JP2004296561A - 光半導体装置及び光伝送モジュール - Google Patents
光半導体装置及び光伝送モジュール Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004296561A JP2004296561A JP2003084099A JP2003084099A JP2004296561A JP 2004296561 A JP2004296561 A JP 2004296561A JP 2003084099 A JP2003084099 A JP 2003084099A JP 2003084099 A JP2003084099 A JP 2003084099A JP 2004296561 A JP2004296561 A JP 2004296561A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- layer
- quantum
- quantum well
- mqw
- optical
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Images
Landscapes
- Semiconductor Lasers (AREA)
Abstract
【課題】多重量子井戸構造を活性層に有する光半導体装置において,量子井戸の閉じ込めポテンシャルが深く,量子井戸数が多い場合においても,量子井戸面に垂直方向にキャリヤを高速移動可能とすることを目的とする。
【解決手段】多重量子井戸の障壁層中に,電子・正孔のうち片方のキャリヤ(通常は正孔)のみを閉じ込めるポテンシャルを有するtype−II型量子ドットを,埋め込み成長する。多重量子井戸層全体を,順方向ないし逆方向にバイアスしたとき,量子ドットに接する一方の量子井戸層のエネルギー準位から,量子ドット内エネルギー準位を経由して,他方の隣接量子井戸のエネルギー準位へ,トンネル効果でキャリヤ(通常は正孔)を高速に移動させることが可能となる。
【選択図】 図1
【解決手段】多重量子井戸の障壁層中に,電子・正孔のうち片方のキャリヤ(通常は正孔)のみを閉じ込めるポテンシャルを有するtype−II型量子ドットを,埋め込み成長する。多重量子井戸層全体を,順方向ないし逆方向にバイアスしたとき,量子ドットに接する一方の量子井戸層のエネルギー準位から,量子ドット内エネルギー準位を経由して,他方の隣接量子井戸のエネルギー準位へ,トンネル効果でキャリヤ(通常は正孔)を高速に移動させることが可能となる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,高温での高速動作が可能で,電流変調時のレーザ波長の時間的変動(以下,チャーピングと呼ぶ)が小さい,多重量子井戸構造活性層を有する直接電流変調型半導体レーザ装置,及び光伝送モジュールに関するものである。
また,本願発明は,高光入力に耐えられ,出力光レベルが大きく,高速変調が可能で,電圧変調動作時の出力光波長の時間的変動(チャーピング)がゼロまたは負にできるような,多重量子井戸構造光吸収層を有する電界吸収型光変調器,及び光伝送モジュールに関する。
また,本願発明は,電界吸収型光変調器と集積化した,直流動作半導体レーザ光源において,
変調器の光出力端からの反射による戻り光によって,波長の時間変動(チャーピング)を起こしにくい,半導体レーザ装置,および光伝送モジュールに関する。
【0002】
【従来の技術】
現在光ファイバー通信に用いられている多くの光半導体装置では,多重量子井戸(Multi−Quantum−Well,以下MQWと略す)構造が活性層に用いられている。これは,量子井戸層内に閉じ込められた2次元電子・2次元正孔に特有の階段状の状態密度から生じる,鋭い発光・吸収スペクトルの特徴を利用するためである。
【0003】
しかし,MQW構造に共通する欠点も存在する。それは,成長方向に沿った方向,すなわち,量子井戸層に垂直な方向に電流を流す場合,キャリヤは多数の障壁層ポテンシャルを次々と乗り越えて前進しなければならないために,MQW層全体を通過するのに時間遅れを生じる点と,結果として,各量子井戸内に分布するキャリヤ密度に,時間的,場所的な分布密度差を生じる点である。
【0004】
以下では,(1)高温で高速直接変調可能な半導体レーザ と,
(2)高速・高光出力で高速・低チャープ動作の電界吸収光変調器と,
(3)電界吸収光変調器とDFB型レーザを集積化した光源,
の3種類の光半導体装置の例について,上記MQW層に由来する問題点を説明する。
【0005】
(1)高温動作高速直接変調半導体レーザ
今後,需要の伸びが最も期待されるメトロ系やビル間等の比較的近距離をつなぐ高速光通信網
応用では,10Gbit/s以上まで電流注入で直接変調できる,安価な半導体レーザへの期待が大きい。2002年には,10Gイーサネット(登録商標)が標準化され,シングルモードファイバを用いた波長1.31μmレーザでは10km,波長1.55μmレーザでは40kmの伝送距離規格が示された。
これらの用途には,面発光型半導体レーザと,端面出射型半導体レーザの両方が利用されうるが,
本発明は,後者の構造で,かつ,MQW活性層を有し,高速変調時の動的な単一縦モード発振を維持するため,回折格子を結晶中に作りつけた,分布帰還型(Distributed Feedback,以下略してDFBと呼ぶ)レーザを主な対象とする。DFB回折格子をもたない,ただのファブリペロー型共振器構造のMQW活性層レーザは,マルチモードファイバでの10Gbit/s,500mの短距離通信用に今後期待され,本発明は,この種のレーザにも同様に適用できる。
図2は,上記半導体レーザのMQW部分のエネルギーバンドダイヤグラム模式図である。半導体レーザを直接電流変調する場合,活性領域をはさむPN接合に順方向バイアスを印加して,活性層の両側のN型クラッド層42から電子1を,P型クラッド層41から正孔2を,それぞれ同時に注入する。この時,有効質量が大きく移動度の小さい正孔2は,有効質量が小さく移動度の大きい電子1に比較して,MQW層中の各障壁層43を通過する時間が約一桁以上多くかかる。図2には,電子が全ての量子井戸層44にほぼ均一に注入できたとき,正孔はまだ多くの量子井戸への注入が完了しておらず,しかも各量子井戸層内の正孔密度は,全体に不均一な分布である状況を,模式的に表現している。このキャリヤ注入時の遅れ時間と,不均一注入分布の問題は,MQWレーザ素子の変調動特性のみならず,定常動作時の静特性をも劣化させている。
一方,10Gbit/s以上の高速で動作する光伝送モジュールでは,低コスト化のため,ペルチエ素子などの冷却を用いずに80℃以上の高温で動作できるレーザの要求が高まっている。
【0006】
半導体レーザを高温動作可能にするには,
1)量子井戸層からのキャリヤの熱励起飛び出しによる損失を抑えるために
障壁層閉じ込めポテンシャルを高くすること,
2) MQW層の層数を,通常の7層前後から,15から20層に増大することで,
発振しきい値での注入キャリヤ密度を下げ,フェルミ準位を低く保つこと
の2点が重要である。
【非特許文献1】大橋 弘美;OPTRONICS No.1,79−83,(1995)
「高温動作用多重量子井戸レーザ」
この高温対応設計により,最大180℃程度までのレーザ発振が実証されているが,量子井戸数の増加により,多数の高い障壁層を乗り越えなければならないため,片側からのキャリヤ注入で全ての量子井戸層にすばやく均一に注入を完了することは一層困難となる。
【0007】
(2)高速・高光出力電界吸収型光変調器
レーザの直接変調が困難な40Gbit/sでは,波長安定化したDFBレーザからの入射光を電界吸収光変調器で変調する方式が用いられる。マッハツェンダー型光変調器に比べると実装面積が小さく,比較的低コストなため,メトロ系や,現在インターネット接続の高速化により需要が急速に伸びている,コア・ルータ間の2km前後の距離での高速データ伝送に有望と考えられている。電界吸収光変調器では,活性領域をはさむPN接合に,一定のdcバイアス電圧(プリバイアス)と,40Gの逆バイアスパルスを印加して,外部入射半導体レーザ光を吸収させ,光出力をオフする。この時量子井戸内に発生した光励起キャリヤは,40Gbit/sに対応する一周期25psecの間に,MQW層を通過して電極にまで高速に掃き出す必要がある。ここでも,有効質量が大きく移動度の小さい正孔が,電子に比べて十分高速に掃き出せないことが,素子の動特性,静特性の両方を律速している。
特に,伝送距離の長距離化には,
1)光変調器からの出力光レベルの向上 と,
2)出力パルスの波長チャーピング低減 の
両方が重要であるが,量子井戸からの正孔の掃き出しが遅いことは,どちらにも悪影響を及ぼす。
光変調器に,より強い光を入射すると,量子井戸内に一度に大量の光励起正孔が発生し,それらが比較的ゆっくりと井戸から脱出して移動するため,逆バイアス電界をしゃへいして一層掃き出しが遅くなる,いわゆるパイルアップ現象を生じる。さらに,自由キャリヤである正孔が活性層内に増えると,プラズマ効果による屈折率の増大をまねき,出力光の波長の動的変化(チャーピング)の目安となるαパラメータを過剰に増大させてしまう。
【非特許文献2】
Y.Miyazaki+4;IEEE J.of Quantum Electron.,38(8),1075−1080,(Aug2002) ”Extremely Small−Chirp Electroabsorption−Modulator Integrated Distributed Feedback Laser Diode With a Shallow Quantum−Well Absorption Layer ”
(3)変調器集積化DFBレーザ光源
MQW活性層DFBレーザと,電界変調光変調器を同一基板結晶上に結晶成長した,集積化光源は,実装上の簡便性とコンパクト性から,10Gbit/s以上での波長間隔の大きなCWDM波長多重伝送用に期待されている。このとき,変調器出力端からの反射戻り光の影響で,DFBレーザのMQW活性層中のキャリヤが変調を受けて,波長チャーピングを生じる問題がある。現在,多層誘電体膜による端面反射率の低減と,端面透明化構造を併用した変調器で一応の対策は完了しているが,集積化の上で最大の難点の一つとされている。
【非特許文献3】青木雅博;レーザー研究 30(1),22−27,(2000年1月)
「光変調器集積レーザー」
DFBレーザの戻り光によるチャーピング発生を抑制できる,活性層構造とすることが,最も根本的な対策であり,反射膜の簡便化で製造コスト低減も可能となる。
それには,レーザのαパラメータをゼロに近づけるよう,微分利得が大きいことが望ましい。
微分利得の増大には,量子井戸数を従来の7−8層から,15層―20層に増加することが望ましいことが理論的に知られている。
【非特許文献4】魚見 和久他5;電子情報通信学会論文誌Vol.J74−C−I,No.11,406−413,(1991)
「超高速多重量子井戸方分布帰還型半導体レーザ」
この場合は,レーザはDC動作なので,量子井戸数増加に伴う不均一注入の解決が重要である。
以上の3例で説明してきたごとく,MQW構造を活性層に用いた素子の一層の高性能化のために,
