JP2004337908A - 貴金属基非平衡合金の表面改質法 - Google Patents
貴金属基非平衡合金の表面改質法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004337908A JP2004337908A JP2003136713A JP2003136713A JP2004337908A JP 2004337908 A JP2004337908 A JP 2004337908A JP 2003136713 A JP2003136713 A JP 2003136713A JP 2003136713 A JP2003136713 A JP 2003136713A JP 2004337908 A JP2004337908 A JP 2004337908A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- alloy
- noble metal
- equilibrium
- cmhg
- forming element
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Images
Landscapes
- Dental Preparations (AREA)
- Continuous Casting (AREA)
Abstract
【課題】貴金属基非平衡合金の医用材料等への応用を実現可能にし、また、貴金属基非平衡合金の特性に基づき各種分野の材料への応用を可能にする。
【解決手段】貴金属元素を50at%以上含有し、かつ酸化物皮膜形成元素又は窒化物形成元素の内の少なくともいずれか一方を含有する貴金属基合金の溶湯から急冷処理する際の雰囲気に反応性ガスを存在させる。
【選択図】 図3
【解決手段】貴金属元素を50at%以上含有し、かつ酸化物皮膜形成元素又は窒化物形成元素の内の少なくともいずれか一方を含有する貴金属基合金の溶湯から急冷処理する際の雰囲気に反応性ガスを存在させる。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、貴金属基非平衡合金の表面改質法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、医用材料をはじめ、各種材料への応用が期待される貴金属基非平衡合金の表面改質法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
これまでに医用材料への応用が試みられている非平衡合金は、Ti基、Zr基等の遷移金属基合金である。だが、遷移金属基合金は、毒性を示す元素を含有する、類似組成を有する結晶性合金の医用材料への応用例がない等の理由により、実用化に向けての課題が多いとされている。
【0003】
一方、結晶性のPt基、Au基等の貴金属基合金は、生体埋込電極や歯科材料等に用いられている。このことから、また、強度、弾性等の機械的性質に優れていることからも、貴金属基非平衡合金の医用材料への応用が考えられる。しかしながら、それについて具体的な検討はまだなされていない。貴金属を含有する非平衡合金についてこの出願の発明者らにより先に提案されているだけである(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
この出願の発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、貴金属基非平衡合金の医用材料等への応用を実現可能にし、また、貴金属基非平衡合金の物性に基づき各種分野の材料としても有効であると期待される貴金属基非平衡合金の表面改質法を提供することを解決すべき課題としている。
【0005】
【特許文献1】
特願2002−258120(未公開)
【0006】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、貴金属元素を50at%以上含有し、かつ酸化物皮膜形成元素又は窒化物形成元素の内の少なくともいずれか一方を含有する貴金属基合金の溶湯から急冷処理する際の雰囲気に反応性ガスを存在させることを特徴とする貴金属基非平衡合金の表面改質法(請求項1)を提供する。
【0007】
またこの出願の発明は、反応性ガスの濃度を変化させ、表面層の組成及び厚さを制御すること(請求項2)を一態様として提供する。
【0008】
以下、実施例を示し、この出願の発明の貴金属基非平衡合金の表面改質法についてさらに詳しく説明する。
【0009】
【発明の実施の形態】
この出願の発明の貴金属基非平衡合金の表面改質法では、上述のとおり、貴金属元素を50at%以上含有し、かつ酸化物皮膜形成元素又は窒化物形成元素の内の少なくともいずれか一方を含有する貴金属基合金の溶湯から急冷処理する際の雰囲気に反応性ガスを存在させる。貴金属元素としては、Au、Pt、Pd等が例示される。また、酸化物皮膜形成元素としてはSi、Cr等が、窒化物形成元素としてはTi等がそれぞれ例示される。
【0010】
