JP2004300591A - 抄紙方法と抄紙機 - Google Patents

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茂斉 堀江
Masahiro Sugihara
正浩 杉原
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Abstract

【課題】抄紙機における脱水効率の向上、紙質の改善を図る。
【解決手段】パルプ懸濁液10を上下2枚のワイヤクロス2、3間に供給し、湿紙11を形成しながら、ワイヤクロスを介して湿紙を押圧することにより脱水若しくは搾水を行う、抄紙工程において、高抵抗体若しくは絶縁物からなり、吸水性を有しないワイヤクロスを使用し、前記ワイヤクロス間に挟まれた湿紙に直流電圧を複数点で印加することにより、脱水効率の向上、紙質改善を行う。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、パルプ原料が懸濁したパルプ懸濁液より脱水して湿紙を形成するフォーマ部若しくは前記脱水された湿紙を押圧することにより搾水を行うプレス部のうち少なくとも一の脱水部を備えた抄紙機および抄紙方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
抄紙機の主要構成はパルプ原料が懸濁したパルプ懸濁液をフォーマ部に供給するヘッドボックス、ヘッドボックスから供給されたパルプ懸濁液を脱水して湿紙層を形成するフォーマ部、脱水された湿紙層を更に搾水するプレス部、プレス部で搾水後の紙層を乾燥させるドライヤー部、乾燥した紙層を巻き取るリール部からなる。
前記抄紙機における脱水及び搾水工程は、フォーマ部では、各々ループを形成する第1及び第2のベルト状部材間にパルプ懸濁液を挟みながら圧力を加えることで、湿紙を形成しながら脱水した後、プレス部で湿紙をフェルト等の吸水性のベルト状部材で挟み込み、更に押圧することにより、湿紙中の水分を吸水材に吸わせた後、真空吸引機で水分を吸引することで行われる。通常ベルト状部材としては、フォーマ部では金属材料又は樹脂材料からなる線材を多層に編み込んで形成されたワイヤクロスが用いられ、プレス部ではフェルト等の吸水材が用いられる。
【0003】
近年、製紙分野において、低価格化、生産性向上が要求されてきている。この要求に対応するため、抄紙機において、脱水及び搾水効率の向上を図るための技術が種々提案されている。
【0004】
本発明に類似する技術として、特許3019416号(特許文献1)では、フォーマ部で形成した湿紙をプレス部において、湿紙の加圧と吸引による脱水に加え、電気吸引力を利用することが開示されている。この手法では、湿紙層を挟むロール間に電圧印加部を設け、直流電圧を印加し、電気浸透効果を発生させている。電気浸透効果とは溶液において、溶媒が帯電しているとき、電場のもとで溶媒が移動する現象のことをいう。通常、水分子は正に帯電し、パルプ材は負に帯電しているため、直流電圧を印可すると、水分子が負極性のロール方向に移動する。負極性側のロールには真空吸引装置備えられているで、効果的に脱水をさせるものとなっている。
【0005】
更に本発明に類似する技術として、特開2002−138383号(特許文献2)では、フォーマ部で形成した湿紙をプレス部において、湿紙層を挟み込むフェルトに金属繊維、炭素繊維等を混入し、導電性を持たせたものを用いることが開示されている。湿紙層を導電性の材料で挟み込むことにより、湿紙層に接触する電極面積の実質的な拡大を図り、電気浸透作用の効率向上を図っている。
【0006】
本発明に関連する技術として、特開2002−30590(特許文献3)ではフォーマ部における脱水効率の向上を図るために、各々ループを形成する第1及び第2のワイヤクロス間に挟み込まれた原料液にパルス状の脱水圧力を付与する圧力要素を設けた技術が開示されている。
【0007】
一方、プレス部にフェルトを用いた技術では、特開2002−201583(特許文献4)に、脱水後、フェルト内部に蓄積された水分が再び湿紙層に還る再湿状態による脱水効率低減を防ぐために、プレス部の湿紙の搬送及び該湿紙から搾水された水分を吸収するために使用される抄紙機用プレスフェルトにおいて、フェルト状のベース部材と、ベース部材の一方の面に積層されるバット層とをそなえて構成され、ベース部材に不透気層が設けられている技術が提案されている。
【0008】
