JP2004534473A - 周波数調整可能な共振器 - Google Patents

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Abstract

周波数調整可能な共振器は、少なくとも1つの圧電体層(2)と少なくとも1つの半導体層(1,3)とを備えたベースボディを有している。ベースボディの主表面に構成された2つの電極(E1,E2)に外部電圧が印加され、ここで電圧に依存してベースボディまたは共振器の共振周波数が調整される。

Description

【技術分野】
【0001】
音波で動作する共振器、いわゆるFBAR(Thin-film Bulk Acoustic Resonator)またはBAW共振器(Bulk Acoustic Wave Resonator)は2つの主表面にそれぞれ1つずつ電極を設けた圧電性のベースボディを基礎としている。こうした共振器は共振周波数frを有しており、これは電極間で測定されるベースボディの厚さLに依存する式
fr=v/2L
ここでvは圧電性のベースボディの縦波の速度である
にしたがって得られる。この種の共振器は例えばHFフィルタに使用される。当該の周波数領域ではベースボディにμmのオーダーの層厚さが要求されるため、こうしたベースボディの製造には薄膜形成プロセスを用いなければならない。HFフィルタ用のFBAR共振器を使用して高い効率を達成するためには、0.3%より小さい最大差で層厚さを高度に均一に保ち、シャープでしかも所望の位置にくる共振周波数を得る必要がある。ただしこんにち用いられている層堆積技術ではこうした層厚さの均一性は150mm以上の径を有する基板上では達成できない。
【0002】
ここで、後からのトリミング(層厚さひいては共振周波数の後からの補正)により薄膜技術で製造された層を所望の均一性および層厚さが得られるまで処理する手法が存在する。ただしこの手法には付加的に材料を堆積したり除去したりする手間がかかる。したがってこの手法は利益率の高い量産に対してはいまだ未熟で、コスト高である。
【0003】
FBAR共振器を所望の共振周波数へ調整するためにこんにち主として2つの手段が知られている。個々の適用分野において経済的な負担がそれほど問題にならないのであれば、前述したように後からのデポジションまたはイオンビームエッチングを用いて各共振器を所望の共振周波数へトリミングすることができる。それ以外には、共振器を外部の電気的スイッチング素子(特にLC素子を含むスイッチング手段)により外部の回路網へ適合させ、所望の共振周波数frを調整することも可能である。ただしこれらの手段もフィルタのコストを上昇させるし、フィルタヴォリュームが通信用途向きではなくセンサエレメントまたは制御回路において使用するのにクリティカルな大きさである場合にしか実現できない。
【0004】
したがって本発明の課題は、簡単な手段で所望の共振周波数を調整可能な共振器を提供することである。
【0005】
この課題は本発明により請求項1の特徴部分記載の共振器を構成することにより解決される。本発明の装置の有利な実施形態および共振器の周波数調整方法は他の請求項から得られる。
【0006】
本発明によれば、共振器のベースボディに振動を励起する圧電体層のほか付加的に半導体層が設けられ、この半導体層が圧電体層よりも高い第1の導電型の導電率を有するようにする。ベースボディの2つの主表面にはそれぞれ1つずつ電極層が設けられ、各電極層は電圧を印加する端子を有する。この種の共振器へ電圧を印加することにより、ベースボディでは電荷担体が拡散してショットキー空間電荷ゾーンの厚さが制御される。これにより導電率ひいては誘電定数が著しく変更される。このような空間電荷ゾーンは音波の縦波に対して半導体層とは異なってふるまい、ベースボディのうち共振周波数を定める活性層の厚さに寄与する。本発明の共振器に電圧を印加することにより活性層の厚さが増大し、その結果共振周波数が変化する。したがって本発明の共振器は外部電圧を電極へ印加することにより共振周波数を調整可能となる。
【0007】
本発明は簡単な手段で共振器を使用可能であり、所望の共振周波数への調整を行うのに煩雑なトリミングプロセスも付加的な外部のスイッチング素子も必要ない。電圧の変化が小さければ、共振周波数の変化分は印加電圧にほぼ線形に依存する。印加電圧の極性によりここでは周波数オフセットの方向が定められる。つまり一般に空間電荷ゾーンを増大すれば高い共振周波数が得られ、また空間電荷ゾーンを縮小すれば低い共振周波数が得られる。
