JP2004532972A - 転移rnaおよびモデルメッセンジャーrnaに接触している機能的リボソーム複合体のx線結晶構造ならびにその使用方法 - Google Patents
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Abstract
メッセンジャーRNA(tRNA)またはtRNAアナログと接触している70Sリボソーム複合体の構造が、5.5Åの解像度まで、X線結晶学によって分解された。tRNAとリボソームとの間の相互作用、ならびにリボソームサブユニット内およびリボソームサブユニット間のリボソームRNA(rRNA)ヘリックスのパッキング配置の多くの詳細が、観察され得る。多数の接触が、30SサブユニットとP−tRNAアンチコドンステムループとの間でなされるが;対照的に、A−tRNAのアンチコドン領域は、かなり露出している。機能的リレーを示唆する分子相互作用の複雑なネットワークは、サブユニット界面において16S rRNAの最後から2番目の長いステム辺りに集中し、「スイッチ」ヘリックスを含み、そして16S rRNAのデコード部位および50Sサブユニット由来のRNAブリッジを含む。
Description
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2000年12月9日に出願された米国仮出願60/254,603号、2001年3月22日に出願された米国仮出願60,278,013号、および2001年5月30日に出願された米国仮出願60/294,394号(これらの各々の全体にわたる開示は、全ての目的のために本明細書中でその全体が参考として援用されている)の優先権を主張する。
【0002】
(連邦政府によって助成された研究に関する陳述)
本発明は、National Institutes of Healthによって授与された、GM−17129およびGM−59140での政府の支持によりなされた。政府は、本発明において特定の権利を有する。
【0003】
(マイクロフィッシュ付属物に関する参照)
適用されず。
【0004】
(発明の分野)
本発明は、70Sリボソームの結晶に関し、そしてより詳細には、X線回折解析によって得られる70Sリボソームのモデル構造に関する。本発明はまた、70Sリボソームモデルの構造座標を使用して、70Sリボソーム上の部位に結合しそしてリボソームの機能を変える化合物をスクリーニングし、そして設計する方法に関する。
【0005】
(発明の背景)
RNAでコードされた遺伝メッセージのタンパク質のポリペプチド鎖への翻訳は、遺伝子型を表現型にリンクさせる。これは、リボソーム(作用の構造的コアおよび基本的な機構が、生命の全ての形態間で保存される古いリボ核タンパク質粒子)によって実施される(C.R.Woeseら、Microbiol.Rev.47,621(1983);W.E.Hillら編、The Ribosome:Structure,Function and Evolution(American Society for Microbiology,Washington DC,(1990)))。最も小さく、そして最も研究されている例は、細菌のリボソームであり、このリボソームは、約2.5MDの分子サイズを有し、そして小さな(30S)サブユニットおよび大きな(50S)サブユニットからなる。30Sサブユニットは、16S rRNA(約1500ヌクレオチド(nt))および約20個の異なるタンパク質から構成されるのに対して、大きなサブユニットは、23S rRNA(約2900nt)、5S rRNA(120nt)および30を越える異なるタンパク質を含む。この構造の複雑さの程度は、生物学的な役割の程度をふまえている。
【0006】
リボソームの基質は、tRNAであり、このtRNAは、一般に、3ヶ所の異なる部位:A、P、およびE(それぞれ、アミノアシル、ペプチジル、およびエグジット(exit))でリボソームに結合すると考えられる(Watson 1964;Rheinbergerら、1981)。各tRNA結合部位は、2つのリボソームサブユニットの間に分配され、tRNAとこのリボソームとの間で、6つ程度の異なる相互作用部位を生じる。tRNAのアンチコドン末端は、30Sサブユニットに結合し、この30Sサブユニットはまた、メッセンジャーRNA(mRNA)を保持し;3’−アクセプター、すなわちtRNAのCCA末端は、50Sサブユニットと相互作用し、この50Sサブユニットは、ペプチド結合形成に対する触媒部位(ペプチジルトランスフェラーゼ)(Monro 1967)を含む。従って、tRNAは、30Sサブユニットと50Sサブユニットとの間の界面にかかる。
【0007】
この翻訳伸長サイクルは、3つの基本的なプロセスに依存する:(i)アミノアシル−tRNAの選択、(ii)ペプチド結合形成、および(iii)リボソーム内の1つの部位から次の部位へのtRNAの転移。インビボにおいて、tRNAの選択および転移の工程は、グアノシントリホスフェート(GTP)−依存性反応において、それぞれ伸長因子ET−TuおよびEF−Gを含み、両工程は、インビトロの適切なイオン状態下で、因子依存性様式で、リボソームによって実施され得る(Pestka 1969;Gavrilovaら 1972)。従って、翻訳伸長サイクルの基礎工程のうちの全3工程は、リボソーム自体の特性、およびそのRNA成分に恐らく基づかなければならない(Greenら 1997)。リボソームがこれらの基礎プロセスを達成する分子機構は、その分子構造同様、多くが謎のままである。リボソーム構造の知識は、翻訳の複雑性についての直接の説明を与えないかもしれないが、より深い機構的洞察がリボソームの構造に依存することは、明らかである。
【0008】
リボソームタンパク質およびrRNAフラグメントの構造(x線結晶学および核磁気共鳴(NMR)分光法によって決定される)は、リボソームの個々の成分の原子分解の詳細を提供する(Ramakrishnanら 1998;Mooreら 1998;Nikonovら 1988;Szewcazkら 1995;Dallasら 1997;Correllら 1997)。近年、大きな進歩が、クライオエレクトロン顕微鏡法によって、完全なリボソームの構造、リボソームサブユニットおよびリボソームの機能的な複雑性を決定することにおいてなされた(Frankら 1995a;Starkら 1997a;Agrawalらの概説 1999a)。リボソームのx線結晶学の2つの主な進歩が、50Sサブユニットの結晶化(Yonathら 1980;von Bohlenら 1991)および9Åの分解能でのそれらの結晶構造の最近の決定であった(Banら 1998)。なおより最近になって、5.5Åの分解能でのT.thermophilus 30Sリボソームサブユニットの構造(Clemonsら 1999)および5Åの分解能でのHaloarcula marismortui 50Sリボソームサブユニットの構造(Banら 1999)を記載する2つの論文が、刊行された。rRNA成分およびリボソームタンパク質成分の多くの詳細が、サブユニット構造において、より明確に分解されるが、70Sリボソーム構造において見られるいくつかの特徴(例えば、50Sサブユニットにおけるタンパク質L1および30Sサブユニットのヘッドの一部)は、サブユニットマップにおいて存在しないようである。おそらく、70Sリボソーム結晶中に存在しない局所的無秩序に起因する。Haloarcula marismortui由来の50Sリボソームサブユニットの2.4Å構造(Banら 2000)は、T.thermophilus由来の30Sリボソームサブユニットの3Å構造(Wimberlyら 2000)であるとして、最近報告された。さらに、このサブユニットのこれらの原子分解構造においてでさえ、目に見えない構造のアスペクト(例えば、L11、Wimberlyら、2000を参照のこと)が、本出願人らが以下に記載する5.5Åの70S構造において、最初に目に見えた。さらに、30Sサブユニットの特定の構造(例えば、ヘッドおよびプラットホームの配向)は、単離したサブユニットと70Sリボソームとの間で異なる。
【0009】
Thermus thermophilus 70Sリボソームおよびリボソーム複合体の結晶化(Trakhanovら 1987;Trakhanovら 1989;Hansenら 1990;Yusupovaら 1991;Yusupovら 1991)は、異なる機能的状態で完全なリボソームの構造を解明するための可能性を提供した。より最近の研究において、本出願人らは、mRNAおよびtRNAまたはtRNAアナログを含む完全なT.thermophilus70Sリボソームの機能的な複合体の結晶化および7.8Åの分解能までのx線結晶学によるそれらの構造の分解を報告した(Cateら 1999)。rRNAの多くのスペクトル特性を同定し、そして多くの場合において、タンパク質構造の要素がまた認識可能であった。A、PおよびE部位における、tRNAとリボソームとの相互作用は、これまでに得られた最良の詳細さで見られ、翻訳の機構に新しい洞察を提供した。
【0010】
70Sリボソーム構造の構造決定におけるこれらの改善にも係わらず、分子相互作用(例えば、30Sサブユニットと50Sサブユニットとの間の界面における相互作用)の特定の詳細は、70Sリボソームの構造決定について、先行技術において明らかに解決されていない。70Sリボソームのこの構造特徴および他の構造特徴の詳細な知識は、リボソームの機能、ならびにこのリボソームの機能を変えるための新規化合物の合理的な設計に関する構造的な基礎に、より深い洞察を与える。従って、70Sリボソームのより高度な分解構造に対する必要性が存在する。本発明は、70Sリボソーム構造の分解を5.5Åまで広げることによって、これらの利点および他の利点を提供する。以下において記載される方法を使用して、5.5Å構造は、70Sリボソーム構造の高分解構造の詳細(70Sリボソームまたはそのサブユニットの構造決定に関して、先行分野で先に解決されなかった多くの特徴の決定を含む)を得るための基礎を提供する。
【0011】
(発明の簡単な要旨)
Thermus thermophilus 70Sリボソームの3次元構造が、5.5Åの分解能で経験的に決定された。5.5Å構造を使用して、観測された5.5Åの電子密度マップに対して、30Sリボソームサブユニット(Wimberlyら 2000)および50Sリボソームサブユニット(Banら 2000)の原子分解構造を適合することによって、先に決定されなかった70Sリボソームのアスペクトの、原子分解の詳細を得た。この構造分析の基礎に基づいて、構造的な考慮および機能的な考慮から、リボソームサブユニットの会合および機能に関して重要であると考えられる、構造の一部または特定のアミノ酸残基を同定することが、現在可能である。
【0012】
従って、第1の局面において、本発明は、70Sリボソームまたはそのサブユニットに結合する分子を同定する方法に関する。別の局面において、本発明の方法に従って同定された分子を試験して、この分子が70Sリボソームの機能を変えるかどうかを決定する。70Sリボソームまたはそのサブユニットに結合し、そしてタンパク質の合成(すなわち、翻訳)を中断させる薬剤は、抗菌性化合物としての有用性を有する。70Sリボソームまたはそのサブユニットに結合して、tRNA結合を変える薬剤は、種々のポリペプチドの生成のための薬剤としての有用性を有し、これらのいくつかは、変化した機能的特性を有する。
【0013】
本発明の方法は、特定の構造を有する分子の同定および/または設計を必要とする。この方法は、以下に記載される、70Sリボソームのx線結晶学の研究から誘導される正確な構造情報の使用に依存する。
【0014】
なお別の局面において、本発明は、コンピューター読み取り可能なメモリー内に含まれる70Sリボソームのモデル構造を含む。関連する局面において、本発明は、細菌の70Sリボソームの少なくとも一部を規定する、X線結晶構造座標を含む、メモリーを含むコンピューターシステムを含み、この構造座標は、少なくとも5.5Åの分解能までX線を回折する細菌性70Sリボソームの結晶から決定され、ユニットセルの寸法がa=b=507.2Å、c=803.7Åまでの、I422の空間群;およびメモリーを備える電気通信におけるプロセッサを有し;そしてこのプロセッサは、細菌性70Sリボソームの少なくとも一部の3次元形状表記を有する分子モデルを作製する。
【0015】
別の局面は、変更された機能的特性を有する、70Sリボソーム改変体またはサブユニット改変体に関する。1つの好ましい実施形態において、この改変体は、変更されたtRNA結合特性を有する。別の好ましい実施形態において、この改変体は、30Sサブユニットと50Sサブユニットとの間の結合親和性を変更する、1以上のRNAまたはポリペプチド配列の変化を有する、50Sサブユニットを含む。なお別の好ましい実施形態は、30Sサブユニットと50Sサブユニットとの間の結合親和性を変更する、1以上のRNAまたはポリペプチドの配列の変化を有する、30Sサブユニットを含む。特に好ましい実施形態において、この配列の変化は、30Sサブユニットと50Sサブユニットとの間の界面の構造を混乱させることによって結合親和性に影響を及ぼす。このような改変体のサブユニットは、構築された70Sリボソームとそれらの成分である30Sサブユニットおよび50Sサブユニットとの間の正常なな平衡を変更することによって、リボソームの機能のドミナントネガティブインヒビターとして作用する。別の好ましい実施形態としてまた、30S改変体または50S改変体をコードするポリヌクレオチドが含まれ、ここで、この改変体は、30Sサブユニットと50Sサブユニットとの間の結合親和性を変更する。
【0016】
本発明の別の局面は、細菌(真核生物ではない)リボソームに関して選択的な結合親和性を有する、ファルマコフォアおよび候補化合物の構造を決定する方法に関し、この方法は、原核生物のリボソームタンパク質またはリボソームRNAのうちの少なくとも1つと、真核生物のリボソームタンパク質またはリボソームRNAのうちのすくなくとも1つとの間の一次構造の系統学的可変領域を決定する工程;細菌性70Sリボソームの3次元構造内の上記系統学的可変領域を位置付ける工程;および上記3次元構造内の系統学的可変領域を含むファルマコフォア結合部位の3次元配置を表すファルマコフォアを提供する工程を包含する。
【0017】
別の局面において、本発明は、結合活性および/またはリボソーム機能に影響を及ぼす能力について、候補化合物を試験する方法を提供する。この方法は、70Sリボソーム構造を使用して、標的部位の形状および/または荷電分布を決定する工程;上記部位に結合するように設計されたファルマコフォアを規定するために、上記部位を特徴付けする工程;上記標的部位と相互作用するように設計された形状および/または荷電分布を有する候補化合物を得る工程または合成する工程、ならびに上記化合物の1つ以上と70Sリボソームを接触させる工程、を包含する。この局面において、本発明は、70Sリボソームの構造座標を使用して、70Sリボソームのインヒビターまたはアクチベーターを設計し、計算的に評価し、合成し、またはそうでなければ(例えば、化合物のライブラリーから)獲得し、そして使用することを含む。
【0018】
従って、本発明は、詳細を規定するために、70Sリボソーム結晶の構造座標の使用を含み、この詳細としては、70Sリボソームの領域の原子の詳細(例えば、サブユニットの界面)、メッセンジャーRNAの経路、tRNA結合部位、および開始因子または伸長因子についての結合部位(この部位は、タンパク質の翻訳のインヒビターまたはアクチベーターに対する標的部位である)を含む。
【0019】
付録Iでに示される構造座標は、数学的操作によって改変され得、これには、結晶学的置換、構造座標の分割または転化、構造座標のセットに対する整数の足し算または引き算、および上記の任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本発明の好ましい実施形態の詳細は、添付の図面および以下の説明に示される。本発明の詳細が、一旦公知になると、多種のさらなる革新および変化は、当業者にとって自明となる。科学刊行物、タンパク質構造ファイル(PDBおよび/またはMMDB識別子によって参照される)、特許、およびこの明細書中で引用される特許出願を含む全ての参考文献は、全ての目的のために、それらの全体が参考として明白に援用されている。
【0021】
本特許は、カラーで作成された少なくとも1枚の図面を含む。カラー図面を有する本特許のコピーは、必要な料金を要求および支払うことによって、特許・商標庁によって提供される。
【0022】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
本発明は、本明細書に開示される、Thermus thermophilus由来の70Sリボソームの5.5Å結晶構造の発見に基づく。
【0023】
(定義)
全ての科学用語は、代替の意味が以下に記載されていなければ、当業者に理解されるとおりの、その通常の意味を与えられるべきである。抵触する場合は、本明細書中に記載される定義に照らし合わせるべきである。
【0024】
本明細書中で使用される場合、用語「結合部位」または「結合ポケット」とは、特定の化合物が結合するかまたは相互作用する、タンパク質またはタンパク質/RNA複合体またはRNAの領域をいう。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語「界面」とは、1つ以上の分子の2つ以上のドメインが会合する点または表面をいう。
【0026】
本明細書で使用される場合、用語「翻訳可能RNA」とは、翻訳に必要な因子と共にインキュベートされた場合に、タンパク質の合成を誘導し得るRNAをいう。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語「減少する(decrease)」とは、少なくとも10%および好ましくは20%〜50%以上の減少をいう。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「抗菌(性)」または「抗生(の)」とは、当業者に公知の任意の手段により測定された、細菌の増殖の統計学的に有意な減少(reduction)を生じることにより、その細菌の増殖を阻害する、化合物の能力をいう。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「と会合する」または「と相互作用する」とは、ある化学実体、化合物、またはその部分と、別の化学実体、化合物またはその部分との間が近接している状態をいう。会合または相互作用は、非共有結合(ここで、水素結合またはvan der Waals相互作用もしくは静電相互作用により並置がエネルギー的に有利である)であっても、または共有結合であってもよい。
【0030】
本明細書中で使用される場合、用語「ファルマコフォア」とは、特定の生物学的標的構造との最適な超分子相互作用を確実にするため、および生物学的応答を誘発するかまたはブロックするために必要である、立体的特徴および電子的特徴の集合をいう。ファルマコフォアを使用して、そのファルマコフォアに存在する立体的特徴および電子的特徴の集合の全てまたは大部分を含み、そして部位に結合して生物学的応答を誘発するかまたはブロックすることが期待される、1種以上の候補化合物を設計し得る。
【0031】
本明細書中で使用される場合、用語「構造座標」とは、結晶からX線を回折させることにより得られるX線回折パターンに対して数学的方程式から導かれた数学的座標をいう。この回折データはその結晶を含む単位格子の電子密度マップを計算するために使用され;このマップは、単位格子内の原子の位置(すなわち、構造座標)を確立するために使用される。当業者は、X線結晶学により決定された一組の構造座標が、標準誤差を含むことを理解する。本発明の目的のために、付録Iの構造座標に重ね合わせた場合に、骨格原子の平方自乗平均偏差が0.75オングストローム未満である70Sリボソームについての構造座標の任意の組は、同一であるとみなされるべきである。
【0032】
句「翻訳の忠実度」とは、3ヌクレオチドコドンをそれによりコードされるアミノ酸に関連付ける遺伝コードに従って、mRNA分子によりコードされる配列が、アミノ酸配列に翻訳される正確さをいう。
【0033】
句「ある残基に対応する残基」とは、例えば、配列番号(SEQ ID NO)の付いた残基を参照することにより、明確に同定される残基、および関連するタンパク質または核酸において類似の位置を占める残基を含むことを意図する。関連するタンパク質または核酸とは、通常、参照タンパク質分子または参照核酸分子と同様の構造特性または機能的特性を有するが、参照タンパク質または核酸分子が由来する生物と異なる生物由来であるタンパク質または核酸をいう。いくつかの例では、文脈に基づいて明らかであるが、関連タンパク質または核酸は、参照タンパク質または核酸が由来する生物と同じ生物に由来するが、参照タンパク質または核酸分子と同様の構造的特徴または機能的特徴を有する改変体タンパク質分子または改変体核酸分子であり得る。
【0034】
構造類似性は、例えば、配列類似性から推測され得、この類似性は、配列の視覚的検査および比較により、または以下のような周知のアラインメントソフトウエアプログラムを使用して当業者により決定され得る:CLUSTAL(Wilbur,W.J.およびLipman,D.J.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,80,726−730(1983))またはCLUSTALW(Thompson,J.D.,Higgins,D.G.およびGibson,T.J.,CLUSTAL W:配列の重み付け(weighting)、位置特異的ギャップペナルティーおよび重みマトリクス選択によりプログレッシブマルチプルシーケンスアラインメントの感度を改善する、Nucleic Acids Research,22:4673−4680(1994))またはBLAST(登録商標)(Altschul SF,Gish Wら、J Mol.Biol.,Oct 5;215(3):403−10(1990))、照会がタンパク質とDNAのどちらであるかに関わらず利用可能な配列データベースの全てを調査するように設計された類似性検索プログラムのセット。CLUSTAL Wは、http://www.ebi.ac.uk/clustalw/において利用可能であり;BLASTは、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/において利用可能である。第1および第2のタンパク質配列または核酸配列が整列される場合に、2つの残基が同じ位置を占める場合、第1の配列内の1つの残基は、第2の配列内の1つの残基に対応する。表Iは、例示的な代表的アラインメントを提供し、これを使用して、異なる生物の関連タンパク質および核酸由来の残基間の対応を同定し得る。表Iに例示される配列アラインメントは、CLUSTALを使用して作製された。
【0035】
【表1】
(導入)
リボソームは、全ての生存細胞においてタンパク質合成を担う、偏在している超分子複合体である。これらは、50を超える異なるタンパク質に加えて、大量のリボソームRNA(rRNA)を含む。その他の細胞ポリメラーゼと異なり、その作用機構は、基本的にRNAに基づくようである(すなわち、リボザイムである)。従って、リボソーム内のrRNAおよびタンパク質の3次元構造の詳細な知識は、翻訳の分子的理解に必須である。
【0036】
従って、リボソームRNA(rRNA)の機能的能力についての構造的根拠を理解することは、複雑で生物学的に非常に重要な翻訳という作業のために、タンパク質の代わりに、これらの古代の小器官がRNAを使用する理由を説明するために必須である。細菌および原始生物の(archaeal)リボソームは、小さな(30S)のサブユニット(16SrRNAおよび約20のタンパク質を含有する)、および大きな(50S)サブユニット(23SrRNA、5SrRNAおよび30を超えるタンパク質を含有する)から構成される。完全な70Sリボソームは、30Sサブユニットを50Sサブユニットに分子間架橋ネットワークを介して結合することにより形成される。2つのサブユニット間に形成されるサブユニット間空隙は、転移RNA(tRNA)により占められ、mRNAコドンに対するtRNAのアンチコドン塩基対は、30Sサブユニットに存在し、一方それらの3’−CCA末端は、50Sサブユニットにおけるペプチド結合形成部位であるペプチジルトランスフェラーゼ中心に到達する。
【0037】
(70Sリボソームの結晶構造座標の使用)
T.thermophilusから決定した70Sリボソームの5.5オングストロームの構造は、ファルマコフォアおよび/または候補化合物(新規かまたは公知の化合物の修飾による)を理論的に設計するためのモデルとして使用され得る。結晶構造座標の使用により同定されるファルマコフォアおよび候補化合物は、細菌タンパク質合成速度を変更するために有用であるので、抗菌薬(抗生物質を含む)および防腐剤としての有用性を有する。ファルマコフォアおよび候補化合物は、当該分野で公知の任意の方法に従って決定され得、これらの方法としては、米国特許第5,888,738号(Hendry)に記載の方法および米国特許第5,856,116号(Wilsonら)に記載の方法(これら両方の開示は、あらゆる目的のためにその全体が参考として援用される)が挙げられる。
【0038】
本明細書中に提供される構造データを、コンピュータモデリング技術と共に使用して、結晶構造データの解析により選択される70Sリボソーム上の部位のモデルを開発し得る。この部位モデルは、部位表面の3次元トポグラフィー、およびvan der Waals接触、静電相互作用、および水素結合の機会を含む因子を特徴付ける。次いで、コンピュータシミュレーション技術を使用して、モデル部位と相互作用するように設計される官能基(プロトン、ヒドロキシル基、アミン基、二価カチオン、芳香族官能基および脂肪族官能基、アミド基、アルコール基などを含む)に関して相互作用位置をマッピングする。候補化合物がこの部位に特異的に結合することを期待して、これらの基をファルマコフォアまたは候補化合物に設計し得る。従って、ファルマコフォア設計は、候補化合物がファルマコフォア内に入って、利用可能な化学的相互作用の型(水素結合相互作用、van der Waals相互作用、静電相互作用、および共有結合相互作用を含むが、一般的に、かつ好ましくは、ファルマコフォアは、部位と非共有結合機構を介して相互作用する)のいずれかまたは全てを介して部位と相互作用する能力を考慮することを包含する。
【0039】
ファルマコフォアまたは候補化合物が70Sリボソームに結合する能力は、コンピュータモデリング技術を使用して実際の合成の前に解析され得る。コンピュータモデリングにより、十分な結合エネルギー(すなわち、10−2Mまたはそれ以上のオーダーの標的との解離定数に対応する結合エネルギー)で標的と結合することが示された候補のみを合成し得、そして当業者に公知の結合アッセイまたはリボソーム機能アッセイを使用して、それらの70Sリボソームに結合する能力およびリボソーム機能を阻害する能力について試験し得る。従って、コンピュータ評価工程により、適切な親和性で70Sリボソームに結合する見込みのない化合物の不必要な合成が回避される。
【0040】
70Sリボソームファルマコフォアまたは候補化合物は、コンピューターで評価され得、そして一連の工程により設計され得、この工程において、化学的実体およびフラグメントがスクリーニングされ、そして70Sリボソーム上の個々の結合標的部位と会合する能力について選択される。当業者は、いくつかの方法のうちの1つを使用して、70Sリボソームと会合する能力、より詳細には70Sリボソーム上の標的部位と会合する能力について、化学実体またはフラグメントをスクリーニングし得る。このプロセスは、付録Iに示される、70Sリボソームの座標、またはこれらの座標のサブセットに基づいて、例えば、コンピュータスクリーン上の標的部位の視覚的検査により開始され得る。次いで、選択されたフラグメントまたは化学実体は、結晶構造データの解析から規定されるとおりの70Sリボソームの標的部位内に、種々の配向で位置付けられ得るか、または「ドッキングされ(docked)」得る。Quanta(Molecular Simulations,Inc.,San Diego,CA)およびSybyl(Tripos,Inc.,St.Louis,MO)のようなソフトウエアを使用し、次いでCHARMM(Molecular Simulations,Inc.,San Diego,CA)およびAMBER(University of California at San Francisco)のような標準的な分子力学力場を用いる、エネルギー最小化および分子動力学を使用してドッキングを達成し得る。
【0041】
特殊化したコンピュータープログラムはまた、フラグメントまたは化学物質を選択するプロセスを補助し得る。これらとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:GRID(Goodford,P.J.,「A Computational Procedure for Determining Energetically Favorable Binding Sites on Biologically Important Macromolecules」、J.Med.Chem.,28,pp.849−857(1985));GRIDは、Oxford University(Oxford,UK)から入手可能である;MCSS(Miranker,A.およびM.Karplus,「Functionality Maps of Binding Sites:A Multiple Copy Simultaneous Search Method」、Proteins:Structure,Function and Genetics,11,pp.29−34(1991));MCSSは、Molecular Simulations,Inc.,(San Diego,CA)から入手可能である;AUTODOCK(Goodsell,D.S.およびA.J.Olsen,「Automated Docking of Substrates to Proteins by Simulated Annealing」、Proteins:Structure,Function,and Genetics,8,pp.195−202(1990));AUTODOCKは、Scripps Research Institute(La Jolla, CA)から入手可能である;DOCK(Kunts,I.D.,et al.「A Geometric Approach to Macromolecule−Ligand Interactions,「J.Mol.Biol.,161,pp.269−288(1982));DOCKは、University of California(San Francisco,CA)から入手可能である;CERIUS II(Molecular Simulations,Inc.,(San Diego,CA)から入手可能である);ならびにFlexx(Raret,et al.J.Mol.Biol.261,pp.470−489(1996))。
【0042】
適切な化学物質またはフラグメントを選択後、これらは単一の化合物に集められ得る。集合は、コンピュータースクリーンに提示される70Sリボソーム構造またはその部分に対して、フラグメントの三次元画像上で、フラグメントの互いの関係を目視検査することによって進められ得る。目視検査の後に、ソフトフェア(例えば、上記のQuantaプログラムまたはSybylプログラム)を用いてマニュアルモデルを構築し得る。
【0043】
ソフトフェアプログラムはまた、個々の化学物質またはフラグメントを接続する際に、当業者を補助するために使用され得る。これらとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:CAVEAT(Bartlett,P.A.,et al.「CAVEAT:A Program to Facilitate the Structure−Derived Design of Biologically Active Molecules」「Molecular Recognition in Chemical and Biological Problems」、Special Publ,Royal Chem.Soc.,78,pp.182−196(1989));CAVEATは、University of California(Berkeley,CA)から入手可能である;3D Database systems(例えば、MACCS−3D(MDL Information Systems,(San Leandro,CA)));この領域はMartin,Y.C.,「3D Database Searching in Drug Design」、J.Med.Chem.,35:2145−2154(1992))において総覧される;およびHOOK(Molecular Simulations Inc.,(San Diego,CA)から入手可能である)。
【0044】
個々のフラグメントまたは化学物質から候補ファルマコフォア(pharmacophore)または候補化合物を構築する代わりに、これらは、70S標的部位の構造(必要に応じて、標的部位に結合する補因子あるいは既知のアクチベーターまたはインヒビターからの情報を含む)を用いて初めから(de novo)で設計され得る。デノボ(De novo)設計は、以下を含むが、これらに限定されないプログラムに含まれ得る:LUDI(Bohm,H.J.,「The Computer Program LUDI:A New Method for the De Novo Design of Enzyme Inhibitors,J.Comp.Aid.Molec.Design,6,pp.61−78(1992));LUDIは、Molecular Simulations,Inc.,(San Diego,CA)から入手可能である;LEGEND(Nishibata,Y.,およびItai,A.,Tetrahedron 47,p.8985(1991);LEGENDは、Molecular Simulations,(San Diego,CA)から入手可能である;ならびにLeapFrog(Tripos Associates,(St Louis,MO)から入手可能である)。
【0045】
公知のリボソームリガンドの機能効果はまた、本明細書に記載される分子モデリグおよび設計技術の使用によって変更され得る。これは、細菌の70Sリボソームモデル構造に対して既知のリボソームリガンドの構造をドッキングすること、そして70Sリボソームとの結合相互作用を最適化するために、リガンドの形状および電荷の分布を改変することによって実行され得る。この改変された構造は、合成しても化合物のライブラリーから獲得してもよく、そしてその結合親和性および/またはリボソーム機能に対する効果について試験され得る。もちろん、70Sリボソームまたはリボソームのサブユニットとリガンドとの間の複合体の結晶構造が既知の場合、この複合体と本発明の70Sリボソーム構造との間の比較は、リガンド結合の際に生じる、リボソーム構造の変更についての更なる情報を得るために実行され得る。この情報は、最適化リガンドの設計に使用され得る。リボソーム機能を妨害する抗生物質は、特に、ドッキング、共結晶化および本発明の最適化用途に十分に適する。抗生物質のこれらの型の列挙は、SpahnおよびPrescott,J.Mol.Med.,74:423−439(1996)において見い出され得、これは、その全体が全て目的のために参考として援用される。
【0046】
さらなる分子モデリング技術がまた、本発明に従って使用され得る。例えば、Cohen,N.C.,et al.「Molecular Modeling Software and Methods for Medicinal Chemistry」、J.Med.Chem.,33,pp.883−894(1990);Navia,M.A.およびMurcko,M.A.,「The Use of Structural Information in Drug Design」、Curr.Opin.Biotechnol.8,pp.696−700(1997);ならびにAfshar,et al.「Structure−Based and Combinatorial Search for New RNA−Binding Drugs」、Curr.Opin.Biotechnol.10,pp.59−63(1999)を参照のこと。
【0047】
上記の方法または当業者に公知の他の方法のいずれかに従うファルマコフォアおよび候補化合物の設計、または選択に従って、70Sリボソームに結合する、ファルマコフォアの定義内に入る候補化合物の有効性は、計算評価を用いて試験および最適化され得る。候補化合物は最適化され得、その結果、例えば、その結合状態において、好ましくは、標的部位との反発静電相互作用がない。これらの反発静電相互作用としては、反発する電荷−電荷相互作用、双極子−双極子相互作用および電荷−双極子相互作用が挙げられる。候補化合物が70Sリボソームに結合された場合、候補化合物と70Sリボソームとの間の静電相互作用の全合計は、結合エンタルピーに対して中性または有利な寄与を生じることが望ましい。
【0048】
特定のコンピューターソフトフェアは、化合物の変形エネルギーおよび静電相互作用を評価するために、当該分野で利用され得る。このような使用のために設計されたプログラムの例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:Gaussian 92,revision C(Frisch,M.J.,Gaussian,Inc.,Pittsburgh,PA (1992));AMBER,version 4.0(Kollman,P.A.,University of California at San Francisco,(1994));QUANTA/CHARMM(Molecular Simulations,Inc.,San Diego,CA.(1994));およびInsight Il/Discover(Biosym Technologies Inc.,San Diego,CA(1994))。これらのプログラムは、例えば、Silicon Graphicsワークステーション,Indigo,02−R10000またはIBM RISC/6000ワークステーションモデル550を用いて実行され得る。上記の機能を実行するために、他のハードウェアおよびソフトウェアの組合せが使用され得、そしてこれは当業者に公知である。
【0049】
一旦、ファルマコフォアまたは候補化合物が、上記のように、至適に選択または設計されると、置換は、その結合特性を改良するかまたは改変するために、その原子または側鎖の一部においてなされ得る。一般に、その置換基において保存的な最初の置換は、元の基とほぼ同じサイズ、形状、疎水性および電荷を有する。コンホメーションを変更するが当該分野で公知の要素は、置換する際に避けられる。置換された候補物は、上記と同様の方法を用いて、70Sリボソームへの適応の有効性について分析され得る。
【0050】
一旦、候補化合物が、上記の方法のいずれかを用いて同定されると、これは生物学的活性についてスクリーニングされ得る。当業者に公知の多くのリボソーム機能アッセイのうちの任意の1つが、使用され得る。これらとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:細菌増殖の阻害、メッセンジャーRNAをテンプレートとして用いるインビトロタンパク質合成の阻害、テンプレートとしてポリUを用いるインビトロタンパク質合成の伸長段階の阻害、EF−Gによって媒介されるGTP加水分解の阻害;EF−Gにより媒介されるGTP加水分解の活性化。
【0051】
70Sリボソームとの候補化合物の相互作用はまた、当業者に公知であるようなフィルター結合アッセイを含む直接結合アッセイを用いて評価され得る。結合アッセイは、公知のリボソーム結合化合物(例えば、抗生物質)の結合を競合的に阻害する候補化合物を評価するために改変され得る。これらおよび他のアッセイは、国際公報WO 00/69391に記載されており、その全体の開示が全て目的のために参考として援用される。
【0052】
(スクリーニングのための化合物ライブラリ)
本発明の方法に従って同定されたインヒビターおよび/またはアクチベーターは、多くの供給源から入手可能な化合物のライブラリから提供され得るか、または当該分野で公知のコンビナトリアルケミストリーアプローチによって誘導され得る。このようなライブラリには、以下が含まれるが、これらに限定されない:入手可能なChemical Director、Maybridgeおよび天然産物の収集物。本発明の1つの実施形態において、既知または推測された構造を有する化合物のライブラリは、本発明の70Sリボソーム構造にドッキングされ得る。
【0053】
以下の実施例は、本発明がより十分に理解され得るように記載される。これらの実施例は、説明の目的のみであり、いかなる様式においても、本発明を限定するように解釈されるべきではない。
【0054】
(実施例1−70Sリボソームの結晶化および構造解析)
70Sリボソームの機能的複合体の三次元構造を、X線結晶学を用いて5.5オングストローム分解能で決定した。結晶を、実質的にCate et al.,1999により記載されるように調製した。結晶調製ならびに電子密度マップの計算およびマップのフィッティングを、以下のように進めた。
【0055】
P部位およびE部位に結合された合成mRNAアナログとtRNAMet fとの複合体における、Thermus thermophilus 70Sリボソームの結晶を、(Cate et al.1999)に記載されるように成長させた。リボソームは、Gogia,Z,Yusupov,M,et.al.,Mol.Biol.(USSR)20,519(1986)に記載されるようにThermus thermophilus HB8溶解物から調製した。改変されたShine−Dalgarno配列を有する36−ntファージT4遺伝子32のmRNAフラグメント(配列番号50)および他の2つの改変体mRNA(配列番号51および52)を、化学的に合成した(Dharmagon)。tRNAf MetおよびtRNALysをE.coli(Subriden)から単離した。tRNAPhe(19ヌクレオチド、ASLPhe)のアンチコドンの幹ループ(ASL)を、t7ポリメラーゼを用いるインビトロ転写により合成した。RNAを変性ゲルで精製し、溶出し、そして使用する前にエタノールで沈殿させた。P部位リボソーム複合体を形成するために、短縮遺伝子32mRNAおよびASLPheまたはtRNAf Metを、20mM MgCl2、100mM KCl、および20mM tric HCl(pH7.4)を含有する溶液中で、リボソーム結晶化の前に37℃で30分間、インキュベートした(Yusupov,M.M.,et al.,Dokl.Akad.Nauk.(USSR)292,1271(1987);Yusupova,G.Zh,およびYusupov,M.M.,et al.,未発表データ。全てのリガンドは、結晶化の前に、複合体を形成するために、リボソームの濃度より化学量論的に1.1〜1.5倍過剰に存在する。Thermus thermophilus 70Sリボソーム複合体の結晶を、懸滴および凝結滴における蒸気拡散法によって成長させた。結晶は、0.5mm×0.5mm×0.25の最大寸法に成長した。重原子誘導体を、1〜5日間、重原子化合物を含む溶液中に結晶を浸漬することによって調製した。P部位にASLおよびA部位にtRNAを有するリボソーム複合体を得るために、P部位複合体(リボソーム−mRNA−ASLPhe)の結晶を、室温で48時間にわたって、tRNALys(2μM、Sigma)を含有する溶液に浸漬した。P部位においてtRNAMetを有する結晶は、P部位においてASLを有する結晶と比較して、高分解能で回析した。予想したように、異なる結晶から得られたX線回析の質において、変化があった。5.0オングストローム分解能の回析データは、データ収集の間の、結晶への放射線損傷を最小化する凍結結晶技術を用いて、tRNAf MetP部位結晶から得ることができた。回析データのシグナル対ノイズ特性は、空気からのバックグラウンド散乱を最小化するために、ビームストップを結晶の近くに動かすことによって最適化した。
【0056】
a=b=507.2Åおよびc=803.7Åの格子寸法を有する空間群I422の結晶を成長させた。データは5Åの分解能で収集した。構造因子の振幅をAdvanced Light Source(ALS)で測定した(実質的には、(Cate et al.1999)に記載される)。電子顕微鏡から導かれたモデルから得られた分子置換を用いて位相決定を開始し、25オングストロームまでの位相を与えた。これらの位相を、重金属クラスターを用いて12オングストロームに拡張させた。P部位におけるアンチコドン幹ループtRNAアナログ(「ASL])(Cate et al.1999)を含む結晶から実験的に決定した構造因子位相を、P部位においてtRNAMet fを含む結晶から測定した回析データの構造因子位相決定のための開始位置として使用した。イリジウムヘキサミンを用いる、さらなるMAD位相決定を、7.5オングストロームに対するデータについての位相を得るために実行し、そして溶媒フリッピングを用いる位相拡張は、現行の5.5オングストロームの電子密度マップを生じた。5.5Åへの位相拡張を、CNSにおいて密度改変および溶媒フリッピングによって実行した(Brunger et al.1998)。位相の質を、結合したP tRNAの電子密度によって確認し、ここで、既知の構造の内部標準を提供した(図1)。A部位に結合したtRNAを含むか、または含まない結晶化した70S複合体を使用して、7Åのフーリエの偏差マップを得て、A部位tRNAの位置を提供した。表IIは、結晶学的統計およびスケーリングをまとめる。
【0057】
(表II.結晶学的統計およびスケーリング)
【0058】
【表2】
ここで、FPHおよびFPは、それぞれ、ASL含有リボソーム結晶およびP部位tRNA含有リボソーム結晶からの構造因子振幅である。
‡χ2、分析、20〜7.5Åは、Scalepack(Otwinoski 1993)から選んだ。
**平均確実度、または位相誤差の平均コサインは、ASL含有結晶から測定された実験的位相から計算した(Cate et al.1999)。
#以前に報告されたMAD位相決定実験(Cate et al.1999)から選んだデータセット。
【0059】
5.5Åで、RNA骨格は、高い信頼で追跡され得、既知の構造のタンパク質は、電子密度に容易にフィッティングされ得る。三次元モデルレンダリングを、RIBBONS(M.Carson,Methods Enzymol.277B,493−505(1997))、RIBBONSおよびO(Jones,T.A.,Zou,J.Y.,et al.,ACTA Crystallogr.A 47,110(1991))を用いる電子密度マップならびにXRNAを用いる二次構造ダイアグラムを使用して作製した。電子密度マップの最終的な解説は、高分解能のサブユニット構造の有効性によって非常に容易になったとはいえ(Ban et al.2000;Schluenzen et al.2000;Wimberly et al.2000)、本発明者らのマップの質は、生物学的および系統発生的な制約によって誘導されるが、高分解能構造情報から独立して、16S rRNA鎖(全体rmsd=5.7Å)の妥当な初期適合(fit)を可能にするのに十分であった。
【0060】
30Sリボゾームサブユニットの3Å構造は、以下の方法に従って本発明者らが作成した70S 5.5Å分解能マップ上にドッキングされる(docked)。本発明者らの5.5Å分解能構造から分かるリン酸の位置を用いて、Wimberlyら(2000)により決定された30S構造内に含まれる16S rRNAのリン酸をアライメントする。これは、最初に目視によりフィットを用い、これを、引き続いて、通常の最小二乗法フィッティング(fitting)アルゴリズムを用いてリファインした。このようなドッキング(docking)およびフィッティングは、SGI O2またはOctane型の機器で実行する、MIDAS(University of California,San Francisco department of Biochemistry and Molecular Biophysics)を使用して実行され得る。
【0061】
ドッキングのリファインメント(refinement)を、初期アライメントを得るために、剛体として30S構造を用いることにより実行した。このことは、30S構造を逐次的により小さな成分へと分解することの連続反復に従い、最終的には、偽原子(pseudoatom)として16S rRNA中の各リン酸を用いて、30Sサブユニットの高分解能構造と本発明者らの5.5Å70S構造との間の最も正確なフィットを得る。
【0062】
Wimberlyの30S構造座標は、PDB(PDB id 1FJFおよび1FJG;MMDB id 14321および14322)から得た。この30S構造は、T.thermophilusから決定されたので、本発明者らの5.5Åに対する高分解能30S構造についての初期フィットは、定性的に良好であった。16S rRNAの骨格を本発明者らの電子密度マップにフィッティングした後、30Sサブユニットの高分解能構造が現れた(Wimberyら、2000;Schluenzenら、2000)。本発明者らのモデルは、Schluenzenらの構造よりも、Wimberlyらの構造とより密接に一致した(全体のr.m.s.d.=6.9Å)。
【0063】
小サブユニットタンパク質は、初めに、剛体として、T.thermophilus 30Sサブユニット構造由来の別個のタンパク質についての座標を用いて、ドッキングされた(Wimberlyら、2000)。T.thermophilus大サブユニットタンパク質の殆どの構造は、未知であり;従って、最も関連した生物由来のタンパク質の構造を、任意の余分な残基を削除した後、モデリングした。
【0064】
Haloarcula marismortui 50Sサブユニット構造(23S rRNAおよび5S rRNAを含む)(Banら、2000)が利用できることによって、細菌構造と古細菌構造との間で保存される領域における本発明者らの電子密度の50Sサブユニット部分のフィッティングが容易になり;古細菌構造の大フラグメントの初期剛体ドッキングの後に、本発明者らのマップに対するより小さなフラグメントおよび個別のリン酸の詳細なフィッティングを行った。ドッキングに用いられる代表的な構造としては、PDB id 1FFZ;MMDB id 14060(ピューロマイシンを伴う)、PDB id 1FG0;MMDB id 14061(13bpミニへリックスピューロマイシン化合物を伴う)、およびPBD id FFK;MMDB id 14164(50S単独)が挙げられる。
【0065】
高分解能50Sサブユニット構造と本発明者らの70Sモデル構造の50S部分との間の更なるリファインメント(以下に記載されるのと同じ方法に従って実行される)が、必要とされた。なぜならば、30Sサブユニットを含まないで結晶化される場合、50Sサブユニットの間に高次構造の差異が存在するからであるが、このことは、Haloarcula marismortui由来の23S rRNAの構造と、Thermus thermophilus由来の23S rRNAの構造との間の系統発生的差異にもまた起因している。一次構造および二次構造の保存された領域が、一般的に観察され、50S構造と70S構造との間で十分にフィッティングが行われた。明らかな差異(特に、これらの2つの構造の系統発生的に異なった領域において生じる差異)を有する領域において、Haloarcula構造を、70S T.thermophilus構造に対してモデリングした。異なるリボゾーム構造の間の系統発生的差異を有する領域は、周知であり、そして、例えば、www.RNA.icmb.utexas.eduにある、Robin Gutellにより維持されているウェブサイトに、収集されている。
【0066】
Banら(2000)により決定された50S構造におけるいくつかの領域は、視覚化できないほど十分に不規則であったが、70S 5.5Åマップにおいて可視化し得た。50Sサブユニット内に含まれるrRNAの公知の二次構造面は、5.5Å電子密度マップに容易にフィットした。5S一次構造は、HaloarculaとT.thermophilusとの間で60%保存され、それ故、この領域は、容易にフィットした。5S構造の残りの40%を、E.coliから解析した5Sのフラグメント(PDB id 354D;MMDB id 6741)に対してモデリングし、そしてこれを用いて、ループE領域(HaloarculaとT.thermophilusとの間の最も有意な差異を含む)をモデリングした。
【0067】
70Sリボゾームの5.5Åモデルについての原子座標は、付録Iとして本明細書中に添付されるPDBファイルに含まれる。この構成は、以下と同定される:ファイルAは、30Sリボゾームサブユニット、ならびに関連するtRNA分子およびmRNA分子についての原子座標を含み;ファイルBは、50Sサブユニットについての座標を含み;ファイルCは、70SサブユニットにドッキングしたIF3 C末端ドメインについての座標を含み;ファイルDは、70SサブユニットにドッキングしたIF3 N末端ドメインについての座標を含み;ファイルEは、Mk27(30Sサブユニットにおいてモデリングした27ヌクレオチドの合成mRNA)についての座標を含み;ファイルFは、Mv36(30Sサブユニットにおける36ヌクレオチドの合成mRNA)についての座標を含み;そしてファイルGは、Mf36(30Sサブユニットにおける36ヌクレオチドの合成mRNA)についての座標を含む。これらの座標は、RCSBに登録されており、ファイルのデータベースIDは、表VI(付録Iを参照のこと)に示される。登録された座標は、例えば、www.ncbi.nlm.nih.govでアクセスし得る。
【0068】
(70sリボゾームの全体構造)
図2Aは、30Sサブユニットの溶媒面からの「標準的図」で70Sリボゾームの構造を示し、そのヘッド(H)特徴、ボディ(B)特徴、プラットホーム(P)特徴およびネック(N)特徴、およびそれらの対応する16S rRNA(シアン)成分およびタンパク質(青)成分を示す。右下の突き出た部分は、30Sサブユニットの「スパー(spur)」であり、16S rRNAのへリックス6により形成され、これは、結晶を、最近報告された30Sサブユニット構造(Carterら、2000)における別のサブユニットのP部位と接触させる。この図において、ヘッドにおけるタンパク質S2、S3、S9、S10およびS14の位置;プラットホームにおけるタンパク質S6、S11およびS18の位置;およびボディにおけるタンパク質S4、S5、S8およびS16の位置が見られる。バックグラウンドにおいて、50Sサブユニットの一部は、その23S rRNA(グレイ)、5S rRNA(頂部;青)および50Sサブユニットタンパク質(マゼンタ)を有する、「クラウン(crown)」図(view)で見える。タンパク質L9は、左に見られ得、50Sサブユニットそのものの面を50Åよりも超えて延びている。左上で、L1およびその23S rRNA結合部位は、30Sサブユニットのプロフィールの外側に突き出ており、そしてタンパク質L11およびそのRNAならびにL7ダイマーの1つは、右上のストーク(stalk)を構成する。
