JP2004303890A - 有機薄膜トランジスタ、薄膜形成方法及び有機薄膜トランジスタの製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、簡単なプロセスによる薄膜を形成することが可能な薄膜形成方法、および該形成方法にて作製された有機薄膜トランジスタ及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
情報端末の普及に伴い、コンピュータ用のディスプレイとしてフラットパネルディスプレイに対するニーズが高まっている。また更に情報化の進展に伴い、従来紙媒体で提供されていた情報が電子化されて提供される機会が増え、薄くて軽い、手軽に持ち運びが可能なモバイル用表示媒体として、電子ペーパーあるいはデジタルペーパーへのニーズも高まりつつある。
【0003】
一般に平板型のディスプレイ装置においては、液晶、有機EL、電気泳動などを利用した素子を用いて表示媒体を形成している。また、こうした表示媒体では画面輝度の均一性や画面書き換え速度などを確保するために、画像駆動素子としてアクティブ駆動素子(TFT素子)を用いる技術が主流になっている。例えば、通常のコンピュータディスプレイでは、ガラス基板上にこれらTFT素子を形成し、液晶、有機EL素子等が封止されている。
【0004】
ここでTFT素子には、主にa−Si(アモルファスシリコン)、p−Si(ポリシリコン)などの半導体を用いることができ、これらのSi半導体(必要に応じて金属膜も)を多層化し、ソース、ドレイン、ゲート電極を基板上に順次形成していくことでTFT素子が製造される。こうしたTFT素子の製造には、通常、スパッタリング、その他の真空系の製造プロセスが必要とされる。
【0005】
しかしながら、このようなTFT素子の製造では、真空チャンバーを含む真空系の製造プロセスを何度も繰り返して各層を形成せざるを得ず、装置コスト、ランニングコストが非常に膨大なものとなっていた。例えば、TFT素子では、通常、それぞれの層の形成のために、真空蒸着、ドープ、フォトリソグラフ、現像等の工程を何度も繰り返す必要があり、何十もの工程を経て素子を基板上に形成している。スイッチング動作の要となる半導体部分に関しても、p型、n型等、複数種類の半導体層を積層している。こうした従来のSi半導体による製造方法ではディスプレイ画面の大型化のニーズに対し、真空チャンバー等の製造装置の大幅な設計変更が必要とされるなど、設備の変更が容易ではない。
【0006】
又、このような従来からのSi材料を用いたTFT素子の形成には高い温度の工程が含まれるため、基板材料には工程温度に耐える材料であるという制限が加わることになる。このため実際上はガラスを用いざるをえず、先に述べた電子ペーパーあるいはデジタルペーパーといった薄型ディスプレイを、こうした従来知られたTFT素子を利用して構成した場合、そのディスプレイは重く、柔軟性に欠け、落下の衝撃で割れる可能性のある製品となってしまう。ガラス基板上にTFT素子を形成することに起因するこれらの特徴は、情報化の進展に伴う手軽な携行用電子機器、特に薄型ディスプレイへのニーズを満たすにあたり望ましくないものである。
【0007】
一方、近年において高い電荷輸送性を有する有機化合物として、有機半導体材料の研究が精力的に進められている。これらの化合物は有機EL素子用の電荷輸送性材料のほか、『サイエンス』(Science)誌、289巻、599頁(2000)において論じられているような有機レーザー発振素子や、『ネイチャー』(Nature)誌、403巻、521頁(2000)を始め多数の論文にて報告されている有機薄膜トランジスタへの応用が期待されている。
【0008】
これら有機半導体デバイスを実現できれば、比較的低い温度での真空ないし低圧蒸着による製造プロセスの簡易化や、更にはその分子構造を適切に改良することによって、溶液化できる半導体を得る可能性があると考えられ、有機半導体溶液をインク化することによりインクジェット方式を含む印刷法による製造も考えられる。これらの低温プロセスによる製造は、従来のSi系半導体材料については不可能と考えられてきたが、有機半導体を用いたデバイスにはその可能性があり、従って、前述の基板耐熱性に関する制限が緩和され、透明樹脂基板上にも、例えば、TFT素子を形成できる可能性がある。例えば、透明樹脂基板上にTFT素子を形成し、そのTFT素子により表示材料を駆動させることができれば、ディスプレイを従来のものよりも軽く、柔軟性に富み、落としても割れない(もしくは非常に割れにくい)ディスプレイとすることができるであろう。
【0009】
しかしながら、こうしたTFT素子を実現するための有機半導体としてこれまでに検討されてきたのは、ペンタセンやテトラセンといったアセン類(例えば、特許文献1参照。)、鉛フタロシアニンを含むフタロシアニン類、ペリレンやそのテトラカルボン酸誘導体といった低分子化合物(例えば、特許文献2参照。)や、α−チエニールもしくはセクシチオフェンと呼ばれるチオフェン6量体(例えば、特許文献3参照。)、フルオレンオリゴマーなどの芳香族オリゴマー(例えば、特許文献4参照。)更にはポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリ−p−フェニレンビニレンといった共役高分子など限られた種類の化合物(例えば、非特許文献1参照。)でしかない。
【0010】
これらの多くは薄膜形成にあたり真空蒸着プロセスを用いる必要があり、前述したような、塗布や印刷などの常圧プロセスにより基板上に薄膜を設置できるという有機半導体への期待に応えるものではない。またポリマーや一部のオリゴマーはその分子構造中に、溶剤溶解性を向上させるための置換基を導入しており、その溶液を用いて薄膜形成を行うことを可能にしているが、その電荷移動度や耐久性について必ずしも充分とはいえなかった。
【0011】
【特許文献1】
特開平5−55568号公報
【0012】
【特許文献2】
特開平5−190877号公報
【0013】
【特許文献3】
特開平8−264805号公報
【0014】
【特許文献4】
特開2002−324931号公報
【0015】
【非特許文献1】
『アドバンスド・マテリアル』(Advanced Materi−al)誌 2002年 第2号 99ページ
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ゲート電圧を変化させた際の最大電流値と最小電流値の比が高く、しかも良好に駆動し、耐久性が高い有機薄膜トランジスタ、そのための薄膜形成方法、更には該有機薄膜トランジスタの製造方法を提供することである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、以下の手段により達成された。
【0018】
1)基板上に少なくともソース、ゲート、ドレインの各電極と半導体薄膜および半導体薄膜とゲート電極を隔てる絶縁層を具備する有機薄膜トランジスタにおいて、半導体薄膜が少なくとも前記一般式1により表される共役化合物を含有することを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【0019】
2)一般式1のAr1およびAr3が表す芳香族炭化水素環がフェニル基、ナフチル基、アズレニル基、フルオレニル基、アントリル基から選ばれることを特徴とする前記1)に記載の有機薄膜トランジスタ。
【0020】
3)一般式1のm2が4〜10の整数であることを特徴とする前記1)または2)に記載の有機薄膜トランジスタ。
【0021】
4)一般式1のAr2が表す芳香環がベンゼン環、チオフェン環、ピロール環、チアゾール環、イミダゾール環およびこれらに更に芳香環が縮合した多環式芳香環から選ばれることを特徴とする前記1)〜3)のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【0022】
5)一般式1のAr1、Ar2、Ar3が炭素数5以上、10以下の直鎖アルキル基もしくは同じ範囲の原子数である直鎖状アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシアルキル基を置換基として有することを特徴とする前記1)〜4)のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【0023】
6)基板上に少なくともソース、ゲート、ドレインの各電極と半導体薄膜および半導体薄膜とゲート電極を隔てる絶縁層を具備する有機薄膜トランジスタにおいて、半導体薄膜が少なくとも前記一般式2により表される少なくとも一部において拡張共役系を形成している化合物を含有することを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【0024】
7)一般式2のAr1が表す芳香族炭化水素環がフェニル基、ナフチル基、アズレニル基、フルオレニル基、アントリル基から選ばれることを特徴とする前記6)に記載の有機薄膜トランジスタ。
