JP2004521127A - 異常脂血症及び食事誘発性食後高血糖症のクロム/ビオチン療法 - Google Patents
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Abstract
必要とする個人にクロム錯体とビオチンを併用投与することにより異常脂血症及び/又は食後高血糖症を治療する方法を開示する。2種の化合物を25μg〜1,000μgのクロム及び25μg〜20mgのビオチンを供給する1日投与量で経口又は非経口で投与する。食品の血糖上昇指数を低下させる方法も同様に提供する。
Description
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中コレステロール及びトリグリセリド濃度の改善に関する。より具体的には、本発明は、複数の用量のピコリン酸クロム及びビオチンを投与することにより血中のLDLコレステロール濃度を低下させ、HDLコレステロール濃度を増加させ、トリグリセリド濃度を低下させる方法に関する。さらに、本発明は、食後高血糖を低減し、食品の血糖上昇指数を低下させる方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
異常脂血症
異常脂血症(dyslipidemias)は、リポタンパク質の過剰産生又は欠乏を含むリポタンパク質代謝障害である。これらの障害は、血清総コレステロール、低密度リポタンパク質(LDL)コレステロール及びトリグリセリド濃度の上昇並びに高密度リポタンパク質(HDL)コレステロール濃度の低下によって示されることがある。毎年、何百万人もの人が高コレステロール血症に罹患し始めている。悩みをもたらすものの例としては、高血圧、冠動脈疾患、うっ血性心不全、末梢血管疾患、動脈瘤及び少なくとも一部はこれらの状態に起因する死亡などがある。血中コレステロールの上昇は、米国における主要な死因である冠動脈疾患(CHD)の主要な、修正可能な(modifiable)危険因子の1つである(カンネル ダブリュ ビーら(Kannel W.B.et al.)、心血管死の低減(Declining Cardiovascular Mortality)、Circulation、第70巻、331〜336ページ(1984年))。CHDは、毎年約490,000例の死亡の原因である(National Center for Health Statistics、出生、結婚、離婚および死亡の年次概要:米国、1993年(Annual summary of births,marriages,divorces,and deaths:United States,1993)、月間生命統計報告(Monthly vital statistics report);第42巻、13号、Public Health Service、1994年)。非致命的な心筋梗塞(MI)及び狭心症は、同様に実質的な罹患の原因である。高コレステロール血症の二次的生理学的影響としては、脳卒中、肝機能の障害、腎動脈閉塞、老化、男性不能症及び動脈硬化性動脈瘤などがある。そのような疾患の危険は、血中HDLコレステロール濃度の増加及び/又は血中LDLコレステロール濃度の低下により低減させることが可能である。
【0003】
血中コレステロール、特に、血漿中のコレステロールの主要な貯蔵所である低密度リポタンパク質(LDL)画分の低下に新たな重点が置かれている。血中コレステロール濃度を低減又は制御することを目的として食事管理、行動修正、運動及び薬物療法により個々人の血中コレステロール濃度を低下させる多くの試みがなされてきた。
【0004】
高コレステロール血症の治療における最初の勧告は一般的に食事介入であり、それにより脂質摂取量が制限されている。ディーン オーニッシュ博士ら(Dr.Dean Ornish et al.)「生活習慣を変えることにより冠動脈疾患を逆転させることが可能である(Can Lifestyle Changes Reverse Coronary Heart Disease)」、The Lancet.第336巻(1990年)及び彼の心疾患を逆転するための進行中のプログラムで、食事コレステロールを完全に除去することと脂質含量を1日カロリー摂取量の10%未満に制限することにより、これをストレス管理と有酸素運動と組み合わせたとき、5年後にアテローム粥腫の4%の縮退がもたらされることが示された。この厳格な菜食主義者の食事(肉、魚、鶏肉、植物油及びすべての乳脂肪製品を含まない)は、ほとんどの人にとって非現実的である。
【0005】
栄養補助食品は、高コレステロール血症の治療にある程度有望であった。例えば、ふすま、オオバコ種子、グアールガム、レシチン、乳清、赤ブドウ酒、魚油およびチョウセンニンジン根抽出物は、高い血中コレステロール又はその結果を低減すると報告された。その機序は、様々であり、コレステロールの封鎖、キレート化、捕捉及び酸化阻害などである。そのような療法は、一般的に血中コレステロールの10%未満の低下をもたらすにすぎない。これらの食事介入のいずれによっても、アテローム動脈硬化症又は他の高血中コレステロール関連疾患が抑制されたり、治癒したりすることは証明されていない。
【0006】
最も厳格な食事介入が米国特許第5,032,608号に報告された。この特許は、水以外の他のすべての栄養補給に取って代わる生物学的に活性な左旋性アミノ酸の混合物の静脈内栄養補給を記述している。機能的に同等な脂肪非含有の食事組成物が米国特許第5,106,836号に記述されており、修飾脂肪非含有完全非経口栄養アミノ酸製剤を含む経腸食品を調製する方法が開示されている。調製された食品は、消化され、吸収されるとき、高コレステロール血性を示す血液にアミノ酸プロファイルをもたらす。食事を維持するならば、総血漿コレステロールの有意な低下とアテローム動脈硬化症の退縮が示されることが報告されている。
【0007】
血清コレステロール濃度を低下させる他の試みが様々な製剤の開発に向けられた。例えば、腸の腸上皮細胞に接着する能力を有し、それにより腸内の適切な部位における有用な細菌のコロニー形成を最適化することにより、血中コレステロール及び/又はトリグリセリド濃度を低下させるための細菌細胞の生産が米国特許第4,797,278号に報告された。
【0008】
米国特許第5,114,963号は、N,S−ジアクリル−L−システインの投与によりリポタンパク質の血清濃度を低下させてアテローム動脈硬化性疾患を低減させる方法を記述している。心筋損傷を治療する方法も、血栓を消化又は溶解し、線維素塊を溶解して、虚血性組織の潅流を回復させ、維持するための線維素溶解酵素との併用での化合物の静脈内注射に集中している。アテローム動脈硬化症の結果の改善が米国特許第5,028,599号に記述されている、この酵素の使用は、血中コレステロール濃度を低下させない。
【0009】
食事、酵素療法及び生活様式介入などの上記のような不成功を考慮して、血中コレステロールを低減し、動脈粥腫沈着を逆転させ、他の組織に対する高い血中コレステロールの影響を別の方法で緩和するための他の手段が探求された。血中コレステロール低下薬、コレステロール抗吸収薬(例えば、メリナミド、チオエステル、置換尿素及びチオ尿素)、置換アポタンパク質コレステロール担体として作用する特定のシクロデキストリン及び冠動脈疾患の危険を低減するためのコレステロール生合成制限薬によるコレステロールの低下は、説得力のある証拠により、血中コレステロール濃度の低下と因果関係があることが裏づけられている。これらの薬物と肝障害のようなそれらの有害な副作用は、Physicians’Desk Reference Medical Economics Company Oradell、N.J.に十分に記述されている。
【0010】
上記の薬物のいずれも単独又は併用で、同時に脂質の摂取の厳格な制約を要求することなしには、血中コレステロールを有意に低下させ、アテローム粥腫を低減しないことが示された。現在までのところ、有害な副作用を伴わずに高コレステロールを予防し、治療するような有効かつ安全な薬物は依然として欠如している。したがって、本発明の目的は、関連する副作用及び厳格な生活様式の制約を伴わない、高コレステロール濃度に関連する疾患の安全かつ有効な療法を提供することである。
【0011】
食後高血糖症
最近の疫学調査で、食事の血糖上昇指数(「GI」)は2型糖尿病の予防における最も重要な食事因子であることが示されている。GIは、食品の血糖上昇能力に従って食品を分類するのに用いられる生理学的根拠のある確立されている方法である。Joint FDA/WHO Expert Consultation、1997年4月14〜18日を参照のこと。具体的には、血糖上昇指数は、食品の摂取の2又は3時間後に血糖の上昇を測定することにより、それらが我々の血糖にどのように影響を及ぼすかに基づいて食品を分類する。この指数は、炭水化物の割合が等しい食品の摂取後の血糖のレベルを比較し、標準(通常、ブドウ糖又はホワイトブレッド)を基準としてそれらを分類する。
【0012】
過去20年にわたって、GI概念が広範に研究され、その再現性、混合食品への適用並びに糖尿病及び高脂血症の治療における臨床的有用性が確認された。ボレバー ティー エム エスら(Wolever T.M.S.et al.)、Am J Clin Nutr、第54巻、846〜54ページ(1991年)、ブランド ミラー(Brand−Miller)、J.Am J Clin Nutr、第59巻(増刊)、747S〜52Sページ(1994年)。動物モデルにおける長期試験で、高GIデンプンは低GIデンプンに基づく同じ食事と比較して空腹時インスリン濃度を上昇させ、インスリン抵抗性を促進することが示されている(ビルネス エスら(Byrnes S.et al.)、J Nutr、第125巻、1430〜7ページ(1995年)、ヒギンス ジェー エー(Higgins J.A.et al.)、J Nutr、第126巻、596〜602ページ(1996年)。ラットでは、高GI飼料はより速やかな体重増加、より高い体脂肪レベル、より高い脂肪細胞容積及び高グリセリド血症、すなわち、インスリン抵抗性又は「代謝」症候群のすべての構成要素を促進する。例えば、ポーラック ディー ビーら(Pawlak D.B.et al.)、Proc Nutr Soc Aust、第21巻、143ページ(1997年)、レーラーメツガー エムら(Lerer−Metzger et al.)、Br J Nutr、第75巻、723〜32ページ(1996年)を参照のこと。
【0013】
1型及び2型糖尿病被験者では、低GI食事は、同様な栄養素組成の高GI食事と比較して、ブドウ糖及び脂質代謝の改善をもたらす。クロスオーバーデザインを用いた8つの十分に設計された長期試験において、低GI食事は2〜12週間にわたりグリコシル化タンパク質を平均でほぼ14%低下させた。ボルバー ティー エム エスら(Wolever T.M.S.et al.)、Diabetes Care、第15巻、562〜4ページ(1992年)、フォントビーレ エー エムら(Fontvieille A.M.et al.)、Diabetic Medicine、第9巻、444〜50ページ(1992年)。これらの結果は、ささやかなものにすぎないと批判されたが、経口血糖降下薬によりもたらされた改善よりも大きい。低GI食事によるグリコシル化タンパク質の改善は、糖尿病における高MUFA(「MUFA」=1価不飽和脂肪酸)を用いた場合に認められた変化の欠如と対照をなしている。ボレバー ティー エム エス(Wolever T.M.S.)、Nutrition Today、第34巻、73〜7ページ(1999年)。
【0014】
2つの大規模な前向き試験(1つは女性看護士における試験で、1つは男性医療従事者における試験)で、高い血糖負荷(GI×炭水化物含量)を有する食事は、年齢及び肥満指数のような既知危険因子についてコントロールした後に2型糖尿病を発現する危険を増大させることが示された。サルメロン ジェーら(Salmeron J.et al.)、JAMA、第277巻、472〜477ページ、サルメロン ジェーら(Salmeron J.et al.)、Diabetes Care、第20巻、545〜550ページ(1997年)。危険を増大させる他の唯一の食事因子は、穀類繊維の欠乏であった。重要なことに、総炭水化物及び精製糖含量並びに脂肪の量及び種類は、これらの試験では独立した危険因子であるとは認められなかった。看護士の試験で急性冠動脈性心疾患について同様な状況が発生した。リュー エスら(Liu et al.)、FASEB J、第124巻、A260ページ(要約1517)(1998年)。これらの著者らにより推測された基礎をなす機序は、高GI食品によって発生したインスリン要求性である。高インスリン血症は「代謝症候群」のすべての側面(インスリン抵抗性、高脂血症、高血圧及び内臓肥満)と関連するので、食品のGIは最終的にはいわゆるぜいたく病と関連する可能性がある。
【0015】
健常者並びに2型糖尿病患者では、高炭水化物食(すなわち、エネルギーの50%以上)は血中脂質プロファイルの側面を悪化させることが示された。ガーグ エーら(Garg A.et al.)、Diabetes、第41巻、1278〜1285ページ(1992年)、メンシンク アール ピーら(Mensink R.P.et al.)、Metab、第38巻、172〜178ページ(1989年)を参照のこと。インスリン抵抗性を有する人は、これらの有害な影響をより受けやすい。しかし、消化及び吸収を遅くする戦略(高可溶性繊維、低GI、α−グルコシダーゼ療法)によりこれらのパラメーターが改善することから、高炭水化物食の影響はほぼ疑いなく炭水化物の吸収の速度に関連している。アルブリンク エム ジェーら(Albrink M.J.et al.)、Am J Clin Nutr、第32巻、1486〜1491ページ(1979年)。通常(すなわち、高GI)の高炭水化物食についての問題から、一部の専門家が炭水化物の代わりに1価不飽和及び多価不飽和油を多く摂取することを推奨するに至った(ストリエン エル エイチら(Storlien L.H.et al.)、Diabetologia、第39巻、621〜31ページ(1996年))が、あらゆる種類の高脂肪でエネルギー密度の高い食事は過剰摂取される傾向がある。高炭水化物食(エネルギー密度の高いものでさえも)は高脂肪食のエネルギー密度の半分にすぎないということがあり得る。糖尿病の管理における主要な目標は、空腹時血糖(FBG)及び食後血糖(PPG)値の調節における膵臓、インスリン反応性末梢組織及び肝臓の相互作用に関係する複雑で、理解が不完全である代謝過程である厳格な血糖コントロールの達成によりその長期合併症を予防することである。2型糖尿病の臨床的管理の多くが血糖値及びグリコヘモグロビン濃度の測定によるFBGに焦点が絞られているが、増加しつつある証拠により、PPG、ブドウ糖負荷の時間的に即座の生理的管理と、糖尿病の進行、管理及び合併症との間の強い関連が明らかになってきた。この研究の適用により、保健医療システムおよび提供者が2型糖尿病患者における通常の血糖反応をより厳密に模擬することが可能になり、臨床的転帰及び費用管理の改善につながると思われる。
【0016】
食後血糖値の上昇の早期確認は、完全な症候性糖尿病に進行し得る微小血管及び大血管合併症の発症の予測における重要な段階である。ますます多くの証拠により、2型糖尿病患者では食後ブドウ糖濃度の測定はグリコシル化ヘモグロビンと合わせて、空腹又は食前ブドウ糖濃度よりも代謝異常のより正確な予測因子であることが示されている。
【0017】
クロムの役割
正常者へのクロムの食事補給は、糖耐性、高密度リポタンパク質コレステロールを含む血清脂質濃度、インスリン及びインスリン結合の改善をもたらすことが報告された(アンダーソン(Anderson)、Clin.Psychol.Biochem.第4巻、31〜41ページ(1986年))。3価の形態の補給クロム、例えば、塩化クロムは、成人発症型(2型)糖尿病及び心血管疾患に関連する危険因子の改善を伴う。
【0018】
クロムは栄養的に必須な微量元素である。食事におけるクロムの不可欠性は、Present Knowledge in Nutrition、571ページ、第5版(1984年、ザ ニュートリションファウンデーション(the Nutritioin Foundation)、ワスントン ディーシー(Washington、DC)所在)に引用されているうようにシュバルツ(Schwartz)により1959年に確立された。クロムの欠乏は、ブドウ糖、脂質及びタンパク質代謝の障害並びに寿命の短縮を特徴とする。クロムは、すべての既知のインスリン依存性システムにおける最適のインスリン活性に不可欠である(ボイルら(Boyle et al.)、Southern Med.J.第70巻、1449〜1453ページ、1997年)。食事クロムの不足は、成人発症型糖尿病及び心血管疾患に関連づけられた。
【0019】
身体の主要なエネルギー源は、ブドウ糖と脂肪酸である。クロムの欠乏は、インスリンを生物学的に無効にし、ブドウ糖代謝の障害をもたらす。これらの条件下では、身体はそのエネルギーの必要を満たすために主として脂質代謝に頼らなければならなくなり、その結果、過剰な量のアセチルCoA及びケトン体が産生される。アセチルCoAの一部は放出されて、コレステロール生合成を増大させ、高コレステロール血症をもたらす。糖尿病は、大部分、糖尿、高コレステロール血症及びしばしばケトアシドーシスを特徴とする。糖尿病患者で認められるアテローム動脈硬化性過程の加速は、高コレステロール血症に関連する(ボイルら(Boyle et al.)、前出)。
【0020】
クロムは、インスリンの補因子として作用する。クロムは、インスリン受容体に結合し、その機能の多く、あるいはすべてを増強する(ボイルら(Boyle et al.)、前出)。これらの機能は、炭水化物及び脂質代謝の調節を含むが、これに限定されない(Present Knowledge in Nutrition、前出、573〜577ページ)。個体への無機クロム化合物の導入は本質的に特に有用でない。クロムは、有機錯体に内因的に変換されるか、又は生物学的に活性な分子として消費されなければならない。摂取された無機クロムのわずか約0.5%が体内に吸収される(Recommended Daily Allowances、第9改訂版、The National Academy of Sciences、160ページ、1980年)。大部分の有機クロム化合物のわずか1〜2%が体内に吸収される。
【0021】
米国特許第Re.33,988号は、クロムを含む選択した必須金属を外因的に合成されたピコリン酸の配位錯体として哺乳類に投与するとき、それらが他の金属との競合なしに、吸収に直接利用可能であることを開示している。この特許は、必須金属をヒトの食事に選択的に補給するため及び腸細胞によるこれらの金属の吸収を促進するための組成物及び方法を記述している。これらの錯体は、安全、安価で、生体適合性を有し、製造するのが容易である。これらの外因的に合成されたピコリン酸(ピリジン−2−カルボン酸)の必須金属配位錯体は、以下の構造式を有する。
【0022】
【化1】
式中、Mは金属陽イオンを表し、nは陽イオンの価数に等しい。例えば、MがCrで、n=3であるとき、化合物はトリピコリン酸クロムである。開示された他のピコリン酸クロムは、モノピコリン酸クロム及びジピコリン酸クロムなどである。
【0023】
クロムの米国推奨1日摂取量(RDI)は120μgである。米国特許第5,087,623号は、成人発症型糖尿病の治療のための50〜500μgの用量のトリピコリン酸クロムの投与を記述している。国際特許出願第WO96/35421号は、2型糖尿病を有するヒトにおける高血糖の低減及び血清ブドウ糖濃度の安定化のための高用量のトリピコリン酸クロムの使用(1,000〜10,000μgクロム/日の投与)を記述している。米国特許第5,789,401号及び第5,929,066号は、トリピコリン酸クロム−ビオチン組成物及び2型糖尿病を有するヒトにおける血中ブドウ糖濃度の低下のためのその使用を開示している。
【0024】
米国特許第5,087,623号、第5,087,624号及び第5,175,156号は、食事クロムを補給し、高血糖を低下させ、血清ブドウ糖を安定化し、除脂肪体重を増加させ、体脂肪を低下させ、望ましくない高い血清LDLコレステロール濃度の低下及びいわゆる「善玉」コレステロールである血清高密度脂質(HDL)コレステロール濃度の上昇を含む血清脂質濃度を制御するためのトリピコリン酸クロムの使用を開示している。米国特許第4,954,492号及び第5,194,615号は、関連錯体ニコチン酸クロムを記述しており、これも食事クロムを補給し、血清脂質濃度を低下させるために用いられる。ピコリン酸とニコチン酸は、以下の構造を有する位置異性体である。
