JP2004298034A - 酵母によるカダベリンの製造法 - Google Patents

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Abstract

【課題】リジン脱炭酸酵素を細胞表層に持つ酵母の作出、及びそれを利用したカダベリン製造法
【解決手段】本発明の課題は、分泌シグナル配列、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列、リジン脱炭酸酵素の構造遺伝子配列をこの順で有する発現ベクターを酵母に導入し、リジン脱炭酸酵素を細胞表層に有する酵母を得、その酵母とリジンとを接触させることにより解決される。ここで、リジン脱炭酸酵素の構造遺伝子はエシェリシア・コリ由来のものが好ましく、酵母はサッカロマイセス・セレビセが好ましい。
【選択図】なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、細胞表面にリジン脱炭酸酵素を有する酵母、その利用に関する。さらに詳しくは、細胞表面にリジン脱炭酸酵素を有する酵母を用いて、リジンを脱炭酸することによりカダベリンを生成する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、リジンを微量のテトラリン過酸化物を含むシクロヘキサノール中で煮沸することによりカダベリンが得られることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら大量のエネルギーおよび有機溶媒が必要であるうえに、生成効率が非常に低い(36%)。一方、カダベリンは生体内に普遍的に存在する生体ジアミンであり、その生合成系が解明されつつあり(例えば、非特許文献2参照)、さらにリジンを脱炭酸することによりカダベリンを生成するエシェリシア・コリ(Escherichia coli)由来のリジン脱炭酸酵素遺伝子が知られている(例えば、非特許文献3参照)。最近、カダベリンの製造方法として、上記のリジン脱炭酸酵素を用いた方法が発見され(特許文献1)、石油化学に頼らない方法として注目されている。しかしながら、カダベリンの製造について実際的な製造技術は確立されておらず、効率よく、より温和な条件下でカダベリンを製造する方法の開発が望まれている。
【0003】
ところで、酵母は基礎生物学に於ける真核生物のモデル細胞として研究対象となってから久しいが、さらに古くは清酒、ビール等に代表されるアルコール醸造に広く用いられており、近年興隆したバイオテクノロジー産業にとっも重要な真核生物として注目を集めている。
【0004】
前述の通り、酵母細胞の研究の進展は目覚ましく、例えば出芽酵母サッカロマイセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisiae)は、その生活環の特徴から遺伝学的解析が容易に行える。更に、出芽酵母に於ける宿主ベクター系に代表される遺伝子工学的手法を用いた遺伝子産物の解析は、分子生物学分野に於いては定法となっており、外来遺伝子の導入・発現方法も確立されつつあり、タンパク質、各種化合物等の生産などのバイオテクノロジー産業への応用がなされている。その一例としては、酵母を用いた有用タンパク質の分泌生産方法である。
【0005】
ここで効率的なカダベリンの生産法を考えた場合、酵母にリジン脱炭酸酵素を分泌させ、その酵素をカダベリンの製造に用いる可能性が考えられる。しかし、カダベリン製造に用いたリジン脱炭酸酵素を効率よく回収しない限り、その生産性の向上は望めない。
【0006】
このような問題を解決するために、酵素を高分子等を用いて酵素を固定化させることにより生産性を向上させる試みがなされている(例えば、非特許文献4参照)。しかしながら、この方法は、用いるべき酵素の回収精製・固定化工程を必要とし、煩雑であり、工業化への応用は例が限られる。
【0007】
そこで発明者らは、用いるべき酵素、すなわち本発明に於けるリジン脱炭酸酵素を酵母の細胞表層に局在化させれば、酵素の回収精製・固定化行程が簡略化されることで、より効率的にカダベリン製造が可能となると考えた。最近になり、酵母の細胞表層に任意のタンパク質を提示する技術が紹介されている(例えば、非特許文献5、6参照)。
【0008】
【特許文献1】
特開2002−223771号公報
【非特許文献1】
須山正,金尾清造;アミノ酸の脱炭酸(第4報)薬学雑誌,vol.85(6),P.531−533(1965)
【非特許文献2】
セリア他、マイクロバイオロジカル・レビュー、1985年、第49巻、p.81−99(CeliaT et al;Microbiological Reviews,vol.49,P.81−99(1985))