【0025】
8)一般式2のm2が4〜10の整数であることを特徴とする前記6)または7)に記載の有機薄膜トランジスタ。
【0026】
9)一般式2のAr2が表す芳香環がベンゼン環、チオフェン環、ピロール環、チアゾール環、イミダゾール環およびこれらに更に芳香環が縮合した多環式芳香環から選ばれることを特徴とする前記6)〜8)のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【0027】
10)一般式2のAr1、Ar2が炭素数5以上、10以下の直鎖アルキル基もしくは同じ範囲の原子数である直鎖状アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシアルキル基を置換基として有することを特徴とする前記6)〜9)のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【0028】
11)一般式2の構造が前記一般式3であることを特徴とする前記6)に記載の有機薄膜トランジスタ。
【0029】
12)一般式1、2または3により表される化合物の溶液を基板上に設置し、その後に乾燥を行うことを特徴とする薄膜形成方法。
【0030】
13)一般式1、2または3により表される化合物の溶液がインクジェット法により基板上に設置されることを特徴とする薄膜形成方法。
【0031】
14)一般式1、2または3により表される化合物の溶液が印刷法により基板上に設置されることを特徴とする薄膜形成方法。
【0032】
15)基板上にソース、ゲート、ドレインの各電極と半導体薄膜および半導体薄膜とゲート電極を隔てる絶縁層を具備する有機薄膜トランジスタの製造方法において、前記12)〜14)のいずれか1項に記載の薄膜形成方法により半導体薄膜を形成することを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法。
【0033】
以下、本発明の有機薄膜トランジスタについて説明する。
本発明の有機薄膜トランジスタは、前記請求項に記載されている一般式1もしくは一般式2で表される化合物の薄膜が、半導体層(活性層)として設置されていることを特徴としている。本発明の一般式1もしくは一般式2で表される化合物は、その分子量が比較的小さい(装置にもよるが約2000以下の)場合には真空もしくは減圧下における蒸着によって基板上に薄膜を形成することもできるが、好ましくは常圧下で可能な薄膜形成方法に供することが望ましい。具体的には溶剤に溶解して基板上に塗布する方法(スピンコート法やキャストコート法など)、調製した溶液に必要に応じて更に適切な添加剤を加えた水性もしくは油性インクを用いるスクリーン印刷、フレキソ印刷、もしくはインクジェット法などの印刷法、該半導体性組成物を塗布した基板と適切な光熱変換材料を用いて薄膜を形成したい基板に転写を行うアブレーション法などを挙げることができる。
【0034】
これらの方法によって得られる有機薄膜を、各種有機半導体材料や薄膜の電界効果トランジスタ、スイッチング素子等各種デバイスの製造に有利に用いることができ、特にスイッチング素子材料として用いると、良好にスイッチング駆動する。
【0035】
まず一般式1で表される化合物について説明する。
一般式1は概略Ar1、Ar2、Ar3が共役結合した芳香族共役オリゴマーであり、共役骨格を形成する芳香環に結合した置換基の数が、分子全体で2以上であることを特徴とする。分子全体で1つしか置換基を持たない、もしくは共役骨格のいずれの部位にも置換基が導入されていない場合、分子の溶剤溶解性が極めて乏しくなり、従って薄膜形成において真空蒸着を余儀なくされるため、常圧下にてキャリア移動度と耐久性に優れた有機半導体薄膜を形成する方法を提供するという本発明の目的を達成しえない。オリゴマーを構成する芳香環の30〜100%が置換基を有している構造であることが好ましい。置換基の数の上限については明記していないが、これは置換基を導入することのできる個所が、Ar1、Ar2およびAr3の構造によって規定されるため、一概に述べることができないという事情によるものであり、実際の置換基の数はAr1、Ar2およびAr3の構造が化学的に整合する範囲内に限定されるのは当然である。
【0036】
共役骨格に導入される置換基としては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基等)、アルキニル基(例えば、エチニル基、プロパルギル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、ヘテロアリール基(例えば、フリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリダジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、キナゾリル基、フタラジル基等)、ヘテロ環基(例えば、ピロリジル基、イミダゾリジル基、モルホリル基、オキサゾリジル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基等)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、アシル基(例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基等)、アミド基(例えば、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、ジメチルカルボニルアミノ基、プロピルカルボニルアミノ基、ペンチルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ基、オクチルカルボニルアミノ基、ドデシルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ドデシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基、ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等)、スルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2−エチルヘキシルスルフィニル基、ドデシルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2−ピリジルスルフィニル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基等)、アリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等)、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、アニリノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、フッ化炭化水素基(例えば、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基等)、シアノ基、シリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリフェニルシリル基、フェニルジエチルシリル基等)等が挙げられ、これらの置換基は上記の置換基によって更に置換されていても、複数が互いに結合して環を形成していてもよい。好ましい置換基としてはアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシアルキル基、アルキル基で置換されたアミノ基、アルキルカルバモイル基、アルコキシカルボニル基が挙げられ、特に好ましくは炭素数5以上、20以下の、水素原子に替えてフッ素原子が結合していてもよいアルキル基、もしくは同じ範囲の原子数を有する直鎖状アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシアルキル基であり、更に好ましくは炭素数5以上、10以下の直鎖アルキル基もしくは同じ範囲の原子数を有する直鎖状アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシアルキル基である。
【0037】
Ar1とAr3はそれぞれ芳香族炭化水素基を表す。芳香族炭化水素基を形成する芳香族炭化水素としては、ベンゼン、ナフタレン、アズレン、アントラセン、テトラセン、フェナントレン、フルオレン、ピレン、ペンタセンなどがある。これらのうち、ベンゼン、ナフタレン、アズレン、フルオレン、アントラセンが好ましい。m1およびm3は1、2もしくは3である。r