【0025】
【化2】
【0026】
ニコチン酸とピコリン酸は、1価、2価及び3価金属イオンと配位錯体を形成し、これらの金属を腸の細胞を介して血流中に輸送することにより、それらの吸収を促進する。CrCl3の経口投与後のラットにおけるクロムの吸収が非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)アスピリン及びインドメタシンにより促進された(デビスら(Davis et al.)、J.Nutrition Res.第15巻、202〜210ページ、1995年、カマスら(Kamath et al.)、J.Nutrition、第127巻、478〜482ページ、1997年)。これらの薬物は、アラキドン酸を種々のプロスタグランジンに変換する酵素シクロオキシゲナーゼを阻害し、腸粘液の生成の抑制とクロム吸収を促進する腸pHの低下をもたらす。
【0027】
米国特許第4,315,927号は、選択した必須金属を外因的に合成されたピコリン酸の配位錯体として哺乳類に投与するとき、それらが他の金属との競合なしに、吸収に直接利用可能であることを開示している。これらの錯体は、安全、安価で、生体適合性を有し、製造するのが容易である。
【0028】
ビオチンは多くのカルボキシル化反応における接合団であり、最も注目に値するものは、糖新生及びクエン酸回路の補給に関与するピルビン酸カルボキシラーゼ並びに脂肪酸生合成に役割を果たしているアセチルCoAカルボキシラーゼである。最高1日200mgのビオチンの経口摂取での以前の臨床試験では副作用も毒性も認められなかったが、ビオチンの安全かつ十分な推奨1日摂取量は、100〜300μgである(モックら(Mock et al.)、Present Knowledge in Nutrition、第7版、チーグラー イーら(Ziegler E.et al.)編、アイエルエスアイ プレス(ILSI Press(ワシントンディーシー(Washington DC)所在)、1996年、220〜235ページ)。超栄養的用量のビオチンは、糖尿病のような種々の疾患状態の治療上有用性を有することが示された。例えば、高用量の経口又は非経口ビオチンは、糖尿病KKマウス(レッディら(Reddi et al.)、Life Sci.第42巻、1323〜1330ページ、1988年)、ストレプトゾトシンの注射により糖尿病を発症させたラット(ツァンら(Zhang et al.)、16th International Congress of Nutrition、モントリオール(Montreal)、1997年、abstract book、264ページ)及び前糖尿病オーツカ ロング・エバンス トクシマ肥満ラット(ツァンら(Zhang et al.)、J.Nutr.Sci.Vitaminol、第42巻、517〜526ページ、1996年)における経口糖耐性を改善することが示された。
【0029】
臨床試験において、コゲシャルら(Coggeshall et al.)(Ann.NY.Acad.Sci.第447巻、387〜392ページ、1995年)は、16mgのビオチンの1日経口用量は、インスリンを一時的に中止した1型糖尿病患者における空腹時血漿ブドウ糖濃度を低下させたことを示した。マエバシら(Maebashi et al.)(J.Clin.Biochem.Nutr.第14巻、211〜218ページ、1983年)は、不十分に制御された2型糖尿病患者に3mgビオチンを1日3回投与した場合、ビオチンを投与した患者でブドウ糖濃度は急激に低下したにもかかわらず、空腹時インスリン濃度は低下しなかったことから、膵β細胞機能の改善がもたらされたことを示した。
【0030】
対象におけるHDL濃度を上昇させながらLDL及びトリグリセリド濃度を低下させるための有効な治療法の必要が常に存在する。本発明は、安全、安価で、医薬品を含まない治療薬を提供することによりこの必要に対処する。患者への副作用を伴わないで異常脂血症を低減及び逆転する方法は、様々な疾患状態の予防及び治療の実質的な進歩をもたらすと思われる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
本発明は、個人におけるインスリン感受性及び血中コレステロール濃度の改善を対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
したがって、本発明の一態様において、異常脂血症の治療を必要とする個人に1日当たり約25〜2,000μgのクロム錯体と1日当たり約25μg〜20mgのビオチンを併用投与することを含む異常脂血症を治療する方法を提供する。1日当たり投与するクロム錯体の量が1日当たり約300〜1,000μgであることが有利である。好ましい実施形態において、血中コレステロール濃度を低下させるために、約150μg〜5mgのビオチンを投与する。
本発明のクロム錯体としては、ピコリン酸クロム、トリピコリン酸クロム、ニコチン酸クロム、ポリニコチン酸クロム、塩化クロム、ヒスチジン酸クロム又はクロム酵母などであってよい。
【0033】
好ましくは、クロム錯体は製薬上許容できる担体である。同様に、ビオチンもまた製薬上許容できる担体であることが好ましい。
【0034】
場合によっては、クロム錯体及びビオチンを経口投与する。しかし、本発明のいくつかの態様において、クロム錯体及びビオチンを非経口投与する。
【0035】
本発明の他の態様において、クロム錯体の吸収を促進するために特定のキレート化剤を加えてもよい。本発明の一態様において、ピコリン酸を個人に投与する。他の態様において、ニコチン酸を個人に投与する。さらに他の態様において、異常脂血症を治療するためにピコリン酸とニコチン酸の両方を個人に投与する。
【0036】
本発明の一態様において、個人における高コレステロール血症を治療する方法を開示する。その方法は、高コレステロール血症を発現している個人を特定することと、有効量のクロム錯体及びビオチンを個人に投与することを含むものである。有効量のクロム錯体は1日当たり約25〜2,000μgであり、好ましくは、有効量のクロム錯体は1日当たり約300〜1,000μgである。有効量のビオチンは1日当たり約25μg〜20mgビオチンである。有効量のビオチンは1日当たり約150μg〜5mgビオチンであることが有利である。
【0037】
本発明のいくつかの態様において、高コレステロール血症を治療する方法はさらに、ピコリン酸、ニコチン酸又はピコリン酸とニコチン酸の両方の投与を含んでいてよい。
【0038】
本発明の他の態様において、血中HDLコレステロールの濃度の上昇を必要とする個人に1日当たり約25〜2,000μgのクロム錯体と1日当たり約25μg〜20mgビオチンを併用投与することを含む血中HDLコレステロールの濃度を上昇する方法を提供する。投与するクロム錯体の量は1日当たり約300〜1,000μgであることが有利である。投与するビオチン量は1日当たり約150μg〜5mgビオチンであることが好ましい。
【0039】
血中HDLコレステロールの濃度を上昇させるために用いるクロム錯体としては、ピコリン酸クロム、トリピコリン酸クロム、ニコチン酸クロム、ポリニコチン酸クロム、塩化クロム、ヒスチジン酸クロム又はクロム酵母などであってよい。
【0040】
クロム錯体は製薬上許容できる担体であることが有利である。同様に、本発明の好ましい態様において、ビオチンもまた製薬上許容できる担体である。
【0041】
クロム錯体は経口又は非経口投与してよい。同様に、ビオチンも経口又は非経口投与してよい。
【0042】
本発明の一態様において、血中HDLコレステロール濃度を上昇させる方法は、ピコリン酸又はニコチン酸のようなキレート化剤を投与することを含む。本発明のいくつかの態様において、血中HDLコレステロール濃度を上昇させるためにピコリン酸とニコチン酸の両方を加える。
【0043】
本発明のさらに他の態様において、有効量のクロム錯体及びビオチンから本質的になり、クロム錯体とビオチンとの比が約1:1,000〜約100:1(重量/重量)である組成物を提供する。クロム錯体としては、ピコリン酸クロム、トリピコリン酸クロム、ニコチン酸クロム、ポリニコチン酸クロム、塩化クロム、ヒスチジン酸クロム又はクロム酵母などであることが有利である。
【0044】
本発明のさらに他の態様において、個人における食後高血糖を低減する方法を提供する。その方法は、それを必要とする個人に1日当たり約25〜2,000μgのクロム錯体と1日当たり約25μg〜20mgビオチンを併用投与することを含むことが有利である。1日当たり投与するクロム錯体の量は1日当たり約300〜1,000μgであるのが有利である。好ましい実施形態において、食後高血糖を低減するために1日当たり約150μg〜5mgのビオチンを投与する。
【0045】
本発明のさらに他の態様において、食品の血糖上昇指数を低下させる方法を提供する。その方法は、有効量のクロム錯体を有効量のビオチンと組み合わせて食品に添加することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
開示した発明は、高コレステロール血症及び食後高血糖症の治療のための方法及び組成物に関する。さらに、本発明の組成物及び方法は、インスリン感受性の増大、個人における高血糖の低減、食品の血糖上昇指数の低下に有用である。
【0047】
本明細書に示した説明に際して用いた用語は、本発明の特定の実施態様の詳細な説明とともに用いられているという理由だけで、限定的又は制限的に解釈されることを意図するものではない。さらに、本発明の実施形態は、どの1つも単にその望ましい属性を担うものでない、あるいは本明細書に記述する本発明を実施するのに不可欠でない、いくつかの新規の特徴を含んでいてよい。本明細書において使用されているように、「クロム錯体」は、限定なしに、ピコリン酸クロム、トリピコリン酸クロム、ニコチン酸クロム、ポリニコチン酸クロム、塩化クロム、ヒスチジン酸クロム及びクロム酵母を含む。
【0048】
本発明の主要な基盤は、有効量のクロム錯体をビオチンと併用投与することによりインスリン感受性の相乗的改善がもたらされるという新規かつ予期しない発見である。クロムとビオチンの併用投与は、様々な医学的状態に罹患している人の治療及び回復を促進し得る。本発明のもとに治療可能であると考えられる状態は、多くの異なる病因による。それにもかかわらず、それらは、それらの病理学的状態がインスリン非感受性又は食後高血糖症により引き起こされるか、あるいは悪化する点で、共通の特徴を共有する。さらに、クロム錯体を有効量のビオチンと併用投与することにより、高コレステロールの有効な低減、血中HDLコレステロールの増加、インスリン感受性の改善及び食後高血糖のような高血糖の低減がもたらされる。この低減は、いずれかの成分を単独で投与したときに予想されるものよりも著しく大きく、したがって、相乗効果を示す。さらに、クロム錯体とビオチンの併用投与により食品の血糖上昇指数が低下することが認められた。
【0049】
インスリン抵抗性は、2型糖尿病の重要な病原パラメーターであり、インスリン感受性を改善する臨床的介入は、この疾患の管理における基礎であると考えられている。さらに、インスリン抵抗性と心血管疾患との関係及びその関連する危険因子は、過去数年にわたって十分に確立された。したがって、最近多数の薬物が発売されたことから、2型糖尿病の現在の治療は「臨床的インスリン感作」を達成することを目的としている。この概念は、最小限の内因性インスリン刺激又は可能な最低の外因性インスリンの投与により、微小血管合併症(すなわち、眼、腎臓及び神経疾患)を低減しようとして血糖を低下させるという確立された臨床的目標に基づいている。そのような臨床的概念のため、2型糖尿病の治療のための併用療法は、現在、臨床的管理における治療の標準であると考えられている。薬物の併用(スルホニル尿素/メトホルミン、スルホニル尿素/グリタゾン及びメトホルミン/グリタゾンなど)は、ブドウ糖及びインスリン濃度を低下させると思われる高度に有効な薬理学的介入である。さらに、3剤併用療法(例えば、スルホニル尿素/メトホルミン/グリタゾン)は、インスリン濃度を低下させることに加えて、臨床的糖血を低下させる可能性がある。これらの臨床的製剤の成功のため、ブドウ糖を低下させかつインスリン作用を改善する臨床的効果を有する薬剤は、2型糖尿病の将来の管理において非常に有利であると考えられる。
【0050】
薬理学的療法とは異なり、栄養的介入は、インスリン抵抗性の治療及び、したがって、2型糖尿病のブドウ糖制御に対する非常に魅力的なアプローチである。この点に関して、ヒト臨床試験においてピコリン酸クロム(CrPic)のような補給クロム錯体がインスリン感受性及び血糖制御を有利に改善することを示唆する強い証拠が存在する。特に、これは、CrPicがブドウ糖及びインスリン濃度を有意に低下させた中国人糖尿病患者において実証された。アンダーソンら(Anderson et al.)、補給クロムの高い摂取量は2型糖尿病患者におけるブドウ糖及びインスリン変数を改善する(Elevated intakes of supplemental chromium improve glucose and insulin variables in individuals with type 2 diabetes、Diabetes.第46巻、1786〜1791ページ(1997年)。最近、1000μg/日のCrPicが肥満した前糖尿病ヒト集団を代表する被験者のコホートにおけるインスリン感受性を増大し得ることが示された。セファル ダブリュ ティーら(Cefalu W.T.et al.)、インスリン感受性に対するピコリン酸クロムのin vivoでの影響(Effects of chromium picolinate on insulin sensitivity in vivo)、J.Trance Elem.Exp.Med.第12巻、71〜83ページ(1999年)。同様に、CrPicは、高インスリン血症性インスリン抵抗性肥満げっ歯類モデルにおけるインスリン感受性及び脂質プロファイルの改善に関する非常に頑健な作用を有する。ワンら(Wang et al.)、ピコリン酸クロムは代謝症候群の動物モデルにおけるインスリン感受性を増大させる:インスリン感受性肥満JCR:LA−corpulantラット(Chromium picolinate enhances insulin sensitivity in an animal model for the metabolic syndrome:the obese,insulin resistant JCR:LA−corpulent rat)、Diabetes、印刷中(2000年6月ADAの年次会議で要旨を発表)(2000年)。これは、「症候群X」の構成要素(すなわち、中心性肥満、異常脂血症及びインスリン抵抗性)を有する被験者はクロム補給に対して好ましい反応を示すことを示唆している。
【0051】
ピコリン酸クロムのようなクロム錯体による単剤療法に加えて、最近の研究は、ビオチンのような他の栄養素がブドウ糖取込みに対して認められたクロムの作用を増大し得ることを強く示唆している。特に、クロム錯体とビオチンの併用は、ヒト骨格筋培養におけるブドウ糖取込みを著しく増大させる。特に理論に限定されることなく、クロム錯体がインスリン感受性を増大させる細胞機構はグリコーゲン合成を増大させることにより改善されると考えられている。クロムがインスリン感受性を増大させる機構の理解におけるこの知見の重要性は、最も多く記述されているインスリン抵抗性の側面はインスリン感受性組織におけるインスリン感受性に応答しての非効率なブドウ糖の取込み及び利用であるという事実により高められる。これは、筋肉及び肝臓におけるブドウ糖のグリコーゲンとしてのインスリン刺激性保存の低下によって示される。
【0052】
インスリン抵抗性を特徴づける特定の細胞欠陥は、十分には特徴づけられていない。しかし、図1に現在受け入れられているインスリンのシグナル伝達カスケードの経路概要を示し、また特に、糖輸送体(Glut−4)転位及びグリコーゲンに関与している経路の概要を示す。これらの2つの細胞パラメーターはインスリン抵抗状態において変化し、これらの欠陥を克服することによりインスリン感受性の増大がもたらされる。この点に関して、本発明は、in vitro及びin vivoで標的インスリンの増大をもたらす、細胞シグナル伝達の増大におけるビオチン及びクロム錯体の役割の探求を対象とする。
【0053】
食後高血糖症は、一定の期間後(例えば、食後2〜3時間)に正常濃度に戻ることがない食後の高いブドウ糖濃度を特徴とする。食事摂取後の急性ブドウ糖上昇は、実質上すべてのヒト器官系に対する広範囲に及ぶ構造的及び機能的結果を有する酸化ストレス、グリケーション及び高度グリケーション最終産物生成のような様々なブドウ糖媒介性組織欠陥を随伴する。グリコシル化ヘモグロビンをこれらの合併症を予防又は遅延させるレベルに低下させることは、食後及び空腹時血漿ブドウ糖濃度を低下させることによってのみ達成することが可能である。したがって、いくつかの実施形態において、本発明は、炭水化物の消化及び吸収を遅延させ、それにより、カロリーの損失を伴うことなく血糖値の食後急増を少なくするためのクロム錯体と有効量のビオチンの併用投与を含む。
【0054】
血糖値の食後急増の低減に加えて、我々はクロム錯体とビオチンの併用投与が食品の血糖増加指数を低下させるように作用することを認めた。上で詳述したように、炭水化物を含む食品のような、より高い血糖増加指数を有する食品は、消費されたとき血糖の急増とその後の時間経過に伴う低下を引き起こす可能性がある。本発明の驚くべき発見の1つは、クロム錯体をビオチンとともに食品に含めることにより食品の血糖増加指数が低下するという所見である。クロム錯体とビオチンの併用投与により、食品の摂取直後のブドウ糖反応の急激な上昇が防止される。さらに、血糖値の急増及び降下への「高」及びその後の「低」付随物が低下する。
【0055】
したがって、一実施形態において、食品の血糖増加指数を低下させる方法を提供する。本明細書で使用されているように、「食品」という用語は、成長、修復及び生命過程を維持し、エネルギーを供給するために体内で使用されているタンパク質、炭水化物及び脂肪から本質的になるあらゆる物質を含む。特に、食品は、次の認められている食品群に見いだされるすべての固体、半固体及び液体栄養物を指す。すなわち、パン、穀類、米及びパスタ群、野菜群、果実群、乳汁、ヨーグルト及びチーズ群、肉、鶏肉、魚、乾燥豆、卵及びナッツ群(以後肉群と称する)、脂肪及び油群並びに砂糖、キャンディー、ケーキのような品目を含む加工食品、塩分のある加工スナック食品、ソフトドリンクのような加糖飲料等。
【0056】
食品の血糖増加指数の低下は、食品にクロム錯体及びビオチンを含めることにより達成される。食品にクロム錯体及びビオチンを含めることは、様々な方法で達成することが可能である。例えば、クロム錯体及びビオチンは食品が調製されているときに食品に混入させることが可能である。言い換えれば、クロム錯体及びビオチンは、食品の他の構成成分が混合されるのと同時に加える。あるいは、クロム錯体及びビオチンは、食品が調製された後に加えることもできる。クロム錯体及びビオチンは、粉末又は液体として調合し(特定の調合物は以下に示す)、既に調製した食品の表面に分布させることができる。クロム錯体及びビオチンは、食品にクロム錯体及びビオチンを投与する前に単独又は他の成分と混合して加えることが可能である。例えば、クロム錯体及びビオチンを甘味剤と混合し、穀類のような食品に振りかけることができる。他の投与方法も適切であろう。
【0057】
本発明の化合物は、別個に、又は単一組成物(すなわち、混合して)として投与することが可能である。別個に投与する場合、所望の血糖上昇指数低下作用が増大するような時間的に最も近い仕方で化合物を投与すべきである。より具体的には、化合物を互いに1時間以内に投与してよい。一実施形態において、クロム錯体及びビオチンを食品に実質的に同時に加える。
【0058】
さらに、本発明は、インスリン感受性又はその欠如が疾患の発生に活性で好ましくない役割を果たしている様々な状態の改善に有効である組成物及び方法を意図している。そのような状態は、糖尿病、症候群X、インスリン抵抗性と関連する有害な影響、高インスリン血症、高グリセリド血症、抑うつ、月経前症候群(PMS)、月経前身体違和感障害(PMDD)、肥満、心血管疾患、骨粗鬆症、歯周疾患及び多嚢胞卵巣症候群(PCOS)並びにインスリン感受性が重要な役割を果たしている他の状態を含むが、これらに限定されない。特に好ましい実施形態において、血中LDLコレステロールの量を低下させる方法を提供する。最も好ましい実施形態において、HDLのレベルを増加する方法を提供する。クロムとビオチンの有効量での併用投与は、高コレステロール血症の治療と予防に有用である。
