JP2004527461A - 中枢神経系に影響を与える虚血性事象を治療する方法 - Google Patents

中枢神経系に影響を与える虚血性事象を治療する方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、哺乳動物の中枢神経系における虚血性損傷の減少または予防のための方法に関する。本方法は、治療有効量のIGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体を含有する薬学的組成物を、哺乳動物の鼻腔内に投与する工程を包含する。このIGF−Iまたはその改変体は鼻腔を通って吸収され、虚血性事象に関連する虚血性損傷を減少させるか、または予防するのに有効な量で、哺乳動物の中枢神経系中に移送される。本方法は、虚血性事象を経験したか、またはこのような事象を経験する危険のある哺乳動物を処置するのに有用である。

Description

【0001】
(発明の技術分野)
本発明は、哺乳動物における中枢神経系に影響を与える虚血性事象を処置するための方法に関し、より詳細には、虚血性事象と関連する中枢神経系における虚血性損傷を低減または予防するためのインスリン様増殖因子−1(IGF−I)の鼻腔内への投与を意図する。
【0002】
(発明の背景)
インスリン様増殖因子−1(IGF−I)などの神経栄養因子は、末梢神経系および中枢神経系の発達の間に神経細胞の生存および分化を調節している。成熟した神経系において、神経栄養因子は、神経細胞の形態的特徴および神経化学的特徴を維持し、機能的に活性なシナプス連結を増強している。
【0003】
インスリン様増殖因子−1(IGF−I)の潜在的な神経保護的効果は、局所的虚血および全体的虚血の動物モデルにおいて調査され、そこでは、IGF−Iは、全身的に(例えば、腹腔内に)または脳室内の注入のいずれかによって投与されてきた(Gluckmanら(1992)Biochem.Biophys.Res.Comm.182:593−599;Tagamiら(1997)Lab.Invest.76:613−617;ZhuおよびAuer(1994)J.Cereb.Blood Flow Metab.14:237−242;Guanら(1993)J.Cereb.Blood Flow Metab.13:609−616;Guanら(1996)Neuro.Report 7:632−636;Johnstonら(1996)J.Clin.Invest.97:300−308);Guanら(2000)J.Cereb.Blood flow Metals 20:513−519;Loddickら(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:1894−1898;米国特許第5,714,460号)。中枢神経系への障害に対する潜在的な治療的薬剤としてIGF−Iを支持する他の証拠は、組織培養を使用する研究に由来している(Gluckmanら(1992)Biochem.Biophys.Res.Comm.182:593−599;ChengおよびMattson(1992)J.Neurosci.12:1558−1566;米国特許第5,652,214号)。
【0004】
IGF−Iは血液脳関門を効率よく通り抜けないので、IGF−Iを中枢神経系(CNS)に送達するための非侵襲性の方法を開発することは、重要である。脳室内(ICV)投与は、効果的ではあるが、CNSに影響する虚血性事象に対する治療を必要とする多数の個体に対しては実際的ではない。鼻腔内(IN)送達は、IGF−IをCNSに送達するために血液脳関門をバイパスする、確実であり、非侵襲性かつ実際的な新方法である(米国特許第5,624,898号)。以前の研究は、IGF−Iが、IN投与後に鼻腔から直接、脳および脊髄を含むCNSへ送達され得、そしてナノモーラー範囲の脳濃度を達成することを実証した(Thorneら(1999)Growth Hormone and IGF Res.9:387;国際公開番号WO00/33813)。最近の研究は、CNSへのIGF−IのIN送達が、嗅神経経路および三叉神経経路の両方に沿って起こることを実証する(Thorneら(2000)Society for Neuroscience Abstracts 26:1365、要約#511.18;国際公開番号WO00/33813)。三叉神経によって刺激される組織への、低用量(体重1kgあたり0.10mg未満)IGF−Iの鼻腔内送達および低用量IGF−Iの投与は、発作および他の中枢神経系障害の処置に対して潜在的な治療的利点を有していると認識されてきた(国際公開番号WO00/33813およびWO00/33814)。
脳へのIGF−Iの送達は、哺乳動物においてCNSへ影響を与える虚血性事象の処置に対する確実な戦略であり得る。しかし、鼻腔内送達されたIGF−Iが、発作などの虚血性事象の動物モデルにおける虚血性損傷に対して保護するために十分な、生物学的に活性な濃度を達成することは、いまだ実証されていない。本発明は、有益な治療的効果が、実験的に誘導された局所的大脳虚血および再灌流後にIGF−Iの鼻腔内投与によって達成されるという知見に基づいている。
【0005】
(発明の要旨)
哺乳動物の中枢神経系における虚血性損傷を低減または予防するための方法が提供される。本方法は、治療的に有効な量または用量のIGF−I、あるいはその生物学的に活性なその改変体を哺乳動物の鼻腔に、好ましくは鼻腔の上部三分の一に、鼻腔内(IN)投与する工程を包含する。次いで、IGF−Iまたはその生物学的に活性なその改変体は、粘膜または上皮を通じて吸収され、神経経路を介して、哺乳動物の中枢神経系(CNS)における虚血性損傷を低減または予防するに有効な量で哺乳動物の中枢神経系に送達され得る。本発明の方法に従う、治療的に有効な量のIGF−Iまたはその生物学的に活性なその改変体の鼻腔内投与は、この神経保護剤を、虚血性事象を経験した哺乳動物において虚血性損傷を低減するか、または虚血性事象を経験する危険性のある哺乳動物において虚血性損傷を予防する際に有効な量でCNSに送達する非侵襲性の手段を提供する。本方法は、CNSに影響を与える虚血性事象に先立つか、または虚血性事象後の哺乳動物の処置における用途を見出す。
【0006】
(発明の詳細な説明)
本発明は、哺乳動物の中枢神経系(CNS)における虚血性損傷を低減または予防するための方法に関する。本方法は、治療的有効量のインスリン様増殖因子−1(IGF−I)またはその生物学的に活性な改変体を、哺乳動物のCNSへ鼻腔内投与する工程を包含する。本方法は、虚血性事象後に哺乳動物を処置する際の使用(それにより虚血性損傷は低減される)を見出し、または虚血性事象を経験する危険のある哺乳動物を処置するための使用を見出す(それにより虚血性事象が起こるならば、虚血性損傷は予防される)。
【0007】
「低減」は、虚血性損傷を減少、低下、および改善することを意図する。「予防」は、虚血性損傷の発症を延期、遅延、阻害、または他の停止を意図する。本発明の目的のために、虚血性損傷とは、虚血の結果としての脳および/または脊髄を含むCNSの組織に対する損傷をいう。
【0008】
「虚血」は、CNSの組織内の細胞への不十分な血液供給によって生じる、CNS内の状態を意図する。虚血は、例えば、脳または脊髄への制限された血流(blow flow)(普通これらの組織へ供給している単一動脈の閉塞によって生じる)、あるいは全脳、前脳または脊髄(すなわち、全体的虚血)への血流の全体的な制限(すなわち、局所的虚血)を含み得る。局所的虚血に関しては、単一動脈を通じた制限された血流は、その動脈によって供給されるCNSの領域において、全細胞要素の死(全壊死)をもたらす。全身的虚血に関しては、罹患した組織全体にわたる特定の脆弱な領域は、細胞死、特に、ニューロンの死を示す。
【0009】
本発明の目的として、虚血性損傷は、ニューロン細胞またはグリア細胞の死、罹患したCNSの領域における組織の水腫または腫脹、ならびに運動機能、感覚機能、前庭運動機能、および/または体性感覚機能の喪失を含む1つ以上の神経学的欠損の発症を含む。梗塞形成は、局地的領域への血液供給が欠乏するときに生じ、その結果、ニューロン組織への損傷が生じる。「梗塞」は、その領域への循環の妨害から生じる、組織における凝固壊死の領域である。治療的有効量および有効用量のIGF−IのCNSへの鼻腔内投与は、虚血性事象を経験したことのある、または虚血性事象を経験する危険のある哺乳動物における梗塞サイズ、水腫、および神経学的欠損の低減を含む、虚血性損傷の低減または予防において有効である。
【0010】
CNSにおける虚血およびその結果生じる虚血性損傷は、虚血性事象によってもたらされる。「虚血性事象」は、脳および/または脊髄を含むCNSの組織への血液の不十分な供給を生じるか、または生じ得る、いかなる状況も意図する。本発明によって包含される虚血性事象としては、大脳の脈管内の塞栓、動脈硬化性脈管疾患、血栓が炎症性脈管の管腔内に形成される場合たびたび生じる炎症性プロセス、または出血によって引き起こされる発作のような発作;多発性梗塞痴呆;心不全および心拍停止;敗血症性ショックおよび心臓性ショックを含むショック;血液疾患;低血圧症;高血圧症;血管腫;低体温症;周産期窒息;高山性虚血;高血圧性大脳脈管疾患;動脈瘤の破裂;発作;腫瘍からの出血;および頭部、首、もしくは背髄への強打、または頭部、首もしくは脊柱の任意の部分における擦過傷、穿刺、切開、挫傷、圧搾などによって生じるような、開放性および閉鎖性の、頭部損傷、首損傷、および脊髄外傷を含む、中枢神経系への外傷性損傷が挙げられるが、これらに限定されない。他の可能性のある虚血性事象としては、例えば、硬膜下の血腫または頭蓋内の血腫、転移性腫瘍または原発性腫瘍などの異常組織塊、正常な産生の機能不全の結果として生じる脳脊髄液などの液体の過剰蓄積、あるいは水腫による、CNS組織の絞窄または圧搾に起因する外傷性損傷が挙げられる。
【0011】
哺乳動物は、医学的または他の理由によって虚血性事象を経験する危険があり得る。例えば、限定ではないが、治療目的であれ、診断目的であれ、バイパス手術、開心手術、動脈瘤手術、および心臓カテーテル法を含むがこれらに限定されない心臓血管の外科手順を受けている哺乳動物は、この手順の間または手順後において危険な状態にあり得る。医学的状態を有する哺乳動物は、虚血性事象を経験する危険性があり得る。このような医学的状態としては、上記のウイルス感染または外傷性損傷の結果としてのヘルペス髄膜炎;高血圧性脳障害;心筋の梗塞形成;およびCNS組織内の水腫が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の方法に従う治療的有効量または有効用量のIGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体の鼻腔内投与は、虚血性事象を経験したことのある、または虚血性事象を経験する危険性のある哺乳動物を処置するための方法を提供する。「処置」とは、発作などの虚血性事象を経験している哺乳動物または虚血性事象を経験する危険性のある哺乳動物が、本発明の治療方法の非存在下で観察されるよりも少ない局所的虚血性損傷および低減した神経学的欠損を被ることを意図する。それゆえ、例えば、発作を経験し、そして哺乳動物および本発明の方法に従うIN IGF−I処置を受けている哺乳動物は、このような処置なしに見られたものを超えて、梗塞サイズ、水腫、および/または神経学的欠損における低減(すなわち、運動機能、感覚機能、前庭運動機能、および/または体性感覚機能の改善された回復)を含む、虚血性損傷の低減を示す。同様に、虚血性事象を経験する危険のある哺乳動物、例えば、心臓血管の外科手順、本発明の方法に従う外科処置の前、本発明の方法に従う外科処置の間、および/または本発明の方法に従う外科処置の直後にIN IGF−I処置を受けている哺乳動物においては、虚血性損傷は、虚血性事象が外科手順の間または外科手順後に生じる場合、予防され得る。
【0012】
本発明の方法は、虚血性事象の結果生じる虚血性損傷を有するか、または虚血性事象の結果として生じる虚血性損傷を有する危険性のある哺乳動物の中枢神経系(CNS)へ、治療的に有効量または有効用量のインスリン様増殖因子−1(IGF−I)またはその生物学的に活性な改変体を鼻腔内投与(IN)する工程を包含する。「鼻腔内投与」は、哺乳動物の鼻腔へのIGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体の投与を意図し、ここで、このポリペプチドは、鼻腔を通して吸収され、神経経路によって、本明細書中の他の箇所に記載される虚血性損傷を低減または予防するために有効な量において哺乳動物の中枢神経系へ運ばれる。この投与の方法は、IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体(本明細書中において神経保護剤ともいわれる)の、本明細書中の他の箇所に記載される発作、心拍停止、または他のCNS損傷などの虚血性事象に関連する虚血に罹患した大脳組織への、非侵襲性の直接送達を可能にする。一旦、罹患した部位へ送達されると、この神経保護剤は、IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体の鼻腔内投与による処置の非存在下の哺乳動物に関して見られたものと比較して、凝固壊死(すなわち、梗塞のサイズまたは容積)、水腫、および/または神経学的欠損を含む虚血性損傷を低減または予防する。従って、本発明の方法は、この神経保護剤の鼻腔内投与なしで生じるものを超える虚血性事象に関連する虚血性損傷の処置(すなわち低減または予防)に関し、治療的効果を引き起こす。
【0013】