Ar2としては芳香環であり、Ar1およびAr3と異なりヘテロ芳香環であってもよい。Ar2を誘導する芳香族化合物の例としては、先にAr1およびAr3の例として挙げた芳香族炭化水素化合物のほかに、フラン、チオフェン、セレノフェン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピリミジン、チアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾールおよびこれらが別の芳香族環と縮合して形成された縮合多環式芳香族化合物、例えば、ベンゾチオフェン、ベンズイミダゾール、ベンズチアゾール、キノリンなどが挙げられる。
【0038】
m2は3〜30の整数を表す。m3が2以下の場合には共役系の広がりが小さく電荷移動度が充分ではなく、nが大きくなると共役系の広がりが大きすぎて酸化を受けやすくなり、薄膜の耐久性が充分ではなくなる。電荷移動度と耐久性を両立するうえで好ましいnの範囲としては4〜10である。
【0039】
次に一般式2で表される化合物について説明する。
一般式2で表される化合物は、概略Ar1およびAr2が共役結合した構造の繰り返し単位を有する芳香族共役ポリマーであり、共役骨格に導入された置換基の数が繰り返し単位ごとに2以上であることを特徴とする。これより少ない置換基数ではポリマーの溶解性が乏しくなり薄膜形成に支障を来すことは、一般式1の化合物について説明したのと同様である。繰り返し単位あたり4以上の置換基が導入されていることが、溶解性の観点からは更に好ましい。
【0040】
Ar1、Ar2、m1、m2およびこれらが形成する共役骨格に結合する置換基については、一般式1における説明と同様である。一般式2で表されるポリマーは単一の繰り返し単位しかもたないポリマーであってもよいし、何種類かの異なる繰り返し単位を有するブロックポリマーであってもよいが、高い移動度を有する有機半導体薄膜を得るという本発明の目的に照らして、単一の繰り返し単位の重合体であるか、あるいは繰り返し単位の結合順序が制御されたブロックポリマーであることが好ましい。mは重合度を表し、骨格構造にもよるが3000を超えないものが好ましく、特に好ましくは50〜1000、更に好ましくは100〜600である。
【0041】
繰り返し単位中に導入された連結基Lは、単なる結合であるか、あるいは内部にエーテルまたはチオエーテル結合を含んでいてもよいアルキレン、またはm−フェニレン(置換基を有していても、別の環構造と縮合していてもよい)、−CONH−、−NHCONH−、−COO−、−N(R3)−(R3は置換基であり、その例としては一般式1の化合物の説明において共役骨格に導入されうる置換基の例として示したものと同様である。好ましくはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基である。)、およびこれらの任意の組み合わせを表す。また、Lが単なる結合である場合には、一般式3で示される繰り返し単位が特に好ましい。
【0042】
一般式3において、Z1は芳香族炭化水素環を形成するのに必要な非金属原子群を表し、形成される芳香族炭化水素環の例としては、一般式1のAr1およびAr3の例として挙げたものと同様の例を挙げることができる。R1は置換基を表し、置換基の例としては、一般式1で表される化合物の共役骨格に導入されうる置換基として示したものと同様の置換基を挙げることができ、特に好ましくはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基である。一般式3のように繰り返し単位の末端部分の芳香環に置換基が導入されることによって、一般式2で表される共役ポリマーは繰り返し単位ごとに共役結合の断裂を生じ、共役系の過大な広がりによる耐久性の劣化を効果的に防止することができる。
【0043】
以下に一般式1および2によって表される化合物の具体的な例を示すが、本発明の化合物がこれらの例によって限定されるものではない。また、一般式2に示した構造を有する繰り返し単位をもつポリマーについては、その平均分子量をMとして構造式に併記した。平均分子量の測定にはゲル泳動クロマトグラフィーを用い、ポリスチレンを基準に用いた。
【0044】
【化4】
【0045】
【化5】
【0046】
【化6】
【0047】
本発明の化合物はジャーナル・オブ・ケミカル・ソサイエティ・パーキン・トランザクション2(J.Chem.Soc.Perkin Trans.2)第10巻、2281〜2288頁、テトラヘドロン(Tetrahedron)第50巻、11893〜11902頁、ヘテロサイクルズ(Heterocycles)30巻、645〜658頁、シンセシス(Synthesis)1993年、1099〜1103頁、ブレタン・オブ・ケミカル・ソサイエティ・オブ・ジャパン(Bulletin of Chemical Society ofJapan)62巻、1539〜1546頁、テトラヘドロン51巻(1995)、3895〜3904頁、テトラヘドロン・レターズ(Tetrahedron Letters)42巻、5327〜5329頁、ケミストリーレターズ(Chemistry Letters)10巻、1123〜1124頁、ケミカル・コミュニケーション(Chemical Communication)1999年、2347〜2348頁、ケミカル・レビュー(Chemical Review)102巻(2002)、1359〜1469頁、有機合成化学協会誌2001年3月号、607〜612頁、テトラヘドロン・レターズ42巻、5659〜5662頁、同6869〜6872頁、新実験化学講座(丸善株式会社刊)第14巻第一分冊(「有機化合物の合成と反応(I)」)39〜62頁等に記載の合成反応等、当業に従事する技術者には周知の合成方法によって製造することができる。以下に、例示した化合物のいくつかに関する合成経路の一例を示すが、その他の化合物も同様の方法および前記文献および公知の合成法によって製造することが可能である。
【0048】
【化7】
【0049】
有機薄膜トランジスタは、一般に支持体上に有機半導体チャネル(活性層)で連結されたソース電極とドレイン電極を有し、その上にゲート絶縁層を介してゲート電極を有するトップゲート型と支持体上にまずゲート電極を有し、ゲート絶縁層を介して有機半導体チャネルで連結されたソース電極とドレイン電極を有するボトムゲート型に大別されるが、本発明に係る有機薄膜トランジスタにおいては、トランジスタとしての機能を実現する範囲で電極と半導体チャネルが異なる位置関係で配置されることを妨げるものではない。
【0050】
本発明に係る有機薄膜トランジスタの活性層を設置するにあたっては、上述から選ばれる方法を採用すればよい。
【0051】
本発明おいて、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を形成する材料は、導電性材料であれば特に限定されず、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、テルル、レニウム、イリジウム、アルミニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、モリブデン、タングステン、酸化スズ・アンチモン、酸化インジウム・スズ(ITO)、フッ素ドープ酸化亜鉛、亜鉛、炭素、グラファイト、グラッシーカーボン、銀ペーストおよびカーボンペースト、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、マンガン、ジルコニウム、ガリウム、ニオブ、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、アルミニウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物、リチウム/アルミニウム混合物等が用いられるが、特に白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、ITOおよび炭素が好ましい。あるいはドーピング等で導電率を向上させた公知の導電性ポリマー、例えば、導電性ポリアニリン、導電性ポリピロール、導電性ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体なども好適に用いられる。中でも、半導体層との接触面において電気抵抗が少ないものが好ましい。
【0052】
電極の形成方法としては、上記を原料として蒸着やスパッタリング等の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅などの金属箔上に熱転写、インクジェット等によるレジストを用いてエッチングする方法がある。また導電性ポリマーの溶液あるいは分散液、導電性微粒子分散液を直接インクジェットによりパターニングしてもよいし、塗工膜からリソグラフやレーザーアブレーションなどにより形成してもよい。更に導電性ポリマーや導電性微粒子を含むインク、導電性ペーストなどを凸版、凹版、平版、スクリーン印刷などの印刷法でパターニングする方法も用いることができる。