この出願の発明の貴金属基非平衡合金の表面改質法では、たとえば以上に例示される貴金属元素を50at%以上含有し、かつ酸化物皮膜形成元素又は窒化物形成元素のうちの少なくともいずれか一方を含有する貴金属基合金の溶湯から急冷処理により貴金属基非平衡合金を作製する際に、雰囲気に反応性ガスを存在させる。反応性ガスとしては、酸素、水蒸気、窒素等が例示される。このように、雰囲気に反応性ガスを存在させることにより、急冷処理時に貴金属基非平衡合金の表面に反応性ガスが取り込まれ、酸化物や窒化物等が形成され、改質された表面層が十分な厚みで得られる。
【0011】
これまでの非平衡合金の作製においては、急冷処理はAr等の希ガス雰囲気で行われていた。この場合にも合金表面には酸化皮膜が形成されることがあるが、形成された酸化皮膜を十分な厚みに成長させるためには、次いで高温酸化処理、アノード酸化処理等を行う必要がある。この出願の発明の貴金属基非平衡合金の表面改質法では、急冷処理により得られる表面層は、酸化皮膜の場合でも十分な厚さのものとなり、従来のように2段階の工程を経ずに改質された表面層を容易に得ることができる。また、上記高温酸化処理等には結晶化等の構造変化が起こる可能性が高いという問題があるが、この出願の発明の貴金属基非平衡合金の表面改質法にはそのような問題はない。
【0012】
そして、この出願の発明の貴金属基非平衡合金の表面改質法では、急冷処理時の雰囲気中の反応性ガスの濃度を変化させることにより、表面層の組成及び厚さを制御することができる。貴金属基非平衡合金の表面改質は簡便に制御される。
【0013】
【実施例】
アーク溶解炉を用い、56cmHgのArガス中で5gのボタン合金(Pd78Si16Cu6(at%)、Pd74Si20Cu6(at%)、Pd76Si16Cu6Ti2(at%))を作製した。得られたボタン合金を破砕機で砕き、内径10mmの石英製ノズル内に詰め、この石英製ノズルを銅製単ロール液体急冷装置のチャンバーに設置した。
【0014】
チャンバー内を一旦10−6Torr台まで真空にした後、純Ar、純N2、4%O2/N2、10%O2/N2、20%O2/N2をそれぞれ26cmHgまで満たした状態及び20%O2/N2を76cmHgまで満たした状態で高周波炉により合金を溶かし、次いで1〜1.5kgfcm−2のArガスにより2000rpmで回転している銅製単ロールの端面に吹き付け、急冷処理を行った。幅1.0〜3.5mm、厚さ30〜45μmのリボン状合金が得られた。このようにして作製した試作合金の組成及び急冷処理の雰囲気は表1に示したとおりである。
【0015】
【表1】
試作合金について、X線回折を、CuKα線を用い、2θ/θ=20〜80°まで2°/minの条件において行った。得られたX線回折パターンは図1に示したとおりである。Pd76Si16Cu6Ti2以外の試作合金は、いずれも非平衡合金に特有なブロードなパターンを示しており、このパターンから非平衡合金であることが確認される。Pd76Si16Cu6Ti2については、ブロードなパターン中に結晶相の存在を示すピークが1本現れているが、結晶相は微細であると考えられる。
【0016】
オージェ電子分光法により、26cmHg−N2、4%O2/N2、10%O2/N2、20%O2/N2中で急冷処理したPd78Si16Cu6、Pd74Si20Cu6及びPd76Si16Cu6Ti2の表面から深さ方向の組成分析を行った。図2は、26cmHg−N2中で急冷処理したPd78Si16Cu6及びPd76Si16Cu6Ti2のAESスペクトルである。合金元素であるPd、Si、Cu及びTiに加え、C、O及びNが検出された。他の試作合金についても同様の元素が検出された。各元素の濃度を求め、表面からの深さとの関係を図3に示した。Cは不純物であると考えられる。図4は、図3からO、N及びTiの濃度のみを抜粋したグラフである。図4により明確に示されているように、表面での酸素濃度及び酸化物層の厚さは、急冷時の雰囲気中の酸素濃度の増加にともなって増加している。また、合金中のSi濃度の高い方が表面での酸素濃度が高く、酸化物層の厚さが厚い。また、図4からは、急冷時の雰囲気中の窒素濃度の高い方が表面での窒素濃度が高く、合金にTiを添加すると、表面での窒素濃度が増加することが確認される。
【0017】
X線光電子分光法により、26cmHg−N2中で急冷処理したPd78Si16Cu6及びPd76Si16Cu6Ti2の表面層の化学状態を分析した。N 1sスペクトル領域では、398.5〜398.8eV及び401.1〜401.4eVにピークが現れた。398.5〜398.8eVのピークは窒化物に、401.1〜401.4eVのピークは酸化物に帰属される。このことから、急冷時の雰囲気にN2を存在させることにより、非平衡合金の表面層に窒化物が形成されることが確認される。
【0018】
また、X線光電子分光法により、26cmHg−Ar中及び76cmHg−20%O2/N2中で急冷処理したPd78Si16Cu6の表面組成分析を行った。図5は、酸化物層の厚さを比較したグラフである。この図5から明らかであるように、表面の酸化物層の厚さは、76cmHg−20%O2/N2中で急冷処理したPd78Si16Cu6の方が厚い。
【0019】
