JP2004307760A - 耐熱性熱可塑性樹脂製造方法およびその方法から製造される耐熱性熱可塑性樹脂 - Google Patents

耐熱性熱可塑性樹脂製造方法およびその方法から製造される耐熱性熱可塑性樹脂 Download PDF

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Abstract

【課題】耐熱安定性に優れ、かつ色調が良好なマレイミド基を有する芳香族ビニル系耐熱性熱可塑性樹脂が極めて効率よく得られる製造方法を提供すること。
【解決手段】芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸無水物系共重合体と第一級アミンとを接触させる際、特定温度に加熱した第一級アミン或いはアンモニアを60〜120℃に加熱した状態で第3級アミンと共に反応缶に供給添加することにより、イミド化反応を効率よく促進させ、かつ未反応のジカルボン酸無水物基の少ない耐熱安定性、色調に優れたマレイミド基を有するスチレン系耐熱性熱可塑性樹脂の製造方法。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は側鎖にマレイミド基を有する芳香族ビニル系耐熱性熱可塑性樹脂の製造方法およびその方法から製造される耐熱性熱可塑性樹脂に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、不飽和ジカルボン酸無水物重合体を水性懸濁下で第一級アミン或いはアンモニアと反応させイミド基を有する耐熱性熱可塑性樹脂を製造する方法(例えば、特許文献1,2参照。)は知られているが、水中で酸無水物基が加水分解を起こし、イミド化が十分でなく樹脂の耐熱安定性が悪化したり、懸濁水中にアミン類が溶解して臭気などにより取り扱いの上で問題が多い。
また、アクリル酸共重合体を溶剤非存在下で第1級アミン或いはアンモニアと脱揮装置付押出機中で反応させイミド基を有する耐熱性熱可塑性樹脂を製造する方法(例えば、特許文献3参照。)も知られている。しかしながら、この方法においてもアクリル酸基が十分にイミド化されず、得られる樹脂は耐熱安定性に劣り、また色調が悪化するという欠点があった。
一方で、耐熱安定性、色調に優れたイミド基を有する耐熱性熱可塑性樹脂の製造方法が提案されている(例えば、特許文献4,5参照。)が、イミド化反応が完結するのに長時間要し、経済的な面から十分な製法ではなかった。また、これらの製造方法においてイミド化反応を短時間で停止させた場合、イミド化率が低く酸無水物基が多く残る為、耐熱安定性、色調が著しく悪化する事から、物性面においても十分な製法ではなかった。
【0003】
【特許文献1】
U.S.Patent3840499号
【特許文献2】
U.S.Patent3998907号
【特許文献3】
特開昭52−63989公報
【特許文献4】
特開昭57−10014公報
【特許文献5】
特開昭60−243102公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、耐熱安定性に優れ、かつ色調が良好なマレイミド基を有する芳香族ビニル系耐熱性熱可塑性樹脂が極めて効率よく得られる製造方法およびその方法から製造される耐熱性熱可塑性樹脂の提供を目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸無水物系共重合体と第一級アミンとを接触させる際、特定温度に加熱した第一級アミンまたは/及びアンモニアを添加すると、イミド化反応を効率よく促進させる事ができ、イミド化反応が短時間で完結し、かつ未反応のジカルボン酸無水物基の少ない耐熱安定性、色調に優れたマレイミド基を有する芳香族ビニル系耐熱性熱可塑性樹脂が得られる事を見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明は芳香族ビニル単量体、不飽和ジカルボン酸無水物および必要に応じてこれらと共重合可能なビニル単量体を非重合性溶剤中で溶液重合させる事により得た重合体混合物に対し、第1級アミンまたは/及びアンモニアを60〜120℃に加熱した状態で第3級アミンと共に反応缶に供給し、130〜250℃でイミド化し、その後揮発分を除去して得られる耐熱性熱可塑性樹脂の製造方法に関する。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明において共重合させる単量体は芳香族ビニル単量体、不飽和ジカルボン酸無水物、および必要に応じてこれらと共重合可能なビニル単量体からなる混合物であり、これら単量体群の合計を100質量部とすると、好ましい組成は芳香族ビニル単量体50〜90質量部、不飽和ジカルボン酸無水物5〜50質量部、および必要に応じてこれらと共重合可能なビニル単量体0〜30質量部である。