【0053】
ゲート絶縁層としては種々の絶縁膜を用いることができるが、特に比誘電率の高い無機酸化物皮膜が好ましい。無機酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコニウム酸チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウムなどが挙げられる。それらのうち好ましいのは、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタンである。窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の無機窒化物も好適に用いることができる。
【0054】
上記皮膜の形成方法としては、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、低エネルギーイオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法などのドライプロセスや、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、デイップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法などの塗布による方法、印刷やインクジェットなどのパターニングによる方法などのウェットプロセスが挙げられ、材料に応じて使用できる。
【0055】
ウェットプロセスは、無機酸化物の微粒子を任意の有機溶剤あるいは水に必要に応じて界面活性剤などの分散補助剤を用いて分散した液を塗布、乾燥する方法や、酸化物前駆体、例えば、アルコキシド体の溶液を塗布、乾燥する、いわゆるゾルゲル法が用いられる。これらのうち好ましいのは、大気圧プラズマ法とゾルゲル法である。
【0056】
大気圧下でのプラズマ製膜処理による絶縁膜の形成方法は、大気圧または大気圧近傍の圧力下で放電し、反応性ガスをプラズマ励起し、基材上に薄膜を形成する処理で、その方法については、特開平11−61406号、同11−133205号、特開2000−121804号、同2000−147209号、同2000−185362号の各公報に記載されている(以下、大気圧プラズマ法とも称する)。これによって高機能性の薄膜を、生産性高く形成することができる。
【0057】
また有機化合物皮膜を構成する材料としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいはアクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、およびシアノエチルプルラン等を用いることもできる。これらを用いた有機化合物皮膜の形成法としては、前記ウェットプロセスが好ましい。
【0058】
無機酸化物皮膜と有機酸化物皮膜は積層して併用することができる。またこれら絶縁膜の膜厚としては、一般に50nm〜3μm、好ましくは100nm〜1μmである。
【0059】
また支持体はガラスやフレキシブルな樹脂製シートで構成され、例えば、プラスチックフィルムをシートとして用いることができる。前記プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ボリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。このように、プラスチックフィルムを用いることで、ガラス基板を用いる場合に比べて軽量化を図ることができ、可撓性を高めることができるとともに、衝撃に対する耐性を向上できる。
【0060】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0061】
実施例1
ゲート電極としての抵抗率0.01Ω・cmのSiウェハーに、厚さ2000Åの熱酸化膜を形成してゲート絶縁層とした後、例示化合物1のクロロホルム溶液をアプリケーターを用いて塗布し、自然乾燥することによりキャスト膜(厚さ50nm)を形成して、窒素雰囲気下で50℃、30分間の熱処理を施した。更に、この膜の表面にマスクを用いて金を蒸着してソースおよびドレイン電極を形成した。ソースおよびドレイン電極は幅100μm、厚さ200nmで、チャネル幅W=3mm、チャネル長L=20μmの有機薄膜トランジスタ素子1を作製した。
【0062】
例示化合物1を表1に示した本発明の例示化合物に代えた他は、同様にして有機薄膜トランジスタ素子2〜5を作製した。
【0063】
例示化合物1をポリ(3−ヘキシルチオフェン)(regioregular、アルドリッチ社製、平均分子量89000、PHT)に代えた他は、同様にして、比較例としての有機薄膜トランジスタ素子6を作製した。
【0064】
ペンタセン(アルドリッチ社製市販試薬を昇華精製して用いた)0.2gをクロロホルム100mlに加え、窒素下にて還流温度で撹拌した後に不溶物を濾別して、ペンタセンのクロロホルム溶液を調製し、これを用いて有機薄膜トランジスタ素子1と同様に、比較例としての有機薄膜トランジスタ素子7を作製した。
【0065】
以上のようにして作製した有機薄膜トランジスタ素子のそれぞれにおいて、ソース・ドレイン電極間に−50Vの電圧を印加し、ゲート電圧を−100Vから100Vの範囲で変化させた際の、最大電流値と最小電流値の比をとって、これを各々の有機薄膜トランジスタ素子のON/OFF比として記録した。比較例である有機薄膜トランジスタ素子6の示した値を100としたときの相対値によって結果を示すと以下のとおりであった。
【0066】
【表1】
【0067】
この結果より、本発明の例示化合物を活性層に用いて作製した有機薄膜トランジスタ素子が、優れたON/OFF特性を示すことがわかる。また、ペンタセンを用いた有機薄膜トランジスタ素子7の結果は、塗布による薄膜形成によっては活性層として機能するペンタセン薄膜を得がたいことを示している。
【0068】
実施例2
実施例1にて測定に使用した有機薄膜トランジスタ素子1〜7を温度40℃、湿度60%にて3日間保存した後、実施例1と同様の測定を行った。結果を実施例1と同様に、実施例1における各々の有機薄膜トランジスタ素子の結果を100とする相対値によって示すと表2のとおりであった。
【0069】
【表2】
【0070】
この結果より、本発明の例示化合物を活性層に用いた場合、作製した有機薄膜トランジスタ素子はON/OFF比が処理前と大きく変化せず、耐久性においても優れた特性を示し、素子としての寿命を長期化できることがわかった。
【0071】
【発明の効果】
本発明によれば、有機薄膜トランジスタを簡単なプロセスで形成可能な半導体性組成物が得られ、該半導体性組成物薄膜を用いた有機薄膜トランジスタはゲート電圧を変化させた際の最大電流値と最小電流値の比、即ちON/OFF比が大きく、耐久性に優れる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、簡単なプロセスによる薄膜を形成することが可能な薄膜形成方法、および該形成方法にて作製された有機薄膜トランジスタ及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
情報端末の普及に伴い、コンピュータ用のディスプレイとしてフラットパネルディスプレイに対するニーズが高まっている。また更に情報化の進展に伴い、従来紙媒体で提供されていた情報が電子化されて提供される機会が増え、薄くて軽い、手軽に持ち運びが可能なモバイル用表示媒体として、電子ペーパーあるいはデジタルペーパーへのニーズも高まりつつある。
【0003】
一般に平板型のディスプレイ装置においては、液晶、有機EL、電気泳動などを利用した素子を用いて表示媒体を形成している。また、こうした表示媒体では画面輝度の均一性や画面書き換え速度などを確保するために、画像駆動素子としてアクティブ駆動素子(TFT素子)を用いる技術が主流になっている。例えば、通常のコンピュータディスプレイでは、ガラス基板上にこれらTFT素子を形成し、液晶、有機EL素子等が封止されている。
【0004】
ここでTFT素子には、主にa−Si(アモルファスシリコン)、p−Si(ポリシリコン)などの半導体を用いることができ、これらのSi半導体(必要に応じて金属膜も)を多層化し、ソース、ドレイン、ゲート電極を基板上に順次形成していくことでTFT素子が製造される。こうしたTFT素子の製造には、通常、スパッタリング、その他の真空系の製造プロセスが必要とされる。
【0005】
しかしながら、このようなTFT素子の製造では、真空チャンバーを含む真空系の製造プロセスを何度も繰り返して各層を形成せざるを得ず、装置コスト、ランニングコストが非常に膨大なものとなっていた。例えば、TFT素子では、通常、それぞれの層の形成のために、真空蒸着、ドープ、フォトリソグラフ、現像等の工程を何度も繰り返す必要があり、何十もの工程を経て素子を基板上に形成している。スイッチング動作の要となる半導体部分に関しても、p型、n型等、複数種類の半導体層を積層している。こうした従来のSi半導体による製造方法ではディスプレイ画面の大型化のニーズに対し、真空チャンバー等の製造装置の大幅な設計変更が必要とされるなど、設備の変更が容易ではない。