【0059】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示する組成物及び方法は、身体組成の改善、体脂肪の減少、除脂肪体重の増加、筋肉の成長と修復、並びにスポーツ能力及び持久力の改善に有用である。有効量のクロム錯体と有効量のビオチンの併用投与は、インスリン感受性を増大させ、それにより個人における身体組成を向上させる。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態において、組成物及び方法は、動物の健康を増進する有用性を有する。上記の健康上の有益性に加えて、クロム錯体とビオチンの併用投与により、ひずめ病を予防し、肉、乳汁、卵中の脂肪及びコレステロールの量を低下させることができ、他の動物製品、例えば、鳥及び哺乳類を有利に処理することができる。さらに、本発明の調合物は、乳汁生産、産卵及び同腹児数の増加に有用である。
【0061】
好ましい実施形態において、本発明は、血中のLDLコレステロール濃度の有益な低下とHDLコレステロール濃度の増加を達成するためにクロム錯体とビオチンを併用することを意図している。本発明の化合物は、別個に、又は単一組成物として個人に投与することが可能である。個人に製薬上有効量のピコリン酸クロムのようなクロム錯体を投与することが有利である。一実施形態において、ビオチンを実質的に同時に投与する。別の実施形態において、クロム錯体を最初に投与し、第2にビオチンを加える。他の実施形態において、ビオチンを最初に投与する。別個に投与する場合、高コレステロール血の低下が増大するような時間的に最も近い仕方で、例えば、24時間以内に化合物を投与すべきである。より具体的には、化合物を互いに1時間以内に投与してよい。投与は、下記の投与方法のいずれかにより、又は当業者により知られている薬物送達法により行うことが可能である。
【0062】
ピコリン酸クロムの合成は、米国特許第5,087,623号に記述されている。ビオチン及びトリピコリン酸クロムのようなクロム錯体は健康食品店、ドラッグストア及び他の商業的供給源により市販されている。LDLコレステロール濃度を低下させ、HDL濃度を上昇させるためには、個人に投与するクロムの用量範囲は少なくとも約25μg/日であると予想される。好ましくは、クロムの量は約25〜2,000μg/日である。より好ましくは、クロムの量は約300〜1,000μg/日である。より好ましくは、クロムの量は約400〜1,000μg/日である。特に好ましい実施形態において、クロムの量は約600〜1,000μg/日である。併用療法のビオチン成分に関しては、1日投与量は少なくとも約25μgである。好ましくは、ビオチンの量は約25μg〜20mgである。より好ましくは、ビオチンの1日投与量は約150μg〜10mgである。より好ましくは、ビオチンの1日投与量は約300μg〜5mgである。これらの用量は70kgの成人を基にしており、用量は1kg当たりとして、異なる体重のヒト又は動物に適用することが可能であることに注意すること。
【0063】
食品の血糖上昇指数の低下のためのクロム錯体の好ましい1日投与量は、食品に投与するクロム錯体として少なくとも約25μgである。好ましい実施形態において、クロムの量はクロム約50μg〜1,000μgである。特に好ましい実施形態において、クロムの量は約75μg、100μg、150μg、200μg、250μg、300μg、350μg、400μg、450μg、500μg、550μg、600μg、650μg又は700μgである。ビオチン成分の1日投与量に関しては、食品に投与すべきビオチンの好ましい量は、少なくとも25μg、好ましくは50μg〜10g、より好ましくは約100μg〜3gである。個々の食品に加えるクロム錯体及びビオチンの量は、食品の血糖上昇指数及びエネルギー密度、食品の供給量と1日に消費されると予想される個々の食品の供給回数に依存する。一般的に、より高い血糖上昇指数及び/又はより高いエネルギー密度を有する食品、及び/又は、より大きい供給量及び/又は1日当たり数回消費されると予想される食品は、所望の効果を達成するためにより高い量のクロム錯体及びビオチンを添加する必要がある。
【0064】
クロム錯体は腸細胞によるクロムの吸収を促進するが、いくつかの実施形態において、他の摂取されたクロム並びに銅、鉄、マグネシウム、マンガン及び亜鉛を含むが、これらに限定されない他の金属の吸収を促進するために、錯体形成していないキレート化剤を組成物に有利なことに含められている。適切なキレート化剤は、ピコリン酸、ニコチン酸又はピコリン酸とニコチン酸の両方などである。したがって、開示する本発明の組成物は、ヒト食事中の他の必須金属の吸収も促進する容易に吸収可能な形態のクロムである。
【0065】
開示する本発明のクロム錯体は、米国特許第5,087,623号、第5,087,624号及び第5,174,156号においてトリピコリン酸クロムについて記述されているのと同じ使用目的、すなわち、食事クロムを補給し、糖尿病患者における血糖値を低下させ、血清脂質濃度を低下させ、除脂肪体重を増加させるという使用目的を有する。さらに、本発明のピコリン酸クロムは、糖尿病に伴う症状を治療する作用を有する。
【0066】
食品の血糖上昇指数を低下させる方法も同様に提供する。
【0067】
クロム錯体は合成品であることが有利である。ピコリン酸クロムの合成および使用は、例えば、米国特許第Re33,988号及び第5,087,623号に記述されている。トリピコリン酸クロムは、健康食品店、ドラッグストア及び他の商業的供給源から入手可能である。ピコリン酸クロムの合成および使用は、米国特許第5,194,615号に記述されている。
【0068】
ピコリン酸及びニコチン酸のようなキレート化剤は、シグマ−アルドリッヒ(Sigma−Aldrich)(ミズーリ州セントルイス所在)(ピコリン酸:カタログ番号P5503、ニコチン酸:カタログ番号PN4126)を含む多くの商業的供給源から入手可能である。好ましくは、クロム錯体とキレート化剤との比は約10:1〜約1:10(重量/重量)であり、より好ましくは約5:1〜約1:5(重量/重量)である。あるいは、クロム錯体と錯体形成していないキレート化剤とのモル比は、好ましくは1:1であり、約5:1〜約1:10であってよい。
【0069】
経口投与用に、クロム錯体及びビオチンは、錠剤、水性又は油懸濁剤、分散性散剤又は顆粒剤、乳剤、軟性及び硬性カプセル剤、シロップ剤、エリキシル剤又は飲料として提供することができる。経口用組成物は、当技術分野で知られている製薬上許容できる組成物の製造方法に従って調製することができ、そのような組成物は次の薬剤の1つ又は複数のものを含んでいてよい。すなわち、甘味剤、着香料、着色剤及び保存剤。甘味剤及び着香料は、製剤の嗜好性を高める。クロム錯体を、錠剤製造に適した製薬上許容できる無毒性の賦形剤との混合物として含む錠剤は、許容できる。製薬上許容できるとは、薬剤が、製剤の他の成分と適合性がある(並びに患者に対して非傷害性)という意味で許容できることを意味している。そのような賦形剤としては、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウム又はリン酸ナトリウムのような不活性希釈剤、トウモロコシデンプン又はアルギン酸のような顆粒化及び崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はタルクのような滑沢剤などがある。錠剤は、未被覆であってよく、若しくは、胃腸管における崩壊及び吸収を遅延させ、それにより、より長時間にわたる持続作用を得るために既知の技術により被覆してもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリル単独若しくはワックスとの混合物のような時延物質を用いることができる。
【0070】
経口用製剤は、有効成分が不活性固体希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム又はカオリンと混合されている硬性カプセル剤として、あるいは有効成分が水若しくは落花生油、流動パラフィン又はオリーブ油のような油媒体と混合されている軟性ゼラチンカプセル剤として提供してもよい。水性懸濁剤は、本発明のクロム錯体を、水性懸濁剤の製造に適した賦形剤との混合物として含んでいてよい。そのような賦形剤としては、懸濁化剤、分散又は湿潤剤、1つ又は複数の保存剤、1つ又は複数の着色剤、1つ又は複数の着香料及びスクロース又はサッカリンのような1つ又は複数の甘味剤などがある。
【0071】
油懸濁剤は、有効成分を、落花生油、オリーブ油又はやし油のような植物油若しくは流動パラフィンのような鉱油に懸濁して調合することができる。油懸濁剤は、みつろう、硬質パラフィン又はセチルアルコールのような粘稠化剤を含んでいてよい。味のよい経口製剤を提供するために、上記のような甘味剤及び着香剤を加えてもよい。これらの組成物は、アスコルビン酸のような添加抗酸化剤により保存することができる。水の添加による水性懸濁剤の調製に適する本発明の分散性散剤及び顆粒剤は、分散剤あるいは湿潤剤:懸濁剤、並びに1つ又は複数の保存剤との混合物としての有効成分を提供する。別の賦形剤、例えば、甘味剤、着香剤及び着色剤も存在していてもよい。
【0072】
シロップ剤及びエリキシル剤は、グリセロール、ソルビトール又はスクロースのような甘味剤とともに調合することができる。そのような製剤は、粘滑剤、保存剤、着香剤及び着色剤も含んでいてよい。
【0073】
非経口投与用のクロム錯体製剤は、無菌の注射用水性又は油脂性懸濁剤のような無菌注射剤の形態であってよい。この懸濁剤は、適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を用いる当技術分野でよく知られている方法に従って調合することができる。無菌注射剤は、1,3−ブタンジオール中溶液のような、非経口投与で許容できる無毒性の希釈剤又は溶媒中無菌注射用液剤又は懸濁剤であってもよい。適切な希釈剤としては、例えば、水、リンゲル液及び等張性塩化ナトリウム溶液などがある。さらに、無菌固定油を溶媒又は懸濁化媒体として通常用いることができる。この目的のために、合成モノ又はジグリセリドなどの刺激の強くない固定油を用いることができる。さらに、オレイン酸のような脂肪酸も注射剤の調製に同様に用いることができる。
【0074】
水中油型乳剤の形態の薬剤組成物を用いてもよい。油相は、オリーブ油又は落花生油のような植物油、流動パラフィンのような鉱油若しくはその混合物であってよい。適切な乳化剤としては、アラビアゴム及びトラガカントゴムのような天然に産出するゴム、ダイズレシチンのような天然に産出するホスファチド、モノオレイン酸ソルビタンのような脂肪酸とヘキシトール無水物とから得られるエステル又は部分エステル並びにポリエチレンモノオレイン酸ソルビタンのようなこれらの部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物などがある。乳剤は、甘味剤及び着香剤を含んでいてもよい。
【0075】
単一剤形を製造するために担体物質と混合するクロム錯体/ビオチンの量は、治療対象と投与方法によって異なる。
【0076】
(実施例)
以下の実施例は、少なくとも1つのクロム錯体とビオチンの併用投与によりインスリン感受性を改善し、コレステロール濃度を低下させ、食後高血糖症を治療し、食品の血糖上昇指数を低下させるための本明細書に開示した方法及び組成物を教示している。これらの実施例は、実例のみを示すものであって、本明細書に開示した発明の範囲を限定することを意図するものではない。下記の投与方法は、当業者によく知られている経験的技術を用いて最適化することが可能である。さらに、当業者は以下の実施例に記述されている教示事項を用いて本明細書に開示されている本発明の全範囲を実施することができるであろう。
【実施例1】
【0077】
インスリン感受性に対するクロム及びビオチンの効果
CrPicのin vivo効果の考え得る細胞機構を評価するために、ヒト骨格筋培養(「HSMC」)におけるブドウ糖取込みに対するクロムの役割を単剤療法及びビオチンとの併用療法として評価した。HSMCの価値はインスリン感受性標的組織を代表するものと報告され、骨格筋はヒトにおけるブドウ糖除去のための主要な組織である。ヘンリー アール アールら(Henry R.R.et al.)、培養ヒト骨格筋におけるグリコーゲンシンターゼ活性の後天性欠損:高ブドウ糖及びインスリン濃度の影響(Acquired defects of glycogen synthase activity in cultured human skeletal muscle cells:influence of high glucose and insulin levels)、Diabetes、第45巻、400〜407ページ(1996年)を参照のこと。
【0078】
ブドウ糖取込みに関しては、我々はクロム単独が、ビオチン単独とは異なり、ブドウ糖取込みを増大させることを示した。しかし、HSMCを両者とインキュベートしたとき、図2に示すように、ブドウ糖取込みに対する相乗効果が認められた。この所見は、グリコーゲン合成の評価にさらに拡大された。ヒト骨格筋細胞系をCrPic、ビオチン及びCrPic/ビオチン混合物の存在下で平板培養し、成長させた。インキュベートした後、細胞を洗浄し、ベースライン及びインスリン刺激後にグリコーゲン合成を分析した。図3に示すように、クロム及びビオチンは基礎及びインスリン刺激条件でグリコーゲン合成を増大させた。IRS−2のタンパク質含量もCrPic+ビオチンの併用で増加した。
【実施例2】
【0079】
CrPic及びビオチンがグリコーゲン合成を増大させる細胞機構の評価
CrPic及びビオチンがグリコーゲン合成を増大させる細胞機構を評価するために、グリコーゲンシンテターゼ(「GS」)mRNA及びグリコーゲン合成を評価した。HSMCを10ng/mlのCrPic、10pmのビオチン及びCrPicとビオチンの両方とともにインキュベートした。実証された通り、この場合にも図4Aに示すようにCrPic及びビオチンがインスリン刺激性グリコーゲン合成を増大させた。遺伝子発現を評価したとき、CrPicとビオチンとの併用がGS mRNAを増加させることが認められた(図4Bを参照)。GS mRNAレベルを評価したとき、クロムはGSの遺伝子発現を26%、ビオチンは15%、併用は33%増加させた。このことは、GS遺伝子発現に対するクロムとビオチンの相乗効果を強く示唆している。
【0080】
提案される機構は、CrPic及びビオチンが、ヒト骨格筋におけるインスリンの生物学的作用の媒介に関与する酵素(特にGS)の遺伝子転写の速度に影響を及ぼすということである。
【実施例3】
【0081】
動物モデルにおけるインスリン感受性に対するクロム及びビオチンの効果
インスリン感受性に対するクロム及びビオチン(単独及び併用)の効果を試験するために、「症候群X」のげっ歯類モデルを用いた。特に、肥満及びインスリン抵抗性の十分に確立されているモデルであるので、JCRラットを用いた。さらに、このモデルは、インスリン抵抗性症候群の臨床的構成要素(例えば、異常脂血症、中心性肥満)を示す。
【0082】
正確な体重、体組成及び摂餌量を評価したベースライン相の後に、動物を対照、CrPic単独、ビオチン単独又はCrPic/ビオチンに無作為化した(図5を参照)。動物の体重を週1回測定し、栄養素を毎日給水により規定の用量/kg体重で与えた。12週間にわたる動物の毎日の処理を遂行した。
【0083】
方法
試験中の規定の時点に、ブドウ糖及びインスリン評価を行った。炭水化物代謝の特異的評価を腹腔内ブドウ糖負荷試験及びインスリン耐性試験を用いて確定した。動物は、無作為化により6及び12週で試験した。特異的代謝試験は次のとおりであった。
【0084】
腹腔内ブドウ糖負荷試験(IPGTT)
ベースラインブドウ糖及びインスリン測定の後に、1.5mg D50W/g体重を腹腔内投与した。ブドウ糖の投与の30、60、90及び120分後に尾部穿刺を始めた。インスリン及びブドウ糖の曲線下面積を評価した。12週目に各群の8匹の動物を試験した。IPGTTの結果は表1に反映されている。表1に種々の用量のCrPic及び/又はビオチンを投与した動物におけるブドウ糖除去量の詳細を示す。注:「L」はやせ対照を示し、「O.contr」は肥満対照ラットであり、「LB」は低ビオチン投与を意味し、「HB」は高ビオチン投与を意味し、「LC」及び「HC」はそれぞれ低及び高用量のクロムを意味する。図6はIPGTT試験の結果を図示したものである。
【0085】
【表1】
【0086】
インスリン耐性試験(ITT)
ベースラインブドウ糖評価後に、インスリン(5単位/kg体重)を静脈内投与した。インスリン投与の5、15及び30分後に反復ブドウ糖評価を行った。ブドウ糖消失速度を測定した。再度、12週目に各群の8匹の動物を試験した。
【0087】
体組成
ベースライン及び試験終了時に総体脂肪を測定した。この目的のために、30秒以内に麻酔を誘導し、げっ歯類が非常によく耐えることが認められた吸入ガスであるメタファンで動物を麻酔した。体組成を測定するためのシステムはTOBEC(全身電気伝導率測定装置)である。この方法の基本的原理は、電磁場が無機質含有組織(すなわち脂肪のない組織)の含量の直接の関数としてひずむことである。装置は放射線を使用せず、生物学的危険性を示さない。麻酔がかかったならば、ラットをTOBEC装置内に無拘束で入れ、読み取りを行い、測定を実施した。
【0088】
骨格筋生検
試験の終了時に、インスリン刺激後に外側広筋の生検を実施した。グリコーゲン含量の測定と遺伝子発現試験を以下のように実施した。
【0089】
1.骨格筋のグリコーゲン含量:骨格筋生検におけるグリコーゲンの加水分解及びブドウ糖の定量をゴメツ−レコン(Gomez−Lechon)に従い、いくつかの修正を加えて実施した。ゴメツ−レコン エム ジェーら(Gomez−Lechon M.J.et al.)、96ウエル培養細胞中のグリコーゲンの測定のためのミクロアッセイ(A microassay for measuring glycogen in 96−well−cultured cells)、Anal.Biochem.第102巻、344〜352ページ(1980年)。生検後、骨格筋細胞をPBS(pH7.4)で3回洗浄した。100nMインスリン及び30mMブドウ糖を培地(SkBMのみ)に加えるか、又は同じ容積の0.9%NaClに加え、基本インキュベーションとして2時間放置した。氷冷PBSで徹底的に洗浄した後に、すべての液体を除去し、その後、200μlの0.2M酢酸ナトリウム緩衝液、pH4.8を各ウエルに加え、高負荷超音波処理装置(VIR Sonic 60)を設定7で用いて20秒間音波処理した。ラバルカ シー及びパイゲン ケー(Labarca C.and Paigen K.)、簡単、迅速かつ感度の高いDNAアッセイ法(A simple,rapid and sensitive DNA assay procedure)、Anal.Biochem.第102巻、344〜352ページ(1980年)に記載されているように、50μl/ウエルずつのホモジネートを取り、DNAアッセイに供した。アミログルコシダーゼを500mU/ウエルの最終濃度で各ウエルに加えた。グリコーゲン−タンパク質凝集体の沈降を防ぐために振とうしながら、プレートを40℃で2時間インキュベートした。酵素消化の産物を1.5mlミクロ遠心管に収集し、3000rpmで10分間遠心分離した。ブドウ糖アッセイのために、50μl/ウエルずつの上清を96ウエルプレートに移し、150μlのアッセイ溶液(20u/リットルのペルオキシダーゼ、10u/リットルのグルコースオキシダーゼ及び1g/リットルのABST)を加えた。試料を暗所で30〜40分間にわたり室温でインキュベートした。呈色反応の強度をミクロプレートリーダーを用いて405nmで測定した。グルコアミラーゼを含まない細胞ホモジネートのインキュベーションにより反応のブランクを実施した。この値は遊離ブドウ糖含量を表すものであり、酵素加水分解後に得られた総ブドウ糖から差し引いた。既知量のウサギ肝臓グリコーゲンを用い、試験試料と同様に処理して、標準曲線を作製した。グリコーゲン含量は、DNA濃度で補正した後にnMブドウ糖当量/ウエルとして表した。
【0090】