多数の量子井戸層に,高速・均一にキャリヤを注入したり,高速にキャリヤを掃き出すことのできるMQW構造が強く望まれている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は,MQW構造を活性層に有する光素子において,量子井戸層に垂直な方向のキャリヤ移動を高速化することにより,従来の性能限界を超えた,優れた光半導体装置を提供することを目的とする。
最初に(1)高温・高速 直接変調半導体レーザの例で,
次に(2)高速・高光出力 電界吸収光変調器の例で,
従来提案されたいくつかの方法をあげて,その問題点を説明する。
【0009】
(1)直接変調半導体レーザ
半導体レーザでは,高温動作のみならず,高速変調帯域を延ばす目的にも,MQW層の量子井戸数の増加が望ましい。変調帯域の目安となるレーザの緩和振動周波数frは,微分利得の平方根に比例するが,既に説明したごとく,微分利得増加には,量子井戸数の増加が有効である。
従来,実施されなかった理由は,有効質量の大きい正孔の高速・均一分配が,井戸数増加につれて一層困難になり,不均一に注入された部分は,レーザ発振に寄与せず,むしろ光吸収領域になってしまうためである。
原理的に,隣接する量子井戸間で高速にキャリヤを移動させるには,次の2通りしか方法がない。一つは,量子井戸の基底準位に捕獲された正孔が,熱的励起で再び障壁層上に戻り,障壁層上を
拡散移動して,隣接量子井戸に再捕獲される,という一連の繰り返しによって前進する方法である。先の図2で,価電子帯中に注入された正孔2の拡散の先端部に,熱励起51と,障壁上拡散52,再捕獲53の3つの過程に対応した正孔の動きを,矢印で表現している。この方法で高速化するには,51に対応する量子井戸からの熱的脱出速度も高速化する必要があるため,本発明の目的とする高温・高速動作素子には,不適当である。
もう一つは,隣接量子井戸の基底準位間同士で,中間の障壁層をトンネル効果で高速通過することにより,直接移動させる方法である。このトンネル移動は,温度に敏感でないため高温動作と両立できる。
しかし,
【特許文献1】特開平6−268314号公報(請求項1,図1)
にあるような,単純に量子井戸間の障壁層厚さを薄くする方法,あるいは,
【特許文献2】特開2000−101199号公報(段落0012,図2)にあるような,閉じ込めポテンシャル深さΔEvを小さくする方法では,正孔の波動関数の重なりによって,量子井戸準位がミニバンド化してつながり,ある意味でバルクに近づくことになる。これでは,量子井戸の光学遷移特有の強くて鋭い発光スペクトルや高い微分利得が得られず,レーザの高速特性は改善できない。結局,量子井戸の閉じ込めポテンシャルは変えずに,量子井戸特有の光学遷移特性を保持したままで,隣接量子井戸間で高速にキャリヤのトンネル移動を起こすMQW構造が望ましい。
以上の考え方に最ものっとった先行発明としては,
【特許文献3】特開平7−249828号公報(段落0011,図6)
がある。
圧縮歪を印加したInGaAsPを量子井戸層に,引っ張り歪を印加したInGaAlAsを障壁層に用いることを特徴としている。
このような(+/−)補償歪型MQW構造にすることによって,次の2つのメリットが生じる。
1)平均歪がゼロに近づくために,20層もの量子井戸数を持つ良好なMQW構造の結晶成長が可能となる。
2)歪の影響で,価電子帯の軽い正孔(light hole:lhと略す)と重い正孔(heavy hole:hhと略す)のバンドが分離し,重い正孔バンドでは,
障壁層と量子井戸とで従来同様のポテンシャル閉じ込めによる井戸構造が成り立つが,
少し高エネルギーにある,軽い正孔では,閉じ込め井戸ができず,軽い正孔は障壁層を自由にトンネル透過できる。
図3(a)に,補償歪構造MQWレーザに,キャリヤ注入を行った場合の,模式的なバンド図を示す。
この構造で,レーザ発振は,通常のMQWと全く同様に,電子と重い正孔との量子井戸準位間でおきる。一方,重い正孔準位から熱励起などで高エネルギー側の軽い正孔の準位に上がった正孔は,障壁層のバリヤが存在しないので,MQW全体の軽い正孔準位に高速移動できる。
実際に, InGaAsP(+)井戸層/InAlGaAs(−)障壁層からなる補償歪MQWレーザを試作した結果では,軽い正孔のトンネル移動方法で高速・均一分配が可能となったことにより,量子井戸数を20層まで増やした構造で20Gbit/s動作が確認されている。
【非特許文献5】
Y.Matsui+4; IEEE J.of Quantum Electron.,34(10),1970−1978,(Oct1998) ” Enhanced Modulation Bandwidth for Strain−Compensated InGaAlAs−InGaAsP MQW Lasers ”
しかし,この従来手法の最大の難点は,特殊な結晶材料組成と歪量の組み合わせを利用して,はじめて有効な価電子帯のエネルギーバンド構造が実現されることである。
図3(b)に,InGaAlAsの4元系混晶で補償歪構造を作製したときの,エネルギーバンド図を模式的に示す。点線で示した格子整合時のバンドを基準にして,厚みと混晶組成とから決まる歪量を制御し,図の矢印方向にバンド端を所定量シフトさせ,重い正孔と軽い正孔のエネルギー分離量をも厳密に計算することで,はじめて軽い正孔の準位を,量子井戸層と障壁層とでほぼ一致させた
MQW構造が得られる。
従って,4元系混晶材料の弾性定数や変形ポテンシャルなどの物性値が精密に知られている必要がある上,厳密な混晶組成の制御が必要なため,量産困難で,低コスト化の要求に合わない。
【0010】
(2)電界吸収光変調器
電界吸収光変調器では,出力光のオン(通過)時とオフ(吸収遮断)時のパワー比率である,消光比として,通常15−20dBが要求される。
一方,40Gbit/sの高速変調の要請から,素子のCR時定数をできるだけ小さくしたいため,素子長を150μm程度にまで短縮する必要がある。短距離の通過で,入射光を完全に吸収するには,変調器の活性層中のMQWの量子井戸数を10層まで増やすことが有効である。
【非特許文献6】和田 浩,川西 秀和;OPTRONICS No.12,135−140,(2001)
「40Gb/s光通信用EA変調器集積型半導体レーザ」
このとき,量子井戸数を増やすことで,MQW領域からの正孔の高速掃き出しが一層重要になる。
より重要な要請として,変調器からの出力光パルスの時間的波長チャーピングをできるだけ小さく抑え,より望ましくは,波長が高エネルギー側に変化する,いわゆるブルーチャープ化が望ましい。αパラメータでいえば,αの大きさをできるだけ小さくし,また,わずかにα<0とすることに相当する。波長分散のある通常ファイバー中のブルーチャープ光パルスは,伝播に伴って次第にパルス幅が狭まり,前後の光パルスの裾部分の重なりが防止でき,符号誤り率低減に好都合なためである。
また,40Gもの高速電気パルスを発生する駆動回路からの要請としては,印加電圧パルス振幅を消光比の許す限り小さくしたい。それには,αパラメータが正から負に替わる,いわゆるα反転電圧V(α=0)を,できるだけゼロ近づけるような設計が重要になる。
以上のように,電界吸収型光変調器では,dc逆バイアス電圧(プリバイアス)も,40Gの高速逆バイアスパルス振幅も,望ましい消光比とαパラメータが得られることを最優先に設定される。そのため,光検出器のように,正孔の掃き出しに十分な,強い逆バイアス電界を印加することは許されない。
従来,この問題の解決には,正孔を閉じ込める価電子帯の障壁層閉じ込めポテンシャル深さを浅くしたり,
【特許文献4】特開2000−101199号公報(段落0028,図8)
量子井戸を2段階構造にして正孔の掃き出す側の実効井戸深さを浅くする
【特許文献5】特開平7−193323号公報(段落0011,図1)
などの手法が提案されている。これらは井戸数が7層程度では実際に有効で,正孔のパイルアップ防止により,過剰なαパラメータの増大も無くなることが確認されている。
【非特許文献7】竹内 博昭,八坂 洋;NTT R&D,49(8),450−457,(2000)
「低チャープ10Gbit/s用電界吸収型変調器集積化DFBレーザ」
しかし,これらの方法には,次の2つ問題がある。
1)量子井戸層の数を10−15層に増やした構造で強い入射光により一度に大量の正孔が発生すると,正孔のパイルアップ現象が避けられない。
2)量子井戸の形状を変えて正孔のトンネル脱出を極めて高速にすると,光吸収遷移時の
正孔のエネルギースペクトル状態が拡がってしまい,外部光の吸収強度が弱くなり,
吸収飽和も起こしやすくなる。
【0011】
このことから,先のMQWレーザの場合と同様,量子井戸層の閉じ込めポテンシャルはできるだけ変えず,量子井戸本来の鋭く強い光吸収特性を保ったまま,正孔を高速に掃き出す方法が望ましい。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の解決手段を,上記例(1)の半導体レーザと,上記例(2)の電界吸収変調器について,
以下に述べる。発明の基本的な考え方は,どちらの場合も同様である。
【0013】
(1)半導体レーザの場合
本発明の解決手段は,量子井戸層に垂直方向の正孔の高速移動方法として,障壁層を透過する
トンネル効果を利用する。
ただし,光学遷移での発光スペクトルなどの特性は,元の量子井戸と同様の品質に保ちながら,隣接量子井戸間で正孔を高速にトンネル移動させる必要がある。この目的のため,本発明では,隣接量子井戸を隔てる障壁層の内部に埋め込まれた,量子ドットを経由して,正孔をトンネル移動させる。
ただし,図4(a)に示したように,通常のtype−I型の量子ドットでは,量子ドット自身のエネルギー準位間隔がたまたま,MQWからのレーザ光を吸収してしまう恐れがある。そこで,本発明の量子ドットは,図4(b)に示した,一種のtype−II型構造となるように,結晶材料組成を選択する。
【0014】
type−IIの意味は,量子ドットの周囲を取り囲む,量子井戸層や障壁層が,正孔に対しては閉じ込めポテンシャルを形成するが,電子については閉じ込めポテンシャルを形成しない,ということである。図3の例では,量子ドットの伝導帯が,障壁層の伝導帯よりも高い場合を図示しているが,障壁層上の電子の拡散を妨げないほうが,電子の高速・均一注入には有利であるから,両者の伝導帯がほぼ一致した,type−II量子ドット材料が最も望ましい。
【0015】
図1は,本発明の,正孔2のみをトンネル通過させるtype−II型量子ドット30を障壁層43に埋め込んだMQWレーザの,キャリヤ注入時のエネルギーバンド構造模式図である。
正孔のトンネル確率を十分大きくするためには,障壁層に埋め込まれた量子ドット30中の正孔のエネルギー準位が,両側の量子井戸44のフェルミ準位とほぼ一致するように,量子ドットの材料組成と大きさ・厚みを調節する必要がある。歪の大きい材料で自発的に量子ドット構造が生成する,いわゆるSKモード成長法で成長した量子ドットは,結晶内部の3次元歪分布や,3元ないし4元の混晶組成の不均一分布により,正確な電子と正孔のエネルギー準位を計算で求めることは困難である。
幸い,正孔の有効質量は大きいため,直径10nm以上の大きめのサイズの量子ドットにすれば,量子ドットの正孔エネルギー準位間隔は室温でのkT ̄26meV程度に十分小さくなる。ここで,kはボルツマン定数,Tは,絶対温度である。
そのため,35−40meV前後のLOフォノン散乱のアシストを含めたトンネル過程の寄与などを考慮すると,量子井戸と量子ドットでの正孔エネルギー準位同士の不一致は,実用上ほとんど問題ない。
