JP2005008754A - フォトクロミック組成物及びそれを用いた放射線インジケータ - Google Patents
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Abstract
【課題】放射線を感度良く、簡単に検知することができ、さらに、どの程度の放射線が放射されているかを定量的に測定することが可能な、放射線インジケータの材料として優れたフォトクロミック組成物を提供する。
【解決手段】放射線の照射により発光する発光体と、フォトクロミック化合物と、バインダ樹脂とを含有するフォトクロミック組成物において、フォトクロミック組成物の全固形分中におけるフォトクロミック化合物の含有率が10重量%以上となり、且つ、フォトクロミック化合物に対する発光体の含有重量比が8倍以下となるようにする。
【選択図】 なし
【解決手段】放射線の照射により発光する発光体と、フォトクロミック化合物と、バインダ樹脂とを含有するフォトクロミック組成物において、フォトクロミック組成物の全固形分中におけるフォトクロミック化合物の含有率が10重量%以上となり、且つ、フォトクロミック化合物に対する発光体の含有重量比が8倍以下となるようにする。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特にγ線等の高エネルギーの放射線の測定に用いて好適なフォトクロミック組成物、及び、これを利用した、放射線を簡便に測定できる放射線インジケータ(カラー線量計)に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、X線などの放射線を使った放射線照射処理は、医療器具の滅菌を目的として行なわれてきたが、近年では、輸血による移植片対宿主病(GVHD)の発病予防のため、輸血用血液に対しても行なわれている。
【0003】
また、原子力発電所及び放射線(放射性元素)などを取り扱う医療・研究施設では、被曝管理による人体への効率的な被曝低減が必要であり、特にX線やγ線などの放射線照射処理を行なう際には、照射した線量を短時間で的確に把握することが求められる。
【0004】
一般に、必要量の放射線が対象物に照射されたか否かを調べるためには、放射線によって不可逆的に変色する物質を含むインジケータ(放射線インジケータ,カラー線量計)を放射線源と対象物との間に介在させ、放射線の照射後に取り出して、その変色により確認する方法が取られている。
【0005】
従来提案されている高感度なインジケータの例として、非特許文献1には、メチルイエローなどpHインジケーターを用い、放射線反応に伴う酸発生による変色を使ったインジケータが開示されている。また、特許文献1には、放射線の照射によって分解して酸を発生する酸発生物質と、発生した酸によって発色または色変化を生じる色素とを主成分とするインジケータの材料が開示されている。また、特許文献2には、放射線により電子受容性を示す有機化合物と、呈色性の電子供与性有機化合物からなるインジケータが開示されている。
【0006】
しかし、これら従来のインジケータの多くは、その材料が水分に弱く医療現場での利用に向かない、室内光などの環境光により変色部分が退化し易い、水分や空気中の不純物に影響を受け易く保存安定性が低い、消色不能で再使用できない等の不利な点を有していた。
【0007】
こうした背景から、これらの不利な点を有さず好適に使用できる材料として、放射線感応性を示すとともに取扱い性にも優れたフォトクロミック化合物を、線量計に使用することが提案されている。
【0008】
例えば、特許文献3には、蛍光を発するシンチレータを含む層とこのシンチレータの発する蛍光に感応して変色するフォトクロミック高分子層とを有する積層体からなる放射線感応表示シートが開示されている。
【0009】
また、特許文献4には、熱不可逆性のフォトクロミック化合物を用いた線量計が記載されている。この技術によれば、熱的に安定かつ可逆的なフォトクロミック化合物を使用することで、比較的低線量でも正確に測定できる。しかし、本文献記載の線量計でも、放射線に対する感度は充分ではなく、例えば膜状に成形する場合、技術輸血用血液への一般的な照射量である15〜50Gy程度の低線量を測定するためには、かなり厚みを増す必要があった。
【0010】
一方、より高い感度の線量計を得る技術として、特許文献5には、特定の骨格を有するフォトクロミック化合物に加え、増感剤として無機蛍光体等の発光体を含有するカラー線量計が開示されている。この技術によれば、環境に左右されることなく使用でき、保存安定性もよく、且つ低線量でも検知可能な線量計が実現される。
【0011】
【非特許文献1】
Chem. Express 5809(1990)
【特許文献1】
特開平11−258347号公報
【特許文献2】
特開2000−65934号公報
【特許文献3】
特開平2−216493号公報
【特許文献4】
特開平11−258348号公報
【特許文献5】
WO 02/102923号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特許文献5記載の技術は、X線等の比較的低エネルギーの放射線を効率良く確認する上では優れた技術であるが、血液中の白血球の不活性化やガン治療等に使用するγ線等の高エネルギーの放射線を感度良く検知するには更なる改良が望まれていた。また、単に放射線が照射されたか否かを検知するのみならず、どの程度の線量の放射線が照射されたかを定量的に測定する上でも、改良の余地があると考えられる。
【0013】
本発明は、上述の課題に鑑み創案されたもので、γ線等の高エネルギーの放射線を感度良く検知することができ、さらには、放射線量の定量的な測定も簡便に行なうことができる、放射線インジケータの材料として優れたフォトクロミック組成物、及び、それを用いた放射線インジケータを提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意研究の結果、放射線の照射により発光する発光体と、フォトクロミック化合物と、バインダ樹脂とを含有するフォトクロミック組成物において、フォトクロミック化合物の含有率を所定値以上とし、且つ、フォトクロミック化合物に対する発光体の含有重量の比を所定値以下とすることにより、γ線等の高エネルギーの放射線を感度良く検知することができるとともに、どの程度の量の放射線が照射されたかという定量的な測定も簡便に行なえることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
即ち、本発明の要旨は、放射線の照射により発光する発光体と、フォトクロミック化合物と、バインダ樹脂とを含有するフォトクロミック組成物であって、該フォトクロミック組成物の全固形分中における該フォトクロミック化合物の含有率が10重量%以上であり、且つ、該フォトクロミック化合物に対する該発光体の含有重量の比が8倍以下であることを特徴とする、フォトクロミック組成物に存する(請求項1)。
【0016】
このとき、該フォトクロミック化合物は、下記一般式(0)で表わされる化合物であることが好ましい(請求項2)。
【化13】
但し、上記一般式(0)において、基R1及び基R2は各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基又はアルコキシ基を表わす。
また、基X1、基X2、基Y1及び基Y2は、各々独立に、
【化14】
の何れかを表わす。
基R3は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
基R4は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
環D1は、基X1、基Y1及びこれらと結合する2つの炭素原子とともに形成された、置換されていてもよい、5員環又は6員環の芳香族環を表わし、環E1は、基X2、基Y2及びこれらと結合する2つの炭素原子とともに形成された、置換されていてもよい、5員環又は6員環の芳香族環を表わす。
環D1及び環E1には更に、置換されていてもよい、5員環又は6員環の芳香族環が縮合していてもよい。
また、
【化15】
は、
【化16】
を表わす。
【0017】
中でも、該フォトクロミック化合物は、下記一般式(I)又は下記一般式(II)で表わされるものが好ましい(請求項3)。
【化17】
但し、上記一般式(I)において、基R11及び基R12は各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基又はアルコキシ基を表わす。
基X11及び基X12は、各々独立に、
【化18】
の何れかを表わし、基Y11及び基Y12は、各々独立に、
【化19】
の何れかを表わす。
基R15及び基R16は各々独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
基Y11及び/又は基Y12が
【化20】
である場合には、基R15及び/又は基R16が基R17と結合して、置換基を有していてもよい、5員環又は6員環の芳香族環を形成していてもよい。
基R13は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
基R17は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
【化21】
但し、上記一般式(II)において、基R21及び基R22は、各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基又はアルコキシ基を表わす。
基X21及び基X22は、各々独立に、
【化22】
の何れかを表わし、基Y21及び基Y22は、各々独立に、
【化23】
の何れかを表わす。
基R25及び基R26は、各々独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
基Y21及び/又は基Y22が
【化24】
である場合には、基R25及び/又は基R26が基R27と結合して、5員環又は6員環の芳香族環を形成していてもよい。
基R23は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
基R27は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
【0018】
また、該フォトクロミック化合物は熱不可逆性であることが好ましい(請求項4)。
【0019】
また、該フォトクロミック化合物の異性化反応の量子収率は10−3以下であることが好ましい(請求項5)。
【0020】
また、該発光体は紫外線発光蛍光体であることが好ましい(請求項6)。
【0021】
また、本発明の別の要旨は、上記のフォトクロミック組成物を含んでなることを特徴とする、放射線インジケータに存する(請求項7)。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0023】
[1 フォトクロミック組成物]
本発明のフォトクロミック組成物は、放射線の照射により発光する発光体と、フォトクロミック化合物と、バインダ樹脂とを含有する組成物であって、フォトクロミック組成物の全固形分中におけるフォトクロミック化合物の含有率が10重量%以上であり、且つ、フォトクロミック化合物に対する発光体の含有重量比が8倍以下であることを特徴としている。
【0024】
[1.1 発光体]
本発明で使用する発光体は、放射線照射により励起され、発光するものであれば、その種類は特に問わない。
本発明で使用する発光体が励起される放射線の種類に特に制限はなく、紫外線、X線、γ線、α線、β線、電子線、中性子線等、様々な種類を挙げることができる。中でも、本発明のフォトクロミック組成物が使用される放射線インジケータの主な用途に鑑みて、本発明で使用する発光体は、10−5〜10nmの波長帯域の放射線により励起され発光するものであることが好ましく、特に、10−5〜10−2nmの波長帯域の放射線、即ちγ線等の高エネルギーの放射線により励起されるものがとりわけ好ましい。
【0025】
本発明のフォトクロミック組成物においては、一般にフォトクロミック化合物より原子量の大きい原子を含有する発光体を併用することにより、放射線を効率的に捕捉することが可能であり、また、励起状態の発光体からのエネルギー移動又は電子移動などによってフォトクロミック化合物の異性化反応が促進され、フォトクロミック組成物の放射線に対する感度が向上する(増感作用)。
【0026】
