたは本発明の変異FRE)を検出することを特徴とする。
上記代謝障害としては、例えば食事(特に高果糖食)による代謝障害、例えば糖・脂質代謝障害(例:高TG血症、高LDL−C血症、低HDL−C血症、肥満、耐糖能異常、空腹時血糖障害、高インスリン血症、高血圧、アルブミン尿症等)などが挙げられる。
FREにおける変異の検出方法としては、公知のSNP検出方法のいずれも使用することができる。該検出方法としては、例えば、被検動物の細胞から抽出したゲノムDNAを試料とし、上記の本発明のFREもしくはそれを含有する核酸、または本発明の変異FREもしくはそれを含有する核酸をプローブとして用い、例えばWallaceら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80, 278-282 (1983))の方法に従って、ストリンジェンシーを正確にコントロールしながらハイブリダイゼーションを行い、プローブと完全相補的な配列のみを検出する方法や、本発明のFREもしくはそれを含有する核酸及び本発明の変異FREもしくはそれを含有する核酸の一方を標識し、他方を未標識としたミックスプローブを用い、変性温度から徐々に反応温度を低下させながらハイブリダイゼーションを行い、一方のプローブと完全相補的な配列を先にハイブリダイズさせ、ミスマッチを有するプローブとの交差反応を防ぐ方法などが挙げられる。
FREにおける変異の検出は、PCRを利用した公知のSNP検出方法、例えばPCR−SSCP法、アレル特異的PCR、PCR−SSOP法、DGGE法、RNaseプロテクション法、PCR−RFLP法などにより実施することもできる。例えば、PCR−SSCP法による場合、本発明のFREより5’上流側のSREBP−1cプロモーター部分配列をセンスプライマー、FREより3’下流側のSREBP−1cプロモーター相補鎖部分配列をアンチセンスプライマーとし、被検動物の細胞抽出液もしくはそこから精製したゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い(プライマーもしくは基質ヌクレオチドの1つを標識しておく)、得られた増幅断片を一本鎖化した後非変性ゲル電気泳動に付し、その移動度の相違から一次構造多型を検出することができる。
本発明はまた、本発明のFREに結合し得る2種の転写調節因子(以下、「本発明の転写調節因子」ともいう)を提供する。該転写調節因子は、本発明のFREに特異的に結合してその下流に位置する遺伝子の転写を促進する活性を有し、且つ本発明の変異FREに結合し得ないというDNA結合特性を有する。
具体的には、本発明の転写調節因子は、(1)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質、及び(2)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質である。配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質は、免疫グロブリンやT細胞レセプター遺伝子のrearrangementにおいて組換え部位付近に存在する保存された9mer配列に特異的に結合する蛋白質として同定されたNonamer Binding Protein(NBP)と呼ばれる公知の蛋白質である(Gene Dev., 3: 1801−1813, 1989)。一方、配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質は、RNA結合モチーフを有する核RNA結合蛋白質ファミリーに属する蛋白質の1つであり、ヒトやマウスにおいてはX染色体上に存在することが知られているRNA binding motif protein, X chromosome retrogene(RBMX)遺伝子(Nature Genet., 22: 223-224, 1999)に類似する遺伝子にコードされる蛋白質である。以下、前者を「本発明のNBP」、後者を「本発明のRBMX類似蛋白質」という場合がある。
本発明の転写調節因子は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)の細胞(例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、繊維芽細胞、繊維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、肝細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくはガン細胞など)もしくはそれらの細胞が存在するあらゆる組織、例えば、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆のう、骨髄、副腎、皮膚、筋肉、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、骨格筋などに由来する蛋白質であってよく、また、化学合成もしくは無細胞翻訳系で合成された蛋白質であってもよい。あるいは上記アミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドを導入された形質転換体から産生された組換え蛋白質であってもよい。
配列番号3で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、配列番号3で表されるアミノ酸配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。同様に、配列番号5で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、配列番号5で表されるアミノ酸配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。
配列番号3(または5)で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質としては、例えば、前記の配列番号3(または5)で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有し、配列番号3(または5)で表されるアミノ酸配列を含有する蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質などが好ましい。
実質的に同質の活性としては、例えば、本発明のFRE配列への結合活性、該配列を含むプロモーターの制御下にある遺伝子の転写制御活性などが挙げられる。実質的に同質とは、それらの性質が性質的に(例、生理学的に、または薬理学的に)同質であることを示す。したがって、例えば、転写制御活性が同等(例、約0.01〜100倍、好ましくは約0.1〜10倍、より好ましくは0.5〜2倍)であることが好ましいが、これらの活性の程度、蛋白質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。
転写制御活性の測定は、公知の方法、例えば、標的遺伝子についてのノーザン解析やゲルシフトアッセイ等を用いて行うことができる。あるいは、本発明の転写調節因子の活性は、その細胞内局在性を用いた方法、例えば、細胞質から核への移行度を調べることによっても評価することができる。
また、本発明のNBP(または本発明のRBMX類似蛋白質)としては、例えば、1)配列番号3(または5)で表されるアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、2)配列番号3(または5)で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、3)配列番号3(または5)で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、4)配列番号3(または5)で表されるアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または5)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含有する蛋白質なども含まれる。
上記のようにアミノ酸配列が挿入、欠失または置換されている場合、その挿入、欠失または置換の位置は、転写制御活性が保持される限り特に限定されない。
本発明のNBPは、好ましくは、配列番号3で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質、すなわちマウスNBPまたは他の哺乳動物におけるそのホモログである。また、本発明のRBMX類似蛋白質は、好ましくは、配列番号5で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質、すなわちマウスRBMX類似蛋白質または他の哺乳動物におけるそのホモログである。
本明細書における蛋白質は、ペプチド標記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)である。本発明の転写調節因子は、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシレート(−COO-)、アミド(−CONH2)またはエステル(−COOR)の何れであってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α−ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル−C1-2アルキル基;α−ナフチルメチルなどのα−ナフチル−C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
該転写調節因子がC末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、該カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明の転写調節因子に含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
さらに、本発明の転写調節因子には、N末端のアミノ酸残基(例:メチオニン残基)のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成するN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば−OH、−SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖蛋白質などの複合蛋白質なども含まれる。
本発明はまた、上記本発明の転写調節因子の部分ペプチド(以下、単に「本発明の部分ペプチド」と略称する場合もある)を提供する。該部分ペプチドとしては、上記した本発明の転写調節因子の部分アミノ酸配列を有するペプチドであり、且つ該転写調節因子と実質的に同質の活性を有する限り、何れのものであってもよいが、例えば、該転写調節因子のDNA結合ドメイン及び転写調節(活性化)ドメインを含むものである。ここで「実質的に同質の活性」とは、DNA(本発明のFRE)結合活性及び該FREの制御下にある遺伝子の転写促進活性を意味する。
尚、本発明の転写調節因子の部分アミノ酸配列を有するペプチドの中には、DNA(本発明のFRE)結合活性を有するが、該FREの制御下にある遺伝子の転写促進活性を有しないもの(例えば、該転写調節因子のDNA結合ドメインを含むが、転写調節(活性化)ドメインを含まないもの)も含まれるが、これらは「本発明の部分ペプチド」には該当しない。しかしながら、このようなペプチドはSREBP−1cプロモーター中の本発明のFRE配列に結合して、本発明の転写調節因子によるSREBP−1c遺伝子の転写活性化を遮断し得るので、後述するように代謝障害、特に糖・脂質代謝障害の予防・治療薬として有用である。
本発明の部分ペプチドは、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシレート(−COO-)、アミド(−CONH2)またはエステル(−COOR)の何れであってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、本発明の転写調節因子について前記したと同様のものが挙げられる。本発明の部分ペプチドがC末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、該カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明の部分ペプチドに含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
さらに、本発明の部分ペプチドには、上記した本発明の転写調節因子と同様に、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基で保護されているもの、N端側が生体内で切断され生成したグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基が適当な保護基で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖ペプチドなどの複合ペプチドなども含まれる。
本発明の転写調節因子またはその部分ペプチドは遊離体であっても、塩の形態であってもよい。塩としては、酸または塩基との生理学的に許容される塩が挙げられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。
本発明の転写調節因子は、前述した哺乳動物の細胞または組織から自体公知の蛋白質の精製方法によって製造することができる。具体的には、哺乳動物の組織または細胞をホモジナイズし、核画分を逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー等で分離精製することによって、本発明の転写調節因子を製造することができる。
具体的には、本発明の転写調節因子は、ヒトまたは他の哺乳動物(例:マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ等)、好ましくは食事(糖負荷)、特に高果糖食(果糖負荷)によりSREBP−1c発現の増大もしくは代謝障害の傾向を示す系統もしくは個体由来の細胞核抽出液に、本発明のFRE塩基配列を有するDNAを接触させ、該DNAに結合した蛋白質を回収(分離・精製)することにより取得することができる。核抽出液を得るための動物細胞は目的とする転写調節因子を発現している細胞であれば特に限定されず、本発明のFREを含有する核酸の調製に関して上記した各種細胞またはそれらの細胞からなる組織等が例示されるが、好ましくは肝細胞、より好ましくは糖負荷された肝細胞、特に好ましくは果糖負荷された肝細胞が挙げられる。このような肝細胞は、肝臓由来の細胞から樹立された細胞株や初代培養細胞の培養液に糖(例:果糖)を添加して一定時間インキュベートしたものであってもよいし、食餌(例:高果糖食)を与えた動物体から切除された肝臓組織であってもよい。
細胞・組織からの核抽出液の調製は常法により行うことができる。例えば、細胞もしくは組織を適当な緩衝液(例:リン酸緩衝液、PBS、トリス塩酸緩衝液、HEPES緩衝液など;該緩衝液は、尿素や塩酸グアニジンなどの蛋白質変性剤や、トリトンX−100TMなどの界面活性剤を含んでいてもよい)に懸濁し、超音波処理、リゾチーム処理及び/又は凍結融解などによって細胞を破壊した後、遠心分離やろ過により得られる沈殿を例えば高張液等で処理し、遠心分離して上清を回収することにより、核蛋白質の粗抽出液を得る方法などが用いられる。
該核抽出液と本発明のFRE塩基配列を含有するDNAとを接触させる手段は特に限定されないが、例えば、該DNAを適当な不溶性担体(例:アガロース、セルロース、セファロース等)に固定したアフィニティーカラムを作製し、該カラムに核抽出液を通して目的の転写調節因子とFREとを結合させた後、NaCl、KCl等の濃度勾配を用いて溶出させ、高塩濃度で溶出した蛋白質含有画分をFREに特異的に結合し得る転写調節因子を含む画分として回収することができる。
このようにして得られた画分中に含まれる本発明の転写調節因子の単離精製は、自体公知の方法に従って行うことができる。このような方法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、及びSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;などが用いられる。これらの方法は、適宜組み合わせることもできる。
本発明の転写調節因子またはその部分ペプチドは、精製された該転写調節因子を完全分解(酸またはアルカリ分解)してアミノ酸組成を調べ、さらに配列特異的なペプチダーゼやブロモシアンなどの化学物質を用いた限定分解により得られる部分ペプチドのアミノ酸配列を、エドマン分解法等の公知の手法を用いて決定し、それらの情報を総合して全アミノ酸配列を決定した後、該アミノ酸配列を基に公知のペプチド合成法に従って製造することもできる。
ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。本発明の転写調節因子を構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とする転写調節因子を製造することができる。
ここで、縮合や保護基の脱離は、自体公知の方法、例えば、以下の1)〜5)に記載された方法に従って行われる。
1)M. Bodanszky 及び M.A. Ondetti、ペプチド・シンセシス (Peptide Synthesis), Interscience Publishers, New York (1966年)
2)Schroeder及びLuebke、ザ・ペプチド(The Peptide), Academic Press, New York (1965年)
3)泉屋信夫他、ペプチド合成の基礎と実験、 丸善(株) (1975年)
4)矢島治明 及び榊原俊平、生化学実験講座 1、 蛋白質の化学IV、 205、(1977年)
5)矢島治明監修、続医薬品の開発、第14巻、ペプチド合成、広川書店
このようにして得られた転写調節因子は、公知の精製法により精製単離することができる。ここで、精製法としては、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶、これらの組み合わせなどが挙げられる。
上記方法で得られる転写調節因子が遊離体である場合には、該遊離体を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に蛋白質が塩として得られた場合には、該塩を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
本発明の転写調節因子またはその部分ペプチドの合成には、通常市販の蛋白質合成用樹脂を用いることができる。そのような樹脂としては、例えば、クロロメチル樹脂、ヒドロキシメチル樹脂、ベンズヒドリルアミン樹脂、アミノメチル樹脂、4−ベンジルオキシベンジルアルコール樹脂、4−メチルベンズヒドリルアミン樹脂、PAM樹脂、4−ヒドロキシメチルメチルフェニルアセトアミドメチル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、4−(2’,4’−ジメトキシフェニル−ヒドロキシメチル)フェノキシ樹脂、4−(2’,4’−ジメトキシフェニル−Fmocアミノエチル)フェノキシ樹脂などを挙げることができる。このような樹脂を用い、α−アミノ基と側鎖官能基を適当に保護したアミノ酸を、目的とする転写調節因子またはその部分ペプチドの配列通りに、自体公知の各種縮合方法に従い、樹脂上で縮合させる。反応の最後に樹脂から蛋白質(ペプチド)を切り出すと同時に各種保護基を除去し、さらに高希釈溶液中で分子内ジスルフィド結合形成反応を実施し、目的の蛋白質(ペプチド)またはそのアミド体を取得する。
上記した保護アミノ酸の縮合に関しては、蛋白質合成に使用できる各種活性化試薬を用いることができるが、特に、カルボジイミド類がよい。カルボジイミド類としては、DCC、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロリル)カルボジイミドなどが用いられる。これらによる活性化にはラセミ化抑制添加剤(例えば、HOBt、HOOBt)とともに保護アミノ酸を直接樹脂に添加するか、または、対称酸無水物またはHOBtエステルあるいはHOOBtエステルとしてあらかじめ保護アミノ酸の活性化を行なった後に樹脂に添加することができる。
保護アミノ酸の活性化や樹脂との縮合に用いられる溶媒は、蛋白質縮合反応に使用しうることが知られている溶媒から適宜選択されうる。例えば、N,N−ジメチルホルムアミド,N,N−ジメチルアセトアミド,N−メチルピロリドンなどの酸アミド類、塩化メチレン,クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、トリフルオロエタノールなどのアルコール類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ピリジンなどのアミン類、ジオキサン,テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトニトリル,プロピオニトリルなどのニトリル類、酢酸メチル,酢酸エチルなどのエステル類あるいはこれらの適宜の混合物などが用いられる。反応温度は蛋白質結合形成反応に使用され得ることが知られている範囲から適宜選択され、通常約−20℃〜50℃の範囲から適宜選択される。活性化されたアミノ酸誘導体は通常1.5〜4倍過剰で用いられる。ニンヒドリン反応を用いたテストの結果、縮合が不十分な場合には保護基の脱離を行うことなく縮合反応を繰り返すことにより十分な縮合を行なうことができる。反応を繰り返しても十分な縮合が得られないときには、無水酢酸またはアセチルイミダゾールを用いて未反応アミノ酸をアセチル化することができる。
原料の反応に関与すべきでない官能基の保護ならびに保護基、及びその保護基の脱離、反応に関与する官能基の活性化などは公知の基または公知の手段から適宜選択しうる。
原料のアミノ基の保護基としては、例えば、Z、Boc、ターシャリーペンチルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、4−メトキシベンジルオキシカルボニル、Cl−Z、Br−Z、アダマンチルオキシカルボニル、トリフルオロアセチル、フタロイル、ホルミル、2−ニトロフェニルスルフェニル、ジフェニルホスフィノチオイル、Fmocなどが用いられる。
カルボキシル基は、例えば、アルキルエステル化(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ターシャリーブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、2−アダマンチルなどの直鎖状、分枝状もしくは環状アルキルエステル化)、アラルキルエステル化(例えば、ベンジルエステル、4−ニトロベンジルエステル、4−メトキシベンジルエステル、4−クロロベンジルエステル、ベンズヒドリルエステル化)、フェナシルエステル化、ベンジルオキシカルボニルヒドラジド化、ターシャリーブトキシカルボニルヒドラジド化、トリチルヒドラジド化などによって保護することができる。
セリンの水酸基は、例えば、エステル化またはエーテル化によって保護することができる。このエステル化に適する基としては、例えば、アセチル基などの低級アルカノイル基、ベンゾイル基などのアロイル基、ベンジルオキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などの炭酸から誘導される基などが用いられる。また、エーテル化に適する基としては、例えば、ベンジル基、テトラヒドロピラニル基、t−ブチル基などである。
チロシンのフェノール性水酸基の保護基としては、例えば、Bzl、Cl2−Bzl、2−ニトロベンジル、Br−Z、ターシャリーブチルなどが用いられる。
ヒスチジンのイミダゾールの保護基としては、例えば、Tos、4−メトキシ−2,3,6−トリメチルベンゼンスルホニル、DNP、ベンジルオキシメチル、Bum、Boc、Trt、Fmocなどが用いられる。
