JP2004353712A - 緩衝装置用流体 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明の目的は、温度変化に拘らず安定した性能を発揮し、しかも空気析出による性能低下を防止でき、かつ長寿命で安価な緩衝装置用流体を提供することにある。
【解決手段】本発明は、基油及びチキソトロピー性付与剤からなる緩衝装置用流体を提供する。また、本発明は、チキソインデックスが200〜600である前記緩衝装置用流体を、また前記基油が高精製鉱油又は合成炭化水素油であり、前記チキソトロピー性付与剤がカーボンブラック、シリカ、粘土鉱物、カーボンナノチューブ及びフラーレンからなる群より選択される1種以上の固体微粒子である前記緩衝装置用流体を、また前記固体微粒子の粒径が0.01〜5μmである前記緩衝装置用流体を、また前記チキソトロピー性付与剤の添加量が1〜15質量%である前記緩衝装置用流体を、それぞれ好適に提供する。
を提供する。
【選択図】 なし
【解決手段】本発明は、基油及びチキソトロピー性付与剤からなる緩衝装置用流体を提供する。また、本発明は、チキソインデックスが200〜600である前記緩衝装置用流体を、また前記基油が高精製鉱油又は合成炭化水素油であり、前記チキソトロピー性付与剤がカーボンブラック、シリカ、粘土鉱物、カーボンナノチューブ及びフラーレンからなる群より選択される1種以上の固体微粒子である前記緩衝装置用流体を、また前記固体微粒子の粒径が0.01〜5μmである前記緩衝装置用流体を、また前記チキソトロピー性付与剤の添加量が1〜15質量%である前記緩衝装置用流体を、それぞれ好適に提供する。
を提供する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、チキソトロピー性物質を含有する緩衝装置用流体に関し、詳しくは、自動車用エンジンのタイミングベルト、或いはオルタネータやコンプレッサ等の補機を駆動するためのベルトに適正な張力を維持するオートテンショナに組み込み、該ベルトの振動を抑えるのに利用するための流体として好適な緩衝装置(ダンパー装置)用流体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、自動車用エンジンのタイミングベルトや、オルタネータ、コンプレッサ等の補機の駆動用ベルト等のベルトに適正な張力を付与するために、オートテンショナと呼ばれる張力付与装置が利用されている。
【0003】
オートテンショナとしては、例えば、実開平6−47757号公報及び実開平6−87758号公報において、ベルトの振動を抑えるためのダンパー装置を備えたオートテンショナが提案されている(特許文献1及び2)。何れの構造を有するオートテンショナの場合でも、上記ダンパー装置は、その内部の所定箇所(シリンダ筒内周面とピストン外周面との微小隙間等)にシリコンオイル等の粘性液体が封入されている。
【0004】
また、オートテンショナ用ダンパー装置としては、その他、実開平3−65041号公報に開示のダンパー装置も知られている(特許文献3)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前述のようにオートテンショナに組み込まれた状態のダンパー装置は、ベルトの振動防止効果の点で問題がある。また、特に、自動車用エンジンに組み込まれた状態で使用されるオートテンショナの使用温度範囲は、−30℃(寒冷地で使用開始直後)乃至120℃(温暖地で使用開始直後エンジンが温まった状態)と、相当に広くなる。従って、この温度範囲において、ベルトの振動防止効果に差が生じるのを防止するためには、ダンパー装置に用いられる粘性液体として、温度−粘度特性が良いもの(粘度指数が大きいもの)、換言すれば、温度による粘度変化の程度が小さいものを使用する必要があった。このため、従来から、そのような粘性液体として、シリコンオイルが一般に使用されていた。
【0006】
しかし、シリコンオイルは、空気を溶け込ませる割合(空気溶解度)が大きく、特に低温時には相当量の空気を溶け込ませるものである。このため、ダンパー装置の粘性液体としてシリコンオイルを用いた際には、該シリコンオイルに混入した空気の影響によって、ベルトの振動防止効果が損なわれるという問題があった。
【0007】
このような問題を解決するためには、粘性液体として、シリコンオイルに代えて合成油を使用し、気泡の発生を防止することも考えられる。しかし、合成油を粘性液体として使用しても、気泡の発生を皆無にはできず、さらなる改善が求められている。
【0008】
尚、その他、粘性液体として高精製度鉱油ベースの作動油を使用した、ベルトの振動を防止するためのオートテンショナ用ダンパー装置も提案されている(特許文献4)。
【0009】
【特許文献1】
実開平6−47757号公報
【特許文献2】
実開平6−87758号公報
【特許文献3】
実開平3−65041号公報
【特許文献4】
特開平8−14339号公報
【0010】
従って、本発明の目的は、温度変化に拘らず安定した性能を発揮し、しかも空気析出による性能低下を防止でき、かつ長寿命で安価な緩衝装置用流体を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記課題を解決するため、基油及びチキソトロピー性付与剤からなるチキソトロピー性緩衝装置用流体を提供するものである。本発明の緩衝装置用流体は、かかる構成からなるため、温度変化に拘らず安定した性能を発揮し、しかも空気析出による性能低下を防止でき、かつ長寿命で安価なものである。
【0012】
また、本発明は、チキソインデックスが200〜600である前記緩衝装置用流体を好ましく提供する。かかる構成とすることで、前記性能をより発揮する流体が得られるとともに、特に自動車のエンジン補機用ベルトのオートテンショナに好適に使用できるオートテンショナ用ダンパー装置を提供することができる。
