JP2004328357A - アダプティブアレーアンテナシステム、無線装置およびアレーアンテナ指向性制御方法 - Google Patents
アダプティブアレーアンテナシステム、無線装置およびアレーアンテナ指向性制御方法 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】複数のアンテナ素子1−1〜Nからなるアレーアンテナにより受信された受信信号に含まれるトレーニング信号から所望信号の到来方向の位相情報を算出する位相算出部7と、受信信号に基づく振幅を算出する振幅算出部8と、前記算出された位相情報と振幅とから第1の重み係数(方向ウエイト)を算出する方向ウエイト及び2乗誤差算出部9とを備える。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アダプティブアレーアンテナシステム、無線装置およびアレーアンテナ指向性制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、無線通信では、建物などの障害物により電波の反射、回析、散乱が起こる。このため、無線伝搬路は多重伝搬路となるために、多重波によるマルチパスフェージングが発生し、通信品質が悪化する。そこで、これらの悪影響を軽減するために、アダプティブアレーアンテナシステムが無線装置、例えば無線基地局や移動局に備えられている。
【0003】
アダプティブアレーアンテナシステムでは、複数のアンテナ素子を配置したアレーアンテナを備え、このアレーアンテナで受信した信号を適応信号処理により指向性パターンを形成し受信している。これにより、所望波の到来方向に受信指向性パターンを形成し、且つ遅延波などの干渉波の到来方向には指向性パターンのヌルを形成して干渉波を抑圧することができ、この結果として通信品質が改善されている。また、送信時に上記した指向性パターンを適用すれば、送信相手以外の無線装置に対する干渉を低減でき、且つ送信電力の軽減を図ることができるなどの利点がある。
【0004】
上記したアダプティブアレーアンテナシステムの適応信号処理には、MMSE(Minimum Mean Square Error:最小2乗誤差法)などに基づく適応アルゴリズムが使用される。MMSEベースの適応アルゴリズムとしては、例えばLMS(Least Mean Square)やRLS(Recursive Least−Squares)などが知られている。このMMSEベースの適応アルゴリズムによる適応信号処理では、無線装置内部で生成したローカルの参照信号と受信信号中のトレーニング信号との差から平均2乗誤差を求め、この誤差の値を最小にするように受信信号の位相と振幅を制御するためのウエイト(重み係数)を計算する(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
【非特許文献1】
菊間信良著,「アレーアンテナによる適応信号処理」,株式会社科学技術出版,1998年11月,p.35−64
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上述した従来の技術では、以下に示す問題がある。
MMSEベースの適応アルゴリズム、例えばLMSアルゴリズムを用いた適応信号処理では、ウエイト更新の割合を調整するためにステップサイズ(μ)が使用される。そして、このステップサイズμが適切な値に設定されないと、受信された所望信号と干渉信号の電力差が大きい場合には、適切なウエイトが得られず、通信品質の改善度が低下する。したがって、常にステップサイズμを適切な値に設定することが通信品質を良好に保つ上で重要であるが、常に適切なステップサイズμの値を得ることは難しい。
【0007】
例えば、一般的にステップサイズμの値が小さい場合は、最適なウエイトに至るまでの収束時間は遅いが、収束したときの平均2乗誤差は安定して平均的に小さくなる。しかし、周辺の電波環境の変動が激しいフェージング環境下では、フェージングの変化に適応信号処理が追従できなくなって平均2乗誤差が大きくなり、収束しない等の不具合が発生し、この結果として受信品質特性の改善効果があまり得られなくなる。
一方、ステップサイズμの値が大きい場合には、収束時間は速くなり、フェージングの変化に対する追従性は良くなるが、適応信号処理後の平均2乗誤差は大きくなり、この結果、収束できず発散する虞がある。
【0008】