保護基の除去(脱離)方法としては、例えば、Pd−黒あるいはPd−炭素などの触媒の存在下での水素気流中での接触還元や、また、無水フッ化水素、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸あるいはこれらの混合液などによる酸処理や、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、ピペリジン、ピペラジンなどによる塩基処理、また液体アンモニア中ナトリウムによる還元なども用いられる。上記酸処理による脱離反応は、一般に約−20℃〜40℃の温度で行なわれるが、酸処理においては、例えば、アニソール、フェノール、チオアニソール、メタクレゾール、パラクレゾール、ジメチルスルフィド、1,4−ブタンジチオール、1,2−エタンジチオールなどのようなカチオン捕捉剤の添加が有効である。また、ヒスチジンのイミダゾール保護基として用いられる2,4−ジニトロフェニル基はチオフェノール処理により除去され、トリプトファンのインドール保護基として用いられるホルミル基は上記の1,2−エタンジチオール、1,4−ブタンジチオールなどの存在下の酸処理による脱保護以外に、希水酸化ナトリウム溶液、希アンモニアなどによるアルカリ処理によっても除去される。
原料のカルボキシル基の活性化されたものとしては、例えば、対応する酸無水物、アジド、活性エステル〔アルコール(例えば、ペンタクロロフェノール、2,4,5−トリクロロフェノール、2,4−ジニトロフェノール、シアノメチルアルコール、パラニトロフェノール、HONB、N−ヒドロキシスクシミド、N−ヒドロキシフタルイミド、HOBt)とのエステル〕などが用いられる。原料のアミノ基の活性化されたものとしては、例えば、対応するリン酸アミドが用いられる。
蛋白質(ペプチド)のアミド体を得る別の方法としては、例えば、まず、カルボキシ末端アミノ酸のα−カルボキシル基をアミド化して保護した後、アミノ基側にペプチド鎖を所望の鎖長まで延ばした後、該ペプチド鎖のN末端のα−アミノ基の保護基のみを除いた蛋白質(ペプチド)とC末端のカルボキシル基の保護基のみを除去した蛋白質(ペプチド)とを製造し、この両蛋白質(ペプチド)を上記したような混合溶媒中で縮合させる。縮合反応の詳細については上記と同様である。縮合により得られた保護蛋白質(ペプチド)を精製した後、上記方法によりすべての保護基を除去し、所望の粗蛋白質(ペプチド)を得ることができる。この粗蛋白質(ペプチド)は既知の各種精製手段を駆使して精製し、主要画分を凍結乾燥することで所望の蛋白質(ペプチド)のアミド体を得ることができる。
蛋白質(ペプチド)のエステル体を得るには、例えば、カルボキシ末端アミノ酸のα−カルボキシル基を所望のアルコール類と縮合しアミノ酸エステルとした後、蛋白質(ペプチド)のアミド体と同様にして、所望の蛋白質(ペプチド)のエステル体を得ることができる。
本発明の部分ペプチドは、本発明の転写調節因子を適当なペプチダーゼで切断することによっても製造することができる。
さらに、本発明の転写調節因子またはその部分ペプチドは、本発明の転写調節因子またはその部分ペプチドをコードするDNAを含有する形質転換体を培養し、得られる培養物から本発明の転写調節因子またはその部分ペプチドを分離精製することによって製造することもできる。あるいは、本発明の転写調節因子またはその部分ペプチドは、該DNAに対応するRNAを鋳型として、ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセートなどからなる無細胞蛋白質翻訳系を用いてインビトロ翻訳することによっても合成することができる。あるいは、さらにRNAポリメラーゼを含む無細胞転写/翻訳系を用いて、該DNAを鋳型としても合成することができる。
本発明の転写調節因子またはその部分ペプチドをコードするDNAとしては、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、ヒトまたは他の哺乳動物(例えば、ウシ、サル、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、ハムスターなど)のあらゆる細胞(例えば、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、内皮細胞、繊維芽細胞、繊維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、肝細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくはガン細胞など)や血球系の細胞、またはそれらの細胞が存在するあらゆる組織、例えば、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁頭核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、視床下核、大脳皮質、延髄、小脳、後頭葉、前頭葉、側頭葉、被殻、尾状核、脳染、黒質)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆のう、骨髄、副腎、皮膚、筋肉、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、末梢血球、前立腺、睾丸、精巣、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、骨格筋など(特に、脳や脳の各部位)由来のcDNA、前記した細胞・組織由来のcDNAライブラリー、合成DNAなどが挙げられる。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。また、上記した細胞・組織よりtotalRNAまたはmRNA画分を調製したものを用いて直接Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction(以下、「RT-PCR法」と略称する)によって増幅することもできる。
本発明のNBPをコードするDNAとしては、例えば、配列番号2で表される塩基配列を含有するDNA、または配列番号2で表される塩基配列とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、前記した配列番号3で表されるアミノ酸配列を含有する蛋白質と実質的に同質の活性(例、転写制御活性など)を有する蛋白質をコードするDNAなどが挙げられる。
本発明のRBMX類似蛋白質をコードするDNAとしては、例えば、配列番号4で表される塩基配列を含有するDNA、または配列番号4で表される塩基配列とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、前記した配列番号5で表されるアミノ酸配列を含有する蛋白質と実質的に同質の活性(例、転写制御活性など)を有する蛋白質をコードするDNAなどが挙げられる。
配列番号2(または4)で表される塩基配列とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、配列番号2(または4)で表される塩基配列と約50%以上、好ましくは約60%以上、さらに好ましくは約70%以上、特に好ましくは約80%以上、最も好ましくは約90%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。
ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ハイストリンジェントな条件に従って行なうことができる。
ハイストリンジェントな条件とは、例えば、ナトリウム濃度が約19〜40mM、好ましくは約19〜20mMで、温度が約50〜70℃、好ましくは約60〜65℃の条件を示す。特に、ナトリウム濃度が約19mMで温度が約65℃の場合が好ましい。
本発明のNBPをコードするDNAは、好ましくは配列番号2で表される塩基配列を含有するDNAなどである。また、本発明のRBMX類似蛋白質をコードするDNAは、好ましくは配列番号4で表される塩基配列を含有するDNAなどである。
本発明のNBP(または本発明のRBMX類似蛋白質)の部分ペプチドをコードするDNAは、配列番号3(または5)で表されるアミノ酸配列の一部と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含み、前記した配列番号3(または5)で表されるアミノ酸配列を含有する蛋白質と実質的に同質の活性(例、転写制御活性など)を有するペプチドをコードするDNAであればいかなるものであってもよい。また、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、上記した細胞・組織由来のcDNA、上記した細胞・組織由来のcDNAライブラリー、合成DNAのいずれでもよい。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。また、上記した細胞・組織よりmRNA画分を調製したものを用いて直接RT-PCR法によって増幅することもできる。
具体的には、本発明のNBP(または本発明のRBMX類似蛋白質)の部分ペプチドをコードするDNAとしては、例えば、(1)配列番号2(または4)で表される塩基配列を有するDNAの部分塩基配列を有するDNA、または(2)配列番号2(または4)で表される塩基配列を有するDNAとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有し、該DNAにコードされるアミノ酸配列を含む蛋白質と実質的に同質の活性(例:転写制御活性など)を有するペプチドをコードするDNAなどが用いられる。
配列番号2(または4)で表わされる塩基配列とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、該塩基配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、最も好ましくは約90%以上の同一性を有する塩基配列を含有するポリヌクレオチドなどが用いられる。
本発明の転写調節因子またはその部分ペプチドをコードするDNAは、遊離体であっても塩の形態であってもよい。塩としては、酸または塩基との生理学的に許容される塩が挙げられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。
本発明の転写調節因子またはその部分ペプチドをコードするDNAは、該因子または部分ペプチドをコードする塩基配列の一部分を有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅するか、または適当な発現ベクターに組み込んだDNAを、本発明の蛋白質の一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを標識したものとハイブリダイゼーションすることによってクローニングすることができる。ハイブリダイゼーションは、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(前述)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、該ライブラリーに添付された使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
好ましくは、本発明の転写調節因子またはその部分ペプチドをコードするDNAは、本発明の果糖応答エレメント配列を有するDNAを含む宿主細胞用プロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子と、宿主細胞用プロモーターの制御下にある動物由来cDNAライブラリーとを該宿主細胞に導入し、該レポーター遺伝子を高発現する細胞に導入されたcDNAを単離することによって取得することができる。宿主細胞用プロモーターとしては、使用する宿主細胞内でプロモーター活性を発揮し得るいかなるプロモーターも用いることができるが、好ましくは酵母細胞内で機能し得るプロモーターであり、例えば、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが用いられる。このようなプロモーターへの本発明のFRE配列の導入(キメラプロモーターの構築)は、自体公知の遺伝子工学的手法を組み合わせて行うことができる。レポーター遺伝子としては、自体公知のいかなるものを用いてもよく、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子、GFP遺伝子、アルカリホスファターゼ遺伝子、ペルオキシダーゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。
動物由来cDNAライブラリーとしては、目的の転写調節因子を発現しているいかなる哺乳動物(例:ヒト、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、サル等)の細胞もしくは組織由来のものであってもよいが、好ましくは食事(糖負荷)、特に高果糖食(果糖負荷)によりSREBP−1c発現の増大もしくは代謝障害の傾向を示す系統もしくは個体由来、より好ましくは該系統もしくは個体の肝細胞由来、さらに好ましくは糖負荷された肝細胞由来、最も好ましくは果糖負荷された肝細胞由来のcDNAライブラリーである。該ライブラリーを構成する各cDNAは、使用する宿主細胞に適合した宿主細胞用プロモーターの下流に、自体公知の遺伝子工学的手法を用いてクローン化することができる。プロモーターとしては、上記と同様の酵母細胞内で機能し得るプロモーターが好ましく用いられる。
上記の発現カセットを担持する導入ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例:pBR322,pBR325,pUC12,pUC13);枯草菌由来のプラスミド(例:pUB110,pTP5,pC194);酵母由来プラスミド(例:pSH19,pSH15);λファージなどのバクテリオファージ等が用いられ、所望により他のエンハンサー、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジン(以下、SV40oriと略称する場合がある)などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子〔メソトレキセート(MTX)耐性〕、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子(G418耐性)等や、栄養要求性(ロイシン要求性、トリプトファン要求性等)変異を相補する遺伝子等が挙げられる。
宿主としては、例えば、酵母、昆虫細胞、哺乳動物細胞などが用いられるが、宿主に内在の転写調節因子のバックグラウンドを避ける意味で、好ましくは酵母細胞が挙げられ、具体的には、例えば、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22,AH22R-,NA87−11A,DKD−5D,20B−12、シゾサッカロマイセス ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NCYC1913,NCYC2036、ピキア パストリス(Pichia pastoris)KM71などが用いられる。
形質転換は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。例えば、酵母細胞の場合、例えば、メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology),194巻,182−187(1991)、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),75巻,1929(1978)などに記載の方法に従って形質転換することができる。
形質転換体の培養は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。例えば、宿主が酵母である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えば、バークホールダー(Burkholder)最小培地〔Bostian, K. L. ら、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),77巻,4505(1980)〕や0.5%カザミノ酸を含有するSD培地〔Bitter, G. A. ら、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),81巻,5330(1984)〕などが挙げられる。培地のpHは、好ましくは約5〜8である。培養は、通常約20℃〜35℃で、約24〜72時間行なわれる。必要に応じて、通気や撹拌を行ってもよい。
形質転換体を一定時間培養後にレポーター遺伝子の発現を調べ、コントロール細胞(レポーター遺伝子を含む発現ベクターのみを導入した宿主細胞)に比べて発現量が有意に増加している形質転換体に導入されたcDNAを常法によりクローニングすることによって、本発明の転写調節因子またはDNA結合特性及び転写促進活性を保持したその部分ペプチドをコードするDNAを取得することができる。
得られたDNAの塩基配列は、公知のキット、例えば、MutanTM-super Express Km(宝酒造(株))、MutanTM-K(宝酒造(株))等を用いて、ODA-LA PCR法、Gapped duplex法、Kunkel法等の自体公知の方法あるいはそれらに準じる方法に従って変換することができる。
クローン化されたDNAは、目的によりそのまま、または所望により制限酵素で消化するか、リンカーを付加した後に、使用することができる。該DNAはその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGAまたはTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することができる。
本発明の転写調節因子をコードするDNA発現ベクターは、例えば、本発明の転写調節因子をコードするDNAから目的とするDNA断片を切り出し、該DNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。
発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例、pBR322,pBR325,pUC12,pUC13);枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110,pTP5,pC194);酵母由来プラスミド(例、pSH19,pSH15);λファージなどのバクテリオファージ;レトロウイルス,ワクシニアウイルス,バキュロウイルスなどの動物ウイルス;pA1−11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neoなどが用いられる。
プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。
例えば、宿主が動物細胞である場合、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、HSV-TKプロモーターなどが用いられる。なかでも、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。
宿主がエシェリヒア属菌である場合、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーターなどが好ましい。
宿主がバチルス属菌である場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなどが好ましい。
宿主が酵母である場合、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。
宿主が昆虫細胞である場合、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。
発現ベクターとしては、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジン(以下、SV40oriと略称する場合がある)などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(以下、dhfrと略称する場合がある)遺伝子〔メソトレキセート(MTX)耐性〕、アンピシリン耐性遺伝子(以下、Amprと略称する場合がある)、ネオマイシン耐性遺伝子(以下、Neorと略称する場合がある、G418耐性)等が挙げられる。特に、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞を用い、dhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、目的遺伝子をチミジンを含まない培地によって選択することもできる。
また、必要に応じて、宿主に合ったシグナル配列を、本発明の蛋白質のN端末側に付加してもよい。宿主がエシェリヒア属菌である場合、PhoA・シグナル配列、OmpA・シグナル配列などが;宿主がバチルス属菌である場合、α−アミラーゼ・シグナル配列、サブチリシン・シグナル配列などが;宿主が酵母である場合、MFα・シグナル配列、SUC2・シグナル配列などが;宿主が動物細胞である場合、インシュリン・シグナル配列、α−インターフェロン・シグナル配列、抗体分子・シグナル配列などがそれぞれ用いられる。
上記のようにして得られる「本発明の転写調節因子をコードするDNA」を含有する形質転換体は、公知の方法に従い、該DNAを含有する発現ベクターで、宿主を形質転換することによって製造することができる。
ここで、発現ベクターとしては、前記したものが挙げられる。
宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞などが用いられる。
エシェリヒア属菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12・DH1〔プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),60巻,160(1968)〕,JM103〔ヌクイレック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research),9巻,309(1981)〕,JA221〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology),120巻,517(1978)〕,HB101〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー,41巻,459(1969)〕,C600〔ジェネティックス(Genetics),39巻,440(1954)〕などが用いられる。
バチルス属菌としては、例えば、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)MI114〔ジーン,24巻,255(1983)〕,207−21〔ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Journal of Biochemistry),95巻,87(1984)〕などが用いられる。
酵母としては、例えば、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22,AH22R-,NA87−11A,DKD−5D,20B−12、シゾサッカロマイセス ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NCYC1913,NCYC2036、ピキア パストリス(Pichia pastoris)KM71などが用いられる。
昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)、Trichoplusia niの中腸由来のMG1細胞、Trichoplusia niの卵由来のHigh FiveTM細胞、Mamestra brassicae由来の細胞、Estigmena acrea由来の細胞などが用いられる。ウイルスがBmNPVの場合、昆虫細胞としては、蚕由来株化細胞(Bombyx mori N 細胞;BmN細胞)などが用いられる。該Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞(以上、Vaughn, J.L.ら、イン・ヴィボ(In Vivo),13, 213-217,(1977))などが用いられる。
昆虫としては、例えば、カイコの幼虫などが用いられる〔前田ら、ネイチャー(Nature),315巻,592(1985)〕。
動物細胞としては、例えば、サル細胞COS−7,Vero,チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO細胞と略記),dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO(dhfr-)細胞と略記),マウスL細胞,マウスAtT−20,マウスミエローマ細胞,ラットGH3,ヒトFL細胞などが用いられる。
形質転換は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。