本発明で使用する発光体が発する光の種類についても、特に限定されるものではないが、フォトクロミック化合物の一方の異性体の吸収スペクトルと重複する発光スペクトルを有する必要がある。図1に、発光体の発光スペクトルとフォトクロミック化合物の吸収スペクトルとの重複を模式的に表した。
【0027】
中でも、紫外線波長領域に発光ピークを有する、つまり励起エネルギーのレベルがフォトクロミック化合物よりも高いと考えられる蛍光体(紫外線発光蛍光体)であることが好ましい。特に、10〜400nmの紫外線波長帯域の光を発するものであることが好ましい。
また、本発明で使用する発光体は、無機化合物であることが好ましい。
【0028】
また、本発明で使用する発光体は、本発明のフォトクロミック組成物の趣旨に鑑みて、放射線に対する感度が高く、発光量が充分に大きいものであることが好ましい。中でも、一般に原子番号の大きい原子(重原子)ほど放射線に対する感受性が強いことから、こうした重原子を含む発光体であって、放射線の照射によって発光するものが、好適に使用できる。具体的には、原子番号が19番以上の元素を含む発光体が好ましく、中でも、原子番号が37番以上の元素を含む発光体がより好ましい。
【0029】
本発明で使用する発光体の具体例としては、3Ca3(PO4)2・Ca(F,Cl)2:Sb3+、3Ca3(PO4)2・Ca(F,Cl)2:Sb3+,Mn2+、Sr10(PO4)6Cl2:Eu2+、(Sr,Ca)10(PO4)6Cl2:Eu2+、(Sr,Ca)10(PO4)6Cl2・nB2O3:Eu2+、(Ba,Ca,Mg)10(PO4)6Cl2:Eu2+等のハロりん酸塩蛍光体、Sr2P2O7:Sn2+、Ba2P2O7:Ti4+、(Sr,Mg)3(PO4)2:Sn2+、Ca3(PO4)2:Tl+、(Ca,Zn)3(PO4)2:Tl+、Sr2P2O7:Eu2+、SrMgP2O7:Eu2+、Sr3(PO4)2:Eu2+、2SrO・0.84P2O5・0.16B2O3:Eu2+、LaPO4:Ce3+,Tb3+、La2O3・0.2SiO2・0.9P2O5:Ce3+,Tb3+、Zn3(PO4)2:Mn2+、(Sr,Mg)3(PO4)2:Cu+等のりん酸塩蛍光体、Zn2SiO4:Mn2+、CaSiO3:Pb2+,Mn2+、(Ba,Sr,Mg)3Si2O7:Pb2+、(Ba,Mg,Zn)3Si2O7:Pb2+、BaSi2O5:Pb2+、Sr2Si3O8・2SrCl2:Eu2+、Ba3MgSi2O8:Eu2+、(Sr,Ba)Al2Si2O8:Eu2+、Y2SiO5:Ce3+,Tb3+等のけい酸塩蛍光体、CaWO4、CaWO4:Pb2+、MgWO4等のタングステン酸塩蛍光体、LiAlO2:Fe3+、BaAl8O13:Eu2+、BaMgAl10O17:Eu2+、BaMgAl10O17:Eu2+,Mn2+、Sr4Al14O25:Eu2+、SrMgAl10O17:Eu2+、CeMgAl11O19:Tb3+、CeMgAl11O19、(Ce,Gd)(Mg,Ba)Al11O19、Y2O3・Al2O3:Tb3+、Y3Al5O12:Ce3+等のアルミン酸塩蛍光体、その他Y2O3:Eu3+、YVO4:Eu3+、Y(P,V)O4:Eu3+、YVO4:Dy3+、Cd2B2O5:Mn2+、SrB4O7:Eu2+、SrB4O7F:Eu2+、GdMgB5O10:Ce3+,Tb3+、6MgO・As2O5:Mn4+、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn4+、MgGa2O4:Mn2+、ZnS:Ag、(Zn,Cd)S:Ag、(Zn,Cd)S:Cu,Al、ZnS:Ag、ZnS:Cu,Al、ZnS:Au,Cu,Al、CsI:Na、CsI:Tl、BaSO4:Eu2+、Gd2O2S:Tb3+、La2O2S:Tb3+、Y2O2S:Tb3+、Y2O2S:Eu3+、LaOBr:Tb3+、LaOBr:Tm3+、BaFCl:Eu2+、BaFBr:Eu2+、HfP2O7、LiF、Li2B4O7:Mn2+、CaF2:Mn2+、CaSO4:Mn2+、CaSO4:Dy3+、Mg2SiO4:Tb3+、CaF2:Eu2+、LiI:Eu2+、TlCl:Be,I、CsF、BaF2、Bi4Ge3O12、Kl:Tl、CaWO4、CdWO4等、実用蛍光体として用いられている様々な発光体を挙げることができる。なお、これらの発光体は、公知の手法を用いて適宜合成することが可能である。これらの発光体は、その多くが上に述べた原子番号が19番以上の元素や原子番号が37番以上の元素を含んでいることから、放射線に対する感度が高く、発光量も充分に大きい。
【0030】
これらの中でも特に、Ca3(PO4)2:Tl+、(Ca,Zn)3(PO4)2:Tl+、SrMgP2O7:Eu2+、SrB4O7F:Eu2+、(Ba,Sr,Mg)3Si2O7:Pb2+、(Ba,Mg,Zn)3Si2O7:Pb2+、BaSi2O5:Pb2+、(Sr,Ba)Al2Si2O8:Eu2+、CeMgAl11O19、(Ce,Gd)(Mg,Ba)Al11O19、SrB4O7:Eu2+、CsF、BaF2、BaSO4:Eu2+、BaFCl:Eu2+、BaFBr:Eu2+、HfP2O7、LiF等の紫外線発光蛍光体が好ましい。
なお、上述の各種蛍光体に代表される発光体は、単独で使用してもよく、複数種を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0031】
本発明に使用する発光体としては、照射光に対する発光効率が高いものが好ましい。つまり、例えば本発明のフォトクロミック組成物を、後述する放射線インジケータに使用する場合には、検出したい波長の光による刺激に対する、発光効率が高いものが好ましい。
また、発光体の密度が高い方が、検出したい光を細くする能力が高いため、好ましい。
【0032】
[1.2 フォトクロミック化合物]
フォトクロミック化合物とは、光や放射線の照射によって、異性化反応を生じる化合物のことをいう。
【0033】
本発明で使用するフォトクロミック化合物は、光や放射線の照射によって、光学的性質の異なる2種類の異性体を可逆的に生成する(即ち、これらの異性体間を相互に可逆的に転換される)化合物であれば、その種類に他に制限はない。例えば、ジアリールエテン系化合物、スピロピラン系化合物、フルギド系化合物、アゾベンゼン系化合物等が挙げられるが、中でもジアリールエテン系化合物が好ましく、特に、下記一般式(0)で表わされるジアリールエテン化合物が好ましい。
【化25】
【0034】
上記一般式(0)において、基R1及び基R2は各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基又はアルコキシ基を表わす。
【0035】
基X1、基X2、基Y1及び基Y2は、各々独立に、
【化26】
の何れかを表わす。
【0036】
基R3は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
【0037】
基R4は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
【0038】
また、上記一般式(0)において、環D1は、基X1、基Y1及びこれらと結合する2つの炭素原子とともに形成された、置換されていてもよい5員環又は6員環の芳香族環を表わす。環D1には更に、置換されていてもよい5員環又は6員環の芳香族環が縮合していてもよい。
【0039】
更に、環E1は、基X2、基Y2及びこれらと結合する2つの炭素原子とともに形成された、置換されていてもよい5員環又は6員環の芳香族環を表わす。環E1には更に、置換されていてもよい5員環又は6員環の芳香族環が縮合していてもよい。
【0040】
環D1及び環E1が有し得る置換基に特に制限は無いが、好ましくは基R13、R16〜R18、R25〜R27及びR29として後述する各基が挙げられる。
【0041】
なお、環D1又は環E1に対して更に芳香族環が縮合している場合に、この縮合環が更に、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アリルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基等の置換基を有していてもよい。
【0042】
また、
【化27】
は、
【化28】
を表わす。
【0043】
一般式(0)で表わされるジアリールエテン化合物は、合成して得られたものは通常基R1と基R2とが結合していない状態(この異性体を「開環体」と呼ぶ。)であるが、特定波長の光や放射線の照射によって、基R1と基R2とが結合した状態(この異性体を「閉環体」と呼ぶ。)となる。また、閉環体に、開環反応時とは異なる波長の光や放射線を照射することにより、基R1と基R2とは決裂して開環体へと戻る。即ち、光や放射線の照射によって異性化反応(閉環反応)を起こすことにより、開環体と閉環体という光学的性質の異なる2種類の異性体間を可逆的に転換されるのである。
【0044】
上記一般式(0)で表わされる化合物として、具体的には、下記一般式(I)又は(II)で表わされる化合物が好ましい。
【0045】
【化29】
【0046】
上記一般式(I)において、基R11及び基R12は各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基又はアルコキシ基を表わす。
【0047】
また、基X11及び基X12は各々独立に、
【化30】
の何れかを表わすが、中でも
【化31】
が好ましい。
【0048】
更に、基Y11及び基Y12は各々独立に、
【化32】
の何れかを表わす。
【0049】
なお、上記各例示式において、基R13は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わすが、中でも、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基が好ましい。
また、基R17は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
一般式(I)中に基R13や基R17がそれぞれ複数存在する場合、これら複数の基R13や基R17は各々独立であり、互いに同じでも異なっていても良い。
【0050】
基R15及び基R16は、各々独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
【0051】
基R15及び基R16がアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基又はシクロアルキル基である場合に、これらの基が有していても良い置換基としては、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アリルオキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0052】
基Y11及び/又は基Y12が
【化33】
である場合には、基R15及び/又は基R16が基R17と結合して、5員環又は6員環の芳香族環を形成していてもよい。
【0053】
該芳香族環が有していてもよい置換基としては、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アリルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0054】
【化34】
【0055】
上記一般式(II)において、基R21及び基R22は各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基又はアルコキシ基を表わす。
【0056】
また、基X21及び基X22は各々独立に、
【化35】
の何れかを表わす。
【0057】
更に、基Y21及び基Y22は各々独立に、
【化36】
の何れかを表わす。
【0058】
また、基R25及び基R26は、各々独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
【0059】
なお、上記各例示式において、基R23は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わすが、中でも、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基が好ましい。
また、基R27は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
一般式(II)中に基R23や基R27がそれぞれ複数存在する場合、これら複数の基R23や基R27は各々独立であり、互いに同じでも異なっていても良い。
【0060】