障壁層中への量子ドットの埋め込み成長は,いわゆる量子ドットレーザの活性層の成長とほぼ同様に行える。MOCVD法やMBE法のどちらでも,SKモード法による均一な大きさと形状の量子ドットの成長条件と,障壁層による平坦な埋め込み成長条件は,十分研究されている。
通常のSKモード法で成長可能な量子ドット密度〜1011cm−2であれば,量子ドットの形状が直径20nm程度のマウンド状の場合,MQWレーザ動作に十分な数kA/cm2程度の電流密度のトンネル電流を〜0.5psec以内で流すことが可能である。
【非特許文献8】
H.Kroemer and H.Okamoto;Jpn.J.of Appl.Phys.25(8),970−974,(Aug1984) ”Some Design Consideration for Multi−Quantum−Well Lasers”
以下に,結晶成長方法を簡単に示す。基板上に,バッファ層,クラッド層,光導波SCH層を成長し,第一の量子井戸層の成長後,まずSKモード成長法で,量子ドットを形成する。
最初の量子ドット層の成長では,ほぼ等間隔であるがランダムな配置を取る。こののち,障壁層で量子ドットをほぼ平坦に埋め込み,その上に次の量子井戸層を成長する,という操作を繰り返す。正孔が1psec以下の超高速でトンネル移動できるためには,量子ドットと,上側量子井戸層との間に挟まる障壁層の厚さは,ΔEvの小さな低い障壁層でも,高々0.5nm以下でなければならない。
【非特許文献9】
S.L.Chuang and N.Holonyak,Jr.;Appl.Phys.Lett.,80(7),1270−1272,(Feb2002) ” Eficient quantum well to quantum dot tunneling:Analytical solutions ”
量子ドットと下側の量子井戸層との間には,高々2原子層分の,いわゆる濡れ層しか存在せず,
濡れ層の障壁層ポテンシャルは低いので,十分高速にトンネルできる。障壁層に埋め込まれた量子ドットの頂上の部分が完全に埋め込まれないで,障壁層からわずかに出ていて,次に成長した量子井戸層と直接接触している場合には,正確にはトンネル移動とは呼べないが,正孔を高速移動させる目的には何も問題はない。
量子ドットレーザでは,下地に埋め込まれた量子ドットの歪場が,その上に成長する量子ドットに影響して,垂直方向に自然整列した形で並ぶ現象が良く知られている。もし,MQW層を量子細線が縦に貫通したような構造ができた場合には,細線部分でのみ,縦方向に高速な正孔輸送が起きるが,量子井戸との貫通部から離れた辺縁部に正孔が均一に行き渡るのに時間がかかる心配がある。幸い今の場合には,量子ドットの上に,数nm−10nmの厚さの量子井戸層がはさまれた上に,次の量子ドットが成長することになる。歪場の影響を取り入れた成長モデルでは,せん亜鉛鉱結晶の
(001)面方位基板上に成長した場合の弾性定数の異方性から,下地の量子ドットの真上を避けた形の配置になりやすいことが,計算から示されている。
【非特許文献10】
V.A.Shchukin +3;Phys.Rev.B,57(19),12262−12274,(May1998) ” Vertical correlations and anticorrelations in multisheet arrays of two−dimensional islands ”
図5に,量子ドットが垂直配列した場合(a)と,互いに避けあう配置に配列した場合(b)でのトンネル移動する正孔のMQW構造中の流れを模式的に示した。
図5(a)では,量子ドットから流入する正孔と,次の量子ドットに吸い込まれる正孔とが衝突してしまうが,図5(b)の配置では,MQW層全体にわたりスムースに,かつ均一に正孔が輸送されやすく,より好都合であることがわかる。
以上の本発明の方法では,障壁層中に埋め込まれた量子ドットと,上下の量子井戸層との間の障壁層厚みがたかだか2分子層程度でありさえすれば,量子ドットの面内密度や,互いの面内配列,組成や大きさ等は,それほど厳密な制御を必要としない。
そのため,高歩留まりで,低コスト化できる。
【0016】
(2)電界吸収光変調器の場合
この例における本発明の解決手段も,基本構成は,(1)の半導体レーザと同様である。
本発明では,光吸収をおこす量子井戸を隔てている障壁層の内部に,正孔のみを閉じ込めるtype−II型の量子ドットを埋みこみ成長する。量子ドット内の正孔エネルギー準位が,隣接量子井戸の正孔エネルギー準位の中央近くに位置するように,量子ドットの混晶組成と大きさを選択する。光励起された正孔を,量子ドットを経由したトンネル移動と,量子井戸層内のドリフト拡散移動とによって,活性層領域を通過して電極に到達するまで高速に移動させることが可能である。
図6は,本発明の電界吸収光変調器のバンド構造の模式図である。量子井戸中に生起した正孔が,障壁層中の量子ドットのエネルギー準位を透過して,隣接量子井戸層に高速移動できる。正孔掃き出し時間の短縮により,強い入射光でも正孔のパイルアップ現象の発生を防止できる。結果として,変調器からの出力光強度も5dB程度増加でき,また,自由正孔による過剰なαパラメータ増加も抑制できて,常に負ないしゼロ近傍に保つことができる。このため,従来40Gbit/sで2km程度の伝送距離に制限されていたのが,10km程度まで長距離伝送が可能となる。
量子ドットを埋め込み成長する方法は,(1)のレーザの例と同様である。
基板上に,クラッド層,光導波SCH層,量子井戸層を順次成長した後,SKモード成長法で,量子ドットを形成したのち,障壁層で平坦に埋め込み,その上に次の井戸層を成長する,という操作を繰り返す。図5で説明したように,量子ドット部分で入射レーザ光が吸収されるのを防止するために,量子ドットは,正孔のみ閉じ込め,電子は閉じ込めない,type−II型量子ドットとする。
【0017】
図7は,本発明の正孔掃き出し方法が,従来の,量子井戸構造の閉じ込めポテンシャルを変更する方法に比べて,優れていることを説明するための模式図である。(a)は,多重量子井戸層の断面の一部を示す。SKモードで形成される量子ドットの面内密度は,高々〜1011cm−2であるから,量子ドットが存在しない領域の平均サイズ〜30nm角は,エキシトンサイズ〜10nmよりも十分大きい。従って,(a)図の(1)点線で示す断面部分では,本来の量子井戸の全く同じ環境で,エキシトンが発光再結合できる。一方,(2)の点線で示す断面部分では,正孔は,量子ドットの影響を受けて,発光特性が変化する。(b)図に示したように,量子ドットが存在する量子井戸中の「穴」の近傍(2)では,正孔の波動関数は量子ドット内部に広がって薄まっているために,量子井戸層内のみに閉じ込められた伝導帯電子の波動関数との重なり積分は,本来の量子井戸の部分(1)での光学遷移確率中の重なり積分に比べ,十分小さくなる。また,量子ドットの近傍では,正孔の高速トンネルにより,正孔のエネルギー準位が,ブロードニングを引き起こし,光学吸収が弱く,ぼやけたスペクトル形状になってしまう。以上の吸収・発光強度の波長依存性を,(1)と(2)の場所について示したのが,(c)図である。以上より,量子ドット近傍での光吸収の寄与は,ほとんど無視でき,量子ドットの存在によって量子井戸の全体としての光吸収スペクトルは,量子ドットの存在によって,ほとんど影響を受けない。
以上の本発明の特徴に対して,従来の,障壁層の閉じ込めポテンシャルを2段にして正孔の掃き出しを容易にした例などでは,MQW結晶全体での光吸収スペクトルが,ポテンシャルの変化による影響を全面的に受ける。そのため,本来の量子井戸の光吸収特性に比べて,弱く,ぼやけてしまう点が避けられない。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に,本発明の内容を実施例にのっとって,具体的に説明する。
<本発明の第一の実施例>
波長1.3μmで発振する,直接変調型多重量子井戸レーザへの,本発明の適用例を,図8に示した。N型InP基板上に,InGaAlAs系4元混晶材料で,N型バッファ層,N型クラッド層,N型光閉じ込め層,本発明の障壁層InGaAlAs層中に,Type−II型正孔閉じ込め量子井ドットを埋め込み成長したアンドープMQW層,P型光閉じ込め層まで成長する。
一旦,結晶を成長炉から取り出し,フォトレジストのレーザ干渉露光プロセスで,DFBレーザ用の回折格子を結晶表面にエッチングで形成する。その後,成長炉に入れて,順次,P型光閉じ込め層,P型クラッド層,P型オーミック層を成長する。メサストライプ構造にドライエッチ後,高抵抗FeドープInP層で全体を埋め込み成長して,10Gbit/sで直接変調可能なように,容量を低減する。
P型電極パッド47の面積も十分小さくする。
正孔を閉じ込める量子ドット材料には,GaSbを主成分とし,わずかに,Al,Inを添加してバンド構造を調節した。量子ドットの面内密度は,約〜1011cm−2であった。いずれも,マウンド状の形状で,障壁層によって,平坦に埋め込むことができた。MQW活性層中の従来の量子井戸層の層数Nwが7−8層であったのに対して,本実施例では,層数を15層から20層と,2倍に増加させた。井戸数の増加により,レーザ発振時の擬フェルミ準位を従来よりも低くできるので,障壁層へのキャリヤの熱的脱出を最小に抑えることができる。特性温度T0は,150Kにまで大きくできた。また,レーザの最大発振温度は,160℃に達した。
これらの優れた温度特性は,電子,正孔のどちらについても,擬フェルミ面から障壁層までの高さΔEに有効質量m*を掛けた量が十分大きくできたことにより,量子井戸の基底準位から熱励起によって障壁層に飛び出してしまうキャリヤが減少できたことによる。本発明では,障壁層中の量子ドットを経由して,正孔が高速に掃き出されるため,80℃以上の高温動作時にも,10Gbit/sでの高速変調が安定に得られる。また,波長チャーピングも,従来よりも,80℃の高温動作において,約1/2に低減できた。
【0019】
図9,図10に,量子ドットを障壁層内に埋め込んだ本発明の構造と,量子ドットなしの従来構造とで,量子井戸数を20層まで増やした場合の,緩和振動周波数frと,αパラメータの比較をした結果を示した。図9の白四角は,量子ドットを入れない障壁層での,25℃での緩和周波数曲線で,量子井戸数Nw〜7層以上では,かえってfrが低下している。これは,量子井戸への正孔の均一分配するには,7層が限界であることを示す。黒四角で示した,80℃のデータは,同じ傾向だが,数GHz小さくなっている。これは,キャリヤの熱励起により,活性層からキャリヤが熱脱出してしまうことに起因する。一方,本発明のtype−II型量子ドットを障壁層に埋め込んだ素子では,25℃の白丸,80℃の黒丸とも,量子井戸数とともにfrは増加しつづけ,従来に比較して,
1.5倍近いfrを実現できた。
【0020】
図10は,同じく,25℃の白四角と80℃の黒四角で示される,従来のMQW活性層素子では,
チャーピングの目安であるαパラメータは,井戸数7ぐらいが最小で,それより多くても少なくても,急激に増加する傾向がある。一方,本発明の25℃の白丸,80℃の黒丸のデータは,約15層のときに最小のαをとり,いずれも従来の7割程度に減少している。
【0021】
これらの結果は,井戸数15層付近で,本発明のレーザは,80℃においても,15GHz以上で動作し,そのときの波長チャーピングは,MQW構造としては限界近くまで低減されることが示された。
<本発明の第二の実施例>