【0008】
半導体層は有利には圧電圧層と電極とのあいだに配置される。これは第1の導電型としてpタイプまたはnタイプに設定される。使用される半導体に応じて導電率(ドープ濃度)または半導体化合物の化学量比が調整される。
【0009】
有利には圧電体層に対してドープ濃度または化学量比を変更することにより半導体特性ひいては高い導電率を形成できる材料が用いられる。導電率が増大するにつれて圧電性は低下する。もともと圧電性の材料をこのように半導体特性を有するように調整して半導体層として用いる場合、適切な極性の電圧を印加すると半導体層内の空間電荷ゾーンが拡大し、その特性が再び圧電体層のそれへと近づく。共振周波数の変化は空間電荷ゾーンの厚さの変化に依存している。したがって空間電荷ゾーンの厚さの変化分と圧電体層の層厚さの変化分との関係は共振周波数のオフセットの規模を定める尺度となる。
【0010】
圧電体層および半導体層に同じ材料を用いることにより特に簡単に本発明の共振器を製造できる。この場合半導体層は層形成中に薄膜プロセスで圧電体層の堆積条件の変更またはドープを行ったり、またはベースボディの主表面近傍の層領域の圧電体層のドープ濃度を後から変更したりすることにより特に簡単に製造される。さらにベースボディの材料がほぼ一様になれば機械的な安定性や安定した振動特性が得られ、半導体層と圧電体層とのあいだまたは半導体層と電極とあいだの界面の問題が回避される。
【0011】
層を形成する際の問題を無視するなら、基本的に種々の材料を圧電体層および半導体層に使用することができる。
【0012】
本発明の1つの有利な実施形態では、共振器のベースボディがpinダイオードに似た構造を有するようにする。このためには第1の導電型の第1の半導体層に加えて、圧電体層のもう一方の主表面に第2の導電型の第2の半導体層を配置する。こうした“pin構造”では電荷担体が第1の導電型の第1の半導体層から第2の導電型の第2の半導体層へ自然に拡散することにより拡散電圧ひいては空間電荷ゾーン(多数キャリアの空乏領域)が生じる利点を有する。拡散は発生した拡散電圧が多数キャリアのさらなるオフセットにとって反対の作用を有するようになるとストップする。ここで自然な空間電荷ゾーンの厚さは印加される外部電圧により変更することができる。印加される外部電圧は発生する拡散電圧に加えて空間電荷ゾーンの厚さを増大するように極性付けられる。同様に処理領域の厚さを低減するには外部電圧が相応に反対に極性付けられる。pin構造は相互に異なる第1の導電型と第2の導電型とを組み合わせ、そのあいだに導電率の低い圧電性材料を配置する構成であるが、これは拡散電圧がVのオーダーでそれほど大きくならないという利点を有する。つまり周波数の高い交流電圧が印加される場合にもブレイクダウンの確実性および周波数安定性が保証される。阻止方向で印加される外部電圧のレベルは無制限である。もちろん圧電体層が小さな導電率を有するようにし、第1の導電型または第2の導電型の多数キャリアが存在するようにしてもよい。
【0013】
本発明の別の有利な実施形態によれば、圧電体層の両側にそれぞれ1つずつ同じ導電型の半導体層が設けられる。この実施例の共振器は相応のダイオードの名称を借りればnin構造またはpip構造を有すると云える。こうした共振器は半導体層と圧電体層とのあいだの界面(pip構造)または半導体層と電極とあいだの界面(nin構造)に2つの空間電荷ゾーンを有する。ゾーンの厚さは印加される外部電圧によって増減される。圧電体層にコンタクトを介して電極が設けられ、外部電圧が対称に2つの空間電荷ゾーンに作用する阻止電圧として印加される場合、pin構造に比べて、共振器の駆動中に周波数の高い振幅の大きな交流電圧が印加されても2つの空間電荷ゾーンの全厚さが一定にとどまるという利点が得られる。pin構造では高周波数で振幅の大きな交流電圧が印加されると空乏領域の厚さが変化してしまう。
【0014】
共振器がバッテリ駆動される電気的な移動機器、例えばワイヤレス通信装置用のフィルタなどで使用される場合、pin構造、pip構造、nin構造により3V程度の通常のバッテリ電圧で4000ppmの充分な周波数オフセットが達成される。電荷担体(電子および正孔)の拡散は圧電体層で可能となる。これは一般にランダムなドープまたは不純物混入による小さな残留導電率のために起こる。
