JP2004322005A - エチレンガス吸着剤およびその製法、並びに該吸着剤を用いた生鮮品の鮮度保持法 - Google Patents

エチレンガス吸着剤およびその製法、並びに該吸着剤を用いた生鮮品の鮮度保持法 Download PDF

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【課題】低濃度のエチレンガスであってもこれを効率よく吸着除去することのできる有用な吸着剤とその製法を提供すると共に、生鮮品の鮮度を長期的に維持することのできる鮮度保持法を提供すること
【解決手段】[Cu(C10)]を基本構成単位とする化学構造を有する多孔質配位高分子錯体からなる新規なエチレンガス吸着剤とその製法、並びにこれを用いた有用な生鮮品の鮮度保持法を開示する。

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、分子中にCuを含む特定の分子構造を有する多孔質配位高分子錯体からなり、エチレンガスに対して優れた吸着作用を示す吸着剤とその製法、並びに該吸着剤を用いた生鮮品の鮮度保持法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
様々の有害ガスなどを吸着除去するための吸着剤として汎用されているゼオライト、活性炭、分子篩などは、通常その製造に高温高圧条件が採用されるためオートクレーブの如き特殊な設備を必要とし、設備コストが高くつくばかりでなくエネルギー消費量も大きいため、製品コストは意外に高くなる。
【0003】
他方、エチレンガスは食肉魚介類や野菜、生花等を始めとする様々の生鮮品の成熟ホルモンであることが知られており、これら生鮮品の保管時の鮮度保持を図るには、保管時にこれらの生鮮品から放出されるエチレンガスを雰囲気から極力除去すべきであることも知られている。
【0004】
そこで、代表的な吸着剤であるゼオライトや活性炭などを用いてエチレンガスを吸着除去することも試みられた(特許文献1など)が、これら汎用の吸着剤では微量のエチレンガスを効率よく吸着除去することができず、鮮度保持のための吸着剤として満足し得るものとは言い難い。
【0005】
また、生鮮品などの包装材としてエチレンガス透過性フィルムを使用し、生鮮品から放出されるエチレンガスを包装材の外部へ放出させることも試みられている(特許文献2)が、生鮮品は微量のエチレンガスで顕著な鮮度低下を起こすため、期待される程の効果は得られていない。
【0006】
【特許文献1】
特開平6−329187号公報
【特許文献2】
特開2001−354784号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、低濃度のエチレンガスであってもこれを効率よく吸着除去することのできる有用な吸着剤とその製法を提供すると共に、該吸着剤を用いて生鮮品の鮮度を長期的に維持することのできる鮮度保持法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明にかかるエチレンガス吸着剤とは、[Cu(C10)]を基本構成単位とする化学構造を有する多孔質配位高分子錯体からなるところに特徴を有している。該エチレンガス吸着剤を構成する多孔質配位高分子錯体は、その内部にエチレンガス吸着サイトとして(4.0〜5.0)×(4.6〜5.6)×(3.0〜4.0)Åの空隙を有するものが好ましく、こうした空隙は、上記錯体分子に固有の立体構造によって確保される。
【0009】
また本発明の製法は、上記特性を備えた多孔質配位高分子錯体を製造する有用な方法として位置付けられるもので、Cu化合物とアゾピリジン類とを、溶媒中で反応させた後、生成する沈澱から溶剤を揮発除去するところに要旨を有している。
【0010】
そして本発明に係る上記エチレンガス吸着剤は、エチレンガスに対して優れた吸着能を有しているので、この吸着剤を生鮮品と共に包装品の内部に封入しておけば、生鮮品から放出されるエチレンガスを効率よく吸着除去することができ、生鮮品の鮮度保持法として有効に活用できる。
【0011】
【発明の実施の形態】
上記の如く本発明における第一の特徴点は、[Cu(C10)]を基本構成単位とする化学構造を有する多孔質錯体であり、該多孔質配位高分子錯体の分子構造は下記式(1)で示される繰返し単位を有しているものと思われる。
【0012】
【化1】
Figure 2004322005
【0013】
即ち、本発明の吸着剤を構成する上記分子構造の多孔質配位高分子錯体は、Cu原子/アゾピリジン(C10)が1/1の比率で結合して上記の様な立体構造の多孔質配位高分子錯体を構成している。そして、該立体構造単位中に形成される空隙のサイズは、(4.0〜5.0)×(4.6〜5.6)×(3.0〜4.0)Å(理論計算によると4.04×4.64×3.08Å)となり、この空隙がエチレンガスに対し好適な吸着サイトとなって、エチレンガスに対し優れた吸着活性を示すものと考えられる。
【0014】