光通信用電界吸収光変調器への,本発明の応用例を,図11に示した。N型InP基板上に,
InGaAlAs系4元混晶のN型クラッド層,N型光導波層,量子ドットを埋め込んだMQW光吸収層,P型光導波層,P型クラッド層,P型オーミック層を順次成長する。CR時定数増加をさげる必要のため,光変調器部分の素子長は,100μm前後まで短くし,電極パッド面積も小さくして,低容量化をはかった。光入射側と出射側の両端面における,光ファイバーとの接続損失を低減するため,図の点線で示したような,ビーム拡大用光導波路を,InGaAsP系材料で成長する。
そののち,ドライエッチングで,ストライプ状光導波路を形成し,BH(埋め込みヘテロ)構造のレーザと同様,高抵抗InP層で全体を埋め込む。両端面は,誘電体多層膜でAR(Anti−Refrection:無反射)コーティングし,戻り光を低減する。40Gでの変調電気パルスの反射係数を低減するような,高周波用伝送回路を用いた。以上,外見的には,従来の電界吸収型光変調器とほとんど同様である。しかし,従来の,40Gbit/sの高速変調に対応したMQW素子構造に比較して,本発明の量子ドット埋め込み活性層を有するMQWでは,正孔のパイルアップが,30mWの入射光まで抑制でき,変調器からの光出力は,2mWまで増加することができた。これにより,1.3μm単一モードファイバーで,40Gbit/sのNRZ光信号を,5km以上伝送できた。
<本発明の第三の実施例>
本発明の,電界吸収光変調器を同一基板上に集積した,MQW−DFB集積レーザへの適用例を,
図12(a)の全体図,(b)の断面図で模式的に示した。
N型InP基板上に,電界吸収光変調器部分,MQW−DFBレーザ部分を別々に成長し,両者を電気的に分離しながら光接続する,バットジョイント型光導波路を順次成長した後,ストライプ状光導波路以外の部分をドレイエッチ除去して,全体を高抵抗層で埋め込み成長する。
電界光変調器の出力端面からの反射戻り光を防止するために,端面側導波路の一部をエッチング除去した,端面透明化構造とする。63は,変調器の光導波路がない,窓領域部分である。
これらの基本的構造は,従来の変調器集積化光源と同様である。
本発明の特長は,量子井戸数を従来の約2倍の15層に増加させて微分利得を極めて大きくすることで,αパラメータが小さくなり,本質的にチャーピングが起こりにくいレーザ構造となっている点にある。そのため,戻り光が,DFBレーザのMQW層で吸収され,キャリヤ密度が変調されても,波長チャーピング変動量を小さく抑制できる。
このように,本発明の,量子ドットを経由したMQW活性層への高速均一な正孔注入は,
直接変調動作のみならず,電界吸収変調器との集積光源用の直流動作レーザにも有用であった。
戻り光耐性が向上した結果,電界吸収光変調器の出力側端面に設けた誘電体多層膜によるAR(Anti−Refrection)無反射コーティング膜は,反射率を十分低下させるために膜の総数を増やすことが不要となり,製造コストの低減にも寄与できた。
以上の,本発明の素子を実装した,光伝送モジュールの概念図を図13,図14に示した。
【0022】
図13は,上記の本発明の第一の実施例に示した直接変調半導体レーザを,冷却モジュールなしで実装したものである。
図13は,上記本発明の第二の実施例に示した,電界吸収光変調器を実装したモジュールである。
40Gbit/sでの高速変調を可能とするために,電気的な伝送路に十分注意する必要がある。
電界吸収変調器を集積化した,DFBレーザ光源は,図13と同様の外形になる。レーザは,直流バイアス,変調器は,直流プリバイアス(逆バイアス)量を,負のチャーピングが得られるように,調節する。
【0023】
【発明の効果】
本発明によれば,多重量子井戸層の面に垂直な方向に,障壁層中に埋め込んだ量子ドットを経由して,トンネル効果を利用して高速に大電流を流すことが可能である。このとき,量子ドットは,単に隣接量子井戸間の電流通路として働くだけなので,そのマウンド型形状や面内分布,混晶組成を厳密に制御する必要がなく,製造歩留まりも高い。そのため,今後の光通信の普及にかかせない,低コスト素子の量産に役立つ。
以上では, III−V化合物材料の中でも,InP基板上のInGaAsPやInGaAlAsなど,光ファイバ通信素子応用で物性のよくしられた材料系からなる,多重量子井戸構造を例に議論してきた。
しかし,本発明の効果は,材料の組み合わせに限定されるものではない。
可視赤色半導体レーザに用いられるGaAs基板上のGaAsPやInGaAlPとその上のSKモード成長量子ドットや,青−紫外発光半導体レーザに用いられる,GaN基板上のAlGaInNと,その上のSKモード成長量子ドット,さらに,II−VI族化合物半導体などの組み合わせにおいても,全く同様に適用可能である。
また,SiGeC系の混晶半導体からなる光受光素子などのMQW構造においても,SKモード成長量子ドットの成長が可能であることが知られており,本発明の,量子ドットを経由した高速トンネル移動の考え方を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のMQWレーザ活性層へのキャリヤ注入時のバンド構造模式図。
【図2】従来のMQWレーザ活性層での正孔の注入の問題を示すバンド構造模式図。
【図3】(a);先行発明の,補償歪構造MQWの注入時エネルギーバンド構造模式図。
(b);補償歪構造で軽い正孔のエネルギーバンドを平坦化する原理の説明図。
【図4】(a);type−I型量子ドット埋め込みで,光吸収を起こす説明図。
(b);type−II型量子ドット埋め込みで,光吸収が避けられることの説明図。
【図5】(a);MQW構造中の量子ドットが,垂直配列したときの電流分布図。
(b);MQW構造中の量子ドットが,互い違い配置したときの電流分布図。
【図6】本発明の電界吸収光変調器のMQW活性層のエネルギーバンド構造模式図。
【図7】本発明のMQWレーザにおいて,埋め込み量子ドット近傍の量子井戸層と,量子ドットがない量子井戸層の光吸収スペクトルの違いの説明図。
【図8】本発明の一実施例を説明するための図。
【図9】本発明構造と従来構造の,高温での緩和振動周波数の比較図。
【図10】本発明構造と従来構造の,高温でのαパラメータの比較図。
【図11】本発明の電界吸収変調器の全体図。
【図12】(a);本発明のEA変調器集積DFBレーザの全体図。
(b);本発明のEA変調器集積DFBレーザの断面構造図。
【図13】本発明のMQWレーザを含む伝送モジュールの模式図。
【図14】本発明のEA変調器を含む伝送モジュールの模式図。
【符号の簡単な説明】
1 電子 ,10 伝導帯のエネルギーバンド,11 電子の基底準位 ,12 無歪での伝導帯エネルギーバンド,13 歪補償の伝導帯エネルギーバンド,
2 正孔 ,20 価電子帯のエネルギーバンド,21 量子井戸正孔の基底準位
22 重い正孔の基底準位,23軽い正孔(lh)のバンド,24重い正孔(hh)のバンド,
25 無歪(格子整合)価電子帯エネルギーバンド,
30 埋め込み量子ドット,31 量子ドット正孔の準位,32 通常のtype−I型量子ドット,33 本発明のtype−II型量子ドット,34 濡れ層,
41 P型クラッド層,42 N型クラッド層,43 障壁層,44 量子井戸層,
45 N型基板,46 N型電極,47 P型電極,48 高抵抗埋め込み層
45 圧縮歪量子井戸層,46 引っ張り歪障壁層,
51 熱励起,52 拡散,53 再捕獲,
6 レーザ光,61 入射光,62 エキシトンサイズ,63 窓領域,64 ARコート,
65 HRコート
71 出力光ファイバ,72 入力光ファイバ,73 光導波路,74 入力側光導波路
75 出力側光導波路,
8 高速駆動回路,80 収納ケース,81 旬号入力端子,82 電源端子,
83 量子ドット埋め込みMQWレーザ,84 量子ドット埋め込み電界吸収光導波路
85 伝送線路付きサブマウント,86 光モニター検出器
91 量子ドット埋め込みMQW半導体レーザ,92 量子ドット埋め込みMQW電界吸収光変調器。
【発明の属する技術分野】
本発明は,高温での高速動作が可能で,電流変調時のレーザ波長の時間的変動(以下,チャーピングと呼ぶ)が小さい,多重量子井戸構造活性層を有する直接電流変調型半導体レーザ装置,及び光伝送モジュールに関するものである。
また,本願発明は,高光入力に耐えられ,出力光レベルが大きく,高速変調が可能で,電圧変調動作時の出力光波長の時間的変動(チャーピング)がゼロまたは負にできるような,多重量子井戸構造光吸収層を有する電界吸収型光変調器,及び光伝送モジュールに関する。
また,本願発明は,電界吸収型光変調器と集積化した,直流動作半導体レーザ光源において,
変調器の光出力端からの反射による戻り光によって,波長の時間変動(チャーピング)を起こしにくい,半導体レーザ装置,および光伝送モジュールに関する。
【0002】
【従来の技術】
現在光ファイバー通信に用いられている多くの光半導体装置では,多重量子井戸(Multi−Quantum−Well,以下MQWと略す)構造が活性層に用いられている。これは,量子井戸層内に閉じ込められた2次元電子・2次元正孔に特有の階段状の状態密度から生じる,鋭い発光・吸収スペクトルの特徴を利用するためである。
【0003】
しかし,MQW構造に共通する欠点も存在する。それは,成長方向に沿った方向,すなわち,量子井戸層に垂直な方向に電流を流す場合,キャリヤは多数の障壁層ポテンシャルを次々と乗り越えて前進しなければならないために,MQW層全体を通過するのに時間遅れを生じる点と,結果として,各量子井戸内に分布するキャリヤ密度に,時間的,場所的な分布密度差を生じる点である。
【0004】
以下では,(1)高温で高速直接変調可能な半導体レーザ と,
(2)高速・高光出力で高速・低チャープ動作の電界吸収光変調器と,
(3)電界吸収光変調器とDFB型レーザを集積化した光源,
の3種類の光半導体装置の例について,上記MQW層に由来する問題点を説明する。
【0005】
(1)高温動作高速直接変調半導体レーザ
今後,需要の伸びが最も期待されるメトロ系やビル間等の比較的近距離をつなぐ高速光通信網
応用では,10Gbit/s以上まで電流注入で直接変調できる,安価な半導体レーザへの期待が大きい。2002年には,10Gイーサネット(登録商標)が標準化され,シングルモードファイバを用いた波長1.31μmレーザでは10km,波長1.55μmレーザでは40kmの伝送距離規格が示された。
これらの用途には,面発光型半導体レーザと,端面出射型半導体レーザの両方が利用されうるが,
本発明は,後者の構造で,かつ,MQW活性層を有し,高速変調時の動的な単一縦モード発振を維持するため,回折格子を結晶中に作りつけた,分布帰還型(Distributed Feedback,以下略してDFBと呼ぶ)レーザを主な対象とする。DFB回折格子をもたない,ただのファブリペロー型共振器構造のMQW活性層レーザは,マルチモードファイバでの10Gbit/s,500mの短距離通信用に今後期待され,本発明は,この種のレーザにも同様に適用できる。