エシェリヒア属菌は、例えば、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンジイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),69巻,2110(1972)やジーン(Gene),17巻,107(1982)などに記載の方法に従って形質転換することができる。
バチルス属菌は、例えば、モレキュラー・アンド・ジェネラル・ジェネティックス(Molecular & General Genetics),168巻,111(1979)などに記載の方法に従って形質転換することができる。
酵母は、例えば、メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology),194巻,182−187(1991)、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),75巻,1929(1978)などに記載の方法に従って形質転換することができる。
昆虫細胞および昆虫は、例えば、バイオ/テクノロジー(Bio/Technology),6, 47-55(1988)などに記載の方法に従って形質転換することができる。
動物細胞は、例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール.263−267(1995)(秀潤社発行)、ヴィロロジー(Virology),52巻,456(1973)に記載の方法に従って形質転換することができる。
形質転換体の培養は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。
例えば、宿主がエシェリヒア属菌またはバチルス属菌である形質転換体を培養する場合、培養に使用される培地としては液体培地が好ましい。また、培地は、形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物などを含有することが好ましい。ここで、炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖などが;窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などの無機または有機物質が;無機物としては、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウムなどがそれぞれ挙げられる。また、培地には、酵母エキス、ビタミン類、生長促進因子などを添加してもよい。培地のpHは、好ましくは約5〜8である。
宿主がエシェリヒア属菌である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えば、グルコース、カザミノ酸を含むM9培地〔ミラー(Miller),ジャーナル・オブ・エクスペリメンツ・イン・モレキュラー・ジェネティックス(Journal of Experiments in Molecular Genetics),431−433,Cold Spring Harbor Laboratory, New York 1972〕が好ましい。必要により、プロモーターを効率よく働かせるために、例えば、3β−インドリルアクリル酸のような薬剤を培地に添加してもよい。
宿主がエシェリヒア属菌である形質転換体の培養は、通常約15〜43℃で、約3〜24時間行なわれる。必要により、通気や撹拌を行ってもよい。
宿主がバチルス属菌である形質転換体の培養は、通常約30〜40℃で、約6〜24時間行なわれる。必要により、通気や撹拌を行ってもよい。
宿主が酵母である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えば、バークホールダー(Burkholder)最小培地〔Bostian, K. L. ら、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),77巻,4505(1980)〕や0.5%カザミノ酸を含有するSD培地〔Bitter, G. A. ら、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),81巻,5330(1984)〕などが挙げられる。培地のpHは、好ましくは約5〜8である。培養は、通常約20℃〜35℃で、約24〜72時間行なわれる。必要に応じて、通気や撹拌を行ってもよい。
宿主が昆虫細胞または昆虫である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えばGrace's Insect Medium(Grace, T.C.C.,ネイチャー(Nature),195,788(1962))に非動化した10%ウシ血清等の添加物を適宜加えたものなどが用いられる。培地のpHは、好ましくは約6.2〜6.4である。培養は、通常約27℃で、約3〜5日間行なわれる。必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。
宿主が動物細胞である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えば、約5〜20%の胎児牛血清を含むMEM培地〔サイエンス(Science),122巻,501(1952)〕,DMEM培地〔ヴィロロジー(Virology),8巻,396(1959)〕,RPMI 1640培地〔ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・メディカル・アソシエーション(The Journal of the American Medical Association)199巻,519(1967)〕,199培地〔プロシージング・オブ・ザ・ソサイエティ・フォー・ザ・バイオロジカル・メディスン(Proceeding of the Society for the Biological Medicine),73巻,1(1950)〕などが用いられる。培地のpHは、好ましくは約6〜8である。培養は、通常約30℃〜40℃で、約15〜60時間行なわれる。必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。
以上のようにして、形質転換体の細胞内(核内もしくは細胞質内)または細胞外に本発明の転写調節因子を製造することができる。
前記形質転換体を培養して得られる培養物から本発明の転写調節因子またはその部分ペプチドを自体公知の方法に従って分離精製することができる。
例えば、本発明の転写調節因子または本発明の部分ペプチドを培養菌体あるいは細胞の細胞質から抽出する場合、培養物から公知の方法で集めた菌体あるいは細胞を適当な緩衝液に懸濁し、超音波処理、リゾチーム処理および/または凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破壊した後、遠心分離やろ過により可溶性蛋白質の粗抽出液を得る方法などが適宜用いられる。該緩衝液は、尿素や塩酸グアニジンなどの蛋白質変性剤や、トリトンX−100TMなどの界面活性剤を含んでいてもよい。一方、核画分から本発明の転写調節因子または本発明の部分ペプチドを抽出する場合は、上記の遠心分離またはろ過により得られる沈殿を例えば高張液等で処理し、遠心分離して上清を回収することにより、核蛋白質の粗抽出液を得る方法などが用いられる。
このようにして得られた可溶性画分あるいは核抽出液中に含まれる本発明の転写調節因子または本発明の部分ペプチドの単離精製は、自体公知の方法に従って行うことができる。このような方法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;などが用いられる。これらの方法は、適宜組み合わせることもできる。
かくして得られる蛋白質またはペプチドが遊離体である場合には、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法によって、該遊離体を塩に変換することができ、蛋白質またはペプチドが塩として得られた場合には、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法により、該塩を遊離体または他の塩に変換することができる。
なお、形質転換体が産生する蛋白質またはペプチドを、精製前または精製後に適当な蛋白修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり、ポリペプチドを部分的に除去することもできる。該蛋白修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、アルギニルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グリコシダーゼなどが用いられる。
かくして得られる本発明の転写調節因子または本発明の部分ペプチドの存在は、特異抗体を用いたエンザイムイムノアッセイやウエスタンブロッティングなどにより確認することができる。
さらに前記したように、本発明の転写調節因子または本発明の部分ペプチドは、上記の本発明の転写調節因子またはその部分ペプチドをコードするDNAまたはそれに対応するRNAを鋳型として、ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセートなどからなる無細胞蛋白質(転写/)翻訳系を用いてインビトロ翻訳することによっても合成することができる。無細胞蛋白質(転写/)翻訳系は市販のものを用いることもできるし、それ自体既知の方法、具体的には大腸菌抽出液はPratt J.M.et al., Transcription and Tranlation, 179-209, Hames B.D.&Higgins S.J. eds., IRL Press, Oxford (1984)に記載の方法等に準じて調製することもできる。市販の細胞ライセートとしては、大腸菌由来のものはE.coli S30 extract system(Promega社製)やRTS 500 Rapid Tranlation System (Roche社製)等が挙げられ、ウサギ網状赤血球由来のものはRabbit Reticulocyte Lysate System (Promega社製)等、さらにコムギ胚芽由来のものはPROTEIOSTM (TOYOBO社製)等が挙げられる。このうちコムギ胚芽ライセートを用いたものが好適である。コムギ胚芽ライセートの作製法としては、例えばJohnston F.B.et al., Nature, 179, 160-161 (1957)あるいはErickson A.H. et al., Meth. Enzymol., 96, 38-50 (1996)等に記載の方法を用いることができる。
蛋白質合成のためのシステムまたは装置としては、バッチ法(Pratt,J.M.et al. (1984) 前述)や、アミノ酸、エネルギー源等を連続的に反応系に供給する連続式無細胞タンパク質合成システム(Spirin A.S. et al., Science, 242, 1162-1164 (1988))、透析法(木川等、第21回日本分子生物学会、WID6)、あるいは重層法(PROTEIOSTM Wheat germ cell-free protein synthesis core kit取扱説明書:TOYOBO社製)等が挙げられる。さらには、合成反応系に、鋳型のRNA、アミノ酸、エネルギー源等を必要時に供給し、合成物や分解物を必要時に排出する方法(特開2000-333673)等を用いることができる。
本発明はまた、本発明の果糖応答エレメントまたはそれを含有するDNA(配列番号1で表される塩基配列全体を含んでもよい;以下、「本発明のDNA」という場合もある)と、該エレメントに結合し得る本発明の転写調節因子またはその部分ペプチド(以下、単に「本発明の転写調節因子」という場合もある)とを用いることを特徴とする、代謝障害、特に糖・脂質代謝障害(例:高TG血症、高LDL−C血症、低HDL−C血症、肥満、耐糖能異常、空腹時血糖障害、高インスリン血症、高血圧、アルブミン尿症等)の予防・治療物質のスクリーニング方法を提供する。当該スクリーニング方法の具体的態様として、例えば、
1)被検物質の存在下における本発明のDNAと本発明の転写調節因子の結合阻害を検出する方法;
2)本発明のDNAを含むプロモーターの制御下にある遺伝子を含有する動物細胞における、被検物質の存在下及び非存在下での該遺伝子の発現を比較する方法;などが挙げられる。上記2)の方法において、動物細胞に糖を負荷することにより測定感度を向上させ得る場合がある。
本発明のDNAと本発明の転写調節因子の結合を指標とする場合、例えば、標識(例:32P、ジゴキシゲニン等)した本発明のDNAと本発明の転写調節因子(本発明のNBP(部分ペプチドを含む)及び本発明のRBMX類似蛋白質(部分ペプチドを含む)のうちのいずれか一方であってもよく、両方であってもよい)とを被検物質の存在下でインキュベートした後、該反応液を非変性ゲル電気泳動に付し、DNA−転写調節因子複合体に相当するバンドの消失もしくはシグナル強度の減少を検出することにより行うことができる。ここで本発明の転写調節因子は単離・精製された形態で使用してもよいし、あるいは該転写調節因子を発現している細胞の核抽出液の形態で使用することもできる。そのような細胞としては、例えば、糖(例:果糖)負荷によりSREBP−1cの発現が増加するヒトまたは他の哺乳動物個体由来の細胞、好ましくは肝細胞、より好ましくは糖負荷された肝細胞、さらに好ましくは果糖負荷された肝細胞、就中、果糖負荷されたCBAまたはC3H系マウス由来の肝細胞が挙げられる。細胞からの核抽出液の単離は上記した方法に従って行うことができる。
被検物質としては、例えばペプチド、蛋白質、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられる。
例えば、被検物質の存在下でDNA−転写調節因子複合体に相当するバンドのシグナル強度が約20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは約50%以上減少した場合、該被検物質を本発明の転写調節因子のDNA結合活性を阻害する物質として選択することができる。
本発明のDNAを含むプロモーターの制御下にある遺伝子の発現を指標とする場合、プロモーターとしては、動物細胞内で機能し得るいかなるプロモーターも使用することができ、例えば、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、HSV-TKプロモーターなどが用いられる。本発明のDNAは、自体公知の遺伝子工学的手法を用いて該プロモーター内の適当な位置に挿入することができる。あるいは、本発明のFREを含有するSREBP−1cプロモーターを「本発明のDNAを含むプロモーター」として使用してもよい。
本発明のDNAを含むプロモーターの制御下にある遺伝子は、その発現量を容易に測定し得るものであれば特に制限されないが、好ましくはルシフェラーゼ、GFP、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼなどのレポーター遺伝子が挙げられる。また、本発明のFREを含有するSREBP−1cプロモーターを含むSREBP−1c遺伝子を、「本発明のDNAを含むプロモーターの制御下にある遺伝子」として使用することもできる。この場合、該SREBP−1c遺伝子を生来有する哺乳動物(例:CBA、C3H系マウスなど)由来の細胞もしくは組織または該動物個体(ヒトを除く)を、「本発明のDNAを含むプロモーターの制御下にある遺伝子を含有する動物細胞」として使用することができる。本発明のDNAを含むプロモーターの制御下にある遺伝子としてレポーター遺伝子を用いる場合は、上記本発明のDNAを含むプロモーターの下流にレポーター遺伝子を自体公知の遺伝子工学的手法を用いて連結したものを、適当な導入ベクター、例えば、大腸菌由来のプラスミド(例:pBR322,pBR325,pUC12,pUC13);枯草菌由来のプラスミド(例:pUB110,pTP5,pC194);酵母由来プラスミド(例:pSH19,pSH15);λファージなどのバクテリオファージ等のベクター中に挿入し、宿主動物細胞に導入することができる。該導入ベクターは、所望により他のエンハンサー、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジン(以下、SV40oriと略称する場合がある)などを含有していてもよい。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子〔メソトレキセート(MTX)耐性〕、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子(G418耐性)等が挙げられる。
動物細胞は、本発明の転写調節因子を発現し得る細胞(好ましくは、糖負荷に応答して該因子を発現し得る細胞)であれば特に制限はなく、例えば、サル細胞COS−7,Vero,チャイニーズハムスター卵巣細胞(以下、CHO細胞と略記),dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター卵巣細胞(以下、CHO(dhfr-)細胞と略記),マウスL細胞,マウスAtT−20,マウスミエローマ細胞,ラットGH3,ヒトFL細胞などの各種細胞株を用いることもできるが、好ましくは肝細胞、特に好ましくはCBA、C3H系マウス由来の肝細胞が挙げられる。これらの動物細胞は、例えば、「細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール」,263−267(1995年)(秀潤社発行)、「ヴィロロジー(Virology)」,第52巻,456(1973年)に記載の方法に従って形質転換することができる。
動物細胞に糖を負荷する場合、負荷される糖は、エネルギー源となる炭水化物であれば特に制限はなく、ブドウ糖、果糖等の単糖、麦芽糖、ショ糖、乳糖等の二糖、デンプン、グリコーゲン等の多糖、あるいはそれらの混合物などが挙げられるが、好ましくは、果糖及び果糖と他の糖との混合物である。糖負荷は培養液への糖の添加により行われるが、上記本発明のFREを含有するSREBP−1cプロモーターを含むSREBP−1c遺伝子を生来有する非ヒト動物個体を用いる場合は、該動物の飼育に通常使用される食餌や自体公知の高果糖食などの食餌を摂取させることにより行うことができる。
被検物質としては、例えばペプチド、蛋白質、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられる。
被検物質の存在下及び非存在下に糖を負荷して、適当な培地(例:最少必須培地、ダルベッコ改変イーグル培地、ハム培地、F12培地、RPMI1680培地、ウイリアムE培地等)中で一定時間細胞を培養した後、本発明のDNAを含むプロモーターの制御下にある遺伝子の発現を両条件下で比較する。上記の非ヒト動物個体を用いる場合には、予め被検物質を経口もしくは非経口(例:静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、皮内等)投与した後給餌を行って、一定時間経過後に該動物から適当な生体サンプル(例:肝細胞、血液等)を採取してSREBP−1c遺伝子の発現を検出、被検物質を投与していない個体と比較すればよい。SREBP−1c遺伝子の発現は、常法により作製される抗SREBP−1c抗体を用いたELISAなどのイムノアッセイ法や、RT−PCR法により検出・定量することができる。
その結果、例えば、遺伝子発現を約20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは約50%以上阻害した被検物質を、本発明の転写調節因子の転写促進活性を阻害する物質として選択することができる。
あるいは、上記の方法に用いられ得る動物細胞を用い、本発明の転写調節因子の細胞内局在性を、例えば、該動物細胞における該因子の細胞質から核への移行の度合いを被検物質の存在下および非存在下で比較することによっても、代謝障害(特に糖・脂質代謝障害)の予防・治療物質をスクリーニングすることができる。より具体的には、例えば、本発明の転写調節因子に対する蛍光標識した抗体で該細胞を免疫染色することにより、該因子の細胞質から核への移行をモニタリングすることができる。あるいは、本発明の転写調節因子をGFPなどの蛍光蛋白質との融合蛋白質として発現し得る形質転換体を用いることにより、直接的に該因子の細胞質から核への移行をモニタリングすることもできる(例えば、Biochem. Biophys. Res. Commun., 278: 659-664 (2000)を参照)。
上記のスクリーニング方法により得られる「本発明の転写調節因子の阻害物質」は、本発明のFREをプロモーター領域に含むSREBP−1c遺伝子を有する哺乳動物の、食事(特に高果糖食)による該遺伝子の発現増加を抑制することができるので、該遺伝子の発現異常が関与する代謝障害、特に糖・脂質代謝障害(例:高TG血症、高LDL−C血症、低HDL−C血症、肥満、耐糖能異常、空腹時血糖障害、高インスリン血症、高血圧、アルブミン尿症等)の予防・治療物質として有用である。
従って、本発明の転写調節因子の阻害物質(これらの物質はペプチド、蛋白質、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などのいずれであってもよく、また塩を形成していてもよい。該塩の具体例としては、前記した本発明の転写調節因子の塩と同様のものが挙げられる)は、必要により薬理学的に許容し得る担体と混合して医薬組成物とした後に、代謝障害の予防・治療剤として用いることができる。ここで、薬理学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などとして配合される。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加物を用いることもできる。
賦形剤の好適な例としては、乳糖、白糖、D−マンニトール、D−ソルビトール、デンプン、α化デンプン、デキストリン、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム、プルラン、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどが挙げられる。
滑沢剤の好適な例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどが挙げられる。
結合剤の好適な例としては、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、トレハロース、デキストリン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
崩壊剤の好適な例としては、乳糖、白糖、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、軽質無水ケイ酸、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。
溶剤の好適な例としては、注射用水、生理的食塩水、リンゲル液、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油などが挙げられる。
溶解補助剤の好適な例としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
懸濁化剤の好適な例としては、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤;例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子;ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。
等張化剤の好適な例としては、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール、D−ソルビトール、ブドウ糖などが挙げられる。
緩衝剤の好適な例としては、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。
無痛化剤の好適な例としては、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
防腐剤の好適な例としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。
抗酸化剤の好適な例としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸塩などが挙げられる。
着色剤の好適な例としては、水溶性食用タール色素(例、食用赤色2号及び3号、食用黄色4号及び5号、食用青色1号及び2号などの食用色素、水不溶性レーキ色素(例、前記水溶性食用タール色素のアルミニウム塩など)、天然色素(例、β−カロチン、クロロフィル、ベンガラなど)などが挙げられる。
