JP2004327515A - 酸化物超伝導薄膜装置の製造方法および酸化物超伝導薄膜装置 - Google Patents
酸化物超伝導薄膜装置の製造方法および酸化物超伝導薄膜装置 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】バッファ層を厚膜にしても良好なc軸配向の酸化物超伝導薄膜の形成を行うことができる酸化物超伝導薄膜装置の製造方法を提供する。
【解決手段】厚膜のCeO2 第1バッファ層2には、(111)ファセットが形成され、その上に堆積したSm2 O3 第2バッファ層4は、CeO2 より1桁以上小さい結晶粒となって成長する。この微細な結晶粒上にEBCO薄膜5を成長させる。このような理想的な結晶粒からなる超伝導薄膜は、超伝導臨界温度(Tce)は勿論のこと、超伝導臨界電流密度(Jc)は非常に大きいものとなる。
【選択図】 図1
【解決手段】厚膜のCeO2 第1バッファ層2には、(111)ファセットが形成され、その上に堆積したSm2 O3 第2バッファ層4は、CeO2 より1桁以上小さい結晶粒となって成長する。この微細な結晶粒上にEBCO薄膜5を成長させる。このような理想的な結晶粒からなる超伝導薄膜は、超伝導臨界温度(Tce)は勿論のこと、超伝導臨界電流密度(Jc)は非常に大きいものとなる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸化物超伝導薄膜装置の製造方法に係り、特に、その酸化物超伝導薄膜用複合バッファ層付きサファイア基板の製造方法および酸化物超伝導薄膜装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
酸化物超伝導薄膜の実用素子への応用においては、高品質の大型薄膜が必要である。中でも電流が膜面内に平行に流れるマイクロ波素子等では、c軸配向の単結晶薄膜が適用される。これは、酸化物超伝導体が大きな異方性を持つからである。上記したように、超伝導薄膜の大型基板として、機械的、物理的、また、経済的に優れた特徴を持つサファイア基板が有望視されている。
【0003】
しかしながら、サファイア基板は、▲1▼酸化物超伝導体と薄膜形成温度で反応すること、▲2▼サファイアは六方晶構造を持つため、長方形状のユニットを持つR面(5.12Å×4.76Å)が基板として使用されるが、R面サファイアは、Y系超伝導薄膜と相当の格子不整合率を持つこと、▲3▼熱膨張差が無視できないこと等の欠点を有する。
【0004】
▲1▼の酸化物超伝導体と薄膜形成温度で反応するという欠点に対しては、バッファ層としてCeO2 が用いられている。このCeO2 バッファ層により、反応層の形成を防止でき、CeO2 の膜厚が30−400Åの領域で高い超伝導臨界温度(Tc)を示す結晶相(高Tc相)のY系酸化物薄膜が成長することが分かっている。CeO2 の膜厚を厚くし、傾斜層の効果を付与できるならば、▲2▼のR面サファイアがY系超伝導薄膜と相当の格子不整合率を持つといった欠点と同時に▲3▼のY系超伝導薄膜との熱膨張差が無視できないといった欠点も改善できることになる。
【0005】
しかし、この方法に従いCeO2 バッファ層を厚くすると、CeO2 の結晶粒はカマボコ状に成長するため、その上では、Y系酸化物超伝導体はc軸配向からずれた成長を生じてしまい、超伝導特性が急激に低下するという問題があった。これはCeO2 の結晶粒が、R面サファイア基板上では(001)配向をしているものの、結晶粒の成長方向の斜面に(111)面のファセットが顕著に出現するためで、外見的にはカマボコ状の起伏を有する形状が観測される。
【0006】
これらCeO2 の結晶粒のファセット発生の抑制に、Sm2 O3 からなる第2バッファ層の導入が効果を持つことが明らかにされた。Sm2 O3 は、下地の(111)ファセットを持つCeO2 の面上に堆積されると微細な結晶粒となって成長し、ファセットの表面性状を緩和し、その上のY系超伝導体のc軸配向を正常に成長維持させる作用を有することが分かっている。しかしながら、CeO2 膜厚が厚くなりすぎると、(111)ファセットによるカマボコ状の起伏が顕著になり、Sm2 O3 の表面改善効果が低下する現象があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記したように、CeO2 第1バッファ層の(111)ファセットは、膜厚の増加とともに顕著になり、表面の起伏が増大する。Sm2 O3 第2バッファ層は、CeO2 (111)ファセットの成長を抑制するとともに、Sm2 O3 の微細結晶粒が形成されることにより、c軸配向の超伝導層の成長を正常に維持する効果を有する。しかし、あまりにCeO2 第1バッファ層の起伏が大きくなると、Sm2 O3 の上記のような成長表面の改善効果は低下する。既に形成されたCeO2 (111)ファセットを縮小、あるいは起伏を低減させることができれば、Sm2 O3 第2バッファ層は、より薄いCeO2 第1バッファ層上に形成した場合と同様に、優れた成長表面改善効果を維持することになる。