【0015】
本発明によれば、必要面積の小さいコスト上有利な共振器が得られ、これを市販の携帯電話の給電部によって駆動することができる。印加される外部電圧での周波数調整により、同じ共振器を使用して、種々の外部電圧から種々の共振周波数を調整することができる。また本発明の共振器では製造誤差のために異なる共振周波数を有する共振器を外部電圧によって所望の均一な値へ追従制御することができる。このことから付加的に製造過程も簡単化される。なぜなら層厚さの変動に対する許容値が製造差の範囲内で著しく改善されるからである。従来公知の周波数調整可能なエレメントとは異なり、本発明の装置は必要面積の点で大幅に改善された個別のエレメントとして実現される。これによりさらにスペースが節約され、携帯電話などの移動機器に要求される微細化にとって有意である。
【0016】
化学量比またはドープ濃度を相応に変更して半導体特性を持たせた圧電体層の有利な材料は、亜鉛酸化物、アルミニウム窒化物、ガリウム窒化物、インジウム窒化物、ケイ素炭化物、ガリウムヒ化物、またはカドミウム硫化物である。基本的には半導体特性を有している圧電材料であればここに挙げないものも使用することができる。当該の材料に対して相応の導電型を形成するドープ物質が知られている。亜鉛酸化物に対してp導電型を形成するには例えばマンガン、水素、リチウム、ナトリウムまたはカリウムが適している。このときn導電型を形成するには、アルミニウム、ガリウム、インジウムまたは亜鉛硫化物が用いられる。アルミニウム窒化物に対するpドープ物質はマグネシウム、亜鉛、カドミウムまたは炭素であり、これらはケイ素に対してn導電型を形成することができる。ガリウム窒化物に対するpドープ物質はマグネシウム、亜鉛、カドミウム、炭素であり、これらも同様にケイ素に対するnドープ物質となる。ガリウムヒ化物に対するpドープ物質はゲルマニウム、ベリリウム、亜鉛であり、nドープ物質は錫、硫黄、テルルである。これらの物質は全て化学量比つまり2つの物質の原子量の比を変更することにより導電率を変化させることができる。こうした調整は相応の薄膜プロセスの堆積パラメータを変更するかまたは最終物質の比を変更することにより簡単に達成できる。
【0017】
電極材料としてはモリブデン、チタン、タングステン、アルミニウム、金または白金などの従来周知の電極材料が適しているが、場合によっては製造条件に依存して第1の下方の電極の材料を特別に選択すると有利である。この電極は半導体層および圧電体層を薄膜プロセスによって堆積する際のベースとして用いられるからである。この場合第1の電極層としてモリブデン、タングステン、金またはアルミニウムを選択すると特に有利である。
【0018】
圧電体層と半導体層とに対して異なる材料を選択する場合、有利には層の調和に注意する。例えば機械的なパラメータ、特に類似の拡張係数および結晶パラメータが一致するように選択される。同様に種々の上方層が第1の下方の層上に良好かつ均一に成長するように注意する。場合によっては2つの層のあいだに特性を適合させるための中性のバッファ層を設けることもできるが、その場合にも導電率は充分に保持される。
【0019】
半導体層の電荷担体濃度は1014個/cm〜1021個/cmに設定される。半導体層がもともとは圧電体層であって基本的にドープ濃度のみによって半導体特性を有している場合、一般には導電率が増大するにつれて圧電特性は低下する。電荷担体濃度の下方領域は真性の電荷担体濃度n、すなわち“非導電性”の圧電材料で得られる電荷担体濃度に近い。例えば圧電性の亜鉛酸化物の真性の電荷担体濃度nは約1012個/cmである。半導体層の多数キャリアの濃度が高まるにつれ、pin構造、pip構造、nin構造のエレメントで発生する拡散電圧も大きくなる。拡散電圧が高くなると厚い空間電荷ゾーンが生じ、基本的には適切に極性付けられた電圧を印加することにより空乏領域の厚さを変更することができるようになる。このとき半導体層のドープ濃度および化学量比を変更することにより本発明の共振器の制御インターバルが変更される。
【0020】
本発明の共振器の制御インターバルを定める別のパラメータは半導体層の厚さである。これは有利には10nm〜500nmの範囲で設定される。一般に半導体層の厚さによって相対の周波数オフセットの最大幅Δfmax/fが上昇する。圧電体層の厚さは自由には選択できない。なぜなら圧電体層はBAW共振器の周波数調整素子であり、所望の周波数に依存して固定の設定値を取るからである。