【非特許文献3】
ベネット他 ジャーナル・オブ・バクテリオロジー、1992年、第174巻、p.2659−2669(George N. Bennett et. al;Journal of Bacteriology,vol.174,P.2659−2669(1992))
【非特許文献4】
田中渥夫ら著、「生化学実験法(第28巻)バイオリアクター実験入門」、学会出版センター、1992年10月、p.1−44
【非特許文献5】
植田他 アプライド・エンバイアルメンタル・マイクロバイオロジー、1997年、第63巻、p.1362−1366(Ueda M et al. Applied and Environmental Microbiology, 63: 1362−1366 (1997))
【非特許文献6】
佐藤他 アプライド・マイクロバイオロジー・アンド・バイオテクノロジー、2002年、第60巻、p.469−474(Sato et. Al. Applied Microbiology and biotechnology, 60:469−474(2002))
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、簡便かつ効率的なカダベリンの製造技術を開発することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、酵母細胞表層にリジン脱炭酸酵素を提示させ、その酵素を作用させることにより、効率的にカダベリンを製造する方法に関する。
【0011】
更に詳細には分泌シグナル配列および細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列、ならびにリジン脱炭酸酵素の構造遺伝子配列をこの順で有するDNAであって、リジン脱炭酸酵素を細胞表層に発現し得るDNAに関する。
【0012】
好ましくは、前記分泌シグナル配列および細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列酵母のFlo1タンパク質の配列である。
【0013】
より好ましくは、前記分泌シグナル配列および細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列が、N末端から1099アミノ酸をコードする配列である。
【0014】
好ましくは、前記リジン脱炭酸酵素がエシェリシア・コリ(Escherichia coli)由来のリジン脱炭酸酵素である。
【0015】
好ましくは、前記DNAがプラスミドの形態である。
【0016】
本発明は、上述リジン脱炭酸酵素を細胞表層に発現し得るDNAを合成し、そのDNAを酵母細胞内に導入・発現させ、酵母細胞表層に提示せしめることによって達成される。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をより具体的に詳述する。
【0018】
本発明のDNAは、分泌シグナル配列ならびに細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列、リジン脱炭酸酵素の構造遺伝子配列をこの順で有するDNAであって、リジン脱炭酸酵素を細胞表層に発現し得るDNAである。
【0019】
分泌シグナルは、一般に細胞外(ペリプラズムも含む)に分泌されるタンパク質(分泌性タンパク質)のN−末端に結合している、疎水性に富んだアミノ酸を多く含むアミノ酸配列であり、通常、分泌性タンパク質が細胞内から細胞膜を通過して細胞外へ分泌される際に除去される。
【0020】
本発明においては、リジン脱炭酸酵素を酵母の細胞外に分泌(移動)させることができる分泌シグナルであれば、どのような分泌シグナルでも用いられ、起源は問わない。例えば、分泌シグナル配列としては、酵母のFlo1タンパク質のシグナル配列、分泌型タンパク質の一種であるグルコアミラーゼの分泌シグナル等が挙げられる。
【0021】
細胞表層局在タンパク質は、その大部分が酵母の細胞表層に集中的に存在するタンパク質をいう。例えば、酵母の凝集タンパク質因子であるFlo1タンパク質が挙げられる。
【0022】
ここで、Flo1タンパク質のアミノ酸配列から予想される本タンパク質の性質を列挙する。Flo1タンパク質は、細胞表層に局在するタンパク質で、酵母細胞の凝集性に係わる因子である(ボニー他 ジャーナル・オブ・バクテリオロジー、1997年、第179巻、p.4929−4936,Bony et al.,J. Bacteriol.,179:4929−4936(1997))。そのN末端側から、分泌シグナル領域、酵母細胞の凝集性に係わる領域、そしてC末端領域にGPIアンカー結合領域を有している。また、このアミノ酸配列中には13個所の糖鎖結合部位がある。