【0013】
また、本発明は、前記基油が、高精製鉱油又は合成炭化水素油であり、前記チキソトロピー性付与剤が、カーボンブラック、シリカ、粘土鉱物、カーボンナノチューブ及びフラーレンからなる群より選択される1種以上の固体微粒子である、前記緩衝装置用流体を提供する。また、本発明は、前記固体微粒子の粒径が0.01〜5μmである、前記緩衝装置用流体を提供する。また、本発明は、前記チキソトロピー性付与剤の添加量が、1〜15質量%である、前記緩衝装置用流体を提供する。これらの構成とすることで、同様に、前記性能をより発揮する流体が得られるとともに、特に自動車のエンジン補機用ベルトのオートテンショナに好適に使用できるオートテンショナ用ダンパー装置を提供することができる。
【0014】
また、本発明によれば、前記緩衝装置用流体を充填したダンパー装置、特にオートテンショナ用ダンパー装置、とりわけ自動車のエンジン補機用ベルトのオートテンショナに使用されるダンパー装置を提供することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の緩衝装置用流体について、その好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0016】
本発明の緩衝装置用流体は、基油及びチキソトロピー性付与剤からなるもので、それ自体チキソトロピー性を有する流体である(以下、「チキソトロピー性」を単に「チキソ性」ということもある。)。かかる構成からなる本発明の流体をダンパー装置に用いた場合には、ダンパーに最初に衝撃がかかった時のせん断応力を大きくすることができ、効果的に衝撃を吸収できる。また、高温から低温まで安定して使用でき、かつ、長期にわたり劣化しにくいダンパー装置を提供することができる。
【0017】
チキソ性(チキソトロピー性)とは、剪断速度が、剪断応力と剪断応力がかかる時間に依存するものをいい、一般に図1に示すようなループが得られる性質をいう。一般に、チキソトロピー流体は、剪断によって粘度が低下し流動を示すが、剪断をかけずに放置すると元のかたさに戻る。この性質をもつ流体は、ベースとなる流体にチキソ性付与剤を添加混合することにより得られる。
【0018】
また、本発明の緩衝装置用流体は、チキソ性流体の物性を示すチキソインデックスの値が200〜600であることが好ましい。かかる範囲のチキソインデックスを有する流体は、該流体をダンパー装置に用いた場合に、衝撃により発生する振動の減衰を効果的に早めることができる。
【0019】
ここで、チキソインデックスとは、チキソトロピー性流体の25℃における高剪断時(νh=5.0E+3,1/s)と低剪断時(νl=0.2,1/s)の粘度ηh[Pa・s],ηl[Pa・s]をレオメータにより測定し、その比を表したものである。即ち、チキソインデックスT=ηl/ηhである。
【0020】
本発明の流体に用いられる基油としては、鉱油や合成炭化水素油等が挙げられる。鉱油としては、高精製鉱油が好適に使用できる。ここで、高精製鉱油とは、粘度指数が120以上である鉱油を示す。高精製鉱油又は合成炭化水素油は、粘度指数が大きく、また、通常の鉱油に比べて耐熱性に優れ、空気の溶解性も比較的小さいため長期にわたり安定であり、ダンパー装置用流体の基油として好適である。
【0021】
また、合成炭化水素油としては、ポリ−α−オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリブテン、エチレンプロピレンオリゴマー等が好適に用いられる。
【0022】
これらの高精製鉱油及び合成炭化水素油の中でも、耐熱性に優れ、高粘度指数を有し、比較的安価に入手できる点で、ポリ−α−オレフィンが特に好ましい。
【0023】
基油の動粘度については、特に制約はないが、自動車が通常使用される環境が−30℃〜50℃程度であること及びエンジンルーム内の高温環境等を考慮すると、40℃の動粘度が30〜300mm2/s、特に40〜170mm2/sであることが好ましい。基油の40℃での動粘度が30mm2/s未満であると、耐熱性が劣化するおそれがあり、300mm2/sを超えると、低温時に基油自体が固化しチキソ性が安定しない場合がある。このような好適範囲内の動粘度を有する基油の例としては、BPジャパン社製の市販品「デュラシン170」(商品名)(65.3mm2/s@40℃)が好適に用いられる。
【0024】
本発明の緩衝装置用流体に用いられるチキソトロピー性付与剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、粘土鉱物、カーボンナノチューブ及びフラーレン等の固体微粒子が利用できる。これらのカーボンブラック、シリカ、粘土鉱物、カーボンナノチューブ及びフラーレンは、チキソ性付与剤としての機能以外に、酸性成分の吸着作用があり、長期使用に際して発生した酸化劣化物を吸蔵し、酸化劣化を防止する効果があるため好ましく用いられる。
これらの固体微粒子は、その使用に際して1種単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
ここで、カーボンブラックとしては、各種のものが使用できる。
シリカとしては、日本シリカ工業社製の特殊シリカ等を使用できる。このシリカのような多孔性物質を用いることで、湿気や酸等を吸収し、流体における基油劣化の進行を遅らせることが可能となる。
【0026】
粘土鉱物としては、フッ素四珪素雲母、モンモリナイト、酸化第二鉄、五酸化バナジウム、白土類、セルロース、炭酸マグネシウム、アルミナ、スメクタイト、ベントナイト、カーボンブラック、金属セッケン、ウレア、酸化ポリエチレンワックス、高級アルコール、ろう類、カルボキシビニルポリマー等の合成高分子、多糖類等の天然高分子等が挙げられる。