さらに詳細には、本発明の方法は、IGF−Iもしくはその生物学的に活性な改変体を、この神経保護剤を神経経路に沿ってCNS、脳、および/もしくは脊髄へ送達するような様式で、目的の哺乳動物へ投与する。神経経路は、ニューロン内送達もしくは神経に沿う送達、ニューロンに沿って走るリンパ管を通るかもしくはそれによる送達、ニューロンもしくは神経経路に沿って走る血管の脈管周囲の空間を通るかもしくはそれによる送達、神経もしくは神経経路に沿って走る血管の外膜を通るもしくは手段とする送達、または血管リンパ管系を通る送達を包む。本発明は、循環系を通るより、神経経路によるこの神経保護剤の送達を好み、従って、脳への血流から血液脳関門を通り抜けることができないかまたは不十分に通り抜けるのみのIGF−Iが、CNS、脳、および/または脊髄へ送達され得る。1つの実施形態において、IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体は、好ましくは、この神経保護剤に対するレセプターまたは結合部位の最大の密度を有する領域に蓄積する。
【0014】
脳、脊髄または中枢神経系の他の成分へ神経栄養性剤を送達するための神経経路の使用は、血液脳関門によって提示される障壁を除去し、その結果、IGF−Iまたはその改変体を含む薬物治療はCNSへ、より詳細には、虚血性事象によって損傷を受けたか、または虚血性事象によって損傷を受ける危険性のあるCNS組織へ直接送達され得る。一旦、鼻腔内から投与されたこの神経保護剤は、血流および神経経路中に吸収され得るが、好ましくは、IGF−Iまたはその改変体は、最小全身的効果を提供する。さらに、本発明の方法に従う鼻腔内投与は、この神経保護剤が血流に存在する液体中で希釈されないので、CNS細胞へのより濃縮したレベルのIGF−Iまたはその改変体の送達を提供し得る。従って、鼻腔内投与は、IGF−Iまたはその改変体を、CNS、脳および/または脊髄へ送達するための改善された方法を提供する。
【0015】
それゆえ、本発明の1つの実施形態において、鼻腔内投与は、神経栄養剤が、嗅神経経路に沿って、CNS、脳、および/または脊髄へ送達されるような様式で、IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体の被検体への送達を含む。代表的に、このような実施形態は、この神経保護剤を、嗅神経によって刺激をされるかつ鼻腔内の内側の組織へ投与する工程を包含する。好ましくは、IGF−Iまたはその改変体は、鼻腔の上部3分の1における嗅覚領域および特に嗅覚上皮へ送達される。
【0016】
嗅神経の線維は、鼻粘膜の上部3分の1に局在する嗅覚レセプター細胞の無髄の軸索である。嗅覚レセプター細胞は、鼻腔へ突出する毛様線毛によって覆われる腫脹を有する双極ニューロンである。一方の端において、これらの細胞からの軸索は、集合体に集まり、鼻蓋で頭蓋腔に入る。軟膜の薄い管によって囲まれ、嗅神経は、CSFを含むクモ膜下の空間を横切り、嗅球の下側面に入る。一旦、IGF−Iまたは生物学的に活性な改変体が鼻腔内に投薬されると、この薬剤は、鼻粘膜を通したCNS組織への送達を受け得る。
【0017】
嗅神経によって刺激される組織への治療的有効量または有効用量のIGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体を含む薬学的組成物の適用は、この神経保護剤を、損傷したニューロンまたはCNSの細胞、より詳細には、虚血性事象に関連する虚血によって影響を受けるCNS内の領域へ送達し得る。嗅神経は、この組織を刺激し、そして嗅覚におけるそれらの役割(と考えられる)に起因して、CNS、脳、および/または脊髄への直接の接続を提供し得る。
【0018】
嗅神経経路を通る送達は、さまざまな脳領域へ嗅神経と共に進み、そこから脊髄のようなCNSの部分に関連する硬膜のリンパ管へ進むリンパ管を使用し得る。嗅神経に沿う送達はまた、この神経保護剤を嗅球へ送達し得る。脈管周囲の経路および/または血管リンパ経路(例えば、大脳の血管の外膜内を走るリンパチャネル)は、嗅神経によって刺激された組織から脳および脊髄への、IGF−Iまたはその改変体の送達のためのさらなるメカニズムを提供し得る。本明細書中に参考として援用される国際公開番号WO00/33813を参照のこと。
【0019】
IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体を含む薬学的組成物は、例えば、嗅覚上皮を通して、嗅神経に投与され得る。このような投与は、嗅神経を通して脳およびその髄膜へ入る神経栄養性剤の、細胞外または細胞内の(例えば、経ニューロン性)前方向の送達および逆方向の送達を使用し得る。一旦、この神経保護剤が嗅神経によって刺激される組織の中または組織上に投薬されると、IGF−Iまたはその改変体は、組織を通して輸送し得、嗅神経に沿ってCNSの領域へ、より詳細には虚血性事象によって影響を受ける脳の領域へ移動し得る。
【0020】
嗅神経経路を通した送達は、IGF−Iまたはその改変体の、粘膜または上皮への移動または粘膜または上皮を横切る移動、嗅神経へのまたはリンパ管、血管脈管周囲の空間、血管外膜、または嗅神経と供に脳に進む血管リンパ管への移動、およびそこから脊髄のようなCNSの部分に関連する脳脊髄膜の(meningial)リンパ管への移動を使用し得る。血管リンパ管は、血管の外側における血管の周りにあるリンパチャネルを含む。これはまた、血管リンパ管系とも称される。IGF−Iまたはその改変体の血管リンパ管への導入は、必ずしもこの神経保護剤を血液へ導入しない。
【0021】
本発明の別の実施形態において、鼻腔内投与は、IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体を、三叉神経によって刺激され、かつ鼻腔の内側の組織に投与する工程を含む。鼻腔内で、三叉神経は、主に鼻粘膜の下3分の2を刺激する。三叉神経は、三つの主な枝(眼神経、上顎神経、および下顎神経)を有する。本発明の方法は、この神経保護剤を、これらの枝の1つ以上によって刺激される鼻腔内の組織へ投与する。本明細書中に参考として援用されるWO00/33813を参照のこと。
【0022】
眼神経は、鼻毛様体神経、前頭神経、および涙腺神経として公知の3つの枝を有する。前篩骨神経(鼻毛様体神経の1つの枝)は、他の組織の中で、篩骨洞ならびに鼻中隔の前部および鼻腔の側壁を含む鼻粘膜の下3分の2の領域を刺激する。好ましくは、本発明の方法は、IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体を、前篩骨神経によって刺激される組織に投与し得る。
【0023】
上顎神経は、鼻口蓋神経、大口蓋神経、後上歯槽神経、中上歯槽神経および下上歯槽神経を含む、鼻腔および鼻洞を刺激するいくつかの枝を有する。上顎神経は、後上歯槽神経、中上歯槽神経、および前上歯槽神経によって刺激される。鼻中隔の粘膜は、主に、鼻口蓋神経によって供給され、鼻腔の側壁は、大口蓋神経によって供給される。好ましくは、本発明の方法は、IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体を、鼻口蓋神経および/または大口蓋神経によって刺激される組織へ投与し得る。
【0024】
IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体を含む薬学的組成物の、三叉神経によって刺激される組織への適用は、この神経保護剤を、損傷したニューロンまたはCNSの細胞、さらに詳細には虚血性事象によって影響を受けるCNS内の領域に送達し得る。三叉神経は、鼻腔を刺激し、機械式感覚、温覚、および痛覚(例えば、辛いスパイスおよび有害化学物質の検出)を含む一般的な化学的感覚におけるそれらの役割(と考えられている)に起因して、CNS、脳、および/または脊髄への直接の接続を提供し得る。
【0025】
三叉神経経路を通る送達は、三叉神経と共に脳橋および他の脳領域ヘ進み、そこから脊髄のようなCNSの部分に関連する硬膜のリンパ管へ進むリンパ管を使用し得る。脈管周囲の経路および/または血管リンパ管経路(例えば、大脳の血管の外膜内を走るリンパチャネル)は、三叉神経によって刺激された組織から脊髄への神経保護剤の送達のためのさらなるメカニズムを提供し得る。
【0026】
三叉神経は、機械式感覚(すなわち、触覚)を媒介する大きな直径の軸索、ならびに痛覚および温覚を媒介する小さい直径の軸索を含み、その細胞体の両方は、半月形の(または三叉神経の)神経節または中脳における中脳路三叉神経核に局在する。三叉神経の特定の部分は、鼻腔へと伸長した。三叉神経の個々の線維は、大きい束に収束し、脳の下部を移動し、そして脳橋の腹側側面に入る。IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体を含む薬学的組成は、例えば、鼻腔の粘膜および/または上皮を通して三叉神経に投与され得る。このような投与は、三叉神経を通ってCNS組織へ入るこの神経栄養剤の、細胞外または細胞内の(例えば、経ニューロン性の)前方向の送達および逆方向の送達を使用し得る。一旦、三叉神経によって刺激される鼻腔内の組織の中または組織上に投薬されると、この神経保護剤は、組織を通して輸送され得、三叉神経に沿ってCNSの領域へ移動し得る。
三叉神経経路を通した送達は、IGF−Iもしくはその改変体の鼻粘膜または上皮を横切る輸送、三叉神経への移動、またはリンパ管、血管脈管周囲の空間、血管外膜、または三叉神経と供に脳橋に移動する血管リンパ管への移動、およびそこから脊髄のようなCNSの部分に関連する脳脊髄膜のリンパ管への移動を使用し得る。
【0027】
本発明の方法に従う、IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体の鼻腔内投薬は、本治療薬を中枢神経系、脳、および/または脊髄により効果的に送達し得、中枢神経系、脳、および/または脊髄以外に投与される本薬剤の量を減少し得、そして好ましくは本薬剤の潜在的な所望しない全身への影響を減少し得る。中枢神経系、脳、および/または脊髄へのより効果的、または効率的な送達により、虚血性の事象と関連する虚血性の損傷に対する、保護的または治療的な効果を提供するために投与されることが必要である本薬剤の総用量は減少される。
【0028】
本明細書で使用する用語「IGF−I」とは、インスリン様増殖因子I(IGF−I)のことをいう。IGF−Iは、70アミノ酸および約7600ダルトンの分子量を有する1本鎖のペプチドである。インスリン様増殖因子Iは有糸分裂および細胞の発達に関連する成長過程を活性化する。
【0029】
本発明の一つの実施形態において、治療学的に有効なレベルまでのIGF−I量の増加は、治療有効用量を含有する薬学的組成物の投与によって達成される。投与されるべきIGF−Iは、げっ歯類、鳥類、イヌ、ウシ、ブタ、ウマ、および好ましくはヒトを含むが、これらに限定されない任意の動物種由来であり得る。好ましくは、IGF−Iは哺乳動物の種由来、より好ましくは、処置を受ける哺乳動物と同じ種の哺乳動物由来であることが好ましい。
【0030】
IGF−Iの生物学的に活性な改変体もまた本発明の方法によって含まれる。このような変異体はIGF−I活性、特にIGF−Iレセプター部位に結合する能力を保持するべきである。IGF−I活性は標準的なIGF−Iバイオアッセイの基準を用いて測定され得る。代表的なアッセイとして、胎盤膜を用いた公知のラジオレセプターアッセイ(例えば、米国特許第5,324,639号;Hallら、(1974)J.Clin.Endocrinol.and Metab.39:973−976;およびMarshallら、(1974)J.Clin.Endocrinol.and Metab.39:283−292を参照のこと)、用量依存的の様式でBALB/c 3T3繊維芽細胞のDNAの中へトリチウム化したチミジンの取り込みを促進する分子の能力を測定するバイオアッセイ(例えば、Tamuraら、(1989)J.Biol.Chem.262:5616−5621を参照のこと)などが挙げられる;これらの文献は本明細書に参考として援用される。好ましくは、本改変体はネイティブの分子と少なくとも同程度の活性を有する。
【0031】
適切な生物学的に活性な改変体は、IGF−Iフラグメント、アナログ、および誘導体であり得る。「IGF−Iフラグメント」とは、インタクトなIGF−Iの配列および構造の一部だけからなるタンパク質を意図し、IGF−IのC末端欠失またはN末端欠失であり得る。「アナログ」とは、IGF−IまたはIGF−Iフラグメントのいずれかのアナログであって、一つ以上のアミノ酸の置換、挿入、または欠失を有するネイティブIGF−Iの配列および構造を含む、アナログを意図する。一つ以上のペプトイド(ペプチド模倣物)を有するペプチドもまたアナログという語に含まれる(例えば、国際公開番号 WO 91/04282を参照のこと)。「誘導体」とは、IGF−I、IGF−Iフラグメントまたはそれらのそれぞれのアナログ(例えば、IGF−Iの活性が保持され得る限り、グリコシル化、リン酸化、またはその他の外来性成分の付加)の任意の適当な改変のことを意図する。IGF−Iフラグメント、アナログ、および誘導体を作製する方法は当該分野において利用可能である。一般的に米国特許第4,738,921号、同第5,158,875号、および同第5,077,276号;国際公開番号 WO 85/00831、WO 92/04363、WO 87/01038、およびWO 89/05822;ならびに欧州特許第EP 135094号、同第EP 123228号、および同第EP 128733号(これらは本明細書に参考として援用される)を参照のこと。
【0032】