【0023】
本発明に於ける分泌シグナル配列ならびに細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列とは、例えば上述のFlo1タンパク質のような酵母の細胞表層タンパク質の一部をコードする配列をいい、Flo1タンパク質に於いての主にN末端部分をコードする配列をいうが、リジン脱炭酸酵素の活性に悪影響を与えなければ、どのような配列でもよい。好適には、Flo1タンパク質のN末端から1447アミノ酸の配列をコードする配列が用いられる。更に好適には、Flo1タンパク質のN末端から1099アミノ酸の配列をコードする配列が用いられ、本発明であるころのDNAである分泌シグナル配列ならびに細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列、リジン脱炭酸酵素の構造遺伝子配列をこの順で有するDNAを酵母細胞に導入することで、リジン脱炭酸酵素を細胞表層に局在せしめることが出来る。具体的に分泌シグナル配列ならびに細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列とは、配列番号1に示すDNA配列が挙げられる。
【0024】
本発明でいうリジン脱炭酸酵素とは、アミノ酸の一種であるリジンから二酸化炭素を除去することによりカダベリンを生成し得る酵素をいい、このような活性を有していれば起源は問わない。好ましくは微生物由来のものが使用できる。
【0025】
このような微生物由来のリジン脱炭酸酵素としては、バシラス・ハロドゥランス(Bacillus halodurans)、バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)、エシェリシア・コリ(Escherichia coli)、セレノモナス・ルミナンチウム(Selenomonas ruminantium)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae)、ビブリオ・パラヘモリティカス(Vibrio parahaemolyticus)、ストレプトマイセス・コエリカーラ(Streptomyces coelicolor)、ストレプトマイセス・ピロサス(Streptomyces pilosus)、エイケネラ・コロデンス(Eikenella corrodens)、イユバクテリウム・アシダミノフィルム(Eubacterium acidaminophilum)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、ハフニア・アルベイ(Hafnia alvei)、ナイセリア・メニンギチデス(Neisseria meningitidis)、テルモプラズマ・アシドフィルム(Thermoplasma acidophilum)またはピロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)等由来が挙げられる。
【0026】
特に好ましくは、エシェリシア・コリ(Escherichia coli)由来のものである。
【0027】
リジン脱炭酸酵素遺伝子をクローニングする方法に特に制限はない。既知の遺伝子情報に基づき、PCR(polymerase chain reaction)法を用いて必要な遺伝領域を増幅取得する方法、既知の遺伝子情報に基づきゲノムライブラリーやcDNAライブラリーより相同性や酵素活性を指標としてクローニングする方法などが挙げられる。本発明においては、これらの遺伝子は、遺伝的多形性などによる変異型も含む。なお、遺伝的多形性とは、遺伝子上の自然突然変異により遺伝子の塩基配列が一部変化しているものをいう。例えばE.coli K12株の染色体DNAよりPCR法を用いて、リジン脱炭酸酵素をコードする遺伝子であるcadA遺伝子をクローニングする。この際使用する染色体DNAはE.coli由来であればどの菌株由来でもよい。特に好ましくは、配列番号2に示したDNA配列である。
【0028】
分泌シグナル配列ならびに細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列をリジン脱炭酸酵素の構造遺伝子配列をこの順で有するDNAの合成は、当業者には周知の技術である。
【0029】