甘味剤の好適な例としては、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、アスパルテーム、ステビアなどが挙げられる。
前記医薬組成物の剤形としては、例えば錠剤、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、顆粒剤、散剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などの経口剤;及び注射剤(例、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤など)、外用剤(例、経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤など)、坐剤(例、直腸坐剤、膣坐剤など)、ペレット、点滴剤、徐放性製剤(例、徐放性マイクロカプセルなど)等の非経口剤が挙げられ、これらはそれぞれ経口的あるいは非経口的に安全に投与できる。
医薬組成物は、製剤技術分野において慣用の方法、例えば日本薬局方に記載の方法等により製造することができる。以下に、製剤の具体的な製造法について詳述する。医薬組成物中の本発明の転写調節因子の阻害物質の含量は、剤形、該化合物の投与量などにより異なるが、例えば約0.1ないし100重量%である。
例えば、経口剤は、有効成分に、賦形剤(例、乳糖,白糖,デンプン,D−マンニトールなど)、崩壊剤(例、カルボキシメチルセルロースカルシウムなど)、結合剤(例、痾化デンプン,アラビアゴム,カルボキシメチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ポリビニルピロリドンなど)または滑沢剤(例、タルク,ステアリン酸マグネシウム,ポリエチレングリコール6000など)などを添加して圧縮成形し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性を目的として、コーティング基剤を用いて自体公知の方法でコーティングすることにより製造される。
該コーティング基剤としては、例えば糖衣基剤、水溶性フィルムコーティング基剤、腸溶性フィルムコーティング基剤、徐放性フィルムコーティング基剤などが挙げられる。
糖衣基剤としては、白糖が用いられ、さらに、タルク、沈降炭酸カルシウム、ゼラチン、アラビアゴム、プルラン、カルナバロウなどから選ばれる1種または2種以上を併用してもよい。
水溶性フィルムコーティング基剤としては、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース系高分子;ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE〔オイドラギットE(商品名)、ロームファルマ社〕、ポリビニルピロリドンなどの合成高分子;プルランなどの多糖類などが挙げられる。
腸溶性フィルムコーティング基剤としては、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース フタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロース アセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロースなどのセルロース系高分子;メタアクリル酸コポリマーL〔オイドラギットL(商品名)、ロームファルマ社〕、メタアクリル酸コポリマーLD〔オイドラギットL−30D55(商品名)、ロームファルマ社〕、メタアクリル酸コポリマーS〔オイドラギットS(商品名)、ロームファルマ社〕などのアクリル酸系高分子;セラックなどの天然物などが挙げられる。
徐放性フィルムコーティング基剤としては、例えばエチルセルロースなどのセルロース系高分子;アミノアルキルメタアクリレートコポリマーRS〔オイドラギットRS(商品名)、ロームファルマ社〕、アクリル酸エチル・メタアクリル酸メチル共重合体懸濁液〔オイドラギットNE(商品名)、ロームファルマ社〕などのアクリル酸系高分子などが挙げられる。
上記したコーティング基剤は、その2種以上を適宜の割合で混合して用いてもよい。また、コーティングの際に、例えば酸化チタン、三二酸化鉄等のような遮光剤を用いてもよい。
注射剤は、有効成分を分散剤(例、ポリソルベート80,ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60,ポリエチレングリコール,カルボキシメチルセルロース,アルギン酸ナトリウムなど)、保存剤(例、メチルパラベン,プロピルパラベン,ベンジルアルコール,クロロブタノール,フェノールなど)、等張化剤(例、塩化ナトリウム,グリセリン,D−マンニトール,D−ソルビトール,ブドウ糖など)などと共に水性溶剤(例、蒸留水,生理的食塩水,リンゲル液等)あるいは油性溶剤(例、オリーブ油,ゴマ油,綿実油,トウモロコシ油などの植物油、プロピレングリコール等)などに溶解、懸濁あるいは乳化することにより製造される。この際、所望により溶解補助剤(例、サリチル酸ナトリウム,酢酸ナトリウム等)、安定剤(例、ヒト血清アルブミン等)、無痛化剤(例、ベンジルアルコール等)等の添加物を用いてもよい。注射液は、通常、適当なアンプルに充填される。
このようにして得られる製剤は、安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)に対して経口的にまたは非経口的に投与することができる。
本発明の代謝障害の予防・治療剤の投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより異なるが、例えば、高TG血症に罹患している成人患者(体重60kg)においては、一日あたり、有効成分である本発明の転写調節因子の阻害物質として、約0.1ないし100mg、好ましくは約1.0ないし50mg、より好ましくは約1.0ないし20mgである。
本発明は、本発明の転写調節因子(本発明のNBP(部分ペプチドを含む)及び本発明のRBMX類似蛋白質(部分ペプチドを含む)のうちのいずれか一方であってもよく、両方であってもよい)の産生又は活性を抑制する物質(以下「産生抑制物質」、「活性抑制物質」ともいう)を含有してなる代謝障害、特に糖・脂質代謝障害(例:高TG血症、高LDL−C血症、低HDL−C血症、肥満、耐糖能異常、空腹時血糖障害、高インスリン血症、高血圧、アルブミン尿症等)の予防・治療剤を提供する。
前記「産生抑制物質」または「活性抑制物質」を含有してなる代謝障害の予防・治療剤は、「産生抑制物質」または「活性抑制物質」そのものであってもよいが、これらを薬理学的に許容し得る担体とともに混合して得られる医薬組成物であることが好ましい。ここで、薬理学的に許容される担体としては、前記したスクリーニング法により得られる「本発明の転写調節因子の阻害物質」の場合と同様のものが挙げられる。
該医薬組成物は、前記した「本発明の転写調節因子の阻害物質」の場合と同様にして製造することができる。
このようにして得られる製剤は、安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)に対して経口的にまたは非経口的に投与することができる。
「産生抑制物質」または「活性抑制物質」を含有してなる代謝障害予防・治療剤の投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより異なるが、例えば、高TG血症に罹患している成人患者(体重60kg)においては、一日あたり、有効成分である「産生抑制物質」または「活性抑制物質」として、約0.1ないし100mg、好ましくは約1.0ないし50mg、より好ましくは約1.0ないし20mgである。
活性抑制物質は、本発明の転写調節因子の活性、即ち本発明の果糖応答エレメントを含むプロモーターの制御下にある遺伝子の転写促進活性を抑制し得る限りいかなるものであってもよく、例えば、本発明の転写調節因子に結合して、該因子の本発明のFRE配列への結合を阻害する物質(例、本発明の転写調節因子に対する抗体、本発明の転写調節因子が結合し得る塩基配列を有する核酸など)や、本発明の転写調節因子の分解・代謝あるいは不活性化を促進し得る物質(例、プロテアーゼ、蛋白質修飾酵素など)等が挙げられる。
好ましくは、活性抑制物質として、本発明の転写調節因子もしくはその部分ペプチドまたはその塩に対する抗体が挙げられる。本発明の転写調節因子もしくはその部分ペプチドまたはその塩に対する抗体(以下、「本発明の抗体」と略記する場合がある)は、該転写調節因子(部分ペプチドや塩を含む)を抗原として用い、自体公知の抗体または抗血清の製造法に従って製造することができる。本発明の転写調節因子に対するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体は、例えば以下のようにして製造することができる。
〔モノクローナル抗体の作製〕
(a)モノクローナル抗体産生細胞の作製
本発明の転写調節因子(本発明のNBPまたは本発明のRBMX類似蛋白質)を、哺乳動物に対して、投与により抗体産生が可能な部位に、それ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与する。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は通常2〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度行われる。用いられる哺乳動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギが挙げられるが、マウスおよびラットが好ましく用いられる。
例えば、抗原で免疫された哺乳動物、例えばマウスから抗体価の認められた個体を選択し、最終免疫の2〜5日後に脾臓またはリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を同種または異種動物の骨髄腫細胞と融合させることにより、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。抗血清中の抗体価の測定は、例えば、後記の標識化蛋白質と抗血清とを反応させたのち、抗体に結合した標識剤の活性を測定することにより行なうことができる。融合操作は、既知の方法、例えば、ケーラーとミルスタインの方法〔ネイチャー(Nature)、256、495 (1975)〕に従い実施することができる。融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウィルスなどが挙げられるが、好ましくはPEGが用いられる。
骨髄腫細胞としては、例えば、NS−1、P3U1、SP2/0、AP−1などの哺乳動物の骨髄腫細胞が挙げられるが、P3U1が好ましく用いられる。用いられる抗体産生細胞(脾臓細胞)数と骨髄腫細胞数との好ましい比率は、1:1〜20:1程度であり、PEG(好ましくはPEG1000〜PEG6000)が10〜80%程度の濃度で添加され、20〜40℃、好ましくは30〜37℃で1〜10分間インキュベートすることにより効率よく細胞融合を実施できる。
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、例えば、蛋白質抗原を直接あるいは担体とともに吸着させた固相(例、マイクロプレート)にハイブリドーマ培養上清を添加し、次に放射性物質や酵素などで標識した抗免疫グロブリン抗体(細胞融合に用いられる細胞がマウスの場合、抗マウス免疫グロブリン抗体が用いられる)またはプロテインAを加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法;抗免疫グロブリン抗体またはプロテインAを吸着させた固相にハイブリドーマ培養上清を添加し、放射性物質や酵素などで標識した蛋白質を加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法;などによりスクリーニングすることができる。
モノクローナル抗体の選別は、自体公知あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。モノクローナル抗体の選別は、通常HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加した動物細胞用培地で行なうことができる。モノクローナル抗体の選別および育種用培地は、ハイブリドーマが生育できるものならばどのような培地を用いても良い。このような培地としては、例えば、1〜20%、好ましくは10〜20%の牛胎児血清を含むRPMI 1640培地、1〜10%の牛胎児血清を含むGIT培地(和光純薬工業(株))あるいはハイブリドーマ培養用無血清培地(SFM−101、日水製薬(株))などを用いることができる。培養温度は、通常20〜40℃、好ましくは約37℃である。培養時間は、通常5日〜3週間、好ましくは1週間〜2週間である。培養は、通常5%炭酸ガス下で行なうことができる。ハイブリドーマ培養上清の抗体価は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。
このようにして得られたモノクローナル抗体は、自体公知の方法、例えば、免疫グロブリンの分離精製法〔例、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例、DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相あるいはプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法〕に従って分離精製することができる。
〔ポリクローナル抗体の作製〕
本発明の転写調節因子に対するポリクローナル抗体は、自体公知の方法に従って製造することができる。例えば、免疫抗原(蛋白質抗原)自体、あるいはそれとキャリアー蛋白質との複合体をつくり、上記のモノクローナル抗体の製造法と同様に哺乳動物に免疫を行ない、該免疫動物から本発明の抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行なうことにより製造することができる。
哺乳動物を免疫するために用いられる免疫抗原とキャリアー蛋白質との複合体に関し、キャリアー蛋白質の種類およびキャリアーとハプテンとの混合比は、キャリアーに架橋させて免疫したハプテンに対して抗体が効率良くできれば、どの様なものをどの様な比率で架橋させてもよいが、例えば、ウシ血清アルブミンやウシサイログロブリン、ヘモシアニン等を重量比でハプテン1に対し、約0.1〜20、好ましくは約1〜5の割合でカプリングさせる方法が用いられる。
また、ハプテンとキャリアーのカプリングには、種々の縮合剤、例えばグルタルアルデヒドやカルボジイミド、マレイミド活性エステル、チオール基、ジチオビリジル基を含有する活性エステル試薬等が用いられる。
縮合生成物は、哺乳動物に対して、抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常約2〜6週毎に1回ずつ、計約3〜10回程度行なわれる。
ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された哺乳動物の血液、腹水など、好ましくは血液から採取することができる。
抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。ポリクローナル抗体の分離精製は、上記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の免疫グロブリンの分離精製法に従って行なうことができる。
活性抑制物質の別の好ましい態様は、本発明の果糖応答エレメントまたはそれを含有する核酸(好ましくはDNA)である。ここで、本発明のFREまたはそれを含有する核酸は、本発明の転写調節因子が結合するDNAに対するデコイヌクレオチドである。該核酸は上記の方法にしたがって製造することができる。
該核酸は低毒性であり、生体内における本発明の転写調節因子の機能(即ち、SREBP−1c遺伝子等の転写促進活性)を抑制することができるので、SREBP−1c遺伝子の発現異常が関与する代謝障害の予防・治療剤として使用することができる。該核酸は、上記スクリーニング方法により得られる本発明の転写調節因子の阻害物質の場合と同様にして製剤化し、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)に対して経口的にまたは非経口的に投与することができる。
また、該核酸は、例えばレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルスアソシエーテッドウイルスベクターなどの適当なベクターに挿入した後に上記哺乳動物に投与することもできる。
該核酸は、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって上記哺乳動物に投与してもよく、エアロゾル化後、吸入剤として気管内に局所投与することもできる。
本発明のFREまたはそれを含有する核酸を有してなる代謝障害の予防・治療剤の投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより異なるが、例えば、高TG血症に罹患している成人患者(体重60kg)においては、一日あたり、有効成分である核酸として、約0.1ないし100mg、好ましくは約1.0ないし50mg、より好ましくは約1.0ないし20mgである。
本発明の転写調節因子の産生抑制物質として、好ましくは、本発明の転写調節因子をコードする塩基配列に相補的な塩基配列またはその一部を含有する核酸が挙げられる。本発明の転写調節因子をコードする塩基配列に相補的な塩基配列またはその一部を含有する核酸(以下、「本発明のアンチセンス核酸」と略記する場合がある)としては、本発明の転写調節因子(本発明のNBPまたは本発明のRBMX類似蛋白質)をコードする塩基配列と完全に相補的な塩基配列または実質的に相補的な塩基配列、あるいは該相補的な塩基配列の一部を有し、本発明の転写調節因子をコードするRNAからの該蛋白質の翻訳を抑制する作用を有するものであればよい。「実質的に相補的な塩基配列」としては、本発明の転写調節因子をコードする塩基配列と、該蛋白質を発現する細胞の生理学的条件下でハイブリダイズし得る塩基配列、より具体的には、本発明の転写調節因子をコードする塩基配列の相補鎖またはその部分塩基配列との間で約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列などが挙げられる。
本発明のアンチセンス核酸は、クローン化した、あるいは決定された本発明の転写調節因子をコードする核酸の塩基配列情報に基づき設計し、合成しうる。そうした核酸は、本発明の転写調節因子をコードする遺伝子の複製または発現を阻害することができる。即ち、本発明のアンチセンス核酸は、本発明の転写調節因子をコードする遺伝子から転写されるRNAとハイブリダイズすることができ、mRNAの合成(プロセッシング)または機能(蛋白質への翻訳)を阻害することができる。
本発明のアンチセンス核酸の標的領域は、アンチセンス核酸がハイブリダイズすることにより、結果として本発明の転写調節因子の翻訳が阻害されるものであればその長さに特に制限はなく、本発明の転写調節因子をコードするRNAの全配列であっても部分配列であってもよく、短いもので約15塩基程度、長いものでmRNAまたは初期転写産物の全配列が挙げられる。合成の容易さや抗原性の問題を考慮すれば、約15〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが好ましいがそれに限定されない。具体的には、例えば、本発明の転写調節因子をコードする遺伝子の5’端ヘアピンループ、5’端6−ベースペア・リピート、5’端非翻訳領域、ポリペプチド翻訳開始コドン、蛋白質コード領域、ORF翻訳開始コドン、3’端非翻訳領域、3’端パリンドローム領域、および3’端ヘアピンループが標的領域として選択しうるが、該遺伝子内部の如何なる領域も標的として選択しうる。例えば、該遺伝子のイントロン部分を標的領域とすることもまた好ましい。
さらに、本発明のアンチセンス核酸は、本発明の転写調節因子をコードするmRNAもしくは初期転写産物とハイブリダイズして蛋白質への翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAである本発明の転写調節因子をコードする遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、RNAの転写を阻害し得るものであってもよい。
アンチセンス核酸は、2−デオキシ−D−リボースを含有しているデオキシリボヌクレオチド、D−リボースを含有しているリボヌクレオチド、プリンまたはピリミジン塩基のN−グリコシドであるその他のタイプのヌクレオチド、あるいは非ヌクレオチド骨格を有するその他のポリマー(例えば、市販の蛋白質核酸および合成配列特異的な核酸ポリマー)または特殊な結合を含有するその他のポリマー(但し、該ポリマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などが挙げられる。それらは、2本鎖DNA、1本鎖DNA、2本鎖RNA、1本鎖RNA、さらにDNA:RNAハイブリッドであることができ、さらに非修飾ポリヌクレオチド(または非修飾オリゴヌクレオチド)、さらには公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合または硫黄含有結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えば蛋白質(ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ−L−リジンなど)や糖(例えば、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレント化合物(例えば、アクリジン、プソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。ここで「ヌクレオシド」、「ヌクレオチド」および「核酸」とは、プリンおよびピリミジン塩基を含有するのみでなく、修飾されたその他の複素環型塩基をもつようなものを含んでいて良い。こうした修飾物は、メチル化されたプリンおよびピリミジン、アシル化されたプリンおよびピリミジン、あるいはその他の複素環を含むものであってよい。修飾されたヌクレオチドおよび修飾されたヌクレオチドはまた糖部分が修飾されていてよく、例えば、1個以上の水酸基がハロゲンとか、脂肪族基などで置換されていたり、あるいはエーテル、アミンなどの官能基に変換されていてよい。
アンチセンス核酸は、RNA、DNA、あるいは修飾された核酸(RNA、DNA)である。修飾された核酸の具体例としては核酸の硫黄誘導体やチオホスフェート誘導体、そしてポリヌクレオシドアミドやオリゴヌクレオシドアミドの分解に抵抗性のものが挙げられるが、それに限定されるものではない。本発明のアンチセンス核酸は次のような方針で好ましく設計されうる。すなわち、細胞内でのアンチセンス核酸をより安定なものにする、アンチセンス核酸の細胞透過性をより高める、目標とするセンス鎖に対する親和性をより大きなものにする、そしてもし毒性があるならアンチセンス核酸の毒性をより小さなものにする。こうした修飾は当該分野で数多く知られており、例えば J. Kawakami et al., Pharm Tech Japan, Vol. 8, pp.247, 1992; Vol. 8, pp.395, 1992; S. T. Crooke et al. ed., Antisense Research and Applications, CRC Press, 1993 などに開示がある。
アンチセンス核酸は、変化せしめられたり、修飾された糖、塩基、結合を含有していて良く、リポゾーム、ミクロスフェアのような特殊な形態で供与されたり、遺伝子治療により適用されたり、付加された形態で与えられることができうる。こうして付加形態で用いられるものとしては、リン酸基骨格の電荷を中和するように働くポリリジンのようなポリカチオン体、細胞膜との相互作用を高めたり、核酸の取込みを増大せしめるような脂質(例えば、ホスホリピド、コレステロールなど)といった疎水性のものが挙げられる。付加するに好ましい脂質としては、コレステロールやその誘導体(例えば、コレステリルクロロホルメート、コール酸など)が挙げられる。こうしたものは、核酸の3’端あるいは5’端に付着させることができ、塩基、糖、分子内ヌクレオシド結合を介して付着させることができうる。その他の基としては、核酸の3’端あるいは5’端に特異的に配置されたキャップ用の基で、エキソヌクレアーゼ、RNaseなどのヌクレアーゼによる分解を阻止するためのものが挙げられる。こうしたキャップ用の基としては、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのグリコールをはじめとした当該分野で知られた水酸基の保護基が挙げられるが、それに限定されるものではない。