【0027】
カーボンナノチューブとは、炭素原子からなる直径数nmから数十nmの円筒状物質であり、例えば、カイラル型、ジグザグ型、アームチェア型等の結晶構造をもち、単層もしくは多層のもの、又はこれらの結晶構造中の一部の炭素に置換基を導入したもの等が挙げられる。
【0028】
フラーレンとは、炭素原子からなる粒径5〜50nm程度の閉曲面芳香族分子であり、例えば、C60(Cは炭素数を示す。以下同じ。)、C70、C76のもの、又はC76を超える高次フラーレン等が挙げられる。
【0029】
また、チキソトロピー性付与剤として、このような固体微粒子を使用する場合には、その粒径が0.01〜5μm、特に0.01〜2.5μmのものが好ましい。該粒径がこの範囲の上限を超えると、チキソトロピー性付与剤の流体中での分散状態が不安定となり、基油その他の液体と分離しやすくなる。一方、該粒径がこの範囲の下限未満であると、流体のチキソトロピー性を発現しにくくなってしまう。
尚、ここでいう粒径は、チキソトロピー性付与剤がカーボンナノチューブやフラーレンの場合には、円筒状体(チューブ状体)又は閉曲面体(球状乃至球様状体)の直径又は長さをいう。
【0030】
チキソトロピー性付与剤の添加量は、本発明の流体全量中、1〜15質量%、特に5〜10質量%であることが好ましい。かかる1〜15質量%の範囲の添加量でチキソトロピー性付与剤を用いることで、チキソインデックスが200〜600の緩衝装置用流体を容易に得ることができるため好ましい。
【0031】
特に、チキソトロピー性付与剤としての粒径0.01〜5μmの固体微粒子を1〜15質量%添加することにより、緩衝装置用として特に好適なチキソ性を有する流体が得ることができる。
【0032】
特にチキソトロイピー性付与剤として好ましいものとしては、カーボンブラックとして、アクゾ社製の市販品「ケッチェンブラックEC」(商品名)(一次粒径40nm)、シリカとして、日本シリカ社製の市販品「E−200A」(商品名)(一次粒径約2.5μm)、粘土鉱物として、ベントナイト、特に有機ベントナイト、例えば、豊潤洋行社製の市販品「エスベン」(商品名)(一次粒径0.2μm)等が好ましく使用される。
【0033】
また、カーボンナノチューブとして、カーボンナノテクノロジー社製の市販品「Single Wall Carbon nanotubes」(商品名)(円筒状体の直径が1nm、長さが10〜1000nm)、フラーレンとして、フロンティアカーボン社製の市販品「フラーレン混合物」(商品名)(閉曲面体の直径が10nm)等が好ましく使用される。
【0034】
本発明の緩衝装置用流体の好適な態様としては、基油が、高精製鉱油又は合成炭化水素油(好ましくはポリ−α−オレフィン)であり、チキソトロピー性付与剤が、カーボンブラック、シリカ、粘土鉱物、カーボンナノチューブ及びフラーレンからなる群より選択される1種以上で且つ粒径が0.01〜5μmの固体微粒子であり、該固体微粒子の添加量が1〜15質量%のものである。
【0035】
また、本発明の緩衝装置用流体には、その機能を損なわない範囲で、潤滑油や潤滑グリース用として公知の添加剤を特に制限なく使用できる。そのような添加剤としては、好ましくは酸化防止剤、防錆剤等が挙げられる。
【0036】
本発明の緩衝装置用流体の効果について述べる。本発明の緩衝装置用流体は、チキソトロピー性を有することにより、衝撃が大きく高剪断がかかるときは最初の衝撃を吸収した後、流動して振動を減衰させる。即ち、所謂リークダウン時間T(sec/mm)(例えは、ピストンを有するシリンダ筒の内部に粘性流体を備えたダンパー装置では、ダンパー装置の全長を所定長さ寸法だけ縮めるべく、粘性流体をピストンの下側から上側に流しつつこのピストンが変位するために要する時間)における、粘性流体の粘性係数μ(kgf・s/mm2)を大きくすることができると同等の効果があるものと考えられる。リークダウン時間Tは、粘性流体の粘性係数μに比例し、この粘性係数μが大きい程、上記リークダウン時間Tが長くなり、延いてはベルト等の振動を防止する効果が大きくなる。また、かかる効果により、多少の気泡が発生したところで、緩衝装置の性能を損なうことが少ない。
尚、油のみの場合には、最初の衝撃の吸収が小さいため、減衰に要する時間が長くなる。
【0037】
また、本発明の緩衝装置用流体は、このようなチキソトロピー性による衝撃吸収能力に加え、酸化防止、漏れ防止をはじめとする二次的な効果も期待できるという点で、非常に有効であるといえる。
【0038】
本発明の緩衝装置用流体は、オートテンショナに好適に使用され、特に自動車のエンジン補機用のオートテンショナに好適に使用されるものである。
【0039】
本発明の緩衝装置用流体によれば、初期の衝撃の吸収力に優れるため、振動減衰が短時間で可能であり、かつ、温度変化に拘らず安定した性能を発揮し、しかも空気析出による性能低下を防止できる安価なオートテンショナ用ダンパー装置が得られる。
【0040】
本発明の緩衝装置用流体の使用例としては、例えば、次に示すような自動車のエンジン補機に使用されるオートテンショナ用ダンパー装置への適用が挙げられる。即ち、内部に粘性流体が封入されたシリンダ筒と、該シリンダ筒の内部に軸方向に亙る変位自在に嵌装されたピストンと、該ピストンと該シリンダ筒との間に設けられ、このピストンを一方向に付勢する付勢ばねと、該付勢ばねの弾力に基づく上記ピストンの変位に伴って、上記シリンダ筒からの突出量を増すプランジャと、上記ピストンの軸方向両端面同士を連通する通路と、該通路を開閉する逆支弁と、を備え、該逆支弁は上記ピストンが上記付勢ばねの弾力に基づいて変位する場合にのみ開く機能を有するダンパー装置等が適用の一例として挙げられる。そして、このようなダンパー装置においては、本発明の緩衝装置用流体は、上記シリンダ筒内部における粘性流体として封入されて、本発明に係る特有の機能が発揮される。