【0008】
そこで本発明は、CeO2 第1バッファ層を形成したR面サファイア基板を、高温で熱処理することによって、(111)ファセットの縮小、あるいは表面起伏の減少、又はCeO2 第1バッファ層の表面の更なる平坦化を実現し、その上にSm2 O3 第2バッファ層を形成することにより、バッファ層を厚膜にしても良好なc軸配向の酸化物超伝導薄膜の形成を可能にしたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、上記状況に鑑みて、バッファ層を厚膜にしても良好なc軸配向の酸化物超伝導薄膜の形成を行うことができる酸化物超伝導薄膜装置の製造方法および酸化物超伝導薄膜装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕酸化物超伝導薄膜装置の製造方法において、R面サファイア基板上に50Åから2000ÅのCeO2 第1バッファ層を成長させる工程と、600℃から1200℃で焼鈍する工程と、50Åから1500Åの膜厚のSm2 O3 第2バッファ層を形成する工程とを順次施すことを特徴とする。
【0011】
〔2〕酸化物超伝導薄膜装置において、上記〔1〕記載の酸化物超伝導薄膜装置の製造方法によって製造するようにしたものである。
【0012】
このように、CeO2 第1バッファ層を堆積したR面サファイア基板を高温で焼鈍し(600℃−1200℃)、その上に、適切な厚さのSm2 O3 を第2バッファ層として成長させた複合バッファ層付きサファイア基板を準備する。この熱処理を加えた複合バッファ層付きサファイア基板上では、500−900万A/cm2 の高臨界電流密度のY系酸化物超伝導薄膜(c軸配向)をエピタキシャル成長させることが可能である。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
まず、本発明の第1実施例について説明する。
【0015】
図1は本発明の第1実施例を示す酸化物超伝導薄膜装置の製造工程断面図である。
【0016】
(1)図1(a)に示すように、R面サファイア基板1上に、CeO2 焼結ターゲットを用い、Ar+ 7%O2 (7Pa)の雰囲気、基板温度(Ts)650℃、電力200Wの成膜条件で、RFマグネトロンスパッタ法により、500ÅのCeO2 第1バッファ層2を成長させた。このCeO2 第1バッファ層2をX線回折した結果、(001)配向したエピタキシャル薄膜であった。
【0017】
(2)この試料を8個に切断し、as−grownのままのもの以外、図1(b)に示すように、それぞれを、300℃、500℃、600℃、800℃、1000℃、1200℃、1300℃の焼鈍温度(Ta)において2時間大気中での焼鈍3を行った。
【0018】
(3)次いで、図1(c)に示すように、これら基板試料に、Sm2 O3 焼結ターゲットを用いて、CeO2 薄膜2の成膜条件と同一の方法で200Åの膜厚のSm2 O3 第2バッファ層4を堆積した。X線回折の結果、Sm2 O3 第2バッファ層4も(001)配向していた。
【0019】
(4)この8個の複合バッファ層付きサファイア基板上に、図1(d)に示すように、EuBa2 Cu3 O7 (EBCO)焼結ターゲットを用い、基板温度Ts=670℃、Ar+ 8%O2 (8Pa)雰囲気、160Vで、DCマグネトロンスパッタ法により、1500ÅのEBCO薄膜5を成長させた。このEBCO薄膜5は、c軸配向を示した。
【0020】
この8個の超伝導薄膜試料を、ホトプロセスとウェットエッチングで、100μmの線幅の四端子測定パターンに加工した。この加工試料により、直流での超伝導臨界温度Tceと77.3Kでの臨界電流密度Jcを測定した。超伝導臨界温度Tceはいずれも90K以上を示したが、臨界電流密度Jcはそれぞれ焼鈍温度Taによって異なった値を示した。