そして、37度に調整し、窒素ガスにより脱気したHanks’溶液中で、76cmHg−20%O2/N2中で急冷処理した試作合金及び26cmHg−Ar中で急冷処理した試作合金の耐食性試験を行った。その時のアノード分極曲線を図6に示した。各試作合金について2回ずつ測定した。いずれの試作合金も0〜0.9V(vs. SCE)間に不働態域を示した。図6のアノード分極曲線に示されているように、76cmHg−20%O2/N2中で急冷処理した試作合金の方が26cmHg−Ar中で急冷処理した試作合金よりも低い電流密度を示した。また、26cmHg−Ar中で急冷処理した試作合金では、1.2〜1.7Vに電流密度の大きい領域が現れたが、76cmHg−20%O2/N2中で急冷処理した試作合金ではそのように電流密度の大きい領域は現れなかった。以上より、76cmHg−20%O2/N2中で急冷処理した試作合金の方が表面の酸化物層が厚く、丈夫であり、疑似体液中で高い耐食性を示すことが確認される。
【0020】
もちろん、この出願の発明は、以上の実施形態及び実施例によって限定されるものではない。合金の組成及び作製方法、反応性ガスの種類及び濃度等の細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。
【0021】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、貴金属基非平衡合金の医用材料等への応用が実現可能となり、また、これのみにとどまらず、貴金属基非平衡合金の物性に基づき各種分野の材料への応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例において試作合金について得られたX線回折パターンである。
【図2】実施例において26cmHg−N2中で急冷処理したPd78Si16Cu6及びPd76Si16Cu6Ti2のAESスペクトルである。
【図3】実施例において作製した試作合金における各元素の濃度と表面からの深さとの関係を示したグラフである。
【図4】図3からO、N及びTiの濃度のみを抜粋したグラフである。
【図5】実施例において、26cmHg−Ar中及び76cmHg−20%O2/N2中で急冷処理したPd78Si16Cu6の表面の酸化物層の厚さを比較したグラフである。
【図6】実施例において、76cmHg−20%O2/N2中で急冷処理した試作合金及び26cmHg−Ar中で急冷処理した試作合金の擬似体液を用いた耐食試験により得られたアノード分極曲線である。
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、貴金属基非平衡合金の表面改質法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、医用材料をはじめ、各種材料への応用が期待される貴金属基非平衡合金の表面改質法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
これまでに医用材料への応用が試みられている非平衡合金は、Ti基、Zr基等の遷移金属基合金である。だが、遷移金属基合金は、毒性を示す元素を含有する、類似組成を有する結晶性合金の医用材料への応用例がない等の理由により、実用化に向けての課題が多いとされている。
【0003】
一方、結晶性のPt基、Au基等の貴金属基合金は、生体埋込電極や歯科材料等に用いられている。このことから、また、強度、弾性等の機械的性質に優れていることからも、貴金属基非平衡合金の医用材料への応用が考えられる。しかしながら、それについて具体的な検討はまだなされていない。貴金属を含有する非平衡合金についてこの出願の発明者らにより先に提案されているだけである(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
この出願の発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、貴金属基非平衡合金の医用材料等への応用を実現可能にし、また、貴金属基非平衡合金の物性に基づき各種分野の材料としても有効であると期待される貴金属基非平衡合金の表面改質法を提供することを解決すべき課題としている。
【0005】
【特許文献1】
特願2002−258120(未公開)
【0006】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、貴金属元素を50at%以上含有し、かつ酸化物皮膜形成元素又は窒化物形成元素の内の少なくともいずれか一方を含有する貴金属基合金の溶湯から急冷処理する際の雰囲気に反応性ガスを存在させることを特徴とする貴金属基非平衡合金の表面改質法(請求項1)を提供する。
【0007】
またこの出願の発明は、反応性ガスの濃度を変化させ、表面層の組成及び厚さを制御すること(請求項2)を一態様として提供する。
【0008】
以下、実施例を示し、この出願の発明の貴金属基非平衡合金の表面改質法についてさらに詳しく説明する。
【0009】
【発明の実施の形態】
この出願の発明の貴金属基非平衡合金の表面改質法では、上述のとおり、貴金属元素を50at%以上含有し、かつ酸化物皮膜形成元素又は窒化物形成元素の内の少なくともいずれか一方を含有する貴金属基合金の溶湯から急冷処理する際の雰囲気に反応性ガスを存在させる。貴金属元素としては、Au、Pt、Pd等が例示される。また、酸化物皮膜形成元素としてはSi、Cr等が、窒化物形成元素としてはTi等がそれぞれ例示される。
【0010】