好ましくは、天然に存在するもしくは天然に存在しないIGF−Iタンパク質改変体は、参照IGF−I分子(例えば、ネイティブヒトIGF−I)または参照IGF−I分子のより短い領域のアミノ酸配列に対し、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは85%、90%、または95%同一であるアミノ酸配列を有する。より好ましくは、本分子は98%または99%同一である。配列同一性の百分率はSmith−Watermanホモロジー検索アルゴリズム(アフィンギャップサーチを使用し、ギャップオープンペナルティーを12、ギャップ伸長ペナルティーを2、62のBLOSUMマトリックスを用いる)を用いて決定される。Smith−Watermanホモロジー検索アルゴリズムはSmithおよびWaterman(1981)Adv.Appl.Math.2:482−489に教示される。改変体は、例えばわずか1〜10アミノ酸残基(例えば6〜10)、わずか5残基、わずか4、3、2残基、さらにはただ1アミノ酸残基が異なり得る。
【0033】
2つのアミノ酸配列の最適なアライメントに関して、改変体アミノ酸配列の連続セグメントは、参照アミノ酸配列に対して、さらなるアミノ酸残基を有するか、またはアミノ酸残基が欠失し得る。参照アミノ酸配列との比較に用いられる連続セグメントは、少なくとも20個連続するアミノ酸残基を含み、そして30、40、50またはそれより多くのアミノ酸残基であり得る。保存的残基の置換またはギャップと関連する配列同一性の補正が作製され得る(上記のSmith−Watermanホモロジーサ検索アルゴリズムを参照のこと)。
【0034】
例えば、保存的アミノ酸置換は、一つ以上の予測される、好ましくは非必須アミノ酸残基に作製され得る。「非必須」アミノ酸残基は、その生物学的活性を変えることなく、IGF−I(例えば、ヒトIGF−I)の野生型またはネイティブ配列から変更され得る残基である。それに対し、「必須」アミノ酸残基は生物学的活性のために必要とされる。「保存的アミノ酸置換」とは、そのアミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基によって置換される、置換のことをいう。同様の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当該分野で定義されている。これらのファミリーとしては、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷の極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性の側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β位分枝側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸が挙げられる。このような置換は、保存されたアミノ酸残基または保存されたモチーフ内に存在するアミノ酸残基に対して作製されない。
【0035】
この技術は、以下にさらに議論されるように、このようなIGF−I改変体の調製および使用について実質的なガイダンスを提供する。IGF−Iのフラグメントは、通常、全長分子のうち少なくとも約10個連続するアミノ酸残基、好ましくは全長分子のうち約15〜25個連続するアミノ酸残基、そして最も好ましくは全長IGF−Iのうち約20〜50個またはより連続したアミノ酸残基を含む。
【0036】
いくつかのIGF−Iのアナログおよびフラグメントは当該分野で公知であり、これらとして、例えば、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83(1986):4904−4907;Biochem.Biophys.Res.Commun.149(1987):398−404;J.Biol.Chem.263(1988):6233−6239;Biochem.Biophys.Res.Commun.165(1989):766−771;Forsbertら、(1990)Biochem.J.271:357−363;米国特許第4,876,242号および同第5,077,276号;ならびに国際公開番号 WO 87/01038および同WO 89/05822に記載されるものが挙げられる。代表的なアナログとして、成熟分子のGlu−3を欠失するアナログ、N末端から5アミノ酸までが短縮されたアナログ、最初の3個のN末端アミノ酸が短縮したアナログ(本明細書においてdes(1−3)−IGF−I、des−IGF−I、tIGF−Iまたは脳IGFという)、およびヒトIGF−Iの最初の16アミノ酸の代わりに、ヒトインスリンB鎖の最初の17アミノ酸を含むアナログが挙げられる。
【0037】
本発明で使用されるIGF−Iは、実質的に精製された形態、ネイティブ形態、遺伝子組換え産生された形態、または化学合成された形態であり得る。例えば、IGF−Iは血液(例えば、血清または血漿)から、公知の方法によって直接的に単離され得る。例えば、Phillips(1980)New Eng.J.Med.302:371−380;Svobodaら(1980)Biochemistry 19:790−797;Cornell および Boughdady(1982)Prep.Biochem.12:57;Cornell および Boughdady(1984)Prep.Biochem.14:123;欧州特許第EP 123,228号;および米国特許第4,769,361号を参照のこと。IGF−Iはまた組換えによって産生され得る。例えば、ヒトIGF−Iタンパク質の完全なアミノ酸配列は公知であり、ヒトIGF−IをコードするDNAはクローン化され、そしてE.coliおよび酵母において発現されている。例えば、米国特許第5,324,639号,同第5,324,660号,および同第5,650,496号ならびに国際公開番号 WO 96/40776(ここでは、酵母Pichia pastoris株におけるヒトIGF−Iの組換え産物およびその組換え産生されたタンパク質の精製が記載されている)を参照のこと。あるいは、IGF−Iは、ペプチド技術の当業者に公知のいくつかの技術のうちいずれかによって、化学的に合成され得る。例えば、固相ペプチド合成技術については、Liら、(1983)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:2216−2220、StewartおよびYoung(1984)Solid Phase Peptide Synthesis(Pierce Chemical Company、Rockford、Illinois)、ならびにBaranyおよびMerrifield(1980)The Peptides:Analysis,Synthesis,Biology、GrossおよびMeienhofer編、Vol.2(Academic Press、New York、1980)、pp.3−254;そして、古典的な液相合成については、Bodansky(1984)Principles of Peptide Synthesis(Springer−Verlag、Berlin);ならびにGrossおよびMeienhofer編、(1980)The Peptides:Analysis,Synthesis,Biology、Vol.1(Academic Press、New York)を参照のこと。IGF−Iはまた、同時複数ペプチド合成(simultaneous multiple peptide synthesis)法により化学的に調製され得る。例えば、Houghten(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:5131−5135;および米国特許第4,631,211号を参照のこと。これらの参考文献は本明細書に参考として援用される。さらに、高度に濃縮された、低塩含有の、生物学的に活性な形態のIGF−Iまたはその改変体を調製する方法は、国際公開番号 WO 99/24062、表題「Novel IGF−I Composition and Its Use」において提供されており、本明細書に参考として援用される。
【0038】
従って、投与されるIGF−Iは当該分野で公知の任意の方法から誘導され得る。一つの実施形態において、投与されるIGF−IはWO 99/24062に記載されているような、粘性のシロップから誘導され得る。この高度に濃縮されたIGF−Iシロップのアリコートは、溶液、懸濁液、または乳濁液のような、注射可能な、または注入可能な形態に再構成され得る。これは投与前に溶液、懸濁液、または乳濁液に変換し得る、凍結乾燥された散剤形態でもあり得る。
【0039】
IGF−Iを投与する場合、適切な血清グルコースのモニタリングが、低血糖症の阻止のため、行われるべきである。排出の半減期、分布の容積、日々の生成速度、および血清濃度は、正常なヒトにおけるIGF−Iの十分に確立された薬物動態学的なパラメータである。例えば、Gulerら、(1989)Acta Endocrinological(Copenh)121:753−58);Zapfら、(1981)J.Clin.Invest.68:1321−1330を参照のこと。
【0040】
中枢神経系、脳、および/または脊髄における、IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体の量の、治療上有効なレベルへの増加は、本薬剤の治療有効用量を含む薬学的組成物の投与によって獲得され得る。「治療有効用量」とは、IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体の用量を意図する。この用量は、中枢神経系、脳、および/もしくは脊髄の関連部位において、IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体の所望の生物学的活性を与える、治療上有効なレベルへの本薬剤の量の増加という、所望の目標を達成する用量である。虚血損傷の処置に有益である所望の生物学的活性として、例えば、IGF−Iへの応答としてのタンパク質リン酸化の増加、特にIGF−Iレセプターのタンパク質リン酸化の増加(例えば、国際公開番号 WO 00/33813を参照のこと)、または他の活性(例えば、コリンアセチルトランスフェラーゼ活性の増加およびニューロン生存の促進(例えば、米国特許第5,652,214号を参照のこと))が挙げられる。
【0041】
虚血事象に関連する初期の虚血損傷を患っている中枢神経系の領域に送達される場合、治療有効量または治療有効用量のIGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体は、この領域のさらなる虚血損傷の量を軽減する。虚血損傷におけるこの軽減は、梗塞の大きさの減少および浮腫の減少として評価され得る。さらに、中枢神経系組織の損傷が減少するので、本発明の方法に基づく処置を受ける哺乳動物は、神経欠損(neural deficit)の軽減を示し、このため運動の回復、感覚機能、前庭運動(vestibulomoter)機能および/もしくは体性感覚機能を改善した。同様に、この事象に先立って、虚血事象に直面する危険がある哺乳動物に、治療有効量のIGF−Iが鼻腔内投与される場合、虚血事象が起こったとしても、虚血損傷は妨げられ得る。
【0042】
虚血損傷の程度を定量する方法および虚血事象が処置されたか否か決定する方法(特に、梗塞の大きさ、浮腫、および神経欠損の発生を含む、虚血損傷の軽減もしくは予防に関して)は当業者に周知である。このような方法には、組織学的な方法、分子マーカーアッセイ、および機能/行動分析を含むが、これらに限定されない。例えば、虚血性の傷害の後、omega3(末梢型ベンゾジアゼピン)結合部位の密度は有意に増加する(Benazodesら、(1990)Brain Res.522:275−289)。omega3部位を検出する方法は公知であり、そして虚血損傷の程度の決定に使用し得る。例えば、Gottiら(1990)Brain Res.522:290−307および本明細書に引用された参考文献を参照のこと。あるいは、虚血事象に続く新しい軸索成長のマーカーとして、Growth Associated Protein−43(GAP−43)が使用され得る。例えば、Stroemerら、(1995)Stroke 26:2135−2144、およびVaudanoら、(1995)J.Neurosci 15:3594−3611を参照のこと。治療上の効果はまた、運動技能の改善、認知機能の改善、知覚(sensory perception)の改善、発語の改善、および/または処置中の哺乳動物における発作に対する傾向の減少によっても測定され得る。このような感覚運動および反射機能の評価に使用される機能/行動試験は、例えば、Bedersonら、(1986)Stroke 17:472−476、DeRyckら、(1992)Brain Res.573:44−60、Markgrafら、(1992)Brain Res.575:238−246、Alexisら、(1995)Stroke 26:2338−2346に記載される。ニューロン生存の強化はまた、Scandinavian Stroke Scale(SSS)またはバーセル指数(Barthel Index)を用いても、測定され得る。
【0043】
