JP2004344905A - Zn系めっき鋼板の溶融溶接方法 - Google Patents
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Abstract
【構成】Zn系合金を鋼板表面にめっきしたZn系めっき鋼板を溶融溶接する際に、当該Zn系めっき鋼板の溶接部外側に溶融金属移動阻止用壁17を設け、溶接時に、溶融しためっき金属を堰き止めて溶接部6に近づかせないことにより、溶接熱影響部の粗粒結晶粒の粒界に溶融Znが浸透することを防いで、結果的に溶融金属脆化割れの発生を抑制する。
【選択図】 図4
Description
【産業上の利用分野】
本発明は、Zn系めっき鋼板を溶融溶接する際に、溶融金属脆化割れの発生を抑制した溶接方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車用はもとより、建築構造物や家電製品等、腐食が問題となる箇所に使用される鋼材として、耐食性に優れるZn系めっき鋼が広く用いられている。そして、板状のままで使用されることはほとんどなく、何らかの手段で所要の形状に成形した後、各々の部品を溶接して最終製品を製造している。つまり、Zn系めっき鋼板を用いて所望製品を製造する際には、ほとんどで溶接工程が入ってくる。
溶接の種類としては、スポット溶接に代表されるような抵抗溶接と、アーク溶接に代表されるような溶融溶接がある。建築構造物や自動車の足廻り部品などでは、比較的高い接合強度が必要なことや板厚が比較的厚いこと、抵抗溶接での電極の低寿命などを考慮して、溶融溶接を用いる場合が多い。
【0003】
溶融溶接は、非常に高い熱量を被溶接材に与えて溶融・凝固、場合によっては溶接ワイヤーを供給して溶接する方法である。Zn系めっき鋼板を溶融溶接するとめっき原板である鋼母材も溶融するが、その母材表面に被覆されているめっき層も再溶融や蒸発を起こす。
Zn系めっき鋼板の場合、めっき層の融点が母材である鋼板の融点よりもかなり低いことから、溶接部の一部の領域や溶接部の周辺では、溶接中あるいは溶接後のある一定期間の間、めっき層が溶融状態で鋼板表面に存在することになる。鋼板上にSn,Cu,Znなどが溶融状態で存在した状態である一定の引張り応力が作用すると、鋼板に割れが発生することが知られている。いわゆる「溶融金属脆化割れ」と称されているものである(例えば、上田修三著「叢書 鉄鋼技術の流れ 第1シリーズ 第9巻 構造用鋼の溶接−低合金鋼の諸性質とメタラジー−」1997.6.1 株式会社地人書館,p274−276参照)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
溶融金属脆化割れは、溶融金属と固体金属の特定の組み合わせのもとで固体金属に一定以上の引張り応力が働いた場合に、固体金属の結晶粒界に溶融金属が浸透して脆化し、割れる現象である。固体金属が鋼の場合、溶接後の部品を溶融Zn浴に浸漬して溶融Znめっきを施すとき,Cuろう接するとき,あるいはZn系めっき鋼板を溶融溶接するときに、溶接やろう接で発生する熱影響部の粗粒域でZnが浸透して割れが発生する場合が多くなっている。
特に、最近では、耐食性に優れたZn系めっき鋼板が幅広く使用されるようになった。しかし溶接時にある複数の条件が重なると、熱影響部近傍に溶融金属脆化割れが発生しやすく、問題となっている。
【0005】
熱影響部近傍での溶融金属脆化割れの発生を抑制するために、溶接に先立って溶接部近傍のめっき層を除去することも行われている。しかしながら、めっき層の除去工程で粉塵を撒き散らすことになって作業環境を悪化させるばかりでなく、めっき層が除去された溶接部は、下地鋼が露出しているため母材部に比較して耐食性が劣る。耐食性の低下は溶接部にめっき層と同種材料からなる溶射層等を形成することにより防止できるものの、溶接前のめっき層除去及び溶接後の溶射層形成と余分な工程を必要とするため、製造にかかる負荷が大きくなり、現実的ではない。
また、被溶接材の拘束方法を変更して作用する引張り応力を緩和させたり、被溶接材の残留応力を事前に低減させるなどの処置も施されている。しかし、この方法も、各種応力量が一定でないために、確実性に欠けるという問題がある。さらに溶接する際の入熱量をできるだけ低くして、発生・残存する熱応力を低減する方法もあるが、溶接する際の入熱量が少ないと十分な溶込みが得られないことがあり、溶接部の接合強度が不安定になるという問題がある。