この出願の発明の貴金属基非平衡合金の表面改質法では、たとえば以上に例示される貴金属元素を50at%以上含有し、かつ酸化物皮膜形成元素又は窒化物形成元素のうちの少なくともいずれか一方を含有する貴金属基合金の溶湯から急冷処理により貴金属基非平衡合金を作製する際に、雰囲気に反応性ガスを存在させる。反応性ガスとしては、酸素、水蒸気、窒素等が例示される。このように、雰囲気に反応性ガスを存在させることにより、急冷処理時に貴金属基非平衡合金の表面に反応性ガスが取り込まれ、酸化物や窒化物等が形成され、改質された表面層が十分な厚みで得られる。
【0011】
これまでの非平衡合金の作製においては、急冷処理はAr等の希ガス雰囲気で行われていた。この場合にも合金表面には酸化皮膜が形成されることがあるが、形成された酸化皮膜を十分な厚みに成長させるためには、次いで高温酸化処理、アノード酸化処理等を行う必要がある。この出願の発明の貴金属基非平衡合金の表面改質法では、急冷処理により得られる表面層は、酸化皮膜の場合でも十分な厚さのものとなり、従来のように2段階の工程を経ずに改質された表面層を容易に得ることができる。また、上記高温酸化処理等には結晶化等の構造変化が起こる可能性が高いという問題があるが、この出願の発明の貴金属基非平衡合金の表面改質法にはそのような問題はない。
【0012】
そして、この出願の発明の貴金属基非平衡合金の表面改質法では、急冷処理時の雰囲気中の反応性ガスの濃度を変化させることにより、表面層の組成及び厚さを制御することができる。貴金属基非平衡合金の表面改質は簡便に制御される。
【0013】
【実施例】
アーク溶解炉を用い、56cmHgのArガス中で5gのボタン合金(Pd78Si16Cu6(at%)、Pd74Si20Cu6(at%)、Pd76Si16Cu6Ti2(at%))を作製した。得られたボタン合金を破砕機で砕き、内径10mmの石英製ノズル内に詰め、この石英製ノズルを銅製単ロール液体急冷装置のチャンバーに設置した。
【0014】
チャンバー内を一旦10−6Torr台まで真空にした後、純Ar、純N2、4%O2/N2、10%O2/N2、20%O2/N2をそれぞれ26cmHgまで満たした状態及び20%O2/N2を76cmHgまで満たした状態で高周波炉により合金を溶かし、次いで1〜1.5kgfcm−2のArガスにより2000rpmで回転している銅製単ロールの端面に吹き付け、急冷処理を行った。幅1.0〜3.5mm、厚さ30〜45μmのリボン状合金が得られた。このようにして作製した試作合金の組成及び急冷処理の雰囲気は表1に示したとおりである。
【0015】
【表1】
試作合金について、X線回折を、CuKα線を用い、2θ/θ=20〜80°まで2°/minの条件において行った。得られたX線回折パターンは図1に示したとおりである。Pd76Si16Cu6Ti2以外の試作合金は、いずれも非平衡合金に特有なブロードなパターンを示しており、このパターンから非平衡合金であることが確認される。Pd76Si16Cu6Ti2については、ブロードなパターン中に結晶相の存在を示すピークが1本現れているが、結晶相は微細であると考えられる。
【0016】
オージェ電子分光法により、26cmHg−N2、4%O2/N2、10%O2/N2、20%O2/N2中で急冷処理したPd78Si16Cu6、Pd74Si20Cu6及びPd76Si16Cu6Ti2の表面から深さ方向の組成分析を行った。図2は、26cmHg−N2中で急冷処理したPd78Si16Cu6及びPd76Si16Cu6Ti2のAESスペクトルである。合金元素であるPd、Si、Cu及びTiに加え、C、O及びNが検出された。他の試作合金についても同様の元素が検出された。各元素の濃度を求め、表面からの深さとの関係を図3に示した。Cは不純物であると考えられる。図4は、図3からO、N及びTiの濃度のみを抜粋したグラフである。図4により明確に示されているように、表面での酸素濃度及び酸化物層の厚さは、急冷時の雰囲気中の酸素濃度の増加にともなって増加している。また、合金中のSi濃度の高い方が表面での酸素濃度が高く、酸化物層の厚さが厚い。また、図4からは、急冷時の雰囲気中の窒素濃度の高い方が表面での窒素濃度が高く、合金にTiを添加すると、表面での窒素濃度が増加することが確認される。
【0017】
X線光電子分光法により、26cmHg−N2中で急冷処理したPd78Si16Cu6及びPd76Si16Cu6Ti2の表面層の化学状態を分析した。N 1sスペクトル領域では、398.5〜398.8eV及び401.1〜401.4eVにピークが現れた。398.5〜398.8eVのピークは窒化物に、401.1〜401.4eVのピークは酸化物に帰属される。このことから、急冷時の雰囲気にN2を存在させることにより、非平衡合金の表面層に窒化物が形成されることが確認される。
【0018】
また、X線光電子分光法により、26cmHg−Ar中及び76cmHg−20%O2/N2中で急冷処理したPd78Si16Cu6の表面組成分析を行った。図5は、酸化物層の厚さを比較したグラフである。この図5から明らかであるように、表面の酸化物層の厚さは、76cmHg−20%O2/N2中で急冷処理したPd78Si16Cu6の方が厚い。
【0019】