また、前記一般式(II)において、基R25及び基R26がアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基又はシクロアルキル基である場合に、これらの基が有していてもよい置換基としては、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アリルオキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0061】
ここで、基Y21及び/又は基Y22が
【化37】
である場合には、基R25及び/又は基R26が基R27と結合して、5員環又は6員環の芳香族環を形成していてもよい。
【0062】
この基R25又は基R26と基R27とが結合して5員環又は6員環の芳香環を形成する場合には、該芳香環は、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アリルオキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基等の置換基を有していてもよい。
【0063】
前記一般式(I)及び(II)における基R13、基R17、基R23及び基R27がアルキル基、アリール基又はシクロアルキル基である場合に、これらの基が有していてもよい置換基としては、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アリルオキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0064】
前記一般式(0)における環D1、環E1の具体例を以下に示す。
【化38】
【0065】
【化39】
【0066】
(上記各例示式において、基R13は、前記式(I)におけるものと同義であり、基R27は、前記一般式(II)におけるものと同義である。)
【0067】
これらの中でも、上記一般式(I)における、基X11及び基Y11を含む複素環、並びに基X12及び基Y12を含む複素環としては、次に挙げる置換基が好ましい。
【化40】
【0068】
上記各例示式において、複素環に縮合しているベンゼン環は、基R15又は基R16が基R17と結合することにより形成された環である。
【0069】
また、前記一般式(II)における、基X21及び基Y21を含む複素環、並びに基X22及び基Y22を含む複素環としては、次に挙げる置換基が好ましい。
【0070】
【化41】
【0071】
上記各例示式において、複素環に縮合しているベンゼン環は、基R25又は基R26が基R27と結合することにより形成された環である。
【0072】
前記一般式(I)で表わされる化合物の具体例を以下に示すが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。なお、以下の具体例において(t)C4H9はt−ブチル基を表わし、(i)C3H7はイソプロピル基を表わす。
【0073】
【化42】
【0074】
【化43】
【0075】
【化44】
【0076】
【化45】
【0077】
【化46】
【0078】
【化47】
【0079】
続いて、前記一般式(II)で表わされる化合物の具体例を以下に示すが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。なお、以下の具体例において(n)C3H7はn−ブチル基を表わす。
【化48】
【0080】
【化49】
【0081】
【化50】
【0082】
【化51】
【0083】
【化52】
【0084】
【化53】
【0085】
【化54】
【0086】
【化55】
【0087】
【化56】
【0088】
【化57】
【0089】
【化58】
【0090】
【化59】
【0091】
上に挙げた各種のフォトクロミック化合物は、公知の手法を用いて適宜合成することが可能である。例えば、特開平9−241625号公報等の記載から適宜選択した手法により合成することができる。
【0092】
なお、本発明では、前記一般式(0)で表わされるジアリールエテン化合物から選択した一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。後者の場合、例えば前記一般式(I)で表わされる化合物群、前記一般式(II)で表わされる化合物群、それ以外の化合物群の何れか一群から複数種選択しても良く、また、これらの化合物群のうち二群以上から各一種以上を選択して使用してもよい。更に、前記一般式(0)で表わされる化合物群の中から選ばれた一種又は二種以上の化合物と、その他の任意の一種又は二種以上の化合物とを、フォトクロミック化合物として併用してもかまわない。
【0093】
また、本発明で使用するフォトクロミック化合物は、熱不可逆性を示すものであることが好ましい。本発明において「熱不可逆性」とは、放射線の照射によって生成する方の異性体(例えば、一般式(0)のジアリールエテン化合物の場合は閉環体)に着目した場合に、30℃の環境における当該異性体の半減期が10日以上であることを意味するものとする。フォトクロミック化合物が熱不可逆性を示すものでないと、放射線の照射によって生成した異性体が室温で容易に異性化反応を起こしてもう一方の異性体(例えば、一般式(0)のジアリールエテン化合物の場合は開環体)に転換してしまい、放射線の照射によって生じた変色状態が安定に保たれない可能性があるため、本発明のフォトクロミック組成物を放射線インジケータに使用した場合に放射線量を正確に測定することができず、不具合が生じる虞がある。
【0094】
また、室内光などの環境光による退色を避けるためには、異性化反応(一般式(0)のジアリールエテン化合物の場合は開環反応)の量子収率が10−3以下であることが好ましい。より好ましくは10−4以下、特に好ましくは10−5以下である。
【0095】
[1.3 フォトクロミック化合物と発光体の組み合わせ]
本発明では、発光体の発光スペクトルの一部又は全部が、フォトクロミック化合物の一方の異性体の吸収スペクトルと重なるように、上述したフォトクロミック化合物と発光体とを選択して組み合わせる。このように構成することで、本発明のフォトクロミック組成物を放射線インジケータに使用した場合に、放射線の照射によって発光体の電子が励起状態となり、その励起状態からエネルギー又は電子がフォトクロミック化合物の励起状態へ移動することによって、フォトクロミック化合物の異性化反応が起こって変色するので、照射された放射線を効率的に検出することができ、その線量を高い感度で測定することが可能となる。
【0096】
例えば、フォトクロミック化合物として上記一般式(0)のジアリールエテン化合物を使用する場合、一方の異性体である開環体から他方の異性体である閉環体への異性化反応を効率よく生じさせるには、10〜400nmの紫外線波長帯域が好ましい。よって、このジアリールエテン化合物との組み合わせで使用する発光体は、主にこの紫外線波長帯域に発光波長帯域を有することが好ましい(すなわち、先に列挙した紫外線発光蛍光体)ということになる。
【0097】
特に、発光体の発光スペクトルと、ジアリールエテン化合物の開環体又は閉環体の極大吸収波長を含む吸収帯とは、できるだけ広い範囲にわたって重複していることが好ましい。
【0098】
また、発光体の発光スペクトルは、ジアリールエテン化合物の開環体の吸収スペクトルと重複することが好ましい。その理由としては、開環体は通常、放射線波長領域に吸収を有していること、開環反応より閉環反応の方が量子収率が高い場合が多いこと、閉環体の方が開環体より濃色である化合物が多いので、閉環体の生成で被曝を検出する方が容易であること、等が挙げられる。
【0099】
なお、本発明のフォトクロミック組成物に用いる発光体は、一種類であっても二種類以上を併用しても良い。特に、フォトクロミック化合物の吸収スペクトルピークがシャープである場合には、該ピーク波長に近い発光スペクトルを有する発光体を単独で使用することにより、特定波長領域において強い発光を得ることができ、放射線の検出感度を高めることができる。また、フォトクロミック化合物の吸収スペクトルピークがブロードである場合には、異なる波長領域の発光を呈する2つ以上の発光体を併用すれば、幅広い波長領域において発光を得ることができ、放射線を効率的に検出することが可能となる。
【0100】
[1.4 バインダ樹脂]
本発明で使用するバインダ樹脂は、上述した発光体及びフォトクロミック化合物を好適に溶解或いは分散させる樹脂であれば、その種類は特に限定されないが、本発明のフォトクロミック組成物を放射線インジケータに使用する際に、その形状を好適に維持できるものが好ましい。具体的には、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリナフタレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等が挙げられる。好ましくは、ポリスチレン樹脂、ポリナフタレン樹脂などの芳香族環を含むものである。
【0101】
[1.5 各成分の組成]
本発明のフォトクロミック組成物は、上述のフォトクロミック化合物と、発光体と、バインダ樹脂とを含有する組成物であるが、更にその他の各種成分を含んでいても良い。その他の成分としては、各種公知の分散剤、酸化防止剤、酸素トラップ剤、可塑剤等が挙げられる。また、これらの成分を適切な溶媒に溶解又は分散させて、溶液・分散液やスラリー等の状態として用いても良い。
【0102】
ここで、本発明のフォトクロミック組成物は、フォトクロミック化合物の含有率が所定の値以上であるとともに、フォトクロミック化合物の含有量に対する発光体の含有量の重量比(含有重量比)が所定の値以下であることを、その特徴としている。こうした組成によって、例えばガン治療等に使用するγ線などの高エネルギーの放射線を、感度良く検出することができる。また、フォトクロミック化合物の含有率が比較的多量であることから、併用する発光体が比較的少なくても、適度な増感効果が得られ、放射線を高感度で検知することが可能となる。
【0103】
さらに、本発明のフォトクロミック組成物は、発光体の含有量が比較的少量であることから、透明性が比較的高い。よって、例えば、本発明のフォトクロミック組成物からなる厚い層状の顕色部を有する放射線インジケータを作成して、顕色部の厚み方向の距離を大きくすれば、顕色部の厚み方向の色相変化の度合いを観測することにより、簡便な手法で放射線の照射線量を定量的に測定することができる。即ち、透明性が低い組成物の場合には、組成物内部で色相変化が起こっても、組成物表面の色相変化だけしか検知することができなかったが、本発明のように透明性が高い組成物においては、組成物内部の色相変化を組成物表面から観測することができるので、組成物の厚み方向の色相変化の度合いを定量的に計測することが可能となる。組成物の厚み方向の色相変化の度合いは放射線の照射線量にほぼ比例するので、これを観測することにより、放射線の照射線量の定量的な測定が可能となるのである。
【0104】
具体的に、本発明のフォトクロミック組成物におけるフォトクロミック化合物の含有率は、フォトクロミック組成物の全固形分中における比率として、通常10重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。フォトクロミック化合物の含有率がこの範囲を下回ると、比較的低エネルギーの放射線の検知が難しくなる傾向があり、この範囲を上回ると、組成物から発光体が析出する虞がある。
【0105】
ここで、フォトクロミック組成物の固形分とは、フォトクロミック組成物が完成した際に固形状態でフォトクロミック組成物に含まれ得る全成分のことをいう。従って、製造過程で用いられる溶媒などの液体成分は含まない。一方、製造過程で一時的に液体中に溶解した状態となる成分であっても、フォトクロミック組成物の完成品において(即ち、放射線の検知に用いられる際に)固体として存在し得るものであれば、固形分に含むものとする。
【0106】
また、本発明のフォトクロミック組成物において、フォトクロミック化合物に対する発光体の含有重量比は、通常8倍以下、好ましくは6倍以下、また、通常0.3倍以上、好ましくは0.5倍以上である。発光体の含有重量比がこの範囲を下回ると、低エネルギーの放射線の検出が困難になる虞があり、また、この範囲を上回ると、組成物の透明性が低下し、検出できる放射線の強度範囲が狭くなる傾向がある。
【0107】