【0006】
本出願人は、特開2003−3238号公報で、下地鋼の組成と溶融めっき層の組成を特定の組み合わせにすることにより、溶接時の溶融金属脆化割れを抑制する技術に関する提案をした。しかし、Zn系めっき鋼板を適宜形状に成形した後溶接して構造物を構築する際に、溶接時に熱影響部に発生しやすい溶融金属脆化割れを防止する技術について、溶接手法から検討した先行例は少ない。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、Zn系めっき鋼板を溶融溶接する際に、めっき層を予め除去することなく、また入熱量を抑えることなく溶融溶接しても、溶接熱影響部に溶融金属脆化割れが発生することのない溶融溶接方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明のZn系めっき鋼板の溶融溶接方法は、その目的を達成するため、Zn系合金を鋼板表面にめっきしたZn系めっき鋼板を溶融溶接する際に、前記Zn系めっき鋼板の溶接部外側に溶融金属移動阻止用壁を設けたことを特徴とする。
【0008】
【作用】
本発明者等は、Zn系合金をめっきした鋼板を溶融溶接した際に溶接熱影響部近傍に生じる割れ発生状況を、めっき鋼板としてZnめっき鋼板より割れ感受性が若干高いZn−Al−Mg系めっき鋼板を用い、CO2アーク溶接によるすみ肉溶接を行って観察した。
すなわち、図1に示すように、Zn−Al−Mg系めっき鋼板1とめっきを施していない普通鋼2のすみ肉部3を、溶接ワイヤー4を用いてCO2トーチ5によりアーク溶接した。溶接部6を詳しく観察してみると、図2に示すように、割れ9は、溶着金属8の近傍の結晶粒が粗大化した熱影響部7の前記めっき鋼板の表面近傍に発生している。そして、割れの近傍について成分分析を行なったところ、割れ9の側壁には、Znが付着していることがわかった。したがって、その割れ9は、Znによる溶融金属脆化割れであることが判明した。
【0009】
また、溶接後のめっき層の分布状態を見ると、同じく図2に示すように、Zn−Al−Mg系めっき鋼板のめっき原板である母材部が溶融した溶着金属8の上や1000℃以上となる熱影響部7の粗粒域にはめっき層10が点在していた。さらに、熱影響部7以外の領域の前記めっき鋼板表面には、波状になっためっき層11の後には、ほぼ同じ厚みのめっき層12が存在していた。それらのめっき層10,11,12の成分を分析したところ、いずれもZn,Al,Mgを含んでいた。
【0010】
ところで、鋼をアーク溶接した場合、溶着金属8では鋼が溶融している部分であるために1500℃以上となるし、熱影響部7の粗粒域も1000℃以上となることが知られている。これに対して、Zn,Al,Mgの溶融温度は各々420℃,660℃,650℃であり、蒸発温度は各々930℃,2060℃,1107℃である。つまり、溶接時には、溶着金属8の付近や熱影響部7の粗粒域では少なくともZnが蒸発していることになる。したがって、溶着金属8の上や1000℃以上となる熱影響部7の粗粒域に点在するめっき層10は、溶接部6よりも外側のめっき層が再溶融して周辺より流れ込んだ可能性がある。
【0011】
また、アーク溶接では、図3に示すように、溶接ワイヤー13が溶融した溶滴4に通電することによって内向きの電磁力15が発生する。その電磁力15はピンチ力と呼ばれ、溶融金属に電流を流すと発生する。
めっき鋼板上の再溶融しためっき層も溶融金属状態であるため、アーク16により通電されると、上記溶滴と同様に内向きの電磁力が作用することになる。この電磁力によって溶融しためっき金属が溶接部6に近づき、溶着金属8の付近や熱影響部7の粗粒域にめっき層10が点在したものと考えられる。
熱影響部7の粗粒域に溶融金属が存在し、溶接による熱膨張と収縮に起因する熱応力の作用と相俟って、粗粒化した結晶粒界に溶融したZnが極めて容易に浸入し、溶融金属脆化割れが発生したものと推測される。
【0012】
そこで、本発明者等は、溶融金属脆化割れの発生を防止するためには、溶接時に、溶融しためっき金属を堰き止め、溶接部6に近づかないようにすればよいことを見出した。例えば図4に示すように、溶接前のZn−Al−Mg系めっき鋼板の表面で、溶接部6が存在することになる位置の外側に溶融金属移動阻止用壁17を設けて、再溶融して溶融体となっためっき金属を堰き止め、そのめっき金属が溶接部6に近づかないようにした。