2.ヘキソキナーゼ及びグリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(「GSK−3」)タンパク質の検出:バーネット(Burnett)の方法によりウエスタンブロット分析を実施した。バーネット ダブリュ エヌ(Burnett W.N.)、ウエスタンブロッティング:ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲルから非修飾ニトロセルロースへのタンパク質の電気泳動的移動並びに抗体及び放射性ヨウ素標識プロテインAによるラジオグラフ検出(Western Blotting:electrophoretic transfer of proteins from sodium dodecyl sulfate..polyacrylamide gels to unmodified nitrocellulose and radiographic detection with antibody and radioiodinated protein A)、Anal.Biochem.第112巻、195〜203ページ(1981年)。骨格筋細胞をPBSで3回洗浄した後、細胞を600×gで5分間遠心分離した。50μlの緩衝液B(100mMピロリン酸ナトリウム、100mMフッ化ナトリウム、5mM EDTA、2mMオルトバナジン酸ナトリウム、1mM PMSF、20μg/mlアプロチニン及び1%トリトンx−100を含む100mMトリス/HCl pH7.4)をミクロ遠心管に加え、上記のように20秒間にわたり音波処理した。音波処理物を氷上に30分間保持し、15000×gで10分間遠心分離した。上清のタンパク質濃度を測定した。タンパク質の量に対して標準化する上清の分割量を2×ラメリ緩衝液(Lamellis’ buffer)で1:1に希釈し、95℃で5分間加熱した。タンパク質を8% SDS−PAGEゲル上で分離し、次いで、ニトロセルロースに転移した。ニトロセルロースシートを抗HKポリクローナル抗体(ヒツジから産生、3%BSAを含むTBS緩衝液で1:250希釈)とともに4℃で一夜インキュベートし、次いで、TBSで15分間ずつ4回洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP、1:75000希釈)と複合させた抗ヒツジ抗体とともにインキュベートして、HKプロテインを測定した。46〜51kDaのGSK−3を認識する合成ペプチド(CKQLLHGEPNVSYICSRY)に対して産生させたモノクローナルIgG(0.5μg/ml)(アップステート(Upstate)、ニューヨーク州レークプラシッド(Lake Placid)所在)を用いて、GSK−3を同定した。第2抗体は、HRP(1:5000希釈)と複合させた抗マウスIgG(シグマ(Sigma)、ミズーリ州セントルイス(St.Louis)所在)であった。TBSで徹底的に洗浄した後、免疫複合体を増強化学発光キット(enhanced chemiluminescence kit)を用いて検出した。フィルム上のバンドをAlpha Imager 2000(カリフォルニア州サンリアンドロ(San Leandro))で定量した。
【0091】
RNAの調製:骨格筋生検からの全RNAをチシアン酸グアニウム(guanium thicyanate)、フェノール−クロロホルム抽出及びアルコール沈殿を用いて分離した。RNA試料を分光光度計により定量した。吸収比(260:280nm)はすべての標本について1.8〜2.0であり、臭化エチジウムで着色したアガロースゲル上でRNAの完全性が立証された。RT−PCRには、新鮮な分離全RNAを用いた。
【0092】
GS mRNAレベルの分析:GS mRNAレベルを1段RT−PCRキット(クロンテクラボラトリーインコーポレーティッド(Clontec Laboratories,Inc.)[カリフォルニア州パロアルト(Palo Alto)所在])を用いて分析した。最終容積50μl中40mMトリシン、20mM KCl、3mM MgCl2、3.75μg/ml BSA、0.2mMデオキシヌクレオシド三リン酸、400pmolのオリゴ(dt)プライマー及び200pm GSプライマー(センス5’−GTGCTGACGTCTTTCTGGAG−3’、アンチセンス5’−CCAGCATCTTGTTCATGTCG−3’)を含み、1×RT−AdvanTaq plus酵素ミックスを加えたものを用いて1μhの全RNAからGS第1鎖CDNA合成を実施した。反応混合物をEppendorf Master勾配サイクラー(ニューヨーク州ウエストベリー(Westbury))中50℃で60分間のインキュベーションに供した。95℃で5分間加熱して反応を停止させた。次いで、PCR混合物を、95℃で30秒間の変性、65℃で30秒間のアニーリング及び72℃で2分間の延長を含むサイクルプロファイルを有する15サイクルのPCR増幅と、その後の各サイクルをそれぞれ95℃で1分間、55℃で1分間、72℃で2分間とした20サイクルのPCR増幅に供した。最終延長は72℃で5分間とした。ヒトG3PDHを内部対照としてPCR反応管に同時に加えた。
【0093】
RT−PCR産物の分析:各PCRの10μlの増幅産物を2%アガロースゲルで分離し、0.5μg/mlの臭化エチジウムで染色し、写真撮影した。バンド密度を評価した(Alpha Imager 2000、カリフォルニア州サンリアンドロ(San Leandro))。RNAを除外するか、又はマスターミックスを95℃で5分間前加熱して酵素を失活させて、RT段階で逆転写酵素を用いない対照実験により、ゲノムDNAの混入がないことが立証された。
【0094】
統計解析:ANOVAを用いて統計学的有意性を評価した。インスリン感受性及び遺伝子発現について、対照と比較したときのCrPic及びビオチン単独並びに併用の間の比較を行った。p<0.05レベルで、有意性があるとした。
【0095】
結果
我々のデータはクロムがインスリンのシグナル伝達を改善する可能性があることを強く示唆しており、我々はこれをインスリン抵抗性症候群を表す動物モデルにおいてin vivoで実証した。具体的には、CrPic及び対照を高インスリン血症性インスリン抵抗性肥満JCRラットに投与して、比較した。この試験は約4ヶ月齢の動物において開始し、動物に特に3ヶ月間投与した。図7に示すように、試験の終了時に評価したとき、CrPicは空腹時血漿インスリンを有意に低下させるように思われた。さらに、腹腔内ブドウ糖負荷試験に対するブドウ糖反応を比較したとき、CrPicは、ブドウ糖反応を有意に改善し(図8A)、肥満ラットにおけるインスリン反応を有意に低下させた(図8B)。インスリン耐性試験により評価したインスリン感受性は、CrPicにより有意に改善された(図9)。これは、動物の体重の変化を伴うことなく達成された。インスリン感受性の改善は、やせた動物と比較して総コレステロール濃度の低下を伴っていた(例えば、表2並びに図10及び11を参照)。動物試験における脂質濃度に対するクロムとビオチンとの併用の効果の詳細を表2に示す。具体的には、コレステロール濃度、高密度脂質コレステロール(HDL−ch)及びトリグリセリド濃度に対するクロム及びビオチンの効果を表2に記録する。
【0096】
【表2】
【0097】
さらに、インスリン感受性の改善は、HDL−C濃度の改善(図12A)及びコレステロール−HDL比の低下(図12B)を伴っていた。最後に、クロムとビオチンの併用投与は投与動物における総トリグリセリド ポートフォリオ(portfolio)の低下をもたらした(図16及び17)。
【0098】
要約すると、これらの動物試験から、クロムとビオチンはインスリン抵抗性及びインスリン抵抗性症候群の構成要素を改善するin vivo効果を有することが強く示唆される。
【実施例4】
【0099】
クロムとビオチンの併用投与による血中コレステロール濃度の改善
高コレステロールを示す個人を特定する。トリピコリン酸クロム及びビオチンをそれぞれ1日当たり500μg及び5mgの用量で経口投与する。経過に伴い血中HDLコレステロールの増加とLDLコレステロールの低下が認められる。
【実施例5】
【0100】
クロムとビオチンの併用投与による2型糖尿病を有する人における血糖値の上昇の低減
2型糖尿病患者におけるグリコシル化ヘモグロビン濃度に対するクロムとビオチンの影響を検討した。具体的には、2型糖尿病を有する被験者における血糖制御に関する炭水化物含有飲料に混入したピコリン酸クロムとビオチンの効果の検討を開始した。さらに、炭水化物含有飲料を摂取した2型糖尿病患者における空腹時血糖値に対するピコリン酸クロムとビオチンの効果を評価した。
【0101】
試験デザイン
2型糖尿病を有する人における血糖制御に関するピコリン酸クロムとビオチンの効果を検討するために12週間の無作為化二重盲検比較臨床試験を行った。
【0102】
34例の被験者を評価に含めた(男性24例、女性10例)。被験者の選定は、多くの基準に基づくものであった。2型糖尿病を発現していた各被験者は、90mg/dLより大きいが、170mg/dLより小さい空腹時血糖値と7mg/dLを超えるグリコシル化ヘモグロビン濃度を有していた。被験者のヘモグロビン濃度は12.5g/dLを超えていなければならず、彼又は彼女のBMIは26.0kg/m2より大きかったが、39.0kg/m2より小さかった。ベースライン血糖降下薬物療法は治療期間をとおして安定したままであった。
【0103】
試験には対照群と試験群の2つの並行群を含めた。各群に29gの炭水化物を含む飲料を栄養補助食品として1日2回供給した。試験及び対照飲料は、糖尿病を有する人向けにデザインされた一般的な飲料と内容が類似しており、以下の成分を含むものであった。すなわち、水、マルトデキストリン、ダイズタンパク分離物、カノーラ油、イヌリン、ココア粉末、脱脂マルトデキストリン、結晶フルクトース、ビタミン・ミネラルミックス、天然チョコレート(choclate)フレーバー、レシチン、天然バニラフレーバー、Nutrasweet(登録商標)(ニュートラスイート社(NutraSweet Co.)[イリノイ州ディアフィールド(Deerfield)所在])、アセスルファム(acesulfame)K及びSeaKem(エフエムシーコーポレーティッド(FMC Corp.)[ペンシルバニア州フィラデルフィア所在])。試験群には300μgのクロム(ピコリン酸クロムとして)と150μgのビオチンを含む飲料を投与した。表3に飲料の栄養素の内訳を示す。
【0104】
【表3】
注:他のビタミン及びミネラルは両群で同じであった(1日値(%)及びRDAに基づく)。飽和脂肪酸(SFA)、1価不飽和脂肪酸(MUFA)及び多価不飽和脂肪酸(PUFA)は各試験群で同じである(情報源:カノーラ油は高MUFA及びPUFAと低SFAを供給する)。
【0105】
臨床試験の期間は12週間であった。12週間の治療の開始時に、グリコシル化ヘモグロビン濃度、空腹時血糖濃度及び疲労に関するベースラインデータを収集した。血糖制御の指標をベースライン、試験中及び試験の終了時に評価した。特に被験者を0、1、2、4、6、8及び12週で評価した。
【0106】
結果
炭水化物を含む飲料を1日2回摂取した2型糖尿病を有する人における血糖値の上昇の低減に関するクロムとビオチンの併用投与の効果を試験した。試験の結果を図18、19及び20に示す。図18には、ベースラインから12週目の終了までの平均グリコシル化ヘモグロビン濃度の変化を示す。ピコリン酸クロムを投与した投与群と比較してグリコシル化ヘモグロビン濃度の有意な上昇が炭水化物含有飲料を投与した対照群で認められた。
【0107】
図19には、ピコリン酸クロム及びビオチンを投与した被験者と対照被験者との間の治療期間にわたる平均空腹時血糖値(mg/dL)の変化の比較を示す。時間の経過に伴い、対照群は、炭水化物含有飲料を摂取し続けたとき時間の経過とともに平均空腹時血糖値の増加を示した。これに対して、ピコリン酸クロムとビオチンを添加した炭水化物含有飲料を摂取した被験者は平均空腹時血糖値の上昇を示さなかった。
【0108】
被験者のエネルギーレベルの変化を試験の開始時と12週間の試験の終了時に評価した。図20は、ピコリン酸クロムとビオチンを添加した炭水化物含有飲料を摂取した被験者とピコリン酸クロムとビオチンを添加しなかった炭水化物含有飲料を摂取した対照の被験者の疲労の程度の差を示す図である。疲労は、スコア0は疲労なしを示し、スコア10は重度の疲労を示す、リカート(Likert)10段階評価尺度を用いて評価した。注目すべきことに、ピコリン酸クロムとビオチンを投与した被験者では疲労の増加は認められなかった。
【0109】
結論
ピコリン酸クロムとビオチンを添加した炭水化物含有飲料を12週間にわたり1日2回投与した2型糖尿病被験者は、ピコリン酸クロムとビオチンを添加しなかった炭水化物含有飲料を摂取した2型糖尿病被験者よりも低いグリコシル化ヘモグロビン濃度と低い血糖値を示した。特定の理論に限定されることなく、これらの現象は、ピコリン酸クロムがインスリン受容体の数を増加かつ/又はこれらの受容体におけるインスリン結合を促進することによりインスリン感受性を増大させるという所見に一部は基づいている可能性がある。さらに、クロムは、筋細胞におけるブドウ糖の取込みを増強し、グリコーゲン産生を増加させる。ビオチンは、肝臓におけるグルコキナーゼの活性を刺激し、膵島細胞機能を改善し、クロムIIIのインスリン調節を増強する。
【0110】
我々のデータから、クロムとビオチンは食後高血糖を改善する可能性があることが強く示唆された。図18及び19に示すように、CrPic及びビオチンは、試験の終了時に評価したとき、血糖値及びグリコヘモグロビン濃度を有意に低下させるように思われた。これは、ピコリン酸クロム及びビオチン飲料により被験者の疲労の変化を伴わずに達成された。要約すると、これらのヒト試験は、CrPic及びビオチンが食後高血糖症に影響する(effect)可能性があることを示している。さらに、試験から、クロム錯体とビオチンの併用投与により食品の血糖上昇指数が低下する可能性があることが強く示唆されている。
【実施例6】
【0111】
果汁の血糖上昇指数の低下のためのクロム錯体の併用投与
クロム錯体+ビオチンは、オレンジジュースの血糖上昇指数を低下させる作用を有する。600μgのヒスチジン酸クロムと300μgのビオチンを液体として調合し、226.8g(8オンス)のオレンジジュースに加える。ヒスチジン酸クロム及びビオチンをオレンジジュースと混合し、人に摂取させる。ヒスチジン酸クロム及びビオチンを添加しなかったオレンジジュースを摂取した人の血糖と比較して、血糖の10〜25mg/dLの低下が認められる。オレンジジュースの血糖上昇指数が低下する。
【実施例7】
【0112】
果糖を甘味料としたコーラ炭酸飲料の血糖上昇指数の低下のためのクロム錯体の併用投与
クロム錯体+ビオチンは、果糖を甘味料としたコーラ炭酸飲料の血糖上昇指数を低下させる作用を有する。600μgのピコリン酸クロムと300μgのビオチンを液体として調合し、226.8g(8オンス)の飲料に加える。ピコリン酸クロム及びビオチンを飲料と混合し、人に摂取させる。ピコリン酸クロム及びビオチンを添加しなかった果糖を甘味料としたコーラ炭酸飲料を摂取した人の血糖と比較して、血糖の10〜25mg/dLの低下が認められる。果糖を甘味料としたコーラ炭酸飲料の血糖上昇指数が低下する。
【実施例8】
【0113】
高炭水化物食の血糖上昇指数の低下のためのポリピコリン酸クロム及びビオチン
300μgのポリピコリン酸クロムと200μgのビオチンからなる配合物を散剤として調合し、調理済みのパスタに振りかける。パスタを人に摂取させる。パスタが摂取された直後に血液試料のグリコシル化ヘモグロビン及び血糖値を検査する。グリコシル化ヘモグロビン及び血糖値の低下が認められる。ポリピコリン酸クロムとビオチンの併用投与は、パスタの血糖上昇指数を低下する作用を示し、それにより、人がポリピコリン酸クロムとビオチンを加えなかったパスタを摂取するときに認められると予想されるようなブドウ糖反応の急激な上昇を最小限にする。
【0114】
本発明についての上の説明は、本発明を理解するのを単に助けるために記述されている。現在知られている、又は後に開発される等価物を含む本発明の変形形態は特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲内に入るとみなされることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】インスリンのシグナル伝達カスケードを示す図である。
【図2】ピコリン酸クロム及びビオチンによる2−デオキシグルコースの取り込みを示すグラフである。
【図3】ピコリン酸クロム及びビオチンとともにインキュベートしたときのヒト骨格筋培養におけるグリコーゲン合成のグラフ表示である。
【図4A】グリコーゲン合成を示す棒グラフである。
【図4B】遺伝子発現(mRNA)を示す棒グラフである。
【図5】ラットにおけるインスリン感受性に対するクロム及びビオチンの影響の評価のための試験デザインを示すチャートである。
【図6】ラットモデルにおけるブドウ糖の除去に対するクロム及びビオチンの併用投与の結果を示す棒グラフである。
【図7】ベースライン及び試験の終了時における肥満ラットの空腹時血漿インスリン濃度に対するピコリン酸クロムの影響を示す棒グラフである。
【図8A】肥満ラットにおける腹腔内ブドウ糖負荷試験の結果及び糖耐性に対するピコリン酸クロムの影響のグラフ描写である。
【図8B】ピコリン酸クロムの投与後に認められたインスリン反応を示す図である。
【図9】肥満ラットとやせラットとで比較した場合のピコリン酸クロムと対照物質の投与のインスリン感受性に対する影響の比較を示す棒グラフである。
【図10】様々なクロム及びビオチンプロトコールにより治療したラットモデルのコレステロール濃度に対する時間の経過に伴って認められた効果を示す線グラフである。
【図11】高及び低用量のクロム及びビオチンの単独又は併用投与を含む様々な治療プロトコールにおける時間の経過に伴うコレステロールの変化を示す棒グラフである。
【図12A】ピコリン酸クロムを投与したJCRラットにおけるHDLコレステロールプロファイルを示す棒グラフである。
【図12B】ピコリン酸クロムを投与したJCRラットにおけるコレステロール/HDL比を示す棒グラフである。
【図13】投与及び無投与JCRラットにおけるHDL/コレステロール比を示す棒グラフである。
【図14】種々の組合せのクロムとビオチンを投与したJCRラットの時間の経過に伴うHDL濃度の変化を示す棒グラフである。
【図15】種々の用量のクロム及びビオチンを単独又は併用投与した試験動物のHDLプロファイルを図示した線グラフである。
【図16】クロム及びビオチンを単独又は併用投与したラットにおける時間の経過に伴うトリグリセリド濃度の変化を示す線グラフである。
【図17】種々の用量のクロム、ビオチン又は両方を投与したラットにおけるトリグリセリドプロファイルの変化を示す棒グラフである。
【図18】グリコシル化ヘモグロビン濃度に対するピコリン酸クロム及びビオチン添加飲料の影響を示す棒グラフである。
【図19】血糖に対するピコリン酸クロム及びビオチン添加飲料の影響を示す棒グラフである。
【図20】疲労に対するピコリン酸クロム及びビオチンの影響を示す棒グラフである。
【0001】
本発明は、血中コレステロール及びトリグリセリド濃度の改善に関する。より具体的には、本発明は、複数の用量のピコリン酸クロム及びビオチンを投与することにより血中のLDLコレステロール濃度を低下させ、HDLコレステロール濃度を増加させ、トリグリセリド濃度を低下させる方法に関する。さらに、本発明は、食後高血糖を低減し、食品の血糖上昇指数を低下させる方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
異常脂血症
異常脂血症(dyslipidemias)は、リポタンパク質の過剰産生又は欠乏を含むリポタンパク質代謝障害である。これらの障害は、血清総コレステロール、低密度リポタンパク質(LDL)コレステロール及びトリグリセリド濃度の上昇並びに高密度リポタンパク質(HDL)コレステロール濃度の低下によって示されることがある。毎年、何百万人もの人が高コレステロール血症に罹患し始めている。悩みをもたらすものの例としては、高血圧、冠動脈疾患、うっ血性心不全、末梢血管疾患、動脈瘤及び少なくとも一部はこれらの状態に起因する死亡などがある。血中コレステロールの上昇は、米国における主要な死因である冠動脈疾患(CHD)の主要な、修正可能な(modifiable)危険因子の1つである(カンネル ダブリュ ビーら(Kannel W.B.et al.)、心血管死の低減(Declining Cardiovascular Mortality)、Circulation、第70巻、331〜336ページ(1984年))。CHDは、毎年約490,000例の死亡の原因である(National Center for Health Statistics、出生、結婚、離婚および死亡の年次概要:米国、1993年(Annual summary of births,marriages,divorces,and deaths:United States,1993)、月間生命統計報告(Monthly vital statistics report);第42巻、13号、Public Health Service、1994年)。非致命的な心筋梗塞(MI)及び狭心症は、同様に実質的な罹患の原因である。高コレステロール血症の二次的生理学的影響としては、脳卒中、肝機能の障害、腎動脈閉塞、老化、男性不能症及び動脈硬化性動脈瘤などがある。そのような疾患の危険は、血中HDLコレステロール濃度の増加及び/又は血中LDLコレステロール濃度の低下により低減させることが可能である。