図2は,上記半導体レーザのMQW部分のエネルギーバンドダイヤグラム模式図である。半導体レーザを直接電流変調する場合,活性領域をはさむPN接合に順方向バイアスを印加して,活性層の両側のN型クラッド層42から電子1を,P型クラッド層41から正孔2を,それぞれ同時に注入する。この時,有効質量が大きく移動度の小さい正孔2は,有効質量が小さく移動度の大きい電子1に比較して,MQW層中の各障壁層43を通過する時間が約一桁以上多くかかる。図2には,電子が全ての量子井戸層44にほぼ均一に注入できたとき,正孔はまだ多くの量子井戸への注入が完了しておらず,しかも各量子井戸層内の正孔密度は,全体に不均一な分布である状況を,模式的に表現している。このキャリヤ注入時の遅れ時間と,不均一注入分布の問題は,MQWレーザ素子の変調動特性のみならず,定常動作時の静特性をも劣化させている。
一方,10Gbit/s以上の高速で動作する光伝送モジュールでは,低コスト化のため,ペルチエ素子などの冷却を用いずに80℃以上の高温で動作できるレーザの要求が高まっている。
【0006】
半導体レーザを高温動作可能にするには,
1)量子井戸層からのキャリヤの熱励起飛び出しによる損失を抑えるために
障壁層閉じ込めポテンシャルを高くすること,
2) MQW層の層数を,通常の7層前後から,15から20層に増大することで,
発振しきい値での注入キャリヤ密度を下げ,フェルミ準位を低く保つこと
の2点が重要である。
【非特許文献1】大橋 弘美;OPTRONICS No.1,79−83,(1995)
「高温動作用多重量子井戸レーザ」
この高温対応設計により,最大180℃程度までのレーザ発振が実証されているが,量子井戸数の増加により,多数の高い障壁層を乗り越えなければならないため,片側からのキャリヤ注入で全ての量子井戸層にすばやく均一に注入を完了することは一層困難となる。
【0007】
(2)高速・高光出力電界吸収型光変調器
レーザの直接変調が困難な40Gbit/sでは,波長安定化したDFBレーザからの入射光を電界吸収光変調器で変調する方式が用いられる。マッハツェンダー型光変調器に比べると実装面積が小さく,比較的低コストなため,メトロ系や,現在インターネット接続の高速化により需要が急速に伸びている,コア・ルータ間の2km前後の距離での高速データ伝送に有望と考えられている。電界吸収光変調器では,活性領域をはさむPN接合に,一定のdcバイアス電圧(プリバイアス)と,40Gの逆バイアスパルスを印加して,外部入射半導体レーザ光を吸収させ,光出力をオフする。この時量子井戸内に発生した光励起キャリヤは,40Gbit/sに対応する一周期25psecの間に,MQW層を通過して電極にまで高速に掃き出す必要がある。ここでも,有効質量が大きく移動度の小さい正孔が,電子に比べて十分高速に掃き出せないことが,素子の動特性,静特性の両方を律速している。
特に,伝送距離の長距離化には,
1)光変調器からの出力光レベルの向上 と,
2)出力パルスの波長チャーピング低減 の
両方が重要であるが,量子井戸からの正孔の掃き出しが遅いことは,どちらにも悪影響を及ぼす。
光変調器に,より強い光を入射すると,量子井戸内に一度に大量の光励起正孔が発生し,それらが比較的ゆっくりと井戸から脱出して移動するため,逆バイアス電界をしゃへいして一層掃き出しが遅くなる,いわゆるパイルアップ現象を生じる。さらに,自由キャリヤである正孔が活性層内に増えると,プラズマ効果による屈折率の増大をまねき,出力光の波長の動的変化(チャーピング)の目安となるαパラメータを過剰に増大させてしまう。
【非特許文献2】
Y.Miyazaki+4;IEEE J.of Quantum Electron.,38(8),1075−1080,(Aug2002) ”Extremely Small−Chirp Electroabsorption−Modulator Integrated Distributed Feedback Laser Diode With a Shallow Quantum−Well Absorption Layer ”
(3)変調器集積化DFBレーザ光源
MQW活性層DFBレーザと,電界変調光変調器を同一基板結晶上に結晶成長した,集積化光源は,実装上の簡便性とコンパクト性から,10Gbit/s以上での波長間隔の大きなCWDM波長多重伝送用に期待されている。このとき,変調器出力端からの反射戻り光の影響で,DFBレーザのMQW活性層中のキャリヤが変調を受けて,波長チャーピングを生じる問題がある。現在,多層誘電体膜による端面反射率の低減と,端面透明化構造を併用した変調器で一応の対策は完了しているが,集積化の上で最大の難点の一つとされている。
【非特許文献3】青木雅博;レーザー研究 30(1),22−27,(2000年1月)
「光変調器集積レーザー」
DFBレーザの戻り光によるチャーピング発生を抑制できる,活性層構造とすることが,最も根本的な対策であり,反射膜の簡便化で製造コスト低減も可能となる。
それには,レーザのαパラメータをゼロに近づけるよう,微分利得が大きいことが望ましい。
微分利得の増大には,量子井戸数を従来の7−8層から,15層―20層に増加することが望ましいことが理論的に知られている。
【非特許文献4】魚見 和久他5;電子情報通信学会論文誌Vol.J74−C−I,No.11,406−413,(1991)
「超高速多重量子井戸方分布帰還型半導体レーザ」
この場合は,レーザはDC動作なので,量子井戸数増加に伴う不均一注入の解決が重要である。
以上の3例で説明してきたごとく,MQW構造を活性層に用いた素子の一層の高性能化のために,
多数の量子井戸層に,高速・均一にキャリヤを注入したり,高速にキャリヤを掃き出すことのできるMQW構造が強く望まれている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は,MQW構造を活性層に有する光素子において,量子井戸層に垂直な方向のキャリヤ移動を高速化することにより,従来の性能限界を超えた,優れた光半導体装置を提供することを目的とする。
最初に(1)高温・高速 直接変調半導体レーザの例で,
次に(2)高速・高光出力 電界吸収光変調器の例で,
従来提案されたいくつかの方法をあげて,その問題点を説明する。
【0009】
(1)直接変調半導体レーザ
半導体レーザでは,高温動作のみならず,高速変調帯域を延ばす目的にも,MQW層の量子井戸数の増加が望ましい。変調帯域の目安となるレーザの緩和振動周波数frは,微分利得の平方根に比例するが,既に説明したごとく,微分利得増加には,量子井戸数の増加が有効である。
従来,実施されなかった理由は,有効質量の大きい正孔の高速・均一分配が,井戸数増加につれて一層困難になり,不均一に注入された部分は,レーザ発振に寄与せず,むしろ光吸収領域になってしまうためである。
原理的に,隣接する量子井戸間で高速にキャリヤを移動させるには,次の2通りしか方法がない。一つは,量子井戸の基底準位に捕獲された正孔が,熱的励起で再び障壁層上に戻り,障壁層上を
拡散移動して,隣接量子井戸に再捕獲される,という一連の繰り返しによって前進する方法である。先の図2で,価電子帯中に注入された正孔2の拡散の先端部に,熱励起51と,障壁上拡散52,再捕獲53の3つの過程に対応した正孔の動きを,矢印で表現している。この方法で高速化するには,51に対応する量子井戸からの熱的脱出速度も高速化する必要があるため,本発明の目的とする高温・高速動作素子には,不適当である。
もう一つは,隣接量子井戸の基底準位間同士で,中間の障壁層をトンネル効果で高速通過することにより,直接移動させる方法である。このトンネル移動は,温度に敏感でないため高温動作と両立できる。
しかし,
【特許文献1】特開平6−268314号公報(請求項1,図1)
にあるような,単純に量子井戸間の障壁層厚さを薄くする方法,あるいは,
【特許文献2】特開2000−101199号公報(段落0012,図2)にあるような,閉じ込めポテンシャル深さΔEvを小さくする方法では,正孔の波動関数の重なりによって,量子井戸準位がミニバンド化してつながり,ある意味でバルクに近づくことになる。これでは,量子井戸の光学遷移特有の強くて鋭い発光スペクトルや高い微分利得が得られず,レーザの高速特性は改善できない。結局,量子井戸の閉じ込めポテンシャルは変えずに,量子井戸特有の光学遷移特性を保持したままで,隣接量子井戸間で高速にキャリヤのトンネル移動を起こすMQW構造が望ましい。
以上の考え方に最ものっとった先行発明としては,
【特許文献3】特開平7−249828号公報(段落0011,図6)
がある。
圧縮歪を印加したInGaAsPを量子井戸層に,引っ張り歪を印加したInGaAlAsを障壁層に用いることを特徴としている。
このような(+/−)補償歪型MQW構造にすることによって,次の2つのメリットが生じる。
1)平均歪がゼロに近づくために,20層もの量子井戸数を持つ良好なMQW構造の結晶成長が可能となる。
2)歪の影響で,価電子帯の軽い正孔(light hole:lhと略す)と重い正孔(heavy hole:hhと略す)のバンドが分離し,重い正孔バンドでは,
障壁層と量子井戸とで従来同様のポテンシャル閉じ込めによる井戸構造が成り立つが,
少し高エネルギーにある,軽い正孔では,閉じ込め井戸ができず,軽い正孔は障壁層を自由にトンネル透過できる。
図3(a)に,補償歪構造MQWレーザに,キャリヤ注入を行った場合の,模式的なバンド図を示す。
この構造で,レーザ発振は,通常のMQWと全く同様に,電子と重い正孔との量子井戸準位間でおきる。一方,重い正孔準位から熱励起などで高エネルギー側の軽い正孔の準位に上がった正孔は,障壁層のバリヤが存在しないので,MQW全体の軽い正孔準位に高速移動できる。
実際に, InGaAsP(+)井戸層/InAlGaAs(−)障壁層からなる補償歪MQWレーザを試作した結果では,軽い正孔のトンネル移動方法で高速・均一分配が可能となったことにより,量子井戸数を20層まで増やした構造で20Gbit/s動作が確認されている。
【非特許文献5】
Y.Matsui+4; IEEE J.of Quantum Electron.,34(10),1970−1978,(Oct1998) ” Enhanced Modulation Bandwidth for Strain−Compensated InGaAlAs−InGaAsP MQW Lasers ”
しかし,この従来手法の最大の難点は,特殊な結晶材料組成と歪量の組み合わせを利用して,はじめて有効な価電子帯のエネルギーバンド構造が実現されることである。
図3(b)に,InGaAlAsの4元系混晶で補償歪構造を作製したときの,エネルギーバンド図を模式的に示す。点線で示した格子整合時のバンドを基準にして,厚みと混晶組成とから決まる歪量を制御し,図の矢印方向にバンド端を所定量シフトさせ,重い正孔と軽い正孔のエネルギー分離量をも厳密に計算することで,はじめて軽い正孔の準位を,量子井戸層と障壁層とでほぼ一致させた
MQW構造が得られる。
従って,4元系混晶材料の弾性定数や変形ポテンシャルなどの物性値が精密に知られている必要がある上,厳密な混晶組成の制御が必要なため,量産困難で,低コスト化の要求に合わない。
【0010】
(2)電界吸収光変調器
電界吸収光変調器では,出力光のオン(通過)時とオフ(吸収遮断)時のパワー比率である,消光比として,通常15−20dBが要求される。
一方,40Gbit/sの高速変調の要請から,素子のCR時定数をできるだけ小さくしたいため,素子長を150μm程度にまで短縮する必要がある。短距離の通過で,入射光を完全に吸収するには,変調器の活性層中のMQWの量子井戸数を10層まで増やすことが有効である。
【非特許文献6】和田 浩,川西 秀和;OPTRONICS No.12,135−140,(2001)
「40Gb/s光通信用EA変調器集積型半導体レーザ」
このとき,量子井戸数を増やすことで,MQW領域からの正孔の高速掃き出しが一層重要になる。