したがって、移動通信のように無線伝搬環境が変動する場合には、ステップサイズμの値として常に適切な値を選択することは難しく、このため常に適切なウエイトが得られず、通信品質の改善度が低下するという問題が生じている。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、常に適切なウエイト(重み係数)に基づいて受信処理することにより、通信品質の向上を図ることができるアダプティブアレーアンテナシステムおよびアレーアンテナ指向性制御方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、そのアダプティブアレーアンテナシステムを備えた無線装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載のアダプティブアレーアンテナシステムは、複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナにより無線信号を受信し、この受信信号を前記アレーアンテナの指向性パターンを形成するための重み係数により重み付けするアダプティブアレーアンテナシステムにおいて、前記受信信号に含まれるトレーニング信号から所望信号の到来方向の位相情報を算出する位相算出手段と、前記受信信号に基づく振幅を算出する振幅算出手段と、前記算出された位相情報と振幅とから第1の重み係数を算出する第1の重み係数算出手段とを備えたことを特徴としている。
【0012】
請求項2に記載のアダプティブアレーアンテナシステムにおいては、適応信号処理により、前記受信信号に含まれるトレーニング信号から第2の重み係数を算出する第2の重み係数算出手段と、前記算出された第1の重み係数または第2の重み係数の内、いずれか最適な重み係数を選択する選択手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載のアダプティブアレーアンテナシステムにおいては、適応信号処理により、前記受信信号に含まれるトレーニング信号から第2の重み係数を算出する第2の重み係数算出手段と、前記算出された第1の重み係数により前記受信信号を重み付けして第1のアレー出力信号を生成する第1の信号生成手段と、前記算出された第2の重み係数により前記受信信号を重み付けして第2のアレー出力信号を生成する第2の信号生成手段と、前記第1のアレー出力信号または前記第2のアレー出力信号の内、いずれか最適なアレー出力信号を選択する選択手段とを備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載のアダプティブアレーアンテナシステムにおいては、前記選択手段は、前記第1の重み係数による重み付け結果と前記トレーニング信号に対応する所定の参照信号との誤差、及び前記第2の重み係数による重み付け結果と前記参照信号との誤差に基づいて選択することを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載のアダプティブアレーアンテナシステムにおいては、前記第1の重み係数による重み付け結果から受信品質特性を測定し、また、前記第2の重み係数による重み付け結果から受信品質特性を測定する受信品質特性測定手段を備え、前記選択手段は、前記受信品質特性測定手段の測定結果に基づいて選択することを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載のアダプティブアレーアンテナシステムにおいては、前記第1のアレー出力信号から受信品質特性を測定し、また、前記第2のアレー出力信号から受信品質特性を測定する受信品質特性測定手段を備え、前記選択手段は、前記受信品質特性測定手段の測定結果に基づいて選択することを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載のアダプティブアレーアンテナシステムにおいては、前記振幅算出手段は、前記第2の重み係数から振幅を算出することを特徴とする。
【0018】
請求項8に記載の無線装置は、請求項1乃至請求項7のいずれかの項に記載のアダプティブアレーアンテナシステムを備え、前記アダプティブアレーアンテナシステムにより無線通信することを特徴としている。
【0019】
請求項9に記載のアレーアンテナ指向性制御方法は、複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナにより受信された信号を前記アレーアンテナの指向性パターンを形成するための重み係数により重み付けするアレーアンテナ指向性制御方法であって、前記受信信号に含まれるトレーニング信号から所望信号の到来方向の位相情報を算出する位相算出過程と、前記受信信号に基づく振幅を算出する振幅算出過程と、前記算出された位相情報と振幅とから第1の重み係数を算出する第1の重み係数算出過程とを含むことを特徴としている。
【0020】
請求項10に記載のアレーアンテナ指向性制御方法においては、適応信号処理により、前記受信信号に含まれるトレーニング信号から第2の重み係数を算出する第2の重み係数算出過程と、前記算出された第1の重み係数または第2の重み係数の内、いずれか最適な重み係数を選択する選択過程とを含むことを特徴とする。
【0021】