かかる技術は、湿紙が受ける押圧力はプレスローラのニップ出口で急激に低下し、これによりニップ入口及びニップ出口間のプレス状態から急激に開放されてプレスフェルトは著しい体積膨張を生じるが、本装置では、プレス裏面に近接して設けられた不透気層により、かかるプレスフェルトの膨張に伴ってプレス面から空気が浸入してしまうことが防止されるものである。
【0009】
【特許文献1】
特許3019416号
【特許文献2】
特開2002−138383号
【特許文献3】
特開2002−30590号
【特許文献4】
特開2002−201583号
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
従来技術には以下に述べる課題がある。
前記特許文献1における、抄紙機の脱水装置では、湿紙に直流電圧を印加する電圧印加部が湿紙を挟み込むロール間にのみ設けられている。そのため、湿紙には線接触しかできないため、高速で抄紙機の中を移動する湿紙に十分な電圧印加ができないという課題がある。
【0011】
更に特許文献2における、抄紙機の脱水装置では、プレス部において、湿紙を挟み込む吸水材を導電性の材料とすることで、湿紙層に対する接触面積の増加により、湿紙層への電圧印加効率の向上をはかっている。しかし、フォーマ部ではヘッドボックスより供給されるパルプ懸濁液がフォーミング過程で急速に脱水され湿紙を形成するものであるためにフォーマ過程入口側と出口側では、水分含有量が大幅に異なり、特に直流電源の印加導電性はパルプ懸濁液の導電性に依存する割合が多いために、そのフォーマ過程入口側と出口側では同一電圧の直流電源を印加しても通電量が異なることになる。。即ち、水分含有量が変化しているフォーマ過程入口側と出口側までの全部に同一電圧の直流電源が印加されることとなり、結果として入口側で多く通電し出口側での通電量が少なくなり、安定した電気浸透作用が達成できない。よって、本技術をフォーマ部に適用するのは困難である。
【0012】
又前記技術では空隙の小さいフェルト状の吸水材を使用しているために、これをそのままフォーマ部に適用しても、吸水材自身が抵抗体として働き脱水効率が低下するとともに、吸水材が導電性であるために電圧降下が吸水材においても発生することとなり、前記の通電量の変動に加えて電圧印加効率が低減する。
【0013】
特開2002−30590(特許文献3)に開示されている金網のワイヤクロス構成のフォーマ部では、次のような課題がある。即ち本発明の技術分野である抄紙工程には高い強度を有する紙質が求められる。紙の強度は紙中に含まれる100ミクロン以下のサイズのパルプ原料(以下ファインという)の量に依存する。そのため、フォーム過程において、如何にファインを残留させるかが重要となるし、一方では高速化のために、脱水効率を高める必要もある。
【0014】
そこで前記ワイヤクロスの空隙を大きくすれば脱水効率が上がるが、一方でファインの量が低下する。又前記ワイヤクロスの空隙を小さくすればファインの量が上がるが、一方で脱水効率が低下する。このため両者にバランスが必要である。そして前記従来技術の原料液にパルス状の脱水圧力を付与する圧力要素を設けた技術のみでは、ファインの増量と脱水効率向上を両立させるには不十分である。
【0015】
また、特許文献4(特開2002−138383号)に開示されている技術は、プレス裏面側に不透気層が形成されているものであるために、裏面側に向け水を脱水するフォーマ部には適用できない。
【0016】
本発明はかかる従来技術の欠点を鑑み、抄紙機において、湿紙の脱水、搾水を行う装置、特にフォーマ部における脱水装置の脱水効率及び紙中のファイン残留率の向上を図ることにより、生産効率及び生産品質の高い抄紙方法と抄紙機を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記脱水効率の向上とファインの量の増大の両者を満足する抄紙方法と抄紙機を提供することを他の目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、本発明の第一の提案はパルプ原料が懸濁したパルプ懸濁液を2つのベルト状部材間に供給し、湿紙を形成しながら脱水を行うフォーマ工程を備えた抄紙方法において、高電気抵抗性若しくは絶縁性材料からなり、吸水性を有しないベルト状部材を使用し、前記ベルト状部材間に挟まれた湿紙に直流電圧を印加することを特徴とする。
そしてかかる発明を効果的に達成する抄紙機として、パルプ原料が懸濁したパルプ懸濁液を2つのループ状のベルト状部材間に供給し、湿紙を形成しながら脱水を行うフォーマ部を有する抄紙機において、前記ベルト状部材が空隙を備え、高電気抵抗性若しくは絶縁性を有する非吸水性繊維から形成されるとともに、前記空隙に保持されたパルプ懸濁液を介して、湿紙に直流電圧を印加する電圧印加部を有したことを特徴とする。