更に、本発明のフォトクロミック組成物の全固形分中における発光体の含有率は、通常5重量%以上、好ましくは7重量%以上、より好ましくは10重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは45重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。発光体の含有率がこの範囲を下回ると、発光体による増感効果が不十分となる虞があり、この範囲を上回ると、組成物の透明性が低下し、検出できる放射線の強度範囲が狭くなる傾向がある。
【0108】
また、本発明のフォトクロミック組成物の全固形分中におけるバインダ樹脂の含有率は、通常0.1重量%以上、中でも1重量%以上、また、通常85重量%以下、中でも80重量%以下の範囲である。バインダ樹脂の含有率がこの範囲を下回ると、放射線インジケータの形状を一定に維持することが困難となる一方で、この範囲を上回ると、十分な量のフォトクロミック化合物や発光体を含有させることができなくなり、放射線の検出が困難となる。
【0109】
[2 フォトクロミック組成物の製造方法]
本発明のフォトクロミック組成物の製造方法は特に制限されず、通常は、用途とする放射線インジケータの態様に応じて、適当な方法により製造すればよい。例えば、(a)上述のフォトクロミック化合物及び発光体をバインダ樹脂とともに適切な溶媒に溶解又は分散させる方法や、(b)上述のフォトクロミック化合物及び発光体をバインダ樹脂と直接混合して、バインダ樹脂中に溶解又は分散させる方法などが挙げられる。これらの方法は任意に選択できるが、後述する放射線インジケータの製造において、フォトクロミック組成物を基材フィルム上に塗布して溶媒を乾燥し、成膜する場合には、(a)の方法で製造したフォトクロミック組成物が好ましく、フォトクロミック組成物を直接成形する場合には、(b)の方法で製造したフォトクロミック組成物が好適に用いられる。
【0110】
前記(a)の方法により製造する場合、使用する溶媒としては、上述のフォトクロミック化合物、発光体及びバインダ樹脂を好適に溶解或いは分散させるもので、且つ、成膜加工の際の妨げにならないものであれば、その種類は特に限定されない。具体的には、ベンゼン、トルエン等の芳香族溶媒、ヘキサン等の脂肪族溶媒、THF等のエーテル系溶媒、クロロホルム等の塩素系溶媒等、各種の有機溶媒が挙げられる。使用する溶媒の量は、全固形分100重量部に対して通常10重量部以上、好ましくは20重量部以上、また、通常500重量部以下、好ましくは300重量部以下である。
【0111】
この溶媒に、上述のフォトクロミック化合物、発光体、バインダ樹脂、及び必要に応じて使用される分散剤、酸化防止剤、酸素トラップ剤、可塑剤等のその他の添加剤を溶解或いは分散させて、本発明のフォトクロミック組成物を製造する。通常は、まずフォトクロミック化合物とバインダ樹脂とを溶媒に溶解或いは分散させ、続いて上述の発光体を混合し分散させることが好ましい。
【0112】
一方、前記(b)の方法による場合は、上述のフォトクロミック化合物及び発光体を、必要に応じて使用される分散剤、酸化防止剤、酸素トラップ剤、可塑剤等のその他の添加剤とともに、上述のバインダ樹脂に直接練り混んで、本発明のフォトクロミック組成物を製造する。
【0113】
[3 放射線インジケータ]
本発明のフォトクロミック組成物は、放射線インジケータの材料として好適に使用することができる。
具体的には、本発明のフォトクロミック組成物を、射出成形や押し出し成形、ヒートプレス法など公知の方法を用いて、そのままフィルム状や棒状等に成形加工すれば、放射線インジケータとなる。または、より好ましい手法として、適切な基材フィルム上に本発明のフォトクロミック組成物を塗布して成膜し、得られたフィルムを適宜加工して、これを放射線インジケータとして使用してもよい。
【0114】
基材フィルムの材料は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、特に制限されず、任意の材料を用いることができる。好ましい材料の例としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂等の合成樹脂からなるフィルムや、シート、基板などや、アルミ板等が挙げられる。
【0115】
成膜に際しては、キャスト法、スピンコート法、バーコーター法、ダイキャスト法など、種々の公知技術を用いて成膜加工することができるが、本発明のフォトクロミック組成物は発光体の含有量が少ないために粘度が比較的低いので、キャスト法により成膜加工を行なうことが好ましい。
【0116】
本発明のフォトクロミック組成物にて形成する層(顕色層)の厚みは、放射線インジケータとしての趣旨を逸脱するものでなければ特に限定されないが、通常0.01mm以上、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.3mm以上、また、通常10mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。顕色層の厚さがこの範囲を下回ると、感度が不十分となる虞があるとともに、十分な変色範囲を得ることができず、定量測定が可能な放射線の強度範囲が狭くなってしまう虞がある。一方で、顕色層の厚さがこの範囲を上回ると、放射線インジケータが大型化してしまい、取扱い性が悪くなるため好ましくない。
【0117】
以上のように作成された放射線インジケータを放射線に曝露すると、放射線の線量に応じて色調が変化する。この吸収、透過又は反射スペクトルを測定し、吸光度、透過率又は反射率の変化量を計測することにより、放射線の線量を検知することができる。
【0118】
特に、本発明の放射線インジケータは、γ線等の高エネルギーの放射線の検知に適している。例えば、血液照射用に使用されるγ線15Gyの検知などに使用できるほか、ガン治療などに用いるγ線のインジケータとしても使用できる。
【0119】
また、本発明の放射線インジケータは、X線の検知にも使用することができる。特に、X線の中でも、医療用でガン治療などに使用される高エネルギー線の検出に好適に用いられる。さらに、医療現場でレントゲンとして使用される程度の通常の強度のX線を検知する場合でも、IVR(interventional radiology)を始めとした治療用のインジケータとして好適に用いられる。
【0120】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。
【0121】
(実施例1)
ポリスチレン樹脂(バインダ樹脂)1.6g、下記構造式(I)で示されるフォトクロミック化合物0.2g、及び、発光体BaFCl;Eu2+ 0.2gを、トルエン0.7g中に溶解分散させた。得られた分散液(実施例1のフォトクロミック組成物)をキャスト法を用いて無色・透明のPET上に成膜し、80℃で30分乾燥してトルエンを除去し、厚さ0.4mmの膜状の顕色部を有する評価用サンプルを作成した。顕色部は無色であった。
【0122】
【化60】
【0123】
得られた評価用サンプルに、60Coから放射されるγ線を使用して、γ線を5Gy照射したところ、サンプルの顕色部は青色に変色した。
【0124】
γ線の照射前後の評価用サンプルの顕色部の色変化を、以下の手順に従って求めた。(株)島津製作所製・島津自記分光光度計UV−3100PCに、(株)島津製作所製・積分球付属装置ISR−3100を取り付け、JIS−K5600−4−5(塗料一般試験方法―第4部:塗膜の視覚特性―第5節;測色(測定))に従って、γ線照射前後の評価用サンプルの顕色部の反射スペクトルを波長380nmから780nmにかけて測定し、各波長の反射率を求め、これをC光源2度視野のL*a*b*表色系に変換した。さらに、JIS−K5600−4−6(塗料一般試験方法―第4部:塗膜の視覚特性―第6節;測色(色差の計算))に基づき、γ線照射前後のL*a*b*の値をもとに、γ線照射前後のサンプルの顕色部の色差を計算した。即ち、γ線照射前の色彩をL1*a1*b1*、照射後の色彩をL2*a2*b2*として、次の式(1)からX線照射前後の評価用サンプルの顕色部の色差を算出した。
色差={(L1*−L2*)2+(a1*−a2*)2+(b1*−b2*)2}1/2・・・式(1)
得られた結果を表1に示す。
【0125】
(実施例2)
ポリスチレン樹脂(バインダ樹脂)1.4g、上記構造式(I)で表わされるフォトクロミック化合物0.2g、及び、発光体BaFCl:Eu2+ 0.4gを、トルエン0.7gに溶解分散して、得られた分散液(実施例2のフォトクロミック組成物)を用いて実施例1と同様の手順で評価用サンプルを作成した。得られたサンプルは無色であった。このサンプルに、実施例1と同様の条件で実験を行ない、γ線照射前後の顕色部の色差を計算した。結果を表1に示した。
【0126】
(実施例3)
ポリスチレン樹脂(バインダ樹脂)1.2g、上記構造式(I)で表わされるフォトクロミック化合物0.2g、及び、発光体BaFCl:Eu2+ 0.6gを、トルエン0.7gに溶解分散して、得られた分散液(実施例3のフォトクロミック組成物)を用いて実施例1と同様の手順で評価用サンプルを作成した。得られたサンプルは無色であった。このサンプルに、実施例1と同様の条件で実験を行ない、γ線照射前後の顕色部の色差を計算した。結果を表1に示した。
【0127】
(実施例4)
ポリスチレン樹脂(バインダ樹脂)0.8g、上記構造式(I)で表わされるフォトクロミック化合物0.2g、及び、発光体BaFCl:Eu2+ 1.0gを、トルエン0.7gに溶解分散して、得られた分散液(実施例4のフォトクロミック組成物)を用いて実施例1と同様の手順で評価用サンプルを作成した。得られたサンプルは無色であった。このサンプルに、実施例1と同様の条件で実験を行ない、γ線照射前後の色差を計算した。結果を表1に示した。
【0128】
(比較例1)
ポリスチレン樹脂(バインダ樹脂)1.78g、上記構造式(I)で表わされるフォトクロミック化合物0.02g、及び、発光体BaFCl:Eu2+ 0.2gを、トルエン0.7gに溶解分散して、得られた分散液(比較例1のフォトクロミック組成物)を用いて実施例1と同様の手順で評価用サンプルを作成した。得られたサンプルは白色で、実施例1〜4に比較して透明性が劣っていた。このサンプルに、実施例1と同様の条件で実験を行ない、γ線照射前後の顕色部の色差を計算した。結果を表1に示した。
【0129】
【表1】
【0130】
表1からわかるように、全固形分中におけるフォトクロミック化合物の含有率([A]/{[A]+[B]+[C]})が10重量%以上であり、且つ、フォトクロミック化合物に対する発光体の含有重量比([A]:[B])が8倍以下である実施例1〜4の組成物を用いたサンプルは、上記の含有率及び重量比が規定範囲を満たさない比較例1の組成物を用いたサンプルと比べて、γ線照射前後の顕色部の色差が遥かに大きく、変色の度合いが激しいことから、γ線等の高エネルギーの放射線をより明確に検知でき、放射線インジケータとしてより優れていることが判る。また、実施例1〜4の組成物を用いたサンプルは、比較例1の組成物を用いたサンプルに比べて透明性が高いことから、厚み方向の色相変化を仔細に観察することができ、結果として広い強度範囲の放射線を定量的に測定することが可能であると考えられる。
【0131】
【発明の効果】
本発明のフォトクロミック組成物及び放射線インジケータによれば、γ線等の高エネルギーの放射線を感度良く、簡単に検知することができるとともに、放射線量を定量的に測定することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】発光体の発光スペクトルとフォトクロミック化合物の吸収スペクトルとの重複を模式的に表した図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、特にγ線等の高エネルギーの放射線の測定に用いて好適なフォトクロミック組成物、及び、これを利用した、放射線を簡便に測定できる放射線インジケータ(カラー線量計)に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、X線などの放射線を使った放射線照射処理は、医療器具の滅菌を目的として行なわれてきたが、近年では、輸血による移植片対宿主病(GVHD)の発病予防のため、輸血用血液に対しても行なわれている。
【0003】
また、原子力発電所及び放射線(放射性元素)などを取り扱う医療・研究施設では、被曝管理による人体への効率的な被曝低減が必要であり、特にX線やγ線などの放射線照射処理を行なう際には、照射した線量を短時間で的確に把握することが求められる。
【0004】
一般に、必要量の放射線が対象物に照射されたか否かを調べるためには、放射線によって不可逆的に変色する物質を含むインジケータ(放射線インジケータ,カラー線量計)を放射線源と対象物との間に介在させ、放射線の照射後に取り出して、その変色により確認する方法が取られている。