請求項11に記載のアレーアンテナ指向性制御方法においては、適応信号処理により、前記受信信号に含まれるトレーニング信号から第2の重み係数を算出する第2の重み係数算出過程と、前記算出された第1の重み係数により前記受信信号を重み付けして第1のアレー出力信号を生成する第1の信号生成過程と、前記算出された第2の重み係数により前記受信信号を重み付けして第2のアレー出力信号を生成する第2の信号生成過程と、前記第1のアレー出力信号または前記第2のアレー出力信号の内、いずれか最適なアレー出力信号を選択する選択過程とを含むことを特徴とする。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態を説明する。なお、本実施形態では、無線通信方式として、符号分割多元接続(CDMA)方式を例に挙げて説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態によるアダプティブアレーアンテナシステムの構成を示すブロック図である。図1に示すアダプティブアレーアンテナシステムは、CDMA方式の無線通信システムにおいて、例えば無線基地局に具備されるものであり、移動局から送信された無線信号を複数のアンテナ素子1−1〜Nからなるアレーアンテナを用いて受信し、この受信信号x1〜xNをアレーアンテナの指向性パターンを形成するためのウエイトw1〜wN(重み係数)で重み付けして合成し、アレー出力信号yを生成するものである。
【0023】
図1において、無線送受信部2は、アンテナ素子1−1〜Nにより送信と受信を行う。なお、図1においては送信機能に係る他のブロックは省略している。無線送受信部2は、アンテナ素子1−1〜NからのN個の受信信号を、増幅してベースバンド信号へ変換後、デジタル信号に変換し、受信信号x1〜xNとして出力する。これら受信信号x1〜xNはアンテナ素子1−1〜Nにそれぞれ対応している。
【0024】
信号検出部3は、受信信号x1〜xNの中から任意の一つを用いてパス検出を行い、所望信号のパスタイミング(フィンガー)を出力する。
方向ベクトル検出部4は、受信信号x1〜xNに対して逆拡散符号(PN符号)により逆拡散処理を行い、受信信号x1〜xNに含まれるアンテナ素子個別のパイロット信号z1〜zNを個々に抽出して出力する。この方向ベクトル検出部4は、信号検出部3で検出されたパスタイミング(フィンガー)により、受信信号x1〜xNの逆拡散処理をそれぞれ実行する。このようにして抽出されたパイロット信号z1〜zNは、所望信号の到来方向を示す方向ベクトル[z1,…,zN]となる。
なお、本発明の「トレーニング信号」はアダプティブアレーアンテナ処理において使用される名称であり、CDMAシステムではパイロット信号がトレーニング信号として使用される。このような理由から、本実施形態では「トレーニング信号」のことを「パイロット信号」と称して説明する。
【0025】
ここで、方向ベクトル検出部4が受信信号x1〜xNからパイロット信号z1〜zNを抽出することにより方向ベクトルを検出する処理を説明する。
先ず、アンテナ素子1−i(i;1〜Nのいずれかの整数)に対応する受信信号xiは(1)式のように表すことができる。
【0026】
【数1】
【0027】
但し、Aiはアンテナ素子1−iの出力振幅、PI(t)、PQ(t)はそれぞれ拡散符号(PN符号)の実部、虚部である(添字のI,Qはそれぞれ実部、虚部を意味する)。ejPN(t)=PI(t)+jPQ(t)、ej θ iは無線信号の到来方向による位相成分である。AiejPN(t)ej θ i部分はパイロットチャネル信号を表し、s(t)はパイロットチャネル以外のチャネル信号(SYNC,Paging,Traffic等)を表す。
CDMA方式の移動通信の仕様上、(1)式にs(t)で表すパイロットチャネル以外のチャネル信号は、パイロットチャネル信号と直交するので、逆拡散後、0になる。このため説明の便宜上、xiにはパイロットチャネル信号しか含まれないと仮定する。すると、xiは(2)式に示すようになる。
【0028】
【数2】
【0029】
方向ベクトル検出部4は、信号検出部3からのパスタイミング(フィンガー)により、(1)式の受信信号xiに対して所定の逆拡散符号(PN符号)により逆拡散を行い、逆拡散後のパイロット信号ziを求める。この逆拡散後のパイロット信号ziは(3)式で表すことができる。
【0030】
【数3】
【0031】
但し、Tは逆拡散計算範囲、e−jPN(t)は逆拡散符号、ej αはパス検出時に用いたアンテナ素子の固有位相誤差などによる固定の未知位相成分である。
この(3)式に(2)式のxiを代入すると、ziは(4)式に示すようになる。
【0032】
【数4】
【0033】