本発明の転写調節因子をコードするmRNAもしくは遺伝子初期転写産物を、コード領域の内部(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)で特異的に切断し得るリボザイムもまた、本発明のアンチセンス核酸に包含され得る。「リボザイム」とは核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、最近では当該酵素活性部位の塩基配列を有するオリゴDNAも同様に核酸切断活性を有することが明らかになっているので、本明細書では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイムとして最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。このタイプのリボザイムは、RNAのみを基質とするので、ゲノムDNAを攻撃することがないというさらなる利点を有する。本発明の転写調節因子をコードするmRNAが自身で二本鎖構造をとる場合には、RNAヘリカーゼと特異的に結合し得るウイルス核酸由来のRNAモチーフを連結したハイブリッドリボザイムを用いることにより、標的配列を一本鎖にすることができる[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98(10): 5572-5577 (2001)]。さらに、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、転写産物の細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001)]。
本発明の転写調節因子をコードするmRNAもしくは遺伝子初期転写産物のコード領域内の部分配列(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)に相補的な二本鎖オリゴRNA(small interfering RNA; siRNA)もまた、本発明のアンチセンス核酸に包含され得る。短い二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAに相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、最近、この現象が哺乳動物細胞でも起こることが確認されたことから[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、リボザイムの代替技術として注目されている。
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド及びリボザイムは、本発明の転写調節因子をコードするcDNA配列もしくはゲノミックDNA配列情報に基づいてmRNAもしくは初期転写産物の標的領域を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製することができる。siRNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中で、例えば、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製することができる。また、相補的なオリゴヌクレオチド鎖を交互にオーバーラップするように合成して、これらをアニーリングさせた後リガーゼでライゲーションすることにより、より長い二本鎖ポリヌクレオチドを調製することもできる。
前記「産生抑制物質」が本発明のアンチセンス核酸である場合、該アンチセンス核酸を、例えばレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルスアソシエーテッドウイルスベクターなどの適当なベクターに挿入した後に、代謝障害の予防・治療剤として哺乳動物に投与することもできる。
アンチセンス核酸は、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与してもよく、エアロゾル化後、吸入剤として気管内に局所投与することもできる。
さらに、本発明のアンチセンス核酸は、組織や細胞における本発明の転写調節因子をコードする核酸の存在やその発現状況を調べるための診断用核酸プローブとして使用することもできる。
本発明はまた、本発明の転写調節因子またはその部分ペプチドにおいて、1もしくは2以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を含有する蛋白質またはペプチドであって、本発明の果糖応答エレメントとの結合能を有するが、該FRE配列を含むプロモーターを活性化しないことを特徴とする蛋白質またはペプチドを提供する。「プロモーターを活性化しない」とは、該プロモーターの制御下にある遺伝子の転写活性化を促進し得ないことを意味する。該蛋白質またはペプチドは上記の特性を有する限りいかなるものであってよいが、例えば、本発明のNBPまたはRBMX類似蛋白質の転写調節(活性化)ドメインにおけるアミノ酸の置換、欠失、挿入もしくは付加により、転写促進活性を欠損した変異蛋白質またはペプチドが挙げられる。
上記の変異蛋白質またはペプチドは、本発明のFRE配列を含むSREBP−1cプロモーターに結合することにより、正常な本発明の転写調節因子の該FRE配列への結合及びSREBP−1c遺伝子の転写活性化を阻害することができるので、SREBP−1c遺伝子発現の異常亢進に関連する代謝障害、特に糖・脂質障害(例:高TG血症、高LDL−C血症、低HDL−C血症、肥満、耐糖能異常、空腹時血糖障害、高インスリン血症、高血圧、アルブミン尿症等)の予防・治療に有用である。従って、本発明は、該変異蛋白質またはペプチドを含有してなる代謝障害、特に糖・脂質代謝障害の予防・治療剤を提供する。
上記の変異蛋白質またはペプチドを含有してなる代謝障害の予防・治療剤は、該変異蛋白質またはペプチドそのものであってもよいが、それを薬理学的に許容し得る担体とともに混合して得られる医薬組成物であることが好ましい。ここで、薬理学的に許容される担体としては、前記したスクリーニング法により得られる「本発明の転写調節因子の阻害物質」の場合と同様のものが挙げられる。
該医薬組成物は、前記した「本発明の転写調節因子の阻害物質」の場合と同様にして製造することができる。
このようにして得られる製剤は、安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えばヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)に対して経口的にまたは非経口的に投与することができる。
本発明の代謝障害の予防・治療剤の投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより異なるが、例えば、高TG血症に罹患している成人患者(体重60kg)においては、一日あたり、有効成分である変異蛋白質またはペプチドとして、約0.1ないし100mg、好ましくは約1.0ないし50mg、より好ましくは約1.0ないし20mgである。
本発明はまた、上記の本発明の転写調節因をコードする塩基配列、またはその一部を有する核酸を含有してなる代謝障害、特に糖・脂質障害(例:高TG血症、高LDL−C血症、低HDL−C血症、肥満、耐糖能異常、空腹時血糖障害、高インスリン血症、高血圧、アルブミン尿症等)の診断剤に関する。例えば、本発明の転写調節因子をコードする塩基配列を有する核酸をプローブとして使用することにより、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)における本発明の転写調節因子をコードするDNAまたはmRNAの異常(遺伝子異常)を検出することができるので、例えば、該DNAまたはmRNAの損傷、突然変異あるいは発現低下や、該DNAまたはmRNAの増加あるいは発現過多などの遺伝子診断剤として有用である。
上記の遺伝子診断は、例えば、自体公知のノーザンハイブリダイゼーションやPCR−SSCP法(ゲノミックス(Genomics),第5巻,874〜879頁(1989年)、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ユーエスエー(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America),第86巻,2766〜2770頁(1989年))などにより実施することができる。
例えば、ノーザンハイブリダイゼーションにより発現過多が検出された場合やPCR−SSCP法によりDNAの突然変異が検出された場合は、例えば、高TG血症等の糖・脂質代謝障害に罹患している可能性が高いと診断することができる。
本発明はまた、上記の本発明の抗体を含有してなる代謝障害、特に糖・脂質代謝障害(例:高TG血症、高LDL−C血症、低HDL−C血症、肥満、耐糖能異常、空腹時血糖障害、高インスリン血症、高血圧、アルブミン尿症等)の診断剤に関する。
すなわち、本発明は、
(i)本発明の抗体と、被検液および標識化された本発明の転写調節因子(部分ペプチドを含む)とを競合的に反応させ、該抗体に結合した標識化された本発明の転写調節因子の割合を測定することにより被検液中の本発明の転写調節因子またはその塩を定量することを特徴とする、代謝障害、特に糖・脂質代謝障害の診断方法、および
(ii)被検液と担体上に不溶化した本発明の抗体および標識化された本発明の別の抗体とを同時あるいは連続的に反応させたのち、不溶化担体上の標識剤の活性を測定することにより被検液中の本発明の転写調節因子またはその塩を定量することを特徴とする、代謝障害、特に糖・脂質代謝障害の診断方法を提供する。
上記(ii)の定量においては、一方の抗体が本発明の転写調節因子のN端部を認識する抗体である場合、他方の抗体が本発明の転写調節因子の他の部分、例えばC端部を認識する抗体であることが望ましい。
また、本発明の転写調節因子に対するモノクローナル抗体を用いて該因子の定量を行うことができるほか、組織染色等による検出を行なうこともできる。これらの目的には、抗体分子そのものを用いてもよく、また、抗体分子のF(ab')2、Fab'、あるいはFab画分を用いてもよい。さらには、重鎖及び軽鎖の可変領域をリンカーで連結した単鎖抗体(scFv)を用いることもできる。
本発明の抗体を用いる本発明の転写調節因子またはその塩の定量は、特に制限されるべきものではなく、被測定液中の抗原量に対応した抗体、抗原もしくは抗体−抗原複合体の量を化学的または物理的手段により検出し、これを既知量の抗原を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法およびサンドイッチ法が好適に用いられるが、感度、特異性の点で、後述するサンドイッチ法を用いるのが特に好ましい。
標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン−(ストレプト)アビジン系を用いることもできる。
抗原あるいは抗体の不溶化にあたっては、物理吸着を用いてもよく、また通常蛋白質等を不溶化、固定化するのに用いられる化学結合を用いる方法でもよい。担体としては、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス等があげられる。
サンドイッチ法においては不溶化した本発明のモノクローナル抗体に被検液を反応させ(1次反応)、さらに標識化した別の本発明のモノクローナル抗体を反応させ(2次反応)たのち、不溶化担体上の標識剤の活性を測定することにより被検液中の本発明の転写調節因子またはその塩の量を定量することができる。1次反応と2次反応は逆の順序に行っても、また、同時に行なってもよいし時間をずらして行なってもよい。標識化剤および不溶化の方法は前記のそれらに準じることができる。また、サンドイッチ法による免疫測定法において、固相用抗体あるいは標識用抗体に用いられる抗体は必ずしも1種類である必要はなく、測定感度を向上させる等の目的で2種類以上の抗体の混合物を用いてもよい。
上記サンドイッチ法による本発明の転写調節因子またはその塩の測定法においては、1次反応と2次反応に用いられる本発明のモノクローナル抗体は、本発明の転写調節因子の結合する部位が相異なる抗体が好ましく用いられる。すなわち、1次反応および2次反応に用いられる抗体は、例えば、2次反応で用いられる抗体が、本発明の転写調節因子のC端部を認識する場合、1次反応で用いられる抗体は、好ましくはC端部以外、例えばN端部を認識する抗体が用いられる。
本発明のモノクローナル抗体をサンドイッチ法以外の測定システム、例えば、競合法、イムノメトリック法あるいはネフロメトリーなどに用いることができる。
競合法では、被検液中の抗原と標識抗原とを抗体に対して競合的に反応させたのち、未反応の標識抗原(F)と、抗体と結合した標識抗原(B)とを分離し(B/F分離)、B,Fいずれかの標識量を測定し、被検液中の抗原量を定量する。本反応法には、抗体として可溶性抗体を用い、B/F分離をポリエチレングリコール、前記抗体に対する第2抗体などを用いる液相法、および、第1抗体として固相化抗体を用いるか、あるいは、第1抗体は可溶性のものを用い第2抗体として固相化抗体を用いる固相化法とが用いられる。
イムノメトリック法では、被検液中の抗原と固相化抗原とを一定量の標識化抗体に対して競合反応させた後固相と液相を分離するか、あるいは、被検液中の抗原と過剰量の標識化抗体とを反応させ、次に固相化抗原を加え未反応の標識化抗体を固相に結合させたのち、固相と液相を分離する。次に、いずれかの相の標識量を測定し被検液中の抗原量を定量する。
また、ネフロメトリーでは、ゲル内あるいは溶液中で抗原抗体反応の結果生じた不溶性の沈降物の量を測定する。被検液中の抗原量が僅かであり、少量の沈降物しか得られない場合にもレーザーの散乱を利用するレーザーネフロメトリーなどが好適に用いられる。
これら個々の免疫学的測定法を本発明の定量方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えて本発明の転写調節因子の測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。
例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」 Vol. 70(Immunochemical Techniques(Part A))、 同書 Vol. 73(Immunochemical Techniques(Part B))、 同書 Vol. 74(Immunochemical Techniques(Part C))、 同書 Vol. 84(Immunochemical Techniques(Part D : Selected Immunoassays))、 同書 Vol. 92(Immunochemical Techniques(Part E : Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、 同書 Vol. 121(Immunochemical Techniques(Part I : Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies))(以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
以上のようにして、本発明の抗体を用いることによって、本発明の転写調節因子またはその塩を感度良く定量することができる。
本発明の抗体を用いる上記の定量法において、被検動物の生検サンプル(例、腎細胞、膵細胞など)を被検体とし、該検体中の本発明の転写調節因子またはその塩の濃度を定量することによって、該因子の発現過多が検出された場合は、例えば、高TG血症などの糖・脂質代謝障害に罹患している可能性が高いと診断することができる。
本発明はまた、本発明の果糖応答エレメント(FRE)を含むプロモーターの制御下にある遺伝子が導入された非ヒトトランスジェニック動物を提供する。「本発明のFREを含むプロモーター」としては、上記本発明のスクリーニング法において記載したのと同様の動物細胞用プロモーターに、本発明のFREを遺伝子工学的手法を用いて適切な位置に連結したもの等が例示される。あるいは本発明のFREを含有するSREBP−1cプロモーター自体を「本発明のFREを含むプロモーター」として使用することもできる。
該プロモーターの制御下にある遺伝子としては、上記本発明のスクリーニング法において記載したのと同様のレポーター遺伝子が好ましく例示されるが、本発明のFREをプロモーター領域に含むSREBP−1c遺伝子自体を、「本発明のFREを含むプロモーターの制御下にある遺伝子」として使用することもできる。
ここで「トランスジェニック動物」とは、宿主動物の細胞内に本発明のFREを含むプロモーターの制御下にある遺伝子が発現可能な状態で永続的に存在することを意味し、該遺伝子が宿主染色体上に組み込まれていても、あるいは染色体外遺伝子として安定に存在していてもよいが、好ましくは、該遺伝子は宿主染色体上に組み込まれた状態で保持される。
本発明の果糖応答エレメントを含むプロモーターの制御下にある遺伝子が導入された非ヒトトランスジェニック動物(以下、「本発明のFRE−Tg動物」という)は、非ヒト哺乳動物の受精卵や、未受精卵、精子又はその前駆細胞(始原生殖細胞、卵原細胞、卵母細胞、卵細胞、精原細胞、精母細胞、精細胞等)などに、好ましくは受精卵の胚発生の初期段階(さらに好ましくは8細胞期以前)において、リン酸カルシウム共沈殿法、電気穿孔(エレクトロポレーション)法、リポフェクション法、凝集法、顕微注入(マイクロインジェクション)法、遺伝子銃(パーティクルガン)法、DEAE−デキストラン法などの遺伝子導入法によって、目的とする遺伝子を導入することにより作出される。また、該遺伝子導入法により、非ヒト哺乳動物の体細胞、組織、臓器などに目的とする遺伝子を導入し、細胞培養、組織培養などに利用することもでき、さらに、この細胞を上述の胚(もしくは生殖)細胞と公知の細胞融合法を用いて融合させることによりトランスジェニック動物を作出することもできる。あるいは、ノックアウト動物を作製する場合と同様に、非ヒト哺乳動物の胚性幹細胞(ES細胞)に上記の遺伝子導入法を用いて目的とする遺伝子を導入し、予め該遺伝子が安定に組み込まれたクローンを選択した後に、該ES細胞を胚盤胞に注入するかあるいはES細胞塊と8細胞期胚とを凝集させてキメラ動物を作製し、生殖系列に導入遺伝子が伝達されたものを選択することによってもトランスジェニック動物を得ることが可能である。
また、このようにして作製されたトランスジェニック動物の生体の一部(例えば、1)導入遺伝子を安定に保持する細胞、組織、臓器など、2)これらに由来する細胞または組織を培養し、必要に応じて継代したものなど)も、「本発明のFRE−Tg動物の生体の一部」として、「本発明のFRE−Tg動物」と同様な目的に用いることができる。本発明のFRE−Tg動物の生体の一部である臓器としては、肝臓、心臓、腎臓、副腎、血管、消化管、脳などが、組織及び細胞としては当該臓器由来の組織片及び細胞などが好ましく例示される。
本発明で対象とし得る「非ヒト哺乳動物」は、トランスジェニック系が確立されたヒト以外の哺乳動物であれば特に制限はなく、例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなどが挙げられる。好ましくはマウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター等であり、なかでも疾患モデル動物作製の面から個体発生及び生物サイクルが比較的短く、繁殖が容易な齧歯動物がより好ましく、とりわけマウス(例えば、純系としてC57BL/6系統、DBA/2系統など、交雑系としてB6C3F1系統、BDF1系統、B6D2F1系統、BALB/c系統、ICR系統など)及びラット(例えば、Wistar、SDなど)が好ましい。
また、哺乳動物以外にもニワトリなどの鳥類が本発明で対象とする「非ヒト哺乳動物」と同様の目的に用いることができる。
導入遺伝子中の構造遺伝子はイントロンを含まない形態(即ち、cDNA)であることが好ましいが、イントロンの5’及び3’末端配列はほとんどの真核生物遺伝子で共通であるので、別の実施態様においてはイントロンを含む形態(即ち、ゲノムDNA)もまた好ましく用いられ得る。
導入遺伝子を担持するベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド、λファージなどのバクテリオファージ、モロニー白血病ウイルスなどのレトロウイルス、ワクシニアウイルスまたはバキュロウイルスなどの動物ウイルスなどが用いられる。なかでも、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミドまたは酵母由来のプラスミドなどが好ましく用いられ、特に大腸菌由来のプラスミドが好ましい。
導入遺伝子の下流には、トランスジェニック動物において目的とするmRNAの転写を終結させる配列(ポリアデニレーション(polyA)シグナル、ターミネーターとも呼ばれる)を有していることが好ましく、例えば、ウイルス遺伝子由来、あるいは各種哺乳動物または鳥類の遺伝子由来のターミネーター配列を用いて、効率よい導入遺伝子の発現を達成することができる。好ましくは、シミアンウイルスのSV40ターミネーターなどが用いられる。その他、目的の遺伝子をさらに高発現させる目的で、各遺伝子のスプライシングシグナル、エンハンサー領域、真核遺伝子のイントロンの一部を、プロモーター領域の5’上流、プロモーター領域と翻訳領域間(5’UTR)あるいは翻訳領域の3’下流(3’UTR)に連結することも目的により可能である。
また、ES細胞を用いてトランスジェニック動物を作製する場合、上記のベクターは、導入遺伝子が安定に組み込まれたクローンを選択するための選択マーカー遺伝子(例:ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子)をさらに含むことが好ましい。さらに、相同組換えにより宿主染色体の特定の部位に導入遺伝子を組み込むこと(即ち、ノックイン動物の作製)を意図する場合には、上記のベクターは、ランダムな挿入を排除するために、標的部位と相同なDNA配列の外側に単純ヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ遺伝子やジフテリア毒素遺伝子をネガティブ選択マーカー遺伝子としてさらに含むことが好ましい。これらの実施態様については後で詳述する。
上記のプロモーター、構造遺伝子DNA、ターミネーターなどは、適当な制限酵素及びDNAリガーゼ等を用いた通常の遺伝子工学的手法により、上記のベクター中に正しい配置で、即ちトランスジェニック動物において導入遺伝子を発現可能な配置で、挿入することができる。
好ましい一実施態様においては、上記のようにして得られる本発明のFREを含むプロモーターの制御下にある遺伝子を含む発現ベクターは、マイクロインジェクション法により対象となる非ヒト哺乳動物の初期胚に導入される。
対象非ヒト哺乳動物の初期胚は、同種の非ヒト哺乳動物の雌雄を交配させて得られる体内受精卵を採取するか、あるいは同種の非ヒト哺乳動物の雌雄からそれぞれ採取した卵と精子を体外受精させることにより得ることができる。
用いる非ヒト哺乳動物の齢や飼育条件等は動物種によってそれぞれ異なるが、例えばマウス(好ましくはC57BL/6J(B6)などの近交系マウス、B6と他の近交系とのF1など)を用いる場合は、雌が約4〜約6週齢、雄が約2〜約8月齢程度のものが好ましく、また、約12時間明期条件(例えば7:00−19:00)で約1週間飼育したものが好ましい。
体内受精は自然交配によってもよいが、性周期の調節と1個体から多数の初期胚を得ることを目的として、雌非ヒト哺乳動物に性腺刺激ホルモンを投与して過剰排卵を誘起した後、雄非ヒト哺乳動物と交配させる方法が好ましい。雌非ヒト哺乳動物の排卵誘発法としては、例えば初めに卵胞刺激ホルモン(妊馬血清性性腺刺激ホルモン、一般にPMSGと略する)、次いで黄体形成ホルモン(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン、一般にhCGと略する)を、例えば腹腔内注射などにより投与する方法が好ましいが、好ましいホルモンの投与量、投与間隔は非ヒト哺乳動物の種類によりそれぞれ異なる。例えば、非ヒト哺乳動物がマウス(好ましくはC57BL/6J(B6)などの近交系マウス、B6と他の近交系とのF1など)の場合は、通常、卵胞刺激ホルモン投与後、約48時間後に黄体形成ホルモンを投与し、直ちに雄マウスと交配させることにより受精卵を得る方法が好ましく、卵胞刺激ホルモンの投与量は約20〜約50IU/個体、好ましくは約30IU/個体、黄体形成ホルモンの投与量は約0〜約10IU/個体、好ましくは約5IU/個体である。