本発明に係る前記多孔質配位高分子錯体の製法は追って詳述していくが、合成後に反応溶剤を揮発除去すると多孔質の粉末状として得ることができ、この粉末は、そのまま使用してもよく、或は必要によりバインダーや賦形剤、担体などを併用してペレット状や顆粒状に加工し、場合によっては押出し法などでハニカム状に成形して使用することも可能である。
【0015】
本発明に係る上記多孔質配位高分子錯体の製造には、原料としてCu化合物とアゾピリジン類を使用し、これらを反応溶剤中で反応させる方法が採用される。
【0016】
ここで用いられるCu化合物としては、後述する溶剤に可溶で且つアゾピリジン類との反応性を有するものであれば特に制限されないが、好ましいCu(I)化合物としては、例えばP,S,Asなどの如きドナー性の高い原子を有する配位子を用いてCu(II)をCu(I)へ還元したもの、金属銅を用いてCu(II)をCu(I)に還元したもの、CuCl,CuBr,CuIなどのハロゲン化銅(I)、および[Cu(CHCN)]X(X=PF,BF,ClO)等のテトラキスアセトニトリルCu(I)錯体など挙げられる。これらの中でも特に好ましいのは、通常の有機溶剤に溶け、比較的取扱いの容易な[Cu(CHCN)]PFである。
【0017】
またアゾピリジン類としては、アゾピリジンそのものの他、類似のロッド型配位子である4,4’−ビピリジン、4,4’−ジピリジルジスルフィド、4,4’−トリメリレンジピリジンなどを使用することもできる。
【0018】
反応溶剤としては、上記Cu化合物とアゾピリジン類を溶解し得るものであれば特に制限なく使用することができ、例えばアセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルコール系溶剤;クロロホルムやアセトニトリル等が単独溶剤として、或は任意の混合溶剤として使用できるが、これらの中でも特に好ましいのはアセトン等の低級ケトン系溶剤やメチルアルコール等の低級アルコール系溶剤である。
【0019】
反応条件にも格別の制限はないが、好ましいのは、Cu化合物の酸化変質を防止するためアルゴン等の不活性ガス雰囲気下、室温で撹拌する方法である。この反応で、原料として用いたCu化合物とアゾピリジン類との反応が進行し、[Cu(C10)]を基本構成単位とする化学構造を有する多孔質配位高分子錯体が不溶性の沈澱として析出してくるので、これを濾過や遠心分離など任意の方法で反応溶剤から分離し、乾燥して反応溶剤を揮発除去すると、粉末状の多孔質配位高分子錯体からなるエチレンガス吸着剤を得ることができる。
【0020】
なお、後記実施例にも記載する如く、上記反応によって生成する沈澱は、上記錯体[Cu(C10)]が反応溶剤を分子中に取り込んで一体化した複合化合物として生成していると思われ、生成した沈澱を300℃程度まで加熱すると溶剤が徐々に離脱し、最後には熱分解してCu酸化物のみが残存する。本発明では、溶剤を取り込んだ該複合化合物から溶剤を離脱除去した後の多孔質配位高分子錯体の状態で、目的とするエチレンガス吸着能を発揮するので、反応によって得られる溶剤を含んだ錯体沈澱から溶剤を離脱させる必要がある。
【0021】
この溶剤離脱条件も特に制限されないが、当然のことながら錯体の熱分解温度未満の温度で行う必要があり、通常は真空下に50℃程度以下の温度で30分〜3時間程度加温することによって行われる。
【0022】
溶剤を離脱させることによって得られる多孔質配位高分子錯体粉末は、前述した如く錯体分子中にサイズが(4.0〜5.0)×(4.6〜5.6)×(3.0〜4.0)Åの微細空隙を無数に有する粉末であり、該空隙がエチレンガスの吸着サイトとなってエチレンガスを効率よく吸着捕捉する。従って、この粉末をそのまま、若しくは必要により顆粒状やペレット状、ハニカム状などに2次加工することにより、エチレンガス吸着剤として有効に活用できる。
【0023】
また、エチレンガスを飽和状態まで吸着した吸着剤を加温処理すると、吸着したエチレンガスが離脱してエチレンガス吸着活性を回復するので、該吸着と脱着再生を繰り返すことにより長期的に繰返し使用できる。しかも、大規模な設備でエチレンガスの脱着再生を行えば、脱着したエチレンガスを燃料等として回収することも可能となる。
【0024】
上記の様に本発明では、[Cu(C10)]を基本骨格とする物理吸着サイトを有する多孔質配位高分子錯体とすることで、微量のエチレンを効率よく吸着できるが、更に吸着能を高めるための手段として、エチレンガスが配位可能な化学吸着サイトを有する多孔質配位高分子錯体とすることも有効と考えられる。そのような素材としては、エチレンの配位が可能で多様な配位数を取ることが可能な金属としてCu(I)、Ag(I)、Rh(I)などが挙げられるが、中でもCu(I)が最適と思われる。
【0025】
例えば、これまでに知られている代表的なCu(I)エチレン錯体としては、3配位構造を有する[Cu(2,2−ビピリジン)(C)]や[Cu(β−ジケチミネート)(C)]などの単核錯体や水素結合、π−πスタッキングにより繋げられた[Cu(2−ヒドロキシキノザリン)(C)]錯体などが知られており、これらの配位子部分の一部を化学修飾することにより橋かけ配位子を合成し、同様の不飽和配位サイトを有する多孔質配位高分子錯体を得ることが可能である。また、先に述べたCu(I)化合物とアゾピリジンから合成される多孔質配位高分子錯体を予めエチレン雰囲気下において合成し、エチレンガスが配位した配位高分子錯体を合成した後、これらを減圧・加温等によりエチレンガスを脱離させることにより、配位不飽和サイトを有する多孔質配位高分子錯体を構築できる可能性も考えられる。