方向ベクトル検出部4は、上記処理をアンテナ素子1−1〜Nに対して行い、z1〜zNを求める。これらz1〜zNからなるベクトル[z1,…,zN]=[A1ej θ 1,…,ANej θ N]Tej αは方向ベクトルとなる。個別のzi(i;1〜Nのいずれかの整数)は方向ベクトルの要素という。また、(3)式中のej αは方向ベクトルに対して影響がないので、「α=0」すなわち「ej α=1」と仮定する。
【0034】
なお、本実施形態のように、受信信号xiがデジタル化された離散値の場合には、受信信号xiは(5)式のように表される。
【0035】
【数5】
【0036】
但し、Tsはサンプリング周期、nはサンプリング番号である。
また、逆拡散後のパイロット信号zi、つまり方向ベクトルの要素は、(6)式で求められる。
【0037】
【数6】
【0038】
但し、Mは逆拡散計算の範囲である。
【0039】
次に、図1において、適応信号処理部5は、MMSEベースの適応アルゴリズム、例えばLMSアルゴリズムを用いて適応信号処理を行うものである。この適応信号処理部5では、受信パイロット信号からのz1〜zNに基づいて、アレーアンテナの最適な指向性パターンを形成するためのウエイトwa1〜waNが算出される。信号合成部6aは、アンテナ素子1−1〜Nに各々対応して設けられているN個の乗算器11と1個の加算器12から構成される。信号合成部6aにおいて、z1〜zNは、各乗算器11によってそれぞれ対応するウエイトwa1〜waNが乗じられて重み付けされた後、加算器12によって加算されて合成される。この合成後の信号gは適応信号処理部5へ出力される。
【0040】
適応信号処理部5では、(7)式によりウエイトベクトルWaが算出される。
但し、ウエイトベクトルWa=[wa1,…,waN]T、
方向ベクトルZ=[z1,…,zN]T、
rはトレーニング信号に対応する所定の参照信号、
eは参照信号rと信号gの差である誤差信号、
mは適応信号処理の更新回数、
μはウエイト更新の割合を調整するためのステップサイズ、
Tは転置の表記、
Hは複素共役転置の表記、
*は複素共役の表記、
である。
【0041】
また、適応信号処理部5では、(8)式により2乗誤差eaが算出される。この2乗誤差eaはウエイト選択部10へ出力される。
ea=|r−WaH・Z|2 ・・・(8)
【0042】
なお、上記(7),(8)式は、CDMA方式では参照信号rはパイロット信号「1」であるので、(9),(10)式となる。
【0043】
位相算出部7は、方向ベクトルZの位相から角度情報θ1〜θNを算出し、さらに位相情報Ph1〜PhNを算出して出力する。ここで、(4)式のパイロット信号ziの角度情報θiが(11)式により算出される(「α=0」と仮定する)。
【0044】
【数7】
【0045】
但し、Re(zi)はziの実数部、Im(zi)はziの虚数部である。
【0046】
そして、位相情報Phiが(12)式により算出される。
但し、sing()は()内の値の符号を表す。
上記(12)式に示されるように、位相情報Phiにはziの符号が反映される。
【0047】
振幅算出部8は、適応信号処理部5で算出されたウエイトwa1〜waNを使用して、受信信号に基づく振幅A1〜ANを算出する。ここで、使用されるウエイトwa1〜waNは、適応信号処理中の随時の値(収束途上の値)でよい。振幅は最適なウエイトの振幅に近ければ速く収束する。このため、適応信号処理部8により算出されたウエイトwa1〜waNを使用することにより、収束に向かっている最適なウエイトに近い値(ウエイト)から振幅を求めることができるとともに、構成を簡略化できる。振幅の算出方法としては、(13)式により算出する方法や(14)式により算出する方法などがある。
【0048】
Ai=(|wai|2)1/2 ・・・(13)
この(13)式によれば、瞬時値またはあるサンプル値として振幅が算出される。
【0049】
【数8】
【0050】
この(14)式によれば、有限個(k個)のウエイトサンプルの平均値として振幅が算出される。
【0051】
方向ウエイト及び2乗誤差算出部9は、位相情報Ph1〜PhNと振幅A1〜ANから方向ウエイトwd1〜wdNを(15)式により算出する。
wdi=Ai・Phi=Ai・expjθi ・・・(15)
次いで、方向ウエイト及び2乗誤差算出部9は、方向ウエイトベクトルWdと逆拡散後の方向ベクトルZから(16)式により2乗誤差edを算出する。
ed=|1−WdH・Z|2 ・・・(16)
但し、方向ウエイトベクトルWd=[wd1,…,wdN]Tである。
なお、2乗誤差は瞬時値又はある期間の平均値でもよい。
【0052】