【0006】
又、このような従来からのSi材料を用いたTFT素子の形成には高い温度の工程が含まれるため、基板材料には工程温度に耐える材料であるという制限が加わることになる。このため実際上はガラスを用いざるをえず、先に述べた電子ペーパーあるいはデジタルペーパーといった薄型ディスプレイを、こうした従来知られたTFT素子を利用して構成した場合、そのディスプレイは重く、柔軟性に欠け、落下の衝撃で割れる可能性のある製品となってしまう。ガラス基板上にTFT素子を形成することに起因するこれらの特徴は、情報化の進展に伴う手軽な携行用電子機器、特に薄型ディスプレイへのニーズを満たすにあたり望ましくないものである。
【0007】
一方、近年において高い電荷輸送性を有する有機化合物として、有機半導体材料の研究が精力的に進められている。これらの化合物は有機EL素子用の電荷輸送性材料のほか、『サイエンス』(Science)誌、289巻、599頁(2000)において論じられているような有機レーザー発振素子や、『ネイチャー』(Nature)誌、403巻、521頁(2000)を始め多数の論文にて報告されている有機薄膜トランジスタへの応用が期待されている。
【0008】
これら有機半導体デバイスを実現できれば、比較的低い温度での真空ないし低圧蒸着による製造プロセスの簡易化や、更にはその分子構造を適切に改良することによって、溶液化できる半導体を得る可能性があると考えられ、有機半導体溶液をインク化することによりインクジェット方式を含む印刷法による製造も考えられる。これらの低温プロセスによる製造は、従来のSi系半導体材料については不可能と考えられてきたが、有機半導体を用いたデバイスにはその可能性があり、従って、前述の基板耐熱性に関する制限が緩和され、透明樹脂基板上にも、例えば、TFT素子を形成できる可能性がある。例えば、透明樹脂基板上にTFT素子を形成し、そのTFT素子により表示材料を駆動させることができれば、ディスプレイを従来のものよりも軽く、柔軟性に富み、落としても割れない(もしくは非常に割れにくい)ディスプレイとすることができるであろう。
【0009】
しかしながら、こうしたTFT素子を実現するための有機半導体としてこれまでに検討されてきたのは、ペンタセンやテトラセンといったアセン類(例えば、特許文献1参照。)、鉛フタロシアニンを含むフタロシアニン類、ペリレンやそのテトラカルボン酸誘導体といった低分子化合物(例えば、特許文献2参照。)や、α−チエニールもしくはセクシチオフェンと呼ばれるチオフェン6量体(例えば、特許文献3参照。)、フルオレンオリゴマーなどの芳香族オリゴマー(例えば、特許文献4参照。)更にはポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリ−p−フェニレンビニレンといった共役高分子など限られた種類の化合物(例えば、非特許文献1参照。)でしかない。
【0010】
これらの多くは薄膜形成にあたり真空蒸着プロセスを用いる必要があり、前述したような、塗布や印刷などの常圧プロセスにより基板上に薄膜を設置できるという有機半導体への期待に応えるものではない。またポリマーや一部のオリゴマーはその分子構造中に、溶剤溶解性を向上させるための置換基を導入しており、その溶液を用いて薄膜形成を行うことを可能にしているが、その電荷移動度や耐久性について必ずしも充分とはいえなかった。
【0011】
【特許文献1】
特開平5−55568号公報
【0012】
【特許文献2】
特開平5−190877号公報
【0013】
【特許文献3】
特開平8−264805号公報
【0014】
【特許文献4】
特開2002−324931号公報
【0015】
【非特許文献1】
『アドバンスド・マテリアル』(Advanced Materi−al)誌 2002年 第2号 99ページ
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ゲート電圧を変化させた際の最大電流値と最小電流値の比が高く、しかも良好に駆動し、耐久性が高い有機薄膜トランジスタ、そのための薄膜形成方法、更には該有機薄膜トランジスタの製造方法を提供することである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、以下の手段により達成された。
【0018】
1)基板上に少なくともソース、ゲート、ドレインの各電極と半導体薄膜および半導体薄膜とゲート電極を隔てる絶縁層を具備する有機薄膜トランジスタにおいて、半導体薄膜が少なくとも前記一般式1により表される共役化合物を含有することを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【0019】
2)一般式1のAr1およびAr3が表す芳香族炭化水素環がフェニル基、ナフチル基、アズレニル基、フルオレニル基、アントリル基から選ばれることを特徴とする前記1)に記載の有機薄膜トランジスタ。
【0020】
3)一般式1のm2が4〜10の整数であることを特徴とする前記1)または2)に記載の有機薄膜トランジスタ。
【0021】
4)一般式1のAr2が表す芳香環がベンゼン環、チオフェン環、ピロール環、チアゾール環、イミダゾール環およびこれらに更に芳香環が縮合した多環式芳香環から選ばれることを特徴とする前記1)〜3)のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【0022】
5)一般式1のAr1、Ar2、Ar3が炭素数5以上、10以下の直鎖アルキル基もしくは同じ範囲の原子数である直鎖状アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシアルキル基を置換基として有することを特徴とする前記1)〜4)のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【0023】
6)基板上に少なくともソース、ゲート、ドレインの各電極と半導体薄膜および半導体薄膜とゲート電極を隔てる絶縁層を具備する有機薄膜トランジスタにおいて、半導体薄膜が少なくとも前記一般式2により表される少なくとも一部において拡張共役系を形成している化合物を含有することを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【0024】
7)一般式2のAr1が表す芳香族炭化水素環がフェニル基、ナフチル基、アズレニル基、フルオレニル基、アントリル基から選ばれることを特徴とする前記6)に記載の有機薄膜トランジスタ。
【0025】
8)一般式2のm2が4〜10の整数であることを特徴とする前記6)または7)に記載の有機薄膜トランジスタ。
【0026】
9)一般式2のAr2が表す芳香環がベンゼン環、チオフェン環、ピロール環、チアゾール環、イミダゾール環およびこれらに更に芳香環が縮合した多環式芳香環から選ばれることを特徴とする前記6)〜8)のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【0027】
10)一般式2のAr1、Ar2が炭素数5以上、10以下の直鎖アルキル基もしくは同じ範囲の原子数である直鎖状アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシアルキル基を置換基として有することを特徴とする前記6)〜9)のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ。
【0028】
11)一般式2の構造が前記一般式3であることを特徴とする前記6)に記載の有機薄膜トランジスタ。
【0029】
12)一般式1、2または3により表される化合物の溶液を基板上に設置し、その後に乾燥を行うことを特徴とする薄膜形成方法。
【0030】
13)一般式1、2または3により表される化合物の溶液がインクジェット法により基板上に設置されることを特徴とする薄膜形成方法。
【0031】
14)一般式1、2または3により表される化合物の溶液が印刷法により基板上に設置されることを特徴とする薄膜形成方法。
【0032】
15)基板上にソース、ゲート、ドレインの各電極と半導体薄膜および半導体薄膜とゲート電極を隔てる絶縁層を具備する有機薄膜トランジスタの製造方法において、前記12)〜14)のいずれか1項に記載の薄膜形成方法により半導体薄膜を形成することを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法。
【0033】
以下、本発明の有機薄膜トランジスタについて説明する。