【0026】
いずれにしても、この様な多孔質配位高分子錯体を合成できれば、物理吸着能と化学吸着能の両方を兼ね備えた一段と優れた吸着剤を得ることが可能になる。
【0027】
上記の様に本発明のエチレンガス吸着剤は、特定サイズの微細空隙を無数に有する多孔質配位高分子錯体粉末として卓越したエチレンガス吸着能を有している。従って、この多孔質配位高分子錯体粉末を例えば通気性袋に収納した状態で生鮮品と共に包装しておけば、生鮮品から放出されて鮮度を著しく劣化させるエチレンガスを逐次吸着することができ、生鮮品の鮮度を長時間維持することが可能となる。
【0028】
生鮮品としては、保管時にエチレンガスを発生する全ての生鮮品がその対象となり、具体的には食肉魚介類や各種の野菜、穀物、生花などが包含される。それらの包装形態にも制限はなく、箱詰め包装や袋詰め包装、フィルム包み包装など任意の包装に適用でき、その包装内に生鮮品と共に前記多孔質配位高分子錯体粉末や顆粒、更には棒状や板状、ハニカム状など任意の形状に加工した本発明の吸着剤を封入しておけばよい。
【0029】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に包含される。
【0030】
実施例1
アルゴン雰囲気下で、容量25mlの3つ口フラスコに[Cu(CHCN)]PF: 74.5mg(0.02mmol)を入れ、これに4,4’−アゾピリジン:36.8mg(0.02mmol)を10mlのアセトンに溶かした溶液を加えて室温(25℃)で撹拌すると、瞬時に茶褐色の沈澱が生成する。この沈澱を濾過し室温(25℃)で60分間減圧乾燥すると、[Cu(C10)]を基本構成単位とする化学構造を有する黄褐色の錯体粉末50mgが得られる。この錯体粉末を熱重量分析すると、300℃付近までは溶媒の離脱に伴うなだらかな重量減少が見られた後、該錯体粉末は熱分解する。
【0031】
この錯体粉末が有している空隙のサイズを単結晶X線回折によって測定したところ、4.04×4.64×3.08Åの空隙が無数に存在することが確認された。
【0032】
この錯体粉末を、真空下に200℃で2時間加熱して溶剤を揮発除去した後、得られる乾燥粉末0.5gを、エチレンガス(20体積%)が封入された内容量1リットルの容器内に装入し、25℃で24時間放置する。その後、錯体粉末を取り出して熱重量分析を行ったところ、錯体粉末1g当たり0.1gのエチレンガスを吸着していることが確認された。
【0033】
実施例2
アルゴン雰囲気下で、容量25mlの3つ口フラスコに[Cu(CHCN)]PF:18.6mg(0.005mmol)を入れ、これに4,4’−アゾピリジン:9.2mg(0.005mmol)を10mlのメタノールに溶かした溶液を加えて室温(25℃)で1時間撹拌すると、黒褐色の沈澱が生成する。この沈澱を濾過して乾燥すると、[Cu(C10)]を基本構成単位とする化学構造の多孔質配位高分子錯体からなる黒褐色の錯体粉末10mgが得られる。この錯体粉末を熱重量分析すると、300℃付近までは溶媒の離脱に伴うなだらかな重量減少が見られた後、該錯体粉末は分解する。この錯体粉末が有している空隙のサイズを単結晶X線回折によって測定したところ、4.04×4.64×3.08Åの空隙が無数に存在することが確認された。
【0034】
この錯体粉末を、真空下に室温(25℃)で60分間加温することによって溶剤を揮発除去した後、得られた乾燥粉末0.1gを、エチレンガス(20体積%)が封入された内容量1リットルの容器内に装入し、25℃で24時間放置する。その後、錯体粉末を取り出して熱重量分析を行ったところ、錯体粉末1g当たり0.08gのエチレンガスを吸着していることが確認された。
【0035】
【発明の効果】
本発明は以上のように構成されており、[Cu(C10)]を基本構成単位とする多孔質配位高分子錯体からなる有用なエチレンガス吸着剤とその製造技術を提供すると共に、該吸着剤を用いた生鮮品の効率的な鮮度保持法を提供し得ることになった。

Claims (4)

  1. [Cu(C10)]を基本構成単位とする化学構造を有する多孔質配位高分子錯体からなることを特徴とするエチレンガス吸着剤。
  2. 多孔質配位高分子錯体が、(4.0〜5.0)×(4.6〜5.6)×(3.0〜4.0)Åの空隙を有するものである請求項1に記載の吸着剤。
  3. Cu化合物とアゾピリジン類とを溶媒中で反応させ、生成する沈澱から溶剤を揮発除去することを特徴とする請求項1または2に記載のエチレンガス吸着剤の製法。
  4. 前記請求項1または2に記載の吸着剤を使用し、生鮮品の保管時に発生するエチレンガスを吸着除去することを特徴とする生鮮品の鮮度保持法。
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