【0021】
図2は本発明の第1実施例を示す酸化物超伝導薄膜装置の500ÅのCeO2 第1バッファ層の焼鈍温度による超伝導臨界電流密度Jc特性図である。
【0022】
この図2から、焼鈍温度Taが500℃以下の場合、臨界電流密度Jcは、400万A/cm2 (=4MA/cm2 )を示すことがわかる。この値は、as−grownのCeO2 第1バッファ層2上にSm2 O3 第2バッファ層4を形成した基板上で得られる臨界電流密度Jc値であり、500℃以下の焼鈍温度Taでは、焼鈍効果は無いことを意味する。焼鈍温度Taが600−1200℃では、600−650万A/cm2 の高い臨界電流密度Jcが得られている。つまり、この焼鈍温度Taの領域では、焼鈍効果があることを示している。焼鈍3により、CeO2 表面の表面粗さは1/5以下に減少し、平坦化されていることが観測された。焼鈍温度Taが1300℃以上では、臨界電流密度Jcの値は低下した。これは表面の平坦化というよりは、サファイア基板とCeO2 第1バッファ層2の一部反応による表面状態の劣化と考えられる。
【0023】
次に、本発明の第2実施例について説明する。
【0024】
図3は本発明の第2実施例を示す酸化物超伝導薄膜装置の製造工程断面図である。
【0025】
(1)図3(a)に示すように、第1実施例と同様のスパッタ条件で、R面サファイア基板11上に膜厚が30Åから2500ÅのCeO2 第1バッファ層12を成長させた種々の膜厚のCeO2 第1バッファ層12付きサファイア基板を作製した。CeO2 第1バッファ層12はいずれも(001)配向を示した。
【0026】
(2)これら全ての基板を図3(b)に示すように、焼鈍温度Ta=800℃において2時間、大気中で焼鈍13した。
【0027】
(3)その後、図3(c)に示すように、200ÅのSm2 O3 第2バッファ層14を第1実施例と同様の条件で成長させた。
【0028】
(4)次に、図3(d)に示すように、1500ÅのEBCO薄膜15を第1実施例と同じ条件でエピタキシャル成長させた。これら薄膜試料を超伝導臨界温度Tceと臨界電流密度Jcの測定用四端子加工パターンに形成し、超伝導特性を調べた。その結果、30ÅのCeO2 第1バッファ層12では、77.3Kの臨界電流密度Jcは、200万A/cm2 であったが、50Åでは、500万A/cm2 、80Åでは900万A/cm2 の最高値を示し、その後、CeO2 第1バッファ層12の膜厚の増加により、徐々に減少し、2000Åでは、600万A/cm2 で、それを超えると、300万A/cm2 に減少した。
【0029】
次に、本発明の第3実施例について説明する。
【0030】
図4は本発明の第3実施例を示す酸化物超伝導薄膜装置の製造工程断面図である。
【0031】
(1)図4(a)に示すように、第1実施例と同様の条件で、膜厚500ÅのCeO2 第1バッファ層22をR面サファイア基板21上に形成し、図4(b)に示すように、焼鈍温度Ta=900℃で2時間、大気中で焼鈍23した。
【0032】
(2)次いで、図4(c)に示すように、このCeO2 第1バッファ層22付き基板21上に、30Åから2000Åの種々の膜厚のSm2 O3 第2バッファ層24を第1実施例と同様の条件で成長させた。このSm2 O3 第2バッファ層24は、いずれも(001)配向をしていた。
【0033】
(3)この複合バッファ層22,24付きサファイア基板21上に、図4(d)に示すように、1500ÅのEBCO薄膜25を第1実施例と同様の条件でエピタキシャル成長させた。
【0034】
これらの超伝導薄膜試料を、100μm線幅の四端子パターンに加工し、超伝導臨界温度Tceと臨界電流密度Jcを測定した。その結果、Sm2 O3 第2バッファ層24の膜厚が30Åのとき、臨界電流密度Jcは300万A/cm2 であったが、50Åでは、500万A/cm2 を示し、200Åでは、900万A/cm2 に達した。その後、Sm2 O3 第2バッファ層24膜厚の増加と共に減少し、1500Åでは500万A/cm2 であった。この膜厚を超えるとさらに減少し、2000Åでは、250万A/cm2 であった。
【0035】