本発明はIGF−Iまたはその改変体についての神経保護のいかなる特定の機構にも固執されない。しかし、IGF−Iの神経保護特性はプログラム細胞死の潜伏期に起こる事象の抑制に由来すると考えられている(D’Melloら、(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.90:10989−10993およびSamejimaら、(1998)J.Cell.Biol.143:225−239)。ホスファチジルイノシトール3’−キナーゼおよびマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ経路を含む機構を介してIGF−Iが、アポトーシスを抑制することが証拠とともに示唆されている。例えば、Parrivas(1997)J.Biol.Chem.272:154−161を参照のこと。IGF−Iによる細胞死の阻害は、IGF−Iが別のニューロトロフィン非感受性のアポトーシスをブロックし得るという証拠に広範に基づいている(Fernandezsanchezら、(1996)FEBS Lett.398:106−112)。
【0044】
「治療有効量」または「治療有効用量」とは、本明細書中の他の箇所に記載した虚血事象に関連する虚血損傷の軽減もしくは予防に関して、所望の治療効果を誘発するのに十分なIGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体の濃度を意味する。治療有効量は多くの要因(例えば、虚血損傷の重傷度および形態、処置を受ける被検体の応答性、被検体の体重、および虚血事象とIGF−Iまたはその改変体の投与との間に経過した時間の長さが挙げられる)に依存する。効力および投薬量を決定する方法は当業者に公知である。
【0045】
虚血事象に関連する虚血損傷の軽減または予防を必要とする哺乳動物において、虚血事象に関連する虚血損傷を軽減または防止するために、IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体の治療有効量または治療有効用量は、体重1kg当たり約0.10mg〜約3.0mg、好ましくは体重1kgあたり、約0.15mg〜約2.8mg、より好ましくは1kgあたり約0.20mg〜約2.6mg、さらにより好ましくは1kgあたり約0.25mg〜約2.4mg、なおより好ましくは1kgあたり約0.50mg〜約2.0mg、さらにより好ましくは1kgあたり約0.80mg〜約2.0mg、なおより好ましくは体重1kgあたり約1.0mg〜約2.0mg、さらにより好ましくは体重1kgあたり約1.0mg〜約1.5mgである。いくつかのレジメンにおいて、IGF−Iまたはその改変体のヒトへの投与のための治療有効用量として、体重1kgあたり、約0.10、0.20、0.25、0.30、0.35、0.40、0.45、0.50、0.55、0.60、0.65、0.70、0.75、0.80、0.85、0.90、0.95、1.0、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9または3.0mgが挙げられる。これらの用量は、IGF−Iまたはその生物学的に活性な変異体が鼻腔から中枢神経系に輸送される効率、を含む要因に依存する。より多い総用量は、薬剤の複合的な投与によって送達され得る。
【0046】
治療有効用量のIGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体に加えて、この組成物は、例えば、鼻腔の粘膜または上皮内においてまたは、鼻腔の粘膜または上皮を経由して、あるいは神経経路に沿ってまたは神経経路を経由して、本神経保護剤の移動を促進し得る、任意の薬学的に受容可能な添加物、キャリア、および/もしくはアジュバントを含み得る。あるいは、組成物は、神経細胞損傷部位へのIGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体の輸送を補助する物質と結合したIGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体を含有し得る。本組成物はさらに、さらなる、発作に対する神経栄養因子、例えば神経成長因子(NGF)、繊維芽細胞増殖因子などを、IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体の治療効果が、減少しない限り含有し得る。
【0047】
「薬学的に許容可能なキャリア」とは、保管、投与、および/あるいはIGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体による治癒効果を促進するために、当該分野において慣習的に使用される、キャリアのことが意図される。キャリアはまた、この神経栄養因子による、任意の所望しない副作用を軽減し得る。適切なキャリアは、安定であるべきである(すなわち、処方物中の他の成分と反応し得ない)。キャリアは、処置に用いられる投薬量および濃度で、レシピエントに有意の局所的なまたは全身的な悪影響を生じてはならない。このようなキャリアは一般的に当該分野において公知である。
【0048】
本発明のために適切なキャリアとして、巨大で安定な高分子のために慣習的に使用されているもの、例えば、アルブミン、ゼラチン、コラーゲン、多糖類、単糖類、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマー化したアミノ酸、不揮発性油、オレイン酸エチル、リポソーム、グルコース、スクロース、ラクトース、マンノース、デキストロース、デキストラン、セルロース、マンニトール、ソルビトール、ポリエチレングリコール(PEG)などが挙げられる。
【0049】
水、生理食塩水、デキストロース水溶液、およびグリコールが、特に(等張である場合)溶液であるために、好ましい液体のキャリアである。キャリアは、種々の油脂から選択され得る。これらの油脂として、石油起源、動物起源、植物起源、または合成物起源のものが挙げられ、例えば、落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油、などである。適切な薬学的賦形剤として、デンプン、セルロース、滑石、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール、などが挙げられる。この組成物は、滅菌のような、慣習的な薬学的手段に供され得、慣習的な薬学的添加剤(例えば、防腐剤、安定化剤、湿潤剤、または乳化剤、浸透圧調整のための塩、緩衝液など)を含み得る。
【0050】
組成物中の他の受容可能な成分として、等張性改変剤、例えば、水、生理的食塩水、ならびにリン酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、および他の有機酸またはそれらの塩類を含む緩衝液が挙げられるが、これらに限定されない。概して、薬学的に受容可能なキャリアは、一つ以上の安定化剤、還元剤、酸化防止剤および/または酸化防止キレート剤を含む。タンパク質に基づく組成物(特に薬学的組成物)の調製における、緩衝液、安定化剤、還元剤、酸化防止剤、およびキレート剤の使用は、当該分野で周知である。Wangら、(1980)J.Parent.Drug Assn.34(6):452−462;Wangら、(1988)J.Parent.Sci.and Tech.42:S4−S26(補遺);Lachmanら、(1968)Drug and Cosmetic Industry 102(1):36−38、40、ならびに146−148;Akers(1988)J.Parent.Sci.and Tech.36(5):222−228;およびMethods in Enzymology、第25巻、ColowickおよびKaplan編、「Reduction of Disulfide Bonds in Proteins with Dithiothreitol」、Konigsberg、185−188ページ、を参照のこと。
【0051】
適切な緩衝液として、酢酸塩、アジピン酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、リン酸塩、酒石酸塩(tartarate)、ホウ酸塩、トリ(ヒドロキシメチルアミノメタン)、コハク酸塩、グリシン、ヒスチジン、種々のアミノ酸の塩など、またはこれらの組み合わせが挙げられる。Wang(1980)上述、455ページを参照のこと。適切な塩および等張化剤(isotonicifier)として、塩化ナトリウム、デキストロース、マンニトール、スクロース、トレハロース、などが挙げられる。キャリアが液体である場合、キャリアは口腔、結膜、または皮膚の流体に対し低張または等張であり、そしてpHが4.5〜8.5の範囲内にあることが好ましい。キャリアが散剤形態である場合、キャリアはまた許容可能な毒性のないpHの範囲内にあることが好ましい。
【0052】
還元されたシステインの還元を維持する、適切な還元剤としては、0.01〜0.1重量パーセントのジチオスレイトール(DTT、クリランド試薬としても知られている)またはジチオエリトリトール;0.1%〜0.5%(pH2〜3)のアセチルシステインまたはシステイン;ならびに0.1%から0.5%(pH3.5〜7.0)のチオグリセロールおよびグルタチオンが挙げられる。Akers(1988)上述、225−226ページを参照のこと。適当な酸化防止剤としては、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムおよびアスコルビン酸が挙げられる。Akers(1988)上述、225ページを参照のこと。微量金属が触媒する還元型システインの酸化を防止するため微量金属をキレートする、適当なキレート剤としては、クエン酸塩、酒石酸塩(tartarate)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム塩、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩、およびエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムカルシウム塩、ならびにジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)が挙げられる。例えば、Wang(1980)上述、457−458ページおよび460−461ページ、ならびにAkers(1988)上述、224−227ページを参照のこと。
【0053】
組成物は、一つ以上の防腐剤(例えば、フェノール、クレゾール、パラアミノ安息香酸、BDSA、ソルビトレート(sorbitrate)、クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、など)を含み得る。適当な安定化剤としては、トレハロースまたはグリセロールのような炭水化物を含む。組成物は、安定化剤(例えば、一つ以上組成物の物理学的形状などを安定化するための、微晶質セルロース、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール、またはスクロース;および例えば、組成物の化学構造を安定化するための、一つ以上のグリシン、アルギニン、加水分解されたコラーゲン、またはプロテアーゼインヒビター)を、含み得る。適切な懸濁剤として、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒアルロン酸、アルギネート、コンドロイチン硫酸、デキストラン、マルトデキストラン、硫酸デキストラン、などが挙げられる。組成物は、乳化剤(例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート80、プルロニック、トリオレイン、大豆油、レシチン、スクアレン、ソルビタントレイオレート(sorbitan treioleate)など)を含み得る。組成物は、抗菌剤(例えば、フェニルエチルアルコール、フェノール、クレゾール、塩化ベンザルコニウム、フェノキシエタノール、クロルヘキシジン、チメロサール(thimerosol)など)を含み得る。適切な増粘剤として、天然の多糖類(例えばマンナン、アラビナン、アルギネート、ヒアルロン酸、デキストロースなど);低分子量のPEGヒドロゲルのような合成の多糖類;および前述の懸濁剤が挙げられる。
【0054】
組成物は、アジュバント(例えば、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、BDSA、コレート、デオキシコレート、ポリソルベート20およびポリソルベート80、フシジン酸など)を含み得る。適当な糖としては、グリセロール、トレオース、グルコース、ガラクトース、マンニトールおよびソルビトールが挙げられる。
【0055】
好ましい組成物として、溶解性向上のための添加剤(好ましくはシクロデキストリン);親水性添加剤(好ましくは単糖類またはオリゴ糖);吸収性向上のための添加剤(好ましくは、コレート、デオキシコレート、フシジン酸、またはキトサン);陽イオン界面活性剤(好ましくはセチルトリメチルアンモニウムブロマイド);好ましくは投薬部位における組成物の滞留時間を助長するための粘性増強添加物(好ましくは、カルボキシメチルセルロース、マルトデキストリン、アルギン酸、ヒアルロン酸、または硫酸コンドロイチン);または持続放出マトリックス(好ましくは、高分子無水物(polyanhydride)、ポリオルトエステル、ヒドロゲル;粒子状緩効性デポシステム(好ましくは、ポリラクチドコグリコリド(polylactide co−glycolide)(PLG))、デポフォーム、デンプンミクロスフェア、またはセルロース由来のバッカル錠システム(buccal system);脂質に基づくキャリア(好ましくは、乳濁液、リポソーム、ニオソーム(niosome)、またはミセル)のうちの一つ以上を含む。組成物は二重膜不安定化添加剤(好ましくは、ホスファチジルエタノールアミン);フソジェニック添加剤(fusogenic additive)(好ましくはコレステロールヘミスクシネートを含み得る)。
【0056】