【0018】
かかる提案において、ベルト状部材は空隙を有する非吸水性繊維からなることより、従来技術のフェルトに比べ、保水性が低いため、水が抜けやすく、更にベルト状部材が10Ω・cm以上の高電気抵抗性若しくは絶縁性を有するため、ベルト状部材を介して電圧を印加した場合は、電圧が、ベルト状部材の見開き領域に存在するパルプ懸濁液を通じて、直接湿紙にかかるようにすることができる。そのため、電気浸透を効果的に発生させることができ、脱水効率が向上する。更に湿紙中のファイン歩留まり率を向上させることが可能となる。
【0019】
特に従来技術のように導電性の吸水材に直流電圧を印加した場合には、前記吸水材がループ状に形成されている為に、前記直流電圧がフォーマ部のパルプ懸濁液のみならず、それ以外の場所にも印加されることになり、効率的に直流電圧を湿紙に印可することはできないが、本発明では、パルプ懸濁液を通じて湿紙に集中的に電圧印加を行うため、電圧印加効果を円滑に達成できる。
【0020】
前記ベルト状部材を介して前記フォーマ部の1カ所にのみ電圧を印加してもフォーマ部全体としての電気浸透効果を達成し得ない。そこで本発明の第二の提案は、前記フォーマ部のベルト状部材の移動方向に沿って、複数の電圧印加部を設けたことを特徴とする。複数の電圧印加部としては、ベルト状部材を保持するロール及びロール間に存在する複数の部位がある。この複数部位には、ベルト状部材移動方向に沿って湿紙を脱水するために、ベルト状部材に線接触若しくは面接触状態で設けられているサクションフォーミングローラ、カウンターブレード、サクションボックス等を用いるのが好ましい。
【0021】
電気浸透による脱水の効果は印加電圧と印加時間の積に比例する。かかる提案によれば、湿紙に対する電圧印加をベルト状部材移動方向に沿って複数の箇所で行うことにより、ベルト状部材に挟まれて高速移動する湿紙対し、電気浸透を効果的に発生させることができ、脱水効率の向上が図ることができる。
【0022】
そして前記直流電圧は、150〜1000V、好ましくは200〜400Vに設定するのがよい。
けだし、100V程度以下では有効な電気浸透効果が達成されず、又1000V以上では、ベルト状部材は抵抗率10Ω・cm以上の高電気抵体しくは絶縁体であるために、放電等の現象が生じ、ベルト状部材の劣化が生じる。特にフォーマ部ではサクションボックスにより通気脱水を行っており、電気浸透をフォーマ部で使用する場合に抄紙内に吸入された空気層で直流電界による絶縁破壊(放電)が生じる恐れがある。
空気の破壊電界は約3550kV/mであり、フォーマ部の抄紙厚さ(湿紙層)は最小0.3mmであるから約1065V以上で放電が生じる恐れがある。従って直流電圧は1000V以下がよく、特に400V以上では直流電源のトランス部が大型化するため、直流電源電圧は400V以下であることが好ましい。
【0023】
湿紙への電流通電量が0.8A・sec以上であるのが本発明にとって有効であることが実験により確かめられたので、前記電圧印加点夫々における電流通電量の総和が0.8A・sec以上になるようにされていることも特定している。
【0024】
湿紙中の水分量は、移動するに従って脱水が進むため、前記複数の電圧印加点に於いて異なることになる。ワイヤ流れ方向に沿ってパルプ原料濃度の薄い(水分の多い)上流側に位置する電圧印加部では、導電性(10^6Ω・cm以下)の水分が多い状態にあるために、印加電圧若しくは電流通電量を相対的に低くしても目的とする電気浸透効果が得られ、一方前記上流側の脱水によりパルプ原料濃度が多く(水分の少ない)なる下流側では、前記印加電圧若しくは電流通電量を相対的に異ならせたほうが目的とする浸透効果が得られる。
【0025】
例えばカウンターブレード、サクションボックスの有する吸水位置での、水脱離量を多くするために、この部分の前記印加電圧若しくは電流通電量を相対的に多くしてもよい。又逆にサクションフォーミングローラの一次脱水側で前記直流電圧の電圧若しくは電流印加量を相対的に多くしてその下流側のカウンターブレード、サクションボックスの脱水負荷を小さくすることも有効である。
従って複数電圧印加部のうち、下流側に位置する電圧印加部の印加電圧若しくは電流通電量を、上流側の電圧印加部における印加電圧若しくは電流通電量より異ならせる、好ましくは多くするのがよい。
【0026】
更に電気浸透効果と吸水は同時に行われるのがよく、従って複数電圧印加部のうち、下流側に位置する電圧印加部が脱水部若しくは脱水部と対面する位置であるのが好ましい。