本発明の有機薄膜トランジスタは、前記請求項に記載されている一般式1もしくは一般式2で表される化合物の薄膜が、半導体層(活性層)として設置されていることを特徴としている。本発明の一般式1もしくは一般式2で表される化合物は、その分子量が比較的小さい(装置にもよるが約2000以下の)場合には真空もしくは減圧下における蒸着によって基板上に薄膜を形成することもできるが、好ましくは常圧下で可能な薄膜形成方法に供することが望ましい。具体的には溶剤に溶解して基板上に塗布する方法(スピンコート法やキャストコート法など)、調製した溶液に必要に応じて更に適切な添加剤を加えた水性もしくは油性インクを用いるスクリーン印刷、フレキソ印刷、もしくはインクジェット法などの印刷法、該半導体性組成物を塗布した基板と適切な光熱変換材料を用いて薄膜を形成したい基板に転写を行うアブレーション法などを挙げることができる。
【0034】
これらの方法によって得られる有機薄膜を、各種有機半導体材料や薄膜の電界効果トランジスタ、スイッチング素子等各種デバイスの製造に有利に用いることができ、特にスイッチング素子材料として用いると、良好にスイッチング駆動する。
【0035】
まず一般式1で表される化合物について説明する。
一般式1は概略Ar1、Ar2、Ar3が共役結合した芳香族共役オリゴマーであり、共役骨格を形成する芳香環に結合した置換基の数が、分子全体で2以上であることを特徴とする。分子全体で1つしか置換基を持たない、もしくは共役骨格のいずれの部位にも置換基が導入されていない場合、分子の溶剤溶解性が極めて乏しくなり、従って薄膜形成において真空蒸着を余儀なくされるため、常圧下にてキャリア移動度と耐久性に優れた有機半導体薄膜を形成する方法を提供するという本発明の目的を達成しえない。オリゴマーを構成する芳香環の30〜100%が置換基を有している構造であることが好ましい。置換基の数の上限については明記していないが、これは置換基を導入することのできる個所が、Ar1、Ar2およびAr3の構造によって規定されるため、一概に述べることができないという事情によるものであり、実際の置換基の数はAr1、Ar2およびAr3の構造が化学的に整合する範囲内に限定されるのは当然である。
【0036】
共役骨格に導入される置換基としては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基等)、アルキニル基(例えば、エチニル基、プロパルギル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、ヘテロアリール基(例えば、フリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリダジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、キナゾリル基、フタラジル基等)、ヘテロ環基(例えば、ピロリジル基、イミダゾリジル基、モルホリル基、オキサゾリジル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基等)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、アシル基(例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基等)、アミド基(例えば、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、ジメチルカルボニルアミノ基、プロピルカルボニルアミノ基、ペンチルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ基、オクチルカルボニルアミノ基、ドデシルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ドデシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基、ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等)、スルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2−エチルヘキシルスルフィニル基、ドデシルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2−ピリジルスルフィニル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基等)、アリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等)、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、アニリノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、フッ化炭化水素基(例えば、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基等)、シアノ基、シリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリフェニルシリル基、フェニルジエチルシリル基等)等が挙げられ、これらの置換基は上記の置換基によって更に置換されていても、複数が互いに結合して環を形成していてもよい。好ましい置換基としてはアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシアルキル基、アルキル基で置換されたアミノ基、アルキルカルバモイル基、アルコキシカルボニル基が挙げられ、特に好ましくは炭素数5以上、20以下の、水素原子に替えてフッ素原子が結合していてもよいアルキル基、もしくは同じ範囲の原子数を有する直鎖状アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシアルキル基であり、更に好ましくは炭素数5以上、10以下の直鎖アルキル基もしくは同じ範囲の原子数を有する直鎖状アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシアルキル基である。
【0037】
Ar1とAr3はそれぞれ芳香族炭化水素基を表す。芳香族炭化水素基を形成する芳香族炭化水素としては、ベンゼン、ナフタレン、アズレン、アントラセン、テトラセン、フェナントレン、フルオレン、ピレン、ペンタセンなどがある。これらのうち、ベンゼン、ナフタレン、アズレン、フルオレン、アントラセンが好ましい。m1およびm3は1、2もしくは3である。r
Ar2としては芳香環であり、Ar1およびAr3と異なりヘテロ芳香環であってもよい。Ar2を誘導する芳香族化合物の例としては、先にAr1およびAr3の例として挙げた芳香族炭化水素化合物のほかに、フラン、チオフェン、セレノフェン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピリミジン、チアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾールおよびこれらが別の芳香族環と縮合して形成された縮合多環式芳香族化合物、例えば、ベンゾチオフェン、ベンズイミダゾール、ベンズチアゾール、キノリンなどが挙げられる。
【0038】
m2は3〜30の整数を表す。m3が2以下の場合には共役系の広がりが小さく電荷移動度が充分ではなく、nが大きくなると共役系の広がりが大きすぎて酸化を受けやすくなり、薄膜の耐久性が充分ではなくなる。電荷移動度と耐久性を両立するうえで好ましいnの範囲としては4〜10である。
【0039】
次に一般式2で表される化合物について説明する。
一般式2で表される化合物は、概略Ar1およびAr2が共役結合した構造の繰り返し単位を有する芳香族共役ポリマーであり、共役骨格に導入された置換基の数が繰り返し単位ごとに2以上であることを特徴とする。これより少ない置換基数ではポリマーの溶解性が乏しくなり薄膜形成に支障を来すことは、一般式1の化合物について説明したのと同様である。繰り返し単位あたり4以上の置換基が導入されていることが、溶解性の観点からは更に好ましい。
【0040】
Ar1、Ar2、m1、m2およびこれらが形成する共役骨格に結合する置換基については、一般式1における説明と同様である。一般式2で表されるポリマーは単一の繰り返し単位しかもたないポリマーであってもよいし、何種類かの異なる繰り返し単位を有するブロックポリマーであってもよいが、高い移動度を有する有機半導体薄膜を得るという本発明の目的に照らして、単一の繰り返し単位の重合体であるか、あるいは繰り返し単位の結合順序が制御されたブロックポリマーであることが好ましい。mは重合度を表し、骨格構造にもよるが3000を超えないものが好ましく、特に好ましくは50〜1000、更に好ましくは100〜600である。
【0041】