より重要な要請として,変調器からの出力光パルスの時間的波長チャーピングをできるだけ小さく抑え,より望ましくは,波長が高エネルギー側に変化する,いわゆるブルーチャープ化が望ましい。αパラメータでいえば,αの大きさをできるだけ小さくし,また,わずかにα<0とすることに相当する。波長分散のある通常ファイバー中のブルーチャープ光パルスは,伝播に伴って次第にパルス幅が狭まり,前後の光パルスの裾部分の重なりが防止でき,符号誤り率低減に好都合なためである。
また,40Gもの高速電気パルスを発生する駆動回路からの要請としては,印加電圧パルス振幅を消光比の許す限り小さくしたい。それには,αパラメータが正から負に替わる,いわゆるα反転電圧V(α=0)を,できるだけゼロ近づけるような設計が重要になる。
以上のように,電界吸収型光変調器では,dc逆バイアス電圧(プリバイアス)も,40Gの高速逆バイアスパルス振幅も,望ましい消光比とαパラメータが得られることを最優先に設定される。そのため,光検出器のように,正孔の掃き出しに十分な,強い逆バイアス電界を印加することは許されない。
従来,この問題の解決には,正孔を閉じ込める価電子帯の障壁層閉じ込めポテンシャル深さを浅くしたり,
【特許文献4】特開2000−101199号公報(段落0028,図8)
量子井戸を2段階構造にして正孔の掃き出す側の実効井戸深さを浅くする
【特許文献5】特開平7−193323号公報(段落0011,図1)
などの手法が提案されている。これらは井戸数が7層程度では実際に有効で,正孔のパイルアップ防止により,過剰なαパラメータの増大も無くなることが確認されている。
【非特許文献7】竹内 博昭,八坂 洋;NTT R&D,49(8),450−457,(2000)
「低チャープ10Gbit/s用電界吸収型変調器集積化DFBレーザ」
しかし,これらの方法には,次の2つ問題がある。
1)量子井戸層の数を10−15層に増やした構造で強い入射光により一度に大量の正孔が発生すると,正孔のパイルアップ現象が避けられない。
2)量子井戸の形状を変えて正孔のトンネル脱出を極めて高速にすると,光吸収遷移時の
正孔のエネルギースペクトル状態が拡がってしまい,外部光の吸収強度が弱くなり,
吸収飽和も起こしやすくなる。
【0011】
このことから,先のMQWレーザの場合と同様,量子井戸層の閉じ込めポテンシャルはできるだけ変えず,量子井戸本来の鋭く強い光吸収特性を保ったまま,正孔を高速に掃き出す方法が望ましい。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の解決手段を,上記例(1)の半導体レーザと,上記例(2)の電界吸収変調器について,
以下に述べる。発明の基本的な考え方は,どちらの場合も同様である。
【0013】
(1)半導体レーザの場合
本発明の解決手段は,量子井戸層に垂直方向の正孔の高速移動方法として,障壁層を透過する
トンネル効果を利用する。
ただし,光学遷移での発光スペクトルなどの特性は,元の量子井戸と同様の品質に保ちながら,隣接量子井戸間で正孔を高速にトンネル移動させる必要がある。この目的のため,本発明では,隣接量子井戸を隔てる障壁層の内部に埋め込まれた,量子ドットを経由して,正孔をトンネル移動させる。
ただし,図4(a)に示したように,通常のtype−I型の量子ドットでは,量子ドット自身のエネルギー準位間隔がたまたま,MQWからのレーザ光を吸収してしまう恐れがある。そこで,本発明の量子ドットは,図4(b)に示した,一種のtype−II型構造となるように,結晶材料組成を選択する。
【0014】
type−IIの意味は,量子ドットの周囲を取り囲む,量子井戸層や障壁層が,正孔に対しては閉じ込めポテンシャルを形成するが,電子については閉じ込めポテンシャルを形成しない,ということである。図3の例では,量子ドットの伝導帯が,障壁層の伝導帯よりも高い場合を図示しているが,障壁層上の電子の拡散を妨げないほうが,電子の高速・均一注入には有利であるから,両者の伝導帯がほぼ一致した,type−II量子ドット材料が最も望ましい。
【0015】
図1は,本発明の,正孔2のみをトンネル通過させるtype−II型量子ドット30を障壁層43に埋め込んだMQWレーザの,キャリヤ注入時のエネルギーバンド構造模式図である。
正孔のトンネル確率を十分大きくするためには,障壁層に埋め込まれた量子ドット30中の正孔のエネルギー準位が,両側の量子井戸44のフェルミ準位とほぼ一致するように,量子ドットの材料組成と大きさ・厚みを調節する必要がある。歪の大きい材料で自発的に量子ドット構造が生成する,いわゆるSKモード成長法で成長した量子ドットは,結晶内部の3次元歪分布や,3元ないし4元の混晶組成の不均一分布により,正確な電子と正孔のエネルギー準位を計算で求めることは困難である。
幸い,正孔の有効質量は大きいため,直径10nm以上の大きめのサイズの量子ドットにすれば,量子ドットの正孔エネルギー準位間隔は室温でのkT ̄26meV程度に十分小さくなる。ここで,kはボルツマン定数,Tは,絶対温度である。
そのため,35−40meV前後のLOフォノン散乱のアシストを含めたトンネル過程の寄与などを考慮すると,量子井戸と量子ドットでの正孔エネルギー準位同士の不一致は,実用上ほとんど問題ない。
障壁層中への量子ドットの埋め込み成長は,いわゆる量子ドットレーザの活性層の成長とほぼ同様に行える。MOCVD法やMBE法のどちらでも,SKモード法による均一な大きさと形状の量子ドットの成長条件と,障壁層による平坦な埋め込み成長条件は,十分研究されている。
通常のSKモード法で成長可能な量子ドット密度〜1011cm−2であれば,量子ドットの形状が直径20nm程度のマウンド状の場合,MQWレーザ動作に十分な数kA/cm2程度の電流密度のトンネル電流を〜0.5psec以内で流すことが可能である。
【非特許文献8】
H.Kroemer and H.Okamoto;Jpn.J.of Appl.Phys.25(8),970−974,(Aug1984) ”Some Design Consideration for Multi−Quantum−Well Lasers”
以下に,結晶成長方法を簡単に示す。基板上に,バッファ層,クラッド層,光導波SCH層を成長し,第一の量子井戸層の成長後,まずSKモード成長法で,量子ドットを形成する。
最初の量子ドット層の成長では,ほぼ等間隔であるがランダムな配置を取る。こののち,障壁層で量子ドットをほぼ平坦に埋め込み,その上に次の量子井戸層を成長する,という操作を繰り返す。正孔が1psec以下の超高速でトンネル移動できるためには,量子ドットと,上側量子井戸層との間に挟まる障壁層の厚さは,ΔEvの小さな低い障壁層でも,高々0.5nm以下でなければならない。
【非特許文献9】
S.L.Chuang and N.Holonyak,Jr.;Appl.Phys.Lett.,80(7),1270−1272,(Feb2002) ” Eficient quantum well to quantum dot tunneling:Analytical solutions ”
量子ドットと下側の量子井戸層との間には,高々2原子層分の,いわゆる濡れ層しか存在せず,
濡れ層の障壁層ポテンシャルは低いので,十分高速にトンネルできる。障壁層に埋め込まれた量子ドットの頂上の部分が完全に埋め込まれないで,障壁層からわずかに出ていて,次に成長した量子井戸層と直接接触している場合には,正確にはトンネル移動とは呼べないが,正孔を高速移動させる目的には何も問題はない。
量子ドットレーザでは,下地に埋め込まれた量子ドットの歪場が,その上に成長する量子ドットに影響して,垂直方向に自然整列した形で並ぶ現象が良く知られている。もし,MQW層を量子細線が縦に貫通したような構造ができた場合には,細線部分でのみ,縦方向に高速な正孔輸送が起きるが,量子井戸との貫通部から離れた辺縁部に正孔が均一に行き渡るのに時間がかかる心配がある。幸い今の場合には,量子ドットの上に,数nm−10nmの厚さの量子井戸層がはさまれた上に,次の量子ドットが成長することになる。歪場の影響を取り入れた成長モデルでは,せん亜鉛鉱結晶の
(001)面方位基板上に成長した場合の弾性定数の異方性から,下地の量子ドットの真上を避けた形の配置になりやすいことが,計算から示されている。
【非特許文献10】
V.A.Shchukin +3;Phys.Rev.B,57(19),12262−12274,(May1998) ” Vertical correlations and anticorrelations in multisheet arrays of two−dimensional islands ”
図5に,量子ドットが垂直配列した場合(a)と,互いに避けあう配置に配列した場合(b)でのトンネル移動する正孔のMQW構造中の流れを模式的に示した。
図5(a)では,量子ドットから流入する正孔と,次の量子ドットに吸い込まれる正孔とが衝突してしまうが,図5(b)の配置では,MQW層全体にわたりスムースに,かつ均一に正孔が輸送されやすく,より好都合であることがわかる。
以上の本発明の方法では,障壁層中に埋め込まれた量子ドットと,上下の量子井戸層との間の障壁層厚みがたかだか2分子層程度でありさえすれば,量子ドットの面内密度や,互いの面内配列,組成や大きさ等は,それほど厳密な制御を必要としない。
そのため,高歩留まりで,低コスト化できる。
【0016】
(2)電界吸収光変調器の場合
この例における本発明の解決手段も,基本構成は,(1)の半導体レーザと同様である。
本発明では,光吸収をおこす量子井戸を隔てている障壁層の内部に,正孔のみを閉じ込めるtype−II型の量子ドットを埋みこみ成長する。量子ドット内の正孔エネルギー準位が,隣接量子井戸の正孔エネルギー準位の中央近くに位置するように,量子ドットの混晶組成と大きさを選択する。光励起された正孔を,量子ドットを経由したトンネル移動と,量子井戸層内のドリフト拡散移動とによって,活性層領域を通過して電極に到達するまで高速に移動させることが可能である。
図6は,本発明の電界吸収光変調器のバンド構造の模式図である。量子井戸中に生起した正孔が,障壁層中の量子ドットのエネルギー準位を透過して,隣接量子井戸層に高速移動できる。正孔掃き出し時間の短縮により,強い入射光でも正孔のパイルアップ現象の発生を防止できる。結果として,変調器からの出力光強度も5dB程度増加でき,また,自由正孔による過剰なαパラメータ増加も抑制できて,常に負ないしゼロ近傍に保つことができる。このため,従来40Gbit/sで2km程度の伝送距離に制限されていたのが,10km程度まで長距離伝送が可能となる。
量子ドットを埋め込み成長する方法は,(1)のレーザの例と同様である。
基板上に,クラッド層,光導波SCH層,量子井戸層を順次成長した後,SKモード成長法で,量子ドットを形成したのち,障壁層で平坦に埋め込み,その上に次の井戸層を成長する,という操作を繰り返す。図5で説明したように,量子ドット部分で入射レーザ光が吸収されるのを防止するために,量子ドットは,正孔のみ閉じ込め,電子は閉じ込めない,type−II型量子ドットとする。
【0017】