【0041】
本発明の緩衝装置用流体が好適に適用されるダンパー装置としては、図2に示すダンパー装置が一例として挙げられる。図2に示すように、ダンパー装置10は、内部に緩衝装置用流体1としての粘性流体が封入されたシリンダ筒13と、該シリンダ筒13の内部に軸方向に亙る変位自在に嵌装されたピストン19と、該ピストン19と該シリンダ筒13との間に設けられ、このピストン19を一方向に付勢する付勢ばね20と、該付勢ばね20の弾力に基づく上記ピストン19の変位に伴って、上記シリンダ筒13からの突出量を増すプランジャ14と、上記ピストン19の軸方向両端面同士を連通する通路26と、該通路26を開閉する逆支弁27と、を主たる構成要素として備えるとともに、更に、基部21、シールリング22,33、切り欠き23、内側空間24、隔壁25、ばね28、ボール29、先半部30、上部空間31及び連通孔32が設けられている。
【0042】
【実施例】
以下に実施例を示して本発明の緩衝装置用流体について具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によって何等制限を受けるものではない。
【0043】
表1(実施例)に示す油(基油)及びチキソトロピー性付与剤を表1(実施例)に示す配合組成で、ホモジナイザーにより混合した後、真空恒温槽にて1Torr=1.33×102(Pa)、40℃の条件で2時間真空乾燥した。その後、5μmの焼結金属フィルターにて濾過することにより、実施例1〜8の各流体を調製した。また、チキソトロピー性付与剤を使用せず、表1(比較例)に示す油のみを使用して実施例と同様の操作により、比較例1〜3の各流体を調製した。尚、用いた油(表1中のポリ−α−オレフィン、高精製鉱油、エステル油及び鉱油)は、全て40℃における動粘度が100mm2/sのものである。
【0044】
各流体について、酸化安定性試験(所定時間加熱した後の全酸価測定)、チキソトロピー性試験及び衝撃吸収性評価試験を、それぞれ下記の測定法に従って行った。
【0045】
(酸化安定性試験)
調製した流体をシャーレに取り、160℃の恒温槽に入れた。流体を恒温槽に入れてから、100時間後、200時間後、500時間後、及び1000時間後それぞれに、流体の全酸価を測定した。全酸価の測定は、JIS K 2501に準拠して行った。その結果を表1に示す。
【0046】
(チキソトロピー性試験)
調製した流体の25℃における高剪断時(νh=5.0E+3,1/s)及び低剪断時(νl=0.2,1/s)それぞれの粘度ηh[Pa・s]及びηl[Pa・s]を、レオメータにより測定し、その比をチキソインデックスT(=ηl/ηh)として表した。その結果を表1に示す。
また、実施例1の流体(チキソトロピー性付与剤の添加量10質量%)とともに、実施例1の流体におけるチキソトロピー性付与剤の添加量を10質量%以外の添加量に変化させた各流体のチキソインデックスの変化を調べた。その結果を図3に示す。
【0047】
(衝撃吸収性評価試験)
図5に示すように、調製した流体を充填したダンパー装置(図2に示す装置)を、該ダンパー装置が垂直方向に移動するリニアガイドに取り付けた。そのダンパー装置を1mの高さから落下させ、衝撃の吸収時簡を評価した。実施例1の流体(チキソトロピー性付与剤の添加量10質量%)とともに、チキソトロピー性付与剤の添加量(濃度)を10質量%以外の添加量に変化させた各流体を充填した場合の吸収時間の違いを調べた。尚、吸収時間は、添加量が0%の流体を充填したときを1とし、それに対する比をとって表した。その結果を図4に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示す結果から明らかなように、基油及びチキソトロピー性付与剤からなる本発明の流体(実施例1〜8)は、油単独(比較例1〜3)に比して、酸化劣化が少ないことが判る。
【0050】
また、図3の結果から、チキソトロピー性付与剤の添加量が1〜15質量%である流体の場合には、衝撃吸収に相応しい安定したチキソインデックスを示すが、それ未満ではチキソ性が殆どなく、それを超えるとチキソインデックスが過大となり、適当な吸収を示さなくなってしまうことが判る。図3から、チキソインデックスとしては200〜600の範囲の流体が好ましい。
【0051】
また、図4の結果から、チキソトロピー性付与剤の添加量が1〜15質量%である流体を充填した場合には、比較的短い好適な吸収時間が得られることが判る。更に、チキソトロピー性付与剤の添加量が5〜10質量%である流体を充填した場合には、特に短い吸収時間が得られることが判る。
【0052】
【発明の効果】
本発明によれば、温度変化に拘らず安定した性能を発揮し、しかも空気析出による性能低下を防止でき、かつ長寿命で安価な緩衝装置用流体が提供される。
【0053】
また、本発明によれば、かかる緩衝装置用流体を充填した緩衝装置とすることで、前述した通りの作用を有し、高剪断時の流動性・吸収性と低剪断時の保持性とを両立させることで、ダンパー装置を組み込んだオートテンショナがベルトの振動を効率的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、一般のチキソトロピー流体のヒステリシスを示すグラフである。
【図2】図2は、本発明の緩衝装置用流体が適用される緩衝装置の一実施形態である、オートテンショナに組み込まれたダンパー装置を示す縦断面図である。
【図3】図3は、チキソトロピー性付与剤の添加量を変化させた場合のチキソインデックスとの関係を示すグラフである。
【図4】図4は、チキソトロピー性付与剤の添加量を変化させた場合の衝撃の吸収時間との関係を示すグラフである。