【0021】
以下に本発明を9つの図に示した実施例に則して詳細に説明する。図1にはpin構造の本発明の共振器の断面図が示されている。図2には共振器の典型的なアドミタンス特性が示されている。図3には図1の共振器の空間電荷ゾーンの厚さと印加される外部電圧との依存関係が示されている。図4には図1の共振器に印加される外部電圧と相対的な共振周波数の変化分Δf/fとの依存関係が示されている。図5、図6にはpip構造およびnin構造の本発明の共振器の断面図が示されている。図7には図5、図6の共振器に印加される外部電圧と相対的な共振周波数の変化分Δf/fとの依存関係が示されている。図8には共振周波数のオフセットのアドミタンス曲線が示されている。図9にはpin構造、pip構造、nin構造の本発明の共振器の等価電子回路図が示されている。
【0022】
第1の実施例として圧電性材料としての亜鉛酸化物ZnOベースのBAW共振器が製造される。この共振器の構造は半導体層の製造に先んじて基本的に周知のプロセスであり、例えばK.M.Lakin et all, "Microwave Symposium Digest", IEEE MTTS International 1995, 838頁〜886頁に記載されている。
【0023】
図1には基板として例えばシリコン基板が使用されることが示されている。ただし他の支持体材料、例えばガラス、SiC、SiGe、InP、GaAs、サファイアその他を使用することもできる。基板材料内への音響損失を回避するために、ブリッジ構造、すなわち下方の電極E1と基板材料Sとのあいだに空隙が設けられる構造の共振器を構成してもよい。また図1に示されているように、基板と下方の電極E1とのあいだに音響鏡ASを設けることもできる。これはλ/4層、例えばタングステンおよびケイ素酸化物、タングステンおよびケイ素、アルミニウム窒化物およびケイ素酸化物、ケイ素およびケイ素酸化物、モリブデンおよびケイ素酸化物の交互の層、または他の材料の組み合わせから簡単に形成される。これらの材料は種々の音響インピーダンスを有しかつ薄膜技術で交互に堆積可能である。
【0024】
高い音響インピーダンス差を有する組み合わせのタングステンおよびケイ素酸化物を使用する場合、2組のλ/4層があれば音波をほぼ100%反射させるのに充分であるとわかっている。低い音響インピーダンス差を有する組み合わせのタングステンおよびケイ素またはケイ素酸化物を使用する場合には、音波をほぼ100%反射させるのに少なくとも15組のλ/4層が必要となる。
【0025】
音響鏡ASの上方に第1の電極E1が例えば金、アルミニウム、タングステンまたはモリブデンのスパッタリングにより形成される。これに代わる被着プロセスとしてはCVD法または蒸着法が適している。例えば2GHzで動作する共振器のために200nmのアルミニウムをスパッタリングする。第1の電極E1の上方には第1の半導体層3、例えば50nm厚さのnドープ亜鉛酸化物層が形成される。その際にはまずドープされていない亜鉛酸化物をスパッタリングまたはCVD法により被着し、続いてドープする。nドープ物質として、アルミニウム、ガリウムまたはインジウムの元素が適している。亜鉛硫化物をn導電型のドープ物質として有利には層形成中のコデポジションプロセスにより導入することもできる。また代替的な手段として、亜鉛酸化物の堆積中に酸素量を高め、酸素リッチなn導電型に修正された亜鉛酸化物を形成することもできる。ドープ物質のレベルは
1014個cm−3〜1021個cm−3であり、例えば1017cm−3である。
【0026】
第1の半導体層3の上方には本来の共振器層、すなわち圧電体層2が形成される。有利にはドープされていない亜鉛酸化物層2は第1の半導体層すなわちnドープされた亜鉛酸化物層3と同じプロセスで形成される。堆積条件に応じて1011cm−3〜1012cm−3の電荷担体濃度で真性導電率の小さい圧電体層2が堆積される。この電荷担体濃度では良好な絶縁性を有する亜鉛酸化物層が得られ、しかもこれは前述の亜鉛酸化物層内での電荷担体の拡散を生じさせるのに充分な導電率を示す。亜鉛酸化物層2は良好な圧電特性を有する。
【0027】