実際にその状態で溶接を行ったところ、溶融金属脆化割れは発生せず、溶着金属8の付近や熱影響部7の粗粒域にめっき層10が点在することもなくなった。そして、このような方法で良質の溶接継手を得ることができた。
【0013】
なお、本発明の特徴である溶融金属移動阻止用壁17の設置位置は、Znの蒸発温度が930℃であるから、溶接時にめっき原板の温度が930℃に到達する直前の位置、安全を見込んで900℃に達する以前の位置に設けることが好ましい。
溶融金属移動阻止用壁の材質としては、Zn系めっき鋼板のめっき金属と反応せず900℃以上の耐熱性を有するものであれば種類を問わない。使い易さを考慮するとセラミックスを使用することが好ましい。壁の幅は、Zn系めっき鋼板上に安定して設置できる寸法であればどのような大きさでも良い。しかし壁の高さは、めっき層の厚みで異なってくる。つまり、めっき層が厚い場合には、移動の阻止を必要とするめっき金属の量も増えるため、その分高くする必要がある。例えば、めっき層の厚みが20μmの場合では、壁の高さを1mmにすることによって割れを防止することができた。
【0014】
【実施例】
Zn系めっき鋼板として、Zn−6%Al−3%Mg合金めっき浴に浸漬してZn−Al−Mg合金めっきを施しためっき層厚20μm,板厚4mm,板幅100mm,全長100mmのめっき鋼板を使用した。このめっき鋼板1に、図1に示すような、板厚10mm,幅30mm,高さ40mmの、めっきを施していない普通鋼製の条材2をすみ肉アーク溶接した。
アーク溶接はCO2溶接を用い、溶接電流を220A,溶接電圧を26V,溶接速度を0.3m/分,トーチ角を45度,CO2シールドガスの流量を20l/分とした。溶接ワイヤー4には直径1.2mmのYGW12を用いた。
溶接部6となる領域は、事前に確認したところ、普通鋼条材2の中心から18mmの範囲であったため、普通鋼条材2の中心から18mm離れた位置に幅10mm,高さ5mmのAl2O3製セラミックの壁を設けた。
その状態でアーク溶接した結果、溶融金属脆化割れは発生せず、良好な溶接継手を得ることができた。
【0015】
【比較例】
壁を設けないこと以外は、上記実施例と同じ条件でアーク溶接を行った。
その結果、熱影響部の粗粒域で割れが発生し、その割れの側壁にはZnが付着していた。このことから、壁が設けられていないと、Znによる溶融金属脆化割れが生じていることがわかった。また、溶着金属の付近や熱影響部の粗粒域にZn,Al,Mgを含むめっき層が点在していた。
【0016】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明の方法によると、Zn系合金を鋼板表面にめっきしたZn系めっき鋼板を溶融溶接する際に、当該Zn系めっき鋼板の溶接部外側に溶融金属移動阻止用壁を設けたことにより、溶接時に、溶融しためっき金属が堰き止められ、溶接部6に近づかないので、溶接熱影響部の粗粒結晶粒の粒界に溶融Znが浸透することがなく、溶融金属脆化割れの発生を抑制することが可能となった。
このため、Zn系めっき鋼板、特に耐食性に優れるZn−Al−Mg系めっき鋼板を溶融溶接しても、溶融金属脆化に起因する割れが発生することなく、健全な溶接部をもつ溶接製品が製造される。得られた溶接製品は、Zn系めっき鋼板、特にZn−Al−Mg系めっき鋼板の本来の高耐食性を活用し、各種分野における構造部材等として使用される。
【図面の簡単な説明】
【図1】めっき鋼板上に条材を、アーク溶接法によりすみ肉溶接する態様を説明する図
【図2】めっき鋼板上に条材をすみ肉溶接した際に、熱影響部に発生した溶融金属脆化割れを説明する図
【図3】アーク溶接する際の、電磁力を説明する図
【図4】めっき鋼板上に条材をすみ肉溶接する際に、熱影響部の周辺部に設けた溶融金属移動阻止用壁の作用を説明する図
【符号の説明】
1:Zn系めっき鋼板 2:すみ肉溶接する条材 3:すみ肉溶接部
4:溶接ワイヤー 5:トーチ 6:溶接部 7:溶接熱影響部
8:溶着金属 9:溶融金属脆化割れ 10:めっき層 11:めっき層
12:めっき層 13:溶接ワイヤー 14:溶滴 15:電磁力
16:アーク 17:溶融金属移動阻止用壁
Claims (1)
- Zn系合金を鋼板表面にめっきしたZn系めっき鋼板を溶融溶接する際に、前記Zn系めっき鋼板の溶接部外側に溶融金属移動阻止用壁を設けたことを特徴とするZn系めっき鋼板の溶融溶接方法。
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