一定時間経過後、膣栓の検査等により交配を確認した雌非ヒト哺乳動物の腹腔を開き、卵管から受精卵を取り出して胚培養用培地(例:M16培地、修正Whitten培地、BWW培地、M2培地、WM−HEPES培地、BWW−HEPES培地等)中で洗って卵丘細胞を除き、微小滴培養法等により5%炭酸ガス/95%大気下でDNA顕微注入まで培養する。直ちに顕微注入を行わない場合、採取した受精卵を緩慢法または超急速法等で凍結保存することも可能である。
一方、体外受精の場合は、採卵用雌非ヒト哺乳動物(体内受精の場合と同様のものが好ましく用いられる)に上記と同様に卵胞刺激ホルモン及び黄体形成ホルモンを投与して排卵を誘発させた後、卵子を採取して受精用培地(例:TYH培地)中で体外受精時まで微小滴培養法等により5%炭酸ガス/95%大気下で培養する。他方、同種の雄非ヒト哺乳動物(体内受精の場合と同様のものが好ましく用いられる)から精巣上体尾部を取り出し、精子塊を採取して受精用培地中で前培養する。前培養終了後の精子を卵子を含む受精用培地に添加し、微小滴培養法等により5%炭酸ガス/95%大気下で培養した後、2個の前核を有する受精卵を顕微鏡下で選抜する。直ちにDNAの顕微注入を行わない場合は、得られた受精卵を緩慢法または超急速法等で凍結保存することも可能である。
受精卵へのDNAの顕微注入は、マイクロマニピュレーター等の公知の装置を用いて常法に従って実施することができる。簡潔に言えば、胚培養用培地の微小滴中に入れた受精卵をホールディングピペットで吸引して固定し、インジェクションピペットを用いてDNA溶液を雄性もしくは雌性前核、好ましくは雄性前核内に直接注入する。導入DNAはCsCl密度勾配超遠心等で高度に精製したものを用いることが好ましい。また、導入DNAは制限酵素を用いてベクター部分を切断し、直鎖状にしておくことが好ましい。
DNA導入後の受精卵は胚培養用培地中で微小滴培養法等により5%炭酸ガス/95%大気下で1細胞期〜胚盤胞期まで培養した後、偽妊娠させた受胚用雌非ヒト哺乳動物の卵管または子宮内に移植される。受胚用雌非ヒト哺乳動物は移植される初期胚が由来する動物と同種のものであればよく、例えば、マウス初期胚を移植する場合は、ICR系の雌マウス(好ましくは約8〜約10週齢)などが好ましく用いられる。受胚用雌非ヒト哺乳動物を偽妊娠状態にする方法としては、例えば、同種の精管切除(結紮)雄非ヒト哺乳動物(例えば、マウスの場合、ICR系の雄マウス(好ましくは約2月齢以上))と交配させて、膣栓の存在が確認されたものを選択する方法が知られている。
受胚用雌は自然排卵のものを用いてもよいし、あるいは精管切除(結紮)雄との交配に先立って、黄体形成ホルモン放出ホルモン(一般にLHRHと略する)もしくはその類縁体を投与し、受精能を誘起させたものを用いてもよい。LHRH類縁体としては、例えば、[3,5-DiI-Tyr5]-LH-RH、[Gln8]-LH-RH、[D-Ala6]-LH-RH、[des-Gly10]-LH-RH、[D-His(Bzl)6]-LH-RH及びそれらのEthylamideなどが挙げられる。LHRHもしくはその類縁体の投与量、ならびにその投与後に雄非ヒト哺乳動物と交配させる時期は、非ヒト哺乳動物の種類によりそれぞれ異なる。例えば、非ヒト哺乳動物がマウス(好ましくはICR系のマウスなど)の場合には、通常、LHRHもしくはその類縁体を投与した後、約4日目に雄マウスと交配させることが好ましく、LHRHあるいはその類縁体の投与量は、通常、約10〜60μg/個体、好ましくは約40μg/個体である。
通常、移植される初期胚が桑実胚期以後の場合は受胚用雌の子宮に、それより前(例えば、1細胞期〜8細胞期胚)であれば卵管に胚移植される。受胚用雌は、移植胚の発生段階に応じて偽妊娠からある日数が経過したものが適宜使用される。例えばマウスの場合、2細胞期胚を移植するには偽妊娠後約0.5日の雌マウスが、胚盤胞期胚を移植するには偽妊娠後約2.5日の雌マウスが好ましい。受胚用雌を麻酔(好ましくはAvertin等が使用される)後、切開して卵巣を引き出し、胚培養用培地に懸濁した初期胚(約5〜約10個)を胚移植用ピペットを用いて、卵管腹腔口もしくは子宮角の卵管接合部付近に注入する。
移植胚が首尾よく着床し受胚雌が妊娠すれば、自然分娩もしくは帝王切開により仔非ヒト哺乳動物が得られる。自然分娩した受胚雌にはそのまま哺乳を継続させればよく、帝王切開により出産した場合は、産仔は別途用意した哺乳用雌(例えばマウスの場合、通常に交配・分娩した雌マウス(好ましくはICR系の雌マウス等))に哺乳させることができる。
受精卵細胞段階における遺伝子導入は、導入DNAが対象非ヒト哺乳動物の生殖系列細胞及び体細胞のすべてに存在するように確保される。導入DNAが染色体DNAに組み込まれているか否かは、例えば、産仔の尾部より分離抽出した染色体DNAをサザンハイブリダイゼーションまたはPCR法によりスクリーニングすることにより検定することができる。上記のようにして得られる仔非ヒト哺乳動物(F0)の生殖系列細胞において導入DNAが存在することは、その後代(F1)の動物全てが、その生殖系列細胞及び体細胞のすべてに本発明のFREを含むプロモーターの制御下にある遺伝子が存在することを意味する。
通常、F0動物は相同染色体の一方にのみ導入DNAを有するヘテロ接合体として得られる。また、個々のF0個体は相同組換えによらない限り異なる染色体上にランダムに挿入される。相同染色体の両方に導入DNAを有するホモ接合体を得るためには、F0動物と非トランスジェニック動物とを交雑してF1動物を作出し、相同染色体の一方にのみ導入DNAを有するヘテロ接合体の兄妹同士を交雑すればよい。1遺伝子座にのみ導入DNAが組み込まれていれば、得られるF2動物の1/4がホモ接合体となる。
別の好ましい一実施態様においては、本発明のFREを含むプロモーターの制御下にある遺伝子を含む発現ベクターは、エレクトロポレーション法等の公知の遺伝子導入法により対象となる非ヒト哺乳動物の胚性幹細胞(ES細胞)に導入される。
ES細胞は胚盤胞期の受精卵の内部細胞塊(ICM)に由来し、インビトロで未分化状態を保ったまま培養維持できる細胞をいう。ICMの細胞は将来、胚本体を形成する細胞であり、生殖細胞を含むすべての組織の基になる幹細胞である。ES細胞としては、既に樹立された細胞株ものを用いてもよく、また、EvansとKaufmanの方法(ネイチャー(Nature)第292巻、154頁、1981年)に準じて新しく樹立したものでもよい。例えば、マウスES細胞の場合、現在、一般的には129系マウス由来のES細胞が使用されているが、免疫学的背景がはっきりしていないので、これに代わる純系で免疫学的に遺伝的背景が明らかなES細胞を取得するなどの目的で、例えば、C57BL/6マウスやC57BL/6の採卵数の少なさをDBA/2との交雑により改善したBDF1マウス(C57BL/6とDBA/2とのF1)から樹立されるES細胞なども良好に用いることができる。BDF1マウスは、採卵数が多く、かつ卵が丈夫であるという利点に加えて、C57BL/6マウスを背景に持つので、これ由来のES細胞は疾患モデルマウスを作出したとき、C57BL/6マウスと戻し交雑することでその遺伝的背景をC57BL/6マウスに代えることが可能である点で有利に用い得る。
ES細胞の調製は、例えば以下のようにして行うことができる。交配後の雌非ヒト哺乳動物[例えばマウス(好ましくはC57BL/6J(B6)などの近交系マウス、B6と他の近交系とのF1など)を用いる場合は、約2月齢以上の雄マウスと交配させた約8〜約10週齢程度の雌マウス(妊娠約3.5日)が好ましく用いられる]の子宮から胚盤胞期胚を採取して(あるいは桑実胚期以前の初期胚を卵管から採取した後、胚培養用培地中で上記と同様にして胚盤胞期まで培養してもよい)、適当なフィーダー細胞(例えばマウスの場合、マウス胎仔から調製される初代繊維芽細胞や公知のSTO繊維芽細胞株等)層上で培養すると、胚盤胞の一部の細胞が集合して将来胚に分化するICMを形成する。この内部細胞塊をトリプシン処理して単細胞を解離させ、適切な細胞密度を保ち、培地交換を行いながら、解離と継代を繰り返すことによりES細胞が得られる。
ES細胞は雌雄いずれを用いてもよいが、通常雄のES細胞の方が生殖系列キメラを作出するのに都合が良い。また、煩雑な培養の手間を削減するためにもできるだけ早く雌雄の判別を行なうことが望ましい。ES細胞の雌雄の判定方法としては、例えば、PCR法によりY染色体上の性決定領域の遺伝子を増幅、検出する方法が、その1例としてあげることができる。この方法を使用すれば、従来、核型分析をするのに約106個の細胞数を要していたのに対して、1コロニー程度のES細胞数(約50個)で済むので、培養初期におけるES細胞の第一次セレクションを雌雄の判別で行なうことが可能であり、早期に雄細胞の選定を可能にしたことにより培養初期の手間は大幅に削減できる。
また、第二次セレクションとして、例えば、G−バンディング法による染色体数の確認等により行うことができる。得られるES細胞の染色体数は正常数の100%が望ましいが、細胞株樹立の際の物理的操作等の関係上困難な場合は、ES細胞への遺伝子導入の後、正常細胞(例えば、マウスでは染色体数が2n=40である細胞)に再びクローニングすることが望ましい。
このようにして得られるES細胞株は、未分化幹細胞の性質を維持するために注意深く継代培養することが必要である。例えば、STO繊維芽細胞のような適当なフィーダー細胞上で、分化抑制因子として知られるLIF(1〜10,000U/ml)存在下に炭酸ガス培養器内(好ましくは、5%炭酸ガス/95%空気または5%酸素/5%炭酸ガス/90%空気)で約37℃で培養するなどの方法で培養し、継代時には、例えば、トリプシン/EDTA溶液(通常0.001〜0.5%トリプシン/0.1〜5mM EDTA、好ましくは約0.1%トリプシン/1mM EDTA)処理により単細胞化し、新たに用意したフィーダー細胞上に播種する方法などがとられる。このような継代は、通常1〜3日毎に行なうが、この際に細胞の観察を行い、形態的に異常な細胞が見受けられた場合はその培養細胞は放棄することが望まれる。
ES細胞は、適当な条件により、高密度に至るまで単層培養するか、または細胞集塊を形成するまで浮遊培養することにより、頭頂筋、内臓筋、心筋などの種々のタイプの細胞に分化させることが可能であり〔M. J. Evans及びM. H. Kaufman, ネイチャー(Nature)第292巻、154頁、1981年;G. R. Martin プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.)第78巻、7634頁、1981年;T. C. Doetschman ら、ジャーナル・オブ・エンブリオロジー・アンド・エクスペリメンタル・モルフォロジー、第87巻、27頁、1985年〕、本発明のFREを含むプロモーターの制御下にある遺伝子を導入されたES細胞を分化させて得られる該遺伝子発現非ヒト哺乳動物細胞は、インビトロにおける本発明のFREの食事(例:高果糖食)に対する応答性の検討において有用である。
ES細胞への遺伝子導入には、リン酸カルシウム共沈殿法、電気穿孔(エレクトロポレーション)法、リポフェクション法、レトロウイルス感染法、凝集法、顕微注入(マイクロインジェクション)法、遺伝子銃(パーティクルガン)法、DEAE−デキストラン法などのいずれも用いることができるが、簡便に多数の細胞を処理できること等の点からエレクトロポレーション法が一般的に選択されている。エレクトロポレーションには通常の動物細胞への遺伝子導入に使用されている条件をそのまま用いればよく、例えば、対数増殖期にあるES細胞をトリプシン処理して単一細胞に分散させた後、106〜108細胞/mlとなるように培地に懸濁してキュベットに移し、導入DNAを含むベクターを10〜100μg添加し、200〜600V/cmの電気パルスを印加することにより行なうことができる。
導入DNAが組み込まれたES細胞は、単一細胞をフィーダー細胞上で培養して得られるコロニーから分離抽出した染色体DNAをサザンハイブリダイゼーションまたはPCR法によりスクリーニングすることによっても検定することができるが、ES細胞を用いるトランスジェニック系の最大の長所は、薬剤耐性遺伝子やレポーター遺伝子の発現を指標として細胞段階で形質転換体を選択できることである。したがって、ここで使用される導入ベクターは、本発明のFREを含むプロモーターの制御下にある遺伝子の発現カセットに加えて、薬剤耐性遺伝子(例:ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(nptII)遺伝子、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hpt)遺伝子など)やレポーター遺伝子(例:β−ガラクトシダーゼ(lacZ)遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(cat)遺伝子など)等の選択マーカー遺伝子をさらに含むことが望ましい。例えば、選択マーカー遺伝子としてnptII遺伝子を含むベクターを用いた場合、遺伝子導入処理後のES細胞をG418などのネオマイシン系抗生物質を含有する培地中で培養し、出現した耐性コロニーをそれぞれ培養プレートに移してトリプシン処理、培地交換を繰り返した後、一部を培養用として残し、残りをPCRもしくはサザンハイブリダイゼーションにかけて導入DNAの存在を確認する。
導入DNAの組込みが確認されたES細胞を同種の非ヒト哺乳動物由来の胚内に戻すと、宿主胚のICMに組み込まれてキメラ胚が形成される。これを仮親(受胚用雌)に移植してさらに発生を続けさせることにより、キメラトランスジェニック動物が得られる。キメラ動物の中でES細胞が将来卵や精子に分化する始原生殖細胞の形成に寄与した場合には、生殖系列キメラが得られることとなり、これを交配することにより導入DNAが遺伝的に固定された遺伝子導入非ヒト哺乳動物を作出することができる。
キメラ胚の作製方法としては、桑実胚期までの初期胚同士を接着させて集合させる方法(集合キメラ法)と、胚盤胞の割腔内に細胞を顕微注入する方法(注入キメラ法)とがあるが、ES細胞によるキメラ胚の作製においては従来より後者が広く行なわれているが、最近では、8細胞期胚の透明帯内へのES細胞の注入により集合キメラを作る方法や、マイクロマニピュレーターが不要で操作が容易な方法として、ES細胞塊と透明帯を除去した8細胞期胚とを共培養して凝集させることによって集合キメラを作製する方法も行われている。
いずれの場合も、宿主胚は受精卵への遺伝子導入における採卵用雌として使用され得る非ヒト哺乳動物から同様にして採取することができるが、例えばマウスの場合、キメラマウス形成へのES細胞の寄与率を毛色(コートカラー)で判定し得るように、ES細胞の由来する系統とは毛色の異なる系統のマウスから宿主胚を採取することが好ましい。例えば、ES細胞が129系マウス(毛色:アグーチ)由来であれば、採卵用雌としてC57BL/6マウス(毛色:ブラック)やICRマウス(毛色:アルビノ)を用い、ES細胞がC57B/6もしくはDBF1マウス(毛色:ブラック)由来やTT2細胞(C57B/6とCBAとのF1(毛色:アグーチ)由来)であれば、採卵用雌としてICRマウスやBALB/cマウス(毛色:アルビノ)を用いることができる。
また、生殖系列キメラ形成能はES細胞と宿主胚との組み合わせに大きく依存するので、生殖系列キメラ形成能の高い組み合わせを選択することがより好ましい。例えばマウスの場合、129系統由来のES細胞に対してはC57B/6系統由来の宿主胚等を用いることが好ましく、C57B/6系統由来のES細胞に対してはBALB/c系統由来の宿主胚等が好ましい。
採卵用雌マウスは約4〜6週齢程度が好ましく、交配用の雄マウスとしては約2〜約8月齢程度の同系統のものが好ましい。交配は自然交配によってもよいが、好ましくは性腺刺激ホルモン(卵胞刺激ホルモン、次いで黄体形成ホルモン)を投与して過剰排卵を誘起した後に行なわれる。
胚盤注入法による場合は、胚盤胞期胚(例えばマウスの場合、交配後約3.5日)を採卵用雌の子宮から採取し(あるいは桑実胚期以前の初期胚を卵管から採取した後、上述の胚培養用培地中で胚盤胞期まで培養してもよい)、マイクロマニピュレーターを用いて胚盤胞の割腔内に本発明のFREを含むプロモーターの制御下にある遺伝子が導入されたES細胞(約10〜約15個)を注入した後、偽妊娠させた受胚用雌非ヒト哺乳動物の子宮内に移植する。受胚用雌非ヒト哺乳動物は受精卵への遺伝子導入における受胚用雌として使用され得る非ヒト哺乳動物を同様に用いることができる。
共培養法による場合は、8細胞期胚及び桑実胚(例えばマウスの場合、交配後約2.5日)を採卵用雌の卵管及び子宮から採取して(あるいは8細胞期以前の初期胚を卵管から採取した後、上述の胚培養用培地中で8細胞期または桑実胚期まで培養してもよい)酸性タイロード液中で透明帯を溶解した後、ミネラルオイルを重層した胚培養用培地の微小滴中に本発明のFREを含むプロモーターの制御下にある遺伝子が導入されたES細胞塊(細胞数約10〜約15個)を入れ、さらに上記8細胞期胚または桑実胚(好ましくは2個)を入れて一晩共培養する。得られた桑実胚または胚盤胞を上記と同様にして受胚用雌非ヒト哺乳動物の子宮内に移植する。
移植胚が首尾よく着床し受胚雌が妊娠すれば、自然分娩もしくは帝王切開によりキメラ非ヒト哺乳動物が得られる。自然分娩した受胚雌にはそのまま哺乳を継続させればよく、帝王切開により出産した場合は、産仔は別途用意した哺乳用雌(通常に交配・分娩した雌非ヒト哺乳動物)に哺乳させることができる。
生殖系列キメラの選択は、まずES細胞の雌雄が予め判別されている場合はES細胞と同じ性別のキメラ動物を選択し(通常は雄性ES細胞が使用されるので、雄キメラ動物が選択される)、次いで毛色等の表現型からES細胞の寄与率が高いキメラ動物(例えば、50%以上)を選択する。例えば、129系マウス由来の雄性ES細胞であるD3細胞とC57B/6マウス由来の宿主胚とのキメラ胚から得られるキメラマウスの場合、アグーチの毛色の占める割合の高い雄マウスを選択するのが好ましい。選択されたキメラ非ヒト哺乳動物が生殖系列キメラであるか否かの確認は、適当な系統の同種動物との交雑により得られるF1動物の表現型に基づいて行なうことができる。例えば、上記キメラマウスの場合、アグーチはブラックに対して優性であるので、雌C57B/6マウスと交雑すると、選択された雄マウスが生殖系列キメラであれば得られるF1の毛色はアグーチとなる。
上記のようにして得られる本発明のFREを含むプロモーターの制御下にある遺伝子が導入された生殖系列キメラ非ヒト哺乳動物(ファウンダー)は、通常、相同染色体の一方にのみ導入DNAを有するヘテロ接合体として得られる。また、個々のファウンダーは相同組換えによらない限り異なる染色体上にランダムに挿入される。相同染色体の両方に本発明のFREを含むプロモーターの制御下にある遺伝子を有するホモ接合体を得るためには、上記のようにして得られるF1動物のうち相同染色体の一方にのみ導入DNAを有するヘテロ接合体の兄妹同士を交雑すればよい。ヘテロ接合体の選択は、例えばF1動物の尾部より分離抽出した染色体DNAをサザンハイブリダイゼーションまたはPCR法によりスクリーニングすることにより検定することができる。1遺伝子座にのみ導入DNAが組み込まれていれば、得られるF2動物の1/4がホモ接合体となる。
本発明のFRE−Tg動物は、本発明のFREを含むプロモーターの制御下にある遺伝子(例えば、SREBP−1c遺伝子)の糖(特に果糖)負荷に対する発現応答を調べるのに有用である。導入遺伝子に用いられる構造遺伝子が宿主動物に内在しないレポーター遺伝子である場合は問題ないが、例えば、構造遺伝子としてSREBP−1c遺伝子を使用する場合(特に、本発明のFREをプロモーター領域に含むSREBP−1c遺伝子を「本発明のFREを含むプロモーターの制御下にある遺伝子」として使用する場合)は、内因性SREBP−1c遺伝子を不活性化することが望ましい。内因性SREBP−1c遺伝子が不活性化された本発明のFRE−Tg動物(SREBP−1c遺伝子ノックアウト動物)は、公知の方法(例えば、Lee S.S.ら、モレキュラー・アンド・セルーラー・バイオロジー(Mol. Cell. Biol.)、第15巻、第3012頁、1995年を参照)により選択されるSREBP−1c遺伝子がノックアウトされたES細胞、あるいは該ES細胞から上記の方法に従って作出されるSREBP−1cノックアウト動物由来の初期胚もしくはES細胞に、上記の方法に従って遺伝子導入することによって得ることができる。SREBP−1c遺伝子をノックアウトする具体的な手段としては、対象非ヒト哺乳動物由来のSREBP−1c遺伝子を常法に従って単離し、例えば、そのエキソン部分に他のDNA断片(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子、lacZ(β−ガラクトシダーゼ遺伝子)、cat(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子)等のレポーター遺伝子等)を挿入することによりエキソンの機能を破壊するか(この場合、前述のように導入DNAの組込みは薬剤耐性やレポーター遺伝子の発現を指標として選択され得る)、Cre-loxP系やFlp-frt系を用いてSREBP−1c遺伝子の全部または一部を切り出して該遺伝子を欠失させるか、蛋白質コード領域内へ終止コドンを挿入して完全な蛋白質の翻訳を不能にするか、あるいは転写領域内部へ遺伝子の転写を終結させるDNA配列(例えば、polyA付加シグナルなど)を挿入して、完全なメッセンジャーRNAの合成を不能にすることによって、結果的に遺伝子を不活性化するように構築したDNA配列を有するDNA鎖(以下、ターゲッティングベクターと略記する)を、相同組換えにより対象非ヒト哺乳動物のSREBP−1c遺伝子座に組み込ませる方法が好ましく挙げられる。
通常、哺乳動物における遺伝子組換えは大部分が非相同的であり、導入されたDNAは染色体の任意の位置にランダムに挿入される。したがって、薬剤耐性やレポーター遺伝子の発現を検出するなどの選択によっては相同組換えにより標的となる内因性SREBP−1c遺伝子にターゲッティングされたクローンのみを効率よく選択することができず、選択されたすべてのクローンについてサザン法もしくはPCR法による組み込み部位の確認が必要となる。そこで、ターゲッティングベクターの標的配列に相同な領域の外側に、例えば、ガンシクロビル感受性を付与する単純ヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子を連結しておけば、該ベクターがランダムに挿入された細胞はHSV-tk遺伝子を有するため、ガンシクロビル含有培地では生育できないが、相同組換えにより内因性SREBP−1c遺伝子座にターゲッティングされた細胞はHSV-tk遺伝子を有しないので、ガンシクロビル耐性となり選択される。あるいは、HSV-tk遺伝子の代わりに、例えばジフテリア毒素遺伝子を連結すれば、該ベクターがランダムに挿入された細胞は自身の産生する該毒素によって死滅するので、薬剤非存在下で相同組換え体を選択することもできる。
あるいは、内因性SREBP−1c遺伝子の発現が不活性化された本発明のトランスジェニック動物は、相同組換えを用いた遺伝子ターゲッティングにより、本発明のFREをプロモーター領域に含むSREBP−1c遺伝子で内因性SREBP−1c遺伝子を置換したノックイン動物であってもよい。即ち、本発明はまた、本発明のFREをプロモーター領域に有しない(例えば、本発明の変異FREをプロモーター領域に含む)内因性SREBP−1c遺伝子が、本発明のFREを含むプロモーターの制御下にあるSREBP−1c遺伝子で置換されたFRE−Tg動物を提供する。
本発明のFREをプロモーター領域に有しない内因性SREBP−1c遺伝子を有する宿主非ヒト動物としては、例えば、本発明の変異FREをプロモーター領域に含む非ヒト動物が挙げられ、具体的には、糖負荷(特に果糖負荷)に応答してSREBP−1c遺伝子の発現が増加しない、もしくは血清脂質上昇などの代謝障害の傾向を示さない非ヒト動物系統(例えばマウスの場合、C57BL、DBA系マウス)が挙げられる。
ノックイン動物はノックアウト動物と基本的に同様の手法に従って作製することができる。本発明のFREを含むプロモーターの制御下にあるSREBP−1c遺伝子を含むターゲティングベクターを、上記の方法に従って対象非ヒト哺乳動物由来のES細胞に導入し、相同組換えにより該動物の内因性SREBP−1c遺伝子座に本発明のFREを含むプロモーターの制御下にあるSREBP−1c遺伝子が組み込まれたES細胞クローンを選択すればよい。クローン選択はPCR法やサザン法を用いて行なうこともできるが、例えば、ターゲッティングベクターのSREBP−1c遺伝子の3’非翻訳領域などにネオマイシン耐性遺伝子等のポジティブ選択用マーカー遺伝子を挿入し、さらに標的配列と相同な領域の外側にHSV-tk遺伝子やジフテリア毒素遺伝子等のネガティブ選択用マーカー遺伝子を挿入すれば、薬剤耐性を指標にして相同組換え体を選択することができる。