図7は,本発明の正孔掃き出し方法が,従来の,量子井戸構造の閉じ込めポテンシャルを変更する方法に比べて,優れていることを説明するための模式図である。(a)は,多重量子井戸層の断面の一部を示す。SKモードで形成される量子ドットの面内密度は,高々〜1011cm−2であるから,量子ドットが存在しない領域の平均サイズ〜30nm角は,エキシトンサイズ〜10nmよりも十分大きい。従って,(a)図の(1)点線で示す断面部分では,本来の量子井戸の全く同じ環境で,エキシトンが発光再結合できる。一方,(2)の点線で示す断面部分では,正孔は,量子ドットの影響を受けて,発光特性が変化する。(b)図に示したように,量子ドットが存在する量子井戸中の「穴」の近傍(2)では,正孔の波動関数は量子ドット内部に広がって薄まっているために,量子井戸層内のみに閉じ込められた伝導帯電子の波動関数との重なり積分は,本来の量子井戸の部分(1)での光学遷移確率中の重なり積分に比べ,十分小さくなる。また,量子ドットの近傍では,正孔の高速トンネルにより,正孔のエネルギー準位が,ブロードニングを引き起こし,光学吸収が弱く,ぼやけたスペクトル形状になってしまう。以上の吸収・発光強度の波長依存性を,(1)と(2)の場所について示したのが,(c)図である。以上より,量子ドット近傍での光吸収の寄与は,ほとんど無視でき,量子ドットの存在によって量子井戸の全体としての光吸収スペクトルは,量子ドットの存在によって,ほとんど影響を受けない。
以上の本発明の特徴に対して,従来の,障壁層の閉じ込めポテンシャルを2段にして正孔の掃き出しを容易にした例などでは,MQW結晶全体での光吸収スペクトルが,ポテンシャルの変化による影響を全面的に受ける。そのため,本来の量子井戸の光吸収特性に比べて,弱く,ぼやけてしまう点が避けられない。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に,本発明の内容を実施例にのっとって,具体的に説明する。
<本発明の第一の実施例>
波長1.3μmで発振する,直接変調型多重量子井戸レーザへの,本発明の適用例を,図8に示した。N型InP基板上に,InGaAlAs系4元混晶材料で,N型バッファ層,N型クラッド層,N型光閉じ込め層,本発明の障壁層InGaAlAs層中に,Type−II型正孔閉じ込め量子井ドットを埋め込み成長したアンドープMQW層,P型光閉じ込め層まで成長する。
一旦,結晶を成長炉から取り出し,フォトレジストのレーザ干渉露光プロセスで,DFBレーザ用の回折格子を結晶表面にエッチングで形成する。その後,成長炉に入れて,順次,P型光閉じ込め層,P型クラッド層,P型オーミック層を成長する。メサストライプ構造にドライエッチ後,高抵抗FeドープInP層で全体を埋め込み成長して,10Gbit/sで直接変調可能なように,容量を低減する。
P型電極パッド47の面積も十分小さくする。
正孔を閉じ込める量子ドット材料には,GaSbを主成分とし,わずかに,Al,Inを添加してバンド構造を調節した。量子ドットの面内密度は,約〜1011cm−2であった。いずれも,マウンド状の形状で,障壁層によって,平坦に埋め込むことができた。MQW活性層中の従来の量子井戸層の層数Nwが7−8層であったのに対して,本実施例では,層数を15層から20層と,2倍に増加させた。井戸数の増加により,レーザ発振時の擬フェルミ準位を従来よりも低くできるので,障壁層へのキャリヤの熱的脱出を最小に抑えることができる。特性温度T0は,150Kにまで大きくできた。また,レーザの最大発振温度は,160℃に達した。
これらの優れた温度特性は,電子,正孔のどちらについても,擬フェルミ面から障壁層までの高さΔEに有効質量m*を掛けた量が十分大きくできたことにより,量子井戸の基底準位から熱励起によって障壁層に飛び出してしまうキャリヤが減少できたことによる。本発明では,障壁層中の量子ドットを経由して,正孔が高速に掃き出されるため,80℃以上の高温動作時にも,10Gbit/sでの高速変調が安定に得られる。また,波長チャーピングも,従来よりも,80℃の高温動作において,約1/2に低減できた。
【0019】
図9,図10に,量子ドットを障壁層内に埋め込んだ本発明の構造と,量子ドットなしの従来構造とで,量子井戸数を20層まで増やした場合の,緩和振動周波数frと,αパラメータの比較をした結果を示した。図9の白四角は,量子ドットを入れない障壁層での,25℃での緩和周波数曲線で,量子井戸数Nw〜7層以上では,かえってfrが低下している。これは,量子井戸への正孔の均一分配するには,7層が限界であることを示す。黒四角で示した,80℃のデータは,同じ傾向だが,数GHz小さくなっている。これは,キャリヤの熱励起により,活性層からキャリヤが熱脱出してしまうことに起因する。一方,本発明のtype−II型量子ドットを障壁層に埋め込んだ素子では,25℃の白丸,80℃の黒丸とも,量子井戸数とともにfrは増加しつづけ,従来に比較して,
1.5倍近いfrを実現できた。
【0020】
図10は,同じく,25℃の白四角と80℃の黒四角で示される,従来のMQW活性層素子では,
チャーピングの目安であるαパラメータは,井戸数7ぐらいが最小で,それより多くても少なくても,急激に増加する傾向がある。一方,本発明の25℃の白丸,80℃の黒丸のデータは,約15層のときに最小のαをとり,いずれも従来の7割程度に減少している。
【0021】
これらの結果は,井戸数15層付近で,本発明のレーザは,80℃においても,15GHz以上で動作し,そのときの波長チャーピングは,MQW構造としては限界近くまで低減されることが示された。
<本発明の第二の実施例>
光通信用電界吸収光変調器への,本発明の応用例を,図11に示した。N型InP基板上に,
InGaAlAs系4元混晶のN型クラッド層,N型光導波層,量子ドットを埋め込んだMQW光吸収層,P型光導波層,P型クラッド層,P型オーミック層を順次成長する。CR時定数増加をさげる必要のため,光変調器部分の素子長は,100μm前後まで短くし,電極パッド面積も小さくして,低容量化をはかった。光入射側と出射側の両端面における,光ファイバーとの接続損失を低減するため,図の点線で示したような,ビーム拡大用光導波路を,InGaAsP系材料で成長する。
そののち,ドライエッチングで,ストライプ状光導波路を形成し,BH(埋め込みヘテロ)構造のレーザと同様,高抵抗InP層で全体を埋め込む。両端面は,誘電体多層膜でAR(Anti−Refrection:無反射)コーティングし,戻り光を低減する。40Gでの変調電気パルスの反射係数を低減するような,高周波用伝送回路を用いた。以上,外見的には,従来の電界吸収型光変調器とほとんど同様である。しかし,従来の,40Gbit/sの高速変調に対応したMQW素子構造に比較して,本発明の量子ドット埋め込み活性層を有するMQWでは,正孔のパイルアップが,30mWの入射光まで抑制でき,変調器からの光出力は,2mWまで増加することができた。これにより,1.3μm単一モードファイバーで,40Gbit/sのNRZ光信号を,5km以上伝送できた。
<本発明の第三の実施例>
本発明の,電界吸収光変調器を同一基板上に集積した,MQW−DFB集積レーザへの適用例を,
図12(a)の全体図,(b)の断面図で模式的に示した。
N型InP基板上に,電界吸収光変調器部分,MQW−DFBレーザ部分を別々に成長し,両者を電気的に分離しながら光接続する,バットジョイント型光導波路を順次成長した後,ストライプ状光導波路以外の部分をドレイエッチ除去して,全体を高抵抗層で埋め込み成長する。
電界光変調器の出力端面からの反射戻り光を防止するために,端面側導波路の一部をエッチング除去した,端面透明化構造とする。63は,変調器の光導波路がない,窓領域部分である。
これらの基本的構造は,従来の変調器集積化光源と同様である。
本発明の特長は,量子井戸数を従来の約2倍の15層に増加させて微分利得を極めて大きくすることで,αパラメータが小さくなり,本質的にチャーピングが起こりにくいレーザ構造となっている点にある。そのため,戻り光が,DFBレーザのMQW層で吸収され,キャリヤ密度が変調されても,波長チャーピング変動量を小さく抑制できる。
このように,本発明の,量子ドットを経由したMQW活性層への高速均一な正孔注入は,
直接変調動作のみならず,電界吸収変調器との集積光源用の直流動作レーザにも有用であった。
戻り光耐性が向上した結果,電界吸収光変調器の出力側端面に設けた誘電体多層膜によるAR(Anti−Refrection)無反射コーティング膜は,反射率を十分低下させるために膜の総数を増やすことが不要となり,製造コストの低減にも寄与できた。
以上の,本発明の素子を実装した,光伝送モジュールの概念図を図13,図14に示した。
【0022】
図13は,上記の本発明の第一の実施例に示した直接変調半導体レーザを,冷却モジュールなしで実装したものである。
図13は,上記本発明の第二の実施例に示した,電界吸収光変調器を実装したモジュールである。
40Gbit/sでの高速変調を可能とするために,電気的な伝送路に十分注意する必要がある。
電界吸収変調器を集積化した,DFBレーザ光源は,図13と同様の外形になる。レーザは,直流バイアス,変調器は,直流プリバイアス(逆バイアス)量を,負のチャーピングが得られるように,調節する。
【0023】
【発明の効果】
本発明によれば,多重量子井戸層の面に垂直な方向に,障壁層中に埋め込んだ量子ドットを経由して,トンネル効果を利用して高速に大電流を流すことが可能である。このとき,量子ドットは,単に隣接量子井戸間の電流通路として働くだけなので,そのマウンド型形状や面内分布,混晶組成を厳密に制御する必要がなく,製造歩留まりも高い。そのため,今後の光通信の普及にかかせない,低コスト素子の量産に役立つ。
以上では, III−V化合物材料の中でも,InP基板上のInGaAsPやInGaAlAsなど,光ファイバ通信素子応用で物性のよくしられた材料系からなる,多重量子井戸構造を例に議論してきた。
しかし,本発明の効果は,材料の組み合わせに限定されるものではない。
可視赤色半導体レーザに用いられるGaAs基板上のGaAsPやInGaAlPとその上のSKモード成長量子ドットや,青−紫外発光半導体レーザに用いられる,GaN基板上のAlGaInNと,その上のSKモード成長量子ドット,さらに,II−VI族化合物半導体などの組み合わせにおいても,全く同様に適用可能である。
また,SiGeC系の混晶半導体からなる光受光素子などのMQW構造においても,SKモード成長量子ドットの成長が可能であることが知られており,本発明の,量子ドットを経由した高速トンネル移動の考え方を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のMQWレーザ活性層へのキャリヤ注入時のバンド構造模式図。
【図2】従来のMQWレーザ活性層での正孔の注入の問題を示すバンド構造模式図。
【図3】(a);先行発明の,補償歪構造MQWの注入時エネルギーバンド構造模式図。
(b);補償歪構造で軽い正孔のエネルギーバンドを平坦化する原理の説明図。
【図4】(a);type−I型量子ドット埋め込みで,光吸収を起こす説明図。
(b);type−II型量子ドット埋め込みで,光吸収が避けられることの説明図。
【図5】(a);MQW構造中の量子ドットが,垂直配列したときの電流分布図。
(b);MQW構造中の量子ドットが,互い違い配置したときの電流分布図。
【図6】本発明の電界吸収光変調器のMQW活性層のエネルギーバンド構造模式図。
【図7】本発明のMQWレーザにおいて,埋め込み量子ドット近傍の量子井戸層と,量子ドットがない量子井戸層の光吸収スペクトルの違いの説明図。
【図8】本発明の一実施例を説明するための図。
【図9】本発明構造と従来構造の,高温での緩和振動周波数の比較図。