本発明によれば、厚膜のCeO2 第1バッファ層には、(111)ファセットが形成され、その上に堆積したSm2 O3 第2バッファ層は、CeO2 より1桁以上小さい結晶粒となって成長する。この微細な結晶粒上に超伝導体を成長させるが、CeO2 の(111)ファセットが顕著に成長した表面上にSm2 O3 第2バッファ層を堆積すると微細結晶粒は、下地CeO2 の結晶粒の起伏を無視できなくなり、起伏の影響を受け、歪みを含んだ状態で形成される。その結果、c軸配向の酸化物超伝導体の成長が阻害されることになる。そこで、as−grown状態で形成されたファセットのある起伏に富んだ表面を平坦化できれば、その上のSm2 O3 は歪みのない、平坦に近い状態の微細結晶粒が形成され、さらにその上に堆積させた酸化物超伝導体は、無歪みの結晶粒からなるc軸配向薄膜としてエピタキシャル成長する。
【0036】
特に、R面サファイア基板上に、2層のバッファ層(CeO2 /Sm2 O3 )を形成するが、CeO2 を形成した後、適切な温度で焼鈍処理し、その上にSm2 O3 を形成したバッファ層上では、500−700万A/cm2 の高電流密度のY系超伝導薄膜を成長できる。
【0037】
このような理想的な結晶粒からなる超伝導薄膜は、超伝導臨界温度(Tce)は勿論のこと、超伝導臨界電流密度(Jc)も非常に大きいものとなる。
【0038】
本発明による酸化物超伝導薄膜装置は、移動体通信用の基地局フィルタや大都市に供給する大電力用限流器等への応用が期待されており、将来のIT社会を支えるキー部品に位置づけられるものであり、社会への貢献は大きい。
【0039】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0040】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、CeO2 第1バッファ層付きサファイア基板に焼鈍を施すことにより、その上に形成するSm2 O3 第2バッファ層を平坦化することができる。それによって、CeO2 第1バッファ層の厚膜化により(111)ファセットが形成されても良好なc軸配向の酸化物超伝導薄膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例を示す酸化物超伝導薄膜装置の製造工程断面図である。
【図2】本発明の第1実施例を示す酸化物超伝導薄膜装置の500ÅのCeO2 第1バッファ層の焼鈍温度による超伝導臨界電流密度Jc特性図である。
【図3】本発明の第2実施例を示す酸化物超伝導薄膜装置の製造工程断面図である。
【図4】本発明の第3実施例を示す酸化物超伝導薄膜装置の製造工程断面図である。
【符号の説明】
1,11,21 R面サファイア基板
2,12,22 CeO2 第1バッファ層
3,13,23 焼鈍
4,14,24 Sm2 O3 第2バッファ層
5,15,25 EBCO薄膜
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸化物超伝導薄膜装置の製造方法に係り、特に、その酸化物超伝導薄膜用複合バッファ層付きサファイア基板の製造方法および酸化物超伝導薄膜装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
酸化物超伝導薄膜の実用素子への応用においては、高品質の大型薄膜が必要である。中でも電流が膜面内に平行に流れるマイクロ波素子等では、c軸配向の単結晶薄膜が適用される。これは、酸化物超伝導体が大きな異方性を持つからである。上記したように、超伝導薄膜の大型基板として、機械的、物理的、また、経済的に優れた特徴を持つサファイア基板が有望視されている。
【0003】
しかしながら、サファイア基板は、▲1▼酸化物超伝導体と薄膜形成温度で反応すること、▲2▼サファイアは六方晶構造を持つため、長方形状のユニットを持つR面(5.12Å×4.76Å)が基板として使用されるが、R面サファイアは、Y系超伝導薄膜と相当の格子不整合率を持つこと、▲3▼熱膨張差が無視できないこと等の欠点を有する。
【0004】
▲1▼の酸化物超伝導体と薄膜形成温度で反応するという欠点に対しては、バッファ層としてCeO2 が用いられている。このCeO2 バッファ層により、反応層の形成を防止でき、CeO2 の膜厚が30−400Åの領域で高い超伝導臨界温度(Tc)を示す結晶相(高Tc相)のY系酸化物薄膜が成長することが分かっている。CeO2 の膜厚を厚くし、傾斜層の効果を付与できるならば、▲2▼のR面サファイアがY系超伝導薄膜と相当の格子不整合率を持つといった欠点と同時に▲3▼のY系超伝導薄膜との熱膨張差が無視できないといった欠点も改善できることになる。
【0005】