【0003】
血中コレステロール、特に、血漿中のコレステロールの主要な貯蔵所である低密度リポタンパク質(LDL)画分の低下に新たな重点が置かれている。血中コレステロール濃度を低減又は制御することを目的として食事管理、行動修正、運動及び薬物療法により個々人の血中コレステロール濃度を低下させる多くの試みがなされてきた。
【0004】
高コレステロール血症の治療における最初の勧告は一般的に食事介入であり、それにより脂質摂取量が制限されている。ディーン オーニッシュ博士ら(Dr.Dean Ornish et al.)「生活習慣を変えることにより冠動脈疾患を逆転させることが可能である(Can Lifestyle Changes Reverse Coronary Heart Disease)」、The Lancet.第336巻(1990年)及び彼の心疾患を逆転するための進行中のプログラムで、食事コレステロールを完全に除去することと脂質含量を1日カロリー摂取量の10%未満に制限することにより、これをストレス管理と有酸素運動と組み合わせたとき、5年後にアテローム粥腫の4%の縮退がもたらされることが示された。この厳格な菜食主義者の食事(肉、魚、鶏肉、植物油及びすべての乳脂肪製品を含まない)は、ほとんどの人にとって非現実的である。
【0005】
栄養補助食品は、高コレステロール血症の治療にある程度有望であった。例えば、ふすま、オオバコ種子、グアールガム、レシチン、乳清、赤ブドウ酒、魚油およびチョウセンニンジン根抽出物は、高い血中コレステロール又はその結果を低減すると報告された。その機序は、様々であり、コレステロールの封鎖、キレート化、捕捉及び酸化阻害などである。そのような療法は、一般的に血中コレステロールの10%未満の低下をもたらすにすぎない。これらの食事介入のいずれによっても、アテローム動脈硬化症又は他の高血中コレステロール関連疾患が抑制されたり、治癒したりすることは証明されていない。
【0006】
最も厳格な食事介入が米国特許第5,032,608号に報告された。この特許は、水以外の他のすべての栄養補給に取って代わる生物学的に活性な左旋性アミノ酸の混合物の静脈内栄養補給を記述している。機能的に同等な脂肪非含有の食事組成物が米国特許第5,106,836号に記述されており、修飾脂肪非含有完全非経口栄養アミノ酸製剤を含む経腸食品を調製する方法が開示されている。調製された食品は、消化され、吸収されるとき、高コレステロール血性を示す血液にアミノ酸プロファイルをもたらす。食事を維持するならば、総血漿コレステロールの有意な低下とアテローム動脈硬化症の退縮が示されることが報告されている。
【0007】
血清コレステロール濃度を低下させる他の試みが様々な製剤の開発に向けられた。例えば、腸の腸上皮細胞に接着する能力を有し、それにより腸内の適切な部位における有用な細菌のコロニー形成を最適化することにより、血中コレステロール及び/又はトリグリセリド濃度を低下させるための細菌細胞の生産が米国特許第4,797,278号に報告された。
【0008】
米国特許第5,114,963号は、N,S−ジアクリル−L−システインの投与によりリポタンパク質の血清濃度を低下させてアテローム動脈硬化性疾患を低減させる方法を記述している。心筋損傷を治療する方法も、血栓を消化又は溶解し、線維素塊を溶解して、虚血性組織の潅流を回復させ、維持するための線維素溶解酵素との併用での化合物の静脈内注射に集中している。アテローム動脈硬化症の結果の改善が米国特許第5,028,599号に記述されている、この酵素の使用は、血中コレステロール濃度を低下させない。
【0009】
食事、酵素療法及び生活様式介入などの上記のような不成功を考慮して、血中コレステロールを低減し、動脈粥腫沈着を逆転させ、他の組織に対する高い血中コレステロールの影響を別の方法で緩和するための他の手段が探求された。血中コレステロール低下薬、コレステロール抗吸収薬(例えば、メリナミド、チオエステル、置換尿素及びチオ尿素)、置換アポタンパク質コレステロール担体として作用する特定のシクロデキストリン及び冠動脈疾患の危険を低減するためのコレステロール生合成制限薬によるコレステロールの低下は、説得力のある証拠により、血中コレステロール濃度の低下と因果関係があることが裏づけられている。これらの薬物と肝障害のようなそれらの有害な副作用は、Physicians’Desk Reference Medical Economics Company Oradell、N.J.に十分に記述されている。
【0010】
上記の薬物のいずれも単独又は併用で、同時に脂質の摂取の厳格な制約を要求することなしには、血中コレステロールを有意に低下させ、アテローム粥腫を低減しないことが示された。現在までのところ、有害な副作用を伴わずに高コレステロールを予防し、治療するような有効かつ安全な薬物は依然として欠如している。したがって、本発明の目的は、関連する副作用及び厳格な生活様式の制約を伴わない、高コレステロール濃度に関連する疾患の安全かつ有効な療法を提供することである。
【0011】
食後高血糖症
最近の疫学調査で、食事の血糖上昇指数(「GI」)は2型糖尿病の予防における最も重要な食事因子であることが示されている。GIは、食品の血糖上昇能力に従って食品を分類するのに用いられる生理学的根拠のある確立されている方法である。Joint FDA/WHO Expert Consultation、1997年4月14〜18日を参照のこと。具体的には、血糖上昇指数は、食品の摂取の2又は3時間後に血糖の上昇を測定することにより、それらが我々の血糖にどのように影響を及ぼすかに基づいて食品を分類する。この指数は、炭水化物の割合が等しい食品の摂取後の血糖のレベルを比較し、標準(通常、ブドウ糖又はホワイトブレッド)を基準としてそれらを分類する。
【0012】
過去20年にわたって、GI概念が広範に研究され、その再現性、混合食品への適用並びに糖尿病及び高脂血症の治療における臨床的有用性が確認された。ボレバー ティー エム エスら(Wolever T.M.S.et al.)、Am J Clin Nutr、第54巻、846〜54ページ(1991年)、ブランド ミラー(Brand−Miller)、J.Am J Clin Nutr、第59巻(増刊)、747S〜52Sページ(1994年)。動物モデルにおける長期試験で、高GIデンプンは低GIデンプンに基づく同じ食事と比較して空腹時インスリン濃度を上昇させ、インスリン抵抗性を促進することが示されている(ビルネス エスら(Byrnes S.et al.)、J Nutr、第125巻、1430〜7ページ(1995年)、ヒギンス ジェー エー(Higgins J.A.et al.)、J Nutr、第126巻、596〜602ページ(1996年)。ラットでは、高GI飼料はより速やかな体重増加、より高い体脂肪レベル、より高い脂肪細胞容積及び高グリセリド血症、すなわち、インスリン抵抗性又は「代謝」症候群のすべての構成要素を促進する。例えば、ポーラック ディー ビーら(Pawlak D.B.et al.)、Proc Nutr Soc Aust、第21巻、143ページ(1997年)、レーラーメツガー エムら(Lerer−Metzger et al.)、Br J Nutr、第75巻、723〜32ページ(1996年)を参照のこと。
【0013】
1型及び2型糖尿病被験者では、低GI食事は、同様な栄養素組成の高GI食事と比較して、ブドウ糖及び脂質代謝の改善をもたらす。クロスオーバーデザインを用いた8つの十分に設計された長期試験において、低GI食事は2〜12週間にわたりグリコシル化タンパク質を平均でほぼ14%低下させた。ボルバー ティー エム エスら(Wolever T.M.S.et al.)、Diabetes Care、第15巻、562〜4ページ(1992年)、フォントビーレ エー エムら(Fontvieille A.M.et al.)、Diabetic Medicine、第9巻、444〜50ページ(1992年)。これらの結果は、ささやかなものにすぎないと批判されたが、経口血糖降下薬によりもたらされた改善よりも大きい。低GI食事によるグリコシル化タンパク質の改善は、糖尿病における高MUFA(「MUFA」=1価不飽和脂肪酸)を用いた場合に認められた変化の欠如と対照をなしている。ボレバー ティー エム エス(Wolever T.M.S.)、Nutrition Today、第34巻、73〜7ページ(1999年)。
【0014】
2つの大規模な前向き試験(1つは女性看護士における試験で、1つは男性医療従事者における試験)で、高い血糖負荷(GI×炭水化物含量)を有する食事は、年齢及び肥満指数のような既知危険因子についてコントロールした後に2型糖尿病を発現する危険を増大させることが示された。サルメロン ジェーら(Salmeron J.et al.)、JAMA、第277巻、472〜477ページ、サルメロン ジェーら(Salmeron J.et al.)、Diabetes Care、第20巻、545〜550ページ(1997年)。危険を増大させる他の唯一の食事因子は、穀類繊維の欠乏であった。重要なことに、総炭水化物及び精製糖含量並びに脂肪の量及び種類は、これらの試験では独立した危険因子であるとは認められなかった。看護士の試験で急性冠動脈性心疾患について同様な状況が発生した。リュー エスら(Liu et al.)、FASEB J、第124巻、A260ページ(要約1517)(1998年)。これらの著者らにより推測された基礎をなす機序は、高GI食品によって発生したインスリン要求性である。高インスリン血症は「代謝症候群」のすべての側面(インスリン抵抗性、高脂血症、高血圧及び内臓肥満)と関連するので、食品のGIは最終的にはいわゆるぜいたく病と関連する可能性がある。
【0015】
健常者並びに2型糖尿病患者では、高炭水化物食(すなわち、エネルギーの50%以上)は血中脂質プロファイルの側面を悪化させることが示された。ガーグ エーら(Garg A.et al.)、Diabetes、第41巻、1278〜1285ページ(1992年)、メンシンク アール ピーら(Mensink R.P.et al.)、Metab、第38巻、172〜178ページ(1989年)を参照のこと。インスリン抵抗性を有する人は、これらの有害な影響をより受けやすい。しかし、消化及び吸収を遅くする戦略(高可溶性繊維、低GI、α−グルコシダーゼ療法)によりこれらのパラメーターが改善することから、高炭水化物食の影響はほぼ疑いなく炭水化物の吸収の速度に関連している。アルブリンク エム ジェーら(Albrink M.J.et al.)、Am J Clin Nutr、第32巻、1486〜1491ページ(1979年)。通常(すなわち、高GI)の高炭水化物食についての問題から、一部の専門家が炭水化物の代わりに1価不飽和及び多価不飽和油を多く摂取することを推奨するに至った(ストリエン エル エイチら(Storlien L.H.et al.)、Diabetologia、第39巻、621〜31ページ(1996年))が、あらゆる種類の高脂肪でエネルギー密度の高い食事は過剰摂取される傾向がある。高炭水化物食(エネルギー密度の高いものでさえも)は高脂肪食のエネルギー密度の半分にすぎないということがあり得る。糖尿病の管理における主要な目標は、空腹時血糖(FBG)及び食後血糖(PPG)値の調節における膵臓、インスリン反応性末梢組織及び肝臓の相互作用に関係する複雑で、理解が不完全である代謝過程である厳格な血糖コントロールの達成によりその長期合併症を予防することである。2型糖尿病の臨床的管理の多くが血糖値及びグリコヘモグロビン濃度の測定によるFBGに焦点が絞られているが、増加しつつある証拠により、PPG、ブドウ糖負荷の時間的に即座の生理的管理と、糖尿病の進行、管理及び合併症との間の強い関連が明らかになってきた。この研究の適用により、保健医療システムおよび提供者が2型糖尿病患者における通常の血糖反応をより厳密に模擬することが可能になり、臨床的転帰及び費用管理の改善につながると思われる。
【0016】
食後血糖値の上昇の早期確認は、完全な症候性糖尿病に進行し得る微小血管及び大血管合併症の発症の予測における重要な段階である。ますます多くの証拠により、2型糖尿病患者では食後ブドウ糖濃度の測定はグリコシル化ヘモグロビンと合わせて、空腹又は食前ブドウ糖濃度よりも代謝異常のより正確な予測因子であることが示されている。
【0017】
クロムの役割
正常者へのクロムの食事補給は、糖耐性、高密度リポタンパク質コレステロールを含む血清脂質濃度、インスリン及びインスリン結合の改善をもたらすことが報告された(アンダーソン(Anderson)、Clin.Psychol.Biochem.第4巻、31〜41ページ(1986年))。3価の形態の補給クロム、例えば、塩化クロムは、成人発症型(2型)糖尿病及び心血管疾患に関連する危険因子の改善を伴う。
【0018】
クロムは栄養的に必須な微量元素である。食事におけるクロムの不可欠性は、Present Knowledge in Nutrition、571ページ、第5版(1984年、ザ ニュートリションファウンデーション(the Nutritioin Foundation)、ワスントン ディーシー(Washington、DC)所在)に引用されているうようにシュバルツ(Schwartz)により1959年に確立された。クロムの欠乏は、ブドウ糖、脂質及びタンパク質代謝の障害並びに寿命の短縮を特徴とする。クロムは、すべての既知のインスリン依存性システムにおける最適のインスリン活性に不可欠である(ボイルら(Boyle et al.)、Southern Med.J.第70巻、1449〜1453ページ、1997年)。食事クロムの不足は、成人発症型糖尿病及び心血管疾患に関連づけられた。
【0019】
身体の主要なエネルギー源は、ブドウ糖と脂肪酸である。クロムの欠乏は、インスリンを生物学的に無効にし、ブドウ糖代謝の障害をもたらす。これらの条件下では、身体はそのエネルギーの必要を満たすために主として脂質代謝に頼らなければならなくなり、その結果、過剰な量のアセチルCoA及びケトン体が産生される。アセチルCoAの一部は放出されて、コレステロール生合成を増大させ、高コレステロール血症をもたらす。糖尿病は、大部分、糖尿、高コレステロール血症及びしばしばケトアシドーシスを特徴とする。糖尿病患者で認められるアテローム動脈硬化性過程の加速は、高コレステロール血症に関連する(ボイルら(Boyle et al.)、前出)。
【0020】
クロムは、インスリンの補因子として作用する。クロムは、インスリン受容体に結合し、その機能の多く、あるいはすべてを増強する(ボイルら(Boyle et al.)、前出)。これらの機能は、炭水化物及び脂質代謝の調節を含むが、これに限定されない(Present Knowledge in Nutrition、前出、573〜577ページ)。個体への無機クロム化合物の導入は本質的に特に有用でない。クロムは、有機錯体に内因的に変換されるか、又は生物学的に活性な分子として消費されなければならない。摂取された無機クロムのわずか約0.5%が体内に吸収される(Recommended Daily Allowances、第9改訂版、The National Academy of Sciences、160ページ、1980年)。大部分の有機クロム化合物のわずか1〜2%が体内に吸収される。
【0021】
米国特許第Re.33,988号は、クロムを含む選択した必須金属を外因的に合成されたピコリン酸の配位錯体として哺乳類に投与するとき、それらが他の金属との競合なしに、吸収に直接利用可能であることを開示している。この特許は、必須金属をヒトの食事に選択的に補給するため及び腸細胞によるこれらの金属の吸収を促進するための組成物及び方法を記述している。これらの錯体は、安全、安価で、生体適合性を有し、製造するのが容易である。これらの外因的に合成されたピコリン酸(ピリジン−2−カルボン酸)の必須金属配位錯体は、以下の構造式を有する。
【0022】
【化1】
式中、Mは金属陽イオンを表し、nは陽イオンの価数に等しい。例えば、MがCrで、n=3であるとき、化合物はトリピコリン酸クロムである。開示された他のピコリン酸クロムは、モノピコリン酸クロム及びジピコリン酸クロムなどである。
【0023】
クロムの米国推奨1日摂取量(RDI)は120μgである。米国特許第5,087,623号は、成人発症型糖尿病の治療のための50〜500μgの用量のトリピコリン酸クロムの投与を記述している。国際特許出願第WO96/35421号は、2型糖尿病を有するヒトにおける高血糖の低減及び血清ブドウ糖濃度の安定化のための高用量のトリピコリン酸クロムの使用(1,000〜10,000μgクロム/日の投与)を記述している。米国特許第5,789,401号及び第5,929,066号は、トリピコリン酸クロム−ビオチン組成物及び2型糖尿病を有するヒトにおける血中ブドウ糖濃度の低下のためのその使用を開示している。
【0024】
米国特許第5,087,623号、第5,087,624号及び第5,175,156号は、食事クロムを補給し、高血糖を低下させ、血清ブドウ糖を安定化し、除脂肪体重を増加させ、体脂肪を低下させ、望ましくない高い血清LDLコレステロール濃度の低下及びいわゆる「善玉」コレステロールである血清高密度脂質(HDL)コレステロール濃度の上昇を含む血清脂質濃度を制御するためのトリピコリン酸クロムの使用を開示している。米国特許第4,954,492号及び第5,194,615号は、関連錯体ニコチン酸クロムを記述しており、これも食事クロムを補給し、血清脂質濃度を低下させるために用いられる。ピコリン酸とニコチン酸は、以下の構造を有する位置異性体である。
【0025】
【化2】
【0026】
ニコチン酸とピコリン酸は、1価、2価及び3価金属イオンと配位錯体を形成し、これらの金属を腸の細胞を介して血流中に輸送することにより、それらの吸収を促進する。CrCl3の経口投与後のラットにおけるクロムの吸収が非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)アスピリン及びインドメタシンにより促進された(デビスら(Davis et al.)、J.Nutrition Res.第15巻、202〜210ページ、1995年、カマスら(Kamath et al.)、J.Nutrition、第127巻、478〜482ページ、1997年)。これらの薬物は、アラキドン酸を種々のプロスタグランジンに変換する酵素シクロオキシゲナーゼを阻害し、腸粘液の生成の抑制とクロム吸収を促進する腸pHの低下をもたらす。
【0027】
米国特許第4,315,927号は、選択した必須金属を外因的に合成されたピコリン酸の配位錯体として哺乳類に投与するとき、それらが他の金属との競合なしに、吸収に直接利用可能であることを開示している。これらの錯体は、安全、安価で、生体適合性を有し、製造するのが容易である。
【0028】
ビオチンは多くのカルボキシル化反応における接合団であり、最も注目に値するものは、糖新生及びクエン酸回路の補給に関与するピルビン酸カルボキシラーゼ並びに脂肪酸生合成に役割を果たしているアセチルCoAカルボキシラーゼである。最高1日200mgのビオチンの経口摂取での以前の臨床試験では副作用も毒性も認められなかったが、ビオチンの安全かつ十分な推奨1日摂取量は、100〜300μgである(モックら(Mock et al.)、Present Knowledge in Nutrition、第7版、チーグラー イーら(Ziegler E.et al.)編、アイエルエスアイ プレス(ILSI Press(ワシントンディーシー(Washington DC)所在)、1996年、220〜235ページ)。超栄養的用量のビオチンは、糖尿病のような種々の疾患状態の治療上有用性を有することが示された。例えば、高用量の経口又は非経口ビオチンは、糖尿病KKマウス(レッディら(Reddi et al.)、Life Sci.第42巻、1323〜1330ページ、1988年)、ストレプトゾトシンの注射により糖尿病を発症させたラット(ツァンら(Zhang et al.)、16th International Congress of Nutrition、モントリオール(Montreal)、1997年、abstract book、264ページ)及び前糖尿病オーツカ ロング・エバンス トクシマ肥満ラット(ツァンら(Zhang et al.)、J.Nutr.Sci.Vitaminol、第42巻、517〜526ページ、1996年)における経口糖耐性を改善することが示された。