さらにその上に第2の半導体層1としてp導電型の亜鉛酸化物の薄膜が形成される。これは例えばドープ材料を直接にデポジションしたり、または酸素リーンなp導電特性を有する亜鉛酸化物を形成したりすることにより行われる。圧電体層2は相応に厚くなり、上部の領域は後からのドープにより半導体層へ変換される。ここで重要なのはドープの深度が充分に監視され、圧電体層に対して明確に定義された層厚さが保証されることである。この層厚さは前述したように周波数を調整する共振器のパラメータとなっている。したがって有利には第2の半導体層1をドープによって形成する製造プロセスが用いられる。これによりシャープな界面を形成することができる。
【0028】
第2の半導体層1の上方に第2の電極E2が形成される。この電極は従来の電極材料から構成することもできるが、有利には第1の電極E1と同じ材料から、つまり例えば200nmの厚さのアルミニウム層から製造される。
【0029】
T1、T2で示されているのは電圧および/またはHF信号を印加する電気端子である。これらは第1の電極E1および第2の電極E2に接続されている。
【0030】
図2には共振器に典型的なアドミタンス特性が示されている。こうした特性は従来周知の共振器においても本発明の共振器においても観察される。
【0031】
層1、2、3を含むベースボディ内で外部からの駆動力なしに半導体層の電荷担体の拡散、特に第1の半導体層3から第2の半導体層1へ移動する電子、第2の半導体層1から第1の半導体層3へ移動する正孔の拡散が変更される。拡散した電荷担体は厚さの差はあるものの空間電荷ゾーン3a、1aを圧電体層2の両側に形成し、そこに存在するそれぞれ反対の型の1次電荷担体を補償する。空間電荷ゾーンでは実際には自由な電荷担体は存在しない。空間電荷ゾーンの厚さdp、dnはドープのレベル、半導体層の厚さおよび圧電体層の厚さに依存している。空間電荷ゾーンの全厚さdは個々の空間電荷ゾーンdp、dnの和、すなわちd=dp+dnとして得られる。
【0032】
電圧を端子T1、T2へ印加することにより電荷担体の拡散によって生じる拡散電圧Vは増幅または減衰される。ここでは空間電荷ゾーンの厚さは印加される電圧の極性によって低減または増大される。印加される外部電圧Uから得られる空乏領域の全厚さは
【0033】
【数1】
Figure 2004534473
の式から得られる。この式でVは拡散電圧であり、Lは圧電体層2の本来の厚さであり、Nはnドープされる半導体層3のドナーのドープ濃度、Nはpドープされる半導体層1のアクセプタのドープ濃度であり、eは電子の電気素量であり、ε、εは半導体層の誘電定数である。
【0034】
図3にはpin構造の共振器について空乏領域の厚さdと印加される外部電圧Uの値との関係が示されている。ここで、小さな変化分では厚さdは電圧Uに対して近似に線形の特性を有している。
【0035】
図4には相対的な周波数変化分Δf/f、すなわち中心周波数に対する周波数変化分の比がほぼ線形となることが示されている。図3、図4にはpin構造の共振器の拡散電圧の値を超えないかぎり順方向で印加される外部電圧に対しては線形性が保持されることが示されている。したがって拡散電圧と印加される外部電圧との和から形成される効果的な電圧はつねに阻止方向となることが保証される。
【0036】
次に共振器の他の特性が本発明にどれだけ影響するかを考察する。半導体層と圧電体層との比抵抗および層厚さにより個々の層を介した電圧降下が生じる。図1のように構成された本発明の共振器では例えば以下の材料パラメータが存在すると仮定する。すなわち、アルミニウムを含む電極は2.7×10−6Ω×cmの比抵抗、pドープまたはnドープされる亜鉛酸化物層(第1の半導体層および第2の半導体層)は4×1023−3のドープ濃度および15cm/Vsの電荷担体運動力で1Ω×cmの比抵抗を有し、圧電性の亜鉛酸化物層は10Ω×cmの比抵抗を有する。これにより拡散電圧Vおよび付加的に印加される電圧Uは主として空乏領域1a、3aおよび圧電体層2で降下する。
【0037】
完全な電圧が圧電性の層領域(圧電体層+空乏領域)に印加されるので、これらの層領域での共振器機能は損なわれない。
【0038】
次に半導体特性ひいては導電性の層が共振器内でどれだけノイズをもたらすかを考察する。こうした現象は発生した電荷がベースボディを通ってそれぞれ対向する電極のほうへ拡散し、そこで付加的な電流寄与分となってノイズを送出する場合に生じる。ただし推定によれば、本発明の共振器が阻止方向で駆動されるとき、付加的なノイズは回避不能なリーク電流成分に対して最適化された圧電体層において無視できる程度に小さい。ここから本発明の共振器が従来の高周波数フィルタ用のBAW共振器などの共振器に適していることがわかる。