また、ポジティブ選択用マーカー遺伝子が導入されたSREBP−1cの発現を妨げる場合があるので、ポジティブ選択用マーカー遺伝子の両端にloxP配列もしくはfrt配列を配したターゲッティングベクターを用い、相同組換え体選択後の適当な時期にCreもしくはFlpリコンビナーゼまたは該リコンビナーゼ発現ベクター(例:アデノウイルスベクターなど)を作用させることにより、ポジティブ選択用マーカー遺伝子を切り出すことが好ましい。あるいは、Cre-loxP系やFlp-frt系を用いる代わりに、ポジティブ選択用マーカー遺伝子の両端に標的配列と相同な配列を同方向に繰り返して配置し、該配列間での遺伝子内組換えを利用してポジティブ選択用マーカー遺伝子を切り出してもよい。
このようにして得られるプロモーターが置換されたSREBP−1c遺伝子を有する本発明のトランスジェニック動物(以下、「本発明のFRE−KI動物」という)は、SREBP−1cプロモーター領域に本発明の果糖応答エレメントを有する。後記実施例に示される通り、DBA/2マウスの肝細胞では、空腹時、食後に関係なく、本発明のFREに結合し得る本発明の転写調節因子の発現が抑制されている。したがって、本発明のFRE−KI動物における本発明の転写調節因子の発現を調べることにより、該転写調節因子の発現における動物系統間の差を解明することができ、ひいては該転写調節因子及びSREBP−1c遺伝子を含めた糖・脂質代謝関連遺伝子の発現制御メカニズムの全容を明らかにすることができるかもしれない。
上記と同様の目的のために、本発明は、本発明の変異FREを含むプロモーターの制御下にある遺伝子が導入された非ヒトトランスジェニック動物、あるいは本発明のFREをプロモーター領域に含む内因性SREBP−1c遺伝子が、本発明のFREをプロモーター領域に有しないSREBP−1c遺伝子(例えば、本発明の変異FREを含むプロモーターの制御下にあるSREBP−1c遺伝子)で置換されたトランスジェニック動物を提供する。
本発明の変異FREを含むプロモーターの制御下にある遺伝子が導入された非ヒトトランスジェニック動物は、本発明のFREの代わりに本発明の変異FREを用いる以外は、上記の本発明のFRE−Tg動物と同様にして作製することができる。
本発明のFREをプロモーター領域に含む内因性SREBP−1c遺伝子を有する宿主非ヒト動物としては、例えば、糖負荷(特に果糖負荷)に応答してSREBP−1c遺伝子の発現が増加する、もしくは血清脂質上昇などの代謝障害の傾向を示す非ヒト動物系統(例えばマウスの場合、CBA、C3H系マウス)が挙げられる。
ノックイン動物の作製は、上記の本発明のFRE−KI動物と同様にして行うことができる。
本発明はまた、本発明の転写調節因子をコードするDNAが導入された非ヒトトランスジェニック動物、及び該転写調節因子をコードするDNAが不活性化された非ヒト動物(ノックアウト動物)を提供する。
かかるトランスジェニック動物及びノックアウト動物は、上記の本発明のFRE−Tg動物及びSREBP−1c遺伝子ノックアウト動物の場合と同様の方法により作製することができる。
本発明の転写調節因子をコードするDNA(正常DNA)が導入された非ヒトトランスジェニック動物(以下、「本発明のTF−Tg動物」という)は、本発明の転写調節因子が高発現させられており、内在性の正常DNAの機能を促進することにより最終的に該転写調節因子の機能亢進症を発症することがあり、その病態モデル動物として利用することができる。例えば、本発明の正常DNA転移動物を用いて、本発明の転写調節因子の機能亢進症や、該転写調節因子が関連する疾患の病態機序の解明及びこれらの疾患の治療方法の検討を行うことが可能である。
また、本発明のTF−Tg動物は、本発明の転写調節因子の増加症状を有することから、該転写調節因子の機能亢進に関連する疾患、例えば、代謝障害、特に糖・脂質代謝障害(例:高TG血症、高LDL−C血症、低HDL−C血症、肥満、耐糖能異常、空腹時血糖障害、高インスリン血症、高血圧、アルブミン尿症等)などの疾患に対する予防・治療物質のスクリーニング試験にも利用可能である。
一方、異常な本発明の転写調節因子(即ち、転写調節機能を発揮しない本発明の転写調節因子の変異タンパク質)をコードするDNA(異常DNA)を有する非ヒト哺乳動物(以下、「本発明の異常TF−Tg動物」という)は、該異常DNAが高発現させられており、内在性の正常DNAの機能(例えば、SREBP−1c遺伝子等の転写促進活性)を阻害することにより、最終的に本発明の転写調節因子の機能不活性型不応症となることがあり、その病態モデル動物として利用することができる。例えば、本発明の異常TF−Tg動物を用いて、該転写調節因子の機能不活性型不応症の病態機序の解明及びこの不応症の治療方法の検討を行なうことが可能である。
また、具体的な利用可能性としては、本発明の異常TF−Tg動物は、本発明の転写調節因子の機能不活性型不応症における異常転写調節因子による正常転写調節因子の機能阻害(dominant negative作用)を解明するモデルとなる。
また、本発明の異常TF−Tg動物は、本発明の転写調節因子の機能阻害症状を有することから、該転写調節因子の機能不活性型不応症に対する治療剤スクリーニング試験にも利用可能である。
さらに、本発明のTF−Tg動物を用いて、本発明の転写調節因子の機能不活性型不応症を含む、該転写調節因子に関連する疾患の予防・治療剤の開発を行なうために、上述の検査法及び定量法などを用いて、有効で迅速な該疾患予防・治療剤のスクリーニング法を提供することが可能となる。また、本発明のTF−Tg動物または本発明の転写調節因子をコードするDNA発現ベクターを用いて、該転写調節因子が関連する疾患の遺伝子治療法を検討、開発することが可能である。
本発明の転写調節因子をコードするDNAが不活性化された非ヒト動物(以下、「本発明のTF−KO動物」という)は、本発明の転写調節因子をコードするDNAの欠損や損傷などに起因する疾病などに対して治療・予防効果を有する化合物のスクリーニングに用いることができる。
すなわち、本発明は、本発明のTF−KO動物に試験化合物を投与し、該動物の変化を観察・測定することを特徴とする、本発明の転写調節因子をコードするDNAの欠損や損傷などに起因する疾病に対して治療・予防効果を有する化合物またはその塩のスクリーニング方法を提供する。
試験化合物としては、例えば、ペプチド、蛋白質、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などがあげられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。
具体的には、本発明のTF−KO動物に試験化合物で投与し、該動物の各器官、組織、疾病の症状などの変化を試験化合物非投与の対照動物と比較することによって、試験化合物の治療・予防効果を試験することができる。
TF−KO動物への試験化合物の投与方法としては、例えば、経口投与、静脈注射などが用いられ、TF−KO動物の症状、試験化合物の性質などにあわせて適宜選択することができる。また、試験化合物の投与量は、投与方法、試験化合物の性質などにあわせて適宜選択することができる。
該スクリーニング方法において、TF−KO動物に試験化合物を投与した場合、例えば、TF−KO動物の症状が約10%以上、好ましくは約30%以上、より好ましくは約50%以上改善した場合、該試験化合物を上記の疾患に対して治療・予防効果を有する化合物として選択することができる。
該スクリーニング方法を用いて得られる化合物は、上記した試験化合物から選ばれた化合物であり、本発明の転写調節因子の欠損や損傷などによって引き起こされる疾患に対する安全で低毒性な治療・予防剤などの医薬として使用することができる。さらに、上記スクリーニングで得られた化合物から誘導される化合物も同様に用いることができる。
該スクリーニング方法で得られた化合物は塩を形成していてもよく、該化合物の塩としては、酸(例:無機酸、有機酸など)や塩基(例:アルカリ金属など)などとの生理学的に許容される塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸など)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸など)との塩などが用いられる。
該スクリーニング方法で得られた化合物またはその塩を含有する医薬は、前記した本発明の転写調節因子の阻害物質と同様にして製剤化し、哺乳動物に投与することができる。
本発明は、本発明のTF−KO動物に試験化合物を投与し、レポーター遺伝子の発現を検出することを特徴とする本発明の転写調節因子遺伝子プロモーターの活性を促進または阻害する化合物またはその塩のスクリーニング方法を提供する。
上記スクリーニング方法において、本発明のTF−KO動物としては、本発明の転写調節因子遺伝子がレポーター遺伝子を導入することにより不活性化され、該レポーター遺伝子が本発明の転写調節因子遺伝子プロモーターの制御下で発現しうるものが用いられる。
試験化合物としては、前記と同様のものがあげられる。
レポーター遺伝子としては、例えば、β−ガラクトシダーゼ遺伝子(lacZ)、可溶性アルカリホスファターゼ遺伝子またはルシフェラーゼ遺伝子などが好適である。
本発明の転写調節因子遺伝子がレポーター遺伝子で置換された本発明のTF−KO動物では、レポーター遺伝子が本発明の転写調節因子遺伝子プロモーターの支配下に存在するので、レポーター遺伝子がコードする物質の発現をトレースすることにより、プロモーターの活性を検出することができる。
例えば、本発明の転写調節因子をコードするDNA領域の一部を大腸菌由来のβ−ガラクトシダーゼ遺伝子(lacZ)で置換している場合、本来、本発明の転写調節因子の発現する組織で、本発明の転写調節因子の代わりにβ−ガラクトシダーゼが発現する。従って、例えば、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−ガラクトピラノシド(X−gal)のようなβ−ガラクトシダーゼの基質となる試薬を用いて染色することにより、簡便に本発明の転写調節因子の動物生体内における発現状態を観察することができる。具体的には、本発明の転写調節因子欠損マウスまたはその組織切片をグルタルアルデヒドなどで固定し、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)で洗浄後、X−galを含む染色液で、室温または37℃付近で、約30分ないし1時間反応させた後、組織標本を1mM EDTA/PBS溶液で洗浄することによって、β−ガラクトシダーゼ反応を停止させ、呈色を観察すればよい。また、常法に従い、lacZをコードするmRNAを検出してもよい。
上記スクリーニング方法を用いて得られる化合物またはその塩は、上記した試験化合物から選ばれた化合物であり、本発明の転写調節因子遺伝子プロモーター活性を促進または阻害する化合物である。
該スクリーニング方法で得られた化合物は塩を形成していてもよく、該化合物の塩としては、酸(例:無機酸など)や塩基(例:有機酸など)などとの生理学的に許容される塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸など)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸など)との塩などが用いられる。
本発明の転写調節因子遺伝子プロモーター活性を促進する化合物またはその塩は、本発明の転写調節因子の発現を促進し、本発明の転写調節因子の機能を促進することができるので、例えば、本発明の転写調節因子の機能不全に関連する疾患の予防・治療剤などの医薬として使用することができる。
一方、本発明の転写調節因子遺伝子プロモーター活性を阻害する化合物またはその塩は、本発明の転写調節因子の発現を阻害し、本発明の転写調節因子の機能を阻害することができるので、例えば、本発明の転写調節因子の発現過多に関連する疾患などの予防・治療剤などの医薬として有用である。具体的には、代謝障害、特に糖・脂質代謝障害(例:高TG血症、高LDL−C血症、低HDL−C血症、肥満、耐糖能異常、空腹時血糖障害、高インスリン血症、高血圧、アルブミン尿症等)などの疾患の予防・治療剤などの低毒性で安全な医薬として使用することができる。
さらに、上記スクリーニングで得られた化合物から誘導される化合物も同様に用いることができる。
該スクリーニング方法で得られた化合物またはその塩を含有する医薬は、前記した本発明の転写調節因子の阻害物質と同様にして製剤化し、哺乳動物に投与することができる。
このように、本発明のTF−KO動物は、本発明の転写調節因子遺伝子プロモーターの活性を促進または阻害する化合物またはその塩をスクリーニングする上で極めて有用であり、本発明の転写調節因子をコードするDNAの発現不全に起因する各種疾患の原因究明または予防・治療剤の開発に大きく貢献することができる。
また、本発明の転写調節因子遺伝子のプロモーター領域を含有するDNAを使って、その下流に種々の蛋白質をコードする遺伝子を連結し、これを動物の卵細胞に注入していわゆるトランスジェニック動物(遺伝子移入動物)を作製すれば、組織及び/又は時期特異的に該蛋白質を合成させ、その生体での作用を検討することも可能となる。さらに上記プロモーター部分に適当なレポーター遺伝子を結合させ、これが発現するような細胞株を樹立すれば、本発明の転写調節因子そのものの体内での産生能力を特異的に促進もしくは抑制する作用を持つ低分子化合物の探索系として使用できる。
本明細書及び図面において、塩基やアミノ酸などを略号で表示する場合、IUPAC−IUB Commission on Biochemical Nomenclature による略号あるいは当該分野における慣用略号に基づくものであり、その例を下記する。またアミノ酸に関し光学異性体があり得る場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
DNA :デオキシリボ核酸
cDNA :相補的デオキシリボ核酸
A :アデニン
T :チミン
G :グアニン
C :シトシン
RNA :リボ核酸
mRNA :メッセンジャーリボ核酸
dATP :デオキシアデノシン三リン酸
dTTP :デオキシチミジン三リン酸
dGTP :デオキシグアノシン三リン酸
dCTP :デオキシシチジン三リン酸
ATP :アデノシン三リン酸
EDTA :エチレンジアミン四酢酸
SDS :ドデシル硫酸ナトリウム
Gly :グリシン
Ala :アラニン
Val :バリン
Leu :ロイシン
Ile :イソロイシン
Ser :セリン
Thr :スレオニン
Cys :システイン
Met :メチオニン
Glu :グルタミン酸
Asp :アスパラギン酸
Lys :リジン
Arg :アルギニン
His :ヒスチジン
Phe :フェニルアラニン
Tyr :チロシン
Trp :トリプトファン
Pro :プロリン
Asn :アスパラギン
Gln :グルタミン
pGlu :ピログルタミン酸
* :終止コドンに対応する
Me :メチル基
Et :エチル基
Bu :ブチル基
Ph :フェニル基
TC :チアゾリジン−4(R)−カルボキサミド基
また、本明細書中で繁用される置換基、保護基及び試薬を下記の記号で表記
する。
Tos :p−トルエンスルフォニル
CHO :ホルミル
Bzl :ベンジル
Cl2Bzl :2,6−ジクロロベンジル
Bom :ベンジルオキシメチル
Z :ベンジルオキシカルボニル
Cl−Z :2−クロロベンジルオキシカルボニル
Br−Z :2−ブロモベンジルオキシカルボニル
Boc :t−ブトキシカルボニル
DNP :ジニトロフェノール
Trt :トリチル
Bum :t−ブトキシメチル
Fmoc :N−9−フルオレニルメトキシカルボニル
HOBt :1−ヒドロキシベンズトリアゾール
HOOBt :3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−
1,2,3−ベンゾトリアジン
HONB :1-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド
DCC :N,N'−ジシクロヘキシルカルボジイミド
本明細書の配列表の配列番号は、以下の配列を示す。
[配列番号1]
CBA系マウス由来のSREBP−1cプロモーター領域(推定の転写開始点の直前から574塩基上流まで)の塩基配列を示す。
[配列番号2]
マウス由来NBPをコードする塩基配列を示す。
[配列番号3]
マウス由来NBPのアミノ酸配列を示す。
[配列番号4]
マウス由来RBMX類似蛋白質をコードする塩基配列を示す。
[配列番号5]
マウス由来RBMX類似蛋白質のアミノ酸配列を示す。
[配列番号6]
CBA系マウス由来のSREBP−1cプロモーター領域(TATA様配列から約1.2kb上流まで)の塩基配列を示す。
[配列番号7]
SREBP−1cプロモーター領域(TATA様配列から約1.2kb上流まで)を増幅するためのプライマーとして設計されたオリゴヌクレオチドの塩基配列を示す。
[配列番号8]
SREBP−1cプロモーター領域(TATA様配列から約1.2kb上流まで)を増幅するためのプライマーとして設計されたオリゴヌクレオチドの塩基配列を示す。
[配列番号9]
CBA/JN CrjマウスのSREBP−1cプロモーター中の果糖応答エレメントに相当するオリゴヌクレオチドの塩基配列を示す。
[配列番号10]
DBA/2 JN CrjマウスのSREBP−1cプロモーター中の変異果糖応答エレメントに相当するオリゴヌクレオチドの塩基配列を示す。
[配列番号11]
CBA/JN CrjマウスのSREBP−1cプロモーター中の果糖応答エレメントのセンス鎖に相当するオリゴヌクレオチドの塩基配列を示す。
[配列番号12]
CBA/JN CrjマウスのSREBP−1cプロモーター中の果糖応答エレメントのアンチセンス鎖に相当するオリゴヌクレオチドの塩基配列を示す。
[配列番号13]
ヒト由来のSREBP−1cプロモーター領域[GenBankに登録されるヒト第17番染色体(登録番号:NT_010718)の塩基配列中、塩基番号16566061-16566560で示される塩基配列の相補鎖配列に相当する]の塩基配列を示す。
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲はそれらによって何ら限定されるものではない。
尚、すべての材料は試薬グレードで、特にことわらない限りナカライテスクまたはシグマケミカルより購入したものを用いた。また、特にことわらない限り、数値データは平均値±標準偏差で表す。Tukey-Welshの漸減多重比較を用いて各群間の有意差を決定した。P<0.05を有意とみなした。
食餌に対する各種マウス系統の代謝応答の比較
5系統[BALB/c Cr Slc(日本SLCより購入);C3H/HeJ(チャールズ・リバー・ジャパンより購入);C57BL/6J Jcl、DBA/2N Crj及びCBA/JN Crj(以上日本クレアより購入)]の異なる近交系マウス(5週齢、雄性)を、12時間明/暗サイクルに制御された飼育室に入れ、実験室食と水を自由摂取させた。
動物を2群(普通食群及び高果糖食群)に分け、8週間並行して給餌した。普通食(オリエンタル酵母)は58%炭水化物(果糖を含まず)、12%脂質及び30%蛋白質からなり、高果糖食(オリエンタル酵母)は67%炭水化物(うち98%が果糖)、13%脂質及び20%蛋白質(%値はカロリー%を示す)を含んでいた。
実験前日、午後8時にすべての動物から食餌を取り去った。次に、動物を以下のように4群(各群4−8匹)に分けた:1)再給餌なしの普通食(対照−絶食;CF)、2)再給餌ありの普通食(対照−再給餌;CR)、3)再給餌なしの高果糖食(果糖−絶食;FF)、再給餌ありの高果糖食(果糖−再給餌;FR)。CR群及びFR群のマウスは、午前6時〜午前8時の間暗所で再給餌した。CF群及びFF群は絶食を続けた。各マウスの体重(BW)を測定した後、午前10時に麻酔して切開、肝臓及び精巣上体脂肪を切除し、精巣上体脂肪の重量(FW)を測定した。また、血糖(BS)、トリグリセリド(TG)、総コレステロール(CHO)、インスリン(INS)についての各種血液テストを常法に従って実施した。CR群の結果を表1に、FR群の結果を表2に示す。
〔表1〕

マウス BW FW BS TG CHO INS
系統 (g) (g) (mg/dl) (mg/dl) (mg/dl) (ng/ml)
C3H/HeJ 23±2 0.37±0.11 288±31 154±12 90±7 0.3±0.01
C57BL/6J 23±0 0.3 ±0 302± 1 103± 4 63±1 0.1±0
BALB/c Cr SLC 21±2 0.53±0.01 269± 7 106±15 240±7 1.3±0.3
CBA/JN Crj 28±2 0.75±0.07 252± 8 262±35 77±2 1.2±0.4
DBA/2JN Crj 23±1 0.31±0.06 223±22 118± 9 91±3 0.1±0
〔表2〕

マウス BW FW BS TG CHO INS
系統 (g) (g) (mg/dl) (mg/dl) (mg/dl) (ng/ml)
C3H/HeJ 33±1a 1.06±0.12b 328±30 133±16 153±16 2.3±0b
C57BL/6J 23±0 0.5 ±0b 301±30 101± 1 113± 3a 0.1±0
BALB/c Cr SLC 27±1 0.77±0.3 317± 7a 153±28 316± 7a 2.4±0b
CBA/JN Crj 31±1 1.41±0.12a 331±19a 392±43a 113± 7b 6.5±0.2b
DBA/2JN Crj 25±1 0.5 ±0.13 242±15 160±27 110± 4 0.2±0
a:p<0.05 vs CR;b:p<0.01 vs CR
CBA/JN Crjマウスでは、高果糖食により精巣上体脂肪重量、血糖値、TG、CHO、INSとも普通食に比べて有意に上昇していたのに対し、DBA/2JN Crjマウスでは普通食と高果糖食との間に有意な差は認められなかった。
各種マウス系統の食餌に対する代謝応答とSREBP-1cプロモーター配列との相関
5系統[C3H/He Slc(日本SLCより購入);C57BL/6N Jcl、DBA/1JN Crj、DBA/2N Crj及びCBA/JN Crj(以上日本クレアより購入)]の異なる近交系マウス(5週齢、雄性)を、実施例1と同様の給餌方法(各群4-6匹)で飼育した後、午前10時に麻酔、肝臓を切除し、直ちに液体窒素中で凍結して-80℃で保存した。また、常法に従って血清トリグリセリド(TG)濃度を測定した。
一方、凍結肝臓からゲノムDNAをDNeasy kit(QIEGEN)を用いてそれぞれ単離した。公知のマウスSREBP-1cプロモーター配列を基にプライマー(センス:5'-GCTGGACAGAACGGTGTCAT-3'(配列番号7);アンチセンス:5'- TAAGAGCTCGGTACCTCCCCTAGGGC-3'(配列番号8))を合成し、各ゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、約1.2kbのSREBP-1cプロモーター断片を増幅した。増幅された断片をTA-Cloning vector(Invitogen)にサブクローニングした。各インサートの塩基配列をDNA自動シークエンサー DSQ 1000( 島津製作所)を用いて決定した。その結果、C3H/He Slc及びCBA/JN CrjマウスのSREBP-1cプロモーターは配列番号6に表される塩基配列を有しており、DBA/2N Crj、DBA/1JN Crj及びC57BL/6N Jclマウスでは、配列番号6に表される塩基配列中塩基番号749(配列番号1に表される塩基配列中塩基番号112)で示されるグアニン(G112)がアデニンに置換されていることが判明した。食餌に対するマウスの代謝応答と当該塩基置換の関係を調べたところ、G112を含むSREBP-1cプロモーターを有するC3H/He Slc及びCBA/JN Crjマウスでは、空腹時(FF群)と比較して食後(FR群)の血清TG濃度が顕著に上昇するのに対し、G112がアデニンに置換されたSREBP-1cプロモーターを有するDBA/2N Crj、DBA/1JN Crj及びC57BL/6N Jclマウスでは、空腹時(FF群)と食後(FR群)との間で血中TG濃度に有意な差はみられなかった(表3)
〔表3〕

マウス系統 112位の塩基 血清TG濃度(mg/dl)
(配列番号1) 空腹時(FF) 食後(FR)
C3H/He Slc G 80.3±22.5 181 ±19.9*
CBA/JN Crj G 142 ±22.7 419 ±17.8*
DBA/2N Crj A 108 ±63.2 126 ±56.2
DBA/1JN Crj A 67.5±20.6 92.3±26.3
C57BL/6N Jcl A 54 ±13.9 56.5±10.9
*:p<0.001 vs FF
食餌に対する脂質代謝関連遺伝子発現応答におけるマウス系統間差