そして、37度に調整し、窒素ガスにより脱気したHanks’溶液中で、76cmHg−20%O2/N2中で急冷処理した試作合金及び26cmHg−Ar中で急冷処理した試作合金の耐食性試験を行った。その時のアノード分極曲線を図6に示した。各試作合金について2回ずつ測定した。いずれの試作合金も0〜0.9V(vs. SCE)間に不働態域を示した。図6のアノード分極曲線に示されているように、76cmHg−20%O2/N2中で急冷処理した試作合金の方が26cmHg−Ar中で急冷処理した試作合金よりも低い電流密度を示した。また、26cmHg−Ar中で急冷処理した試作合金では、1.2〜1.7Vに電流密度の大きい領域が現れたが、76cmHg−20%O2/N2中で急冷処理した試作合金ではそのように電流密度の大きい領域は現れなかった。以上より、76cmHg−20%O2/N2中で急冷処理した試作合金の方が表面の酸化物層が厚く、丈夫であり、疑似体液中で高い耐食性を示すことが確認される。
【0020】
もちろん、この出願の発明は、以上の実施形態及び実施例によって限定されるものではない。合金の組成及び作製方法、反応性ガスの種類及び濃度等の細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。
【0021】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、貴金属基非平衡合金の医用材料等への応用が実現可能となり、また、これのみにとどまらず、貴金属基非平衡合金の物性に基づき各種分野の材料への応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例において試作合金について得られたX線回折パターンである。
【図2】実施例において26cmHg−N2中で急冷処理したPd78Si16Cu6及びPd76Si16Cu6Ti2のAESスペクトルである。
【図3】実施例において作製した試作合金における各元素の濃度と表面からの深さとの関係を示したグラフである。
【図4】図3からO、N及びTiの濃度のみを抜粋したグラフである。
【図5】実施例において、26cmHg−Ar中及び76cmHg−20%O2/N2中で急冷処理したPd78Si16Cu6の表面の酸化物層の厚さを比較したグラフである。
【図6】実施例において、76cmHg−20%O2/N2中で急冷処理した試作合金及び26cmHg−Ar中で急冷処理した試作合金の擬似体液を用いた耐食試験により得られたアノード分極曲線である。
Claims (2)
- 貴金属元素を50at%以上含有し、かつ酸化物皮膜形成元素又は窒化物形成元素の内の少なくともいずれか一方を含有する貴金属基合金の溶湯から急冷処理する際の雰囲気に反応性ガスを存在させることを特徴とする貴金属基非平衡合金の表面改質法。
- 反応性ガスの濃度を変化させ、表面層の組成及び厚さを制御する請求項1記載の貴金属基非平衡合金の表面改質法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003136713A JP2004337908A (ja) | 2003-05-15 | 2003-05-15 | 貴金属基非平衡合金の表面改質法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003136713A JP2004337908A (ja) | 2003-05-15 | 2003-05-15 | 貴金属基非平衡合金の表面改質法 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004337908A true JP2004337908A (ja) | 2004-12-02 |
Family
ID=33526563
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2003136713A Pending JP2004337908A (ja) | 2003-05-15 | 2003-05-15 | 貴金属基非平衡合金の表面改質法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004337908A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2011516734A (ja) * | 2008-04-09 | 2011-05-26 | バイオピーエム、アクティエボラーグ | 貴金属合金物体の製造方法 |
-
2003
- 2003-05-15 JP JP2003136713A patent/JP2004337908A/ja active Pending
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2011516734A (ja) * | 2008-04-09 | 2011-05-26 | バイオピーエム、アクティエボラーグ | 貴金属合金物体の製造方法 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
Vojtěch et al. | Surface treatment of NiTi shape memory alloy and its influence on corrosion behavior | |