ウエイト選択部10には、適応信号処理部5からウエイトwa1〜waN(第2の重み係数)と2乗誤差eaが入力され、また、方向ウエイト及び2乗誤差算出部9から方向ウエイトwd1〜wdN(第1の重み係数)と2乗誤差edが入力される。2乗誤差eaはウエイトwa1〜waNの精度を表すものであり、一方、2乗誤差edは方向ウエイトwd1〜wdNの精度を表すものである。ウエイト選択部10は、これら2乗誤差ea,edに基づいて、ウエイトwa1〜waNまたは方向ウエイトwd1〜wdNのいずれか最適な方を選択し、受信信号x1〜xNの重み付けに使用されるウエイトw1〜wNとして出力する。このウエイト選択方法としては各種の方法が考えられるが、その例を挙げて以下に説明する。なお、ウエイトベクトルW=[w1,…,wN]Tである。
【0053】
第1のウエイト選択方法;
図2は、第1のウエイト選択方法の手順を示すフローチャートである。この図2に示すように、第1のウエイト選択方法では、2乗誤差eaと2乗誤差edを比較し(ステップS1)、2乗誤差が小さい方のウエイトを選択する(ステップS2、S3)。
【0054】
第2のウエイト選択方法;
図3は、第2のウエイト選択方法の手順を示すフローチャートである。この図3に示すように、第2のウエイト選択方法では、2乗誤差eaと2乗誤差の閾値esを比較し(ステップS11)、2乗誤差eaが閾値esより小さければウエイトwa1〜waNを選択し(ステップS12)、一方、2乗誤差eaが閾値esより小さくなければ方向ウエイトwd1〜wdNを選択する(ステップS13)。
なお、2乗誤差の閾値esは、予め定めてもよく、あるいは、適宜、受信信号に対応した値を設定するようにしてもよい。
【0055】
第3のウエイト選択方法;
図4は、第3のウエイト選択方法の手順を示すフローチャートである。この図4に示すように、第3のウエイト選択方法では、先ず、前回の処理(m−1)で選択されたウエイトベクトルW(m−1)についての2乗誤差e(m−1)を算出する(ステップS21)。次いで、2乗誤差e(m−1)と今回の処理(m)における2乗誤差ea(m)との差と、2乗誤差e(m−1)と今回の処理(m)における2乗誤差ed(m)との差とを比較し(ステップS22)、前回の2乗誤差e(m−1)からの変化量が大きい方のウエイトを選択する(ステップS23、S24)。
【0056】
次に、図1において、信号合成部6bは、アンテナ素子1−1〜Nに各々対応して設けられているN個の乗算器11と1個の加算器12から構成される。信号合成部6bには、受信信号x1〜xNとウエイト選択部10の選択結果であるウエイトw1〜wNとが入力される。信号合成部6bにおいて、受信信号x1〜xNは、各乗算器11によってそれぞれ対応するウエイトw1〜wNが乗じられて重み付けされた後、加算器12によって加算されて合成される。この合成後の信号はアレー出力信号yとして出力される。このアレー出力信号yは、(17)式で表される。
y=WH・X ・・・(17)
但し、受信信号ベクトルX=[x1,…,xN]Tである。
【0057】
上記(17)式で表されるように、ウエイト選択部10で選択された最適なウエイトベクトルWにより受信信号ベクトルXが重み付けされて、アレー出力信号yが生成される。これにより、ウエイトw1〜wNによって形成されたアレーアンテナの指向性パターンは最適なものとなり、従って、アレー出力信号yは、最適な指向性パターンに基づく受信信号となる。
【0058】
次に、第2の実施形態を説明する。図5は、本発明の第2の実施形態によるアダプティブアレーアンテナシステムの構成を示すブロック図である。この図5において図1の各部に対応する部分には同一の符号を付け、その説明を省略する。図5のアダプティブアレーアンテナシステムでは、上記図1のシステムの構成に受信品質特性測定部21がさらに設けられている。
【0059】
受信品質特性測定部21は、アレー出力信号yに基づいて受信品質特性を測定する。受信品質特性としては、例えば、CIR(Carrier to Interference power Ratio)やSINR(Signal to Interference and Noise power Ratio)、BER(Bit Error Rate)、FER(Frame Error Rate)などがある。
【0060】
受信品質特性測定部21で測定された受信品質特性データはウエイト選択部10に入力される。ウエイト選択部10は、該受信品質特性データを加味してウエイトの選択を行う。図6は、この第4のウエイト選択方法の手順を示すフローチャートである。この図6に示す方法では、受信品質特性としてSINRを使用し、上記図2の第1の選択方法と組み合わせている。
【0061】
図6において、先ず、受信品質特性(SINR)が測定される(ステップS31)。次いで、測定結果のSINRと所定の閾値Thを比較し(ステップS32)、SINRが閾値Thより小さければ、ウエイトwa1〜waNを選択する(ステップS33)。一方、SINRが閾値Thより小さくなければ、2乗誤差eaと2乗誤差edを比較し(ステップS34)、2乗誤差が小さい方のウエイトを選択する(ステップS33、S35)。
【0062】