【0069】
右手側(図2B)から、A部位tRNAのアンチコドン末端(金)は、サブユニット界面キャビティ(interface cavity)の末端の近くに見られ、これは、伸長因子のEF−TuおよびEF−Gがリボゾームと相互作用する漏斗型の開口を通して見られる。伸長因子のGドメインと相互作用するリボゾーム構造の1つは、23S rRNAのサルシン−リシン(sarcin−ricin)ループ(SRL)であり、これは、A−tRNAとタンパク質L14との間に見られる。タンパク質S9、S12、S13、S19、S20、L3,L5、L6、L7、L11、L13、L14、L19、L22、L25およびL30、ならびにタンパク質L21およびL32の位置(その構造は未知である)、および電子密度標識LU、LV、およびLXの位置(本発明者らは、まだ未同定の大サブユニットリボゾームタンパク質(これは3つの割り当てられていない既知のタンパク質L31、L35およびL36を含み得る)として割り当てる)もまた右手図で明白である。5S rRNA(5S)は、2つのその結合タンパク質(L5およびL25)と一緒に、50Sサブユニットの頂部で見られる。
【0070】
50Sサブユニットの後からの図(図2C)は、さらなる50Sサブユニットのタンパク質L4、L15、L16、L21、L24、L27、L28、L29、L32、L33、L34の位置、第3の5S rRNA結合タンパク質L18の位置、および未同定のタンパク質LWおよびLYの位置を示す。ポリペプチド出口チャネル(EC)の開口は、50Sサブユニットの裏面の底部にあり、これは、23S rRNAのドメインIおよびIIIの要素に加えて、タンパク質L22、L24およびL29により囲まれている。
【0071】
左手図(図2D)において、界面での2つのサブユニットの緊密な接近は、さらにより明確である。30Sサブユニットのプラットホーム(タンパク質S11、S6およびS15のまわり)は、タンパク質L2付近の50Sサブユニットに、RNA−RNA相互作用およびRNA−タンパク質相互作用(タンパク質S15およびL2が関与する)を主に通して接触する。E部位tRNA(赤)は、界面のキャビティの側面(L1およびそのRNA結合部位による図から部分的に遮蔽される)の近くで見られ得、これは、リボゾームからのその出口のための経路をブロックするようである。平面図(図2E)において、界面キャビティにおける3つのtRNAの全て(A、金;P、オレンジ;E、赤)の配向は、より明確に見られ得る。23S rRNAにおけるA−部位フィンガー(ASF)と30SサブユニットのヘッドにおけるS13(ブリッジB1a)との間の接触は、明白であり、タンパク質L5とS13との間の緊密な接近(ブリッジB1b)のように、これらの電子密度は、融合して、単一のタンパク質−タンパク質サブユニット間ブリッジを形成する(以下を参照のこと)。
【0072】
界面から見ると(図2F、2G)、より少ないタンパク質が、30Sサブユニットおよび50Sサブユニット上に見られ、そしてこれらは、周縁部に主に位置付けられ、リボゾームRNAの表面を露出したままにする。これらの3つのtRNAは、30Sサブユニット上で、ヘッドと、ボディと、プラットホームとの間のRNAリッチグルーブにおいて結合した、これらのアンチコドン末端と並置される。残りの3つのtRNAの全て(これらのDステム(stem)、エルボー(elbow)およびアクセプターアーム(acceptor arm)を含む)は、50Sサブユニットと相互作用する。AおよびPのtRNAのアクセプターアームは、ペプチジルトランスフェラーゼキャビティへと下向きに示すが、E−tRNAアクセプターアームは、L1リッジ(ridge)の次の別々のクレフト(cleft)へと向けられる。このtRNA結合部位に隣接するものは、界面接触表面のように、rRNAにより支配される。
【0073】
(rRNAの二次構造および三次構造)
リボゾームRNAの構造は、20年を超える本発明者らの調査の目的である。これらの二次構造(図3A、3B)は、初めに、配列比較分析によって確立され(Woeseら、1980;Nollerら、1981a)、ここで、分子内塩基対合は、対合した塩基の系統発生的共変動の存在により実証され、現在、8000を越える異なる生物およびオルガネラ由来の16S様rRNA配列、および1000を超える23S様rRNA配列(http://www.rna.icmb.utexas.edu/)により支持されている。60を超える系統発生的に予測された16S rRNAのへリックス要素が、この構造内に見られる。16S rRNAの個別のへリックス要素は、tRNAの構造において初めに観察されたように、隣接するへリックスと同軸状にスタックし、合計20のより長い、外見上連続したへリックスアームを形成する。
【0074】
16S rRNAの二次構造は、4つの認識可能なドメイン(5’ドメイン、中央ドメイン、3’メジャードメインおよび3’マイナードメインと呼ばれる)に分類される(図3A;Woeseら、1980;Gutell、1994)。16S rRNAの三次元折り畳み(フォールド)の一般的な意味は、化学フットプリンティング(Nollerら、1990)およびクロスリンキング(Muellerら、1995)、ならびに免疫電子顕微鏡(Stoffer−Meileckeら)のような生物物理学的アプローチ、および中性子散乱法(Capelら、1987)に基いて、初期のモデリング研究から生じた(Stern 1988a;Brimacombeら、1988)。異なる研究機関により推論されたモデル間で、詳細には、差異が存在したが、5’ドメインが、30Sサブユニットのボディ、プラットホームの中央ドメイン、およびこの粒子のヘッドの3’メジャードメインに位置付けられるという、一般的な意見の一致があった(Nollerら、1981a)。単離されたリボゾームサブユニットの構造(Wimberlyら、2000;Schluenzenら、2000)において観察されるように、16S rRNAの二次構造ドメイン(図3A)は、ほぼ構造的自主性がある三次元ドメインに実際に対応する(図3C)。5’ドメインは、ボディ、プラットホームの中央ドメイン(長い同軸性の620ステムによりボディの溶媒面に係留される)、3’メジャードメイン(サブユニットのヘッドおよびネック)、3’−マイナードメイン(最後から2番目のステムおよび隣接する3’−末端へリックス)を構成する。この構成は、即座に、これらのドメインが、タンパク質合成の間に互いに対して移動するように設計されていることを示唆する。特に、ヘッドと残りのサブユニットとの間の非常に最小限の相互作用は、転座の間のヘッドの提唱される移動と一致する(Serdyukら、1992;Frankら、2000)。これらの4つのドメインは、mRNAとtRNAとのその機能的相互作用の部位の次の、サブユニットの幾何学的中心付近を覆い、このことは、さらに、ドメイン間の移動と生物学的機能の連関を示唆する。
【0075】
23S rRNAの配列比較分析(Nollerら、1981b;Gutellら、1993)から予想された、130を超える個別のへリックスが、そのX線結晶構造において見られ、これらは40の同軸アームを形成する。E.coli二次構造(http://www.rna.icmb.utexas.edu/)に対して、23S rRNAの位置650の周りに挿入された予想されたThermus特異的へリックスについて、電子密度は見られなかった。23S rRNAおよび5S rRNAは、共に、7つの二次構造ドメインを形成する(図3B)。30Sサブユニットの設計と対照的に、23S rRNAのドメインは、H.marismortuiの50Sサブユニットについて初めに述べられたように(Banら、2000)、お互いに広範に絡み合い、50Sサブユニットのボディを形成する、単一の大きな半球状のドメインを作成する(図3D)。ボディを突出する多数の分子ストークから、ドメインII、ドメインIV、ドメインV、ドメインVI由来のRNA要素が構成され、これらのいくつかは、伸長した同軸へリックスアームであり、そして、その他のものは、へリックスステムによりサブユニットのボディに繋がれたマッシュルーム様球状RNAドメインである。このストークのいくつかは、30Sサブユニットとのブリッジを形成し、一方、他のものは、tRNAおよび伸長因子と相互作用する;ストークは、50Sサブユニットの動的要素であるようである。これらは、以下で議論するように、種々の機能的相互作用と関連する運動を受ける。
【0076】
(70Sリボソームと単離されたサブユニットのコンホメーション間の差異)
70Sリボソームにおける16S rRNAのコンホメーションとWimberlyら(Wimberlyら、2000)によって報告された30Sサブユニット構造のコンホメーションとの比較は、rmsd差異の不均一性分布を示す(図4A、B)。リン原子の位置の平方自乗平均偏差を、以下のように、それぞれ、16S rRNAおよび23S rRNAの最小二乗近似を行った後に算出した。最初に、距離マトリクスを、各RNAの座標セットについて、独立して算出した。次いで、分子内距離の値が2つの比較分子の間でわずかに変動する214個の原子のセットを使用して、プログラムMIDAS(T.E.Ferrin,C.C.Huang,L.E.Jarvis,R.Langridge,J.Mol.Graphics 6,13〜27(1988))を使用する最小自乗フィットによって全体の分子をスーパーインポーズした。最も高いrmsd値(>10Å)が、ボディーの左下のスパー(spur)領域(SP)について観察され;この差異は、結晶の接触によって説明され得る。ここで、スパーヘリックスは、Wimberlyらの構造において対称な関連サブユニットのP位に結合する。他の主要なコンホメーション差異(3.5Åと10Åとの間のrmsd)は、わずかな領域に局在化され、これらの領域としては、最後から二番目のステム(PS)、プラットホームの頂部およびサブユニットのヘッドが挙げられる。これら全ての特徴は、以下のように、50Sサブユニットと相互作用し、このことにより、観察された差異が、サブユニットの会合の際に生じるコンホメーションの変化を含み得ることを示唆する。
【0077】
T.thermophilus 70SリボソームおよびH.marismortui 50Sサブユニット(Banら、2000)における23S rRNAのコンホメーション間の差異が、図4Cおよび図4Dにまとめられている。50S構造(黄色)において不規則化された(disordered)23S rRNAの特徴は、いくつかの突出したストークエレメントを含み、これらのエレメントとしては、L1 RNAおよびL11 RNA、A部位フィンガーおよび1915ステム−ループが挙げられる。これらのエレメントは、30Sサブユニットとの相互作用および70Sリボソーム複合体におけるtRNAとの相互作用によっておそらく安定化される。Thermusリボソームの本来の熱安定性は、低い程度の不規則性に寄与する。
【0078】
Haloarcula 50Sサブユニットの多数のさらなるコンホメーション差異が、見出される(図4C、D)。いくつかの差異は、細菌RNAおよび古細菌(archaeal)RNAの対応する領域間の予測される系統学的構造変化によって説明される。RNAヘリックスおよび細菌構造に特有の他の特徴(図4C、D;シアン)、逆に、古細菌構造(白色)において固有に存在するものの例が存在する。これらの系統学的に変化する特徴は、サブユニットの底面および後面に位置づけられ、サブユニット界面および機能部位から離れている。
【0079】
(ドメインIIIのタンパク質L9および先端ステム)
主要なコンホメーション差異が、23S rRNAのドメインIIIの先端ステム領域において見出され、この領域は、細菌RNAの1495位(図4C)および番号付けした古細菌の1597位に中心がある。Thermusリボソームにおいて、このヘリックス(ヘリックス58)は、サブユニットの低位端(左に示し、ここで、タンパク質L2と相互作用する)に沿って折り畳む;Haloarcula 50S構造においては、完全に異なる経路をとり(図4E)、1478位(Haloarcula marismortuiヌクレオチド1581)の周囲で急激に分岐して、サブユニットの界面にて、対向する方向に(右上方向および右方向に)折り畳み、先端ループを23S rRNAのヘリックス34の次に配置する(これは、Thermus70Sリボソームにおける対応するループの位置から50Åより遠く離れている)。
【0080】
このコンホメーション差異が、系統学的変化に起因し得ないと考えられる理由がある。第一に、Thermus構造内で相互作用する、1495ループの塩基およびL2のアミノ酸は保存され、そして、Haloarcula内で同一である。このことは、1495ループが、細菌リボソームおよび古細菌リボゾームにおいて完全に異なる相互作用をするという考えに一致する。このことは、ヘリックス58が2つの構造のうちの1つに再配置されることを示唆する。ヘリックスが50Sサブユニットおよび70Sリボゾームにおいて異なるコンホメーションを有する、別の可能性は、E.coli 50Sサブユニットのタンパク質L9からの直接的ヒドロキシル基プロービング(probing)の結果によって除外されるようである(Liebermanら、2000)。これらの結果は、ヘリックス10および79の近傍、およびへリックス54の1580位での内部ループ近傍にヘリックス58のループを配置する(それらの全ては、Thermus 70S構造においてヘリックス58の近傍にある)が、Haloarcula 50S構造においてヘリックス58の位置から離れる。同様の説明は、ヘリックス58が古細菌50Sサブユニット結晶構造内に再配置されることである。
【0081】
これらの同じプロービング実験は、タンパク質L9(このタンパク質のリンカーヘリックスおよびC末端ドメインは、溶媒中で、50Sサブユニットの左手側から離れて突出している)が、Thermus構造中にそれ自体再配置させることを示唆する。較正研究(Josephら、2000)に従って、23S rRNAのヌクレオチド165、1495、1580、および2220における、L9の101位からの強力なヒドロキシル基の切断は、これらの標的の25Åの範囲内に置き;代わりに、これらのヌクレオチド(これらは、サブユニットの左手側で一緒にクラスター形成する)は、L9の101位から70Å〜80Å離れている。この距離において、ヒドロキシル基の切断は、実質的に検出不可能である。本発明者らは、L9のC末端ドメインが、通常は、50Sサブユニットの左手側のヘリックス10、54および79の間に形成されたポケットの近傍に位置付けなければならず、しかも、結晶化条件下で、これは、隣接リボソームの16S rRNA(図4F)と接触した結晶を形成するように再配置すると推測する。
【0082】
(サブユニット間ブリッジの構造)
サブユニット間の接触は、最初に、Frankおよび共同研究者(Frankら、1995a)によるクリオEM研究において、別個のブリッジとして可視化された。5.5Aにおいて、サブユニット間接触に関与する、全ての分子成分が同定され得、これらは、2つのさらなるタンパク質含有ブリッジを含んだ。初期化学プロービング(Merrymanら、1999a;Merrymanら、1999b)および改変−干渉(Herrら、1979)研究から推測されるように、大部分のブリッジ接触は、図5Aに要約されるように、rRNAに関与する。図5Bは、この界面から観察される、それぞれの30Sサブユニット結合部位のA−tRNA、P−tRNA、およびE−tRNAのアンチコドンステム−ループとの30Sブリッジ接触を示す。RNA−RNA対RNA−タンパク質またはタンパク質−タンパク質の接触の分布は著しく;RNA−RNA接触(赤色)は、プラットホームおよび最後から二番目のステムの中心に位置し、tRNA結合部位に直接隣接している。対照的に、タンパク質(黄色)を含む接触は、末端に位置しており、機能的部位からより離れている。50Sサブユニット側(図5C)では、RNA−RNA接触は、再び中心にあり、これは、ペプチジルトランスフェラーゼおよびE部位を界面キャビティから分離する界面壁の前面を横切る三角パッチを形成する。興味深いことに、RNA−RNA相互作用は、ドメインII(これは、大部分のブリッジB4を作製する)のヘリックス34からの小さいRNA−RNA接触を除いて、23S rRNAのドメインIVからのRNAエレメントを排他的に含む(Culverら、1999)。ブリッジ接触に関与する23S rRNAの唯一の他の部分は、ヘリックス38(A部位フィンガー)の先端であり、これは、RNAタンパク質ブリッジB1aを形成する。50Sサブユニットからの残りのブリッジ相互作用は、タンパク質L2、L5、L14およびL19によって作製される。
【0083】
12のサブユニット間ブリッジ(図5B、C)を形成する分子接触が、表IIIにまとめられている。複数の接触が、多数のブリッジについての電子密度マップにおいて観察され得、合計で30より多い個別の相互作用を与える。RNA−RNA接触は、グルーブ−副溝相互作用によって支配されるが、主溝、ループおよび骨格接触もまた見出される。架橋タンパク質は、実質的に、認識のための全ての型のRNA特徴(主溝、副溝、骨格およびループエレメントを含む)を使用する。
【0084】
ブリッジB1aおよびB1bは、30Sサブユニットのヘッドを50Sサブユニットの頂部に結合する(これは、界面の直接上を交差し、そしてA−tRNAおよびP−tRNA(図2E)に平行である)。B1a(これは、「A部位フィンガー」と呼ばれる(Frankら、1995a))は、Haloarcula 50Sサブユニット構造(Banら、2000)において、ほぼ不規則である。これは、50Sサブユニットの中心突出の右側から30Sサブユニットのヘッドの中央まで到達する、長いヘリックスRNAアーム(23S rRNAのヘリックス38)からなり、ここで、その頂端の890ループは、タンパク質S13の92位周囲の保存的塩基配列と接触する。ブリッジB1bは、サブユニット間の単独のタンパク質−タンパク質接触である。23S rRNAのヘリックス84は、P−tRNAの上の30Sサブユニットのヘッドの方に部分的に到達し;残りの距離は、タンパク質L5によって架橋され、このブリッジは、L5の残基134〜153(Haloarcula marismortuiの109〜127位)によって形成される20アミノ酸ループからのS13のN末端テイルと接触し、これもまた、H.marismortui 50S構造において不規則である。
【0085】
ブリッジB2a、B3、B5およびB6(図5B、5C)の全ては、50Sサブユニットと16S rRNAの最後から二番目のステム(ヘリックス44)との間の相互作用および30Sサブユニット界面の優位な構造成分を含む。図5Dは、これらの4つのブリッジを形成するRNAエレメントの再配置を示している。頂部において、ブリッジB2aは、23S rRNAのヘリックス69の1914ループによって作製され、別の特徴は、Haloarcula 50Sサブユニット構造において不規則である。これは、最初の一連の3つの連続した副溝−副溝相互作用における架橋実験(Mitchellら、1992)から予測されるように、1408位周囲の16S rRNAのデコード部位と接触する。次のもの(B3)において、23S rRNAのヘリックス71は、1418位周囲の、2つの連続した非正準A−G対にて、最後から二番目のステムと接触する。ちょうどB3の下で、主溝接触は、23S rRNAのヘリックス64の副溝によって作製され、続いて、ヘリックス62との接触によって形成される第三の副溝−副溝相互作用(B6)によって作製される。ブリッジB6での最後から二番目のステムとのさらなる接触が、タンパク質L19(図5E)によってなされる。L14(これは、分子間β−シートを形成することによってL19と相互作用する)は、16S rRNAのヘリックス14の345ループの主溝側と接触して、ブリッジB8(図5E)を形成する。
【0086】
23 rRNAのヘリックス68および71は、長く巨大な非正準同軸性アームを形成し、このアームは、50Sサブユニットの界面壁の頂部に水平方向に沿って位置しており、前に言及したB3(図5C)に加えて、ブリッジB2bおよびB7aの50S成分を含有する。図5Fは、B2bおよびB7aを形成する相互作用の複雑なセットがプラットホームの頂部から観察されることを示している。ブリッジB7aについての電子密度により、A702(これは、70Sリボソームにおけるジエチルピロカルボネート修飾から強力に保護されている(Merrymanら、1999b))が、23S rRNAのヘリックス68のマイナーグルーブと「A−マイナー」接触する(Banら、2000)ことを示唆する。これら2つの残存するタンパク質−RNAブリッジが、図5Gに示される。タンパク質L2は、ヘリックス23および24において16S rRNA(B7b)と2つの別個の接触を行い;L2はまた、タンパク質S6(図示せず)と非常に接近し、そして翻訳の間に、このタンパク質との過渡的な接触を行う。ブリッジB4は、以前に示したように(Culverら、1999)、主に、23S rRNAのヘリックス34のタンパク質S15と715ループとの間の相互作用であり;715ループはまた、16S rRNA(図5)のヘリックス20との適度なRNA−RNA接触を行う。
【0087】
(表III.サブユニット間ブリッジ)
【0088】
【表3】
ブリッジは、図5Bおよび図5Cに示されるように、B1a、B1bなどと番号付けされる。rRNA接触は、30Sサブユニットについて、16S rRNAに対してであり、そして50Sサブユニットについて、23S rRNAに対してであり、図3Aおよび図3Bに示されるように番号付けされた、近位ヘリックス(H44など)の番号によって列挙される。rRNAヌクレオチド番号は、E.coliの番号付けに従う。分子接触は、以下のような括弧においてスコア付けされる:M、主溝;m、マイナーグルーブ;L、ループ;B、骨格;Lmは、ループのマイナーグルーブ側を参照し、LBは、ループ骨格などを参照する)
(tRNA−リボソーム相互作用)
リボソームがその基質(tRNA)とどのように相互作用するかは、翻訳機構を理解するために最も重要である。コドンとアンチコドンとの間の塩基対合を介する、mRNAとのそれらの周知の相互作用に加えて、tRNAはまた、それ自体がリボソームと相互作用する。これらの相互作用は、tRNAのリボソームとの結合を安定化するのを補助のみならず、アミノアシル−tRNA選択の精度を高める識別機構のような機能的プロセスに直接的に関与し、これは、修正した翻訳リーディングフレーム、リボソーム内部へのtRNAの転位移動、およびペプチド結合形成の触媒作用を維持する。従って、tRNAとリボソームとの間の分子接触の知見は、これらのプロセスのための機構を解明するための構造的フレームワークを提供する。多数の初期研究によって予測されるように(Greenら、1997に総説される)、tRNAは、主に、リボソーム内のrRNAエレメントに取り囲まれており、このほとんどが、フットプリンティング、架橋および直接的ヒドロキシル基プロービング研究において同定された(Moazedら、1986b;Doringら、1994;Moazedら、1989a)。驚くべきことではないが、本発明者らは、リボソームが3つ全てのtRNAと、それらの構造の一般に保存的な部分にて接触し、その結果、全てのtRNAが正確に同じ様式で結合され得ることを見出した。
【0089】
図6Aは、それぞれのコドンに結合したA−tRNAおよびP−tRNAの電子密度を示し、図6Bは、70Sリボソーム結晶において位置付けられるA−tRNA、P−tRNAおよびE−tRNAならびにmRNAの全体的な相対的ジオメトリーを示す。リボソームとのこれらの特異的接触は、これらがハイブリッド結合状態ではなく、むしろ「古典的」である(A/A、P/PおよびE/E)ことを示す(Moazedら、1989b)。3つ全てのtRNAは、類似の様式で2つのリボソームサブユニット間で共有され;それらのアンチコドンステム−ループは、30Sサブユニットによって結合されており、そして残りのtRNA−Dステムと接触し、エルボーおよびアクセプターアームが、50Sサブユニットによって作製される。A−tRNAおよびP−tRNAの面は、26°の内角を形成し、P−tRNAおよびE−tRNAの面は、46°の内角を形成する。A−tRNAおよびP−tRNAのアンチコドンステム−ループの骨格間の最も近いアプローチは、約10Åであり、驚くべきことに、この距離は、これら2つのtRNAがmRNAの隣接したコドンを読み取るという事実を考慮すると、非常に離れている。
【0090】
2つのコドンの同時読み取りを、AコドンとPコドンとの間の約45°のmRNA骨格におけるねじれによって達成する(図6B)。A−tRNAおよびP−tRNAの骨格は、アクセプターステム(acceptor stem)で最も近く、互いの5Å以内に近づく。エルボー(elbow)において、A−tRNAの塩基D16およびP−tRNAの塩基U47は、実際には、互いのH結合距離内にあるが、本発明者らは、このような相互作用が起こるという先行技術での証拠を知らない。A−tRNAおよびP−tRNAのCCAテイルは、予期されたように、50Sサブユニットのペプチジルトランスフェラーゼ部位の3’末端で収束する。P−tRNAおよびE−tRNAのアンチコドンステム骨格の最も近い近接は、約6Åであり、A−tRNAおよびP−tRNAについて見出される近接よりも有意に近い。しかし、E−tRNAのエルボーおよびアクセプターアームは、回転して、P−tRNAから著しく離れ、その結果、それらの個々の3’末端はほぼ50Å離れる。3つのtRNAの対応位置間の距離は、トランスロケーションの間におけるtRNAの移動の大きさの尺度である。従って、tRNAのアンチコドン末端は、30SのA部位とP部位との間で約28Å移動し、そしてP部位とE部位との間で20Å移動する。tRNAの面の回転が理由で、エルボーは、AからPへ、PからEへと移行するので、40Åおよび55Åのより広い距離を通して移動する。
【0091】
以前に観察されたように、P−tRNAのアンチコドンステム−ループ(ASL)およびPコドンは、30Sサブユニットとの6セットの相互作用(a〜f)によって位置付けられる(Cateら、1999)。これらの相互作用に関連する構造的特徴を、図6Cおよび6Dに示し、そして表IVにまとめる。現在の解像度では、実際の原子の相互作用は解析されていない。しかし、公知のRNA立体化学を、ドッキングさせた(docked)高解像度構造と合わせると、例えば、RNAとの相互作用が糖−リン酸骨格または塩基を含むのか否かを強く束縛し、そして多くの場合において、関与する可能性が最も高い化学基の予測を可能にする。
【0092】
【表4】
1a.c.、アンチコドン;acc、アクセプター;D、ジヒドロウラシル;T、チミジン;RNA接触は、以下によって示される:bk、骨格;bs、塩基;bp、塩基対。結果が結論に至らなかった場合には、記載を省略している。tRNA位置は、酵母のtRNAPheに従って番号付けられ、rRNA位置は、E.coliに従って番号付けられる。
【0093】
アンチコドンステム−ループの結合様式およびその接触は、30S P部位に対するヘリックス6の結合について以前に観察されていたものと非常に類似する(Carterら、2000)。6つすべての30S P部位での相互作用は、16S rRNAとの直接的な接触を含み、このうちの2つ(aおよびd)は、それぞれ、タンパク質S13およびS9の伸長C末端テイルとの相互作用によって支持される。S13の幾分系統発生的に変動するリジンリッチテイルは、P−tRNAのホスフェート36と相互作用する。対照的に、S9のテイルは正確に保存されており、そしてそのC末端アルギニン(これは、P−tRNAのアンチコドンにおけるホスフェート35と相互作用するようである)は、普遍的に保存されている。これらの同じホスフェートは、30S P部位への結合のために重要であることが、ホスホロチオエート干渉実験において同定されている(Schnitzerら、1997)。リボソーム機能にrRNAを関連付けた最初の実験の1つは、16S rRNA中の限定数のグアニンのケトキサール(kethoxal)改変が、30SサブユニットへのP−tRNA結合の損失を引き起こしたという実証であった(Nollerら、1972)。P部位のmRNA−tRNA複合体と相互作用する5つの16S rRNA塩基(G926、2mG966、G1338、G1339およびC1400)のうち、少なくとも4つはグアニンであり、この初期の知見を説明している。さらに、5つすべての塩基は、化学的フットプリンティングおよび改変干渉実験に基づいて、P部位と相互作用するとして同定された(Moazedら、1986b;Ahsenら、1995;Moazedら、1990)。
【0094】
さらに、相互作用のセットは、P部位のコドン−アンチコドン対形成を安定化するようである:tRNAの34位のアンチコドン骨格と相互作用する塩基G966、およびPコドンの1位の骨格と相互作用するヌクレオチドU1498の骨格は、コドンおよびアンチコドンを一緒に締め付ける(clamp)ようである。C1400は、tRNAの塩基34でのスタッキングによって、揺らぐ塩基対を安定化するようであり、これは、光化学架橋研究から、約20年前にOfengandおよび共同研究者らによって予測された配置である(Princeら、1982)。重ねて、tRNAフットプリンティング実験によって同定された多くの塩基(Moazedら、1986b;Moazedら、1990)は、tRNAと相互作用をなすことが見出されている;しかし、「クラスIII」塩基を含むいくつか(Moazedら、1987)は、間接的に(おそらく、tRNAに誘導されるコンフォメーション変化によって)保護されている。2つのタンパク質(S9およびS13)は、両方とも、それらの伸長した塩基性C末端テイルを介してP−tRNAと相互作用し、それらは、それらがRNA−RNA相互作用を支持する精巧なポリアミンとして機能することを示唆する様式で、アンチコドンステム−ループと相互作用する。
【0095】
ブリッジB2aを形成する23S rRNAのヘリックス69の副溝は、P−tRNAのDステムの副溝と相互作用し(図6E;相互作用g)、A部位へと伸長して、このA部位において、その保存されたループは、A−tRNAのDステムのほぼ同じ造作物と相互作用し(図6K;相互作用f)、そして最後から2番目のステムの頂部とのB2aブリッジ接触を形成する(図5D)。この相互作用の複合セットは、30Sサブユニットによるヘリックス69の1915ループ中の塩基の部分的保護(これは、tRNAの結合に際して完成となる)を示した化学的フットプリンティング結果を説明する(Moazedら、1989a)。そのエルボーにおいて、タンパク質L5のβヘアピンループ(54〜66位)は、C56の副溝面でP−tRNAのTループと相互作用する(図6E;h)。P−tRNAのCCAテイルは、基質アナログと複合体形成された古細菌(archaeal)50Sサブユニットに関する近年の高解像度構造において観察された(Nissenら、2000)、23S rRNA Pループとの予期されたC74−G2252塩基対形成を可能にするように位置付けられる(Samahaら、1995)。さらに、アクセプター末端は、アクセプターステムと23S rRNA Pループのステムとの間の骨格−骨格接触(図6E;i)、およびCCAテイルとヌクレオチドA2602とU2585との間の相互作用によって位置付けられ、この両方が、大サブユニットのペプチジルトランスフェラーゼ機能に関与している(Moazedら、1989a;Barta 1984)。
【0096】
近年、Haloarcula 50Sサブユニットの原子解像構造が、化合物CCdAp−ピューロマイシン(これは、ペプチジルトランスフェラーゼ反応の遷移状態アナログであると考えられる(Welch 1995))との複合体において解析された(Nissenら、2000)。この構造は、リボソームによるペプチド結合形成の触媒についての機構の提唱へと促した(Nissenら、2000)。本発明者らは、70Sリボソーム構造上において、CCdAp−ピューロマイシンを含む50Sサブユニット構造のペプチジルトランスフェラーゼ領域をドッキングさせた。これは、23S rRNAの周辺のエレメントを重ね合わせることによって導き出された。5.5Åの解像度で切り捨てられた電子密度マップを、脱アシル化tRNAが本発明者らの構造においてP部位に結合するという事実を考慮に入れるために、ピューロマイシン部分を取り除いた後のHaloarculaの50Sサブユニット複合体について算出した。5.5Åの解像度において、P部位tRNAの3’−CCA末端付近におけるrRNA骨格の大半のコンフォメーションは、2つの構造の間において、ほとんど識別可能な差異を示さない。わずかな明らかな差異は、Pループ、および2451位、2506位、2585位および2602位(これらは、協調的な様式で移動し得る)またはそれらの付近に位置付けられる。70Sリボソーム複合体では、23S rRNAの付近の造作物と比較して、P−tRNAの3’−CCA末端の位置が、(おそらくアシル基の不在に起因して)遷移状態アナログの対応部分の位置とは異なるようである。P−tRNAのCCA末端は、2つの構造において、結合ポケットと相対的に垂直移動を示す(図6F)。
【0097】
2つの可能なモデルは、実験的な70S電子密度マップ(図6F)と50S構造から算出された5.5Åのマップ(図6G)との間で示された差異を説明し得る。1つのモデルでは、CCA末端は、結合ポケットにおいてわずかに引き上げられ、これは、A76とA2451鎖との間の実験的マップにおいて示された密度ギャップ(ここでは、算出されたマップにおいては連続的な密度が示される)を説明する。第二のモデルは、ポケットにおけるC74およびC75のより深い配置を含み、これには、A76のU2585方向への回転が付随する。第二のモデルはまた、上記の密度ギャップと一致するが、70Sリボソームの実験的電子密度においてU2585に隣接して出現する新たな密度をも説明する(図6F)。化学的保護実験により、U2585が、50S P部位へのアシル化tRNAまたは脱アシル化tRNAのいずれかの結合によって強力に保護されるが、A76を欠失するtRNAと結合する場合には、脱保護されることが示されている(Moazedら、1989a)。興味深いことに、U2585付近へのA76の配置は、50Sサブユニット構造から決定されたモデルのCCA末端の大きな再配置に関与するが、A76のリボース位置は、結合ポケットにおいてほとんど全くシフトしない可能性がある。
【0098】
30SサブユニットにおいてA−tRNAアンチコドンループを取り囲むのは、化学的フットプリンティング研究によってA部位特異的な特徴としてもともと同定された、3つの普遍的に保存された塩基(G530、A1492およびA1493)であり(Moazedら、1986b;Moazedら、1990)、そして変異研究および生化学的研究によって、A部位の結合に影響を及ぼすことが示されている(Powersら、1990;Yoshizawaら、1999)。3つすべての塩基は、30S A部位におけるコドン−アンチコドン相互作用の部位付近に位置付けられる(図6H、I;a、d)。塩基A1492および1493のtRNAに保護されたN1位置は、コドン−アンチコドン塩基対から離れて示され、そして30SサブユニットA部位が空である場合に、16S rRNA骨格によってそれらから分離される(Wimberlyら、2000)。このことは、A−tRNAの不在下における70Sリボソームの電子密度と一致する。アミノグリコシド抗生物質パロモマイシンの存在下において、ヌクレオチド1492および1493のコンフォメーションは、再配置することが見出されており(Carterら、2000)、それらがまた、30S A部位へのtRNAの結合に応答して再配置され得るという可能性を高めている。70Sリボソームに結合したA部位tRNAの7Åフーリエ差分マップにおいて(図6J)、負の電子密度のパッチが、塩基1492〜1493の位置に見出される。これは、Carterら(Carterら、2000)により示唆されたように、これらが、A部位のコドン−アンチコドンヘリックスの副溝における第一塩基対および第二塩基対と相互作用するように再配置するという可能性に対する支持を与える。G530のN1位置はまた、A−tRNA結合に際して保護され(Moazedら、1986b;Moazedら、1990)、そしてこの塩基の変異は、優性の致死表現型およびA−tRNA結合の欠損を与える(Powersら、1990)。G530はまた、第二塩基対および第三塩基対付近のコドン−アンチコドンヘリックスの副溝に位置付けられる。隆起した塩基C1054(UGAナンセンス変異を抑制することが示されている変異(Murgolaら、1988))は、A−tRNAアンチコドンループの頂端に向かって突出する(図6I;b)。
【0099】
タンパク質S13のリジン120およびホスフェート955は両方とも、41位の周りのtRNA骨格と相互作用するに十分に近い(図6H、I;c)。50位の周りの普遍的なPNSA配列を保有する、S12の保存された突出部(lobe)は、530ループとデコード部位の1492〜1493鎖との間の空間中に突出し(図6H;e)、30SサブユニットA部位の基底(floor)を完成させる。ヌクレオチド1492および1493における最後から2番目のステムの頂部ならびに910〜912位のスイッチヘリックス(Lodmellら、1997)に向かい合う、基底の右手側における変異は、拘束性(高度に正確)な表現型を与える(Kurlandら、1990に概説されている)。これらの変異は、530ループと1492〜3鎖との間の空間を拡大する効果を有し得、tRNA−mRNA複合体と30S A部位との間の相互作用を緩める。
【0100】
A−tRNAのエルボーは、そのDループおよびTループ(図6K;g)のブリッジB1a(A部位フィンガー;H38)およびタンパク質L16(Nollerら、1992)と相互作用する。タンパク質L11、およびA−tRNAと直接的には相互作用しないが23S rRNAの1067位(H43;Ryanら、1991)付近にあるその付随したRNAは、そのTループに近接し、そしてそれを、tRNAまたは23S rRNAのいずれかの中程度の移動のみで、一過的に接触させ得る。タンパク質L16からの電子密度または未だに同定されていないrタンパク質は、部分的に、A−tRNAエルボーの位置を占め(図6L)、そしてそのため、おそらく「収容(accommodation)」工程の部分として、A−tRNA結合に際して移動しなければならない(Papeら、1999)。23S rRNAのヘリックス89は、A−tRNAのアクセプターアームとほぼ平行に走り、その頂部において、Tステムと副溝相互作用(h)を作製し、そしてその底部において、非正準ヘリックス伸長(j)の主溝にわたって存在するCCAテイルの骨格と接触する。CCAテイルはまた、保存された1942ループ(これは、アクセプターステム(i)の末端で、主溝中に差し込まれる)との接触によって、および、50S結晶構造において観察された(Nissenら、2000)、23S rRNAのC75とG2553との間で以前に予期されていた塩基対(63)によって、位置付けられる。
【0101】
E−tRNAアンチコドンステム−ループは、30Sサブユニットのヘッドとプラットホームとの間(ここでこれは、分子相互作用の高密度系によって取り囲まれる(図6M))に挟まれる。このことは、E−tRNAの比較的弱い結合(Lillら、1986)およびE−tRNA結合に起因し得る16S rRNA中における塩基保護の明らかな不在(Moazedら、1986b;Moazedら、1990)に照らして、幾分予想外であった。16S rRNAのヘリックス28および29は、その690ループおよび790ループと同様に、RNA接触a〜eに寄与する(図6N)。タンパク質S7のC末端αヘリックスは、アンチコドンステムの骨格に対して充填するが、S7 βヘアピンは、E−tRNAアンチコドンのワトソン−クリック面に位置付けられる(f)。通常のコドン−アンチコドン相互作用は存在しないが、E−tRNAアンチコドンの第二塩基とmRNAとの間には接触が存在し得る。S7に関してあり得る役割は、30S E部位においてコドン−アンチコドン相互作用を破壊することであり得る。近年の研究によって、S7のβヘアピンまたはC末端ヘリックスのいずれかの欠失は、EF−G−依存性トランスロケーションの有効性および正確性に影響することが示されている(K.Fredrick、非公開)。
【0102】
タンパク質L1および23S rRNA上のその結合領域(H76〜77)は、E−tRNAのエルボーと相互作用する(接触g〜i)。E−tRNAに保護された塩基G2112およびG2116は、tRNAエルボーの頂部で三次(tertiary)G19〜C56塩基対においてスタッキングし得る。アクセプターステムは、23S rRNAのヘリックス68との副溝相互作用を作製する。この相互作用は、EF−G−依存性トランスロケーションに必須であることがJosephおよび共同研究者らによって示された(Feinbergら、2001)リボース71との骨格接触を含む。さらに、保存されたA1853は、2〜71塩基対とのA−副(minor)相互作用を作製し得る。CCAテイルは、ペプチジルトランスフェラーゼ間隙(cleft)から離れた50Sサブユニットの深いポケットに埋められ、23S rRNAおよびタンパク質L33のヘリックス11、74および75、ならびにE−tRNA保護されたC2394との接触を作製する(Moazedら、1989a)。
【0103】
(翻訳の機構への関連)
複雑なリボソームの構造は、分子レベルでのタンパク質合成の機構を理解するための基礎を提供する。分子機構として、リボソームは、その機能を可能にする可動部分を有さなければならない(Spirin 1969)。タンパク質合成のトランスロケーション工程は、tRNAがA部位からP部位からE部位へと移動するので、tRNAによる20Å以上の移動を、必然的に必要とする。このような移動が、リボソームの対応する構造的な転移に合致しないことは、あり得ないようである(Wilsonら、1998)。tRNAが30Sサブユニットおよび50Sサブユニットとは独立して2工程で移動する、ハイブリッド状態モデルは、トランスロケーションの機構が30Sサブユニットおよび50Sサブユニット、またはこれら2つのサブユニットの特定の構造ドメインもしくは下部構造の相対的な移動を含み得るという意味を含む(Moazedら、1989b)。
【0104】
図7Aは、70Sリボソーム結晶中に位置する場合の、A−tRNA、P−tRNAおよびE−tRNA、ならびにmRNAの、全体の相対的ジオメトリを示す。リボソームとのこれらの特異的な接触は、これらがハイブリッド結合状態よりむしろそれらの「古典的な」状態(A/A、P/P、およびE/E)にあることを示す(Moazedら、1989b)。A−tRNAおよびP−tRNAの平面は、26°の内角(included angle)を形成し、そしてP−tRNAおよびE−tRNAの平面は、46°の角度を形成する。隣接するAコドンおよびPコドンの同時の読み取りは、AコドンとPコドンとの間の約45°のmRNA骨格におけるねじれによって、達成される(図7A)。これら3つのtRNAの対応する位置間の距離は、トランスロケーションの間のtRNAの移動の程度の尺度である。従って、tRNAのアンチコドン末端は、30SのA部位とP部位との間で約28Å移動し、そしてP部位とE部位との間で20Å移動する。tRNAの平面の回転に起因して、エルボは、AからPからEへと移行するにつれて、40Åおよび55Åのより大きな距離を通って移動する。
【0105】
本発明者らの、ハイブリッド状態モデル(Moazedら、1989b)の現在の理解を、図7Bに概略的に示す。過去十年間にわたるいくつかの実験室からの実験的証拠は、最小のモデルに対するいくらかの改変を導入した。第1に、上述の結晶学的証拠は、この機構における30S E部位の関与を必要とする。第2に、EF−Tuの放出に続く「収容」工程についての証拠(Papeら、1999)は、入ってくるアミノアシル−tRNAのプルーフリーディングが、この工程の間に起こり得る可能性を提起する;恐らく、この収容プロセスは、ペプチジルトランスフェラーゼ活性の調節を包含し得、同種のアミノアシル−tRNAのみを、ペプチド結合形成に関与させる。第3に、いくつかの方面の証拠(Greenら、1998;M.RodninaおよびS.Joseph,未発行)は、A/A状態からA/P状態、およびP/P状態からP/E状態への移動が、ペプチド結合形成を伴って、協調的にではなく連続的に起こることを、納得のいくように実証した。従って、ペプチジル−tRNAがA/A状態を占める別の状態が導入された(図7B)。
【0106】
ハイブリッド状態モデルの本質的な特徴(tRNAが、2つのリボソームサブユニット(まず、50Sサブユニットにおいて、次いで、(mRNAの移動に関連する)30Sサブユニットにおいて)とは独立して移動すること)を支持する広範な証拠が、現在までに蓄積された。A/P状態およびP/E状態の直接的な構造の観察は、クリオEM再構築において、直接的に観察された(Agrawalら、2000)。A/T状態(ここで、入ってくるアミノアシル−tRNAは、依然としてEF−Tuに結合している)もまた、クリオEM研究によって観察された(Starkら、1997a)。
【0107】
図7Cは、ハイブリッド状態のトランスロケーションサイクルの三次元解釈を示す。ここで、古典的な状態のtRNAの配向(A/A、P/PおよびE/E)は、本発明者らが結晶学的に直接観察した配向によって表される。A/Pハイブリッド状態およびP/Eハイブリッド状態のtRNAの位置を、古典的な状態のtRNAで開始してモデリングし、これらのアンチコドン末端の位置を固定し、そしてこれらを剛体として回転させて、50Sサブユニットのそれぞれのアクセプター末端にドッキングさせた。得られたモデルは、クリオEMによって実験的に観察された低分解能構造(Agrawalら、2000)に近く類似する。A/T tRNAを、以下の2工程でモデリングした:第1に、EF−Gの構造(Czworkowskiら、1994)を、フットプリンティングからの制限を使用して、70Sリボソーム構造にドッキングさせ、そしてヒドロキシル基のプロービングを方向付けた。第2に、EF−Tu−tRNA−GTPの三成分複合体の構造(Nissenら、1995)を、それらの相同なGドメインを利用して、EF−Gにドッキングさせた。この結果は再度、クリオEMによって決定された三成分複合体の位置(Starkら、1997a)とよく一致する。印象的な観察は、A/T状態からA/A状態になる際にアミノアシル−tRNAのアクセプター末端が移動する距離が、70Åのオーダー(およそtRNA自身の全体的な寸法)であることである。
【0108】
ここまでは、移動に関する証拠の大部分は、主として、30Sサブユニットに向いていた。中性子散乱実験(ここで、リボソームの回転運動の半径の変化が、トランスロケーション状態の前後間で観察された)は、小さなサブユニットのヘッドの運動を示唆した(Serdyukら、1992)。16S rRNAの「切換えヘリックス」(ヘリックス27)において変異を保有するリボソームのクリオEMの比較は、ラム形態と制限形態との間の、30Sサブユニットのヘッド、ショルダー、プラットホーム、および最後から2番目のステムにおけるコンホメーションの差異を示す(Gabashviliら、2000)。70Sリボソームにおける16S rRNAのコンホメーションの、別の30Sサブユニット(図3A、B)のコンホメーションとの比較は、再度、小さなサブユニットのヘッド領域、プラットホーム領域、および最後から2番目のステム領域の移動度を示唆する差異を示す。最近のクリオEM研究(Agrawalら、1999b;Frankら、2000)は、EFG−GTPの結合の際の、30Sサブユニット全体の約6°の回転を示す。
【0109】
tRNAトランスロケーションがサブユニット界面における相対運動を包含し得るという、ハイブリッド状態の示唆は、生化学的および遺伝的実験による、tRNA−リボソーム相互作用に関与するヌクレオチドの多くが、サブユニット会合に関与するヌクレオチドに隣接するという観察によって、強化された(Merrymanら、1999a、b)。結晶構造は、tRNA結合部位が界面の接触に近く接近しているという直接的な証拠を提供し、そしてさらに、ブリッジのいくつかが、tRNAと直接相互作用することを示す。さらに、これらのtRNA−ブリッジ相互作用のいくつかは、動的であるという証拠が存在する。
【0110】
70Sの三次元リボソーム構造の知識は、tRNA移動の機構のための重要な手掛かりを提供する。トランスロケーションの機構が、30Sサブユニットと50Sサブユニットとの相対的な移動、またはこれら2つのサブユニットの特定の構造ドメインもしくは下部構造を包含するという、ハイブリッド状態モデルの観念(Moazedら、1989b)は、生化学的実験および遺伝的実験による、tRNA−リボソーム相互作用に関与するヌクレオチドの多くが、サブユニット会合に関与するヌクレオチドに隣接するという観察(Merrymanら、1999a;Merrymanら、1999b)によって、強化される。実際に、結晶構造は、tRNAが、サブユニット間のブリッジ(これらの少なくともいくつかは、リボソームの動的エレメントであると考えられる)に直接接触することを示す。例えば、高分解能の50Sサブユニット構造において無秩序化される構造的エレメントのうちでも、ブリッジB1a、B1bおよびB2aである。無秩序化は、少なくとも結晶において一般的な条件下で、独立した運動が可能であり、それでリボソーム動力学に関与する候補である、リボソームの特定の分子特徴を同定するという点で、有益である。図8は、界面の2つの反対の側から見た、サブユニット界面においてA−tRNAおよびP−tRNAを直接囲む特徴を示す。これら2つのtRNAは、頂部においてブリッジB1bとB1bとの間に挟まれており、そして底部においてB2aに挟まれている。これらのブリッジの3つ全てに関するサブユニット間の接触は、50S結晶構造において無秩序化しており(Banら、2000)、3つ全ての動的エレメントを示唆している。30Sの側において(図8B)、tRNAは、ヘッドと、最後から2番目のステムおよびプラットホームの頂部との間に挟まれており、これらの全ては、遊離30Sサブユニットと70Sリボソームとの間のコンホメーションの差異を示し(Yusupovら、2001)、再度、これらが翻訳の間に移動し得ることを示唆する。さらに、これらの潜在的に動的なエレメントの全てが、サブユニット界面を介して互いに相互作用するという事実は、これらのそれぞれの運動が調和している可能性を示す。従って、ブリッジB1aおよびB1bの運動は、ヘッドの回転に結び付けられ、そしてブリッジB2aの運動は、最後から2番目のステムおよびプラットホームの運動に結び付けられる。実際に、E.coliリボソームのトランスロケーションの前後の状態の、低分解能のクリオEM画像(Agrawalら、1999b)は、このような調和した運動と一致する。
【0111】
トランスロケーションの機構に対する潜在的に重要な手掛かりは、FeinbergおよびJoseph(Feinbergら、2001)によるtRNA改変妨害研究から生じる。彼らの研究は、P−tRNAの71位における単一の2’−O−メチル基の導入が、EF−G依存性トランスロケーションを廃止することを示す。興味深いことに、リボソームとtRNAの71位との間の単一の相互作用は、50S E部位において起こり、このことは、メチル基の影響がP/E状態に対してでなければならないことを示す。この知見は、EF−G依存性トランスロケーションのためのハイブリッド状態形成の重要性を示した速度論的分析と一致する(Semenkovら、2000)。リボースの71位のメチル化がトランスロケーションを阻害する機構は、間接的であるはずである。なぜなら、EF−Gの最も近い接近は、EF−Gの最も近い接近は、約70Å離れており、そしてその触媒中心は、100Åよりも離れているからである。1つの可能性は、この影響が、23S rRNAを介して媒介されることである。リボースの71位は、23S rRNAのヘリックス68に接触し、これは、50Sサブユニットのサブユニット界面の表面の頂部を水平に横切って位置する、ドメインIVのラテラルアームの左端の遠くにあるからである(図8A)。このラテラルアームは、この界面を横切るカノニカルヘリックスおよび非カノニカルヘリックスの、連続的に同軸状に積み重ねられた系である。その遠い右側の端部は、AループのステムとのA−マイナー相互作用を起こす、ヘアピン型ループで終結する。
【0112】
Aループの基部における一本鎖ループは、次に、サルシン/リシンループの副溝と相互作用し、これは、EF−GのGTPase機能に直接的に関与した(Hausnerら、1987)。さらに、ヘリックス69(これは、A−tRNAおよびP−tRNAの両方と、それぞれのDステムにおいて直接接触する)は、ドメインIVのラテラルアームの中央の、保存された非カノニカルヘリックスに接続される(図8A)。これらの構造的手掛かりは、トランスロケーションの機構におけるリボソームRNAの特異的エレメントの関与について、推定上の場合を提供する。
【0113】
50Sサブユニット構造において無秩序化された構造的エレメントのうちでも、ブリッジB1a、B1b、およびB2aである。この無秩序化は、少なくとも結晶において一般的な条件下においては、独立した運動が可能であり、そしてリボソームの動力学に関与する候補である、リボソームの特定の分子特徴を同定する点で、有益である。B1aおよびB1bは、50Sサブユニットの中心隆起を、30Sサブユニットのヘッドに接続し(図2E、5B、5C;表III)、これは、上で議論されるように、リボソームの動力学に繰返し関与した、独立した構造ドメインである。2つのブリッジについての50Sの接触は、ヘリックス38の890ループ、およびタンパク質L5の134〜153ループであり、これらの両方は、50Sサブユニット電子密度マップ(Banら、2000)において無秩序化しており、従って、可撓性である。ブリッジB1aおよびB1bは、それぞれA−tRNAおよびP−tRNAの保存されたエルボ領域に接触し、これは、トランスロケーションの間に、最も大きな移動(約40〜50Å)を起こす。23S rRNAの、その882位/898位における保存された内部ループの周りの、ヘリックス38は、A−tRNAのDループおよびTループと相互作用し、そしてタンパク質L5は、残基80を中心とする保存されたβ−ヘアピンを介して、P−tRNAのTループと相互作用する。興味深いことに、B1aおよびB1bはまた、上述のクリオEM研究において観察された、EF−G依存性のサブユニット間回転によって、最も強く影響を受けるブリッジである(Frankら、2000)。これらの接合部の近くで、50Sサブユニットのボディを用いて、これら2つのブリッジは、5S rRNAによってまたがれ、これは、何らかの様式で、これらの移動の調節を補助し得る。