Pequegnat et al. | Surface characterizations of laser modified biomedical grade NiTi shape memory alloys | |
JP6199897B2 (ja) | ニッケル−チタン−希土類金属(Ni−Ti−RE)焼結合金を製造するための粉末混合物 | |
Zhang et al. | Vacuum induction melting of ternary NiTiX (X= Cu, Fe, Hf, Zr) shape memory alloys using graphite crucibles | |
CN108531762A (zh) | 一种基于多种非晶合金前驱体制备的纳米多孔AgCu超饱和固溶体合金及方法 | |
Nascimento et al. | Passive film composition and stability of CoCrFeNi and CoCrFeNiAl high entropy alloys in chloride solution | |
CN107620016B (zh) | 一种含Si元素的Ti基非晶合金及其制备方法 | |
EP1752551A1 (en) | High melting point metal based alloy material exhibiting high strength and high crystallization temperature and method for production thereof | |
JP4515596B2 (ja) | バルク状非晶質合金、バルク状非晶質合金の製造方法、および高強度部材 | |
JP2004337908A (ja) | 貴金属基非平衡合金の表面改質法 | |
TW201204840A (en) | Tantalum-based sintered body sputtering target and process for production thereof | |
NO162728B (no) | Fremgangsmaate for fremstilling av en varmeresistent legering eller superlegering som har en struktur med grove langstrakte korn. | |
JP3737056B2 (ja) | 高強度Zr基金属ガラス | |
JP4974834B2 (ja) | ろう付け材料 | |
JP4537957B2 (ja) | 表面にAlN域を有するアルミニウム材料及びその製造方法 | |
JPS62294142A (ja) | ニツケル−チタン合金の製造方法 | |
JPH07126817A (ja) | 非晶質金属細線 | |
JP2008174778A (ja) | アルミニウム材料の表面処理方法及びアルミニウム材料 | |
Lone et al. | Effect of Chromium and Molybdenum Increment on the Crystal Structure, Nanoindentation, and Corrosion Properties of Cobalt‐Based Alloys | |
TWI272316B (en) | Method for producing a high-entropy alloy film | |
Wu et al. | Gas nitriding of an equiatomic TiNi shape-memory alloy: Part I: Nitriding parameters and microstructure characterization | |
US7381368B2 (en) | Palladium-boron alloys and methods for making and using such alloys | |
Wu et al. | Ion nitriding of TiNi shape memory alloys I. Nitriding parameters and microstructure characterization | |
JP2003508628A (ja) | 塊状金属成形体上への塊状非晶質層の製法 | |
JP2006274423A (ja) | 磁歪素子の製造方法 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A977 | Report on retrieval |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007 Effective date: 20050307 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20060411 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20060602 |
|
A02 | Decision of refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02 Effective date: 20061219 |