次に、第3の実施形態を説明する。図7は、本発明の第3の実施形態によるアダプティブアレーアンテナシステムの構成を示すブロック図である。この図7において図5の各部に対応する部分には同一の符号を付け、その説明を省略する。図7のアダプティブアレーアンテナシステムでは、適応信号処理部5で算出されたウエイトwa1〜waNによるアレー出力信号yaと、方向ウエイト及び2乗誤差算出部9で算出された方向ウエイトwd1〜wdNによるアレー出力信号ybとをそれぞれ求め、これらアレー出力信号ya,ybのいずれか最適な方を選択して出力する。
【0063】
図7において、信号合成部6b−1は、適応信号処理部5で算出されたウエイトwa1〜waNにより受信信号x1〜xNを重み付けした後、合成してアレー出力信号yaを生成する。一方、信号合成部6b−2は、方向ウエイト及び2乗誤差算出部9で算出された方向ウエイトwd1〜wdNにより受信信号x1〜xNを重み付けした後、合成してアレー出力信号ybを生成する。
受信品質特性測定部21は、アレー出力信号ya,ybの各々の受信品質特性を測定する。
【0064】
選択制御部31には、受信品質特性測定部21の測定結果であるアレー出力信号ya,ybの各々の受信品質特性データと、適応信号処理部5からの2乗誤差eaと、方向ウエイト及び2乗誤差算出部9からの2乗誤差edとが入力される。選択制御部31は、それら入力された情報に基づいて、アレー出力信号ya,ybの内、いずれが最適であるかを判断する。そして、最適と判断した方のアレー出力信号を出力するように、出力選択部32へ指示する。
【0065】
出力選択部32には、信号合成部6b−1からアレー出力信号yaが入力され、また、信号合成部6b−2からアレー出力信号ybが入力される。出力選択部32は、選択制御部31からの指示に従って、アレー出力信号ya,ybの内、出力するよう指示された方の信号を選択して出力する。
【0066】
なお、上記選択制御部31における選択方法としては、各アレー出力信号ya,ybの内、受信品質特性の良い方を選択するようにしてもよく、あるいは、上記した第2の実施形態のように2乗誤差ea,edと受信品質特性とに基づいて選択するようにしてもよい。
【0067】
上述した実施形態によれば、常に適切なウエイトに基づいて受信処理することができ、この結果として得られたアレー出力信号は適切な指向性パターンに基づく受信信号となるので、通信品質が向上する。
【0068】
図8に、従来の技術と本実施形態による受信品質特性のシミュレーション結果を示す。図8は、CIR値の累積確立分布を示す図である。図8において、波形101は、従来の技術により、LMSアルゴリズムにより適応信号処理して求めたウエイトのみにより受信処理した場合のCIR値の累積確立分布を示している。波形102は、上記第1の実施形態において、LMSアルゴリズムにより適応信号処理して求めたウエイト及び方向ウエイトの中から、上記第1の選択方法により最適なウエイトを選択して受信処理した場合のCIR値の累積確立分布を示している。なお、検証には、市街地における走行時のフィールドデータ(受信データ)を用いている。また、そのフィールドデータ測定時には、アレーアンテナとして半波長間隔正方形配置4素子アレーが使用されている。
図8に示すように、従来の技術によるCIR(波形101)よりも、本実施形態によるCIR(波形102)の方が良く、受信品質特性が向上していることが分かる。
【0069】
以上、本発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、上述した実施形態では、トレーニング信号が常時受信であるCDMA方式を例に挙げて説明したが、トレーニング信号が間欠受信となるTDMA(Time Division Multiple Access)方式などにも、同様に適用可能である。なお、CDMA方式では上記したように逆拡散を行うことで方向ベクトルが算出できるが、TDMA方式の場合には、例えば、ユニークワードなどの受信トレーニング信号とこのトレーニング信号にタイミングを同期させて装置内部で生成した参照信号とを比較することにより、方向ベクトルを検出するようにすればよい。
【0070】
また、「cdma2000 lxEV−DO」と呼ばれるCDMA方式等で採用されているHRPD(High Rate Packet Data)方式では、トレーニング信号になりうるパイロット信号がバースト的に送信され、且つ符号分割多重(CDM)方式で各基地局毎にパイロット信号が多重されている。このHRPD方式においては、方向ベクトル検出部において、信号検出部が選定したチップタイミングで、受信した信号に含まれるパイロット信号に対して所定のPN符号を用いて逆拡散操作を施すことにより信号の方向ベクトルを検出できる。
【0071】