【0114】
可撓性ブリッジエレメントの最も興味をそそるものは、中心に位置するB2aであり、これは、23S rRNAのヘリックス69の、普遍的に保存された1915ループと、16S rRNAの最後から2番目のステム(ヘリックス44)の頂部との、デコード部位(コドン−アンチコドン相互作用が起こる位置)の基部における相互作用によって、形成される。ヘリックス69ステム−ループはまた、A−tRNAおよびP−tRNAと接触し、そのループは、16S rRNAの最後から2番目のステムおよびA−tRNAのDステムの副溝と同時に相互作用し、一方で、そのステムの副溝は、隣接するP−tRNAのDステムの副溝表面と接触する。50Sサブユニット構造におけるヘリックス69の無秩序化は、任意の直接的なスタッキング、または50Sサブユニットとの他のパッキング相互作用の非存在、ならびに23S rRNAの残りの部分との、一本鎖ループのみによる接続、および23S rRNAのドメインIVの保存されたラテラルアーム(これは次に、ブリッジB2b、B3およびB7aを実施する;図5C)との接続によって、説明され得る。
【0115】
ラテラルアームの連続的な同軸状スタッキングは、ワトソン−クリックヘリックス68および71(ブリッジB2bおよび133)を、ヘリックス69のすぐ下で、ヘリックス69に対して直接的に平行に分離する、高度に保存された領域におけるヘリカルターンのほぼ全体を占める非カノニカルヘリックスを含む。界面におけるこの十字形の中心領域においては、tRNAの運動が、ブリッジB2a、B2bおよびB3における界面接触の摂動に、および潜在的に、ラテラルアームの非カノニカルヘリックスセグメントのコンホメーション再配置に、どのように結び付けられ得るかを見ることは、困難ではない。トランスロケーション後状態において、方向付けられたヒドロキシルラジカルプロービングは、ヘリックス69を、伸長因子EF−Gの機能的に動的なドメインIVの頂部の近くに位置付け(Wilsonら、1998)、これは、tRNAを模倣すると考えられ、そしてEF−Gによって触媒されるtRNAの運動の機構に関与した(Nissenら、1995)。
【0116】
ヘリックス69の1915ループと、A部位tRNAのDステムの副溝との相互作用は、Hirschサプレッサ(Hirsch、1971)の作用の機構に関する可能な説明を示唆する。この機構は、最も困難なtRNAナンセンスサプレッサ変異の1つであり、トリプトファンtRNAのDステムの24位における、A〜Gの変異からなる。A24は、U11と塩基対合し、このU11は、ほとんど常にピリミジンであり、この02位は、Dステムの副溝に突出しており、ここで、これは1915ループの接触範囲内である。従って、G24−U11のウォッブル対の作製は、ピリミジン02のアクセス可能性を、副溝の側から隠し得る。Dahlbergおよび共同研究者らは、C1914の近くからUへの変異が、ナンセンスサプレッサ表現型を与えることを発見した(O’Connorら、1995)。従って、この予測されないブリッジB2a−tRNAの相互作用は、翻訳忠実度において重要な役割を果たし得る。
【0117】
リボソームの機能に関連する他のブリッジは、16S rRNAの最後から2番目のステム(ヘリックス44)、スイッチヘリックス(ヘリックス27)およびプラットホーム(ヘリックス23および24)を含む。これらの3つの特徴は、6つのクラスIII部位のうちの5つを含み、それらの興味深い挙動は、初期の化学探索実験において同定された(Moazedら、1987)。これらの塩基は、tRNA、50Sサブユニットまたは特定の抗生物質によって全て独立して保護される。3つ全ての種のリガンドが独立してこれらの塩基を保護し得るという観察は、それらの保護が、塩基とリガンドとの間の直接接触よりもむしろリガンド誘導性のコンフォメーション変化によって引き起こされるはずであるという結論を導いた。実際に、構造的結果は、これらの塩基のいずれもが、50Sサブユニット、tRNAまたは抗生物質と直接接触しないことを示す(Carterら、2000;Fouraryら、1996)。3つのクラスIII部位(A909、A1413、G1487)は、スイッチヘリックスの内部ループと、最後から2番目のステムの副溝との間の接触表面に見出され、ここで、A909は、非カノニカルA1413−G1487塩基対とのA−マイナー相互作用を生じる(Wimberlyら、2000)。
【0118】
空の30Sサブユニットにおける3つ全てのプリン塩基のN1位の反応性は、tRNA、50Sサブユニットあるいはストレプトマイシンまたはネオマイシン関連抗生物質との相互作用が、このヘリックス内塩基−トリプレット相互作用の形成を誘導することを示す。サブユニット会合による保護は、ブリッジ相互作用B2aおよびB3(これは、1413−1487対に直接隣接する)およびB2c(スイッチヘリックスの900ループを含む)によって説明され得る。tRNAおよび抗生物質による保護は、最後から2番目のステムの頂部でのデコード部位へのA−tRNAおよびP−tRNAならびに薬物の結合と一致する。790ループにおける2つのクラスIII塩基は、P−部位コドン−アンチコドン相互作用に続く、第1497位−第1498位でのデコード部位における16S rRNA骨格とのそれらの相互作用によって保護される。これらの相互作用は、隣接ブリッジB2bにおける50Sサブユニットとの16S rRNAのヘリックス24の接触による、そしてP−tRNAアンチコドンステムループにおける第790位−第791位とヌクレオチド38−39との間の骨格−骨格相互作用によるtRNA結合の結果としての、サブユニット会合の際に安定化されるようである。第6のクラスIII塩基は、サブユニットのネック(ヘリックス28)にある、A1394であり、ここで、水素結合が、A1394のN1位とデコード部位ヌクレオチドA1500の2’−ヒドロキシルとの間で形成される(Wimberlyら、2000)。クラスIIIのコンフォメーション変化の全体的な結果は、mRNAが結合し、そしてA部位およびP部位のコドン−アンチコドン相互作用が生じるチャネル中の、デコード部位の塩基の全体的な密接化であるようであり、これは、ストレプトマイシンおよびアミノグリコシド抗生物質の誤コード化効果を説明するのを補助し得る。
【0119】
クラスIIIコンフォメーション変化において具体化される16S rRNAの分子内移動は、23S rRNAの少なくとも1つの移動性エレメント、保存された1915ステム−ループ(ヘリックス69)、およびドメインIVのラテラルアームの中間部の潜在的に移動性の非カノニカルヘリックスに関連され得、これらは、ブリッジB2a、B2b、B2cおよびB3によって隣接される。ちょうど議論したように、これらの4つ全てのブリッジは、16S rRNAにおける50S誘導性のコンフォメーション変化に関係し、これらの変化は、クラスIII保護によって明らかにされる。30Sサブユニットのデコード部位におけるtRNAとmRNAとの相互作用によって16S rRNAにおいてもまた誘導される、これらの同じコンフォメーション変化が、ブリッジ相互作用の同じセットを介して、23S rRNAのこの界面領域のコンフォーメーションに相反的に影響し得ることは、驚くことではない。これは、翻訳の機構についての興味深い示唆を有し得る。なぜなら、ドメインIVのラテラルアームは、23S rRNAの2600ステム−ループ(ヘリックス93)およびAループ(ヘリックス92)に対して直接密集し、これらの両方は、ペプチジルトランスフェラーゼ中心における相互作用に直接関与するからである(Nissenら、2000;Moazedら、1989a;Kimら、1999;Moazedら、1998)。さらに、ヘリックス92の塩基での2563−4ループは、伸長因子EF−TuおよびEF−Gの活性に直接関与する、ヘリックス95(サルシン−リシンループ)の塩基と直接相互作用する。最後に、ブリッジB7aに隣接する、ドメインIVのラテラルアームの最も左側の末端は、EF−G依存性転位に重要であることが示された、E−tRNAのアクセプター側と相互作用する(Feinberg,J.S.およびJoseph,S.私信)。ここで、mRNAおよびtRNAと複合体化したリボソームの完全な構造の知見は、翻訳の機構についてのこれらおよび他の特定の分子モデルを試験するための可能性を提供する。
【0120】
(実施例2−リボソームの導入を介するメッセンジャーRNAの経路)
リボソーム中のmRNAの経路を、X線結晶学によって、初めてマップした。結合されたtRNAと、モデルmRNAフラグメントを含むかまたはmRNAを全く含まない、70Sリボソーム複合体の結晶からの回析データ(Belitsinaら、1981)を使用して、本発明者らは、結合されたmRNAのフーリエ差分マップを計算した。上記の70S複合体中のそれらの各mRNAに結合されたA部位およびP部位のコドンの位置と一緒に、本発明者らは、7Åの解像度で、リボソームを介するmRNAの完全な経路を記載し得た。mRNAは、30Sサブユニットのネック周辺を取り巻くチャネルを通って通り抜け、これは、以前のモデル(Frankら、1995b;Shatskyら、1991)の一般的特徴を確認する。A部位およびP部位に隣接するmRNAのシャインダルガノ領域および下流領域のリボソーム中の位置は、mRNAの翻訳開始、フレームシフトおよび他の機能的相互作用に対する示唆を有する。予測されないことに、遺伝子32のmRNAに基づくモデルmRNAは、高電子密度塊を形成し、これは、おそらく、mRNAの分子内塩基対形成による小さいヘアピンループの形成から生じ、これは、A部位に対するtRNAのアンチコドンループの結合を模倣するようである。最後に、結晶の4回回転軸の周辺のリボソームの配置は、1つのリボソームから次のリボソームへのmRNAの直接的な通り抜けを可能にし、これは、リボソームがどのようにポリソームに密集し、共有されるmRNAおよびtRNAを効率的に使用し得るかを示唆する。
【0121】
(実験)
(モデルmRNA構築物)
モデルmRNAは、最初、ファージT4遺伝子32mRNAに基づいた。3つ全てのmRNAについて(図9)、シャインダルガノ対形成を増加して、16S rRNAとの8つの潜在的な塩基対を可能にし、そしてGGC配列を5’末端に付加して、T7 RNAポリメラーゼによる転写を容易にした。これらの研究において使用したmRNAサンプルを、固相合成(Dharmacon,Inc.,Boulder,CO)によって作製し、そして結晶化における使用の前にゲル精製した。
【0122】
(結晶化、データ収集およびモデルの当てはめ)
Thermus thermophilus 70Sリボソームを調製し、そして精製したE.coliイニシエーターtRNA(Subriden,Rollingbay,WA)およびMK27(配列番号52)、MF36(配列番号51)またはMV36(配列番号50)mRNA(Dharmacon)と共に、またはmRNAを伴わずに、以前に報告された同じ条件(Cateら、1999;Yusupovら、2001)を使用して、共結晶化した。回析データを、以前に記載されたように(Cateら、1999)、シンクロトロン放射を使用して収集し、そしてScalepackおよびDenzo(Otwinowski、1993)を使用して処理した。フーリエ差分マップを、測定されたネイティブ振幅(表V)およびCCP4スートのプログラム(1994)を使用して以前に計算された構造因子の位相(Cateら、1999;Yusupovら、2001)から計算した。mRNAモデルを、O(Jonesら、1997)を使用して当てはめ、そして分子構造図を、Ribbons(Carson、1997)を使用して与えた。
【0123】
(表V:結晶学的データa)
【0124】
【表5】
aリボソーム複合体の結晶を、モデルmRNA MK27、MF36およびMV36(図1)を使用して、「方法」に記載されるように調製した。全てのデータを、Berkeley Center for Structural Biology,Lawrence Berkeley National Laboratoryにて、ビーム線5.0.2にて収集した。
【0125】
*Rsym=Σ|I−<I>I|ΣI。
【0126】
(結果)
モデルmRNA MF36は、ファージT4遺伝子32mRNAに基づいたが(図9)、そのシャインダルガノ配列の対形成の能力を、16S rRNAの3’テールに対してその相補性を伸長することによって、8塩基対にまで増加させた。MV36(配列番号50)およびMK27(配列番号52)mRNAについて、異なるコード領域および下流領域をまた導入した(図9)。Thermus thermophilus 70Sリボソーム、mRNAフラグメント、および全長tRNAまたはリボソームP部位に結合するアンチコドンステムループ(ASL)のいずれかを含む複合体を、記載されるように(Cateら、1999;Yusupovら、2001)、共結晶化した。70SリボソームおよびイニシエーターtRNAを含むが、mRNAを欠く同様の共結晶(Belitsinaら、1981)を、同じ条件下で調製した。データを、シンクロトロン放射を使用して収集し、そして以前に導かれた構造因子の位相(Cateら、1999;Yusupovら、2001)を使用して、フーリエ差分マップを計算した(表V)。
【0127】
図10Aは、2つの型のリボソーム構築物を含む結晶から収集したデータを使用して、MK27 mRNAフラグメント(配列番号52)について計算した、7Åのフーリエ差分マップを示す。一方の構築物において、70Sリボソームは、MK27 mRNA(配列番号52)およびイニシエーターtRNAと結合し;他方の構築物は、同じであったが、mRNAは排除された。mRNA 27マーおよび16S rRNAの3’末端についての偽原子モデル、ならびに、AコドンおよびPコドンについて以前に決定されたモデル(Yusupovら、2001)を、この差分マップに重ねて示す。AコドンおよびPコドンの位置は、このmRNAモデルの中心部分のレジスターに対する密接なチェックを提供し、一方、この差分マップの解像度は、それ自体で、約+/−1ヌクレオチドの精度でmRNAの残りの当てはめを可能にする。
【0128】
電子密度の明確な円柱が、mRNAの5’末端に観察され、その大きさは、予測された8塩基対のシャインダルガノヘリックスと良好に一致する。電子密度における約4ヌクレオチドのギャップが、Pコドンおよびその5’隣接ヌクレオチド(mRNA位置、−1〜+3)の位置で観察される。これは、T.thermophilus 30Sサブユニットについての高解像度構造において見出されたような(Wimberlyら、2000)、mRNAの非存在下で16S rRNAの3’テールの折り畳み戻りによって説明され得;リボソームのPコドン位置への16S rRNAのテールの結合は、mRNA差分マップからのPコドンの差し引きを生じる。さらなる小さいギャップが、mRNAの−4位に見出され、これは、局所的な乱れに起因し得る。Aコドンの位置は、A−tRNAがこれらの複合体中に存在しなくとも、A−tRNAの存在下で見出される位置に近い。その3’末端において、MK27(配列番号52)の差分密度は、このmRANモデルの3’末端の予測された位置(+12位)と良好に一致して終結する。
【0129】
MK36 mRNA(配列番号50)の差分マップは、その3’テールおよびAコドン領域を除いて、MK27 mRNA(配列番号52)のそれと類似し、ここでは、A−tRNAによって通常占められる位置と重複する密度の円柱(Cateら、1999;Ogleら、2001;Yusupovら、2001)が、現れる(図10B)。この予測されなかった特徴は、遺伝子32 mRNA中の相補的配列の分子内塩基対形成(MF36 mRNA(配列番号51)の+4位〜+7位および+12位〜+15位(図9))によって説明され得る。この特徴は、MK−27(配列番号52)の差分マップ(図10A)には存在せず、ここでは、自己相補的配列は、ポリ(A)に置換されている。テトラループ含有ヘリックス(13)からモデル化された4つの塩基対ステムは、過剰差分密度中に収容され得る(図10B)。この様式でモデル化されると、MF36 mRNA(配列番号51)の3’末端は、電子密度の最も強い部分の末端の近くで終結する(図10B)。より弱い密度は、さらに約6ヌクレオチド伸長することが観察され得、これは、MF36 mRNA(配列番号51)の折り畳まれていない形態もまた存在することを示唆するが、これは、低い占有度である。この弱い密度は、約+17位まで延び、これは、そのmRNA鎖の直ぐ3’側の末端(ヌクレオチド+18〜+21)が、折り畳まれていないmRNA配座にて乱れていることを示す。mRNAヘアピン特徴は、図10Cに示されるように、A−部位tRNAのアンチコドンステムループ(ASL)(Cateら、1999;Yusupovら、2001)の位置を占有する。これらの2つの構造の顕著な一致は、そのmRNAヘアピンが、A−部位ASLを模倣するように設計され得、これがおそらく、遺伝子32 mRNAの翻訳の開始において役割を果たすことを示唆する。
【0130】
図11Aは、サブユニット境界から観察されるような、70Sリボソームの完全30Sリボソームサブユニットの状況下のmRNAの経路を示す。mRNAは、上流および下流のトンネルを通過して、境界に接近し、ここで、約8ヌクレオチド(−1〜+7)のみ(AコドンとPコドンとの間の接合部を中心とする)が、露出される。リボソームが環状メッセージ上で翻訳を開始し得ることが、Bretscherによって示されているので(Bretscher、1968)、翻訳開始中の30SサブユニットへのmRNAの結合は、一方または両方のトンネル(これらは、非共有結合的に閉じている)を開けることを必要とし、これは、上流のリーダーの長さに依存する。ヘッドとボディとの間の接触点は、潜在的な「ラッチ」として記載され、この閉鎖が、前進性を保証し、方向性を提供し、そして解離を妨げる、形状を提供する(Schluenzenら、2000)。mRNAとのリボソーム接触の境界(−15〜+16)は、Steitz(Steitz、1969)によって予測された境界(−16〜+16)の実験誤差内である。メッセージを取り囲む16S rRNAの構造の特徴は、部位特異的架橋結果(Bhanguら、1994;BhanguおよびWollenzien、1992;Brimacombe、1995;Dokudovskayaら、1993;Dontsovaら、1992;Greuerら、1999;Juzumieneら、1995;Rinke−Appelら、1993;Rinke−Appelら、1994;Sergievら、1997)の1つ(16S rRNA 1360位とmRNA −1位〜8位との間の60Å)以外の全てと、良好に一致する(8〜28ÅのP−P距離)。
【0131】
mRNAの5’末端は、プラットホームの後ろで始まり(図11B)、ここでこのmRNAは、ヘッドとプラットホームとの間の溝に入り、サブユニットのネックの周りに巻きつき、そしてこのヘッドとショルダーとの間の反対側から出る。mRNAのリボソーム結合部分は、約30のヌクレオチドを含み、約−15位から+15位まで伸び、このネックの周りで最も密に巻かれた領域は、約−3位から+10位まで伸び、AコドンとPコドンとの間の接合部で中心に集まる。mRNAの直接隣接する分子環境は、その結合部位の末端、上流のシャイン−ダルガーノ相互作用の上流の周辺、および+12位周辺の下流領域中、ならびにAコドン中(ここでAコドンはリボソームタンパク質に近接している)を除いて、主に16S rRNA(配列番号45)を含む(図11A)。
【0132】
(上流の相互作用)
シャイン−ダルガーノへリックスは、サブユニットのプラットホームの後ろとヘッドとの間の大きな間隙中に嵌る(図12A)。溶媒側面図において、このシャイン−ダルガーノ間隙は、下のへリックス20、左側の、723隆起ループ、およびタンパク質S11(配列番号34)およびタンパク質S18(配列番号41)、ならびに右側のネックへリックス(へリックス28)およびネックへリックス37により形成される。タンパク質S18(配列番号41)(これは塩基性側鎖および芳香族側鎖に富む)のN末端は、mRNAの5’末端(−15位)において、シャイン−ダルガーノへリックスの主溝に指向される。シャイン−ダルガーノへリックスの上流末端の下の外部密度は、S18(配列番号41)のN末端の15アミノ酸に由来し得、これらのアミノ酸は、30Sサブユニットの高分解構造において無秩序であった(Wimberlyら、2000)。S11(配列番号34)(これはArg 54を含む)のN末端テイルおよびループの両方は、シャイン−ダルガーノへリックスと特異的に相互作用するのに十分に接近している。このシャイン−ダルガーノへリックスの下流末端において、タンパク質S11(配列番号34)のC末端テイルは、−4位〜−6位の周りのmRNAの骨格と相互作用する。
【0133】
シャイン−ダルガーノへリックスのすぐ下流において、mRNAの5’リーダー(−1位〜−4位)は、このサブユニットのヘッドとプラットホームとの間の短いトンネルを通って界面側まで通過し、この界面側で、この5’リーダーは、タンパク質S7(配列番号30)のβヘアピンの先端、690ループの尖部、790ループの副溝側、1505位の周りのへリックス45の塩基、およびへリックス28の925領域により取り囲まれる。mRNAのこの領域は、Eコドン(−1位〜−3位)を含み、この界面へのこのEコドンの完全な接近は、このトンネルにおけるこのEコドンの位置により妨げられる。
【0134】
(PコドンおよびAコドン)
−1位の周りのmRNAにおける鋭いターンの後ろに、PコドンおよびAコドンが、A−tRNAアンチコドンおよびP−tRNAアンチコドンの同時対形成を可能にする、その隣接するコドンの間の約45°のねじれを有する間隙の界面の中央において、このPコドンおよびAコドンのそれぞれのtRNAに対して示される。これら2つのコドンは、16S rRNA(配列番号45)の最後から二番目のステムの軸の上で中心に集まり、ここでこれらのコドンは、16S rRNA(配列番号45)の1400鎖および1500鎖により形成される非正準ヘリックス構造(しばしば、デコード部位と称される)の主溝を占める(図12B)。上記のように、Pコドンは、16S rRNA(配列番号45)の折り畳まれたテイルについて記載された経路と非常に類似した経路に従い、これは、30Sサブユニットの高分解結晶構造におけるmRNAのこの領域を模倣するようである(Wimberlyら、2000)。
【0135】
従って、リボソームとPコドンとの間の相互作用のいくつかの細部は、30S構造から推測され得る。興味深いことに、G926のN1位(これはP−tRNA結合によりケトキサール(kethoxal)から保護される)は、mRNAの非存在下においてでさえ(Moazedら、1990;Moazedら、1986b)、Pコドンのヌクレオチド+1のホスフェートと相互作用するように位置する。観察されたtRNA依存性の保護は、tRNA結合に応答したmRNA鎖(または、mRNAの非存在下において、16Sテイル)の再配置に起因し得る。なぜなら、mRNAの骨格は、このmRNAの−1位付近で、16S rRNAの3’テイルの経路から分岐し始めるからである。改変−干渉研究によっても、30S P部位に対するtRNAPheのmRNA依存性結合におけるG926の重要性が示された(von AhsenおよびNoller、1995);3’テイルはPheコドンを含まないので、この結果は、926相互作用により安定化される、16S rRNAテイルによる見かけのmRNAの模倣が、30S P部位の活性なコンフォメーションの誘発において重要であり得ることを示唆し、そして開始tRNAが、翻訳開始の間にmRNAの30Sサブユニットに独立して結合し得るという事実を説明するのに役立つ(Gualerziら、1977)。
【0136】
16S rRNAの1500鎖は、mRNA鎖に対して直角に横切り、ここでヌクレオチド1498は、Pコドンのヌクレオチド+1のすぐ下に存在する(図12B)。高分解構造(Wimberlyら、2000)において、ヌクレオチド1498のホスフェートは、リボース+1に密集し、そしてその塩基(E.coliにおけるm 3U 1498)は、リボース+2に密集する。これらの相互作用は、A790のN6アミノ基および広範に保存されたG791のN1と、ヌクレオチド1498の非架橋ホスフェート酸素との相互作用により明らかに安定化される。A790とG791の両方は、以前に「クラスIII」塩基として同定されており(Moazedら、1987)、これらのN1位における化学的プローブによる攻撃からの保護は、16S rRNA(配列番号45)におけるコンフォメーションの変化から生じると予想された。なぜなら、同じ保護が、P−tRNA、50Sサブユニットまたは特定の抗生物質により得られたからである。これらのクラスIII保護は、現在、P−rRNAまたは他のリガンドの結合に応答する、最後から二番目のステムへ向かう790ステムループ(へリックス24)の移動(この移動は同時に、790ループの骨格とP−tRNAのアンチコドンステムの底部との相互作用、およびPコドンに対するヌクレオチド1498の密集を生じる)により説明され得る。このような移動は、30Sサブユニットのプラットホームが50Sサブユニットに結合する場合(クリオEM研究において観察される)、この30Sサブユニットのプラットホームの反時計回りの回転と一致する(Lataら、1996)。
【0137】
PコドンとAコドンとの間の接合部において、mRNAは、ヌクレオチド1401のホスフェート(これはこの経路内に直接存在する)によって、そのA−RNA様軌道の継続をブロックされる(図12B)。このことは、mRNAを再指向し、AコドンとPコドンとの間のmRNA中の観察されたねじれを生じる。
【0138】
A部位において、塩基のG530、A1492およびA1493は、Ramakrishnanおよび共同研究者らにより最近示されたように、A部位のtRNA選択に可能な識別メカニズムにおいて、A部位コドン−アンチコドンへリックスの副溝と密接に相互作用する(Ogleら、2001)。さらなる相互作用は、48〜51位の保存されたPNSA配列(これはリボース+5および+6の下に直接存在する)の周りのタンパク質S12(配列番号35)のβヘアピンループにより生じる(Ogleら、2001)。このS12(配列番号35)の部分は、制限的な(非常に正確な)表現型を与える変異の大部分を含む。
【0139】
(下流の相互作用)
Aコドンのすぐ下流で、mRNAは、サブユニットのヘッドとショルダーとの間の第2のトンネル(直径約20Å)を通過して、クリオEM再構築において最初に観察された、30Sサブユニットの溶媒側に至る(Frankら、1995b)。mRNAの周りにおけるこのトンネルの終結は、最初に、mRNAの移動の前進性および方向性を保証することが示唆された(Schluenzenら、2000)。界面側から、このmRNA(約+7〜+10位)は、RNAの層を通過し、ここでこのmRNAは、上のへリックス34、右側のヌクレオチド1397(へリックス28)におけるネックの塩基、下の5’ヘアピンループ(16S rRNA(配列番号45)のヌクレオチド16)、および左側の530ループにより取り囲まれる(図13A)。RNA層において、塩基のC1397およびU1196(Wimberlyら、2000)は、それぞれ、+7位および+9位の周りでmRNAに向かって方向付けられ、そしてAコドンからすぐ下流にmRNAを位置決めするのを助け得る。
【0140】
最後に、mRNA(約+11〜+15位)は、タンパク質の層を通過して、サブユニットの後ろの溶媒に至る。溶媒側から見ると(図13B)、このmRNAは、上のタンパク質S3(配列番号26)、右側のS4(配列番号27)および左下のS5(配列番号28)により取り囲まれる。これら3つのタンパク質は、塩基側鎖(S3(配列番号26)由来のArg131、Arg132、Lys135およびArg164、S4由来のArg47、Arg49およびArg50、ならびにS5(配列番号28)由来のArg15およびArg24を含む)の高密度のアレイを下流のトンネルに突出させ、これらは、その骨格ホスフェートとの相互作用を介してmRNAの下流領域を位置決めするようである。
【0141】
(mRNAへリックス、シュードノット(pseudoknot)およびフレームシフト)
全てのmRNA鎖は、ヘアピンおよび他の分子内塩基対形成構造を形成する能力を有するが、コドンは、一本鎖形態で読みとられなければならない。従って、リボソームは、現在のところ未知のある機構によって、mRNAの二次構造を解き得る。mRNAヘアピンは、図13Bに示される視点から、30Sサブユニットの後ろのリボソーム表面に接近する。RNAへリックスは、狭い下流トンネルを通過するには大きすぎるため、mRNA構造の巻き戻しは、+13位〜+15位の周りで、トンネルの入口かまたは入口付近において生じるようである。λ cro mRNAの下流(+11〜+17、+25〜+31)のヘアピンの巻き戻しは、開始tRNAの結合に依存して、下流トンネルを通るそのスレッディングから生じ得る(Balakinら、1990)。
【0142】
mRNAヘリカーゼに可能な機構の基礎は、タンパク質S4(配列番号27)およびS5(配列番号28)が30Sサブユニットのボディに組み込まれているのに対し、S3(配列番号26)がヘッドの一部であるという事実により示唆される。入りヘリックスの一方の鎖がS4(配列番号27)および/またはS5(配列番号28)に結合し、他方の鎖がS3(配列番号26)に結合する場合、転位の間に生じると考えられるヘッドの回転運動(Agrawalら、1999b)は、一度に約3つの塩基対(すなわち、1コドン)の速度で、へリックスの物理的破壊を生じ得、同時にリボソームを通してmRNAを前進させる。
【0143】
興味深いことに、下流のトンネルの入口点の付近のmRNAと面するタンパク質S5(配列番号28)の部分は、二本鎖RNA結合ドメイン(dsRBD)と同じ三次元折り畳みを有する(Brungerら、1998)。しかし、このdsRBDコンセンサスに対するその比較的低い配列相同性は、少なくともXenopus Xlrbpaタンパク質およびdsRNAを含む複合体について観察された様式において、二本鎖RNA(dsRNA)へのその強力な結合に対する支持を提供しない(Brungerら、1998)。
【0144】
翻訳を混乱させることが示された1つのタイプの構造は、mRNAシュードノットである。特定の下流のシュードノットは、「シフト性(shifty)」配列がデコード部位に位置する場合、翻訳リーディングフレームを−1シフト促進する(多くのウイルスによる翻訳調節のために利用される機構)という知見が、最も十分に裏付けられる(Alamら、1999;Brierleyら、1989)。このシュードノットに最適な位置は、+11位と+15位との間にあり、これは、提案されたmRNAヘリカーゼの位置でmRNAが下流のトンネル(+13〜+15)に入る領域と密接に対応する。フレームシフト事象についての簡単な説明は、このシュードノットの構造がヘリカーゼの形状とそれほど一致せず、下流のトンネルへのmRNAの侵入をブロックするということである。EF−G触媒型転位の際、mRNAの順方向の移動が遅らされ、mRNAの跳ね返りおよび−1リーディングフレームへの有利なずれを生じる。
【0145】
(結晶格子におけるrnRNAの経路)
本発明者らの結晶において、Thermus thermophilus 70Sリボソームは、I422正方空間群に密集し(Cateら、1999)、ここで隣接するリボソームは、4重軸の周りで中心に集まるテトラマーの層において対称的に構築される。図14は、この結晶格子における4重軸の周りのリボソームの配置を示す。この配置の目立った特徴は、この配置が、1つの70Sモノマー中のmRNAの3’末端と隣接する70SモノマーのmRNAの5’末端とを隣接して配置することであり、原則的に、テトラマー中の4つ全てのリボソームを通る単一の連続したmRNAのスレッディングの指向を可能にする。
【0146】
結晶の密集は、リボソームがインビボで、ポリソーム中で互いに相互作用する様式の1つを示し得る。興味深い結果は、1つのリボソームのE部位がその隣接するリボソームのA部位に直接隣接していることであり、その結果、1つのリボソームから出てくるtRNAは、そのシンセターゼによる供給の後、隣のリボソームに入るように直ちに配置される。従って、事実上、所定のtRNAは、ポリソームを通してその固有のコドンに従う。
【0147】
(結論)
本発明者らの7つの異なるマップは、リボソームを通るmRNAの経路を明確に示し、そしてこのmRNAの長さに沿った各々の位置を取りまくリボソームの分子の特徴を同定する。T.thermophilus 70Sリボソームを通る、mRNAにより取られる経路は、全ての細菌リボソームおよび古細菌(archaeal)リボソームに一般化され得るようであり、これらはmRNA結合チャネルを構築する構造の特徴の全てを共有する。実際に、真核生物リボソームには存在しないシャイン−ダルガーノ相互作用を除いて、本発明者らは、mRNAが全てのリボソーム中の非常に類似した経路に従うと予測する。主な答えのない疑問は、タンパク質合成の転位工程の間に、mRNAの移動がtRNAの移動とどのように結びつき、弱いコドン−アンチコドン相互作用の破壊および翻訳リーディングフレームの損失を防止するかということである。可能性のある答えは、mRNAと接触するリボソームの特徴のいくつかがそれ自体移動性であること、およびこのリボソームが、転位の間、このリボソームの移動とtRNAの移動とを同調させることである。上記の可能な例は、30Sサブユニットのヘッドである。別の自明な候補は、最後から2番目のステムを小サブユニットのヘッドと連結する非正準へリックスである、デコード部位自体である。
【0148】
AコドンおよびPコドンは、16S rRNA(配列番号45)の普遍的に保存された1400鎖および1500鎖から形成される、この異常なヘリックスの主要な溝を通って貫く(図12B)。デコード部位のヘリックスは、橋B2aを介して、上記されるようなtRNA移動およびサブユニット間シグナル伝達において役割を果たすことが提唱されているドメインIVのラテラルアーム中の23S rRNA(配列番号23)の普遍的に保存された1935鎖および1965鎖によって形成される、別の規範的ではないヘリックスに順々に連結される。面白いことに、2つの規範的ではないヘリックスの間の連結は、23S rRNA(配列番号23)のヘリックス69によって生成され、これは、ヘアピンループを介して16S rRNA(配列番号45)のデコード部位と相互作用するだけではなく、A−tRNAおよびP−tRNA両方のDステムと同時に相互作用する(図12C)。このことは、mRNA転位とtRNA転位とを関連付けるための可能な構造的基礎を示唆する。
【0149】
(実施例3−翻訳開始因子3と30Sリボソームサブユニットとの相互作用を決定するためのリボソーム構造の使用)
本実施例において、本発明者らは、リボソーム標的部位を同定および特徴付けるために、リボソームについての生化学的フットプリントおよび構造的情報をどのように使用して、リボソーム構造上の機能的に有意な分子のドッキングを容易にするのかを示す。本実施例は、翻訳開始因子3(IF3)のドッキングを記載するが、結果を、リボソームによって結合され得る任意の分子に対して一般化し得る。このドッキングから誘導される情報を使用して、リボソームとリガンド(例えば、IF3)との間の相互作用を破壊するための1つ以上の標的部位を同定し得る。リボソーム標的部位構造の同定および特徴付けは、ドッキングした構造によって特徴付けられて、その部位の3次元形状および電荷分布についての情報を提供し、当業者がその標的部位を占め得る他の分子を設計することを可能にする。リガンドの結合が適切なリボソーム機能に必要な場合、リボソーム−リガンド結合相互作用を破壊または阻止するように設計された分子は、タンパク質翻訳を阻害し得る。このような分子は、抗生物質、防腐剤、およびリボソーム機能の生化学的メカニズムをさらに規定する因子として、有用性を有する。
【0150】
本実施例において、本発明者らは、ヒドロキシルラジカルフットプリンティングおよびFe(II)誘導体化IF3による指向性プローブ化をどのように使用して30Sリボソームサブユニット中の16S rRNA(配列番号45)およびtRNAMet fに対するIF3(配列番号53および54)の相互作用をマッピングするのかを示す。本発明者らの結果は、プラットホームインターフェイスでのCドメイン、およびE部位でのNドメインを有する開始tRNAの逆側上にIF3(配列番号53および54)の2つのドメインを配置する。Cドメインは、23S rRNA(配列番号23)のヘリックス69の位置と一致し、これは、サブユニット結合をブロックするIF3(配列番号53および54)の能力を説明する。Nドメインは、タンパク質S7(配列番号30)およびS11(配列番号34)に隣接し、そしてE部位のtRNA結合を干渉し得る。本発明者らのモデルは、IF3が開始tRNA選択に間接的に影響することを示唆する。
【0151】
(序論)
開始中、リボソームは、メッセンジャーRNAの翻訳のために正確なリーディングフレームを選択しなければならない。このメッセージの3連のコドン開始シグナルは、開始tRNAのアンチコドンと塩基対形成するように30SサブユニットのP部位にて同定および整列されなければならない。大サブユニットが結合し得そしてタンパク質合成が始まり得る前に、小リボソームサブユニットと、P部位における開始tRNAとmRNAとの間で、複合体が形成される(GualerziおよびPon、1990;Gualerziら、2000)。原核生物細胞および真核生物細胞の両方が、この経路における中間体を形成するために、複数のタンパク質因子を必要とするが、関連する因子および形成される中間体において有意な差異が存在する。開始は、翻訳の律速段階であり、そして翻訳の調節が最も頻繁に生じる段階である(Sonenbergら、2000)。
【0152】
GTP補因子に加えて、3つのタンパク質因子IF1、IF2およびIF3は、細菌中での好適な開始に必要とされる(GualerziおよびPon、1990)。GTPaseであるIF2は、開始tRNAが30SサブユニットのP部位へ結合することを刺激する(Canonacoら、1986)。化学的フットプリンティング研究は、IF1が、30SサブユニットのA部位に結合したtRNAによって保護されるヌクレオチドを保護することを示した。このことは、IF1が、開始中にA部位へのtRNAの結合をブロックするという仮説を導く(Moazedら、1995)。30Sサブユニットに結合したIF1の、最近の結晶構造は、IF1が30S A部位を占めることを示す(Carterら、2001)。
【0153】
いくつかの活性が、開始中のIF3に起因した。30Sサブユニットに優先的に結合することによって、IF3は70Sリボソームを解離して、これらを開始について利用可能にする(SubramanianおよびDavis、1970;Grunberg−Managoら、1975)。IF3はまた、インビボおよびインビトロの両方で開始tRNA選択の正確さを増加させる(Risuleoら、1976;Hartzら、1989;Sussmanら、1996;Meinnelら、1999;Sacerdotら、1999)。近年、サブユニットの再循環におけるIF3の役割が提唱された。なぜなら、IF3は、終止後複合体からの脱アシル化されたtRNAの解離を増強することが観察されたからである(Karimiら、1999)。IF3がこれらの機能を達成するメカニズムは、十分には理解されていない。
【0154】
IF3は、2ドメインの20kDタンパク質であり、このN末端ドメイン構造およびC末端ドメイン構造が、X線結晶学およびNMRの両方によって決定された(Biouら、1995;Garciaら、1995a;Garciaら、1995b)。このNドメインは、α/β折り畳みを有し、そして塩基性残基および芳香性残基に富む、伸長したαヘリックスエレメントによって、Cドメインに連結される。このリンカーヘリックスは、結晶構造およびNMR構造の両方において(異なる程度ではあるが)部分的に乱れている。NMRによるインタクトな全長タンパク質の動力学研究は、リンカーが溶液中で可撓性であるという概念を支持する(Moreauら、1997)。IF3のCドメインは、2つのαヘリックスによって支持される4鎖βシートからなる古典的なRNA結合ドメインに折り畳まれる。
【0155】
IF3の、30Sサブユニットとの相互作用部位は、多くのアプローチを使用して研究され、時々相反する結果を得た。免疫電子顕微鏡は、30Sサブユニットの開裂にてIF3を位置付けた(StoefflerおよびStoeffler−Meilicke、1984)。IF3は、30Sサブユニットの広範な領域にわたって分布するタンパク質のセットである小サブユニットS7(配列番号30)、S11(配列番号34)、S12(配列番号35)、S13(配列番号36)、S18(配列番号41)、S19(配列番号42)およびS21(配列番号XX)に架橋された(Coopermanら、1977;MacKeenら、1980;Coopermanら、1981;Boileauら、1983)。IF3はまた、30Sサブユニットの中央ドメインおよび3’マイナードメインにおいて、それぞれ、16S rRNA(配列番号45)のヘリックス26および45に架橋された(Ehresmannら、1986)。ケソザール(kethoxal)、DMSおよびCMCTを使用する化学的フットプリントは、16S rRNAの中央ドメインのヘリックス23および24に見出された(Muralikrishnaら、1989;Moazedら、1995)。NMR研究は、IF3が残基1495〜1542を含む16S rRNAの3’末端のフラグメントと相互作用することを示した(Wickstromら、1986)。凍結電子顕微鏡(クリオEM(cryo−EM))再構築は、小サブユニットのインターフェイス面にてIF3のC末端ドメインを位置付けた(McCutcheonら、1999)。対照的に、Thermus thermophilus(Tth)30Sサブユニットの結晶に浸漬されたIF3のCドメインの、最近の結晶学的分析によって、30Sサブユニットの逆面上のC末端ドメインについての結合部位が明らかになった(Piolettiら、2001)。
【0156】
ここで、本発明者らは、ヒドロキシルラジカルフットプリンティングおよび指向性ヒドロキシルラジカルプローブ化の組み合わせを使用して、16S rRNA(配列番号45)に関して、30Sリボソームサブユニット上のIF3(配列番号53および54)結合部位を位置付けるための独立したアプローチを記載する。指向性プローブ化を、IF3の表面上の異なる14の位置につながれたFe(II)から実施した。16S rRNAおよび開始tRNAの指向性切断の部位は、フットプリンティングデータと一緒に、30Sサブユニットの結晶学的に決定された構造における、IF3のNドメインおよびCドメインの位置をモデリングするために十分な制約を提供した(Schluenzenら、2000;Wimberlyら、2000;Yusupovら、2001)。本発明者らの知見は、IF3のサブユニット解離活性を説明し、そしてその他の生物学的役割に対する手がかりを提供する。
【0157】
(実験手順)
(IF3の変異誘導体の調製)
IF3をコードする遺伝子を、都合よいクローニングのための制限部位を含み、かつまた効率的な過剰発現を促進するために、IF3の規範的でなく独特なAUU開始コドンをAUGに変化させたプライマーを使用するPCRによって、MRE600ゲノムDNAより増幅した。PCR産物を、pET−24b(Novagen)にサブクローニングし、迅速な精製のためのC末端His6タグを含む組換えIF3を得た。プローブ化実験におけるコントロールとして使用するためのIF3のシステインを含まない改変体を、部位特異的変異誘発(Kunkelら、1987)によって生成した。ここで、位置65で唯一存在する天然のシステイン残基を、アラニンに変異させた。この変異は、種々の種由来のIF3の系統学的アラインメントに許容された置換である。単一のシステイン残基を、IF3の表面上の15個の異なる位置(R11、Q22、E44、A49、E76、K79、S80、S81、K97、E104、K123、M135、Q138、M142およびQ180)での部位特異的変異誘発によって導入した。この部位は、全体的には保存されておらずそしてIF3タンパク質の表面上に位置する。1mM IPTGの添加3時間にわたって過剰発現するように対数増殖期(mid−log)の細胞を誘導することによって、野生型構築物および変異体構築物を、E.coli BL21(DE3)に過剰発現させた。
【0158】
細胞を、100mM NaCl、100mM Tris−Cl(pH7.5)を含有する緩衝液中に再懸濁し、そしてリゾチームの存在下で凍結融解によって溶解した。細胞溶解物を、JA−20ローター中で10,000rpmにて15分間遠心分離し、そして上清を、再懸濁緩衝液で予め平衡化したNi−NTAアガロース樹脂(Qiagen)に移した。次いで、1M NaCl、100mM Tris−Cl、10%グリセロール、および6mM β−MEを含有する高塩濃度(high−salt)の緩衝液で,この樹脂を徹底的に洗浄した。次いで、IF3を、500mMイミダゾールで溶出し、そして122mM NH4Cl、80mM K+カコジル酸、10mM MgCl2、1mM DTT(pH7.2)を含有する貯蔵緩衝液を3回交換して透析した。タンパク質濃度は、Bradfordアッセイによって推定した。精製したタンパク質を、瞬時に凍結し、そして−80℃にてアリコートで貯蔵した。この様式で精製したIF3誘導体を、クーマシーブルー染色したSDS−PAGEによって95%を超える純度と判定した。
【0159】
(mRNAおよびtRNA)
以下の配列:5’−GGCAAGGAGGUAAAAAUGUUUAAACGUAAAUCUACU−3’(配列番号55)を有する、合成36ヌクレオチドT4遺伝子32mRNA誘導体を、Dharmaconより購入した。E.coli tRNAMecfを、Sigmaより購入した。mRNAおよびtRNAを、それぞれ18%および10%のポリアクリルアミド変性ゲルにて精製した。tRNAを、仔ウシ腸アルカリホスファターゼ(Boehringer−Mannheim)で処理し、続いて、[32P]−γ−ATP(ICN)で5’末端標識した。tRNAを、再度ゲル精製し、そして10mM MgCl2および75mM Tris−Cl(pH7.5)を含有する緩衝液中にて、55℃で3分間再生し、続いて、室温までゆっくりと冷却した。
【0160】
(開始複合体形成)
30Sサブユニットに結合したIF3の複合体を、記載される(Moazedら、1995)ように調製した。典型的には、0.4μMの濃度の30Sサブユニット(Moazedら(1986a)に記載されるように調製した)を、122mM NH4Cl、80mM K+カコジル酸、10mM MgCl2、および1mM DTTを含有する緩衝液(pH7.2)中にて、42℃で15分間加熱活性化した。精製したIF3を、最終濃度4μMまで添加し、そして37℃で5分間、その後、室温で30分間インキュベートした。
【0161】
(IF3のケソザールおよび溶液Fe(II)−EFTAフットプリンティング)
30Sサブユニットに結合したIF3の複合体を、以下のようにケソザールでプローブした。40pmolの30Sサブユニットを、100μLの反応容量中で10倍モル濃度過剰のIF3とともにインキュベートした。30Sサブユニット単独のコントロールサンプルを、IF3を含むサンプルと同じく処理した。ケソザール改変を、記載される(Moazedら(1986a)ように実施し、ここで、37mg/mLのケソザール4μLを、各サンプルに添加し、そして37℃で8分間インキュベートした。次いで、サンプルを、25mMホウ酸カリウムに調整し、そしてエタノールで沈殿させた。ヒドロキシルラジカルフットプリンティング実験を、各反応物に添加したプローブ化試薬の最終濃度が以下であることを除いて、記載される(PowersおよびNoller、1995)ように実施した:1mM Fe(NH4)(SO4)2−6H2O、2mM EDTA、5mMアスコルビン酸および0.05%H2O2。反応物を、氷上で10分間インキュベートし、等量の7.6mg/mLチオ尿素でクエンチし、そしてエタノールで沈殿させた。ケソザールおよびヒドロキシラジカルフットプリンティング実験の両方において、rRNAを抽出し、そして改変からの保護部位を、記載される(Stermら、1988b)ように、プライマー伸長によって同定した。
【0162】
(Fe(II)−BABE−誘導体化IF3の調製)
Fe(II)−BABEとIF3のシステイン含有変異体との結合体化を、実質的に記載される(CulverおよびNoller、2000)ように実施した。2〜6nmolのIF3誘導体各々を、122mM NH4Cl、80mM K+カコジル酸、10mM MgCl2、1mM DTTを含有する緩衝液(pH7.2)100μL中にて、100nmol Fe(II)−BABEとともに37℃で30分間インキュベートした。インキュベーション緩衝液での複数回の洗浄を用いて、遊離Fe(II)−BABEを、Microcon−10微量濃縮器で誘導体化タンパク質から分離した。モック改変反応もまた、コントロールとしてのシステインを含まないIF3で実施した。
【0163】
(指向性ヒドロキシルラジカルプローブ化)
Fe(II)結合体化IF3を含むIF3−30S複合体を、上記のように形成した。遊離した、過剰のIF3を、microcon−100微量濃縮器にてこの複合体を遠心分離することによって除去し、そしてさらなる500μlの緩衝液を通してスピンすることによって洗浄した。単離したIF3−30S複合体を、100μlにして、0.025% H2O2および5mMアスコルビン酸でのヒドロキシルラジカル形成を開始することによってプローブした。反応物を、氷上で10分間インキュベートし、そして20mMチオ尿素でクエンチした。16S rRNAを抽出し、そして記載される(Sternら、1988b)ようにプライマー伸長によって分析した。切断強度を、記載される(Josephら、1997)ように、コントロール配列決定バンドに対する各バンドの強度に従って、強い、中程度または弱いと示した。
【0164】
開始tRNAの指向性プローブ化について、10pmolの加熱活性化した30Sサブユニットを、20pmol mRNA、1pmol 5’末端標識した開始tRNAおよびFe(II)誘導体化IF3とともに、25μl中にて37℃で10分間同時インキュベートし、続いて、室温で30分間インキュベートした。結合していないmRNA、tRNAおよびIF3を、microcon−100中でスピンすることによって除去した。複合体を、25μl容量にして、上記のようにプローブした。反応物をエタノール沈殿し、そして15%の変性PAGEで電気泳動した。
【0165】
(結果)
(ヒドロキシラジカルフットプリンティング)
本発明者らは、組換え野生型IF3の30Sサブユニットへの結合を、16S rRNA(配列番号45)上のその以前に決定されたケソキサール(kethoxal)フットプリント(Moazedら、1995)を再現することによって試験した。図15のレーン3〜5(左パネル)は、精製された組換えIF3が、ケソキサールによるN1/N2における改変から、ヌクレオチドG700およびG703を保護することを示す。組換えIF3はまた、沈降分析により、密接連結(tight−couple)70Sリボソームをサブユニットに解離し得た(データは、示さない)。
【0166】
IF3結合部位をさらに規定するために、本発明者らは、結合したIF3の存在下で、遊離Fe(II)−EDTAを用いて溶液中で生成させたヒドロキシラジカルからの16S rRNA(配列番号45)の糖−リン酸骨格の保護をモニターした。ヒドロキシラジカル攻撃に対するRNA骨格の感受性が二次構造から独立しているので、これらのデータは、RNAの不対塩基部分を特異的に改変する化学プローブからの保護と相補的である。保護を、プライマー伸長によってモニターし、オートラジオグラフィーの視覚的検査によって分類した(図16Aおよび16B)。
【0167】
保護されたヌクレオチドは、16S rRNAの中心ドメインのヘリックス23およびヘリックス24(これらは、上記のように、サブユニット界面に位置する)にクラスター化される。ヘリックス23において、ヌクレオチド685〜688および693〜703は、保護される(図16B);さらに、広範囲なフットプリントが、ヘリックス24において、774位〜776位、783位〜793位、799位〜802位、および807位〜810位に観測された(図16A)。これらのヌクレオチドは、塩基G700、U701、G703、G791、およびU793を取り囲み、これらは、IF3によってケソキサールおよびCMCTによる攻撃から保護される(Muralikrishnaら、1989;Moazedら、1995)。ヘリックス24における保護されたヌクレオチドは、3’方向でゆらぎ(staggered)、これは、IF3がこれらの位置でRNAヘリックスの副溝と相互作用することを示唆する。IF1およびIF2もまた30S複合体に存在する場合、775位の周りのヌクレオチドのいくらかがより強力に保護されるようであることを除いて、IF3依存保護パターンが変化せず、これは、IF3の結合が、他の開始因子の存在または非存在下で同様であることを示す(図16A)。
【0168】
(IF3−30S複合体の直接的なヒドロキシラジカルプロービング実験)
システインを含まないIF3改変体および単一システインを含有するIF3改変体を過剰発現し、精製し、そしてFe(II)BABE誘導体化した後、本発明者らは、これらの誘導体化されたタンパク質が正常に30Sサブユニットに結合する能力およびリボソームの解離を促進する能力を試験した。図15は、タンパク質の全てが、Fe−C79構築物を除いて、ヌクレオチドG700およびG703をケソキサール改変から保護し得たことを示す。同様に、Fe−C79以外の全てが、沈降分析によって判断されるように、リボソームをサブユニットに解離し得た(データは示さない)。従って、Fe−C79を、引き続くプロービング実験から排除した。Fe(II)−BABEを用いたIF3の誘導体化の位置を図17Aに示す。
【0169】
Fe(II)−IF3−30S複合体の直接的なヒドロキシラジカルプロービングを、実験手順に記載されるように、実行し、そして評点付けした。フットプリントがプラットホームの690および790のステムループに密に局在化するが、試験される15個の位置のうちの6個につながれるFe(II)から生成されるヒドロキシラジカルは、16S rRNAの4つのドメインのちの3つを切断する(図17Bおよび17C)。切断標的が二次構造において広範に分布するものの、これらは、プラットホームのエレメント、最後から2番目のステム、および30Sサブユニットのヘッドを含む、裂溝(cleft)を整列させる領域に局在化される。