これらのキャリアおよび添加剤の列挙は、決して完全ではなく、当業者であれば薬学的調製物として許可され、現在局所的処方および非経口的処方が許可されている化学物質のGRAS(generally regarded as safe)リストから賦形剤を選択し得る。
【0057】
本発明の目的のために、IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体を含有する薬学的組成物は、単位投薬量として、そして溶液、懸濁液、または乳濁液のような形態に処方され得る。鼻腔に投与される薬学的組成物は、散剤、顆粒剤、溶液、クリーム、スプレー(例えばエアロゾル)、ゲル、軟膏、注入液、注射液、ドロップ、持続放出性組成物(例えば、ポリマーディスク)の形態であり得る。投与のための組成物の他の形態としては、微粒子の懸濁液(例えば乳濁液)、リポソーム、神経栄養因子を徐々に放出する挿入物などが挙げられる。散剤形態または顆粒剤形態の薬学的組成物は、溶液、および希釈剤、分散剤、または界面活性神経栄養因子と混合され得る。投与のためのさらなる好ましい組成物として、IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体を、投与部位に保持するための生物接着剤(bioadhesive);粘膜または上皮に適用するための、スプレー、ペイント、またはスワブ;その他、が挙げられる。組成物はまた、投与前に、溶液、懸濁液、または乳濁液に変換され得る、凍結乾燥された散剤形態でもあり得る。IGF−Iまたはその改変体を含有する薬学的組成物は、好ましくはメンブラン濾過で滅菌され、そして単用量または複数回の用量の容器に(例えば、密封されたバイアルまたはアンプルに)保管される。
【0058】
薬学的組成物を処方する方法は、当該分野において一般的に公知である。薬学的に許容可能なキャリア、安定化剤およびイソモライト(isomolyte)処方ならびに選択の詳細な考察は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(第18版;Mack Publishing Company、Eaton、Pennsylvania、1990)に見出され得、本文献は本明細書に参考として援用される。
【0059】
IGF−IまたはIGF−Iの生物学的に活性な改変体はまた、一般的に1日より長く、治療される哺乳動物において、この薬物学的に活性な成分の存在を延長するために徐放性の形態で処方され得る。徐放性処方物を調製する多くの方法は、当該分野で公知であり、そして本明細書中で参考として援用するRemington’s Pharmaceutical Sciences(第18版;Mack Publishing Company,Eaton,Pennsylvania,1990)に、開示される。
【0060】
一般的に、IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体は、固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスに捕捉され得る。マトリックスは、フィルムまたはマイクロカプセルに成形され得る。そのようなマトリックスの例としては、ポリエステル、L−グルタミン酸およびγエチル−L−グルタミン酸のコポリマー(Sidmanら、(1983)Biopolymers 22:547−556)、ポリ乳酸(米国特許第3,773,919号および欧州特許第58,481号)、ポリ乳酸−コ−グリコリドのようなポリ乳酸ポリグリコレート(PLGA)(例えば、米国特許第4,767,628号および同第5,654,008号)、ヒドロゲル(例えば、Langerら(1981)J.Biomed.Mater.Res.15:167−277;Langer(1982)Chem.Tech.12:98−105)、非分解性エチレン−ビニルアセテート(例えば、エチレンビニルアセテートディスクおよびポリ(エチレン−コ−ビニルアセテート)、Lupron DepotTMのような分解性乳酸−グリコール酸コポリマー、ポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸(欧州特許第133,988号)、ヒアルロン酸ゲル(例えば、米国特許第4,636,524号)、アルギニン酸懸濁液、などが挙げられるが、これに限定されない。
【0061】
適したマイクロカプセルはまた、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセル、ならびにコアセルベーション方法または界面重合によって調製されたポリメチルメタクリレートマイクロカプセルを含み得る。国際公開第99/24061号、(表題「Method for Producing Sustained−release Formulations」、ここで、タンパク質が、PLGAミクロスフェアにカプセル化される)を参照のこと。(これは本発明書で参考として援用される)加えて、リポソームおよびアルブミンのようなミクロエマルジョンまたはコロイド薬物送達系もまた、使用され得る。Remington’s Pharmaceutical Sciences(第18版;Mack Publishing Company Co.,Eaton,Pennsylvania,1990)を参照のこと。他の徐放性組成物は、投与の部位に薬理学的に活性な薬剤を保持するために生体接着剤を使用する。
【0062】
薬学的組成物中でIGF−Iまたはその改変体と組み合され得る任意の物質の中には、親油性の物質があり、その物質は、鼻腔の粘膜または上皮を通って、CNS中の損傷した細胞へのこの神経保護薬剤の吸収を増強し得る。神経保護薬剤は、親油性アジュバント単独またはキャリアと組み合わせて混合され得るか、また1つもしくはいくつかのタイプのミセルまたはリポソーム物質と組み合されられ得る。好ましい親油性物質の中には、ホスファチジルコリン、リポフェクチン、DOTAPなどのうち1以上を含む陽イオン性リポソームがある。それらのリポソームは、ガングリオシドおよびホスファチジルセリン(PS)のような他の親油性の物質を含み得る。GM−1ガングリオシドおよびホスファチジルセリン(PS)のようなミセルの添加剤もまた好ましく、単独か組み合わせかのどちらかで神経栄養性薬剤と組み合わせられ得る。GM−1ガングリオシドは、任意のリポソーム組成物中に1から10モルパーセント、またはミセル構造中に多くの量で含まれ得る。タンパク質薬剤は粒子状構造中にカプセル化され得るか、またはタンパク質薬剤の疎水性に依存してこの構造の疎水性部分として組み込まれ得るかのいずれかである。1つの好ましいリポソーム製剤は、デポー形態を使用する。神経保護薬剤は、多小胞のリポソーム中にカプセル化され得る。国際公開第WO99/12522(表題「High and Low Load Formulations of IGF−I in Multivesicular Liposomes」本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。
【0063】
薬学的組成物は、IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体の安定性を増強するために可溶解化化合物をさらに含み得る。IGF−Iのための好ましい可溶解化剤は、その溶解性を増強し得るグアニジニウム基を含む。そのような可溶解化化合物の例としては、アミノ酸のアルギニン、およびpH5.5以上におけるIGF−Iの溶解性、またはその生物学的に活性な改変体の溶解性を増強する能力を保持する、アルギニンのアミノ酸アナログを含む。そのようなアナログは、限度なしにアルギニンを含むジペプチドおよびトリペプチドを含む。「安定性を増強する」によって、IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体の量の増加を意図し、その量は、同じ成分を有するグラニジウム含有化合物が欠如している溶液中、pH5.5以上でに溶け得るこのタンパク質の量と比較すると、グアニジウム含有化合物の存在下でpH5.5以上の溶液に溶け得る。IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体の溶解性を増強させるグアニジウム含有化合物の能力は、当該分野で周知である方法を使って決定され得る。一般に、組成物に存在する可溶解化化合物の濃度は、約10mM〜約1Mであり、ならびに、例えば、化合物アルギニンの場合、約20mM〜約200mMの濃度範囲におよび、国際公開第WO99/24063号、「Compositions Providing for Increased IGF−I Solubility」本明細書中に参考として援用される)に開示される。
【0064】
1つの実施形態において、組成物は、IGF−Iの有効量とこの神経保護薬剤の制御された放出を提供するポリ(エチレン−コ−ビニルアセテート)との組み合わせを含む。
【0065】
鼻腔内の送達のために処方された組成物は、必要に応じて臭気剤を含み得る。臭気薬剤は、芳しい感覚を与えるために、および/または嗅覚の神経上皮に対するIGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体の送達の増強のため鼻腔内の調製物の吸入を促進するために、神経保護薬剤と組み合わせられる。臭気薬剤によって与えられる芳しい感覚は、心地よくあり得、不快であり得、またはそうでなければ悪臭を放し得る。臭気性レセプターニューロンは、嗅覚の上皮に局在し、その臭気性レセプターニューロンは、ヒトにおいて、鼻腔の上部にたった数平方センチメートルを占有する。レセプターを含む嗅覚のニューロンの樹状突起の繊毛は、かなり長い(約30〜200um)。10〜30umの粘液の層が繊毛を包み、その繊毛に臭気薬剤がレセプターに達するために浸透しなければならない。Snyderら、(1988)J.Biol.Chem.263:13972−13974参照のこと。臭気剤結合タンパク質(OBP)に対して中程度から高い親和性を有する親油性の臭気薬剤の使用は、好ましい。OBPは、鼻分泌液中に見出される親油性低分子に対する親和性を有し、親油性臭気性物質の輸送を増強するためのキャリアならびに、嗅覚のレセプターニューロンに対する活性な神経保護薬剤として作用し得る。臭気薬剤は、嗅覚の神経上皮に対するOBPによって、神経保護薬剤の送達のさらなる増強のための調製物の中でリポソームおよびミセルのような親油性添加剤と会合し得ることが好ましい。OBPはまた、嗅覚のニューロンレセプターへの神経保護薬剤の送達を増強するために、親油性薬剤に直接結合し得る。
【0066】
OBPに対する高い親和性を有する適した臭気剤は、セトラルバおよびシトロネロールのようなテルパノイド(terpanoid)、アミル桂皮アルデヒド(amyl clnnamaldehyde)およびヘキシル桂皮アルデヒドのようなアルデヒド、ヘソ吉草酸オクチルのようなエステル、C1S−ジャスミンおよびジャスマルのようなジャスミン、ならびにムスク89を含む。他の適した臭気薬剤としては、アデリレートシスラーゼおよびグアニレートシスラーゼのような臭気剤感受性酵素を刺激し得る臭気薬剤、または神経保護薬剤の吸収を増強するために嗅覚系内で、イオンチャンネルを改変し得る臭気薬剤が、挙げられる。
【0067】
IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体の単位用量を有する薬学的組成物は、例えば、溶液、懸濁液、エマルジョン、または徐放性の処方物の形式であり得る。好ましくは、薬学的組成物の1用量の全体量は、約10μl〜約0.2mlの範囲におよび、好ましくは約50μl〜約200μlの範囲に及ぶ。適切な容量は、鼻腔に対して、IGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体が投与されるサイズおよび組成物中の成分の溶解性のような要因によって変化し得ることは明白である。
【0068】
特定の細胞に対して単位用量として投与されるIGF−Iまたはその改変体の全体量が、投与される薬学的組成物の型、すなわち、組成物が例えば、溶液、懸濁液、エマルジョン、または徐放性処方物の形態であるか否かに依存することを認識する。例えば、この神経保護薬剤の治療的に有効な量を含む薬学的組成物が、徐放性処方物である場合、神経保護薬剤はより高い濃度で投与される。
【0069】
本発明のこの実施形態において、バリエーションが、治療的に有効な用量および神経保護薬剤の投与の頻度に関して受け入れられ得ることは当業者に明らかであるべきである。投与される神経保護薬剤の量は、投与の頻度とは逆に相関する。それゆえに、単一で投与される用量においてIGF−Iまたはその改変体の濃度の増加、または神経保護薬剤の徐放形態の場合における平均滞留時間の増加は、一般的に投与の頻度の減少につながる。
【0070】
神経保護薬剤の単一用量は、数分、数時間、数日、または数週の期間にわたって投与され得ることが認識される。神経保護薬剤の単一用量が、十分であり得る。あるいは、反復用量が、数時間、数日、または数週の期間にわたって患者に与えられ得る。加えて、望ましくは、神経保護薬剤の組み合わせが、本明細書中の他の箇所に記載されるように投与され得る。
【0071】
さらに、IGF−Iまたはその変異体の治療的に有効な用量ならびに投与の頻度は、虚血事象を経験した被験者における虚血性損傷を減少する目的か、または虚血事象を経験する危険性のある被験者における虚血性損傷を予防する目的で投与されるかのどちらかに依存する。このように、当業者は、より高い用量が虚血事象を既に被った哺乳動物に投与され、そして目的は虚血事象の減少であることを認識する。同様に、当業者は、より低い用量が虚血事象の経験の危険性のある哺乳動物に投与され、そして虚血事象が起こる場合、目的は、虚血性損傷を予防することを認識する。