更に好ましくは芳香族ビニル単量体50〜65質量部、不飽和ジカルボン酸無水物25〜50質量部、および必要に応じてこれらと共重合可能なビニル単量体25〜0質量部である。
【0008】
芳香族ビニル単量体が50質量部未満であると、芳香族ビニル化合物の特徴、特にスチレンの場合、成形性および寸法安定性が失われる場合がある。
芳香族ビニル単量体が90質量部を超える場合、不飽和ジカルボン酸無水物の量が少なく、得られる樹脂の耐熱性が失われる場合がある。
また、不飽和ジカルボン酸無水物が50質量%を超えると、共重合体が脆くなりそして成形性が著しく悪くなる場合がある。
不飽和ジカルボン酸無水物が5質量部未満であると得られる樹脂の耐熱性が失われる場合がある。
共重合可能なビニル単量体が30質量%を超えると、得られる樹脂の成形性或いは耐熱性が損なわれる場合がある。
【0009】
本発明における芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン単量体およびその置換単量体であり、これらのスチレン単量体は単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中でスチレンを単独で使用する事が特に好ましい。
不飽和ジカルボン酸無水物としては、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸等の無水物があり、これらの中でマレイン酸無水物が特に好ましい。また、これらのジカルボン酸無水物は単独で用いてもよいし、2種類以上を併用しても差し支えないが、単独で用いるのが好ましい。
【0010】
また、必要に応じてこれらと共重合可能なビニル単量体としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル単量体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル単量体、アクリル酸、メタクリル酸等のビニルカルボン酸、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド、アセナフチレンおよびN−ビニルカルバゾール等がある。これらの中でアクリロニトリル、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステル等の単量体が特に好ましい。
【0011】
本重合で使用される重合開始剤としてはアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスメチルプロピオニトリル、アゾビスメチルブチロニトリル等の公知のアゾ化合物や、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、エチル−3,3−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ブチレート等の公知の有機過酸化物を用いることができる。これらの重合開始剤は2種類以上を併用しても差し支えないが、従来のスチレン系樹脂の製造において常用されているもの、例えば10時間半減期温度が70〜120℃である有機過酸化物やアゾ化合物を用いるのが好ましい。使用量は単量体群100質量部に対し、0.01〜2質量部が好ましく、さらに好ましくは0.1〜1質量部である。0.01質量部未満であると十分な重合速度が得られない場合がある。また2質量部以上であると、重合速度が増大し反応制御が困難となる場合がある。
【0012】
また、本重合に使用される連鎖移動剤としてはn−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンや2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン等の公知の連鎖移動剤を用いることができる。使用量は単量体群100質量部に対し、0.01〜0.5質量部が好ましく、さらに好ましくは0.01〜0.2質量部である。0.01質量部未満であると分子量調整が不十分となる場合があり、0.5質量部以上であると十分な分子量が得られない場合がある。
【0013】
さらに、重合に際しては必要に応じて公知の可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤等を添加しても差し支えない。
【0014】
本発明における共重合方法は溶液重合、塊状重合等公知の方法が採用できるが、溶液重合が好ましい。使用する溶剤は非重合性でなければならないが、非重合性溶剤の量は単量体群100質量部に対し、5〜400質量部が好ましく、更に好ましくは100〜200質量部である。5質量部未満であると、重合により得られる重合体混合物が高粘度となり、取り扱いが困難になる場合がある。また400質量部以上であると重合体混合物は低粘度となり取り扱いが容易にはなるが経済的な面から十分でない場合がある。従って重合体混合物の粘度は好ましくは4千〜4万cps、さらに好ましくは1万〜3万cpsである。
