JP2004345919A - 光ファイバの製法 - Google Patents

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Abstract

【課題】空間部を有する光ファイバにおける1300〜1400nmでの水酸基起因損失の低減および製造後に光ファイバが水素に晒され、水酸基が生成されることによる損失増加を防止する。
【解決手段】ホーリーファイバ用母材、PANDAファイバ用母材またはロッドインチューブ法によって作製された母材などの空間部を有する光ファイバ母材1を紡糸炉8において溶融紡糸する際に、上記空孔(空間部)2、2・・にガス供給源5からの重水素含有ガスを満たしつつ溶融紡糸する。重水素含有ガス中の重水素濃度を0.5〜2容量%とすることが好ましい。
【選択図】図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、耐水素特性の優れた光ファイバを安価に製造することのできる光ファイバの製法に関する。
【0002】
【従来の技術】
光ファイバを水素含有雰囲気中に放置すると、水素が光ファイバをなす石英ガラス中に拡散し、石英ガラス中の過酸化物欠陥、非架橋酸素空孔等の欠陥と結合し、水酸基が生成する。石英ガラス中の水酸基は、波長1380〜1400nmにおいて吸収を示し、光ファイバの伝送特性に悪影響を与える。
【0003】
このような不都合を解決するために、光ファイバを予め重水素で処理し、石英ガラス中の過酸化物欠陥、非架橋酸素空孔等の欠陥と重水素を反応させ、重水酸基とし、水酸基の生成を阻止することにより、吸収波長帯域を光通信波長帯域以外に移動させることが行われている。
この重水素処理の具体的な方法としては、特開平7−277770号公報にあるように、光ファイバ素線を10気圧以下の分圧の重水素を含む重水素雰囲気に置き、50〜200℃で加熱するものがある。
【0004】
しかし、この方法では、光ファイバ素線の被覆材も同時に加熱されるため被覆材の熱劣化があり、好ましくない。また、重水素処理に特別の設備が必要になり、費用が増加する問題がある。
【0005】
また、特公平4−4988号公報には、溶融紡糸してから一次被覆層を形成するまでの高温状態にある光ファイバ裸線を重水素含有雰囲気中で走行するようにして、高温状態で重水素による処理を行うものが提案されている。
しかし、この方法では、光ファイバ裸線の紡糸中に重水素含有ガスを流し続けなければならず、重水素含有ガスが外部に漏出して消費量が多くなるため、コストが非常に高くなる欠点がある。
【0006】
ところで、光ファイバの紡糸の際に用いられる光ファイバ母材のなかには、その内部に空孔や空隙などの空間部が存在するものがある。
この種の光ファイバ母材の代表的なものとしてはホーリーファイバ用の光ファイバ母材がある。
【0007】
ホーリーファイバは、周知のように光ファイバのクラッドまたはクラッドとコアに1個以上の空孔がその長手方向に延びて形成されたものである。このホーリーファイバ用の光ファイバ母材には、同様にクラッド部またはクラッド部とコア部にその長手方向に延びる1個以上の空孔が形成されている。
【0008】
このような空孔が形成された光ファイバ母材では、その空孔の内表面に空気中の水分が吸着し、溶融紡糸時にこれが石英ガラス中に拡散し、水酸基を形成して伝送損失の一因となる可能性がある。
また、ホーリーファイバ用母材では、溶融紡糸時に母材の空孔内に加圧乾燥ガスを外部から供給し、紡糸時に空孔が押し潰されることを防止している。
【0009】
この時、空孔内に供給される加圧乾燥ガスには極力乾燥されたものが用いられるが、完全に乾燥したガスを用いることは難しく、微量の水分が空孔内表面に吸着し、これに起因して伝送損失が増大することになる。
【0010】
このような空間部を有する光ファイバ母材としては、これ以外に応力付与部材を挿入して紡糸するPANDAファイバ用の光ファイバ母材や、ロッドインチューブ法で作製された光ファイバ母材などが挙げられる。
【0011】
【特許文献1】
特開平7−277770号公報
【特許文献2】
特公平4−4988号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
よって、本発明における課題は、空間部を有する光ファイバにおける1300〜1400nmでの水酸基起因損失の低減および製造後に光ファイバが水素に晒され、水酸基が生成されることによる損失増加を防止することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決するために、