【図5】図5は、衝撃吸収性評価試験を行うための装置を示す概略図である。
【符号の説明】
1…緩衝装置用流体(粘性流体)、10…ダンパー装置、13…シリンダ筒、14…プランジャ、19…ピストン、20…付勢ばね、21…基部、22…シールリング、23…切り欠き、24…内側空間、25…隔壁、26…通孔、27…逆止弁、28…ばね、29…ボール、30…先半部、31…上部空間、32…連通孔、33…シールリング
【発明が属する技術分野】
本発明は、チキソトロピー性物質を含有する緩衝装置用流体に関し、詳しくは、自動車用エンジンのタイミングベルト、或いはオルタネータやコンプレッサ等の補機を駆動するためのベルトに適正な張力を維持するオートテンショナに組み込み、該ベルトの振動を抑えるのに利用するための流体として好適な緩衝装置(ダンパー装置)用流体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、自動車用エンジンのタイミングベルトや、オルタネータ、コンプレッサ等の補機の駆動用ベルト等のベルトに適正な張力を付与するために、オートテンショナと呼ばれる張力付与装置が利用されている。
【0003】
オートテンショナとしては、例えば、実開平6−47757号公報及び実開平6−87758号公報において、ベルトの振動を抑えるためのダンパー装置を備えたオートテンショナが提案されている(特許文献1及び2)。何れの構造を有するオートテンショナの場合でも、上記ダンパー装置は、その内部の所定箇所(シリンダ筒内周面とピストン外周面との微小隙間等)にシリコンオイル等の粘性液体が封入されている。
【0004】
また、オートテンショナ用ダンパー装置としては、その他、実開平3−65041号公報に開示のダンパー装置も知られている(特許文献3)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前述のようにオートテンショナに組み込まれた状態のダンパー装置は、ベルトの振動防止効果の点で問題がある。また、特に、自動車用エンジンに組み込まれた状態で使用されるオートテンショナの使用温度範囲は、−30℃(寒冷地で使用開始直後)乃至120℃(温暖地で使用開始直後エンジンが温まった状態)と、相当に広くなる。従って、この温度範囲において、ベルトの振動防止効果に差が生じるのを防止するためには、ダンパー装置に用いられる粘性液体として、温度−粘度特性が良いもの(粘度指数が大きいもの)、換言すれば、温度による粘度変化の程度が小さいものを使用する必要があった。このため、従来から、そのような粘性液体として、シリコンオイルが一般に使用されていた。
【0006】
しかし、シリコンオイルは、空気を溶け込ませる割合(空気溶解度)が大きく、特に低温時には相当量の空気を溶け込ませるものである。このため、ダンパー装置の粘性液体としてシリコンオイルを用いた際には、該シリコンオイルに混入した空気の影響によって、ベルトの振動防止効果が損なわれるという問題があった。
【0007】
このような問題を解決するためには、粘性液体として、シリコンオイルに代えて合成油を使用し、気泡の発生を防止することも考えられる。しかし、合成油を粘性液体として使用しても、気泡の発生を皆無にはできず、さらなる改善が求められている。
【0008】
尚、その他、粘性液体として高精製度鉱油ベースの作動油を使用した、ベルトの振動を防止するためのオートテンショナ用ダンパー装置も提案されている(特許文献4)。
【0009】
【特許文献1】
実開平6−47757号公報
【特許文献2】
実開平6−87758号公報
【特許文献3】
実開平3−65041号公報
【特許文献4】
特開平8−14339号公報
【0010】
従って、本発明の目的は、温度変化に拘らず安定した性能を発揮し、しかも空気析出による性能低下を防止でき、かつ長寿命で安価な緩衝装置用流体を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記課題を解決するため、基油及びチキソトロピー性付与剤からなるチキソトロピー性緩衝装置用流体を提供するものである。本発明の緩衝装置用流体は、かかる構成からなるため、温度変化に拘らず安定した性能を発揮し、しかも空気析出による性能低下を防止でき、かつ長寿命で安価なものである。
【0012】
また、本発明は、チキソインデックスが200〜600である前記緩衝装置用流体を好ましく提供する。かかる構成とすることで、前記性能をより発揮する流体が得られるとともに、特に自動車のエンジン補機用ベルトのオートテンショナに好適に使用できるオートテンショナ用ダンパー装置を提供することができる。
【0013】
また、本発明は、前記基油が、高精製鉱油又は合成炭化水素油であり、前記チキソトロピー性付与剤が、カーボンブラック、シリカ、粘土鉱物、カーボンナノチューブ及びフラーレンからなる群より選択される1種以上の固体微粒子である、前記緩衝装置用流体を提供する。また、本発明は、前記固体微粒子の粒径が0.01〜5μmである、前記緩衝装置用流体を提供する。また、本発明は、前記チキソトロピー性付与剤の添加量が、1〜15質量%である、前記緩衝装置用流体を提供する。これらの構成とすることで、同様に、前記性能をより発揮する流体が得られるとともに、特に自動車のエンジン補機用ベルトのオートテンショナに好適に使用できるオートテンショナ用ダンパー装置を提供することができる。
【0014】
また、本発明によれば、前記緩衝装置用流体を充填したダンパー装置、特にオートテンショナ用ダンパー装置、とりわけ自動車のエンジン補機用ベルトのオートテンショナに使用されるダンパー装置を提供することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の緩衝装置用流体について、その好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0016】