しかし、この方法に従いCeO2 バッファ層を厚くすると、CeO2 の結晶粒はカマボコ状に成長するため、その上では、Y系酸化物超伝導体はc軸配向からずれた成長を生じてしまい、超伝導特性が急激に低下するという問題があった。これはCeO2 の結晶粒が、R面サファイア基板上では(001)配向をしているものの、結晶粒の成長方向の斜面に(111)面のファセットが顕著に出現するためで、外見的にはカマボコ状の起伏を有する形状が観測される。
【0006】
これらCeO2 の結晶粒のファセット発生の抑制に、Sm2 O3 からなる第2バッファ層の導入が効果を持つことが明らかにされた。Sm2 O3 は、下地の(111)ファセットを持つCeO2 の面上に堆積されると微細な結晶粒となって成長し、ファセットの表面性状を緩和し、その上のY系超伝導体のc軸配向を正常に成長維持させる作用を有することが分かっている。しかしながら、CeO2 膜厚が厚くなりすぎると、(111)ファセットによるカマボコ状の起伏が顕著になり、Sm2 O3 の表面改善効果が低下する現象があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記したように、CeO2 第1バッファ層の(111)ファセットは、膜厚の増加とともに顕著になり、表面の起伏が増大する。Sm2 O3 第2バッファ層は、CeO2 (111)ファセットの成長を抑制するとともに、Sm2 O3 の微細結晶粒が形成されることにより、c軸配向の超伝導層の成長を正常に維持する効果を有する。しかし、あまりにCeO2 第1バッファ層の起伏が大きくなると、Sm2 O3 の上記のような成長表面の改善効果は低下する。既に形成されたCeO2 (111)ファセットを縮小、あるいは起伏を低減させることができれば、Sm2 O3 第2バッファ層は、より薄いCeO2 第1バッファ層上に形成した場合と同様に、優れた成長表面改善効果を維持することになる。
【0008】
そこで本発明は、CeO2 第1バッファ層を形成したR面サファイア基板を、高温で熱処理することによって、(111)ファセットの縮小、あるいは表面起伏の減少、又はCeO2 第1バッファ層の表面の更なる平坦化を実現し、その上にSm2 O3 第2バッファ層を形成することにより、バッファ層を厚膜にしても良好なc軸配向の酸化物超伝導薄膜の形成を可能にしたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、上記状況に鑑みて、バッファ層を厚膜にしても良好なc軸配向の酸化物超伝導薄膜の形成を行うことができる酸化物超伝導薄膜装置の製造方法および酸化物超伝導薄膜装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕酸化物超伝導薄膜装置の製造方法において、R面サファイア基板上に50Åから2000ÅのCeO2 第1バッファ層を成長させる工程と、600℃から1200℃で焼鈍する工程と、50Åから1500Åの膜厚のSm2 O3 第2バッファ層を形成する工程とを順次施すことを特徴とする。
【0011】
〔2〕酸化物超伝導薄膜装置において、上記〔1〕記載の酸化物超伝導薄膜装置の製造方法によって製造するようにしたものである。
【0012】
このように、CeO2 第1バッファ層を堆積したR面サファイア基板を高温で焼鈍し(600℃−1200℃)、その上に、適切な厚さのSm2 O3 を第2バッファ層として成長させた複合バッファ層付きサファイア基板を準備する。この熱処理を加えた複合バッファ層付きサファイア基板上では、500−900万A/cm2 の高臨界電流密度のY系酸化物超伝導薄膜(c軸配向)をエピタキシャル成長させることが可能である。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
まず、本発明の第1実施例について説明する。
【0015】
図1は本発明の第1実施例を示す酸化物超伝導薄膜装置の製造工程断面図である。
【0016】
(1)図1(a)に示すように、R面サファイア基板1上に、CeO2 焼結ターゲットを用い、Ar+ 7%O2 (7Pa)の雰囲気、基板温度(Ts)650℃、電力200Wの成膜条件で、RFマグネトロンスパッタ法により、500ÅのCeO2 第1バッファ層2を成長させた。このCeO2 第1バッファ層2をX線回折した結果、(001)配向したエピタキシャル薄膜であった。
【0017】