【0029】
臨床試験において、コゲシャルら(Coggeshall et al.)(Ann.NY.Acad.Sci.第447巻、387〜392ページ、1995年)は、16mgのビオチンの1日経口用量は、インスリンを一時的に中止した1型糖尿病患者における空腹時血漿ブドウ糖濃度を低下させたことを示した。マエバシら(Maebashi et al.)(J.Clin.Biochem.Nutr.第14巻、211〜218ページ、1983年)は、不十分に制御された2型糖尿病患者に3mgビオチンを1日3回投与した場合、ビオチンを投与した患者でブドウ糖濃度は急激に低下したにもかかわらず、空腹時インスリン濃度は低下しなかったことから、膵β細胞機能の改善がもたらされたことを示した。
【0030】
対象におけるHDL濃度を上昇させながらLDL及びトリグリセリド濃度を低下させるための有効な治療法の必要が常に存在する。本発明は、安全、安価で、医薬品を含まない治療薬を提供することによりこの必要に対処する。患者への副作用を伴わないで異常脂血症を低減及び逆転する方法は、様々な疾患状態の予防及び治療の実質的な進歩をもたらすと思われる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
本発明は、個人におけるインスリン感受性及び血中コレステロール濃度の改善を対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
したがって、本発明の一態様において、異常脂血症の治療を必要とする個人に1日当たり約25〜2,000μgのクロム錯体と1日当たり約25μg〜20mgのビオチンを併用投与することを含む異常脂血症を治療する方法を提供する。1日当たり投与するクロム錯体の量が1日当たり約300〜1,000μgであることが有利である。好ましい実施形態において、血中コレステロール濃度を低下させるために、約150μg〜5mgのビオチンを投与する。
本発明のクロム錯体としては、ピコリン酸クロム、トリピコリン酸クロム、ニコチン酸クロム、ポリニコチン酸クロム、塩化クロム、ヒスチジン酸クロム又はクロム酵母などであってよい。
【0033】
好ましくは、クロム錯体は製薬上許容できる担体である。同様に、ビオチンもまた製薬上許容できる担体であることが好ましい。
【0034】
場合によっては、クロム錯体及びビオチンを経口投与する。しかし、本発明のいくつかの態様において、クロム錯体及びビオチンを非経口投与する。
【0035】
本発明の他の態様において、クロム錯体の吸収を促進するために特定のキレート化剤を加えてもよい。本発明の一態様において、ピコリン酸を個人に投与する。他の態様において、ニコチン酸を個人に投与する。さらに他の態様において、異常脂血症を治療するためにピコリン酸とニコチン酸の両方を個人に投与する。
【0036】
本発明の一態様において、個人における高コレステロール血症を治療する方法を開示する。その方法は、高コレステロール血症を発現している個人を特定することと、有効量のクロム錯体及びビオチンを個人に投与することを含むものである。有効量のクロム錯体は1日当たり約25〜2,000μgであり、好ましくは、有効量のクロム錯体は1日当たり約300〜1,000μgである。有効量のビオチンは1日当たり約25μg〜20mgビオチンである。有効量のビオチンは1日当たり約150μg〜5mgビオチンであることが有利である。
【0037】
本発明のいくつかの態様において、高コレステロール血症を治療する方法はさらに、ピコリン酸、ニコチン酸又はピコリン酸とニコチン酸の両方の投与を含んでいてよい。
【0038】
本発明の他の態様において、血中HDLコレステロールの濃度の上昇を必要とする個人に1日当たり約25〜2,000μgのクロム錯体と1日当たり約25μg〜20mgビオチンを併用投与することを含む血中HDLコレステロールの濃度を上昇する方法を提供する。投与するクロム錯体の量は1日当たり約300〜1,000μgであることが有利である。投与するビオチン量は1日当たり約150μg〜5mgビオチンであることが好ましい。
【0039】
血中HDLコレステロールの濃度を上昇させるために用いるクロム錯体としては、ピコリン酸クロム、トリピコリン酸クロム、ニコチン酸クロム、ポリニコチン酸クロム、塩化クロム、ヒスチジン酸クロム又はクロム酵母などであってよい。
【0040】
クロム錯体は製薬上許容できる担体であることが有利である。同様に、本発明の好ましい態様において、ビオチンもまた製薬上許容できる担体である。
【0041】
クロム錯体は経口又は非経口投与してよい。同様に、ビオチンも経口又は非経口投与してよい。
【0042】
本発明の一態様において、血中HDLコレステロール濃度を上昇させる方法は、ピコリン酸又はニコチン酸のようなキレート化剤を投与することを含む。本発明のいくつかの態様において、血中HDLコレステロール濃度を上昇させるためにピコリン酸とニコチン酸の両方を加える。
【0043】
本発明のさらに他の態様において、有効量のクロム錯体及びビオチンから本質的になり、クロム錯体とビオチンとの比が約1:1,000〜約100:1(重量/重量)である組成物を提供する。クロム錯体としては、ピコリン酸クロム、トリピコリン酸クロム、ニコチン酸クロム、ポリニコチン酸クロム、塩化クロム、ヒスチジン酸クロム又はクロム酵母などであることが有利である。
【0044】
本発明のさらに他の態様において、個人における食後高血糖を低減する方法を提供する。その方法は、それを必要とする個人に1日当たり約25〜2,000μgのクロム錯体と1日当たり約25μg〜20mgビオチンを併用投与することを含むことが有利である。1日当たり投与するクロム錯体の量は1日当たり約300〜1,000μgであるのが有利である。好ましい実施形態において、食後高血糖を低減するために1日当たり約150μg〜5mgのビオチンを投与する。
【0045】
本発明のさらに他の態様において、食品の血糖上昇指数を低下させる方法を提供する。その方法は、有効量のクロム錯体を有効量のビオチンと組み合わせて食品に添加することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
開示した発明は、高コレステロール血症及び食後高血糖症の治療のための方法及び組成物に関する。さらに、本発明の組成物及び方法は、インスリン感受性の増大、個人における高血糖の低減、食品の血糖上昇指数の低下に有用である。
【0047】
本明細書に示した説明に際して用いた用語は、本発明の特定の実施態様の詳細な説明とともに用いられているという理由だけで、限定的又は制限的に解釈されることを意図するものではない。さらに、本発明の実施形態は、どの1つも単にその望ましい属性を担うものでない、あるいは本明細書に記述する本発明を実施するのに不可欠でない、いくつかの新規の特徴を含んでいてよい。本明細書において使用されているように、「クロム錯体」は、限定なしに、ピコリン酸クロム、トリピコリン酸クロム、ニコチン酸クロム、ポリニコチン酸クロム、塩化クロム、ヒスチジン酸クロム及びクロム酵母を含む。
【0048】
本発明の主要な基盤は、有効量のクロム錯体をビオチンと併用投与することによりインスリン感受性の相乗的改善がもたらされるという新規かつ予期しない発見である。クロムとビオチンの併用投与は、様々な医学的状態に罹患している人の治療及び回復を促進し得る。本発明のもとに治療可能であると考えられる状態は、多くの異なる病因による。それにもかかわらず、それらは、それらの病理学的状態がインスリン非感受性又は食後高血糖症により引き起こされるか、あるいは悪化する点で、共通の特徴を共有する。さらに、クロム錯体を有効量のビオチンと併用投与することにより、高コレステロールの有効な低減、血中HDLコレステロールの増加、インスリン感受性の改善及び食後高血糖のような高血糖の低減がもたらされる。この低減は、いずれかの成分を単独で投与したときに予想されるものよりも著しく大きく、したがって、相乗効果を示す。さらに、クロム錯体とビオチンの併用投与により食品の血糖上昇指数が低下することが認められた。
【0049】
インスリン抵抗性は、2型糖尿病の重要な病原パラメーターであり、インスリン感受性を改善する臨床的介入は、この疾患の管理における基礎であると考えられている。さらに、インスリン抵抗性と心血管疾患との関係及びその関連する危険因子は、過去数年にわたって十分に確立された。したがって、最近多数の薬物が発売されたことから、2型糖尿病の現在の治療は「臨床的インスリン感作」を達成することを目的としている。この概念は、最小限の内因性インスリン刺激又は可能な最低の外因性インスリンの投与により、微小血管合併症(すなわち、眼、腎臓及び神経疾患)を低減しようとして血糖を低下させるという確立された臨床的目標に基づいている。そのような臨床的概念のため、2型糖尿病の治療のための併用療法は、現在、臨床的管理における治療の標準であると考えられている。薬物の併用(スルホニル尿素/メトホルミン、スルホニル尿素/グリタゾン及びメトホルミン/グリタゾンなど)は、ブドウ糖及びインスリン濃度を低下させると思われる高度に有効な薬理学的介入である。さらに、3剤併用療法(例えば、スルホニル尿素/メトホルミン/グリタゾン)は、インスリン濃度を低下させることに加えて、臨床的糖血を低下させる可能性がある。これらの臨床的製剤の成功のため、ブドウ糖を低下させかつインスリン作用を改善する臨床的効果を有する薬剤は、2型糖尿病の将来の管理において非常に有利であると考えられる。
【0050】
薬理学的療法とは異なり、栄養的介入は、インスリン抵抗性の治療及び、したがって、2型糖尿病のブドウ糖制御に対する非常に魅力的なアプローチである。この点に関して、ヒト臨床試験においてピコリン酸クロム(CrPic)のような補給クロム錯体がインスリン感受性及び血糖制御を有利に改善することを示唆する強い証拠が存在する。特に、これは、CrPicがブドウ糖及びインスリン濃度を有意に低下させた中国人糖尿病患者において実証された。アンダーソンら(Anderson et al.)、補給クロムの高い摂取量は2型糖尿病患者におけるブドウ糖及びインスリン変数を改善する(Elevated intakes of supplemental chromium improve glucose and insulin variables in individuals with type 2 diabetes、Diabetes.第46巻、1786〜1791ページ(1997年)。最近、1000μg/日のCrPicが肥満した前糖尿病ヒト集団を代表する被験者のコホートにおけるインスリン感受性を増大し得ることが示された。セファル ダブリュ ティーら(Cefalu W.T.et al.)、インスリン感受性に対するピコリン酸クロムのin vivoでの影響(Effects of chromium picolinate on insulin sensitivity in vivo)、J.Trance Elem.Exp.Med.第12巻、71〜83ページ(1999年)。同様に、CrPicは、高インスリン血症性インスリン抵抗性肥満げっ歯類モデルにおけるインスリン感受性及び脂質プロファイルの改善に関する非常に頑健な作用を有する。ワンら(Wang et al.)、ピコリン酸クロムは代謝症候群の動物モデルにおけるインスリン感受性を増大させる:インスリン感受性肥満JCR:LA−corpulantラット(Chromium picolinate enhances insulin sensitivity in an animal model for the metabolic syndrome:the obese,insulin resistant JCR:LA−corpulent rat)、Diabetes、印刷中(2000年6月ADAの年次会議で要旨を発表)(2000年)。これは、「症候群X」の構成要素(すなわち、中心性肥満、異常脂血症及びインスリン抵抗性)を有する被験者はクロム補給に対して好ましい反応を示すことを示唆している。
【0051】
ピコリン酸クロムのようなクロム錯体による単剤療法に加えて、最近の研究は、ビオチンのような他の栄養素がブドウ糖取込みに対して認められたクロムの作用を増大し得ることを強く示唆している。特に、クロム錯体とビオチンの併用は、ヒト骨格筋培養におけるブドウ糖取込みを著しく増大させる。特に理論に限定されることなく、クロム錯体がインスリン感受性を増大させる細胞機構はグリコーゲン合成を増大させることにより改善されると考えられている。クロムがインスリン感受性を増大させる機構の理解におけるこの知見の重要性は、最も多く記述されているインスリン抵抗性の側面はインスリン感受性組織におけるインスリン感受性に応答しての非効率なブドウ糖の取込み及び利用であるという事実により高められる。これは、筋肉及び肝臓におけるブドウ糖のグリコーゲンとしてのインスリン刺激性保存の低下によって示される。
【0052】
インスリン抵抗性を特徴づける特定の細胞欠陥は、十分には特徴づけられていない。しかし、図1に現在受け入れられているインスリンのシグナル伝達カスケードの経路概要を示し、また特に、糖輸送体(Glut−4)転位及びグリコーゲンに関与している経路の概要を示す。これらの2つの細胞パラメーターはインスリン抵抗状態において変化し、これらの欠陥を克服することによりインスリン感受性の増大がもたらされる。この点に関して、本発明は、in vitro及びin vivoで標的インスリンの増大をもたらす、細胞シグナル伝達の増大におけるビオチン及びクロム錯体の役割の探求を対象とする。
【0053】
食後高血糖症は、一定の期間後(例えば、食後2〜3時間)に正常濃度に戻ることがない食後の高いブドウ糖濃度を特徴とする。食事摂取後の急性ブドウ糖上昇は、実質上すべてのヒト器官系に対する広範囲に及ぶ構造的及び機能的結果を有する酸化ストレス、グリケーション及び高度グリケーション最終産物生成のような様々なブドウ糖媒介性組織欠陥を随伴する。グリコシル化ヘモグロビンをこれらの合併症を予防又は遅延させるレベルに低下させることは、食後及び空腹時血漿ブドウ糖濃度を低下させることによってのみ達成することが可能である。したがって、いくつかの実施形態において、本発明は、炭水化物の消化及び吸収を遅延させ、それにより、カロリーの損失を伴うことなく血糖値の食後急増を少なくするためのクロム錯体と有効量のビオチンの併用投与を含む。
【0054】
血糖値の食後急増の低減に加えて、我々はクロム錯体とビオチンの併用投与が食品の血糖増加指数を低下させるように作用することを認めた。上で詳述したように、炭水化物を含む食品のような、より高い血糖増加指数を有する食品は、消費されたとき血糖の急増とその後の時間経過に伴う低下を引き起こす可能性がある。本発明の驚くべき発見の1つは、クロム錯体をビオチンとともに食品に含めることにより食品の血糖増加指数が低下するという所見である。クロム錯体とビオチンの併用投与により、食品の摂取直後のブドウ糖反応の急激な上昇が防止される。さらに、血糖値の急増及び降下への「高」及びその後の「低」付随物が低下する。
【0055】
したがって、一実施形態において、食品の血糖増加指数を低下させる方法を提供する。本明細書で使用されているように、「食品」という用語は、成長、修復及び生命過程を維持し、エネルギーを供給するために体内で使用されているタンパク質、炭水化物及び脂肪から本質的になるあらゆる物質を含む。特に、食品は、次の認められている食品群に見いだされるすべての固体、半固体及び液体栄養物を指す。すなわち、パン、穀類、米及びパスタ群、野菜群、果実群、乳汁、ヨーグルト及びチーズ群、肉、鶏肉、魚、乾燥豆、卵及びナッツ群(以後肉群と称する)、脂肪及び油群並びに砂糖、キャンディー、ケーキのような品目を含む加工食品、塩分のある加工スナック食品、ソフトドリンクのような加糖飲料等。
【0056】
食品の血糖増加指数の低下は、食品にクロム錯体及びビオチンを含めることにより達成される。食品にクロム錯体及びビオチンを含めることは、様々な方法で達成することが可能である。例えば、クロム錯体及びビオチンは食品が調製されているときに食品に混入させることが可能である。言い換えれば、クロム錯体及びビオチンは、食品の他の構成成分が混合されるのと同時に加える。あるいは、クロム錯体及びビオチンは、食品が調製された後に加えることもできる。クロム錯体及びビオチンは、粉末又は液体として調合し(特定の調合物は以下に示す)、既に調製した食品の表面に分布させることができる。クロム錯体及びビオチンは、食品にクロム錯体及びビオチンを投与する前に単独又は他の成分と混合して加えることが可能である。例えば、クロム錯体及びビオチンを甘味剤と混合し、穀類のような食品に振りかけることができる。他の投与方法も適切であろう。
【0057】
本発明の化合物は、別個に、又は単一組成物(すなわち、混合して)として投与することが可能である。別個に投与する場合、所望の血糖上昇指数低下作用が増大するような時間的に最も近い仕方で化合物を投与すべきである。より具体的には、化合物を互いに1時間以内に投与してよい。一実施形態において、クロム錯体及びビオチンを食品に実質的に同時に加える。
【0058】
さらに、本発明は、インスリン感受性又はその欠如が疾患の発生に活性で好ましくない役割を果たしている様々な状態の改善に有効である組成物及び方法を意図している。そのような状態は、糖尿病、症候群X、インスリン抵抗性と関連する有害な影響、高インスリン血症、高グリセリド血症、抑うつ、月経前症候群(PMS)、月経前身体違和感障害(PMDD)、肥満、心血管疾患、骨粗鬆症、歯周疾患及び多嚢胞卵巣症候群(PCOS)並びにインスリン感受性が重要な役割を果たしている他の状態を含むが、これらに限定されない。特に好ましい実施形態において、血中LDLコレステロールの量を低下させる方法を提供する。最も好ましい実施形態において、HDLのレベルを増加する方法を提供する。クロムとビオチンの有効量での併用投与は、高コレステロール血症の治療と予防に有用である。
【0059】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示する組成物及び方法は、身体組成の改善、体脂肪の減少、除脂肪体重の増加、筋肉の成長と修復、並びにスポーツ能力及び持久力の改善に有用である。有効量のクロム錯体と有効量のビオチンの併用投与は、インスリン感受性を増大させ、それにより個人における身体組成を向上させる。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態において、組成物及び方法は、動物の健康を増進する有用性を有する。上記の健康上の有益性に加えて、クロム錯体とビオチンの併用投与により、ひずめ病を予防し、肉、乳汁、卵中の脂肪及びコレステロールの量を低下させることができ、他の動物製品、例えば、鳥及び哺乳類を有利に処理することができる。さらに、本発明の調合物は、乳汁生産、産卵及び同腹児数の増加に有用である。
【0061】
好ましい実施形態において、本発明は、血中のLDLコレステロール濃度の有益な低下とHDLコレステロール濃度の増加を達成するためにクロム錯体とビオチンを併用することを意図している。本発明の化合物は、別個に、又は単一組成物として個人に投与することが可能である。個人に製薬上有効量のピコリン酸クロムのようなクロム錯体を投与することが有利である。一実施形態において、ビオチンを実質的に同時に投与する。別の実施形態において、クロム錯体を最初に投与し、第2にビオチンを加える。他の実施形態において、ビオチンを最初に投与する。別個に投与する場合、高コレステロール血の低下が増大するような時間的に最も近い仕方で、例えば、24時間以内に化合物を投与すべきである。より具体的には、化合物を互いに1時間以内に投与してよい。投与は、下記の投与方法のいずれかにより、又は当業者により知られている薬物送達法により行うことが可能である。
【0062】