【0072】
少数のある程度の実験法は、最も有効な用量および投与用量の頻度を測定するために必要であり、これは、一旦本開示が通知されれば、十分当業者の能力の範囲内である。本発明書の方法は、任意の動物において使用され得る。典型的な哺乳動物は、限定はしないが、ラット、猫、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタおよび好ましくはヒトが挙げられる。
【0073】
虚血事象を経験した哺乳動物における虚血性損傷を減少する目的のために、IGF−Iまたはその改変体の1つ以上の治療的に有効な用量の鼻腔内投与は、開始虚血事象の数分、数時間、数日、または数週内に起こり得る。例えば、開始の治療的用量は、約2〜約4時間、約2〜約6時間、約8時間、約10時間、約15時間、約24時間、約36時間、48時間、72時間、または約96時間内に投与され得、そして1回以上の追加の用量は、最初の投与に続いて数時間、数日、または数週内に投与され得る。哺乳動物が、虚血事象を経験する危険性がある場合、投与は、事象が起こる数週、数日、数時間、数分内に起こり得る。このように、例えば、心臓血管の外科手術を受ける哺乳動物は、外科的手順の前、間、または後にIGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体の1回以上の治療的に有用な用量を投与され得る。
【0074】
本発明は、次の実施例を参照してより理解され得る。これらの実施例は、本発明の特定の実施形態の代表例であることが意図され、そして本発明の範囲を限定することとして意図されない。
【0075】
(実験)
(実施例1:IGF−Iの鼻腔内投与が、MCAOでラットにおける、局所脳虚血性損傷を保護する)
次の研究は、発作の動物モデルにおける鼻腔内投与されるIGF−Iの用量応答関連性の決定のために行なわれた。
【0076】
(材料と方法)
(動物の準備)
この実施例および次の実施例において用いられる全ての手順は、Animal Care and Use Committee at Regions Hospitalによって承認され、そしてPrinciples of Laboratory Animal Care Guidelines(NIH出版物#85−23、1985年改訂)に従った。総計77の体重250〜303gの成体雄Sprague−Dawleyラットを、誘導のために3%のハロタンおよび維持のために酸素中で1.5%のハロタンで麻酔した。外科的手順の間、動物の体温を、直腸プローブで連続的にモニターし、そして加温パッドで37℃に維持した。
【0077】
(中大脳動脈閉塞)
局所的な脳虚血を、以前に記載された腔内の縫合MCAO方法(Longaら、(1989)Stroke 20:84−91;Chenら、(1992)J.Cereb.Blood Flow Metab.12:621−8)によって誘導した。簡潔に、右側総頸動脈(CCA)、外頸動脈(ECA)、および内頸動脈(ICA)を、露出した。動物の体重によって決定された、長さ(19±0.5mm)の4〜0の単繊維(nonofilament)ナイロン縫合糸(先端が炎の近くで温めることによって丸くなっている)は、中大脳動脈(MCA)の起点をブロックするまで、ECAからICAの腔内に進めた。MCAOの2時間後、動物は、ハロタンで再麻酔し、そして先端がICAの腔内をきれいにするまで再灌流を、縫合糸を引きぬくことによって行った。
【0078】
(薬物調製)
この実施例および次の実施例で使用するために、IGF−Iを、酵母株Pichia pastoris中で組換え生産し、そして本明細書に参考として援用される、米国特許第5,324,639号、5,324,660号、および同5,650,496および国際公開番号WO96/40776に本質的に記載されるように精製した。rIGF−Iは、pH6.0、140mM塩化ナトリウムを含む10mMコハク酸ナトリウム緩衝液中で様々な濃度において調製した。ビヒクルは、pH6.0、140mM塩化ナトリウムを含む10mMコハク酸ナトリウム緩衝液であった。
【0079】
(プロトコル)
計3回の研究を行った。予備研究において、研究者は、予備知識を与えられていた。ラットを2つの群に分け、その群は、75μgIGF−Iで処置されたもの(n=11)およびビヒクルコントロールのもの(n=10)であった。72時間の生存の間、神経欠陥を、Longa’s test(Longaら、(1989)Stroke 20:84−91)によってのみ評価した。結果により、神経機能が、MCAOの開始後48時間および72時間(p<0.04)で統計的に有意に改善されたことが示された(データは示されない)。次の2つの研究は、研究者に予備知識を与えずに行った。これらの研究の最初に、75μg IGF−Iで処置された群(n=10)およびビヒクルコントロール1群(n=12)で予備研究を繰り返した。2番目の研究は、用量依存関係を調べるために150μg(n=10)、37.5μg(n=12)、およびビヒクルコントロール2(n=12)のIGF−I用量を使用した。
【0080】
(鼻腔内投与)
組換えヒト(rh)IGF−I(rh−IGF−I)およびビヒクルは、Chiron Corporation(Emeryville,California)によって与えられた。ラットを、異なった群に無作為に分けた(研究1:75μg rh−IGF−Iおよびビヒクルコントロール1;研究2:150μg rh−IGF−I、37.5μg rh−IGF−I、およびビヒクルコントロール2)。神経欠陥機能および梗塞値を評価する研究者に予備知識を与えないために、動物に投与されるためのIGF−Iおよびビヒクルは符号化した。このように、研究者は、神経機能および梗塞値を統計的に分析するまで溶液がIGF−Iであるかビヒクルであるか知らなかった。
【0081】
それぞれの処理群またはコントロール群において、それぞれの処置の3つの用量(37.5、75、または150μgのrh−IGF−I)またはビヒクル溶液を、次のようにそれぞれのラットに投与した。それぞれの用量について、全部で50μlの溶液が、20分間かけて鼻に滴(5μl/滴)(左と右の鼻孔の間で交互に2分毎に滴下する)を与えられた。投与の間、口および逆の鼻孔は、滴が自然に吸入され得るように、閉じられたままにした。この投与方法は、鼻腔の3分の1より上に、薬剤(例えば、IGF−Iまたはビヒクル)を送達するために圧力および重力の両方を考慮に入れる。MCAOを始めた10分後、ハロタンで麻酔したラットを、仰向けにし、そしてそれぞれの処置の始めの用量を投与した。2回目および3回目の用量は、MCAOを始めた後、それぞれ同じ方法で24時間および48時間に投与した。
【0082】
(行動試験)
麻酔からの回復に続いて、行動性の神経障害を、MCAO開始後4、24、48および72時間で評価した。4つの行動性のテストは、運動性、感覚性、および前庭運動(vestibulomotor)の障害を体系的に評価するために使われた。4−ポイントスケール(0−4)での姿勢反射および片側不全麻痺テストは、Bedersonら(1986)Stroke 17:472−476:0=神経障害が認められない、1=左前足屈曲、2=外側に押す抵抗の減少および旋回なしでの前足屈曲、3=旋回があり、2と同じ行動、4=自発的に歩き得ない、によって記載された。
【0083】
DeRyckら(1988)Stroke 20:1383−1390:視覚的に前肢を置く(visual forepaw placing)ことを基礎とした前肢を置くテスト(forepaw placing test)は、ラットを机の上に向かっておろすことによって、そしてラットの前肢の背後または外側の側面と机の端とを接触させることによって最初にテストされた。非視覚的に前肢を置く(non−visual forepaw placing)こともまた、ラットの頭部を45持ち上げることによって頭部接触刺激を除去してから、ラットを机の上に向かっておろすことによって、そしてラットを机の端のそれぞれに接触させることによってテストした。それぞれのテストに対して、肢を置くことのスコアは、:0=即時にかつ完全に置く、1=遅延および/または不完全(>2秒)、2=置くことがない、であった。
【0084】
改変ビームバランステスト(Modified beam balance test)(Feeneyら、(1982)Science 217:855−857;Dixionら、(1987)J.Neurosurg.67:110−119):ラットは、60秒間細いビーム(40×1.3×1.3cm、机の上から30cm)をあてられた。少なくとも5回のトレーニングスコアを、MCAOの前に記録した。機能障害スケールは、次の通りであった:1=足が長角材の先端に向って定常の姿勢、2=肢が長角材の横側にあるか、またはゆれ、3=1つまたは2つの手肢が滑る、4=3つの手肢が滑る、5=肢を長角材上に居ようとするが、落ちる、6=長角材上にだらりと伸び、次いで落ちるかまたは試みるまでもなく落ちる。
【0085】
粘着テープ試験(Adhesive tape test)(Schallertら、(1982)Pharmacol.Biochem.Behav.16:445−462;HerandezおよびSchaller(1988)Exp.Neurol.102:318−324;Andersenら、(1990)Physiol.Behav.47:1045−1052):体性感覚障害(Somatosensory deficit)を、手術前および手術後の両方で測定した。全てのラットを、テスト環境に慣れさせた。最初のテストで、2枚の接着剤が裏打ちされた紙の点(等サイズ、113.1mm)は、それぞれの前肢の腹側をふさぐことでそれぞれ両側の触覚の刺激として使用した。そのラットを、それから籠に戻した。肢からの接触および除去のそれぞれの刺激に対する潜伏は、1日に5回の試行で記録した。個々の試行は、少なくとも10分間離される。5回の試行の平均時間を、それぞれの日の記録のために使用した。動物を、手術の2日間前に訓練した。一旦、ラットが10秒内に紙の点を離すことができたら、ラットをMCAOに供した。スケールを、以下のように評価した:1=<10秒;2=10〜19秒;3=20〜29秒;4=30から39秒;5=40〜49秒、6=50〜59秒、7=>60秒。
【0086】
(組織学的評価)
ラットを、72時間生かし、その時点で5%ハロタン/酸素で安楽死させた。ラットの脳を、通常生理食塩水で心臓を通して灌流し、続いて中性緩衝化10%ホルマリンによって固定した。それぞれの脳を、注意深く取り出し、そして10%ホルマリン溶液中に少なくとも48時間浸され、次いで前頭葉から後頭葉までを7つの等間隔に区切った(2mm)冠状切片に切片化した。脳切片を、パラフィン中に包埋した。一連の隣接した5マイクロメートルの厚さの切片を、冠状平面においてそれぞれの切片から切り取られ、そしてヘマトキシンおよびエオシンで染色される。画像分析システム(AIS/C Imagine Research Inc.,St.Catherines,Ontario,Canada)を使用して、測定される梗塞容量(MV)、右半球容積(RV)、および左半球容積(LV)を決定した。梗塞容量を、個々の切片からのデータの積分によっって計算した。虚血性の半球中の脳膨張を補償するために、それぞれのラットにおいて較正された梗塞容量は、以前に記載された式、較正された梗塞容量(%)=[LV−(RV−MV)]/LV×100(Swansonら、(1990)J.Cereb.Blood Flow Metab.10:290−293;Aspeyら(1998)Neuropathol.Appl.Neurobiol.24:487−497)によって決定した。梗塞区域、境界域、および非虚血区域の形態学的変化を、光学顕微鏡によって観察した。
【0087】
(統計)
別個の分析を、2つの研究について行い、2つの研究は75μg rh−IGF−Iおよびコントロール1群とを比較する研究1、ならびに150μg rh−IGF−I、37.5μg rh−IGF−Iおよびコントロール2の群とを比較する研究2である。ラットの死亡率は、フィッシャーの正確確率検定を用いて群の間で比較した。ベースラインの体重および較正された梗塞容量は、t検定(研究1)および分散分析(研究2)を用いて群の間で比較した。神経学的行動試験および体重の変化は、反復観測の分散分析(ANOVA)モデルを用いて分析された。分散モデル(研究2)およびWilcoxon rank−sumテスト(研究1)の別個の分析は、どの時点でスコアが有意に異なるかを見るためにそれぞれの時間点で行った(0.02の有意レベルを用いて、多量比較を考慮に入れた)。ポアソン相関係数は、72時間の時点において梗塞容量および行動テストの間で計算した。
【0088】
(結果)
(死亡率)
3つの研究の組み合わせると(予備+研究1+研究2)、全体の死亡率は、150μg rh−IGF−I、75μg rh−IGF−I、37.5μg rh−IGF−Iおよびコントロールの群において、それぞれ0%(0/10)、5%(1/21)、17%(2/12)、および24%(8/34)であった。それらのラットは、統計的に有意差があることを見出せなかった(p=0.139)。4つの群をIGF−I効果的群(150μg+75μg)およびIGF−I無効性群(37.5μg+コントロール)にくずすと、死亡率はそれぞれ3%および22%であった。これらのくずした割合は、統計的に有意差がある(p=0.042)ことを見出せれた。これは、IGF−Iの有効用量のIN投与は、脳卒中によるラットの死亡率を減少させると示唆する。
【0089】
(較正梗塞容量に対してのIN IGF−Iの効果)