(2)この試料を8個に切断し、as−grownのままのもの以外、図1(b)に示すように、それぞれを、300℃、500℃、600℃、800℃、1000℃、1200℃、1300℃の焼鈍温度(Ta)において2時間大気中での焼鈍3を行った。
【0018】
(3)次いで、図1(c)に示すように、これら基板試料に、Sm2 O3 焼結ターゲットを用いて、CeO2 薄膜2の成膜条件と同一の方法で200Åの膜厚のSm2 O3 第2バッファ層4を堆積した。X線回折の結果、Sm2 O3 第2バッファ層4も(001)配向していた。
【0019】
(4)この8個の複合バッファ層付きサファイア基板上に、図1(d)に示すように、EuBa2 Cu3 O7 (EBCO)焼結ターゲットを用い、基板温度Ts=670℃、Ar+ 8%O2 (8Pa)雰囲気、160Vで、DCマグネトロンスパッタ法により、1500ÅのEBCO薄膜5を成長させた。このEBCO薄膜5は、c軸配向を示した。
【0020】
この8個の超伝導薄膜試料を、ホトプロセスとウェットエッチングで、100μmの線幅の四端子測定パターンに加工した。この加工試料により、直流での超伝導臨界温度Tceと77.3Kでの臨界電流密度Jcを測定した。超伝導臨界温度Tceはいずれも90K以上を示したが、臨界電流密度Jcはそれぞれ焼鈍温度Taによって異なった値を示した。
【0021】
図2は本発明の第1実施例を示す酸化物超伝導薄膜装置の500ÅのCeO2 第1バッファ層の焼鈍温度による超伝導臨界電流密度Jc特性図である。
【0022】
この図2から、焼鈍温度Taが500℃以下の場合、臨界電流密度Jcは、400万A/cm2 (=4MA/cm2 )を示すことがわかる。この値は、as−grownのCeO2 第1バッファ層2上にSm2 O3 第2バッファ層4を形成した基板上で得られる臨界電流密度Jc値であり、500℃以下の焼鈍温度Taでは、焼鈍効果は無いことを意味する。焼鈍温度Taが600−1200℃では、600−650万A/cm2 の高い臨界電流密度Jcが得られている。つまり、この焼鈍温度Taの領域では、焼鈍効果があることを示している。焼鈍3により、CeO2 表面の表面粗さは1/5以下に減少し、平坦化されていることが観測された。焼鈍温度Taが1300℃以上では、臨界電流密度Jcの値は低下した。これは表面の平坦化というよりは、サファイア基板とCeO2 第1バッファ層2の一部反応による表面状態の劣化と考えられる。
【0023】
次に、本発明の第2実施例について説明する。
【0024】
図3は本発明の第2実施例を示す酸化物超伝導薄膜装置の製造工程断面図である。
【0025】
(1)図3(a)に示すように、第1実施例と同様のスパッタ条件で、R面サファイア基板11上に膜厚が30Åから2500ÅのCeO2 第1バッファ層12を成長させた種々の膜厚のCeO2 第1バッファ層12付きサファイア基板を作製した。CeO2 第1バッファ層12はいずれも(001)配向を示した。
【0026】
(2)これら全ての基板を図3(b)に示すように、焼鈍温度Ta=800℃において2時間、大気中で焼鈍13した。
【0027】
(3)その後、図3(c)に示すように、200ÅのSm2 O3 第2バッファ層14を第1実施例と同様の条件で成長させた。
【0028】
(4)次に、図3(d)に示すように、1500ÅのEBCO薄膜15を第1実施例と同じ条件でエピタキシャル成長させた。これら薄膜試料を超伝導臨界温度Tceと臨界電流密度Jcの測定用四端子加工パターンに形成し、超伝導特性を調べた。その結果、30ÅのCeO2 第1バッファ層12では、77.3Kの臨界電流密度Jcは、200万A/cm2 であったが、50Åでは、500万A/cm2 、80Åでは900万A/cm2 の最高値を示し、その後、CeO2 第1バッファ層12の膜厚の増加により、徐々に減少し、2000Åでは、600万A/cm2 で、それを超えると、300万A/cm2 に減少した。
【0029】
次に、本発明の第3実施例について説明する。
【0030】
図4は本発明の第3実施例を示す酸化物超伝導薄膜装置の製造工程断面図である。
【0031】
(1)図4(a)に示すように、第1実施例と同様の条件で、膜厚500ÅのCeO2 第1バッファ層22をR面サファイア基板21上に形成し、図4(b)に示すように、焼鈍温度Ta=900℃で2時間、大気中で焼鈍23した。
【0032】
(2)次いで、図4(c)に示すように、このCeO2 第1バッファ層22付き基板21上に、30Åから2000Åの種々の膜厚のSm2 O3 第2バッファ層24を第1実施例と同様の条件で成長させた。このSm2 O3 第2バッファ層24は、いずれも(001)配向をしていた。