【0170】
ヒドロキシルラジカルがIF3のC末端ハーフにつながれたFe(II)から生成する場合、最も強い切断は、790ループおよびサブユニット界面の最後から2番目のステムの頂部において生じる。第1に97位(C−ドメインのβ鎖)そしてより少ない程度に135位(β鎖2およびα−ヘリックス2を接続するループ)につながれたFe(II)から生成するヒドロキシラジカルは、690およち790のループならびに925領域、1228領域、1338領域、および1400領域にヌクレオチドにおいて、16S rRNAを切断する。16S rRNAのこれらの特徴は、P部位を取り囲む(Moazedら、1990;Yusupovら、2001;上記を参照のこと)。これら2つのプロービング位置はまた、デコード部位近くの最後から2番目のステムの頂部のヌクレオチドを切断する。C−ドメインのヘリックス1の開始部にある104位につながれるFe(II)は、最後から2番目のステムの残基1482〜1487を弱く切断する(図17Bおよび17C)。
【0171】
690および790のステムループはまた、ヘリカルリンカーにおける76位および80位につながれるFe(II)によって切断される。これらの2つのプロービング部位からの切断のパターンは、ほとんど同一であり、ヌクレオチド699〜705において最も強いヒットを生じる(図17B)。N−ドメインの球状部分において、位置11につながれたプローブのみが、690ループの頂端において16S rRNAを切断した(図17B)。Bacillus stearothermophilus由来のIF3のN−ドメインの結晶構造において、E.coliの11位に対応する残基は、N−ドメインとC−ドメインとの間のリンカー領域に平行な伸長ループにある。従って、この残基は、IF3のN末端にあるが、実際に、C−ドメインに向けられる(図17A)。22位、44位、49位および65位のプローブは、16S rRNAを切断しない。
【0172】
(30S P部位に結合される開始tRNAの直接的ヒドロキシラジカルプロービング)
P部位結合開始tRNAに関してIF3の方向を束縛するために、tRNA骨格の切断は、32P末端標識開始tRNA、mRNA、およびFe(II)−IF3を含む30Sサブユニット複合体の直接的なプロービングによって試験された。3つのつながれたFe(II)−IF3プローブは、特徴的に異なる位置において、30SサブユニットP部位に結合した開始tRNAの骨格を切断する(図18)。135位のプローブは、それぞれ、アンチコドンステムとDステムと開始tRNAのアンチコドンの間の接合部のヌクレオチド26〜29および35〜37を切断する。76位および80位のプローブは、Dループのヌクレオチド3〜5および13〜24において、tRNAMet fを切断する。C−ドメインプローブ(135)およびリンカープローブ(76および80)は、tRNAの対向面においてヌクレオチドを切断し、これは、IF3の2つのドメインがtRNAの対向する側に位置することを示す。
【0173】
(IF3−30Sサブユニット相互作用のモデリング)
本発明者らは、30Sサブユニットの3次元構造の状況において、指向されたヒドロキシプロービングおよびフットプリンティングからの生化学的制約を最大限に満足するためのIF3の位置および配向をモデル化した。プロービングおよびフットプリンティング実験を全長IF3を用いて行ったが、N−ドメインおよびC−ドメインの構造が別々に解かれるので、IF3の各ドメインを個々にモデル化した。
【0174】
Fe−BABE誘導体化IF3を使用する最も強い切断は、790ループの頂部および最後から2番目のステムの頂部におけるFe−C97に由来し、これは、明かに、C−ドメインが、16S rRNAのこの領域に対してそして30Sサブユニットの界面側に対して近いことを示す。従って、本発明者らは、16S rRNA上でのIF3のヒドロキシラジカルフットプリントを効果的に覆う、30Sサブユニットのプラットホームの界面表面に直接結合したC−ドメインをモデル化した(図19)。この解釈は、リボソームの最近の結晶構造の解析によって支持される(Wimberlyら、2000;Yusupovら、2001;上記を参照のこと)。これらは、16S rRNA上の小さなサブユニットタンパク質のヒドロキシラジカルフットプリントの圧倒的大部分(Powersら、1995)が、コンフォメーションの変化によって誘導される間接的な保護よりもむしろ、直接的なタンパク質−rRNA相互作用を反映することを示す。
【0175】
Fe−C97プローブおよびFe−C135プローブが、中程度〜弱い程度の強度で30Sサブユニットのヘッドのヌクレオチドを切断するので、本発明者らは、C−ドメインにおいてこれらの残基を、30S A部位の方向でヘッドに向かって裂溝を面するように配向させた(図19C)。IF3のC−ドメインの配向および位置は、さらに、5.5Aリボソーム構造に存在するP部位結合tRNAとの立体的衝突を避けることによって制約される。この配向において、C−ドメインのα−ヘリックスは、16S rRNAヘリックス24の副溝と相互作用する。a−ヘリックス1におけるリシン−110からロイシンへの変異は、IF3の30Sサブユニットへの結合を実質的に消滅させ、これは本発明者らの配置と一致する(De Bellisら、1992)。
【0176】
C−ドメインのこの配向の結果として、C−ドメインの残基M135が、P部位結合tRNAのアンチコドンループに面する。これは、Fe−C135による開始tRNAコドンの観測された切断と一致する。IF3のC−ドメインのこの配向が切断データとの一致を最大にするが、それにもかかわらず、3’メジャードメインにおけるプロービング位置のうちのいくつかとそれらの標的との間の距離は、以下に議論されるように、それらの切断強度から推測される距離よりも遠い。
【0177】
IF3のN末端ハーフは、塩基性残基および芳香族残基がリッチな高度に保存されるリンカー領域を含む。この因子のこのハーフからの切断データが、リンカー領域からのヒットによって実証されているので、IF3のN末端ハーフをドッキングする際の本発明者らの第1工程は、リンカーを位置付けることであった。リンカー領域のプローブは、690ステムおよび790ステムの中程度および下の部分を切断するので、これを、プラットホームのこの領域にわたるようにモデル化した(図19C)。
【0178】
N−ドメインの球状部分の配置は、そのドメイン由来の大部分のプローブが16S rRNAを切断しないので、あまり確かではない。リンカーの位置によって大きく制約される図19Cに示される位置は、11位から得られた切断、16S rRNAを切断した孤立したN末端プロービング部位と一致する。この配置は、リボソームタンパク質S7(配列番号30)とS11(配列番号34)との間(これらの両方ともが、IF3に架橋されている(MacKeenら、1980;Boileauら、1983)に、N−ドメインの球状部分を押し込める(wedge)。タンパク質リッチ環境におけるN−ドメインの配置は、これがモデル化の制約として明確には使用されなかったものの、22位、44位、49位、および65位におけるN末端プローブからのヒットの非存在を説明する。
【0179】
IF1が開始の間、30SサブユニットのA部位に重なるが、本発明者らのモデルにおいて、IF3のN−ドメインおよびC−ドメインは、開始tRNAの対向面にあり(図20Aおよび20B)、E部位にNドメインを配置する。この配置についてのさらなる支持は、IF3のリンカー領域における76位につながれたFe(II)由来の開始tRNAのDループの切断に由来する(図20B)。溶液散乱研究は、本発明者らの知見と一致して、IF3の2つのドメインが互いに相互作用しないこと示し(Kyciaら、1995)、これはまた、IF3についての拡大されたコンフォメーションを支持する。クリオEM研究(McCutcheonら、1999)において観測されるように、これらが相互作用する場合、IF3においてまたは30Sサブユニットにおいて生じ得るコンフォメーション変化によって本発明者らのモデルがどのように影響するかを述べることができないことを注意する。
【0180】
(考察)
本発明者らのモデルにおいて、IF3のCドメインが、広範な生化学的研究および生物物理学的研究によって支持される配置の、プラットホームの界面表面におけるヘリックス23、ヘリックス24、およびヘリックス45と相互作用する。免疫電子顕微鏡は、IF3を30Sサブユニットの界面表面上に限定した(StofflerおよびStoffler−Meilicke、1984)。ヌクレオチドG700、U701、G703、G791、およびU793(これらは、小さなサブユニットの界面に位置付けられる)は、ケソキサールおよびCMCT改変から保護される(MuralikrishnaおよびWickstrom、1989;Moazedら、1995)。さらに、G791のAへの変異は、30Sサブユニットに対するIF3の結合親和性を10倍減少させる(Tapprichら、1989)。ヘリックス45とIF3との間の架橋はまた、本発明者らのモデルにおけるヘリックス45とCドメインとの間の接触と一致する(Ehresmannら、1986)。別の研究において、30SサブユニットへのIF3の結合は、U793(ヘリックス24内)とG1517(ヘリックス45内)との間の分子内架橋を妨害した(Shapkinaら、2000)。30SサブユニットをともなうIF3の最近のクリオEM研究は、プラットホームの界面側のCドメインと同じ寸法の電子密度を同定した(McCutcheonら、1999)。さらに、C−ドメインのみを含むIF3の欠失変異体は、全長IF3のヒドロキシラジカルフットプリントと同一の、ヘリックス23およびヘリックス24上のヒドロキシラジカルフットプリントを生成する(A.D.およびHEN、未公開の結果)。
【0181】
C−ドメインの本発明者らの位置付けが27ÅのクリオEM研究(McCutcheonら、1999)と一致するが、N−ドメインの位置付けは、異なる。クリオEM研究において、陽性差異密度(positive difference density)の3つの領域および陰性差異密度の1つの領域を同定した。N−ドメインを、プラットホームから30Sサブユニットの頚部にわたる陽性差異密度にあてはめ、一方、残りの差異密度は、IF3結合において生じたコンフォメーション変化に起因させた。本発明者らのデータは、プラットホームと連続する陽性密度の非割り当て領域におけるN−ドメインの位置により密接に当てはまる。次いで、本発明者らは、陽性差異密度および陰性差異密度の残りのローブを、30SサブユニットのヘッドがP部位に対するA部位の方向から旋回する30Sサブユニットのコンフォメーションの変化に帰せた。この動きは、いくつかのヌクレオチドをC−ドメインに近いヘッドにおいて切断し、これは、観察された切断の強度とFe−C97の位置およびFe−C35の位置からのプローブ−標的距離との間の矛盾を調和するのに役立つ。
【0182】
IF3についての本発明者らのモデルがクリオEMデータと一致するが、IF3のC−ドメインについての本発明者らの立場は、IF3のC−ドメインを浸された(soaked)30Sサブユニットの最近報告された結晶の分析とは実質的に異なる(Piolettiら、2001)。Piolettiらは、30Sサブユニットの対向する面にC−ドメインを配置し、ヘリックス23およびヘリックス26の溶媒面と相互作用させる。本発明者らのフットプリンティングのデータも本発明者らの直接的なプロービングデータも、C−ドメインのこの配置と調和し得ない。この矛盾は、プラットホームの界面(本発明者らは提案するこれが、C−ドメインの結合部位である)が、Tth 30S結晶内の結晶の接触と一致する(Schluenzenら、2000;Wimberlyら、2000)という事実によって説明され得る。実際、これは、隣接30Sサブユニットのボディからの「スパー(spur)」ヘリックスが、P部位に結合する同じ領域であり、tRNAアンチコドンステム−ループを模倣する(Carterら、2000)。従って、本発明者らは、IF3のC−ドメインが、結晶パッキングを破壊することなしに本発明者らが提案した位置に結合し得ないことを予期する。非特異的な結合についてのIF3の文書化された傾向(SabolおよびOchoa、1974;Wickstrom、1981)、およびIF3が30Sサブユニットの界面において相互作用するという豊富な生化学的および生物物理学的証拠を考慮すると、結晶研究において観測されたものは、2次結合部位を表すことがあり得る。
【0183】
本発明者らのモデルは、翻訳開始におけるIF3の解離活性についての説明を提供する。IF3によって保護されるヌクレオチドと70Sリボソームの形成時に保護されるヌクレオチドとの間に有意な重なりが存在する(Merrymannら、1999)。IF3の質量が50Sサブユニットの質量の2%未満であるが、サブユニット間ブリッジB2b、B2c、およびB7aを含む広範な範囲に対する50Sサブユニットの接近を妨げ(Cateら、1999;Yusupovら、2001;上記を参照のこと)、これは、McCutcheonら(1999)およびGualerziら(2000)による提案と一致する。IF3のC−ドメインの位置は、23S rRNA(配列番号23)のヘリックス69のC−ドメイン(ブリッジB2bの主要な大きなサブユニット)と一致する(Yusupovら、2001;上記を参照のこと)(図20)。従って、IF3は、この23S rRNAヘリックスを模倣することによって、サブユニットの会合を妨げ得る。単離されたC−ドメイン自体がサブユニット解離を促進し得ること(Garciaら、1995b)およびヘリックス69の接触部位のフットプリントが、このスキームを支持する。この機構は、Piolettiらの機構とは対照的であり、彼らは、サブユニット間接触に関与する16S rRNA領域におけるいかなる構造的変化も報告していないという事実にも関わらず、IF3がサブユニット相互作用に間接的に影響することを提案する(Piolettiら、2001)。
【0184】
本発明者らのモデルはまた、IF3が開始tRNA選択を促進し得る可能性のある方法を強要する(Risuleoら、1976;Hartzら、1989)。開始tRNAの主要な差次的特徴は、Mangrooら、1995に概説されるように、アンチコドンループに隣接した、一連の3つの保存されたG−C塩基対(ヌクレオチド29〜31および39〜41)であることが示されている。本発明者らのモデルに従って、IF3は、tRNAのこの特徴には及ばず、このことは、tRNA識別を促進にする際でのそれらの役割が間接的であることを示唆する。開始tRNAに結合した70Sリボソームの共結晶構造において、30SサブユニットのヘッドにおけるヌクレオチドG1338およびヌクレオチドA1339は、開始tRNAのまさにこの領域のアンチコドンステムの副溝面と並置している(Yusupovら、2001;上記を参照のこと)。可能性のある機構は、クリオEM(cryo−EM)研究から推定されるプラットホームに対するヘッドの推定IF3依存性の傾き(tilting)が、16S rRNAのこれら2つの塩基をtRNAM”fのアンチコドンステムの副溝と緊密に接触させるように動くというものである(これらは、tRNA同一性の立体的なチェックを実施し得る)。このようなスキームは、副溝認識を含む、アミノアシル−tRNA識別についてOgleおよび共同研究者らによって提唱された機構に類似する(Ogleら、2001)。
【0185】
いくつかの研究によって、開始因子が存在する場合、mRNAが30Sサブユニット上に再配置されることが示唆されている(Canonacoら、1989;La Teanaら、1995)。興味深いことに、16S rRNAの3’末端の位置は、単離された30Sサブユニットの結晶構造と70S リボソームの結晶構造との間で異なり、P部位 tRNAおよびmRNAが結合する(Carterら、2000;Wimberlyら、2000;Yusupovら、2001;上記を参照のこと)。IF3と16S rRNAの3’末端ステムループとの相互作用は、30S結晶構造において観察されたように、P部位およびE部位から離れた16S rRNAの3’末端の移動を促進し得、これはmRNAのシャイン・ダルガルノ配列の結合を可能にする。
【0186】
最後に、IF3のNドメインの位置とE−tRNAのNドメインの位置との間に立体的な衝突が存在する。従って、IF3のさらなる役割は、開始の間の30S E部位からtRNAを排除することであり得る。IF3は、IF2に架橋され(Boileauら、1983)、そしてIF2もまた開始tRNAの選択を促進するので、IF3のNドメインが、50Sサブユニットに連結する前にIF2と相互作用し得る可能性はある。リボソームとそのリガンドについての完璧な構造情報の利用可能性によって、開始の間のIF3活性の機構についてこれらの案および他の案を直接試験することがここで可能となる。
【0187】
(実施例4−70Sリボソームに対する標的部位選択)
70Sリボソームまたはその一部の構造座標は、リボソーム機能を阻害または活性化するために標的化され得る70Sリボソームの構造特徴を設計するのに有用である。構造座標によって規定される70Sリボソームの以下の領域は、阻害化合物または活性化化合物の開発に対する、特に有用な標的を表す。
【0188】
原核生物リボソーム標的部位に特異的なインヒビターまたはアクチベーターを開発するための1つの手法は、原核生物リボソーム成分および真核生物リボソーム成分の一次構造中に見出される系統発生的に多様な領域に基づいて標的領域を選択すること、および本5.5A 70S構造上にこれらの領域をマッピングすることによって決定すること(この系統発生的に多様な領域が、不安定化した場合におそらくリボソーム機能を破壊するリボソームの一部を含む)である。系統発生的に多様な領域は、タンパク質配列データベースまたは核酸配列データベースを使用して、周知の配列整列ツール(例えば、BLAST)を用いて異なる生物からの関連する配列間の配列比較を実行することによって、これらの成分の一次構造中に配置され得る。Illinois大学のCarl Woeseは、リボソームデータベースプロジェクトの一部として、このような配列比較をコンパイルしている(www.cme.msu.edu/RDP/html/index.html)。このようなデータベースは、23S、L2、L5、L14、およびL19、16S、S13、およびS15の非保存領域を位置付けるのに有用である。代表的なアライメントを表Iに示す。
【0189】
当然、原核生物特異性も真核生物特異性も必要としない例が存在する。このような場合、系統発生的に多様な領域が同定される必要はない。
【0190】
界面相互作用は、30Sサブユニットと50Sサブユニットとの間の相互作用の強度を破壊または増強する因子のファルマコフォアまたは候補化合物設計に有用な構造領域を提供する。Banら、2000の2.4オングストローム50S構造と本50S構造を比較することによって、70Sサブユニットに結合した際に50S構造に生じるコンフォメーション変化に関する手掛かりを提供する、これら2つの間の差異が、容易に決定される。これらのコンフォメーション差異は、上に記載される。標的選択についてのいくつかの手法が使用され得る。
【0191】
1つの手法は、サブユニットを離したままで、界面またはブリッジ領域を標的化することである。他の手法は、サブユニットが一緒になった場合に低分子にアクセス可能な領域を標的化することである。リボソームは、タンパク質翻訳の間に一緒になり、次いで翻訳プロセスの終りに再び分離する、分離した30Sサブユニットと50Sサブユニットとして生物内に存在する。いずれかのブリッジ領域および全てのブリッジ領域が、30Sと50Sとの間の会合を破壊するのに良好な標的である。特に良好な標的は、宿主と病原との間の50Sリボソーム構造の上記の系統発生的に異なる領域中に見出されるものである。これらの領域は、50S内に含まれる異なるrRNA間の配列比較によって、容易に推定され得る(50Sの界面成分は、23S rRNAの一部およびリボソームタンパク質L2、L5、L14、およびL19の一部を含む)。30Sブリッジ成分は、16S rRNAならびにタンパク質S13およびS15の一部を含む。サブユニット間のブリッジ接触を作製するのに関与する構造の領域を、表IIIに示す。
【0192】
表IVに示されるような、A部位、P部位、およびE部位のtRNAを結合するのに関与する70Sリボソームの領域もまた、標的部位選択に使用され得る。
【0193】
mRNAと接触する70Sリボソームの領域はまた、タンパク質翻訳に影響を与えるファルマコフォアおよび候補化合物の開発のための、潜在的な標的部位もまた提供する。これらとしては、タンパク質S3の残基156〜163;127〜132;タンパク質S4の残基47〜52;タンパク質S5の残基9〜30および46〜56;16S rRNAの残基13〜17;528〜532;1194〜1198;および1054〜1056を含む構造のエレメントが挙げられる。
【0194】
シャイン・ダルガルノヘリックス(翻訳開始の間に、mRNAの−10領域と16S rRNAの3’末端との間に形成される)は、細胞質ヒトリボソームおよびミトコンドリアヒトリボソームの両方に存在しないが、全ての病原体(例えば、細菌)中に存在する。従って、上記のように、シャイン・ダルガルノヘリックス部分を形成する16S rRNAの一部は、良好な標的部位を提供する。mRNAの結合の際に、リボソーム構造の30S部分に、コンフォメーションシフトが生じる。16S rRNAのテイルは、mRNAのシャイン・ダルガルノ配列と塩基対を形成し、次いで、そのヘリックスが、30Sリボソームサブユニットの「プラットホーム」の溶媒側でシャイン・ダルガルノ結合ポケットに結合する。本発明者らは、本発明者らの70S構造を単離された30S構造(Wimberlyら、2000;PDB 同上 1FJF)に対して比較し、シャイン・ダルガルノ結合ポケットを位置付けた。このポケットはまた、標的部位を提供し、そして以下のエレメントを含む構造の領域によって規定される:タンパク質S11、残基85〜90;112〜129;22〜27;タンパク質S18、残基1〜24;16Sヘリックス20、ヘリックス28、ヘリックス37、ヘリックス45およびバルジループ723(16S 残基927〜931;1388〜1393;1526〜1529;1505〜1508;および719〜724を含む)。
【0195】
さらなる標的部位としては、リボソーム結合因子(例えば、IF3)に対する結合部位、そのドッキングを上で記載した、EF−TuおよびEF−Gの結合部位、ならびにGTPaseおよび因子関連機能に関与する50Sサブユニットの領域が挙げられる。これらとしては、SRL(サルシンリッチループ、図2およびL11を参照のこと)が挙げられる。これらの2つの部位は、EF−TuおよびEF−Gと相互作用する。EF−Tuの構造は、Kjeldgaardら、Structure 15、35(1993)(PDB 1EFT、847、ITTT;5401、ITUI;6200、1EFC;9879)およびCzworkowskiら、EMBO J 13、3661(PDB IEFG;845;IDAR;4586、IELO;4920、2EFG;12085、1FNM;14532)、およびLiljas(al−Karadaghiら、Structure 4、555(PDB 2EFG;12085,1FNM;14532)によって報告されている。
【0196】
本発明者らは、以下の基準に基づいて70S構造に対して上記の技術を用いて、これらの構造をドッキングした:(1)70Sに対するEF−Gの立体一致;(2)23S RNAに対するこれらの因子のフットプリンティング(Moazedら、1988);および方向付けられたヒドロキシルラジカルブローブ付け(Wilsonら、「Mapping the position of translational elongation factor EF−G in the ribosome by directed hydroxyl radical probing」Cell(1998)92(1):131−9)。新規70S構造ならびに伸長因子の公知の高解像度構造ならびに上記の詳述されるさらなる情報に基づいて、EF−TuおよびEF−Gは、70S構造に正確にドッキングされて、リボソームGTPase活性および結果としてタンパク質合成を妨害する低分を設計するための鋳型を提供し得る。
【0197】
本発明者らのドッキング研究は、EF−Tu接触が23S rRNA 残基2651〜2665、16S rRNA 残基54〜57、および357〜361、ならびにL11残基20〜36上であることを示す。EF−G接触は、23S rRNA 残基1065〜1069、1094〜1097、および2651〜2665、16S rRNA 残基54〜57、340〜345および357〜361、ならびにL11 残基20〜36で見出される。
【0198】
EF−TuおよびEF−Gの正確なドッキングは、SRLループは解明するがL11(これは、50S構造において乱れている)は解明していないBanら(2000)の50S構造のような先行技術におけるリボソーム構造では、可能ではなかった。L11密度は、本5.5Å構造で観察可能であり、そして高解像度の幾何は、上記のように密度を適合させたL11およびL11 RNA複合体の高解像度構造を用いたフィッティング方法に従って推定され得(Conn GL、Draper DE、Lattman EE、Gittis AG.Science.1999 May 14;284(5417);1171−4.(1QA6;10294)およびWimberly BT、Guymon R、McCutcheon JP、White SW、Ramakrishnan V.Cell.1999 May 14;97(4):491−502(1EG0;12626、1MMS;13236、487D;13285)、そして本構造のモデルである。
【0199】
実際、本発明者らは、上記で参照されるRamakrishnan L11構造を用いて5.5Å 70S構造にL11のドッキングを実行した。この新規に同定されたかまたは新しく解明された70Sリボソーム構造の局面、および上記のドッキングアルゴリズムが与えられれば、当業者は容易に標的部位およびファルマコフォアを推定し得、EF−TuおよびEF−Gのリボソームへの結合を妨害し得る低分子および他の因子の調製を可能にする。このような因子は、リボソーム会合GTPase活性を阻害することによってタンパク質合成を阻害することが予想される。チオストレプトンのような抗生物質およびミクロコッシン(micrococcin)は、L11タンパク質に作用して、タンパク質合成を阻害する。Porse BT,Cundliffe E,Garrett RA.「The antibiotic micrococcin acts on protein L11 at the ribosomal GTPase centre」J Mol Biol.Mar 19;287(1)33−45(1999);Biochimie.Jul−Aug;73(7−8):1131−5(1991)。これらの抗生物質は、本発明者らが決定した70S構造に対して鋳型をドッキングするために使用され得、他のファルマコフォアまたは候補化合物がL11領域を標的化し、そしてGTPase活性を阻害するように設計され得るさらなる情報を提供する。このように、因子の部位への結合を妨げる新規因子が発見され得る。
【0200】
さらに、GTPaseは阻害しないがEF−Gの放出を妨害し、そして結合したままで発生ポリペプチド鎖の伸長を妨害することによって翻訳をブロックする伸長因子に結合する化合物(例えば、EF−Gに結合するフシジン酸)が存在する。Laurberg M,Kristensen O,Martemyanov K,Gudkov AT,Nagaev I,Hughes D,Liljas A.Structure of a mutant EF−G reveals domain III and possibly the fusidic acid binding site.J Mol Biol.Nov 3;303(4):593−603(2000)(1FNM;14532)。これらの化合物はまた、70S 5.5Å構造にドッキングされて、EF−G放出を阻害するフシジン酸と類似の様式で作用する他の分子を設計し得る。
【0201】
さらなる他のクラスの因子が、ファルマコフォアまたは候補化合物設計のために、70S 5.5Å構造にドッキングされ得る。例えば、GTPase関連薬物「キロマイシン(kirromycin)」は、EF−Tuに結合し、そしてEF−Tuがリボソームから放出され、そしてtRNAを放出するコンフォメーション変化を妨害する。
【0202】
【表6】
【0203】
【表7】
【図面の簡単な説明】
【図1】
図1は、5.5Åの解像度における、70SリボソームのP部位に結合したtRNAMet fの電子密度を示す図である。
【図2】
図2は、Thermus thermophilus70Sリボソームの構造の図である。A、B、CおよびDは、垂直軸の回りの連続的な90゜回転であり;Eは、Aに示される図の平行軸の回りの90°回転である。(A)30Sサブユニットの後からの図。H、ヘッド;P、プラットホーム;N、ネック;B、ボディ。(B)右手側からの図であって、サブユニットインターフェースキャビティを示し、30Sサブユニットは左にあり、そして50Sサブユニットは右にある。A−tRNA(金)のアンチコドンアームは、インターフェースキャビティ中に見える。(C)50Sサブユニットの後ろからの図。ECポリペプチド出口チャンネルの末端。(D)左手側からの図であって、50Sサブユニットは左にあり、そして30Sサブユニットは右にある。E−tRNA(赤)のアンチコドンアームが部分的に見える。(E)上からの図であって、50Sサブユニットが上にあり、そして30Sサブユニットは下にある。E−、P−およびA−tRNAは、インターフェースキャビティにあり、それらのアンチコドンアームは、30Sサブユニット中に下方向を指している。(F)30Sサブユニットのインターフェースの図(Aから180゜回転)であって、3つのtRNAの位置を示す。(G)50Sサブユニットのインターフェース図。ASF、A−部位フィンガー、SRL、サルシン−リシンループ。異なる分子成分を識別のために着色している:シアン、16SrRNA;グレー、23SrRNA;ライトブルー、5SrRNA(5S);ダークブルー、30Sタンパク質;マジェンタ、50Sタンパク質。電子密度に適合するタンパク質はオレンジで番号付けた;電子密度は識別されたが適合しなかった50Sタンパク質はマジェンタで番号付けた。A、P、E、A−、P−およびE−部位rRNA(それぞれ、金、オレンジおよび赤)。
【図3】
図3は、16S、23Sおよび5SrRNAの二次および三次構造を示す図である。(A)T.thermophilus16SrRNAの二次構造、その5’、中央、3’−メジャーおよび3’−マイナードメインをブルー、マジェンタ、赤および黄色でそれぞれ陰影をつけた。(B)T.thermophilus23Sおよび5SrRNAの二次構造の図であって、23SrRNAのドメインI(ブルー)、II(シアン)、III(グリーン)、IV(黄色)、V(赤)およびVI(マジェンタ)を示す。rRNAは、E.coli(75)に従って番号付ける。(C)70Sリボソーム中の16SrRNAの三次元折り畳みであって、そのドメインは、(A)中のように着色される。(D)23Sおよび5SrRNAの三次元折り畳みであって、それらのドメインは(B)におけるように着色される。
【図4】
図4は、70Sリボソーム中のrRNAと、30Sおよび50Sサブユニットとの間の立体構造の差異を示す図である。(A)T.thermophilus30Sサブユニット(15)および70Sリボソームからの16SrRNA中の差異.Rmsd差異を、黄色(>10Å)、オレンジ(5.5Å>rmsd>10Å)、赤(3.5Å>rmsd>5.5Å)およびブルー(rmsd<3.5Å)で着色する。H、ヘッド;PS、最後から2番目のステム;SP、突起。(B)30Sサブユニット((15);赤)および70Sリボソーム(ブルー)からの16SrRNAのスーパーインポウズ構造を示す立体図である。(C、D)H.marismortui50Sサブユニット(14)とT.thermophilus70Sリボソームとの間の差異を示す、23SrRNAの前面図および後面図である。黄色、H.marismortui50S構造中で不規則であった特徴;シアン、T.thermophilus構造に特異的である特徴;白、H.marismortui構造に特異的な特徴。残りの領域中の立体構造の差異は、オレンジ(rmsd>5.5Å)および赤(3.5Å<rmsd<5.5Å)で着色される。Haloarcula特異的特徴のヌクレオチド番号は、Hによって先行され;残りの番号は、E.coli番号付けに従う。(E)T.thermophilus(ライトブルー)およびH.marismortui(赤)中の23SrRNAのドメインIIIの頂端ステム領域間の立体構造の差異。H1495は、T.thermophilus中のT1495に対応する、古細菌配列中の頂端ヌクレオチドを示す(古細菌番号付けを用いて、ヌクレオチド1597)。(F)タンパク質L9の、結晶中の別のリボソーム中の30Sサブユニットとの結晶パッキング相互作用を示す、5.5Å電子密度の立体図である。位置Gly84(G84)の周りのL9のC−ドメインと、アデノシン55(A55)の周りの別のリボソームの16SrRNAとの接触、およびLys12(K12)の周りのL9のN−ドメインとグアニン493(G493)の周りの16SrRNAとの間の接触が示される。黄色で示されるのは、ファージT4遺伝子60mRNA上のリボソームの「ホッピング」を刺激する、L9中の変異である。L9の骨格は赤で示され、16SrRNAはマジェンタで示され、そしてヘリックス5(L9のC−ドメインとの主要な接触)は、シアンで強調される。
【図5】
図5は、サブユニット間接触(赤)に関与する特徴を示す、16Sおよび23SrRNAの二次構造を示す図である。(B、C)50Sおよび30Sサブユニットのインターフェースの図であって、ブリッジを番号付けている(Frankら、1995a;Cateら、1999)。RNA−RNA接触を赤(16SrRNA)およびマジェンタ(23SrRNA)で示す;タンパク質−RNAおよびタンパク質−タンパク質接触を、黄およびピンクで示す。A、PおよびEは、3つのrRNAを示す。(D−G)(D)図2B、(E)図2C、(F)図2D;(G)図2Dの水平軸の回りに90゜回転におけるように見られる、ブリッジ相互作用の詳細な立体図であり。
【図6】
図6は、rRNA−リボソーム相互作用を示す図である。(A)70Sリボソーム中のそれらの各mRNAコドンと複合体化した、P−tRNA(左;5.5Å)およびA−rRNA(右;7Å)の電子密度マップを示す図である。(B)コドン−アンチコドン相互作用およびAコドンとPコドン間のねじれを示す、A−、P−およびE−tRNA(それぞれ、金、オレンジ、および赤)の相対的配向を示す図である。(C、D)30SサブユニットP部位中のそのコドンに結合したP−tRNAアンチコドンステム−ループの2つの図である。(E)P−tRNAのDステム、エルボーおよびアクセプターと、50Sサブユニット間の相互作用。(F)5.5Åにおける、脱アシル化tRNA Met fと複合体化したT.thermophilus70Sリボソームに対する実験的電子密度であり、H.marismortuiCCdAp−ピューロマイシン遷移状態アナログ構造モデルをスーパーインポウズしている。(G)5.5Åで計算された、H.marismortui50Sサブユニット(3)の対応する領域に対する電子密度(赤)。23SrRNA(3)のアナログおよび周囲部分の構造が示される。(H、I)30SサブユニットA部位中のそのコドンに結合したA−tRNAアンチコドンステム−ループの2つの図である。(J)7ÅにおけるA−tRNAに対するフーリエ差異マップであって、A−tRNAおよびA−コドンをスーパーインポウズしてある。塩基A1492およびA1493の位置を、それらがパロモマイシン(17)の存在下(赤)および不在下(マジェンタ)で見出されるので示している。負の密度(赤)のパッチが、A1492およびA1493の位置の近傍に見出され得、それらが、Carterら(17)により示唆されるように、A−tRNAが結合するとき、再配置され、コドン−アンチコドンヘリックスの副溝と相互作用し得ることを示す。(K)A−tRNAのDステム、エルボーおよびアクセプター端部の50Sサブユニットとの相互作用。(L)L16の部分に対応し得る、A−tRNAエルボーと割り当てられていないrタンパク質との間のクラッシュを示す電子密度。(M)E−tRNAのリボソームとの相互作用。すべてのパネルにおいて、16SrRNAはシアンで、23SrRNAはグレーで、そしてリボソームタンパク質はブルー、グリーンおよびマジェンタで示される。tRNAと接触するリボソームの部分は、金(A−tRNA接触)、オレンジ(P−tRNA接触)または赤(E−tRNA接触)で着色される。rRNAヘリックスは、図3A、Bのように番号付けしてある。tRNA結合により化学的プローブから保護されているtRNA中の塩基(21、45、51)は球体で示されている。直接相互作用により保護されている塩基は、接触と同じ着色である;立体構造変化の結果として保護されている塩基は、マジェンタ、またはクラスIII部位(71)の場合グレーブルーで示されている。テキスト中で論議され、そして表IVに列挙される、異なる特異的リボソーム接触は、小文字により示される。(N)A−tRNA(金)、P−tRNA(オレンジ)およびE−tRNA(赤)と接触する分子を示す,16Sおよび23SrRNAの二次構造である。
【図7】
図7は、(A)リボソーム中のA−、P−およびE−tRNAならびにmRNAの相対的配置を示す図である。(B)翻訳サイクルのためのハイブリッド状態モデル(Moazedら、1989b)のアップデートバージョンの略図。(C)ハイブリッド状態サイクルを通るtRNAの動きの三次元図である。
【図8】
図8は、サブユニットインターフェースにおける、A−およびP−tRNAを取り囲むrRNAエレメントを示す図である。E−tRNAのリボース71の位置を赤の球体で示す。詳細はテキストを参照のこと。
【図9】
図9は、本研究で用いた3つのモデルmRNAのヌクレオチド配列を示す図である。Shine−Dalgarno配列(S/D)、ならびにP−およびA−部位コドンに下線を引いてある。MF36mRNA中の推定のA部位ヘリックスを形成する自己相補性配列の上に線を引いてある。
【図10】
図10は、(A)mRNAモデル(黄)が入った、MK27mRNAの7Åフーリエ差異マップであって、30Sリボソームサブユニットの頂部から見た、Shine−Dalgarno配列(S/D)ヘリックスの位置(マジェンタ)、およびA−およびP−部位コドン(それぞれオレンジおよび赤)の位置を示す図である。(B)MF36mRNAの差異マップであって、A部位における特別の密度に適合した4塩基対テトラループヘリックス(A部位ヘリックス)を示す図である。(C)(B)と同じ図である。但し、A部位mRNAヘリックスの代わりに、A−tRNAアンチコドンステム−ループ(緑)が、A−tRNA差異マップ(Yusupovら、2001)中で実験的に観察された位置に示される。Shine Dalganoの5ヌクレオチド(GGAGG/CCUCC)(配列番号XX)コア相互作用がマジェンタで示され、そして16SrRNAテイルの残りがシアンで示される。
【図11】
図11は、30Sリボソームサブユニット、A、P、A−部位およびP−部位コドン中のmRNAの(A)インターフェースおよび(B)溶媒の図である。5’、3’5’および3’は、mRNAモデルの位置−15および+15に対応する。サブユニットのヘッド、プラットホーム、ショルダーおよびボディ、ならびにリボソームタンパク質S2、S3、S4、S5、S7、S11、S12およびS18が示されている。リボソームタンパク質がダークブルーで示され,16SrRNAがシアンで、そしてmRNAは図2におけるように着色される。
【図12】
図12は、(A)ヘリックス20、28および37(h20、h28、h37)、ならびに16SrRNAの723ループ、ならびにタンパク質S11およびS18、ならびに上流トンネルを通るmRNAヌクレオチド−1〜−4の経路により形成される、その間隙中に結合したShine−Dalgarno(S/D)ヘリックスの溶媒−立体側面図である。MV36 Fourier差異マップが示される。(B)16SrRNA中の、A−およびP−部位コドンならびにそれらの隣接ヌクレオチド(530、790、791、926、1492、1493および1498)の立体インターフェース図である。リボソームタンパク質S12中の制限変異の位置を黄(ユニバーサルPNSA配列)およびオレンジで示す。G926およびU1498に対する塩基の位置を、T.thermophilus30Sサブユニットの高解像度構造(Wimberlyら、2000)からモデル化した。(C)(B)と同様の図である。しかし、A−およびP−tRNA(それぞれオレンジおよび赤)が、それらの実験的に観察された位置に従って入っている(Yusupovら、2001)。
【図13】
図13は、(A)mRNA位置+7〜+10を取り囲む16SrRNA層の特徴を示す、下流トンネルの立体インターフェース図である。(B)タンパク質S3、S4およびS5によって、mRNAの位置+11〜+15を取り囲むタンパク質層の形成を示す、下流トンネルの溶媒−立体側面図である。タンパク質S5の二本鎖RNA結合ドメインをマジェンタで示す。MK27差異マップが示される。
【図14】
図14は、70Sリボソーム−mRNA−tRNA複合体(Yusupovら、2001)の結晶学的に4つの折り畳み軸を見下ろす図であって、隣接するリボソーム間のモデルmRNAのヘッド−テイル並置を示す(赤−オレンジ)。示される分子成分は、16SrRNA(シアン)、23SrRNA(グレー)、5SrRNA(グレー−ブルー)、小サブユニットタンパク質(ダークブルー)、大サブユニットタンパク質(マジェンタ)、A−、P−およびE−tRNA(黄、オレンジおよび赤)およびmRNA(赤−オレンジ)である。
【図15】
図15は、16SrRNA上のFe(II)誘導体化IF3改変体の化学的フットープリンティングを示す図である。プライマー伸長は、30Sサブユニット中の16SrRNA上の位置G700およびG703におけるIF3−HisTag(野生型)およびFe(II)BABE誘導体化IF3改変体のケトキサールフットプリントを示す。両方のパネルにおいて、AおよびGは、配列決定レーンである。Kおよび30Sと標識されたレーンは、それぞれ、非改変30Sサブユニットおよびケトキサール改変30Sサブユニットである。IF3は、ケトキサール改変30S−IF3−His6複合体である。左のパネルにおいて、−cysは、ケトキサール改変システインフリーIF3−30Sであり、そしてすべての他のレーンは、各レーンの頂部に示されるように、ケトキサール−改変NドメインFe(II)−IF3−30S複合体である。右のパネルにおいて、すべの他のレーンは、示されるように、ケトキサールで処理されたC−ドメインFe(II)−IF3−30S複合体である。
【図16】
図16は、16SrRNA上のIF3のヒドロキシラジカルフットプリンティングの図である。(A)30Sサブユニット中の16SrRNA上のIF3のヒドロキシラジカルフットプリントのプライマー伸長分析。左から右のレーンは以下の通りである:A、Gは配列決定レーンである;K、非改変30Sサブユニット;30S、ヒドロキシラジカルに曝された30Sサブユニット。次のレーンは、(標識されるように)ヒドロキシラジカルに曝された開始因子−30S複合体である。各オートラジオグラムの右にある棒は保護の領域を示す。(B)16SrRNAの二次構造上にマップされた遊離のヒドロキシルラジカルからの30Sサブユニットおける16SrRNAの1173−依存保護。示されたドットは、保護の程度の大きさを示す。
【図17】
図17は、IF3の表面上の異なる位置からの16SrRNAの指向されたヒドロキシラジカルプロービングを示す図である。(A)Bacillus stearothermophilusからのIF3のN−およびC−ドメインの結晶構造のリボンダイアグラムである(Biouら、1995)。球体は、Escherichia coli中の対応する残基に従って番号付けた、Fe(II)をつなぐために用いた操作されたシステイン残基のCα位置を示す。(B)プライマー伸長分析により検出されたFe(II)−IF3からの、30Sサブユニット中の16SrRNAの指向されたヒドロキシルラジカル切断。AおよびGは、配列決定レーンである。すべの他のレーンは、システインフリーのコントロール反応(−cys)を含む、示されたような、異なるIF3位置につながれたFe(II)でプローブされた30S−IF3複合体である。各オートラジオグラムの左のレーンは、16SrRNAの配列を示す。各パネルの右にある棒は、ヒドロキシルラジカルによる切断の領域を示す。(C)30Sサブユニットに結合したFe(II)−IF3からの16SrRNAの(陰影をつけたグレー、左から時計周りに)、中央、3’−メジャー、および3’−マイナードメイン中のヒドロキシラジカル切断の位置の要約。強い、中程度、または弱いとして割り当てた切断の強さは、黒丸のサイズに比例する。
【図18】
図18は、IF3上の異なる位置からの開始剤tRNAの指向されたヒドロキシルラジカルプロービングを示す図である。(A)Fe(II)IF3から生成されたヒドロキシラジカルによる切断を示す、5’−末端−標識されたtRNAMetfのオートラジオグラフ。レーンは、IF3へのFe(II)−BABEの付着部位に従って標識されている。切断は、ゲルの右側で棒によって示されている。
【図19】
図19は、30Sサブユニット上のIF3の位置決めを示す図である。(A)Thermus thermophilusからの30Sサブユニットの結晶構造のリボンダイアグラム上にマップされたIF3のヒドロキシルラジカルフットプリント。最も強い保護はマジェンタで着色され、そしてより弱い保護はより薄いピンクである。塩基特異的保護は、赤い球体として表される。(B)IF3のリボンダイウグラム(黄)は、30Sサブユニットフットプリント上にドッキングした。N−およびC−ドメインは、それぞれ、NおよびCと標識される。(C)指向されたヒドロキシルラジカルプロービングおよびヒドロキシルラジカルフットプリンティングにより決定したときの、30SサブユニットとのIF3の相互作用のモデル(黒リボン)。Fe(II)−IF3により切断されたヌクレオチドは、T.thermophilusリボソームの結晶構造からの30Sサブユニット中の16SrRNAのリボンダイアグラム上にマップされる(Yusupovら、2001)。リボソームタンパク質S7およびSIIは、緑に着色され、そして16SrRNA骨格は、Fe(II)誘導体化IF3により切断された場所を除き、白でトレースされる。プロービング位置97および135から切断されたヌクレオチドは、ブルー(強いヒット)およびより薄いブルー(より弱いヒット)であり、その一方、N−ドメインプローブから切断されたヌクレオチドは、赤(強いヒット)およびより薄い赤(弱いヒット)で着色される。位置104からの切断は、金の陰影をつけてある。対応するプロービング位置は球体として表され、そしてそれらの個々の切断標的に一致するように着色されている。
【図20】
図20は、開始tRNA、mRNA、およびIF1に対するIF3の位置の図である。(A)P部位に結合した開始剤tRNAをもつIF3−30Sモデル、および結晶構造により測定されたとき(Carterら、2001)のIF1の位置の図である。16SrRNAおよび小サブユニットタンパク質は、それぞれ、薄いグレーおよび濃いグレーで陰影をつけた。IF3は、CPK中に表され、そして赤に着色している。IF1は、ブルーの陰影を付けてある。開始tRNAは黄でトレースされ、そしてmRNAは紫に着色してある。(B)指向されたプロービング実験からの切断を示す、IF3およびP部位結合開始tRNAの拡大図。開始tRNAは、Fe−C135(緑)およびFe−C76およびFe−C80(ブルー)による切断を除き、黄に着色してある。対応するプロービング位置は、IF3(グレー)上に同様に着色してある。mRNAは、紫で表されている。
【図21】
図21は、IF3C−ドメインが、23SrRNAのヘリックス69の位置を占める図である。(A)16SrRNAのヘリックス23、24、および45(ブルー)との、23SrRNAのヘリックスrRNAのヘリックス69(黄)の相互作用の図である。23SrRNAと16SrRNAとの間の接触の部位を紫で着色してある。(B)IF3のCドメインの30Sサブユニット(赤)上の23SrRNAのヘリックス69(黄)と重複する結合部位を示す図。
(関連出願の相互参照)
本出願は、2000年12月9日に出願された米国仮出願60/254,603号、2001年3月22日に出願された米国仮出願60,278,013号、および2001年5月30日に出願された米国仮出願60/294,394号(これらの各々の全体にわたる開示は、全ての目的のために本明細書中でその全体が参考として援用されている)の優先権を主張する。
【0002】
(連邦政府によって助成された研究に関する陳述)
本発明は、National Institutes of Healthによって授与された、GM−17129およびGM−59140での政府の支持によりなされた。政府は、本発明において特定の権利を有する。
【0003】
(マイクロフィッシュ付属物に関する参照)
適用されず。
【0004】
(発明の分野)
本発明は、70Sリボソームの結晶に関し、そしてより詳細には、X線回折解析によって得られる70Sリボソームのモデル構造に関する。本発明はまた、70Sリボソームモデルの構造座標を使用して、70Sリボソーム上の部位に結合しそしてリボソームの機能を変える化合物をスクリーニングし、そして設計する方法に関する。
【0005】
(発明の背景)
RNAでコードされた遺伝メッセージのタンパク質のポリペプチド鎖への翻訳は、遺伝子型を表現型にリンクさせる。これは、リボソーム(作用の構造的コアおよび基本的な機構が、生命の全ての形態間で保存される古いリボ核タンパク質粒子)によって実施される(C.R.Woeseら、Microbiol.Rev.47,621(1983);W.E.Hillら編、The Ribosome:Structure,Function and Evolution(American Society for Microbiology,Washington DC,(1990)))。最も小さく、そして最も研究されている例は、細菌のリボソームであり、このリボソームは、約2.5MDの分子サイズを有し、そして小さな(30S)サブユニットおよび大きな(50S)サブユニットからなる。30Sサブユニットは、16S rRNA(約1500ヌクレオチド(nt))および約20個の異なるタンパク質から構成されるのに対して、大きなサブユニットは、23S rRNA(約2900nt)、5S rRNA(120nt)および30を越える異なるタンパク質を含む。この構造の複雑さの程度は、生物学的な役割の程度をふまえている。
【0006】
リボソームの基質は、tRNAであり、このtRNAは、一般に、3ヶ所の異なる部位:A、P、およびE(それぞれ、アミノアシル、ペプチジル、およびエグジット(exit))でリボソームに結合すると考えられる(Watson 1964;Rheinbergerら、1981)。各tRNA結合部位は、2つのリボソームサブユニットの間に分配され、tRNAとこのリボソームとの間で、6つ程度の異なる相互作用部位を生じる。tRNAのアンチコドン末端は、30Sサブユニットに結合し、この30Sサブユニットはまた、メッセンジャーRNA(mRNA)を保持し;3’−アクセプター、すなわちtRNAのCCA末端は、50Sサブユニットと相互作用し、この50Sサブユニットは、ペプチド結合形成に対する触媒部位(ペプチジルトランスフェラーゼ)(Monro 1967)を含む。従って、tRNAは、30Sサブユニットと50Sサブユニットとの間の界面にかかる。
【0007】
この翻訳伸長サイクルは、3つの基本的なプロセスに依存する:(i)アミノアシル−tRNAの選択、(ii)ペプチド結合形成、および(iii)リボソーム内の1つの部位から次の部位へのtRNAの転移。インビボにおいて、tRNAの選択および転移の工程は、グアノシントリホスフェート(GTP)−依存性反応において、それぞれ伸長因子ET−TuおよびEF−Gを含み、両工程は、インビトロの適切なイオン状態下で、因子依存性様式で、リボソームによって実施され得る(Pestka 1969;Gavrilovaら 1972)。従って、翻訳伸長サイクルの基礎工程のうちの全3工程は、リボソーム自体の特性、およびそのRNA成分に恐らく基づかなければならない(Greenら 1997)。リボソームがこれらの基礎プロセスを達成する分子機構は、その分子構造同様、多くが謎のままである。リボソーム構造の知識は、翻訳の複雑性についての直接の説明を与えないかもしれないが、より深い機構的洞察がリボソームの構造に依存することは、明らかである。
【0008】
リボソームタンパク質およびrRNAフラグメントの構造(x線結晶学および核磁気共鳴(NMR)分光法によって決定される)は、リボソームの個々の成分の原子分解の詳細を提供する(Ramakrishnanら 1998;Mooreら 1998;Nikonovら 1988;Szewcazkら 1995;Dallasら 1997;Correllら 1997)。近年、大きな進歩が、クライオエレクトロン顕微鏡法によって、完全なリボソームの構造、リボソームサブユニットおよびリボソームの機能的な複雑性を決定することにおいてなされた(Frankら 1995a;Starkら 1997a;Agrawalらの概説 1999a)。リボソームのx線結晶学の2つの主な進歩が、50Sサブユニットの結晶化(Yonathら 1980;von Bohlenら 1991)および9Åの分解能でのそれらの結晶構造の最近の決定であった(Banら 1998)。なおより最近になって、5.5Åの分解能でのT.thermophilus 30Sリボソームサブユニットの構造(Clemonsら 1999)および5Åの分解能でのHaloarcula marismortui 50Sリボソームサブユニットの構造(Banら 1999)を記載する2つの論文が、刊行された。rRNA成分およびリボソームタンパク質成分の多くの詳細が、サブユニット構造において、より明確に分解されるが、70Sリボソーム構造において見られるいくつかの特徴(例えば、50Sサブユニットにおけるタンパク質L1および30Sサブユニットのヘッドの一部)は、サブユニットマップにおいて存在しないようである。おそらく、70Sリボソーム結晶中に存在しない局所的無秩序に起因する。Haloarcula marismortui由来の50Sリボソームサブユニットの2.4Å構造(Banら 2000)は、T.thermophilus由来の30Sリボソームサブユニットの3Å構造(Wimberlyら 2000)であるとして、最近報告された。さらに、このサブユニットのこれらの原子分解構造においてでさえ、目に見えない構造のアスペクト(例えば、L11、Wimberlyら、2000を参照のこと)が、本出願人らが以下に記載する5.5Åの70S構造において、最初に目に見えた。さらに、30Sサブユニットの特定の構造(例えば、ヘッドおよびプラットホームの配向)は、単離したサブユニットと70Sリボソームとの間で異なる。