本発明の緩衝装置用流体は、基油及びチキソトロピー性付与剤からなるもので、それ自体チキソトロピー性を有する流体である(以下、「チキソトロピー性」を単に「チキソ性」ということもある。)。かかる構成からなる本発明の流体をダンパー装置に用いた場合には、ダンパーに最初に衝撃がかかった時のせん断応力を大きくすることができ、効果的に衝撃を吸収できる。また、高温から低温まで安定して使用でき、かつ、長期にわたり劣化しにくいダンパー装置を提供することができる。
【0017】
チキソ性(チキソトロピー性)とは、剪断速度が、剪断応力と剪断応力がかかる時間に依存するものをいい、一般に図1に示すようなループが得られる性質をいう。一般に、チキソトロピー流体は、剪断によって粘度が低下し流動を示すが、剪断をかけずに放置すると元のかたさに戻る。この性質をもつ流体は、ベースとなる流体にチキソ性付与剤を添加混合することにより得られる。
【0018】
また、本発明の緩衝装置用流体は、チキソ性流体の物性を示すチキソインデックスの値が200〜600であることが好ましい。かかる範囲のチキソインデックスを有する流体は、該流体をダンパー装置に用いた場合に、衝撃により発生する振動の減衰を効果的に早めることができる。
【0019】
ここで、チキソインデックスとは、チキソトロピー性流体の25℃における高剪断時(νh=5.0E+3,1/s)と低剪断時(νl=0.2,1/s)の粘度ηh[Pa・s],ηl[Pa・s]をレオメータにより測定し、その比を表したものである。即ち、チキソインデックスT=ηl/ηhである。
【0020】
本発明の流体に用いられる基油としては、鉱油や合成炭化水素油等が挙げられる。鉱油としては、高精製鉱油が好適に使用できる。ここで、高精製鉱油とは、粘度指数が120以上である鉱油を示す。高精製鉱油又は合成炭化水素油は、粘度指数が大きく、また、通常の鉱油に比べて耐熱性に優れ、空気の溶解性も比較的小さいため長期にわたり安定であり、ダンパー装置用流体の基油として好適である。
【0021】
また、合成炭化水素油としては、ポリ−α−オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリブテン、エチレンプロピレンオリゴマー等が好適に用いられる。
【0022】
これらの高精製鉱油及び合成炭化水素油の中でも、耐熱性に優れ、高粘度指数を有し、比較的安価に入手できる点で、ポリ−α−オレフィンが特に好ましい。
【0023】
基油の動粘度については、特に制約はないが、自動車が通常使用される環境が−30℃〜50℃程度であること及びエンジンルーム内の高温環境等を考慮すると、40℃の動粘度が30〜300mm2/s、特に40〜170mm2/sであることが好ましい。基油の40℃での動粘度が30mm2/s未満であると、耐熱性が劣化するおそれがあり、300mm2/sを超えると、低温時に基油自体が固化しチキソ性が安定しない場合がある。このような好適範囲内の動粘度を有する基油の例としては、BPジャパン社製の市販品「デュラシン170」(商品名)(65.3mm2/s@40℃)が好適に用いられる。
【0024】
本発明の緩衝装置用流体に用いられるチキソトロピー性付与剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、粘土鉱物、カーボンナノチューブ及びフラーレン等の固体微粒子が利用できる。これらのカーボンブラック、シリカ、粘土鉱物、カーボンナノチューブ及びフラーレンは、チキソ性付与剤としての機能以外に、酸性成分の吸着作用があり、長期使用に際して発生した酸化劣化物を吸蔵し、酸化劣化を防止する効果があるため好ましく用いられる。
これらの固体微粒子は、その使用に際して1種単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
ここで、カーボンブラックとしては、各種のものが使用できる。
シリカとしては、日本シリカ工業社製の特殊シリカ等を使用できる。このシリカのような多孔性物質を用いることで、湿気や酸等を吸収し、流体における基油劣化の進行を遅らせることが可能となる。
【0026】
粘土鉱物としては、フッ素四珪素雲母、モンモリナイト、酸化第二鉄、五酸化バナジウム、白土類、セルロース、炭酸マグネシウム、アルミナ、スメクタイト、ベントナイト、カーボンブラック、金属セッケン、ウレア、酸化ポリエチレンワックス、高級アルコール、ろう類、カルボキシビニルポリマー等の合成高分子、多糖類等の天然高分子等が挙げられる。
【0027】
カーボンナノチューブとは、炭素原子からなる直径数nmから数十nmの円筒状物質であり、例えば、カイラル型、ジグザグ型、アームチェア型等の結晶構造をもち、単層もしくは多層のもの、又はこれらの結晶構造中の一部の炭素に置換基を導入したもの等が挙げられる。
【0028】
フラーレンとは、炭素原子からなる粒径5〜50nm程度の閉曲面芳香族分子であり、例えば、C60(Cは炭素数を示す。以下同じ。)、C70、C76のもの、又はC76を超える高次フラーレン等が挙げられる。
【0029】
また、チキソトロピー性付与剤として、このような固体微粒子を使用する場合には、その粒径が0.01〜5μm、特に0.01〜2.5μmのものが好ましい。該粒径がこの範囲の上限を超えると、チキソトロピー性付与剤の流体中での分散状態が不安定となり、基油その他の液体と分離しやすくなる。一方、該粒径がこの範囲の下限未満であると、流体のチキソトロピー性を発現しにくくなってしまう。
尚、ここでいう粒径は、チキソトロピー性付与剤がカーボンナノチューブやフラーレンの場合には、円筒状体(チューブ状体)又は閉曲面体(球状乃至球様状体)の直径又は長さをいう。
【0030】