【0033】
(3)この複合バッファ層22,24付きサファイア基板21上に、図4(d)に示すように、1500ÅのEBCO薄膜25を第1実施例と同様の条件でエピタキシャル成長させた。
【0034】
これらの超伝導薄膜試料を、100μm線幅の四端子パターンに加工し、超伝導臨界温度Tceと臨界電流密度Jcを測定した。その結果、Sm2 O3 第2バッファ層24の膜厚が30Åのとき、臨界電流密度Jcは300万A/cm2 であったが、50Åでは、500万A/cm2 を示し、200Åでは、900万A/cm2 に達した。その後、Sm2 O3 第2バッファ層24膜厚の増加と共に減少し、1500Åでは500万A/cm2 であった。この膜厚を超えるとさらに減少し、2000Åでは、250万A/cm2 であった。
【0035】
本発明によれば、厚膜のCeO2 第1バッファ層には、(111)ファセットが形成され、その上に堆積したSm2 O3 第2バッファ層は、CeO2 より1桁以上小さい結晶粒となって成長する。この微細な結晶粒上に超伝導体を成長させるが、CeO2 の(111)ファセットが顕著に成長した表面上にSm2 O3 第2バッファ層を堆積すると微細結晶粒は、下地CeO2 の結晶粒の起伏を無視できなくなり、起伏の影響を受け、歪みを含んだ状態で形成される。その結果、c軸配向の酸化物超伝導体の成長が阻害されることになる。そこで、as−grown状態で形成されたファセットのある起伏に富んだ表面を平坦化できれば、その上のSm2 O3 は歪みのない、平坦に近い状態の微細結晶粒が形成され、さらにその上に堆積させた酸化物超伝導体は、無歪みの結晶粒からなるc軸配向薄膜としてエピタキシャル成長する。
【0036】
特に、R面サファイア基板上に、2層のバッファ層(CeO2 /Sm2 O3 )を形成するが、CeO2 を形成した後、適切な温度で焼鈍処理し、その上にSm2 O3 を形成したバッファ層上では、500−700万A/cm2 の高電流密度のY系超伝導薄膜を成長できる。
【0037】
このような理想的な結晶粒からなる超伝導薄膜は、超伝導臨界温度(Tce)は勿論のこと、超伝導臨界電流密度(Jc)も非常に大きいものとなる。
【0038】
本発明による酸化物超伝導薄膜装置は、移動体通信用の基地局フィルタや大都市に供給する大電力用限流器等への応用が期待されており、将来のIT社会を支えるキー部品に位置づけられるものであり、社会への貢献は大きい。
【0039】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0040】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、CeO2 第1バッファ層付きサファイア基板に焼鈍を施すことにより、その上に形成するSm2 O3 第2バッファ層を平坦化することができる。それによって、CeO2 第1バッファ層の厚膜化により(111)ファセットが形成されても良好なc軸配向の酸化物超伝導薄膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例を示す酸化物超伝導薄膜装置の製造工程断面図である。
【図2】本発明の第1実施例を示す酸化物超伝導薄膜装置の500ÅのCeO2 第1バッファ層の焼鈍温度による超伝導臨界電流密度Jc特性図である。
【図3】本発明の第2実施例を示す酸化物超伝導薄膜装置の製造工程断面図である。
【図4】本発明の第3実施例を示す酸化物超伝導薄膜装置の製造工程断面図である。
【符号の説明】
1,11,21 R面サファイア基板
2,12,22 CeO2 第1バッファ層
3,13,23 焼鈍
4,14,24 Sm2 O3 第2バッファ層
5,15,25 EBCO薄膜
Claims (2)
- (a)R面サファイア基板上に50Åから2000ÅのCeO2 第1バッファ層を成長させる工程と、
(b)600℃から1200℃で焼鈍する工程と、
(c)50Åから1500Åの膜厚のSm2 O3 第2バッファ層を形成する工程とを順次施すことを特徴とする酸化物超伝導薄膜装置の製造方法。 - 請求項1記載の酸化物超伝導薄膜装置の製造方法によって製造される酸化物超伝導薄膜装置。
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