請求項1にかかる発明は、空間部を有する光ファイバ母材を溶融紡糸する際に、上記空間部に重水素含有ガスを満たしつつ溶融紡糸することを特徴とする光ファイバの製法である。
【0014】
請求項2にかかる発明は、重水素含有ガス中の重水素濃度が0.5〜2容量%であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバの製法である。
請求項3にかかる発明は、光ファイバ母材の一端が開放され、他端が溶融封止され、開放端から重水素含有ガスを満たすことを特徴とする請求項1記載の光ファイバの製法である。
【0015】
請求項4にかかる発明は、光ファイバ母材が、ホーリーファイバ用母材、PANDAファイバ用母材またはロッドインチューブ法によって作製された母材であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバの製法である。
【0016】
【作用】
かかる発明特定事項により、光ファイバ母材の空間部に満たされるガス中に水分が微量存在してこれが石英ガラス中に拡散して水酸基が形成されても、紡糸時に拡散される重水素で水素が置換され、重水素基となる。
【0017】
また、光ファイバ母材の内部に存在する空間部から重水素が拡散してゆくので、母材の内奥部まで容易に、速やかに、均一に重水素が拡散し、紡糸時において過酸化物欠陥、非架橋酸素空孔などの欠陥と結合してあるいは水酸基の水素と置換して重水酸基が形成される。また、紡糸後にも空間内に重水素が存在するため、紡糸後にファイバ内に存在する酸素欠陥と反応し効果的に重水酸基を形成することができる。
【0018】
このため、紡糸後に光ファイバの外部から重水素雰囲気に曝すものに比べて良好に重水素による置換がなされる。また、重水素の使用量が少なくて済み、安価に耐水素性の優れた光ファイバを生産することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳しく説明する。
図1は、本発明の製法に使用される製造装置の一例を示すもので、ホーリーファイバを製造するものを示す。
図1において、符号1はホーリーファイバ用の光ファイバ母材を示す。この光ファイバ母材1は、図示するようにその内部に1個以上の長手方向に延びる空孔2、2・・が形成されている。
【0020】
この光ファイバ母材1の上端部は、空孔2、2・・が開放された状態にあり、下端部は、溶融封止され閉じられた状態となっている。この光ファイバ母材1の上部は、把持部3で把持され、図示しない駆動装置により光ファイバ母材1全体が下方に徐々に降下するようになっている。
【0021】
また、光ファイバ母材1の上端部は、蓋10により気密状態で覆われるようになっている。この蓋10の上部にはパイプ4の一端が接続され、このパイプ4の他端はガス供給源5に接続されている。このガス供給源5は、重水素含有ガスをパイプ4を介して蓋10を経て光ファイバ母材11の上端部の空孔2、2・・の開口部からその内部に所望の圧力で供給するものである。
【0022】
ここでの重水素含有ガスとしては、濃度が0.1〜100容量%、好ましくは0.5〜2容量%の重水素とアルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガスとの混合ガスが用いられる。この混合ガスは十分乾燥されたものが好ましい。
さらに、上記蓋10には、別のパイプ6が接続され、このパイプ6は真空排気装置7に接続されており、この真空排気装置7を駆動することで光ファイバ母材1の空孔2、2・・内部を排気し、減圧することができるようになっている。
【0023】
また、図中符号8は、紡糸炉を示す。この紡糸炉8は、その内部に光ファイバ母材1を収め、その先端部を加熱して溶融紡糸し、光ファイバ裸線9とするものである。
紡糸炉8の下流側には、図示しない冷却筒、被覆層形成装置などが設けられ、光ファイバ素線が製造できるようになっている。
【0024】
つぎに、このような製造装置を使用してホーリーファイバを製造する方法を説明する。
まず、真空排気装置7を駆動して光ファイバ母材1の空孔2、2・・内を排気し、内部の空気、空孔2内壁に吸着している水分等をできる限り除去する。ついで、ガス供給源5から重水素濃度0.1〜100容量%の重水素含有ガスをパイプ4、蓋10を介して、光ファイバ母材1の空孔2、2・・内に送り込む。この時の空孔2内部に供給される重水素含有ガスの圧力は、空孔2の先端部の溶融による潰れが防止されるように調整される。
【0025】
そして、この空孔2、2・・への重水素含有ガスの供給を続けながら、常法により溶融紡糸を行うことで、目的とするホーリーファイバ素線を製造することができる。