【0015】
非重合性溶剤の種類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、1、4−ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素、N、N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等があり、揮発性等の取り扱い易さ等からメチルエチルケトンまたはメチルイソブチルケトンが好ましい。
また、重合プロセスは回分式重合法、連続式重合法のいずれの方式であっても差し支えない。一方、懸濁重合の場合、重合中にジカルボン酸無水物基が加水分解を起こし、樹脂の耐熱性が著しく悪くなるので好ましくない。
【0016】
一般的に、芳香族ビニル単量体、例えばスチレンと不飽和ジカルボン酸無水物、例えば無水マレイン酸とは、電荷移動錯体を形成しやすく交互共重合性が強いため、通常のラジカル重合条件下での重合では、芳香族ビニルと不飽和ジカルボン酸無水物のモル比が1:1の組成をもつ交互共重合体が重合初期で生成し、重合後期では芳香族ビニル含量の多い共重合体が生成するため、得られる芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸無水物系共重合体は組成分布が大きくなり好ましくない。このため均一な組成分布を有する芳香族ビニル―不飽和ジカルボン酸無水物系共重合体を得るには、芳香族ビニル単量体の重合速度より実質的に遅い速度で不飽和ジカルボン酸無水物を添加しながらラジカル重合させる方法が好ましい。
【0017】
本重合における重合温度は好ましくは60〜150℃であり、さらに好ましくは80〜130℃である。60℃未満では十分な重合速度が得られず、重合に要する時間が長くなる事から経済的に好ましくない場合がある。重合温度が150℃を超えると、熱重合の割合が増加するために十分な分子量が得られない場合がある。
【0018】
本重合における、芳香族ビニル単量体および必要に応じて共重合可能なビニル単量体の重合率は95%以上が好ましく、97%以上がさらに好ましい。本発明における重合率とは、重合に使用した単量体に対して実際に単量体が重合した割合を表しており、ガスクロマトグラフィー等により未反応単量体を定量する事により求める事ができる。95%以下であると、イミド化の工程でこれら単量体の単独重合体が生成し、得られる耐熱性熱可塑性樹脂の熱安定性が悪くなる場合があり、さらに得られる耐熱性熱可塑性樹脂の収率が低下する場合がある。芳香族ビニル単量体および必要に応じて共重合可能なビニル単量体の重合率は重合時間、重合温度、触媒量、連鎖移動剤量等により制御する事ができる。
【0019】
また、本重合体における不飽和ジカルボン酸無水物の重合率は99%以上が好ましい。本発明における重合率とは、重合に使用した不飽和ジカルボン酸無水物に対して実際に単量体が重合した割合を表しており、ガスクロマトグラフィー等により未反応単量体を定量する事により求める事ができる。99%以下であると、イミド化の工程でイミド化単量体を生成し、得られる耐熱性熱可塑性樹脂の色相が著しく悪くなる場合がある。不飽和ジカルボン酸無水物の重合率は重合時間、重合温度、触媒量、連鎖移動剤量、芳香族ビニル単量体および共重合可能なビニル単量体の使用量等により制御する事ができる。
【0020】
得られた重合体を加熱した第一級アミンまたは/及びアンモニアによってイミド化を行うが、第一級アミンの具体例としてメチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、iso−プロピルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、デシルアミン等のアルキルアミン及びクロル又はブロム置換アルキルアミン、アニリン、トルイジン、ナフチルアミン等の芳香族アミンおよびクロル又はブロム置換芳香族アミン等が挙げられ、これらの中でアニリン、シクロヘキシルアミンが特に好ましい。また、これらの第1級アミンは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用しても差し支えない。第1級アミンの添加量は芳香族ビニル―不飽和ジカルボン酸無水物系共重合体中のジカルボン酸無水物基に対して好ましくは0.75〜1.1モル当量、さらに好ましくは0.90〜1.0モル当量である。0.75モル当量未満であると、得られる耐熱性熱可塑性樹脂の耐熱安定性、色調が悪化する場合がある。また、1.1モル当量を越えると、得られる耐熱性熱可塑性樹脂中の残存第1級アミン量が多くなり好ましくない場合がある。
【0021】