ピコリン酸クロムの合成は、米国特許第5,087,623号に記述されている。ビオチン及びトリピコリン酸クロムのようなクロム錯体は健康食品店、ドラッグストア及び他の商業的供給源により市販されている。LDLコレステロール濃度を低下させ、HDL濃度を上昇させるためには、個人に投与するクロムの用量範囲は少なくとも約25μg/日であると予想される。好ましくは、クロムの量は約25〜2,000μg/日である。より好ましくは、クロムの量は約300〜1,000μg/日である。より好ましくは、クロムの量は約400〜1,000μg/日である。特に好ましい実施形態において、クロムの量は約600〜1,000μg/日である。併用療法のビオチン成分に関しては、1日投与量は少なくとも約25μgである。好ましくは、ビオチンの量は約25μg〜20mgである。より好ましくは、ビオチンの1日投与量は約150μg〜10mgである。より好ましくは、ビオチンの1日投与量は約300μg〜5mgである。これらの用量は70kgの成人を基にしており、用量は1kg当たりとして、異なる体重のヒト又は動物に適用することが可能であることに注意すること。
【0063】
食品の血糖上昇指数の低下のためのクロム錯体の好ましい1日投与量は、食品に投与するクロム錯体として少なくとも約25μgである。好ましい実施形態において、クロムの量はクロム約50μg〜1,000μgである。特に好ましい実施形態において、クロムの量は約75μg、100μg、150μg、200μg、250μg、300μg、350μg、400μg、450μg、500μg、550μg、600μg、650μg又は700μgである。ビオチン成分の1日投与量に関しては、食品に投与すべきビオチンの好ましい量は、少なくとも25μg、好ましくは50μg〜10g、より好ましくは約100μg〜3gである。個々の食品に加えるクロム錯体及びビオチンの量は、食品の血糖上昇指数及びエネルギー密度、食品の供給量と1日に消費されると予想される個々の食品の供給回数に依存する。一般的に、より高い血糖上昇指数及び/又はより高いエネルギー密度を有する食品、及び/又は、より大きい供給量及び/又は1日当たり数回消費されると予想される食品は、所望の効果を達成するためにより高い量のクロム錯体及びビオチンを添加する必要がある。
【0064】
クロム錯体は腸細胞によるクロムの吸収を促進するが、いくつかの実施形態において、他の摂取されたクロム並びに銅、鉄、マグネシウム、マンガン及び亜鉛を含むが、これらに限定されない他の金属の吸収を促進するために、錯体形成していないキレート化剤を組成物に有利なことに含められている。適切なキレート化剤は、ピコリン酸、ニコチン酸又はピコリン酸とニコチン酸の両方などである。したがって、開示する本発明の組成物は、ヒト食事中の他の必須金属の吸収も促進する容易に吸収可能な形態のクロムである。
【0065】
開示する本発明のクロム錯体は、米国特許第5,087,623号、第5,087,624号及び第5,174,156号においてトリピコリン酸クロムについて記述されているのと同じ使用目的、すなわち、食事クロムを補給し、糖尿病患者における血糖値を低下させ、血清脂質濃度を低下させ、除脂肪体重を増加させるという使用目的を有する。さらに、本発明のピコリン酸クロムは、糖尿病に伴う症状を治療する作用を有する。
【0066】
食品の血糖上昇指数を低下させる方法も同様に提供する。
【0067】
クロム錯体は合成品であることが有利である。ピコリン酸クロムの合成および使用は、例えば、米国特許第Re33,988号及び第5,087,623号に記述されている。トリピコリン酸クロムは、健康食品店、ドラッグストア及び他の商業的供給源から入手可能である。ピコリン酸クロムの合成および使用は、米国特許第5,194,615号に記述されている。
【0068】
ピコリン酸及びニコチン酸のようなキレート化剤は、シグマ−アルドリッヒ(Sigma−Aldrich)(ミズーリ州セントルイス所在)(ピコリン酸:カタログ番号P5503、ニコチン酸:カタログ番号PN4126)を含む多くの商業的供給源から入手可能である。好ましくは、クロム錯体とキレート化剤との比は約10:1〜約1:10(重量/重量)であり、より好ましくは約5:1〜約1:5(重量/重量)である。あるいは、クロム錯体と錯体形成していないキレート化剤とのモル比は、好ましくは1:1であり、約5:1〜約1:10であってよい。
【0069】
経口投与用に、クロム錯体及びビオチンは、錠剤、水性又は油懸濁剤、分散性散剤又は顆粒剤、乳剤、軟性及び硬性カプセル剤、シロップ剤、エリキシル剤又は飲料として提供することができる。経口用組成物は、当技術分野で知られている製薬上許容できる組成物の製造方法に従って調製することができ、そのような組成物は次の薬剤の1つ又は複数のものを含んでいてよい。すなわち、甘味剤、着香料、着色剤及び保存剤。甘味剤及び着香料は、製剤の嗜好性を高める。クロム錯体を、錠剤製造に適した製薬上許容できる無毒性の賦形剤との混合物として含む錠剤は、許容できる。製薬上許容できるとは、薬剤が、製剤の他の成分と適合性がある(並びに患者に対して非傷害性)という意味で許容できることを意味している。そのような賦形剤としては、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウム又はリン酸ナトリウムのような不活性希釈剤、トウモロコシデンプン又はアルギン酸のような顆粒化及び崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はタルクのような滑沢剤などがある。錠剤は、未被覆であってよく、若しくは、胃腸管における崩壊及び吸収を遅延させ、それにより、より長時間にわたる持続作用を得るために既知の技術により被覆してもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリル単独若しくはワックスとの混合物のような時延物質を用いることができる。
【0070】
経口用製剤は、有効成分が不活性固体希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム又はカオリンと混合されている硬性カプセル剤として、あるいは有効成分が水若しくは落花生油、流動パラフィン又はオリーブ油のような油媒体と混合されている軟性ゼラチンカプセル剤として提供してもよい。水性懸濁剤は、本発明のクロム錯体を、水性懸濁剤の製造に適した賦形剤との混合物として含んでいてよい。そのような賦形剤としては、懸濁化剤、分散又は湿潤剤、1つ又は複数の保存剤、1つ又は複数の着色剤、1つ又は複数の着香料及びスクロース又はサッカリンのような1つ又は複数の甘味剤などがある。
【0071】
油懸濁剤は、有効成分を、落花生油、オリーブ油又はやし油のような植物油若しくは流動パラフィンのような鉱油に懸濁して調合することができる。油懸濁剤は、みつろう、硬質パラフィン又はセチルアルコールのような粘稠化剤を含んでいてよい。味のよい経口製剤を提供するために、上記のような甘味剤及び着香剤を加えてもよい。これらの組成物は、アスコルビン酸のような添加抗酸化剤により保存することができる。水の添加による水性懸濁剤の調製に適する本発明の分散性散剤及び顆粒剤は、分散剤あるいは湿潤剤:懸濁剤、並びに1つ又は複数の保存剤との混合物としての有効成分を提供する。別の賦形剤、例えば、甘味剤、着香剤及び着色剤も存在していてもよい。
【0072】
シロップ剤及びエリキシル剤は、グリセロール、ソルビトール又はスクロースのような甘味剤とともに調合することができる。そのような製剤は、粘滑剤、保存剤、着香剤及び着色剤も含んでいてよい。
【0073】
非経口投与用のクロム錯体製剤は、無菌の注射用水性又は油脂性懸濁剤のような無菌注射剤の形態であってよい。この懸濁剤は、適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を用いる当技術分野でよく知られている方法に従って調合することができる。無菌注射剤は、1,3−ブタンジオール中溶液のような、非経口投与で許容できる無毒性の希釈剤又は溶媒中無菌注射用液剤又は懸濁剤であってもよい。適切な希釈剤としては、例えば、水、リンゲル液及び等張性塩化ナトリウム溶液などがある。さらに、無菌固定油を溶媒又は懸濁化媒体として通常用いることができる。この目的のために、合成モノ又はジグリセリドなどの刺激の強くない固定油を用いることができる。さらに、オレイン酸のような脂肪酸も注射剤の調製に同様に用いることができる。
【0074】
水中油型乳剤の形態の薬剤組成物を用いてもよい。油相は、オリーブ油又は落花生油のような植物油、流動パラフィンのような鉱油若しくはその混合物であってよい。適切な乳化剤としては、アラビアゴム及びトラガカントゴムのような天然に産出するゴム、ダイズレシチンのような天然に産出するホスファチド、モノオレイン酸ソルビタンのような脂肪酸とヘキシトール無水物とから得られるエステル又は部分エステル並びにポリエチレンモノオレイン酸ソルビタンのようなこれらの部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物などがある。乳剤は、甘味剤及び着香剤を含んでいてもよい。
【0075】
単一剤形を製造するために担体物質と混合するクロム錯体/ビオチンの量は、治療対象と投与方法によって異なる。
【0076】
(実施例)
以下の実施例は、少なくとも1つのクロム錯体とビオチンの併用投与によりインスリン感受性を改善し、コレステロール濃度を低下させ、食後高血糖症を治療し、食品の血糖上昇指数を低下させるための本明細書に開示した方法及び組成物を教示している。これらの実施例は、実例のみを示すものであって、本明細書に開示した発明の範囲を限定することを意図するものではない。下記の投与方法は、当業者によく知られている経験的技術を用いて最適化することが可能である。さらに、当業者は以下の実施例に記述されている教示事項を用いて本明細書に開示されている本発明の全範囲を実施することができるであろう。
【実施例1】
【0077】
インスリン感受性に対するクロム及びビオチンの効果
CrPicのin vivo効果の考え得る細胞機構を評価するために、ヒト骨格筋培養(「HSMC」)におけるブドウ糖取込みに対するクロムの役割を単剤療法及びビオチンとの併用療法として評価した。HSMCの価値はインスリン感受性標的組織を代表するものと報告され、骨格筋はヒトにおけるブドウ糖除去のための主要な組織である。ヘンリー アール アールら(Henry R.R.et al.)、培養ヒト骨格筋におけるグリコーゲンシンターゼ活性の後天性欠損:高ブドウ糖及びインスリン濃度の影響(Acquired defects of glycogen synthase activity in cultured human skeletal muscle cells:influence of high glucose and insulin levels)、Diabetes、第45巻、400〜407ページ(1996年)を参照のこと。
【0078】
ブドウ糖取込みに関しては、我々はクロム単独が、ビオチン単独とは異なり、ブドウ糖取込みを増大させることを示した。しかし、HSMCを両者とインキュベートしたとき、図2に示すように、ブドウ糖取込みに対する相乗効果が認められた。この所見は、グリコーゲン合成の評価にさらに拡大された。ヒト骨格筋細胞系をCrPic、ビオチン及びCrPic/ビオチン混合物の存在下で平板培養し、成長させた。インキュベートした後、細胞を洗浄し、ベースライン及びインスリン刺激後にグリコーゲン合成を分析した。図3に示すように、クロム及びビオチンは基礎及びインスリン刺激条件でグリコーゲン合成を増大させた。IRS−2のタンパク質含量もCrPic+ビオチンの併用で増加した。
【実施例2】
【0079】
CrPic及びビオチンがグリコーゲン合成を増大させる細胞機構の評価
CrPic及びビオチンがグリコーゲン合成を増大させる細胞機構を評価するために、グリコーゲンシンテターゼ(「GS」)mRNA及びグリコーゲン合成を評価した。HSMCを10ng/mlのCrPic、10pmのビオチン及びCrPicとビオチンの両方とともにインキュベートした。実証された通り、この場合にも図4Aに示すようにCrPic及びビオチンがインスリン刺激性グリコーゲン合成を増大させた。遺伝子発現を評価したとき、CrPicとビオチンとの併用がGS mRNAを増加させることが認められた(図4Bを参照)。GS mRNAレベルを評価したとき、クロムはGSの遺伝子発現を26%、ビオチンは15%、併用は33%増加させた。このことは、GS遺伝子発現に対するクロムとビオチンの相乗効果を強く示唆している。
【0080】
提案される機構は、CrPic及びビオチンが、ヒト骨格筋におけるインスリンの生物学的作用の媒介に関与する酵素(特にGS)の遺伝子転写の速度に影響を及ぼすということである。
【実施例3】
【0081】
動物モデルにおけるインスリン感受性に対するクロム及びビオチンの効果
インスリン感受性に対するクロム及びビオチン(単独及び併用)の効果を試験するために、「症候群X」のげっ歯類モデルを用いた。特に、肥満及びインスリン抵抗性の十分に確立されているモデルであるので、JCRラットを用いた。さらに、このモデルは、インスリン抵抗性症候群の臨床的構成要素(例えば、異常脂血症、中心性肥満)を示す。
【0082】
正確な体重、体組成及び摂餌量を評価したベースライン相の後に、動物を対照、CrPic単独、ビオチン単独又はCrPic/ビオチンに無作為化した(図5を参照)。動物の体重を週1回測定し、栄養素を毎日給水により規定の用量/kg体重で与えた。12週間にわたる動物の毎日の処理を遂行した。
【0083】
方法
試験中の規定の時点に、ブドウ糖及びインスリン評価を行った。炭水化物代謝の特異的評価を腹腔内ブドウ糖負荷試験及びインスリン耐性試験を用いて確定した。動物は、無作為化により6及び12週で試験した。特異的代謝試験は次のとおりであった。
【0084】
腹腔内ブドウ糖負荷試験(IPGTT)
ベースラインブドウ糖及びインスリン測定の後に、1.5mg D50W/g体重を腹腔内投与した。ブドウ糖の投与の30、60、90及び120分後に尾部穿刺を始めた。インスリン及びブドウ糖の曲線下面積を評価した。12週目に各群の8匹の動物を試験した。IPGTTの結果は表1に反映されている。表1に種々の用量のCrPic及び/又はビオチンを投与した動物におけるブドウ糖除去量の詳細を示す。注:「L」はやせ対照を示し、「O.contr」は肥満対照ラットであり、「LB」は低ビオチン投与を意味し、「HB」は高ビオチン投与を意味し、「LC」及び「HC」はそれぞれ低及び高用量のクロムを意味する。図6はIPGTT試験の結果を図示したものである。
【0085】
【表1】
【0086】
インスリン耐性試験(ITT)
ベースラインブドウ糖評価後に、インスリン(5単位/kg体重)を静脈内投与した。インスリン投与の5、15及び30分後に反復ブドウ糖評価を行った。ブドウ糖消失速度を測定した。再度、12週目に各群の8匹の動物を試験した。
【0087】
体組成
ベースライン及び試験終了時に総体脂肪を測定した。この目的のために、30秒以内に麻酔を誘導し、げっ歯類が非常によく耐えることが認められた吸入ガスであるメタファンで動物を麻酔した。体組成を測定するためのシステムはTOBEC(全身電気伝導率測定装置)である。この方法の基本的原理は、電磁場が無機質含有組織(すなわち脂肪のない組織)の含量の直接の関数としてひずむことである。装置は放射線を使用せず、生物学的危険性を示さない。麻酔がかかったならば、ラットをTOBEC装置内に無拘束で入れ、読み取りを行い、測定を実施した。
【0088】
骨格筋生検
試験の終了時に、インスリン刺激後に外側広筋の生検を実施した。グリコーゲン含量の測定と遺伝子発現試験を以下のように実施した。
【0089】
1.骨格筋のグリコーゲン含量:骨格筋生検におけるグリコーゲンの加水分解及びブドウ糖の定量をゴメツ−レコン(Gomez−Lechon)に従い、いくつかの修正を加えて実施した。ゴメツ−レコン エム ジェーら(Gomez−Lechon M.J.et al.)、96ウエル培養細胞中のグリコーゲンの測定のためのミクロアッセイ(A microassay for measuring glycogen in 96−well−cultured cells)、Anal.Biochem.第102巻、344〜352ページ(1980年)。生検後、骨格筋細胞をPBS(pH7.4)で3回洗浄した。100nMインスリン及び30mMブドウ糖を培地(SkBMのみ)に加えるか、又は同じ容積の0.9%NaClに加え、基本インキュベーションとして2時間放置した。氷冷PBSで徹底的に洗浄した後に、すべての液体を除去し、その後、200μlの0.2M酢酸ナトリウム緩衝液、pH4.8を各ウエルに加え、高負荷超音波処理装置(VIR Sonic 60)を設定7で用いて20秒間音波処理した。ラバルカ シー及びパイゲン ケー(Labarca C.and Paigen K.)、簡単、迅速かつ感度の高いDNAアッセイ法(A simple,rapid and sensitive DNA assay procedure)、Anal.Biochem.第102巻、344〜352ページ(1980年)に記載されているように、50μl/ウエルずつのホモジネートを取り、DNAアッセイに供した。アミログルコシダーゼを500mU/ウエルの最終濃度で各ウエルに加えた。グリコーゲン−タンパク質凝集体の沈降を防ぐために振とうしながら、プレートを40℃で2時間インキュベートした。酵素消化の産物を1.5mlミクロ遠心管に収集し、3000rpmで10分間遠心分離した。ブドウ糖アッセイのために、50μl/ウエルずつの上清を96ウエルプレートに移し、150μlのアッセイ溶液(20u/リットルのペルオキシダーゼ、10u/リットルのグルコースオキシダーゼ及び1g/リットルのABST)を加えた。試料を暗所で30〜40分間にわたり室温でインキュベートした。呈色反応の強度をミクロプレートリーダーを用いて405nmで測定した。グルコアミラーゼを含まない細胞ホモジネートのインキュベーションにより反応のブランクを実施した。この値は遊離ブドウ糖含量を表すものであり、酵素加水分解後に得られた総ブドウ糖から差し引いた。既知量のウサギ肝臓グリコーゲンを用い、試験試料と同様に処理して、標準曲線を作製した。グリコーゲン含量は、DNA濃度で補正した後にnMブドウ糖当量/ウエルとして表した。
【0090】
2.ヘキソキナーゼ及びグリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(「GSK−3」)タンパク質の検出:バーネット(Burnett)の方法によりウエスタンブロット分析を実施した。バーネット ダブリュ エヌ(Burnett W.N.)、ウエスタンブロッティング:ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲルから非修飾ニトロセルロースへのタンパク質の電気泳動的移動並びに抗体及び放射性ヨウ素標識プロテインAによるラジオグラフ検出(Western Blotting:electrophoretic transfer of proteins from sodium dodecyl sulfate..polyacrylamide gels to unmodified nitrocellulose and radiographic detection with antibody and radioiodinated protein A)、Anal.Biochem.第112巻、195〜203ページ(1981年)。骨格筋細胞をPBSで3回洗浄した後、細胞を600×gで5分間遠心分離した。50μlの緩衝液B(100mMピロリン酸ナトリウム、100mMフッ化ナトリウム、5mM EDTA、2mMオルトバナジン酸ナトリウム、1mM PMSF、20μg/mlアプロチニン及び1%トリトンx−100を含む100mMトリス/HCl pH7.4)をミクロ遠心管に加え、上記のように20秒間にわたり音波処理した。音波処理物を氷上に30分間保持し、15000×gで10分間遠心分離した。上清のタンパク質濃度を測定した。タンパク質の量に対して標準化する上清の分割量を2×ラメリ緩衝液(Lamellis’ buffer)で1:1に希釈し、95℃で5分間加熱した。タンパク質を8% SDS−PAGEゲル上で分離し、次いで、ニトロセルロースに転移した。ニトロセルロースシートを抗HKポリクローナル抗体(ヒツジから産生、3%BSAを含むTBS緩衝液で1:250希釈)とともに4℃で一夜インキュベートし、次いで、TBSで15分間ずつ4回洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP、1:75000希釈)と複合させた抗ヒツジ抗体とともにインキュベートして、HKプロテインを測定した。46〜51kDaのGSK−3を認識する合成ペプチド(CKQLLHGEPNVSYICSRY)に対して産生させたモノクローナルIgG(0.5μg/ml)(アップステート(Upstate)、ニューヨーク州レークプラシッド(Lake Placid)所在)を用いて、GSK−3を同定した。第2抗体は、HRP(1:5000希釈)と複合させた抗マウスIgG(シグマ(Sigma)、ミズーリ州セントルイス(St.Louis)所在)であった。TBSで徹底的に洗浄した後、免疫複合体を増強化学発光キット(enhanced chemiluminescence kit)を用いて検出した。フィルム上のバンドをAlpha Imager 2000(カリフォルニア州サンリアンドロ(San Leandro))で定量した。