【0005】
従来提案されている高感度なインジケータの例として、非特許文献1には、メチルイエローなどpHインジケーターを用い、放射線反応に伴う酸発生による変色を使ったインジケータが開示されている。また、特許文献1には、放射線の照射によって分解して酸を発生する酸発生物質と、発生した酸によって発色または色変化を生じる色素とを主成分とするインジケータの材料が開示されている。また、特許文献2には、放射線により電子受容性を示す有機化合物と、呈色性の電子供与性有機化合物からなるインジケータが開示されている。
【0006】
しかし、これら従来のインジケータの多くは、その材料が水分に弱く医療現場での利用に向かない、室内光などの環境光により変色部分が退化し易い、水分や空気中の不純物に影響を受け易く保存安定性が低い、消色不能で再使用できない等の不利な点を有していた。
【0007】
こうした背景から、これらの不利な点を有さず好適に使用できる材料として、放射線感応性を示すとともに取扱い性にも優れたフォトクロミック化合物を、線量計に使用することが提案されている。
【0008】
例えば、特許文献3には、蛍光を発するシンチレータを含む層とこのシンチレータの発する蛍光に感応して変色するフォトクロミック高分子層とを有する積層体からなる放射線感応表示シートが開示されている。
【0009】
また、特許文献4には、熱不可逆性のフォトクロミック化合物を用いた線量計が記載されている。この技術によれば、熱的に安定かつ可逆的なフォトクロミック化合物を使用することで、比較的低線量でも正確に測定できる。しかし、本文献記載の線量計でも、放射線に対する感度は充分ではなく、例えば膜状に成形する場合、技術輸血用血液への一般的な照射量である15〜50Gy程度の低線量を測定するためには、かなり厚みを増す必要があった。
【0010】
一方、より高い感度の線量計を得る技術として、特許文献5には、特定の骨格を有するフォトクロミック化合物に加え、増感剤として無機蛍光体等の発光体を含有するカラー線量計が開示されている。この技術によれば、環境に左右されることなく使用でき、保存安定性もよく、且つ低線量でも検知可能な線量計が実現される。
【0011】
【非特許文献1】
Chem. Express 5809(1990)
【特許文献1】
特開平11−258347号公報
【特許文献2】
特開2000−65934号公報
【特許文献3】
特開平2−216493号公報
【特許文献4】
特開平11−258348号公報
【特許文献5】
WO 02/102923号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特許文献5記載の技術は、X線等の比較的低エネルギーの放射線を効率良く確認する上では優れた技術であるが、血液中の白血球の不活性化やガン治療等に使用するγ線等の高エネルギーの放射線を感度良く検知するには更なる改良が望まれていた。また、単に放射線が照射されたか否かを検知するのみならず、どの程度の線量の放射線が照射されたかを定量的に測定する上でも、改良の余地があると考えられる。
【0013】
本発明は、上述の課題に鑑み創案されたもので、γ線等の高エネルギーの放射線を感度良く検知することができ、さらには、放射線量の定量的な測定も簡便に行なうことができる、放射線インジケータの材料として優れたフォトクロミック組成物、及び、それを用いた放射線インジケータを提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意研究の結果、放射線の照射により発光する発光体と、フォトクロミック化合物と、バインダ樹脂とを含有するフォトクロミック組成物において、フォトクロミック化合物の含有率を所定値以上とし、且つ、フォトクロミック化合物に対する発光体の含有重量の比を所定値以下とすることにより、γ線等の高エネルギーの放射線を感度良く検知することができるとともに、どの程度の量の放射線が照射されたかという定量的な測定も簡便に行なえることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
即ち、本発明の要旨は、放射線の照射により発光する発光体と、フォトクロミック化合物と、バインダ樹脂とを含有するフォトクロミック組成物であって、該フォトクロミック組成物の全固形分中における該フォトクロミック化合物の含有率が10重量%以上であり、且つ、該フォトクロミック化合物に対する該発光体の含有重量の比が8倍以下であることを特徴とする、フォトクロミック組成物に存する(請求項1)。
【0016】
このとき、該フォトクロミック化合物は、下記一般式(0)で表わされる化合物であることが好ましい(請求項2)。
【化13】
但し、上記一般式(0)において、基R1及び基R2は各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基又はアルコキシ基を表わす。
また、基X1、基X2、基Y1及び基Y2は、各々独立に、
【化14】
の何れかを表わす。
基R3は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
基R4は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
環D1は、基X1、基Y1及びこれらと結合する2つの炭素原子とともに形成された、置換されていてもよい、5員環又は6員環の芳香族環を表わし、環E1は、基X2、基Y2及びこれらと結合する2つの炭素原子とともに形成された、置換されていてもよい、5員環又は6員環の芳香族環を表わす。
環D1及び環E1には更に、置換されていてもよい、5員環又は6員環の芳香族環が縮合していてもよい。
また、
【化15】
は、
【化16】
を表わす。
【0017】
中でも、該フォトクロミック化合物は、下記一般式(I)又は下記一般式(II)で表わされるものが好ましい(請求項3)。
【化17】
但し、上記一般式(I)において、基R11及び基R12は各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基又はアルコキシ基を表わす。
基X11及び基X12は、各々独立に、
【化18】
の何れかを表わし、基Y11及び基Y12は、各々独立に、
【化19】
の何れかを表わす。
基R15及び基R16は各々独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
基Y11及び/又は基Y12が
【化20】
である場合には、基R15及び/又は基R16が基R17と結合して、置換基を有していてもよい、5員環又は6員環の芳香族環を形成していてもよい。
基R13は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
基R17は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
【化21】
但し、上記一般式(II)において、基R21及び基R22は、各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基又はアルコキシ基を表わす。
基X21及び基X22は、各々独立に、
【化22】
の何れかを表わし、基Y21及び基Y22は、各々独立に、
【化23】
の何れかを表わす。
基R25及び基R26は、各々独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
基Y21及び/又は基Y22が
【化24】
である場合には、基R25及び/又は基R26が基R27と結合して、5員環又は6員環の芳香族環を形成していてもよい。
基R23は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
基R27は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
【0018】
また、該フォトクロミック化合物は熱不可逆性であることが好ましい(請求項4)。
【0019】
また、該フォトクロミック化合物の異性化反応の量子収率は10−3以下であることが好ましい(請求項5)。
【0020】
また、該発光体は紫外線発光蛍光体であることが好ましい(請求項6)。
【0021】
また、本発明の別の要旨は、上記のフォトクロミック組成物を含んでなることを特徴とする、放射線インジケータに存する(請求項7)。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0023】
[1 フォトクロミック組成物]
本発明のフォトクロミック組成物は、放射線の照射により発光する発光体と、フォトクロミック化合物と、バインダ樹脂とを含有する組成物であって、フォトクロミック組成物の全固形分中におけるフォトクロミック化合物の含有率が10重量%以上であり、且つ、フォトクロミック化合物に対する発光体の含有重量比が8倍以下であることを特徴としている。
【0024】
[1.1 発光体]
本発明で使用する発光体は、放射線照射により励起され、発光するものであれば、その種類は特に問わない。
本発明で使用する発光体が励起される放射線の種類に特に制限はなく、紫外線、X線、γ線、α線、β線、電子線、中性子線等、様々な種類を挙げることができる。中でも、本発明のフォトクロミック組成物が使用される放射線インジケータの主な用途に鑑みて、本発明で使用する発光体は、10−5〜10nmの波長帯域の放射線により励起され発光するものであることが好ましく、特に、10−5〜10−2nmの波長帯域の放射線、即ちγ線等の高エネルギーの放射線により励起されるものがとりわけ好ましい。
【0025】
本発明のフォトクロミック組成物においては、一般にフォトクロミック化合物より原子量の大きい原子を含有する発光体を併用することにより、放射線を効率的に捕捉することが可能であり、また、励起状態の発光体からのエネルギー移動又は電子移動などによってフォトクロミック化合物の異性化反応が促進され、フォトクロミック組成物の放射線に対する感度が向上する(増感作用)。
【0026】
本発明で使用する発光体が発する光の種類についても、特に限定されるものではないが、フォトクロミック化合物の一方の異性体の吸収スペクトルと重複する発光スペクトルを有する必要がある。図1に、発光体の発光スペクトルとフォトクロミック化合物の吸収スペクトルとの重複を模式的に表した。
【0027】
中でも、紫外線波長領域に発光ピークを有する、つまり励起エネルギーのレベルがフォトクロミック化合物よりも高いと考えられる蛍光体(紫外線発光蛍光体)であることが好ましい。特に、10〜400nmの紫外線波長帯域の光を発するものであることが好ましい。
また、本発明で使用する発光体は、無機化合物であることが好ましい。
【0028】
また、本発明で使用する発光体は、本発明のフォトクロミック組成物の趣旨に鑑みて、放射線に対する感度が高く、発光量が充分に大きいものであることが好ましい。中でも、一般に原子番号の大きい原子(重原子)ほど放射線に対する感受性が強いことから、こうした重原子を含む発光体であって、放射線の照射によって発光するものが、好適に使用できる。具体的には、原子番号が19番以上の元素を含む発光体が好ましく、中でも、原子番号が37番以上の元素を含む発光体がより好ましい。
【0029】