【0027】
又前記発明はフォーマ部で形成した湿紙を2つのワイヤ間でプレスローラにより押圧することにより搾水を行うプレス部にも適用可能である。
即ち、パルプ原料が懸濁したパルプ懸濁液を2つのベルト状部材間に供給し、湿紙を形成しながら脱水を行うフォーマ部と2つのワイヤ間に存在する湿紙を押圧することにより搾水を行うプレス部を有する抄紙機において、
前記ワイヤが空隙を備え、高電気抵抗性若しくは絶縁性の非吸水性材料から形成されるとともに、前記空隙に保持されたパルプ懸濁液を介して、フォーマ部若しくはプレス部の所定位置に湿紙に直流電圧を印加する電圧印加部を有し、前記直流電圧の電圧若しくは電流通電量を、フォーマ部側に対しプレス部側を相対的に異ならして印加することを特徴とする。
けだしプレス部側では、フォーマ部での脱水が相当程度進んでいるために、前記直流電圧の電圧若しくは電流印加量を、フォーマ部側に対しプレス部側を相対的に大きくすることが効果的な脱水を図る上で必要である。
【0028】
更にワイヤ流れ方向に沿ってプレス押圧部を複数有するプレス部において、後段側ではすでに搾水が十分行われているために、電気浸透効果による搾水は特に不要であり、この場合は前段側のプレス押圧部にのみ直流電圧を印加するのがよい。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。但し本実施の形態に記載される製品の寸法、形状、材質、その相対配置等は特に特定的な記載がない限りは本発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0030】
図1に本発明に係る抄紙機のツインワイヤフォーマ部の構成を示す。
ツインワイヤフォーマ部1は、図1に示すように、ボトムワイヤクロス3及びトップワイヤクロス2の2枚の無端状のワイヤクロス(後記に詳細する10Ω・cm以上の高抵抗体若しくは絶縁体からなる合成樹脂製の複層繊維体)が、それぞれループを形成している。ボトムワイヤクロス3は、ブレスドロール5にガイドされ、トップワイヤクロス2は、フォーミングロール(サクションロール)4にガイドされ、これらワイヤクロス2、3の対向面によりギャップ(抄紙用隙間)が形成されている。このギャップは、ワイヤクロス2、3の移動方向下流側になるに従い徐々に狭められていく。また、トップワイヤクロス2のループ内には多数のカウンタブレード6からなる第1脱水部が設けられており、各カウンタブレード6の先端はトップワイヤクロス2の表面に押し付けられている。又カウンタブレード6に対向するボトムワイヤクロス3の背面側にはフォーミングシュー7が設けられている。
一方トップワイヤクロス2のループ内で第1脱水部よりも下流側には外部に設置された真空源(図示せず)からの真空吸引により脱水を行なうサクションボックス8からなる第2脱水部が設けられている。さらに、ボトムワイヤクロス3のループ内で第2脱水部よりも下流側にはサクションクーチロール9が設けられている。サクションフォーミングロール4及びサクションクーチロール9の表面には、それぞれワイヤクロス2、3がワイヤクロスロールに接触している部分において、真空吸引による定圧の脱水圧力が付与されるようになっている。
【0031】
パルプ懸濁液(パルプ紙原料)10は、不図示のヘッドボックスからサクションフォーミングロール4上に噴射され、ワイヤクロス2、3により形成される楔状のギャップに挟まれる。そして、サクションフォーミングロール4による真空吸引とワイヤクロス2、3のワイヤクロス張力による挟み込み圧力とによって初期脱水が行われる。さらに、2枚のワイヤクロス2、3間に挟まれたパルプ懸濁液は、下流に設置された第1脱水部におけるカウンタブレード6とフォーミングシュー7の脱水圧力の作用によりワイヤクロス3,4の両側への脱水が同時に行われ、さらに下流のサクションボックスの第2脱水部における真空の作用により脱水が促進される。そして、このように紙原料液から水分が除去されていくことにより湿紙11が形成される。形成された湿紙11は、サクションクーチロール9によって更に高い真空度によって脱水が行われるとともに、ボトムワイヤクロス3上に確実に保持されて後続のプレス部へと移送される。
【0032】
そしてフォーマ部1で形成された湿紙はプレス部に送り込まれる。プレス部においてワイヤクロスを介して押圧ロールで圧縮し、湿紙から水分を搾り出す。プレス部において搾水された湿紙は後段のドライヤーパートにおいて、乾燥された後、リール部において巻き取られる。