【0009】
Thermus thermophilus 70Sリボソームおよびリボソーム複合体の結晶化(Trakhanovら 1987;Trakhanovら 1989;Hansenら 1990;Yusupovaら 1991;Yusupovら 1991)は、異なる機能的状態で完全なリボソームの構造を解明するための可能性を提供した。より最近の研究において、本出願人らは、mRNAおよびtRNAまたはtRNAアナログを含む完全なT.thermophilus70Sリボソームの機能的な複合体の結晶化および7.8Åの分解能までのx線結晶学によるそれらの構造の分解を報告した(Cateら 1999)。rRNAの多くのスペクトル特性を同定し、そして多くの場合において、タンパク質構造の要素がまた認識可能であった。A、PおよびE部位における、tRNAとリボソームとの相互作用は、これまでに得られた最良の詳細さで見られ、翻訳の機構に新しい洞察を提供した。
【0010】
70Sリボソーム構造の構造決定におけるこれらの改善にも係わらず、分子相互作用(例えば、30Sサブユニットと50Sサブユニットとの間の界面における相互作用)の特定の詳細は、70Sリボソームの構造決定について、先行技術において明らかに解決されていない。70Sリボソームのこの構造特徴および他の構造特徴の詳細な知識は、リボソームの機能、ならびにこのリボソームの機能を変えるための新規化合物の合理的な設計に関する構造的な基礎に、より深い洞察を与える。従って、70Sリボソームのより高度な分解構造に対する必要性が存在する。本発明は、70Sリボソーム構造の分解を5.5Åまで広げることによって、これらの利点および他の利点を提供する。以下において記載される方法を使用して、5.5Å構造は、70Sリボソーム構造の高分解構造の詳細(70Sリボソームまたはそのサブユニットの構造決定に関して、先行分野で先に解決されなかった多くの特徴の決定を含む)を得るための基礎を提供する。
【0011】
(発明の簡単な要旨)
Thermus thermophilus 70Sリボソームの3次元構造が、5.5Åの分解能で経験的に決定された。5.5Å構造を使用して、観測された5.5Åの電子密度マップに対して、30Sリボソームサブユニット(Wimberlyら 2000)および50Sリボソームサブユニット(Banら 2000)の原子分解構造を適合することによって、先に決定されなかった70Sリボソームのアスペクトの、原子分解の詳細を得た。この構造分析の基礎に基づいて、構造的な考慮および機能的な考慮から、リボソームサブユニットの会合および機能に関して重要であると考えられる、構造の一部または特定のアミノ酸残基を同定することが、現在可能である。
【0012】
従って、第1の局面において、本発明は、70Sリボソームまたはそのサブユニットに結合する分子を同定する方法に関する。別の局面において、本発明の方法に従って同定された分子を試験して、この分子が70Sリボソームの機能を変えるかどうかを決定する。70Sリボソームまたはそのサブユニットに結合し、そしてタンパク質の合成(すなわち、翻訳)を中断させる薬剤は、抗菌性化合物としての有用性を有する。70Sリボソームまたはそのサブユニットに結合して、tRNA結合を変える薬剤は、種々のポリペプチドの生成のための薬剤としての有用性を有し、これらのいくつかは、変化した機能的特性を有する。
【0013】
本発明の方法は、特定の構造を有する分子の同定および/または設計を必要とする。この方法は、以下に記載される、70Sリボソームのx線結晶学の研究から誘導される正確な構造情報の使用に依存する。
【0014】
なお別の局面において、本発明は、コンピューター読み取り可能なメモリー内に含まれる70Sリボソームのモデル構造を含む。関連する局面において、本発明は、細菌の70Sリボソームの少なくとも一部を規定する、X線結晶構造座標を含む、メモリーを含むコンピューターシステムを含み、この構造座標は、少なくとも5.5Åの分解能までX線を回折する細菌性70Sリボソームの結晶から決定され、ユニットセルの寸法がa=b=507.2Å、c=803.7Åまでの、I422の空間群;およびメモリーを備える電気通信におけるプロセッサを有し;そしてこのプロセッサは、細菌性70Sリボソームの少なくとも一部の3次元形状表記を有する分子モデルを作製する。
【0015】
別の局面は、変更された機能的特性を有する、70Sリボソーム改変体またはサブユニット改変体に関する。1つの好ましい実施形態において、この改変体は、変更されたtRNA結合特性を有する。別の好ましい実施形態において、この改変体は、30Sサブユニットと50Sサブユニットとの間の結合親和性を変更する、1以上のRNAまたはポリペプチド配列の変化を有する、50Sサブユニットを含む。なお別の好ましい実施形態は、30Sサブユニットと50Sサブユニットとの間の結合親和性を変更する、1以上のRNAまたはポリペプチドの配列の変化を有する、30Sサブユニットを含む。特に好ましい実施形態において、この配列の変化は、30Sサブユニットと50Sサブユニットとの間の界面の構造を混乱させることによって結合親和性に影響を及ぼす。このような改変体のサブユニットは、構築された70Sリボソームとそれらの成分である30Sサブユニットおよび50Sサブユニットとの間の正常なな平衡を変更することによって、リボソームの機能のドミナントネガティブインヒビターとして作用する。別の好ましい実施形態としてまた、30S改変体または50S改変体をコードするポリヌクレオチドが含まれ、ここで、この改変体は、30Sサブユニットと50Sサブユニットとの間の結合親和性を変更する。
【0016】
本発明の別の局面は、細菌(真核生物ではない)リボソームに関して選択的な結合親和性を有する、ファルマコフォアおよび候補化合物の構造を決定する方法に関し、この方法は、原核生物のリボソームタンパク質またはリボソームRNAのうちの少なくとも1つと、真核生物のリボソームタンパク質またはリボソームRNAのうちのすくなくとも1つとの間の一次構造の系統学的可変領域を決定する工程;細菌性70Sリボソームの3次元構造内の上記系統学的可変領域を位置付ける工程;および上記3次元構造内の系統学的可変領域を含むファルマコフォア結合部位の3次元配置を表すファルマコフォアを提供する工程を包含する。
【0017】
別の局面において、本発明は、結合活性および/またはリボソーム機能に影響を及ぼす能力について、候補化合物を試験する方法を提供する。この方法は、70Sリボソーム構造を使用して、標的部位の形状および/または荷電分布を決定する工程;上記部位に結合するように設計されたファルマコフォアを規定するために、上記部位を特徴付けする工程;上記標的部位と相互作用するように設計された形状および/または荷電分布を有する候補化合物を得る工程または合成する工程、ならびに上記化合物の1つ以上と70Sリボソームを接触させる工程、を包含する。この局面において、本発明は、70Sリボソームの構造座標を使用して、70Sリボソームのインヒビターまたはアクチベーターを設計し、計算的に評価し、合成し、またはそうでなければ(例えば、化合物のライブラリーから)獲得し、そして使用することを含む。
【0018】
従って、本発明は、詳細を規定するために、70Sリボソーム結晶の構造座標の使用を含み、この詳細としては、70Sリボソームの領域の原子の詳細(例えば、サブユニットの界面)、メッセンジャーRNAの経路、tRNA結合部位、および開始因子または伸長因子についての結合部位(この部位は、タンパク質の翻訳のインヒビターまたはアクチベーターに対する標的部位である)を含む。
【0019】
付録Iでに示される構造座標は、数学的操作によって改変され得、これには、結晶学的置換、構造座標の分割または転化、構造座標のセットに対する整数の足し算または引き算、および上記の任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本発明の好ましい実施形態の詳細は、添付の図面および以下の説明に示される。本発明の詳細が、一旦公知になると、多種のさらなる革新および変化は、当業者にとって自明となる。科学刊行物、タンパク質構造ファイル(PDBおよび/またはMMDB識別子によって参照される)、特許、およびこの明細書中で引用される特許出願を含む全ての参考文献は、全ての目的のために、それらの全体が参考として明白に援用されている。
【0021】
本特許は、カラーで作成された少なくとも1枚の図面を含む。カラー図面を有する本特許のコピーは、必要な料金を要求および支払うことによって、特許・商標庁によって提供される。
【0022】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
本発明は、本明細書に開示される、Thermus thermophilus由来の70Sリボソームの5.5Å結晶構造の発見に基づく。
【0023】
(定義)
全ての科学用語は、代替の意味が以下に記載されていなければ、当業者に理解されるとおりの、その通常の意味を与えられるべきである。抵触する場合は、本明細書中に記載される定義に照らし合わせるべきである。
【0024】
本明細書中で使用される場合、用語「結合部位」または「結合ポケット」とは、特定の化合物が結合するかまたは相互作用する、タンパク質またはタンパク質/RNA複合体またはRNAの領域をいう。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語「界面」とは、1つ以上の分子の2つ以上のドメインが会合する点または表面をいう。
【0026】
本明細書で使用される場合、用語「翻訳可能RNA」とは、翻訳に必要な因子と共にインキュベートされた場合に、タンパク質の合成を誘導し得るRNAをいう。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語「減少する(decrease)」とは、少なくとも10%および好ましくは20%〜50%以上の減少をいう。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「抗菌(性)」または「抗生(の)」とは、当業者に公知の任意の手段により測定された、細菌の増殖の統計学的に有意な減少(reduction)を生じることにより、その細菌の増殖を阻害する、化合物の能力をいう。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「と会合する」または「と相互作用する」とは、ある化学実体、化合物、またはその部分と、別の化学実体、化合物またはその部分との間が近接している状態をいう。会合または相互作用は、非共有結合(ここで、水素結合またはvan der Waals相互作用もしくは静電相互作用により並置がエネルギー的に有利である)であっても、または共有結合であってもよい。
【0030】
本明細書中で使用される場合、用語「ファルマコフォア」とは、特定の生物学的標的構造との最適な超分子相互作用を確実にするため、および生物学的応答を誘発するかまたはブロックするために必要である、立体的特徴および電子的特徴の集合をいう。ファルマコフォアを使用して、そのファルマコフォアに存在する立体的特徴および電子的特徴の集合の全てまたは大部分を含み、そして部位に結合して生物学的応答を誘発するかまたはブロックすることが期待される、1種以上の候補化合物を設計し得る。
【0031】
本明細書中で使用される場合、用語「構造座標」とは、結晶からX線を回折させることにより得られるX線回折パターンに対して数学的方程式から導かれた数学的座標をいう。この回折データはその結晶を含む単位格子の電子密度マップを計算するために使用され;このマップは、単位格子内の原子の位置(すなわち、構造座標)を確立するために使用される。当業者は、X線結晶学により決定された一組の構造座標が、標準誤差を含むことを理解する。本発明の目的のために、付録Iの構造座標に重ね合わせた場合に、骨格原子の平方自乗平均偏差が0.75オングストローム未満である70Sリボソームについての構造座標の任意の組は、同一であるとみなされるべきである。
【0032】
句「翻訳の忠実度」とは、3ヌクレオチドコドンをそれによりコードされるアミノ酸に関連付ける遺伝コードに従って、mRNA分子によりコードされる配列が、アミノ酸配列に翻訳される正確さをいう。
【0033】
句「ある残基に対応する残基」とは、例えば、配列番号(SEQ ID NO)の付いた残基を参照することにより、明確に同定される残基、および関連するタンパク質または核酸において類似の位置を占める残基を含むことを意図する。関連するタンパク質または核酸とは、通常、参照タンパク質分子または参照核酸分子と同様の構造特性または機能的特性を有するが、参照タンパク質または核酸分子が由来する生物と異なる生物由来であるタンパク質または核酸をいう。いくつかの例では、文脈に基づいて明らかであるが、関連タンパク質または核酸は、参照タンパク質または核酸が由来する生物と同じ生物に由来するが、参照タンパク質または核酸分子と同様の構造的特徴または機能的特徴を有する改変体タンパク質分子または改変体核酸分子であり得る。
【0034】
構造類似性は、例えば、配列類似性から推測され得、この類似性は、配列の視覚的検査および比較により、または以下のような周知のアラインメントソフトウエアプログラムを使用して当業者により決定され得る:CLUSTAL(Wilbur,W.J.およびLipman,D.J.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,80,726−730(1983))またはCLUSTALW(Thompson,J.D.,Higgins,D.G.およびGibson,T.J.,CLUSTAL W:配列の重み付け(weighting)、位置特異的ギャップペナルティーおよび重みマトリクス選択によりプログレッシブマルチプルシーケンスアラインメントの感度を改善する、Nucleic Acids Research,22:4673−4680(1994))またはBLAST(登録商標)(Altschul SF,Gish Wら、J Mol.Biol.,Oct 5;215(3):403−10(1990))、照会がタンパク質とDNAのどちらであるかに関わらず利用可能な配列データベースの全てを調査するように設計された類似性検索プログラムのセット。CLUSTAL Wは、http://www.ebi.ac.uk/clustalw/において利用可能であり;BLASTは、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/において利用可能である。第1および第2のタンパク質配列または核酸配列が整列される場合に、2つの残基が同じ位置を占める場合、第1の配列内の1つの残基は、第2の配列内の1つの残基に対応する。表Iは、例示的な代表的アラインメントを提供し、これを使用して、異なる生物の関連タンパク質および核酸由来の残基間の対応を同定し得る。表Iに例示される配列アラインメントは、CLUSTALを使用して作製された。
【0035】
【表1】
(導入)
リボソームは、全ての生存細胞においてタンパク質合成を担う、偏在している超分子複合体である。これらは、50を超える異なるタンパク質に加えて、大量のリボソームRNA(rRNA)を含む。その他の細胞ポリメラーゼと異なり、その作用機構は、基本的にRNAに基づくようである(すなわち、リボザイムである)。従って、リボソーム内のrRNAおよびタンパク質の3次元構造の詳細な知識は、翻訳の分子的理解に必須である。
【0036】
従って、リボソームRNA(rRNA)の機能的能力についての構造的根拠を理解することは、複雑で生物学的に非常に重要な翻訳という作業のために、タンパク質の代わりに、これらの古代の小器官がRNAを使用する理由を説明するために必須である。細菌および原始生物の(archaeal)リボソームは、小さな(30S)のサブユニット(16SrRNAおよび約20のタンパク質を含有する)、および大きな(50S)サブユニット(23SrRNA、5SrRNAおよび30を超えるタンパク質を含有する)から構成される。完全な70Sリボソームは、30Sサブユニットを50Sサブユニットに分子間架橋ネットワークを介して結合することにより形成される。2つのサブユニット間に形成されるサブユニット間空隙は、転移RNA(tRNA)により占められ、mRNAコドンに対するtRNAのアンチコドン塩基対は、30Sサブユニットに存在し、一方それらの3’−CCA末端は、50Sサブユニットにおけるペプチド結合形成部位であるペプチジルトランスフェラーゼ中心に到達する。
【0037】
(70Sリボソームの結晶構造座標の使用)
T.thermophilusから決定した70Sリボソームの5.5オングストロームの構造は、ファルマコフォアおよび/または候補化合物(新規かまたは公知の化合物の修飾による)を理論的に設計するためのモデルとして使用され得る。結晶構造座標の使用により同定されるファルマコフォアおよび候補化合物は、細菌タンパク質合成速度を変更するために有用であるので、抗菌薬(抗生物質を含む)および防腐剤としての有用性を有する。ファルマコフォアおよび候補化合物は、当該分野で公知の任意の方法に従って決定され得、これらの方法としては、米国特許第5,888,738号(Hendry)に記載の方法および米国特許第5,856,116号(Wilsonら)に記載の方法(これら両方の開示は、あらゆる目的のためにその全体が参考として援用される)が挙げられる。
【0038】
本明細書中に提供される構造データを、コンピュータモデリング技術と共に使用して、結晶構造データの解析により選択される70Sリボソーム上の部位のモデルを開発し得る。この部位モデルは、部位表面の3次元トポグラフィー、およびvan der Waals接触、静電相互作用、および水素結合の機会を含む因子を特徴付ける。次いで、コンピュータシミュレーション技術を使用して、モデル部位と相互作用するように設計される官能基(プロトン、ヒドロキシル基、アミン基、二価カチオン、芳香族官能基および脂肪族官能基、アミド基、アルコール基などを含む)に関して相互作用位置をマッピングする。候補化合物がこの部位に特異的に結合することを期待して、これらの基をファルマコフォアまたは候補化合物に設計し得る。従って、ファルマコフォア設計は、候補化合物がファルマコフォア内に入って、利用可能な化学的相互作用の型(水素結合相互作用、van der Waals相互作用、静電相互作用、および共有結合相互作用を含むが、一般的に、かつ好ましくは、ファルマコフォアは、部位と非共有結合機構を介して相互作用する)のいずれかまたは全てを介して部位と相互作用する能力を考慮することを包含する。
【0039】
ファルマコフォアまたは候補化合物が70Sリボソームに結合する能力は、コンピュータモデリング技術を使用して実際の合成の前に解析され得る。コンピュータモデリングにより、十分な結合エネルギー(すなわち、10−2Mまたはそれ以上のオーダーの標的との解離定数に対応する結合エネルギー)で標的と結合することが示された候補のみを合成し得、そして当業者に公知の結合アッセイまたはリボソーム機能アッセイを使用して、それらの70Sリボソームに結合する能力およびリボソーム機能を阻害する能力について試験し得る。従って、コンピュータ評価工程により、適切な親和性で70Sリボソームに結合する見込みのない化合物の不必要な合成が回避される。
【0040】
70Sリボソームファルマコフォアまたは候補化合物は、コンピューターで評価され得、そして一連の工程により設計され得、この工程において、化学的実体およびフラグメントがスクリーニングされ、そして70Sリボソーム上の個々の結合標的部位と会合する能力について選択される。当業者は、いくつかの方法のうちの1つを使用して、70Sリボソームと会合する能力、より詳細には70Sリボソーム上の標的部位と会合する能力について、化学実体またはフラグメントをスクリーニングし得る。このプロセスは、付録Iに示される、70Sリボソームの座標、またはこれらの座標のサブセットに基づいて、例えば、コンピュータスクリーン上の標的部位の視覚的検査により開始され得る。次いで、選択されたフラグメントまたは化学実体は、結晶構造データの解析から規定されるとおりの70Sリボソームの標的部位内に、種々の配向で位置付けられ得るか、または「ドッキングされ(docked)」得る。Quanta(Molecular Simulations,Inc.,San Diego,CA)およびSybyl(Tripos,Inc.,St.Louis,MO)のようなソフトウエアを使用し、次いでCHARMM(Molecular Simulations,Inc.,San Diego,CA)およびAMBER(University of California at San Francisco)のような標準的な分子力学力場を用いる、エネルギー最小化および分子動力学を使用してドッキングを達成し得る。
【0041】
特殊化したコンピュータープログラムはまた、フラグメントまたは化学物質を選択するプロセスを補助し得る。これらとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:GRID(Goodford,P.J.,「A Computational Procedure for Determining Energetically Favorable Binding Sites on Biologically Important Macromolecules」、J.Med.Chem.,28,pp.849−857(1985));GRIDは、Oxford University(Oxford,UK)から入手可能である;MCSS(Miranker,A.およびM.Karplus,「Functionality Maps of Binding Sites:A Multiple Copy Simultaneous Search Method」、Proteins:Structure,Function and Genetics,11,pp.29−34(1991));MCSSは、Molecular Simulations,Inc.,(San Diego,CA)から入手可能である;AUTODOCK(Goodsell,D.S.およびA.J.Olsen,「Automated Docking of Substrates to Proteins by Simulated Annealing」、Proteins:Structure,Function,and Genetics,8,pp.195−202(1990));AUTODOCKは、Scripps Research Institute(La Jolla, CA)から入手可能である;DOCK(Kunts,I.D.,et al.「A Geometric Approach to Macromolecule−Ligand Interactions,「J.Mol.Biol.,161,pp.269−288(1982));DOCKは、University of California(San Francisco,CA)から入手可能である;CERIUS II(Molecular Simulations,Inc.,(San Diego,CA)から入手可能である);ならびにFlexx(Raret,et al.J.Mol.Biol.261,pp.470−489(1996))。
【0042】
適切な化学物質またはフラグメントを選択後、これらは単一の化合物に集められ得る。集合は、コンピュータースクリーンに提示される70Sリボソーム構造またはその部分に対して、フラグメントの三次元画像上で、フラグメントの互いの関係を目視検査することによって進められ得る。目視検査の後に、ソフトフェア(例えば、上記のQuantaプログラムまたはSybylプログラム)を用いてマニュアルモデルを構築し得る。
【0043】
ソフトフェアプログラムはまた、個々の化学物質またはフラグメントを接続する際に、当業者を補助するために使用され得る。これらとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:CAVEAT(Bartlett,P.A.,et al.「CAVEAT:A Program to Facilitate the Structure−Derived Design of Biologically Active Molecules」「Molecular Recognition in Chemical and Biological Problems」、Special Publ,Royal Chem.Soc.,78,pp.182−196(1989));CAVEATは、University of California(Berkeley,CA)から入手可能である;3D Database systems(例えば、MACCS−3D(MDL Information Systems,(San Leandro,CA)));この領域はMartin,Y.C.,「3D Database Searching in Drug Design」、J.Med.Chem.,35:2145−2154(1992))において総覧される;およびHOOK(Molecular Simulations Inc.,(San Diego,CA)から入手可能である)。
【0044】
個々のフラグメントまたは化学物質から候補ファルマコフォア(pharmacophore)または候補化合物を構築する代わりに、これらは、70S標的部位の構造(必要に応じて、標的部位に結合する補因子あるいは既知のアクチベーターまたはインヒビターからの情報を含む)を用いて初めから(de novo)で設計され得る。デノボ(De novo)設計は、以下を含むが、これらに限定されないプログラムに含まれ得る:LUDI(Bohm,H.J.,「The Computer Program LUDI:A New Method for the De Novo Design of Enzyme Inhibitors,J.Comp.Aid.Molec.Design,6,pp.61−78(1992));LUDIは、Molecular Simulations,Inc.,(San Diego,CA)から入手可能である;LEGEND(Nishibata,Y.,およびItai,A.,Tetrahedron 47,p.8985(1991);LEGENDは、Molecular Simulations,(San Diego,CA)から入手可能である;ならびにLeapFrog(Tripos Associates,(St Louis,MO)から入手可能である)。
【0045】
公知のリボソームリガンドの機能効果はまた、本明細書に記載される分子モデリグおよび設計技術の使用によって変更され得る。これは、細菌の70Sリボソームモデル構造に対して既知のリボソームリガンドの構造をドッキングすること、そして70Sリボソームとの結合相互作用を最適化するために、リガンドの形状および電荷の分布を改変することによって実行され得る。この改変された構造は、合成しても化合物のライブラリーから獲得してもよく、そしてその結合親和性および/またはリボソーム機能に対する効果について試験され得る。もちろん、70Sリボソームまたはリボソームのサブユニットとリガンドとの間の複合体の結晶構造が既知の場合、この複合体と本発明の70Sリボソーム構造との間の比較は、リガンド結合の際に生じる、リボソーム構造の変更についての更なる情報を得るために実行され得る。この情報は、最適化リガンドの設計に使用され得る。リボソーム機能を妨害する抗生物質は、特に、ドッキング、共結晶化および本発明の最適化用途に十分に適する。抗生物質のこれらの型の列挙は、SpahnおよびPrescott,J.Mol.Med.,74:423−439(1996)において見い出され得、これは、その全体が全て目的のために参考として援用される。
【0046】
さらなる分子モデリング技術がまた、本発明に従って使用され得る。例えば、Cohen,N.C.,et al.「Molecular Modeling Software and Methods for Medicinal Chemistry」、J.Med.Chem.,33,pp.883−894(1990);Navia,M.A.およびMurcko,M.A.,「The Use of Structural Information in Drug Design」、Curr.Opin.Biotechnol.8,pp.696−700(1997);ならびにAfshar,et al.「Structure−Based and Combinatorial Search for New RNA−Binding Drugs」、Curr.Opin.Biotechnol.10,pp.59−63(1999)を参照のこと。
【0047】
上記の方法または当業者に公知の他の方法のいずれかに従うファルマコフォアおよび候補化合物の設計、または選択に従って、70Sリボソームに結合する、ファルマコフォアの定義内に入る候補化合物の有効性は、計算評価を用いて試験および最適化され得る。候補化合物は最適化され得、その結果、例えば、その結合状態において、好ましくは、標的部位との反発静電相互作用がない。これらの反発静電相互作用としては、反発する電荷−電荷相互作用、双極子−双極子相互作用および電荷−双極子相互作用が挙げられる。候補化合物が70Sリボソームに結合された場合、候補化合物と70Sリボソームとの間の静電相互作用の全合計は、結合エンタルピーに対して中性または有利な寄与を生じることが望ましい。
【0048】
特定のコンピューターソフトフェアは、化合物の変形エネルギーおよび静電相互作用を評価するために、当該分野で利用され得る。このような使用のために設計されたプログラムの例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:Gaussian 92,revision C(Frisch,M.J.,Gaussian,Inc.,Pittsburgh,PA (1992));AMBER,version 4.0(Kollman,P.A.,University of California at San Francisco,(1994));QUANTA/CHARMM(Molecular Simulations,Inc.,San Diego,CA.(1994));およびInsight Il/Discover(Biosym Technologies Inc.,San Diego,CA(1994))。これらのプログラムは、例えば、Silicon Graphicsワークステーション,Indigo,02−R10000またはIBM RISC/6000ワークステーションモデル550を用いて実行され得る。上記の機能を実行するために、他のハードウェアおよびソフトウェアの組合せが使用され得、そしてこれは当業者に公知である。
【0049】
一旦、ファルマコフォアまたは候補化合物が、上記のように、至適に選択または設計されると、置換は、その結合特性を改良するかまたは改変するために、その原子または側鎖の一部においてなされ得る。一般に、その置換基において保存的な最初の置換は、元の基とほぼ同じサイズ、形状、疎水性および電荷を有する。コンホメーションを変更するが当該分野で公知の要素は、置換する際に避けられる。置換された候補物は、上記と同様の方法を用いて、70Sリボソームへの適応の有効性について分析され得る。
【0050】
一旦、候補化合物が、上記の方法のいずれかを用いて同定されると、これは生物学的活性についてスクリーニングされ得る。当業者に公知の多くのリボソーム機能アッセイのうちの任意の1つが、使用され得る。これらとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:細菌増殖の阻害、メッセンジャーRNAをテンプレートとして用いるインビトロタンパク質合成の阻害、テンプレートとしてポリUを用いるインビトロタンパク質合成の伸長段階の阻害、EF−Gによって媒介されるGTP加水分解の阻害;EF−Gにより媒介されるGTP加水分解の活性化。
【0051】
70Sリボソームとの候補化合物の相互作用はまた、当業者に公知であるようなフィルター結合アッセイを含む直接結合アッセイを用いて評価され得る。結合アッセイは、公知のリボソーム結合化合物(例えば、抗生物質)の結合を競合的に阻害する候補化合物を評価するために改変され得る。これらおよび他のアッセイは、国際公報WO 00/69391に記載されており、その全体の開示が全て目的のために参考として援用される。
【0052】
(スクリーニングのための化合物ライブラリ)
本発明の方法に従って同定されたインヒビターおよび/またはアクチベーターは、多くの供給源から入手可能な化合物のライブラリから提供され得るか、または当該分野で公知のコンビナトリアルケミストリーアプローチによって誘導され得る。このようなライブラリには、以下が含まれるが、これらに限定されない:入手可能なChemical Director、Maybridgeおよび天然産物の収集物。本発明の1つの実施形態において、既知または推測された構造を有する化合物のライブラリは、本発明の70Sリボソーム構造にドッキングされ得る。
【0053】
以下の実施例は、本発明がより十分に理解され得るように記載される。これらの実施例は、説明の目的のみであり、いかなる様式においても、本発明を限定するように解釈されるべきではない。
【0054】
(実施例1−70Sリボソームの結晶化および構造解析)
70Sリボソームの機能的複合体の三次元構造を、X線結晶学を用いて5.5オングストローム分解能で決定した。結晶を、実質的にCate et al.,1999により記載されるように調製した。結晶調製ならびに電子密度マップの計算およびマップのフィッティングを、以下のように進めた。
【0055】
P部位およびE部位に結合された合成mRNAアナログとtRNAMet fとの複合体における、Thermus thermophilus 70Sリボソームの結晶を、(Cate et al.1999)に記載されるように成長させた。リボソームは、Gogia,Z,Yusupov,M,et.al.,Mol.Biol.(USSR)20,519(1986)に記載されるようにThermus thermophilus HB8溶解物から調製した。改変されたShine−Dalgarno配列を有する36−ntファージT4遺伝子32のmRNAフラグメント(配列番号50)および他の2つの改変体mRNA(配列番号51および52)を、化学的に合成した(Dharmagon)。tRNAf MetおよびtRNALysをE.coli(Subriden)から単離した。tRNAPhe(19ヌクレオチド、ASLPhe)のアンチコドンの幹ループ(ASL)を、t7ポリメラーゼを用いるインビトロ転写により合成した。RNAを変性ゲルで精製し、溶出し、そして使用する前にエタノールで沈殿させた。P部位リボソーム複合体を形成するために、短縮遺伝子32mRNAおよびASLPheまたはtRNAf Metを、20mM MgCl2、100mM KCl、および20mM tric HCl(pH7.4)を含有する溶液中で、リボソーム結晶化の前に37℃で30分間、インキュベートした(Yusupov,M.M.,et al.,Dokl.Akad.Nauk.(USSR)292,1271(1987);Yusupova,G.Zh,およびYusupov,M.M.,et al.,未発表データ。全てのリガンドは、結晶化の前に、複合体を形成するために、リボソームの濃度より化学量論的に1.1〜1.5倍過剰に存在する。Thermus thermophilus 70Sリボソーム複合体の結晶を、懸滴および凝結滴における蒸気拡散法によって成長させた。結晶は、0.5mm×0.5mm×0.25の最大寸法に成長した。重原子誘導体を、1〜5日間、重原子化合物を含む溶液中に結晶を浸漬することによって調製した。P部位にASLおよびA部位にtRNAを有するリボソーム複合体を得るために、P部位複合体(リボソーム−mRNA−ASLPhe)の結晶を、室温で48時間にわたって、tRNALys(2μM、Sigma)を含有する溶液に浸漬した。P部位においてtRNAMetを有する結晶は、P部位においてASLを有する結晶と比較して、高分解能で回析した。予想したように、異なる結晶から得られたX線回析の質において、変化があった。5.0オングストローム分解能の回析データは、データ収集の間の、結晶への放射線損傷を最小化する凍結結晶技術を用いて、tRNAf MetP部位結晶から得ることができた。回析データのシグナル対ノイズ特性は、空気からのバックグラウンド散乱を最小化するために、ビームストップを結晶の近くに動かすことによって最適化した。
【0056】
a=b=507.2Åおよびc=803.7Åの格子寸法を有する空間群I422の結晶を成長させた。データは5Åの分解能で収集した。構造因子の振幅をAdvanced Light Source(ALS)で測定した(実質的には、(Cate et al.1999)に記載される)。電子顕微鏡から導かれたモデルから得られた分子置換を用いて位相決定を開始し、25オングストロームまでの位相を与えた。これらの位相を、重金属クラスターを用いて12オングストロームに拡張させた。P部位におけるアンチコドン幹ループtRNAアナログ(「ASL])(Cate et al.1999)を含む結晶から実験的に決定した構造因子位相を、P部位においてtRNAMet fを含む結晶から測定した回析データの構造因子位相決定のための開始位置として使用した。イリジウムヘキサミンを用いる、さらなるMAD位相決定を、7.5オングストロームに対するデータについての位相を得るために実行し、そして溶媒フリッピングを用いる位相拡張は、現行の5.5オングストロームの電子密度マップを生じた。5.5Åへの位相拡張を、CNSにおいて密度改変および溶媒フリッピングによって実行した(Brunger et al.1998)。位相の質を、結合したP tRNAの電子密度によって確認し、ここで、既知の構造の内部標準を提供した(図1)。A部位に結合したtRNAを含むか、または含まない結晶化した70S複合体を使用して、7Åのフーリエの偏差マップを得て、A部位tRNAの位置を提供した。表IIは、結晶学的統計およびスケーリングをまとめる。
【0057】
(表II.結晶学的統計およびスケーリング)
【0058】
【表2】
ここで、FPHおよびFPは、それぞれ、ASL含有リボソーム結晶およびP部位tRNA含有リボソーム結晶からの構造因子振幅である。
‡χ2、分析、20〜7.5Åは、Scalepack(Otwinoski 1993)から選んだ。
**平均確実度、または位相誤差の平均コサインは、ASL含有結晶から測定された実験的位相から計算した(Cate et al.1999)。
#以前に報告されたMAD位相決定実験(Cate et al.1999)から選んだデータセット。
【0059】
5.5Åで、RNA骨格は、高い信頼で追跡され得、既知の構造のタンパク質は、電子密度に容易にフィッティングされ得る。三次元モデルレンダリングを、RIBBONS(M.Carson,Methods Enzymol.277B,493−505(1997))、RIBBONSおよびO(Jones,T.A.,Zou,J.Y.,et al.,ACTA Crystallogr.A 47,110(1991))を用いる電子密度マップならびにXRNAを用いる二次構造ダイアグラムを使用して作製した。電子密度マップの最終的な解説は、高分解能のサブユニット構造の有効性によって非常に容易になったとはいえ(Ban et al.2000;Schluenzen et al.2000;Wimberly et al.2000)、本発明者らのマップの質は、生物学的および系統発生的な制約によって誘導されるが、高分解能構造情報から独立して、16S rRNA鎖(全体rmsd=5.7Å)の妥当な初期適合(fit)を可能にするのに十分であった。
【0060】
30Sリボゾームサブユニットの3Å構造は、以下の方法に従って本発明者らが作成した70S 5.5Å分解能マップ上にドッキングされる(docked)。本発明者らの5.5Å分解能構造から分かるリン酸の位置を用いて、Wimberlyら(2000)により決定された30S構造内に含まれる16S rRNAのリン酸をアライメントする。これは、最初に目視によりフィットを用い、これを、引き続いて、通常の最小二乗法フィッティング(fitting)アルゴリズムを用いてリファインした。このようなドッキング(docking)およびフィッティングは、SGI O2またはOctane型の機器で実行する、MIDAS(University of California,San Francisco department of Biochemistry and Molecular Biophysics)を使用して実行され得る。
【0061】
ドッキングのリファインメント(refinement)を、初期アライメントを得るために、剛体として30S構造を用いることにより実行した。このことは、30S構造を逐次的により小さな成分へと分解することの連続反復に従い、最終的には、偽原子(pseudoatom)として16S rRNA中の各リン酸を用いて、30Sサブユニットの高分解能構造と本発明者らの5.5Å70S構造との間の最も正確なフィットを得る。
【0062】
Wimberlyの30S構造座標は、PDB(PDB id 1FJFおよび1FJG;MMDB id 14321および14322)から得た。この30S構造は、T.thermophilusから決定されたので、本発明者らの5.5Åに対する高分解能30S構造についての初期フィットは、定性的に良好であった。16S rRNAの骨格を本発明者らの電子密度マップにフィッティングした後、30Sサブユニットの高分解能構造が現れた(Wimberyら、2000;Schluenzenら、2000)。本発明者らのモデルは、Schluenzenらの構造よりも、Wimberlyらの構造とより密接に一致した(全体のr.m.s.d.=6.9Å)。
【0063】
小サブユニットタンパク質は、初めに、剛体として、T.thermophilus 30Sサブユニット構造由来の別個のタンパク質についての座標を用いて、ドッキングされた(Wimberlyら、2000)。T.thermophilus大サブユニットタンパク質の殆どの構造は、未知であり;従って、最も関連した生物由来のタンパク質の構造を、任意の余分な残基を削除した後、モデリングした。
【0064】
Haloarcula marismortui 50Sサブユニット構造(23S rRNAおよび5S rRNAを含む)(Banら、2000)が利用できることによって、細菌構造と古細菌構造との間で保存される領域における本発明者らの電子密度の50Sサブユニット部分のフィッティングが容易になり;古細菌構造の大フラグメントの初期剛体ドッキングの後に、本発明者らのマップに対するより小さなフラグメントおよび個別のリン酸の詳細なフィッティングを行った。ドッキングに用いられる代表的な構造としては、PDB id 1FFZ;MMDB id 14060(ピューロマイシンを伴う)、PDB id 1FG0;MMDB id 14061(13bpミニへリックスピューロマイシン化合物を伴う)、およびPBD id FFK;MMDB id 14164(50S単独)が挙げられる。
【0065】
高分解能50Sサブユニット構造と本発明者らの70Sモデル構造の50S部分との間の更なるリファインメント(以下に記載されるのと同じ方法に従って実行される)が、必要とされた。なぜならば、30Sサブユニットを含まないで結晶化される場合、50Sサブユニットの間に高次構造の差異が存在するからであるが、このことは、Haloarcula marismortui由来の23S rRNAの構造と、Thermus thermophilus由来の23S rRNAの構造との間の系統発生的差異にもまた起因している。一次構造および二次構造の保存された領域が、一般的に観察され、50S構造と70S構造との間で十分にフィッティングが行われた。明らかな差異(特に、これらの2つの構造の系統発生的に異なった領域において生じる差異)を有する領域において、Haloarcula構造を、70S T.thermophilus構造に対してモデリングした。異なるリボゾーム構造の間の系統発生的差異を有する領域は、周知であり、そして、例えば、www.RNA.icmb.utexas.eduにある、Robin Gutellにより維持されているウェブサイトに、収集されている。
【0066】
Banら(2000)により決定された50S構造におけるいくつかの領域は、視覚化できないほど十分に不規則であったが、70S 5.5Åマップにおいて可視化し得た。50Sサブユニット内に含まれるrRNAの公知の二次構造面は、5.5Å電子密度マップに容易にフィットした。5S一次構造は、HaloarculaとT.thermophilusとの間で60%保存され、それ故、この領域は、容易にフィットした。5S構造の残りの40%を、E.coliから解析した5Sのフラグメント(PDB id 354D;MMDB id 6741)に対してモデリングし、そしてこれを用いて、ループE領域(HaloarculaとT.thermophilusとの間の最も有意な差異を含む)をモデリングした。
【0067】
70Sリボゾームの5.5Åモデルについての原子座標は、付録Iとして本明細書中に添付されるPDBファイルに含まれる。この構成は、以下と同定される:ファイルAは、30Sリボゾームサブユニット、ならびに関連するtRNA分子およびmRNA分子についての原子座標を含み;ファイルBは、50Sサブユニットについての座標を含み;ファイルCは、70SサブユニットにドッキングしたIF3 C末端ドメインについての座標を含み;ファイルDは、70SサブユニットにドッキングしたIF3 N末端ドメインについての座標を含み;ファイルEは、Mk27(30Sサブユニットにおいてモデリングした27ヌクレオチドの合成mRNA)についての座標を含み;ファイルFは、Mv36(30Sサブユニットにおける36ヌクレオチドの合成mRNA)についての座標を含み;そしてファイルGは、Mf36(30Sサブユニットにおける36ヌクレオチドの合成mRNA)についての座標を含む。これらの座標は、RCSBに登録されており、ファイルのデータベースIDは、表VI(付録Iを参照のこと)に示される。登録された座標は、例えば、www.ncbi.nlm.nih.govでアクセスし得る。
【0068】
(70sリボゾームの全体構造)
図2Aは、30Sサブユニットの溶媒面からの「標準的図」で70Sリボゾームの構造を示し、そのヘッド(H)特徴、ボディ(B)特徴、プラットホーム(P)特徴およびネック(N)特徴、およびそれらの対応する16S rRNA(シアン)成分およびタンパク質(青)成分を示す。右下の突き出た部分は、30Sサブユニットの「スパー(spur)」であり、16S rRNAのへリックス6により形成され、これは、結晶を、最近報告された30Sサブユニット構造(Carterら、2000)における別のサブユニットのP部位と接触させる。この図において、ヘッドにおけるタンパク質S2、S3、S9、S10およびS14の位置;プラットホームにおけるタンパク質S6、S11およびS18の位置;およびボディにおけるタンパク質S4、S5、S8およびS16の位置が見られる。バックグラウンドにおいて、50Sサブユニットの一部は、その23S rRNA(グレイ)、5S rRNA(頂部;青)および50Sサブユニットタンパク質(マゼンタ)を有する、「クラウン(crown)」図(view)で見える。タンパク質L9は、左に見られ得、50Sサブユニットそのものの面を50Åよりも超えて延びている。左上で、L1およびその23S rRNA結合部位は、30Sサブユニットのプロフィールの外側に突き出ており、そしてタンパク質L11およびそのRNAならびにL7ダイマーの1つは、右上のストーク(stalk)を構成する。
【0069】
右手側(図2B)から、A部位tRNAのアンチコドン末端(金)は、サブユニット界面キャビティ(interface cavity)の末端の近くに見られ、これは、伸長因子のEF−TuおよびEF−Gがリボゾームと相互作用する漏斗型の開口を通して見られる。伸長因子のGドメインと相互作用するリボゾーム構造の1つは、23S rRNAのサルシン−リシン(sarcin−ricin)ループ(SRL)であり、これは、A−tRNAとタンパク質L14との間に見られる。タンパク質S9、S12、S13、S19、S20、L3,L5、L6、L7、L11、L13、L14、L19、L22、L25およびL30、ならびにタンパク質L21およびL32の位置(その構造は未知である)、および電子密度標識LU、LV、およびLXの位置(本発明者らは、まだ未同定の大サブユニットリボゾームタンパク質(これは3つの割り当てられていない既知のタンパク質L31、L35およびL36を含み得る)として割り当てる)もまた右手図で明白である。5S rRNA(5S)は、2つのその結合タンパク質(L5およびL25)と一緒に、50Sサブユニットの頂部で見られる。
【0070】
50Sサブユニットの後からの図(図2C)は、さらなる50Sサブユニットのタンパク質L4、L15、L16、L21、L24、L27、L28、L29、L32、L33、L34の位置、第3の5S rRNA結合タンパク質L18の位置、および未同定のタンパク質LWおよびLYの位置を示す。ポリペプチド出口チャネル(EC)の開口は、50Sサブユニットの裏面の底部にあり、これは、23S rRNAのドメインIおよびIIIの要素に加えて、タンパク質L22、L24およびL29により囲まれている。
【0071】
左手図(図2D)において、界面での2つのサブユニットの緊密な接近は、さらにより明確である。30Sサブユニットのプラットホーム(タンパク質S11、S6およびS15のまわり)は、タンパク質L2付近の50Sサブユニットに、RNA−RNA相互作用およびRNA−タンパク質相互作用(タンパク質S15およびL2が関与する)を主に通して接触する。E部位tRNA(赤)は、界面のキャビティの側面(L1およびそのRNA結合部位による図から部分的に遮蔽される)の近くで見られ得、これは、リボゾームからのその出口のための経路をブロックするようである。平面図(図2E)において、界面キャビティにおける3つのtRNAの全て(A、金;P、オレンジ;E、赤)の配向は、より明確に見られ得る。23S rRNAにおけるA−部位フィンガー(ASF)と30SサブユニットのヘッドにおけるS13(ブリッジB1a)との間の接触は、明白であり、タンパク質L5とS13との間の緊密な接近(ブリッジB1b)のように、これらの電子密度は、融合して、単一のタンパク質−タンパク質サブユニット間ブリッジを形成する(以下を参照のこと)。
【0072】
界面から見ると(図2F、2G)、より少ないタンパク質が、30Sサブユニットおよび50Sサブユニット上に見られ、そしてこれらは、周縁部に主に位置付けられ、リボゾームRNAの表面を露出したままにする。これらの3つのtRNAは、30Sサブユニット上で、ヘッドと、ボディと、プラットホームとの間のRNAリッチグルーブにおいて結合した、これらのアンチコドン末端と並置される。残りの3つのtRNAの全て(これらのDステム(stem)、エルボー(elbow)およびアクセプターアーム(acceptor arm)を含む)は、50Sサブユニットと相互作用する。AおよびPのtRNAのアクセプターアームは、ペプチジルトランスフェラーゼキャビティへと下向きに示すが、E−tRNAアクセプターアームは、L1リッジ(ridge)の次の別々のクレフト(cleft)へと向けられる。このtRNA結合部位に隣接するものは、界面接触表面のように、rRNAにより支配される。
【0073】
(rRNAの二次構造および三次構造)
リボゾームRNAの構造は、20年を超える本発明者らの調査の目的である。これらの二次構造(図3A、3B)は、初めに、配列比較分析によって確立され(Woeseら、1980;Nollerら、1981a)、ここで、分子内塩基対合は、対合した塩基の系統発生的共変動の存在により実証され、現在、8000を越える異なる生物およびオルガネラ由来の16S様rRNA配列、および1000を超える23S様rRNA配列(http://www.rna.icmb.utexas.edu/)により支持されている。60を超える系統発生的に予測された16S rRNAのへリックス要素が、この構造内に見られる。16S rRNAの個別のへリックス要素は、tRNAの構造において初めに観察されたように、隣接するへリックスと同軸状にスタックし、合計20のより長い、外見上連続したへリックスアームを形成する。
【0074】
16S rRNAの二次構造は、4つの認識可能なドメイン(5’ドメイン、中央ドメイン、3’メジャードメインおよび3’マイナードメインと呼ばれる)に分類される(図3A;Woeseら、1980;Gutell、1994)。16S rRNAの三次元折り畳み(フォールド)の一般的な意味は、化学フットプリンティング(Nollerら、1990)およびクロスリンキング(Muellerら、1995)、ならびに免疫電子顕微鏡(Stoffer−Meileckeら)のような生物物理学的アプローチ、および中性子散乱法(Capelら、1987)に基いて、初期のモデリング研究から生じた(Stern 1988a;Brimacombeら、1988)。異なる研究機関により推論されたモデル間で、詳細には、差異が存在したが、5’ドメインが、30Sサブユニットのボディ、プラットホームの中央ドメイン、およびこの粒子のヘッドの3’メジャードメインに位置付けられるという、一般的な意見の一致があった(Nollerら、1981a)。単離されたリボゾームサブユニットの構造(Wimberlyら、2000;Schluenzenら、2000)において観察されるように、16S rRNAの二次構造ドメイン(図3A)は、ほぼ構造的自主性がある三次元ドメインに実際に対応する(図3C)。5’ドメインは、ボディ、プラットホームの中央ドメイン(長い同軸性の620ステムによりボディの溶媒面に係留される)、3’メジャードメイン(サブユニットのヘッドおよびネック)、3’−マイナードメイン(最後から2番目のステムおよび隣接する3’−末端へリックス)を構成する。この構成は、即座に、これらのドメインが、タンパク質合成の間に互いに対して移動するように設計されていることを示唆する。特に、ヘッドと残りのサブユニットとの間の非常に最小限の相互作用は、転座の間のヘッドの提唱される移動と一致する(Serdyukら、1992;Frankら、2000)。これらの4つのドメインは、mRNAとtRNAとのその機能的相互作用の部位の次の、サブユニットの幾何学的中心付近を覆い、このことは、さらに、ドメイン間の移動と生物学的機能の連関を示唆する。
【0075】