本発明で使用する発光体の具体例としては、3Ca3(PO4)2・Ca(F,Cl)2:Sb3+、3Ca3(PO4)2・Ca(F,Cl)2:Sb3+,Mn2+、Sr10(PO4)6Cl2:Eu2+、(Sr,Ca)10(PO4)6Cl2:Eu2+、(Sr,Ca)10(PO4)6Cl2・nB2O3:Eu2+、(Ba,Ca,Mg)10(PO4)6Cl2:Eu2+等のハロりん酸塩蛍光体、Sr2P2O7:Sn2+、Ba2P2O7:Ti4+、(Sr,Mg)3(PO4)2:Sn2+、Ca3(PO4)2:Tl+、(Ca,Zn)3(PO4)2:Tl+、Sr2P2O7:Eu2+、SrMgP2O7:Eu2+、Sr3(PO4)2:Eu2+、2SrO・0.84P2O5・0.16B2O3:Eu2+、LaPO4:Ce3+,Tb3+、La2O3・0.2SiO2・0.9P2O5:Ce3+,Tb3+、Zn3(PO4)2:Mn2+、(Sr,Mg)3(PO4)2:Cu+等のりん酸塩蛍光体、Zn2SiO4:Mn2+、CaSiO3:Pb2+,Mn2+、(Ba,Sr,Mg)3Si2O7:Pb2+、(Ba,Mg,Zn)3Si2O7:Pb2+、BaSi2O5:Pb2+、Sr2Si3O8・2SrCl2:Eu2+、Ba3MgSi2O8:Eu2+、(Sr,Ba)Al2Si2O8:Eu2+、Y2SiO5:Ce3+,Tb3+等のけい酸塩蛍光体、CaWO4、CaWO4:Pb2+、MgWO4等のタングステン酸塩蛍光体、LiAlO2:Fe3+、BaAl8O13:Eu2+、BaMgAl10O17:Eu2+、BaMgAl10O17:Eu2+,Mn2+、Sr4Al14O25:Eu2+、SrMgAl10O17:Eu2+、CeMgAl11O19:Tb3+、CeMgAl11O19、(Ce,Gd)(Mg,Ba)Al11O19、Y2O3・Al2O3:Tb3+、Y3Al5O12:Ce3+等のアルミン酸塩蛍光体、その他Y2O3:Eu3+、YVO4:Eu3+、Y(P,V)O4:Eu3+、YVO4:Dy3+、Cd2B2O5:Mn2+、SrB4O7:Eu2+、SrB4O7F:Eu2+、GdMgB5O10:Ce3+,Tb3+、6MgO・As2O5:Mn4+、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn4+、MgGa2O4:Mn2+、ZnS:Ag、(Zn,Cd)S:Ag、(Zn,Cd)S:Cu,Al、ZnS:Ag、ZnS:Cu,Al、ZnS:Au,Cu,Al、CsI:Na、CsI:Tl、BaSO4:Eu2+、Gd2O2S:Tb3+、La2O2S:Tb3+、Y2O2S:Tb3+、Y2O2S:Eu3+、LaOBr:Tb3+、LaOBr:Tm3+、BaFCl:Eu2+、BaFBr:Eu2+、HfP2O7、LiF、Li2B4O7:Mn2+、CaF2:Mn2+、CaSO4:Mn2+、CaSO4:Dy3+、Mg2SiO4:Tb3+、CaF2:Eu2+、LiI:Eu2+、TlCl:Be,I、CsF、BaF2、Bi4Ge3O12、Kl:Tl、CaWO4、CdWO4等、実用蛍光体として用いられている様々な発光体を挙げることができる。なお、これらの発光体は、公知の手法を用いて適宜合成することが可能である。これらの発光体は、その多くが上に述べた原子番号が19番以上の元素や原子番号が37番以上の元素を含んでいることから、放射線に対する感度が高く、発光量も充分に大きい。
【0030】
これらの中でも特に、Ca3(PO4)2:Tl+、(Ca,Zn)3(PO4)2:Tl+、SrMgP2O7:Eu2+、SrB4O7F:Eu2+、(Ba,Sr,Mg)3Si2O7:Pb2+、(Ba,Mg,Zn)3Si2O7:Pb2+、BaSi2O5:Pb2+、(Sr,Ba)Al2Si2O8:Eu2+、CeMgAl11O19、(Ce,Gd)(Mg,Ba)Al11O19、SrB4O7:Eu2+、CsF、BaF2、BaSO4:Eu2+、BaFCl:Eu2+、BaFBr:Eu2+、HfP2O7、LiF等の紫外線発光蛍光体が好ましい。
なお、上述の各種蛍光体に代表される発光体は、単独で使用してもよく、複数種を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0031】
本発明に使用する発光体としては、照射光に対する発光効率が高いものが好ましい。つまり、例えば本発明のフォトクロミック組成物を、後述する放射線インジケータに使用する場合には、検出したい波長の光による刺激に対する、発光効率が高いものが好ましい。
また、発光体の密度が高い方が、検出したい光を細くする能力が高いため、好ましい。
【0032】
[1.2 フォトクロミック化合物]
フォトクロミック化合物とは、光や放射線の照射によって、異性化反応を生じる化合物のことをいう。
【0033】
本発明で使用するフォトクロミック化合物は、光や放射線の照射によって、光学的性質の異なる2種類の異性体を可逆的に生成する(即ち、これらの異性体間を相互に可逆的に転換される)化合物であれば、その種類に他に制限はない。例えば、ジアリールエテン系化合物、スピロピラン系化合物、フルギド系化合物、アゾベンゼン系化合物等が挙げられるが、中でもジアリールエテン系化合物が好ましく、特に、下記一般式(0)で表わされるジアリールエテン化合物が好ましい。
【化25】
【0034】
上記一般式(0)において、基R1及び基R2は各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基又はアルコキシ基を表わす。
【0035】
基X1、基X2、基Y1及び基Y2は、各々独立に、
【化26】
の何れかを表わす。
【0036】
基R3は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
【0037】
基R4は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
【0038】
また、上記一般式(0)において、環D1は、基X1、基Y1及びこれらと結合する2つの炭素原子とともに形成された、置換されていてもよい5員環又は6員環の芳香族環を表わす。環D1には更に、置換されていてもよい5員環又は6員環の芳香族環が縮合していてもよい。
【0039】
更に、環E1は、基X2、基Y2及びこれらと結合する2つの炭素原子とともに形成された、置換されていてもよい5員環又は6員環の芳香族環を表わす。環E1には更に、置換されていてもよい5員環又は6員環の芳香族環が縮合していてもよい。
【0040】
環D1及び環E1が有し得る置換基に特に制限は無いが、好ましくは基R13、R16〜R18、R25〜R27及びR29として後述する各基が挙げられる。
【0041】
なお、環D1又は環E1に対して更に芳香族環が縮合している場合に、この縮合環が更に、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アリルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基等の置換基を有していてもよい。
【0042】
また、
【化27】
は、
【化28】
を表わす。
【0043】
一般式(0)で表わされるジアリールエテン化合物は、合成して得られたものは通常基R1と基R2とが結合していない状態(この異性体を「開環体」と呼ぶ。)であるが、特定波長の光や放射線の照射によって、基R1と基R2とが結合した状態(この異性体を「閉環体」と呼ぶ。)となる。また、閉環体に、開環反応時とは異なる波長の光や放射線を照射することにより、基R1と基R2とは決裂して開環体へと戻る。即ち、光や放射線の照射によって異性化反応(閉環反応)を起こすことにより、開環体と閉環体という光学的性質の異なる2種類の異性体間を可逆的に転換されるのである。
【0044】
上記一般式(0)で表わされる化合物として、具体的には、下記一般式(I)又は(II)で表わされる化合物が好ましい。
【0045】
【化29】
【0046】
上記一般式(I)において、基R11及び基R12は各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基又はアルコキシ基を表わす。
【0047】
また、基X11及び基X12は各々独立に、
【化30】
の何れかを表わすが、中でも
【化31】
が好ましい。
【0048】
更に、基Y11及び基Y12は各々独立に、
【化32】
の何れかを表わす。
【0049】
なお、上記各例示式において、基R13は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わすが、中でも、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基が好ましい。
また、基R17は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
一般式(I)中に基R13や基R17がそれぞれ複数存在する場合、これら複数の基R13や基R17は各々独立であり、互いに同じでも異なっていても良い。
【0050】
基R15及び基R16は、各々独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
【0051】
基R15及び基R16がアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基又はシクロアルキル基である場合に、これらの基が有していても良い置換基としては、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アリルオキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0052】
基Y11及び/又は基Y12が
【化33】
である場合には、基R15及び/又は基R16が基R17と結合して、5員環又は6員環の芳香族環を形成していてもよい。
【0053】
該芳香族環が有していてもよい置換基としては、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アリルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0054】
【化34】
【0055】
上記一般式(II)において、基R21及び基R22は各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基又はアルコキシ基を表わす。
【0056】
また、基X21及び基X22は各々独立に、
【化35】
の何れかを表わす。
【0057】
更に、基Y21及び基Y22は各々独立に、
【化36】
の何れかを表わす。
【0058】
また、基R25及び基R26は、各々独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
【0059】
なお、上記各例示式において、基R23は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わすが、中でも、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基が好ましい。
また、基R27は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
一般式(II)中に基R23や基R27がそれぞれ複数存在する場合、これら複数の基R23や基R27は各々独立であり、互いに同じでも異なっていても良い。
【0060】
また、前記一般式(II)において、基R25及び基R26がアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基又はシクロアルキル基である場合に、これらの基が有していてもよい置換基としては、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アリルオキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0061】
ここで、基Y21及び/又は基Y22が
【化37】
である場合には、基R25及び/又は基R26が基R27と結合して、5員環又は6員環の芳香族環を形成していてもよい。
【0062】
この基R25又は基R26と基R27とが結合して5員環又は6員環の芳香環を形成する場合には、該芳香環は、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アリルオキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基等の置換基を有していてもよい。
【0063】
前記一般式(I)及び(II)における基R13、基R17、基R23及び基R27がアルキル基、アリール基又はシクロアルキル基である場合に、これらの基が有していてもよい置換基としては、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アリルオキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0064】
前記一般式(0)における環D1、環E1の具体例を以下に示す。
【化38】
【0065】
【化39】
【0066】
(上記各例示式において、基R13は、前記式(I)におけるものと同義であり、基R27は、前記一般式(II)におけるものと同義である。)
【0067】
これらの中でも、上記一般式(I)における、基X11及び基Y11を含む複素環、並びに基X12及び基Y12を含む複素環としては、次に挙げる置換基が好ましい。
【化40】
【0068】
上記各例示式において、複素環に縮合しているベンゼン環は、基R15又は基R16が基R17と結合することにより形成された環である。
【0069】