繰り返し単位中に導入された連結基Lは、単なる結合であるか、あるいは内部にエーテルまたはチオエーテル結合を含んでいてもよいアルキレン、またはm−フェニレン(置換基を有していても、別の環構造と縮合していてもよい)、−CONH−、−NHCONH−、−COO−、−N(R3)−(R3は置換基であり、その例としては一般式1の化合物の説明において共役骨格に導入されうる置換基の例として示したものと同様である。好ましくはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基である。)、およびこれらの任意の組み合わせを表す。また、Lが単なる結合である場合には、一般式3で示される繰り返し単位が特に好ましい。
【0042】
一般式3において、Z1は芳香族炭化水素環を形成するのに必要な非金属原子群を表し、形成される芳香族炭化水素環の例としては、一般式1のAr1およびAr3の例として挙げたものと同様の例を挙げることができる。R1は置換基を表し、置換基の例としては、一般式1で表される化合物の共役骨格に導入されうる置換基として示したものと同様の置換基を挙げることができ、特に好ましくはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基である。一般式3のように繰り返し単位の末端部分の芳香環に置換基が導入されることによって、一般式2で表される共役ポリマーは繰り返し単位ごとに共役結合の断裂を生じ、共役系の過大な広がりによる耐久性の劣化を効果的に防止することができる。
【0043】
以下に一般式1および2によって表される化合物の具体的な例を示すが、本発明の化合物がこれらの例によって限定されるものではない。また、一般式2に示した構造を有する繰り返し単位をもつポリマーについては、その平均分子量をMとして構造式に併記した。平均分子量の測定にはゲル泳動クロマトグラフィーを用い、ポリスチレンを基準に用いた。
【0044】
【化4】
【0045】
【化5】
【0046】
【化6】
【0047】
本発明の化合物はジャーナル・オブ・ケミカル・ソサイエティ・パーキン・トランザクション2(J.Chem.Soc.Perkin Trans.2)第10巻、2281〜2288頁、テトラヘドロン(Tetrahedron)第50巻、11893〜11902頁、ヘテロサイクルズ(Heterocycles)30巻、645〜658頁、シンセシス(Synthesis)1993年、1099〜1103頁、ブレタン・オブ・ケミカル・ソサイエティ・オブ・ジャパン(Bulletin of Chemical Society ofJapan)62巻、1539〜1546頁、テトラヘドロン51巻(1995)、3895〜3904頁、テトラヘドロン・レターズ(Tetrahedron Letters)42巻、5327〜5329頁、ケミストリーレターズ(Chemistry Letters)10巻、1123〜1124頁、ケミカル・コミュニケーション(Chemical Communication)1999年、2347〜2348頁、ケミカル・レビュー(Chemical Review)102巻(2002)、1359〜1469頁、有機合成化学協会誌2001年3月号、607〜612頁、テトラヘドロン・レターズ42巻、5659〜5662頁、同6869〜6872頁、新実験化学講座(丸善株式会社刊)第14巻第一分冊(「有機化合物の合成と反応(I)」)39〜62頁等に記載の合成反応等、当業に従事する技術者には周知の合成方法によって製造することができる。以下に、例示した化合物のいくつかに関する合成経路の一例を示すが、その他の化合物も同様の方法および前記文献および公知の合成法によって製造することが可能である。
【0048】
【化7】
【0049】
有機薄膜トランジスタは、一般に支持体上に有機半導体チャネル(活性層)で連結されたソース電極とドレイン電極を有し、その上にゲート絶縁層を介してゲート電極を有するトップゲート型と支持体上にまずゲート電極を有し、ゲート絶縁層を介して有機半導体チャネルで連結されたソース電極とドレイン電極を有するボトムゲート型に大別されるが、本発明に係る有機薄膜トランジスタにおいては、トランジスタとしての機能を実現する範囲で電極と半導体チャネルが異なる位置関係で配置されることを妨げるものではない。
【0050】
本発明に係る有機薄膜トランジスタの活性層を設置するにあたっては、上述から選ばれる方法を採用すればよい。
【0051】
本発明おいて、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を形成する材料は、導電性材料であれば特に限定されず、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、テルル、レニウム、イリジウム、アルミニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、モリブデン、タングステン、酸化スズ・アンチモン、酸化インジウム・スズ(ITO)、フッ素ドープ酸化亜鉛、亜鉛、炭素、グラファイト、グラッシーカーボン、銀ペーストおよびカーボンペースト、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、マンガン、ジルコニウム、ガリウム、ニオブ、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、アルミニウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物、リチウム/アルミニウム混合物等が用いられるが、特に白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、ITOおよび炭素が好ましい。あるいはドーピング等で導電率を向上させた公知の導電性ポリマー、例えば、導電性ポリアニリン、導電性ポリピロール、導電性ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体なども好適に用いられる。中でも、半導体層との接触面において電気抵抗が少ないものが好ましい。
【0052】
電極の形成方法としては、上記を原料として蒸着やスパッタリング等の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅などの金属箔上に熱転写、インクジェット等によるレジストを用いてエッチングする方法がある。また導電性ポリマーの溶液あるいは分散液、導電性微粒子分散液を直接インクジェットによりパターニングしてもよいし、塗工膜からリソグラフやレーザーアブレーションなどにより形成してもよい。更に導電性ポリマーや導電性微粒子を含むインク、導電性ペーストなどを凸版、凹版、平版、スクリーン印刷などの印刷法でパターニングする方法も用いることができる。
【0053】
ゲート絶縁層としては種々の絶縁膜を用いることができるが、特に比誘電率の高い無機酸化物皮膜が好ましい。無機酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコニウム酸チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウムなどが挙げられる。それらのうち好ましいのは、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタンである。窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の無機窒化物も好適に用いることができる。
【0054】
上記皮膜の形成方法としては、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、低エネルギーイオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法などのドライプロセスや、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、デイップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法などの塗布による方法、印刷やインクジェットなどのパターニングによる方法などのウェットプロセスが挙げられ、材料に応じて使用できる。
【0055】
ウェットプロセスは、無機酸化物の微粒子を任意の有機溶剤あるいは水に必要に応じて界面活性剤などの分散補助剤を用いて分散した液を塗布、乾燥する方法や、酸化物前駆体、例えば、アルコキシド体の溶液を塗布、乾燥する、いわゆるゾルゲル法が用いられる。これらのうち好ましいのは、大気圧プラズマ法とゾルゲル法である。
【0056】