23S rRNAの配列比較分析(Nollerら、1981b;Gutellら、1993)から予想された、130を超える個別のへリックスが、そのX線結晶構造において見られ、これらは40の同軸アームを形成する。E.coli二次構造(http://www.rna.icmb.utexas.edu/)に対して、23S rRNAの位置650の周りに挿入された予想されたThermus特異的へリックスについて、電子密度は見られなかった。23S rRNAおよび5S rRNAは、共に、7つの二次構造ドメインを形成する(図3B)。30Sサブユニットの設計と対照的に、23S rRNAのドメインは、H.marismortuiの50Sサブユニットについて初めに述べられたように(Banら、2000)、お互いに広範に絡み合い、50Sサブユニットのボディを形成する、単一の大きな半球状のドメインを作成する(図3D)。ボディを突出する多数の分子ストークから、ドメインII、ドメインIV、ドメインV、ドメインVI由来のRNA要素が構成され、これらのいくつかは、伸長した同軸へリックスアームであり、そして、その他のものは、へリックスステムによりサブユニットのボディに繋がれたマッシュルーム様球状RNAドメインである。このストークのいくつかは、30Sサブユニットとのブリッジを形成し、一方、他のものは、tRNAおよび伸長因子と相互作用する;ストークは、50Sサブユニットの動的要素であるようである。これらは、以下で議論するように、種々の機能的相互作用と関連する運動を受ける。
【0076】
(70Sリボソームと単離されたサブユニットのコンホメーション間の差異)
70Sリボソームにおける16S rRNAのコンホメーションとWimberlyら(Wimberlyら、2000)によって報告された30Sサブユニット構造のコンホメーションとの比較は、rmsd差異の不均一性分布を示す(図4A、B)。リン原子の位置の平方自乗平均偏差を、以下のように、それぞれ、16S rRNAおよび23S rRNAの最小二乗近似を行った後に算出した。最初に、距離マトリクスを、各RNAの座標セットについて、独立して算出した。次いで、分子内距離の値が2つの比較分子の間でわずかに変動する214個の原子のセットを使用して、プログラムMIDAS(T.E.Ferrin,C.C.Huang,L.E.Jarvis,R.Langridge,J.Mol.Graphics 6,13〜27(1988))を使用する最小自乗フィットによって全体の分子をスーパーインポーズした。最も高いrmsd値(>10Å)が、ボディーの左下のスパー(spur)領域(SP)について観察され;この差異は、結晶の接触によって説明され得る。ここで、スパーヘリックスは、Wimberlyらの構造において対称な関連サブユニットのP位に結合する。他の主要なコンホメーション差異(3.5Åと10Åとの間のrmsd)は、わずかな領域に局在化され、これらの領域としては、最後から二番目のステム(PS)、プラットホームの頂部およびサブユニットのヘッドが挙げられる。これら全ての特徴は、以下のように、50Sサブユニットと相互作用し、このことにより、観察された差異が、サブユニットの会合の際に生じるコンホメーションの変化を含み得ることを示唆する。
【0077】
T.thermophilus 70SリボソームおよびH.marismortui 50Sサブユニット(Banら、2000)における23S rRNAのコンホメーション間の差異が、図4Cおよび図4Dにまとめられている。50S構造(黄色)において不規則化された(disordered)23S rRNAの特徴は、いくつかの突出したストークエレメントを含み、これらのエレメントとしては、L1 RNAおよびL11 RNA、A部位フィンガーおよび1915ステム−ループが挙げられる。これらのエレメントは、30Sサブユニットとの相互作用および70Sリボソーム複合体におけるtRNAとの相互作用によっておそらく安定化される。Thermusリボソームの本来の熱安定性は、低い程度の不規則性に寄与する。
【0078】
Haloarcula 50Sサブユニットの多数のさらなるコンホメーション差異が、見出される(図4C、D)。いくつかの差異は、細菌RNAおよび古細菌(archaeal)RNAの対応する領域間の予測される系統学的構造変化によって説明される。RNAヘリックスおよび細菌構造に特有の他の特徴(図4C、D;シアン)、逆に、古細菌構造(白色)において固有に存在するものの例が存在する。これらの系統学的に変化する特徴は、サブユニットの底面および後面に位置づけられ、サブユニット界面および機能部位から離れている。
【0079】
(ドメインIIIのタンパク質L9および先端ステム)
主要なコンホメーション差異が、23S rRNAのドメインIIIの先端ステム領域において見出され、この領域は、細菌RNAの1495位(図4C)および番号付けした古細菌の1597位に中心がある。Thermusリボソームにおいて、このヘリックス(ヘリックス58)は、サブユニットの低位端(左に示し、ここで、タンパク質L2と相互作用する)に沿って折り畳む;Haloarcula 50S構造においては、完全に異なる経路をとり(図4E)、1478位(Haloarcula marismortuiヌクレオチド1581)の周囲で急激に分岐して、サブユニットの界面にて、対向する方向に(右上方向および右方向に)折り畳み、先端ループを23S rRNAのヘリックス34の次に配置する(これは、Thermus70Sリボソームにおける対応するループの位置から50Åより遠く離れている)。
【0080】
このコンホメーション差異が、系統学的変化に起因し得ないと考えられる理由がある。第一に、Thermus構造内で相互作用する、1495ループの塩基およびL2のアミノ酸は保存され、そして、Haloarcula内で同一である。このことは、1495ループが、細菌リボソームおよび古細菌リボゾームにおいて完全に異なる相互作用をするという考えに一致する。このことは、ヘリックス58が2つの構造のうちの1つに再配置されることを示唆する。ヘリックスが50Sサブユニットおよび70Sリボゾームにおいて異なるコンホメーションを有する、別の可能性は、E.coli 50Sサブユニットのタンパク質L9からの直接的ヒドロキシル基プロービング(probing)の結果によって除外されるようである(Liebermanら、2000)。これらの結果は、ヘリックス10および79の近傍、およびへリックス54の1580位での内部ループ近傍にヘリックス58のループを配置する(それらの全ては、Thermus 70S構造においてヘリックス58の近傍にある)が、Haloarcula 50S構造においてヘリックス58の位置から離れる。同様の説明は、ヘリックス58が古細菌50Sサブユニット結晶構造内に再配置されることである。
【0081】
これらの同じプロービング実験は、タンパク質L9(このタンパク質のリンカーヘリックスおよびC末端ドメインは、溶媒中で、50Sサブユニットの左手側から離れて突出している)が、Thermus構造中にそれ自体再配置させることを示唆する。較正研究(Josephら、2000)に従って、23S rRNAのヌクレオチド165、1495、1580、および2220における、L9の101位からの強力なヒドロキシル基の切断は、これらの標的の25Åの範囲内に置き;代わりに、これらのヌクレオチド(これらは、サブユニットの左手側で一緒にクラスター形成する)は、L9の101位から70Å〜80Å離れている。この距離において、ヒドロキシル基の切断は、実質的に検出不可能である。本発明者らは、L9のC末端ドメインが、通常は、50Sサブユニットの左手側のヘリックス10、54および79の間に形成されたポケットの近傍に位置付けなければならず、しかも、結晶化条件下で、これは、隣接リボソームの16S rRNA(図4F)と接触した結晶を形成するように再配置すると推測する。
【0082】
(サブユニット間ブリッジの構造)
サブユニット間の接触は、最初に、Frankおよび共同研究者(Frankら、1995a)によるクリオEM研究において、別個のブリッジとして可視化された。5.5Aにおいて、サブユニット間接触に関与する、全ての分子成分が同定され得、これらは、2つのさらなるタンパク質含有ブリッジを含んだ。初期化学プロービング(Merrymanら、1999a;Merrymanら、1999b)および改変−干渉(Herrら、1979)研究から推測されるように、大部分のブリッジ接触は、図5Aに要約されるように、rRNAに関与する。図5Bは、この界面から観察される、それぞれの30Sサブユニット結合部位のA−tRNA、P−tRNA、およびE−tRNAのアンチコドンステム−ループとの30Sブリッジ接触を示す。RNA−RNA対RNA−タンパク質またはタンパク質−タンパク質の接触の分布は著しく;RNA−RNA接触(赤色)は、プラットホームおよび最後から二番目のステムの中心に位置し、tRNA結合部位に直接隣接している。対照的に、タンパク質(黄色)を含む接触は、末端に位置しており、機能的部位からより離れている。50Sサブユニット側(図5C)では、RNA−RNA接触は、再び中心にあり、これは、ペプチジルトランスフェラーゼおよびE部位を界面キャビティから分離する界面壁の前面を横切る三角パッチを形成する。興味深いことに、RNA−RNA相互作用は、ドメインII(これは、大部分のブリッジB4を作製する)のヘリックス34からの小さいRNA−RNA接触を除いて、23S rRNAのドメインIVからのRNAエレメントを排他的に含む(Culverら、1999)。ブリッジ接触に関与する23S rRNAの唯一の他の部分は、ヘリックス38(A部位フィンガー)の先端であり、これは、RNAタンパク質ブリッジB1aを形成する。50Sサブユニットからの残りのブリッジ相互作用は、タンパク質L2、L5、L14およびL19によって作製される。
【0083】
12のサブユニット間ブリッジ(図5B、C)を形成する分子接触が、表IIIにまとめられている。複数の接触が、多数のブリッジについての電子密度マップにおいて観察され得、合計で30より多い個別の相互作用を与える。RNA−RNA接触は、グルーブ−副溝相互作用によって支配されるが、主溝、ループおよび骨格接触もまた見出される。架橋タンパク質は、実質的に、認識のための全ての型のRNA特徴(主溝、副溝、骨格およびループエレメントを含む)を使用する。
【0084】
ブリッジB1aおよびB1bは、30Sサブユニットのヘッドを50Sサブユニットの頂部に結合する(これは、界面の直接上を交差し、そしてA−tRNAおよびP−tRNA(図2E)に平行である)。B1a(これは、「A部位フィンガー」と呼ばれる(Frankら、1995a))は、Haloarcula 50Sサブユニット構造(Banら、2000)において、ほぼ不規則である。これは、50Sサブユニットの中心突出の右側から30Sサブユニットのヘッドの中央まで到達する、長いヘリックスRNAアーム(23S rRNAのヘリックス38)からなり、ここで、その頂端の890ループは、タンパク質S13の92位周囲の保存的塩基配列と接触する。ブリッジB1bは、サブユニット間の単独のタンパク質−タンパク質接触である。23S rRNAのヘリックス84は、P−tRNAの上の30Sサブユニットのヘッドの方に部分的に到達し;残りの距離は、タンパク質L5によって架橋され、このブリッジは、L5の残基134〜153(Haloarcula marismortuiの109〜127位)によって形成される20アミノ酸ループからのS13のN末端テイルと接触し、これもまた、H.marismortui 50S構造において不規則である。
【0085】
ブリッジB2a、B3、B5およびB6(図5B、5C)の全ては、50Sサブユニットと16S rRNAの最後から二番目のステム(ヘリックス44)との間の相互作用および30Sサブユニット界面の優位な構造成分を含む。図5Dは、これらの4つのブリッジを形成するRNAエレメントの再配置を示している。頂部において、ブリッジB2aは、23S rRNAのヘリックス69の1914ループによって作製され、別の特徴は、Haloarcula 50Sサブユニット構造において不規則である。これは、最初の一連の3つの連続した副溝−副溝相互作用における架橋実験(Mitchellら、1992)から予測されるように、1408位周囲の16S rRNAのデコード部位と接触する。次のもの(B3)において、23S rRNAのヘリックス71は、1418位周囲の、2つの連続した非正準A−G対にて、最後から二番目のステムと接触する。ちょうどB3の下で、主溝接触は、23S rRNAのヘリックス64の副溝によって作製され、続いて、ヘリックス62との接触によって形成される第三の副溝−副溝相互作用(B6)によって作製される。ブリッジB6での最後から二番目のステムとのさらなる接触が、タンパク質L19(図5E)によってなされる。L14(これは、分子間β−シートを形成することによってL19と相互作用する)は、16S rRNAのヘリックス14の345ループの主溝側と接触して、ブリッジB8(図5E)を形成する。
【0086】
23 rRNAのヘリックス68および71は、長く巨大な非正準同軸性アームを形成し、このアームは、50Sサブユニットの界面壁の頂部に水平方向に沿って位置しており、前に言及したB3(図5C)に加えて、ブリッジB2bおよびB7aの50S成分を含有する。図5Fは、B2bおよびB7aを形成する相互作用の複雑なセットがプラットホームの頂部から観察されることを示している。ブリッジB7aについての電子密度により、A702(これは、70Sリボソームにおけるジエチルピロカルボネート修飾から強力に保護されている(Merrymanら、1999b))が、23S rRNAのヘリックス68のマイナーグルーブと「A−マイナー」接触する(Banら、2000)ことを示唆する。これら2つの残存するタンパク質−RNAブリッジが、図5Gに示される。タンパク質L2は、ヘリックス23および24において16S rRNA(B7b)と2つの別個の接触を行い;L2はまた、タンパク質S6(図示せず)と非常に接近し、そして翻訳の間に、このタンパク質との過渡的な接触を行う。ブリッジB4は、以前に示したように(Culverら、1999)、主に、23S rRNAのヘリックス34のタンパク質S15と715ループとの間の相互作用であり;715ループはまた、16S rRNA(図5)のヘリックス20との適度なRNA−RNA接触を行う。
【0087】
(表III.サブユニット間ブリッジ)
【0088】
【表3】
ブリッジは、図5Bおよび図5Cに示されるように、B1a、B1bなどと番号付けされる。rRNA接触は、30Sサブユニットについて、16S rRNAに対してであり、そして50Sサブユニットについて、23S rRNAに対してであり、図3Aおよび図3Bに示されるように番号付けされた、近位ヘリックス(H44など)の番号によって列挙される。rRNAヌクレオチド番号は、E.coliの番号付けに従う。分子接触は、以下のような括弧においてスコア付けされる:M、主溝;m、マイナーグルーブ;L、ループ;B、骨格;Lmは、ループのマイナーグルーブ側を参照し、LBは、ループ骨格などを参照する)
(tRNA−リボソーム相互作用)
リボソームがその基質(tRNA)とどのように相互作用するかは、翻訳機構を理解するために最も重要である。コドンとアンチコドンとの間の塩基対合を介する、mRNAとのそれらの周知の相互作用に加えて、tRNAはまた、それ自体がリボソームと相互作用する。これらの相互作用は、tRNAのリボソームとの結合を安定化するのを補助のみならず、アミノアシル−tRNA選択の精度を高める識別機構のような機能的プロセスに直接的に関与し、これは、修正した翻訳リーディングフレーム、リボソーム内部へのtRNAの転位移動、およびペプチド結合形成の触媒作用を維持する。従って、tRNAとリボソームとの間の分子接触の知見は、これらのプロセスのための機構を解明するための構造的フレームワークを提供する。多数の初期研究によって予測されるように(Greenら、1997に総説される)、tRNAは、主に、リボソーム内のrRNAエレメントに取り囲まれており、このほとんどが、フットプリンティング、架橋および直接的ヒドロキシル基プロービング研究において同定された(Moazedら、1986b;Doringら、1994;Moazedら、1989a)。驚くべきことではないが、本発明者らは、リボソームが3つ全てのtRNAと、それらの構造の一般に保存的な部分にて接触し、その結果、全てのtRNAが正確に同じ様式で結合され得ることを見出した。
【0089】
図6Aは、それぞれのコドンに結合したA−tRNAおよびP−tRNAの電子密度を示し、図6Bは、70Sリボソーム結晶において位置付けられるA−tRNA、P−tRNAおよびE−tRNAならびにmRNAの全体的な相対的ジオメトリーを示す。リボソームとのこれらの特異的接触は、これらがハイブリッド結合状態ではなく、むしろ「古典的」である(A/A、P/PおよびE/E)ことを示す(Moazedら、1989b)。3つ全てのtRNAは、類似の様式で2つのリボソームサブユニット間で共有され;それらのアンチコドンステム−ループは、30Sサブユニットによって結合されており、そして残りのtRNA−Dステムと接触し、エルボーおよびアクセプターアームが、50Sサブユニットによって作製される。A−tRNAおよびP−tRNAの面は、26°の内角を形成し、P−tRNAおよびE−tRNAの面は、46°の内角を形成する。A−tRNAおよびP−tRNAのアンチコドンステム−ループの骨格間の最も近いアプローチは、約10Åであり、驚くべきことに、この距離は、これら2つのtRNAがmRNAの隣接したコドンを読み取るという事実を考慮すると、非常に離れている。
【0090】
2つのコドンの同時読み取りを、AコドンとPコドンとの間の約45°のmRNA骨格におけるねじれによって達成する(図6B)。A−tRNAおよびP−tRNAの骨格は、アクセプターステム(acceptor stem)で最も近く、互いの5Å以内に近づく。エルボー(elbow)において、A−tRNAの塩基D16およびP−tRNAの塩基U47は、実際には、互いのH結合距離内にあるが、本発明者らは、このような相互作用が起こるという先行技術での証拠を知らない。A−tRNAおよびP−tRNAのCCAテイルは、予期されたように、50Sサブユニットのペプチジルトランスフェラーゼ部位の3’末端で収束する。P−tRNAおよびE−tRNAのアンチコドンステム骨格の最も近い近接は、約6Åであり、A−tRNAおよびP−tRNAについて見出される近接よりも有意に近い。しかし、E−tRNAのエルボーおよびアクセプターアームは、回転して、P−tRNAから著しく離れ、その結果、それらの個々の3’末端はほぼ50Å離れる。3つのtRNAの対応位置間の距離は、トランスロケーションの間におけるtRNAの移動の大きさの尺度である。従って、tRNAのアンチコドン末端は、30SのA部位とP部位との間で約28Å移動し、そしてP部位とE部位との間で20Å移動する。tRNAの面の回転が理由で、エルボーは、AからPへ、PからEへと移行するので、40Åおよび55Åのより広い距離を通して移動する。
【0091】
以前に観察されたように、P−tRNAのアンチコドンステム−ループ(ASL)およびPコドンは、30Sサブユニットとの6セットの相互作用(a〜f)によって位置付けられる(Cateら、1999)。これらの相互作用に関連する構造的特徴を、図6Cおよび6Dに示し、そして表IVにまとめる。現在の解像度では、実際の原子の相互作用は解析されていない。しかし、公知のRNA立体化学を、ドッキングさせた(docked)高解像度構造と合わせると、例えば、RNAとの相互作用が糖−リン酸骨格または塩基を含むのか否かを強く束縛し、そして多くの場合において、関与する可能性が最も高い化学基の予測を可能にする。
【0092】
【表4】
1a.c.、アンチコドン;acc、アクセプター;D、ジヒドロウラシル;T、チミジン;RNA接触は、以下によって示される:bk、骨格;bs、塩基;bp、塩基対。結果が結論に至らなかった場合には、記載を省略している。tRNA位置は、酵母のtRNAPheに従って番号付けられ、rRNA位置は、E.coliに従って番号付けられる。
【0093】
アンチコドンステム−ループの結合様式およびその接触は、30S P部位に対するヘリックス6の結合について以前に観察されていたものと非常に類似する(Carterら、2000)。6つすべての30S P部位での相互作用は、16S rRNAとの直接的な接触を含み、このうちの2つ(aおよびd)は、それぞれ、タンパク質S13およびS9の伸長C末端テイルとの相互作用によって支持される。S13の幾分系統発生的に変動するリジンリッチテイルは、P−tRNAのホスフェート36と相互作用する。対照的に、S9のテイルは正確に保存されており、そしてそのC末端アルギニン(これは、P−tRNAのアンチコドンにおけるホスフェート35と相互作用するようである)は、普遍的に保存されている。これらの同じホスフェートは、30S P部位への結合のために重要であることが、ホスホロチオエート干渉実験において同定されている(Schnitzerら、1997)。リボソーム機能にrRNAを関連付けた最初の実験の1つは、16S rRNA中の限定数のグアニンのケトキサール(kethoxal)改変が、30SサブユニットへのP−tRNA結合の損失を引き起こしたという実証であった(Nollerら、1972)。P部位のmRNA−tRNA複合体と相互作用する5つの16S rRNA塩基(G926、2mG966、G1338、G1339およびC1400)のうち、少なくとも4つはグアニンであり、この初期の知見を説明している。さらに、5つすべての塩基は、化学的フットプリンティングおよび改変干渉実験に基づいて、P部位と相互作用するとして同定された(Moazedら、1986b;Ahsenら、1995;Moazedら、1990)。
【0094】
さらに、相互作用のセットは、P部位のコドン−アンチコドン対形成を安定化するようである:tRNAの34位のアンチコドン骨格と相互作用する塩基G966、およびPコドンの1位の骨格と相互作用するヌクレオチドU1498の骨格は、コドンおよびアンチコドンを一緒に締め付ける(clamp)ようである。C1400は、tRNAの塩基34でのスタッキングによって、揺らぐ塩基対を安定化するようであり、これは、光化学架橋研究から、約20年前にOfengandおよび共同研究者らによって予測された配置である(Princeら、1982)。重ねて、tRNAフットプリンティング実験によって同定された多くの塩基(Moazedら、1986b;Moazedら、1990)は、tRNAと相互作用をなすことが見出されている;しかし、「クラスIII」塩基を含むいくつか(Moazedら、1987)は、間接的に(おそらく、tRNAに誘導されるコンフォメーション変化によって)保護されている。2つのタンパク質(S9およびS13)は、両方とも、それらの伸長した塩基性C末端テイルを介してP−tRNAと相互作用し、それらは、それらがRNA−RNA相互作用を支持する精巧なポリアミンとして機能することを示唆する様式で、アンチコドンステム−ループと相互作用する。
【0095】
ブリッジB2aを形成する23S rRNAのヘリックス69の副溝は、P−tRNAのDステムの副溝と相互作用し(図6E;相互作用g)、A部位へと伸長して、このA部位において、その保存されたループは、A−tRNAのDステムのほぼ同じ造作物と相互作用し(図6K;相互作用f)、そして最後から2番目のステムの頂部とのB2aブリッジ接触を形成する(図5D)。この相互作用の複合セットは、30Sサブユニットによるヘリックス69の1915ループ中の塩基の部分的保護(これは、tRNAの結合に際して完成となる)を示した化学的フットプリンティング結果を説明する(Moazedら、1989a)。そのエルボーにおいて、タンパク質L5のβヘアピンループ(54〜66位)は、C56の副溝面でP−tRNAのTループと相互作用する(図6E;h)。P−tRNAのCCAテイルは、基質アナログと複合体形成された古細菌(archaeal)50Sサブユニットに関する近年の高解像度構造において観察された(Nissenら、2000)、23S rRNA Pループとの予期されたC74−G2252塩基対形成を可能にするように位置付けられる(Samahaら、1995)。さらに、アクセプター末端は、アクセプターステムと23S rRNA Pループのステムとの間の骨格−骨格接触(図6E;i)、およびCCAテイルとヌクレオチドA2602とU2585との間の相互作用によって位置付けられ、この両方が、大サブユニットのペプチジルトランスフェラーゼ機能に関与している(Moazedら、1989a;Barta 1984)。
【0096】
近年、Haloarcula 50Sサブユニットの原子解像構造が、化合物CCdAp−ピューロマイシン(これは、ペプチジルトランスフェラーゼ反応の遷移状態アナログであると考えられる(Welch 1995))との複合体において解析された(Nissenら、2000)。この構造は、リボソームによるペプチド結合形成の触媒についての機構の提唱へと促した(Nissenら、2000)。本発明者らは、70Sリボソーム構造上において、CCdAp−ピューロマイシンを含む50Sサブユニット構造のペプチジルトランスフェラーゼ領域をドッキングさせた。これは、23S rRNAの周辺のエレメントを重ね合わせることによって導き出された。5.5Åの解像度で切り捨てられた電子密度マップを、脱アシル化tRNAが本発明者らの構造においてP部位に結合するという事実を考慮に入れるために、ピューロマイシン部分を取り除いた後のHaloarculaの50Sサブユニット複合体について算出した。5.5Åの解像度において、P部位tRNAの3’−CCA末端付近におけるrRNA骨格の大半のコンフォメーションは、2つの構造の間において、ほとんど識別可能な差異を示さない。わずかな明らかな差異は、Pループ、および2451位、2506位、2585位および2602位(これらは、協調的な様式で移動し得る)またはそれらの付近に位置付けられる。70Sリボソーム複合体では、23S rRNAの付近の造作物と比較して、P−tRNAの3’−CCA末端の位置が、(おそらくアシル基の不在に起因して)遷移状態アナログの対応部分の位置とは異なるようである。P−tRNAのCCA末端は、2つの構造において、結合ポケットと相対的に垂直移動を示す(図6F)。
【0097】
2つの可能なモデルは、実験的な70S電子密度マップ(図6F)と50S構造から算出された5.5Åのマップ(図6G)との間で示された差異を説明し得る。1つのモデルでは、CCA末端は、結合ポケットにおいてわずかに引き上げられ、これは、A76とA2451鎖との間の実験的マップにおいて示された密度ギャップ(ここでは、算出されたマップにおいては連続的な密度が示される)を説明する。第二のモデルは、ポケットにおけるC74およびC75のより深い配置を含み、これには、A76のU2585方向への回転が付随する。第二のモデルはまた、上記の密度ギャップと一致するが、70Sリボソームの実験的電子密度においてU2585に隣接して出現する新たな密度をも説明する(図6F)。化学的保護実験により、U2585が、50S P部位へのアシル化tRNAまたは脱アシル化tRNAのいずれかの結合によって強力に保護されるが、A76を欠失するtRNAと結合する場合には、脱保護されることが示されている(Moazedら、1989a)。興味深いことに、U2585付近へのA76の配置は、50Sサブユニット構造から決定されたモデルのCCA末端の大きな再配置に関与するが、A76のリボース位置は、結合ポケットにおいてほとんど全くシフトしない可能性がある。
【0098】
30SサブユニットにおいてA−tRNAアンチコドンループを取り囲むのは、化学的フットプリンティング研究によってA部位特異的な特徴としてもともと同定された、3つの普遍的に保存された塩基(G530、A1492およびA1493)であり(Moazedら、1986b;Moazedら、1990)、そして変異研究および生化学的研究によって、A部位の結合に影響を及ぼすことが示されている(Powersら、1990;Yoshizawaら、1999)。3つすべての塩基は、30S A部位におけるコドン−アンチコドン相互作用の部位付近に位置付けられる(図6H、I;a、d)。塩基A1492および1493のtRNAに保護されたN1位置は、コドン−アンチコドン塩基対から離れて示され、そして30SサブユニットA部位が空である場合に、16S rRNA骨格によってそれらから分離される(Wimberlyら、2000)。このことは、A−tRNAの不在下における70Sリボソームの電子密度と一致する。アミノグリコシド抗生物質パロモマイシンの存在下において、ヌクレオチド1492および1493のコンフォメーションは、再配置することが見出されており(Carterら、2000)、それらがまた、30S A部位へのtRNAの結合に応答して再配置され得るという可能性を高めている。70Sリボソームに結合したA部位tRNAの7Åフーリエ差分マップにおいて(図6J)、負の電子密度のパッチが、塩基1492〜1493の位置に見出される。これは、Carterら(Carterら、2000)により示唆されたように、これらが、A部位のコドン−アンチコドンヘリックスの副溝における第一塩基対および第二塩基対と相互作用するように再配置するという可能性に対する支持を与える。G530のN1位置はまた、A−tRNA結合に際して保護され(Moazedら、1986b;Moazedら、1990)、そしてこの塩基の変異は、優性の致死表現型およびA−tRNA結合の欠損を与える(Powersら、1990)。G530はまた、第二塩基対および第三塩基対付近のコドン−アンチコドンヘリックスの副溝に位置付けられる。隆起した塩基C1054(UGAナンセンス変異を抑制することが示されている変異(Murgolaら、1988))は、A−tRNAアンチコドンループの頂端に向かって突出する(図6I;b)。
【0099】
タンパク質S13のリジン120およびホスフェート955は両方とも、41位の周りのtRNA骨格と相互作用するに十分に近い(図6H、I;c)。50位の周りの普遍的なPNSA配列を保有する、S12の保存された突出部(lobe)は、530ループとデコード部位の1492〜1493鎖との間の空間中に突出し(図6H;e)、30SサブユニットA部位の基底(floor)を完成させる。ヌクレオチド1492および1493における最後から2番目のステムの頂部ならびに910〜912位のスイッチヘリックス(Lodmellら、1997)に向かい合う、基底の右手側における変異は、拘束性(高度に正確)な表現型を与える(Kurlandら、1990に概説されている)。これらの変異は、530ループと1492〜3鎖との間の空間を拡大する効果を有し得、tRNA−mRNA複合体と30S A部位との間の相互作用を緩める。
【0100】
A−tRNAのエルボーは、そのDループおよびTループ(図6K;g)のブリッジB1a(A部位フィンガー;H38)およびタンパク質L16(Nollerら、1992)と相互作用する。タンパク質L11、およびA−tRNAと直接的には相互作用しないが23S rRNAの1067位(H43;Ryanら、1991)付近にあるその付随したRNAは、そのTループに近接し、そしてそれを、tRNAまたは23S rRNAのいずれかの中程度の移動のみで、一過的に接触させ得る。タンパク質L16からの電子密度または未だに同定されていないrタンパク質は、部分的に、A−tRNAエルボーの位置を占め(図6L)、そしてそのため、おそらく「収容(accommodation)」工程の部分として、A−tRNA結合に際して移動しなければならない(Papeら、1999)。23S rRNAのヘリックス89は、A−tRNAのアクセプターアームとほぼ平行に走り、その頂部において、Tステムと副溝相互作用(h)を作製し、そしてその底部において、非正準ヘリックス伸長(j)の主溝にわたって存在するCCAテイルの骨格と接触する。CCAテイルはまた、保存された1942ループ(これは、アクセプターステム(i)の末端で、主溝中に差し込まれる)との接触によって、および、50S結晶構造において観察された(Nissenら、2000)、23S rRNAのC75とG2553との間で以前に予期されていた塩基対(63)によって、位置付けられる。
【0101】
E−tRNAアンチコドンステム−ループは、30Sサブユニットのヘッドとプラットホームとの間(ここでこれは、分子相互作用の高密度系によって取り囲まれる(図6M))に挟まれる。このことは、E−tRNAの比較的弱い結合(Lillら、1986)およびE−tRNA結合に起因し得る16S rRNA中における塩基保護の明らかな不在(Moazedら、1986b;Moazedら、1990)に照らして、幾分予想外であった。16S rRNAのヘリックス28および29は、その690ループおよび790ループと同様に、RNA接触a〜eに寄与する(図6N)。タンパク質S7のC末端αヘリックスは、アンチコドンステムの骨格に対して充填するが、S7 βヘアピンは、E−tRNAアンチコドンのワトソン−クリック面に位置付けられる(f)。通常のコドン−アンチコドン相互作用は存在しないが、E−tRNAアンチコドンの第二塩基とmRNAとの間には接触が存在し得る。S7に関してあり得る役割は、30S E部位においてコドン−アンチコドン相互作用を破壊することであり得る。近年の研究によって、S7のβヘアピンまたはC末端ヘリックスのいずれかの欠失は、EF−G−依存性トランスロケーションの有効性および正確性に影響することが示されている(K.Fredrick、非公開)。
【0102】
タンパク質L1および23S rRNA上のその結合領域(H76〜77)は、E−tRNAのエルボーと相互作用する(接触g〜i)。E−tRNAに保護された塩基G2112およびG2116は、tRNAエルボーの頂部で三次(tertiary)G19〜C56塩基対においてスタッキングし得る。アクセプターステムは、23S rRNAのヘリックス68との副溝相互作用を作製する。この相互作用は、EF−G−依存性トランスロケーションに必須であることがJosephおよび共同研究者らによって示された(Feinbergら、2001)リボース71との骨格接触を含む。さらに、保存されたA1853は、2〜71塩基対とのA−副(minor)相互作用を作製し得る。CCAテイルは、ペプチジルトランスフェラーゼ間隙(cleft)から離れた50Sサブユニットの深いポケットに埋められ、23S rRNAおよびタンパク質L33のヘリックス11、74および75、ならびにE−tRNA保護されたC2394との接触を作製する(Moazedら、1989a)。
【0103】
(翻訳の機構への関連)
複雑なリボソームの構造は、分子レベルでのタンパク質合成の機構を理解するための基礎を提供する。分子機構として、リボソームは、その機能を可能にする可動部分を有さなければならない(Spirin 1969)。タンパク質合成のトランスロケーション工程は、tRNAがA部位からP部位からE部位へと移動するので、tRNAによる20Å以上の移動を、必然的に必要とする。このような移動が、リボソームの対応する構造的な転移に合致しないことは、あり得ないようである(Wilsonら、1998)。tRNAが30Sサブユニットおよび50Sサブユニットとは独立して2工程で移動する、ハイブリッド状態モデルは、トランスロケーションの機構が30Sサブユニットおよび50Sサブユニット、またはこれら2つのサブユニットの特定の構造ドメインもしくは下部構造の相対的な移動を含み得るという意味を含む(Moazedら、1989b)。
【0104】
図7Aは、70Sリボソーム結晶中に位置する場合の、A−tRNA、P−tRNAおよびE−tRNA、ならびにmRNAの、全体の相対的ジオメトリを示す。リボソームとのこれらの特異的な接触は、これらがハイブリッド結合状態よりむしろそれらの「古典的な」状態(A/A、P/P、およびE/E)にあることを示す(Moazedら、1989b)。A−tRNAおよびP−tRNAの平面は、26°の内角(included angle)を形成し、そしてP−tRNAおよびE−tRNAの平面は、46°の角度を形成する。隣接するAコドンおよびPコドンの同時の読み取りは、AコドンとPコドンとの間の約45°のmRNA骨格におけるねじれによって、達成される(図7A)。これら3つのtRNAの対応する位置間の距離は、トランスロケーションの間のtRNAの移動の程度の尺度である。従って、tRNAのアンチコドン末端は、30SのA部位とP部位との間で約28Å移動し、そしてP部位とE部位との間で20Å移動する。tRNAの平面の回転に起因して、エルボは、AからPからEへと移行するにつれて、40Åおよび55Åのより大きな距離を通って移動する。
【0105】
本発明者らの、ハイブリッド状態モデル(Moazedら、1989b)の現在の理解を、図7Bに概略的に示す。過去十年間にわたるいくつかの実験室からの実験的証拠は、最小のモデルに対するいくらかの改変を導入した。第1に、上述の結晶学的証拠は、この機構における30S E部位の関与を必要とする。第2に、EF−Tuの放出に続く「収容」工程についての証拠(Papeら、1999)は、入ってくるアミノアシル−tRNAのプルーフリーディングが、この工程の間に起こり得る可能性を提起する;恐らく、この収容プロセスは、ペプチジルトランスフェラーゼ活性の調節を包含し得、同種のアミノアシル−tRNAのみを、ペプチド結合形成に関与させる。第3に、いくつかの方面の証拠(Greenら、1998;M.RodninaおよびS.Joseph,未発行)は、A/A状態からA/P状態、およびP/P状態からP/E状態への移動が、ペプチド結合形成を伴って、協調的にではなく連続的に起こることを、納得のいくように実証した。従って、ペプチジル−tRNAがA/A状態を占める別の状態が導入された(図7B)。
【0106】
ハイブリッド状態モデルの本質的な特徴(tRNAが、2つのリボソームサブユニット(まず、50Sサブユニットにおいて、次いで、(mRNAの移動に関連する)30Sサブユニットにおいて)とは独立して移動すること)を支持する広範な証拠が、現在までに蓄積された。A/P状態およびP/E状態の直接的な構造の観察は、クリオEM再構築において、直接的に観察された(Agrawalら、2000)。A/T状態(ここで、入ってくるアミノアシル−tRNAは、依然としてEF−Tuに結合している)もまた、クリオEM研究によって観察された(Starkら、1997a)。
【0107】
図7Cは、ハイブリッド状態のトランスロケーションサイクルの三次元解釈を示す。ここで、古典的な状態のtRNAの配向(A/A、P/PおよびE/E)は、本発明者らが結晶学的に直接観察した配向によって表される。A/Pハイブリッド状態およびP/Eハイブリッド状態のtRNAの位置を、古典的な状態のtRNAで開始してモデリングし、これらのアンチコドン末端の位置を固定し、そしてこれらを剛体として回転させて、50Sサブユニットのそれぞれのアクセプター末端にドッキングさせた。得られたモデルは、クリオEMによって実験的に観察された低分解能構造(Agrawalら、2000)に近く類似する。A/T tRNAを、以下の2工程でモデリングした:第1に、EF−Gの構造(Czworkowskiら、1994)を、フットプリンティングからの制限を使用して、70Sリボソーム構造にドッキングさせ、そしてヒドロキシル基のプロービングを方向付けた。第2に、EF−Tu−tRNA−GTPの三成分複合体の構造(Nissenら、1995)を、それらの相同なGドメインを利用して、EF−Gにドッキングさせた。この結果は再度、クリオEMによって決定された三成分複合体の位置(Starkら、1997a)とよく一致する。印象的な観察は、A/T状態からA/A状態になる際にアミノアシル−tRNAのアクセプター末端が移動する距離が、70Åのオーダー(およそtRNA自身の全体的な寸法)であることである。
【0108】
ここまでは、移動に関する証拠の大部分は、主として、30Sサブユニットに向いていた。中性子散乱実験(ここで、リボソームの回転運動の半径の変化が、トランスロケーション状態の前後間で観察された)は、小さなサブユニットのヘッドの運動を示唆した(Serdyukら、1992)。16S rRNAの「切換えヘリックス」(ヘリックス27)において変異を保有するリボソームのクリオEMの比較は、ラム形態と制限形態との間の、30Sサブユニットのヘッド、ショルダー、プラットホーム、および最後から2番目のステムにおけるコンホメーションの差異を示す(Gabashviliら、2000)。70Sリボソームにおける16S rRNAのコンホメーションの、別の30Sサブユニット(図3A、B)のコンホメーションとの比較は、再度、小さなサブユニットのヘッド領域、プラットホーム領域、および最後から2番目のステム領域の移動度を示唆する差異を示す。最近のクリオEM研究(Agrawalら、1999b;Frankら、2000)は、EFG−GTPの結合の際の、30Sサブユニット全体の約6°の回転を示す。
【0109】
tRNAトランスロケーションがサブユニット界面における相対運動を包含し得るという、ハイブリッド状態の示唆は、生化学的および遺伝的実験による、tRNA−リボソーム相互作用に関与するヌクレオチドの多くが、サブユニット会合に関与するヌクレオチドに隣接するという観察によって、強化された(Merrymanら、1999a、b)。結晶構造は、tRNA結合部位が界面の接触に近く接近しているという直接的な証拠を提供し、そしてさらに、ブリッジのいくつかが、tRNAと直接相互作用することを示す。さらに、これらのtRNA−ブリッジ相互作用のいくつかは、動的であるという証拠が存在する。
【0110】
70Sの三次元リボソーム構造の知識は、tRNA移動の機構のための重要な手掛かりを提供する。トランスロケーションの機構が、30Sサブユニットと50Sサブユニットとの相対的な移動、またはこれら2つのサブユニットの特定の構造ドメインもしくは下部構造を包含するという、ハイブリッド状態モデルの観念(Moazedら、1989b)は、生化学的実験および遺伝的実験による、tRNA−リボソーム相互作用に関与するヌクレオチドの多くが、サブユニット会合に関与するヌクレオチドに隣接するという観察(Merrymanら、1999a;Merrymanら、1999b)によって、強化される。実際に、結晶構造は、tRNAが、サブユニット間のブリッジ(これらの少なくともいくつかは、リボソームの動的エレメントであると考えられる)に直接接触することを示す。例えば、高分解能の50Sサブユニット構造において無秩序化される構造的エレメントのうちでも、ブリッジB1a、B1bおよびB2aである。無秩序化は、少なくとも結晶において一般的な条件下で、独立した運動が可能であり、それでリボソーム動力学に関与する候補である、リボソームの特定の分子特徴を同定するという点で、有益である。図8は、界面の2つの反対の側から見た、サブユニット界面においてA−tRNAおよびP−tRNAを直接囲む特徴を示す。これら2つのtRNAは、頂部においてブリッジB1bとB1bとの間に挟まれており、そして底部においてB2aに挟まれている。これらのブリッジの3つ全てに関するサブユニット間の接触は、50S結晶構造において無秩序化しており(Banら、2000)、3つ全ての動的エレメントを示唆している。30Sの側において(図8B)、tRNAは、ヘッドと、最後から2番目のステムおよびプラットホームの頂部との間に挟まれており、これらの全ては、遊離30Sサブユニットと70Sリボソームとの間のコンホメーションの差異を示し(Yusupovら、2001)、再度、これらが翻訳の間に移動し得ることを示唆する。さらに、これらの潜在的に動的なエレメントの全てが、サブユニット界面を介して互いに相互作用するという事実は、これらのそれぞれの運動が調和している可能性を示す。従って、ブリッジB1aおよびB1bの運動は、ヘッドの回転に結び付けられ、そしてブリッジB2aの運動は、最後から2番目のステムおよびプラットホームの運動に結び付けられる。実際に、E.coliリボソームのトランスロケーションの前後の状態の、低分解能のクリオEM画像(Agrawalら、1999b)は、このような調和した運動と一致する。
【0111】
トランスロケーションの機構に対する潜在的に重要な手掛かりは、FeinbergおよびJoseph(Feinbergら、2001)によるtRNA改変妨害研究から生じる。彼らの研究は、P−tRNAの71位における単一の2’−O−メチル基の導入が、EF−G依存性トランスロケーションを廃止することを示す。興味深いことに、リボソームとtRNAの71位との間の単一の相互作用は、50S E部位において起こり、このことは、メチル基の影響がP/E状態に対してでなければならないことを示す。この知見は、EF−G依存性トランスロケーションのためのハイブリッド状態形成の重要性を示した速度論的分析と一致する(Semenkovら、2000)。リボースの71位のメチル化がトランスロケーションを阻害する機構は、間接的であるはずである。なぜなら、EF−Gの最も近い接近は、EF−Gの最も近い接近は、約70Å離れており、そしてその触媒中心は、100Åよりも離れているからである。1つの可能性は、この影響が、23S rRNAを介して媒介されることである。リボースの71位は、23S rRNAのヘリックス68に接触し、これは、50Sサブユニットのサブユニット界面の表面の頂部を水平に横切って位置する、ドメインIVのラテラルアームの左端の遠くにあるからである(図8A)。このラテラルアームは、この界面を横切るカノニカルヘリックスおよび非カノニカルヘリックスの、連続的に同軸状に積み重ねられた系である。その遠い右側の端部は、AループのステムとのA−マイナー相互作用を起こす、ヘアピン型ループで終結する。
【0112】
Aループの基部における一本鎖ループは、次に、サルシン/リシンループの副溝と相互作用し、これは、EF−GのGTPase機能に直接的に関与した(Hausnerら、1987)。さらに、ヘリックス69(これは、A−tRNAおよびP−tRNAの両方と、それぞれのDステムにおいて直接接触する)は、ドメインIVのラテラルアームの中央の、保存された非カノニカルヘリックスに接続される(図8A)。これらの構造的手掛かりは、トランスロケーションの機構におけるリボソームRNAの特異的エレメントの関与について、推定上の場合を提供する。
【0113】
50Sサブユニット構造において無秩序化された構造的エレメントのうちでも、ブリッジB1a、B1b、およびB2aである。この無秩序化は、少なくとも結晶において一般的な条件下においては、独立した運動が可能であり、そしてリボソームの動力学に関与する候補である、リボソームの特定の分子特徴を同定する点で、有益である。B1aおよびB1bは、50Sサブユニットの中心隆起を、30Sサブユニットのヘッドに接続し(図2E、5B、5C;表III)、これは、上で議論されるように、リボソームの動力学に繰返し関与した、独立した構造ドメインである。2つのブリッジについての50Sの接触は、ヘリックス38の890ループ、およびタンパク質L5の134〜153ループであり、これらの両方は、50Sサブユニット電子密度マップ(Banら、2000)において無秩序化しており、従って、可撓性である。ブリッジB1aおよびB1bは、それぞれA−tRNAおよびP−tRNAの保存されたエルボ領域に接触し、これは、トランスロケーションの間に、最も大きな移動(約40〜50Å)を起こす。23S rRNAの、その882位/898位における保存された内部ループの周りの、ヘリックス38は、A−tRNAのDループおよびTループと相互作用し、そしてタンパク質L5は、残基80を中心とする保存されたβ−ヘアピンを介して、P−tRNAのTループと相互作用する。興味深いことに、B1aおよびB1bはまた、上述のクリオEM研究において観察された、EF−G依存性のサブユニット間回転によって、最も強く影響を受けるブリッジである(Frankら、2000)。これらの接合部の近くで、50Sサブユニットのボディを用いて、これら2つのブリッジは、5S rRNAによってまたがれ、これは、何らかの様式で、これらの移動の調節を補助し得る。
【0114】
可撓性ブリッジエレメントの最も興味をそそるものは、中心に位置するB2aであり、これは、23S rRNAのヘリックス69の、普遍的に保存された1915ループと、16S rRNAの最後から2番目のステム(ヘリックス44)の頂部との、デコード部位(コドン−アンチコドン相互作用が起こる位置)の基部における相互作用によって、形成される。ヘリックス69ステム−ループはまた、A−tRNAおよびP−tRNAと接触し、そのループは、16S rRNAの最後から2番目のステムおよびA−tRNAのDステムの副溝と同時に相互作用し、一方で、そのステムの副溝は、隣接するP−tRNAのDステムの副溝表面と接触する。50Sサブユニット構造におけるヘリックス69の無秩序化は、任意の直接的なスタッキング、または50Sサブユニットとの他のパッキング相互作用の非存在、ならびに23S rRNAの残りの部分との、一本鎖ループのみによる接続、および23S rRNAのドメインIVの保存されたラテラルアーム(これは次に、ブリッジB2b、B3およびB7aを実施する;図5C)との接続によって、説明され得る。
【0115】
ラテラルアームの連続的な同軸状スタッキングは、ワトソン−クリックヘリックス68および71(ブリッジB2bおよび133)を、ヘリックス69のすぐ下で、ヘリックス69に対して直接的に平行に分離する、高度に保存された領域におけるヘリカルターンのほぼ全体を占める非カノニカルヘリックスを含む。界面におけるこの十字形の中心領域においては、tRNAの運動が、ブリッジB2a、B2bおよびB3における界面接触の摂動に、および潜在的に、ラテラルアームの非カノニカルヘリックスセグメントのコンホメーション再配置に、どのように結び付けられ得るかを見ることは、困難ではない。トランスロケーション後状態において、方向付けられたヒドロキシルラジカルプロービングは、ヘリックス69を、伸長因子EF−Gの機能的に動的なドメインIVの頂部の近くに位置付け(Wilsonら、1998)、これは、tRNAを模倣すると考えられ、そしてEF−Gによって触媒されるtRNAの運動の機構に関与した(Nissenら、1995)。
【0116】
ヘリックス69の1915ループと、A部位tRNAのDステムの副溝との相互作用は、Hirschサプレッサ(Hirsch、1971)の作用の機構に関する可能な説明を示唆する。この機構は、最も困難なtRNAナンセンスサプレッサ変異の1つであり、トリプトファンtRNAのDステムの24位における、A〜Gの変異からなる。A24は、U11と塩基対合し、このU11は、ほとんど常にピリミジンであり、この02位は、Dステムの副溝に突出しており、ここで、これは1915ループの接触範囲内である。従って、G24−U11のウォッブル対の作製は、ピリミジン02のアクセス可能性を、副溝の側から隠し得る。Dahlbergおよび共同研究者らは、C1914の近くからUへの変異が、ナンセンスサプレッサ表現型を与えることを発見した(O’Connorら、1995)。従って、この予測されないブリッジB2a−tRNAの相互作用は、翻訳忠実度において重要な役割を果たし得る。
【0117】
リボソームの機能に関連する他のブリッジは、16S rRNAの最後から2番目のステム(ヘリックス44)、スイッチヘリックス(ヘリックス27)およびプラットホーム(ヘリックス23および24)を含む。これらの3つの特徴は、6つのクラスIII部位のうちの5つを含み、それらの興味深い挙動は、初期の化学探索実験において同定された(Moazedら、1987)。これらの塩基は、tRNA、50Sサブユニットまたは特定の抗生物質によって全て独立して保護される。3つ全ての種のリガンドが独立してこれらの塩基を保護し得るという観察は、それらの保護が、塩基とリガンドとの間の直接接触よりもむしろリガンド誘導性のコンフォメーション変化によって引き起こされるはずであるという結論を導いた。実際に、構造的結果は、これらの塩基のいずれもが、50Sサブユニット、tRNAまたは抗生物質と直接接触しないことを示す(Carterら、2000;Fouraryら、1996)。3つのクラスIII部位(A909、A1413、G1487)は、スイッチヘリックスの内部ループと、最後から2番目のステムの副溝との間の接触表面に見出され、ここで、A909は、非カノニカルA1413−G1487塩基対とのA−マイナー相互作用を生じる(Wimberlyら、2000)。
【0118】
空の30Sサブユニットにおける3つ全てのプリン塩基のN1位の反応性は、tRNA、50Sサブユニットあるいはストレプトマイシンまたはネオマイシン関連抗生物質との相互作用が、このヘリックス内塩基−トリプレット相互作用の形成を誘導することを示す。サブユニット会合による保護は、ブリッジ相互作用B2aおよびB3(これは、1413−1487対に直接隣接する)およびB2c(スイッチヘリックスの900ループを含む)によって説明され得る。tRNAおよび抗生物質による保護は、最後から2番目のステムの頂部でのデコード部位へのA−tRNAおよびP−tRNAならびに薬物の結合と一致する。790ループにおける2つのクラスIII塩基は、P−部位コドン−アンチコドン相互作用に続く、第1497位−第1498位でのデコード部位における16S rRNA骨格とのそれらの相互作用によって保護される。これらの相互作用は、隣接ブリッジB2bにおける50Sサブユニットとの16S rRNAのヘリックス24の接触による、そしてP−tRNAアンチコドンステムループにおける第790位−第791位とヌクレオチド38−39との間の骨格−骨格相互作用によるtRNA結合の結果としての、サブユニット会合の際に安定化されるようである。第6のクラスIII塩基は、サブユニットのネック(ヘリックス28)にある、A1394であり、ここで、水素結合が、A1394のN1位とデコード部位ヌクレオチドA1500の2’−ヒドロキシルとの間で形成される(Wimberlyら、2000)。クラスIIIのコンフォメーション変化の全体的な結果は、mRNAが結合し、そしてA部位およびP部位のコドン−アンチコドン相互作用が生じるチャネル中の、デコード部位の塩基の全体的な密接化であるようであり、これは、ストレプトマイシンおよびアミノグリコシド抗生物質の誤コード化効果を説明するのを補助し得る。
【0119】
クラスIIIコンフォメーション変化において具体化される16S rRNAの分子内移動は、23S rRNAの少なくとも1つの移動性エレメント、保存された1915ステム−ループ(ヘリックス69)、およびドメインIVのラテラルアームの中間部の潜在的に移動性の非カノニカルヘリックスに関連され得、これらは、ブリッジB2a、B2b、B2cおよびB3によって隣接される。ちょうど議論したように、これらの4つ全てのブリッジは、16S rRNAにおける50S誘導性のコンフォメーション変化に関係し、これらの変化は、クラスIII保護によって明らかにされる。30Sサブユニットのデコード部位におけるtRNAとmRNAとの相互作用によって16S rRNAにおいてもまた誘導される、これらの同じコンフォメーション変化が、ブリッジ相互作用の同じセットを介して、23S rRNAのこの界面領域のコンフォーメーションに相反的に影響し得ることは、驚くことではない。これは、翻訳の機構についての興味深い示唆を有し得る。なぜなら、ドメインIVのラテラルアームは、23S rRNAの2600ステム−ループ(ヘリックス93)およびAループ(ヘリックス92)に対して直接密集し、これらの両方は、ペプチジルトランスフェラーゼ中心における相互作用に直接関与するからである(Nissenら、2000;Moazedら、1989a;Kimら、1999;Moazedら、1998)。さらに、ヘリックス92の塩基での2563−4ループは、伸長因子EF−TuおよびEF−Gの活性に直接関与する、ヘリックス95(サルシン−リシンループ)の塩基と直接相互作用する。最後に、ブリッジB7aに隣接する、ドメインIVのラテラルアームの最も左側の末端は、EF−G依存性転位に重要であることが示された、E−tRNAのアクセプター側と相互作用する(Feinberg,J.S.およびJoseph,S.私信)。ここで、mRNAおよびtRNAと複合体化したリボソームの完全な構造の知見は、翻訳の機構についてのこれらおよび他の特定の分子モデルを試験するための可能性を提供する。