DBA/2N Crj及びCBA/JN Crjマウス(5週齢、雄性;日本クレアより購入)を実施例1と同様の給餌方法(各群4-6匹)で飼育した後、午前10時に麻酔、肝臓を切除し、直ちに液体窒素中で凍結して-80℃で保存した。また、常法に従って血清トリグリセリド(TG)濃度を測定した。
凍結肝臓から全RNAをTRIzol試薬(GIBCO-BRL Life Technologies, Inc.)を用いて単離した。RNAをホルムアミド含有1%アガロースゲルに流しHybond-Nメンブラン(Amersham Pharmacia Biotech)に転写した。SREBP-1、PPAR-α及び脂肪酸合成酵素(FAS)mRNAに対するプローブをAm J Physiol Endocrinol Metab 282:E1180-E1190,2002に記載した方法に従って調製した。ラベリングキット(Takara)を用いて、プローブを[α-32P]dCTP(New England Nuclear Research Products)で標識した。メンブランをPerfecthyb Buffer(Toyobo)中で放射性標識したプローブとハイブリダイズさせ、1 x SSC, 0.1% SDS中、68℃で1時間かけて洗浄した。ブロットをKodak Biomax MR(Eastman Kodak)フィルムに-80℃で露出した。シグナルをデンシトメーターで定量し、ローディング差は18SリボソームRNAに対するプローブを用いて得られるシグナルに対して標準化した。結果を図1に示す。
DBA/2 Crjマウスでは4群(CF、CR、FF、FR)のいずれの間でも血清TG濃度に有意差はみられなかったのに対し、CBA/JN Crjマウスでは普通食、高果糖食とも空腹時(CF、FF)に比べて食後(CR、FR)で血清TG濃度が有意に上昇し、また、高果糖食(FR)の方が普通食(CR)に比べてよりTG濃度を上昇させた。飢餓状態では普通食(CF)と高果糖食(FF)の間で有意差は見られなかった(図1A)。SREBP-1c mRNAの発現量は血清TG濃度とよく相関していた(図1B)。また、SREBP-1cにより発現制御されることが知られているFASもSREBP-1cと同様の発現挙動を示した(図1D)。一方、脂肪分解系酵素の発現を制御するPPARα mRNAの発現はDBA/2 CrjとCBA/JN Crjとの間で差はなく、いずれも空腹時に比べて食後に発現の低下がみられた(図1C)。
初代肝細胞の糖刺激に対する脂質代謝関連遺伝子発現応答におけるマウス系統間差
実施例1と同様に飼育したCF群及びFR群のマウス(DBA/2 Crj及びCBA/JN Crj(日本クレアより購入))から、コラゲナーゼ法を一部改変して肝細胞を単離した。動物を麻酔し、各肝臓にKrebs-Ringer緩衝液(KRB)を、門脈を通じてin situで灌流させた。次いで、肝臓にコラゲナーゼ(Sigma-Aldrich)含有KRB 100mlを灌流させた。乖離した細胞を振盪して分散させた後、等容の10%(v/v) ウシ胎仔血清(FCS)、100μg/mlストレプトマイシン及び100U/mlペニシリン含有氷冷DMEM(GIBCO-BRL Life Technology)中、4℃でゲージを通して濾過した。
細胞を沈殿させ、同じ培地を用いて4℃で2回洗浄した。8×106細胞のアリコートを、10%(v/v) FCS、1nMインスリン、100nMトリヨードサイロニン、100nMデキサメタゾン、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを補充したウイリアムのE培地(Shigma-Aldrich)中、ラットコラーゲンでコーティングした6穴プレート上に播いた。9% CO2中、37℃で3時間インキュベーション後、細胞をPBSで2回洗浄し、1nMインスリン、100nMトリヨードサイロニン、100nMデキサメタゾン、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを補充したウイリアムのE培地でインキュベーションした。16時間のインキュベーション後、細胞を5mMブドウ糖、5mM果糖または5mMブドウ糖+100nMインスリンを補充したウィリアムのE培地に移した。一定時間インキュベーション後細胞を回収し、実施例3と同様にして全RNAの抽出及びSREBP-1cまたはFAS cDNAプローブを用いたノーザンハイブリダイゼーションを実施した。結果を図2に示す。
初代肝細胞を用いたインビトロの実験でも、CAB/JN Crjマウスでは果糖の単独刺激によりSREBP-1c(図2A)及びFAS(図2B)mRNAの発現がインスリン刺激時と同レベルにまで増強されたが、DBA/2 JN Crjマウスでは各刺激の間でSREBP-1c mRNA発現に有意差はみられず、FAS mRNA発現もブドウ糖刺激と果糖刺激との間で差はみられなかった。尚、FAS mRNAの発現はDBA/2 JN Crjマウスでもインスリン刺激により上昇することから、インスリンに対するFAS発現応答の制御にはSREBP-1c以外の調節因子が関与していることが示唆される。
SREBP-1cプロモーター中の果糖応答エレメントと結合する転写調節因子の同定
実施例1と同様に飼育したCF群及びFR群のマウス(DBA/2 Crj及びCBA/JN Crj(日本クレアより購入))から肝臓を切除し、肝細胞の核蛋白質抽出液をGorskiら(Cell 47:767-776,1986)の方法に従って単離した。核抽出液を20mM HEPES(pH7.9)、330 mM NaCl、1.5 mM MgCl2、0.2 mM EDTA、25%グリセロール、0.5 mMジチオスレイトール及び0.2 mM PMSF中に懸濁し、アリコートを液体窒素中で凍結させて-80℃で保存した。一方、CBA/JN CrjマウスのSREBP-1cプロモーター中のG112とその近傍の塩基配列(5'-CTAAAGGCAGCTATTGGCCT-3';配列番号9)及び及びDBA/2 JN CrjマウスのSREBP-1cプロモーター中の対応する領域の塩基配列(5'-CTAAAGGCAACTATTGGCCT-3';配列番号10)からなる2種類の放射性標識化2本鎖オリゴヌクレオチド(それぞれCBAプローブ及びDBAプローブという)を合成した。これらを用いて電気泳動移動度シフトアッセイを行った。核抽出液10μg、ポリ(dI-dC) 1μg、10mM HEPES(pH7.9)、60mM KCL、1mM EDTA、7%グリセロール及び100,000cpm標識プローブを混合して室温で20分間インキュベーションし、蛋白質−DNA結合反応を行わせた。インキュベーション後、試料を0.25×トリス−ホウ酸−EDTA(TBE)バッファー中の6%ポリアクリルアミドゲルにローディングし、電圧150Vで泳動した。泳動後ゲルを乾燥させてフィルムに露出した。非標識オリゴヌクレオチド(cold probe)を用いた競合アッセイも実施し、cold probe存在下で消失したバンドをプローブ特異的に結合した転写調節因子のバンドと同定した。結果を図3に示す。
FR群のCBA/JN Crjマウス由来の核抽出液をCBAプローブと反応させた場合に観察されるバンド(図3A;矢印)が、DBAプローブと反応させた場合にはみられなかった。したがって、CBA/JN CrjマウスのSREBP-1cプロモーター中のG112とその近傍の塩基配列に特異的に結合する転写調節因子の存在が確認された。
また、DBA/2 JN Crjマウス由来の核抽出液をCBAプローブと反応させた場合、CBA/JN Crjマウス由来の核抽出液をCBAプローブと反応させた場合に観察されるバンド(図3B;矢印)のシグナル強度が弱いことから、DBA/2 JN Crjマウスにおいて高果糖食負荷に応答してSREBP-1cの発現が増加しないのには、プロモーターの変異だけでなく、結合蛋白質の発現不全も影響している可能性が示唆される。
さらに、CF群のCBA/JN Crjマウス由来の核抽出液をCBAプローブと反応させた場合、FR群のCBA/JN Crjマウス由来の核抽出液をCBAプローブと反応させた場合に観察されるバンド(図3C;矢印)のシグナルが極めて弱く、各群におけるSREBP-1c mRNAの発現とよく相関していた。したがって、CBA/JN Crjマウスにおける食餌に対するSREBP-1c発現応答は、SREBP-1cプロモーター中の果糖応答エレメントに結合する転写調節因子の発現により制御されていることが示唆された。
SREBP-1cプロモーター中の果糖応答エレメントと結合する転写調節因子のアミノ酸配列解析
CBA/JN Crjマウスより空腹時と果糖食摂取2時間後の肝臓を摘出し、実施例5と同じ方法で核蛋白質を抽出した。2つの合成DNA(5’-AATTCTAAAGGCAGCTATTGGCCT-3’:配列番号11;5’-AATTGGCCAATAGCTGCCTTTAG-3’:配列番号12)をハイブリダイズさせてCBA/JN CrjマウスのSREBP-1cプロモーター中のG112とその近傍の塩基配列を含む2本鎖DNAを調製し、EasyAnchor EcoRI-N (ニッポンジーン,東京)にタカラライゲーションキットを用いて結合した。EasyAnchor 50μlと核蛋白質抽出液200μgをゲルシフト解析で用いた結合バッファー中で室温、30分間静置した。遠心(15,000rpm 1min 4℃)後、沈澱を4℃で洗浄バッファー(100mM KCl, 15mM HEPES-KOH(pH7.9), 25mM EDTA, 1mM DTT, 0.1mM PMSF, 10%(w/v) glycerol)を用いて5回洗浄し、その後、溶出バッファー(1.5M KCl, 15mM HEPES-KOH(pH7.9), 25mM EDTA, 1mM DTT, 0.1mM PMSF, 10%(w/v) glycerol)100μlで室温下に蛋白質を溶出した。遠心(15,000rpm 1min 4℃)後、上清中の塩を常法により取り除いた後、SDS-PAGEで展開した。泳動後ゲルを銀染色法にて蛋白質バンドを描出させ、空腹時サンプルと果糖食摂取後サンプルを比較して大きく差の見られた41-45kDa付近の2本のバンドをゲルより切り出し、MALDI-TOF-MS解析(島津製作所、筑波に委託)を行って、該蛋白質の一次構造を解析した。その結果、これらの蛋白質は、公知のNonamer Binding Protein(GenBank登録番号:AAA81558(配列番号3);cDNAはM88489(配列番号2)、及びRNA binding motif protein, X chromosome retrogene類似蛋白質(GenBank登録番号:AAH11441(配列番号5);cDNAはBC011441(配列番号4)と同一であることが判明した。
マウスSREBP-1cプロモーター中の果糖応答エレメントと相同なヒトSREBP-1cプロモーター配列の検索
CBA/JN CrjマウスのSREBP-1cプロモーター配列と、ヒトSREBP-1c遺伝子のプロモーター領域に相当する、GenBankに登録されるヒト第17番染色体(登録番号:NT_010718)の塩基配列中塩基番号16566061-16566560で示される塩基配列の相補鎖配列(配列番号13)とを、DNASIS-homology searchプログラムを用いて比較した。結果を図4に示す。マウスの果糖応答エレメントと相同な配列(図4Bの「homology site」)がヒトのプロモーター中にも見出された。
本発明の果糖応答エレメント及びそれと相互作用する転写調節因子、並びにそれらが導入もしくは不活性化された非ヒト動物は、代謝障害の誘発のメカニズムを解明する上で極めて有用であるだけでなく、代謝障害に対する遺伝的感受性の診断や、代謝障害の予防・治療剤のスクリーニング等にも有用である。
DBA/2 JN crjマウス(左)及びCBA/JN Crjマウス(右)の各給餌群における血清TG濃度(A)、SREBP-1c mRNAレベル(B)、PPARα mRNAレベル(C)及びFAS mRNAレベル(D)を示す図である。A、B、C及びDにおいて、縦軸はそれぞれ血清TG濃度(mg/dl)、SREBP-1c mRNAレベル(CF群を1単位とした相対値)、PPARα mRNAレベル(CF群を1単位とした相対値)及びFAS mRNAレベル(CF群を1単位とした相対値)を示し、各棒グラフは左からCF群、CR群、FF群及びFR群を示す。図中、*はp< 0.01、**はp< 0.05をそれぞれを示す。 DBA/2 JN Crjマウス(左)及びCBA/JN Crjマウス(右)由来の初代肝細胞の各刺激群におけるSREBP-1c mRNAレベル(A)及びFAS mRNAレベル(B)を示す図である。A及びBにおいて、縦軸はそれぞれSREBP-1c mRNAレベル(ブドウ糖刺激群を1単位とした相対値)及びFAS mRNAレベル(ブドウ糖刺激群を1単位とした相対値)を示し、各棒グラフは左からブドウ糖刺激群、果糖刺激群及びブドウ糖+インスリン刺激群を示す。図中、*はp< 0.01、**はp< 0.05をそれぞれ示す。 本発明の果糖応答エレメントに結合する転写調節因子の存在及びその発現調節を示す電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)の結果を示す写真である。AはFR群のCBA/JN Crjマウス由来核抽出液とCBAプローブまたはDBAプローブとのEMSAを示す。レーン1及び2:CBAプローブ、レーン3及び4:DBAプローブ;レーン1及び3:cold probe共存、レーン2及び4:cold probe非共存。BはFR群のCBA/JN CrjマウスまたはDBA/2 JN Crjマウス由来核抽出液とCBAプローブとのEMSAを示す。レーン1:CBA/JN Crjマウス由来核抽出液;レーン2:DBA/2 JN Crjマウス由来核抽出液。CはCF群またはFR群のCBA/JN Crjマウス由来核抽出液とCBAプローブとのEMSAを示す。レーン1及び2:CF群、レーン3及び4:FR群;レーン1及び4:cold probe非共存、レーン2及び3:cold probe共存 マウス(A)およびヒト(B)のSREBP-1cプロモーターの塩基配列の比較を示す図である。candidate binding site:本発明の転写調節因子の候補結合部位(果糖応答エレメント);SNP(G->A):太字の「G」においてG→Aの多型(SNP)が見られることを示す。;LXRE:Liver X Receptor (LXR)応答エレメント;NF-Y:NF-Y結合部位;E-box:E-ボックス;SRE:ステロール応答エレメント;SP1:SP1結合部位;homology site:上記candidate binding siteと相同な部位

Claims (33)

  1. 配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列からなる核酸。
  2. 下記(1)及び(2)の特徴を有する核酸。
    (1)配列番号1で表される塩基配列もしくは塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列において、1もしくは2以上の塩基が置換、欠失、挿入もしくは付加された塩基配列を含有する
    (2)配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニン及びそれに隣接する塩基からなる塩基配列に結合し得る転写調節因子が結合し得ない
  3. 配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンが他の塩基で置換されている請求項2記載の核酸。
  4. 他の塩基がアデニンである請求項3記載の核酸。
  5. SREBP-1cプロモーター中の、配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部またはそれに対応する塩基配列を検出することを特徴とする、被検動物の代謝障害に対する遺伝的感受性の診断方法。
  6. 代謝障害が糖・脂質代謝障害である請求項5記載の方法。
  7. 下記(a)と、下記(b)及び/又は(c)とを用いることを特徴とする、代謝障害の予防・治療物質のスクリーニング方法。
    (a)配列番号1で表される塩基配列もしくは塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列を有するDNA
    (b)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
    (c)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
  8. 代謝障害が糖・脂質代謝障害である請求項7記載の方法。
  9. 被検物質の存在下における、前記(a)と前記(b)及び/又は(c)との結合阻害を検出することを特徴とする請求項7記載の方法。
  10. 前記(a)を含むプロモーターの制御下にある遺伝子を含有する動物細胞に糖を負荷し、被検物質の存在下及び非存在下における該遺伝子の発現を比較することを特徴とする請求項7記載の方法。
  11. 動物細胞が、前記(b)及び/又は(c)を産生する能力を有することを特徴とする、請求項10記載の方法。
  12. 動物細胞が肝細胞である請求項10記載の方法。
  13. 糖が果糖である請求項10記載の方法。
  14. 配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列を有するDNAを含むプロモーターの制御下にある遺伝子を含有する動物に糖を負荷し、被検物質の投与下及び非投与下における肝臓での該遺伝子の発現を比較することを特徴とする請求項10記載の方法。
  15. 糖が果糖である請求項14記載の方法。
  16. 下記(a)及び/又は(b)の産生もしくは活性抑制物質を含有してなる代謝障害の予防・治療剤。
    (a)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
    (b)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
  17. 代謝障害が糖・脂質代謝障害である請求項16記載の剤。
  18. 活性抑制物質が、前記(a)に対する抗体及び/又は前記(b)に対する抗体である請求項16記載の剤。
  19. 活性抑制物質が、配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列を有するDNAである請求項16記載の剤。
  20. 産生抑制物質が、下記(c)及び/又は(d)である請求項16記載の剤。
    (c)前記(a)をコードする塩基配列と相補的な塩基配列又はその一部を含有する核酸
    (d)前記(b)をコードする塩基配列と相補的な塩基配列又はその一部を含有する核酸
  21. 下記(a)及び/又は(b)の産生もしくは活性抑制物質の有効量を哺乳動物に投与することを含む代謝障害の予防・治療方法。
    (a)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
    (b)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
  22. 代謝障害の予防・治療剤の製造のための、下記(a)及び/又は(b)の産生もしくは活性抑制物質の使用。
    (a)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
    (b)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
  23. 下記(1)及び(2)の特徴を有する蛋白質もしくはペプチド又はその塩。
    (1)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩において、1もしくは2以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を含有する
    (2)配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列に結合するが、該塩基配列を含むプロモーターを活性化しない
  24. 下記(1)及び(2)の特徴を有する蛋白質もしくはペプチド又はその塩。
    (1)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩において、1もしくは2以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を含有する
    (2)配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列に結合するが、該塩基配列を含むプロモーターを活性化しない
  25. 請求項23記載の蛋白質もしくはペプチド又はその塩、及び/あるいは請求項24記載の蛋白質もしくはペプチド又はその塩を含有してなる代謝障害の予防・治療剤。
  26. 下記(a)及び/又は(b)を含有してなる代謝障害の診断剤。
    (a)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩に対する抗体
    (b)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩に対する抗体
  27. 下記(a)及び/又は(b)を含有してなる代謝障害の診断剤。
    (a)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質をコードする塩基配列又はその一部を含有する核酸
    (b)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質をコードする塩基配列又はその一部を含有する核酸
  28. 配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列を有するDNAを含むプロモーターの制御下にある遺伝子が導入された非ヒトトランスジェニック動物。
  29. 下記(1)の特徴:
    (1)下記(a)及び/又は(b)が結合し得ないプロモーターを含む
    (a)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
    (b)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
    を有する内因性SREBP−1c遺伝子が、下記(2)の特徴:
    (2)配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列を有するDNAを含むプロモーターの制御下にある
    を有するSREBP−1c遺伝子で置換された請求項28記載の非ヒトトランスジェニック動物。
  30. 下記(1)及び(2)の特徴を有するプロモーターの制御下にある遺伝子が導入された非ヒトトランスジェニック動物。
    (1)配列番号1で表される塩基配列中塩基番号112で示されるグアニンを含む、該塩基配列の一部と同一又は実質的に同一の塩基配列において、1もしくは2以上の塩基が置換、欠失、挿入もしくは付加された塩基配列を有するDNAを含有する
    (2)下記(a)及び/又は(b)が結合し得ない
    (a)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
    (b)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質もしくはその部分ペプチド又はその塩
  31. 配列番号1で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有するプロモーターを含む内因性SREBP−1c遺伝子が、前記(1)及び(2)の特徴を有するプロモーターの制御下にあるSREBP−1c遺伝子で置換された請求項30記載の非ヒトトランスジェニック動物。
  32. 下記(a)及び/又は(b)が導入された非ヒトトランスジェニック動物。
    (a)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質又はその部分ペプチドをコードするDNA
    (b)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質又はその部分ペプチドをコードするDNA
  33. 下記(a)及び/又は(b)が不活性化された非ヒト動物。
    (a)配列番号3で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質をコードするDNA
    (b)配列番号5で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質をコードするDNA
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