【0026】
この際、光ファイバ母材1の空孔2、2・・には、重水素含有ガスが充満された状態となっているので、この重水素含有ガス中の重水素がガラス内に拡散してゆく。この時、光ファイバ母材1は、溶融紡糸時の熱により加熱された状態となっており、重水素の拡散速度が早いものとなる。
【0027】
また、重水素の拡散が空孔2の内壁から進行し、空孔2が光ファイバ母材1の内部に存在するので、光ファイバ母材1の内奥部への重水素の拡散が速やかに、容易に、かつ均一に行われる。
光ファイバ母材1内に拡散した重水素は、ガラス中の酸素欠陥を補填するとともに、紡糸時の熱を利用して、ガラス中に存在する水酸基の水素を置換して重水酸基となる。
【0028】
また、製造後に外部から水素が侵入しても、ファイバをなすガラス内では、侵入した水素が反応する酸素欠陥が既に重水素と反応しているため、水酸基が生成する可能性を減少させることができる。
このため、得られるホーリーファイバ素線は、耐水素特性の良好なものとなり、かつ波長1380〜1400nmでの伝送損失が小さいものとなる。
【0029】
また、この製造方法では、製造設備の大幅な変更が不要であり、既存の設備を転用できる。さらに、重水素含有ガスの使用量が光ファイバ母材1の空孔2、2・・内に充填するだけで、外部に流出することがなく、重水素使用量が少量で済む。
【0030】
本発明において対象となる光ファイバ母材としては、上述のホーリーファイバ用光ファイバ母材以外に、PANDAファイバ用光ファイバ母材、ロッドインチューブ法で作製された光ファイバ母材などがある。
【0031】
PANDAファイバ用光ファイバ母材では、応力付与部となる円柱状ガラス部材とこれを収容する母材本体に形成された空孔との間の隙間が存在し、通常はこの隙間を減圧としているが、減圧中でもこの隙間に適量の重水素含有ガスを流すことで本発明の製法を適用することができる。
また、ロッドインチューブ法で作製された光ファイバ母材においても、ガラスロッドとガラスチューブとの間に隙間が存在し、この隙間に同様にして重水素含有ガスを流せばよい。
これらのPANDAファイバ用光ファイバ母材、ロッドインチューブ法で作製された光ファイバ母材などの光ファイバ母材においても、図1に示す製造装置を用いて同様に光ファイバ素線を製造することができる。
【0032】
以下、具体例を示す。
(例1)
図1に示すような製造装置を使用して、ホーリーファイバ素線を作製した。ホーリーファイバ用光ファイバ母材の空孔内に、1容量%重水素含有ヘリウムガスと、100容量%ヘリウムガスを供給する2つの条件で、溶融紡糸を行った。
【0033】
紡糸条件は、クラッド径:125μm、1層目被覆径:190μm、2層目被覆径:250μm、被覆材:ウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂、紡糸線速:40m/分とし、それぞれ1000m紡糸した。
紡糸直後、ホーリーファイバ素線の末端を封止処理して、空孔内に空気が侵入しないようにした。
【0034】
製造後のホーリーファイバ素線の初期波長損失を測定し、その結果を図2に示す。ヘリウムガスを充填して紡糸したファイバでは、水酸基に起因する波長1383nm付近で吸収が認められた。しかし、1容量%重水素含有ヘリウムガスを充填して紡糸したファイバでは、1383nm付近での吸収は見られなかった。
このデータから、光ファイバ母材の空孔内に重水素含有ガスを充填しながら紡糸したファイバでは、母材に存在している水酸基が重水酸基に変化することが確認された。
【0035】
このホーリーファイバ素線を、1容量%水素含有ヘリウムガスの雰囲気中に室温、1気圧、1週間放置し、その後大気中に1週間放置したのち、波長損失を測定し、その結果を図3に示した。
図3の結果から、光ファイバ母材の空孔内に重水素含有ガスを充填して紡糸したものでは、これを水素雰囲気中に放置しても、水酸基に起因する波長1383nm付近の吸収が生じないことが明らかになった。
【0036】
(例2)
例1において、ホーリーファイバ用光ファイバ母材の空孔内に供給する重水素含有ヘリウムガス中の重水素濃度を0.001〜5容量%に変化させて、ホーリーファイバ素線を製造した。得られたホーリーファイバ素線を、1容量%水素含有ヘリウムガスの雰囲気中に室温、1気圧、1週間放置し、その後大気中に1週間放置したのち、波長1383nmでの伝送損失を測定し、水素雰囲気暴露前後での損失増加量を求め、その結果を図4に示した。
【0037】
図4の結果から、光ファイバ母材の空孔に供給する重水素含有ヘリウムガス中の重水素濃度が0.5容量%以上とすることで、耐水素性が大幅に改善されることがわかる。