また、トレーニング信号が間欠受信となる場合には、トレーニング信号のバースト受信毎の適応信号処理において、前回のトレーニング信号受信時に選択された最適なウエイトを今回の適応信号処理における初期値に使用することが可能である。
【0072】
また、受信処理に使用された最適なウエイトを送信用の指向性パターンの形成に用いるようにしてもよい。
【0073】
本実施形態によれば、以下に示される様々な効果が得られる。
位相と振幅を用いてウエイトを算出することにより、例えばLMSアルゴリズムを使用するよりも早くウエイトを算出することができるとともに、LMSアルゴリズムと同等の精度が得られる。
【0074】
本実施形態によれば、回路の構成が簡単であり、また、MMSEベースの各種の適応アルゴリズムに対して適用できるとともに、通信品質の改善効果が期待でき、且つ既に実際の装置に備わる回路構成との流用が可能である。
【0075】
また、LMSアルゴリズムが使用される場合において、受信電力が変動し、この変動により設定済みのステップサイズμが適切ではなくなり、2乗誤差が大きくなっても、方向ウエイトの方が2乗誤差が小さければ該方向ウエイトが使用されるので、受信品質特性の改善効果が見込める。また、LMSアルゴリズムでは、最適値に収束するまでに多くの更新回数を要するので、適応信号処理の期間内にウエイトの最適値が得られない虞があるが、この場合にも、2乗誤差に応じて方向ウエイトとの選択が行われるので、受信品質特性の改善効果が見込める。
このように、LMSアルゴリズムが不利な受信状況においても通信品質の向上が可能となる。これにより、LMSアルゴリズムを使用することにより、通信品質の向上が図られるとともに、RLSアルゴリズムなどの他のMMSEベースの適応アルゴリズムに比べて構成が簡単となり、さらに演算量が少なく消費電力の削減ができる等の優れた効果が得られる。
【0076】
また、トレーニング信号が間欠受信となる場合において、前回受信時の受信品質特性が悪くても、この時に選択された最適なウエイトを今回の適応信号処理における初期値に使用することによって、受信品質特性の劣化が軽減される。また、トレーニング信号の間欠受信間隔が長く、且つ通信相手の移動速度が速い場合には、前回受信時のウエイトは今回受信時の適応信号処理における初期値としては有効ではない可能性があり、適応信号処理の収束に時間が掛かり最適なウエイトが得られない虞がある。しかし、この場合には、方向ウエイトにおける位相は逆拡散後収束処理を行わずに算出できるために収束が速く最適なウエイトとして得られるので、当該方向ウエイトを用いて受信処理することにより受信品質特性の改善効果を得ることができる。
【0077】
また、CDMA方式においては、方向ベクトルの検出において、受信信号間の乗算や相関などを使用していないので、精度の高い方向ベクトルを検出することができる。
【0078】
なお、本発明のアダプティブアレーアンテナシステムは、無線基地局や移動局などの無線装置に適用することができる。これにより、無線装置において、適切な指向性パターンによる無線信号の受信または送信が可能となり、通信品質が向上する。移動局としては、携帯電話機等の携帯型の無線端末や、自動車電話機等の移動物体に搭載される無線端末などがある。また、各種の無線通信方式に適用可能である。
【0079】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、常に適切な重み係数(ウエイト)に基づいて受信処理することができ、この結果として得られたアレー出力信号は適切な指向性パターンに基づく受信信号となるので、通信品質が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態によるアダプティブアレーアンテナシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】第1のウエイト選択方法の手順を示すフローチャートである。
【図3】第2のウエイト選択方法の手順を示すフローチャートである。
【図4】第3のウエイト選択方法の手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第2の実施形態によるアダプティブアレーアンテナシステムの構成を示すブロック図である。
【図6】第4のウエイト選択方法の手順を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第3の実施形態によるアダプティブアレーアンテナシステムの構成を示すブロック図である。
【図8】従来の技術と本発明による受信品質特性のシミュレーション結果を示す図である。
【符号の説明】
1−1〜N…アンテナ素子、2…無線送受信部、3…信号検出部、4…方向ベクトル検出部、5…適応信号処理部、6a,6b,6b−1,6b−2…信号合成部、7…位相算出部、8…振幅算出部、9…方向ウエイト及び2乗誤差算出部、10…ウエイト選択部、21…受信品質特性測定部、31…選択制御部、32…出力選択部