【0120】
(実施例2−リボソームの導入を介するメッセンジャーRNAの経路)
リボソーム中のmRNAの経路を、X線結晶学によって、初めてマップした。結合されたtRNAと、モデルmRNAフラグメントを含むかまたはmRNAを全く含まない、70Sリボソーム複合体の結晶からの回析データ(Belitsinaら、1981)を使用して、本発明者らは、結合されたmRNAのフーリエ差分マップを計算した。上記の70S複合体中のそれらの各mRNAに結合されたA部位およびP部位のコドンの位置と一緒に、本発明者らは、7Åの解像度で、リボソームを介するmRNAの完全な経路を記載し得た。mRNAは、30Sサブユニットのネック周辺を取り巻くチャネルを通って通り抜け、これは、以前のモデル(Frankら、1995b;Shatskyら、1991)の一般的特徴を確認する。A部位およびP部位に隣接するmRNAのシャインダルガノ領域および下流領域のリボソーム中の位置は、mRNAの翻訳開始、フレームシフトおよび他の機能的相互作用に対する示唆を有する。予測されないことに、遺伝子32のmRNAに基づくモデルmRNAは、高電子密度塊を形成し、これは、おそらく、mRNAの分子内塩基対形成による小さいヘアピンループの形成から生じ、これは、A部位に対するtRNAのアンチコドンループの結合を模倣するようである。最後に、結晶の4回回転軸の周辺のリボソームの配置は、1つのリボソームから次のリボソームへのmRNAの直接的な通り抜けを可能にし、これは、リボソームがどのようにポリソームに密集し、共有されるmRNAおよびtRNAを効率的に使用し得るかを示唆する。
【0121】
(実験)
(モデルmRNA構築物)
モデルmRNAは、最初、ファージT4遺伝子32mRNAに基づいた。3つ全てのmRNAについて(図9)、シャインダルガノ対形成を増加して、16S rRNAとの8つの潜在的な塩基対を可能にし、そしてGGC配列を5’末端に付加して、T7 RNAポリメラーゼによる転写を容易にした。これらの研究において使用したmRNAサンプルを、固相合成(Dharmacon,Inc.,Boulder,CO)によって作製し、そして結晶化における使用の前にゲル精製した。
【0122】
(結晶化、データ収集およびモデルの当てはめ)
Thermus thermophilus 70Sリボソームを調製し、そして精製したE.coliイニシエーターtRNA(Subriden,Rollingbay,WA)およびMK27(配列番号52)、MF36(配列番号51)またはMV36(配列番号50)mRNA(Dharmacon)と共に、またはmRNAを伴わずに、以前に報告された同じ条件(Cateら、1999;Yusupovら、2001)を使用して、共結晶化した。回析データを、以前に記載されたように(Cateら、1999)、シンクロトロン放射を使用して収集し、そしてScalepackおよびDenzo(Otwinowski、1993)を使用して処理した。フーリエ差分マップを、測定されたネイティブ振幅(表V)およびCCP4スートのプログラム(1994)を使用して以前に計算された構造因子の位相(Cateら、1999;Yusupovら、2001)から計算した。mRNAモデルを、O(Jonesら、1997)を使用して当てはめ、そして分子構造図を、Ribbons(Carson、1997)を使用して与えた。
【0123】
(表V:結晶学的データa)
【0124】
【表5】
aリボソーム複合体の結晶を、モデルmRNA MK27、MF36およびMV36(図1)を使用して、「方法」に記載されるように調製した。全てのデータを、Berkeley Center for Structural Biology,Lawrence Berkeley National Laboratoryにて、ビーム線5.0.2にて収集した。
【0125】
*Rsym=Σ|I−<I>I|ΣI。
【0126】
(結果)
モデルmRNA MF36は、ファージT4遺伝子32mRNAに基づいたが(図9)、そのシャインダルガノ配列の対形成の能力を、16S rRNAの3’テールに対してその相補性を伸長することによって、8塩基対にまで増加させた。MV36(配列番号50)およびMK27(配列番号52)mRNAについて、異なるコード領域および下流領域をまた導入した(図9)。Thermus thermophilus 70Sリボソーム、mRNAフラグメント、および全長tRNAまたはリボソームP部位に結合するアンチコドンステムループ(ASL)のいずれかを含む複合体を、記載されるように(Cateら、1999;Yusupovら、2001)、共結晶化した。70SリボソームおよびイニシエーターtRNAを含むが、mRNAを欠く同様の共結晶(Belitsinaら、1981)を、同じ条件下で調製した。データを、シンクロトロン放射を使用して収集し、そして以前に導かれた構造因子の位相(Cateら、1999;Yusupovら、2001)を使用して、フーリエ差分マップを計算した(表V)。
【0127】
図10Aは、2つの型のリボソーム構築物を含む結晶から収集したデータを使用して、MK27 mRNAフラグメント(配列番号52)について計算した、7Åのフーリエ差分マップを示す。一方の構築物において、70Sリボソームは、MK27 mRNA(配列番号52)およびイニシエーターtRNAと結合し;他方の構築物は、同じであったが、mRNAは排除された。mRNA 27マーおよび16S rRNAの3’末端についての偽原子モデル、ならびに、AコドンおよびPコドンについて以前に決定されたモデル(Yusupovら、2001)を、この差分マップに重ねて示す。AコドンおよびPコドンの位置は、このmRNAモデルの中心部分のレジスターに対する密接なチェックを提供し、一方、この差分マップの解像度は、それ自体で、約+/−1ヌクレオチドの精度でmRNAの残りの当てはめを可能にする。
【0128】
電子密度の明確な円柱が、mRNAの5’末端に観察され、その大きさは、予測された8塩基対のシャインダルガノヘリックスと良好に一致する。電子密度における約4ヌクレオチドのギャップが、Pコドンおよびその5’隣接ヌクレオチド(mRNA位置、−1〜+3)の位置で観察される。これは、T.thermophilus 30Sサブユニットについての高解像度構造において見出されたような(Wimberlyら、2000)、mRNAの非存在下で16S rRNAの3’テールの折り畳み戻りによって説明され得;リボソームのPコドン位置への16S rRNAのテールの結合は、mRNA差分マップからのPコドンの差し引きを生じる。さらなる小さいギャップが、mRNAの−4位に見出され、これは、局所的な乱れに起因し得る。Aコドンの位置は、A−tRNAがこれらの複合体中に存在しなくとも、A−tRNAの存在下で見出される位置に近い。その3’末端において、MK27(配列番号52)の差分密度は、このmRANモデルの3’末端の予測された位置(+12位)と良好に一致して終結する。
【0129】
MK36 mRNA(配列番号50)の差分マップは、その3’テールおよびAコドン領域を除いて、MK27 mRNA(配列番号52)のそれと類似し、ここでは、A−tRNAによって通常占められる位置と重複する密度の円柱(Cateら、1999;Ogleら、2001;Yusupovら、2001)が、現れる(図10B)。この予測されなかった特徴は、遺伝子32 mRNA中の相補的配列の分子内塩基対形成(MF36 mRNA(配列番号51)の+4位〜+7位および+12位〜+15位(図9))によって説明され得る。この特徴は、MK−27(配列番号52)の差分マップ(図10A)には存在せず、ここでは、自己相補的配列は、ポリ(A)に置換されている。テトラループ含有ヘリックス(13)からモデル化された4つの塩基対ステムは、過剰差分密度中に収容され得る(図10B)。この様式でモデル化されると、MF36 mRNA(配列番号51)の3’末端は、電子密度の最も強い部分の末端の近くで終結する(図10B)。より弱い密度は、さらに約6ヌクレオチド伸長することが観察され得、これは、MF36 mRNA(配列番号51)の折り畳まれていない形態もまた存在することを示唆するが、これは、低い占有度である。この弱い密度は、約+17位まで延び、これは、そのmRNA鎖の直ぐ3’側の末端(ヌクレオチド+18〜+21)が、折り畳まれていないmRNA配座にて乱れていることを示す。mRNAヘアピン特徴は、図10Cに示されるように、A−部位tRNAのアンチコドンステムループ(ASL)(Cateら、1999;Yusupovら、2001)の位置を占有する。これらの2つの構造の顕著な一致は、そのmRNAヘアピンが、A−部位ASLを模倣するように設計され得、これがおそらく、遺伝子32 mRNAの翻訳の開始において役割を果たすことを示唆する。
【0130】
図11Aは、サブユニット境界から観察されるような、70Sリボソームの完全30Sリボソームサブユニットの状況下のmRNAの経路を示す。mRNAは、上流および下流のトンネルを通過して、境界に接近し、ここで、約8ヌクレオチド(−1〜+7)のみ(AコドンとPコドンとの間の接合部を中心とする)が、露出される。リボソームが環状メッセージ上で翻訳を開始し得ることが、Bretscherによって示されているので(Bretscher、1968)、翻訳開始中の30SサブユニットへのmRNAの結合は、一方または両方のトンネル(これらは、非共有結合的に閉じている)を開けることを必要とし、これは、上流のリーダーの長さに依存する。ヘッドとボディとの間の接触点は、潜在的な「ラッチ」として記載され、この閉鎖が、前進性を保証し、方向性を提供し、そして解離を妨げる、形状を提供する(Schluenzenら、2000)。mRNAとのリボソーム接触の境界(−15〜+16)は、Steitz(Steitz、1969)によって予測された境界(−16〜+16)の実験誤差内である。メッセージを取り囲む16S rRNAの構造の特徴は、部位特異的架橋結果(Bhanguら、1994;BhanguおよびWollenzien、1992;Brimacombe、1995;Dokudovskayaら、1993;Dontsovaら、1992;Greuerら、1999;Juzumieneら、1995;Rinke−Appelら、1993;Rinke−Appelら、1994;Sergievら、1997)の1つ(16S rRNA 1360位とmRNA −1位〜8位との間の60Å)以外の全てと、良好に一致する(8〜28ÅのP−P距離)。
【0131】
mRNAの5’末端は、プラットホームの後ろで始まり(図11B)、ここでこのmRNAは、ヘッドとプラットホームとの間の溝に入り、サブユニットのネックの周りに巻きつき、そしてこのヘッドとショルダーとの間の反対側から出る。mRNAのリボソーム結合部分は、約30のヌクレオチドを含み、約−15位から+15位まで伸び、このネックの周りで最も密に巻かれた領域は、約−3位から+10位まで伸び、AコドンとPコドンとの間の接合部で中心に集まる。mRNAの直接隣接する分子環境は、その結合部位の末端、上流のシャイン−ダルガーノ相互作用の上流の周辺、および+12位周辺の下流領域中、ならびにAコドン中(ここでAコドンはリボソームタンパク質に近接している)を除いて、主に16S rRNA(配列番号45)を含む(図11A)。
【0132】
(上流の相互作用)
シャイン−ダルガーノへリックスは、サブユニットのプラットホームの後ろとヘッドとの間の大きな間隙中に嵌る(図12A)。溶媒側面図において、このシャイン−ダルガーノ間隙は、下のへリックス20、左側の、723隆起ループ、およびタンパク質S11(配列番号34)およびタンパク質S18(配列番号41)、ならびに右側のネックへリックス(へリックス28)およびネックへリックス37により形成される。タンパク質S18(配列番号41)(これは塩基性側鎖および芳香族側鎖に富む)のN末端は、mRNAの5’末端(−15位)において、シャイン−ダルガーノへリックスの主溝に指向される。シャイン−ダルガーノへリックスの上流末端の下の外部密度は、S18(配列番号41)のN末端の15アミノ酸に由来し得、これらのアミノ酸は、30Sサブユニットの高分解構造において無秩序であった(Wimberlyら、2000)。S11(配列番号34)(これはArg 54を含む)のN末端テイルおよびループの両方は、シャイン−ダルガーノへリックスと特異的に相互作用するのに十分に接近している。このシャイン−ダルガーノへリックスの下流末端において、タンパク質S11(配列番号34)のC末端テイルは、−4位〜−6位の周りのmRNAの骨格と相互作用する。
【0133】
シャイン−ダルガーノへリックスのすぐ下流において、mRNAの5’リーダー(−1位〜−4位)は、このサブユニットのヘッドとプラットホームとの間の短いトンネルを通って界面側まで通過し、この界面側で、この5’リーダーは、タンパク質S7(配列番号30)のβヘアピンの先端、690ループの尖部、790ループの副溝側、1505位の周りのへリックス45の塩基、およびへリックス28の925領域により取り囲まれる。mRNAのこの領域は、Eコドン(−1位〜−3位)を含み、この界面へのこのEコドンの完全な接近は、このトンネルにおけるこのEコドンの位置により妨げられる。
【0134】
(PコドンおよびAコドン)
−1位の周りのmRNAにおける鋭いターンの後ろに、PコドンおよびAコドンが、A−tRNAアンチコドンおよびP−tRNAアンチコドンの同時対形成を可能にする、その隣接するコドンの間の約45°のねじれを有する間隙の界面の中央において、このPコドンおよびAコドンのそれぞれのtRNAに対して示される。これら2つのコドンは、16S rRNA(配列番号45)の最後から二番目のステムの軸の上で中心に集まり、ここでこれらのコドンは、16S rRNA(配列番号45)の1400鎖および1500鎖により形成される非正準ヘリックス構造(しばしば、デコード部位と称される)の主溝を占める(図12B)。上記のように、Pコドンは、16S rRNA(配列番号45)の折り畳まれたテイルについて記載された経路と非常に類似した経路に従い、これは、30Sサブユニットの高分解結晶構造におけるmRNAのこの領域を模倣するようである(Wimberlyら、2000)。
【0135】
従って、リボソームとPコドンとの間の相互作用のいくつかの細部は、30S構造から推測され得る。興味深いことに、G926のN1位(これはP−tRNA結合によりケトキサール(kethoxal)から保護される)は、mRNAの非存在下においてでさえ(Moazedら、1990;Moazedら、1986b)、Pコドンのヌクレオチド+1のホスフェートと相互作用するように位置する。観察されたtRNA依存性の保護は、tRNA結合に応答したmRNA鎖(または、mRNAの非存在下において、16Sテイル)の再配置に起因し得る。なぜなら、mRNAの骨格は、このmRNAの−1位付近で、16S rRNAの3’テイルの経路から分岐し始めるからである。改変−干渉研究によっても、30S P部位に対するtRNAPheのmRNA依存性結合におけるG926の重要性が示された(von AhsenおよびNoller、1995);3’テイルはPheコドンを含まないので、この結果は、926相互作用により安定化される、16S rRNAテイルによる見かけのmRNAの模倣が、30S P部位の活性なコンフォメーションの誘発において重要であり得ることを示唆し、そして開始tRNAが、翻訳開始の間にmRNAの30Sサブユニットに独立して結合し得るという事実を説明するのに役立つ(Gualerziら、1977)。
【0136】
16S rRNAの1500鎖は、mRNA鎖に対して直角に横切り、ここでヌクレオチド1498は、Pコドンのヌクレオチド+1のすぐ下に存在する(図12B)。高分解構造(Wimberlyら、2000)において、ヌクレオチド1498のホスフェートは、リボース+1に密集し、そしてその塩基(E.coliにおけるm 3U 1498)は、リボース+2に密集する。これらの相互作用は、A790のN6アミノ基および広範に保存されたG791のN1と、ヌクレオチド1498の非架橋ホスフェート酸素との相互作用により明らかに安定化される。A790とG791の両方は、以前に「クラスIII」塩基として同定されており(Moazedら、1987)、これらのN1位における化学的プローブによる攻撃からの保護は、16S rRNA(配列番号45)におけるコンフォメーションの変化から生じると予想された。なぜなら、同じ保護が、P−tRNA、50Sサブユニットまたは特定の抗生物質により得られたからである。これらのクラスIII保護は、現在、P−rRNAまたは他のリガンドの結合に応答する、最後から二番目のステムへ向かう790ステムループ(へリックス24)の移動(この移動は同時に、790ループの骨格とP−tRNAのアンチコドンステムの底部との相互作用、およびPコドンに対するヌクレオチド1498の密集を生じる)により説明され得る。このような移動は、30Sサブユニットのプラットホームが50Sサブユニットに結合する場合(クリオEM研究において観察される)、この30Sサブユニットのプラットホームの反時計回りの回転と一致する(Lataら、1996)。
【0137】
PコドンとAコドンとの間の接合部において、mRNAは、ヌクレオチド1401のホスフェート(これはこの経路内に直接存在する)によって、そのA−RNA様軌道の継続をブロックされる(図12B)。このことは、mRNAを再指向し、AコドンとPコドンとの間のmRNA中の観察されたねじれを生じる。
【0138】
A部位において、塩基のG530、A1492およびA1493は、Ramakrishnanおよび共同研究者らにより最近示されたように、A部位のtRNA選択に可能な識別メカニズムにおいて、A部位コドン−アンチコドンへリックスの副溝と密接に相互作用する(Ogleら、2001)。さらなる相互作用は、48〜51位の保存されたPNSA配列(これはリボース+5および+6の下に直接存在する)の周りのタンパク質S12(配列番号35)のβヘアピンループにより生じる(Ogleら、2001)。このS12(配列番号35)の部分は、制限的な(非常に正確な)表現型を与える変異の大部分を含む。
【0139】
(下流の相互作用)
Aコドンのすぐ下流で、mRNAは、サブユニットのヘッドとショルダーとの間の第2のトンネル(直径約20Å)を通過して、クリオEM再構築において最初に観察された、30Sサブユニットの溶媒側に至る(Frankら、1995b)。mRNAの周りにおけるこのトンネルの終結は、最初に、mRNAの移動の前進性および方向性を保証することが示唆された(Schluenzenら、2000)。界面側から、このmRNA(約+7〜+10位)は、RNAの層を通過し、ここでこのmRNAは、上のへリックス34、右側のヌクレオチド1397(へリックス28)におけるネックの塩基、下の5’ヘアピンループ(16S rRNA(配列番号45)のヌクレオチド16)、および左側の530ループにより取り囲まれる(図13A)。RNA層において、塩基のC1397およびU1196(Wimberlyら、2000)は、それぞれ、+7位および+9位の周りでmRNAに向かって方向付けられ、そしてAコドンからすぐ下流にmRNAを位置決めするのを助け得る。
【0140】
最後に、mRNA(約+11〜+15位)は、タンパク質の層を通過して、サブユニットの後ろの溶媒に至る。溶媒側から見ると(図13B)、このmRNAは、上のタンパク質S3(配列番号26)、右側のS4(配列番号27)および左下のS5(配列番号28)により取り囲まれる。これら3つのタンパク質は、塩基側鎖(S3(配列番号26)由来のArg131、Arg132、Lys135およびArg164、S4由来のArg47、Arg49およびArg50、ならびにS5(配列番号28)由来のArg15およびArg24を含む)の高密度のアレイを下流のトンネルに突出させ、これらは、その骨格ホスフェートとの相互作用を介してmRNAの下流領域を位置決めするようである。
【0141】
(mRNAへリックス、シュードノット(pseudoknot)およびフレームシフト)
全てのmRNA鎖は、ヘアピンおよび他の分子内塩基対形成構造を形成する能力を有するが、コドンは、一本鎖形態で読みとられなければならない。従って、リボソームは、現在のところ未知のある機構によって、mRNAの二次構造を解き得る。mRNAヘアピンは、図13Bに示される視点から、30Sサブユニットの後ろのリボソーム表面に接近する。RNAへリックスは、狭い下流トンネルを通過するには大きすぎるため、mRNA構造の巻き戻しは、+13位〜+15位の周りで、トンネルの入口かまたは入口付近において生じるようである。λ cro mRNAの下流(+11〜+17、+25〜+31)のヘアピンの巻き戻しは、開始tRNAの結合に依存して、下流トンネルを通るそのスレッディングから生じ得る(Balakinら、1990)。
【0142】
mRNAヘリカーゼに可能な機構の基礎は、タンパク質S4(配列番号27)およびS5(配列番号28)が30Sサブユニットのボディに組み込まれているのに対し、S3(配列番号26)がヘッドの一部であるという事実により示唆される。入りヘリックスの一方の鎖がS4(配列番号27)および/またはS5(配列番号28)に結合し、他方の鎖がS3(配列番号26)に結合する場合、転位の間に生じると考えられるヘッドの回転運動(Agrawalら、1999b)は、一度に約3つの塩基対(すなわち、1コドン)の速度で、へリックスの物理的破壊を生じ得、同時にリボソームを通してmRNAを前進させる。
【0143】
興味深いことに、下流のトンネルの入口点の付近のmRNAと面するタンパク質S5(配列番号28)の部分は、二本鎖RNA結合ドメイン(dsRBD)と同じ三次元折り畳みを有する(Brungerら、1998)。しかし、このdsRBDコンセンサスに対するその比較的低い配列相同性は、少なくともXenopus Xlrbpaタンパク質およびdsRNAを含む複合体について観察された様式において、二本鎖RNA(dsRNA)へのその強力な結合に対する支持を提供しない(Brungerら、1998)。
【0144】
翻訳を混乱させることが示された1つのタイプの構造は、mRNAシュードノットである。特定の下流のシュードノットは、「シフト性(shifty)」配列がデコード部位に位置する場合、翻訳リーディングフレームを−1シフト促進する(多くのウイルスによる翻訳調節のために利用される機構)という知見が、最も十分に裏付けられる(Alamら、1999;Brierleyら、1989)。このシュードノットに最適な位置は、+11位と+15位との間にあり、これは、提案されたmRNAヘリカーゼの位置でmRNAが下流のトンネル(+13〜+15)に入る領域と密接に対応する。フレームシフト事象についての簡単な説明は、このシュードノットの構造がヘリカーゼの形状とそれほど一致せず、下流のトンネルへのmRNAの侵入をブロックするということである。EF−G触媒型転位の際、mRNAの順方向の移動が遅らされ、mRNAの跳ね返りおよび−1リーディングフレームへの有利なずれを生じる。
【0145】
(結晶格子におけるrnRNAの経路)
本発明者らの結晶において、Thermus thermophilus 70Sリボソームは、I422正方空間群に密集し(Cateら、1999)、ここで隣接するリボソームは、4重軸の周りで中心に集まるテトラマーの層において対称的に構築される。図14は、この結晶格子における4重軸の周りのリボソームの配置を示す。この配置の目立った特徴は、この配置が、1つの70Sモノマー中のmRNAの3’末端と隣接する70SモノマーのmRNAの5’末端とを隣接して配置することであり、原則的に、テトラマー中の4つ全てのリボソームを通る単一の連続したmRNAのスレッディングの指向を可能にする。
【0146】
結晶の密集は、リボソームがインビボで、ポリソーム中で互いに相互作用する様式の1つを示し得る。興味深い結果は、1つのリボソームのE部位がその隣接するリボソームのA部位に直接隣接していることであり、その結果、1つのリボソームから出てくるtRNAは、そのシンセターゼによる供給の後、隣のリボソームに入るように直ちに配置される。従って、事実上、所定のtRNAは、ポリソームを通してその固有のコドンに従う。
【0147】
(結論)
本発明者らの7つの異なるマップは、リボソームを通るmRNAの経路を明確に示し、そしてこのmRNAの長さに沿った各々の位置を取りまくリボソームの分子の特徴を同定する。T.thermophilus 70Sリボソームを通る、mRNAにより取られる経路は、全ての細菌リボソームおよび古細菌(archaeal)リボソームに一般化され得るようであり、これらはmRNA結合チャネルを構築する構造の特徴の全てを共有する。実際に、真核生物リボソームには存在しないシャイン−ダルガーノ相互作用を除いて、本発明者らは、mRNAが全てのリボソーム中の非常に類似した経路に従うと予測する。主な答えのない疑問は、タンパク質合成の転位工程の間に、mRNAの移動がtRNAの移動とどのように結びつき、弱いコドン−アンチコドン相互作用の破壊および翻訳リーディングフレームの損失を防止するかということである。可能性のある答えは、mRNAと接触するリボソームの特徴のいくつかがそれ自体移動性であること、およびこのリボソームが、転位の間、このリボソームの移動とtRNAの移動とを同調させることである。上記の可能な例は、30Sサブユニットのヘッドである。別の自明な候補は、最後から2番目のステムを小サブユニットのヘッドと連結する非正準へリックスである、デコード部位自体である。
【0148】
AコドンおよびPコドンは、16S rRNA(配列番号45)の普遍的に保存された1400鎖および1500鎖から形成される、この異常なヘリックスの主要な溝を通って貫く(図12B)。デコード部位のヘリックスは、橋B2aを介して、上記されるようなtRNA移動およびサブユニット間シグナル伝達において役割を果たすことが提唱されているドメインIVのラテラルアーム中の23S rRNA(配列番号23)の普遍的に保存された1935鎖および1965鎖によって形成される、別の規範的ではないヘリックスに順々に連結される。面白いことに、2つの規範的ではないヘリックスの間の連結は、23S rRNA(配列番号23)のヘリックス69によって生成され、これは、ヘアピンループを介して16S rRNA(配列番号45)のデコード部位と相互作用するだけではなく、A−tRNAおよびP−tRNA両方のDステムと同時に相互作用する(図12C)。このことは、mRNA転位とtRNA転位とを関連付けるための可能な構造的基礎を示唆する。
【0149】
(実施例3−翻訳開始因子3と30Sリボソームサブユニットとの相互作用を決定するためのリボソーム構造の使用)
本実施例において、本発明者らは、リボソーム標的部位を同定および特徴付けるために、リボソームについての生化学的フットプリントおよび構造的情報をどのように使用して、リボソーム構造上の機能的に有意な分子のドッキングを容易にするのかを示す。本実施例は、翻訳開始因子3(IF3)のドッキングを記載するが、結果を、リボソームによって結合され得る任意の分子に対して一般化し得る。このドッキングから誘導される情報を使用して、リボソームとリガンド(例えば、IF3)との間の相互作用を破壊するための1つ以上の標的部位を同定し得る。リボソーム標的部位構造の同定および特徴付けは、ドッキングした構造によって特徴付けられて、その部位の3次元形状および電荷分布についての情報を提供し、当業者がその標的部位を占め得る他の分子を設計することを可能にする。リガンドの結合が適切なリボソーム機能に必要な場合、リボソーム−リガンド結合相互作用を破壊または阻止するように設計された分子は、タンパク質翻訳を阻害し得る。このような分子は、抗生物質、防腐剤、およびリボソーム機能の生化学的メカニズムをさらに規定する因子として、有用性を有する。
【0150】
本実施例において、本発明者らは、ヒドロキシルラジカルフットプリンティングおよびFe(II)誘導体化IF3による指向性プローブ化をどのように使用して30Sリボソームサブユニット中の16S rRNA(配列番号45)およびtRNAMet fに対するIF3(配列番号53および54)の相互作用をマッピングするのかを示す。本発明者らの結果は、プラットホームインターフェイスでのCドメイン、およびE部位でのNドメインを有する開始tRNAの逆側上にIF3(配列番号53および54)の2つのドメインを配置する。Cドメインは、23S rRNA(配列番号23)のヘリックス69の位置と一致し、これは、サブユニット結合をブロックするIF3(配列番号53および54)の能力を説明する。Nドメインは、タンパク質S7(配列番号30)およびS11(配列番号34)に隣接し、そしてE部位のtRNA結合を干渉し得る。本発明者らのモデルは、IF3が開始tRNA選択に間接的に影響することを示唆する。
【0151】
(序論)
開始中、リボソームは、メッセンジャーRNAの翻訳のために正確なリーディングフレームを選択しなければならない。このメッセージの3連のコドン開始シグナルは、開始tRNAのアンチコドンと塩基対形成するように30SサブユニットのP部位にて同定および整列されなければならない。大サブユニットが結合し得そしてタンパク質合成が始まり得る前に、小リボソームサブユニットと、P部位における開始tRNAとmRNAとの間で、複合体が形成される(GualerziおよびPon、1990;Gualerziら、2000)。原核生物細胞および真核生物細胞の両方が、この経路における中間体を形成するために、複数のタンパク質因子を必要とするが、関連する因子および形成される中間体において有意な差異が存在する。開始は、翻訳の律速段階であり、そして翻訳の調節が最も頻繁に生じる段階である(Sonenbergら、2000)。
【0152】
GTP補因子に加えて、3つのタンパク質因子IF1、IF2およびIF3は、細菌中での好適な開始に必要とされる(GualerziおよびPon、1990)。GTPaseであるIF2は、開始tRNAが30SサブユニットのP部位へ結合することを刺激する(Canonacoら、1986)。化学的フットプリンティング研究は、IF1が、30SサブユニットのA部位に結合したtRNAによって保護されるヌクレオチドを保護することを示した。このことは、IF1が、開始中にA部位へのtRNAの結合をブロックするという仮説を導く(Moazedら、1995)。30Sサブユニットに結合したIF1の、最近の結晶構造は、IF1が30S A部位を占めることを示す(Carterら、2001)。
【0153】
いくつかの活性が、開始中のIF3に起因した。30Sサブユニットに優先的に結合することによって、IF3は70Sリボソームを解離して、これらを開始について利用可能にする(SubramanianおよびDavis、1970;Grunberg−Managoら、1975)。IF3はまた、インビボおよびインビトロの両方で開始tRNA選択の正確さを増加させる(Risuleoら、1976;Hartzら、1989;Sussmanら、1996;Meinnelら、1999;Sacerdotら、1999)。近年、サブユニットの再循環におけるIF3の役割が提唱された。なぜなら、IF3は、終止後複合体からの脱アシル化されたtRNAの解離を増強することが観察されたからである(Karimiら、1999)。IF3がこれらの機能を達成するメカニズムは、十分には理解されていない。
【0154】
IF3は、2ドメインの20kDタンパク質であり、このN末端ドメイン構造およびC末端ドメイン構造が、X線結晶学およびNMRの両方によって決定された(Biouら、1995;Garciaら、1995a;Garciaら、1995b)。このNドメインは、α/β折り畳みを有し、そして塩基性残基および芳香性残基に富む、伸長したαヘリックスエレメントによって、Cドメインに連結される。このリンカーヘリックスは、結晶構造およびNMR構造の両方において(異なる程度ではあるが)部分的に乱れている。NMRによるインタクトな全長タンパク質の動力学研究は、リンカーが溶液中で可撓性であるという概念を支持する(Moreauら、1997)。IF3のCドメインは、2つのαヘリックスによって支持される4鎖βシートからなる古典的なRNA結合ドメインに折り畳まれる。
【0155】
IF3の、30Sサブユニットとの相互作用部位は、多くのアプローチを使用して研究され、時々相反する結果を得た。免疫電子顕微鏡は、30Sサブユニットの開裂にてIF3を位置付けた(StoefflerおよびStoeffler−Meilicke、1984)。IF3は、30Sサブユニットの広範な領域にわたって分布するタンパク質のセットである小サブユニットS7(配列番号30)、S11(配列番号34)、S12(配列番号35)、S13(配列番号36)、S18(配列番号41)、S19(配列番号42)およびS21(配列番号XX)に架橋された(Coopermanら、1977;MacKeenら、1980;Coopermanら、1981;Boileauら、1983)。IF3はまた、30Sサブユニットの中央ドメインおよび3’マイナードメインにおいて、それぞれ、16S rRNA(配列番号45)のヘリックス26および45に架橋された(Ehresmannら、1986)。ケソザール(kethoxal)、DMSおよびCMCTを使用する化学的フットプリントは、16S rRNAの中央ドメインのヘリックス23および24に見出された(Muralikrishnaら、1989;Moazedら、1995)。NMR研究は、IF3が残基1495〜1542を含む16S rRNAの3’末端のフラグメントと相互作用することを示した(Wickstromら、1986)。凍結電子顕微鏡(クリオEM(cryo−EM))再構築は、小サブユニットのインターフェイス面にてIF3のC末端ドメインを位置付けた(McCutcheonら、1999)。対照的に、Thermus thermophilus(Tth)30Sサブユニットの結晶に浸漬されたIF3のCドメインの、最近の結晶学的分析によって、30Sサブユニットの逆面上のC末端ドメインについての結合部位が明らかになった(Piolettiら、2001)。
【0156】
ここで、本発明者らは、ヒドロキシルラジカルフットプリンティングおよび指向性ヒドロキシルラジカルプローブ化の組み合わせを使用して、16S rRNA(配列番号45)に関して、30Sリボソームサブユニット上のIF3(配列番号53および54)結合部位を位置付けるための独立したアプローチを記載する。指向性プローブ化を、IF3の表面上の異なる14の位置につながれたFe(II)から実施した。16S rRNAおよび開始tRNAの指向性切断の部位は、フットプリンティングデータと一緒に、30Sサブユニットの結晶学的に決定された構造における、IF3のNドメインおよびCドメインの位置をモデリングするために十分な制約を提供した(Schluenzenら、2000;Wimberlyら、2000;Yusupovら、2001)。本発明者らの知見は、IF3のサブユニット解離活性を説明し、そしてその他の生物学的役割に対する手がかりを提供する。
【0157】
(実験手順)
(IF3の変異誘導体の調製)
IF3をコードする遺伝子を、都合よいクローニングのための制限部位を含み、かつまた効率的な過剰発現を促進するために、IF3の規範的でなく独特なAUU開始コドンをAUGに変化させたプライマーを使用するPCRによって、MRE600ゲノムDNAより増幅した。PCR産物を、pET−24b(Novagen)にサブクローニングし、迅速な精製のためのC末端His6タグを含む組換えIF3を得た。プローブ化実験におけるコントロールとして使用するためのIF3のシステインを含まない改変体を、部位特異的変異誘発(Kunkelら、1987)によって生成した。ここで、位置65で唯一存在する天然のシステイン残基を、アラニンに変異させた。この変異は、種々の種由来のIF3の系統学的アラインメントに許容された置換である。単一のシステイン残基を、IF3の表面上の15個の異なる位置(R11、Q22、E44、A49、E76、K79、S80、S81、K97、E104、K123、M135、Q138、M142およびQ180)での部位特異的変異誘発によって導入した。この部位は、全体的には保存されておらずそしてIF3タンパク質の表面上に位置する。1mM IPTGの添加3時間にわたって過剰発現するように対数増殖期(mid−log)の細胞を誘導することによって、野生型構築物および変異体構築物を、E.coli BL21(DE3)に過剰発現させた。
【0158】
細胞を、100mM NaCl、100mM Tris−Cl(pH7.5)を含有する緩衝液中に再懸濁し、そしてリゾチームの存在下で凍結融解によって溶解した。細胞溶解物を、JA−20ローター中で10,000rpmにて15分間遠心分離し、そして上清を、再懸濁緩衝液で予め平衡化したNi−NTAアガロース樹脂(Qiagen)に移した。次いで、1M NaCl、100mM Tris−Cl、10%グリセロール、および6mM β−MEを含有する高塩濃度(high−salt)の緩衝液で,この樹脂を徹底的に洗浄した。次いで、IF3を、500mMイミダゾールで溶出し、そして122mM NH4Cl、80mM K+カコジル酸、10mM MgCl2、1mM DTT(pH7.2)を含有する貯蔵緩衝液を3回交換して透析した。タンパク質濃度は、Bradfordアッセイによって推定した。精製したタンパク質を、瞬時に凍結し、そして−80℃にてアリコートで貯蔵した。この様式で精製したIF3誘導体を、クーマシーブルー染色したSDS−PAGEによって95%を超える純度と判定した。
【0159】
(mRNAおよびtRNA)
以下の配列:5’−GGCAAGGAGGUAAAAAUGUUUAAACGUAAAUCUACU−3’(配列番号55)を有する、合成36ヌクレオチドT4遺伝子32mRNA誘導体を、Dharmaconより購入した。E.coli tRNAMecfを、Sigmaより購入した。mRNAおよびtRNAを、それぞれ18%および10%のポリアクリルアミド変性ゲルにて精製した。tRNAを、仔ウシ腸アルカリホスファターゼ(Boehringer−Mannheim)で処理し、続いて、[32P]−γ−ATP(ICN)で5’末端標識した。tRNAを、再度ゲル精製し、そして10mM MgCl2および75mM Tris−Cl(pH7.5)を含有する緩衝液中にて、55℃で3分間再生し、続いて、室温までゆっくりと冷却した。
【0160】
(開始複合体形成)
30Sサブユニットに結合したIF3の複合体を、記載される(Moazedら、1995)ように調製した。典型的には、0.4μMの濃度の30Sサブユニット(Moazedら(1986a)に記載されるように調製した)を、122mM NH4Cl、80mM K+カコジル酸、10mM MgCl2、および1mM DTTを含有する緩衝液(pH7.2)中にて、42℃で15分間加熱活性化した。精製したIF3を、最終濃度4μMまで添加し、そして37℃で5分間、その後、室温で30分間インキュベートした。
【0161】
(IF3のケソザールおよび溶液Fe(II)−EFTAフットプリンティング)
30Sサブユニットに結合したIF3の複合体を、以下のようにケソザールでプローブした。40pmolの30Sサブユニットを、100μLの反応容量中で10倍モル濃度過剰のIF3とともにインキュベートした。30Sサブユニット単独のコントロールサンプルを、IF3を含むサンプルと同じく処理した。ケソザール改変を、記載される(Moazedら(1986a)ように実施し、ここで、37mg/mLのケソザール4μLを、各サンプルに添加し、そして37℃で8分間インキュベートした。次いで、サンプルを、25mMホウ酸カリウムに調整し、そしてエタノールで沈殿させた。ヒドロキシルラジカルフットプリンティング実験を、各反応物に添加したプローブ化試薬の最終濃度が以下であることを除いて、記載される(PowersおよびNoller、1995)ように実施した:1mM Fe(NH4)(SO4)2−6H2O、2mM EDTA、5mMアスコルビン酸および0.05%H2O2。反応物を、氷上で10分間インキュベートし、等量の7.6mg/mLチオ尿素でクエンチし、そしてエタノールで沈殿させた。ケソザールおよびヒドロキシラジカルフットプリンティング実験の両方において、rRNAを抽出し、そして改変からの保護部位を、記載される(Stermら、1988b)ように、プライマー伸長によって同定した。
【0162】
(Fe(II)−BABE−誘導体化IF3の調製)
Fe(II)−BABEとIF3のシステイン含有変異体との結合体化を、実質的に記載される(CulverおよびNoller、2000)ように実施した。2〜6nmolのIF3誘導体各々を、122mM NH4Cl、80mM K+カコジル酸、10mM MgCl2、1mM DTTを含有する緩衝液(pH7.2)100μL中にて、100nmol Fe(II)−BABEとともに37℃で30分間インキュベートした。インキュベーション緩衝液での複数回の洗浄を用いて、遊離Fe(II)−BABEを、Microcon−10微量濃縮器で誘導体化タンパク質から分離した。モック改変反応もまた、コントロールとしてのシステインを含まないIF3で実施した。
【0163】
(指向性ヒドロキシルラジカルプローブ化)
Fe(II)結合体化IF3を含むIF3−30S複合体を、上記のように形成した。遊離した、過剰のIF3を、microcon−100微量濃縮器にてこの複合体を遠心分離することによって除去し、そしてさらなる500μlの緩衝液を通してスピンすることによって洗浄した。単離したIF3−30S複合体を、100μlにして、0.025% H2O2および5mMアスコルビン酸でのヒドロキシルラジカル形成を開始することによってプローブした。反応物を、氷上で10分間インキュベートし、そして20mMチオ尿素でクエンチした。16S rRNAを抽出し、そして記載される(Sternら、1988b)ようにプライマー伸長によって分析した。切断強度を、記載される(Josephら、1997)ように、コントロール配列決定バンドに対する各バンドの強度に従って、強い、中程度または弱いと示した。
【0164】
開始tRNAの指向性プローブ化について、10pmolの加熱活性化した30Sサブユニットを、20pmol mRNA、1pmol 5’末端標識した開始tRNAおよびFe(II)誘導体化IF3とともに、25μl中にて37℃で10分間同時インキュベートし、続いて、室温で30分間インキュベートした。結合していないmRNA、tRNAおよびIF3を、microcon−100中でスピンすることによって除去した。複合体を、25μl容量にして、上記のようにプローブした。反応物をエタノール沈殿し、そして15%の変性PAGEで電気泳動した。
【0165】
(結果)
(ヒドロキシラジカルフットプリンティング)
本発明者らは、組換え野生型IF3の30Sサブユニットへの結合を、16S rRNA(配列番号45)上のその以前に決定されたケソキサール(kethoxal)フットプリント(Moazedら、1995)を再現することによって試験した。図15のレーン3〜5(左パネル)は、精製された組換えIF3が、ケソキサールによるN1/N2における改変から、ヌクレオチドG700およびG703を保護することを示す。組換えIF3はまた、沈降分析により、密接連結(tight−couple)70Sリボソームをサブユニットに解離し得た(データは、示さない)。
【0166】
IF3結合部位をさらに規定するために、本発明者らは、結合したIF3の存在下で、遊離Fe(II)−EDTAを用いて溶液中で生成させたヒドロキシラジカルからの16S rRNA(配列番号45)の糖−リン酸骨格の保護をモニターした。ヒドロキシラジカル攻撃に対するRNA骨格の感受性が二次構造から独立しているので、これらのデータは、RNAの不対塩基部分を特異的に改変する化学プローブからの保護と相補的である。保護を、プライマー伸長によってモニターし、オートラジオグラフィーの視覚的検査によって分類した(図16Aおよび16B)。
【0167】
保護されたヌクレオチドは、16S rRNAの中心ドメインのヘリックス23およびヘリックス24(これらは、上記のように、サブユニット界面に位置する)にクラスター化される。ヘリックス23において、ヌクレオチド685〜688および693〜703は、保護される(図16B);さらに、広範囲なフットプリントが、ヘリックス24において、774位〜776位、783位〜793位、799位〜802位、および807位〜810位に観測された(図16A)。これらのヌクレオチドは、塩基G700、U701、G703、G791、およびU793を取り囲み、これらは、IF3によってケソキサールおよびCMCTによる攻撃から保護される(Muralikrishnaら、1989;Moazedら、1995)。ヘリックス24における保護されたヌクレオチドは、3’方向でゆらぎ(staggered)、これは、IF3がこれらの位置でRNAヘリックスの副溝と相互作用することを示唆する。IF1およびIF2もまた30S複合体に存在する場合、775位の周りのヌクレオチドのいくらかがより強力に保護されるようであることを除いて、IF3依存保護パターンが変化せず、これは、IF3の結合が、他の開始因子の存在または非存在下で同様であることを示す(図16A)。
【0168】
(IF3−30S複合体の直接的なヒドロキシラジカルプロービング実験)
システインを含まないIF3改変体および単一システインを含有するIF3改変体を過剰発現し、精製し、そしてFe(II)BABE誘導体化した後、本発明者らは、これらの誘導体化されたタンパク質が正常に30Sサブユニットに結合する能力およびリボソームの解離を促進する能力を試験した。図15は、タンパク質の全てが、Fe−C79構築物を除いて、ヌクレオチドG700およびG703をケソキサール改変から保護し得たことを示す。同様に、Fe−C79以外の全てが、沈降分析によって判断されるように、リボソームをサブユニットに解離し得た(データは示さない)。従って、Fe−C79を、引き続くプロービング実験から排除した。Fe(II)−BABEを用いたIF3の誘導体化の位置を図17Aに示す。
【0169】
Fe(II)−IF3−30S複合体の直接的なヒドロキシラジカルプロービングを、実験手順に記載されるように、実行し、そして評点付けした。フットプリントがプラットホームの690および790のステムループに密に局在化するが、試験される15個の位置のうちの6個につながれるFe(II)から生成されるヒドロキシラジカルは、16S rRNAの4つのドメインのちの3つを切断する(図17Bおよび17C)。切断標的が二次構造において広範に分布するものの、これらは、プラットホームのエレメント、最後から2番目のステム、および30Sサブユニットのヘッドを含む、裂溝(cleft)を整列させる領域に局在化される。
【0170】
ヒドロキシルラジカルがIF3のC末端ハーフにつながれたFe(II)から生成する場合、最も強い切断は、790ループおよびサブユニット界面の最後から2番目のステムの頂部において生じる。第1に97位(C−ドメインのβ鎖)そしてより少ない程度に135位(β鎖2およびα−ヘリックス2を接続するループ)につながれたFe(II)から生成するヒドロキシラジカルは、690およち790のループならびに925領域、1228領域、1338領域、および1400領域にヌクレオチドにおいて、16S rRNAを切断する。16S rRNAのこれらの特徴は、P部位を取り囲む(Moazedら、1990;Yusupovら、2001;上記を参照のこと)。これら2つのプロービング位置はまた、デコード部位近くの最後から2番目のステムの頂部のヌクレオチドを切断する。C−ドメインのヘリックス1の開始部にある104位につながれるFe(II)は、最後から2番目のステムの残基1482〜1487を弱く切断する(図17Bおよび17C)。
【0171】
690および790のステムループはまた、ヘリカルリンカーにおける76位および80位につながれるFe(II)によって切断される。これらの2つのプロービング部位からの切断のパターンは、ほとんど同一であり、ヌクレオチド699〜705において最も強いヒットを生じる(図17B)。N−ドメインの球状部分において、位置11につながれたプローブのみが、690ループの頂端において16S rRNAを切断した(図17B)。Bacillus stearothermophilus由来のIF3のN−ドメインの結晶構造において、E.coliの11位に対応する残基は、N−ドメインとC−ドメインとの間のリンカー領域に平行な伸長ループにある。従って、この残基は、IF3のN末端にあるが、実際に、C−ドメインに向けられる(図17A)。22位、44位、49位および65位のプローブは、16S rRNAを切断しない。
【0172】
(30S P部位に結合される開始tRNAの直接的ヒドロキシラジカルプロービング)
P部位結合開始tRNAに関してIF3の方向を束縛するために、tRNA骨格の切断は、32P末端標識開始tRNA、mRNA、およびFe(II)−IF3を含む30Sサブユニット複合体の直接的なプロービングによって試験された。3つのつながれたFe(II)−IF3プローブは、特徴的に異なる位置において、30SサブユニットP部位に結合した開始tRNAの骨格を切断する(図18)。135位のプローブは、それぞれ、アンチコドンステムとDステムと開始tRNAのアンチコドンの間の接合部のヌクレオチド26〜29および35〜37を切断する。76位および80位のプローブは、Dループのヌクレオチド3〜5および13〜24において、tRNAMet fを切断する。C−ドメインプローブ(135)およびリンカープローブ(76および80)は、tRNAの対向面においてヌクレオチドを切断し、これは、IF3の2つのドメインがtRNAの対向する側に位置することを示す。
【0173】
(IF3−30Sサブユニット相互作用のモデリング)
本発明者らは、30Sサブユニットの3次元構造の状況において、指向されたヒドロキシプロービングおよびフットプリンティングからの生化学的制約を最大限に満足するためのIF3の位置および配向をモデル化した。プロービングおよびフットプリンティング実験を全長IF3を用いて行ったが、N−ドメインおよびC−ドメインの構造が別々に解かれるので、IF3の各ドメインを個々にモデル化した。
【0174】
Fe−BABE誘導体化IF3を使用する最も強い切断は、790ループの頂部および最後から2番目のステムの頂部におけるFe−C97に由来し、これは、明かに、C−ドメインが、16S rRNAのこの領域に対してそして30Sサブユニットの界面側に対して近いことを示す。従って、本発明者らは、16S rRNA上でのIF3のヒドロキシラジカルフットプリントを効果的に覆う、30Sサブユニットのプラットホームの界面表面に直接結合したC−ドメインをモデル化した(図19)。この解釈は、リボソームの最近の結晶構造の解析によって支持される(Wimberlyら、2000;Yusupovら、2001;上記を参照のこと)。これらは、16S rRNA上の小さなサブユニットタンパク質のヒドロキシラジカルフットプリントの圧倒的大部分(Powersら、1995)が、コンフォメーションの変化によって誘導される間接的な保護よりもむしろ、直接的なタンパク質−rRNA相互作用を反映することを示す。
【0175】
Fe−C97プローブおよびFe−C135プローブが、中程度〜弱い程度の強度で30Sサブユニットのヘッドのヌクレオチドを切断するので、本発明者らは、C−ドメインにおいてこれらの残基を、30S A部位の方向でヘッドに向かって裂溝を面するように配向させた(図19C)。IF3のC−ドメインの配向および位置は、さらに、5.5Aリボソーム構造に存在するP部位結合tRNAとの立体的衝突を避けることによって制約される。この配向において、C−ドメインのα−ヘリックスは、16S rRNAヘリックス24の副溝と相互作用する。a−ヘリックス1におけるリシン−110からロイシンへの変異は、IF3の30Sサブユニットへの結合を実質的に消滅させ、これは本発明者らの配置と一致する(De Bellisら、1992)。
【0176】
C−ドメインのこの配向の結果として、C−ドメインの残基M135が、P部位結合tRNAのアンチコドンループに面する。これは、Fe−C135による開始tRNAコドンの観測された切断と一致する。IF3のC−ドメインのこの配向が切断データとの一致を最大にするが、それにもかかわらず、3’メジャードメインにおけるプロービング位置のうちのいくつかとそれらの標的との間の距離は、以下に議論されるように、それらの切断強度から推測される距離よりも遠い。
【0177】
IF3のN末端ハーフは、塩基性残基および芳香族残基がリッチな高度に保存されるリンカー領域を含む。この因子のこのハーフからの切断データが、リンカー領域からのヒットによって実証されているので、IF3のN末端ハーフをドッキングする際の本発明者らの第1工程は、リンカーを位置付けることであった。リンカー領域のプローブは、690ステムおよび790ステムの中程度および下の部分を切断するので、これを、プラットホームのこの領域にわたるようにモデル化した(図19C)。
【0178】
N−ドメインの球状部分の配置は、そのドメイン由来の大部分のプローブが16S rRNAを切断しないので、あまり確かではない。リンカーの位置によって大きく制約される図19Cに示される位置は、11位から得られた切断、16S rRNAを切断した孤立したN末端プロービング部位と一致する。この配置は、リボソームタンパク質S7(配列番号30)とS11(配列番号34)との間(これらの両方ともが、IF3に架橋されている(MacKeenら、1980;Boileauら、1983)に、N−ドメインの球状部分を押し込める(wedge)。タンパク質リッチ環境におけるN−ドメインの配置は、これがモデル化の制約として明確には使用されなかったものの、22位、44位、49位、および65位におけるN末端プローブからのヒットの非存在を説明する。
【0179】
IF1が開始の間、30SサブユニットのA部位に重なるが、本発明者らのモデルにおいて、IF3のN−ドメインおよびC−ドメインは、開始tRNAの対向面にあり(図20Aおよび20B)、E部位にNドメインを配置する。この配置についてのさらなる支持は、IF3のリンカー領域における76位につながれたFe(II)由来の開始tRNAのDループの切断に由来する(図20B)。溶液散乱研究は、本発明者らの知見と一致して、IF3の2つのドメインが互いに相互作用しないこと示し(Kyciaら、1995)、これはまた、IF3についての拡大されたコンフォメーションを支持する。クリオEM研究(McCutcheonら、1999)において観測されるように、これらが相互作用する場合、IF3においてまたは30Sサブユニットにおいて生じ得るコンフォメーション変化によって本発明者らのモデルがどのように影響するかを述べることができないことを注意する。