【0033】
(第一の実施例)
以下、図1に基づいて本発明の第一の実施例であるフォーマ部1について詳細を述べる。
湿紙を形成する2つのトップワイヤクロス2とボトムワイヤクロス3については、10Ω・cm以上の高電気抵抗体若しくは絶縁体からなる合成樹脂製の複層繊維体を用いている。具体的には合成樹脂の撚糸を縦糸と横糸を3層状にして織り込んだ繊維体である。直流電源19はトランスを介して200V〜400Vの間で可変可能に設定してある。
そしてトップワイヤクロス2と接触するサクションフォーミングロール4、カウンタブレード6、サクションボックス8には夫々直流電源19の正電極が設けられ、又、ボトムワイヤクロス3側のブレスドロール5には接地電極が接続されている。
【0034】
そしてこのような構成をとることにより次のような作用を有する。
前記サクションフォーミングロール4、カウンタブレード6、サクションボックス8には夫々直流電源の正電極が設けられ、各電極には例えば300Vの直流電源が接続されているために、前記サクションフォーミングロール4、前記カウンタブレード6及びサクションボックス8の脱水部がトップワイヤクロス2に線接触若しくは面接触している部位において、ワイヤクロスの見開き空隙に存在する水分を介して湿紙に直流電圧が印加される。
【0035】
直流電圧を湿紙に印加することで、通常負に帯電している湿紙中のパルプ材と正に帯電している水分子を電気浸透効果で、パルプ材は正極方向、水分子は負極方向に分離することができる。
【0036】
ワイヤクロスとしては、10Ω・cm以上の高電気抵抗体または絶縁体で且つ、非吸水性で、空隙を有するものであるものを用いているため、ワイヤクロスの見開き部に存在するパルプ水を通じて電圧印加が行われるため、湿紙への電圧の印加効率も高く、電気浸透効果も促進される。また、ワイヤが空隙を有することにより、湿紙中の水分が抜けやすく、脱水効率が向上する。ワイヤ材料としては、例えば、ポリエステルのような樹脂を単層または複層折り込んで形成されたもの、または不織布のようなものが好適である。
【0037】
湿紙の脱水状態は湿紙中におけるパルプ材料と水分の比率(以下ドライネスという)で評価される。ところで、形成初期の湿紙は脱水抵抗が低く、フォーマ部1における機械的な脱水効果として、ドライネス18%が得られる。このような湿紙中の水分比が多い状況では、電気浸透による顕著な脱水効果は見られない。そこで湿紙中の水分比が多いサクションフォーミングロール4側のワイヤクロス接触面積をカウンタブレード6とサクションボックス8のワイヤクロス接触面積より大きくして、電気浸透による脱水効果の確実性を補償している。
【0038】
湿紙中の水分量は、移動するに従って脱水が進むため、前記複数の電圧印加点に於いて異なることになる。ワイヤクロス流れ方向に沿ってパルプ原料濃度の薄い(水分の多い)上流側に位置する、サクションフォーミングロール4における電圧印加部では、導電性(10^6Ω・cm以下)の水分が多い状態にあるために、印加電圧若しくは電流通電量を相対的に低くしても目的とする電気浸透効果が得られ、一方前記上流側の脱水によりパルプ原料濃度が多く(水分の少ない)なる下流側のカウンターブレード6、サクションボックス8では、導電性が上流側に比べ低くなるので、上流側と同様の電気浸透効果が得るためには、前記印加電圧若しくは電流通電量を相対的に異ならせたほうよい。
【0039】
又カウンターブレード6、サクションボックス8の有する吸水位置での、水脱離量を多くするために、この部分の前記印加電圧若しくは電流通電量を相対的に多くしてもよい。逆にサクションフォーミングロール4の一次脱水側で前記直流電圧の電圧若しくは電流印加量を相対的に多くしてその下流側のカウンターブレード6、サクションボックス8の脱水負荷を小さくすることも有効である。従って複数電圧印加部のうち、下流側に位置する電圧印加部の印加電圧若しくは電流通電量を、上流側の電圧印加部における印加電圧若しくは電流通電量より異ならせることにより、フォーマ部全体としての電気浸透効果を効率的に発生させることができる。
【0040】
又、発明者はフォーマ部1における電圧印加による電気浸透効果が紙質である紙強度の向上に寄与するという新しい知見を見いだしている。図2に湿紙への電圧印加による湿紙中のファインの歩留まり率変化を表すグラフを示す。湿紙厚は約200ミクロン、印加電圧は300Vである。グラフの横軸は電圧印加を電流量と電圧印加時間の積に変換したものを表している。0.8A・sec以上の印加量において、湿紙中のファインの歩留まり率が増加している。紙質は湿紙中のファインの歩留まり率に比例することより、紙質の向上が図れることが分かる。