第1級アミンまたは/及びアンモニアを60〜120℃に加熱した状態で反応缶に供給してイミド化を行うが、60℃未満であるとイミド化反応を促進させるには不十分であり好ましくない。また、120℃を越えると反応缶内のイミド化による発熱が激しくなり、反応制御の観点から好ましくない。
また上記温度の範囲外であると、得られる耐熱性熱可塑性樹脂の色調が悪化する。
【0022】
第1級アミンの加熱の方法としては特に限定はしないが、例えば遊動頭形熱交換器やU字管形熱交換器などの最も一般的な多管円筒形熱交換器が使用され、ホットオイルや高圧スチーム等を熱媒体として用いる事により第1級アミンを加熱する事ができる。また、加熱後の第1級アミンはイミド化を行う反応缶に直接供給できる事が好ましい。
【0023】
本発明では第3級アミンをイミド化の触媒に使用するが、使用する第3級アミンとしてはトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N、N−ジメチルアニリン、N、N−ジエチルアニリン等が挙げられる。第3級アミンは加熱してもしなくても差し支えなく、第3級アミンと第1級アミンは別々に添加する事ができる。一方で第3級アミンと第1級アミンを混合してイミド化を行う反応缶に供給する事でイミド化反応初期の急激な増粘を抑制する事ができる等、好ましい場合がある。
【0024】
第3級アミンの添加量は芳香族ビニル―不飽和ジカルボン酸無水物系共重合体の不飽和ジカルボン酸無水物基に対し、0.01モル当量以上が好ましい。0.01モル当量未満であるとイミド化反応の触媒効果が不十分であり好ましくない場合がある。第3級アミンを存在させないとイミド化反応に長時間を要しかつイミド化率を完結させる事が困難となる場合がある。
【0025】
イミド化反応の温度は好ましくは130〜250℃であり、さらに好ましくは130〜200℃である。130℃未満の場合には反応速度が遅く反応完結までに長時間を要し経済的でなく好ましくない場合がある。一方、250℃を越える場合には芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸無水物系共重合体の熱分解による物性低下をきたし好ましくない場合がある。
【0026】
本発明におけるイミド化率とは、芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸無水物系共重合体中の不飽和ジカルボン酸無水物基のイミド基への転化率を表しており、イミド化重合体のイミド化率は90モル%以上である事が好ましい。イミド化率90モル%未満のイミド化重合体は耐熱安定性、色調が劣る場合がある。イミド化率は不飽和ジカルボン酸無水物基に対する第1級アミンの添加量によって制御できる。
【0027】
本発明における第1級アミン転化率とは、イミド化に使用した第1級アミンのうち実際にイミド化に消費された第1級アミンの割合を表しており、ガスクロマトグラフィーなどにより未反応の第1級アミンを定量する事により求める事ができる。第1級アミン転化率は、好ましくは93%以上、さらに好ましくは97%以上である。93%未満であると得られるイミド化重合体の耐熱安定性、色調が劣ったり、イミド化共重合体中に残存する第1級アミンが多くなり好ましくない場合がある。第1級アミン転化率は反応時間、反応温度、第3級アミンの添加量等により制御する事ができる。
【0028】
本発明において重合体のイミド化反応は、溶液または塊状状態で行われるが、通常の反応容器、例えばオートクレーブなどを用いるのが好ましいが、塊状溶液状態で行う場合は脱揮装置の付いた押出機を用いてもよい。
【0029】
本発明の耐熱性熱可塑性樹脂はイミド化反応液より揮発分を除去して得ることができる。本発明における揮発分とは使用する非重合性溶剤、芳香族ビニル単量体、ジカルボン酸無水物等の残存単量体群、およびイミド化に使用した残存第1級アミンを主体とする。揮発分除去のために用いる手法としては脱揮装置付押出し機や脱揮槽を用いる方法等公知の方法が採用できる。
また、イミド化反応液を予めメチルエチルケトンなどの溶媒に溶解しておき、その溶液を大過剰のメタノールに投じてポリマーを析出させ、濾別乾燥後に目的とする耐熱性熱可塑性樹脂を得る方法や、スチームストリッピング法により溶剤や未反応単量体を除去し、クラム形状の目的耐熱性熱可塑性樹脂を得る方法もある。
【0030】
本発明で得られた耐熱性熱可塑性樹脂のイエローインデックス(YI)は好ましくは2.5未満、更に好ましくは2.0未満である。2.5以上では得られた耐熱性熱可塑性樹脂とABS樹脂との混合後の組成物の色相が悪化する場合がある。
【0031】
本発明で得られた耐熱性熱可塑性樹脂の重量平均分子量は好ましくは5万〜18万、さらに好ましくは12万〜16万である。5万未満では、機械的強度に劣り、18万を越える場合は、得られた耐熱性熱可塑性樹脂とABS樹脂との混合性が悪くなる場合がある。