本発明のDNAはプラスミドの形態であることが望ましい。DNA取得の簡易化の点からは、大腸菌とのシャトルベクターであることが好ましい。本発明のDNAの出発材料としては、例えば、酵母の2μmプラスミドの複製開始点(Ori)とColE1の複製開始点を有しており、また、酵母選択マーカー(例えば、薬剤耐性遺伝子、TRP1、LEU2等)および大腸菌の選択マーカー(薬剤耐性遺伝子等)を有することがさらに好ましい。また、リジン脱炭酸酵素構造遺伝子を発現させるために、この遺伝子の発現を調節するオペレーター、プロモーター、ターミネーター、エンハンサー等のいわゆる調節配列をも含んでいることが望ましい。例えば、ICL(イソクエン酸リアーゼ)プロモーターおよびICLターミネーターが挙げられる。
【0030】
本発明の発現ベクターは、通常酵母で利用する発現ベクターに前記リジン脱炭酸酵素遺伝子を導入することにより得ることができる。上記発現ベクターの好適な例として、例えば、pWIFS、或いはpWIFL(松本他 アプライド・エンバイアルメンタル・マイクロバイオロジー、2002年、第68巻、p.4517−4522(Matsumoto et al., Appl.Environ. Microbiol.,68:4517−4522(2002)))、等を挙げることができる。なおpWIFS、pWIFLともにTRI1遺伝子を選択マーカーとし、複製開始点として2μmプラスミド由来の配列を用いたベクターである。
【0031】
本発明のリジン脱炭酸酵素を細胞表層に有する酵母は、本発明のDNAを酵母に導入することにより得られる。DNAの導入とは、酵母の中にDNAを導入し、発現させることを意味する。DNAの導入は、形質転換、形質導入、トランスフェクション、コトランスフェクション、エレクトロポレーション等の方法があり、具体的には、例えば、酢酸リチウムを用いる方法、プロトプラスト法等がある。得られた形質転換体の培養方法もまたすでに公知であり、例えば、「ローズ他 メソッヅ・イン・イースト・ジェネティクス、1990年コールドスプリングハーバーラボラトリープレス(M.D. Rose et al.,”Methods In Yeast Genetics”,Cold SpringHarborLaboratoryPress (1990))」等に記載されている。
【0032】
本発明の発現ベクターを導入する酵母として、好ましくはサッカロマイセス(Saccharomyces)属である。
【0033】
より好ましくは、サッカロマイセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisiae)である。
【0034】
導入されるDNAは、プラスミドの形態で、あるいは宿主の遺伝子に挿入して、または宿主の遺伝子と相同組換えを起こして染色体に取り込まれてもよい。
【0035】
DNAが導入された酵母は、選択マーカー(例えばTRP1)で選択される。リジン脱炭酸酵素が細胞表層にしているかどうかは、酵母破砕液の細胞壁および膜粗画分に対するウエスタンブロッティング、蛍光顕微鏡下での蛍光抗体染色で確認し得る。
【0036】
リジン脱炭酸酵素によるリジンからカダベリンへの変換は、上記のようにして得られる細胞表層にリジン脱炭酸酵素を有する酵母を、リジンに接触させることによって行うことができる。
【0037】
好ましくは、L−リジンである。
【0038】
前記酵母とリジンの反応は水溶液中で行うことができる。
【0039】
反応溶液中のリジンの濃度については、特に制限はない。
【0040】
リジン脱炭酸酵素が活性型になるために必要な補酵素、ピリドキサルリン酸の存在下で反応を行うことが望ましい。
【0041】
反応溶液中のピリドキサルリン酸の濃度については、特に制限はない。
【0042】
反応温度は、通常、28〜55℃、好ましくは40℃前後である。
【0043】
反応pHは、通常、5〜8、好ましくは、約6である。
【0044】
反応には静置または攪拌のいずれの方法も採用し得る。
【0045】
反応時間は、使用する酵素活性、基質濃度などの条件によって異なるが、通常、1〜72時間である。また、反応は、リジンを供給しながら連続的に行ってもよい。
【0046】
【実施例】
(1)表層提示用ベクターの作製
本発明の、リジン脱炭酸酵素を酵母細胞表層に提示し得る発現ベクターを作製するために、E.coliのリジン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)のクローニングを行った。
【0047】
クローニングには鋳型としてE.coli DH5α株から抽出したゲノムDNAを用い、cadA遺伝子の全長をプライマーセット(配列番号3,4)を用いて、PCRで増幅した。PCR用プライマーにはBglII切断部位とXhoI消化部位がそれぞれ付加されている。
【0048】
この増幅断片をBglIIおよびXhoIにより消化後、pWIFSのBglII/SalI間隙に挿入し、リジン脱炭酸酵素表層提示用ベクターpHS39を作製した(図1)。
【0049】
(2)酵母Saccharomyces cerevisiaeの形質転換