rh−IGF−Iの150μgおよび75μgの両方の用量は、梗塞容量を有意に減少させたが、37.5μg用量は、有効でなかった。研究1において、平均梗塞容量は、75μg rh−IGF−Iおよびコントロール1の群で、それぞれ11.5%および28.8%であった。研究2において、平均梗塞容量は、150μg rh−IGF−I、37.5μg rh−IGF−I、およびコントロール2の群で、それぞれ10.7%、26.7%、および22.5%であった。75μg rh−IGF−I群は、コントロール1よりも有意に低い梗塞容量を有した(p=0.001)。150μg rh−IGF−I群は、37.5μg rh−IGF−Iおよびコントロール2の両方よりも有意に低い梗塞容量を有した(p=0.004)。37.5μg rh−IGF−Iおよびコントロール2の群は、有意差がなかった。用量−依存関係における可変性は、75μg rh−IGF−Iおよびコントロール1の群が150μg rh−IGF−Iならびに37.5μg rh−IGF−Iおよびコントロール2の群と同時に行なわれなかったためと思われる。(図1)。
【0090】
(姿勢反射および片側不全麻痺テストによって評価される運動性−感覚機能に対するIN IGF−Iの効果)
150μg、37.5μg、およびコントロール2の群の間では、姿勢反射および片側不全麻痺テストスコアに有意差があり(p=0.001)、150μg rh−IGF−I群は、37.5μg rh−IGF−Iおよびコントロール2の群よりも平均して低いスコアを有した。時間を経るにつれてスコアに有意差があり(p=0.001)、そして経時的な変化は、群の間で有意差があった(p=0.001)。150μg rh−IGF−I群における平均スコアは、37.5μg rh−IGF−Iおよびコントロール2の群よりも24時間(p=0.02)、48時間(p=0.001)、72時間(p=0.001)において有意に低かった。4時間では、群の間に有意差はなかった。
【0091】
75μg rh−IGF−Iおよびコントロール1の群の間での姿勢反射および片側不全麻痺テストスコアにおいて、有意差があり(p=0.020)、75μg rh−IGF−I群は、コントロール1の群よりも平均して低いスコアを有した。時間を経るにつれてスコアにおいて有意差があり(p=0.001)、そして経時的な変化は、群の間で有意差がなかった(p=0.073)。75μg rh−IGF−I群の値は、72時間でのコントロール1の群よりも有意に低いボーダーラインの値であった(p=0.027)。4時間、24時間、および48時間では、群間に有意差は見られなかった(図2)。
【0092】
(踏み直し試験(Placing Test)によって評価される感覚運動性能に対するIN IGF−Iの効果)
150μg、37.5μgとコントロール2群との間の左前肢踏み直しスコアにおいて有意差が存在し(p=0.021)、150μgのrhIGF−I群は、37.5μgのrh−IGF−I群よりも平均においてより低いスコアを有していた。時間に対するスコアに有意な変化が存在し(p=0.001)、経時的変化は、群間で有意差はなかった(p=0.215)。150μgのrh−IGF−I群における平均スコアは、72時間で、37.5μgのrh−IGF−Iおよびコントロール2群における平均スコアよりも有意に低かった(p=0.008)。24時間の群と48時間の群との間で有意差はなかった。
【0093】
75μgのrh−IGF−Iとコントロール1群との間における踏み直し試験スコアに有意差はなかった(p=0.187)。経時的スコアの有意な変化が存在し(p=0.001)、経時的変化は、2つの群間で有意差はなかった(p=0.962)。4、24、48、または72時間で、75μgのrh−IGF−Iとコントロール1群との間で有意差はなかった。このことは、IN 150μgのIGF−Iがまた、72時間で感覚運動機能を向上させ得、75μgのrh−IGF−Iで処置された群が回復傾向を示したが、その差は統計的有意に到達しなかったことを示す(図3)。
【0094】
(平均台試験によって評価される前庭運動(Vestibulomotor)機能に対するIN IGF−Iの効果)
150μg、37.5gとコントロール2群との間で平均台試験のスコアにおいて有意差が存在し(p=0.001)、150μgのrh−IGF−I群が37.5μgのrh−IGF−Iおよびコントロール2群よりも平均においてより低いスコアを有していた。経時的スコアにおいて有意な変化が存在し(p=0.001)、経時的変化は、群間で有意差があった(p=0.047)。48時間で、150μgのrh−IGF−I群における平均スコアは、37.5μgのrh−IGF−I群における平均スコアよりも有意に低かった(p=0.005)。72時間で、150μgのrh−IGF−I群における平均スコアは、37.5μgのrh−IGF−Iおよびコントロール2群における平均スコアよりも有意に低かった(p=0.001)。4時間および24時間で、150μgと37.5μgとコントロール2群との間で有意差はなかった。
【0095】
75μgのrh−IGF−Iとコントロール1群との間でスコアにおける有意差はなかった(p=0.114)。経時的スコアの有意な変化が存在し(p=0.001)、経時的変化は、群間では有意差がなかった(p=0.162)。4、24、48または72時間で、75μgのrh−IGF−Iとコントロール1群との間に有意差はなかった。このことは、150μgのIGF−Iがまた、発作を有するラットにおける前庭運動機能の向上に効果的であったことを示す(図4)。
【0096】
(粘着テープ試験によって評価される体性感覚機能に対するIN IGF−Iの効果)
150および75μgのrh−IGF−Iで処置された群における体性感覚機能は、明確な向上傾向を示しただけでなく、150μgのrh−IGF−Iで処置された群が72時間で統計的有意に到達したことを示した(除去時間p=0.015;接触時間p=0.012)。72時間での平均除去スコアは、それぞれ、150μg、37.5μg、およびコントロール2群で2、5、および4であった。平均接触スコアは、1、5、および4であった。75μgのrh−IGF−Iおよびコントロール1群に関する平均除去スコアおよび平均接触スコアは、それぞれ3および5であった。この機能は、同側の前肢(右)において24時間以内のみ影響し、次いで正常に回復した。
【0097】
(行動試験と補正された梗塞容量との間の相関)
研究2において、梗塞容量と72時間での全ての神経系行動試験スコアとが正の相関関係にあった(p<0.001)。研究1において、梗塞容量と姿勢反射試験および粘着テープ試験とが正の相関関係にあった(p<0.01)が、前肢踏み直し試験および平均台試験との有意な相関はなかった。
【0098】
(体重減少)
150μgのrh−IGF−Iと37.5μgのrh−IGF−Iとコントロール2群との間(p=0.647)にまたは75μgのrh−IGF−Iとコントロール1群との間(p=0.460)のベースラインの体重に有意差はなかった。ANOVAはまた、群間の有意な体重差を示さなかった(研究2、p=0.339;研究1、p=0.675)。経時的に有意な体重変化が存在した(p=0.001)。経時的変化は、群間で有意差がなかった(研究2、p=0.293;研究1、p=0.721)。
【0099】
(考察)
これらの研究においてMCAOの発症の10分後に、IGF−Iの3つの用量(150μg、75μgおよび37.5μg)を試験した。IGF−Iの150μgおよび75μgの用量は、梗塞の容量を同様に有意に減少させたが、神経学的機能の向上において、150μgは75μgよりも良好であった。37.5μgの用量は、効果的ではなかった。それゆえ、試験された用量のうち150μgのIGF−I投与INが、最も良好な結果を得た。
【0100】
CNS機能における神経学的欠損を評価するために使用した、4つの行動試験(運動、感覚、反射および前庭運動系を含む)は、IN IGF−Iの処置効果に対して感受性だった。全てのこれらの試験は、MCAO発症の72時間後での梗塞容量と有意に相関した。これらの試験は複雑ではなく、そして動物発作モデルを用いて、薬物処置の効果の評価において容易に実施され得る。
【0101】
結論として、これは、IN IGF−Iを用いる、局所脳虚血性損傷の有効な処置を実証する最初の報告である。IN IGF−Iは、動物発作モデルにおける虚血サイズおよび神経学的欠損の両方を、有効かつ迅速に減少させ得る。BBBを迂回するこの非侵襲的方法は、既存の従来法と比較して、多数の利点を有する。IGF−Iは、好ましくは脳に送達され得、望ましくない全身への影響を減少させる。さらに、IN投与は、ICV投与のような現在使用されている他の方法よりも、簡単で、安全で、かつ経費効率の良い送達方法を提供する。IGF−Iおよび他の治療剤のIN投与は、発作および他の中枢神経系の障害の処置に有望である。
【0102】
(実施例2:ラットにおいてIGF−Iの鼻腔内投与を用いる、局所脳虚血の処置のための機会)
以下の実験は、ラットにおいてMCAO後の異なる時点で、IGF−IのIN送達を用いて、局所脳虚血の処置の機会を描写した。梗塞サイズおよび神経学的欠損のスコア(運動、感覚、反射および前庭運動の機能を評価する)を、IGF−Iの効力を評価するために使用した。
【0103】
(材料および方法)
(動物の準備)
総計69匹の成体の雄性Sprague−Dawleyラット(体重242〜293g)を、3%ハロタンを誘導のために用いて麻酔し、そして酸素(20%)で補充した混合空気(80%)中、1.5%ハロタンを、維持のために使用した。動物の体温を、直腸測定で連続的にモニターし、そして外科的手順の間の全時間、加温パッドを用いて37℃に維持した。
【0104】
(中大脳動脈閉塞)
右脳半球の局所脳虚血を、先の記載のように(Longaら、(1989)Stroke 20:84−91;Chenら(1992)J.Cereb.Blood Flow Metab.12:621−8)、腔内縫合MCAO法により誘導した。簡単にいうと、右総頚動脈(CCA)、外頚動脈(ECA)および内頚動脈(ICA)を露出させた。炎の近くで加熱することにより丸みを帯びた先端にした4−0モノフィラメントナイロン縫合糸の長さ(19±0.5mm)は、中大脳動脈(MCA)の基点を封鎖するまで、ECAからICAの管腔まで進めた。動物をMCAOの後、ハロタンを用いて140分間、再び麻酔し、そして再灌流を、その先端がICAの管腔からなくなるまで、縫合糸を解くことにより実行した。
【0105】
(鼻腔内投与)
組換えヒトIGF−I(rhIGF−I)およびコハク酸緩衝化ビヒクル(pH6.0)は、Chiron Corporation(Emeryville、California)により提供された。動物を、中大脳動脈閉塞の発症後2時間、4時間または6時間でのIN IGF−I処置群、および並列したビヒクルコントロール群に、それぞれ分けた。調査員は、先の実施例1に記載したように、盲目的に行った。IN投与を、実質的に先に記載したように実行した;Freyら(1997)Drug Delivery 4:87−92;Thorneら(1995)Brain Res.692:278−283)もまた、参照のこと。ラット1匹あたり40μlの第1の処置用量(150μgのIGF−I)またはビヒクル溶液を、16分間にわたって点鼻薬において(1滴下あたり5μl)与え、右と左の鼻孔の間を交互に2分ごとに滴下した。第2および第3の処置用量またはビヒクル溶液を、MCAO発症の24時間後および48時間後に、それぞれ各処置動物またはコントロール動物に投与した。3つの用量またはビヒクルの総計を、ラット1匹あたりに投与した。
【0106】
(行動試験)
行動の神経学的欠損を、MCAO発症の2時間後、次いで7日後に評価した。3つの行動試験を、運動、感覚および前庭運動の欠損を全身的に評価をするために使用した。運動−感覚機能を、実施例1に記載のように、Bedersonら(1986)Stroke17:472−476によって記載される4点スケール(0−4)を用いる姿勢反射試験によって評価した。体性感覚欠損を、改変型粘着テープ試験(Schallertら(1982)Pharamcol.Biochem.Behav.16:445−462;HerandezおよびSchaller(1988)Exp.Neurol.102:318−324;Andersenら(1990)Physiol.Behav.47:1045−1052)によって測定した。最初の試験において、粘着性裏面の紙製ドットの小片(113.1mm)を触覚刺激として使用し、左前肢の腹側を覆った。次いで、このラットを、ケージに戻した。接触反応時間およびこの肢から除去を1日当たりの3試行について記録した。個々の試験は、少なくとも5分間は間隔をおいた。3試行の平均時間を、各日の記録として使用した。この動物を外科手術の2日前に調整した。一旦、このラットが10秒間以内でこの紙製ドットを除去することができると、それらのラットをMCAOに供した。このスケールを、以下のように評価した:1は10秒間以下であり;2は10〜19秒間であり;3は20〜29秒間であり;4は30〜39秒間であり;5は40〜49秒間であり;6は50〜59秒間であり;7は、60秒間以上。前庭運動機能を、改変した平均台試験(Feeneyら(1982)Science 217:855〜857;Dixionら(1987)J.Neurosurg.67:110〜119)によって評価し、この試験において、この動物を細い長角材(40×1.3×1.3cm)の上に60秒間置いた。5つのトレーニングスコアを、MCAOの前に記録した。機能欠損を、以下の5点スコアに基づいて評価した:1=長角材の頂部に肢をおく安定な姿勢である;2=長角剤の横に肢があるかまた揺れ動いている;3=1または2本の肢が滑り落ちている;4=3つの肢が滑り落ちている;5=長角材上に肢で居ようと試みるが、転落するかまたは長角材を覆うよう(drape)になり、次いで転落する。