大気圧下でのプラズマ製膜処理による絶縁膜の形成方法は、大気圧または大気圧近傍の圧力下で放電し、反応性ガスをプラズマ励起し、基材上に薄膜を形成する処理で、その方法については、特開平11−61406号、同11−133205号、特開2000−121804号、同2000−147209号、同2000−185362号の各公報に記載されている(以下、大気圧プラズマ法とも称する)。これによって高機能性の薄膜を、生産性高く形成することができる。
【0057】
また有機化合物皮膜を構成する材料としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいはアクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、およびシアノエチルプルラン等を用いることもできる。これらを用いた有機化合物皮膜の形成法としては、前記ウェットプロセスが好ましい。
【0058】
無機酸化物皮膜と有機酸化物皮膜は積層して併用することができる。またこれら絶縁膜の膜厚としては、一般に50nm〜3μm、好ましくは100nm〜1μmである。
【0059】
また支持体はガラスやフレキシブルな樹脂製シートで構成され、例えば、プラスチックフィルムをシートとして用いることができる。前記プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ボリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。このように、プラスチックフィルムを用いることで、ガラス基板を用いる場合に比べて軽量化を図ることができ、可撓性を高めることができるとともに、衝撃に対する耐性を向上できる。
【0060】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0061】
実施例1
ゲート電極としての抵抗率0.01Ω・cmのSiウェハーに、厚さ2000Åの熱酸化膜を形成してゲート絶縁層とした後、例示化合物1のクロロホルム溶液をアプリケーターを用いて塗布し、自然乾燥することによりキャスト膜(厚さ50nm)を形成して、窒素雰囲気下で50℃、30分間の熱処理を施した。更に、この膜の表面にマスクを用いて金を蒸着してソースおよびドレイン電極を形成した。ソースおよびドレイン電極は幅100μm、厚さ200nmで、チャネル幅W=3mm、チャネル長L=20μmの有機薄膜トランジスタ素子1を作製した。
【0062】
例示化合物1を表1に示した本発明の例示化合物に代えた他は、同様にして有機薄膜トランジスタ素子2〜5を作製した。
【0063】
例示化合物1をポリ(3−ヘキシルチオフェン)(regioregular、アルドリッチ社製、平均分子量89000、PHT)に代えた他は、同様にして、比較例としての有機薄膜トランジスタ素子6を作製した。
【0064】
ペンタセン(アルドリッチ社製市販試薬を昇華精製して用いた)0.2gをクロロホルム100mlに加え、窒素下にて還流温度で撹拌した後に不溶物を濾別して、ペンタセンのクロロホルム溶液を調製し、これを用いて有機薄膜トランジスタ素子1と同様に、比較例としての有機薄膜トランジスタ素子7を作製した。
【0065】
以上のようにして作製した有機薄膜トランジスタ素子のそれぞれにおいて、ソース・ドレイン電極間に−50Vの電圧を印加し、ゲート電圧を−100Vから100Vの範囲で変化させた際の、最大電流値と最小電流値の比をとって、これを各々の有機薄膜トランジスタ素子のON/OFF比として記録した。比較例である有機薄膜トランジスタ素子6の示した値を100としたときの相対値によって結果を示すと以下のとおりであった。
【0066】
【表1】
【0067】
この結果より、本発明の例示化合物を活性層に用いて作製した有機薄膜トランジスタ素子が、優れたON/OFF特性を示すことがわかる。また、ペンタセンを用いた有機薄膜トランジスタ素子7の結果は、塗布による薄膜形成によっては活性層として機能するペンタセン薄膜を得がたいことを示している。
【0068】
実施例2
実施例1にて測定に使用した有機薄膜トランジスタ素子1〜7を温度40℃、湿度60%にて3日間保存した後、実施例1と同様の測定を行った。結果を実施例1と同様に、実施例1における各々の有機薄膜トランジスタ素子の結果を100とする相対値によって示すと表2のとおりであった。
【0069】
【表2】
【0070】
この結果より、本発明の例示化合物を活性層に用いた場合、作製した有機薄膜トランジスタ素子はON/OFF比が処理前と大きく変化せず、耐久性においても優れた特性を示し、素子としての寿命を長期化できることがわかった。
【0071】
【発明の効果】
本発明によれば、有機薄膜トランジスタを簡単なプロセスで形成可能な半導体性組成物が得られ、該半導体性組成物薄膜を用いた有機薄膜トランジスタはゲート電圧を変化させた際の最大電流値と最小電流値の比、即ちON/OFF比が大きく、耐久性に優れる。
Claims (15)
- 一般式1のAr1およびAr3が表す芳香族炭化水素環がフェニル基、ナフチル基、アズレニル基、フルオレニル基、アントリル基から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ。
- 一般式1のm2が4〜10の整数であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機薄膜トランジスタ。
- 一般式1のAr2が表す芳香環がベンゼン環、チオフェン環、ピロール環、チアゾール環、イミダゾール環およびこれらに更に芳香環が縮合した多環式芳香環から選ばれることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ。
- 一般式1のAr1、Ar2、Ar3が炭素数5以上、10以下の直鎖アルキル基もしくは同じ範囲の原子数である直鎖状アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシアルキル基を置換基として有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ。
- 基板上に少なくともソース、ゲート、ドレインの各電極と半導体薄膜および半導体薄膜とゲート電極を隔てる絶縁層を具備する有機薄膜トランジスタにおいて、半導体薄膜が少なくとも下記一般式2により表される少なくとも一部において拡張共役系を形成している化合物を含有することを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
- 一般式2のAr1が表す芳香族炭化水素環がフェニル基、ナフチル基、アズレニル基、フルオレニル基、アントリル基から選ばれることを特徴とする請求項6に記載の有機薄膜トランジスタ。
- 一般式2のm2が4〜10の整数であることを特徴とする請求項6または7に記載の有機薄膜トランジスタ。
- 一般式2のAr2が表す芳香環がベンゼン環、チオフェン環、ピロール環、チアゾール環、イミダゾール環およびこれらに更に芳香環が縮合した多環式芳香環から選ばれることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ。
- 一般式2のAr1、Ar2が炭素数5以上、10以下の直鎖アルキル基もしくは同じ範囲の原子数である直鎖状アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシアルキル基を置換基として有することを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ。
- 一般式1、2または3により表される化合物の溶液を基板上に設置し、その後に乾燥を行うことを特徴とする薄膜形成方法。
- 一般式1、2または3により表される化合物の溶液がインクジェット法により基板上に設置されることを特徴とする薄膜形成方法。
- 一般式1、2または3により表される化合物の溶液が印刷法により基板上に設置されることを特徴とする薄膜形成方法。
- 基板上にソース、ゲート、ドレインの各電極と半導体薄膜および半導体薄膜とゲート電極を隔てる絶縁層を具備する有機薄膜トランジスタの製造方法において、請求項12〜14のいずれか1項に記載の薄膜形成方法により半導体薄膜を形成することを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法。
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JP2003292588A (ja) * | 2002-01-11 | 2003-10-15 | Xerox Corp | ポリチオフェン類及びそれを用いたデバイス |
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2003
- 2003-03-31 JP JP2003093899A patent/JP2004303890A/ja active Pending
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