【0041】
次に印加電圧を100V、200V、400Vと異ならせたところ、100Vでは、0.8〜1.0A・secでもファイン含有率が8.8以下であり、好ましい効果が得られなかったが、200V、400Vではいずれもファイン含有率が9.0以上と好ましい効果が得られた。
【0042】
湿紙の進行速度は2000m/secと非常に高速であり、単一点の印加ではワイヤクロスが電極に接触している時間が短く、十分な電気浸透効果は得られない。本発明に示す面接触による複数印加を行うことにより、効果的な電圧印加を実現できる。
【0043】
更に従来、機械脱水の過程において、水とともに抜け落ちるファインを補填するために、パルプ懸濁液中のパルプ原料の割合を増加させることにより対応していた。そのため、原料コストの増加という問題があったが、本発明の手法を用いることにより、ファイン歩留まり率を高くできるために、原料コストの引き下げが可能となる。
【0044】
(第二の実施例)
以下、第二の実施例であるプレス部について、詳細を述べる。プレス部では、前段工程のフォーマ部1で形成された湿紙層を搾水し、湿紙のドライネスを上昇させた後、次工程のドライヤ工程に移る。
【0045】
図3は本発明に係る抄紙機のプレス部12である。湿紙を挟み込むための第1のピックアップワイヤクロス14Aと第2のピックアップワイヤクロス14Bが夫々ループを形成してプレス部上流側12Aとプレス部下流側12Bに分けられている。そしてボトムワイヤクロス15も第1のピックアップワイヤクロス14Aと対応する位置に第1のボトムワイヤクロス15Aが、第2のピックアップワイヤクロス14Bと対応する位置に第2のボトムワイヤクロス15Aが夫々ループを形成してプレス部上流側12Aとプレス部下流側12Bに分けられている。
【0046】
そして第1のピックアップワイヤクロス14Aのループ中にプレス部12入口側よりピックアップロール13、サクションロール16a、プレス上ロール18a、グルーブドロール17a等を介して無端状に周回し、先ずフォーマ部1よりピックアップロール13により給紙された湿紙を先ずサクションロール16aで吸引搾水し、更にプレスロール18aで加圧搾水し、更にサクションロール16cで吸引搾水し、更にグルーブドロール17aで搬送路より離間して周回する。第2のピックアップワイヤクロス14Bは、サクションロール16b、プレスロール18b、グルーブドロール17bを介して無端状に周回し、先ず第1の第1のピックアップワイヤクロス14Aのループより給紙された湿紙を先ずサクションロール16bで吸引搾水し、更にプレスロール18bで加圧搾水し、更にサクションロール16dで吸引搾水し、更にグルーブドロール17dで搬送路より離間して周回してドライ部に搬送する。
【0047】
第1のボトムワイヤクロス15Aは第1のピックアップワイヤクロス14Aのサクションロール16a位置にグルーブドロール17c、プレス上ロール18aと対面する位置にプレス下ロール18c、その下流側にサクションロール16c、更に第2のピックアップワイヤクロス14Bのサクションロール16b位置にグルーブドロール17dを設けて無端状に周回させ、湿紙下面をプレスロール18dで加圧搾水し、更にサクションロール16dで吸引搾水し、更にグルーブドロール17dで搬送路より離間して周回する。
第2のボトムワイヤクロス15Bは第2のピックアップワイヤクロス14Bの途中位置よりグルーブドロール17e、プレス上ロール18aと対面する位置にプレス下ロール18d、その下流側にサクションロール16d、更にグルーブドロール17bを設けて無端状に周回させ、湿紙下面はプレスロール18dで加圧搾水し、更にサクションロール16dで吸引搾水し、搬送路より離間して周回する。
【0048】
従ってかかるプレス部12によれば、第1のピックアップワイヤクロス14A第1のボトムワイヤクロス15Aにより形成される第1のプレスパート部(プレス部上流側)12Aで、フォーマ部1で形成された湿紙層11はピックアップロール13の真空装置(図示せず)に吸引されて、第1のピックアップワイヤクロス14Aに付着し、移送された後、第1のピックアップワイヤクロス14Aとボトムワイヤクロス15Aに挟み込まれる。
その後、湿紙は前記ワイヤクロス14A、15Aを介して、サクションロール16a及びグルーブドロール17cに押圧され、脱水される。脱水された水分はサクションロール16aの真空装置(図示せず)で吸引され、更にプレスロール18a、18cにて加圧、搾水された水分は下流側のサクションロール16cの真空装置(図示せず)で吸引されて第2のプレスパート部(プレス部下流側)12Bに移送する。