また、前記一般式(II)における、基X21及び基Y21を含む複素環、並びに基X22及び基Y22を含む複素環としては、次に挙げる置換基が好ましい。
【0070】
【化41】
【0071】
上記各例示式において、複素環に縮合しているベンゼン環は、基R25又は基R26が基R27と結合することにより形成された環である。
【0072】
前記一般式(I)で表わされる化合物の具体例を以下に示すが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。なお、以下の具体例において(t)C4H9はt−ブチル基を表わし、(i)C3H7はイソプロピル基を表わす。
【0073】
【化42】
【0074】
【化43】
【0075】
【化44】
【0076】
【化45】
【0077】
【化46】
【0078】
【化47】
【0079】
続いて、前記一般式(II)で表わされる化合物の具体例を以下に示すが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。なお、以下の具体例において(n)C3H7はn−ブチル基を表わす。
【化48】
【0080】
【化49】
【0081】
【化50】
【0082】
【化51】
【0083】
【化52】
【0084】
【化53】
【0085】
【化54】
【0086】
【化55】
【0087】
【化56】
【0088】
【化57】
【0089】
【化58】
【0090】
【化59】
【0091】
上に挙げた各種のフォトクロミック化合物は、公知の手法を用いて適宜合成することが可能である。例えば、特開平9−241625号公報等の記載から適宜選択した手法により合成することができる。
【0092】
なお、本発明では、前記一般式(0)で表わされるジアリールエテン化合物から選択した一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。後者の場合、例えば前記一般式(I)で表わされる化合物群、前記一般式(II)で表わされる化合物群、それ以外の化合物群の何れか一群から複数種選択しても良く、また、これらの化合物群のうち二群以上から各一種以上を選択して使用してもよい。更に、前記一般式(0)で表わされる化合物群の中から選ばれた一種又は二種以上の化合物と、その他の任意の一種又は二種以上の化合物とを、フォトクロミック化合物として併用してもかまわない。
【0093】
また、本発明で使用するフォトクロミック化合物は、熱不可逆性を示すものであることが好ましい。本発明において「熱不可逆性」とは、放射線の照射によって生成する方の異性体(例えば、一般式(0)のジアリールエテン化合物の場合は閉環体)に着目した場合に、30℃の環境における当該異性体の半減期が10日以上であることを意味するものとする。フォトクロミック化合物が熱不可逆性を示すものでないと、放射線の照射によって生成した異性体が室温で容易に異性化反応を起こしてもう一方の異性体(例えば、一般式(0)のジアリールエテン化合物の場合は開環体)に転換してしまい、放射線の照射によって生じた変色状態が安定に保たれない可能性があるため、本発明のフォトクロミック組成物を放射線インジケータに使用した場合に放射線量を正確に測定することができず、不具合が生じる虞がある。
【0094】
また、室内光などの環境光による退色を避けるためには、異性化反応(一般式(0)のジアリールエテン化合物の場合は開環反応)の量子収率が10−3以下であることが好ましい。より好ましくは10−4以下、特に好ましくは10−5以下である。
【0095】
[1.3 フォトクロミック化合物と発光体の組み合わせ]
本発明では、発光体の発光スペクトルの一部又は全部が、フォトクロミック化合物の一方の異性体の吸収スペクトルと重なるように、上述したフォトクロミック化合物と発光体とを選択して組み合わせる。このように構成することで、本発明のフォトクロミック組成物を放射線インジケータに使用した場合に、放射線の照射によって発光体の電子が励起状態となり、その励起状態からエネルギー又は電子がフォトクロミック化合物の励起状態へ移動することによって、フォトクロミック化合物の異性化反応が起こって変色するので、照射された放射線を効率的に検出することができ、その線量を高い感度で測定することが可能となる。
【0096】
例えば、フォトクロミック化合物として上記一般式(0)のジアリールエテン化合物を使用する場合、一方の異性体である開環体から他方の異性体である閉環体への異性化反応を効率よく生じさせるには、10〜400nmの紫外線波長帯域が好ましい。よって、このジアリールエテン化合物との組み合わせで使用する発光体は、主にこの紫外線波長帯域に発光波長帯域を有することが好ましい(すなわち、先に列挙した紫外線発光蛍光体)ということになる。
【0097】
特に、発光体の発光スペクトルと、ジアリールエテン化合物の開環体又は閉環体の極大吸収波長を含む吸収帯とは、できるだけ広い範囲にわたって重複していることが好ましい。
【0098】
また、発光体の発光スペクトルは、ジアリールエテン化合物の開環体の吸収スペクトルと重複することが好ましい。その理由としては、開環体は通常、放射線波長領域に吸収を有していること、開環反応より閉環反応の方が量子収率が高い場合が多いこと、閉環体の方が開環体より濃色である化合物が多いので、閉環体の生成で被曝を検出する方が容易であること、等が挙げられる。
【0099】
なお、本発明のフォトクロミック組成物に用いる発光体は、一種類であっても二種類以上を併用しても良い。特に、フォトクロミック化合物の吸収スペクトルピークがシャープである場合には、該ピーク波長に近い発光スペクトルを有する発光体を単独で使用することにより、特定波長領域において強い発光を得ることができ、放射線の検出感度を高めることができる。また、フォトクロミック化合物の吸収スペクトルピークがブロードである場合には、異なる波長領域の発光を呈する2つ以上の発光体を併用すれば、幅広い波長領域において発光を得ることができ、放射線を効率的に検出することが可能となる。
【0100】
[1.4 バインダ樹脂]
本発明で使用するバインダ樹脂は、上述した発光体及びフォトクロミック化合物を好適に溶解或いは分散させる樹脂であれば、その種類は特に限定されないが、本発明のフォトクロミック組成物を放射線インジケータに使用する際に、その形状を好適に維持できるものが好ましい。具体的には、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリナフタレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等が挙げられる。好ましくは、ポリスチレン樹脂、ポリナフタレン樹脂などの芳香族環を含むものである。
【0101】
[1.5 各成分の組成]
本発明のフォトクロミック組成物は、上述のフォトクロミック化合物と、発光体と、バインダ樹脂とを含有する組成物であるが、更にその他の各種成分を含んでいても良い。その他の成分としては、各種公知の分散剤、酸化防止剤、酸素トラップ剤、可塑剤等が挙げられる。また、これらの成分を適切な溶媒に溶解又は分散させて、溶液・分散液やスラリー等の状態として用いても良い。
【0102】
ここで、本発明のフォトクロミック組成物は、フォトクロミック化合物の含有率が所定の値以上であるとともに、フォトクロミック化合物の含有量に対する発光体の含有量の重量比(含有重量比)が所定の値以下であることを、その特徴としている。こうした組成によって、例えばガン治療等に使用するγ線などの高エネルギーの放射線を、感度良く検出することができる。また、フォトクロミック化合物の含有率が比較的多量であることから、併用する発光体が比較的少なくても、適度な増感効果が得られ、放射線を高感度で検知することが可能となる。
【0103】
さらに、本発明のフォトクロミック組成物は、発光体の含有量が比較的少量であることから、透明性が比較的高い。よって、例えば、本発明のフォトクロミック組成物からなる厚い層状の顕色部を有する放射線インジケータを作成して、顕色部の厚み方向の距離を大きくすれば、顕色部の厚み方向の色相変化の度合いを観測することにより、簡便な手法で放射線の照射線量を定量的に測定することができる。即ち、透明性が低い組成物の場合には、組成物内部で色相変化が起こっても、組成物表面の色相変化だけしか検知することができなかったが、本発明のように透明性が高い組成物においては、組成物内部の色相変化を組成物表面から観測することができるので、組成物の厚み方向の色相変化の度合いを定量的に計測することが可能となる。組成物の厚み方向の色相変化の度合いは放射線の照射線量にほぼ比例するので、これを観測することにより、放射線の照射線量の定量的な測定が可能となるのである。
【0104】
具体的に、本発明のフォトクロミック組成物におけるフォトクロミック化合物の含有率は、フォトクロミック組成物の全固形分中における比率として、通常10重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。フォトクロミック化合物の含有率がこの範囲を下回ると、比較的低エネルギーの放射線の検知が難しくなる傾向があり、この範囲を上回ると、組成物から発光体が析出する虞がある。
【0105】
ここで、フォトクロミック組成物の固形分とは、フォトクロミック組成物が完成した際に固形状態でフォトクロミック組成物に含まれ得る全成分のことをいう。従って、製造過程で用いられる溶媒などの液体成分は含まない。一方、製造過程で一時的に液体中に溶解した状態となる成分であっても、フォトクロミック組成物の完成品において(即ち、放射線の検知に用いられる際に)固体として存在し得るものであれば、固形分に含むものとする。
【0106】
また、本発明のフォトクロミック組成物において、フォトクロミック化合物に対する発光体の含有重量比は、通常8倍以下、好ましくは6倍以下、また、通常0.3倍以上、好ましくは0.5倍以上である。発光体の含有重量比がこの範囲を下回ると、低エネルギーの放射線の検出が困難になる虞があり、また、この範囲を上回ると、組成物の透明性が低下し、検出できる放射線の強度範囲が狭くなる傾向がある。
【0107】
更に、本発明のフォトクロミック組成物の全固形分中における発光体の含有率は、通常5重量%以上、好ましくは7重量%以上、より好ましくは10重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは45重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。発光体の含有率がこの範囲を下回ると、発光体による増感効果が不十分となる虞があり、この範囲を上回ると、組成物の透明性が低下し、検出できる放射線の強度範囲が狭くなる傾向がある。
【0108】
また、本発明のフォトクロミック組成物の全固形分中におけるバインダ樹脂の含有率は、通常0.1重量%以上、中でも1重量%以上、また、通常85重量%以下、中でも80重量%以下の範囲である。バインダ樹脂の含有率がこの範囲を下回ると、放射線インジケータの形状を一定に維持することが困難となる一方で、この範囲を上回ると、十分な量のフォトクロミック化合物や発光体を含有させることができなくなり、放射線の検出が困難となる。
【0109】
[2 フォトクロミック組成物の製造方法]
本発明のフォトクロミック組成物の製造方法は特に制限されず、通常は、用途とする放射線インジケータの態様に応じて、適当な方法により製造すればよい。例えば、(a)上述のフォトクロミック化合物及び発光体をバインダ樹脂とともに適切な溶媒に溶解又は分散させる方法や、(b)上述のフォトクロミック化合物及び発光体をバインダ樹脂と直接混合して、バインダ樹脂中に溶解又は分散させる方法などが挙げられる。これらの方法は任意に選択できるが、後述する放射線インジケータの製造において、フォトクロミック組成物を基材フィルム上に塗布して溶媒を乾燥し、成膜する場合には、(a)の方法で製造したフォトクロミック組成物が好ましく、フォトクロミック組成物を直接成形する場合には、(b)の方法で製造したフォトクロミック組成物が好適に用いられる。
【0110】
前記(a)の方法により製造する場合、使用する溶媒としては、上述のフォトクロミック化合物、発光体及びバインダ樹脂を好適に溶解或いは分散させるもので、且つ、成膜加工の際の妨げにならないものであれば、その種類は特に限定されない。具体的には、ベンゼン、トルエン等の芳香族溶媒、ヘキサン等の脂肪族溶媒、THF等のエーテル系溶媒、クロロホルム等の塩素系溶媒等、各種の有機溶媒が挙げられる。使用する溶媒の量は、全固形分100重量部に対して通常10重量部以上、好ましくは20重量部以上、また、通常500重量部以下、好ましくは300重量部以下である。