チキソトロピー性付与剤の添加量は、本発明の流体全量中、1〜15質量%、特に5〜10質量%であることが好ましい。かかる1〜15質量%の範囲の添加量でチキソトロピー性付与剤を用いることで、チキソインデックスが200〜600の緩衝装置用流体を容易に得ることができるため好ましい。
【0031】
特に、チキソトロピー性付与剤としての粒径0.01〜5μmの固体微粒子を1〜15質量%添加することにより、緩衝装置用として特に好適なチキソ性を有する流体が得ることができる。
【0032】
特にチキソトロイピー性付与剤として好ましいものとしては、カーボンブラックとして、アクゾ社製の市販品「ケッチェンブラックEC」(商品名)(一次粒径40nm)、シリカとして、日本シリカ社製の市販品「E−200A」(商品名)(一次粒径約2.5μm)、粘土鉱物として、ベントナイト、特に有機ベントナイト、例えば、豊潤洋行社製の市販品「エスベン」(商品名)(一次粒径0.2μm)等が好ましく使用される。
【0033】
また、カーボンナノチューブとして、カーボンナノテクノロジー社製の市販品「Single Wall Carbon nanotubes」(商品名)(円筒状体の直径が1nm、長さが10〜1000nm)、フラーレンとして、フロンティアカーボン社製の市販品「フラーレン混合物」(商品名)(閉曲面体の直径が10nm)等が好ましく使用される。
【0034】
本発明の緩衝装置用流体の好適な態様としては、基油が、高精製鉱油又は合成炭化水素油(好ましくはポリ−α−オレフィン)であり、チキソトロピー性付与剤が、カーボンブラック、シリカ、粘土鉱物、カーボンナノチューブ及びフラーレンからなる群より選択される1種以上で且つ粒径が0.01〜5μmの固体微粒子であり、該固体微粒子の添加量が1〜15質量%のものである。
【0035】
また、本発明の緩衝装置用流体には、その機能を損なわない範囲で、潤滑油や潤滑グリース用として公知の添加剤を特に制限なく使用できる。そのような添加剤としては、好ましくは酸化防止剤、防錆剤等が挙げられる。
【0036】
本発明の緩衝装置用流体の効果について述べる。本発明の緩衝装置用流体は、チキソトロピー性を有することにより、衝撃が大きく高剪断がかかるときは最初の衝撃を吸収した後、流動して振動を減衰させる。即ち、所謂リークダウン時間T(sec/mm)(例えは、ピストンを有するシリンダ筒の内部に粘性流体を備えたダンパー装置では、ダンパー装置の全長を所定長さ寸法だけ縮めるべく、粘性流体をピストンの下側から上側に流しつつこのピストンが変位するために要する時間)における、粘性流体の粘性係数μ(kgf・s/mm2)を大きくすることができると同等の効果があるものと考えられる。リークダウン時間Tは、粘性流体の粘性係数μに比例し、この粘性係数μが大きい程、上記リークダウン時間Tが長くなり、延いてはベルト等の振動を防止する効果が大きくなる。また、かかる効果により、多少の気泡が発生したところで、緩衝装置の性能を損なうことが少ない。
尚、油のみの場合には、最初の衝撃の吸収が小さいため、減衰に要する時間が長くなる。
【0037】
また、本発明の緩衝装置用流体は、このようなチキソトロピー性による衝撃吸収能力に加え、酸化防止、漏れ防止をはじめとする二次的な効果も期待できるという点で、非常に有効であるといえる。
【0038】
本発明の緩衝装置用流体は、オートテンショナに好適に使用され、特に自動車のエンジン補機用のオートテンショナに好適に使用されるものである。
【0039】
本発明の緩衝装置用流体によれば、初期の衝撃の吸収力に優れるため、振動減衰が短時間で可能であり、かつ、温度変化に拘らず安定した性能を発揮し、しかも空気析出による性能低下を防止できる安価なオートテンショナ用ダンパー装置が得られる。
【0040】
本発明の緩衝装置用流体の使用例としては、例えば、次に示すような自動車のエンジン補機に使用されるオートテンショナ用ダンパー装置への適用が挙げられる。即ち、内部に粘性流体が封入されたシリンダ筒と、該シリンダ筒の内部に軸方向に亙る変位自在に嵌装されたピストンと、該ピストンと該シリンダ筒との間に設けられ、このピストンを一方向に付勢する付勢ばねと、該付勢ばねの弾力に基づく上記ピストンの変位に伴って、上記シリンダ筒からの突出量を増すプランジャと、上記ピストンの軸方向両端面同士を連通する通路と、該通路を開閉する逆支弁と、を備え、該逆支弁は上記ピストンが上記付勢ばねの弾力に基づいて変位する場合にのみ開く機能を有するダンパー装置等が適用の一例として挙げられる。そして、このようなダンパー装置においては、本発明の緩衝装置用流体は、上記シリンダ筒内部における粘性流体として封入されて、本発明に係る特有の機能が発揮される。
【0041】
本発明の緩衝装置用流体が好適に適用されるダンパー装置としては、図2に示すダンパー装置が一例として挙げられる。図2に示すように、ダンパー装置10は、内部に緩衝装置用流体1としての粘性流体が封入されたシリンダ筒13と、該シリンダ筒13の内部に軸方向に亙る変位自在に嵌装されたピストン19と、該ピストン19と該シリンダ筒13との間に設けられ、このピストン19を一方向に付勢する付勢ばね20と、該付勢ばね20の弾力に基づく上記ピストン19の変位に伴って、上記シリンダ筒13からの突出量を増すプランジャ14と、上記ピストン19の軸方向両端面同士を連通する通路26と、該通路26を開閉する逆支弁27と、を主たる構成要素として備えるとともに、更に、基部21、シールリング22,33、切り欠き23、内側空間24、隔壁25、ばね28、ボール29、先半部30、上部空間31及び連通孔32が設けられている。
【0042】
【実施例】
以下に実施例を示して本発明の緩衝装置用流体について具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によって何等制限を受けるものではない。