また本発明で得られた耐熱性熱可塑性樹脂の分子量分布は、2.0〜2.5が好ましく、この範囲を外れると得られる耐熱性熱可塑性樹脂の機械的特性、特に衝撃強度が劣る場合がある。
【0032】
また、本発明で得られた耐熱性熱可塑性樹脂中の揮発分の合計量は好ましくは5000ppm未満であり、さらに好ましくは2000ppm未満である。5000ppm以上の場合は、得られた耐熱性熱可塑性樹脂が食品関連用途で使用できなくなる等、用途を限定され好ましくない。
【0033】
このようにして得られる耐熱性熱可塑性樹脂はスチレン−アクリロニトリル共重合体(SAN樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン−α−メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル−アクリル系ゴム−スチレン共重合体、アクリロニトリル−エチレン・プロピレン系ゴム−スチレン共重合体、スチレン−メチルメタクリレート共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリウレタン、及びナイロンと混合することもでき、これら樹脂への耐熱付与材として用いる事ができる。
【0034】
これらの中で特にABS樹脂とは良く相溶し、その混合物は耐熱性、耐衝撃性および成形性の点で好ましく、ABS樹脂とあらゆる割合で混合する事ができ、混合する割合により夫々の樹脂の特徴を生かした樹脂組成物を得ることが可能である。
また、本発明の樹脂組成物にさらに安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、ガラス等の繊維、無機充填剤、着色剤、帯電防止剤等を添加することもできる。
【0035】
以下本発明を実施例で使用する樹脂の製造の参考例及び実施例によって説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0036】
【参考例1】
芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸無水物系共重合体の製造
攪拌器を備えたオートクレーブ中にスチレン60質量部、メチルエチルケトン11.2質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92℃に昇温した。昇温中に、別容器に調整した無水マレイン酸40質量部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.10質量部をメチルエチルケトン126質量部に溶解した溶液を均一な添加速度にて4時間30分かけて添加した。添加後116℃に昇温し、更に30分反応させた。粘調な反応液の一部をサンプリングして、ガスクロマトグラフィーにより未反応の単量体の定量を行い、単量体の重合率を算出した。スチレンの重合率は97.4%であり、無水マレイン酸の重合率は99.8%以上であった。
【0037】
【実施例1】
参考例1で得られた共重合体反応液を予め120℃まで昇温した後、無水マレイン酸基1モル当量に対して0.94モル当量のアニリンを熱交換器で70℃に加熱して仕込んだ。また、無水マレイン酸基1モル当量に対して0.014モル当量のトリエチルアミンを仕込んだ。尚、予熱後のアニリンとトリエチルアミンはオートクレーブ投入時に混合して仕込んだ。そして155℃で5時間反応を行った。イミド化反応液をサンプリングし、C−13NMR(核磁器共鳴)法より無水マレイン酸基のイミド基への転化率は93.0mol%であった。また、イミド化反応液の段階での重量平均分子量は26.4万であった。イミド化反応液を脱揮押出し機に投入し、揮発分を除去してペレット状の耐熱性熱可塑性樹脂を得た。ペレット化後の耐熱性熱可塑性樹脂の重量平均分子量は15.8万であった。
【0038】
【実施例2】
参考例1で得られた共重合体混合物を予め120℃まで昇温した後、無水マレイン酸基1モル当量に対して0.94モル当量のアニリンを熱交換器で120℃に加熱して仕込んだ。また、無水マレイン酸基1モル当量に対して0.014モル当量のトリエチルアミンを仕込んだ。アニリンの加熱温度を変えた以外は実施例1と同様な操作で以ってペレット状の耐熱性熱可塑性樹脂を得た。C−13NMR(核磁器共鳴)法よりイミド化率は93.8mol%であった。イミド化反応液の段階での重量平均分子量は28.7万であり、ペレット化後の耐熱性熱可塑性樹脂の重量平均分子量は15.9万であった。
【0039】
【比較例1】