【0111】
この溶媒に、上述のフォトクロミック化合物、発光体、バインダ樹脂、及び必要に応じて使用される分散剤、酸化防止剤、酸素トラップ剤、可塑剤等のその他の添加剤を溶解或いは分散させて、本発明のフォトクロミック組成物を製造する。通常は、まずフォトクロミック化合物とバインダ樹脂とを溶媒に溶解或いは分散させ、続いて上述の発光体を混合し分散させることが好ましい。
【0112】
一方、前記(b)の方法による場合は、上述のフォトクロミック化合物及び発光体を、必要に応じて使用される分散剤、酸化防止剤、酸素トラップ剤、可塑剤等のその他の添加剤とともに、上述のバインダ樹脂に直接練り混んで、本発明のフォトクロミック組成物を製造する。
【0113】
[3 放射線インジケータ]
本発明のフォトクロミック組成物は、放射線インジケータの材料として好適に使用することができる。
具体的には、本発明のフォトクロミック組成物を、射出成形や押し出し成形、ヒートプレス法など公知の方法を用いて、そのままフィルム状や棒状等に成形加工すれば、放射線インジケータとなる。または、より好ましい手法として、適切な基材フィルム上に本発明のフォトクロミック組成物を塗布して成膜し、得られたフィルムを適宜加工して、これを放射線インジケータとして使用してもよい。
【0114】
基材フィルムの材料は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、特に制限されず、任意の材料を用いることができる。好ましい材料の例としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂等の合成樹脂からなるフィルムや、シート、基板などや、アルミ板等が挙げられる。
【0115】
成膜に際しては、キャスト法、スピンコート法、バーコーター法、ダイキャスト法など、種々の公知技術を用いて成膜加工することができるが、本発明のフォトクロミック組成物は発光体の含有量が少ないために粘度が比較的低いので、キャスト法により成膜加工を行なうことが好ましい。
【0116】
本発明のフォトクロミック組成物にて形成する層(顕色層)の厚みは、放射線インジケータとしての趣旨を逸脱するものでなければ特に限定されないが、通常0.01mm以上、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.3mm以上、また、通常10mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。顕色層の厚さがこの範囲を下回ると、感度が不十分となる虞があるとともに、十分な変色範囲を得ることができず、定量測定が可能な放射線の強度範囲が狭くなってしまう虞がある。一方で、顕色層の厚さがこの範囲を上回ると、放射線インジケータが大型化してしまい、取扱い性が悪くなるため好ましくない。
【0117】
以上のように作成された放射線インジケータを放射線に曝露すると、放射線の線量に応じて色調が変化する。この吸収、透過又は反射スペクトルを測定し、吸光度、透過率又は反射率の変化量を計測することにより、放射線の線量を検知することができる。
【0118】
特に、本発明の放射線インジケータは、γ線等の高エネルギーの放射線の検知に適している。例えば、血液照射用に使用されるγ線15Gyの検知などに使用できるほか、ガン治療などに用いるγ線のインジケータとしても使用できる。
【0119】
また、本発明の放射線インジケータは、X線の検知にも使用することができる。特に、X線の中でも、医療用でガン治療などに使用される高エネルギー線の検出に好適に用いられる。さらに、医療現場でレントゲンとして使用される程度の通常の強度のX線を検知する場合でも、IVR(interventional radiology)を始めとした治療用のインジケータとして好適に用いられる。
【0120】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。
【0121】
(実施例1)
ポリスチレン樹脂(バインダ樹脂)1.6g、下記構造式(I)で示されるフォトクロミック化合物0.2g、及び、発光体BaFCl;Eu2+ 0.2gを、トルエン0.7g中に溶解分散させた。得られた分散液(実施例1のフォトクロミック組成物)をキャスト法を用いて無色・透明のPET上に成膜し、80℃で30分乾燥してトルエンを除去し、厚さ0.4mmの膜状の顕色部を有する評価用サンプルを作成した。顕色部は無色であった。
【0122】
【化60】
【0123】
得られた評価用サンプルに、60Coから放射されるγ線を使用して、γ線を5Gy照射したところ、サンプルの顕色部は青色に変色した。
【0124】
γ線の照射前後の評価用サンプルの顕色部の色変化を、以下の手順に従って求めた。(株)島津製作所製・島津自記分光光度計UV−3100PCに、(株)島津製作所製・積分球付属装置ISR−3100を取り付け、JIS−K5600−4−5(塗料一般試験方法―第4部:塗膜の視覚特性―第5節;測色(測定))に従って、γ線照射前後の評価用サンプルの顕色部の反射スペクトルを波長380nmから780nmにかけて測定し、各波長の反射率を求め、これをC光源2度視野のL*a*b*表色系に変換した。さらに、JIS−K5600−4−6(塗料一般試験方法―第4部:塗膜の視覚特性―第6節;測色(色差の計算))に基づき、γ線照射前後のL*a*b*の値をもとに、γ線照射前後のサンプルの顕色部の色差を計算した。即ち、γ線照射前の色彩をL1*a1*b1*、照射後の色彩をL2*a2*b2*として、次の式(1)からX線照射前後の評価用サンプルの顕色部の色差を算出した。
色差={(L1*−L2*)2+(a1*−a2*)2+(b1*−b2*)2}1/2・・・式(1)
得られた結果を表1に示す。
【0125】
(実施例2)
ポリスチレン樹脂(バインダ樹脂)1.4g、上記構造式(I)で表わされるフォトクロミック化合物0.2g、及び、発光体BaFCl:Eu2+ 0.4gを、トルエン0.7gに溶解分散して、得られた分散液(実施例2のフォトクロミック組成物)を用いて実施例1と同様の手順で評価用サンプルを作成した。得られたサンプルは無色であった。このサンプルに、実施例1と同様の条件で実験を行ない、γ線照射前後の顕色部の色差を計算した。結果を表1に示した。
【0126】
(実施例3)
ポリスチレン樹脂(バインダ樹脂)1.2g、上記構造式(I)で表わされるフォトクロミック化合物0.2g、及び、発光体BaFCl:Eu2+ 0.6gを、トルエン0.7gに溶解分散して、得られた分散液(実施例3のフォトクロミック組成物)を用いて実施例1と同様の手順で評価用サンプルを作成した。得られたサンプルは無色であった。このサンプルに、実施例1と同様の条件で実験を行ない、γ線照射前後の顕色部の色差を計算した。結果を表1に示した。
【0127】
(実施例4)
ポリスチレン樹脂(バインダ樹脂)0.8g、上記構造式(I)で表わされるフォトクロミック化合物0.2g、及び、発光体BaFCl:Eu2+ 1.0gを、トルエン0.7gに溶解分散して、得られた分散液(実施例4のフォトクロミック組成物)を用いて実施例1と同様の手順で評価用サンプルを作成した。得られたサンプルは無色であった。このサンプルに、実施例1と同様の条件で実験を行ない、γ線照射前後の色差を計算した。結果を表1に示した。
【0128】
(比較例1)
ポリスチレン樹脂(バインダ樹脂)1.78g、上記構造式(I)で表わされるフォトクロミック化合物0.02g、及び、発光体BaFCl:Eu2+ 0.2gを、トルエン0.7gに溶解分散して、得られた分散液(比較例1のフォトクロミック組成物)を用いて実施例1と同様の手順で評価用サンプルを作成した。得られたサンプルは白色で、実施例1〜4に比較して透明性が劣っていた。このサンプルに、実施例1と同様の条件で実験を行ない、γ線照射前後の顕色部の色差を計算した。結果を表1に示した。
【0129】
【表1】
【0130】
表1からわかるように、全固形分中におけるフォトクロミック化合物の含有率([A]/{[A]+[B]+[C]})が10重量%以上であり、且つ、フォトクロミック化合物に対する発光体の含有重量比([A]:[B])が8倍以下である実施例1〜4の組成物を用いたサンプルは、上記の含有率及び重量比が規定範囲を満たさない比較例1の組成物を用いたサンプルと比べて、γ線照射前後の顕色部の色差が遥かに大きく、変色の度合いが激しいことから、γ線等の高エネルギーの放射線をより明確に検知でき、放射線インジケータとしてより優れていることが判る。また、実施例1〜4の組成物を用いたサンプルは、比較例1の組成物を用いたサンプルに比べて透明性が高いことから、厚み方向の色相変化を仔細に観察することができ、結果として広い強度範囲の放射線を定量的に測定することが可能であると考えられる。
【0131】
【発明の効果】
本発明のフォトクロミック組成物及び放射線インジケータによれば、γ線等の高エネルギーの放射線を感度良く、簡単に検知することができるとともに、放射線量を定量的に測定することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】発光体の発光スペクトルとフォトクロミック化合物の吸収スペクトルとの重複を模式的に表した図である。
Claims (7)
- 放射線の照射により発光する発光体と、フォトクロミック化合物と、バインダ樹脂とを含有するフォトクロミック組成物であって、
該フォトクロミック組成物の全固形分中における該フォトクロミック化合物の含有率が10重量%以上であり、且つ、
該フォトクロミック化合物に対する該発光体の含有重量比が8倍以下である
ことを特徴とする、フォトクロミック組成物。 - 該フォトクロミック化合物が、下記一般式(0)で表わされる化合物であることを特徴とする、請求項1記載のフォトクロミック組成物。
基X1、基X2、基Y1及び基Y2は、各々独立に、
基R3は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
基R4は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
環D1は、基X1、基Y1及びこれらと結合する2つの炭素原子とともに形成された、置換されていてもよい、5員環又は6員環の芳香族環を表わし、環E1は、基X2、基Y2及びこれらと結合する2つの炭素原子とともに形成された、置換されていてもよい、5員環又は6員環の芳香族環を表わす。
環D1及び環E1には更に、置換されていてもよい、5員環又は6員環の芳香族環が縮合していてもよい。
また、
- 該フォトクロミック化合物が、下記一般式(I)又は下記一般式(II)で表わされる化合物であることを特徴とする、請求項2記載のフォトクロミック組成物。
基X11及び基X12は、各々独立に、
基R15及び基R16は各々独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
基Y11及び/又は基Y12が
基R13は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
基R17は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
基X21及び基X22は、各々独立に、
基R25及び基R26は、各々独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
基Y21及び/又は基Y22が
基R23は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。
基R27は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいシクロアルキル基を表わす。 - 該フォトクロミック化合物が熱不可逆性であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載のフォトクロミック組成物。
- 該フォトクロミック化合物の異性化反応の量子収率が10−3以下であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載のフォトクロミック組成物。
- 該発光体が紫外線発光蛍光体であることを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載のフォトクロミック組成物。
- 請求項1〜6の何れか一項に記載のフォトクロミック組成物を含んでなることを特徴とする、放射線インジケータ。
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