【0039】
さらに、いわゆる自由な電荷が半導体層の内部で第1の電極E1、第2の電極E2へ印加される高周波数の交流場からどれだけのエネルギを引き取るかを考察する。こうしたエネルギの収容は共振器の内部で音波の縦波の減衰を引き起こし、共振特性を劣化させる。粘性による減衰は、主として観察される材料の相対的な誘電定数が可変の変数となるので、依存関係が複雑である。これはさらに電荷担体濃度Nにも依存している。減衰が電荷担体濃度Nに依存して定まる場合、特徴的な最大値は値N=0.004×1017cm−3で得られる。この最大値で吸収率はドープされていない亜鉛酸化物すなわち圧電体層2のの約100倍高い。アルミニウムの吸収率に比べてこの最大値は約13倍高く、現在ふつうに共振器の電極材料として用いられている金の吸収率に比べても約5倍高い。半導体層に対して選定された4×1017cm−3のドープ濃度では印加される外部電圧によってほぼ2オーダーの範囲で変動する電荷担体濃度が得られる。これによりpドープされる半導体層1およびnドープされる半導体層3(亜鉛酸化物層)の吸収率は最大でも通常のBAW共振器で電極として使用されている厚い金層の吸収率に相応する。したがって本発明の共振器での付加的な吸収は従来の共振器のそれよりも小さい。
【0040】
図5にはpip構造の半導体層を有する本発明の共振器の実施例が示されている。付加的な第3の電極E3がpip構造のi層に当たる圧電体層2に設けられる。この第3の電極によりpドープされた半導体層4、5が圧電体層2に対してバイアスされ、半導体層4、5を負の極性にすると阻止電圧が増大する。印加される外部電圧のレベルにより、半導体層4、5と圧電体層2とのあいだの界面に生じる空間電荷ゾーンの厚さが変化する。空間電荷ゾーンは電荷のかかった領域の極性符号で示されている。
【0041】
図6には本発明の別の実施例が示されている。ここでは共振器は相応にnドープされた半導体層6、7によるnin構造を有している。このとき空間電荷ゾーンは半導体層6と金属電極E1とのあいだおよび半導体層7と金属電極E2とのあいだに形成される(金属‐半導体ショットキーコンタクト)。nin構造のi層となる圧電体層2に付加的な電極E3を設けることにより、半導体層6、7は金属電極E1、E2からバイアスされる。ここでも金属電極E1、E2を負に極性付ける(図中に示されているのと同様に極性付ける)ことにより阻止電圧が上昇する。印加される外部電圧のレベルにより空間電荷ゾーンの厚さが変化する。空間電荷ゾーンはここでも空間電荷ゾーンの電荷のかかった領域の極性符号で示されている。
【0042】
図7にはnin構造の共振器についての相対的な周波数オフセットと印加される外部電圧Uとのあいだで実験により計算された非線形の依存関係が示されている。ここではドープ濃度1017cm−3の曲線が実線で、1015cm−3の曲線が破線で示されている。図から見て取れるように、所定の限界範囲内で制御インターバルを調整可能である。さらに共振周波数の制御はそれぞれ共振周波数のインターバルと電圧インターバルとの比から生じ、曲線特性の傾きに相応する種々の感度で行われる。pip構造の共振器においても基本的に同様の特性が計算される。ここではオフセットに必要な電圧のみが変化する。
【0043】
図8には特殊なnin構造の共振器について印加される外部電圧がある場合とない場合とのアドミタンス曲線の例が示されている。ここで得られる共振周波数オフセットは−4100ppmでの1947MHz〜1939MHzと、+4100ppmでの1947MHz〜1955MHzである。オフセットの方向の違いは印加される外部電圧の極性の違いに相応する。同様のグラフはpip構造の共振器でも観察されるが、このときには必要な電圧を異なって選択しなければならない。
【0044】
図9には半導体層によって周波数調整可能なpin構造、pip構造およびnin構造の共振器の電子的な等価回路図が示されている。ここでは半導体層のない周波数調整不能なかたちの共振器が素子Ldyn、Cdyn、Cstat(破線で囲まれている素子)によって形成されている。Ldyn、CdynはBAW共振器のダイナミックなインダクタンスおよびキャパシタンスを表しており、Cstatは共振器のスタティックなキャパシタンスを表している。電圧制御される空間電荷ゾーンは半導体層をBAW共振器に挿入することにより得られ、ここから周波数調整機能が達成される。このことは等価回路図では電圧に依存する付加キャパシタンスCで考慮されている。T1、T2は電圧および/またはHF信号を印加する電気端子であり、T3はnin構造およびpip構造の共振器の圧電体層の電極である。印加される外部電圧のレベルUが空間電荷ゾーンの厚さdを増減し、これにより電圧に依存するキャパシタンスCはこれとは逆に増減する。等価回路図では相対的な共振周波数オフセットΔf/fと電圧に依存するキャパシタンスCとのあいだの関係は