【0038】
(例3)
ロッドインチューブ法により光ファイバ母材を作製した。ロッドには、外径30mm、コア部外径6mmで、コア部にはゲルマニウムをドープして比屈折率差を0.4%としたものを使用した。チューブには、合成石英からなる外径94mm、内径31mmのものを使用した。
【0039】
ロッドをチューブに入れ、その先端部を溶かして封止した。この光ファイバ母材を紡糸炉内に収容し、ロッドとチューブとの間の隙間を真空排気してから、100容量%の重水素を圧力0.01気圧で満たし、この圧力をモニターしながら重水素の放出および補給をできるようにした装置を設置し、重水素供給量を調整しながら、紡糸を行い、光ファイバ素線を製造した。
【0040】
紡糸条件は、クラッド径:125μm、1層目被覆径:190μm、2層目被覆径:250μm、被覆材:ウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂、紡糸線速:300m/分とし、100km紡糸した。
また、比較例として、ロッドとチューブとの間の隙間に重水素含有ガスを供給せず、圧力を1.0mbarとした以外は同様にして紡糸して、比較例の光ファイバ素線を製造した。
【0041】
製造後の光ファイバ素線の初期波長損失を測定し、その結果を図5に示す。隙間を減圧状態として紡糸したファイバでは、水酸基に起因する波長1383nm付近で吸収が認められた。しかし、重水素を充填して紡糸したファイバでは、1383nm付近での吸収は見られなかった。
【0042】
この光ファイバ素線を、1容量%水素含有ヘリウムガスの雰囲気中に室温、1気圧、1週間放置し、その後大気中に1週間放置したのち、波長損失を測定し、その結果を図6に示した。
図6の結果から、隙間に重水素を充填して紡糸したものでは、これを水素雰囲気中に放置しても、水酸基に起因する波長1383nm付近の吸収が生じないことが明らかになった。
【0043】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の光ファイバの製法にあっては、光ファイバ母材に存在する空間部に重水素含有ガスを供給しながら溶融紡糸するものであるので、紡糸中の熱を利用し、ファイバ内部に存在する水酸基が重水酸基に変化し、過酸化物欠陥や非架橋酸素空孔欠陥が重水素で補填されてやはり重水酸基に変化する。このため、波長1380〜1400nmでの吸収がなくなる。また、ファイバを水素雰囲気に放置した場合でも、水素が欠陥と反応するよりも前に欠陥を重水素に晒し、重水酸基を形成しているため、水酸基の生成が阻止される。
【0044】
また、この製法では、光ファイバ母材の空間部に重水素含有ガスを満たしており、さらに光ファイバ母材が溶融紡糸時の熱で加熱状態にあるので、重水素が光ファイバ母材の内部まで速やかにかつ均一に拡散し、重水素による処理の効果が発現しやすいものとなる。さらに、重水素が無駄になることがなく、コストが嵩むことがない。また、特別の製造設備を必要とすることがなく、既設の設備を利用でき、これによってもコストが嵩むことがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製法に用いられる製造設備の例を示す概略構成図である。
【図2】例1における結果を示す図表である。
【図3】例1における結果を示す図表である。
【図4】例2における結果を示す図表である。
【図5】例3における結果を示す図表である。
【図6】例3における結果を示す図表である。
【符号の説明】
1・・・光ファイバ母材、2・・・空孔、4・・・パイプ、5・・・ガス供給源、6・・・紡糸炉、10・・・蓋

Claims (4)

  1. 空間部を有する光ファイバ母材を溶融紡糸する際に、上記空間部に重水素含有ガスを満たしつつ溶融紡糸することを特徴とする光ファイバの製法。
  2. 重水素含有ガス中の重水素濃度が0.5〜2容量%であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバの製法。
  3. 光ファイバ母材の一端が開放され、他端が溶融封止され、開放端から重水素含有ガスを満たすことを特徴とする請求項1記載の光ファイバの製法。
  4. 光ファイバ母材が、ホーリーファイバ用母材、PANDAファイバ用母材またはロッドインチューブ法によって作製された母材であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバの製法。
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