【図10】本発明構造と従来構造の,高温でのαパラメータの比較図。
【図11】本発明の電界吸収変調器の全体図。
【図12】(a);本発明のEA変調器集積DFBレーザの全体図。
(b);本発明のEA変調器集積DFBレーザの断面構造図。
【図13】本発明のMQWレーザを含む伝送モジュールの模式図。
【図14】本発明のEA変調器を含む伝送モジュールの模式図。
【符号の簡単な説明】
1 電子 ,10 伝導帯のエネルギーバンド,11 電子の基底準位 ,12 無歪での伝導帯エネルギーバンド,13 歪補償の伝導帯エネルギーバンド,
2 正孔 ,20 価電子帯のエネルギーバンド,21 量子井戸正孔の基底準位
22 重い正孔の基底準位,23軽い正孔(lh)のバンド,24重い正孔(hh)のバンド,
25 無歪(格子整合)価電子帯エネルギーバンド,
30 埋め込み量子ドット,31 量子ドット正孔の準位,32 通常のtype−I型量子ドット,33 本発明のtype−II型量子ドット,34 濡れ層,
41 P型クラッド層,42 N型クラッド層,43 障壁層,44 量子井戸層,
45 N型基板,46 N型電極,47 P型電極,48 高抵抗埋め込み層
45 圧縮歪量子井戸層,46 引っ張り歪障壁層,
51 熱励起,52 拡散,53 再捕獲,
6 レーザ光,61 入射光,62 エキシトンサイズ,63 窓領域,64 ARコート,
65 HRコート
71 出力光ファイバ,72 入力光ファイバ,73 光導波路,74 入力側光導波路
75 出力側光導波路,
8 高速駆動回路,80 収納ケース,81 旬号入力端子,82 電源端子,
83 量子ドット埋め込みMQWレーザ,84 量子ドット埋め込み電界吸収光導波路
85 伝送線路付きサブマウント,86 光モニター検出器
91 量子ドット埋め込みMQW半導体レーザ,92 量子ドット埋め込みMQW電界吸収光変調器。
Claims (8)
- 多重量子井戸(MQW)層を活性層に有する光半導体装置において,電子あるいは正孔のどちらかのキャリヤのみを閉じ込める量子ドットを,量子井戸間の障壁層中に埋め込み,井戸層中に閉じ込められた同種のキャリヤが,量子ドットを経由して障壁層内を高速にトンネルし,隣接量子井戸層へ移動可能としたことを特徴とする光半導体装置。
- MQW構造活性層を有し,障壁層に埋め込まれた量子ドットを経由したトンネル移動により,高速に各量子井戸層へキャリヤの均一な注入を可能とすることで,高温動作時において高い緩和周波数と低チャーピング特性を実現したことを特徴とする請求項1記載の直接変調型光半導体装置。
- 請求項2の構造のMQW層と,それに近接して設けた,埋め込み回折格子からなる活性層を有する,分布帰還(DFB)型半導体レーザを光源に用いた光伝送モジュール。
- 請求項1記載の光半導体装置において,電界の印加されたMQW構造を光吸収活性層に有し,入射した半導体レーザ光を吸収して量子井戸層中に生成した光励起キャリヤを,障壁層内に埋め込まれた量子ドットを経由したトンネル効果により高速に電極にまで掃き出すことを特徴とする電界吸収型光変調器。
- 請求項4の電界吸収型光変調器を含む,光伝送モジュール。
- 請求項2のMQW活性層を有する分布帰還型半導体レーザで,レーザ自体は直流動作とし,同一基板上にバットジョイント方式で結晶成長により集積化した電界吸収型光変調器により光強度を変調する集積化レーザ光源において,変調器出力端面からのレーザへの戻り光によるチャーピング発生を,抑制したことを特徴とする半導体集積装置,および光伝送モジュール。
- MQW層中の量子井戸数を7層以上20層以下にすることを特長とする請求項2、4または6のいずれか一に記載の半導体装置。
- 量子ドットを,SKモード結晶成長法により自発的に形成させる場合に,量子井戸層と障壁層の各層厚みを調整することで,下地に埋め込まれた量子ドットがつくる歪場の誘導によって,成長方向に沿って次に成長する量子ドットが下地の量子ドットと垂直方向に整列せず,互いに避けあう配置とすることで,量子ドットを経由したキャリヤのトンネル移動が量子井戸層全面にわたってほぼ均一に生起するようにした構造の請求項1記載の光半導体装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003084099A JP2004296561A (ja) | 2003-03-26 | 2003-03-26 | 光半導体装置及び光伝送モジュール |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003084099A JP2004296561A (ja) | 2003-03-26 | 2003-03-26 | 光半導体装置及び光伝送モジュール |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004296561A true JP2004296561A (ja) | 2004-10-21 |
Family
ID=33399332
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2003084099A Pending JP2004296561A (ja) | 2003-03-26 | 2003-03-26 | 光半導体装置及び光伝送モジュール |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004296561A (ja) |
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JPWO2012173162A1 (ja) * | 2011-06-13 | 2015-07-30 | 国立大学法人東北大学 | 量子ナノドット、二次元量子ナノドットアレイ及びこれを用いた半導体装置並びに製造方法 |
CN108198919A (zh) * | 2017-12-26 | 2018-06-22 | 南昌凯迅光电有限公司 | 一种复合量子阱外延片 |
-
2003
- 2003-03-26 JP JP2003084099A patent/JP2004296561A/ja active Pending
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JPWO2012173162A1 (ja) * | 2011-06-13 | 2015-07-30 | 国立大学法人東北大学 | 量子ナノドット、二次元量子ナノドットアレイ及びこれを用いた半導体装置並びに製造方法 |
CN108198919A (zh) * | 2017-12-26 | 2018-06-22 | 南昌凯迅光电有限公司 | 一种复合量子阱外延片 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
US8218972B2 (en) | Wavelength division multiplexing system | |
Sweeney et al. | Optoelectronic devices and materials | |
US20070002917A1 (en) | Electro-absorption modulator integrated with a vertical cavity surface emitting laser | |
US8472109B2 (en) | Semiconductor optical amplifier and optical module | |
JP3195159B2 (ja) | 光半導体素子 | |
US11693178B2 (en) | Monolithic integrated quantum dot photonic integrated circuits | |
JP5698267B2 (ja) | 半導体デバイス | |
Alkhazraji et al. | Effect of temperature and ridge-width on the lasing characteristics of InAs/InP quantum-dash lasers: a thermal analysis view | |
JP2004179206A (ja) | 光半導体装置および光伝送モジュール、光増幅モジュール | |
US6728282B2 (en) | Engineering the gain/loss profile of intersubband optical devices having heterogeneous cascades | |
Juodawlkis et al. | Packaged 1.5-$\mu $ m Quantum-Well SOA With 0.8-W Output Power and 5.5-dB Noise Figure | |
Barbarin et al. | 1.55-$\mu $ m Range InAs–InP (100) Quantum-Dot Fabry–Pérot and Ring Lasers Using Narrow Deeply Etched Ridge Waveguides | |
JP2007219561A (ja) | 半導体発光装置 | |
Srinivasan et al. | Hybrid silicon devices for energy-efficient optical transmitters | |
Nakanishi et al. | 120° C, 25.8-Gbps operation of 1.3-µm directly modulated InGaAlAs-MQW DFB lasers | |
Bang et al. | High-temperature and high-speed operation of a 1.3-μm uncooled InGaAsP-InP DFB laser | |
JP4155997B2 (ja) | 半導体レーザ装置 | |
JP2004296561A (ja) | 光半導体装置及び光伝送モジュール | |
Bimberg et al. | Quantum-dot based distributed feedback lasers and electro-absorption modulators for datacom applications | |
Khoo et al. | Piezoelectric InGaAs/AlGaAs laser with intracavity absorber | |
Takahashi et al. | Carrier-transport-limited modulation bandwidth in distributed reflector lasers with wirelike active regions | |
David et al. | Intracavity piezoelectric InGaAs/GaAs laser modulator | |
JP3499631B2 (ja) | 半導体波長変換素子 | |
Arai et al. | 10-Gbps Direct Modulation Using a 1.31-µm Ridge Waveguide Laser on an InGaAs Ternary Substrate | |
JP3087129B2 (ja) | 光変調器 |