【0049】
第2のピックアップワイヤクロス14B及び第2のボトムワイヤクロス15Bにより形成される第2のプレスパート部12Bで、サクションロール16b及びグルーブドロール17dに押圧され、そして、プレスロール18b、18dにて加圧、搾水され、搾水された水分は下流側のサクションロール16dの真空装置(図示せず)及びで吸引されて湿紙からの水分除去を進め、ドライネスの向上を行う。
なお、ピックアップワイヤクロス14とボトムワイヤクロス15は見開きを有する高電気抵抗体または絶縁体からなる樹脂繊維層を用いている点は、前記実施例と同様である。
【0050】
かかる構成において、プレス部12においては湿紙層11の脱水が進んでいることにより、脱水抵抗が増加しており、このためフォーマ部1における電圧浸透作用に比較して電圧を高くして、電圧浸透作用を強くする必要がある。
又本実施例のように第1のプレスパート部12Aと第2のプレスパート部12Bが、搬送方向に沿って直列して配列されている構成では、ワイヤクロスの持つ高抵抗体または絶縁体の故に湿紙層への電圧印加による電気浸透効果が十分現れないの場合がある。
そこで本実施例では、湿紙の水分が残っている第1のプレスパート部12Aのみに直流電源19より直流電圧を印加し、第2のプレスパート部12Bには直流電圧を印加せずに、機械脱水のみにした。
【0051】
即ち、第1のピックアップワイヤクロス14Aのループ中に位置するサクションロール16a、プレス上ロール18aに夫々直流電源19の+電極が設けられ、又、ボトムワイヤクロス15A側のグルーブドロール17c及びプレス下ロール18cには接地電極が接続されている。
直流電源電圧は200〜400V、例えば300Vに設定する。
この結果本実施例では、従来の機械式の脱水のみではプレス部12出口における湿紙のドライネスは50%であるが、電圧印加による電気浸透効果により、ドライネスは57%程度まで上昇した事が確認された。
又参考的に下流側の第2のプレスパートのみに直流電源電圧を印加したが、上流側の第1のプレスパートのみに直流電源電圧を印加した場合に比べ、電圧印加の効果は顕著なものではなかった。
【0052】
従って本実施例によれば、プレス部12におけるドライネス向上は後段のドライヤ部の工程の削減、紙切れトラブルの防止につながり、抄紙機の生産効率が向上する。
【0053】
又上述した、第一の実施例のフォーマ部1と第二の実施例のプレス部12を組み合わせて抄紙機を構成することも可能である。
図4ではフォーマ部1とプレス部12両者に電圧を印加した他の実施例である。図4において、直流電源19はトランスTを介して400Vと300Vの電源を用意する。
そしてフォーマ部1のトップワイヤクロス2を介して水分濃度の最も多いパルプ懸濁液と接触するサクションフォーミングロール4には400Vの電圧が、又、水分濃度が低くなるカウンタブレード6、サクションボックス8には夫々300Vの直流電源が接続されている。
ボトムワイヤクロス3側のブレスドロール5には接地電極が接続されている。又プレス部12の第1のプレスパート12A側の、第1のピックアップワイヤクロス14Aのループ中に位置するサクションロール16a、プレス上ロール18a夫々300Vの直流電源が接続されている。
【0054】
かかる実施例によれば、各ロールに設けられている電極より、湿紙に電圧印加することにより、フォーマ部1においても機械脱水と電圧印加の効果により目的とする脱水が行われ、更にプレス部12においては湿紙の脱水が進んでいることにより、脱水抵抗が増加しており、上述の機械式脱水のみでは脱水効果が低下しているために、第1のプレスパート12A側で電圧印加による電気浸透効果を組み合わせることにより、脱水効率の向上する。
特に本実施例によれば、又逆にサクションフォーミングローラの一次脱水側で前記直流電圧の電圧若しくは電流通電量を相対的に多くしてその下流側のカウンターブレード、サクションボックスの脱水負荷を小さくしている。
【0055】
【発明の効果】
以上記載したごとく、本発明によれば湿紙のドライネスが向上し、抄紙機の生産効率改善に寄与できる。また、湿紙中のファイン歩留まりを高めることができるため、高い強度を有する湿紙を得ることができ、且つ、原料コストの低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る抄紙機の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るフォーマ部1の概略構成図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る電圧印加効果を現すグラフ図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るプレス部の概略構成図である。