【0045】
【数2】
Figure 2004534473
により表されている。ここでfr、faは周波数調整可能な共振器の共振周波数および反共振周波数である。
【0046】
本発明をここでは具体的な構造の実施例に則して説明したが、本発明はこれに限定されない。圧電体層および半導体層を種々に組み合わせて本発明の共振器を構成することができる。これはこうした組み合わせそれ自体または後に印加される外部電圧によって半導体層内に空乏領域を形成し、電圧で制御されるその大きさから共振器の共振周波数を制御できるためである。したがって圧電体層に適した材料の選択および半導体層に適した材料の選択には実際には制限はない。ただし圧電体層および半導体層の組み合わせを同じ材料ベースで製造し、相応のドープ濃度の変更または化学量比の変更によって半導体特性を調整すると有利である。他のパラメータとしては、設けられる層の厚さの比、ドープ濃度のレベル、または半導体層内の電荷担体濃度のレベルなどが挙げられる。
【0047】
本発明の共振器は調整可能な周波数発生器として使用することができる。有利には分岐回路技術、例えばラダー構造の回路における透過帯域フィルタのリアクタンス素子として使用される。また本発明の共振器を、共振周波数に作用する外部物理量を測定するセンサや周波数オフセットの尺度を求めるセンサとして使用することもできる。本発明にしたがって共振周波数を追従制御することにより、測定すべきパラメータを制御電圧から簡単に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】pin構造の本発明の共振器の断面図である。
【0049】
【図2】共振器の典型的なアドミタンス特性のグラフである。
【0050】
【図3】空間電荷ゾーンの厚さと外部電圧との依存関係を示すグラフである。
【0051】
【図4】図1の共振器の外部電圧と共振周波数の変化分Δf/fとの依存関係を示すグラフである。
【0052】
【図5】pip構造の本発明の共振器の断面図である。
【0053】
【図6】nin構造の本発明の共振器の断面図である。
【0054】
【図7】図5、図6の共振器の外部電圧と相対的な共振周波数の変化分Δf/fとの依存関係を示すグラフである。
【0055】
【図8】共振周波数のオフセットのアドミタンス曲線を示すグラフである。
【0056】
【図9】本発明の共振器の等価電子回路図である。

Claims (18)

  1. 圧電体層(2)を含み、相互に平行な2つの主表面を有するベースボディが設けられており、
    ベースボディ内で一方の主表面の近傍に第1の導電型で圧電体層よりも高い導電率を有する第1の半導体層(3,4,6)が設けられており、
    2つの主表面はそれぞれ電極層(E1,E2)でカバーされており、
    各電極層は電圧および/または電気信号を印加するための電気端子(T1,T2;T1HF,T2HF)に接続されている
    ことを特徴とする共振器。
  2. 半導体層(3,4,6)および圧電体層(2)は同じ金属を含んでおり、ここで半導体層(3,4,6)と圧電体層とは異なるドープ濃度または異なる化学量比を有する、請求項1記載の共振器。
  3. 第1の半導体層(3,4,6)とは反対側の主表面の近傍に異なる導電型で圧電体層よりも高い導電率を有する第2の半導体層(1,5,7)が設けられており、各半導体層およびその間に存在する圧電体層を備えたベースボディはpinダイオードの構造を有している、請求項1または2記載の共振器。
  4. 第1の半導体層(3,4,6)とは反対側の主表面の近傍に同じ導電型で圧電体層よりも高い導電率を有する第2の半導体層(1,5,7)が設けられており、圧電体層(2)は付加的な電極(E3)に接続されている、請求項1または2記載の共振器。