(1)のようにして得られたpHS39でTRP1遺伝子が欠損しトリプトファン要求性を示す酵母Saccharomyces cerevisiae ATCC204679株に形質転換した。形質転換は酢酸リチウム法により行った。 発現ベクターを導入した酵母細胞を、トリプトファン非添加平板培地上で培養することにより、トリプトファン非要求性の形質転換体が得られた。
【0050】
トリプトファン非要求性の形質転換体への目的のDNA導入の確認は、pHS39に関しては形質転換体よりプラスミドを単離し、再度大腸菌に形質転換し、そこから再びプラスミドを単離することにより確認した。
【0051】
(3)ウェスタンブロット、および蛍光抗体染色による細胞表層提示の確認
まず、ウェスタンブロットによりリジン脱炭酸酵素が細胞表層に存在するかどうかを調べた。pHS39を持つ形質転換体をトリプトファン非添加の完全培地10mL中に植菌し、30℃にて約24時間培養した。その細胞を集菌し、TBS緩衝液に再懸濁した。グラスビーズ法により細胞を破砕し、破砕液を遠心分離(12000G、10分)した。その上清を溶解性タンパク質粗抽出画分とし、沈殿を細胞壁および膜粗画分とした。SDS−PAGEにより、それら画分をを分離し、ウェスタンブロッティング解析に供した。一次抗体として抗cadAウサギ抗血清、二次抗体としては、アンチラビット・モノクローナルIgG HRP コンジュゲート(アマシャム・ファルマシア社)を用いて解析した。その結果、細胞壁および膜粗画分のみから、リジン脱炭酸酵素を示すシグナルを検出した。一方、対照実験として、cadA遺伝子を持たないpWIFSで形質転換した株のいずれの画分からも、シグナルは検出されなかった。
【0052】
次に蛍光抗体標識法により確認を行った。一次抗体として抗cadAウサギ抗血清、二次抗体としては、フルオロセイン・イソチオシアネート・コンジュゲート・ゴート・アンチラビット・IgG (モレキュラープローブ社)を使用した。pHS39による形質転換体では、細胞表層に蛍光が観察されたが、cadA遺伝子を持たないpWIFSで形質転換した株からは蛍光が観察されなかった。これらのことから、目的通りcadAの細胞表層提示されていることが明らかになった。
【0053】
(4)リジン脱炭酸酵素表層提示酵母の活性確認
(2)のようにして得られた表層提示酵母のリジン脱炭酸活性の確認を行った。pHS39を持つ形質転換細胞をトリプトファン非添加の完全培地10mL中に植菌し、30℃にて約24時間培養した。
【0054】
得られた培養液を遠心することにより細胞のみを回収した後、10mLのリン酸緩衝液で2回洗浄し、残存していた培地成分を完全に除いた。その後細胞を、200μlのリン酸緩衝液に懸濁した。
【0055】
上記細胞懸濁液20μl、50μl、および100μlを取り、反応溶液1ml(50mM リン酸緩衝液 (pH5.7)、50mM リジン二塩酸塩、0.1mM ピリドキサルリン酸)中に混和し、37℃にて、24時間振とうさせながら反応させた。
【0056】
反応終了後の溶液を、リジン脱炭酸活性測定の定法に従って行った(左右田健次,味園春雄,生化学実験講座,vol.11上,P.179−191(1976))。
【0057】
その結果を表1に示す。リジン脱炭酸酵素表層提示用ベクターpHS39を有する細胞懸濁液(ATCC204679/pHS39)から、カダベリンの産生を確認した。
【0058】
【表1】
Figure 2004298034
【0059】
比較例として、pWIFSでトリプトファン非要求性の形質転換した細胞(ATCC204679/pWIFS)に対しても、同様の操作を行ったところ、この細胞からはカダベリンの産生は確認されなかった。
【0060】
【発明の効果】
本発明であるDNAを導入した酵母は、その細胞表層にリジン脱炭酸酵素を活性を持つ。この酵母をリジンと接触させることにより、従来の方法では実施困難であった簡便、且つ効率的なカダベリンの製造法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】リジン脱炭酸酵素細胞表層提示用発現ベクターpHS39のフィジカルマップを示す図である。ICL promoter, terminator:イソクエン酸リアーゼ遺伝子由来プロモーター、及びターミネーター、N−half of FLO1:Flo1タンパク質のN末端から1099アミノ酸をコードする配列(配列番号1)、cadA:リジン脱炭酸酵素構造遺伝子(配列番号2)、及びBLA:アンピシリン耐性遺伝子をそれぞれ示す。
【配列表】
Figure 2004298034
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Claims (18)