【0043】
表1(実施例)に示す油(基油)及びチキソトロピー性付与剤を表1(実施例)に示す配合組成で、ホモジナイザーにより混合した後、真空恒温槽にて1Torr=1.33×102(Pa)、40℃の条件で2時間真空乾燥した。その後、5μmの焼結金属フィルターにて濾過することにより、実施例1〜8の各流体を調製した。また、チキソトロピー性付与剤を使用せず、表1(比較例)に示す油のみを使用して実施例と同様の操作により、比較例1〜3の各流体を調製した。尚、用いた油(表1中のポリ−α−オレフィン、高精製鉱油、エステル油及び鉱油)は、全て40℃における動粘度が100mm2/sのものである。
【0044】
各流体について、酸化安定性試験(所定時間加熱した後の全酸価測定)、チキソトロピー性試験及び衝撃吸収性評価試験を、それぞれ下記の測定法に従って行った。
【0045】
(酸化安定性試験)
調製した流体をシャーレに取り、160℃の恒温槽に入れた。流体を恒温槽に入れてから、100時間後、200時間後、500時間後、及び1000時間後それぞれに、流体の全酸価を測定した。全酸価の測定は、JIS K 2501に準拠して行った。その結果を表1に示す。
【0046】
(チキソトロピー性試験)
調製した流体の25℃における高剪断時(νh=5.0E+3,1/s)及び低剪断時(νl=0.2,1/s)それぞれの粘度ηh[Pa・s]及びηl[Pa・s]を、レオメータにより測定し、その比をチキソインデックスT(=ηl/ηh)として表した。その結果を表1に示す。
また、実施例1の流体(チキソトロピー性付与剤の添加量10質量%)とともに、実施例1の流体におけるチキソトロピー性付与剤の添加量を10質量%以外の添加量に変化させた各流体のチキソインデックスの変化を調べた。その結果を図3に示す。
【0047】
(衝撃吸収性評価試験)
図5に示すように、調製した流体を充填したダンパー装置(図2に示す装置)を、該ダンパー装置が垂直方向に移動するリニアガイドに取り付けた。そのダンパー装置を1mの高さから落下させ、衝撃の吸収時簡を評価した。実施例1の流体(チキソトロピー性付与剤の添加量10質量%)とともに、チキソトロピー性付与剤の添加量(濃度)を10質量%以外の添加量に変化させた各流体を充填した場合の吸収時間の違いを調べた。尚、吸収時間は、添加量が0%の流体を充填したときを1とし、それに対する比をとって表した。その結果を図4に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示す結果から明らかなように、基油及びチキソトロピー性付与剤からなる本発明の流体(実施例1〜8)は、油単独(比較例1〜3)に比して、酸化劣化が少ないことが判る。
【0050】
また、図3の結果から、チキソトロピー性付与剤の添加量が1〜15質量%である流体の場合には、衝撃吸収に相応しい安定したチキソインデックスを示すが、それ未満ではチキソ性が殆どなく、それを超えるとチキソインデックスが過大となり、適当な吸収を示さなくなってしまうことが判る。図3から、チキソインデックスとしては200〜600の範囲の流体が好ましい。
【0051】
また、図4の結果から、チキソトロピー性付与剤の添加量が1〜15質量%である流体を充填した場合には、比較的短い好適な吸収時間が得られることが判る。更に、チキソトロピー性付与剤の添加量が5〜10質量%である流体を充填した場合には、特に短い吸収時間が得られることが判る。
【0052】
【発明の効果】
本発明によれば、温度変化に拘らず安定した性能を発揮し、しかも空気析出による性能低下を防止でき、かつ長寿命で安価な緩衝装置用流体が提供される。
【0053】
また、本発明によれば、かかる緩衝装置用流体を充填した緩衝装置とすることで、前述した通りの作用を有し、高剪断時の流動性・吸収性と低剪断時の保持性とを両立させることで、ダンパー装置を組み込んだオートテンショナがベルトの振動を効率的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、一般のチキソトロピー流体のヒステリシスを示すグラフである。
【図2】図2は、本発明の緩衝装置用流体が適用される緩衝装置の一実施形態である、オートテンショナに組み込まれたダンパー装置を示す縦断面図である。
【図3】図3は、チキソトロピー性付与剤の添加量を変化させた場合のチキソインデックスとの関係を示すグラフである。
【図4】図4は、チキソトロピー性付与剤の添加量を変化させた場合の衝撃の吸収時間との関係を示すグラフである。
【図5】図5は、衝撃吸収性評価試験を行うための装置を示す概略図である。
【符号の説明】
1…緩衝装置用流体(粘性流体)、10…ダンパー装置、13…シリンダ筒、14…プランジャ、19…ピストン、20…付勢ばね、21…基部、22…シールリング、23…切り欠き、24…内側空間、25…隔壁、26…通孔、27…逆止弁、28…ばね、29…ボール、30…先半部、31…上部空間、32…連通孔、33…シールリング
Claims (5)
- 基油及びチキソトロピー性付与剤からなる緩衝装置用流体。
- チキソインデックスが200〜600である、請求項1記載の緩衝装置用流体。
- 前記基油が、高精製鉱油又は合成炭化水素油であり、前記チキソトロピー性付与剤が、カーボンブラック、シリカ、粘土鉱物、カーボンナノチューブ及びフラーレンからなる群より選択される1種以上の固体微粒子である、請求項1又は2記載の緩衝装置用流体。
- 前記固体微粒子は、その粒径が0.01〜5μmである、請求項3記載の緩衝装置用流体。
- 前記チキソトロピー性付与剤の添加量が、1〜15質量%である、請求項1〜4の何れかに記載の緩衝装置用流体。
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