【0091】
RNAの調製:骨格筋生検からの全RNAをチシアン酸グアニウム(guanium thicyanate)、フェノール−クロロホルム抽出及びアルコール沈殿を用いて分離した。RNA試料を分光光度計により定量した。吸収比(260:280nm)はすべての標本について1.8〜2.0であり、臭化エチジウムで着色したアガロースゲル上でRNAの完全性が立証された。RT−PCRには、新鮮な分離全RNAを用いた。
【0092】
GS mRNAレベルの分析:GS mRNAレベルを1段RT−PCRキット(クロンテクラボラトリーインコーポレーティッド(Clontec Laboratories,Inc.)[カリフォルニア州パロアルト(Palo Alto)所在])を用いて分析した。最終容積50μl中40mMトリシン、20mM KCl、3mM MgCl2、3.75μg/ml BSA、0.2mMデオキシヌクレオシド三リン酸、400pmolのオリゴ(dt)プライマー及び200pm GSプライマー(センス5’−GTGCTGACGTCTTTCTGGAG−3’、アンチセンス5’−CCAGCATCTTGTTCATGTCG−3’)を含み、1×RT−AdvanTaq plus酵素ミックスを加えたものを用いて1μhの全RNAからGS第1鎖CDNA合成を実施した。反応混合物をEppendorf Master勾配サイクラー(ニューヨーク州ウエストベリー(Westbury))中50℃で60分間のインキュベーションに供した。95℃で5分間加熱して反応を停止させた。次いで、PCR混合物を、95℃で30秒間の変性、65℃で30秒間のアニーリング及び72℃で2分間の延長を含むサイクルプロファイルを有する15サイクルのPCR増幅と、その後の各サイクルをそれぞれ95℃で1分間、55℃で1分間、72℃で2分間とした20サイクルのPCR増幅に供した。最終延長は72℃で5分間とした。ヒトG3PDHを内部対照としてPCR反応管に同時に加えた。
【0093】
RT−PCR産物の分析:各PCRの10μlの増幅産物を2%アガロースゲルで分離し、0.5μg/mlの臭化エチジウムで染色し、写真撮影した。バンド密度を評価した(Alpha Imager 2000、カリフォルニア州サンリアンドロ(San Leandro))。RNAを除外するか、又はマスターミックスを95℃で5分間前加熱して酵素を失活させて、RT段階で逆転写酵素を用いない対照実験により、ゲノムDNAの混入がないことが立証された。
【0094】
統計解析:ANOVAを用いて統計学的有意性を評価した。インスリン感受性及び遺伝子発現について、対照と比較したときのCrPic及びビオチン単独並びに併用の間の比較を行った。p<0.05レベルで、有意性があるとした。
【0095】
結果
我々のデータはクロムがインスリンのシグナル伝達を改善する可能性があることを強く示唆しており、我々はこれをインスリン抵抗性症候群を表す動物モデルにおいてin vivoで実証した。具体的には、CrPic及び対照を高インスリン血症性インスリン抵抗性肥満JCRラットに投与して、比較した。この試験は約4ヶ月齢の動物において開始し、動物に特に3ヶ月間投与した。図7に示すように、試験の終了時に評価したとき、CrPicは空腹時血漿インスリンを有意に低下させるように思われた。さらに、腹腔内ブドウ糖負荷試験に対するブドウ糖反応を比較したとき、CrPicは、ブドウ糖反応を有意に改善し(図8A)、肥満ラットにおけるインスリン反応を有意に低下させた(図8B)。インスリン耐性試験により評価したインスリン感受性は、CrPicにより有意に改善された(図9)。これは、動物の体重の変化を伴うことなく達成された。インスリン感受性の改善は、やせた動物と比較して総コレステロール濃度の低下を伴っていた(例えば、表2並びに図10及び11を参照)。動物試験における脂質濃度に対するクロムとビオチンとの併用の効果の詳細を表2に示す。具体的には、コレステロール濃度、高密度脂質コレステロール(HDL−ch)及びトリグリセリド濃度に対するクロム及びビオチンの効果を表2に記録する。
【0096】
【表2】
【0097】
さらに、インスリン感受性の改善は、HDL−C濃度の改善(図12A)及びコレステロール−HDL比の低下(図12B)を伴っていた。最後に、クロムとビオチンの併用投与は投与動物における総トリグリセリド ポートフォリオ(portfolio)の低下をもたらした(図16及び17)。
【0098】
要約すると、これらの動物試験から、クロムとビオチンはインスリン抵抗性及びインスリン抵抗性症候群の構成要素を改善するin vivo効果を有することが強く示唆される。
【実施例4】
【0099】
クロムとビオチンの併用投与による血中コレステロール濃度の改善
高コレステロールを示す個人を特定する。トリピコリン酸クロム及びビオチンをそれぞれ1日当たり500μg及び5mgの用量で経口投与する。経過に伴い血中HDLコレステロールの増加とLDLコレステロールの低下が認められる。
【実施例5】
【0100】
クロムとビオチンの併用投与による2型糖尿病を有する人における血糖値の上昇の低減
2型糖尿病患者におけるグリコシル化ヘモグロビン濃度に対するクロムとビオチンの影響を検討した。具体的には、2型糖尿病を有する被験者における血糖制御に関する炭水化物含有飲料に混入したピコリン酸クロムとビオチンの効果の検討を開始した。さらに、炭水化物含有飲料を摂取した2型糖尿病患者における空腹時血糖値に対するピコリン酸クロムとビオチンの効果を評価した。
【0101】
試験デザイン
2型糖尿病を有する人における血糖制御に関するピコリン酸クロムとビオチンの効果を検討するために12週間の無作為化二重盲検比較臨床試験を行った。
【0102】
34例の被験者を評価に含めた(男性24例、女性10例)。被験者の選定は、多くの基準に基づくものであった。2型糖尿病を発現していた各被験者は、90mg/dLより大きいが、170mg/dLより小さい空腹時血糖値と7mg/dLを超えるグリコシル化ヘモグロビン濃度を有していた。被験者のヘモグロビン濃度は12.5g/dLを超えていなければならず、彼又は彼女のBMIは26.0kg/m2より大きかったが、39.0kg/m2より小さかった。ベースライン血糖降下薬物療法は治療期間をとおして安定したままであった。
【0103】
試験には対照群と試験群の2つの並行群を含めた。各群に29gの炭水化物を含む飲料を栄養補助食品として1日2回供給した。試験及び対照飲料は、糖尿病を有する人向けにデザインされた一般的な飲料と内容が類似しており、以下の成分を含むものであった。すなわち、水、マルトデキストリン、ダイズタンパク分離物、カノーラ油、イヌリン、ココア粉末、脱脂マルトデキストリン、結晶フルクトース、ビタミン・ミネラルミックス、天然チョコレート(choclate)フレーバー、レシチン、天然バニラフレーバー、Nutrasweet(登録商標)(ニュートラスイート社(NutraSweet Co.)[イリノイ州ディアフィールド(Deerfield)所在])、アセスルファム(acesulfame)K及びSeaKem(エフエムシーコーポレーティッド(FMC Corp.)[ペンシルバニア州フィラデルフィア所在])。試験群には300μgのクロム(ピコリン酸クロムとして)と150μgのビオチンを含む飲料を投与した。表3に飲料の栄養素の内訳を示す。
【0104】
【表3】
注:他のビタミン及びミネラルは両群で同じであった(1日値(%)及びRDAに基づく)。飽和脂肪酸(SFA)、1価不飽和脂肪酸(MUFA)及び多価不飽和脂肪酸(PUFA)は各試験群で同じである(情報源:カノーラ油は高MUFA及びPUFAと低SFAを供給する)。
【0105】
臨床試験の期間は12週間であった。12週間の治療の開始時に、グリコシル化ヘモグロビン濃度、空腹時血糖濃度及び疲労に関するベースラインデータを収集した。血糖制御の指標をベースライン、試験中及び試験の終了時に評価した。特に被験者を0、1、2、4、6、8及び12週で評価した。
【0106】
結果
炭水化物を含む飲料を1日2回摂取した2型糖尿病を有する人における血糖値の上昇の低減に関するクロムとビオチンの併用投与の効果を試験した。試験の結果を図18、19及び20に示す。図18には、ベースラインから12週目の終了までの平均グリコシル化ヘモグロビン濃度の変化を示す。ピコリン酸クロムを投与した投与群と比較してグリコシル化ヘモグロビン濃度の有意な上昇が炭水化物含有飲料を投与した対照群で認められた。
【0107】
図19には、ピコリン酸クロム及びビオチンを投与した被験者と対照被験者との間の治療期間にわたる平均空腹時血糖値(mg/dL)の変化の比較を示す。時間の経過に伴い、対照群は、炭水化物含有飲料を摂取し続けたとき時間の経過とともに平均空腹時血糖値の増加を示した。これに対して、ピコリン酸クロムとビオチンを添加した炭水化物含有飲料を摂取した被験者は平均空腹時血糖値の上昇を示さなかった。
【0108】
被験者のエネルギーレベルの変化を試験の開始時と12週間の試験の終了時に評価した。図20は、ピコリン酸クロムとビオチンを添加した炭水化物含有飲料を摂取した被験者とピコリン酸クロムとビオチンを添加しなかった炭水化物含有飲料を摂取した対照の被験者の疲労の程度の差を示す図である。疲労は、スコア0は疲労なしを示し、スコア10は重度の疲労を示す、リカート(Likert)10段階評価尺度を用いて評価した。注目すべきことに、ピコリン酸クロムとビオチンを投与した被験者では疲労の増加は認められなかった。
【0109】
結論
ピコリン酸クロムとビオチンを添加した炭水化物含有飲料を12週間にわたり1日2回投与した2型糖尿病被験者は、ピコリン酸クロムとビオチンを添加しなかった炭水化物含有飲料を摂取した2型糖尿病被験者よりも低いグリコシル化ヘモグロビン濃度と低い血糖値を示した。特定の理論に限定されることなく、これらの現象は、ピコリン酸クロムがインスリン受容体の数を増加かつ/又はこれらの受容体におけるインスリン結合を促進することによりインスリン感受性を増大させるという所見に一部は基づいている可能性がある。さらに、クロムは、筋細胞におけるブドウ糖の取込みを増強し、グリコーゲン産生を増加させる。ビオチンは、肝臓におけるグルコキナーゼの活性を刺激し、膵島細胞機能を改善し、クロムIIIのインスリン調節を増強する。
【0110】
我々のデータから、クロムとビオチンは食後高血糖を改善する可能性があることが強く示唆された。図18及び19に示すように、CrPic及びビオチンは、試験の終了時に評価したとき、血糖値及びグリコヘモグロビン濃度を有意に低下させるように思われた。これは、ピコリン酸クロム及びビオチン飲料により被験者の疲労の変化を伴わずに達成された。要約すると、これらのヒト試験は、CrPic及びビオチンが食後高血糖症に影響する(effect)可能性があることを示している。さらに、試験から、クロム錯体とビオチンの併用投与により食品の血糖上昇指数が低下する可能性があることが強く示唆されている。
【実施例6】
【0111】
果汁の血糖上昇指数の低下のためのクロム錯体の併用投与
クロム錯体+ビオチンは、オレンジジュースの血糖上昇指数を低下させる作用を有する。600μgのヒスチジン酸クロムと300μgのビオチンを液体として調合し、226.8g(8オンス)のオレンジジュースに加える。ヒスチジン酸クロム及びビオチンをオレンジジュースと混合し、人に摂取させる。ヒスチジン酸クロム及びビオチンを添加しなかったオレンジジュースを摂取した人の血糖と比較して、血糖の10〜25mg/dLの低下が認められる。オレンジジュースの血糖上昇指数が低下する。
【実施例7】
【0112】
果糖を甘味料としたコーラ炭酸飲料の血糖上昇指数の低下のためのクロム錯体の併用投与
クロム錯体+ビオチンは、果糖を甘味料としたコーラ炭酸飲料の血糖上昇指数を低下させる作用を有する。600μgのピコリン酸クロムと300μgのビオチンを液体として調合し、226.8g(8オンス)の飲料に加える。ピコリン酸クロム及びビオチンを飲料と混合し、人に摂取させる。ピコリン酸クロム及びビオチンを添加しなかった果糖を甘味料としたコーラ炭酸飲料を摂取した人の血糖と比較して、血糖の10〜25mg/dLの低下が認められる。果糖を甘味料としたコーラ炭酸飲料の血糖上昇指数が低下する。
【実施例8】
【0113】
高炭水化物食の血糖上昇指数の低下のためのポリピコリン酸クロム及びビオチン
300μgのポリピコリン酸クロムと200μgのビオチンからなる配合物を散剤として調合し、調理済みのパスタに振りかける。パスタを人に摂取させる。パスタが摂取された直後に血液試料のグリコシル化ヘモグロビン及び血糖値を検査する。グリコシル化ヘモグロビン及び血糖値の低下が認められる。ポリピコリン酸クロムとビオチンの併用投与は、パスタの血糖上昇指数を低下する作用を示し、それにより、人がポリピコリン酸クロムとビオチンを加えなかったパスタを摂取するときに認められると予想されるようなブドウ糖反応の急激な上昇を最小限にする。
【0114】
本発明についての上の説明は、本発明を理解するのを単に助けるために記述されている。現在知られている、又は後に開発される等価物を含む本発明の変形形態は特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲内に入るとみなされることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】インスリンのシグナル伝達カスケードを示す図である。
【図2】ピコリン酸クロム及びビオチンによる2−デオキシグルコースの取り込みを示すグラフである。
【図3】ピコリン酸クロム及びビオチンとともにインキュベートしたときのヒト骨格筋培養におけるグリコーゲン合成のグラフ表示である。
【図4A】グリコーゲン合成を示す棒グラフである。
【図4B】遺伝子発現(mRNA)を示す棒グラフである。
【図5】ラットにおけるインスリン感受性に対するクロム及びビオチンの影響の評価のための試験デザインを示すチャートである。
【図6】ラットモデルにおけるブドウ糖の除去に対するクロム及びビオチンの併用投与の結果を示す棒グラフである。
【図7】ベースライン及び試験の終了時における肥満ラットの空腹時血漿インスリン濃度に対するピコリン酸クロムの影響を示す棒グラフである。
【図8A】肥満ラットにおける腹腔内ブドウ糖負荷試験の結果及び糖耐性に対するピコリン酸クロムの影響のグラフ描写である。
【図8B】ピコリン酸クロムの投与後に認められたインスリン反応を示す図である。
【図9】肥満ラットとやせラットとで比較した場合のピコリン酸クロムと対照物質の投与のインスリン感受性に対する影響の比較を示す棒グラフである。
【図10】様々なクロム及びビオチンプロトコールにより治療したラットモデルのコレステロール濃度に対する時間の経過に伴って認められた効果を示す線グラフである。
【図11】高及び低用量のクロム及びビオチンの単独又は併用投与を含む様々な治療プロトコールにおける時間の経過に伴うコレステロールの変化を示す棒グラフである。
【図12A】ピコリン酸クロムを投与したJCRラットにおけるHDLコレステロールプロファイルを示す棒グラフである。
【図12B】ピコリン酸クロムを投与したJCRラットにおけるコレステロール/HDL比を示す棒グラフである。
【図13】投与及び無投与JCRラットにおけるHDL/コレステロール比を示す棒グラフである。
【図14】種々の組合せのクロムとビオチンを投与したJCRラットの時間の経過に伴うHDL濃度の変化を示す棒グラフである。
【図15】種々の用量のクロム及びビオチンを単独又は併用投与した試験動物のHDLプロファイルを図示した線グラフである。
【図16】クロム及びビオチンを単独又は併用投与したラットにおける時間の経過に伴うトリグリセリド濃度の変化を示す線グラフである。
【図17】種々の用量のクロム、ビオチン又は両方を投与したラットにおけるトリグリセリドプロファイルの変化を示す棒グラフである。
【図18】グリコシル化ヘモグロビン濃度に対するピコリン酸クロム及びビオチン添加飲料の影響を示す棒グラフである。
【図19】血糖に対するピコリン酸クロム及びビオチン添加飲料の影響を示す棒グラフである。
【図20】疲労に対するピコリン酸クロム及びビオチンの影響を示す棒グラフである。
Claims (37)
- 有効量のクロム錯体及びビオチンを投与する異常脂血症の治療用の薬剤の製造におけるクロム錯体及びビオチンの使用。
- クロム錯体の有効量が約25〜2,000μg/日である請求項1に記載の使用。
- クロム錯体の有効量が約300〜1,000μg/日である請求項1に記載の使用。
- ビオチンの有効量が約25μg〜20mg/日である請求項1に記載の使用。
- ビオチンの有効量が約150μg〜5mgである請求項1に記載の使用。
- 前記異常脂血症が血中LDLコレステロール濃度の上昇によって引き起こされる請求項1に記載の使用。
- 前記異常脂血症が血中HDLコレステロール濃度の低下によって引き起こされる請求項1に記載の使用。
- 前記異常脂血症が血中トリグリセリド濃度の上昇によって引き起こされる請求項1に記載の使用。
- 前記クロム錯体がピコリン酸クロム、トリピコリン酸クロム、ニコチン酸クロム、ポリニコチン酸クロム、塩化クロム、ヒスチジン酸クロム及びクロム酵母からなる群から選択される請求項1に記載の使用。
- 前記クロム錯体が製薬上許容できる担体中にある請求項1に記載の使用。
- 前記ビオチンが製薬上許容できる担体中にある請求項1に記載の使用。
- 前記クロム錯体を経口投与する請求項1に記載の使用。
- 前記ビオチンを経口投与する請求項1に記載の使用。
- 前記クロム錯体を非経口投与する請求項1に記載の使用。
- 前記ビオチンを非経口投与する請求項1に記載の使用。
- 薬剤がさらにピコリン酸を含む請求項1に記載の使用。
- 薬剤がさらにニコチン酸を含む請求項1に記載の使用。
- 薬剤がさらにニコチン酸を含む請求項16に記載の使用。
- 前記クロム錯体と前記ビオチンとを同時に投与する請求項1に記載の使用。
- 前記ビオチンを前記クロム錯体の24時間以内に投与する請求項1に記載の使用。
- クロム錯体とビオチンとの比が約1:1,000〜約100:1(重量/重量)である本質的にクロム錯体とビオチンとからなる組成物。
- 前記クロム錯体がピコリン酸クロム、トリピコリン酸クロム、ニコチン酸クロム、ポリニコチン酸クロム、塩化クロム、ヒスチジン酸クロム及びクロム酵母からなる群から選択される請求項21に記載の組成物。
- 有効量のクロム錯体及びビオチンを食品に投与することを含む、食品の血糖上昇指数を低減する方法。
- 前記クロム錯体がピコリン酸クロム、トリピコリン酸クロム、ニコチン酸クロム、ポリニコチン酸クロム、塩化クロム、ヒスチジン酸クロム及びクロム酵母からなる群から選択される請求項23に記載の方法。
- 約50μg〜750μgの前記クロム錯体を食品に投与する請求項23に記載の方法。
- 約50μg〜1gのビオチンを食品に投与する請求項23に記載の方法。
- 前記クロム錯体と前記ビオチンとを同時に投与する請求項23に記載の方法。
- 前記クロム錯体を前記ビオチン錯体の1時間以内に加える請求項23に記載の方法。
- 前記クロム錯体と前記ビオチンを散剤、液剤、油懸濁剤、顆粒剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤又は飲料として投与する請求項23に記載の方法。
- 請求項23に記載の方法により調製される低い血糖上昇指数を有する食品。
- 有効な量のクロム錯体及びビオチンを投与する食後高血糖症の治療用の薬剤の製造のためのクロム錯体及びビオチンの使用。
- 前記クロム錯体がピコリン酸クロム、トリピコリン酸クロム、ニコチン酸クロム、ポリニコチン酸クロム、塩化クロム、ヒスチジン酸クロム及びクロム酵母からなる群から選択される請求項31に記載の使用。
- クロム錯体の有効な量が約25〜2,000μg/日であり、ビオチンの有効量が約25μg〜20mg/日である請求項31に記載の使用。
- 前記クロム錯体の有効量が約300〜1,000μg/日である請求項31に記載の使用。
- 前記ビオチンの有効量が約150μg〜5mg/日である請求項31に記載の使用。
- 前記クロム錯体と前記ビオチンとを同時に投与する請求項31に記載の使用。
- 前記ビオチンを前記クロム錯体の24時間以内に投与する請求項31に記載の使用。
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