Claims (11)
- 複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナにより無線信号を受信し、この受信信号を前記アレーアンテナの指向性パターンを形成するための重み係数により重み付けするアダプティブアレーアンテナシステムにおいて、前記受信信号に含まれるトレーニング信号から所望信号の到来方向の位相情報を算出する位相算出手段と、
前記受信信号に基づく振幅を算出する振幅算出手段と、
前記算出された位相情報と振幅とから第1の重み係数を算出する第1の重み係数算出手段と、
を備えたことを特徴とするアダプティブアレーアンテナシステム。 - 適応信号処理により、前記受信信号に含まれるトレーニング信号から第2の重み係数を算出する第2の重み係数算出手段と、
前記算出された第1の重み係数または第2の重み係数の内、いずれか最適な重み係数を選択する選択手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のアダプティブアレーアンテナシステム。 - 適応信号処理により、前記受信信号に含まれるトレーニング信号から第2の重み係数を算出する第2の重み係数算出手段と、
前記算出された第1の重み係数により前記受信信号を重み付けして第1のアレー出力信号を生成する第1の信号生成手段と、
前記算出された第2の重み係数により前記受信信号を重み付けして第2のアレー出力信号を生成する第2の信号生成手段と、
前記第1のアレー出力信号または前記第2のアレー出力信号の内、いずれか最適なアレー出力信号を選択する選択手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のアダプティブアレーアンテナシステム。 - 前記選択手段は、前記第1の重み係数による重み付け結果と前記トレーニング信号に対応する所定の参照信号との誤差、及び前記第2の重み係数による重み付け結果と前記参照信号との誤差に基づいて選択することを特徴とする請求項2または請求項3に記載のアダプティブアレーアンテナシステム。
- 前記第1の重み係数による重み付け結果から受信品質特性を測定し、また、前記第2の重み係数による重み付け結果から受信品質特性を測定する受信品質特性測定手段を備え、
前記選択手段は、前記受信品質特性測定手段の測定結果に基づいて選択することを特徴とする請求項2または請求項3に記載のアダプティブアレーアンテナシステム。 - 前記第1のアレー出力信号から受信品質特性を測定し、また、前記第2のアレー出力信号から受信品質特性を測定する受信品質特性測定手段を備え、
前記選択手段は、前記受信品質特性測定手段の測定結果に基づいて選択することを特徴とする請求項3に記載のアダプティブアレーアンテナシステム。 - 前記振幅算出手段は、前記第2の重み係数から振幅を算出することを特徴とする請求項2または請求項3に記載のアダプティブアレーアンテナシステム。
- 請求項1乃至請求項7のいずれかの項に記載のアダプティブアレーアンテナシステムを備え、前記アダプティブアレーアンテナシステムにより無線通信することを特徴とする無線装置。
- 複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナにより受信された信号を前記アレーアンテナの指向性パターンを形成するための重み係数により重み付けするアレーアンテナ指向性制御方法であって、
前記受信信号に含まれるトレーニング信号から所望信号の到来方向の位相情報を算出する位相算出過程と、
前記受信信号に基づく振幅を算出する振幅算出過程と、
前記算出された位相情報と振幅とから第1の重み係数を算出する第1の重み係数算出過程と、
を含むことを特徴とするアレーアンテナ指向性制御方法。 - 適応信号処理により、前記受信信号に含まれるトレーニング信号から第2の重み係数を算出する第2の重み係数算出過程と、
前記算出された第1の重み係数または第2の重み係数の内、いずれか最適な重み係数を選択する選択過程と、
を含むことを特徴とする請求項9に記載のアレーアンテナ指向性制御方法。 - 適応信号処理により、前記受信信号に含まれるトレーニング信号から第2の重み係数を算出する第2の重み係数算出過程と、
前記算出された第1の重み係数により前記受信信号を重み付けして第1のアレー出力信号を生成する第1の信号生成過程と、
前記算出された第2の重み係数により前記受信信号を重み付けして第2のアレー出力信号を生成する第2の信号生成過程と、
前記第1のアレー出力信号または前記第2のアレー出力信号の内、いずれか最適なアレー出力信号を選択する選択過程と、
を含むことを特徴とする請求項9に記載のアレーアンテナ指向性制御方法。
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