  1. 分泌シグナル配列ならびに細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列、リジン脱炭酸酵素の構造遺伝子配列をこの順で有するDNAであって、リジン脱炭酸酵素を細胞表層に発現し得るDNA。
  2. 前記リジン脱炭酸酵素の構造遺伝子配列が、微生物由来であるところの請求項1に記載のDNA。
  3. 前記リジン脱炭酸酵素の構造遺伝子配列が、細菌由来であるところの請求項1または2に記載のDNA。
  4. 前記リジン脱炭酸酵素の構造遺伝子配列が、バシラス・ハロドゥラン(Bacillus halodurans)、バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)、エシェリシア・コリ(Escherichia coli)、セレノモナス・ルミナンチウム(Selenomonas ruminantium)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae)、ビブリオ・パラヘモリティカス(Vibrio parahaemolyticus)、ストレプトマイセス・コエリカーラ(Streptomyces coelicolor)、ストレプトマイセス・ピロサス(Streptomyces pilosus)、エイケネラ・コロデンス(Eikenella corrodens)、イユバクテリウム・アシダミノフィルム(Eubacterium acidaminophilum)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、ハフニア・アルベイ(Hafnia alvei)、ナイセリア・メニンギチデス(Neisseria meningitidis)、テルモプラズマ・アシドフィルム(Thermoplasma acidophilum)、またはピロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)のいずれかの由来であるところの請求項1ないし3いずれか1項記載のDNA。
  5. 前記リジン脱炭酸酵素の構造遺伝子配列が、エシュリシア・コリ由来のものであるところの請求項4に記載のDNA。
  6. 前記分泌シグナル配列ならびに細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列が酵母の凝集性タンパク質因子の配列であるところの請求項1ないし5いずれか1項記載のDNA。
  7. 前記分泌シグナル配列ならびに細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列が、出芽酵母凝集性タンパク質因子の配列であるところの請求項6に記載のDNA。
  8. 前記分泌シグナル配列ならびに細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列が、出芽酵母サッカロマイセス・セレビゼ(Sccharomyces cerevisiae)のFlo1タンパク質のN末端から1099アミノ酸をコードする配列であるところの請求項7に記載のDNA。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項記載のDNAを挿入した発現ベクター。
  10. 発現ベクターが酵母細胞内において、プラスミドとして、もしくは染色体上にて安定に保持されるところの請求項9記載の発現ベクター。
  11. 請求項1〜8のいずれか1項記載のDNAまたは請求項9または10に記載の発現ベクターを有する酵母。
  12. 前記酵母が、サッカロマイセス(Saccharomyces)属であるところの請求項11記載の酵母。
  13. 前記酵母がサッカロマイセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisiae)であるところの請求項12に記載の酵母。
  14. 請求項11から13のいずれか1項記載の酵母とリジンとを反応させる工程を含む、カダベリンの製造法。
  15. 前記リジンがL−リジンであるところの請求項14に記載のカダベリンの製造法。
  16. 酸性条件下において反応させる、請求項14または15に記載のカダベリンの製造法。
  17. ピリドキサルリン酸の存在下で反応させる、請求項14ないし16いずれか1項記載のカダベリンの製造法。
  18. 水溶液中で直接リジンと接触させ反応させる、請求項14ないし17いずれか1項記載のカダベリンの製造法。
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