【0180】
(考察)
本発明者らのモデルにおいて、IF3のCドメインが、広範な生化学的研究および生物物理学的研究によって支持される配置の、プラットホームの界面表面におけるヘリックス23、ヘリックス24、およびヘリックス45と相互作用する。免疫電子顕微鏡は、IF3を30Sサブユニットの界面表面上に限定した(StofflerおよびStoffler−Meilicke、1984)。ヌクレオチドG700、U701、G703、G791、およびU793(これらは、小さなサブユニットの界面に位置付けられる)は、ケソキサールおよびCMCT改変から保護される(MuralikrishnaおよびWickstrom、1989;Moazedら、1995)。さらに、G791のAへの変異は、30Sサブユニットに対するIF3の結合親和性を10倍減少させる(Tapprichら、1989)。ヘリックス45とIF3との間の架橋はまた、本発明者らのモデルにおけるヘリックス45とCドメインとの間の接触と一致する(Ehresmannら、1986)。別の研究において、30SサブユニットへのIF3の結合は、U793(ヘリックス24内)とG1517(ヘリックス45内)との間の分子内架橋を妨害した(Shapkinaら、2000)。30SサブユニットをともなうIF3の最近のクリオEM研究は、プラットホームの界面側のCドメインと同じ寸法の電子密度を同定した(McCutcheonら、1999)。さらに、C−ドメインのみを含むIF3の欠失変異体は、全長IF3のヒドロキシラジカルフットプリントと同一の、ヘリックス23およびヘリックス24上のヒドロキシラジカルフットプリントを生成する(A.D.およびHEN、未公開の結果)。
【0181】
C−ドメインの本発明者らの位置付けが27ÅのクリオEM研究(McCutcheonら、1999)と一致するが、N−ドメインの位置付けは、異なる。クリオEM研究において、陽性差異密度(positive difference density)の3つの領域および陰性差異密度の1つの領域を同定した。N−ドメインを、プラットホームから30Sサブユニットの頚部にわたる陽性差異密度にあてはめ、一方、残りの差異密度は、IF3結合において生じたコンフォメーション変化に起因させた。本発明者らのデータは、プラットホームと連続する陽性密度の非割り当て領域におけるN−ドメインの位置により密接に当てはまる。次いで、本発明者らは、陽性差異密度および陰性差異密度の残りのローブを、30SサブユニットのヘッドがP部位に対するA部位の方向から旋回する30Sサブユニットのコンフォメーションの変化に帰せた。この動きは、いくつかのヌクレオチドをC−ドメインに近いヘッドにおいて切断し、これは、観察された切断の強度とFe−C97の位置およびFe−C35の位置からのプローブ−標的距離との間の矛盾を調和するのに役立つ。
【0182】
IF3についての本発明者らのモデルがクリオEMデータと一致するが、IF3のC−ドメインについての本発明者らの立場は、IF3のC−ドメインを浸された(soaked)30Sサブユニットの最近報告された結晶の分析とは実質的に異なる(Piolettiら、2001)。Piolettiらは、30Sサブユニットの対向する面にC−ドメインを配置し、ヘリックス23およびヘリックス26の溶媒面と相互作用させる。本発明者らのフットプリンティングのデータも本発明者らの直接的なプロービングデータも、C−ドメインのこの配置と調和し得ない。この矛盾は、プラットホームの界面(本発明者らは提案するこれが、C−ドメインの結合部位である)が、Tth 30S結晶内の結晶の接触と一致する(Schluenzenら、2000;Wimberlyら、2000)という事実によって説明され得る。実際、これは、隣接30Sサブユニットのボディからの「スパー(spur)」ヘリックスが、P部位に結合する同じ領域であり、tRNAアンチコドンステム−ループを模倣する(Carterら、2000)。従って、本発明者らは、IF3のC−ドメインが、結晶パッキングを破壊することなしに本発明者らが提案した位置に結合し得ないことを予期する。非特異的な結合についてのIF3の文書化された傾向(SabolおよびOchoa、1974;Wickstrom、1981)、およびIF3が30Sサブユニットの界面において相互作用するという豊富な生化学的および生物物理学的証拠を考慮すると、結晶研究において観測されたものは、2次結合部位を表すことがあり得る。
【0183】
本発明者らのモデルは、翻訳開始におけるIF3の解離活性についての説明を提供する。IF3によって保護されるヌクレオチドと70Sリボソームの形成時に保護されるヌクレオチドとの間に有意な重なりが存在する(Merrymannら、1999)。IF3の質量が50Sサブユニットの質量の2%未満であるが、サブユニット間ブリッジB2b、B2c、およびB7aを含む広範な範囲に対する50Sサブユニットの接近を妨げ(Cateら、1999;Yusupovら、2001;上記を参照のこと)、これは、McCutcheonら(1999)およびGualerziら(2000)による提案と一致する。IF3のC−ドメインの位置は、23S rRNA(配列番号23)のヘリックス69のC−ドメイン(ブリッジB2bの主要な大きなサブユニット)と一致する(Yusupovら、2001;上記を参照のこと)(図20)。従って、IF3は、この23S rRNAヘリックスを模倣することによって、サブユニットの会合を妨げ得る。単離されたC−ドメイン自体がサブユニット解離を促進し得ること(Garciaら、1995b)およびヘリックス69の接触部位のフットプリントが、このスキームを支持する。この機構は、Piolettiらの機構とは対照的であり、彼らは、サブユニット間接触に関与する16S rRNA領域におけるいかなる構造的変化も報告していないという事実にも関わらず、IF3がサブユニット相互作用に間接的に影響することを提案する(Piolettiら、2001)。
【0184】
本発明者らのモデルはまた、IF3が開始tRNA選択を促進し得る可能性のある方法を強要する(Risuleoら、1976;Hartzら、1989)。開始tRNAの主要な差次的特徴は、Mangrooら、1995に概説されるように、アンチコドンループに隣接した、一連の3つの保存されたG−C塩基対(ヌクレオチド29〜31および39〜41)であることが示されている。本発明者らのモデルに従って、IF3は、tRNAのこの特徴には及ばず、このことは、tRNA識別を促進にする際でのそれらの役割が間接的であることを示唆する。開始tRNAに結合した70Sリボソームの共結晶構造において、30SサブユニットのヘッドにおけるヌクレオチドG1338およびヌクレオチドA1339は、開始tRNAのまさにこの領域のアンチコドンステムの副溝面と並置している(Yusupovら、2001;上記を参照のこと)。可能性のある機構は、クリオEM(cryo−EM)研究から推定されるプラットホームに対するヘッドの推定IF3依存性の傾き(tilting)が、16S rRNAのこれら2つの塩基をtRNAM”fのアンチコドンステムの副溝と緊密に接触させるように動くというものである(これらは、tRNA同一性の立体的なチェックを実施し得る)。このようなスキームは、副溝認識を含む、アミノアシル−tRNA識別についてOgleおよび共同研究者らによって提唱された機構に類似する(Ogleら、2001)。
【0185】
いくつかの研究によって、開始因子が存在する場合、mRNAが30Sサブユニット上に再配置されることが示唆されている(Canonacoら、1989;La Teanaら、1995)。興味深いことに、16S rRNAの3’末端の位置は、単離された30Sサブユニットの結晶構造と70S リボソームの結晶構造との間で異なり、P部位 tRNAおよびmRNAが結合する(Carterら、2000;Wimberlyら、2000;Yusupovら、2001;上記を参照のこと)。IF3と16S rRNAの3’末端ステムループとの相互作用は、30S結晶構造において観察されたように、P部位およびE部位から離れた16S rRNAの3’末端の移動を促進し得、これはmRNAのシャイン・ダルガルノ配列の結合を可能にする。
【0186】
最後に、IF3のNドメインの位置とE−tRNAのNドメインの位置との間に立体的な衝突が存在する。従って、IF3のさらなる役割は、開始の間の30S E部位からtRNAを排除することであり得る。IF3は、IF2に架橋され(Boileauら、1983)、そしてIF2もまた開始tRNAの選択を促進するので、IF3のNドメインが、50Sサブユニットに連結する前にIF2と相互作用し得る可能性はある。リボソームとそのリガンドについての完璧な構造情報の利用可能性によって、開始の間のIF3活性の機構についてこれらの案および他の案を直接試験することがここで可能となる。
【0187】
(実施例4−70Sリボソームに対する標的部位選択)
70Sリボソームまたはその一部の構造座標は、リボソーム機能を阻害または活性化するために標的化され得る70Sリボソームの構造特徴を設計するのに有用である。構造座標によって規定される70Sリボソームの以下の領域は、阻害化合物または活性化化合物の開発に対する、特に有用な標的を表す。
【0188】
原核生物リボソーム標的部位に特異的なインヒビターまたはアクチベーターを開発するための1つの手法は、原核生物リボソーム成分および真核生物リボソーム成分の一次構造中に見出される系統発生的に多様な領域に基づいて標的領域を選択すること、および本5.5A 70S構造上にこれらの領域をマッピングすることによって決定すること(この系統発生的に多様な領域が、不安定化した場合におそらくリボソーム機能を破壊するリボソームの一部を含む)である。系統発生的に多様な領域は、タンパク質配列データベースまたは核酸配列データベースを使用して、周知の配列整列ツール(例えば、BLAST)を用いて異なる生物からの関連する配列間の配列比較を実行することによって、これらの成分の一次構造中に配置され得る。Illinois大学のCarl Woeseは、リボソームデータベースプロジェクトの一部として、このような配列比較をコンパイルしている(www.cme.msu.edu/RDP/html/index.html)。このようなデータベースは、23S、L2、L5、L14、およびL19、16S、S13、およびS15の非保存領域を位置付けるのに有用である。代表的なアライメントを表Iに示す。
【0189】
当然、原核生物特異性も真核生物特異性も必要としない例が存在する。このような場合、系統発生的に多様な領域が同定される必要はない。
【0190】
界面相互作用は、30Sサブユニットと50Sサブユニットとの間の相互作用の強度を破壊または増強する因子のファルマコフォアまたは候補化合物設計に有用な構造領域を提供する。Banら、2000の2.4オングストローム50S構造と本50S構造を比較することによって、70Sサブユニットに結合した際に50S構造に生じるコンフォメーション変化に関する手掛かりを提供する、これら2つの間の差異が、容易に決定される。これらのコンフォメーション差異は、上に記載される。標的選択についてのいくつかの手法が使用され得る。
【0191】
1つの手法は、サブユニットを離したままで、界面またはブリッジ領域を標的化することである。他の手法は、サブユニットが一緒になった場合に低分子にアクセス可能な領域を標的化することである。リボソームは、タンパク質翻訳の間に一緒になり、次いで翻訳プロセスの終りに再び分離する、分離した30Sサブユニットと50Sサブユニットとして生物内に存在する。いずれかのブリッジ領域および全てのブリッジ領域が、30Sと50Sとの間の会合を破壊するのに良好な標的である。特に良好な標的は、宿主と病原との間の50Sリボソーム構造の上記の系統発生的に異なる領域中に見出されるものである。これらの領域は、50S内に含まれる異なるrRNA間の配列比較によって、容易に推定され得る(50Sの界面成分は、23S rRNAの一部およびリボソームタンパク質L2、L5、L14、およびL19の一部を含む)。30Sブリッジ成分は、16S rRNAならびにタンパク質S13およびS15の一部を含む。サブユニット間のブリッジ接触を作製するのに関与する構造の領域を、表IIIに示す。
【0192】
表IVに示されるような、A部位、P部位、およびE部位のtRNAを結合するのに関与する70Sリボソームの領域もまた、標的部位選択に使用され得る。
【0193】
mRNAと接触する70Sリボソームの領域はまた、タンパク質翻訳に影響を与えるファルマコフォアおよび候補化合物の開発のための、潜在的な標的部位もまた提供する。これらとしては、タンパク質S3の残基156〜163;127〜132;タンパク質S4の残基47〜52;タンパク質S5の残基9〜30および46〜56;16S rRNAの残基13〜17;528〜532;1194〜1198;および1054〜1056を含む構造のエレメントが挙げられる。
【0194】
シャイン・ダルガルノヘリックス(翻訳開始の間に、mRNAの−10領域と16S rRNAの3’末端との間に形成される)は、細胞質ヒトリボソームおよびミトコンドリアヒトリボソームの両方に存在しないが、全ての病原体(例えば、細菌)中に存在する。従って、上記のように、シャイン・ダルガルノヘリックス部分を形成する16S rRNAの一部は、良好な標的部位を提供する。mRNAの結合の際に、リボソーム構造の30S部分に、コンフォメーションシフトが生じる。16S rRNAのテイルは、mRNAのシャイン・ダルガルノ配列と塩基対を形成し、次いで、そのヘリックスが、30Sリボソームサブユニットの「プラットホーム」の溶媒側でシャイン・ダルガルノ結合ポケットに結合する。本発明者らは、本発明者らの70S構造を単離された30S構造(Wimberlyら、2000;PDB 同上 1FJF)に対して比較し、シャイン・ダルガルノ結合ポケットを位置付けた。このポケットはまた、標的部位を提供し、そして以下のエレメントを含む構造の領域によって規定される:タンパク質S11、残基85〜90;112〜129;22〜27;タンパク質S18、残基1〜24;16Sヘリックス20、ヘリックス28、ヘリックス37、ヘリックス45およびバルジループ723(16S 残基927〜931;1388〜1393;1526〜1529;1505〜1508;および719〜724を含む)。
【0195】
さらなる標的部位としては、リボソーム結合因子(例えば、IF3)に対する結合部位、そのドッキングを上で記載した、EF−TuおよびEF−Gの結合部位、ならびにGTPaseおよび因子関連機能に関与する50Sサブユニットの領域が挙げられる。これらとしては、SRL(サルシンリッチループ、図2およびL11を参照のこと)が挙げられる。これらの2つの部位は、EF−TuおよびEF−Gと相互作用する。EF−Tuの構造は、Kjeldgaardら、Structure 15、35(1993)(PDB 1EFT、847、ITTT;5401、ITUI;6200、1EFC;9879)およびCzworkowskiら、EMBO J 13、3661(PDB IEFG;845;IDAR;4586、IELO;4920、2EFG;12085、1FNM;14532)、およびLiljas(al−Karadaghiら、Structure 4、555(PDB 2EFG;12085,1FNM;14532)によって報告されている。
【0196】
本発明者らは、以下の基準に基づいて70S構造に対して上記の技術を用いて、これらの構造をドッキングした:(1)70Sに対するEF−Gの立体一致;(2)23S RNAに対するこれらの因子のフットプリンティング(Moazedら、1988);および方向付けられたヒドロキシルラジカルブローブ付け(Wilsonら、「Mapping the position of translational elongation factor EF−G in the ribosome by directed hydroxyl radical probing」Cell(1998)92(1):131−9)。新規70S構造ならびに伸長因子の公知の高解像度構造ならびに上記の詳述されるさらなる情報に基づいて、EF−TuおよびEF−Gは、70S構造に正確にドッキングされて、リボソームGTPase活性および結果としてタンパク質合成を妨害する低分を設計するための鋳型を提供し得る。
【0197】
本発明者らのドッキング研究は、EF−Tu接触が23S rRNA 残基2651〜2665、16S rRNA 残基54〜57、および357〜361、ならびにL11残基20〜36上であることを示す。EF−G接触は、23S rRNA 残基1065〜1069、1094〜1097、および2651〜2665、16S rRNA 残基54〜57、340〜345および357〜361、ならびにL11 残基20〜36で見出される。
【0198】
EF−TuおよびEF−Gの正確なドッキングは、SRLループは解明するがL11(これは、50S構造において乱れている)は解明していないBanら(2000)の50S構造のような先行技術におけるリボソーム構造では、可能ではなかった。L11密度は、本5.5Å構造で観察可能であり、そして高解像度の幾何は、上記のように密度を適合させたL11およびL11 RNA複合体の高解像度構造を用いたフィッティング方法に従って推定され得(Conn GL、Draper DE、Lattman EE、Gittis AG.Science.1999 May 14;284(5417);1171−4.(1QA6;10294)およびWimberly BT、Guymon R、McCutcheon JP、White SW、Ramakrishnan V.Cell.1999 May 14;97(4):491−502(1EG0;12626、1MMS;13236、487D;13285)、そして本構造のモデルである。
【0199】
実際、本発明者らは、上記で参照されるRamakrishnan L11構造を用いて5.5Å 70S構造にL11のドッキングを実行した。この新規に同定されたかまたは新しく解明された70Sリボソーム構造の局面、および上記のドッキングアルゴリズムが与えられれば、当業者は容易に標的部位およびファルマコフォアを推定し得、EF−TuおよびEF−Gのリボソームへの結合を妨害し得る低分子および他の因子の調製を可能にする。このような因子は、リボソーム会合GTPase活性を阻害することによってタンパク質合成を阻害することが予想される。チオストレプトンのような抗生物質およびミクロコッシン(micrococcin)は、L11タンパク質に作用して、タンパク質合成を阻害する。Porse BT,Cundliffe E,Garrett RA.「The antibiotic micrococcin acts on protein L11 at the ribosomal GTPase centre」J Mol Biol.Mar 19;287(1)33−45(1999);Biochimie.Jul−Aug;73(7−8):1131−5(1991)。これらの抗生物質は、本発明者らが決定した70S構造に対して鋳型をドッキングするために使用され得、他のファルマコフォアまたは候補化合物がL11領域を標的化し、そしてGTPase活性を阻害するように設計され得るさらなる情報を提供する。このように、因子の部位への結合を妨げる新規因子が発見され得る。
【0200】
さらに、GTPaseは阻害しないがEF−Gの放出を妨害し、そして結合したままで発生ポリペプチド鎖の伸長を妨害することによって翻訳をブロックする伸長因子に結合する化合物(例えば、EF−Gに結合するフシジン酸)が存在する。Laurberg M,Kristensen O,Martemyanov K,Gudkov AT,Nagaev I,Hughes D,Liljas A.Structure of a mutant EF−G reveals domain III and possibly the fusidic acid binding site.J Mol Biol.Nov 3;303(4):593−603(2000)(1FNM;14532)。これらの化合物はまた、70S 5.5Å構造にドッキングされて、EF−G放出を阻害するフシジン酸と類似の様式で作用する他の分子を設計し得る。
【0201】
さらなる他のクラスの因子が、ファルマコフォアまたは候補化合物設計のために、70S 5.5Å構造にドッキングされ得る。例えば、GTPase関連薬物「キロマイシン(kirromycin)」は、EF−Tuに結合し、そしてEF−Tuがリボソームから放出され、そしてtRNAを放出するコンフォメーション変化を妨害する。
【0202】
【表6】
【0203】
【表7】
【図面の簡単な説明】
【図1】
図1は、5.5Åの解像度における、70SリボソームのP部位に結合したtRNAMet fの電子密度を示す図である。
【図2】
図2は、Thermus thermophilus70Sリボソームの構造の図である。A、B、CおよびDは、垂直軸の回りの連続的な90゜回転であり;Eは、Aに示される図の平行軸の回りの90°回転である。(A)30Sサブユニットの後からの図。H、ヘッド;P、プラットホーム;N、ネック;B、ボディ。(B)右手側からの図であって、サブユニットインターフェースキャビティを示し、30Sサブユニットは左にあり、そして50Sサブユニットは右にある。A−tRNA(金)のアンチコドンアームは、インターフェースキャビティ中に見える。(C)50Sサブユニットの後ろからの図。ECポリペプチド出口チャンネルの末端。(D)左手側からの図であって、50Sサブユニットは左にあり、そして30Sサブユニットは右にある。E−tRNA(赤)のアンチコドンアームが部分的に見える。(E)上からの図であって、50Sサブユニットが上にあり、そして30Sサブユニットは下にある。E−、P−およびA−tRNAは、インターフェースキャビティにあり、それらのアンチコドンアームは、30Sサブユニット中に下方向を指している。(F)30Sサブユニットのインターフェースの図(Aから180゜回転)であって、3つのtRNAの位置を示す。(G)50Sサブユニットのインターフェース図。ASF、A−部位フィンガー、SRL、サルシン−リシンループ。異なる分子成分を識別のために着色している:シアン、16SrRNA;グレー、23SrRNA;ライトブルー、5SrRNA(5S);ダークブルー、30Sタンパク質;マジェンタ、50Sタンパク質。電子密度に適合するタンパク質はオレンジで番号付けた;電子密度は識別されたが適合しなかった50Sタンパク質はマジェンタで番号付けた。A、P、E、A−、P−およびE−部位rRNA(それぞれ、金、オレンジおよび赤)。
【図3】
図3は、16S、23Sおよび5SrRNAの二次および三次構造を示す図である。(A)T.thermophilus16SrRNAの二次構造、その5’、中央、3’−メジャーおよび3’−マイナードメインをブルー、マジェンタ、赤および黄色でそれぞれ陰影をつけた。(B)T.thermophilus23Sおよび5SrRNAの二次構造の図であって、23SrRNAのドメインI(ブルー)、II(シアン)、III(グリーン)、IV(黄色)、V(赤)およびVI(マジェンタ)を示す。rRNAは、E.coli(75)に従って番号付ける。(C)70Sリボソーム中の16SrRNAの三次元折り畳みであって、そのドメインは、(A)中のように着色される。(D)23Sおよび5SrRNAの三次元折り畳みであって、それらのドメインは(B)におけるように着色される。
【図4】
図4は、70Sリボソーム中のrRNAと、30Sおよび50Sサブユニットとの間の立体構造の差異を示す図である。(A)T.thermophilus30Sサブユニット(15)および70Sリボソームからの16SrRNA中の差異.Rmsd差異を、黄色(>10Å)、オレンジ(5.5Å>rmsd>10Å)、赤(3.5Å>rmsd>5.5Å)およびブルー(rmsd<3.5Å)で着色する。H、ヘッド;PS、最後から2番目のステム;SP、突起。(B)30Sサブユニット((15);赤)および70Sリボソーム(ブルー)からの16SrRNAのスーパーインポウズ構造を示す立体図である。(C、D)H.marismortui50Sサブユニット(14)とT.thermophilus70Sリボソームとの間の差異を示す、23SrRNAの前面図および後面図である。黄色、H.marismortui50S構造中で不規則であった特徴;シアン、T.thermophilus構造に特異的である特徴;白、H.marismortui構造に特異的な特徴。残りの領域中の立体構造の差異は、オレンジ(rmsd>5.5Å)および赤(3.5Å<rmsd<5.5Å)で着色される。Haloarcula特異的特徴のヌクレオチド番号は、Hによって先行され;残りの番号は、E.coli番号付けに従う。(E)T.thermophilus(ライトブルー)およびH.marismortui(赤)中の23SrRNAのドメインIIIの頂端ステム領域間の立体構造の差異。H1495は、T.thermophilus中のT1495に対応する、古細菌配列中の頂端ヌクレオチドを示す(古細菌番号付けを用いて、ヌクレオチド1597)。(F)タンパク質L9の、結晶中の別のリボソーム中の30Sサブユニットとの結晶パッキング相互作用を示す、5.5Å電子密度の立体図である。位置Gly84(G84)の周りのL9のC−ドメインと、アデノシン55(A55)の周りの別のリボソームの16SrRNAとの接触、およびLys12(K12)の周りのL9のN−ドメインとグアニン493(G493)の周りの16SrRNAとの間の接触が示される。黄色で示されるのは、ファージT4遺伝子60mRNA上のリボソームの「ホッピング」を刺激する、L9中の変異である。L9の骨格は赤で示され、16SrRNAはマジェンタで示され、そしてヘリックス5(L9のC−ドメインとの主要な接触)は、シアンで強調される。
【図5】
図5は、サブユニット間接触(赤)に関与する特徴を示す、16Sおよび23SrRNAの二次構造を示す図である。(B、C)50Sおよび30Sサブユニットのインターフェースの図であって、ブリッジを番号付けている(Frankら、1995a;Cateら、1999)。RNA−RNA接触を赤(16SrRNA)およびマジェンタ(23SrRNA)で示す;タンパク質−RNAおよびタンパク質−タンパク質接触を、黄およびピンクで示す。A、PおよびEは、3つのrRNAを示す。(D−G)(D)図2B、(E)図2C、(F)図2D;(G)図2Dの水平軸の回りに90゜回転におけるように見られる、ブリッジ相互作用の詳細な立体図であり。
【図6】
図6は、rRNA−リボソーム相互作用を示す図である。(A)70Sリボソーム中のそれらの各mRNAコドンと複合体化した、P−tRNA(左;5.5Å)およびA−rRNA(右;7Å)の電子密度マップを示す図である。(B)コドン−アンチコドン相互作用およびAコドンとPコドン間のねじれを示す、A−、P−およびE−tRNA(それぞれ、金、オレンジ、および赤)の相対的配向を示す図である。(C、D)30SサブユニットP部位中のそのコドンに結合したP−tRNAアンチコドンステム−ループの2つの図である。(E)P−tRNAのDステム、エルボーおよびアクセプターと、50Sサブユニット間の相互作用。(F)5.5Åにおける、脱アシル化tRNA Met fと複合体化したT.thermophilus70Sリボソームに対する実験的電子密度であり、H.marismortuiCCdAp−ピューロマイシン遷移状態アナログ構造モデルをスーパーインポウズしている。(G)5.5Åで計算された、H.marismortui50Sサブユニット(3)の対応する領域に対する電子密度(赤)。23SrRNA(3)のアナログおよび周囲部分の構造が示される。(H、I)30SサブユニットA部位中のそのコドンに結合したA−tRNAアンチコドンステム−ループの2つの図である。(J)7ÅにおけるA−tRNAに対するフーリエ差異マップであって、A−tRNAおよびA−コドンをスーパーインポウズしてある。塩基A1492およびA1493の位置を、それらがパロモマイシン(17)の存在下(赤)および不在下(マジェンタ)で見出されるので示している。負の密度(赤)のパッチが、A1492およびA1493の位置の近傍に見出され得、それらが、Carterら(17)により示唆されるように、A−tRNAが結合するとき、再配置され、コドン−アンチコドンヘリックスの副溝と相互作用し得ることを示す。(K)A−tRNAのDステム、エルボーおよびアクセプター端部の50Sサブユニットとの相互作用。(L)L16の部分に対応し得る、A−tRNAエルボーと割り当てられていないrタンパク質との間のクラッシュを示す電子密度。(M)E−tRNAのリボソームとの相互作用。すべてのパネルにおいて、16SrRNAはシアンで、23SrRNAはグレーで、そしてリボソームタンパク質はブルー、グリーンおよびマジェンタで示される。tRNAと接触するリボソームの部分は、金(A−tRNA接触)、オレンジ(P−tRNA接触)または赤(E−tRNA接触)で着色される。rRNAヘリックスは、図3A、Bのように番号付けしてある。tRNA結合により化学的プローブから保護されているtRNA中の塩基(21、45、51)は球体で示されている。直接相互作用により保護されている塩基は、接触と同じ着色である;立体構造変化の結果として保護されている塩基は、マジェンタ、またはクラスIII部位(71)の場合グレーブルーで示されている。テキスト中で論議され、そして表IVに列挙される、異なる特異的リボソーム接触は、小文字により示される。(N)A−tRNA(金)、P−tRNA(オレンジ)およびE−tRNA(赤)と接触する分子を示す,16Sおよび23SrRNAの二次構造である。
【図7】
図7は、(A)リボソーム中のA−、P−およびE−tRNAならびにmRNAの相対的配置を示す図である。(B)翻訳サイクルのためのハイブリッド状態モデル(Moazedら、1989b)のアップデートバージョンの略図。(C)ハイブリッド状態サイクルを通るtRNAの動きの三次元図である。
【図8】
図8は、サブユニットインターフェースにおける、A−およびP−tRNAを取り囲むrRNAエレメントを示す図である。E−tRNAのリボース71の位置を赤の球体で示す。詳細はテキストを参照のこと。
【図9】
図9は、本研究で用いた3つのモデルmRNAのヌクレオチド配列を示す図である。Shine−Dalgarno配列(S/D)、ならびにP−およびA−部位コドンに下線を引いてある。MF36mRNA中の推定のA部位ヘリックスを形成する自己相補性配列の上に線を引いてある。
【図10】
図10は、(A)mRNAモデル(黄)が入った、MK27mRNAの7Åフーリエ差異マップであって、30Sリボソームサブユニットの頂部から見た、Shine−Dalgarno配列(S/D)ヘリックスの位置(マジェンタ)、およびA−およびP−部位コドン(それぞれオレンジおよび赤)の位置を示す図である。(B)MF36mRNAの差異マップであって、A部位における特別の密度に適合した4塩基対テトラループヘリックス(A部位ヘリックス)を示す図である。(C)(B)と同じ図である。但し、A部位mRNAヘリックスの代わりに、A−tRNAアンチコドンステム−ループ(緑)が、A−tRNA差異マップ(Yusupovら、2001)中で実験的に観察された位置に示される。Shine Dalganoの5ヌクレオチド(GGAGG/CCUCC)(配列番号XX)コア相互作用がマジェンタで示され、そして16SrRNAテイルの残りがシアンで示される。
【図11】
図11は、30Sリボソームサブユニット、A、P、A−部位およびP−部位コドン中のmRNAの(A)インターフェースおよび(B)溶媒の図である。5’、3’5’および3’は、mRNAモデルの位置−15および+15に対応する。サブユニットのヘッド、プラットホーム、ショルダーおよびボディ、ならびにリボソームタンパク質S2、S3、S4、S5、S7、S11、S12およびS18が示されている。リボソームタンパク質がダークブルーで示され,16SrRNAがシアンで、そしてmRNAは図2におけるように着色される。
【図12】
図12は、(A)ヘリックス20、28および37(h20、h28、h37)、ならびに16SrRNAの723ループ、ならびにタンパク質S11およびS18、ならびに上流トンネルを通るmRNAヌクレオチド−1〜−4の経路により形成される、その間隙中に結合したShine−Dalgarno(S/D)ヘリックスの溶媒−立体側面図である。MV36 Fourier差異マップが示される。(B)16SrRNA中の、A−およびP−部位コドンならびにそれらの隣接ヌクレオチド(530、790、791、926、1492、1493および1498)の立体インターフェース図である。リボソームタンパク質S12中の制限変異の位置を黄(ユニバーサルPNSA配列)およびオレンジで示す。G926およびU1498に対する塩基の位置を、T.thermophilus30Sサブユニットの高解像度構造(Wimberlyら、2000)からモデル化した。(C)(B)と同様の図である。しかし、A−およびP−tRNA(それぞれオレンジおよび赤)が、それらの実験的に観察された位置に従って入っている(Yusupovら、2001)。
【図13】
図13は、(A)mRNA位置+7〜+10を取り囲む16SrRNA層の特徴を示す、下流トンネルの立体インターフェース図である。(B)タンパク質S3、S4およびS5によって、mRNAの位置+11〜+15を取り囲むタンパク質層の形成を示す、下流トンネルの溶媒−立体側面図である。タンパク質S5の二本鎖RNA結合ドメインをマジェンタで示す。MK27差異マップが示される。
【図14】
図14は、70Sリボソーム−mRNA−tRNA複合体(Yusupovら、2001)の結晶学的に4つの折り畳み軸を見下ろす図であって、隣接するリボソーム間のモデルmRNAのヘッド−テイル並置を示す(赤−オレンジ)。示される分子成分は、16SrRNA(シアン)、23SrRNA(グレー)、5SrRNA(グレー−ブルー)、小サブユニットタンパク質(ダークブルー)、大サブユニットタンパク質(マジェンタ)、A−、P−およびE−tRNA(黄、オレンジおよび赤)およびmRNA(赤−オレンジ)である。
【図15】
図15は、16SrRNA上のFe(II)誘導体化IF3改変体の化学的フットープリンティングを示す図である。プライマー伸長は、30Sサブユニット中の16SrRNA上の位置G700およびG703におけるIF3−HisTag(野生型)およびFe(II)BABE誘導体化IF3改変体のケトキサールフットプリントを示す。両方のパネルにおいて、AおよびGは、配列決定レーンである。Kおよび30Sと標識されたレーンは、それぞれ、非改変30Sサブユニットおよびケトキサール改変30Sサブユニットである。IF3は、ケトキサール改変30S−IF3−His6複合体である。左のパネルにおいて、−cysは、ケトキサール改変システインフリーIF3−30Sであり、そしてすべての他のレーンは、各レーンの頂部に示されるように、ケトキサール−改変NドメインFe(II)−IF3−30S複合体である。右のパネルにおいて、すべの他のレーンは、示されるように、ケトキサールで処理されたC−ドメインFe(II)−IF3−30S複合体である。
【図16】
図16は、16SrRNA上のIF3のヒドロキシラジカルフットプリンティングの図である。(A)30Sサブユニット中の16SrRNA上のIF3のヒドロキシラジカルフットプリントのプライマー伸長分析。左から右のレーンは以下の通りである:A、Gは配列決定レーンである;K、非改変30Sサブユニット;30S、ヒドロキシラジカルに曝された30Sサブユニット。次のレーンは、(標識されるように)ヒドロキシラジカルに曝された開始因子−30S複合体である。各オートラジオグラムの右にある棒は保護の領域を示す。(B)16SrRNAの二次構造上にマップされた遊離のヒドロキシルラジカルからの30Sサブユニットおける16SrRNAの1173−依存保護。示されたドットは、保護の程度の大きさを示す。
【図17】
図17は、IF3の表面上の異なる位置からの16SrRNAの指向されたヒドロキシラジカルプロービングを示す図である。(A)Bacillus stearothermophilusからのIF3のN−およびC−ドメインの結晶構造のリボンダイアグラムである(Biouら、1995)。球体は、Escherichia coli中の対応する残基に従って番号付けた、Fe(II)をつなぐために用いた操作されたシステイン残基のCα位置を示す。(B)プライマー伸長分析により検出されたFe(II)−IF3からの、30Sサブユニット中の16SrRNAの指向されたヒドロキシルラジカル切断。AおよびGは、配列決定レーンである。すべの他のレーンは、システインフリーのコントロール反応(−cys)を含む、示されたような、異なるIF3位置につながれたFe(II)でプローブされた30S−IF3複合体である。各オートラジオグラムの左のレーンは、16SrRNAの配列を示す。各パネルの右にある棒は、ヒドロキシルラジカルによる切断の領域を示す。(C)30Sサブユニットに結合したFe(II)−IF3からの16SrRNAの(陰影をつけたグレー、左から時計周りに)、中央、3’−メジャー、および3’−マイナードメイン中のヒドロキシラジカル切断の位置の要約。強い、中程度、または弱いとして割り当てた切断の強さは、黒丸のサイズに比例する。
【図18】
図18は、IF3上の異なる位置からの開始剤tRNAの指向されたヒドロキシルラジカルプロービングを示す図である。(A)Fe(II)IF3から生成されたヒドロキシラジカルによる切断を示す、5’−末端−標識されたtRNAMetfのオートラジオグラフ。レーンは、IF3へのFe(II)−BABEの付着部位に従って標識されている。切断は、ゲルの右側で棒によって示されている。
【図19】
図19は、30Sサブユニット上のIF3の位置決めを示す図である。(A)Thermus thermophilusからの30Sサブユニットの結晶構造のリボンダイアグラム上にマップされたIF3のヒドロキシルラジカルフットプリント。最も強い保護はマジェンタで着色され、そしてより弱い保護はより薄いピンクである。塩基特異的保護は、赤い球体として表される。(B)IF3のリボンダイウグラム(黄)は、30Sサブユニットフットプリント上にドッキングした。N−およびC−ドメインは、それぞれ、NおよびCと標識される。(C)指向されたヒドロキシルラジカルプロービングおよびヒドロキシルラジカルフットプリンティングにより決定したときの、30SサブユニットとのIF3の相互作用のモデル(黒リボン)。Fe(II)−IF3により切断されたヌクレオチドは、T.thermophilusリボソームの結晶構造からの30Sサブユニット中の16SrRNAのリボンダイアグラム上にマップされる(Yusupovら、2001)。リボソームタンパク質S7およびSIIは、緑に着色され、そして16SrRNA骨格は、Fe(II)誘導体化IF3により切断された場所を除き、白でトレースされる。プロービング位置97および135から切断されたヌクレオチドは、ブルー(強いヒット)およびより薄いブルー(より弱いヒット)であり、その一方、N−ドメインプローブから切断されたヌクレオチドは、赤(強いヒット)およびより薄い赤(弱いヒット)で着色される。位置104からの切断は、金の陰影をつけてある。対応するプロービング位置は球体として表され、そしてそれらの個々の切断標的に一致するように着色されている。
【図20】
図20は、開始tRNA、mRNA、およびIF1に対するIF3の位置の図である。(A)P部位に結合した開始剤tRNAをもつIF3−30Sモデル、および結晶構造により測定されたとき(Carterら、2001)のIF1の位置の図である。16SrRNAおよび小サブユニットタンパク質は、それぞれ、薄いグレーおよび濃いグレーで陰影をつけた。IF3は、CPK中に表され、そして赤に着色している。IF1は、ブルーの陰影を付けてある。開始tRNAは黄でトレースされ、そしてmRNAは紫に着色してある。(B)指向されたプロービング実験からの切断を示す、IF3およびP部位結合開始tRNAの拡大図。開始tRNAは、Fe−C135(緑)およびFe−C76およびFe−C80(ブルー)による切断を除き、黄に着色してある。対応するプロービング位置は、IF3(グレー)上に同様に着色してある。mRNAは、紫で表されている。
【図21】
図21は、IF3C−ドメインが、23SrRNAのヘリックス69の位置を占める図である。(A)16SrRNAのヘリックス23、24、および45(ブルー)との、23SrRNAのヘリックスrRNAのヘリックス69(黄)の相互作用の図である。23SrRNAと16SrRNAとの間の接触の部位を紫で着色してある。(B)IF3のCドメインの30Sサブユニット(赤)上の23SrRNAのヘリックス69(黄)と重複する結合部位を示す図。
Claims (53)
- 細菌性70Sリボソームまたはその部分に結合する化合物を同定する方法であって、該方法は、以下の工程:
細菌性70Sリボソームの三次元構造に基づいて、化合物を設計する工程であって、該三次元構造は、付録I内の構造座標によって規定される、工程;
該化合物を提供する工程;
該化合物を、該細菌性70Sリボソームまたはその部分と接触させる工程;および
該化合物が、該細菌性70Sリボソームまたはその部分に結合するか否かを決定する工程、
を包含する、方法。 - 前記付録I内の構造座標のサブセットが、前記設計する工程のために使用される、請求項1に記載の方法。
- 前記部分が、細菌性30Sリボソームサブユニットである、請求項1に記載の方法。
- 前記部分が、細菌性50Sリボソームサブユニットである、請求項1に記載の方法。
- 請求項1に記載の方法であって、前記化合物が、以下:S13(配列番号36)92〜94、2〜11、S15(配列番号38)40〜44、85〜89、L2(配列番号2)162〜164、172〜174、177〜178、198〜202、L5(配列番号5)134〜153、L14(配列番号12)116〜119、L19(配列番号16)44、16S rRNA(配列番号45)1408〜1410、1494、1495、784、785、794、1516〜1519、770、771、900、901、763、764、698、702、712、713、773〜776、345〜347、23S rRNA(配列番号23)886〜888、1913〜1914、1918、1836〜1836、1919、1920、1922、1932、1832〜1833、1947〜1948、1960〜1961、1768〜1769、44〜49、1689〜1690、1989、1689、1690、1702〜1705、1848〜1849および1896、からなる群より選択される残基に対応する残基と非共有結合を形成するように設計され、ここで、該16S rRNAおよび該23S rRNAの残基番号は、E.coliの番号付けに従う、方法。
- 請求項5に記載の方法であって、前記残基が、S13(配列番号36)92〜94、2〜11、L5(配列番号5)134〜153、16S rRNA(配列番号45)1408〜1410、1494、1495、23S rRNA(配列番号23)886〜888、1913〜1914および1918からなる群より選択され、ここで、該16S rRNAおよび該23S rRNAの残基番号は、E.coliの番号付けに従う、方法。
- 請求項1に記載の方法であって、該化合物が、以下:16S rRNA(配列番号45)1229、1338、1339、790、966、926、1498、1400、530、1045、955、1493、1339〜1340、1382、937、788〜789、693〜695、S9(配列番号32)128、L5(配列番号5)55〜66、S13(配列番号36)120〜122、S12(配列番号35)46〜48、L16(配列番号14)27、30、S7(配列番号30)76〜87、140〜152、L1(配列番号1)124〜128、52〜54、165〜169、23S rRNA(配列番号23)1908、1909、1922、1923、2255〜2256、2252、2602、2585、1913〜1915、881〜883、898、899、2470〜2472、2482〜2484、1942、1943、2452、2494、2553、2112〜2113、2116、2117、1850〜1853、1892、2235、2433、2434および199からなる群より選択される残基に対応する残基と非共有結合を形成するように設計され、ここで、該16S rRNAおよび該23S rRNAの残基番号は、E.coliの番号付けに従う、方法。
- 請求項1に記載の方法であって、前記化合物が、以下:S3(配列番号26)127〜132、156〜163、S4(配列番号27)47〜52、S5(配列番号28)9〜30、46〜56、16S rRNA(配列番号45)13〜17、528〜532、1054〜1056、1194〜1197および1198からなる群より選択される残基に対応する残基と非共有結合を形成するように設計され、ここで、該16S rRNAの残基番号は、E.coliの番号付けに従う、方法。
- 請求項1に記載の方法であって、前記化合物が、以下:16S rRNA(配列番号45)685〜705、783〜795、799〜802および803からなる群より選択される残基に対応する残基と非共有結合を形成するように設計され、ここで、該16S rRNAの残基番号は、E.coliの番号付けに従う、方法。
- 請求項1に記載の方法であって、前記化合物が、以下:L11(配列番号10)20〜36、16S rRNA(配列番号45)54〜57、357〜361ならびに23S rRNA(配列番号23)2651〜2664および2665からなる群より選択される残基に対応する残基と非共有結合を形成するように設計され、ここで、該16S rRNAおよび該23S rRNAの残基番号は、E.coliの番号付けに従う、方法。
- 請求項1に記載の方法であって、前記化合物が、以下:L11(配列番号10)20〜36、16S rRNA(配列番号45)54〜57、340〜345、357〜361ならびに23S rRNA(配列番号23)1065〜1069、1094〜1097、2651〜2664および2665からなる群より選択される残基に対応する残基と非共有結合を形成するように設計され、ここで、該16S rRNAおよび該23S rRNAの残基番号は、E.coliの番号付けに従う、方法。
- 請求項1に記載の方法であって、前記化合物が、シャイン・ダルガルノヘリックス結合ポケットを満たす残基と非共有結合を形成するように設計され、該残基は、S11(配列番号34)85〜90、112〜129、22〜27、S18(配列番号41)1〜24ならびに16S rRNA(配列番号45)927〜931、1388〜1393、1526〜1529、1505〜1508、719〜723および724からなる群より選択される残基に対応し、ここで、該16S rRNAの残基番号は、E.coliの番号付けに従う、方法。
- 前記化合物が新規に設計される、請求項1に記載の方法。
- 前記化合物が既知の化合物から設計される、請求項1に記載の方法。
- 前記既知の化合物が、抗生物質、開始因子および伸長因子からなる群より選択される、請求項14に記載の方法。
- 前記抗生物質が、パラモマイシン、プロマイシン、ストレプトマイシン、ネオマイシン、チオストレプトン、ミクロコッシン、フシジン酸、キロマイシン、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、エリスロマイシン、クラリスロマイシンおよびロキシスロマイシンからなる群より選択される、請求項15に記載の方法。
- 前記開始因子が、IF1、IF2およびIF3からなる群より選択される、請求項15に記載の方法。
- 前記伸長因子が、EF−TuおよびEF−Gからなる群より選択される、請求項15に記載の方法。
- 前記設計された化合物がタンパク質翻訳を阻害するか否かを決定する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
- 前記設計された化合物がタンパク質翻訳の忠実度を変更するか否かを決定する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
- 前記設計された化合物が30Sリボソームサブユニットと50Sリボソームサブユニットとの間の会合に影響するか否かを決定する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
- 前記設計された化合物が、リボソームtRNA結合部位に対するtRNAの結合に影響するか否かを決定する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
- 前記設計された化合物が、リボソームmRNA結合部位に対するmRNAの結合に影響するか否かを決定する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
- 前記設計された化合物が、リボソームIF3結合部位に対するIF3の結合に影響するか否かを決定する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
- 前記設計された化合物が、リボソームEF−Tuリボソーム結合部位に対するEF−Tuの結合に影響するか否かを決定する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
- 前記設計された化合物が、リボソームEF−Gリボソーム結合部位に対するEF−Gの結合に影響するか否かを決定する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
- 細菌性70Sリボソームまたはその部分に結合する化合物を同定する方法であって、該方法は、以下の工程:
細菌性70Sリボソームの構造座標の決定のために、少なくとも5.5Åの解像度までX線を回折する、細菌性70Sリボソーム結晶の三次元構造を規定する構造座標のセットを獲得する工程であって、該細菌性70Sリボソームは、配列番号23の残基1〜2916を有する23S rRNA、配列番号24の残基1〜123を有する5S rRNAおよび配列番号45の残基1〜1522を有する16S rRNAを含み、ここで該結晶は、a=b=507.2Åおよびc=803.7Åのユニットセル寸法を有するI422の空間群を有する、工程;
該結晶から獲得された該構造座標に基づいて化合物を設計する工程;
該化合物を提供する工程;
該化合物を、該70Sリボソームまたはその部分と接触させる工程;および
該化合物が、該細菌性70Sリボソームまたはその部分に結合するか否かを決定する工程、
を包含する、方法。 - 前記結晶から獲得される前記構造座標のサブセットが、前記設計する工程のために使用される、請求項27に記載の方法。
- 前記部分が、細菌性30Sリボソームサブユニットである、請求項27に記載の方法。
- 前記部分が、細菌性50Sリボソームサブユニットである、請求項27に記載の方法。
- 前記化合物が新規に設計される、請求項27に記載の方法。
- 前記化合物が既知の化合物から設計される、請求項27に記載の方法。
- 前記既知の化合物が、抗生物質、開始因子および伸長因子からなる群より選択される、請求項32に記載の方法。
- 前記抗生物質が、パラモマイシン、プロマイシン、ストレプトマイシン、ネオマイシン、チオストレプトン、ミクロコッシン、フシジン酸、キロマイシン、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、エリスロマイシン、クラリスロマイシンおよびロキシスロマイシンからなる群より選択される、請求項33に記載の方法。
- 前記開始因子が、IF1、IF2およびIF3からなる群より選択される、請求項33に記載の方法。
- 前記伸長因子が、EF−TuおよびEF−Gからなる群より選択される、請求項33に記載の方法。
- 前記設計された化合物がタンパク質翻訳を阻害するか否かを決定する工程をさらに包含する、請求項27に記載の方法。
- 前記設計された化合物がタンパク質翻訳の忠実度を変更するか否かを決定する工程をさらに包含する、請求項27に記載の方法。
- 前記設計された化合物が30Sリボソームサブユニットと50Sリボソームサブユニットとの間の会合に影響するか否かを決定する工程をさらに包含する、請求項27に記載の方法。
- 前記設計された化合物が、リボソームtRNA結合部位に対するtRNAの結合に影響するか否かを決定する工程をさらに包含する、請求項27に記載の方法。
- 前記設計された化合物が、リボソームmRNA結合部位に対するmRNAの結合に影響するか否かを決定する工程をさらに包含する、請求項27に記載の方法。
- 前記設計された化合物が、リボソームIF3結合部位に対するIF3の結合に影響するか否かを決定する工程をさらに包含する、請求項27に記載の方法。
- 前記設計された化合物が、リボソームEF−Tuリボソーム結合部位に対するEF−Tuの結合に影響するか否かを決定する工程をさらに包含する、請求項27に記載の方法。
- 前記設計された化合物が、リボソームEF−Gリボソーム結合部位に対するEF−Gの結合に影響するか否かを決定する工程をさらに包含する、請求項27に記載の方法。
- コンピュータシステムであって、以下:
細菌性70Sリボソームの少なくとも一部を規定するX線結晶学的構造座標を含むメモリであって、該構造座標は、少なくとも5.5Åの解像度までX線を回折する細菌性70Sリボソームの結晶から決定され、そしてa=b=507.2Åおよびc=803.7Åのユニットセル寸法を有するI422の空間群を有する、メモリ;および
該メモリと電気的に連絡したプロセッサであって、該プロセッサは、該細菌性70Sリボソームの少なくとも一部の三次元形状表示を有する分子モデルを作成する、プロセッサ、
を備える、コンピュータシステム。 - 前記分子モデルが、前記細菌性70Sリボソームの少なくとも一部の、三次元の溶媒接近可能な表面の表示を含む、請求項45に記載のシステム。
- 前記分子モデルが、30Sサブユニットと50Sサブユニットとの間の界面の少なくとも一部の表示である、請求項45に記載のシステム。
- 前記分子モデルが、mRNA結合部位、tRNA結合部位、開始因子結合部位、伸長因子結合部位および抗生物質結合部位からなる群より選択される結合部位の表示である、請求項45に記載のシステム。
- 前記結合部位が、mRNA結合部位である、請求項48に記載のシステム。
- 前記結合部位が、tRNA結合部位である、請求項48に記載のシステム。
- 前記結合部位が、開始因子結合部位である、請求項48に記載のシステム。
- 前記結合部位が、伸長因子結合部位である、請求項48に記載のシステム。
- 前記結合部位が、抗生物質結合部位である、請求項48に記載のシステム。
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