【符号の説明】
1 フォーマ部
2 トップワイヤクロス
3 ボトムワイヤクロス
4 サクションフォーミングロール
5 ブレスドロール
6 カウンタブレード
7 フォーミングシュー
8 サクションボックス
9 サクションクーチロール
11 湿紙層
12 プレス部
12A 第1のプレスパート
12B 第2のプレスパート
13 ピックアップロール
14 ピックアップワイヤクロス
15 ボトムワイヤクロス
16 サクションロール
17 グループドロール
18 プレスロール
19 直流電源

Claims (13)

  1. パルプ原料が懸濁したパルプ懸濁液を2つのベルト状部材間に供給し、前記ベルト状部材で挟むことにより湿紙を形成しながら前記湿紙の脱水を行うフォーマ部を有する抄紙機において、
    パルプ懸濁液を保持する空隙を備えた前記ベルト状部材と前記湿紙に直流電圧を印加するための電圧印加部であって、前記ベルト状部材の移動方向に沿って所定距離隔てられて複数点設けられている電圧印加部を有する
    ことを特徴とする抄紙機。
  2. 前記ベルト状部材が高電気抵抗体若しくは絶縁体からなることを特徴とする請求項1に記載の抄紙機。
  3. 前記ベルト状部材が吸水性を有しないことを特徴とする請求項または請求項2に記載の抄紙機。
  4. 前記電圧印加部が、ベルト状部材の移動方向に沿って、パルプ懸濁液中のパルプ濃度が異なる、複数の位置に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の抄紙機。
  5. 前記電圧印加部が、ベルト状部材を保持するロール及び前記ロール間に存在する複数の脱水圧力付与要素であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の抄紙機。
  6. 前記電圧印加部が脱水部若しくは脱水部と対面する位置にあることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の抄紙機。
  7. 前記複数電圧印加部の電圧若しくは電流通電量を、全て若しくは一部の前記電圧印加部において異ならせたことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の抄紙機。
  8. パルプ原料が懸濁したパルプ懸濁液を2つのベルト状部材間に供給し、前記ベルト状部材で挟むことにより湿紙を形成しながら、前記湿紙の脱水を行うフォーマ部と、2つのベルト状部材間に存在する湿紙を押圧することにより水を絞り出すプレス部を有する抄紙機において、パルプ懸濁液を保持する空隙を備えた前記ベルト状部材と前記湿紙に直流電圧を印加する電圧印加部を有し、フォーマ部側の前記直流電圧若しくは電流通電量とプレス部側の前記直流電圧若しくは電流通電量を異ならせていることを特徴とする抄紙機。
  9. 前記プレス部において、ベルト状部材の移動方向における前段側のプレス押圧部にのみ直流電圧を印加したことを特徴とする請求項8記載の抄紙機。
  10. 前記複数の電圧印加部から湿紙に印加する直流電圧を150〜1000Vに設定したことを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の抄紙機。
  11. 前記直流電圧を150〜1000Vに設定するとともに、湿紙への電流印加総量が0.8A・sec以上であることを特徴とする請求項10に記載の抄紙機。
  12. 前記ワイヤクロスは10Ω・cm以上の高電気抵抗体若しくは絶縁体からなる不織布若しくは樹脂繊維が織り込まれて形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の抄紙機。
  13. パルプ原料が懸濁したパルプ懸濁液を高電気抵抗体若しくは絶縁体からなり、かつ吸水性を有しない2つのベルト状部材間に供給し、前記ベルト状部材間において湿紙を形成しながら脱水を行う工程を備えた抄紙方法において、前記湿紙に対し、ベルト状部材移動方向に沿って所定距離隔てた複数点において、直流電圧を印加することを特徴とする抄紙方法。
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