参考例1で得られた共重合体混合物を予め120℃まで昇温した後、無水マレイン酸基1モル当量に対して0.94モル当量のアニリンを熱交換器を使用せずに仕込んだ。その時のアニリン温度は23℃であった。また、無水マレイン酸基1モル当量に対して0.014モル当量のトリエチルアミンを仕込み、155℃で8時間反応させた。イミド化反応液をサンプリングし、C−13NMR法よりイミド化率は93.2mol%であった。また、その時点での重量平均分子量は28.4万であった。イミド化反応液を脱揮押出し機に投入し、揮発分を除去してペレット状の耐熱性熱可塑性樹脂を得た。ペレット化後の耐熱性熱可塑性樹脂の重量平均分子量は15.6万であった。
【0040】
【比較例2】
参考例1で得られた共重合体混合物を予め120℃まで昇温した後、無水マレイン酸基1モル当量に対して0.94モル当量のアニリンを予熱器で200℃に加熱して仕込んだ。すると、急激な発熱反応および反応液の発泡などにより反応を制御させる事が困難であったため、反応を完結させる事ができなかった。
【0041】
【比較例3】
参考例1で得られた共重合体混合物を比較例1と同様に仕込みを行い、155℃で5時間反応させた。イミド化反応液をサンプリングし、C−13NMR法より酸無水物のイミド化率は87.0mol%であった。また、イミド化反応液の段階での重量平均分子量は31.3万であった。イミド化反応液を脱揮押出し機に投入し、揮発分を除去してペレット状の耐熱性熱可塑性樹脂を得た。ペレット化後の耐熱性熱可塑性樹脂の重量平均分子量は14.6万であった。
【0042】
【表1】
Figure 2004307760
【0043】
【表2】
Figure 2004307760
【0044】
本発明の評価は以下のように行った。
(1) イミド化反応前の重合液の重合率
下記記載の測定条件で未反応の単量体の定量を行い、重合率を算出した。
装置名:Agilent6890series(Agilent社製)
カラム:キャピラリーカラム(ジメチルポリシロキサン、架橋タイプ)
温度:オーブン:50℃、注入口:200℃、検出器:250℃
検出器:FID
試料重合液0.50g、n−オクタン0.001gを秤量しメチルエチルケトンに溶解させ全体を25.0gにし、n−オクタンを内部標準として測定した。
【0045】
(2) アニリン転化率
(1)と同様の測定条件にて未反応のアニリンの定量を行い、アニリン転化率を算出した。
【0046】
(3) イミド化率
下記記載の測定条件でNMRを測定し、イミド基のカルボニル炭素の積分値と未反応ジカルボン酸無水物基およびイミド化反応中間体のマレアミド酸中間体のカルボニル炭素の積分値の比からイミド化率を算出した。
装置名:AVANCE−300(BRUKER社製)
測定核種:C13
温度:110℃
濃度:10質量%
溶媒:DMSO−d6
積算回数:1万回
【0047】
(4) 重量平均分子量
下記記載のGPC測定条件で測定した。
装置名:SYSTEM−21 Shodex(昭和電工社製)
カラム:PL gel MIXED−Bを3本直列
温度:40℃
検出:示差屈折率
溶媒:テトラハイドロフラン
濃度:2質量%
検量線:標準ポリスチレン(PS)(PL社製)を用いて作製し、重量平均分子量はPS換算値で表した。
【0048】
(5) 熱安定性
イミド化反応液の段階での重量平均分子量Mw1と脱揮押出しにより揮発分を除去した後の耐熱性熱可塑性樹脂の重量平均分子量Mw2を比較した時の重量平均分子量の減少量(ΔMw=Mw1−Mw2)により評価した。
【0049】
(6) 色調
下記の測定条件により、耐熱性熱可塑性樹脂の色調(イエローインデックス:YI)を評価した。
装置名:SZ−IIΣ80 測色色差計(日本電色社製)
温度:23℃±2℃
溶媒:テトラハイドロフラン
濃度:4質量%
測定モード:透過法
【0050】
【発明の効果】
本発明は、未反応のジカルボン酸無水物基の少ない、耐熱安定性、色調に優れたマレイミド基を有するスチレン系耐熱性熱可塑性樹脂を極めて効率的に製造する方法を提供するものである。

Claims (5)

  1. 芳香族ビニル単量体、不飽和ジカルボン酸無水物および必要に応じてこれらと共重合可能なビニル単量体を非重合性溶剤中で溶液重合させる事により得た重合体に対し、第1級アミンまたは/及びアンモニアを60〜120℃に加熱した状態で第3級アミンと共に反応缶に供給し、130〜250℃でイミド化し、その後揮発分を除去して得られる耐熱性熱可塑性樹脂の製造方法。
  2. 請求項1記載の製造方法で製造される耐熱性熱可塑性樹脂。
  3. イエローインデックス(YI)が2.5未満である事を特徴とする請求項2記載の耐熱性熱可塑性樹脂。
  4. 重量平均分子量(Mw)が5万〜18万、かつ分子量分布(Mw/Mn)が2.0〜2.5である事を特徴とする請求項2または3記載の耐熱性熱可塑性樹脂。
  5. 請求項2〜4いずれかに記載の耐熱性熱可塑性樹脂1〜99質量%とABS樹脂99〜1質量%からなる事を特徴とする耐熱性熱可塑性樹脂組成物。
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