【0107】
(組織学的評価)
ラットの脳を、濃ハロタン麻酔下の7日目時点で、通常の生理食塩水、その後の中性緩衝化10%ホルマリンを経心臓灌流(transcardial perfusion)することによって、固定した。脳を取り出し、次いで、前頭葉から後頭葉へと、7つの等容量の冠状切片(2mm厚)に切り分けた。パラフィンで包埋した1連の隣接する5μm厚の一連の切片を、この前頭葉面における各切片から切り出し、そして、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。画像解析システム(AIS/C、Imagine Research Inc.,St.Catherines、Ontario,Canada)を使用して、梗塞の絶対積ならびに右半球および左半球の容量を測定した。この梗塞サイズは、左半球の容量で梗塞の絶対積を割ったものの百分率として表す(Aspeyら(1998)Neuropathol.Appl.Neurobiol.24:487−497;Yaoら(1999)Brain Res.818:140−146)。
【0108】
(統計)
統計分析を、SAS6.12システムを用いて実行した。死亡率をフィッシャーの直接確立検定により分析した。ベースラインの体重および梗塞サイズをt検定により比較した。行動試験および体重変化を、反復観測の分散分析(ANOVA)モデルにより分析した。ウィルコクソンの順位和検定を、各時点で実行し、どの時点でスコアが有意な差異を生じるかを調べた。
【0109】
(結果)
MCAOの2時間後および4時間後に開始したIN IGF−I投与は、それぞれ54%および39%梗塞容量を有意に減少させた。処置がMCAOの6時間後まで遅延した場合、IGF−I群における梗塞サイズ(19.7±5.0%、平均±SEM)はまた、コントロール群(29.1±4.5%)における梗塞サイズよりもより低いが、これは統計学的に有意には到達しなかった(p=0.18)。6時間の遅延でさえ、梗塞容量は、MCAOの4時間後にIGF−I処置したラットの梗塞サイズとほぼ等価であった(IGF−Iにおいて20±4.2% 対 コントロールにおいて33±4.0%)(図1)。
【0110】
姿勢反射試験により評価される運動−感覚機能は、MCAOの2時間後に開始したIN IGF−I処置の5、6および7日後、に有意に向上した。IN IGF−Iが、MCAOの発症の4時間後または6時間後に開始された場合、この神経学的な機能の有意な向上は見出されなかった(図2)。
【0111】
2時間処置した群についての接触スコアおよび6時間処置した群の除去スコアの経時的変化(1〜7日)は、それぞれ、それらのビヒクルコントロールと比較して(0.02および0.04のp値で)有意に向上した。1〜7日時点の群の間の接触および除去スコアに有意な差異はなかった(図3、4)。これは、処置が虚血の6時間後まで遅延された場合でさえ、IGF−Iがまだ、粘着テープ試験により評価される体性感覚機能を向上させることを示した。処置が、MCAOの2、4、および6時間後に始まる場合、処置群とコントロール群との間で、平均台試験により評価される前庭運動機能に有意な向上はなかった(図5)。
【0112】
ピヤソン相関分析は、梗塞容量が2時間および6時間の群における7日目時点での3つの行動スコアの全てと、正の相関であることを示した(p<0.01)。梗塞容量はまた、姿勢反射試験スコアと相関付けられたが(p=0.03)、4時間の群において7日目時点での他の2つの行動試験スコアとは相関しなしなかった。
【0113】
2時間、4時間および6時間の処置群ならびにコントロール群を組み合わせると、全体の死亡率はIGF−I処置群(9%;3/32)における死亡率は、ビヒクルコントロール(24%;9/37)の死亡率よりもより低いが、統計的有意には達しなかった(p=0.10)。群間のベースラインの体重に差異はなかった。7日間にわたる体重の変化もまた、群間で有意差はなかった。
【0114】
(考察)
MCAOの発症の2時間後に開始する150μgのIGF−Iの鼻腔内投与は、梗塞サイズを有意に減少させ、運動−感覚機能を向上する。MCAOの4時間後に開始されたIGF−Iの鼻腔内投与はまた、梗塞の容量を減少する。IGF−IがMCAOの6時間後に送達される場合でさえ、体性感覚機能の有意な向上および梗塞サイズを減少させる傾向が生じる。
【0115】
臨床では、多くの患者が、発作後2時間以内に処置を受けることができない。本発明は、IGF−IのIN送達の有効な処置のための治療時間帯が、MCAOの少なくとも6時間後まで延長することを実証する。
【0116】
結論として、IGF−IのIN送達は、MCAOモデルにおいて、脳損傷および神経学的機能の欠損の処置のために、虚血の6時間後まで機会を与える。IN送達は、他の方法(例えば、ICV投与)よりも血液脳関門を迂回する非侵襲的かつ安全な方法である。鼻腔内投与されたIGF−Iは、虚血性損傷(梗塞サイズ、浮腫および神経学的欠損を含む)を減少させるので、虚血事象の処置のために優れた候補である。
【0117】
本明細書中に言及される全ての刊行物および特許出願は、本発明が属する当該分野の当業者のレベルの指標である。全ての刊行物および特許出願は、各個々の刊行物または特許出願が詳細にそして個々に参考として援用されることが示さる場合と同じ程度に本明細書中に参考として援用される。
【0118】
上記の本発明は、理解の明確化の目的で例示および実施例によっていくらか詳細に記載してきたが、特定の変化および改変が添付の特許請求の範囲の範囲内で実行され得ることは、明らかである。
【図面の簡単な説明】
【図1】
図1は、補正梗塞容量に対する、鼻腔内投与された(IN)IGF−Iの効果を示す(*コントロール1と比較してp=0.001、+コントロール2および37.5μg用量と比較してp=0.004)。
【図2】
図2は、姿勢反射および片側不全麻痺試験における運動感覚機能に対するIN IGF−Iの効果を示す(*コントロール2および37.5μg用量と比較してp=0.02,**p=0.01;#コントロール1と比較してp=0.027)。
【図3】
図3は、左前足プレーシング(placing)試験における感覚運動の能力に対するIN IGF−Iの効果を示す(*コントロール2および37.5μg用量と比較してp=0.008)。
【図4】
図4は、ビームバランステストにおける前庭運動機能に対するIN IGF−Iの効果を示す(*37.5μg用量と比較してp=0.005#;37.5μg用量およびコントロール2と比較してp=0.001 )。
【図5】
図5は、MCAO発症後の体重減少を示す。
【図6】
図6は、梗塞サイズに対するIN IGF−Iの効果を示す。IN IGF−I処置された群において、MCAOの2時間後または4時間後の時点に始まる処置を行った梗塞サイズは、それぞれのコントロールの梗塞サイズよりも低かった(*p=0.02,#p=0.04)。
【図7】
図7は、姿勢反射試験によって評価される運動感覚機能に対するIN IGF−Iの効果を示す。長期の欠損スコアの変化は、IGF−I群とコントロール群との間で有意に異なっており(p=0.007)、その欠損スコアは、MCAOの2時間後の時点で最初に処置されたラットにおける5日目、6日目、および7日目の時点において、コントロールのスコアより有意に低い境界線であった(*p≦0.05)。長期の変化は、MCAOの4時間後および6時間後の時点で最初に処置されたラットにおいて、IGF−I群とコントロール群との間で有意には異なっていなかった。
【図8】
図8は、粘着テープ試験の接触時間によって評価された、体性感覚機能に対するIN IGF−Iの効果を示す。長期の欠損スコアの変化は、MCAOの2時間後の時点で最初に処置されたラットにおいて、IGF−I群とコントロール群との間で有意に異なっていた(*p=0.02)が、MCAOに続く4時間および6時間の時点で最初に処置されたラットにおいてはそれほどは異なっていなかった。MCAOに続く2時間後、4時間後、または6時間後の時点で処置が開始されたラットにおいては、1日目〜7日目の時点でIGF−I群とコントロール群との間に有意な違いはなかった。
【図9】
図9は、粘着テープ試験の除去時間によって評価された、体性感覚機能に対するIN IGF−Iの効果を示す。長期の欠損スコアの変化は、MCAOの6時間後の時点で最初に処置されたラットにおいて、IGF−I群とコントロール群との間で有意に異なっていた(*p=0.04)が、MCAOの2時間後および4時間後の時点で最初に処置されたラットにおいては有意には異なっていなかった。MCAOの2時間後、4時間後、または6時間後の時点で処置が開始されたラットにおいては、1日目〜7日目の時点でIGF−I群とコントロール群との間に有意な差はなかった。
【図10】
図10は、ビームバランス試験によって評価された、前庭運動機能に対するIN IGF−Iの効果を示す。長期の欠損スコアにおいて有意な変化があったが、この変化は、IGF−I群とコントロール群との間では有意には異なっていなかった。

Claims (26)

  1. 哺乳動物の中枢神経系における虚血性損傷の予防または減少のための方法であって、該方法は、治療有効量のインスリン様増殖因子−1(IGF−I)またはその生物学的に活性な改変体を、該哺乳動物の中枢神経系に、鼻腔内(IN)投与する工程を包含し、ここで、該治療有効量が、該哺乳動物の体重1kgあたり約0.10mg〜約3.0mgを含有する、方法。
  2. 請求項1に記載の方法であって、前記IGF−Iが、ヒトIGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体であり、ここで該改変体は、IGF−I活性を保持し、かつヒトIGF−Iのアミノ酸配列に、少なくとも70%配列同一性を有する、方法。
  3. 前記哺乳動物がヒトであり、ここで前記IGF−IがヒトIGF−Iである、請求項1に記載の方法。
  4. 前記虚血性損傷が、神経学的欠損、浮腫および前記中枢神経系組織の凝固壊死からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
  5. 前記組織の前記凝固壊死が神経細胞およびグリア細胞からなる群より選択される細胞の死から生じる、請求項4に記載の方法。
  6. 請求項1に記載の方法であって、前記虚血性損傷が、発作、多発性梗塞痴呆、心停止、ショック、低血圧、周産期仮死、中枢神経系に対する外傷性傷害または心臓血管外科的手順によって引き起こされる、方法。
  7. 前記虚血性損傷が発作によって引き起こされる、請求項6に記載の方法。
  8. 前記治療有効量が、前記哺乳動物の体重1kgあたり約0.50mg〜約2.0mgを含有する、請求項1に記載の方法。
  9. 前記治療有効量が、前記哺乳動物の体重1kgあたり約1.0mg〜約1.5mgを含有する、請求項8に記載の方法。
  10. 請求項1に記載の方法であって、前記投与が、前記治療有効量のIGF−Iまたはその改変体を、鼻腔の上部1/3に適用する工程を包含する、方法。
  11. 前記治療有効量のIGF−Iまたはその改変体を、前記鼻腔の前記上部1/3にある嗅覚野に適用する工程を包含する、請求項10に記載の方法。
  12. 前記治療有効量のIGF−Iまたはその改変体を、鼻の蓋に対して適用する工程を包含する、請求項10に記載の方法。
  13. 哺乳動物の中枢神経系に影響を与える虚血性事象の後に、該哺乳動物を処置する方法であって、該方法は、治療有効量のインスリン様増殖因子−1(IGF−I)またはその生物学的に活性な改変体を、該哺乳動物の中枢神経系に、鼻腔内(IN)投与する工程を包含し、ここで、該治療有効量が、該哺乳動物の体重1kgあたり約0.10mg〜約3.0mgを含有する、方法。
  14. 請求項13に記載の方法であって、前記IGF−Iが、ヒトIGF−Iまたはその生物学的に活性な改変体であり、ここで該改変体は、IGF−I活性を保持し、かつヒトIGF−Iのアミノ酸配列に、少なくとも70%配列同一性を有する、方法。
  15. 前記哺乳動物がヒトであり、ここで前記IGF−IがヒトIGF−Iである、請求項13に記載の方法。
  16. 請求項13に記載の方法であって、前記虚血性事象が、発作、多発性梗塞痴呆、心停止、ショック、低血圧、周産期仮死および中枢神経系に対する外傷性傷害からなる群より選択される、方法。
  17. 前記虚血性事象が発作である、請求項16に記載の方法。
  18. 前記治療有効量が、前記哺乳動物の体重1kgあたり約0.50mg〜約2.0mgを含有する、請求項13に記載の方法。
  19. 前記治療有効量が、前記哺乳動物の体重1kgあたり約1.0mg〜約1.5mgを含有する、請求項18に記載の方法。
  20. 請求項13に記載の方法であって、前記投与が、前記治療有効量のIGF−Iまたはその改変体を、鼻腔の上部1/3に適用する工程を包含する、方法。
  21. 前記治療有効量のIGF−Iまたはその改変体を、前記鼻腔の前記上部1/3にある嗅覚野に適用する工程を包含する、請求項20に記載の方法。
  22. 前記治療有効量のIGF−Iまたはその改変体を、鼻の蓋に適用する工程を包含する、請求項20に記載の方法。
  23. 前記処置が、前記哺乳動物の中枢神経系における虚血性損傷の減少を引き起こす、請求項13に記載の方法。
  24. 前記虚血性損傷が浮腫である、請求項23に記載の方法。
  25. 前記虚血性損傷が、前記中枢神経系における組織の凝固壊死である、請求項23に記載の方法。
  26. 前記虚血性損傷が神経学的欠損である、請求項23に記載の方法。
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