  5. 圧電体層(2)の材料は半導体特性を有しており、亜鉛酸化物、アルミニウム酸化物、ガリウム窒化物、インジウム窒化物、ケイ素炭化物、ガリウムヒ化物またはカドミウム硫化物、またはその他の半導体特性を備えた圧電材料から選択されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の共振器。
  6. 半導体特性(1,3,4,5,6,7)は1014cm−3〜1021cm−3の範囲のドープ濃度または電荷担体濃度を有している、請求項1から5までのいずれか1項記載の共振器。
  7. ベースボディは半導体層(1,3,4,5,6,7)によって区切られており、10nm〜500nmの厚さを有する、請求項6記載の共振器。
  8. 圧電体層(2)の厚さは共振周波数fの範囲が無線通信システムで用いられている500MHz〜10GHzの周波数となるように選定されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の共振器。
  9. 各電極(E1,E2,E3)は電圧源に接続されており、該電圧源には電圧を可変に調製する手段が設けられている、請求項1から8までのいずれか1項記載の共振器。
  10. 相互に平行な主表面に配置された2つの電極(E1,E2)を有するベースボディが設けられており、該ベースボディは1つの圧電体層と2つの半導体層とを有しており、空間電荷ゾーンを備えたpinダイオードに似た構造となっている
    バルク音波共振器(BAW共振器)の電気的な周波数調整方法において、
    各電極と電圧源とを接続し、
    電圧を電極に印加して空間電荷ゾーンの厚さdを値Δdだけ変化させ、
    BAW共振器の共振周波数を当該の状態に対して厚さに相関する値Δfだけ印加電圧なしに変化させる
    ことを特徴とするバルク音波共振器の電気的な周波数調整方法。
  11. 相互に平行な主表面に配置された2つの電極(E1,E2)を有するベースボディが設けられており、該ベースボディは1つの圧電体層(2)と2つの半導体層(4,5;6,7)とを有しており、空間電荷ゾーンを備えたpipダイオードまたはninダイオードに似た構造となっている
    バルク音波共振器(BAW共振器)の電気的な周波数調整方法において、
    圧電体層にさらに別の電極(E3)を設け、各電極(E1,E2,E3)を電圧源と接続し、
    電圧を電極に印加し、pip構造の半導体層(4,5)を圧電体層(2)に対してバイアスするかまたはnin構造の半導体層(6,7)を電極(E1,E2)に対してバイアスして、空間電荷ゾーンの厚さdを値Δdだけ変化させ、
    BAW共振器の共振周波数を当該の状態に対して厚さに相関する値Δfだけ印加電圧なしに変化させる
    ことを特徴とするバルク音波共振器の電気的な周波数調整方法。
  12. 電圧のレベルを可変の電圧源により調整し、印加された外部電圧と自身で形成した拡散電圧との和から得られる電圧が阻止電圧となるようにする、請求項10または11記載の方法。
  13. BAW共振器の共振周波数を印加電圧なしに定め、続いて共振周波数が所望の値fを取るまで共振周波数frがΔfだけ変更されるように、つまりΔf=(fr−f)が成り立つように電圧を印加して調整する、請求項10から12までのいずれか1項記載の方法。
  14. モジュール内にそれぞれ異なる目標周波数fr0iで動作する複数の共振器(R)を設け、同種ではあるものの製造によるばらつきから異なる共振周波数を有する共振器において、共振周波数の所望の値が得られるように適切な制御電圧を印加することによりこれを調整する、請求項10から13までのいずれか1項記載の方法。
  15. 分岐回路技術で構成された透過帯域フィルタのリアクタンス素子として用いることを特徴とする請求項1から9までのいずれか1項記載の共振器の使用。
  16. 共振周波数を調整することのできる周波数発生器として用いることを特徴とする請求項1から9までのいずれか1項記載の共振器の使用。
  17. 共振器の振動に影響する物理量を測定するセンサとして用いることを特徴とする請求項1から9までのいずれか1項記載の共振器の使用。
  18. 種々の物理量が共振器の共振周波数を変化させるとき、制御電圧を印加して本来の共振周波数へ追従制御し、制御電圧のレベルを当該の物理量の値の尺度として用いる、請求項17記載の使用。
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